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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093402
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】レーザ電源の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/097 20060101AFI20240702BHJP
   H01S 3/104 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01S3/097
H01S3/104
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209764
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】田坂 泰久
【テーマコード(参考)】
5F071
【Fターム(参考)】
5F071AA05
5F071GG02
5F071GG05
5F071GG06
5F071JJ05
(57)【要約】
【課題】発光の繰り返し周波数が低下した場合でも、DCリンク電圧の調整が必要となる頻度を低下させることが可能なレーザ電源の制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置が、レーザ発振器に高周波電力を供給する高周波電源を含むレーザ電源を制御する。制御装置は、励振指令をレーザ電源にパルス的に送出するとともに、励振指令の送出から次の励振指令の送出までの期間に、シマー指令をレーザ電源に送出する。さらに、励振条件及び設定されたシマー条件で励振指令及びシマー指令を送出している期間に、レーザ発振器から出力されるパルスレーザビームのレーザパワーに依存する物理量を取得し、物理量が許容範囲か否かの判定を行う。物理量が許容範囲に収まるまで、シマー条件の設定を変更して、物理量の取得及び判定を繰り返す。物理量が許容範囲に収まった時のシマー条件を記憶する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器に高周波電力を供給する高周波電源を含むレーザ電源を制御する制御装置であって、
前記レーザ発振器からのパルスレーザビームの出力の合間に、設定されたシマー条件で前記レーザ電源にシマー指令を送出して前記レーザ発振器にシマー放電を生じさせる機能と、
前記レーザ発振器から出力されるパルスレーザビームのレーザパワーに依存する物理量が許容範囲外のとき、前記物理量が許容範囲に収まるまで前記シマー条件を変更する機能と
を有する制御装置。
【請求項2】
前記物理量が前記許容範囲に収まったときの前記シマー条件を記憶する機能を、さらに有する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記シマー条件は、1回の前記シマー放電で前記高周波電源を動作させる時間幅、前記シマー放電の繰り返し周波数、及び前記高周波電源から前記レーザ発振器に供給する前記高周波電力の周波数のうち少なくとも1つの条件を含む請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記物理量が前記許容範囲に収まるまで前記シマー条件を変更する機能は、
まず、前記時間幅の設定を変更し、
前記時間幅の設定を、変更可能範囲内で変更しても、前記物理量が前記許容範囲に収まらない場合は、次に、前記繰り返し周波数の設定を変更し、
前記時間幅の設定を、変更可能範囲内で変更しても、前記物理量が前記許容範囲に収まらない場合は、次に、前記高周波電力の周波数の設定を変更する機能を含む請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記レーザ電源は、前記高周波電源に直流電力を供給し、前記高周波電源に印加するDCリンク電圧を変化させることができる充電電源を含み、
前記シマー条件の設定を変更可能範囲内で変更しても、前記物理量が前記許容範囲内に収まらない場合、前記物理量が前記許容範囲に収まるまで前記DCリンク電圧を変更する機能を、さらに有する請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項6】
