(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093407
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20240702BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B60C11/00 F
B60C11/03 100C
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209773
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】平賀 崇朗
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BC02
3D131BC12
3D131BC13
3D131BC14
3D131BC19
3D131BC33
3D131EA09V
3D131EA09W
3D131EA09X
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131EC01V
3D131EC01W
3D131EC01X
(57)【要約】
【課題】陸の表面に形成されるタイヤ軸方向断面視が円弧状の凸部によって直進安定性を改善することができる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド30の中央陸71は、中央陸本体部71aと、中央陸本体部71aのタイヤ径方向外側の端71dを通る基準プロファイルラインCePLからタイヤ径方向外側に突出する中央陸ベース凸部71bと、中央陸ベース凸部71bのタイヤ径方向外側の端からタイヤ径方向外側に突出し、タイヤ径方向外側に凸の円弧状に突出する中央陸円弧凸部71cと、を有し、中央陸71の基準プロファイルラインCePLの曲率半径CePRに対する中央陸円弧凸部71cの表面の曲率半径CeTRの比率「CeTR/CePR」が、10%以上30%以下であり、かつ、中央陸ベース凸部71bのタイヤ径方向の厚みCeHが0.1mm以上0.5mm以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビードと、前記ビードからタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォールと、前記一対のサイドウォールの間に配置されたトレッドと、前記トレッドと前記サイドウォールとの間に配置された一対のショルダーと、を備える空気入りタイヤであって、
前記トレッドは、タイヤ軸方向中央の中央陸と、当該トレッドの接地端からタイヤ軸方向内側に配置されて前記ショルダーに連なるショルダー陸と、前記中央陸と前記ショルダー陸との間に配置された中間陸と、前記中央陸と前記中間陸との間に配置された第1主溝と、前記中間陸と前記ショルダー陸との間に配置された第2主溝と、を有し、
前記中央陸は、中央陸本体部と、当該中央陸本体部のタイヤ径方向外側の端を通る基準プロファイルラインからタイヤ径方向外側に突出する中央陸ベース凸部と、当該中央陸ベース凸部のタイヤ径方向外側の端からタイヤ径方向外側に突出し、タイヤ径方向外側に凸の円弧状に突出する中央陸円弧凸部と、を有し、
前記中間陸は、中間陸本体部と、当該中間陸本体部のタイヤ径方向外側の端を通る基準プロファイルラインからタイヤ径方向外側に突出する中間陸ベース凸部と、当該中間陸ベース凸部のタイヤ径方向外側の端からタイヤ径方向外側に突出し、タイヤ径方向外側に凸の円弧状に突出する中間陸円弧凸部と、を有し、
前記ショルダー陸は、ショルダー陸本体部と、当該ショルダー陸本体部のタイヤ径方向外側の端を通る基準プロファイルラインからタイヤ径方向外側に突出するショルダー陸ベース凸部と、当該ショルダー陸ベース凸部のタイヤ径方向外側の端からタイヤ径方向外側に突出し、タイヤ径方向外側に凸の円弧状に突出するショルダー陸円弧凸部と、を有し、
