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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093451
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】軸受装置、および潤滑剤管理装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20240702BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20240702BHJP
   F16N 29/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/38
F16N29/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209842
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】綿本 裕
(72)【発明者】
【氏名】野原 誠
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩隆
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA15
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701CA08
3J701CA15
3J701CA17
3J701FA32
(57)【要約】
【課題】 潤滑不良の発生を抑制することができる技術を提供する。
【解決手段】軸受装置10は、転がり軸受14と、転がり軸受14を収容するハウジング16と、ハウジング16内へ潤滑剤を供給する供給機構36と、供給機構36による潤滑剤の供給に応じてハウジング16外へ排出される潤滑剤に関する物理量を測定する測定部40と、を備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受と、
前記転がり軸受を収容するハウジングと、
前記ハウジング内へ潤滑剤を供給する供給機構と、
前記供給機構による前記潤滑剤の供給に応じて前記ハウジング外へ排出される潤滑剤に関する物理量を測定する測定部と、を備える
軸受装置。
【請求項2】
前記供給機構および測定部を制御する制御処理を実行する制御部をさらに備え、
前記制御処理は、
所定の条件を満たすか否かを判定する第1処理と、
前記所定の条件を満たすと判定すると、前記供給機構による前記ハウジング内への前記潤滑剤の供給を開始させる第2処理と、含む
請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記制御処理は、
前記測定部による測定結果に基づいて、前記潤滑剤の供給を停止させるか否かを判定する第3処理をさらに含む
請求項2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記物理量は、前記潤滑剤に含まれる鉄粉の濃度を含み、
前記第3処理では、前記鉄粉の濃度が、所定の閾値以下の場合、前記潤滑剤の供給を停止させる
請求項3に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記測定部に測定を開始させるための命令を外部から受信する受信部をさらに備え、
前記所定の条件は、前記命令を受信したことを含む
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の軸受装置。
【請求項6】
前記所定の条件は、直近に実行した前記第2処理から所定期間が経過したことを含む
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の軸受装置。
【請求項7】
前記測定部による測定結果を外部へ送信する送信部をさらに備える
請求項1に記載の軸受装置。
【請求項8】
転がり軸受を収容するハウジング内へ潤滑剤を供給する供給機構と、
前記供給機構を制御する制御処理を実行する制御部と、
前記供給機構による前記潤滑剤の供給に応じて前記ハウジング外へ排出される潤滑剤に関する物理量を測定する測定部と、を備える