前記DCリンク電圧を変更可能範囲内で変更しても、前記物理量が前記許容範囲内に収まらない場合、調整未完了を報知する機能を、さらに有する請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記シマー条件を記憶する機能において、前記レーザ発振器を励振させる複数の励振条件のそれぞれについて、励振条件と関連付けて前記シマー条件を記憶し、
励振条件が与えられると、与えられた励振条件に関連付けられた前記シマー条件で前記レーザ電源を動作させる機能を、さらに有する請求項2に記載の制御装置。
【請求項8】
レーザ発振器に高周波電力を供給する高周波電源を含むレーザ電源を制御する制御装置であって、
設定された励振条件で前記高周波電源を駆動して前記レーザ発振器を励振させる励振指令を、前記レーザ電源にパルス的に送出するとともに、前記励振指令の送出から次の前記励振指令の送出までの期間に、設定されているシマー条件で前記高周波電源を周期的にシマー動作させて前記レーザ発振器をシマー放電させるシマー指令を、前記レーザ電源に送出する機能を有し、
前記シマー指令は、前記高周波電源がシマー動作する時間幅、前記シマー放電の繰り返し周波数、及び前記高周波電源が出力する高周波電力の周波数を指令する情報を含み、
さらに、前記励振指令を送出する周波数に応じて、前記高周波電源がシマー動作する時間幅、前記シマー放電の繰り返し周波数、及び前記高周波電源が出力する高周波電力の周波数のうち少なくとも1つを異ならせる機能を有する制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ電源の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放電電極を有するガスレーザ発振器において、パルスレーザビームを安定に出力させるために、放電電極に高周波短パルスを印加してシマー放電を生じさせる技術が公知である( 特許文献1等参照。) 。シマー放電でレーザ媒質ガスが励振前にイオン化されることにより、パルスレーザビームの出力が安定化される。シマー放電の時間は、放電開始からレーザビームが出力されるまでの時間に比べて十分短い。このため、シマー放電によってレーザビームが出力されることはない。シマー放電は、通常、一定の周波数で繰り返される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-121971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パルスレーザビームを一定の繰り返し周波数で出力する場合は、安定した発光が得られるが、繰り返し周波数を低くすると、発光しない場合や、十分なパルスエネルギが得られない場合がある。これは、直近の発光時に供給されたエネルギの一部がレーザ媒質ガス中に残存しており、時間の経過とともに残存エネルギが減少するためと考えられる。発光の繰り返し周波数が低くなると、直前の発光から次の発光までの時間が長くなり、レーザ媒質ガス中に残存しているエネルギの減少量が大きくなる。このため、発光の繰り返し周波数が低くなると、発光しない場合や、十分なパルスエネルギが得られない場合が発生する。
【0005】
発光の繰り返し周波数が低くなって発光しない状態が発生すると、高周波電源に印加されるDCリンク電圧を高くして、より大きな高周波電力をレーザ発振器に供給しなければならない。DCリンク電圧の調整を行うために、一時的に加工待機状態になり、DCリンク電圧の調整が完了した後、加工が再開される。加工待機状態が頻繁に発生すると、スループットが低下してしまう。
【0006】
本発明の目的は、発光の繰り返し周波数が低下した場合でも、DCリンク電圧の調整が必要となる頻度を低下させることが可能なレーザ電源の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
レーザ発振器に高周波電力を供給する高周波電源を含むレーザ電源を制御する制御装置であって、
前記レーザ発振器からのパルスレーザビームの出力の合間に、設定されたシマー条件で前記レーザ電源にシマー指令を送出して前記レーザ発振器にシマー放電を生じさせる機能と、
前記レーザ発振器から出力されるパルスレーザビームのレーザパワーに依存する物理量が許容範囲外のとき、前記物理量が許容範囲に収まるまで前記シマー条件を変更する機能と
