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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093428
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】振動試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20240702BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240702BHJP
【FI】
G01M7/02 B
G01M99/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209802
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中本 和伸
(72)【発明者】
【氏名】野口 徳司
(72)【発明者】
【氏名】中田 理
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD18
2G024BA12
2G024BA17
2G024CA13
2G024DA12
2G024EA01
2G024EA13
2G024FA06
2G024FA15
(57)【要約】
【課題】収容体の輸送過程における振動の再現性が高く、簡便に実行できる振動試験方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る振動試験方法は、シミュレーション工程と、振動試験装置30を用いて複数の物品11が収容された収容体12に振動を加える加振工程とを具備する。前記シミュレーション工程は、蓄積疲労に基づき、振動試験装置30の振動条件をシミュレーションによって導出する工程である。前記加振工程は、振動試験装置30を用いて、前記振動条件下で収容体12に振動を加える工程である。前記蓄積疲労が、収容体12における複数の測定対象物10a,10b間の加速度差である相対加速度に基づいて算出される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレーション工程と、振動試験装置を用いて複数の物品が収容された収容体に振動を加える加振工程とを具備し、
前記シミュレーション工程は、蓄積疲労に基づき、前記振動試験装置の振動条件をシミュレーションによって導出する工程であり、
前記加振工程は、前記振動試験装置を用いて前記振動条件下で、前記収容体に振動を加える工程であり、
前記蓄積疲労が、前記収容体における複数の測定対象物間の加速度差である相対加速度に基づいて算出される、振動試験方法。
【請求項2】
前記シミュレーション工程よりも前に、複数の物品が収容された収容体を輸送状態にして、前記相対加速度を測定する、予備工程を具備し、
前記シミュレーション工程は、前記振動試験装置による振動の前記蓄積疲労が、前記予備工程で測定された前記相対加速度に基づく前記蓄積疲労と等価となる、前記振動条件を導出する、請求項1に記載の振動試験方法。
【請求項3】
前記シミュレーション工程は、前記振動試験装置による振動の単位時間当たりの前記蓄積疲労から、前記振動試験装置による振動と前記予備工程とで、前記蓄積疲労が等価となる振動時間を計算する、請求項2に記載の振動試験方法。
【請求項4】
前記複数の測定対象物が、前記収容体内で接触可能に収容された物品どうしである、請求項1~3の何れか1項に記載の振動試験方法。
【請求項5】
前記複数の測定対象物が、前記収容体内で前記振動によって最も損傷を受ける物品どうしである、請求項1~4の何れか1項に記載の振動試験方法。
【請求項6】
前記収容体が段ボール箱である、請求項1~5の何れか1項に記載の振動試験方法。
【請求項7】
前記シミュレーションをマルチボディダイナミクスにより行う、請求項1~6の何れか1項に記載の振動試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
商品等の流通過程において、該商品が収容された収容体に振動が加わり、それによって商品が変形又は損傷することがある。斯かる振動を再現して、商品の変形や損傷の有無を評価する振動試験が知られている。
例えば、特許文献1には、実輸送における輸送条件下で、被輸送品に生ずる蓄積疲労を理論蓄積疲労として算出する工程と、振動台を用いた振動試験によって、被輸送品を輸送条件における振動加速度で所定時間振動させ、該被輸送品に生ずる振動加速度から蓄積疲労を実績疲労として算出する工程とを具備し、実績疲労が理論蓄積疲労になるまで、振動台の振動加速度を増大させた前記振動試験を繰り返す、振動試験方法が開示されている。
【0003】
また、輸送過程で輸送品が受ける垂直振動に対し、輸送品における内容品又は包装の耐久性を評価するための試験方法がJISにより定められている(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-181195号公報
【非特許文献1】JIS Z 0200_2013 包装貨物-性能試験方法一般通則
【非特許文献2】JIS Z 0232_2004 包装貨物-振動試験方法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
振動に対する商品や包装体の耐久性を把握する観点から、振動試験は、実際の輸送状況に合った振動を再現できることが要求される。特許文献1並びに非特許文献1及び2の振動試験方法は、振動を発生させる車両等の輸送手段の振動を再現したものであるにも拘らず、該振動試験方法の振動により生じる商品の損傷の程度は、実際の輸送経路で生じる商品の損傷の程度から乖離したものであった。特に、収容体に収容された商品の損傷の程度を従来の振動試験によって再現することが困難であった。また、輸送手段の振動を再現するには、予め実際の輸送手段を用いた輸送状態における振動の挙動を把握する必要があり、簡便に振動試験を行うことが困難であった。
【0006】
