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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093474
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209869
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 瞬
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA36
3J027GB03
3J027GC03
3J027GC13
3J027GC24
3J027GD03
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE01
3J027GE25
(57)【要約】
【課題】本発明の目的のひとつは、小型化が可能な偏心揺動型減速機を提供することにある。
【解決手段】ある態様の偏心揺動型減速機100は、外歯歯車14と、外歯歯車14の側部に配置され、外歯歯車14の軸方向に対して傾斜する回転軸を有するローラ71が転動する内輪側転動面78が形成されたキャリヤ35と、キャリヤ35の周方向に複数設けられたクランク軸20と、を備える偏心揺動型減速機であって、キャリヤ35に対するクランク軸20の軸方向の移動を規制する規制部材60を有し、キャリヤ35は、規制部材60の少なくとも一部を収容する凹部61を有し、キャリヤ35は、内輪側転動面78またはその延長面に連続するとともに、外歯歯車14の軸方向となす角度が内輪側転動面78とは異なり、かつ凹部61の底部よりも外歯歯車14側に延びる連続外周面79を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外歯歯車と、前記外歯歯車の側部に配置され、前記外歯歯車の軸方向に対して傾斜する回転軸を有するローラが転動する内輪側転動面が形成されたキャリヤと、前記キャリヤの周方向に複数設けられたクランク軸と、を備える偏心揺動型減速機であって、
前記キャリヤに対する前記クランク軸の軸方向の移動を規制する規制部材を有し、
前記キャリヤは、前記規制部材の少なくとも一部を収容する凹部を有し、
前記キャリヤは、前記内輪側転動面またはその延長面に連続するとともに、前記外歯歯車の軸方向となす角度が前記内輪側転動面とは異なり、かつ前記凹部の底部よりも外歯歯車側に延びる連続外周面を有する偏心揺動型減速機。
【請求項2】
前記凹部は仕上加工されている、請求項1に記載の偏心揺動型減速機。
【請求項3】
前記キャリヤの前記外歯歯車側に非仕上加工面が配置され、
当該非仕上加工面は、前記凹部よりも前記外歯歯車側に位置する、請求項2に記載の偏心揺動型減速機。
【請求項4】
前記凹部は、前記キャリヤの径方向の外側端部まで形成され、
前記連続外周面のうち前記外側端部に接続される凹部接続領域の軸方向長さは、
前記連続外周面のうち前記凹部接続領域に隣接する領域の軸方向長さよりも小さい、請求項1に記載の偏心揺動型減速機。
【請求項5】
前記規制部材は、前記ローラを保持するリテーナと径方向に重なる、請求項1に記載の偏心揺動型減速機。
【請求項6】
前記連続外周面は、前記外歯歯車の軸方向と平行な面である、請求項1に記載の偏心揺動型減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
外周面に転動体を転動させるための転動面が設けられたキャリヤを備える減速機が知られている。例えば、特許文献1には、キャリヤが軸受を介してケースに支持されている歯車装置が記載されている。この軸受は、キャリヤに設けられているインナーレースと、ケースに設けられているアウターレースと、インナーレースとアウターレースの間に配置されており、軸受中心軸に対して傾いた回転軸を有している複数のローラと、隣り合うローラの間隔を保持するリテーナと、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-137705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、偏心揺動型減速機について、次の新たな認識を得た。