を有する制御装置が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によると、
レーザ発振器に高周波電力を供給する高周波電源を含むレーザ電源を制御する制御装置であって、
設定された励振条件で前記高周波電源を駆動して前記レーザ発振器を励振させる励振指令を、前記レーザ電源にパルス的に送出するとともに、前記励振指令の送出から次の前記励振指令の送出までの期間に、設定されているシマー条件で前記高周波電源を周期的にシマー動作させて前記レーザ発振器をシマー放電させるシマー指令を、前記レーザ電源に送出する機能を有し、
前記シマー指令は、前記高周波電源がシマー動作する時間幅、前記シマー放電の繰り返し周波数、及び前記高周波電源が出力する高周波電力の周波数を指令する情報を含み、
さらに、前記励振指令を送出する周波数に応じて、前記高周波電源がシマー動作する時間幅、前記シマー放電の繰り返し周波数、及び前記高周波電源が出力する高周波電力の周波数のうち少なくとも1つを異ならせる機能を有する制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
物理量が許容範囲内に収まるようにシマー条件を変更するため、物理量が許容範囲内に収まるようにするためにDCリンク電圧を変更する頻度を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施例によるレーザ電源の制御装置を搭載したレーザ加工機のブロック図である。
図2図2は、充電電源の等価回路図及びブロック図である。
図3図3は、一定の繰り返し周波数で発光させているときの各信号のタイミングチャートである。
図4図4は、ある時点(時刻t10)において、励振指令Sig_eの繰り返し周波数が低くなる場合の各信号のタイミングチャートである。
図5図5は、本実施例による好ましいシマー条件の設定方法の手順を示すフローチャートである。
図6図6は、ステップS05(図5)の詳細な手順を示すフローチャートである。
図7図7は、ステップS10(図5)において記憶される情報を表形式で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1図7を参照して、本発明の一実施例によるレーザ電源の制御装置について説明する。
【0012】
図1は、本実施例によるレーザ電源の制御装置50を搭載したレーザ加工機のブロック図である。レーザ電源10からレーザ発振器40に高周波電力Prfが供給されることにより、レーザ発振器40がパルスレーザビームLpを出力する。レーザ発振器40として、ガスレーザ発振器、例えば炭酸ガスレーザ発振器が用いられる。レーザ発振器40は、一対の放電電極41を含む。レーザ発振器40に高周波電力Prfが供給されると、一対の放電電極41の間で放電が生じ、パルスレーザビームLpが出力される。
【0013】
レーザ発振器40から出力されたパルスレーザビームLpは、部分反射鏡51で反射され、ビーム走査器52、集光レンズ53を経由して加工対象物60に入射する。加工対象物60は、可動ステージ54に保持されている。可動ステージ54は、制御装置50からの制御により、加工対象物60を被加工面に平行な二方向及び被加工面に垂直な方向に移動させる。
【0014】
ビーム走査器52は、制御装置50からの制御により、パルスレーザビームを走査することにより、加工対象物60の被加工面上でビームスポットを移動させる。ビーム走査器52として、例えばガルバノスキャナを用いることができる。集光レンズ53は、パルスレーザビームを加工対象物60の被加工面に集光する。集光レンズ53として、例えばfθレンズを用いることができる。なお、必要に応じて、ビームエキスパンダ、アパーチャ、アッテネータ等をビーム経路に配置してもよい。
【0015】
加工対象物60は、例えばプリント基板であり、ビーム走査器52によってパルスレーザビームLpのビームスポットを移動させることにより、走査可能範囲内の穴あけ加工が行われる。可動ステージ54を動作させて、加工対象物60の表面の加工すべき領域を、ビーム走査器52の走査可能範囲内に順次配置することにより、加工対象物60の表面の全域の加工が行われる。
【0016】
