(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093484
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】水電解システム
(51)【国際特許分類】
C25B 9/60 20210101AFI20240702BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240702BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240702BHJP
C25B 9/17 20210101ALI20240702BHJP
C25B 13/02 20060101ALI20240702BHJP
C25B 9/70 20210101ALI20240702BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C25B9/60
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/17
C25B13/02 302
C25B9/70
C25B13/08 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209890
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 育康
(72)【発明者】
【氏名】藤田 敬祐
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021CA09
4K021DB16
4K021DB31
4K021DB40
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】水電解効率を向上させる。
【解決手段】水の電気分解によって酸素と水素とを生成する水電解システムであって、複数の水電解セルが積層された水電解スタックを備え、水電解セルは水電解が行われる水電解部と、水電解部の外側に設けられ水電解部へ、及び、水電解部からの流体が流れる流路を形成する流路形成部と、を備え、流路形成部では水素極セパレータ、酸素極セパレータ、及び、水素極セパレータと酸素極セパレータとの間に配置された樹脂シートを有し、樹脂シートには水素極セパレータ及び酸素極セパレータのマニホールドに通じる流路を形成するように複数スリットが設けられており、水電解セルの平面視で、複数のスリットは、該複数のスリットが形成された範囲の面積に対する、複数のスリットの開口の合計面積が50%以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の電気分解によって酸素と水素とを生成する水電解システムであって、
複数の水電解セルが積層された水電解スタックを備え、
前記水電解セルは水電解が行われる水電解部と、前記水電解部の外側に設けられ前記水電解部へ、及び、前記水電解部からの流体が流れる流路を形成する流路形成部と、を備え、
前記流路形成部では水素極セパレータ、酸素極セパレータ、及び、前記水素極セパレータと前記酸素極セパレータとの間に配置された樹脂シートを有し、
前記樹脂シートには前記水素極セパレータ及び前記酸素極セパレータのマニホールドに通じる流路を形成するように複数スリットが設けられており、
前記水電解セルの平面視で、前記複数のスリットは、該複数のスリットが形成された範囲の面積に対する、前記複数のスリットの開口の合計面積が50%以上である、
水電解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は水電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水電解システムにおいて、高電流密度で水電解するときには、水不足による効率の低下や劣化が懸念されるため、電気分解される水量を推定することにより水不足を発生させないように水の供給量を制御することが開示されている。ここでは水不足発生状態に対して水不足を発生させないようにすることでの効率向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の水電解システムでは、より高電流密度で高効率に水電解し、小型化したい要求に対して、水不足がない状態で効率を向上することについては開示されていない。