キャリヤに内輪として機能するアンギュラローラ部を形成する場合、アンギュラローラ部の転動面の寸法精度を確保することが重要である。この寸法精度を担保するために、アンギュラローラ部に寸法計測用のストレート部(非傾斜円筒部)を確保することが考えられる。アンギュラ玉軸受の場合、内輪の転動面が、円弧状の部分とその部分から延びるストレート部を含むため、そのストレート部で寸法を計測できる。しかし、アンギュラローラ軸受の場合、ローラの転動面以外にストレート部を余分に確保することとなる。このため、その分だけ軸方向の厚みが大きくなり、減速機の小型化に不利になることが分かった。特許文献1に記載の装置には、小型化の観点から改善の余地がある。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、小型化が可能な偏心揺動型減速機を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の偏心揺動型減速機は、外歯歯車と、外歯歯車の側部に配置され、外歯歯車の軸方向に対して傾斜する回転軸を有するローラが転動する内輪側転動面が形成されたキャリヤと、キャリヤの周方向に複数設けられたクランク軸と、を備える偏心揺動型減速機であって、キャリヤに対するクランク軸の軸方向の移動を規制する規制部材を有する。キャリヤは、規制部材の少なくとも一部を収容する凹部を有する。キャリヤは、内輪側転動面またはその延長面に連続するとともに、外歯歯車の軸方向となす角度が内輪側転動面とは異なり、かつ凹部の底部よりも外歯歯車側に延びる連続外周面を有する。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型化が可能な偏心揺動型減速機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る偏心揺動型減速機の一例を概略的に示す断面図である。
図2図1のキャリヤの凹部と規制部材の周辺を拡大して示す断面図である。
図3図1のキャリヤを示す正面図である。
図4図1のキャリヤのA-A線に沿った断面を示す断面図である。
図5図1のキャリヤのB-B線に沿った断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
[実施形態]
図1図5を参照して、実施形態に係る偏心揺動型減速機100(以下、単に「減速機100」と表記することがある)の全体構成を説明する。図1は、減速機100を概略的に示す側面視の断面図である。実施形態の減速機100は、内歯歯車と噛み合う外歯歯車を揺動させることで、内歯歯車および外歯歯車の一方の自転を生じさせ、その生じた自転成分を出力部材から被駆動部材に出力する偏心揺動型減速機である。
【0013】
図1の例では、減速機100は、クランク軸が内歯歯車の軸心からオフセットした位置に配置されるいわゆる振り分け型の偏心揺動型減速機である。減速機100は、クランク軸20と、外歯歯車14、15と、内歯歯車16と、キャリヤ35、36と、ケーシング6と、主軸受26、27と、規制部材60と、クランク軸軸受39、40と、入力歯車56とを主に備える。
【0014】
以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。
【0015】
キャリヤ35、36は、外歯歯車14、15の反入力側の側部に配置される第1キャリヤ35と、外歯歯車14、15の入力側の側部に配置される第2キャリヤ36とを含む。キャリヤ35、36は、主軸受26、27を介してケーシング6に回転可能に支持される。外歯歯車14、15は、第1キャリヤ35の入力側の側部に配置される第1外歯歯車14と、第2キャリヤ36の反入力側の側部に配置される第2外歯歯車15とを含む。
【0016】
主軸受26、27は、ケーシング6を支持する。主軸受26、27は、第1キャリヤ35とケーシング6との間に配置される第1主軸受26と、第2キャリヤ36と、ケーシング6との間に配置される第2主軸受27とを含む。
【0017】