部分反射鏡51に入射したパルスレーザビームのパワーの一部は、部分反射鏡51を透過し、パワーメータ55に入射する。パワーメータ55は、パルスレーザビームの平均パワーを測定する。パワーメータ55に入射したパルスレーザビームの一部は散乱され、散乱光の一部が光検出器56に入射する。光検出器56は、パルスレーザビームLpの各レーザパルスの波形に追従できる程度の応答速度を有している。このため、レーザ発振器40に、パルス的に励振用の高周波電力Prfが供給されたときのパルスごとの発光の有無を検出することができる。パワーメータ55及び光検出器56による検出結果が制御装置50に入力される。
【0017】
制御装置50は、レーザ電源10に対して、励振指令Sig_e及びシマー指令Sig_sを与える。レーザ電源10は、励振指令Sig_eを受信すると、レーザ発振器40に励振用の高周波電力Prfを供給する。これにより、レーザ発振器40からパルスレーザビームLpが出力される。また、レーザ電源10は、シマー指令Sig_sを受信すると、レーザ発振器40にシマー用の高周波電力Prfを供給する。これにより、レーザ発振器40内でシマー放電が生じ、レーザ媒質ガスが励起される。ただし、レーザパルスは出力されない。
【0018】
次に、レーザ電源10の構成について説明する。レーザ電源10は、整流器11、制御電源12、充電電源20、バンクコンデンサ25、高周波電源30、及び電源制御部31を含む。
【0019】
外部の交流電源70から整流器11に三相交流電流が供給される。整流器11で整流された直流電流が充電電源20に供給される。制御電源12が、交流電源70から供給される交流電力を直流電力に変換して電源制御部31に供給する。
【0020】
充電電源20は、入力された直流電圧を昇圧して、バンクコンデンサ25を充電する。バンクコンデンサ25が高周波電源30に直流電力を供給する。高周波電源30は、バンクコンデンサ25から供給された直流電力を高周波電力Prfに変換し、高周波電力Prfをレーザ発振器40にパルス的に供給する。
【0021】
電源制御部31が、制御装置50から励振指令Sig_e及びシマー指令Sig_sを受ける。電源制御部31は、励振指令Sig_e及びシマー指令Sig_sに基づいて充電電源20及び高周波電源30を制御する。具体的には、電源制御部31は、高周波電源30に動作指令Trg1を送出し、充電電源20に動作指令Trg2を送出する。
【0022】
充電電源20として、例えば昇降圧コンバータが用いられる。バンクコンデンサ25の電極間の電圧を、DCリンク電圧VCということとする。昇降圧コンバータのスイッチングのデューティ比を変化させることにより、DCリンク電圧VCを調整することができる。スイッチングのデューティ比は、動作指令Trg2により指令される。高周波電源30には、例えばインバータが用いられる。レーザ発振器40にパルス的に高周波電力Prfを供給するタイミング及び時間幅は、動作指令Trg1により指令される。
【0023】
図2は、充電電源20の等価回路図及びブロック図である。
充電電源20は、昇降圧コンバータ21及びコンバータコントローラ22を含む。昇降圧コンバータ21は、リアクトルL1、昇圧用トランジスタQ1、降圧用トランジスタQ2、還流ダイオードD1、D2を含む。なお、昇降圧コンバータ21に代えて、昇圧動作のみを行うコンバータを用いてもよい。
【0024】
電源制御部31からコンバータコントローラ22に、動作指令Trg2が与えられると、コンバータコントローラ22は、昇圧用トランジスタQ1をスイッチングする。スイッチング時における昇圧用トランジスタQ1のオン時間をTonと標記する。図2に、昇圧用トランジスタQ1を1回スイッチングしたときに、リアクトルL1を流れる電流IL1及びバンクコンデンサ25の充電電流Ichgの波形の一例を示す。
【0025】
整流器11から昇降圧コンバータ21に直流電圧が印加される。昇圧用トランジスタQ1がオンになると、リアクトルL1及び昇圧用トランジスタQ1からなる回路を流れる電流IL1が徐々に増加する。昇圧用トランジスタQ1がオフになると、リアクトルL1及び還流ダイオードD2を通ってバンクコンデンサ25に流れる充電電流Ichgが急激に立ち上がる。充電電流Ichgは、時間の経過とともに減少する。バンクコンデンサ25が充電されると、DCリンク電圧Vdcが上昇する。電流IL1の増加の傾き及び充電電流Ichgの減少の傾きは、リアクトルL1のインダクタンス及びバンクコンデンサ25のキャパシタンスに応じて変化する。すなわち、リアクトルL1のインダクタンス及びバンクコンデンサ25のキャパシタンスを調整することにより、電流IL1及び充電電流Ichgの増加及び減少の傾きを調整することができる。