前記中央陸の基準プロファイルラインの曲率半径CePRに対する前記中央陸円弧凸部の表面の曲率半径CeTRの比率「CeTR/CePR」が、10%以上30%以下であり、かつ、前記中央陸ベース凸部のタイヤ径方向の厚みCeHが0.1mm以上0.5mm以下である、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の主溝および主溝間の複数の陸を含むトレッドを備えた空気入りタイヤが知られている。特許文献1には、陸の表面を、タイヤ径方向外側に凸となるようにタイヤ軸方向断面視で円弧状に形成した空気入りタイヤが開示されている。ここでは、その円弧状の突出部の表面を形成する輪郭の曲率半径を、外側センター陸部よりも内側センター陸部の方を大きくすることによって、外側センター陸部のタイヤ接地性が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、陸部に形成されるタイヤ軸方向断面視で円弧状の凸部がタイヤ接地性に及ぼす影響については記載しているが、タイヤ特性の中の直進安定性に関しては記載されていない。
【0005】
そこで本発明は、陸の表面に形成されるタイヤ軸方向断面視が円弧状の凸部によって直進安定性を改善することができる空気入りタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の空気入りタイヤは、一対のビードと、前記ビードからタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォールと、前記一対のサイドウォールの間に配置されたトレッドと、前記トレッドと前記サイドウォールとの間に配置された一対のショルダーと、を備える空気入りタイヤであって、前記トレッドは、タイヤ軸方向中央の中央陸と、当該トレッドの接地端からタイヤ軸方向内側に配置されて前記ショルダーに連なるショルダー陸と、前記中央陸と前記ショルダー陸との間に配置された中間陸と、前記中央陸と前記中間陸との間に配置された第1主溝と、前記中間陸と前記ショルダー陸との間に配置された第2主溝と、を有し、前記中央陸は、中央陸本体部と、当該中央陸本体部のタイヤ径方向外側の端を通る基準プロファイルラインからタイヤ径方向外側に突出する中央陸ベース凸部と、当該中央陸ベース凸部のタイヤ径方向外側の端からタイヤ径方向外側に突出し、タイヤ径方向外側に凸の円弧状に突出する中央陸円弧凸部と、を有し、前記中間陸は、中間陸本体部と、当該中間陸本体部のタイヤ径方向外側の端を通る基準プロファイルラインからタイヤ径方向外側に突出する中間陸ベース凸部と、当該中間陸ベース凸部のタイヤ径方向外側の端からタイヤ径方向外側に突出し、タイヤ径方向外側に凸の円弧状に突出する中間陸円弧凸部と、を有し、前記ショルダー陸は、ショルダー陸本体部と、当該ショルダー陸本体部のタイヤ径方向外側の端を通る基準プロファイルラインからタイヤ径方向外側に突出するショルダー陸ベース凸部と、当該ショルダー陸ベース凸部のタイヤ径方向外側の端からタイヤ径方向外側に突出し、タイヤ径方向外側に凸の円弧状に突出するショルダー陸円弧凸部と、を有し、前記中央陸の基準プロファイルラインの曲率半径CePRに対する前記中央陸円弧凸部の表面の曲率半径CeTRの比率「CeTR/CePR」が、10%以上30%以下であり、かつ、前記中央陸ベース凸部のタイヤ径方向の厚みCeHが0.1mm以上0.5mm以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、陸の表面に形成されるタイヤ軸方向断面視が円弧状の凸部によって直進安定性を改善することができる空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係るタイヤのタイヤ軸方向の断面図である。
【
図2】実施形態に係るタイヤのトレッド面を示す一部拡大正面図である。
【
図3】実施形態に係るタイヤのトレッド中央部を示す拡大断面図である。
【
図4】実施形態に係るタイヤの外側中間陸を示す拡大断面図である。
【
図5】実施形態に基づく変形例を示す図であって、外側中間陸の変形例を示す拡大断面図である。
【
図6】実施形態のタイヤの接地面形状を簡略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤであるタイヤ1の内部構造を示す図であって、タイヤ軸方向の半断面を示している。
図2は、
図1の一部(主にトレッドの部分)を拡大した図である。実施形態に係るタイヤ1は、例えば、乗用車用の空気入りタイヤである。なお、実施形態のタイヤ1の構成は、乗用車の他に、ライトトラック、トラック、バス等の各種車両用のタイヤとして採用することができる。
【0010】
はじめに、
図1を参照しながらタイヤ1の内部構造を説明する。
図1中、符号S1は、タイヤ1の回転軸線に直交するタイヤ赤道面を示している。タイヤ1の基本的な内部構造は、タイヤ赤道面S1を対称面として左右対称となっている。
