(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093437
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】触媒、ベンゼンの酸化方法、及び、ベンゼン酸化誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 29/46 20060101AFI20240702BHJP
C07C 39/04 20060101ALI20240702BHJP
C07C 39/08 20060101ALI20240702BHJP
C07C 29/50 20060101ALI20240702BHJP
C07C 50/04 20060101ALI20240702BHJP
C07C 46/04 20060101ALI20240702BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
B01J29/46 Z
C07C39/04
C07C39/08
C07C29/50
C07C50/04
C07C46/04
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209814
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】村上 和生
(72)【発明者】
【氏名】荒木 泰博
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 泰之
(72)【発明者】
【氏名】西山 覚
(72)【発明者】
【氏名】市橋 祐一
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169CB07
4G169CB70
4G169DA06
4G169FC08
4G169ZA10A
4G169ZA11B
4G169ZC04
4G169ZF01B
4G169ZF05A
4G169ZF05B
4H006AA02
4H006AC41
4H006AC44
4H006BA05
4H006BA08
4H006BA55
4H006BA60
4H006BA71
4H006BC32
4H006BE30
4H006DA15
4H006FC52
4H006FE13
4H039CA60
4H039CA62
4H039CC30
4H039CC50
(57)【要約】
【課題】ベンゼンからフェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノン等のベンゼン酸化誘導体を簡便且つ効率的に製造するのに有用な新規な触媒を提供すること。
【解決手段】結晶性アルミノシリケートを含む担体と、当該担体に担持された担持金属とを有し、担持金属がセリウム及び銅を含有する、触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性アルミノシリケートを含む担体と、当該担体に担持された担持金属とを有し、
前記担持金属がセリウム及び銅を含有する、触媒。
【請求項2】
前記銅の含有量が、触媒の全量を基準として0.1~3.0質量%である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記担持金属におけるセリウム/銅の原子数比が0.01~1.0である、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
前記結晶性アルミノシリケートがペンタシル型ゼオライトである、請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
前記結晶性アルミノシリケートがMFI型ゼオライトである、請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
前記MFI型ゼオライトにおけるケイ素/アルミニウムの原子数比が10~75である、請求項5に記載の触媒。
【請求項7】
ベンゼンからフェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンのうちの少なくとも一種を製造するために用いられる、請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の触媒とベンゼンとを酸素の存在下で接触させる、ベンゼンの酸化方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の触媒とベンゼンとを酸素の存在下で接触させることで前記ベンゼンを酸化させ、フェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンのうちの少なくとも一種を生成する工程を含む、フェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、ベンゼンの酸化方法、及び、ベンゼン酸化誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール及びその誘導体であるヒドロキノン、並びにp-ベンゾキノン等のベンゼン酸化誘導体は、幅広い分野で有用な基礎化学物質である。従来、これらの化合物は、ベンゼンを原料として製造されている。
【0003】
ベンゼンからフェノールを製造する方法としては、クメン法が広く知られている。クメン法は、ベンゼンとプロピレンとを反応させてクメンを製造し、クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドを製造した後、これを酸で転位させてフェノールを製造するという3つのステップを含む合成方法である。また、クメン法では、副生成物としてアセトンが生成する。
【0004】