【0026】
昇圧用トランジスタQ1のオン時間Tonを調整することにより、昇降圧コンバータ21を1パルス駆動したときにバンクコンデンサ25に供給される電力量を調整することができる。励振用の動作指令Trg2を受信したときと、シマー用の動作指令Trg2を受信したときとで、オン時間Tonを異ならせることにより、充電電力量を異ならせることができる。オン時間Tonは、例えば、1回の励振または1回のシマー放電によってバンクコンデンサ25から放電される電力量に相当する電力量が、新たにバンクコンデンサ25に供給されるように設定される。
【0027】
図3は、一定の繰り返し周波数で発光させているときの各信号のタイミングチャートである。制御装置50(図1)は、一定の繰り返し周波数で励振指令Sig_eを発生する。励振指令Sig_eの立ち上がり(時刻t等)が、励振の開始の指令に相当し、立ち下がり(時刻t等)が、励振の停止の指令に相当する。励振指令Sig_eの繰り返し周波数は、例えば1kHz~5.5kHzである。制御装置50は、励振指令Sig_eの繰り返し周波数より高い繰り返し周波数でシマー指令Sig_sを発生する。シマー指令Sig_sの立ち上がり(時刻t等)が、シマー放電の開始の指令に相当し、立下り(時刻t等)が、シマー放電の停止の指令に相当する。シマー指令Sig_sが励振指令Sig_eと時間的に重なる場合は、シマー指令Sig_sは発生させない。シマー放電を生じさせる繰り返し周波数を、シマー放電の繰り返し周波数という場合がある。
【0028】
励振指令Sig_eの立ち上がり(時刻t)に同期して、高周波電源30(図1)からレーザ発振器40(図1)への、励振用の高周波電力Prfの供給が開始される。高周波電力Prfの供給開始からやや遅れて、パルスレーザビームLpのパルスが立ち上がる。励振指令Sig_eの立ち下がり(時刻t)に同期して、励振用の高周波電力Prfの供給が停止され、パルスレーザビームLpのパルスが立ち下がる。このパルスレーザビームLpの複数のパルス出力の合間に、シマー放電が生じる。
【0029】
レーザ発振器40に高周波電力Prfが供給されることにより、DCリンク電圧Vdcが低下し始める。励振指令Sig_eの立ち上がりに同期して、昇降圧コンバータ21(図2)の昇圧用トランジスタQ1がオンになり、リアクトルL1を流れる電流IL1図2)が増加し始める。オン時間Tonが経過した時点で昇圧用トランジスタQ1がオフになり、充電電流Ichgが流れ始める(時刻t等)。充電電流Ichgが流れることにより、DCリンク電圧Vdcが上昇し始める。励振指令Sig_eを受信したときに高周波電源30を動作させて励振用の高周波電力Prfを供給するとともに、充電電源20を動作させてバンクコンデンサ25を充電する動作を励振動作ということする。
【0030】
図3では、励振用の高周波電力Prfがレーザ発振器40に供給されている期間内に、充電電流Ichgがゼロになる例を示しているが、励振用の高周波電力Prfの供給が停止(時刻t)された後に、充電電流Ichgがゼロになるようにしてもよい。
【0031】
シマー指令Sig_sの立ち上がり(時刻t)に同期して、レーザ発振器40(図1)への、シマー放電用の高周波電力Prfの供給が開始される。シマー指令Sig_sの立ち下がり(時刻t)に同期して、シマー放電用の高周波電力Prfの供給が停止される。このとき、パルスレーザビームLpは出力されない。このように、シマー指令Sig_sは、シマー放電用の高周波電力Prfを供給する時間幅、及びシマー放電の繰り返し周波数を指令する情報を含んでいる。
【0032】
なお、シマー放電用の高周波電力Prfがレーザ発振器40に供給されることにより、DCリンク電圧Vdcが低下するが、その低下幅は励振用の高周波電力Prfの供給時に比べてわずかであるため、図3では、シマー放電中のDCリンク電圧Vdcの低下をほぼゼロとして表している。シマー指令Sig_sを受信したときに高周波電源30を動作させてシマー用の高周波電力Prfをレーザ発振器40に供給する動作をシマー動作ということとする。
【0033】