図1は、タイヤ1の右半分の半断面を示しており、不図示の左半分も同じ構造である。
【0011】
図1の断面図は、タイヤ1を図示せぬ規定リムに装着し、かつ、規定内圧を充填した無負荷状態でのタイヤ1のタイヤ軸方向半断面図である。なお、規定リムとは、タイヤサイズに対応してJATMAに定められた標準となるリムを指す。また、規定内圧とは、例えばタイヤが乗用車用である場合には180kPaである。
【0012】
図1においては、タイヤ軸方向を矢印X、タイヤ径方向を矢印Yで示している。タイヤ軸方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向であり、
図1における紙面左右方向である。タイヤ軸方向内側とは、タイヤ軸方向においてタイヤ赤道面S1に近づく方向であり、
図1においては紙面左側である。タイヤ軸方向外側とは、タイヤ軸方向においてタイヤ赤道面S1から離れる方向であり、
図1においては紙面右側である。
【0013】
また、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向であり、
図1における紙面上下方向である。
図1においては、タイヤ径方向Yとして図示している。タイヤ径方向外側とは、タイヤ回転軸から離れる方向であり、
図1においては紙面上側である。タイヤ径方向内側とは、タイヤ回転軸に近づく方向であり、
図1においては紙面下側である。
【0014】
タイヤ1は、タイヤ軸方向両側に設けられた一対のビード10と、一対のビード10のそれぞれからタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20の間に配置されたトレッド30と、トレッド30とサイドウォール20との間に配置されたショルダー40と、一対のビード10の間に架け渡されて配置されたカーカスプライ50と、カーカスプライ50のタイヤ内腔側に配置されたインナーライナー60と、を備える。
【0015】
ビード10は、ビードコア11と、ビードコア11からタイヤ径方向外側に延びるビードフィラー12と、を有する。
【0016】
ビードコア11は、ゴムが被覆された金属製のビードワイヤがタイヤ周方向に複数回巻かれた環状の部材である。ビードコア11は、空気が充填されたタイヤ1を、リムに固定する役目を果たす部材である。ビードフィラー12は、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に延びるにつれて厚みが減じる先細り形状となっている。ビードフィラー12は、ビード10の周辺部分の剛性を高め、高い操縦性および安定性を確保するために設けられる。ビードフィラー12は、例えば、周囲のゴム部材よりも硬度の高いゴムにより構成される。
【0017】
ビード10は、カーカスプライ50を間に挟んでチェーハー13で囲まれている。チェーハー13は、ビード10のタイヤ軸方向内側からタイヤ径方向内側の端を経てタイヤ軸方向外側まで回り込む態様で、タイヤ1のタイヤ径方向内側に配置されている。チェーハー13のタイヤ軸方向外側には、後述するサイドウォールゴム21のタイヤ径方向内側に連なるリムストリップゴム14が配置されている。チェーハー13およびリムストリップゴム14は、タイヤ1が装着されるリムの内面に接触する。
【0018】
サイドウォール20は、カーカスプライ50のタイヤ軸方向外側に配置されたサイドウォールゴム21を含む。サイドウォールゴム21は、タイヤ1の側壁面を構成する。サイドウォールゴム21のタイヤ径方向外側の端21aの外表面には、タイヤ周方向に環状に延在する突起21bが形成されている。サイドウォールゴム21は、タイヤ1がクッション作用をする際に最も撓む部分であり、通常、耐疲労性を有する柔軟なゴムが採用される。
【0019】
トレッド30は、無端状のベルト31およびキャッププライ34と、トレッドゴム36と、を備える。ベルト31は、カーカスプライ50のタイヤ径方向外側に配置されている。キャッププライ34は、ベルト31のタイヤ径方向外側に配置されている。トレッドゴム36は、キャッププライ34のタイヤ径方向外側に配置されている。
【0020】
ベルト31は、トレッド30を補強する部材である。実施形態のベルト31は、インナーライナー60のタイヤ径方向外側に配置された内側ベルト32と、内側ベルト32のタイヤ径方向外側に配置された外側ベルト33と、を備えた二層構造である。内側ベルト32および外側ベルト33は、いずれも複数のスチールコード等のベルトコードがゴムで覆われた構造を有する。
