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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093429
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】核酸のライブラリー調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20240702BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20240702BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240702BHJP
   C40B 40/06 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12Q1/6806
C12Q1/686 Z
C40B40/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209803
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 優衣
(72)【発明者】
【氏名】桑野 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】上原 裕也
(72)【発明者】
【氏名】長森 夏海
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】核酸のライブラリーを調製する方法の提供。
【解決手段】ライブラリー調製方法であって、同一サンプルRNAから逆転写及びPCRにより得られるPCR産物を複数準備すること、及び該複数のPCR産物を混合してPCR産物のプールを調製すること、を含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライブラリー調製方法であって、
同一サンプルRNAから逆転写及びPCRにより得られるPCR産物を複数準備すること、及び
該複数のPCR産物を混合してPCR産物のプールを調製すること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記サンプルRNAの濃度が、前記逆転写に供するRNA濃度として、100pg/μL以下である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記サンプルRNAが、分解が進行したRNAである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記PCRがマルチプレックスPCRである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の方法により調製されたライブラリーにおける遺伝子発現を検出することを含む、前記サンプルRNAが由来する試料の遺伝子発現を検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸のライブラリー調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチプレックスPCRは、複数のプライマー対を同時に使用したPCR反応により、1つのDNAサンプルから複数の領域を同時に増幅する方法である。RNAからcDNAへの逆転写(RT)反応をマルチプレックスPCRと組み合わせたマルチプレックスRT-PCRは、遺伝子発現解析やジェノタイピングなどのためのライブラリー調製に利用されている。遺伝子発現解析においては、試料中の特定のRNAの濃度及び/又は相対的もしくは絶対的な量が決定され、特定のRNAが定量化(定量)される。この場合には、精度が高く、再現性がある方法が望まれる。
【0003】
しかしながら、微量なRNAを用いた核酸増幅反応では、プライマーダイマーの形成や非特異的な増幅が生じ、PCR反応効率に偏りが生じやすい(PCRバイアス)。特に、複数の領域を同時に増幅するマルチプレックスPCRにおいて、感度や特異度、増幅の優先性にも影響を及ぼす為、上述するPCRバイアスが原因となり、シーケンス解析をはじめとする種々のダウンストリーム解析の精度、及び再現性が低減する場合がある(非特許文献1-3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】BioMed Research International, Volume 2021, Article ID 6647597, 11 pages (2021)
【非特許文献2】Journal of Clinical Laboratory Analysis 16:47-51 (2002)
【非特許文献3】The Journal of Molecular Diagnostics, vol. 7, no. 1, pp. 36-39 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、核酸のライブラリー調製方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、PCRを利用する核酸のライブラリー調製において、同一RNAサンプルに対して、RT-PCR反応を複数準備し、得られた複数のPCR産物をプールすることで、PCRバイアスを抑制できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の1)及び2)に係るものである。