潤滑剤管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置、および潤滑剤管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
引用文献1には、転がり軸受内から潤滑剤を吸引し、吸引した潤滑剤に関する物理量を測定する潤滑剤検査装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-85493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記装置では、転がり軸受内から潤滑剤を吸引部によって吸引するため、例えば、吸引後に十分な量の潤滑剤が補充されない等の理由により潤滑剤が不足し、転がり軸受に潤滑不良を生じさせるおそれがある。
作業者が容易に点検可能な転がり軸受では、必要な量の潤滑剤を作業者が補充すれば、潤滑不良の発生を抑制できる。
しかし、例えば、風力発電装置の主軸を支持するための転がり軸受といったように、装置が高所や遠隔地に設置されているために作業者が容易に点検することができない場合には、潤滑不良の発生が懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態である軸受装置は、転がり軸受と、前記転がり軸受を収容するハウジングと、前記ハウジング内へ潤滑剤を供給する供給機構と、前記供給機構による前記潤滑剤の供給に応じて前記ハウジング外へ排出される潤滑剤に関する物理量を測定する測定部と、を備える。
【0006】
また、他の観点から見た本実施形態は、潤滑剤管理装置である。この潤滑剤管理装置は、転がり軸受を収容するハウジング内へ潤滑剤を供給する供給機構と、前記供給機構を制御する制御処理を実行する制御部と、前記供給機構による前記潤滑剤の供給に応じて前記ハウジング外へ排出される潤滑剤に関する物理量を測定する測定部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、潤滑不良の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る軸受装置を含む風力発電装置の構成例を示す図である。
図2図2は、第1実施形態に係る軸受装置を示す図である。
図3図3は、測定部を示す断面図である。
図4図4は、制御処理の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、第2実施形態に係る軸受装置の測定部を示す図である。
図6図6は、第3実施形態に係る軸受装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
最初に実施形態の内容を列記して説明する。
[実施形態の概要]
(1)実施形態である軸受装置は、転がり軸受と、前記転がり軸受を収容するハウジングと、前記ハウジング内へ潤滑剤を供給する供給機構と、前記供給機構による前記潤滑剤の供給に応じて前記ハウジング外へ排出される潤滑剤に関する物理量を測定する測定部と、を備える。
【0010】
上記軸受装置によれば、潤滑剤の供給によってハウジング内には必要な量の潤滑剤が保持され、潤滑剤の供給に応じてハウジング外へ排出される余剰な潤滑剤を用いて測定が行われる。
このため、潤滑剤の吸引機構を必要とせず、ハウジング外へ排出される余剰な潤滑剤に対して測定を行うので、潤滑剤の不足状態になるのを防止でき、転がり軸受に潤滑不良を生じさせるのを抑制することができる。
【0011】
(2)上記軸受装置において、前記供給機構および測定部を制御する制御処理を実行する制御部をさらに備える場合、前記制御処理は、所定の条件を満たすか否かを判定する第1処理と、前記所定の条件を満たすと判定すると、前記供給機構による前記ハウジング内への前記潤滑剤の供給を開始させる第2処理と、含むことが好ましい。
この場合、所定の測定開始条件を満たせば、潤滑剤の供給を開始させ、測定部による潤滑剤の物理量の測定を開始させることができる。
【0012】
(3)上記軸受装置において、前記制御処理は、前記測定部による測定結果に基づいて、前記潤滑剤の供給を停止させるか否かを判定する第3処理をさらに含むことが好ましい。
測定結果が潤滑剤の劣化度合を示す場合、潤滑剤の劣化がそれほど進んでいなければ、潤滑剤の供給を停止して現状の潤滑剤の使用を継続させ、潤滑剤の劣化が進行していれば、潤滑剤の供給を継続してハウジング内の潤滑剤を新たに供給される潤滑剤によって入れ替えることができる。