【0021】
内側ベルト32は、外側ベルト33よりも幅広である。ベルト31を設けることにより、タイヤ1の剛性が確保され、路面に対するトレッド30の接地性が向上する。なお、ベルト31は二層構造に限らず、一層、あるいは三層以上の構造を有していてもよい。
【0022】
キャッププライ34は、ベルト31とともにトレッド30を補強する部材である。キャッププライ34は、例えば、ポリアミド繊維等の絶縁性を有する複数の有機繊維コードがゴムで覆われた構造を有する。キャッププライ34は、ベルト31全体をタイヤ外表面側から覆っている。キャッププライ34を設けることにより、耐久性の向上や走行時のロードノイズの低減を図ることができる。なお、実施形態のキャッププライ34は一層であるが、二層以上の構造であってもよい。
【0023】
トレッドゴム36は、キャッププライ34のタイヤ径方向外側に配置されている。トレッドゴム36は、トレッド30の外表面であって路面に接地するトレッド面37を構成する部材である。トレッドゴム36のタイヤ軸方向外側の端36aは、キャッププライ34のタイヤ軸方向外側の端34aを越えてタイヤ径方向内側に湾曲している。
【0024】
トレッド30のトレッド面37は、タイヤ軸方向において、実際に路面に接地する領域である接地幅領域を有する。接地幅領域は、トレッド面37のタイヤ軸方向両端の接地端37gの間である。
【0025】
なお、ここでいう接地幅領域とは、正規リムに装着され正規内圧が充填された空気入りタイヤが接地し、そこへ正規荷重が負荷された条件下での、路面に接地するタイヤ軸方向の領域である。正規荷重とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば”最大負荷能力”、TRAであれば表”TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば”LOAD CAPACITY”である。タイヤが乗用車用の場合には、前記荷重の88%に相当する荷重である。タイヤがレーシングカート用の場合、正規荷重は392Nである。
【0026】
ショルダー40は、トレッド30からサイドウォール20にわたって屈曲する部分であって、タイヤ軸方向両側の接地端37gのそれぞれからサイドウォールゴム21のタイヤ径方向外側の端21a付近までの部分をいう。サイドウォールゴム21のタイヤ径方向外側の端21aと、トレッドゴム36のタイヤ軸方向外側の端36aとの間には、比較的高モジュラスのゴム層35が配置されている。ショルダー40は、トレッドゴム36のタイヤ軸方向外側の端36a、サイドウォールゴム21のタイヤ径方向外側の端21aおよびゴム層35を含む。
【0027】
カーカスプライ50は、タイヤ1の骨格となるプライを構成する。カーカスプライ50は、一対のビード10の間を、一対のサイドウォール20、一対のショルダー40およびトレッド30のタイヤ内腔側を通過する態様でタイヤ1内に埋設されている。トレッド30においては、カーカスプライ50のタイヤ径方向外側にベルト31が配置されている。
【0028】
カーカスプライ50は、プライ本体部50Aと、左右一対の折り返し部50Bと、左右一対の屈曲部50Cと、を有する。プライ本体部50Aは、一方のビード10のビードコア11のタイヤ軸方向内側から、一方のサイドウォール20、ショルダー40、トレッド30、他方のサイドウォール20を経て、他方のビード10のビードコア11のタイヤ軸方向内側付近まで延在する部分である。
【0029】
折り返し部50Bは、プライ本体部50Aのタイヤ径方向内側からビードコア11周りに折り返されることによりビード10のタイヤ軸方向外側においてタイヤ径方向外側に延びる部分である。折り返し部50Bは、ビードフィラー12を越えてタイヤ1の最大幅位置付近よりもタイヤ径方向内側までタイヤ径方向外側に延びている。折り返し部50Bの、ビードフィラー12よりもタイヤ径方向外側の部分は、プライ本体部50Aのタイヤ軸方向外側に重なっている。
【0030】
屈曲部50Cは、プライ本体部50Aからビードコア11周りにU字状に屈曲し、折り返し部50Bにつながる部分である。屈曲部50Cは、ビードコア11のタイヤ軸方向内側に接触している。プライ本体部50Aと折り返し部50Bとは、屈曲部50Cを介して連続している。上述したチェーハー13は、屈曲部50Cを含むカーカスプライ50のタイヤ径方向内側の端を取り囲んでいる。
