(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093475
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209870
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 瞬
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA37
3J027FA50
3J027GA01
3J027GC03
3J027GC22
3J027GC24
3J027GC25
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE01
3J027GE05
3J027GE25
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、クランク軸の移動をより抑えることが可能な偏心揺動型減速機を提供することにある。
【解決手段】偏心揺動型減速機100は、偏心部が設けられたクランク軸20を有する偏心揺動型減速機であって、クランク軸20の軸方向の移動を規制する規制部材7と、規制部材7を支持する支持部材37と、を有する。規制部材7は、クランク軸20の当接面28と当接してクランク軸20の軸方向移動を規制する第1規制部材71と、第2規制部材76とを有する。第1規制部材71は、第1ねじ部72を有し、支持部材37に設けられた支持側ねじ部81に第1ねじ部72を螺合することによって規制位置に支持され、第2規制部材76は、第2ねじ部77を有し、支持側ねじ部81に螺合され、かつ第1規制部材71に当接することによって、第1規制部材71の移動を規制する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心部が設けられたクランク軸を有する偏心揺動型減速機であって、
前記クランク軸の軸方向の移動を規制する規制部材と、前記クランク軸の軸方向移動を規制するための規制位置で前記規制部材を支持する支持部材と、を有し、
前記規制部材は、前記クランク軸の当接面と当接して前記クランク軸の軸方向移動を規制する第1規制部材と、前記当接面とは前記第1規制部材を挟んで反対側に配置される第2規制部材とを有し、
前記第1規制部材は、第1ねじ部を有し、前記支持部材に設けられた支持側ねじ部に前記第1ねじ部を螺合することによって前記規制位置に支持され、
前記第2規制部材は、第2ねじ部を有し、前記支持側ねじ部に螺合され、かつ前記第1規制部材に当接することによって、前記第1規制部材の移動を規制する偏心揺動型減速機。
【請求項2】
前記第1規制部材は、工具を嵌合可能な工具嵌合部を有し、
前記第1規制部材および前記第2規制部材が取り付けられた状態で、前記工具嵌合部は、前記第2規制部材側から見たときに露出する、請求項1に記載の偏心揺動型減速機。
【請求項3】
前記第1規制部材は、前記工具嵌合部を複数有し、
前記第1規制部材および前記第2規制部材が取り付けられた状態で、
前記第2規制部材のいずれの回転位置においても、前記複数の工具嵌合部のいずれかが前記第2規制部材側から見たときに露出する、請求項2に記載の偏心揺動型減速機。
【請求項4】
前記第1規制部材の前記工具嵌合部は、前記第2規制部材の径方向内側面よりも径方向内側に位置する、請求項3に記載の偏心揺動型減速機。
【請求項5】
前記第2規制部材は、前記工具嵌合部の少なくとも一部を露出可能な露出孔を有し、
前記露出孔は、周方向に延びる長孔である、請求項2に記載の偏心揺動型減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
