(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093485
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】屋根構造
(51)【国際特許分類】
E04B 7/02 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
E04B7/02 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209892
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 将吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 綾香
(72)【発明者】
【氏名】張 子龍
(72)【発明者】
【氏名】大平 眞
(72)【発明者】
【氏名】荒木 爲博
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊司
(57)【要約】 (修正有)
【課題】2棟の建物を屋根で繋ぐに当たり、屋根構造の複雑化による工期の長期化やコストの高騰を招くことなく、屋根の棟高さが一定にならないことに起因して、屋根が風荷重を受け易くなることや遮音性が低下するなどの不都合の発生を回避できるようにする。
【解決手段】桁行方向Xの異なる箇所での建物B1,B2間の離隔距離が異なる状態で並列に配置された2棟の建物B1,B2を、棟Raから両側に一定の勾配又は曲率で葺き下ろす形状の屋根Rで繋ぐ屋根構造において、屋根Rの平面視形状を、建物B1,B2間の離隔距離に応じて屋根Rの梁間方向での屋根幅を異ならせた形状に形成するとともに、建物B1,B2のそれぞれに備えられる屋根受け用の立上り部3,4を、建物B1,B2間の離隔距離が短い箇所ほど立ち上がり高さが高くなり、建物B1,B2間の離隔距離が長い箇所ほど立ち上がり高さが低くなるように立ち上げて、屋根Rの棟高さを一定にする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
桁行方向の異なる箇所での建物間の離隔距離が異なる状態で並列に配置された2棟の建物を、棟から両側に一定の勾配又は曲率で葺き下ろす形状の屋根で繋ぐ屋根構造であって、
前記屋根Rの平面視形状を、前記建物間の離隔距離に応じて前記屋根の梁間方向での屋根幅を異ならせた形状に形成するとともに、前記建物のそれぞれに備えられる屋根受け用の立上り部を、前記建物間の離隔距離が短い箇所ほど立ち上がり高さが高くなり、前記建物間の離隔距離が長い箇所ほど立ち上がり高さが低くなるように立ち上げて、前記屋根の棟高さを一定にしている屋根構造。
【請求項2】
前記立上り部を前記屋根の全長にわたる壁状に立上げている請求項1に記載の屋根構造。
【請求項3】
前記建物の柱を前記立上り部の天端まで延長させている請求項1又は2に記載の屋根構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桁行方向の異なる箇所での建物間の離隔距離が異なる状態で並列に配置された2棟の建物を、棟から両側に一定の勾配又は曲率で葺き下ろす形状の屋根で繋ぐ屋根構造に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景技術としては、例えば、同じ曲率で湾曲するアーチ状に形成された複数のはしご状フレーム、又は、同じ勾配で傾斜する山形状に形成された複数のはしご状フレームを、平行に配置された2棟の建物間に架設して屋根架構を構成し、屋根架構の外面にガラスなどの透明な板材が組込まれたサッシュ又は屋根材を張設することで、アーチ状のアトリウム屋根又は山形状の屋根を構成する技術が記載ある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、屋根を構成する複数のはしご状フレームが、同じ曲率で湾曲するアーチ状、又は、同じ勾配で傾斜する山形状に形成されることにより、屋根で繋がれる2棟の建物が平行に配置されている場合は、桁行方向の異なる箇所での建物間の離隔距離が同じになることから、2棟の建物を繋ぐ屋根の棟高さが一定になる。
【0005】
