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特開2024-93450木材及び農作物を活用したウイルス感染抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093450
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】木材及び農作物を活用したウイルス感染抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 65/06 20090101AFI20240702BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240702BHJP
   A01N 65/38 20090101ALI20240702BHJP
   A01N 31/06 20060101ALI20240702BHJP
   A01N 43/16 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 36/14 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 36/81 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 36/82 20060101ALI20240702BHJP
   A01N 37/44 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20240702BHJP
   A61K 135/00 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
A01N65/06
A01P1/00
A01N65/38
A01N31/06
A01N43/16 C
A61P17/00 101
A61P31/12
A61P31/14
A61P43/00 121
A61P1/12
A61P11/00
A61K36/14
A61K36/81
A61K36/82
A01N37/44
A61K127:00
A61K135:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209841
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】509324713
【氏名又は名称】株式会社タカフジ
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169317
【弁理士】
【氏名又は名称】濱野 愛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】安藤 良昌
【テーマコード(参考)】
4C088
4H011
【Fターム(参考)】
4C088AB03
4C088AB45
4C088AB48
4C088AC05
4C088AC06
4C088BA08
4C088BA09
4C088MA07
4C088MA63
4C088NA05
4C088ZA59
4C088ZA73
4C088ZA90
4C088ZB33
4C088ZC75
4H011AA04
4H011BA06
4H011BB03
4H011BB10
4H011BB22
4H011DA13
4H011DD05
4H011DE15
4H011DG05
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、木材及び農作物を活用した環境に優しいウイルス感染抑制剤を提供することである。
【解決手段】本発明は、省エネ型の製造方式で抽出した木材抽出液、及び農作物抽出液を含むウイルス感染抑制剤を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材抽出液、及び農作物抽出液を含むウイルス感染抑制剤。
【請求項2】
前記木材抽出液が、スギ抽出液、及び/又は、ヒノキ抽出液である、請求項1に記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項3】
前記農作物抽出液が、パプリカ葉抽出液、及び/又は、茶抽出液である、請求項1に記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項4】
前記ウイルスが、ブタ流行性下痢(PED)ウイルス、及びSARS-CoV-2からなる群から選択される広範なウイルスである、請求項1から3のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項5】
前記木材抽出液、及び前記農作物抽出液が、100℃未満の低温下で抽出可能な省エネ型生産工程によって製造される、請求項1から3のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項6】
皮膚への塗布用である、請求項1から3のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な社会の構築のためには、様々な取り組みが必要とされている。その中でも、植物資源を守る上で、森林資源や農作物の廃棄資源の効率的な循環は極めて重要な課題である。
例えば、間伐材を有効利用することによって、森の保全が守られることは広く認知されている。また、農作物の廃棄物は非可食部を含めて大量に生産されることから、フードロスの観点からも効率的な利用が望まれる。
【0003】
これらの森林資源や農作物の廃棄資源の循環の形として、炭化処理やその過程で生じ得る抽出液の効率的な利用が期待される。
森林から発せられる揮発性の成分はフィトンチッドと呼ばれ、古くからその有効性が知られていた(非特許文献1)。病原菌に対する抗菌効果は黄色ブドウ球菌をはじめとしていくつかの病原菌に対して確認されている。
【0004】
一方、ウイルスに対する効果についても、広く木材に含まれている揮発性のテルペン類においてウイルス自体の感染力の抑制効果が確認されており、DNAウイルスであるヘルペスウイルスに対する効果(非特許文献2、3)、あるいはRNAウイルスである新型コロナウイルスに対する効果(非特許文献4、5)が研究されている。
これらの有効成分なテルペン類の1つがα-テルピネン、テルピネン-4-オールであることが研究データとして認められる(非特許文献2)。また、関連して、ヒノキ由来のヒノキチオールもウイルス不活化効果があることが知られている(特許文献1、2)。
【0005】
一方、農作物、観賞用植物、薬用植物等について、ウイルスに対する不活化機能に関する報告も確認されている。もっとも有名な素材としては、エピガロカテキンガレートを有する茶である。茶には、古くからインフルエンザウイルスに対する不活化効果が知られているが、近年、新型コロナウイルスに対しても効果があることが報告されている(非特許文献6、7)。
【0006】
また、甜茶抽出物、ガンビールノキ抽出物、キャッツクロー抽出物、ワレモコウ抽出物、オウバク抽出物、オトギリソウ抽出物、オウレン抽出物、チョウジ抽出物、コガネバナ抽出物、サンザシ抽出物、セイヨウナツユキソウ花抽出物、シャクヤク抽出物、シラカバ抽出物、セイヨウキズタ抽出物、セイヨウノコギリソウ抽出物、タイム抽出物、トウキ抽出物、ハマメリス抽出物、バラ抽出物、ビワ抽出物、マロニエ抽出物、ローズマリー抽出物、メリッサ抽出物から選択される天然抽出物1種以上について含まれている成分でのウイルスに対する不活化効果も知られている(特許文献3)。