また、p-ベンゾキノンを製造する方法としては、フェノール又はヒドロキノンを触媒存在下で酸化する方法が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58-128335号公報
【特許文献2】特開昭54-48726号公報
【特許文献3】特開平3-287557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そもそもベンゼンは極めて安定な化合物であることから、直接酸素を導入して他の化合物を製造することは困難であることが多い。例えば、上述した従来の方法によりベンゼンを原料として、フェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノンを製造する場合、少なくともベンゼンからフェノールを製造する工程が必要であり、それに加えてフェノールからヒドロキノンを製造する工程、又は、フェノールもしくはヒドロキノンからp-ベンゾキノンを製造する工程が必要となる。この場合、反応が多段階となることから、各反応を行うための設備の準備及び各反応に応じた触媒の準備等が必要であり、目的物を簡便且つ効率的に製造することが困難である。更に、上記方法では反応に大量の酸が必要であったり、エネルギー消費が大きかったりといった問題がある。そのため、ベンゼンからフェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノンを簡便且つ効率的に製造できる方法の開発が求められている。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ベンゼンからフェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノン等のベンゼン酸化誘導体を簡便且つ効率的に製造するのに有用な新規な触媒、それを用いたベンゼンの酸化方法、及び、フェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノン等のベンゼン酸化誘導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は、以下の触媒、ベンゼンの酸化方法、及び、ベンゼン酸化誘導体の製造方法を提供する。
【0009】
[1]結晶性アルミノシリケートを含む担体と、当該担体に担持された担持金属とを有し、上記担持金属がセリウム及び銅を含有する、触媒。
[2]上記銅の含有量が、触媒の全量を基準として0.1~3.0質量%である、上記[1]に記載の触媒。
[3]上記担持金属におけるセリウム/銅の原子数比が0.01~1.0である、上記[1]又は[2]に記載の触媒。
[4]上記結晶性アルミノシリケートがペンタシル型ゼオライトである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の触媒。
[5]上記結晶性アルミノシリケートがMFI型ゼオライトである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の触媒。
[6]上記MFI型ゼオライトにおけるケイ素/アルミニウムの原子数比が10~75である、上記[5]に記載の触媒。
[7]ベンゼンからフェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンのうちの少なくとも一種を製造するために用いられる、上記[1]~[6]のいずれかに記載の触媒。
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載の触媒とベンゼンとを酸素の存在下で接触させる、ベンゼンの酸化方法。
[9]上記[1]~[7]のいずれかに記載の触媒とベンゼンとを酸素の存在下で接触させることで上記ベンゼンを酸化させ、フェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンのうちの少なくとも一種を生成する工程を含む、フェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノンの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベンゼンからフェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノン等のベンゼン酸化誘導体を簡便且つ効率的に製造するのに有用な新規な触媒、それを用いたベンゼンの酸化方法、及び、フェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノン等のベンゼン酸化誘導体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
<触媒>
本実施形態に係る触媒は、結晶性アルミノシリケートを含む担体と、当該担体に担持された担持金属とを有する。また、担持金属はセリウム及び銅を含有する。上記触媒は、結晶性アルミノシリケートを含む担体上に、セリウム及び銅の2種類の金属を担持させた構成を有することによって、酸素の存在下で上記触媒にベンゼンを接触させることでベンゼンを直接酸化させることができる。そのため、上記触媒を用いることで、従来の方法のように多段階の工程を経ることなく、且つ、大量の酸や大量のエネルギーを必要とせずに、ベンゼンからフェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンをワンステップで簡便且つ効率的に製造することができる。また、上記触媒を用いることで、ベンゼンからフェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンを高い収率且つ高い選択率で製造することができる。上記触媒を用いることで、効率良くベンゼンを直接酸化させることができる理由は定かではないが、銅の酸素活性化効果とセリウムの酸素受け渡し効果との相乗効果が影響していると推察している。また、上記触媒は、ベンゼンからフェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンを製造する際の触媒としてだけでなく、ビフェニル、ナフタレン等の多環芳香族化合物やその誘導体に対しての酸化触媒としても使用することができる可能性がある。