1)ライブラリー調製方法であって、
同一サンプルRNAから逆転写及びPCRにより得られるPCR産物を複数準備すること、及び
該複数のPCR産物を混合してPCR産物のプールを調製すること、
を含む、方法。
2)1)の方法により調製されたライブラリーにおける遺伝子発現を検出することを含む、前記サンプルRNAが由来する試料の遺伝子発現を検出する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、PCRを利用する核酸のライブラリー調製時のPCRバイアスを抑制することができる。本発明は、微量及び/又は分解が進行したRNAサンプルを用いた各種解析(例えば、遺伝子解析、診断など)の感度と精度の向上に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】20802遺伝子を対象としたLog(RPM+1)値の散布図。上段に実施例1の方法により取得した結果を、下段に実施例2の方法により取得した結果を示す。左:横軸にq=2のライブラリーに基くLog(RPM+1)値、縦軸にプールした個々のテクニカルレプリケート由来のライブラリー(q=1)に基くLog(RPM+1)値の平均値をプロットした散布図。両データを比較し、2倍以上の発現差を認める遺伝子を黒色で表す(|FC|≧2)。中央:横軸にプールした一方のテクニカルレプリケート由来のライブラリー(q=1)に基くLog(RPM+1)値、縦軸にもう一方のテクニカルレプリケート由来のライブラリー(q=1)に基くデータをプロットした散布図。右:横軸にq=2のライブラリーに基くLog(RPM+1)値、縦軸に初発RNA量が10倍高いライブラリーに基くLog2(RPM+1)値をプロットした散布図
図2】RNAのRNase7処理濃度とDV200値の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0011】
本発明は、RNAからのライブラリー調製方法を提供する。本発明の方法は、同一サンプルRNAから逆転写及びPCRにより得られるPCR産物を複数準備すること、及び、該複数のPCR産物を混合してPCR産物のプールを調製すること、を含む。
【0012】
本発明の方法で用いられるサンプルRNAは、いかなる種類のRNAであってもよく、例えば、動物、植物、微生物、ウイルスなどに由来するRNAが挙げられる。該サンプルRNAは、mRNA、tRNA、rRNA、small RNA(例えば、microRNA(miRNA)、small interfering RNA(siRNA)、Piwi-interacting RNA(piRNA)など)、long intergenic non-coding(linc)RNA、などを含み得る。上記に挙げたRNAの1種又は2種以上が該サンプルRNAに含まれ得る。好ましくは、サンプルRNAはtotalRNA又はmRNAである。
【0013】
該サンプルRNAは、動物、植物、微生物、ウイルス、又はこれらを含む可能性のある食品、土壌、糞便などの試料から通常の手段で抽出することができる。例えば、該RNAの抽出には、フェノール/クロロホルム法、AGPC(acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction)法、又はそれらの変法、シリカをコーティングした特殊な磁性体粒子を用いる方法、Solid Phase Reversible Immobilization磁性体粒子を用いる方法、あるいは市販のRNA精製用試薬(例えばTRIzol(登録商標)Reagent、RNeasy(登録商標)、QIAzol(登録商標)、ISOGENなど)、などを用いることができる。
【0014】
本発明の方法に用いられるサンプルRNAは、体内で、又は細胞や組織サンプルの調製及び保存過程で、分解を受けていないRNAであってもよく、ある程度分解が進行したRNAであってもよく、これらの混合物であってもよい。本発明の方法に用いられる分解を受けていないRNAと分解が進行したRNAとは、Agilent TapeStation システム(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いて算出したRNA全体に対する200nt以上のRNA断片の比率(DV200)を用いて定義することができる。例えば、「分解を受けていないRNA」は、DV200が30%より大きい、50%より大きい、80%より大きい、90%より大きい又は95%より大きいなどと定義することができる。反対に「分解が進行したRNA」は、DV200が95%以下、90%以下、80%以下、50%以下又は30%以下などと定義することができる。本発明では、「分解を受けていないRNA」をDV200が90%より大きい、「分解が進行したRNA」をDV200が90%以下と定義するのが好ましい。
本発明の方法は、分解を受けていないRNAに対してだけでなく、分解が進行したRNAに対しても好適に適用することができる。より具体的にはDV200が90%以下の分解が進行したRNAに対して好適に適用することができ、好ましくはDV200が60%以下のRNA、より好ましくはDV200が40%以下のRNAに好適に適用することができる。DV200の下限は特に限定されないが、例えば、5%以上、10%以上、20%以上又は30%以上が挙げられる。