したがって本発明は、収容体の輸送過程における振動の再現性と簡便性が高い、振動試験方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、振動試験方法に関する。
一実施形態として、前記振動試験方法は、シミュレーション工程と、振動試験装置を用いて複数の物品が収容された収容体に振動を加える加振工程とを具備することが好ましい。
前記シミュレーション工程は、蓄積疲労に基づき、前記振動試験装置の振動条件をシミュレーションによって導出する工程である。
前記加振工程は、前記振動試験装置を用いて前記振動条件下で、前記収容体に振動を加える工程である。
前記蓄積疲労が、前記収容体における複数の測定対象物間の加速度差である相対加速度に基づいて算出される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の振動試験方法によれば、収容体の輸送過程における振動の再現性が高く、簡便に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明に係る振動試験方法の一実施形態を示す概略説明図である。
図2図2は、本発明に係る収容体の平面図である。
図3図3は、相対加速度の経時変化の一例を示すグラフである。
図4図4は、加振工程における収容体内の物品を説明するための斜視図である。
図5図5は、図1に示す振動試験方法のフロー図である。
図6図6は、本発明に係る振動試験方法の別の実施形態を示す概略説明図である。
図7図7は、実施例の振動試験評価Iにおける加速度の頻出分布のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
本実施形態の振動試験方法は、複数の物品11が収容された収容体12を輸送状態にして相対加速度を測定する予備工程と、シミュレーション工程と、振動試験装置を用いて収容体12に振動を加える加振工程とを具備する(図1参照)。相対加速度の詳細は後述する。
シミュレーション工程では、振動試験装置の振動条件をシミュレーションし、加振工程では、シミュレーション工程で得られた振動条件によって、実物の収容体12を実際に振動させて振動試験を行う。
【0011】
本実施形態の振動試験方法のシミュレーション対象及び加振対象である収容体12は、複数の物品11を収容する収容空間を内部に有する。収容体12としては、段ボール箱、木箱、プラスチック製コンテナ等の輸送状況を反映した梱包資材とすることができる。汎用性の観点から、収容体12として段ボール箱17を用いることが好ましい(図1及び図2参照)。
【0012】
物品11は、振動試験の目的に応じたものとすることできる。例えば、収容体12に収容された状態で輸送(流通)される商品や、開発段階の試作品とすることができる。
本実施形態の収容体12は、段ボール箱17であり、該収容体12に収容される物品11は、洗剤が充填された包装容器16である(図1参照)。この収容体12は、長手方向Xと該長手方向Xに直交する幅方向Yと、鉛直方向に沿う高さ方向Zとを有し(図4参照)、幅方向Yに並んだ3個の包装容器16からなる列が、長手方向Xに沿って4列並んでいる。すなわち本実施形態の収容体12は、12個の包装容器16を収容している。
【0013】
本実施形態の予備工程及びシミュレーション工程それぞれでは、複数の物品11が収容された収容体12について複数の測定対象物10a,10bを設定する。複数の測定対象物10a,10bは、物品11どうしであってもよく、物品11及び収容体12を含んでいてもよく、収容体12のみであってもよい。
測定対象物10a,10bに物品11が含まれる場合、収容体12内の複数の物品11から測定対象物10a,10bを選択する。測定対象物10a,10bを物品11どうしとする場合は、収容体12内の異なる物品11を複数選択し、これを測定対象物10a,10bとする。
測定対象物に収容体12が含まれる場合、収容体12の内壁、すなわち収容体12における物品11と対向する部位から測定対象物10a,10bを選択する。例えば、収容体12の底面から起立する周壁の一部分を測定対象物として選択する。
測定対象物の数は、2個以上とすることができ、3個以上であってもよい。
【0014】
本実施形態の振動試験方法は、シミュレーション工程よりも前に、予備工程を具備する。予備工程では、収容体12における複数の測定対象物10a,10b間の加速度を測定し、さらにこれらの加速度差である相対加速度を測定する。振動による損傷の再現性をより向上させる観点から、相対加速度を算出するための複数の測定対象物10a,10b間の加速度は、鉛直方向の加速度であることが好ましい。
本実施形態の振動試験方法では、第1加速度センサーA1で測定される鉛直方向の加速度(G1)と、第2加速度センサーA2で測定される鉛直方向の加速度(G2)との差(G1―G2)を、相対加速度とする。斯かる収容体12における複数の測定対象物10a,10b間の相対加速度を、以下、単に「相対加速度」ともいう。
【0015】
予備工程は、輸送状態における複数の測定対象物10a,10b間の加速度を測定し、さらにこれらの加速度差である相対加速度を測定する。この予備工程では、収容体12が輸送されている間の相対加速度の経時変化を測定する。すなわち、車両等の輸送手段18によって輸送される収容体12内の測定対象物10a,10bどうし間の加速度差(相対加速度)を連続して測定する(図1参照)。
予備工程で測定する相対加速度の経時変化は、輸送経路の出発地から目的地までの全区間を測定してもよく、該輸送経路の一部区間のみ測定してもよい。後者の場合、前記一部区間の相対加速度の経時変化から、輸送経路の全区間における相対加速度の経時変化を予測し、その予測値を、予備工程で求められる相対加速度の経時変化としてもよい。
【0016】
予備工程において収容体12を輸送する輸送手段18は特に限定されず、車両や鉄道等の陸上輸送、船舶等を用いた海上輸送、及び航空機やドローン等を用いた飛行輸送の何れか一方又はこれら輸送の組み合わせとすることができる。
本実施形態の予備工程における輸送状態は、陸上輸送した状態を採用する。
【0017】