しかしながら、屋根で繋がれる2棟の建物が、それらの桁行方向の異なる箇所での建物間の離隔距離が異なる状態で並列に配置されている場合は、2棟の建物を繋ぐ屋根の棟高さが建物間の離隔距離に比例して変化することになる。つまり、建物間の離隔距離が長くなるほど、2棟の建物を繋ぐ屋根の棟高さが高くなって桁行方向での屋根の見附面積(受圧面積)が大きくなることにより、屋根が桁行方向の風荷重を受け易くなり、これに応じて、より頑丈な屋根を構築する必要が生じることになる。
【0006】
又、2棟の建物が、それらの桁行方向の異なる箇所での離隔距離が、桁行方向の一端側箇所から他端側箇所に向うに連れて徐々に長くなるハの字状に配置されている場合は、それらの離隔距離に比例して、屋根の棟高さが、桁行方向の一端側箇所から他端側箇所に向うに連れて徐々に高くなる。すると、2棟の建物とそれらを繋ぐ屋根との間に形成される空間が、桁行方向の一端側箇所から他端側箇所に向うに連れて徐々に広くなり、これにより、空間における桁行方向の一端側箇所から他端側箇所への音の指向性が強くなり、他端側箇所での遮音性が低下する不都合を招くことになる。
ここで、屋根で繋がれる建物間の離隔距離に応じて屋根の勾配又は曲率を変更することにより屋根の棟高さを一定にすることが考えられるが、この場合、建物間の離隔距離に応じて屋根の勾配又は曲率を変更することに起因した屋根構造の複雑化が生じることになり、工期の長期化やコストの高騰を招くことになる。
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、桁行方向の異なる箇所での建物間の離隔距離が異なる状態で並列に配置された2棟の建物を屋根で繋ぐに当たり、屋根構造の複雑化による工期の長期化やコストの高騰を招くことなく、屋根の棟高さが一定にならないことに起因して、屋根が風荷重を受け易くなることや遮音性が低下するなどの不都合の発生を回避できるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は、桁行方向の異なる箇所での建物間の離隔距離が異なる状態で並列に配置された2棟の建物を、棟から両側に一定の勾配又は曲率で葺き下ろす形状の屋根で繋ぐ屋根構造であって、
前記屋根の平面視形状を、前記建物間の離隔距離に応じて前記屋根の梁間方向での屋根幅を異ならせた形状に形成するとともに、前記建物のそれぞれに備えられる屋根受け用の立上り部を、前記建物間の離隔距離が短い箇所ほど立ち上がり高さが高くなり、前記建物間の離隔距離が長い箇所ほど立ち上がり高さが低くなるように立ち上げて、前記屋根の棟高さを一定にしている点にある。
【0009】
本構成によると、立上り部の立ち上がり高さが建物間の離隔距離に比例することにより、桁行方向の異なる箇所での建物間の離隔距離が異なる2棟の建物を、棟から両側に一定の勾配又は曲率で葺き下ろす形状の切妻型や招き型あるいはアーチ型などの屋根で繋ぐようにしても、屋根の平面視形状を、建物間の離隔距離に応じて屋根の梁間方向での屋根幅を異ならせた形状に形成しながら、屋根の棟高さを一定にすることができる。
これにより、建物間の離隔距離に応じて屋根の勾配又は曲率を変更することに起因した屋根構造の複雑化を回避しながら、桁行方向での屋根の見附面積(受圧面積)を最小限に抑えることができ、屋根にかかる桁行方向の風荷重を抑制することができる。
又、2棟の建物が、それらの桁行方向の異なる箇所での離隔距離が、桁行方向の一端側箇所から他端側箇所に向うに連れて徐々に長くなるハの字状に配置されている場合であっても、屋根の棟高さを一定にすることができ、これにより、2棟の建物とそれらを繋ぐ屋根との間に形成される空間における桁行方向の一端側箇所から他端側箇所への音の指向性を弱めることができ、他端側箇所での遮音性の低下を抑制することができる。
その結果、2棟の建物が、それらの桁行方向の異なる箇所での離隔距離が異なる状態で並列に配置されていても、屋根構造の複雑化による工期の長期化やコストの高騰を招くことなく、屋根の棟高さが一定にならないことに起因して、屋根が風荷重を受け易くなることや遮音性が低下するなどの不都合の発生を回避しながら、2棟の建物を屋根で繋ぐことができる。
【0010】
本発明の第2特徴構成は、前記立上り部を前記屋根の全長にわたる壁状に立上げている点にある。
【0011】
本構成によると、壁状の立上り部により、2棟の各建物と屋根との隙間を塞ぐことができ、それらの隙間から2棟の建物と屋根との間に形成された空間への通風を阻止することができる。
