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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093404
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】水素製造装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/23 20210101AFI20240702BHJP
   C25B 1/02 20060101ALI20240702BHJP
   C25B 1/27 20210101ALI20240702BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240702BHJP
【FI】
C25B9/23
C25B1/02
C25B1/27
C25B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209769
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶野 剛延
(72)【発明者】
【氏名】山中 一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡野 歩
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AA09
4K021BA02
4K021BA06
4K021DB18
4K021DB36
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】尿素を含む水溶液にアルカリ化合物を添加しなくても尿素及び水から水素を電気化学的に生成することができる水素製造装置を提供する。
【解決手段】電気化学セル4から構成された水素製造装置1である。アノード極23は、触媒層と、集電体とを有し、電解液3に浸漬されている。触媒層がカチオンを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード極(21)と隔膜(22)とアノード極(23)とが順次積層された積層体から構成される電極体(2)、及び尿素を含む水溶液からなる電解液(3)を有する電気化学セル(4)から構成された水素製造装置(1)であって、
上記アノード極が、上記隔膜に当接する導電性の触媒層(231)を有する共に、上記電解液に浸漬されており、
上記触媒層が導電性基材(233)と該導電性基材に担持されたカチオン(234)とを有する、水素製造装置。
【請求項2】
上記カチオンがアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンである、請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項3】
上記隔膜がイオン交換膜である、請求項1又は2に記載の水素製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素及び水から水素を製造する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、燃料電池の燃料、e-fuel等の原料として有用である。一方、尿素は、エネルギー密度が高く、安全に運搬、貯蔵が可能であり、また工場や生活排水などからも容易に入手できるため、水素やアンモニアを生成するための原料として着目されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、テフロン(登録商標)膜、ポリピロピレン膜を分離器(換言すれば、隔膜、セパレータ)として用いて尿素の電解加水分解を生じさせる方法が提案されている。特許文献1によれば、この方法により尿素からアンモニアや水素を生成することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013-524014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法において、水素の生成が尿素水に添加される水酸化カリウムなどのアルカリ電解組成物の濃度に依存する。高濃度のアルカリ水溶液は腐食性が強く、そのアルカリ水溶液の廃棄処理に手間やコストがかかるという弊害があるため、尿素水中のアルカリ電解組成物の添加量を下げることが望まれている。