【0013】
結晶性アルミノシリケートは、アルミニウム、珪素及び酸素の3元素で構成される金属酸化物である。また、結晶性アルミノシリケートには、他の金属元素を共存させることもできる。共存可能な金属元素としては、例えばチタン、ランタン、マンガン等を挙げることができる。
【0014】
アルミノシリケートの結晶性は、全アルミニウム原子中の4配位のアルミニウム原子の割合で見積もることができ、この割合は27Al固体NMRにより測定することができる。本発明で用いられる結晶性アルミノシリケートは、アルミニウム全量に対する4配位アルミニウムの割合が50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよい。
【0015】
結晶性アルミノシリケートとしては、いわゆるゼオライトを使用することができる。ゼオライトは、ペンタシル型ゼオライトであってよい。ペンタシル型ゼオライトとは、酸素5員環が連結した構造を有するゼオライトである。ペンタシル型ゼオライトとしては、MFI型ゼオライト、MEL型ゼオライト等が挙げられる。これらの中でも、結晶性アルミノシリケートは、MFI型ゼオライトであってよい。なお、上記の各アルファベット三文字は、国際ゼオライト協会の構造委員会(The Structure Commission of The International Zeolite Association;IZA-SC)によって規定されたゼオライトの構造コードである。MFI型ゼオライトとしては、例えば、ZSM-5及びシリカライトを挙げることができる。
【0016】
MFI型ゼオライトにおいて、ケイ素/アルミニウム(Si/Al)の原子数比は10~75であってよく、11~60であってよく、12~50であってよく、13~40であってよく、14~30であってよい。Si/Al原子数比が10以上であると、酸性が強くなり過ぎることを抑制でき、酸性が強いことに起因した副反応の発生を抑制できる傾向があり、75以下であると、担体の酸点が十分になり反応が促進される傾向がある。
【0017】
上述した結晶性アルミノシリケートは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
結晶性アルミノシリケートを含む担体は、粉体であってもよく、成形体であってもよい。担体を成形体とする場合には、結晶性アルミノシリケート及びバインダーの混合物を成形し、その成形体を焼成する方法が挙げられる。使用するバインダーについては特に制限はないが、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、マグネシア等が挙げられる。また、上記以外の方法によって成形体を形成してもよい。
【0019】
担持金属は、少なくともセリウム及び銅を含有する。担持金属は、担体の表面及び/又は細孔内に担持されていてよい。
【0020】
触媒における銅の含有量(担持量)は、触媒の全量を基準として0.1~3.0質量%であってよく、0.2~2.5質量%であってよく、0.3~2.0質量%であってよく、0.5~1.5質量%であってよく、0.7~1.1質量%であってよい。銅の含有量が0.1質量%未満であると、含有量が0.1質量%以上である場合と比較すると、触媒の活性が十分に上がらず、ベンゼンと反応させた場合に反応が進行しにくくなる傾向があり、含有量が3.0質量%を超えると、含有量が3.0質量%以下である場合と比較すると、担持金属総量の増加により担体の酸点がつぶされやすく、当該触媒を用いてベンゼンからフェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノンを製造した場合に、これらの化合物の収率及び選択率が低下する傾向がある。
【0021】
触媒におけるセリウムの含有量(担持量)は、触媒の全量を基準として0.01~1.0質量%であってよく、0.02~0.50質量%であってよく、0.035~0.22質量%であってよい。セリウムの含有量が0.01質量%以上であると、触媒の活性がより向上し、当該触媒を用いてベンゼンからフェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノンを製造した場合に、これらの化合物の収率及び選択率をより向上できる傾向があり、1.0質量%以下であると、担持金属総量の増加により担体の酸点がつぶされることを抑制でき、当該触媒を用いてベンゼンからフェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノンを製造した場合に、これらの化合物の収率及び選択率をより向上できる傾向がある。
【0022】
担持金属におけるセリウム/銅(Ce/Cu)の原子数比は、0.01~1.0であってよく、0.05~0.8であってよく、0.1~0.5であってよい。Ce/Cu原子数比が上記範囲内であると、上記触媒を用いてベンゼンからフェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノンを製造した場合に、これらの化合物の収率及び選択率をより向上できる傾向がある。
【0023】
触媒における担持金属の総含有量は、触媒の全量を基準として0.1~3.0質量%であってよく、0.3~2.5質量%であってよく、0.5~2.0質量%であってよく、0.6~1.5質量%であってよく、0.7~1.3質量%であってよい。担持金属の含有量が0.1質量%以上であると、触媒の活性がより向上し、当該触媒を用いてベンゼンからフェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノンを製造した場合に、これらの化合物の収率及び選択率をより向上できる傾向があり、3.0質量%以下であると、担持金属により担体の酸点がつぶされることを抑制でき、当該触媒を用いてベンゼンからフェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノンを製造した場合に、これらの化合物の収率及び選択率をより向上できる傾向がある。