【0015】
サンプルRNAの濃度は、逆転写やPCRの条件に従って適宜決定することができる。例えば、サンプルRNAの濃度は、逆転写に供するRNA濃度として、好ましくは0.1pg/μL以上、より好ましくは0.5pg/μL以上、さらに好ましくは1pg/μL以上である。逆転写に供する初発RNA量としては、好ましくは1.5pg以上、さらに好ましくは15pg以上である。ライブラリー調製に汎用されるIon AmpliSeqTranscriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)の標準プロトコルでは、サンプルの初発RNA量の推奨下限値が100pgであるが、本発明の方法では、サンプルの初発RNA量が100pg以下あるいは100pg未満であっても良好なライブラリー調製が可能である。よって、本発明の方法に用いられるサンプルRNAの濃度の範囲としては、例えば、逆転写に供するRNA濃度として、0.1~100pg/μL、0.5~100pg/μL、1~100pg/μL、1~75pg/μL、1~60pg/μL、0.1pg/μL以上100pg/μL未満、0.5pg/μL以上100pg/μL未満、1pg/μL以上100pg/μL未満、1pg/μL以上75pg/μL未満、1pg以上60pg/μL未満が挙げられる。
【0016】
本発明の核酸のライブラリー調製方法は、微量及び/又は分解が進行したRNAサンプルから核酸ライブラリーを調製し、遺伝子解析や診断などの各種解析を行う際に好適に用いることができる。微量なRNAサンプルに該当する好適な例として、皮膚表上脂質由来RNAを挙げることができる。本明細書において、「皮膚表上脂質(skin surface lipids;SSL)」とは、皮膚の表上に存在する脂溶性画分をいい、皮脂と呼ばれることもある。一般に、SSLは、皮膚にある皮脂腺などの外分泌腺から分泌された分泌物を主に含み、皮膚表面を覆う薄い層の形で皮膚表上に存在している。SSLには、被験体の皮膚細胞に由来するRNAが含まれており、これを用いて生体の解析が可能である(国際公開公報第2018/008319号)。
【0017】
該SSL由来RNAが採取される被験体は、皮膚上にSSLを有する生物であればよい。被験体の例としては、ヒト及び非ヒト哺乳動物を含む哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。例えば、該被験体は、自身の核酸の解析を必要とするか又は希望するヒト又は非ヒト哺乳動物であり得る。あるいは、該被験体は、皮膚における遺伝子発現解析、又は核酸を用いた皮膚もしくは皮膚以外の部位の状態の解析を必要とするか又は希望するヒト又は非ヒト哺乳動物であり得る。
【0018】
SSLからのRNAの抽出には、上述した通常のRNA抽出手段、例えばフェノール/クロロホルム法、AGPC法、及び市販のRNA精製用の試薬、カラムもしくは磁性粒子を用いることができる。
【0019】
本発明において、サンプルRNAの逆転写(RT)は、通常の手順で行うことができる。例えば、該サンプルRNA、プライマー、逆転写酵素、及び基質を含有する反応液をインキュベートして、該サンプルRNAに逆転写酵素を作用させてcDNAを合成すればよい。該プライマーとしては、解析したい特定のRNAを標的としたプライマーを用いてもよいが、より包括的な核酸の保存及び解析のためにはオリゴdTプライマー、ランダムプライマー、又はそれらの混合物を用いることが好ましい。該逆転写酵素としては、一般的な逆転写酵素を使用することができるが、逆転写の正確性及び効率性の高い逆転写酵素(例えばM-MLV Reverse Transcriptase及びその改変体、あるいは後述する市販の逆転写反応用酵素)を使用することが好ましい。該基質は、該逆転写酵素の基質であり、好ましくはデオキシリボヌクレオチド、例えばdATP、dCTP、dGTP、及びdTTP、ならびにそれらの混合物を使用することができる。該デオキシリボヌクレオチドは修飾されていてもよい。本発明において、RTのための酵素及びその他の試薬としては、市販の逆転写反応用酵素及び逆転写試薬キット、例えばPrimeScript(登録商標)Reverse Transcriptaseシリーズ(タカラバイオ社)、SuperScript(登録商標)Reverse Transcriptaseシリーズ(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)などが挙げられ、SuperScript(登録商標)III Reverse Transcriptase、SuperScript(登録商標)VILO cDNA Synthesis kit(いずれもライフテクノロジーズジャパン株式会社)を好ましく用いることができる。RT反応の温度及び時間は、用いる酵素又は試薬の種類、サンプルRNA、合成すべきcDNAなどに応じて適宜設定することができる。例えば、市販の逆転写反応用試薬を用いて、そのマニュアルに従って、反応液を調製し、反応条件を設定すればよい。
【0020】