本実施形態の予備工程は、輸送手段18の荷台に載せた複数の収容体12のうち1個の収容体12について、該収容体12内の包装容器16aに第1加速度センサーA1を取り付け、該収容体12内の別の包装容器16bに第2加速度センサーA2を取り付けて、これらの相対加速度を測定する(図2参照)。
本実施形態の予備工程では、輸送状態においてこれら加速度センサーA1,A2が、有線又は無線で、加速度のデータ及び相対加速度のデータの一方又は双方をレコーダー(図示せず)に出力し記録する。このように本実施形態の予備工程では、輸送時間中の相対加速度を連続して測定することで、輸送時間中の相対加速度の経時変化のグラフを取得することができる(図1参照)。
【0018】
本実施形態の予備工程では、収容体12内の2個の包装容器16a,16bを測定対象物10a,10bとする(図1及び図2参照)。加速度センサーA1,A2は、加速度を連続して測定可能なものを特に制限なく用いることができる。これら加速度センサーA1,A2は、加速度として、XYZ軸(水平方向及び鉛直方向)の3方向の加速度が測定される。
本実施形態においてこれら加速度センサーA1,A2を、以下、「第1加速度センサーA1」及び「第2加速度センサーA2」ともいう。第1加速度センサーA1は、1個の包装容器16aに取り付けられ、第2加速度センサーA2は、第1加速度センサーA1が取り付けられた包装容器16aとは別の包装容器16bに取り付けられる。
【0019】
予備工程は、異なる輸送条件で行い、各輸送条件に対応する相対加速度等の情報を対応情報として蓄積することが好ましい。この対応情報としては、測定対象物10a,10bの情報、測定対象物10a,10bの相対加速度、該相対加速度に基づく蓄積疲労、パワースペクトル密度等のプロファイル情報、輸送経路の情報等が挙げられる。輸送経路の情報には、出発地、目的地、走行距離、車両の種類、荷台における積載位置、路面状態等の情報が含まれる。
本実施形態の振動試験方法では、対応情報を後述するシミュレーション装置19に記憶させる。また、対応情報のうちプロファイル情報を後述する相対加速度条件として蓄積する。これにより、後述する加振工程の振動によって生じた損傷の程度及び数と、輸送条件とを関連付けた解析が可能となる。
【0020】
予備工程の後に行われるシミュレーション工程は、加振工程の加振対象となる収容体12をモデリングして、目標とする蓄積疲労に基づき、振動試験装置30の振動条件をシミュレーションによって導出する工程である。本実施形態のシミュレーション工程は、予備工程において測定された相対加速度に基づく蓄積疲労と等価となる振動条件を導出する。斯かる導出の詳細は後述する。
シミュレーション工程は、シミュレーション装置19により実行される(図1参照)。シミュレーション装置19には、公知の解析ソフトウェアがインストールされており、該シミュレーションソフトウェアを用いて、収容体12における振動の挙動をシミュレーション可能になされている。
【0021】
振動による損傷の再現性をより確実に得る観点から、シミュレーション工程では、加振工程において加振対象となる収容体12及びこれに収容される物品の質量、硬さ、反発係数又はダンピング係数、振動周波数等をモデリングする。収容体12の内部空間における物品11の収容状態をより再現する観点から、物品11及び収容体12の3次元データを用いてモデリングすることが好ましい。3次元データは、3次元CAD(Computer-Aided Design)により作成できる。本実施形態のシミュレーション工程は、モデリングされた収容体12における異なる2個の包装容器16a,16bを測定対象物とする。
振動による損傷の再現性をより確実に得る観点から、収容体12における測定対象物10a,10bは、予備工程及びシミュレーション工程で共通させることが好ましい。すなわちシミュレーション工程では、モデリングした収容体12に関し、予備工程で加速度センサーA1,A2を取り付けた測定対象物と同じものを測定対象物として選定することが好ましい(図2参照)。なお、図1図2及び図4では、加速度センサーA1,A2が図示されているが、シミュレーション工程で行われるモデリングやシミュレーションから当該センサーは除外される。
【0022】
シミュレーション工程は、加振工程で用いられる振動試験装置30の振動台35の挙動をシミュレーションする。振動台35の挙動は、振動試験装置30の設定条件(波形、周波数)を異ならせたときの振動台35の動きを示す要素であり、振動台35の移動方向(加速度方向)や移動量(加速度)である。上記の再現性をより確実に得る観点から、シミュレーション工程は、予備工程で測定された加速度の方向と同じ方向での、振動台35の動きをシミュレートすることが好ましく。振動台35の鉛直方向の動き(位相)をシミュレートすることがより好ましい。斯かるシミュレーションに当たり、振動台35のモデリングに必要な情報(振動台35の質量、硬さ、反発係数又はダンピング係数、振動周波数等)は、予めシミュレーション装置19に入力される。これにより、振動台35がモデリングされる。
【0023】
シミュレーション工程は、異なる設定条件の振動試験装置30によって収容体12を振動させたときの測定対象物10a,10bの相対加速度を連続的に計算する。すなわち、モデリングした収容体12に対し、異なる設定条件で加振した場合の前記相対加速度の経時変化のグラフを取得することができる(図1参照)。これにより、加振工程で用いられる振動試験装置30によって収容体12に振動を加えた場合の測定対象物10a,10bの相対加速度の経時変化をシミュレートすることができる。
【0024】
シミュレーション工程の振動条件の導出について詳述する。この導出は、所望の蓄積疲労に基づき行われる。本実施形態では、シミュレーションにより計算された相対加速度の経時変化に基づく蓄積疲労と等価となる振動条件を導出する。蓄積疲労は、S―N曲線に基づくものであり、下記式(1)により求められる。
【0025】
【数1】
【0026】
前記式(1)において「β」は「蓄積疲労」であり、相対加速度の経時変化を示すグラフ(波形)から算出される。当該グラフは、ゼロの軸を中心に相対加速度が正のピークと負のピークとを繰り返す波形となる。前記式(1)において、この波形における各ピークが「i」、各ピークの相対加速度が「G1―G2」である。また前記式(1)において「α」は「加速係数」である。すなわち前記式(1)により算出される蓄積疲労(β)は、当該波形における正又は負のピーク毎に得られる相対加速度の絶対値を加速係数分(α回)累乗した値(|gα)どうしの総和である。