【0024】
<触媒の製造方法>
触媒は、例えば、担体にセリウムを担持させる工程と、セリウムを担持した担体に銅を担持させる工程と、を経て製造することができる。担体へのセリウム及び銅の担持は、金属を含む溶液への担体の含浸、又は、イオン交換等の常法により行うことができる。
【0025】
含浸法を採用する場合、例えば、担体をセリウム塩水溶液に含浸させ、乾燥及び焼成してセリウムを担体に担持させる工程と、セリウムを担持した担体を銅塩水溶液に含浸させ、乾燥及び焼成してセリウムを担持した担体に銅を担持させる工程と、を経て触媒を製造することができる。含浸法としては、常圧含浸法、減圧含浸法、加圧含浸法等の方法を用いることができる。
【0026】
セリウム塩水溶液としては、硝酸セリウム(III)水溶液等を用いることができる。セリウム塩水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば、3.0×10-4~3.0×10-3Mであってよい。
【0027】
銅塩水溶液としては、酢酸銅(II)水溶液、塩化銅(II)水溶液等を用いることができる。銅塩水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば、3.0×10-3~3.0×10-2Mであってよい。
【0028】
含浸後の乾燥は、例えば、100~200℃で5~72時間行うことができる。乾燥は、大気条件下で行うことができる。
【0029】
セリウムを担持させた後の焼成は、例えば、400~1000℃で1~10時間行うことができる。一方、銅を担持させた後の焼成は、例えば、700~1000℃で1~24時間行うことができる。焼成は、大気条件下で行うことができる。
【0030】
担体へのセリウム及び銅の担持は、上記のようにセリウムを担持させた後に銅を担持させてもよく、銅を担持させた後にセリウムを担持させてもよく、セリウム及び銅を同時に担持させてもよいが、担持した銅とセリウムの原子間距離の観点から、セリウムを担持させた後に銅を担持させることが好ましい。このようにして得られた触媒は、セリウムが担体上に担持されており、銅は担体上とセリウム上とに担持された状態となっている。このような触媒を用いることで、ベンゼンからフェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノンを製造した場合に、これらの化合物の収率及び選択率をより向上させることができる。
【0031】
<ベンゼンの酸化方法、並びに、フェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノンの製造方法>
本実施形態に係るベンゼンの酸化方法は、酸素の存在下で、上述した触媒にベンゼンを接触させることでベンゼンを酸化させる方法である。また、本実施形態に係るフェノール、ヒドロキノン又はp-ベンゾキノンの製造方法は、酸素の存在下で、上述した触媒にベンゼンを接触させることでベンゼンを酸化させ、フェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンのうちの少なくとも一種を生成する工程を含む方法である。
【0032】
ベンゼンを酸化させる方法は、酸素の存在下で触媒にベンゼンを接触させることができる方法であれば特に限定されないが、例えば、固定床流通管型反応器を用いた方法が挙げられる。
【0033】
固定床流通管型反応器を用いる場合、反応器内に触媒を充填し、反応器内にベンゼンを導入して加熱により気化させ、触媒が充填された領域を酸素と共に流通させることで、ベンゼンの酸化反応を進行させることができる。反応は、大気圧下で行うことができる。反応は、ベンゼンの酸化を促進する観点から、300~500℃に加熱した状態で行うことができる。
【0034】
固定床流通管型反応器において、ベンゼンの供給速度(供給量/時間)Fに対する触媒の質量Wの比(以下、「W/F」という)は、特に限定されないが、200~500g-cat・min/molであってよく、220~480g-cat・min/molであってよく、236~472g-cat・min/molであってよい。W/Fが200g-cat・min/mol以上であると、ベンゼンと触媒との接触時間が十分に確保できるため、ベンゼンの酸化が進行しやすくなる傾向がある。W/Fが500g-cat・min/mol以下であると、副反応を抑制できる傾向がある。
【0035】
固定床流通管型反応器において、ベンゼンは、例えば、加熱により気化させた状態で、空気の流通下で供給することができる。このとき、反応温度における空気とベンゼンとのガス分圧比は特に限定されないが、ベンゼンの酸化を促進する観点から、空気:ベンゼン=5:0.1~5:0.3であってよく、5:0.15~5:0.25であってよい。
【0036】
ベンゼンを供給する前に、触媒の前処理を行ってもよい。例えば、前処理として、触媒を大気流通下、400~500℃で0.5~5時間加熱してもよい。これにより、触媒に付着した不純物を除去できる。また、残留酸素の影響をなくす観点から、反応器内を窒素で0.5~1時間パージしてもよい。
【0037】
反応後の生成物は、冷媒を用いて融点以下の温度に冷却し、固体として回収することができる。
【0038】