なお、シマー放電によって低下したDCリンク電圧Vdcを元の値まで回復させるために、シマー放電に同期させてバンクコンデンサ25の充電を行うようにしてもよい。または、励振指令Sig_eと次の励振指令Sig_eとの間の期間に、DCリンク電圧Vdcが所定の下限値以下になった場合に、バンクコンデンサ25を充電してDCリンク電圧Vdcを所定の目標値まで回復させるようにしてもよい。
【0034】
次に、図4を参照して励振指令Sig_eの繰り返し周波数が、ある時点から低くなる場合について説明する。本実施例では、励振指令Sig_eの繰り返し周波数が低くなっても、安定した発光を可能にするように、シマー条件を変更する。
【0035】
図4は、ある時点(時刻t10)において、励振指令Sig_eの繰り返し周波数が低くなる場合の各信号のタイミングチャートである。
【0036】
制御装置50は、設定された励振条件で励振指令Sig_eを、レーザ電源10にパルス的に送出する。同時に、励振指令Sig_eの送出から次の励振指令Sig_eの送出までの期間に、設定されているシマー条件で、シマー指令Sig_sをレーザ電源に送出する。時刻t10より前の、励振指令Sig_eの繰り返し周波数が高い時間帯においては、複数のシマー指令Sig_sのそれぞれのパルス幅がPW1であり、時刻t10以降の、励振指令Sig_eの繰り返し周波数が低い時間帯においては、複数のシマー指令Sig_sのそれぞれのパルス幅がPW2である。時間幅PW2は時間幅PW1より長い。このため、励振指令Sig_eの繰り返し周波数が相対的に低い時間帯に供給されるシマー用の高周波電力Prfの時間幅は、励振指令Sig_eの繰り返し周波数が相対的に高い時間帯に供給されるシマー用の高周波電力Prfの時間幅より長い。
【0037】
このように、制御装置50は、励振指令Sig_eの繰り返し周波数に応じてシマー動作における高周波電源30を動作させる時間幅を変更する。なお、高周波電源30を動作させる時間幅以外のシマー条件を変更してもよい。例えば、シマー放電の繰り返し周波数、及び高周波電源30からレーザ発振器40に供給するシマー用の高周波電力Prfの周波数の少なくとも一方を変更してもよい。シマー用の高周波電力Prfの周波数は、シマー指令Sig_sにより制御装置50が電源制御部31(図1)に通知するようにするとよい。
【0038】
次に、図5及び図6を参照して、安定したパルス発光を生じさせるためのシマー条件の調整方法について説明する。図5は、本実施例によるシマー条件の調整方法の手順を示すフローチャートである。この手順は、実際の加工を行う前の発光準備調整期間に制御装置50の制御の下で実行される。
【0039】
制御装置50が励振条件を取得する(ステップS01)。励振条件には、励振指令Sig_eの繰り返し周波数、励振指令Sig_eのパルス幅(すなわち、励振時に高周波電源30から高周波電力Prfを供給する時間幅)、高周波電力Prfの周波数、DCリンク電圧Vdcが含まれる。
【0040】
制御装置50は、シマー条件を初期条件に設定し、DCリンク電圧を励振条件で指定された値(初期値)に設定して、励振を開始する(ステップS02)。例えば、制御装置50は、レーザ電源10に、高周波電力Prfの周波数を通知する。さらに、制御装置50は、励振条件で指定された繰り返し周波数及びパルス幅で、励振指令Sig_eの送出を開始する。さらに、シマー条件に基づいて、シマー指令Sig_sの送出を開始する。シマー条件には、シマー動作時に高周波電源30を動作させる時間幅、シマー放電の繰り返し周波数、及び高周波電力Prfの周波数が含まれる。シマー動作時の高周波電力Prfの周波数は、制御装置50からレーザ電源10に通知される。
【0041】
制御装置50は、パワーメータ55及び光検出器56の測定結果を取得し、レーザパワーが許容範囲内か否かを比較する(ステップS03)。例えば、光検出器56により、レーザパルスの出力が確認され、かつ、ある時間幅におけるレーザパワーが許容範囲内である場合は、レーザパワーが許容範囲内であると判定する。すなわち、レーザ発振器40から出力されるパルスレーザビームのレーザパワーに依存する物理量が許容範囲内であるか否かを判定する。レーザパワーが許容範囲内である場合、励振を停止させ(ステップS09)、現在のシマー条件及びDCリンク電圧Vdcの値を、現在の励振条件と関連付けて記憶する(ステップS10)。
【0042】