この例の主軸受26、27は、軸受の中心軸に対して傾いた回転軸を有する複数のローラ71と、ローラ71の内周側に配置される内輪72と、ローラ71の外周側に配置される外輪73と、隣接するローラ71同士の接触を防止するリテーナ74とを含むアンギュラローラ軸受である。内輪72は、独立した部材でなく、キャリヤ35、36の外周側を加工して形成された内輪側転動面78を有する。ローラ71は、外歯歯車14の軸方向に対して傾斜する回転軸を有し、内輪側転動面78を転動する。この例の外歯歯車14の軸方向は、中心軸線Laに平行である。規制部材60は、クランク軸20を第1キャリヤ35に対して軸方向の移動を規制する機能を有する。第1キャリヤ35は、規制部材60の少なくとも一部を収容する凹部61を有する。第1キャリヤ35および規制部材60については後述する。
【0018】
減速機100の各部の構成を説明する。ケーシング6は、減速機100を包囲する筒状を有し、内周面に内歯歯車16が設けられる。クランク軸軸受39、40は、クランク軸20とキャリヤ35、36との間に配置され、キャリヤ35、36に対してクランク軸20を回転可能に支持する。この例のクランク軸軸受39、40は、ころ軸受であるが、これに限定されない。
【0019】
クランク軸20は、内歯歯車16の中心軸線Laからオフセットした位置に3つ配設される。クランク軸20の回転中心線を符号Lbで示す。3つのクランク軸20は、周方向に等間隔に配置される。図1では一つのクランク軸20のみを示す。クランク軸20は、外歯歯車14、15を揺動させるために、クランク軸20の回転中心線Lbに対して偏心する複数の偏心部24、25を有する。この例のクランク軸20は、互いに偏心位相が180°ずれた2個の偏心部24、25を有する。
【0020】
クランク軸20は、クランク軸軸受39、40を介して第1キャリヤ35および第2キャリヤ36に支持される。反入力側の第1クランク軸軸受39は、外歯歯車14、15の反入力側の側部において、クランク軸20と、第1キャリヤ35との間に設けられる。入力側の第2クランク軸軸受40は、外歯歯車14、15の入力側の側部において、クランク軸20と、第2キャリヤ36との間に設けられる。
【0021】
入力歯車56は、各クランク軸20の入力側端部に設けられる。図1では一つの入力歯車56のみを示す。入力歯車56は、モータ軸54のモータピニオン55と噛み合う。入力歯車56にモータ軸54の回転が入力されると、入力歯車56およびこれに固定されたクランク軸20が回転する。
【0022】
外歯歯車14、15は、偏心軸受19(ころ軸受)を介して偏心部24、25に対応して設けられる。外歯歯車14、15は、それぞれ周方向に等間隔で配置された3つの内ピン孔41、42と、3つの揺動孔45、46と、を有する。各内ピン孔41、42には、内ピン48が挿通される。各揺動孔45、46には、クランク軸20の偏心部24、25が挿通され、揺動孔45、46と偏心部24、25との間には複数の偏心軸受19が介在する。外歯歯車14、15の外周に形成された外歯が内歯歯車16と接触しつつ移動することによって外歯歯車14、15が揺動可能に構成される。
【0023】
内歯歯車16は、ケーシング6の内周部に一体化された内歯歯車本体18と、内歯歯車本体18に形成されたピン溝に配置された外ピン17とを有している。外ピン17は、内歯歯車16の内歯を構成し、外歯歯車14、15の外歯と噛み合う。外ピン17の数は、外歯歯車14、15の外歯数よりもわずかだけ(この例では1だけ)多い。
【0024】
内ピン48は、第1キャリヤ35から軸方向に延び、ボルトB1によって第2キャリヤ36に固定される。内ピン48は、外歯歯車14、15の内ピン孔41、42に隙間を有した状態で挿通される。
【0025】
第1キャリヤ35とケーシング6の一方は、被駆動部材(不図示)に回転動力を出力する出力部材となり、他方は減速機100を支持するための外部部材(不図示)に固定される被固定部材となる。
【0026】