図3に示すグラフを例にすると、12回の振動(周波数)における各ピーク値の絶対値をα乗した値の総和(|gα+|gα+|gα+・・・・+|g11α+|g12α)が、相対加速度の蓄積疲労となる。
【0027】
前記「α」は、測定対象物10a,10bのS―N曲線の傾きであり、該測定対象物固有の値である。「α」の値が大きいほど、加速度に対する損傷の感度が高い。
複数の測定対象物10a,10b間で材質が異なっている場合、例えば収容体12及び物品11(本実施形態では包装容器16)を測定対象物とする場合、「α」は、振動による損傷の評価対象となっている方の測定対象物固有の値とする。
【0028】
シミュレーション工程は、ある蓄積疲労を目標値とし、振動試験装置30によって収容体12を振動させたときの蓄積疲労が、目標値と等価となる振動条件を導出する。本実施形態のシミュレーション工程は、予備工程にて測定された測定対象物10a,10b間の相対加速度に基づく蓄積疲労を目標値とする。目標値とする蓄積疲労を、以下、「目標蓄積疲労」ともいう。すなわち本実施形態では、予備工程で測定された蓄積疲労を目標蓄積疲労とし、振動試験装置30による振動の蓄積疲労が、該目標蓄積疲労と等価となる振動条件をシミュレーション工程により導出する。
【0029】
本実施形態のシミュレーション工程は、振動試験装置30を用いて収容体12をある周波数及び加速度で振動させたときをシミュレートし、単位時間当たりの測定対象物10a,10b間の相対加速度と、単位時間当たりの該相対加速度に基づく蓄積疲労を計算する。すなわち、振動試験装置30による振動の単位時間当たりの蓄積疲労を計算する。そして、この単位時間当たりの蓄積疲労から、前記の周波数及び加速度の条件で振動試験装置30を稼動した場合の、測定対象物10a,10bに加えられる目標蓄積疲労と等価となる振動時間を計算する。このようにして本実施形態のシミュレーション工程は、目標蓄積疲労と同等の負荷を測定対象物10a,10bに加え得る振動条件(周波数、加速度、及び振動時間)を導出する。
【0030】
シミュレーション工程は、振動試験装置30について、振動の周波数、振動時間、加速度及び該加速度の波形の1以上を振動条件として設定してもよいが、振動の周波数及び加速度の範囲の組み合わせを人為的に決定した上で、単位時間当たりの測定対象物10a,10b間の相対加速度と、単位時間当たりの該相対加速度に基づく蓄積疲労を計算し、振動条件を導出することが好ましい。前記の振動の周波数及び加速度の範囲の組み合わせは、例えば操作者の操作に応じてシミュレーション装置19に入力される。この操作では、操作者は、シミュレートされる振動試験装置30について、正弦波等の波形に設定できるとともに、周波数及び加速度の範囲を設定できる。
【0031】
振動による収容体12内の測定対象物10a,10について動的解析をより効率的に行う観点から、シミュレーション工程のシミュレーションは、マルチボディダイナミクス(multibody dynamics)により行うことが好ましい。マルチボディダイナミクスは、互いに作用し合う複数の要素(測定対象物10a,10b等)からなる系における該要素を動的に解析する解析手法であり、例えば要素が運動する自由度(拘束条件)、要素の質量、慣性モーメント及び重心位置等が適宜設定される。マルチボディダイナミクスによるシミュレーションは、Altair株式会社製 Hyper WorksのMotionSolve等の市販の解析ソフトウェアを用いることができる。
本実施形態のシミュレーション工程では、マルチボディダイナミクスによって、図1図2及び図4に示す収容体12における測定対象物10a,10bすなわち包装容器16a,16bのxyz座標上の変位を解析する。
【0032】
本実施形態のシミュレーション工程では、操作者がシミュレーション装置19にマルチボディダイナミクスによるシミュレーションに必要な情報を入力して、該シミュレーションを行う。本実施形態のシミュレーション工程では、シミュレーションに必要な情報として、収容体12及びこれに収容された物品11の3次元形状、質量、硬さ、反発係数又はダンピング係数、振動周波数等をシミュレーション装置19に入力する。
また本実施形態のシミュレーション工程では、前記のシミュレーションに必要な情報を読み込み、シミュレーション結果を出力する。このシミュレーション結果として、測定対象物10a,10bの相対加速度の経時変化とともに、測定対象物10a,10bを含む収容体12及び物品11の運動(変位、速度、加速度、姿勢、角速度)の経時変化、収容体12又は物品11が振動により受ける荷重、トルク等が出力される。前記運動の経時変化は、該運動に関する収容体12及び物品11の変位、速度、加速度、姿勢及び角速度の変化や、収容体12又は物品11が振動により受ける荷重、トルクの変化が、数値として出力されてもよいが、振動時間に応じた収容体12内部のシミュレーション画像(図1参照)を経時的に連続させた動画であってもよい。
【0033】
加振工程は、振動試験装置30を用いて、シミュレーション工程が導出した振動条件下で、収容体12に振動を加える工程である。
本実施形態の加振工程は、振動試験装置30を前記の振動条件に設定し、収容体12を加振する工程である。加振工程では、シミュレーション装置19によって導出された振動条件を振動試験装置30の制御装置に送信するか、又は振動試験装置30の設定を手動で該振動条件に設定する。そして、当該振動条件で振動試験装置30を稼働し、振動台35に載置した収容体12に振動加える。これにより、目標蓄積疲労と等価となる蓄積疲労で、測定対象物10a,10bに振動を加えることができる。
【0034】
本実施形態の加振工程で用いられる振動試験装置30は、加振対象物を載せる振動台35と、該振動台35を振動させる振動発生部31とを具備する(図1参照)。振動試験装置30は、機械型、動電型、油圧型等の公知の振動試験装置を用いることができる。
【0035】