レーザパワーが許容範囲内ではない場合(ステップS03)、変更可能範囲内の全シマー条件について評価済か否かを判定する(ステップS04)。評価を行っていないシマー条件が残っている場合は、シマー条件を変更して(ステップS05)、ステップS03及びステップS04の手順を繰り返す。シマー条件の変更の手順については、後に図6を参照して詳細に説明する。変更可能範囲内のすべてのシマー条件について評価を行っても、レーザパワーが許容範囲内に収まらなかった場合は、変更可能なDCリンク電圧Vdcの範囲内のすべてのDCリンク電圧Vdcについて評価済か否かを判定する(ステップS06)。
【0043】
評価を行っていないDCリンク電圧Vdcの条件が残っている場合は、DCリンク電圧Vdcを変更する(ステップS07)。例えば、DCリンク電圧Vdcを、予め決められている電圧刻み幅分だけ上昇させる。その後、レーザパワーが許容範囲内に収まっているか否かを判定する(ステップS08)。レーザパワーが許容範囲内に収まっている場合は、励振を停止させ(ステップS09)、現在のシマー条件及びDCリンク電圧Vdcの値を、励振条件と関連付けて記憶する(ステップS10)。レーザパワーが許容範囲内に収まっていない場合は、ステップS06及びステップS07の手順を繰り返す。
【0044】
変更可能な未評価のDCリンク電圧Vdcの条件が残っていない場合(ステップS06)は、励振を停止させ(ステップS11)、発光準備調整未完了を報知する(ステップS12)。例えば、制御装置50は、表示装置に発光準備調整未完了のメッセージを表示することにより、オペレータに調整未完了を通知する。
【0045】
図6は、ステップS05(図5)の詳細な手順を示すフローチャートである。制御装置50は、まず、シマー条件として、シマー放電の時間幅の変更可能範囲内の全条件について、評価済か否かを判定する(ステップS051)。シマー放電の時間幅は、シマー指令Sig_sのパルス幅に相当し、高周波電源30に供給する高周波電力Prfの時間幅に等しい。シマー放電の時間幅について未評価の条件が残っている場合は、シマー放電の時間幅の条件を変更して(ステップS052)、図5のステップS03に戻る。なお、シマー放電の時間幅の下限値及び上限値、時間幅変更の刻み幅は、予め決められている。シマー放電の時間幅の初期値として、下限値が設定されており、ステップS052において、シマー放電の時間幅を、刻み幅分だけ長くする。
【0046】
シマー放電の時間幅の条件を変更すると上限値を超えてしまう場合は、ステップS051において、シマー放電の時間幅の変更可能範囲内の全条件について評価済であると判定される。この場合は、シマー放電の繰り返し周波数の変更可能範囲内の全条件について評価済か否かを判定する(ステップS053)。シマー放電の繰り返し周波数について、未評価の条件が残っている場合は、シマー放電の繰り返し周波数の条件を変更して(ステップS054)、図5のステップS03に戻る。なお、シマー放電の繰り返し周波数の下限値及び上限値、周波数変更の刻み幅は、予め決められている。シマー放電の繰り返し周波数の初期値として、下限値が設定されており、ステップS054において、シマー放電の繰り返し周波数を、刻み幅分だけ高くする。
【0047】
シマー放電の繰り返し周波数を刻み幅分だけ高くすると上限値を超えてしまう場合は、ステップS053において、シマー放電の繰り返し周波数の変更可能範囲内の全条件について評価済であると判定される。この場合は、高周波電源30がレーザ発振器40に供給する高周波電力の周波数の条件を変更し(ステップS055)、図5のステップS03に戻る。高周波電力の下限値と上限値、及び周波数変更の刻み幅はあらかじめ決められている。ステップS055において、周波数の設定値を刻み幅分だけ高くする。
【0048】
高周波電力の周波数を刻み幅分だけ高くすると上限値を超えてしまう場合は、ステップS04(図5)において、変更可能範囲内の全シマー条件について評価済であると判定される。
【0049】
図5及び図6に示したように、発光準備期間に、制御装置50は、許容範囲に収まるレーザパワーが得られるように、シマー条件及びDCリンク電圧Vdcの条件を調整する。この調整において、DCリンク電圧Vdcの調整(ステップS07)を行う前に、シマー条件の調整(ステップS05)を行う。
【0050】