入力軸に入力された回転を減速して出力する偏心揺動型減速機が知られている。例えば、特許文献1には、クランク軸に回転可能に取り付けられた揺動歯車を有する減速機が記載されている。この減速機は、ケースとしての外筒と、外筒に回転可能に支持されたキャリヤと、キャリヤに回転可能に支持されたクランク軸と、外筒とキャリヤとの間に介在する主軸受と、キャリヤとクランク軸との間に介在するクランク軸受と、クランク軸と揺動歯車との間に介在する偏心軸受とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、偏心部を有するクランク軸を備える偏心揺動型減速機について、次の新たな認識を得た。特許文献1に記載の減速機では、キャリヤの雌ねじ部に螺合する雄ねじ部を有する規制部材によって、クランク軸の軸方向の移動規制をしている。この場合、振動等により規制部材のねじが緩むことがあり、規制部材が緩むとクランク軸が軸方向に移動し、偏心部がクランク軸受に当たり、クランク軸受を損傷するおそれが高くなる。
これらから、特許文献1に記載の減速機には、クランク軸の移動をより抑えるという観点から改善する余地がある。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、クランク軸の移動をより抑えることが可能な偏心揺動型減速機を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の偏心揺動型減速機は、偏心部が設けられたクランク軸を有する偏心揺動型減速機であって、クランク軸の軸方向の移動を規制する規制部材と、クランク軸の軸方向移動を規制するための規制位置で規制部材を支持する支持部材と、を有する。規制部材は、クランク軸の当接面と当接してクランク軸の軸方向移動を規制する第1規制部材と、当接面とは第1規制部材を挟んで反対側に配置される第2規制部材とを有する。第1規制部材は、第1ねじ部を有し、支持部材に設けられた支持側ねじ部に第1ねじ部を螺合することによって規制位置に支持され、第2規制部材は、第2ねじ部を有し、支持ねじ部に螺合され、かつ第1規制部材に当接することによって、第1規制部材の移動を規制する。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クランク軸の移動をより抑えることが可能な偏心揺動型減速機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る偏心揺動型減速機の一例を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図1の偏心揺動型減速機の規制部材の周囲を拡大して示す図である。
【
図3】
図1の偏心揺動型減速機の規制部材の一例を示す正面図である。
【
図4】実施形態に係る偏心揺動型減速機の規制部材の別例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
[実施形態]
図1、
図2、
図3を参照して、実施形態に係る偏心揺動型減速機100(以下、単に「減速機100」と表記することがある)の全体構成を説明する。
図1は、減速機100を概略的に示す側面視の断面図である。実施形態の減速機100は、内歯歯車と噛み合う外歯歯車を揺動させることで、内歯歯車および外歯歯車の一方の自転を生じさせ、その生じた自転成分を出力部材から被駆動部材に出力する偏心揺動型減速機である。
【0013】
図1の例では、減速機100は、クランク軸が内歯歯車の軸心からオフセットした位置に配置されるいわゆる振り分け型の偏心揺動型減速機である。減速機100は、クランク軸20と、外歯歯車14、15と、内歯歯車16と、キャリヤ35、36と、ケーシング6と、主軸受26、27と、クランク軸軸受39、40と、規制部材7と、支持部材37とを主に備える。
【0014】
以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。
【0015】
規制部材7は、クランク軸20の軸方向の移動を規制する。規制部材7は、クランク軸20の当接面28と当接してクランク軸20の軸方向移動を規制する第1規制部材71と、当接面28とは第1規制部材71を挟んで反対側に配置される第2規制部材76とを有する。ここで、第1規制部材71がクランク軸20の当接面28に当接するとは、第1規制部材71が当接面28に直接的に当接する場合だけでなく、第1規制部材71が間にワッシャなどの他部材を挟んで第1規制部材71が当接面28に当接する場合を含む。この例の当接面28は、軸方向に見て、入力側に面するクランク軸20の環状端面であり、「肩部」と称されることがある。
【0016】