該RTで合成されたcDNAのPCRは、通常の手順で行うことができる。例えば、cDNA、プライマーペア、DNA合成酵素、及び基質を含有する反応液をPCRにかければよい。該プライマーペアは、標的DNA配列に応じて適宜設計され得る。該DNA合成酵素としては、一般的なDNA合成酵素を使用することができるが、増幅の正確性及び効率性の高いDNA合成酵素(例えば後述する市販のPCR用酵素)を使用することが好ましい。該基質は、該DNA合成酵素の基質であり、好ましくはデオキシリボヌクレオチド、例えばdATP、dCTP、dGTP、及びdTTP、ならびにそれらの混合物を使用することができる。該デオキシリボヌクレオチドは修飾されていてもよい。本発明において、PCRのための酵素及びその他の試薬は、市販のPCR酵素及び試薬、例えば、KOD DNAポリメラーゼ(TOYOBO)、PrimeSTAR(登録商標) DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)、PfuUltra(登録商標) DNAポリメラーゼ(アジレント・テクノロジー株式会社)、Platinum(登録商標) SuperFi II DNAポリメラーゼ(サーモフィッシャーサイエンティフィック)などを用いることができる。PCR反応の温度及び時間は、用いる酵素又は試薬の種類、鋳型cDNAなどに応じて適宜設定することができる。例えば、市販のPCR用試薬を用いて、そのマニュアルに従って、反応液を調製し、反応条件を設定すればよい。
【0021】
該PCRは、より包括的な核酸の解析のためには複数のプライマーペアを用いて1つのサンプルから複数の領域を同時に増幅するマルチプレックスPCR(MPCR)とすることが好ましい。MPCRは、通常の手順で行うことができる。例えば、cDNA、複数のプライマーペア、DNA合成酵素、及び基質を含有する反応液をPCRにかければよい。該プライマーペアは、標的DNA配列に応じて適宜設計され得る。該DNA合成酵素としては、一般的なDNA合成酵素を使用することができるが、増幅の正確性及び効率性の高いDNA合成酵素(例えば後述する市販のマルチプレックスPCR用酵素)を使用することが好ましい。該基質は、該DNA合成酵素の基質であり、好ましくはデオキシリボヌクレオチド、例えばdATP、dCTP、dGTP、及びdTTP、ならびにそれらの混合物を使用することができる。該デオキシリボヌクレオチドは修飾されていてもよい。本発明において、MPCRのための酵素及びその他の試薬としては、市販のマルチプレックスPCR用酵素及び試薬、例えば、Ion AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いることができる。MPCR反応の温度及び時間は、用いる酵素又は試薬の種類、鋳型cDNAなどに応じて適宜設定することができる。例えば、市販のMPCR用試薬を用いて、そのマニュアルに従って、反応液を調製し、反応条件を設定すればよい。
【0022】
本発明の方法において、該RTとPCRは、別々の反応系(2ステップ)で行われることが好ましいが、簡便さの点では1反応系(1ステップ)で行われてもよい。
【0023】
本発明の方法では、同一のサンプルRNAから上記のRTとPCRの手順により得られるPCR産物を複数準備する。この同一のサンプルRNAに由来する複数のPCR産物はテクニカルレプリケートと称され、準備される複数のテクニカルレプリケートの個数をq値で示す。ここで、複数とは、サンプルRNA量に応じて適宜設定することができ、2個以上であればよく、調製されるライブラリーの感度と精度の点から4個以上が好ましく、他方、操作性とコストの点から10個以下が好ましく、8個以下がより好ましい。また、複数の範囲としては、2~10個、2~8個、4~10個、4~8個が挙げられる。
【0024】
各PCR産物は、好ましくは精製される。該産物の精製は、反応産物のサイズ分離によって行われることが好ましい。サイズ分離により、目的のPCR産物を、PCR反応液中に含まれるプライマーやその他の不純物から分離することができる。DNAのサイズ分離は、例えば、サイズ分離カラムや、サイズ分離チップ、サイズ分離に利用可能な磁気ビーズなどによって行うことができる。サイズ分離に利用可能な磁気ビーズの好ましい例としては、Ampure XPなどのSolid Phase Reversible Immobilization(SPRI)磁性ビーズが挙げられる。Ampure XPとDNA溶液を混合すると、DNAは磁性ビーズの表面にコーティングされたカルボキシル基に吸着され、マグネットを用いて磁性ビーズのみを回収することでDNAが精製される。またAmpure XP溶液とDNA溶液の混合比を変化させると磁性ビーズに吸着するDNAの分子サイズが変化する。この原理を利用することで、捕捉したい特定の分子サイズのDNAを磁性ビーズ上に回収し、それ以外の分子サイズのDNAや不純物を精製することが可能である。
【0025】
続いて、本発明の方法では、該複数のPCR産物(テクニカルレプリケート)を混合してPCR産物のプールを調製する。該複数のPCR産物としては、好ましくは精製後のPCR産物が用いられる。複数のテクニカルレプリケートを混合する際の混合比は特に限定されないが、好ましくは等量混合である。ここで、等量混合とは、各PCR産物の溶液量が等量となるように混合することを指す。各PCR産物は、同一のサンプルRNAから同様に準備されるため、各PCR産物の溶液量が等量とは、PCR産物量が等量であることと同義である。混合量は、その後の解析に応じて適宜設定することができる。例えば、その後の解析に必要な溶液量をPCR産物の数で除し、算出された溶液量の各PCR産物を混合してPCR産物のプールを調製し、プールの全量をその後の解析に供してもよいし、各PCR産物を予め等量ずつ混合してPCR産物のプールを調製し、プールから必要量を分取してその後の解析に供してもよい。