【0013】
(4)上記軸受装置において、前記物理量が、前記潤滑剤に含まれる鉄粉の濃度を含む場合、前記第3処理では、前記鉄粉の濃度が、所定の閾値以下の場合、前記潤滑剤の供給を停止させることがある。
この場合、前記鉄分の濃度に基づいて、潤滑剤の供給を停止させるか否かを判定することができる。
【0014】
(5)上記軸受装置において、前記測定部に測定を開始させるための命令を外部から受信する受信部をさらに備える場合、前記所定の条件は、前記命令を受信したことを含んでいてもよい。
この場合、外部からの命令によって潤滑油の供給および測定を実行させることができる。よって、遠隔制御が可能となる。
【0015】
(6)また、前記軸受装置において、前記所定の測定開始条件は、直近に実行した前記第2処理から所定期間が経過したことを含んでいてもよい。
この場合、所定期間ごとに、潤滑剤の供給および測定を実行させることができる。
【0016】
(7)上記軸受装置において、前記測定部による測定結果を外部へ送信する送信部をさらに備えていてもよい。
この場合、測定結果を外部へ送信することができる。
【0017】
(8)また、他の観点から見た本実施形態は、潤滑剤管理装置である。この潤滑剤管理装置は、転がり軸受を収容するハウジング内へ潤滑剤を供給する供給機構と、前記供給機構を制御する制御処理を実行する制御部と、前記供給機構による前記潤滑剤の供給に応じて前記ハウジング外へ排出される潤滑剤に関する物理量を測定する測定部と、を備える。
【0018】
[実施形態の詳細]
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔全体構成について〕
図1は、実施形態に係る軸受装置を含む風力発電装置の構成例を示す図である。
風力発電装置1は、ブレード2と、支柱4と、ナセル6と、主軸8と、軸受装置10と、発電機構12と、を備える。
ブレード2は、主軸8の先端の設けられた複数枚の羽根によって構成される。ブレード2は、風を受けることで主軸8を回転させる。
主軸8は、ブレード2が受ける風力による回転を発電機構12へ伝達する。
軸受装置10は、主軸8を回転自在に支持する。
ナセル6は、支柱4の上端に設けられている。ナセル6は、主軸8や、軸受装置10、発電機構12を内部に収容する。
発電機構12は、主軸8による回転力を増速する増速機や、増速された回転力によって発電する発電機を含む。
【0019】
実施形態に係る軸受装置10は、転がり軸受14と、ハウジング16と、潤滑剤管理装置18と、を含む。
潤滑剤管理装置18は、外部の管理装置19と、移動無線通信システムや無線LAN等によって無線通信が可能である。
【0020】
管理装置19は、例えば、処理部19aと、潤滑剤管理装置18との間で無線通信するための通信部19bと、を含む。処理部19aは、例えば、コンピュータである。
処理部19aは、通信部19bによる無線通信を介して、潤滑剤管理装置18との間で情報の授受を行うことができる。
処理部19aは、潤滑剤管理装置18に対する命令を生成し、生成した命令を潤滑剤管理装置18へ送信する機能を有する。これによって、管理装置19は、潤滑剤管理装置18を外部から遠隔操作することができる。
【0021】
〔軸受装置10について〕
図2は、第1実施形態に係る軸受装置10を示す図である。
上述したように、軸受装置10は、転がり軸受14と、ハウジング16と、潤滑剤管理装置18と、を含む。
ハウジング16は、転がり軸受14を内部に収容する。また、ハウジング16は、転がり軸受14をナセル6に対して支持する。
転がり軸受14は、ハウジング16に収容された状態で主軸8を回転自在に支持する。
【0022】
図2中、転がり軸受14は、外輪20と、内輪22と、複数の転動体24と、保持器26と、を有する。転がり軸受14は、自動調心ころ軸受である。
外輪20は、機械構造用鋼等によって形成された環状の部材である。外輪20の内周側には、凹球面状の外輪軌道20aが設けられている。また、外輪20の上側部分の軸方向中央には、孔部20bが設けられている。孔部20bは、外輪20の内周面および外周面を連通する。
【0023】
内輪22は、機械構造用鋼等によって形成された環状の部材である。内輪22の外周側には、複列の内輪軌道22aが設けられている。内輪22は、主軸8の外周面に外嵌固定されている。よって、内輪22と、主軸8とは、一体に回転する。