本開示は水電解効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は、水の電気分解によって酸素と水素とを生成する水電解システムであって、複数の水電解セルが積層された水電解スタックを備え、水電解セルは水電解が行われる水電解部と、水電解部の外側に設けられ水電解部へ、及び、水電解部から流体が流れる流路を形成する流路形成部と、を備え、流路形成部では水素極セパレータ、酸素極セパレータ、及び、水素極セパレータと酸素極セパレータとの間に配置された樹脂シートを有し、樹脂シートには水素極セパレータ及び酸素極セパレータのマニホールドに通じる流路を形成するように複数スリットが設けられており、水電解セルの平面視で、複数のスリットは、該複数のスリットが形成された範囲の面積に対する、複数のスリットの開口の合計面積が50%以上である、水電解システムを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、排水性能が向上し、両極間の水濃度差が大きくなって電解質膜を通る水の量が増え、膜抵抗が下がるため、水電解効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は水電解システム10の構成を説明する概念図である。
【
図2】
図2(a)は水電解セル11の構成を説明する平面図、
図2(b)は水電解部の層構成を説明する断面図である。
【
図3】
図3(a)は水電解セル11の流路形成部のうち水素極出口マニホールド13の周辺に注目した平面図、
図3(b)はスリット53aの周辺に注目した平面図である。
【
図5】
図5(a)は形態例2、
図5(b)は形態例3についてそれぞれ説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.水電解システムの構成
図1には1つの形態にかかる水電解システム10を概念的に表した。
本形態で水電解システム10は、複数の水電解セル11が積層されてなる水電解スタック20、水電解スタック20を挟んで一方側の給水側経路(酸素側経路)、他方側の水素側経路を有している。水電解システム10では、水電解スタック20に具備された水電解セル11に対して給水側経路から純水を供給して電源21で通電することで水を水素と酸素とに分解し、水素を得て水素側経路に分離する。
【0009】
給水側経路(酸素側経路)では、市水をイオン交換機22に通して水タンク23に貯水し、これを水ポンプ24で水電解スタック20に供給する。水電解スタック20から出た酸素と水は気液分離器25で気液が分離され、気体(酸素)は排出、液(水)は水タンク23に戻される。
水素側経路では、水電解スタック20から出た水素と水は気液分離器26で気液が分離され、気体(水素)は除湿器27で除湿され、水素タンク29に送られる。一方、気液分離器26で分離された液(水)は不図示のポンプにより水タンク23に戻される。
【0010】
水電解スタック20の両極間に電源線を介して電源21が接続されている。
【0011】
2.水電解セル
2.1.形態例1
図2には1つの水電解セル11を平面視した図(
図2(a))、及び、A-A断面図(
図2(b))を示した。
図3(a)には
図2(a)のうちの水素極出口マニホールド13の近傍に注目した図、及び、さらに
図3(b)には水素極連結流路53の部位に注目した図を示した。また、
図4(a)には
図3(a)のBーB矢視断面図、
図4(b)には
図4(a)のC-C矢視断面図、
図4(c)には
図4(a)のD-D矢視断面図をそれぞれ示した。
水電解セル11は
図2~
図4よりわかるように複数の層による積層構造を有しているが、
図2(b)に表れるように中央部分の一定の範囲を占め、水分解が行われる部位(水電解部)、及び、
図3、
図4に表れるように水電解部の外側に配置され、水電解部に対して水を供給したり発生した気体を排出したりする流路形成部を有してなる。
【0012】
水電解部の層構成は公知の通りであり特に限定されることはないが、
図2(b)に表れているように、水電解セル11は、電解質膜1の一方側に水素極触媒層2、水素極拡散層4、水素極セパレータ6が積層され、電解質膜1の他方側に酸素極触媒層3、酸素極拡散層5、酸素極セパレータ7が積層されている。
水素極セパレータ6は当該断面において波形状であり水素極拡散層4との間に溝状の水素極流路8を形成し、酸素極セパレータ7も当該断面において波形状であり酸素極拡散層5との間に溝状の酸素極流路9を形成する。
【0013】
流路形成部では、水電解部の各酸素極流路9に水を供給する流路のための孔である酸素極入口マニホールド14、水電解部の各酸素極流路9から発生したガス(酸素)及び余剰の水を集めて排出する孔である酸素極出口マニホールド15を備えている。また、流路形成部では、水電解部の各水素極流路8から発生したガス(水素)及び酸素極側から透過してきた水を集めて排出する水素極出口マニホールド13を備えている。
【0014】
流路形成部では
図4に表れているように水素極セパレータ6と酸素極セパレータ7との間に樹脂シート51を挟むことで封止している。
【0015】
また、流路形成部では水電解部から水素極出口マニホールド13に向けて水素連結流路52及び水素連結流路53が形成されており、
図4(a)に矢印Fで示したように各水素極流路8からの水素及び水を集めて水素出口マニホールド13に導いて排出している。
【0016】
水素連結流路52は、
図4(a)、
