(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093466
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】車両構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
B62D25/20 J
B62D25/20 K
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209858
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】高岡 翔太郎
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB07
3D203CA26
3D203CA52
3D203CB03
3D203CB09
(57)【要約】
【課題】車両後部に搭載されたバッテリなどの蓄電装置が車両の後突時に破損する虞を、従来よりも確実に防止または抑制することが可能な車両構造を提供する。
【解決手段】リヤフロア部2に設けられた下向き凹状の凹部20と、この凹部20の底部20aの後部から上向きに起立する後側壁部20bの上部に設けられて車幅方向に延びるロアバック22と、底板部40を有するブラケット4上に載せられ、凹部20の底部20a上に配された蓄電装置3と、を備えている、車両構造Aであって、ブラケット4は、底板部40の後部から上向きに起立し、かつ上部がロアバック22に接合された背板部41、およびこの背板部41と底板部40とを橋渡し状態に繋ぐ側板部42a,42b、を備えており、ロアバック22が車両後方側から所定以上の荷重を受けて車両前方側に変形または変位したときには、ブラケット4は、背板部41の上部が車両前方側に変位することにより底板部40の前端部40aを下降させる力を生じさせることが可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リヤフロア部に設けられた下向き凹状の凹部と、
この凹部の底部の後部から上向きに起立する後側壁部の上部に設けられて車幅方向に延びるロアバックと、
底板部を有するブラケット上に載せられ、前記凹部の前記底部上に配された蓄電装置と、
を備えている、車両構造であって、
前記ブラケットは、前記底板部の後部から上向きに起立し、かつ上部が前記ロアバックに接合された背板部、およびこの背板部と前記底板部とを橋渡し状態に繋ぐ側板部、を備えており、
前記ロアバックが車両後方側から所定以上の荷重を受けて車両前方側に変形または変位したときには、前記ブラケットは、前記背板部の上部が車両前方側に変位することにより前記底板部の前端部を下降させる力を生じさせることが可能な構成とされていることを特徴とする、車両構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両構造であって、
前記凹部の前記底部の下面および/または上面に接合されて車幅方向に延びる補強部材を、さらに備えており、
この補強部材と前記ブラケットの前記底板部とは、車両前後方向において、前記底板部の前記前端部の近傍に前記補強部材の前側縁部が位置するように互いに重なって接合されている、車両構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両構造に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、この種の車両構造の一例として、特許文献1に記載のものを先に提案している。
同文献に記載の車両構造においては、本願の
図7(a)に示すように、リヤフロア部2eに下向き凹状の凹部20eを設け、かつこの凹部20e内にバッテリなどの蓄電装置95が収容されている。蓄電装置95は、凹部20eの底部上に固定されたブラケット4eに保持されている。また、底部20aの下面側には、リインフォース90が取付けられており、車両1eの後突が発生して、その衝突荷重をリインフォース90が受けると、蓄電装置95を後下がり状に回転させるように変形可能とされている。
このような構成によれば、蓄電装置が前記した回転を伴うことなく衝突荷重によって車両前方側に変位する場合と比較すると、蓄電装置がその車両前方側の部材に強く衝突することは抑制される。したがって、蓄電装置の保護性能をよくすることが可能である。
【0003】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように、未だ改善すべき余地があった。
【0004】
すなわち、車両1eの後突が発生し、蓄電装置95が後下がり状に回転した場合、
図7(b)に示すように、蓄電装置95の前部は、後部に相対して上昇する。一方、凹部20eの前方側には、車両用シート6eが配置され、かつその一部が凹部20e側に張り出すように設定される場合がある。このような設定状態において、車両1eの後突が発生すると、蓄電装置95の前部が車両用シート6eに衝突し、破損する虞がある。蓄電装置の保護性能を高める上では、このようなことも適切に防止または抑制することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、車両後部に搭載されたバッテリなどの蓄電装置が車両の後突時に破損する虞を、従来よりも確実に防止または抑制することが可能な車両構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明により提供される車両構造は、リヤフロア部に設けられた下向き凹状の凹部と、この凹部の底部の後部から上向きに起立する後側壁部の上部に設けられて車幅方向に延びるロアバックと、底板部を有するブラケット上に載せられ、前記凹部の前記底部上に配された蓄電装置と、を備えている、車両構造であって、前記ブラケットは、前記底板部の後部から上向きに起立し、かつ上部が前記ロアバックに接合された背板部、およびこの背板部と前記底板部とを橋渡し状態に繋ぐ側板部、を備えており、前記ロアバックが車両後方側から所定以上の荷重を受けて車両前方側に変形または変位したときには、前記ブラケットは、前記背板部の上部が車両前方側に変位することにより前記底板部の前端部を下降さ