【0007】
さらに、農作物に含まれている成分の中で、一般的に高血圧予防(非特許文献10)やストレス緩和(非特許文献11、12)の機能が知られているγ-アミノ酪酸(GABA)においても、ウイルスに対する防御的な機能な示唆されている(非特許文献8、9)。
【0008】
また、木材のうち、ヒノキや、スギには、ストレスに対する予防的効果について、直接的な接触効果として、脳の左前頭前野のオキシHb濃度を有意に低下させ、ln(HF)を増加させることが示されている。前頭前野の活動が落ち着き、副交感神経の活動が活発になり、生理的リラックスが誘発されることが報告されている(非特許文献13、14)。
【0009】
このように、木材には病原菌に対する抑制的効果のみならず、リラックス効果等も確認されているが、その抽出工程は必ずしも省エネ的な発想による方法ではなく、多くの燃料消費を伴い、105℃以上の高温下で実施されている(非特許文献15、16、17)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005-145864号公報
【特許文献2】特許第6948092号公報
【特許文献3】特開2022-22965号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】森 孝博、「フィトンチッドと森林浴について」、令和4年12月6日検索、インターネット<URL:https://www.forest.rd.pref.gifu.lg.jp/rd/rinsan/9811gr.html>
【非特許文献2】Schnitzler, P., Koch, C. & Reichling, J. Susceptibility of drug-resistant clinical herpes simplex virus type 1 strains to essential oils of ginger, thyme, hyssop, and sandalwood. Antimicrob Agents Chemother 51, 1859-1862, doi:10.1128/AAC.00426-06 (2007)
【非特許文献3】Astani, A., Reichling, J. & Schnitzler, P. Comparative study on the antiviral activity of selected monoterpenes derived from essential oils. Phytother Res 24, 673-679, doi:10.1002/ptr.2955 (2010)
【非特許文献4】Santos, S. et al. Cannabidiol and Terpene Formulation Reducing SARS-CoV-2 Infectivity Tackling a Therapeutic Strategy. Front Immunol 13, 841459, doi:10.3389/fimmu.2022.841459 (2022)
【非特許文献5】Diniz, L. R. L., Perez-Castillo, Y., Elshabrawy, H. A., Filho, C. & de Sousa, D. P. Bioactive Terpenes and Their Derivatives as Potential SARS-CoV-2 Proteases Inhibitors from Molecular Modeling Studies. Biomolecules 11, doi:10.3390/biom11010074 (2021)
【非特許文献6】Ohgitani, E. et al. Significant Inactivation of SARS-CoV-2 In Vitro by a Green Tea Catechin, a Catechin-Derivative, and Black Tea Galloylated Theaflavins. Molecules 26, doi:10.3390/molecules26123572 (2021)
【非特許文献7】Ohgitani, E. et al. Rapid Inactivation In Vitro of SARS-CoV-2 in Saliva by Black Tea and Green Tea. Pathogens 10, doi:10.3390/pathogens10060721 (2021)
【非特許文献8】Rosas-Salazar, C. et al. Urine Levels of γ-Aminobutyric Acid Are Associated with the Severity of Respiratory Syncytial Virus. Annals of the American Thoracic Society, 1489-1493 (2020)
【非特許文献9】Sabogal, C. et al. Effect of respiratory syncytial virus on apnea in weanling rats. Pediatr Res 57, 819-825, doi:10.1203/01.PDR.0000157679.67227.11 (2005)
【非特許文献10】梶本修身他、「『GABA含有錠菓』の正常高値および軽症高血圧者に対する長期摂取時の有効性および安全性試験」、薬理と治療、32:929-944、2004
【非特許文献11】Nakamura, H., Takishima, T., Kometani, T. & Yokogoshi, H. Psychological stress-reducing effect of chocolate enriched with gamma-aminobutyric acid (GABA) in humans: assessment of stress using heart rate variability and salivary chromogranin A. Int J Food Sci Nutr 60 Suppl 5, 106-113, doi:10.1080/09637480802558508 (2009)
【非特許文献12】J Nutr Sci Vitaminol, 57, 9-15, 2011
【非特許文献13】Ikei, H., Song, C. & Miyazaki, Y. Physiological effects of touching hinoki cypress (Chamaecyparis obtusa). Journal of Wood Science 64, 226-236, doi:10.1007/s10086-017-1691-7 (2018).
【非特許文献14】Ikei, H. & Miyazaki, Y. Positive physiological effects of touching sugi (Cryptomeria japonica) with the sole of the feet. Journal of Wood Science 66, doi:10.1186/s10086-020-01876-1 (2020).