支持部材37は、クランク軸20の軸方向移動を規制するための規制位置で規制部材7を支持する。支持部材37は、支持部材37の入力側の端部で反入力側に凹む凹部80を有する。凹部80は軸方向に見て円形の内周部を有し、当該内周部に支持側ねじ部81が形成される。実施形態の支持部材37は、後述する第2キャリヤ36としても機能する。
【0017】
図2(A)は、偏心揺動型減速機100一部を拡大して示す断面図であり、
図2(B)は、規制部材7の周辺を示す正面図である。第1規制部材71および第2規制部材76は、支持部材37の凹部80に収容される。第1規制部材71は、第1ねじ部72を有し、支持部材37に設けられた支持側ねじ部81に第1ねじ部72を螺合することによって規制位置に支持される。第2規制部材76は、第2ねじ部77を有し、支持側ねじ部81に螺合され、かつ第1規制部材71に当接することによって、第1規制部材71の移動を規制する。
図1の例では、第1ねじ部72および第2ねじ部77は、それぞれの規制部材の外周部に形成された雄ねじである。支持側ねじ部81は、第1ねじ部72および第2ねじ部77と螺合する雌ねじである。
【0018】
第1規制部材71は、軸方向に見て円形の外周部を有し、当該外周部に第1ねじ部72が形成される。第2規制部材76は軸方向に見て円形の外周部を有し、当該外周部に第2ねじ部77が形成される。第2規制部材76は、第1規制部材71の入力側に配置され、取り付けられた状態で第1規制部材71の入力側の端面に接している。第1規制部材71および第2規制部材76については後述する。
【0019】
図1を参照する。減速機100の各部の構成を説明する。キャリヤ35、36は、外歯歯車14、15の反入力側の側部に配置される第1キャリヤ35と、外歯歯車14、15の入力側の側部に配置される第2キャリヤ36とを含む。ケーシング6は、減速機100を包囲する筒状を有し、内周面に内歯歯車16が設けられる。ケーシング6は、主軸受26、27の外周側を支持する。
【0020】
主軸受26、27は、外歯歯車14、15の反入力側の側部に配置される第1主軸受26と、外歯歯車14、15の入力側の側部に配置される第2主軸受27とを含む。主軸受26、27は、ケーシング6を支持する。この例の主軸受26、27は、アンギュラ玉軸受であるが、これに限定されない。キャリヤ35、36は、主軸受26、27を介してケーシング6に回転自在に支持される。
【0021】
クランク軸軸受39、40は、クランク軸20とキャリヤ35、36との間に配置され、キャリヤ35、36に対してクランク軸20を回転自在に支持する。この例のクランク軸軸受39、40は、ころ軸受であるが、これに限定されない。
【0022】
クランク軸20は、内歯歯車16の中心軸線Laからオフセットした位置に3つ配設される。クランク軸20の回転中心線を符号Lbで示す。3つのクランク軸20は、周方向に等間隔に配置される。
図1では一つのクランク軸20のみを示す。クランク軸20は、外歯歯車14、15を揺動させるために、クランク軸20の回転中心線Lbに対して偏心する複数の偏心部24、25を有する。この例のクランク軸20は、互いに偏心位相が180°ずれた2個の偏心部24、25を有する。
【0023】
クランク軸20は、クランク軸軸受39、40を介して第1キャリヤ35および第2キャリヤ36に支持される。反入力側のクランク軸軸受39は、外歯歯車14、15の反入力側の側部において、クランク軸20と、第1キャリヤ35との間に設けられる。入力側のクランク軸軸受40は、外歯歯車14、15の入力側の側部において、クランク軸20と、第2キャリヤ36との間に設けられる。
【0024】
各クランク軸20の入力側の歯車取付部21に入力歯車(不図示)が固定される。各クランク軸20には、入力歯車およびこの入力歯車と噛み合うピニオン(不図示)を介してモータなどの外部動力源(不図示)から回転が入力される。
【0025】
外歯歯車14、15は、偏心ころ19を介して偏心部24、25に対応して設けられ、それぞれ周方向に等間隔で配置された3つの内ピン孔41、42と、3つの揺動孔45、46と、を有する。各内ピン孔41、42には、内ピン48が挿通される。各揺動孔45、46には、クランク軸20の偏心部24、25が挿通され、揺動孔45、46と偏心部24、25との間には複数の偏心ころ19が介在する。外歯歯車14、15の外周に形成された外歯が内歯歯車16と接触しつつ移動することによって外歯歯車14、15が揺動可能に構成される。