前述したシミュレーション装置19は、CPU、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ、カメラ、表示部、ユーザーが入力操作を行う入力装置等を含んで構成される。CPUは、画像表示のためのグラフィックスプロセッサ(Graphics Processing Unit(GPU))、High-Definition(HD)ビデオ等のエンコーディング及びデコーディングを行うマルチメディアプロセッサ、ディスプレイを制御するディスプレイコントローラ、及び給電及び充電を制御するためのパワーマネジメントIntegrated Circuit(IC)等を含んでもよい。シミュレーション装置19が備える表示部は、表示と操作の機能を兼ねたタッチパネル等を用いてもよい。入力装置としては、タッチパネルやキーボード、キーパッド、タッチパッド、マウス、マイクロフォン等が挙げられる。
シミュレーション装置19の操作者は、入力装置を用いて該シミュレーション装置19の操作を行う。シミュレーション装置19が行う処理は、CPUがROMやディスクなどに格納されたプログラムをRAMに展開して実行することにより実現される。前記処理は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)により実現されてもよく、ASICとFPGAの組み合わせにより実現されてもよい。
【0036】
また、振動試験装置30の稼動を制御装置によって制御する場合、当該制御装置は、シミュレーション装置19と同じ構成とすることができる。この場合、シミュレーション装置19及び制御装置は、ネットワークを介して接続されており、振動条件等のデータの送受信を互いに行っている。
ネットワークとは、電気通信技術を利用した情報通信網全般を意味し、LANなどの無線又は有線LAN(Local Area Network)やインターネット網のほか、電話通信回線網、光ファイバ通信ネットワーク、ケーブル通信ネットワーク及び衛星通信ネットワークなどを含む。
【0037】
本実施形態の加振工程では、予備工程で測定された相対加速度に基づく蓄積疲労(目標蓄積疲労)と等価となるように、収容体12に振動を加える。換言すると、振動台35に載置した収容体12を振動させ、該加振工程における相対加速度に基づく蓄積疲労(以下、「試験時蓄積疲労」ともいう。)が、目標蓄積疲労と等価になる振動条件で、振動試験装置30を稼働する。試験時蓄積疲労は、加振工程の加振対象である収容体12において、シミュレーション工程の複数の測定対象物10a,10bに対応するもの(以下、「被検対応物」ともいう。)どうしの相対加速度に基づく蓄積疲労である。S―N曲線に基づくと、理論的には、振動の条件(振動の挙動)が異なっていても、蓄積疲労が等価であれば、同じ程度の損傷が生じる。斯かる理論に基づくと、シミュレーション工程で計算した目標蓄積疲労と等価となる振動条件で、収容体12を振動させれば、試験時蓄積疲労を目標蓄積疲労と等価にすることができる。すなわち加振工程では、目標蓄積疲労と同等の負荷を、収容体12における複数の測定対象物10a,10bに対応する物品に加えることができる。また、前記の理論に基づくと、試験時蓄積疲労をリアルタイムで測定することを要しない。このように本実施形態の加振工程は、振動条件の設定のみで、ごく簡便に振動試験を行うことができる。
【0038】
本実施形態の振動試験方法は、上述したように、収容体12における蓄積疲労に基づいて収容体12に振動を加える。この蓄積疲労は、収容体12内の一部や物品11等の測定対象物10a,10b間の変位差が反映された相対加速度に基づくものであり、振動によって収容体12内で起こり得る収容体12と物品11との衝突又は物品11どうしの衝突(図4参照)が反映された指標であるので、高い再現性で収容体12内の振動による損傷を再現できる。一方、従来の振動試験方法は、振動の発生源(例えば輸送手段の荷台等)の振動の挙動を再現対象とするため、収容体12内で生じる振動の挙動が反映され難く、実際の振動で生じ得る損傷の再現性が低い。前記蓄積疲労に基づく加振工程の再現性の具体的な効果は、後述する実施例にて示す。
また、従来の振動試験方法では、測定対象物それぞれの位相のずれがばらつくことで、周波数による損傷のばらつきが生じるものであった。斯かる点に対し、本実施形態の加振工程では、蓄積疲労を相対加速度に基づくものにすることで、測定対象物間の位相のずれのばらつきを低減できるので、周波数の影響を抑えることができる。
さらに目標蓄積疲労を目標値にすることで、収容体12に加える振動の周波数や振動時間を容易に設定できる。これにより、前記振動の周波数を特定の範囲に絞り易くなり、且つ振動時間を短時間とすることでき、効率的に振動試験を行うことができる。
【0039】
加振工程後、加振対象の収容体12は、予備工程及びシミュレーション工程の測定対象物10a,10bに対応する被検対応物に、目標蓄積疲労と同等の負荷が加えられたことになる。この被検対応物の損傷の有無及び損傷の程度を確認することで、収容体12内で生じた振動による損傷を再現することができる。本実施形態の振動試験方法では、予備工程で測定された蓄積疲労が目標蓄積疲労となっているので、輸送状態下の振動による損傷を高い再現性で再現できる。
【0040】
本実施形態の振動試験方法は、シミュレーション工程を実行することで、試験時蓄積疲労が目標蓄積疲労と等価となるための振動試験装置30の振動条件、すなわち目標蓄積疲労に対応する振動条件を求めることができる。
振動試験をより容易に実行する観点から、本実施形態の振動試験方法は、振動条件を繰り返し利用して加振工程と同じ工程を行う、繰り返し工程を具備することが好ましい。繰り返し工程では、シミュレーション工程で導出した振動条件で且つ振動試験装置30を用いて、別の収容体12に振動を加える。この場合、繰り返し工程で用いられる収容体12の収容状態は、前記の加振工程と同じ条件にする。繰り返し工程では、加振工程と同じ振動条件で加振するので、シミュレーション工程を繰り返し実行しなくとも、目標蓄積疲労と同等の負荷を、収容体12の測定対象物10a,10bに対応する被検対応物に加えることができる。すなわち、別のサンプル(収容体12)で振動試験を行う場合、加振工程のみ行えばよい。これにより、振動試験をより効率的且つ簡便に行うことができ、特に物品11に使用される包装材の比較耐久試験をより容易に行うことができる。