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、尿素を含む水溶液にアルカリ化合物を添加しなくても尿素及び水から水素を電気化学的に生成することができる水素製造装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、カソード極(21)と隔膜(22)とアノード極(23)とが順次積層された積層体から構成される電極体(2)、及び尿素を含む水溶液からなる電解液(3)を有する電気化学セル(4)から構成された水素製造装置(1)であって、
上記アノード極が、上記隔膜に当接する導電性の触媒層(231)と、該触媒層に当接する導電性の集電体(232)とを有する共に、上記電解液に浸漬されており、
上記触媒層が導電性基材(233)と該導電性基材に担持されたカチオン(234)とを有する、水素製造装置にある。
【発明の効果】
【0008】
上記水素製造装置は、アノード極の触媒層が導電性基材と該導電性基材に担持されたカチオンとを有する。カチオンは触媒層中で導電パスとなるため、アノード極内での水酸化物イオンの伝達が促進される。これにより、たとえ尿素を含む水溶液にアルカリ化合物が添加されていなくても電気化学セルでの電流量が増大し、尿素の電気分解による水素生成が促進される。
【0009】
以上のごとく、上記態様によれば、たとえ尿素を含む水溶液にアルカリ化合物が添加されていなくても尿素及び水から水素を電気化学的に生成することができる水素製造装置を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態1における水素製造装置の模式図である。
図2図2は、実施形態1における水素製造装置の部分拡大模式図である。
図3図3は、実施形態1の水素製造装置の電流量増大のメカニズムを示す模式図である。
図4図4は、実験例1における触媒層表面のSEM-EDS像である。
図5図5(a)は、実験例1における触媒層表面のSEM-EDS分析結果のC元素マッピング像であり、図5(b)は、実験例1における触媒層表面のSEM-EDS分析結果のK元素マッピング像であり、図5(c)は、実験例1における触媒層表面のSEM-EDS分析結果のNi元素マッピング像であり、図5(d)は、実験例1における触媒層表面のSEM-EDS分析結果のO元素マッピング像である。
図6図6は、比較形態の水素製造装置の模式図である。
図7図7は、実験例2における触媒層の種類と電流密度とファラデー効率と生成率との関係を示すグラフである。
図8図8は、実験例3における触媒層内部のSEM-EDS像である。
図9図9(a)は、実験例3における触媒層内部のSEM-EDS分析結果のC元素マッピング像であり、図9(b)は、実験例3における触媒層内部のSEM-EDS分析結果のK元素マッピング像であり、図9(c)は、実験例3における触媒層内部のSEM-EDS分析結果のNi元素マッピング像であり、図9(d)は、実験例3における触媒層内部のSEM-EDS分析結果のO元素マッピング像である。
図10図10は、実験例4における終夜洗浄後の触媒層表面のSEM-EDS像である。
図11図11(a)は、実験例4における終夜洗浄後の触媒層表面のSEM-EDS分析結果のC元素マッピング像であり、図11(b)は、実験例4における終夜洗浄後の触媒層表面のSEM-EDS分析結果のK元素マッピング像であり、図11(c)は、実験例4における終夜洗浄後の触媒層表面のSEM-EDS分析結果のNi元素マッピング像であり、図11(d)は、実験例4における終夜洗浄後の触媒層表面のSEM-EDS分析結果のO元素マッピング像である。
図12図12は、実験例5における電解液のpHと電流密度との関係を示すグラフである。
図13図13は、実験例5における電解液のpHと電流密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
カチオンが担持された導電性基材を有する水素製造装置に係る実施形態について、図1図3を参照して説明する。図1図3に示されるように、水素製造装置1は、電気化学セル4から構成されており、尿素から水素を生成する。電気化学セル4は、電極体2及び電解液3を有する。
【0012】