【0026】
内歯歯車16は、ケーシング6の内周部に一体化された内歯歯車本体18と、内歯歯車本体18に形成されたピン溝に配置された外ピン17とを有している。外ピン17は、内歯歯車16の内歯を構成し、外歯歯車14、15の外歯と噛み合う。外ピン17の数は、外歯歯車14、15の外歯数よりもわずかだけ(この例では1だけ)多い。
【0027】
内ピン48は、第1キャリヤ35から軸方向に延び、ボルトB1によって第2キャリヤ36に固定される。内ピン48は、外歯歯車14、15の内ピン孔41、42に隙間を有した状態で挿通される。
【0028】
第1キャリヤ35とケーシング6の一方は、被駆動部材(不図示)に回転動力を出力する出力部材となり、他方は減速機100を支持するための外部部材(不図示)に固定される被固定部材となる。
【0029】
減速機100の減速動作を説明する。モータなどの外部動力源からピニオンを介して3つの入力歯車に回転動力が振り分けられ、3つの入力歯車それぞれに固定された3つのクランク軸20が同じ位相で回転する。クランク軸20が回転すると、クランク軸20の偏心部24、25がクランク軸20を通る回転中心線Lb周りに回転し、その偏心部24、25により外歯歯車14、15が揺動する。外歯歯車14、15が揺動すると、外歯歯車14、15と内歯歯車16の外ピン17の噛合位置が順次ずれる。この結果、クランク軸20が一回転する毎に、外歯歯車14、15の歯数と内歯歯車16の外ピン17の数との差に相当する分、外歯歯車14、15および内歯歯車16の一方の自転が発生する。外歯歯車14、15が自転する場合、外歯歯車14、15の自転成分と同期して自転する第1キャリヤ35から減速回転が出力され、第1キャリヤ35に連結される被駆動部材が回転駆動される。内歯歯車16が自転する場合、内歯歯車16と一体に自転するケーシング6から減速回転が出力され、ケーシング6に連結される被駆動部材が回転駆動される。
【0030】
図1、
図2、
図3を参照して第1規制部材71および第2規制部材76の第1の例を説明する。
図3は、第1規制部材71および第2規制部材76の一例を示す正面図である。この例の第1規制部材71は、第1開口部74を囲む環状を有するが、これに限定されない。この例の第1開口部74は、回転中心線Lbを囲む円形であるが、これに限定されない。第1規制部材71は、相手部材(凹部80)に位置決めされるための、第1ねじ部72を有する。この例の第1ねじ部72は、第1規制部材71の外周部に形成された雄ねじであり、凹部80の内周部に形成された支持側ねじ部81に螺合できる。
【0031】
第1規制部材71は、工具9を嵌合可能な工具嵌合部73を有する。工具9は、第1規制部材71をねじ込むための工具(治具を含む)である。工具嵌合部73に嵌合させた工具9を回転中心線Lb周りに回転させることにより、第1規制部材71を回転中心線Lb周りに回転させることができる。この例の工具嵌合部73は、回転中心線Lbからオフセットした位置に周方向に所定間隔で配置された複数(例えば、4つ)の貫通孔であるが、これに限定されない。
【0032】
この例の第2規制部材76は、第2開口部78を囲む環状を有するが、これに限定されない。この例の第2開口部78は、回転中心線Lbを囲む円形であるが、これに限定されない。第2規制部材76は、相手部材(凹部80)に位置決めされるための、第2ねじ部77を有する。この例の、第2ねじ部77は、第2規制部材76の外周部に形成された雄ねじであり、凹部80の内周部に形成された支持側ねじ部81に螺合できる。
【0033】
第2規制部材76は、工具9を嵌合可能な工具嵌合部79を有する。工具9は、第2規制部材76をねじ込むための工具(治具を含む)である。工具嵌合部79に嵌合させた工具9を回転中心線Lb周りに回転させることにより、第2規制部材76を回転中心線Lb周りに回転させることができる。この例の工具嵌合部79は、回転中心線Lbからオフセットした位置に周方向に所定間隔で配置された複数(例えば、4つ)の貫通孔であるが、これに限定されない。