複数の転動体24は、外輪軌道20aと、内輪軌道22aとの間に転動自在に周方向に沿って複列に配列されている。複数の転動体24は、それぞれ、軸受鋼等によって形成された球面ころである。
保持器26は、複数の転動体24を周方向に沿って等間隔に保持する環状の部材である。
【0024】
ハウジング16は、本体部30と、一対の蓋32と、を有する。
本体部30は、円筒内周面30aと、給脂孔30bと、を有する。円筒内周面30aは、本体部30の両端面を連通する孔の内周面である。円筒内周面30aの中心軸は、主軸8の中心軸と一致する。円筒内周面30aには、外輪20が嵌合固定されている。よって、転がり軸受14は、円筒内周面30aの内部空間Sに収容されている。
【0025】
給脂孔30bは、ハウジング16の上部に設けられている。給脂孔30bは、ハウジング16の上面と、円筒内周面30aと、を連通する。
給脂孔30bには、潤滑剤管理装置18のポンプ36b(後に説明する)から延びる配管が接続されている。
外輪20の孔部20bの上側開口と、給脂孔30bの円筒内周面30a側の開口と、は一致している。つまり、孔部20bと、給脂孔30bとは、内部空間Sと、ハウジング16の外部空間と、を連通する。
よって、潤滑剤管理装置18から与えられる潤滑剤は、ハウジング16の給脂孔30bおよび外輪20の孔部20bを通過し、転がり軸受14の内部(内部空間S)に供給される。
【0026】
一対の蓋32は、円筒内周面30aの両端開口を塞ぐ円環状の部材である。一対の蓋32は、それぞれ、中心孔32aを有する。中心孔32aは主軸8を通過させるための孔である。一対の蓋32は、円筒内周面30aの両端開口を塞ぐことで、円筒内周面30aの内部空間Sを閉鎖する。
円筒内周面30aの内部空間Sには、潤滑剤が充填される。充填される潤滑剤としては、潤滑油や、グリース等が挙げられる。
円筒内周面30aの内部空間Sに充填される潤滑剤は、外輪20と内輪22との間の環状空間内にも充填され、転がり軸受14を潤滑する。
【0027】
また、一対の蓋32のうち、一方の蓋32は、排出孔32bを有する。排出孔32bは、ハウジング16(の内部空間S)内の潤滑剤をハウジング16外へ排出するための孔である。
【0028】
潤滑剤管理装置18は、ハウジング16内へ潤滑剤を供給する機能を有するとともに、ハウジング16から排出される潤滑剤に関する物理量を測定する機能を有する。
潤滑剤管理装置18は、供給機構36と、制御装置(制御部)38と、測定部40と、を有する。
【0029】
供給機構36は、ハウジング16内へ潤滑剤を供給する機能を有する。供給機構36は、潤滑剤タンク36aと、ポンプ36bと、を有する。潤滑剤タンク36aは、潤滑剤を貯留するタンクである。ポンプ36bは、潤滑剤タンク36aに貯留された潤滑剤を吸引し、ハウジング16の給脂孔30bへ吐出する。ポンプ36bは、制御装置38に接続されている。ポンプ36bは、制御装置38から与えられる制御命令に基づいて動作する。
【0030】
制御装置38は、例えば、コンピュータであり、プロセッサ等からなる処理部38aと、メモリやハードディスク等からなる記憶部38bと、を備える。
記憶部38bには、処理部38aに実行させるためのコンピュータプログラムや、必要な情報等が記憶されている。
処理部38aは、記憶部38bのようなコンピュータ読み取り可能な非一過性の記録媒体に記憶されたコンピュータプログラムを実行することで、処理部38aが有する各種処理機能を実現する。
処理部38aは、上述のコンピュータプログラムを実行することで、供給機構36を含む潤滑剤管理装置18の各部を制御する制御処理を実行する機能を有する。この制御処理については、後に説明する。
【0031】
また、制御装置38は、通信部38cを備える。通信部38cは、管理装置19との間で無線通信を行う機能を有する。処理部38aは、通信部38cによる無線通信を介して、管理装置19との間で情報の授受を行うことができる。
【0032】
測定部40は、ハウジング16外へ排出される潤滑剤に関する物理量を測定する機能を有する。
測定部40は、配管44によって排出孔32bに接続されている。また、測定部40は、配管46によって、排剤タンク48に接続されている。排剤タンク48は、ハウジング16外へ排出された潤滑剤を貯留するためのタンクである。
ハウジング16から排出された潤滑剤は、測定部40を通過した後、排剤タンク48に貯留される。