その結果、風が各建物と屋根との隙間から屋根裏に流れ込んで屋根を押し上げるなどの不都合の発生を防止することができる。
【0012】
本発明の第3特徴構成は、前記建物の柱を前記立上り部の天端まで延長させている点にある。
【0013】
本構成によると、各建物の柱を立上り部の天端まで延長させることにより、屋根からのスラスト力をより確実に建物側に伝達させることができ、屋根からのスラスト力に抗する耐力をより好適に確保することができる。
その結果、2棟の建物を繋ぐ屋根をより好適に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】建物の配置及び屋根架構の構成などを示す平面図
【
図3】屋根及び屋根受け用の立上り部の形状などを示す立面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る屋根構造の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1~2に示すように、本実施形態で例示する屋根構造は、桁行方向Xの異なる箇所での建物B1,B2間の離隔距離が異なる状態で並列に配置された2棟の建物B1,B2を、棟Raから両側に一定の勾配で葺き下ろす形状の一例である切妻型の屋根Rで繋ぐためのものである。具体的には、2棟の建物B1,B2は、それらの桁行方向Xの異なる箇所での離隔距離が、桁行方向Xの一端側箇所(図中の左端側箇所)から他端側箇所(図中の右端側箇所)に向うに連れて徐々に長くなる平面視ハの字状に配置されており、屋根1は、その平面視形状が、建物B1,B2間の離隔距離に応じて梁間方向Yでの屋根幅を異ならせた台形に形成された状態で、2棟の建物B1,B2を繋ぐように構成されている。2棟の建物B1,B2に対する桁行方向Xの他端側には、住居用の建物B3が隣接している。
尚、屋根Rの形状としては、切妻型に限らず、例えば、招き型や棟Raから両側に一定の曲率で葺き下ろすアーチ型などであってもよい。
【0017】
図3~5に示すように、建物B1,B2は、鉄筋コンクリート造で、それらの屋上階における対向する外壁面側の大梁1,2上に屋根受け用の立上り部3,4が増打ちされている。屋根Rは、各建物B1,B2の立上り部3,4に支持された鉄骨造の屋根架構11の上部に屋根材の一例である折板屋根12を敷設して構成されている。
尚、建物B1,B2は、鉄筋コンクリート造に限らず、例えば、鉄骨鉄筋コンクリート造や木造などであってもよい。又、屋根架構11は、鉄骨造に限らず木造などであってもよく、屋根材は、折板屋根12に限らず瓦棒葺き屋根(トタン屋根)などであってもよい。
【0018】
図1~3に示すように、屋根架構11は、各建物B1,B2の立上り部3,4間に山形に架設される複数の大梁13と、隣り合う大梁13の中間部側に架設される複数の第1小梁14と、隣り合う大梁13の両端部に架設される第2小梁15などから構成されている。各大梁13は、H形鋼を主材とし、それらの端部に備えられたブラケット13Aが、アンカーボルト(図示せず)などを使用して各建物B1,B2の立上り部3,4に接合されており、各立上り部3,4の上端から屋根Rの棟Raに向けて斜め上方に延びている。各小梁14,15にはH形鋼が使用されている。
尚、各大梁13は、H形鋼を主材とするものに限らず、鋼管材や溝形鋼などを主材とするものであってもよい。各小梁14,15には、H形鋼に限らず溝形鋼などを使用することができる。
【0019】
図4に示すように、屋根架構11における最大幅側の端部には、各建物B1,B2の大梁1,2間に水平に架設される小屋梁16が配備されている。小屋梁16は、H形鋼を主材とし、それらの端部に備えられた接続プレート16Aが、アンカーボルト(図示せず)などを使用して各建物B1,B2の大梁1,2に接合されている。小屋梁16は、その中間部側が直上に位置する大梁13の中間部側に、H形鋼からなる複数の第1束材17などを介して接合され、その両端部側が直上に位置する大梁13の両端部側に、溝形鋼からなる第2束材18などを介して接合されている。隣り合う第1束材17は、H形鋼からなる小梁19などを介して接合されている。
尚、小屋梁16は、H形鋼を主材とするものに限らず、鋼管材や溝形鋼などを主材とするものであってもよい。各第1束材17と小梁19には、H形鋼に限らず溝形鋼や山形鋼などを使用することができ、各第2束材18には、溝形鋼に限らずH形鋼や山形鋼などを使用することができる。