【0034】
規制部材7を取り付ける際、先ず、第2規制部材76が無い状態で、工具9を用いて、所定のねじ締め方向のトルクを第1規制部材71に付与し、第1規制部材71を凹部80の支持側ねじ部81にねじ込む。これによって、第1規制部材71は、当接面28に当接する位置に取り付けられる。次に、第1規制部材71の入力側に、工具9を用いて、第2規制部材76に所定のねじ締め方向のトルクを付与し、第2規制部材76を凹部80の支持側ねじ部81にねじ込む。これによって、第2規制部材76は、第1規制部材71に当接する位置に取り付けられる。さらに、第1規制部材71および第2規制部材76が取り付けられた状態で、工具9を用いて、第2規制部材76が回転しないように工具9で固定して奥側の第1規制部材71に所定の反ねじ締め方向のトルクを付与する。これによって、第1規制部材71は、反ねじ締め方向に僅かに回転し、第1規制部材71と第2規制部材76との間の軸方向の接触圧が高まる。このように規制部材7を取り付けることにより、第1規制部材71および第2規制部材76は、相互にねじ緩みを抑制し合う。
【0035】
このように奥側の第1規制部材71にトルクを付与可能とするために、実施形態では、工具嵌合部73は、第1規制部材71および第2規制部材76が取り付けられた状態で、第2規制部材76側から見たときに露出する。この条件を満たすために、第1規制部材71は、第1開口部74を囲む環状を有し、第2規制部材76は、第2開口部78を囲む環状を有し、第2開口部78の内径は、第1開口部74の内径よりも大きい。この場合、工具嵌合部73の径方向位置を第2開口部78の内周よりも径方向内側にすることにより、第2開口部78から工具嵌合部73を露出させることができる。換言すれば、第1規制部材71の工具嵌合部73は、第2規制部材76の径方向内側面(第2開口部78の内側面)よりも径方向内側に位置する。
【0036】
図4を参照して第1規制部材71および第2規制部材76の第2の例を説明する。
図4は、第1規制部材71および第2規制部材76の第2の例を示す正面図である。
図4(A)は、第1規制部材71を示し、
図4(B)は、第2規制部材76を示し、
図4(C)は、第1規制部材71に第2規制部材76を重ねた状態を示す。第2の例は、第1の例に対して、第1規制部材71の工具嵌合部73の位置および数と、第2規制部材76の工具嵌合部79の形状が異なる点で相違し、他の構成は同様である。よって相違点を重点的に説明する。
【0037】
この例の第1規制部材71には、複数(例えば6つ)の工具嵌合部73が周方向に所定間隔で設けられており、工具嵌合部73の径方向位置は、第2規制部材76の工具嵌合部79の径方向位置とほぼ同じである。この例の第2規制部材76には、複数(例えば4つ)の工具嵌合部79が周方向に所定の間隔で設けられており、工具嵌合部79は、周方向に延びる長孔である。この例では、6つの工具嵌合部73が、周方向に60°間隔で配置され、4つの工具嵌合部79が、周方向に90°間隔で配置されている。
【0038】
この構成により、第1規制部材71および第2規制部材76が取り付けられた状態で、第2規制部材76のいずれの回転位置においても、複数の工具嵌合部73のいずれかが第2規制部材76から見たときに露出する。この例では、第2規制部材76のいずれの回転位置においても、6つの工具嵌合部73のうち少なくとも2つが、工具嵌合部79から露出する。つまり、工具嵌合部79は、周方向に延びる長孔であることにより、広範囲の回転位置において、工具嵌合部73の少なくとも一部を露出可能な露出孔として機能する。特に、この構成では第2規制部材76のいずれの回転位置においても、工具嵌合部73の少なくとも一部を露出可能な露出孔として機能する。
【0039】
第2規制部材76のいずれの回転位置においても、露出孔である工具嵌合部79は、工具嵌合部73を広く露出できることが望ましい。そこで、実施形態では、工具嵌合部79の面積は、工具嵌合部73の面積よりも大きい。
図4の例では、露出孔である工具嵌合部79の周方向寸法を、工具嵌合部73の周方向寸法よりも大きくすることにより、工具嵌合部79の面積を工具嵌合部73の面積よりも大きく構成している。この場合、工具嵌合部79は、工具嵌合部73を広く露出できる。