配管44には、電磁バルブ50が設けられている。電磁バルブ50は、配管44を開閉する機能を有する。電磁バルブ50は、制御装置38に接続されている。電磁バルブ50は、制御装置38から与えられる制御命令に基づいて、配管44の開閉動作を行う。
【0033】
測定部40は、潤滑剤に関する物理量として、潤滑剤に含まれる鉄粉の濃度を測定する。測定部40は、測定部40を通過する潤滑剤に含まれる鉄粉の濃度を測定する。
図3は、測定部40を示す断面図である。本実施形態の測定部40は、鉄粉濃度測定器52を含む。
鉄粉濃度測定器52は、配管54と、測定用コイル56と、参照用コイル(図示省略)と、検出用コイル(図示省略)と、を有する。鉄粉濃度測定器52は、いわゆる磁気バランス式電磁誘導法により、潤滑剤中に含まれる鉄粉の濃度を測定する。
【0034】
配管54の両端は、継手54a、54bによって、配管44、46に接続されている。よって、ハウジング16外へ排出された潤滑剤は、配管54を通過する。
測定用コイル56は、配管54を取り囲んでいる。よって、鉄粉濃度測定器52は、配管54内の潤滑剤に含まれる鉄粉の濃度を測定する。
鉄粉濃度測定器52の配管54には、ハウジング16外へ排出された潤滑剤が連続的に与えられる。よって、鉄粉濃度測定器52は、排出された潤滑剤の鉄粉の濃度を連続的に測定することができる。
【0035】
測定用コイル56および参照用コイルを励磁するための電源や、検出用コイルの誘導起電力を検出する検出部は、制御装置38に接続されている。前記電源は、制御装置38によって制御される。また、前記検出部の出力は、制御装置38に与えられる。
制御装置38は、前記検出部の出力に基づいて、潤滑剤中に含まれる鉄粉の濃度を求める。
【0036】
〔制御処理について〕
図4は、制御処理の一例を示すフローチャートである。
制御装置38の処理部38aは、転がり軸受14が運転状態にあるときに制御処理を実行する。
転がり軸受14が運転状態となり制御処理を開始すると、まず、処理部38aは、管理装置19からの測定開始命令を受信したか否かを判定する(ステップS1)。
測定開始命令は、管理装置19の処理部19aが生成する命令である。測定開始命令は、潤滑剤管理装置18による潤滑剤の物理量の測定を開始させるための命令である。
このステップS1による処理は、処理部38aが実行する第1処理である。第1処理は、所定の条件を満たすか否かを判定する処理である。本実施形態における所定の条件は、測定開始命令を受信したことである。
【0037】
処理部38aは、測定開始命令を受信したと判定するまで、ステップS1を繰り返す。
ステップS1において測定開始命令を受信したと判定すると、処理部38aは、電磁バルブ50を開放し、ポンプ36bを動作させ、測定部40の鉄粉濃度測定器52による測定を開始させる(ステップS2)。
このステップS2による処理は、処理部38aが実行する第2処理である。第2処理は、所定の条件を満たすと判定すると、ポンプ36bによるハウジング16内への潤滑剤の供給を開始させる処理である。
【0038】
転がり軸受14が運転状態にある場合、電磁バルブ50は閉鎖されており、ハウジング16内には、潤滑剤が充満されている。
よって、ポンプ36bを動作させハウジング16内に潤滑剤タンク36aに貯留された潤滑剤が供給されると、ハウジング16内の潤滑剤は、ポンプ36bからの潤滑剤の供給に応じて排出孔32bから押し出され、ハウジング16外へ排出される。
このとき、電磁バルブ50が開放されているので、排出孔32bから押し出された潤滑剤は、測定部40(鉄粉濃度測定器52)を通過し、排剤タンク48に至る。
測定部40の鉄粉濃度測定器52は、排出孔32bから押し出され測定部40を通過する潤滑剤の鉄粉の濃度を測定する。
【0039】
次いで、処理部38aは、所定の待機時間の経過を待つ(ステップS3)。これによって、排出孔32bから押し出される潤滑剤の状態が安定するのを待つことができる。
所定の待機時間が経過すると、処理部38aは、鉄粉濃度測定器52が測定した鉄粉の濃度が、第1閾値以下か否かを判定する(ステップS4)。
潤滑剤に含まれる鉄粉は、潤滑剤を汚染する物質である。よって、鉄粉の濃度は、潤滑剤の劣化の度合を示す値である。
潤滑剤を良好な状態で維持するためには、鉄粉の濃度を一定の値以下で維持する必要がある。