【非特許文献15】石川敦子、大平辰朗、「乾燥処理が木材の抽出成分と耐久性におよぼす影響」、木材工業、64巻6号、2009年6月、p.258-262
【非特許文献16】高橋 勤子、「蒸気処理した木質系材料の熱流動と成形」、名古屋大学大学院生命農学研究科 生物圏資源学専攻 生物材料科学講座 生物材料工学研究分野、2011年、インターネット<URL:https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwjk3beE-vX7AhWVsVYBHYMoASQQFnoECA4QAQ&url=https%3A%2F%2Fnagoya.repo.nii.ac.jp%2Frecord%2F12937%2Ffiles%2Fk9111.pdf&usg=AOvVaw1ggx1Mz0OfgrW7VLwUs70p>
【非特許文献17】「木材抽出成分の薬理効果」、木材保存、Vol.19-2 (1993年) 18(66)-28(76)、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jwpa1975/19/2/19_2_66/_pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、植物由来の成分には、ウイルスに対する不活化、あるいは防御的な機能を有する成分が含まれているが、これらの有効成分を活用するためには、資源循環の中で効率的に利用する技術、あるいはウイルスの変異を想定した資材化、並びにウイルス以外の要因に対する予防的措置(皮膚や腸内における常在菌に対する効能)に関する工夫が必要である。
【0013】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、木材及び農作物を活用した環境に優しいウイルス感染抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、木材抽出液、及び農作物抽出液を含む混合物によれば上記課題を解決できる可能性を見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0015】
(1) 木材抽出液、及び農作物抽出液を含むウイルス感染抑制剤。
【0016】
(2) 前記木材抽出液が、スギ抽出液、及び/又は、ヒノキ抽出液である、(1)に記載のウイルス感染抑制剤。
【0017】
(3) 前記農作物抽出液が、パプリカ葉抽出液、及び/又は、茶抽出液である、(1)に記載のウイルス感染抑制剤。
【0018】
(4) 前記ウイルスが、ブタ流行性下痢(PED)ウイルス、及びSARS-CoV-2からなる群から選択される広範なウイルスである、(1)から(3)のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【0019】
(5) 前記木材抽出液、及び前記農作物抽出液が、100℃未満の低温下で抽出可能な省エネ型生産工程によって製造される、(1)から(3)のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【0020】
(6) 皮膚への塗布用である、(1)から(3)のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、木材及び農作物を活用した環境に優しいウイルス感染抑制剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】資源循環の中での植物抽出液の、従来型の利用例に関する図である。
図2】資源循環の中での植物抽出液の、本発明の利用例に関する図である。
図3】省エネ型生産で製造されたスギ抽出液単独によるブタ流行性下痢ウイルス(PEDウイルス P-5V株)に対する、本発明の感染抑制剤の効果を示す図である。
図4】省エネ型生産で製造された木材抽出液と農作物抽出液の混合液によるブタ流行性下痢ウイルス(PEDウイルス P-5V株)に対する、本発明の感染抑制剤の効果を示す図である。
図5】省エネ型生産で製造された木材抽出液と農作物抽出液の混合液によるSARS-CoV-2コロナウイルス(デルタ株)に対する、本発明の感染抑制剤の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0024】
<ウイルス感染抑制剤>
本発明のウイルス感染抑制剤(以下、「本発明の感染抑制剤」ともいう。)は、木材抽出液、及び農作物抽出液を含む。
【0025】
(1)木材抽出液
本発明における木材抽出液は、任意の木材からの抽出液を包含する。
【0026】
抽出対象である木材は、樹木の任意の部位であり得るが、感染抑制効果が高い抽出液が得られやすいという観点から、枝や葉が好ましい。
【0027】
抽出対象である木材の種類は、特に限定されないが、常緑針葉樹(スギ、ヒノキ、サワラ、マツ等)が好ましい例として挙げられる。
木材は、感染抑制効果が高い抽出液が得られやすいという観点から、スギ、及びヒノキのいずれかを含むことが好ましく、スギ、及びヒノキを両方含むことがより好ましい。
【0028】
木材からの抽出方法は特に限定されないが、省エネ型でありつつも、効率的に感染抑制効果が高い抽出液が得られやすいという観点から、100℃未満の低温下で抽出可能な省エネ型生産工程が好ましい。このような工程としては真空蒸留が挙げられる。
従来は、100℃以上の高温抽出が広く採用されていたが(図1)、本発明においては、低温での効率的な抽出を実現可能な真空蒸留を採用できる(図2)。
【0029】
真空蒸留の条件は特に限定されないが、以下の条件を例示できる。
圧力は、好ましくは20MPa以上である。
温度は、100℃未満が好ましく、より好ましくは50℃以下である。
溶媒は、水が好ましい。
真空蒸留によって得られる留出物が木材抽出液に相当する。
【0030】