【0031】
カーカスプライ50は、並列された複数のプライコードをゴムで被覆した構成を有する。プライコードは、スチールコード、あるいはポリエステルやポリアミド等の絶縁性の有機繊維コード等により構成され、タイヤ1の骨格として機能する。なお、実施形態のカーカスプライ50は一層構造であるが、カーカスプライ50は、二層あるいはそれ以上の複数層の構造を有するものであってもよい。
【0032】
インナーライナー60は、一対のビード10の間においてカーカスプライ50のプライ本体部50Aの内面を覆っている。インナーライナー60のタイヤ径方向内側の端は、チェーハー13のタイヤ軸方向内側の部分を覆っている。実施形態のインナーライナー60は、第1インナーライナー61および第2インナーライナー62が重ねられた二層構造を有する。第1インナーライナー61が、第2インナーライナー62のタイヤ内腔側に配置されている。第1インナーライナー61および第2インナーライナー62は、耐空気透過性ゴムにより構成されており、タイヤ内腔内の空気が外部に漏れるのを防ぐ。
【0033】
ショルダー40のタイヤ径方向外側の端からサイドウォール20におけるタイヤ径方向の中間部分にわたる部分の、インナーライナー60とカーカスプライ50との間には、薄いゴムシート65が挟まれている。
【0034】
ここで、ビードフィラー12に採用するゴムとしては、少なくともサイドウォールゴム21およびインナーライナー60よりも硬度が高いゴムが用いられる。ゴムの硬度は、JIS K6253-3:2012のデュロメータ硬さ タイプAである。
【0035】
例えば、サイドウォールゴム21の硬度を基準としたとき、ビードフィラー12の硬度は、サイドウォールゴム21の硬度の1.2倍以上2.3倍以下程度が好ましい。リムストリップゴム14の硬度は、サイドウォールゴム21の硬度の1倍以上1.6倍以下程度がより好ましい。このような硬度とすることで、タイヤとしての柔軟性とビード10付近の剛性のバランスを確保することができる。また、トレッドゴム36の硬度は、接地性が良好で、かつ低燃費となる観点から比較的低いことが好ましく、例えば上記デュロメータ硬さ タイプAで50以上60以下程度が好ましい。
【0036】
以上が、実施形態に係るタイヤ1の内部構造である。次いで、
図2~
図5を参照して、トレッド30について詳述する。
【0037】
図1および
図2に示すように、トレッド30のトレッド面37は、複数の陸70および複数の主溝80を有する。複数の陸70は、タイヤ軸方向中央の中央陸71と、接地端37gからタイヤ軸方向内側に配置されてショルダー40に連なる一対のショルダー陸73と、中央陸71と一対のショルダー陸73との間にそれぞれ配置された一対の中間陸72と、を含む。複数の主溝80は、中央陸71と各中間陸72との間にそれぞれ配置された一対の第1主溝81と、各中間陸72と各ショルダー陸73との間それぞれに配置された第2主溝82と、を含む。各陸70は、タイヤ周方向に延在する環状のリブである。各主溝80は、タイヤ周方向に沿って延在する周溝である。以下の説明で、陸70および主溝80における幅方向とは、タイヤ軸方向と同意であり、陸70および主溝80における幅とは、タイヤ軸方向の寸法をいう。
【0038】
実施形態の陸70においては、中央陸71と中間陸72の幅は互いにほぼ同じであり、ショルダー陸73の幅は、中央陸71および中間陸72のそれぞれの幅よりもやや大きいが、これに限定されない。第1主溝81の幅は第2主溝82の幅よりも大きいが、双方が同じ幅であってもよく、逆であってもよい。
【0039】
トレッド面37の第2主溝82のタイヤ軸方向外側には、ショルダー40まで延びるスリット90が形成されている。スリット90はタイヤ周方向と交差する方向に延びる横溝であって、タイヤ周方向に間隔をおいてタイヤ全周にわたり配置されている。
【0040】
各陸70のそれぞれは、当該陸70の主たる部分である本体部からタイヤ径方向外側に突出するベース凸部と、このベース凸部からさらにタイヤ径方向外側に突出する円弧凸部と、を有する。
【0041】
すなわち、
図3に示すように、中央陸71は、当該中央陸71の主たる部分である中央陸本体部71aからタイヤ径方向外側に突出する中央陸ベース凸部71bと、この中央陸ベース凸部71bからさらにタイヤ径方向外側に突出する中央陸円弧凸部71cと、を有する。
図2および
図3には、中央陸円弧凸部71cの表面の曲率半径をCeTRで示している。