【0041】
本実施形態の振動試験方法において、収容体12における複数の測定対象物10a,10bは、該収容体12内で離間した状態で配されていてもよく、隣り合って配されていてもよい。振動による、収容体12と物品11との衝突又は物品11どうしの衝突の再現性をより向上させる観点から、複数の測定対象物10a,10bは、収容体12内で接触可能に収容された物品11どうしであることが好ましい。この場合、測定対象物10a,10bは、例えば収容体12内で、長手方向X又は幅方向Yに隣り合った包装容器16a,16bどうしであることが挙げられる(図2及び図4参照)。また、複数の測定対象物10a,10bは、緩衝材、仕切り等を介して隣り合ってもよい。
【0042】
振動による損傷の再現性をより向上させる観点から、複数の測定対象物10a,10bは、収容体12内で振動によって最も損傷を受ける物品どうしであることが好ましい。この場合、測定対象物10a,10bは、実際の輸送で積載された収容体12のうち、該収容体12に収容された物品の中で、最も物品の損傷が激しかったものとする。
【0043】
次に、上述した実施形態の振動試験方法のフローを、図5を用いて説明する。
本実施形態の振動試験方法では、シミュレーション工程を実行し、目標蓄積疲労と等価となる振動条件を導出する(ステップS1)。斯かる導出に当たり、操作者の操作に応じて、振動台35並びに収容体12及び物品11の質量、硬さ、反発係数又はダンピング係数等のシミュレーションに必要な情報がシミュレーション装置19に入力される。ステップS1では、モデリングされた収容体12を振動台35(振動試験装置30)で振動させるシミュレーションを行い、該収容体12における測定対象物10a,10bについて、単位時間当たりの相対加速度とこれに基づく蓄積疲労を計算する。そして、目標蓄積疲労と等価となる、振動台35(振動試験装置30)の振動条件を導出する。振動条件には、周波数、加速度、及び振動時間の条件が含まれる。本実施形態のステップS1では、モデリングした収容体12を振動させるシミュレーションをマルチボディダイナミクスにより実行する。
【0044】
続くステップS2では、ステップS1で得られた振動条件を、振動試験装置30に設定する。ステップS2は、操作者の操作に応じて行われてもよい。
【0045】
続くステップS3が、上述した加振工程に相当する。ステップS3では、収容体12を振動試験装置30の振動台35に載置し、ステップS3で設定した振動条件で、該収容体12に振動を加える。ステップS3では、振動条件に設定した振動試験装置30を稼動させる。斯かる振動条件を満たすことで、試験時蓄積疲労が、目標蓄積疲労と等価となる。
振動試験装置30の稼動が振動条件を満たすと、続くステップS4に進み、振動試験装置30による加振を終了する。
【0046】
続くステップS5において、繰り返し工程を行うか否かを判定する。ステップS5において、繰り返し工程を行うと判定された場合、ステップS3に戻り、該ステップS3以降の動作を繰り返す。この場合、ステップS3の振動試験装置30の振動台35には、別の収容体12が載置される。ステップS5において、繰り返し工程を行わないと判定された場合、振動試験装置30の電源を停止させ、本振動試験を終了する。本実施形態のステップS5では、振動試験装置30の制御装置又は該振動試験装置30とネットワークを介して接続されたシミュレーション装置19の表示部に、繰り返し工程を行うか否かを操作者に決定させる表示が出力される。操作者は、当該表示に対し、制御装置又はシミュレーション装置19の入力装置を操作して、繰り返し工程を行うか否かを決定する。
【0047】
上記のステップS1~S5を経た後、加振工程により振動が加えられた収容体12について、測定対象物10a,10bに対応する被検対応物の損傷の有無及び該損傷の程度を確認する。斯かる確認は、目視により行われる。例えば、測定対象物10a,10bに対応する包装容器16の外観を目視し、ラベルの剥がれや該包装容器16の亀裂の有無を確認する。
このようにして、本実施形態の振動試験方法は、収容体12の輸送過程における振動による損傷を再現することができる。
【0048】
本発明の振動試験方法は、図1図5に示す実施形態に限定されず、別の実施形態であってもよい。以下に、本発明に係る振動試験方法の別の実施形態について説明する。以下に示す別の実施形態の説明では、図1図5に示す実施形態と異なる構成部分を主として説明し、同様の構成部分は同一の符号を付して説明を省略する。特に説明しない構成部分は、図1図5に示す実施形態についての説明が適宜適用される
【0049】
図6に示す振動試験方法は、シミュレーション工程が、輸送状態における複数の測定対象物(図6において図示せず)間の相対加速度とこれに基づく蓄積疲労を計算する第1シミュレーション工程と、振動条件を導出する第2シミュレーション工程とを具備する。
本実施形態のシミュレーション工程は、シミュレーション装置19により実行される。また、第2シミュレーション工程は、上述した実施形態のシミュレーション工程に相当する。
【0050】
第1シミュレーション工程は、目標蓄積疲労をシミュレーションによって計算する工程である。本工程では、図1~5に示す実施形態と同様に、収容体12をモデリングするとともに、該収容体12を輸送する車両18等の輸送手段や輸送経路をモデリングして、輸送状態の収容体12における複数の測定対象物に加えられる振動をシミュレートする。第1シミュレーション工程は、公知のシミュレーションソフトウェアを用いて行われる。
輸送手段は、輸送手段の種類、体積、重量、速度、動力発生器(エンジン)の種類及び出力等の情報をシミュレーション装置19に入力することでモデリングされる。輸送経路は、走行距離、路面情報等の情報をシミュレーション装置19に入力することでモデリングされる。
【0051】