【0026】
斯くして調製されたPCR産物のプールは、そのまま核酸のライブラリーとして用いることができる。あるいは、PCR産物のプールに対して、その後の解析を行うために必要なさらなる処理を施してもよい。例えば、DNAのシーケンシングやフラグメント解析のために、PCR産物のプールを、適切なバッファー溶液へと調製したり、PCR増幅されたDNAに含まれるPCRプライマー領域を切断したり、増幅されたDNAにアダプター配列をさらに付加したりしてもよい。例えば、PCR産物のプールをバッファー溶液へと調製し、増幅DNAに対してPCRプライマー配列の除去及びアダプターライゲーションを行い、得られた反応産物を、必要に応じて増幅して、各種解析のためのライブラリーを調製することができる。これらの操作は、例えば、SuperScript(登録商標)VILO cDNA Synthesis kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)に付属している5×VILO RT Reaction Mix、及びIon AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)に付属している5×Ion AmpliSeq HiFi Mix、及びIon AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Core Panelを用いて、各キット付属のプロトコルに従って行うことができる。
【0027】
本発明の方法で調製されたライブラリーは、後記実施例に示すとおり、サンプルRNAが微量及び/又は分解が進行したRNAであっても、常法に従ってPCR産物をプールせずに調製したライブラリーと比較して、PCRバイアスが抑制されている。ここで、PCRバイアスとは、プライマーダイマーをはじめとする副産物やサンプル内の夾雑物等の影響により、PCRの反応効率に偏りが生じることを指す。よって、本発明の方法でライブラリーを調製すれば、サンプルRNAが微量及び/又は分解が進行したRNAであっても、遺伝子検出率の向上、群間差の明確化などのその後の解析における検定力の向上が可能となる。
【0028】
本発明の方法で調製されたライブラリーは、RNAを用いる各種の解析又は診断に応用することができる。好ましくは、本発明の方法で調製されたライブラリーは、PCR、好ましくはマルチプレックスPCRを応用することができるあらゆる解析、例えば、遺伝子発現解析、トランスクリプトーム解析、被験体の機能解析、疾患の診断、被験体に投与した薬物の効能評価などの、遺伝子の網羅的解析又は特定の遺伝子を標的とした発現解析に用いることができる。したがって、本発明はまた、上記の本発明によるライブラリーの調製方法により調製された核酸のライブラリーを、各種解析に用いることに関する。一実施形態において、本発明は、上記の本発明によるライブラリーの調製方法により調製された核酸のライブラリーにおける遺伝子発現を検出することを含む、サンプルRNAが由来する試料の遺伝子発現を検出する方法を提供する。
【0029】
本発明による遺伝子発現を検出する方法は、本発明によるライブラリーの調製方法により調製された核酸のライブラリーを用いる限り、遺伝子発現検出の手順や手法は特に限定されない。斯かる手法としては、リアルタイムPCR、DNAチップ、DNAマイクロアレイ、RNA-Seqなどが挙げられ、好ましくはRNA-Seqである。例えば、RNA-Seqによる遺伝子発現検出を行う場合、アダプターライゲーションしたライブラリーをシーケンシングにかけることができる。シーケンシングで得られた各遺伝子由来配列のリード数に基いて遺伝子発現を検出又は定量することができる。
【0030】
本発明の例示的実施形態として、以下の物質、製造方法、用途、方法などをさらに本明細書に開示する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0031】
〔1〕ライブラリー調製方法であって、
同一サンプルRNAから逆転写及びPCRにより得られるPCR産物を複数準備すること、及び
該複数のPCR産物を混合してPCR産物のプールを調製すること、
を含む、方法。
〔2〕前記サンプルRNAの濃度が、前記逆転写に供するRNA濃度として、好ましくは0.1pg/μL以上、より好ましくは0.5pg/μL以上、さらに好ましくは1pg/μL以上であり、他方、好ましくは100pg/μL以下、より好ましくは100pg/μL未満であるか、あるいは、0.1~100pg/μL、0.5~100pg/μL、1~100pg/μL、1~75pg/μL、又は1~60pg/μL、0.1pg/μL以上100pg/μL未満、0.5pg/μL以上100pg/μL未満、1pg/μL以上100pg/μL未満、1pg/μL以上75pg/μL未満、又は1pg以上60pg/μL未満である、〔1〕記載の方法。
〔3〕好ましくは、前記サンプルRNAが、分解を受けていないRNA、分解が進行したRNA、又はそれらの混合物である、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕前記分解を受けていないRNAのDV200が90%より大きく、前記分解が進行したRNAのDV200が90%以下である、〔3〕記載の方法。
〔5〕好ましくは、前記サンプルRNAが、分解が進行したRNAである、〔3〕記載の方法。