図3には、中央陸ベース凸部71bのタイヤ径方向の厚みをCeHで示している。
【0042】
また、
図4に示すように、中間陸72は、当該中間陸72の主たる部分である中間陸本体部72aからタイヤ径方向外側に突出する中間陸ベース凸部72bと、この中間陸ベース凸部72bからさらにタイヤ径方向外側に突出する中間陸円弧凸部72cと、を有する。
図2および
図4には、中間陸円弧凸部72cの曲率半径をMeTRで示している。
図4には、中間陸ベース凸部72bのタイヤ径方向の厚みをMeHで示している。
【0043】
また、
図5に示すように、ショルダー陸73は、当該ショルダー陸73の主たる部分であるショルダー陸本体部73aからタイヤ径方向外側に突出するショルダー陸ベース凸部73bと、このショルダー陸ベース凸部73bからさらにタイヤ径方向外側に突出するショルダー陸円弧凸部73cと、を有する。
図2および
図5には、ショルダー陸円弧凸部73cの曲率半径をShTRで示している。
図5には、ショルダー陸ベース凸部73bのタイヤ径方向の厚みをShHで示している。
【0044】
図3~
図5に示すように、中央陸71、中間陸72およびショルダー陸73の各ベース凸部71b、72b、73bは、タイヤ軸方向断面において略平たい矩形状であるが、タイヤ軸方向両端のタイヤ径方向外側の角の部分は、それぞれR状に形成されて面取り部70Rを有する。中央陸71、中間陸72およびショルダー陸73の各円弧凸部71c、72c、73cのそれぞれは、各ベース凸部71b、72b、73bのタイヤ径方向外側からタイヤ軸方向断面で円弧状に突出している。各円弧凸部71c、72c、73cのタイヤ径方向外側の表面のそれぞれは、タイヤ軸方向断面においてタイヤ径方向外側に凸の円弧状に形成されている。
【0045】
図2に示すように、実施形態のトレッド30は、タイヤ軸方向断面において、タイヤ径方向外側に凸の円弧線である基準プロファイルラインPLを有する。トレッド30の基準プロファイルラインPLは、一対の接地端37gの間にわたっており、接地端37gからタイヤ軸方向内側に向けて、複数の点E、F、G、H、Hを結ぶ複数の曲率半径を有する仮想円弧線である。
図5に示すように、点Eは、第2主溝82の開口部におけるショルダー陸73側の面取り部70Rの始点である。
図4に示すように、点Fは、第2主溝82の開口部における中間陸72側の面取り部70Rの始点であり、点Gは、第1主溝81の開口部における中間陸72側の面取り部70Rの始点である。
図3に示すように、点Hは、第1主溝81の開口部における中央陸71側の面取り部70Rの始点である。
【0046】
基準プロファイルラインPLは、中央陸本体部71aのタイヤ径方向外側の端71dに一致するCePLと、中間陸本体部72aのタイヤ径方向外側の端72dに一致するMePLと、ショルダー陸本体部73aのタイヤ径方向外側の端73dに一致するShPLと、を含む。これら基準プロファイルラインCePL、MePL、ShPLの曲率半径は互いに異なる。すなわち、中央陸71の基準プロファイルラインCePLの曲率半径をCePR、中間陸72の基準プロファイルラインMePLの曲率半径をMePR、ショルダー陸73の基準プロファイルラインShPLの曲率半径をShPR、とした場合、CePR>MePR>ShPRである。
【0047】
中央陸71、中間陸72およびショルダー陸73の各ベース凸部71b、72b、73bのそれぞれは、タイヤ軸方向断面視において、それぞれのタイヤ径方向外側の端71d、72d、73dを通る基準プロファイルラインCePL、MePL、ShPLからタイヤ径方向外側に突出している。すなわち中央陸71、中間陸72およびショルダー陸73は、各本体部のタイヤ径方向外側の端を通る各基準プロファイルラインから、ベース凸部、円弧凸部が、タイヤ径方向外側に2段階に突出する態様となっている。
【0048】
実施形態のタイヤ1は、中央陸71においては、基準プロファイルラインCePLの曲率半径CePRに対する中央陸円弧凸部71cの表面の曲率半径CeTRの比率「CeTR/CePR」が、10%以上30%以下であり、かつ、中央陸ベース凸部71bのタイヤ径方向の厚みCeHが0.1mm以上0.5mm以下である。
【0049】
このように中央陸円弧凸部71cおよび中央陸ベース凸部71bを設定することにより、タイヤ1が路面に接地する接地面形状(フットプリントの形状)は、矩形率が低くなって丸みを帯び楕円形状に近付く。矩形率は、タイヤの接地面形状の矩形度を示すものであり、その接地面形状のタイヤ軸方向中央におけるタイヤ周方向長さに対する、タイヤ軸方向両端から内側に10mmの位置におけるタイヤ周方向長さの比をいう。