図2図5を参照して、第1キャリヤ35と規制部材60の周辺の構成を説明する。図2は、第1キャリヤ35と規制部材60の周辺を拡大して示す断面図である。第1キャリヤ35は、クランク軸20の回転中心線Lbを囲む軸受孔62を有する。この例の軸受孔62は軸方向に貫通する。軸受孔62には、クランク軸20の被支持部21を支持する第1クランク軸軸受39が設けられる。第1クランク軸軸受39は、リテーナR39を有する。クランク軸20の被支持部21の反入力側の部分には、周溝G1が周設されている。第1クランク軸軸受39は、周溝G1に嵌め込まれたワッシャW1と、ワッシャW1によって反入力側への移動が規制されたワッシャW2とによって反入力側への移動が規制される。
【0027】
前述したように、規制部材60は、第1キャリヤ35に対するクランク軸20の軸方向の移動を規制する部材である。この例の規制部材60は、回転中心線Lbを囲む中空部を有する円環状の部材であるが、これに限定されない。規制部材60は、クランク軸20の偏心部24の反入力側の端面28と、第1キャリヤ35の入力側に向いた面である入力側面64との間に介在する。入力側面64のうち規制部材60と当接する部分を当接部65という。
【0028】
クランク軸20の偏心部24の外周には偏心軸受19が配置される。規制部材60は、偏心軸受19のリテーナR19の反入力側に配置され、偏心軸受19の反入力側への移動を規制する。規制部材60は、リテーナR39の入力側に配置され、第1クランク軸軸受39の入力側への移動を規制する。このように、規制部材60は、第1キャリヤ35、クランク軸20、偏心軸受19および第1クランク軸軸受39の軸方向の位置関係を規定できる。
【0029】
図2に示すように、規制部材60は、内輪72に配置されたローラ71を保持するリテーナ74と、径方向に重なる位置を有する。この場合、規制部材60およびリテーナ74の軸方向範囲が重複するため、重複しない場合よりも減速機100を薄型化する上で有利である。
【0030】
図3は、第1キャリヤ35の入力側面64を示す正面図である。図4は、第1キャリヤ35のA-A線に沿った断面を示す断面図である。A-A線は、中心軸線Laに直交し後述する第1部分66の周方向中心を通る線である。図5は、第1キャリヤ35のB-B線に沿った断面を示す断面図である。B-B線は、後述する測定点M1、M2を通る直線Lc上の線である。図4(A)、図5(A)は、実施形態の第1キャリヤ35の断面を示し、図4(B)、図5(B)は、比較例の第1キャリヤ35の断面を示す。比較例は、実施形態の開発途上で試験的に設計されたものであり、実施形態に対して後述する第1部分66と第2部分67の関係が異なる。
【0031】
入力側面64のうち、規制部材60と当接する当接部65が設けられる略平坦な面を有する部分を第1部分66といい、第1部分66を囲む略平坦な面を有する部分を第2部分67という。第2部分67は、図3において斜線で示す部分で、概ね、入力側面64から第1部分66と内ピン48を除いた部分である。第2部分67は、第1部分66よりも入力側に出っ張った凸部である。第1部分66は、第2部分67よりも反入力側に凹んでおり、規制部材60の少なくとも一部を収容する凹部61として機能する。つまり、当接部65は、入力側面64のうち周囲より凹んだ凹部61に配置される。規制部材60の少なくとも一部が収容されるので、減速機100を薄型化する上で有利である。
【0032】
第1キャリヤ35の外周側に、第1主軸受26の内輪72が形成される。内輪72は、ローラ71の内輪側転動面78と、内輪側転動面78の入力側端縁から連続して軸方向に延びる連続外周面79とを有する。連続外周面79は、内輪側転動面78またはその延長面に連続する。連続外周面79は、外歯歯車14の軸方向となす角度が内輪側転動面78とは異なり、かつ凹部61の底部よりも外歯歯車14側に延びる。この例の連続外周面79は、外歯歯車14の軸方向と平行な面である。この場合、連続外周面79は、容易に直径を計測可能なストレート部として用いることができる。内輪側転動面78と連続外周面79を総括するときはアンギュラローラ部ということがある。一例として、アンギュラローラ部は、砥石研削によって同時に一体的に仕上加工される。アンギュラローラ部が、同時加工されているため、連続外周面79の直径を測定することにより、内輪側転動面78の径方向寸法が所定範囲に入っているかどうかを確認できる。
【0033】