木材抽出液は、例えば、テルピネン-4-オール0.01~50ppm(好ましくは0.5ppm以上)、α-テルピネオール0.01~50ppm(好ましくは0.5ppm以上)を含み得る。
【0031】
(2)農作物抽出液
本発明における農作物抽出液は、任意の農作物(農作物残渣等)からの抽出液を包含する。
【0032】
抽出対象である農作物の種類は、特に限定されないが、パプリカ葉、茶葉(緑茶葉)等が好ましい例として挙げられる。
農作物は、感染抑制効果が高い抽出液が得られやすいという観点から、パプリカ葉、及び茶葉のいずれかを含むことが好ましく、パプリカ葉、及び茶葉を両方含むことがより好ましい。
【0033】
農作物からの抽出方法は特に限定されないが、省エネ型でありつつも、効率的に感染抑制効果が高い抽出液が得られやすいという観点から、100℃未満の低温下で抽出可能な省エネ型生産工程が好ましい。このような工程としては真空蒸留が挙げられる。
従来は、100℃以上の高温抽出が広く採用されていたが(図1)、本発明においては、低温での効率的な抽出を実現可能な真空蒸留を採用できる(図2)。
【0034】
真空蒸留の条件は特に限定されないが、以下の条件を例示できる。
圧力は、好ましくは20MPa以上である。
温度は、100℃未満が好ましく、より好ましくは50℃以下である。
溶媒は、水が好ましい。
真空蒸留によって得られる留出物が農作物抽出液に相当する。
【0035】
農作物抽出液がパプリカ葉抽出液である場合、γ-アミノ酪酸約3~40mg/100mL(より好ましくは7~9mg/100mL)を含み得る。
農作物抽出液が茶抽出液である場合、エピガロカテキン1~200mg/100mL(より好ましくは50~100mg/100mL)、エピガロカテキンガレート1~200mg/100mL(より好ましくは50~100mg/100mL)を含み得る。
【0036】
(3)抽出物の配合割合
木材抽出液、及び農作物抽出液の配合割合は特に限定されず、得ようとするウイルス感染抑制効果の程度等に応じて適宜調整できる。
【0037】
本発明の好ましい態様において、本発明の感染抑制剤は、木材抽出液として、スギ抽出液、及び/又は、ヒノキ抽出液を含む。
本発明のより好ましい態様において、本発明の感染抑制剤は、木材抽出液として、スギ抽出液、及びヒノキ抽出液を両方含む。
【0038】
本発明の好ましい態様において、本発明の感染抑制剤は、農作物抽出液として、パプリカ葉抽出液、及び/又は、茶抽出液を含む。
本発明のより好ましい態様において、本発明の感染抑制剤は、農作物抽出液として、パプリカ葉抽出液、及び茶抽出液を両方含む。
【0039】
本発明の最も好ましい態様において、本発明の感染抑制剤は、スギ抽出液、ヒノキ抽出液、パプリカ葉抽出液、及び茶抽出液を全て含む。
【0040】
本発明の好ましい態様において、本発明の感染抑制剤は、全体として、以下を全て含む。
・テルピネン-4-オール:好ましくは0.01~50ppm、より好ましくは0.5ppm以上
・α-テルピネオール:好ましくは0.01~50ppm、より好ましくは0.5ppm以上
・γ-アミノ酪酸:好ましくは3~40ppm、より好ましくは7~9ppm
・エピガロカテキンガレート:好ましくは0.1~10ppm、より好ましくは0.5~5pppm
【0041】
(4)本発明の感染抑制剤の作用等
本発明の感染抑制剤による感染予防効果は、DNAウイルスやRNAウイルスに対して、ウイルス変異を考慮に入れた防御が可能である点であるとともに、天然資源由来であることから、腸内や皮膚の常在菌に対する悪影響を与えない点で有利である(図2)。
【0042】
さらに、本発明の感染抑制剤は、製剤化において、効率的な資源循環を実現しつつ製造できるため、持続可能な社会において極めて重要な意義を有する。
このように、ライフサイクルアセスメントの観点から、省エネルギーかつ、温暖化ガスの発生を抑制した形で機能性製剤を抽出することは重要である。
【0043】
(5)本発明の感染抑制剤の用途等
本発明の感染抑制剤は、ウイルスの感染抑制のために使用される。
【0044】
本発明において「ウイルスの感染抑制効果」とは、本発明の感染抑制剤の存在下で、ウイルスの増殖が抑制されることを包含する。
ウイルスの感染抑制効果は、実施例に示した方法で評価できる。
【0045】
本発明の感染抑制剤の感染抑制対象であるウイルスの種類は、特に限定されず、DNAウイルス、RNAウイルス等の広範なウイルスを包含する。
例えば、哺乳類(ヒト、愛玩動物(イヌ、ネコ等)、家畜(ブタ等)等)に感染する任意のコロナウイルス、及びその変異株が挙げられる。
【0046】
RNAウイルスとしては、ブタ流行性下痢(PED)ウイルス、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)、季節性インフルエンザウイルス、鳥インフルエンザ、ブタ熱ウイルス等が挙げられる。
【0047】
DNAウイルスとしては、ヘルペスウイルス、アデノウイルス等が挙げられる。
【0048】
本発明の効果が得られやすいという観点から、本発明の感染抑制剤の感染抑制対象は、ブタ流行性下痢(PED)ウイルス、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)等が好ましい。
【0049】
(6)本発明の感染抑制剤によるウイルス感染抑制方法
本発明の感染抑制剤と、ウイルスを任意の方法で接触させることで、ウイルスを感染抑制することができる。
【0050】
本発明の感染抑制剤と、ウイルスとの接触方法は特に限定されないが、例えば、本発明の感染抑制剤を、ウイルスの存在が疑われる対象に対して、空間噴霧する方法、任意の形態(塗布薬等)で投与する方法、含浸物(本発明の感染抑制剤をティッシュペーパーに浸したもの等)で拭う方法等が挙げられる。
【0051】