図6は、接地面形状を簡略的に示しており、タイヤ軸方向中央におけるタイヤ周方向長さをCeL、接地面形状のタイヤ軸方向両端Geから内側に10mmの位置におけるタイヤ周方向長さをShLで示しており、矩形率はShL/CeLとなる。なお、実際のShLは左右で異なる場合が多いため、双方の平均をとる。
【0050】
中央陸71の、プロファイルラインCePLの曲率半径CePRに対する中央陸円弧凸部71cの曲率半径CeTRの比率、および中央陸ベース凸部71bのタイヤ径方向の厚みCeHは、矩形率に影響し、上記のように「CeTR/CePR」が10%以上30%以下であり、かつ、中央陸ベース凸部71bのタイヤ径方向の厚みCeHが0.1mm以上0.5mm以下の場合に、接地面形状は楕円形状に近付き、矩形率が低減する傾向にある。矩形率の低減は、直進安定性の向上に寄与するとともに、転がり抵抗の増大を抑制する。
【0051】
上記実施形態に係るタイヤ1によれば、以下の効果を奏する。
【0052】
(1)実施形態に係るタイヤ1は、一対のビード10と、ビード10からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20の間に配置されたトレッド30と、トレッド30とサイドウォール20との間に配置された一対のショルダー40と、を備える空気入りタイヤであって、トレッド30は、タイヤ軸方向中央の中央陸71と、トレッドの接地端37gからタイヤ軸方向内側に配置されてショルダー40に連なるショルダー陸73と、中央陸71とショルダー陸73との間に配置された中間陸72と、中央陸71と中間陸72との間に配置された第1主溝81と、中間陸72とショルダー陸73との間に配置された第2主溝82と、を有し、中央陸71は、中央陸本体部71aと、中央陸本体部71aのタイヤ径方向外側の端71dを通る基準プロファイルラインCePLからタイヤ径方向外側に突出する中央陸ベース凸部71bと、中央陸ベース凸部71bのタイヤ径方向外側の端からタイヤ径方向外側に突出し、タイヤ径方向外側に凸の円弧状に突出する中央陸円弧凸部71cと、を有し、中間陸72は、中間陸本体部72aと、中間陸本体部72aのタイヤ径方向外側の端72dを通る基準プロファイルラインMePLからタイヤ径方向外側に突出する中間陸ベース凸部72bと、中間陸ベース凸部72bのタイヤ径方向外側の端からタイヤ径方向外側に突出し、タイヤ径方向外側に凸の円弧状に突出する中間陸円弧凸部72c、とを有し、ショルダー陸73は、ショルダー陸本体部73aと、ショルダー陸本体部73aのタイヤ径方向外側の端73dを通る基準プロファイルラインShPLからタイヤ径方向外側に突出するショルダー陸ベース凸部73bと、ショルダー陸ベース凸部73bのタイヤ径方向外側の端からタイヤ径方向外側に突出し、タイヤ径方向外側に凸の円弧状に突出するショルダー陸円弧凸部73cと、を有し、中央陸71の基準プロファイルラインCePLの曲率半径CePRに対する中央陸円弧凸部71cの表面の曲率半径CeTRの比率「CeTR/CePR」が、10%以上30%以下であり、かつ、中央陸ベース凸部71bのタイヤ径方向の厚みCeHが0.1mm以上0.5mm以下である。
【0053】
これにより、路面に対するタイヤ1の接地面形状は楕円形状に近付き、矩形率が低減するため、直進安定性の向上が図られるとともに、転がり抵抗の増大が抑制される。
【0054】
本発明は上記実施形態および変形例に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で変形、改良などを行っても、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0055】
以下、実施例について説明する。上記実施形態の構成を基本構成とし、トレッドの中央陸、中間陸およびショルダー陸について、それぞれの基準プロファイルラインの曲率半径に対するそれぞれの円弧凸部の曲率半径の比率(CeTR/CePR、MeTR/MePR、ShTR/ShPR)、およびそれぞれのベース凸部の厚み(CeH、MeH、ShH)を変化させた試験例のタイヤとして、表1に示す試験例1~8のタイヤを用意した。
【0056】