電極体2は、カソード極21と隔膜22とアノード極23とが順次積層された積層体から構成される。電極体2では、カソード極21と隔膜22とアノード極23とが一体的に形成されている。カソード極21と隔膜22との間、アノード極23と隔膜22との間には、別の層が形成されていてもよい。
【0013】
水素製造装置1において、アノード極23は電解液3に浸漬されている。カソード極21側は、図1に示すようにドライ環境にすることができる。ドライ環境とは、電解液3などの液体が存在していない環境を意味するが、例えば大気中に含まれる水分を含むことは許容される。カソード極21側がドライ環境の場合には、カソード極21は例えば大気又は真空に曝され、カソード極21側から発生する水素の取り出しが容易になる。
【0014】
図2に示すように、アノード極23は触媒層231と集電体232とを有し、触媒層231と集電体232とは相互に当接され、一体化されている。集電体232は、例えば、金メッシュなどの金属メッシュから構成される。
【0015】
触媒層231は導電性基材233とカチオン234とを有し、カチオン234が導電性基材233に担持されている。導電性基材233は、例えば多孔体であり、尿素酸化触媒233a、導電体233b、細孔制御樹脂233c等から形成される。尿素酸化触媒233aとしては、尿素の酸化分解能を有する触媒が用いられ、具体的には、例えば、Ni、Ir、Ru等の金属またはその水酸化物、酸化物、硫化物、窒化物が用いられる。尿素酸化触媒233aの種類を変更することにより、生成物にバリエーションを生じさせて、アンモニア等の水素以外の生成物を生じさせたり、水素生成量を増やすことができる。導電体233bとしては、例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック(つまり、KB)、カーボンファイバー等の導電性炭素材料;Tiなどの導電性金属が用いられる。細孔制御樹脂233cは、触媒層231に細孔を形成させるものであり、ポリテトラフルオロエチレン(つまり、PTFE)等の樹脂が用いられる。
【0016】
導電性基材233にはカチオン234が担持されている。カチオン234は、具体的には、K+、Na+等のアルカリ金属イオン;Ca2+、Mg2+等のアルカリ土類金属イオンであるが、他のカチオンを用いることも可能である。カチオン234の含有量は、尿素酸化触媒100重量部に対して3重量部以上であることが好ましい。この場合には、導電パスが十分に形成され、水素生成の促進効果がさらに向上する。カチオン234の含有量は、例えば、カチオン234を含む水溶液にイオノマー等を含む導電性基材233を浸漬することにより上記範囲に調整することができる。
【0017】
カチオン234は、例えばイオノマー233dとして導電性基材233に供給され、導電性基材233は、イオノマー由来の樹脂を含有することができる。また、イオノマー233dを含む導電性基材233を、水酸化カリウム水溶液などのカチオンを含む液体に浸漬させることにより、導電性基材233にカチオンを担持させることもできる。好ましくは、カチオンはアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンである。この場合には、水酸化物イオンの伝播が向上する。なお、イオノマーに代えて層状複水酸化物(つまり、LDH)を用いることもできるし、イオノマーとLDHとを併用することもできる。
【0018】
カソード極21は、例えば触媒層211と集電体212とガス拡散層214とから構成されている。カソード極21では、触媒層211と集電体212とガス拡散層214とが順次積層されている。触媒層211は、触媒213aと導電体213bとから構成されており、さらにイオノマー215を含有していてもよい。カソード極21の触媒213aとしては、例えば、Pt、Ir、Pd、Ru、Ni等の金属またはその酸化物、硫化物、窒化物が用いられる。触媒213aは、導電体213bに担持されている。導電体213b、集電体212については、上述のアノード極23と同様である。ガス拡散層214は、ガス透過性を有し、例えば導電性炭素材料から構成される。
【0019】
電解液3は、尿素を含む水溶液、例えば尿素水から構成される。電解液3には、アルカリ化合物が添加されていてもよいが、添加されていなくてもよい。水素製造装置1は、アノード極23にカチオンを含むため、電解液3にアルカリ化合物を添加する場合であっても、その添加量を少なくすることができる。つまり、電解液3へのアルカリ化合物の添加量が少なくても、電気化学セル4での電流量が増大し、尿素の電気分解による水素生成が促進される。