第1シミュレーション工程は、モデリングした収容体12、輸送手段及び輸送経路に基づき、収容体12における複数の測定対象物間に生じる相対加速度を計算し、さらに該相対加速度に基づく蓄積疲労を計算する。これにより、実際の輸送状態における振動の条件と同じ又はこれに近似した条件下で生じ得る目標蓄積疲労を取得することができる。すなわち、実際の輸送試験を予め行わなくとも、輸送状態における振動の条件と同じ又は近似した条件の目標蓄積疲労が得られるので、振動試験を短時間で効率的に行うことができる。
【0052】
第2シミュレーション工程は、第1シミュレーション工程で計算した目標蓄積疲労と等価となる振動条件を導出する。続く加振工程は、前述した実施形態と同様の方法により、振動試験装置30を用いて、収容体12に振動を加える。
本実施形態の振動試験方法は、予備工程に代えて第1シミュレーション工程を行うことで、より簡便に振動試験を行うことができる。斯かる点に加え、本実施形態の振動試験方法は、前述した実施形態と同様の効果が得られる。
【0053】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されない。
例えば、上述した実施形態の収容体12は、複数の包装容器16が収容された段ボール箱17であったが、収容体12は斯かる形態に限定されない。収容体12は、物品11とともに緩衝材が収容されたものであってもよい。
また、上述した実施形態の振動試験方法では、物品11(包装容器16)の外観上の損傷を確認していたが、これに代えて、物品11の内部の損傷を確認するものであってもよい。例えば、物品11が、包装容器の内部に粉末化粧料が充填されたアイシャドウやファンデーション等の固形化粧料である場合、該包装容器の内容物(固形化粧料)の損傷を確認してもよい。
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0055】
〔振動試験評価I〕
実際の振動試験、及び該振動試験のシミュレーションにおける測定対象物の加速度を対比し、シミュレーションによる該加速度の再現性を評価した。
【0056】
〔実施例1〕
図1に示すシミュレーション装置19を用いて、マルチボディダイナミクスによるシミュレーション工程を実施し、振動試験装置30を用いた振動による測定対象物10aの加速度についての再現性を評価した。
先ず、シミュレーション工程で図2に示す収容体12をモデリングした。収容体12は、図2及び図4に示すものをモデリングした。斯かる収容体12は、段ボール箱17であり、図2に示すように、12本のプラスチックボトルからなる包装容器16が収容されたものを設定した。包装容器16の内容量は850mLであった。この包装容器16は、加速係数αは「2」であった。12本の包装容器16及びこれを収容した段ボール箱17それぞれについて、3次元CAD(Computer-Aided Design)を用いて3次元データを作成した。また、後述する参考例1で用いた振動試験装置30の振動台35の3次元データも作成した。3次元データは、12本の包装容器16が収容体12に収容された収容状態のデータである。これらの3次元データ、並びに収容体12及び包装容器16の情報(内容量、加速係数α)をモデリングの条件として、シミュレーション装置19に入力した。
【0057】
モデリングした収容体12について、1個の測定対象物10aを設定した。測定対象物10aは、図2に示すように、幅方向Yに並んだ3個の包装容器16からなる列のうち、長手方向X中央の2本の列の一方であって、幅方向Y中央の包装容器16aとした。
次いで、モデリングした振動台35の上に載置した、モデリングした収容体12を、正弦波〔一定変位、peak to peak値(P-P値)1.4mm〕にて、周波数を20Hz、25Hz、30Hz、及び35Hzに異ならせた各条件で振動させた場合をシミュレートし、測定対象物10aの加速度の頻出分布を求めた。各条件における振動時間は、4秒とした。当該頻出分布のグラフを図7に示す。
【0058】
〔参考例1〕
図2と同じ構成の収容体12を実物で用意し、該収容体12を加振する振動試験を行った。当該収容体12において、シミュレーション工程の測定対象物10aに対応する被検対応物に、加速度センサーA1を取り付けた。加速度センサーA1は、被検対応物である包装容器16aの天面部(キャップの天面部)に取り付けた。次いで、振動試験装置30の振動台35に載置した状態で、振動試験装置30をシミュレーション工程と同様の条件で稼動し、測定対象物10aの加速度の頻出分布を求めた。各条件における振動時間は、シミュレーション工程と同じとした。
図7に、実施例1のシミュレーション工程で得られた測定対象物10aの加速度の頻出頻度と、参考例1の加速度センサーA1によって測定された被検対応物の加速度の頻出頻度を示す。後者の参考例1は、加速度の頻出頻度の実測値となる。
【0059】
振動試験装置30は、振動試験機(アイデックス株式会社製、機種「BF-50UT」)を用いた。
シミュレーション工程は、Altair株式会社製 Hyper WorksのMotionSolveの解析ソフトを用いて行った。
加速度センサーは、8チャンネル小型無線モーションレコーダー(マイクロストーン株式会社製、機種「MVP-RF8-HC」)を用いた。
本振動試験評価Iの振動試験では、加速度センサーの測定値として、鉛直方向の加速度を採用した。
【0060】
〔振動試験評価II〕
複数の測定対象物の相対加速度に基づく蓄積疲労に関し、シミュレーション工程で得られた振動条件で実際に振動試験装置を稼働した試験を行い、被検対応物に生じた損傷の再現性を評価した。
【0061】
〔実施例2〕
実施例1と同様に、図2に示す収容体12をモデリングして、幅方向Yに並んだ3個の包装容器16からなる列のうち、長手方向X中央の2本の列の一方であって、幅方向Y中央の包装容器16aと、幅方向Yにおいて該包装容器16a及び収容体12の周壁と隣り合う包装容器16bとを測定対象物10a,10bに設定した。また実施例1と同様に振動台35をモデリングした。次いで、モデリングした振動台35の上に載置したモデリングした収容体12についてシミュレーション工程を実行した。このシミュレーション工程では、振動試験装置30によって下記表1の条件で振動させたときの、測定対象物10a,10bの相対加速度に基づく蓄積疲労を単位時間当たりの値で計算し、さらに蓄積疲労が3,000,000(G^2)となる振動時間(振動条件)を導出した。すなわち、目標蓄積疲労を3,000,000(G^2)とした。シミュレーション工程では、複数の測定対象物10a,10b間の鉛直方向の加速度差を相対加速度とした。