本発明の感染抑制剤を接触させる対象としては、生体(例えば、皮膚表面、鼻孔内等)だけではなく、生活用品(例えば、家具、電化製品、雑貨等の表面)、各種設備(例えば、柵、ケージ等の飼育設備の表面)等の生体と接触する可能性がある各種物品等が挙げられる。
【0052】
本発明の感染抑制剤は、皮膚への刺激性が低いことから、皮膚への塗布によって使用する態様が好ましい例として挙げられる。
【実施例0053】
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0054】
<成分の分析方法>
各試験において、木材抽出液については、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)(Thermo Fisher Scientific)を用いて定性的な解析を実施した。
サンプル前処理は、ヘッドスペース条件として、容器注入量を2mLに設定し、対象抽出液を80℃で5分間振動し、気液平衡後にGC/MSに注入した。注入口温度は、250℃、カラム温度は次のような設定条件(40℃、2min hold→8℃、1min→250℃、5min hold)として、流量1mL/min、スプリット(100:1)、イオン化法(EI)、トランスファーライン(250℃)、イオン源(250℃)で測定した。これらの波形データから、テルピネン-4-オール、並びにα-テルピネオールが豊富な木材抽出液であることを確認した。
次に、農作物中の機能成分については、株式会社サーマスにて次のように実施された。サンプルを、Sawada,Y.らの方法(“A novel method for single-grain-based metabolic profiling of Arabidopsis seed”, Metabolomics 13, doi:10.1007/s11306-017-1211-1 (2017))に基づいて分析に供した。要するに、サンプルを凍結乾燥後、破砕し、秤量(乾燥重量4mg)したものを、ビーズを予め入れた2mLワトソンチューブに入れ、抽出溶媒1mLを用いて抽出後、遠心し、抽出サンプルを濾過した上で、UPLC(Acquity UPLC)(Waters製)、MS(Xevo TQ-S)(Waters)によって解析を実施した。これらによって、カテキン、及びGABAの存在を確認した。
これらの機能性成分の濃度の確定は、一般財団法人日本食品分析センターにて実施した。
【0055】
(1)γ-アミノ酪酸(GABA)の定量法
(1-1)標準品
γ-アミノ酪酸標準物質(≧98.0%、富士フイルム和光純薬株式会社)
(1-2)試液(クエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.2))の調製
クエン酸三ナトリウム二水和物980gに、水約3500mLを加えて溶かし、塩酸約700mL、及びオクタン酸5mLを加え、塩酸でpH2.2に調整した後、水で5000mLとしたものをクエン酸ナトリウム緩衝液原液とした。
クエン酸ナトリウム緩衝液原液500mLにチオジエチレングリコール100mL、及び水4000mLを加え、塩酸でpH2.2に調整した後、水で5000mLとした。
(1-3)標準溶液の調製
γ-アミノ酪酸標準物質を0.01mol/L塩酸に溶解し、2.5μmol/mLの標準原液を調製した。この標準原液をクエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.2)で希釈し、0.1μmol/mLの標準溶液を調製した。
(1-4)試験溶液の調製
検体をミルで粉砕後、検体の重量を測定し、検体重量の約1/2量の10%スルホサリチル酸溶液を加えてミルで粉砕した。粉砕物約4.5gを精密に量り、10%スルホサリチル酸溶液25mLを加え、20分間振とうした。水酸化ナトリウム溶液を加えてpH2.2付近に調整し、クエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.2)で50mLに定容後、濾紙(No.1、東洋濾紙株式会社)で濾過した。この溶液を、孔径0.45μmのメンブランフィルターで濾過した液を試験溶液とした。
(1-5)測定
(1-5-1)測定法
[操作方法]
標準溶液及び試験溶液のそれぞれ20μLをアミノ酸自動分析計に注入し、標準溶液のγ-アミノ酪酸のピーク保持時間より、試験溶液中のγ-アミノ酪酸を同定(定性)し、ピーク高さを測定した。
[計算]
次式により含量を求めた。
遊離γ-アミノ酪酸含量(mg/100g)=S×103.12×A/B×V×100/W×F×10-3
S:標準溶液の濃度(μmol/mL)
A:試験溶液のピーク高さ
B:標準溶液のピーク高さ
V:試験溶液の定容量(mL)
W:粉砕物採取量(g)
F:補正係数
F=(検体重量(g)+10%スルホサリチル酸溶液添加量(g))/検体重量(g)
103.12:γ-アミノ酪酸の分子量
[アミノ酸自動分析計操作条件]
機種:LA8080高速アミノ酸分析計(株式会社日立ハイテクサイエンス)
カラム:日立カスタムイオン交換樹脂、φ4.6mm×60mm(株式会社日立ハイテクサイエンス)
移動相:タンパク質加水分解物分析法用緩衝液 PH KANTO(PH-1~PH-RG、関東化学株式会社)
反応液:日立用ニンヒドリン発色溶液キット(富士フイルム和光純薬株式会社)
流量:移動相0.40mL/min、反応液0.35mL/min
カラム温度:57℃
反応槽温度:135℃
測定波長:570nm
アミノ酸自動分析計タイムプログラム:
タンパク質加水分解物分析法用緩衝液 PH KANTO
PH-1 PH-2 PH-3 PH-4 PH-RG
0.0分 100% 0% 0% 0% 0%
2.5分 100% 0% 0% 0% 0%
2.6分 0% 100% 0% 0% 0%
4.5分 0% 100% 0% 0% 0%
4.6分 0% 0% 100% 0% 0%