連続外周面79の直径は、マイクロメータ等の測定器を用いて、中心軸線Laに直交する直線Lc上の対角に設定された測定点M1、M2の距離として測定できる。図3図5では、測定点M1、M2は、三角形の頂点に示されている。内ピン48が測定の障害となる可能性があるため、例えば、内ピン48を避け、内ピン48を通らない直線Lc上に測定点M1、M2を設定できる。連続外周面79の直径の測定精度を確保する観点から、連続外周面79の軸方向長はある程度長いことが望ましい。
【0034】
比較例の第1キャリヤ35を説明する。実施形態では、第2部分67が、第1部分66よりも入力側に出っ張っているところ、比較例では、第1部分66は、第2部分67よりも入力側に出っ張っており、第2部分67は、第1部分66よりも反入力側に凹んでいる。このため、実施形態の測定点M1、M2における連続外周面79の軸方向長が、比較例の測定点M1、M2における連続外周面79の軸方向長よりも長く、連続外周面79の直径の測定精度を確保する観点で有利である。
【0035】
また、第2部分67の位置を図4(A)で示す位置に固定して連続外周面79の軸方向長を長く確保した状態として、図4(B)で示すように当接部65を有する第1部分66を第2部分67よりも入力側に出っ張る構成が考えられる。この場合、第1部分66の位置が入力側に移動した分だけ、図4(A)の一点鎖線Vで示すように第1キャリヤ35が厚くなり、減速機100の薄型化に不利になる。つまり、実施形態のように第1部分66が、第2部分67よりも反入力側に凹み、その凹部に規制部材60の少なくとも一部を収容することにより、第1キャリヤ35の厚みを維持しつつ、連続外周面79の軸方向長を長く確保することが可能になり、引いては減速機100の薄型化に有利になる。
【0036】
図3を参照して、凹部61の外側端部68を説明する。凹部61は、キャリヤ35の径方向の外側端部68まで形成される。外側端部68は、連続外周面79に接続される。連続外周面79のうち外側端部68に接続される凹部接続領域79Aの軸方向長さは、連続外周面79のうち凹部接続領域79Aに隣接する隣接領域79Bの軸方向長さよりも小さい。連続外周面79のうち凹部接続領域79Aを除く領域は、隣接領域79Bと同じ軸方向長さを有している。凹部61が、径方向で外側端部68まで形成されているため、径方向にも小型化が可能である。
【0037】
図4を参照して、第1キャリヤ35の加工を説明する。比較例では、第1キャリヤ35の入力側面64の加工は、アンギュラローラ部を形成するための外周加工と、第1部分66を形成するための第1面加工を含む。実施形態では、第1キャリヤ35の入力側面64の加工は、アンギュラローラ部を形成するための外周加工と、第1部分66を形成するための第1面加工とを含む。外周加工、第1面加工は仕上加工である。ここで、仕上加工とは、鍛造等の前工程で形成された表層を除去して所定の寸法精度を得る加工である。この仕上加工の例としては、研削加工、研磨加工、切削加工等が挙げられる。
【0038】
実施形態では、規制部材60の少なくとも一部を収容する凹部61である第1部分66は、仕上加工が施された仕上加工面であり、第2部分67は仕上加工が施されていない非仕上加工面である。この例の非仕上加工面は、凹部61よりも表面粗さが低い(粗い)。図4では、仕上加工面は、その近傍に描かれた矢印付きの線分で示されており、非仕上加工面は、その近傍に描かれた破線で示されている。実施形態では、凹部61は仕上加工されている。このため、凹部61の加工だけで、規制部材60との当接部65が平坦になり、規制部材60が当接した際の摺動による摩耗が抑えられるとともに、小型化できるという2つの効果を同時に得られる。換言すれば、第1キャリヤ35の外歯歯車14側に非仕上加工面である第2部分67が配置され、第2部分67(非仕上加工面)は、凹部61である第1部分66よりも外歯歯車14側に出っ張っている。この場合、測定点M1、M2における連続外周面79の軸方向長を長くする上で有利である。
【0039】