【0020】
水素製造装置1では、少なくともアノード極23が電解液3に浸漬されている。カソード極21は、図1に示すようにドライ環境にすることができるが、電解液3に浸漬させることもできる。カソード極21の電解液としては、アルカリ性水溶液が用いられる。具体的には、たとえば、水酸化カリウム水溶液等の水酸化アルカリ水溶液が用いられる。カソード極21がアルカリ金属の水酸化物の水溶液からなる電解液に浸漬されている場合には、水素生成が促進される。
【0021】
隔膜22は、水素製造装置のアノード極とカソード極21とを隔てる。隔膜22は、例えば、陽イオン交換膜又は陰イオン交換膜等のイオン交換膜から構成されるが、陰イオン交換膜から構成されることが好ましい。
【0022】
隔膜22が陰イオン交換膜から構成されている場合には、アノード極23とカソード極21との間に電圧を印加すると陰イオン交換膜を介して反応因子のOH-がカソード極21からアノード極23へと送られる。このとき、アノード極23側では、下記の式<3.1>、<3.2>、<3.3>の反応が起こる。<3.3>の反応は、さらに、<3.3.1>~<3.3.3>の反応を起こす。つまり、アノード極23側では、OHと尿素との反応により、窒素、二酸化炭素などが生成し、尿素からアンモニアが生成する。生成反応は、式<3.1>に示されるように、尿素と水酸化物イオンとの反応がトリガーとなって進行するため、式<3.1>の反応が始まること重要である。イオン交換膜として陰イオン交換膜を用いる場合には、陰イオン交換膜により、反応因子である水酸化物イオンがカソード極21からアノード極23に送られるため、トリガー反応が進行する。このようにして、以降のアンモニア生成反応、水素生成反応が進行すると考えられる。また、アノード極23側では、電子が生成する。電子は外部回路を通じてカソード極21側に移動する。そして、カソード極21では、式<3.4>に示されるように、水と電子とが反応して水素が生成する。式<3.1>~式<3.4>における電極電位E0はRHEである。
【0023】
【化1】
【0024】
隔膜22が上記のようにイオン交換膜から構成されている場合には、イオン交換膜を介してカソード極21からアノード極23へ或いはアノード極23からカソード極21へ反応因子を直接送ることができる。これにより、電極の反応点の局所pHを制御することが可能になる。具体的には、上記式<2.1>、式<3.1>の反応により、カソード極21での局所的なプロトン濃度の増大、アノード極23での局所的なOH濃度の増大を誘発させることができる。そのため、電解液3のpHによらない反応を起こすことが可能になる。より具体的には、たとえばイオン交換膜として陰イオン交換膜を用いた場合には、アノード極23においてOH-が生成されるため、アノード極23表面で局所的にpHが増大した環境が形成される。そのため、電解液3のpHが、たとえ中性付近(たとえばpHが8~12)であっても水素の生成反応が進行する。
【0025】
上記反応式に示されるように、水素製造装置1では、カソード極21側で水素が生成し、アノード極23側でアンモニアが生成する。上記製造装置1では、電極体2によりアノード極23側とカソード極21側とが分断されていることが好ましい。この場合には、カソード極21側で発生する水素と、アノード極23側で発生するアンモニアとが混合されることを防止できる。そのため、水素、アンモニアを別々に回収し易くなる。
【0026】
具体的には、水素製造装置1では、電極体2のカソード極21側にカソード反応室を形成し、アノード極23側にアノード反応室を形成し、カソード反応室とアノード反応室とを電極体2により分断させることができる。これにより、カソード反応室で生成する水素、アノード反応室で生成するアンモニアをそれぞれ別々に回収することができる。
【0027】
イオン交換膜は、陰イオン交換膜であることが好ましい。イオン交換膜が陽イオン交換膜である場合には、尿素水の電解反応から生成するアンモニウムイオンが陽イオン交換膜中でイオン交換され、陽イオン交換膜の電気抵抗を増大させる。その結果、陽イオン交換膜がダメージを受け、経時的にその機能を失っていく。そのため、水素を十分に生成することができなくなる。これに対し、イオン交換膜が陰イオン交換膜である場合には、アンモニウムイオンがイオン交換されることがなく、電気抵抗の増大が起こらない。そのため、カソード極21から水素を持続的に生成することができ、これにより水素生成量が増大する。また、イオン交換膜が陰イオン交換膜の場合には、アノード極からアンモニアが生成する。