12.8分 0% 0% 100% 0% 0%
12.9分 0% 0% 0% 100% 0%
27.0分 0% 0% 0% 100% 0%
27.1分 0% 0% 0% 0% 100%
32.0分 0% 0% 0% 0% 100%
【0056】
(2)テルピネン-4-オールの定量法
方法:ガスクロマトグラフィー質量分析法
目標定量下限:0.1ppm
検体必要量:100g程度/1検体
【0057】
(3)α-テルピネオールの定量法
方法:ガスクロマトグラフィー質量分析法
目標定量下限:0.1ppm
検体必要量:50g(最低量;20g)以上/1検体
【0058】
(4)エピガロカテキンガレートの定量法
検体必要量:20mL以上(液体)、20g以上(粉末等)
分析方法:高速液体クロマトグラフィー、又は液体クロマトグラフィー質量分析法
定量下限:0.5mg/100g
【0059】
<試験1:ウイルス感染抑制剤の調製>
以下の方法で、各種抽出液を調製し、それらを混合してウイルス感染抑制剤を得た。
【0060】
(1)スギ抽出液の調製
スギ枝葉の破砕物から、真空蒸留によって留出物を回収し、スギ抽出液を得た。
真空蒸留の条件は、圧力99Mpa、温度40℃以下に設定し、スギ枝葉温度が40℃以上に上がらないように計測制御しながら、除湿機能ライン、真空蒸留ラインで交互に24時間抽出を行い、スギ枝葉に含まれる細胞水のみ回収した。
なお、スギ枝葉の含水率は、季節にもよるが平均50%であり、真空蒸留の際には、20%くらいまで含水率を下げて細胞水を抽出した。
【0061】
得られたスギ抽出液は、テルピネン-4-オール53ppm、α-テルピネオールとして1ppmであり、試験に供する液量(2.5mL)当たりに直すと、テルピネン-4-オール(132.5μg)、α-テルピネオール(2.5μg)、及びその他の物質が含まれていた。
【0062】
(2)ヒノキ抽出液の調製
ヒノキ枝葉の破砕物から、真空蒸留によって留出物を回収し、ヒノキ抽出液を得た。
真空蒸留の条件は、圧力99Mpa、温度40℃以下に設定し、ヒノキ枝葉温度が40℃以上に上がらないように計測制御しながら、除湿機能ライン、真空蒸留ラインで交互に24時間抽出を行い、ヒノキ枝葉に含まれる細胞水のみ回収した。
なお、ヒノキ枝葉の含水率は、季節にもよるが平均50%であり、真空蒸留の際には、20%くらいまで含水率を下げて細胞水を抽出した。
【0063】
得られたヒノキ抽出液は、テルピネン-4-オール92ppm、α-テルピネオールとして19ppmであり、試験に供する液量(2.5mL)当たりに直すと、テルピネン-4-オール(230μg)、α-テルピネオール(47.5μg)、及びその他の物質が含まれていた。
【0064】
(3)パプリカ葉抽出液の調製
パプリカ葉を収穫後そのまま真空乾燥機に投入し、真空蒸留によって留出物を回収し、パプリカ葉の抽出液を得た。
真空蒸留の条件は、圧力99Mpa、温度40℃以下に設定し、物体温度が40℃以上に上がらないように計測制御しながら、除湿機能ライン、真空蒸留ラインで交互に24時間抽出を行い、パプリカ葉に含まれる細胞水のみ抽出した。
なお、パプリカ葉の含水率は、季節にもよるが平均85%であり、真空蒸留の際には、10%くらいまで含水率を下げて細胞水を抽出した。
【0065】
得られたパプリカ葉抽出液には、γ-アミノ酪酸(約7~9mg/100mL)が含まれていた。
【0066】
(4)茶抽出液の調製
製品として加工されていない廃棄予定の緑茶葉(20g)に対し、100mLで2分間抽出を行い、茶抽出液(水溶液)を得た。なお、当該緑茶葉の品種は藪北の粗茶を活用した。
【0067】
得られた茶抽出液には、エピガロカテキン(約80mg/100mL)、エピガロカテキンガレート(約80mg/100mL)が含まれていた。茶葉20g当たりとして80mgなので、それぞれ0.4%に当たる。
なお、一般的にはこれらの抽出効率を高めるためには70~80℃の温度帯が好ましいことを確認した。
【0068】
(5)ウイルス感染抑制剤-1の調製
上記で得られた、4種の抽出液のうちスギ抽出液のみを使用し、「ウイルス感染抑制剤-1」を準備した。
【0069】
(6)ウイルス感染抑制剤-2の調製
上記で得られた、4種の抽出液を、等量の体積比(スギ抽出液:ヒノキ抽出液:パプリカ葉抽出液:茶抽出液=1:1:1:1)で混合し、「ウイルス感染抑制剤-2」を得た。その主な組成を下記表に示す。
【0070】
<ウイルスの感染抑制効果試験の手順>
「ウイルス感染抑制剤-1」、又は「ウイルス感染抑制剤-2」を試料として用いて、ウイルスの感染抑制効果を検討した。なお、下記試験は、該当法令に準拠した上で、株式会社食環境衛生研究所にて行った。
【0071】
(1)試料の希釈
「ウイルス感染抑制剤-1」、及び「ウイルス感染抑制剤-2」をそれぞれ蒸留水で希釈し、試験2、3、4の試料として用いた。該試料の希釈前溶液には表1、表2に示す成分が含まれていた。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
(2)ウイルス及び培養細胞の準備
ブタ感染性のコロナウイルスである、ブタ流行性下痢ウイルス(Porcine epidemic diarrhea virus(PEDV)、P-5V株)を準備した。
培養細胞として、Vero細胞(アフリカミドリザルの腎臓上皮由来株化細胞)を用いた。
【0075】
(3)ウイルスの接種
以下の方法に基づき、試料とウイルスとを接触させた。なお、以下の試験は、「ウイルス実験学 総論 改訂二版 丸善株式会社 ウイルス中和試験法」を参考として実施した。
【0076】
(3-1)予備試験
本試験に先立って、試料が培養細胞に与える影響(細胞毒性)を確認した。
まず、試料をリン酸緩衝液で10倍段階希釈した後、培養細胞に接種し、培養後の細胞の正常な状態を示す最高濃度を確認し、試験に使用するウイルス濃度を決定した。