よって、ステップS4における第1閾値は、潤滑剤の劣化が進み、潤滑剤の入れ替えが必要な状態と判断し得る値に設定される。
【0040】
ステップS4において鉄粉の濃度が第1閾値以下であると判定すると、処理部38aは、ステップS5へ進み、電磁バルブ50を閉鎖し、ポンプ36bを停止させ、測定部40の測定を終了させる(ステップS5)。
【0041】
本実施形態では、ステップS5を実行するまで、処理部38aは、ポンプ36bによる潤滑剤の供給を継続する。
本実施形態では、ハウジング16内の潤滑剤は、ポンプ36bからの潤滑剤の供給に応じて排出孔32bから押し出される。つまり、ポンプ36bから潤滑剤が供給されると、供給された量だけハウジング16内の潤滑剤が押し出される。このため、ハウジング16内の潤滑剤は充満した状態で維持される。
言い換えると、ポンプ36bから潤滑剤が供給され、供給された量だけハウジング16内の潤滑剤が押し出されることで、ハウジング16内の潤滑剤が充満した状態であることが確認できる。
【0042】
つまり、本実施形態では、潤滑剤の供給によってハウジング16内には必要な量の潤滑剤が保持され、潤滑剤の供給に応じてハウジング16外へ排出される余剰な潤滑剤を用いて鉄粉の濃度測定が行われる。
このため、潤滑剤の吸引機構を必要とせず、ハウジング16外へ排出される余剰な潤滑剤に対して測定を行うので、潤滑剤が不足状態になるのを防止でき、転がり軸受14に潤滑不良を生じさせるのを抑制することができる。
【0043】
ステップS5において、電磁バルブ50を閉鎖し、ポンプ36bを停止したとき、ハウジング16内には、潤滑剤が充満されている。
なおこのとき、ハウジング16内の潤滑剤の鉄粉の濃度は、第1閾値以下であると推定することができる。よって、ハウジング16内の潤滑剤の状態は、入れ替えを必要とするほど劣化していない状態である。
ステップS4、S5による処理は、処理部38aが実行する第3処理である。第3処理は、測定部40による測定結果に基づいて、潤滑剤の供給を停止させるか否かを判定する処理である。
【0044】
ステップS5においてポンプ36bを停止させ、潤滑剤の供給および測定を停止すると、処理部38aは、測定部40の鉄粉濃度測定器52による測定結果を管理装置19へ送信し(ステップS6)、ステップS1へ戻る。
処理部38aは、測定を開始してから終了するまでの鉄粉の濃度の経時変化を示すデータを測定結果として管理装置19へ送信する。
このように、潤滑剤管理装置18は、通信部38c(送信部)を備えているので、測定結果を外部である管理装置19へ送信することができる。
これにより、管理装置19は、測定開始命令に対する処理部38aからの応答として、鉄粉の濃度の経時変化を示すデータを受け取ることができる。
鉄粉の濃度の経時変化を示すデータは、転がり軸受14の管理に用いられる。
【0045】
ステップS4において鉄粉の濃度が第1閾値以下でないと判定すると、処理部38aは、ステップS4を繰り返す。よって、処理部38aは、鉄粉の濃度が第1閾値以下と判定するまで、ハウジング16内への潤滑剤の供給を継続して行う。
ポンプ36bから潤滑剤が供給されることでハウジング16内の潤滑剤の鉄粉の濃度が低下し、第1閾値以下と判定すれば、処理部38aは、ステップS5へ進む。
【0046】
本実施形態では、潤滑剤の劣化の度合を示す鉄粉の濃度に基づいて、潤滑剤の供給を停止させるか否かを判定するので(ステップS4、S5)、潤滑剤の劣化がそれほど進んでいなければ、潤滑剤の供給を停止して現状の潤滑剤の使用を継続させ、潤滑剤の劣化が進行していれば、潤滑剤の供給を継続してハウジング16内の潤滑剤を新たに供給される潤滑剤によって入れ替えることができる。
これにより、測定部40の測定が行われれば、ハウジング16内の潤滑剤の状態を劣化がそれほど進んでいない適切な状態にすることができる。
【0047】
また、本実施形態の処理部38aは、管理装置19からの測定開始命令を受信することで、ポンプ36bによるハウジング16内への潤滑剤の供給および測定を開始させることができるので、管理装置19のオペレータによる潤滑剤管理装置18の遠隔制御が可能となる。
【0048】
よって、管理装置19のオペレータは、必要に応じて測定開始命令を潤滑剤管理装置18に送信すれば、軸受装置10の潤滑剤の状態を把握することができる。また、このとき、潤滑剤の鉄粉の濃度が第1閾値よりも大きければ、ハウジング16内に新たな潤滑剤を供給させることができる。
【0049】