【0028】
陰イオン交換膜は、イミダゾリウムリガンド、ピリジニウムリガンド、及びホスホニウムリガンドからなる群より選択される少なくとも1種のリガンドを含むポリマーから構成されていることが好ましい。より具体的には、陰イオン交換膜は、リガンド部と、該リガンド部と化学結合した骨格部とを有するポリマーから構成されており、リガンド部がイミダゾリウム基、ピリジニウム基、及びホスホニウム基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基又はその塩から構成されていることが好ましい。官能基の安定性および塩基強度の観点から、リガンドは、イミダゾリウムリガンドであることが好ましい。換言すれば、リガンド部は、イミダゾリウム基又はその塩から構成されていることが好ましい。骨格部は、例えばポリスチレン、スチレンジビニルベンゼン共重合体などのスチレン系樹脂;ポリヒドロキシメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリビニルアルコールなどから構成される。
【0029】
触媒層231に供給されるイオノマーとしては、例えば、上述の陰イオン交換膜と同様の材質からなる粉末を用いることができる。
【0030】
図1図2に示すように、本形態の水素製造装置1では、アノード極23の導電性基材233にカチオン234が担持されている。図3に示すように、カチオンはアノード極23内(具体的には、触媒層231内)で導電パス23aを形成するため、アノード極23内での水酸化物イオンの伝達が促進される。これにより、たとえ尿素を含む水溶液にアルカリ化合物が添加されていなくても電気化学セル4での電流量が増大し、尿素の電気分解による水素生成が促進される。
【0031】
水素製造装置1は、触媒調製工程、触媒層形成工程、電極体形成工程、組立工程によって製造される。
【0032】
アノード極側の触媒調製工程では、尿素酸化触媒あるいは尿素酸化触媒原料と、導電体とを混合する。具体的には、水、アルコールなどの液体中で、尿素酸化触媒又は尿素酸化触媒原料と導電体とを混合し、乾燥する。これにより尿素酸化触媒と導電体の混合粉を調製することができる。尿素酸化触媒が水酸化ニッケルの場合には、尿素酸化触媒原料として例えば硝酸ニッケル等の金属塩と水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリとを用いることができる。
【0033】
カソード極21側の触媒調製工程では、水素生成触媒と導電体とを混合し、混合粉を熱処理する。具体的には、水、アルコールなどの液体中で、水素生成触媒と導電体とを混合し、熱処理で乾燥させることにより触媒と導電体の混合体を調製することができる。
【0034】
アノード極側の触媒層形成工程では、上述の尿素酸化触媒を含む混合粉とKB等の導電体とPTFE等の細孔制御樹脂とを混合し、混合粉を例えば層状、板状に成形した後、乾燥する。触媒層形成工程では、混合時にイオノマーを添加することができる。イオノマーは、アルコール、アセトンなどの有機溶剤で希釈した状態で混合することもできるが、粉体状のイオノマーを混合することもできる。また、混合粉の成形後、カチオンを含む水溶液中に成形体を浸漬することにより、イオノマーにカチオンを担持させることができる。
【0035】
カソード極21側の触媒層形成工程では、上述の触媒を含む混合粉と導電体とを混合する。混合は、例えばアセトンなどの有機溶剤中で行われる。触媒層形成工程では、混合時に細孔制御樹脂、イオノマー等を添加することができる。混合により得られる混合粉をガス拡散層214に塗布し、乾燥することにより、ガス拡散層214上に触媒層231が形成される。次いで、ガス拡散層214に集電体212を積層し、一体化させることにより、カソード極21が得られる。集電体212としては、例えば金メッシュが用いられる。
【0036】
電極体形成工程では、カソード極21と隔膜22とアノード極23の触媒層231とを順次積層し、さらに、アノード極の触媒層231に集電体232を積層し、これらを一体化させる。このようにして、カソード極21と隔膜22とアノード極23との積層体から構成される電極体2が得られる。なお、アノード極の集電体232としては、カソード極21と同様に例えば金メッシュが用いられる。