シマー条件の調整においては、発光が生じにくい条件から、生じやすい条件に、徐々に変更する。具体的には、シマー放電の時間幅を、下限値から上限値に向かって変更し、シマー放電の繰り返し周波数を下限値から上限値に向かって変更し、高周波電力の周波数を下限値から上限値に向かって変更する。
【0051】
また、シマー条件については、発光の有無に影響を与えやすい条件を優先して変更する。例えば、シマー放電の時間幅が最も発光の有無に影響を与えやすく、次に、シマー放電の繰り返し周波数が発光の有無に影響を与えやすい。したがって、シマー放電の時間幅を先に変更し、次に、シマー放電の繰り返し周波数を変更し、最後に、高周波電力の周波数を変更する。
【0052】
次に、図7を参照して、ステップS10(図5)において記憶される情報について説明する。図7は、ステップS10(図5)において記憶される情報を表形式で示す図である。図5のステップS03またはステップS08で、レーザパワーが許容範囲内に収まった時のシマー放電の時間幅、シマー放電の繰り返し周波数、高周波電力の周波数、及びDCリンク電圧Vdcが、励振条件と関連付けて記憶されている。例えば、図7に示されているように、励振条件がAのときに、シマー放電の時間幅がPWa、シマー放電の繰り返し周波数がRFa、高周波電力の周波数がFa、DCリンク電圧VdcがVaのときに、レーザパワーが許容範囲内に収まる。
【0053】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、励振条件が決まったとき、レーザパワーを許容範囲内に収めるために、DCリンク電圧Vdcを調整する前に、シマー条件を変化させる。このため、DCリンク電圧Vdcを変化させることなく、加工に適切な条件を見つけ出す可能性が高まる。その結果、励振条件を変えて加工を行う際に、DCリンク電圧Vdcを変更する頻度が少なくなるという優れた効果を有する。
【0054】
また、励振条件が決まれば、制御装置50は、図7に示されている励振条件、シマー条件、及びDCリンク電圧条件の対応表から、適切なシマー条件及びDCリンク電圧条件を抽出することができる。このため、励振条件が与えられると、制御装置50は、評価済の適切なシマー条件及びDCリンク電圧Vdcの条件で、直ちに加工を開始することができる。
【0055】
実際の加工では、異なる励振条件で加工を行うべき多種多様な加工対象物60を何枚も加工することになる。長時間加工を行うことが多い場合、事前に励振条件、シマー条件、及びDCリンク電圧条件の対応関係を求めておくことで、時間的なロスが少なくなる。また、実際の加工の前には、通常、暖機運転を行う必要がある。この暖機運転の時間を利用して励振条件、シマー条件、及びDCリンク電圧条件の対応関係を求めておくと、対応関係を求めるための時間を新たに確保する必要がない。
【0056】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、図7に示した励振条件、シマー条件、DCリンク電圧条件の対応関係情報が、制御装置50に記憶されているが、この対応関係情報を電源制御部31に格納してもよい。この場合、制御装置50が電源制御部31に励振条件を通知すると、電源制御部31は、通知された励振条件から、シマー条件及びDCリンク電圧条件を抽出し、抽出されたシマー条件及びDCリンク電圧条件に基づいて、充電電源20及び高周波電源30を動作させる。
【0057】
上記実施例では、調整可能なシマー条件として、シマー放電の時間幅、シマー放電の繰り返し周波数、及び高周波電力の周波数を採用しているが、これらの条件のうち少なくとも1つを調整可能な条件とし、他の条件を固定してもよい。
【0058】
上述の実施例は例示であり、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0059】
10 レーザ電源
11 整流器
12 制御電源
20 充電電源
21 昇降圧コンバータ
22 コンバータコントローラ
25 バンクコンデンサ
30 高周波電源
31 電源制御部
40 レーザ発振器
41 放電電極
50 制御装置
51 部分反射鏡
52 ビーム走査器
53 集光レンズ
54 可動ステージ
55 パワーメータ
56 光検出器
60 加工対象物
70 交流電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7