せる力を生じさせることが可能な構成とされていることを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、車両の後突が発生し、その衝突荷重が車両後部に入力する場合、この衝突荷重はロアバックに作用し、このロアバックを車両前方に押圧して変形または変位させる力となる。これに対し、蓄電装置のブラケットは、背板部の上部がロアバックに接合されているため、この背板部の上部は車両前方側に変位し、ブラケットの底板部の前端部を下降させる力を生じさせて、この力により凹部の底部のうち、前記前端部に対応する箇所を下向きに変形させることが可能である。車両の後突が発生した際に、ロアバックの変形または変位に伴ってブラケットの背板部のみが前倒れ状態になったのでは前記した作用は得られないが、背板部は、底板部と側板部を介して橋渡し接続されており、この側板部が突っ張り部として役立つため、背板部のみが前倒れ状態になることは適切に防止可能である。
その結果、前記従来技術とは異なり、車両の後突が発生した際には、蓄電装置の前部を積極的に下降させることができる。蓄電装置の前方に、たとえば車両用シートが設置され、かつこの車両用シートの一部が凹部側にはり出していたとしても、この部分に蓄電装置が強く衝突することは適切に回避され、破損防止が図られる。このように、本発明によれば、蓄電装置の保護性能を高めることが可能である。
本発明によれば、ブラケットの形状や取付け方を工夫することにより、車両の後突が発生した際のブラケットおよび蓄電装置の変位をコントロールするものであり、車両の重量や製造コストの増加を抑制し、生産性を高めることもできる。
【0010】
本発明において、好ましくは、前記凹部の前記底部の下面および/または上面に接合されて車幅方向に延びる補強部材を、さらに備えており、この補強部材と前記ブラケットの前記底板部とは、車両前後方向において、前記底板部の前記前端部の近傍に前記補強部材の前側縁部が位置するように互いに重なって接合されている。
【0011】
このような構成によれば、凹部の底部のうち、補強部材とブラケットの底板部とが互いに重なって接合されている領域の剛性が高められ、この領域と、ブラケットの底板部の前端部が下降する領域との剛性の差が大きくなる。したがって、車両の後突が発生した際に、ブラケットの底板部の前端部が下降するように、凹部の底部が変形することは、より円滑化される。
【0012】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る車両構造の一例を示す要部概略側面断面図である。
【
図2】
図1に示す車両構造の要部拡大側面断面図である。
【
図3】
図1および
図2に示す車両構造の要部分解概略斜視図である。
【
図4】
図1および
図2に示す車両構造の要部概略底面図である。
【
図5】
図1および
図2に示す車両構造の車両前後方向視の要部断面図である。
【
図7】(a),(b)は、従来技術の例を示す要部説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0015】
図1~
図5に示す車両構造Aは、車両1のリヤフロア部2に設けられた凹部20、バッテリなどの蓄電装置3、この蓄電装置3が載せられるブラケット4、ならびに第1ないし第3の補強部材5A~5Cを備えている。
【0016】
リヤフロア部2は、薄手の金属板製のフロアパネルを用いて構成されており、凹部20は、車室内のうち、荷室に相当する部分に設けられた下向きに窪んだ領域である。この凹部20の前側領域は、車両用シート6が搭載されるシートライザ部21として構成されている。また、凹部20の後側壁部20bは、凹部20の底部20aの後部から上向きに起立しており、かつその上部には、ロアバック22が設けられている。このロアバック22は、ロアバックインナ22aとロアバックアウタ22bとが組み合わされた閉断面構造であって、車幅方向に延びており、車両1のバックドア19により開閉される後部開口部の下縁部を構成する。後側壁部20bは、いわゆるロアバックパネルである。
【0017】
ブラケット4は、蓄電装置3が載せられる底板部40、この底板部40の後部から上向きに起立する背板部41、およびこの背板部41と底板部40の側縁部どうしを橋渡し状態に繋ぐ略三角形状の一対の側板部42a,42bを備えている。底板部40や背板部41は、強度を高めるべく複数の凹凸を有する波板状(ビード部が設けられた構成)に適宜形成されている。底板部40、背板部41、および一対の側板部42a,42bは、互いに頑強な状態に繋がっている。
蓄電装置3は、不図示の固定部材を用いてブラケット4に固定されている。
【0018】
ブラケット4は、凹部20の底部20aの上面側に配され、かつこの底部20aに固定されている。ただし、底部20aのうち、ブラケット4が載せられる箇所の上面側および下面側には、第1および第2の補強部材5A,5Bが底部20aを挟んで重なった配置に設けられている。
図5によく表われているように、これら第1および第2の補強部材5A,5Bは、比較的偏平な断面ハット状であり、底部20aに対して溶接などの手段により接合されている。第1の補強部材5Aは、