【0037】
組立工程では、電極体2のアノード極23側を、尿素を含む水溶液(つまり、電解液)に浸漬させる。これにより、電極体2及び電解液3によって電気化学セル4が構築され、水素製造装置が得られる。水素製造装置のカソード極21及びアノード極23間に電圧を印加すると、カソード極21から水素が生成する。また、アノード極23からはアンモニアが生成する。
【0038】
(実験例1)
本例では、アノード極用の触媒層を製造し、その表面の微構造を分析する例である。なお、実験例1以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0039】
触媒層は次のようにして調製した。まず、水50ml、2-プロパノール50μl、KB80mg、及びNi(NO3)2を混合した。Ni(NO3)2の添加量は、Ni量換算で20mgである。その後、水溶液のpHが10になるように2MのNaOH水溶液を添加した。これにより、配位子が交換され、混合液を得た。次いで、混合液をろ過し、残渣を洗浄した後、減圧乾燥した。このようにして尿素酸化触媒と導電体との混合粉を得た。
【0040】
次に、混合粉25mg、KB25mg、PTFE5mg、及びイオノマー30mgを混練した。イオノマーとしては、Dioxide Materials社製のSustainion(登録商標)XA-9を用いた。
【0041】
次に、混練物を圧延し、直径16mmの円盤状に成形して成形体を得た。次いで、成形体を1MのKOH水溶液に1時間浸漬した。その後、成形体を温度353Kで1時間乾燥させた。このようにして、導電性基材233にカリウムが担持された触媒層を得た。
【0042】
触媒層の微構造は、触媒層断面のSEM(走査型電子顕微鏡)-EDS(エネルギー分散型X線分析装置)分析により調べた。分析装置としては、日本電子社製のJCM-6000 Plusを用いた。分析条件は、15kVである。その結果を図4図5(a)~(d)に示す。
【0043】
図4図5(a)~(d)から理解されるように、触媒層231は、KB、PTFE、及びイオノマー由来のポリマー等から構成された導電性基材233を有する。導電性基材233には、Niを含む触媒が分散されており、さらに、導電性基材233の全体にわたってKが担持されている。
【0044】
導電性基材233に担持された触媒層は、尿素を含む水溶液に浸漬されると、K+イオンが水酸化物イオンの導電パス23aを形成しうる。そのため、実施形態1にて説明したように、水素製造装置のカソード極21とアノード極に電圧を印加すると、K+イオンの導電パス23aによりOH-イオンの移動が促進されて電気化学セル4での電流量が増大する。これにより、尿素の電気分解による水素生成が促進される。
【0045】
(比較形態)
本形態は、アノード極23の触媒層にカチオンを有してない水素製造装置91である。本形態の水素製造装置は、アノード極29の触媒層にカチオンを有していない(図6参照)。その他の構成は、実施形態1と同様とすることができる。
【0046】
アノード極29の触媒層にカチオンが担持されていないため、水酸化物イオンのための導電パスが形成されない。そのため、図7に示すように、隔膜22を通過した水酸化物イオンがアノード極29内を伝わりにくい。したがって、水素製造装置91ではカソード極21側で水素が生成しにくい。
【0047】
(実験例2)
本例は、各種触媒層231による水素生成への影響を調べる例である。まず、イオノマーの添加方法を変更し、KOH水溶液への浸漬を行わなかったことを除き、実験例1と同様にしてアノード極の触媒層を作製した。
【0048】
具体的には、イオノマーとしては、粉末試料及び液体試料を準備した。液体試料は、粉末試料41.5mgをエタノール1.0mlに分散させることにより得られる。粉末試料としては、上述のXA-9を用いた。
【0049】
図7、表1に示されるように各種触媒層231を準備した。
第1の触媒層は、イオノマーの添加やKOH水溶液に浸漬させずに他の原料を混合することにより作製したものである。
第2の触媒層は、第1の触媒層を1MのKOH水溶液に浸漬し、353Kで1時間乾燥させることにより作製したものである。
第3の触媒層は、第2の触媒層を水で終夜洗浄することにより作製したものである。
第4の触媒層は、触媒層に液体試料のイオノマーを添加することにより作製したものである。