以上の方法により、多段階の工程を経ることなく、且つ、大量の酸や大量のエネルギーを必要とせずに、ベンゼンからフェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンをワンステップで簡便且つ効率的に製造することができる。生成物は、フェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンのうちの少なくとも一種を含むが、二種以上を含んでいてよく、三種全てを含んでいてよい。本実施形態に係る製造方法によれば、フェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンを高い収率及び高い選択率で製造することができ、特にヒドロキノン及びp-ベンゾキノンを高い収率及び高い選択率で製造することができる。触媒の構成やベンゼンを酸化させる際の条件等を調整することにより、生成物中のフェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンの比率を変化させることもできる。
【実施例0039】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
HZSM-5(MFI型ゼオライト、ZEOLYST社製、Si/Al原子数比:29)の粉体0.5gを、硝酸セリウム(III)水溶液50mLに343K(70℃)で含浸させ、393K(120℃)で一昼夜乾燥させた。乾燥後、大気条件下にて773K(500℃)で5時間焼成し、セリウムがHZSM-5に担持されたCe/HZSM-5粉体を得た。次いで、得られたCe/HZSM-5粉体を、酢酸銅(II)水溶液50mLに343K(70℃)で含浸させ、393K(120℃)で一昼夜乾燥させた。乾燥後、大気条件下にて1273K(1000℃)で5時間焼成し、セリウム及び銅がHZSM-5に担持されたCu/Ce/HZSM-5粉体(触媒)を得た。得られた触媒における銅の含有量(担持量)は0.9質量%であり、セリウム/銅の原子数比は0.1である。なお、触媒の製造に使用した原料は、揮発分以外は系外に排出されないため、触媒における銅及びセリウムの含有量は、原料の仕込み量から算出することができる。
【0041】
[実施例2]
硝酸セリウム(III)水溶液及び酢酸銅(II)水溶液の濃度を調整することで、触媒中の銅及びセリウムの含有量を高めたこと以外は実施例1と同様にして、Cu/Ce/HZSM-5粉体(触媒)を得た。得られた触媒における銅の含有量(担持量)は1.1質量%であり、セリウム/銅の原子数比は0.1である。
【0042】
[実施例3]
H型にイオン交換したバインダレスゼオライト(Si/Al原子数比:14)を担体として用いると共に、得られる触媒におけるセリウム/銅の原子数比が下記の値となるように硝酸セリウム(III)水溶液の濃度を調整したこと以外は実施例1と同様にして、バインダレスゼオライトにセリウム及び銅を担持することで、Cu/Ce/バインダレスゼオライト成形体(触媒)を得た。得られた触媒における銅の含有量(担持量)は0.7質量%であり、セリウム/銅の原子数比は0.05である。
【0043】
[実施例4]
硝酸セリウム(III)水溶液及び酢酸銅(II)水溶液の濃度を調整することで、触媒中のセリウムの含有量を高めたこと以外は実施例3と同様にして、Cu/Ce/バインダレスゼオライト成形体(触媒)を得た。得られた触媒における銅の含有量(担持量)は0.7質量%であり、セリウム/銅の原子数比は0.1である。
【0044】
[比較例1]
HZSM-5(MFI型ゼオライト、ZEOLYST社製、Si/Al原子数比:14)の粉体0.5gを、酢酸銅(II)水溶液50mLに含浸させ、393K(120℃)で一昼夜乾燥させた。乾燥後、大気条件下にて1273K(1000℃)で5時間焼成し、銅がHZSM-5に担持されたCu/HZSM-5粉体(触媒)を得た。得られた触媒における銅の含有量(担持量)は0.7質量%である。
【0045】
[比較例2]
H型にイオン交換したバインダレスゼオライト(Si/Al原子数比:14)を担体として用いたこと以外は比較例1と同様にして、バインダレスゼオライトに銅を担持することで、Cu/バインダレスゼオライト成形体(触媒)を得た。得られた触媒における銅の含有量(担持量)は0.7質量%である。
【0046】
<フェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンの製造>
実施例及び比較例で得られた触媒を用い、ベンゼン(ナカライテスク社製、純度:≧99.0%)を原料として、フェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンの製造を行った。これらの化合物の製造は、大気圧下で固定床流通管型反応器を用いて行った。反応器としては、内径18mmのPyrex(登録商標)ガラス管を使用した。
【0047】
触媒を反応器内に充填した後、前処理として、触媒を大気流通下、773K(500℃)で2時間加熱した。次いで、反応器内を673K(400℃)まで冷却し、窒素で2時間パージを行った。その後、ベンゼンをマイクロフィーダーで反応器内に導入することにより、反応を行った。ジエチルマロン酸と液体窒素との混合物を冷媒として、223K(-50℃)に冷却して生成物をトラップした。反応条件は以下の通りとした。
(反応条件)
W/F=236g-cat・min/mol
触媒量=0.5g
全流量=2.12×10-3mol/min
N2:O2:Benzene=4:1:0.18=80.8kPa:20.2kPa:3.64kPa
反応温度=673K(400℃)
【0048】
得られた生成物のうち、液相生成物は内部標準としてトルエン5μLと2-プロパノール2mLとの混合溶媒に均一に溶解させ、カラムにGH-C18(逆相分配型)を使用した高速液体クロマトグラフ(日本分光社製)により、気相生成物はカラムにZA-3(活性炭担持型)を使用したオンラインのガスクロマトグラフ(島津製作所製)により、それぞれ分析することで、フェノール、ヒドロキノン及びp-ベンゾキノンの収率及び選択率を求めた。結果を表1及び表2に示す。
【0049】
【0050】