その結果、試料の10倍、あるいは100倍希釈液において細胞の発育不良が確認された。このため、試験に際しては、試料とウイルス液との混合液を10倍、あるいは100倍以上希釈した後に細胞へ接種する必要があると判明した。
また、ウイルス添加濃度は10TCID50/mL以上に設定した。
【0077】
(3-2)本試験
表2に示す試験区分に従い、試料及びリン酸緩衝液(各10mL)をそれぞれ分取し、予備試験で決定した濃度でウイルス液(1mL)を添加した。
ウイルス液添加後、得られた混合液を室温(25℃)で3時間静置した。
【0078】
【表3】
【0079】
次いで、感作が終了した各混合液を、それぞれ10倍段階希釈し、96wellプレート中の培養細胞に100μLずつ接種した。
接種後、37℃、炭酸ガス培養(5%)で5日間培養した。
得られた培養細胞を顕微鏡観察し、培養細胞に現れるCPE(細胞変性)に基づき、ウイルス増殖の有無を確認し、その濃度を試験区分ごとに算出した。
【0080】
得られた値に基づき、対照区に対する試験区のウイルス減少率(%)を下式から算出した。
ウイルス減少率(%)=(対照区-試験区)/対照区 ×100
【0081】
<試験2:ウイルスの感染抑制効果試験-1>
試験1で得られたウイルス感染抑制剤-1を用いて、スギ抽出液単独のウイルス感染力抑制試験を実施した。予備試験の結果から、ウイルス感染抑制剤-1原液の10倍希釈液で試験を実施した。その希釈後の濃度を文献値と比較するために、ppm(μg/mL)で表記すると表4のようになる。
【0082】
【表4】
【0083】
当該希釈液を用いた結果を、試験2の結果として図3に示す。
【0084】
対照区においては、試験開始(ウイルスの添加時点)から、試験開始後3時間までの間にウイルス量の自然減衰が認められた(106.9→106.3 TCID50/mL)。
これに対し、試験区では、試験開始後3時間でウイルス量の顕著な減少が認められた(<102.5 TCID50/mL(320)、減少率=99.98%以上)。
上記の結果から、本発明のウイルス感染抑制剤は、ブタ流行性下痢ウイルスに対する優れた感染抑制効果を有することがわかった。
【0085】
木材抽出液中の有効成分が、ウイルスに対する感染力抑制効果(モデルウイルス:ヘルペスウイルス)を発揮する濃度は、非特許文献3のとおり、75~100(μg/mL)(ppm)であるが、この濃度は細胞毒性を示さない濃度にも比較的近い。
【0086】
一方、上記試験2で実施した濃度は、希釈後の濃度として、テルピネン-4-オールは、5.3ppm、α-テルピネオール0.1ppmであり、極めて低い濃度であることがわかる。すなわち、製造工程における省エネ工程、並びにその力価を考慮したときに効果的な技術であることがわかる。
【0087】
<試験3:ウイルスの感染抑制効果試験-2>
試験1で得られた得られたウイルス感染抑制剤-2を用いて、より低濃度での力価の評価を実施した。ウイルス感染抑制剤-2の希釈濃度は100倍にて実施した。その組成を下記表に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
結果を図4に示す。
対照区においては、試験開始(ウイルスの添加時点)から、試験開始後3時間までの間にウイルス量の自然減衰が認められた(106.1→105.9 TCID50/mL)。
これに対し、試験区では、試験開始後3時間でウイルス量の顕著な減少が認められた(<103.5 TCID50/mL、減少率=99.59%以上)。
上記の結果から、ウイルス感染抑制効果としてより低濃度の条件においても、本発明のウイルス感染抑制剤は、ブタ流行性下痢ウイルスに対する優れた感染抑制効果を有することがわかった。
【0090】
なお、テルピネン-4-オールは0.36ppm、α-テルピネオールは0.05ppmであり、極めて低い濃度で効果的であることがわかる。また、エピガロカテキン、並びにエピガロカテキンガレートについても極めて低濃度であり、前述のように、茶葉相当として、0.4%相当のエピガロカテキン、並びにエピガロカテキンガレートが含まれていることを想定すると、極めて微量でも効果を発揮していることになる。
これらの結果は、ウイルスに対して効果のある上記資材の濃度を可変的に扱うことができる可能性を示唆している。
【0091】
<試験4:ウイルスの感染抑制効果試験-3>
試験1で得られた得られたウイルス感染抑制剤-2を用いて、より低濃度での力価の評価を実施した。ウイルス感染抑制剤-2の希釈濃度は10倍にて実施した。
【0092】
(1)試料の希釈
「試験1」で得られた試料を蒸留水で希釈し、試料として用いた。該試料には下記表に示す成分が含まれていた。
【0093】
【表6】
【0094】
(2)試験方法
試験は、ウイルスとして、PEDVの代わりに、SARS-CoV-2コロナウイルス(デルタ株)を用いた点以外は、上記「試験2」と同様の条件で行った。試験区分は表4に示すとおりである。
なお、本例で用いた株は、ヒト由来分離株であり、Vero細胞(アフリカミドリザルの腎臓上皮由来株化細胞)を用いて唾液より分離培養後、リアルタイムPCRを用いて、SARSコロナウイルス2遺伝子の増幅の確認(厚生労働省通知法)を行ったものである。
【0095】
【表7】
【0096】
(3)結果
結果を図5に示す。
対照区においては、試験開始(ウイルスの添加時点)から、試験開始後3時間までの間にウイルス量の自然減衰が認められた(107.3→106.9TCID50/mL)。
これに対し、試験区では、試験開始後3時間でウイルス量の顕著な減少が認められた(<102.5TCID50/mL、減少率=99.99%以上)。
上記の結果から、本発明の感染抑制剤は、SARSコロナウイルス2に対する優れた感染抑制効果を有することがわかった。
【0097】