第5の触媒層は、第4の触媒層を1MのKOH水溶液に浸漬し、353Kで1時間乾燥させることにより作製したものである。
第6の触媒層は、触媒層に粉末試料のイオノマーを添加することにより作製したものである。
第7の触媒層は、第6の触媒層を1MのKOH水溶液に浸漬し、353Kで1時間乾燥させることにより作製したものである。
第8の触媒層は、第7の触媒層を水で終夜洗浄することにより作製したものである。
これらはいずれもアノード極用の触媒層である。
【0050】
次に、各触媒層を用いて、以下のようにして水素製造装置1を構築した(図1参照)。
まず、水:40ml、KB:150mg、及びH2PtCl6:150mg(ただし、Pt量換算)を混合し、KBにPtを担持させた。その後、終夜乾燥させ、乾燥物を得た。乾燥物を423Kで1時間、573Kで2時間熱処理させ、カソード極用の触媒を得た。
【0051】
カソード極用の触媒5mgと、イオノマーの液体試料100μl、アセトン300μlとを混合し、超音波分散を行った。これにより、触媒分散液を得た。この触媒分散液をガス拡散層214(具体的には、GDL-28BC)に塗布し、減圧下で乾燥させた。さらに金メッシュ(集電体212)をガス拡散層214に積層して一体化させた(図2参照)。このようにしてカソード極21を作製した。
【0052】
次に、Dioxide Materials社製の陰イオン交換膜であるSustainion(登録商標)X-37を準備した。市販の陰イオン交換膜には裏地層が貼付されている。まず、裏地層が貼付された状態の陰イオン交換膜を、裏地層を上向きにして1MのKOH水溶液に24時間浸漬した。次いで、裏地層をはがした後、上下反転させて再度1MのKOH水溶液に24時間浸漬した。その後、陰イオン交換膜を1MのKOH水溶液中に入れ、温度55℃で3時間加熱した。加熱後の陰イオン交換膜を隔膜22として用いた。
【0053】
次に、カソード極21と隔膜22とアノード極用の触媒層231アノード極用の集電体232とを順次積層し、積層体をホットプレスした。これにより、アノード極23と隔膜22とカソード極21とが一体化され、電極体2を得た。ホットプレス条件は、温度40℃、20MPa、1分間である。アノード極用の集電体232は、金メッシュである。
【0054】
次に、電解液3として、三井化学社製の尿素水であるAdBlue(ドイツ自動車工業会(つまり、VDA)5BIBの登録商標)を準備した。この尿素水の尿素濃度は32.5wt%である。次いで、1室型の容器40内に、電極体2を挿入することにより、容器内の鉛直方向に分断し、アノード極23側に30mLの電解液3を注ぎ、アノード極23を電解液3に浸漬させた。このようにして、水素製造装置1を得た。
【0055】
カソード極21、アノード極23は、図示しない電気化学測定装置(具体的には、ポテンショスタット/ガルバノスタット)に電気的に接続されている。具体的には、アノード極23は、試料極(試料極は作用極とも呼ばれる)として電気化学測定装置に接続され、カソード極21は、対極として電気化学測定装置に接続されている。また、図示を省略するが、水素製造装置は、図示しないガスクロマトグラフィに連結されており、各種生成ガスの評価が可能な構成となっている。
【0056】
水素製造装置1のカソード極21とアノード極23との間に2.0Vの定電圧を印加し、このときの尿素水電解活性を評価した。評価は、平均電流密度と、窒素及び酸素のファラデー効率(つまり、FE(N2)、FE(O2))、窒素及び酸素の生成速度(つまり、r(N)、r(O))を測定することにより行った。その結果を図7、表1に示す。
【0057】
本例の水素製造装置1では、上記の式<3.1>~<3.4>の反応が起こると考えられる。つまり、アノード極23では、式<3.1>に従って尿素と水の共電解によりN、COが生成する。また、式<3.2>に従って水電解により、Oの生成反応が進行する。そして、アノード極23で生成した電子が電気化学セル4の外部回路を通じて、カソード極21に移動し、式<3.4>に従ってカソード極21で水と電子が反応してH生成反応が進行する。電解は、上記のように定電圧で実施した。例えばカソード極21としてPt/KBを用いた場合には、H生成反応に高い活性を示し、高電流密度領域でも過電圧が小さいことが一般に知られている。そのため本例では両極間電圧をアノード電位とみなして実験を行った。
【0058】