図4(c)からわかるように、水素連結流路53よりも水電解部側に設けられ、水素極流路8から水素及び水を受け入れて水素連結流路53に導く流路である。本形態で水素連結流路52は水素極セパレータ6の凹部に形成され、樹脂シート51と当該凹部で囲まれた溝状空間である。
【0017】
水素連結流路53は、
図3(a)、
図3(b)からわかるように、樹脂シート51に複数のスリット53aが並べられることにより形成されており、一端が水素連結流路52に連結されて、他端側が水素極出口マニホールド13につながる流路となっている。
この水素連結流路53は複数の水電解セル11が積層された際の隣り合う水電解セル11間のシール部材であるガスケット50を支える土台(シールライン)として形成されている。
【0018】
本開示では水素連結流路53は、当該平面視において、スリット53aが形成される範囲の面積(
図3(b)のH×V、全てのスリット53aを内包する長方形で最も小さいものの面積)に対して複数のスリット53aの開口が占める面積の割合が50%以上である。ここで、Hはスリット53aが延びる方向における長さ、Vは並べられる方向における両端のスリット53aの端部間の距離である。
これにより、水素極出口マニホールド付近における水素連結流路53における圧力損失を低く抑えることができ、より多くの水素及び水を排出することができる。このように水素極側の水素及び水の排出量が増えることで電解質膜1の両極間の水濃度差が大きくなり、水の透過量が増え、電解質膜1の抵抗が下がり、過電圧も下がって水電解効率が向上する。
【0019】
2.2.形態例2
図5(a)には形態例2を説明する図を示した。
図5(a)は
図3(b)と同じ視点による図である。形態例2においても水素連結流路53が形成される部位の面積(
図5(a)のH×V、全てのスリット53aを内包する長方形で最も小さいものの面積)に対してスリット53aの開口が占める面積割合が50%以上である。ただし、形態例2では、複数のスリット53aは、水素連結流路52側の端部が一体化されている。このような水素連結流路53でも上記形態例1と同様の効果を奏するものとなる。なお、複数のスリット53aが連結される部分はシールラインとなるガスケット50よりも水素連結流路52側となるように構成されている。
【0020】
2.3.形態例3
図5(b)には形態例3を説明する図を示した。
図5(b)は
図3(b)と同じ視点による図である。形態例3においても水素連結流路53が形成される部位の面積(
図5(b)のH×V、全てのスリット53aを内包する長方形で最も小さいものの面積)に対してスリット53aの開口が占める面積割合が50%以上である。本形態ではスリット53aによる流路の圧力損失を下げるために、シールラインとなるガスケット50から外れた位置のスリット53aのみ、幅を拡幅した形態である。このような水素連結流路53でも上記形態例1と同様の効果を奏するものとなる。
【0021】
3.他の形態
3.1.形態例4
形態例4では水電解セル11は上記形態例1~形態例3のいずれかとし、
図1に示した水電解システム10に対して水素側経路で水素極流路8に対して、乾燥ガスとして窒素を供給するように構成する。そのため、形態例4では
図1の除湿器27と水素タンク29との間に水素分離膜を配置して窒素と水素とを分離する。
【0022】
供給された窒素は、水素極側の水を水蒸気として持ち去るため、乾燥ガスを供給しない通常の場合に比べ、より多くの水分量を排出することができる。また、水素のみの場合に比べてガス量が増えること、ガスの質量が増えることで、液水状態での排出量も増える。水素極側の水分の排出量が増えることで電解質膜1の両極間の水濃度差が大きくなり、水の透過量が増え、電解質膜1の抵抗が下がり、過電圧も下がって水電解効率が向上する。なお、水電解セル11上記形態例1~形態例3のいずれかを適用すれば、当該形態例に基づいた効果を奏するものとなる。
【0023】
3.2.形態例5
形態例5では単位水電解セル11は上記形態例1~形態例3のいずれかとし、
図1に示した水電解システム10に対して除湿器27を通過して得られた水素の一部を、水素極流路8に対して供給する。他の一部は水素タンク29に送られるように構成する。これによっても供給された水素によりガス量が増え、ガスの質量が増えることで、液水状態での排出量も増える。そしてより多くの水分量を排出し、形態例4と同様の効果を奏するものとなる。
【符号の説明】
【0024】
1…電解質膜、2…水素極触媒層、3…酸素極触媒層、4…水素極拡散層、5…酸素極触媒層、6…水素極セパレータ、7…酸素極セパレータ、8…水素極流路、9…酸素極流路、10…水電解システム、11…単位水電解セル、13…水素極出口マニホールド、20…水電解スタック、21…電源、22…イオン交換器、23…水タンク、24…ポンプ、25…気液分離器、26…気液分離器、27…除湿器、28…水素分離膜、29…水素タンク、50…ガスケット、51…樹脂シート、52…水素連結流路、53…水素連結流路、53a…スリット