図1図2を参照して、減速機100の減速動作を説明する。モータ軸54のモータピニオン55を介して入力歯車56に回転動力が振り分けられ、3つの入力歯車56が同じ位相で回転する。3つの入力歯車56が回転すると、クランク軸20の偏心部24、25がクランク軸20を通る回転中心線Lb周りに回転し、その偏心部24、25により外歯歯車14、15が揺動する。外歯歯車14、15が揺動すると、外歯歯車14、15と内歯歯車16の外ピン17の噛合位置が順次ずれる。この結果、クランク軸20が一回転する毎に、外歯歯車14、15の歯数と内歯歯車16の外ピン17の数との差に相当する分、外歯歯車14、15および内歯歯車16の一方の自転が発生する。外歯歯車14、15が自転する場合、外歯歯車14、15の自転成分と同期して自転する第1キャリヤ35から減速回転が出力され、第1キャリヤ35に連結される被駆動部材が回転駆動される。内歯歯車16が自転する場合、内歯歯車16と一体に自転するケーシング6から減速回転が出力され、ケーシング6に連結される被駆動部材が回転駆動される。
【0040】
上記のように構成された偏心揺動型減速機100の特徴を説明する。偏心揺動型減速機100は、外歯歯車14と、外歯歯車14の側部に配置され、外歯歯車14の軸方向に対して傾斜する回転軸を有するローラ71が転動する内輪側転動面78が形成されたキャリヤ35と、キャリヤ35の周方向に複数設けられたクランク軸20と、を備える偏心揺動型減速機であって、キャリヤ35に対するクランク軸20の軸方向の移動を規制する規制部材60を有し、キャリヤ35は、規制部材60の少なくとも一部を収容する凹部61を有し、キャリヤ35は、内輪側転動面78またはその延長面に連続するとともに、外歯歯車14の軸方向となす角度が内輪側転動面78とは異なり、かつ凹部61の底部よりも外歯歯車14側に延びる連続外周面79を有する。
【0041】
この構成によれば、規制部材60に当接する当接部65がキャリヤ35の凹部61に配置されるので、凹部61の周囲で凹部61よりも外歯歯車14側に出っ張る部分の外縁から繋がるアンギュラローラ部の連続外周面79の軸方向長を確保できる。この連続外周面79の直径を測定することにより、アンギュラローラ部の寸法を精度よく確認できる。この結果、キャリヤ35の厚みを維持しつつ、連続外周面79の軸方向長を長く確保することが可能になり、減速機100の薄型化に有利になる。
【0042】
以上が、実施形態の説明である。
【0043】
以上、実施形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【0044】
(変形例)
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0045】
実施形態の説明では、主軸受26、27のローラ71が円筒ローラである例を示したが、本発明はこれに限定されない。ローラは、テーパローラであってもよい。
【0046】
実施形態の説明では、連続外周面79が直線状の部分である例を示したが、本発明はこれに限定されない。連続外周面は厳密に直線でなくてもよく、連続外周面の直径測定に影響しない範囲で凹部や突起があってもよい。
【0047】
実施形態の説明では、第2部分67に第2加工が施されていない例を示したが、本発明はこれに限定されない。第2部分67には何らかの加工が施されてもよい。
【0048】
実施形態の説明では、第2部分67が平坦な面で構成される例を示したが、本発明はこれに限定されない。第2部分は厳密に平坦でなくてもよく、連続外周面の直径測定に影響しない範囲で凹部や突起があってもよい。
【0049】
実施形態の説明では、減速機100が、外歯歯車14を2枚備える例を示したが、本発明はこれに限定されない。減速機は、1枚または3枚以上の外歯歯車を備えてもよい。
【0050】
これらの各変形例は、実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0051】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0052】
14、15 外歯歯車、 20 クランク軸、 26、27 主軸受、 35、36 キャリヤ、 60 規制部材、 61 凹部、 68 外側端部、 71 ローラ、 72 内輪、 74 リテーナ、 78 内輪側転動面、 79 連続外周面、 100 偏心揺動型減速機。
図1
図2
図3
図4
図5