本例では、上記のように、平均電流密度、N2、O等の生成物の生成速度、及び生成物の選択率(具体的には、ファラデー効率)により、尿素水電解活性(換言すれば、水素生成率)を評価した。N生成反応が全て式<3.1>に従って進行すると仮定し、ファラデー効率を6電子反応と仮定して式(I)に基づいてファラデー効率FEを算出した。なお、式(I)において、Yは生成物収量(単位:mol)、nは反応電子数(単位:-)、Qは通電電荷量(単位:C)を示す。
FE(%)=100×Y×n×F/Q ・・・(I)
【0059】
上記の式<3.1>で示すような尿素水の電解反応が進行すれば、尿素(つまり、(NHCO)と等量のNとCOが生成するはずであるが,本例では電解液3が塩基性を示すため、COは水溶液(つまり電解液3)中に溶解する。したがって、ガスクロマトグラフィで検出されるCOは、生成されるCOのうちの一部である。そこで、N生成反応の選択率を尿素水電解反応の選択率とみなし、水電解によるO生成反応の選択率と比較して触媒活性を評価した。つまり、Oの生成速度、選択率を調べることにより、水素の生成速度、水素の選択率の評価を行うことができる。
【0060】
【表1】
【0061】
図7、表1より理解されるように、イオノマーやK等のカチオンの添加により、電流密度が増大しており、FE(N2)、FE(O2)、r(N)、r(O)の値から、式<3.1>~<3.4>に照らしあわすと、水素生成が促進されるといえる。
また、水素生成の促進効果は、液体のイオノマーよりも粉体のイオノマーの方が顕著である。さらに、K+などのカチオンを含む水溶液に浸漬することにより、水素生成の促進効果はさらに顕著となる。また、水素生成の促進効果は、触媒層を水に終夜浸漬した後でも持続していた。
【0062】
以上のように、本例によれば、アノード極23の触媒層にイオノマーやカチオンを添加することにより、水素生成が促進されるといえる。
【0063】
(実験例3)
本例では、触媒層の内部の微構造を分析する例である。具体的には、実験例1と同様にして触媒層を作製し、その断面の微構造を実験例1と同様にして調べた。その結果を図8図9(a)~(d)に示す。
【0064】
図4図5(a)~(d)から理解されるように、触媒層231は、KB、PTFE、及びイオノマー由来のポリマー等から構成された導電性基材233を有する。導電性基材233の内部には、Niを含む触媒が分散されており、さらに、内部の全体にわたってKが担持されている。触媒層231の内部にもカチオンが担持されているため、触媒層231が尿素を含む水溶液に浸漬されると、触媒層の231内部でも水酸化物イオンの導電パス23aが形成される。水素製造装置1では、導電パス23aによりOH-イオンの移動が促進されて電気化学セルでの電流量が増大する。これにより、尿素の電気分解による水素生成が促進される。
【0065】
(実験例4)
本例では、終夜洗浄後の触媒層の内部の微構造を分析する例である。具体的には、実験例1と同様の触媒層を水で終夜洗浄した。この触媒層の断面の微構造を実験例1と同様にして調べた。その結果を図10図11(a)~(d)に示す。
【0066】
図4図5(a)~(d)から理解されるように、終夜洗浄後でも触媒層231には、全体にわたってKが担持されていることがわかる。つまり、触媒層231に担持されたカチオンは、容易には電解液中に溶け出さず、水素生成の促進効果は低下しにくい。
【0067】
(実験例5)
本例は、pHへの依存性を調べる例である。具体的には、触媒層231として実験例2の第7触媒層を用い、電解液のpHを変更した点を除き、実験例2と同様にして水素製造装置を作成した。電解液のpHは、KOHの添加量により調整した。
【0068】
水素製造装置の電極間に水素製造装置1のカソード極21とアノード極23との間に2.0V又は1.5の定電圧を印加し、尿素電解を行った。温度条件は、298Kである。2.0Vの定電圧電解での結果を図12に示し、1.5Vの定電圧電解での結果を図13に示す。
【0069】
本発明は上記各実施形態、実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 水素製造装置
2 電極体
21 カソード極
22 隔膜
23 アノード極
231 触媒層
234 カチオン
3 電解液
4 電気化学セル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13