【0040】
上記のように構成された偏心揺動型減速機100の特徴を説明する。偏心揺動型減速機100は、偏心部24、25が設けられたクランク軸20を有する偏心揺動型減速機であって、クランク軸20の軸方向の移動を規制する規制部材7と、クランク軸20の軸方向移動を規制するための規制位置で規制部材7を支持する支持部材37と、を有する。規制部材7は、クランク軸20の当接面28と当接してクランク軸20の軸方向移動を規制する第1規制部材71と、当接面28とは第1規制部材71を挟んで反対側に配置される第2規制部材76とを有する。第1規制部材71は、第1ねじ部72を有し、支持部材37に設けられた支持側ねじ部81に第1ねじ部72を螺合することによって規制位置に支持され、第2規制部材76は、第2ねじ部77を有し、支持側ねじ部81に螺合され、かつ第1規制部材71に当接することによって、第1規制部材71の移動を規制する。
【0041】
この構成によれば、第1規制部材71と第2規制部材76とによりクランク軸20の軸方向の移動を規制できるので、1つの規制部材で移動規制する場合よりも、クランク軸20の移動をより確りと抑えることが可能になる。また、第1規制部材71および第2規制部材76が相互にねじ緩みを抑制し合うようにすることができるので、振動等によるねじの緩みが生じにくい。この結果、クランク軸20の移動に起因する不具合の可能性を低くできる。
【0042】
以上が、実施形態の説明である。
【0043】
以上、実施形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【0044】
(変形例)
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0045】
実施形態の説明では、工具嵌合部73を露出するための露出孔として工具嵌合部79を用いる例を示したが、本発明はこれに限定されない。第2規制部材76には、工具嵌合部79とは別に工具嵌合部73を露出するための露出孔が設けられてもよい。
【0046】
実施形態の説明では、第1開口部74および第2開口部78が円形である例を示したが、本発明はこれに限定されない。これらの開口部は、多角形や星形など円形以外の形状であってもよく、例えば、六角レンチを嵌合可能な6角形としてもよい。
【0047】
実施形態の説明では、工具嵌合部73および工具嵌合部79が円形の貫通孔である例を示したが、本発明はこれに限定されない。これらの工具嵌合部は、多角形やや星形など円形以外の形状であってもよく、例えば、六角レンチを嵌合可能な6角形としてもよい。工具嵌合部は、有底凹部であってもよい。
【0048】
実施形態の説明では、第1規制部材71と第2規制部材76とが、同じ工具9を用いてねじ締めされる例を示したが、本発明はこれに限定されない。これらの規制部材は、別々の工具を用いてねじ締めされてもよい。
【0049】
実施形態の説明では、減速機100が内歯歯車16の軸心からオフセットした位置に複数のクランク軸20が配置されるいわゆる振り分けタイプの偏心揺動型減速機である例を示したが、本発明はこれに限定されず、各種の減速機構を採用できる。例えば、減速機は、内歯歯車の軸心位置にクランク軸が配置されるいわゆるセンタークランクタイプの偏心揺動型減速機であってもよい。
【0050】
実施形態の説明では、減速機100が、外歯歯車14を2枚備える例を示したが、本発明はこれに限定されない。減速機は、1枚または3枚以上の外歯歯車を備えてもよい。
【0051】
これらの各変形例は、実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0052】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0053】
7 規制部材、 9 工具、 20 クランク軸、 24 偏心部、 28 当接面、 37 支持部材、 71 第1規制部材、 72 第1ねじ部、 73 工具嵌合部、 74 第1開口部、 76 第2規制部材、 77 第2ねじ部、 78 第2開口部、 79 工具嵌合部、 81 支持側ねじ部、 100 偏心揺動型減速機。