なお、テルピネン-4-オールは3.6ppm、α-テルピネオールは0.5ppmであり、前述の既知の非特許文献3の有効濃度75~100(μg/mL)(ppm)よりも極めて低い濃度で効果的であることがわかる。
また、ヒノキチオールは、ウイルスに対する効果が指摘されているが、特許文献1では0.02%(20ppm)以上必要とされている。本発明で用いられた木材抽出液では、ヒノキチオールは検出されていないことから、本要因は関与しないことがわかる。また一般的に木材抽出液の抗菌効果は、非特許文献16に記載しているとおり、100ppm以上であることから、本発明のウイルスに対する感染力抑制効果は、動物の体内外に共生している常在菌に対して悪影響を与えない。
また、エピガロカテキン、並びにエピガロカテキンガレートについても、前述の非特許文献6、非特許文献7では50μMであることから、分子量から換算すると、少なくとも有効濃度として22.9ppmは必要であることが推察されるため、本発明による濃度よりも高くなければ効果がないことになる。
一方、本試験の濃度は、5ppm程度であり、前述のように、茶葉相当として、上記「(4)茶抽出液の調製」における0.4%相当のエピガロカテキン、並びにエピガロカテキンガレートが含まれていることを想定すると、極めて微量で効果を発揮していることになる。
【0098】
<試験5:ウイルスの感染抑制効果試験-4>
試験1で得られた得られたウイルス感染抑制剤-1、又はウイルス感染抑制剤-2のうち、木材抽出液の中に含まれるテルピネン-4-オールとα-テルピネオールが豊富なヒノキ抽出液をモデルとして用いて、皮膚毒性評価試験を実施した。本試験は、OECDガイドライン(OECD Guideline for Testing of Chemicals 404(2015))に準拠したものである。
なお、本試験は、日本食品分析センターにて行った。
【0099】
具体的には、ウイルス感染抑制剤-2を、ウサギ3匹の無傷及び有傷皮膚に4時間閉鎖適用し、無刺激性の範疇として評価した。評価は、ISO 10993-10:2010, Biological evaluation of medical device Part10に従った。
その結果、一次刺激性インデックス(P.I.I.)は0となった。
【0100】
これらの結果から、本発明のウイルス感染抑制剤は、噴霧以外にも、皮膚に対する直接的な塗布も含めて用途開発が可能であることが推察される。
通常のアルコールや塩化ベンザルコニウム等では、皮膚荒れ等の問題を生じ得る。一方で、本発明のウイルス感染抑制剤は、木材、あるいは農作物由来の成分であることから、安心な素材として塗布することも可能であることが推察される。
【0101】
<本発明の産業上の利用可能性>
現在、普及している抗ウイルス試験は、低濃度のウイルス量の評価を主としていない。さらに、腸内細菌や皮膚の共生常在菌に対する影響も含めた観点は必ずしも重視されていない。
しかしながら、最新科学では、共生常在菌が重要であることが示唆されており、安全性の観点は従来とは異なってきている。また、植物由来の揮発性成分は、森林浴成分として、リラックス効果も含めて古くから安全性が高いことが知られているため、これらの点からアルコールや塩化ベンザルコニウム等の化学成分とは異なる環境と健康に優しい観点で取り扱う必要がある。
【0102】
従来、植物由来のテルペン類は低濃度のウイルスに対する効果を見ており、抗ウイルス効果自体はやや弱い。
実際、上述した非特許文献3(Astani, A., Reichling, J. & Schnitzler, P. Comparative study on the antiviral activity of selected monoterpenes derived from essential oils. Phytother Res 24, 673-679, doi:10.1002/ptr.2955 (2010))では、RNAウイルスよりも安定なDNAウイルスとして、Herpesウイルスに対する不活化効果を示しているが、試験系は低濃度2×10pfuにおいて検証されている。これは、生体には優しいものの、効力は弱い可能性がある。
【0103】
一方、本発明の感染抑制剤は、その製造工程によって、抽出液の組成が安定化しており、植物由来の機能成分の効果が発揮されやすいことが想定される。
本明細書に記載した、ウイルスに対する感染力抑制効果試験は、10pfμ/mLオーダー以上で実施したものであり、かつ低濃度のテルピネン-4-オール、並びにα-テルピネオール、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレートによって効果を発揮したため、その効果は非常に高いことがわかる。また、様々な廃棄物に適用できる持続可能性の観点を加味することが可能であるとともに、効果的なウイルス感染抑制成分の複合的な効果により、より広範なウイルス対策に効果を有することが示唆される。
【0104】
すなわち、本発明の感染抑制剤のメリットは、環境と健康に優しい複合的資材であり、ウイルスに対する作用ポイントが異なる可能性が高く、低濃度で効果的である点である。
単一の成分を含む抗ウイルス製剤の場合、ウイルスの遺伝子変異によって効果を失ってしまう可能性がある。しかしながら、複合的資材であれば、変異ウイルスの出現を食い止めやすい。
また、本発明の感染抑制剤の構成成分が、木材(森林浴成分)由来や、農作物由来であることから、腸内や皮膚の常在菌に対して、悪影響を与えにくい。
これらの成分が低濃度で力価を要する要因は抽出方法が低温で実施されている点も関与するのかもしれない。
【0105】
いずれにしても、省エネ型で低温抽出できることはメリットであり、本発明の感染抑制剤の構成成分が、資源循環の中で効率的に生産した上で、従来よりも機能性が高い点は、持続可能なウイルス対策を進めていく上で重要なポイントといえる。
図1
図2
図3
図4
図5