試験例1~8のタイヤに対し、直進安定性、RRC(転がり抵抗係数)、CFmax(最大コーナリングフォース)、操舵感(フィーリング)、摩耗性、ウェット制動性について測定、評価した。これらの測定、評価の方法は、以下のとおりである。なお、各評価を行った際の、タイヤの内圧および荷重について付記している。これらの結果を、表1に併記する。
【0057】
・直進安定性-台実車評価におけるフィーリングで評価した。(タイヤの内圧:250[kPa]、負荷荷重:前輪・860[kg]、後輪・520[kg])。数値が高い方が、直進安定性が良好である。
・RRC(転がり抵抗係数)-台上試験で測定した。(タイヤの内圧:210[kPa]、負荷荷重:492[kg])。数値が低いほど転がり抵抗が小さく優れている。
・CFmax:台上試験で測定した。(タイヤの内圧:250[kPa]、負荷荷重:430[kg])。
・操舵感:実車評価におけるフィーリングを評価した。(タイヤの内圧:250[kPa]、負荷荷重:前輪・860[kg]、後輪・520[kg])。数値が大きいほど操舵感が良い。
・摩耗性:台上試験で転動、制動、駆動、旋回(各条件とも0.1G)の際の摩擦エネルギーを測定し、各エネルギーを重みづけして算出した。数値が大きいほど耐摩耗性に優れる。
・ウェット制動性:実車評価におけるウェット制動性を評価した。(タイヤの内圧:250[kPa]、負荷荷重:前輪・860[kg]、後輪・520[kg])。数値が大きいほどウェット制動性が良好である。
【0058】
【0059】
表1によれば、中央陸において、基準プロファイルラインCePLの曲率半径CePRよりも中央陸円弧凸部の曲率半径CeTRが小さく(比率100%未満)、かつ、中央陸円弧凸部を有すると、直進安定性、RRC、操舵感、摩耗性が良好になる傾向にある。中でも、「CeTR/CePR」が17%、CeHが0.35mmの試験例5は、直進安定性に優れるとともにRRCの増大は抑制されており、特に直進安定性を高める上では、「CeTR/CePR」が17%程度であることが好ましいことがわかる。なお、試験例5~8においては、試験例7、8よりも17%の試験例5、6の矩形率が低かった。
【0060】
次に、試験例5を最良モデルと設定して、当該試験例5のように、中間陸の「MeTR/MePR」を35%、MeHを0.25mmで一定とし、ショルダー陸73の「ShTR/ShPR」を54%、ShHを0.2mmで一定とし、さらに、CeHを0.35mmで一定とし、かつ、「CeTR/CePR」を10%~30%の間で変化させた試験例10~12と、「CeTR/CePR」を17%で一定とし、かつ、CeHを0.1mm~0.5mmの間で変化させた試験例13~17のタイヤを、追加試験用のタイヤとして用意した。そして、これら試験例10~17に対して、試験例1~8と同様の測定、評価を行った。表2に、試験例10~17の測定、評価の結果を、試験例5と合わせて示す。なお、試験例10~17は、いずれも「*」を付しており、本発明に相当するタイヤである。
【0061】
【0062】
表2によれば、CeHが0.35mmで一定の場合、「CeTR/CePR」が小さいほど直進安定性は良好になるが、RRCが増大する傾向にあることが判る。一方、「CeTR/CePR」が17%で一定の場合、CeHが大きいほど直進安定性およびCFmaxが良好になる。すなわち、いずれの試験例も直進安定性は良好であり、RRCも顕著な増大を示すことはなく、実用上は問題のないレベルである。したがって「CeTR/CePR」が10%以上30%以下であり、かつ、CeHが0.1mm以上0.5mm以下である場合、直進安定性が増しながら、RRCの増大は抑制される。なお、試験例5、10~12においては、「CeTR/CePR」が小さくなるほど矩形率が低くなる傾向にあり、試験例5、13~17においては、CeHが大きく小さくなるほど矩形率が低くなる傾向を示した。
1…タイヤ(空気入りタイヤ)、10…ビード、20…サイドウォール、30…トレッド、37g…トレッドの接地端、40…ショルダー、70…陸、71…中央陸、72…中間陸、73…ショルダー陸、71a…中央陸本体部、71b…中央陸ベース凸部、71c…中央陸円弧凸部、72a…中間陸本体部、72b…中間陸ベース凸部、72c…中間陸円弧凸部、73a…ショルダー陸本体部、73b…ショルダー陸ベース凸部、73c…ショルダー陸円弧凸部、80…主溝、PL…基準プロファイルライン、CePL…中央陸の基準プロファイルライン、MePL…中間陸の基準プロファイルライン、ShPL…ショルダー陸の基準プロファイルライン