【0062】
〔比較例1〕
複数の包装容器16a,16bの相対加速度に基づく蓄積疲労に代えて、収容体12内の1個の包装容器16aの加速度に基づく蓄積疲労を採用し、該蓄積疲労が3,000,000(G^2)となる振動時間を導出した。斯かる点以外は、実施例2と同様のシミュレーション工程を行った。振動時間は、下記表1に示す条件ごとに導出した。前記の加速度として、鉛直方向の加速度を採用した。
【0063】
下記表1に示す波形及び周波数ごとに、実施例2及び比較例1で導出した振動時間で、実際に振動試験を行った。
斯かる振動試験は、前述の加振工程に相当する。前記のモデリングした収容体12(段ボール箱17及び包装容器)と同じ構成のものを実物で用意し、振動試験評価Iと同じ振動試験装置30を用いて振動試験を行った。
振動試験後、収容体12内の被検対応物(包装容器)に発生した損傷を目視で確認し、該損傷の数をカウントした。包装容器に発生した損傷は、包装容器の外面を被覆するラベルの穴あきであった。比較例1において損傷を確認した包装容器は、実施例2の測定対象物10a,10bと同じ配置の包装容器とする。
下記表1に、包装容器に発生した損傷の数を示す。
【0064】
〔参考例2〕
参考例2として、実施例2と同様の構成の収容体12を実際に陸上輸送した輸送試験を行った。輸送試験では、実施例2に対応する2個の包装容器16a,16bの相対加速度に基づく蓄積疲労が3,000,000(G^2)であり、比較例1に対応する1個の包装容器16aの加速度に基づく蓄積疲労が3,000,000(G^2)であった。これらの蓄積疲労は、加速度センサーを、包装容器16a,16bの天面部(キャップの天面部)に取り付けて測定した相対加速度又は加速度に基づくものである。加速度センサーは、振動試験評価Iと同じものを用いた。
【0065】
【表1】
【0066】
図7に示すグラフから明らかなように、マルチボディダイナミクスによるシミュレーションで出力された測定対象物10aの加速度の頻度は、加速度センサーで測定した測定対象物10aの加速度の頻度と近似するものであった。この結果から、マルチボディダイナミクスによるシミュレーションによって、実際の振動試験による振動(加速度)を再現可能であることが示された。
【0067】
前述したS―N曲線に基づくと、理論的には、振動試験で測定対象物に加えた蓄積疲労が、輸送状態の蓄積疲労と等価になることで、該輸送状態の振動による損傷を再現できる。また、理論的には、蓄積疲労が等価であれば、異なる振動の条件どうし間で生じた損傷の数は同程度となり、各振動の条件間で損傷の数にばらつきが生じ難いことになる。
しかしながら、振動試験評価IIにおける比較例1の振動試験では、振動の条件によって、損傷の数が大きくばらつく結果となった(表1)。斯かる結果より、蓄積疲労を収容体12内の包装容器16の加速度に基づくものにすると、収容体12内の振動による損傷の再現性が低いことが示された。
一方、表1の結果から明らかなように、実施例2の振動試験では、比較例1に比して、振動の条件を表1のように異ならせても損傷の数にばらつきが少ない結果となった。また実施例2の振動試験では、比較例1に比べて、損傷の数が実際の輸送試験である参考例2に近い値となった。
すなわち、蓄積疲労を複数の測定対象物(包装容器16a,16b)の相対加速度に基づくものにすると、収容体12内の振動による損傷を高い再現性で再現できることが示された。
したがって本発明の振動試験方法は、収容体12の輸送過程における振動の再現性が高く、該振動試験を簡便に実行できることが示された。
【符号の説明】
【0068】
10a,10b 測定対象物
11 物品
12 収容体
16a,16b 包装容器
17 段ボール箱
18 輸送手段
19 シミュレーション装置
30 振動試験装置
31 振動発生部
35 振動台
A1,A2 加速度センサー
X 長手方向
Y 幅方向
Z 高さ方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-03-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレーション工程と、振動試験装置を用いて複数の物品が収容された収容体に振動を加える加振工程とを具備し、
前記シミュレーション工程は、蓄積疲労に基づき、前記振動試験装置の振動条件をシミュレーションによって導出する工程であり、
前記加振工程は、前記振動試験装置を用いて前記振動条件下で、前記収容体に振動を加える工程であり、
前記蓄積疲労が、前記収容体における複数の測定対象物間の加速度差である相対加速度に基づいて算出される、振動試験方法。
【請求項2】
前記シミュレーション工程よりも前に、複数の物品が収容された収容体を輸送状態にして、前記相対加速度を測定する、予備工程を具備し、
前記シミュレーション工程は、前記振動試験装置による振動の前記蓄積疲労が、前記予備工程で測定された前記相対加速度に基づく前記蓄積疲労と等価となる、前記振動条件を導出する、請求項1に記載の振動試験方法。
【請求項3】
前記シミュレーション工程は、前記振動試験装置による振動の単位時間当たりの前記蓄積疲労から、前記振動試験装置による振動と前記予備工程とで、前記蓄積疲労が等価となる振動時間を計算する、請求項2に記載の振動試験方法。
【請求項4】
前記複数の測定対象物が、前記収容体内で接触可能に収容された物品どうしである、請求項1~3の何れか1項に記載の振動試験方法。
【請求項5】
前記複数の測定対象物が、前記収容体内で前記振動によって最も損傷を受ける物品どうしである、請求項1~の何れか1項に記載の振動試験方法。
【請求項6】
前記収容体が段ボール箱である、請求項1~の何れか1項に記載の振動試験方法。
【請求項7】
前記シミュレーションをマルチボディダイナミクスにより行う、請求項1~の何れか1項に記載の振動試験方法。