〔第2実施形態について〕
図5は、第2実施形態に係る軸受装置10の測定部40を示す図である。
本実施形態の測定部40は、鉄粉濃度測定器52の他、潤滑剤を撮像する撮像部60を有する点において第1実施形態と相違する。
【0050】
撮像部60は、カメラ62と、透明配管64と、を有する。透明配管64は、配管44と、鉄粉濃度測定器52との間に接続されている。透明配管64内を通過する潤滑剤は、透明配管64の外部から観察可能である。
カメラ62は、透明配管64内を通過する潤滑剤を撮像する。カメラ62は、制御装置38に接続されている。カメラ62は、透明配管64を通過する潤滑剤を撮像した撮像データを制御装置38へ出力する。
制御装置38の処理部38aは、撮像データを受け取ると、撮像データに撮像された潤滑剤の色データに基づいて、潤滑剤の劣化度を判定する。処理部38aは、前記色データに基づいて潤滑剤の劣化度を数値として求め、色データによる劣化度によって判定することができる。
例えば、処理部38aは、色データによる劣化度と、この色データによる劣化度に対して予め設定される第2閾値と、を比較する。処理部38aは、色データによる劣化度が第2閾値以下と判定する場合、潤滑剤の供給は不要と判定し、色データによる劣化度が第2閾値より大きいと判定する場合、潤滑剤の供給が必要と判定する。
このように、本実施形態では、潤滑剤の物理量として、潤滑剤の色データを取得する。
【0051】
処理部38aは、図4中のステップS4において、鉄粉の濃度による判定結果、および、色データによる劣化度の判定結果の両方に基づいて判定してもよいし、色データによる劣化度による判定結果のみに基づいて判定してもよい。
図4中のステップS4において、鉄粉の濃度による判定結果、および、色データによる劣化度の判定結果の両方に基づいて判定する場合、処理部38aは、色データによる劣化度が第2閾値より大きいと判定する場合、鉄粉の濃度による判定結果に関わらず、ステップS4を繰り返す。同様に、処理部38aは、鉄粉の濃度が第1閾値より大きいと判定する場合、色データによる劣化度による判定結果に関わらず、ステップS4を繰り返す。
【0052】
本実施形態の処理部38aは、鉄粉の濃度による判定結果に加えて、色データによる劣化度による判定結果を用いて潤滑剤の供給を停止するか否かを判定することができる。
【0053】
〔第3実施形態について〕
図6は、第3実施形態に係る軸受装置10を示す図である。
本実施形態の転がり軸受14は、外輪20がブレード2とともに回転する回転輪である点において、第1実施形態と相違する。
【0054】
図6中、本実施形態の転がり軸受14は、転動体24が円すいころであり、複列の円すいころ軸受を構成する。
転がり軸受14を収容するハウジング16は、円環部材65と、円筒部材66と、第1蓋部68と、第2蓋部70と、を有する。
円環部材65は、ブレード2とともに回転する部材である。円環部材65は、外筒部65aを有する。外筒部65aの内周面には、外輪20が嵌合固定されている。
円筒部材66は、支柱4側に固定される部材である。円筒部材66の外周面には、内輪22が嵌合固定されている。よって、内輪22は固定輪である。
内輪22は、一対の内輪本体22bを有する。
【0055】
第1蓋部68は、環状の部材であり、外筒部65aの先端に設けられている。第1蓋部68は、外筒部65aの先端と円筒部材66との間の開口を塞いでいる。
第2蓋部70は、環状の部材であり、円筒部材66の軸方向他方側の先端に設けられている。第2蓋部70は、円筒部材66の先端と円環部材65との間の開口を塞いでいる。
【0056】
ハウジング16は、外筒部64aと、円筒部材66と、第1蓋部68と、第2蓋部70と、によって囲まれる空間内に転がり軸受14を収容する。
【0057】
内輪22は、上孔72と,下孔74と、を有する。上孔72は、内輪22の上側部分に設けられている。上孔72は、内輪22の外周面と内周面とを連通する。下孔74は、内輪22の下側部分に設けられている。下孔74は、内輪22の外周面と内周面とを連通する。
【0058】
円筒部材66は、給脂孔66aと、排出孔66bと、を有する。給脂孔66aは、円筒部材66の外周面と内周面とを連通する。給脂孔66aは、円筒部材66の上側部分に設けられている。給脂孔66aは、上孔72に一致するように設けられている。よって、給脂孔66aおよび上孔72は、転がり軸受14の内外輪20、22間の環状空間と、円筒部材66の内周側空間とを連通する。つまり、給脂孔66aおよび上孔72は、ハウジング16の内部空間と、円筒部材66の内周側空間とを連通する。