〔6〕前記サンプルRNAのDV200が、90%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは40%以下である、〔5〕記載の方法。
〔7〕前記サンプルRNAのDV200が、5%以上、10%以上、20%以上又は30%以上である、〔5〕記載の方法。
〔8〕好ましくは、前記PCRがマルチプレックスPCRである、〔1〕~〔7〕のいずれか1項記載の方法。
〔9〕前記逆転写が、好ましくは、オリゴdTプライマー、ランダムプライマー、又はそれらの混合物を含む反応液中で行われ、より好ましくは、ランダムプライマーを含む反応液中で行われる、〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載の方法。
〔10〕好ましくは、前記複数のPCR産物を混合前にそれぞれ精製することをさらに含む、〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載の方法。
〔11〕前記複数のPCR産物の混合が等量混合である、〔1〕~〔10〕のいずれか1項記載の方法。
〔12〕〔1〕~〔11〕のいずれか1項記載の方法により調製されたライブラリーにおける遺伝子発現を検出することを含む、前記サンプルRNAが由来する試料の遺伝子発現を検出する方法。
〔13〕〔1〕~〔11〕のいずれか1項記載の方法によりライブラリーを調製すること、及び該調製されたライブラリーにおける遺伝子発現を検出することを含む、前記サンプルRNAが由来する試料の遺伝子発現を検出する方法。
〔14〕好ましくは、前記遺伝子発現の検出がシーケンシングにより行われる、〔12〕又は〔13〕記載の方法。
【実施例0032】
以下、実施例に基き本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
実施例1 ライブラリー調製及びシーケンシング(1)
1.ライブラリー調製
Ion AmpliSeqTranscriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)の方法に準じてライブラリー調製を行った。具体的には、表皮角化細胞由来のRNA(Cascade Biologics, Portland, OR, USA)に対し、DNase/Rnase-Free水を用いて10pg/μLの濃度に調整し、SuperScript VILO cDNA Synthesis kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて42℃、90分間逆転写を行いcDNAの合成を行った。逆転写反応のプライマーには、キットに付属しているランダムプライマーを使用した。得られたcDNAから、マルチプレックスPCRにより20802遺伝子に由来するDNAを含むライブラリーを調製した。マルチプレックスPCRは、Ion AmpliSeqTranscriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて、[99℃、2分→(99℃、15秒→60℃、16分)×16サイクル→4℃、Hold]の条件で行った。得られたPCR産物は、Ampure XP(ベックマン・コールター株式会社)で精製した。逆転写から精製までに至る上述の工程を2回行い、同一RNAに由来するテクニカルレプリケートとした。精製後の各テクニカルレプリケートを最終量3.5μLとなるよう等量混合し、テクニカルレプリケートのプールを作成した後、バッファーの再構成、プライマー配列の消化、アダプターライゲーションと精製を行い、ライブラリーを調製した(テクニカルレプリケートの個数q=2のライブラリー)。これとは別に、混合前のそれぞれのテクニカルレプリケート3.5μLに対して同様にバッファーの再構成、プライマー配列の消化、アダプターライゲーションと精製を行い、ライブラリーを調製した(q=1のライブラリー)。
上記と並行して、初発濃度が10倍の100pg/μLの細胞RNAに対し、上記と同様の工程にて逆転写から精製とバッファーの再構成、プライマー配列の消化、アダプターライゲーションと精製を行い、ライブラリーを調製した(初発10倍量のライブラリー)。
【0034】
2.シーケンシング
1で調製した各種のライブラリーをIon 540 Chipにローディングし、Ion S5/XLシステム(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いてシーケンシングした。
シーケンス解析では、遺伝子の発現量の定量にゲノムにマッピングされたシーケンスリードの数が使用される。各サンプルのリードカウントデータは、RPM(Reads Per Million reads mapped)値に整数1を加算した底2の対数値(Log(RPM+1)値)に変換した補正値を用いてデータ解析を行った。
【0035】