【0020】
図3に示すように、各立上り部3,4は、建物B1,B2間の離隔距離が短い箇所ほど立ち上がり高さが高くなり、建物B1,B2間の離隔距離が長い箇所ほど立ち上がり高さが低くなるように立ち上げられている。具体的には、各立上り部3,4は、屋根Rの全長にわたる壁状で、各建物B1,B2における桁行方向Xの一端側(図中左側)から他端側(図中右側)に向けて、建物B1,B2間の離隔距離に比例して徐々に低くなるように立ち上げられている。各建物B1,B2において、各立上り部3,4の真下に位置する各柱5,6は、各立上り部3,4の天端まで延長されている。
【0021】
図示は省略するが、各立上り部3,4の立ち上げ高さが低い箇所においては、屋根Rの大梁13を固定するアンカーボルトが、立上り部3,4を貫通して各建物B1,B2の大梁1,2と屋根Rの大梁13とにわたることで、屋根Rの大梁13が各建物B1,B2の大梁1,2に接続されるように構成されている。
【0022】
以上の通り、本実施形態で例示する屋根構造においては、2棟の建物B1,B2が、それらの桁行方向Xの異なる箇所での離隔距離が、桁行方向Xの一端側箇所から他端側箇所に向うに連れて徐々に長くなる平面視ハの字状に配置されていても、各建物B1,B2における立上り部3,4の立ち上がり高さが建物B1,B2間の離隔距離に比例して、各建物B1,B2における桁行方向Xの一端側から他端側に向けて徐々に低くなるように立ち上げられていることにより、ハの字状に配置された2棟の建物B1,B2を切妻型の屋根Rで繋ぐようにしても、屋根Rの平面視形状を、建物B1,B2間の離隔距離に応じて屋根Rの梁間方向Yでの屋根幅を異ならせた台形に形成しながら、屋根Rの棟高さを一定にすることができる。
【0023】
これにより、建物B1,B2間の離隔距離に応じて屋根Rの勾配を変更することに起因した屋根構造の複雑化を回避しながら、桁行方向Xでの屋根Rの見附面積(受圧面積)を最小限に抑えることができ、屋根Rにかかる桁行方向Xの風荷重を抑制することができる。
【0024】
又、2棟の建物B1,B2が平面視でハの字状に配置されていても、屋根Rの棟高さを一定にできることにより、建物B1,B2間の離隔距離に比例して屋根Rの棟高さが高くなる場合に比較して、2棟の建物B1,B2とそれらを繋ぐ屋根Rとの間に形成される空間における、桁行方向Xの一端側箇所から他端側箇所への音の指向性を弱めることができ、これにより、他端側箇所での遮音性の低下を抑制することができ、その他端側に隣接する建物B3への騒音の伝達を抑制することができる。
【0025】
その結果、2棟の建物B1,B2がハの字状に配置されていても、屋根構造の複雑化による工期の長期化やコストの高騰を招くことなく、屋根Rの棟高さが一定にならないことに起因して、屋根Rが風荷重を受け易くなることや遮音性が低下するなどの不都合の発生を回避しながら、2棟の建物B1,B2を切妻型の屋根Rで繋ぐことができる。
【0026】
そして、各建物B1,B2に備えられる立上り部3,4が屋根Rの全長にわたる壁状であることにより、2棟の各建物B1,B2と屋根Rとの隙間を塞ぐことができ、それらの隙間からの2棟の建物B1,B2と屋根Rとの間に形成された空間への通風を阻止することができる。
【0027】
その結果、風が各建物B1,B2と屋根Rとの隙間から屋根裏に流れ込んで屋根Rを押し上げるなどの不都合の発生を防止することができる。
【0028】
しかも、各建物B1,B2においては、立上り部3,4を支持する各柱5,6が各立上り部3,4の天端まで延長されていることにより、これらの柱5,6により、屋根Rからのスラスト力をより確実に建物B1,B2側に伝達させることができ、屋根Rからのスラスト力に抗する耐力をより好適に確保することができる。
【0029】
その結果、2棟の建物B1,B2を繋ぐ屋根Rをより好適に構築することができる。
【0030】
〔別実施形態〕
本発明の別実施形態について説明する。
【0031】
(1)上記の実施形態においては、屋根受け用の立上り部3,4として、屋根Rの全長にわたって壁状に立上げられるものを例示したが、これに限らず、例えば、屋根Rの支持位置に応じて柱状に立上げられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0032】
3 立上り部
4 立上り部
5 柱
6 柱
B1 建物
B2 建物
R 屋根
Ra 棟
X 桁行方向
Y 梁間方向