【0059】
排出孔66bは、円筒部材66の外周面と内周面とを連通する。排出孔66bは、円筒部材66の下側部分に設けられている。排出孔66bは、下孔74に一致するように設けられている。よって、排出孔66bおよび下孔74は、転がり軸受14の内外輪20、22間の環状空間と、円筒部材66の内周側空間とを連通する。つまり、ハウジング16の内部空間と、円筒部材66の内周側空間とを連通する。
【0060】
給脂孔66aには、ポンプ36bから延びる配管が接続される。また、排出孔66bには、測定部40から延びる配管44が接続される。
【0061】
本実施形態の潤滑剤管理装置18は、円筒部材66の給脂孔66aから潤滑剤を供給し、円筒部材66の排出孔66bから排出される潤滑剤に対して測定を行う。
よって、本実施形態では、内輪22(円筒部材66)の内周側において潤滑剤の供給および排出が行われる。このため、例えば、潤滑剤管理装置18の一部または全部を円筒部材66の内周側空間に配置することができ、コンパクト化を図ることができる。
【0062】
〔その他〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。
上記各実施形態では、風力発電装置に軸受装置10を適用した場合を例示したが、風力発電装置以外の他の装置であっても、本実施形態の軸受装置10は適用することができる。
また、上記各実施形態では、潤滑剤に関する物理量として、潤滑剤に含まれる鉄粉の濃度、および潤滑剤の色データを測定(取得)する場合を例示した。しかし、測定すべき潤滑剤に関する物理量としては、これら以外に、潤滑剤のちょう度を含んでいてもよい。
【0063】
また、第1実施形態では、ステップS1(第1処理)において、処理部38aが、管理装置19からの測定開始命令を受信したか否かを判定する場合を例示した。しかし、ステップS1において、処理部38aは、直近にステップS2(第2処理)を実行してから所定期間が経過したか否かを判定するように構成してもよい。
この場合、処理部38aは、直近にステップS2を実行してから所定期間が経過したと判定すると、ステップS2に進むように構成される。つまり、この場合における第1処理の所定の条件は、直近にステップS2を実行してから所定期間が経過したことである。
この構成によれば、所定期間ごとに、潤滑剤の供給および測定を処理部38aに実行させることができる。
【0064】
また、ステップS1において、処理部38aが、管理装置19からの測定開始命令を受信したか否かの判定、および、直近にステップS2を実行してから所定期間が経過したか否かの判定の両方を行うように構成してもよい。この場合、管理装置19からの測定開始命令を受信したと判定すれば、処理部38aはステップS2へ進む。また、直近にステップS2を実行してから所定期間が経過したと判定しても、処理部38aはステップS2へ進む。
この場合、定期的に潤滑剤管理装置18に潤滑剤の供給および測定を実行させつつ、外部からの潤滑剤管理装置18の遠隔操作も可能となる。
【0065】
また、第1実施形態では、ステップS4において鉄粉の濃度が第1閾値以下ではないと判定すると、処理部38aは、ステップS4を繰り返すように構成した場合を例示した。
しかし、ステップS4において鉄粉の濃度が第1閾値以下ではないと判定した場合、処理部38aは、予め設定された動作時間の間、潤滑剤の供給および測定を継続し、動作時間が経過すると、ステップS5に進むように構成してもよい。
この場合、動作時間は、ハウジング16内の潤滑剤が、元々充満されている潤滑剤からポンプ36bによって供給される新しい潤滑剤に十分に入れ替わる時間に設定される。動作時間は、予め実機で確認することもできるし、コンピュータシミュレーションによって求めることもできる。
【0066】
本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0067】
10 軸受装置
14 転がり軸受
16 ハウジング
18 潤滑剤管理装置
36 供給機構
38 制御装置
38c 通信部(受信部、送信部)
40 測定部
52 鉄粉濃度測定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6