図1上段に20802遺伝子を対象としたLog(RPM+1)値の散布図を示す。図1上段の左の図は、横軸にq=2のライブラリーに基くLog(RPM+1)値、縦軸にプールした個々のテクニカルレプリケート由来のライブラリー(q=1)に基くLog(RPM+1)値の平均値をプロットした散布図であり、両データを比較し、2倍以上の発現差を認める遺伝子を黒色で表す(|FC|≧2)。上段中央の図は、横軸にプールした一方のテクニカルレプリケート由来のライブラリー(q=1)に基くLog(RPM+1)値、縦軸にもう一方のテクニカルレプリケート由来のライブラリー(q=1)に基くデータをプロットした散布図である。上段右の図は、横軸にq=2のライブラリーに基くLog(RPM+1)値、縦軸に初発RNA量が10倍高いライブラリーに基くLog(RPM+1)値をプロットした散布図である。すなわち、上段右図は、横軸に初発RNA量が10pg/μLの場合のq=2のライブラリーに基くLog(RPM+1)値、縦軸に初発RNA量が100pg/μLの場合のq=1のライブラリーに基くLog(RPM+1)値をプロットした散布図である。
図1上段左図に示す通り、RT-PCR産物のテクニカルレプリケートをプールするライブラリー調製方法により調製されたライブラリーに基いて取得されたシーケンスデータは、個々のテクニカルレプリケートに由来するライブラリーに基いて取得されるシーケンスデータの平均値とのデータ相関性が、Rho≒0.98と高いことが確認され、テクニカルレプリケート間のRT-PCR反応のバラつきが平均化されることが示された。さらに、図1上段右図に示す通り、10倍の初発RNA量でライブラリー調製した場合のシーケンスデータと比較した結果、図1上段中央図に示すテクニカルレプリケート間のRho値よりも高いことが明らかとなり、テクニカルレプリケートをプールすることでより高濃度サンプルの発現プロファイルに近似されることが示された。
【0036】
実施例2 ライブラリー調製及びシーケンシング(2)
1.ライブラリー調製
特開2020-74769号公報の試験例2に記載の方法に準じてライブラリー調製を行った。具体的には、表記角化細胞由来RNA(Cascade Biologics, Portland, OR, USA)に対し、DNase/Rnase-Free水を用いて1pg/μLの濃度に調整し、SuperScript VILO cDNA Synthesis kitを用いて42℃、90分間逆転写を行いcDNAの合成を行った。逆転写反応のプライマーには、キットに付属しているランダムプライマーを使用した。得られたcDNAから、マルチプレックスPCRにより20802遺伝子に由来するDNAを含むライブラリーを調製した。マルチプレックスPCRは、Ion AmpliSeqTranscriptome Human Gene Expression Kitを用いて、[99℃、2分→(99℃、15秒→62℃、16分)×20サイクル→4℃、Hold]の条件で行った。得られたPCR産物は、Ampure XPで精製した。逆転写から精製までに至る上述の工程を2回行い、同一RNAに由来するPCR産物のテクニカルレプリケートとした。精製後の各テクニカルレプリケートを最終量3.5μLとなるよう等量混合し、テクニカルレプリケートのプールを作成した後、バッファーの再構成、プライマー配列の消化、アダプターライゲーションと精製、増幅を行い、ライブラリーを調製した(テクニカルレプリケートの個数q=2のライブラリー)。これとは別に、混合前のそれぞれのテクニカルレプリケート3.5μLに対して同様にバッファーの再構成、プライマー配列の消化、アダプターライゲーションと精製を行い、ライブラリーを調製した(q=1のライブラリー)。
上記と並行して、初発濃度が10倍の10pg/μLの細胞RNAに対し、上記と同様の工程にて逆転写から精製とバッファーの再構成、プライマー配列の消化、アダプターライゲーションと精製を行い、ライブラリーを調製した(初発10倍量のライブラリー)。
【0037】
2.シーケンシング
1で調製した各種ライブラリーをIon 540 Chipにローディングし、Ion S5/XLシステム(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いてシーケンシングした。
シーケンス解析では、遺伝子の発現量の定量にゲノムにマッピングされたシーケンスリードの数が使用される。各サンプルのリードカウントデータは、RPM(Reads Per Million reads mapped)値に整数1を加算した底2の対数値(Log(RPM+1)値)に変換した補正値を用いてデータ解析を行った。
【0038】
図1下段に20802遺伝子を対象としたLog(RPM+1)値の散布図を示す。図1下段左の図は、横軸にq=2のライブラリーに基くLog(RPM+1)値、縦軸にプールした個々のテクニカルレプリケート由来のライブラリー(q=1)に基くLog(RPM+1)値の平均値をプロットした散布図であり、両データを比較し、2倍以上の発現差を認める遺伝子を黒色で表す(|FC|≧2)。下段中央の図は、横軸にプールした一方のテクニカルレプリケート由来のライブラリー(q=1)に基くLog(RPM+1)値、縦軸にもう一方のテクニカルレプリケート由来のライブラリー(q=1)に基くデータをプロットした散布図である。下段右の図は、横軸にq=2のライブラリーに基くLog(RPM+1)値、縦軸に初発RNA量が10倍高いライブラリーに基くLog(RPM+1)値をプロットした散布図である。すなわち、下段右図は、横軸に初発RNA量が1pg/μLの場合のq=2のライブラリーに基くLog(RPM+1)値、縦軸に初発RNA量が10pg/μLの場合のq=1のライブラリーに基くLog(RPM+1)値をプロットした散布図である。