図2に示すように、車両前後方向の長さは、ブラケット4の底板部40と略同等とされている。この第1の補強部材5Aの後部には、上向屈曲部50が形成され、この部分が凹部20の後側壁部20bに接合されている。第2の補強部材5Bは、
図1、
図2、
図4によく表われているように、リヤフロア部2の下面側において、その後部から凹部20の前側傾斜壁部20cの上部またはそれよりも車両前方側の領域まで延びている。好ましくは、リヤフロア部2のうち、凹部20の前側には、車幅方向に延びるクロスメンバ76が設けられており、第2の補強部材5Bの前端部は、このクロスメンバ76に接合されている。
【0019】
ブラケット4は、第1の補強部材5A上に載せられた状態で、ボルト80(適宜に図示省略)を用いた締結手段により、第1の補強部材5Aに対する位置決め固定が図られ、凹部20の底部20aへの固定が図られている。ただし、これに代えて、または加えて、溶接などの他の固定手段を用いてもよい。
また、ブラケット4は、背板部41の上部が、ロアバック22の前面部に当接し、かつこの当接箇所に対し、ボルト81を用いた締結手段、および/または溶接などの手段により接合されている。背板部41のうち、高さが低い領域は、凹部20の後側壁部20bに対して接合されておらず、適当な隙間C(
図2を参照)が設けられている。
【0020】
第3の補強部材5Cとしては、
図4に示すように、第2の補強部材5Bの左右両側に分離した配置の左右一対の第3の補強部材5Cが設けられている。この第3の補強部材5Cは、本発明(請求項2)でいう補強部材の具体例に相当し、凹部20の底部20aの下面側において車幅方向に延びた状態で底部20aに接合されている。好ましくは、
図5に示すように、凹部20の左右の側壁部20dの外面部の領域、さらには左右一対のサイドメンバ77の近く、または一対のサイドメンバ77に到達するように延びている。
この第3の補強部材5Cの一般部分は、
図2に示すように、偏平な断面ハット状である。
【0021】
この第3の補強部材5Cとブラケット4の底板部40とは、それらの一部分どうしが、凹部20の底部20a、ならびに第1および第2の補強部材5A,5Bを介して互いに重なっている。この重なり状態は、車両前後方向において、底板部40の前端部40aの近傍に、第3の補強部材5Cの前側縁部57が位置する構成である。
【0022】
次に、前記した車両構造Aの作用について説明する。
【0023】
まず、車両1の後突が発生し、
図6に示すように、所定以上の衝突荷重Fが車両後部のロアバック22に入力すると、このロアバック22は車両前方側に変形または変位する。これに対し、蓄電装置3のブラケット4は、その背板部41の上部がロアバック22に接合されているため、ブラケット4には、背板部41の上部を車両前方側に変位させて、ブラケット4を前側に回転させようとする力が発生する。この力は、底板部40の前端部40aを下降させる力となり、凹部20の底部20aのうち、前端部40aに対応する箇所を下向きに折れ変形させることが可能である。
【0024】
車両1の後突が発生した際に、ロアバック22の変形または変位に伴ってブラケット4の背板部41のみが前倒れ状態になったのでは、前記した作用は好適に得られない。ところが、本実施形態においては、背板部41は、底板部40と側板部42a,42bを介して橋渡し接続されており、この側板部42a,42bが突っ張り部として役立つため、背板部41のみが前倒れ状態になることは適切に防止される。
さらに、凹部20の底部20aのうち、第3の補強部材5Cおよびブラケット4の底板部40が互いに重なって接合されている領域と、ブラケット4の底板部40の前端部40aが下降する領域との剛性の差が大きい。したがって、ブラケット4の底板部40の前端部40aが下降するように、凹部20の底部20aが変形することは、より円滑化される。
【0025】
前記したような作用が生じる結果、蓄電装置3の前部を積極的に下降させることができる。蓄電装置3の前方の車両用シート6の一部が、凹部20側にはり出していたとしても、この部分に蓄電装置3が強く衝突することは適切に回避され、破損防止が図られる。
また、本実施形態の車両構造Aは、ブラケット4の形状や取付け方を工夫することにより、車両1の後突が発生した際の蓄電装置3の保護性能を高めることが可能である。第1ないし第3の補強部材5A~5Cは用いられているが、これらはいずれも比較的薄肉かつ軽量であるため、車両1の重量や、製造コストの増加を適切に抑制することも可能である。
【0026】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0027】
ブラケットの側板部として、上述の実施形態では、左右一対の側板部が設けられているが、側板部は、少なくとも1つ設けられていればよい。また、その形状も略三角形状に限らない。
本発明(請求項2)でいう補強部材(上述の実施形態では、第3の補強部材5Cが該当)は、凹部の底部の下面に接合された構成に限定されず、これに代えて、または加えて、凹部の底部の上面に接合された構成とすることも可能である。
本発明でいう蓄電装置は、バッテリ以外として、たとえばキャパシタなども含む概念である。
【符号の説明】
【0028】
A 車両構造
2 リヤフロア部
20 凹部
20a 底部(凹部の)
20b 後側壁部(凹部の)
22 ロアバック
3 蓄電装置
4 ブラケット
40 底板部(ブラケットの)
40a 前端部(底板部の)
41 背板部(ブラケットの)
42a,42b 側板部(ブラケットの)
5C 第3の補強部材(補強部材)