図1下段左図に示す通り、RT-PCR産物のテクニカルレプリケートをプールするライブラリー調製方法により調製されたライブラリーに基いて取得されたシーケンスデータは、個々のテクニカルレプリケートに由来するライブラリーに基いて取得されるシーケンスデータの平均値とのデータ相関性がRho≒0.98と高いことが確認され、テクニカルレプリケート間のRT-PCR反応のバラつきが平均化されることが示された。さらに、図1下段右図に示す通り、10倍の初発RNA量でライブラリー調製した場合のシーケンスデータと比較した結果、図1下段中央図に示すテクニカルレプリケート間のRho値よりも高いことが明らかとなり、テクニカルレプリケートをプールすることでより高濃度サンプルの発現プロファイルに近似されることが示された。
【0039】
実施例3 微量又は分解亢進RNAを用いたライブラリー調製と検証
1.0μgの表皮角化細胞由来RNA(Cascade Biologics, Portland, OR, USA)に対し、10mM Tris-HClバッファー(pH=8.0)を用いて0、300、100又は33.3ng/μLに濃度調整したリコンビナントRNase7(Novus Biologicals)を添加し、室温で30分間反応させた後、QIAzol Lysis Reagent(Qiagen)を用いて、付属のプロトコルに準じてRNAを精製した。精製したRNAは、それぞれ、Ctrl(コントロール)、A、B、Cと称する。精製したRNAの濃度を100pg/μL、あるいは10pg/μLに調整し、上述した実施例2の方法に準じて、q=1、2又は4でライブラリーを調製し、シーケンスを実施した。
出力されたRNA発現量データは、DESeq2(Love MI et al. Genome Biol. 2014)により正規化されたリードカウント値(normalized count値)に整数1を加算した底2の対数値(Log(normalized count+1)値)を用いてデータ解析を行った。
【0040】
RNAの分解進行度を評価する為、Agilent TapeStation システム(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いて、200nt以上のRNA断片の比率(DV200)を算出した。RNase7の添加濃度とDV200値を図2に示す。RNase7の添加濃度依存的にDV200値は低下し、RNA分解によりRNAの品質が低下することが示された。
【0041】
シーケンスの結果に基き、検出可能な遺伝子総数に対する検出できた遺伝子数の割合;遺伝子検出率(Targets Detected、以下TDと記す。)を表1に示す。微量、あるいは分解が進んだ低品質RNAを用いた検証の結果、q値が高くなるごとに、即ち、プールするテクニカルレプリケートの個数が増えるごとに、TD値が上昇することが明らかとなった。微量又は分解度が進んだサンプル程、TD値の上昇幅が大きいことが示された(表1)。さらに、分解されていないRNA(Ctrl)のRNA発現量データと分解が進んだサンプル(A)のRNA発現量データとの間のスピアマン順位相関係数を表2に示す。表2に示す通り、分解が進んだ低品質RNAのRT-PCR産物のテクニカルレプリケートをプールすることで、分解されていない同一RNAとのデータ相関性が向上した。
以上より、微量及び/又は分解が進行した低品質RNAを用いるライブラリー調製における本技術の有用性が示された。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
実施例4 カルシウム刺激有/無しの微量RNAを用いたライブラリー調製と検証
1.ヒト表皮角化細胞RNAの調製
Nature. 2010 January 28; 463(7280): 563-567に準じ、1.2mMのcalciumで48時間処理した後、細胞を回収し、RNAを抽出した(カルシウム刺激有/無しの各群n=3)。
【0045】
2.ライブラリー調製とシーケンシング
1でカルシウム刺激有/無しの各群から調製されたヒト表皮角化細胞RNA 1.0pg/μLに対し、上述した実施例2の方法に従い、ライブラリーを調製し、シーケンスを実施した。
【0046】
出力されたRNA発現量データは、DESeq2により正規化されたリードカウント値(normalized count値)に整数1を加算した底2の対数値(Log(normalized count+1)値)を算出した。Wald検定を用いて、カルシウム刺激群と対照群の二群間比較解析を行った。検定の多重性と発現変動量を考慮し、FDR(false discovery rate)=0.05、及び|logFC(fold-change)|=1を閾値に設定し、FDR<0.05かつ|logFC(fold-change)|<1を満たす発現差遺伝子(Differential Expressed Genes:DEGs)をq値ごとに抽出した(表4)。
【0047】
微量な細胞RNAを用いた検証の結果、実施例3の検討結果同様、q値が高くなるごとにTD値が上昇することが明らかとなった(表3)。さらに、カルシウム刺激+/-の群間比較解析を実施したところ、q値が高くなるごとにDEGsが増加することが示された(表4)。抽出されたDEGsには、既報(Nature. 2010 January 28; 463(7280): 563-567)と重複する分子が多数含まれていることが確認された。
以上より、本技術を利用することで群間差が明確化され、検定力が向上することが示された。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
図1
図2