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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093494
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20240702BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20240702BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20240702BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B01J37/02 301D
B01J35/04 301L
B01J23/44 A ZAB
B01D53/94 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209909
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】桑原 聖
(72)【発明者】
【氏名】小原 恵津子
(72)【発明者】
【氏名】森田 涼馬
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA06
4D148AA13
4D148AA18
4D148AB01
4D148AB02
4D148BA03X
4D148BA06Y
4D148BA07Y
4D148BA08Y
4D148BA19Y
4D148BA30Y
4D148BA31X
4D148BA32Y
4D148BA33Y
4D148BA41X
4D148BA42Y
4D148BB02
4D148CC70
4D148DA03
4D148DA20
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01B
4G169BA17
4G169BC72B
4G169CA09
4G169DA06
4G169EA18
4G169EB12Y
4G169EB14Y
4G169FB15
4G169FB18
4G169FB78
4G169FB79
(57)【要約】
【課題】ツバ部を有する基材を用いた際に、当該ツバ部へのスラリーの付着を抑制し、ハニカム構造体において未コート部が発生することを抑制する製造方法を提供すること。
【解決手段】ここに開示される排ガス浄化用触媒の製造方法は、ツバ部13を有する外筒11とハニカム構造体12とを備える基材10を用意する工程と、基材10の筒軸が垂直方向と略一致するように基材10を保持する工程と、外筒11の内径よりも小さい外径の円筒形状の仕切り部材110を外筒11の上端から挿入し、ハニカム構造体12の上方側の端面と仕切り部材110の下端とが対向するように配置する工程と、仕切り部材110にスラリーを供給する工程と、スラリーを外筒の下端から吸引する工程と、を含む。配置工程では、仕切り部材110と基材10とが所定のクリアランスとなるように配置され、供給工程で供給されるスラリーは所定の粘度に調整される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒の製造方法であって、
外筒と、該外筒の内部に配置され、排ガスが流動可能に形成されたハニカム構造体と、を備え、該ハニカム構造体は該外筒よりも筒軸方向の長さが短く、該外筒は筒軸方向の少なくとも一方の端部において、該ハニカム構造体の端面よりも筒軸方向に向けて突出したツバ部を有する基材を用意する工程と、
前記基材の筒軸が垂直方向と略一致するように前記基材を保持する工程と、
前記外筒の内径よりも小さい外径の円筒形状の仕切り部材を前記基材の上端から挿入し、前記ハニカム構造体の上方側の端面と前記仕切り部材の下端とが対向するように配置する工程と、
前記仕切り部材に触媒金属を含む触媒層形成用スラリーを供給する工程と、
前記触媒層形成用スラリーを前記基材の下端から吸引する工程と、
を含み、
前記配置工程では、対向して配置された前記ハニカム構造体の端面と前記仕切り部材の下端とのクリアランスXが0.5mm以上2mm以下であり、かつ、前記基材のツバ部の内壁と前記仕切り部材の外壁とのクリアランスYの値が0.5mm以上2mm以下となるように前記仕切り部材を配置し、
前記供給工程において供給される触媒層形成用スラリーは、
せん断速度が4sec-1のときの粘度をV(mPa・s)、せん断速度が150sec-1のときの粘度をV150(mPa・s)としたときに、
式(1):V≧2500X;かつ、
式(2):V150≦1150X;
を満たすことを特徴とする、排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記供給工程において供給される触媒層形成用スラリーは、せん断速度が4sec-1のときの粘度Vが20000mPa・s以下となるように調製される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記供給工程において供給される触媒層形成用スラリーは、せん断速度が150sec-1のときの粘度V150が300mPa・s以上となるように調製される、請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などの内燃機関から排出される排ガスには、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC:Hydro-Carbon)、一酸化炭素(CO)などの有害成分が含まれる。これら有害成分を排ガス中から効率よく反応・除去するために、従来から排ガス浄化用触媒が利用されている。かかる排ガス浄化用触媒は、例えば複数の排ガス流路(セル)が隔壁で仕切られたハニカム構造の基材と、基材の隔壁の表面および/または内部に設けられた触媒層とを有している。当該触媒層は、排ガス成分を酸化もしくは還元することで浄化する触媒金属(例えば、パラジウム、ロジウム、白金等)を含んでいる。
【0003】
このような排ガス浄化用触媒の製造方法の一例として、触媒層形成用スラリーをハニカム基材の一方の端面に供給し、他方の端面側から吸引することによって、当該スラリーを基材の内部に引き込む方法が知られている。例えば、特許文献1では、排気管の形状に合わせて効率よく排ガス浄化を行い得る排ガス浄化用触媒の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-136833号公報
【特許文献2】特開昭63-111944号公報
【特許文献3】特開昭63-51949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、基材として、外筒の両端がハニカム構造体の端面よりも突出しているツバ部を有する基材(以下、「ツバ付き基材」ともいう。)を用いることがある。特許文献2および3では、基材としてツバ付き基材を用いた際の排ガス浄化用触媒の製造方法が開示されている。特許文献2では、ハニカム構造体の中心部に触媒層を形成できるように、ハニカム構造体の外周部に目詰め材料を配置する製造方法が開示されている。特許文献3では、ツバ付き基材を用いた際に、外筒の内周面および外周面にスラリーが付着することを防ぐために、空気圧により拡径可能な弾性筒体を基材に挿入し、当該弾性筒体に空気を圧送して外筒の内周面に密着させてからスラリーを供給することが開示されている。
【0006】
本発明者らが検討した結果によれば、ツバ付き基材を用いる場合、供給されるスラリーを一時的に保持する仕切り部材をツバ部の内壁側に配置することで、ツバ部へのスラリーの付着を抑制できる。その一方で、このような仕切り部材は、配置する際にツバ部と干渉して好適に配置できないことがあった。仕切り部材が適切な位置に配置されていない場合には、供給したスラリーが過剰に拡散してツバ部に付着することや、スラリーが拡散せずハニカム構造体に未コート部が生じることがある。また、本発明者らがさらに検討した結果によれば、供給されるスラリーの粘度が好適に調整されていない場合にも、ツバ部にスラリーが付着することや、未コート部が発生することがある。ツバ部にスラリーが多量に付着した場合には、例えばマットと共に金属製のケースに収容される際に(いわゆるキャニングの際に)、溶接不良等が生じ得るため好ましくない。また、ハニカム構造体に未コート部が発生した場合には、当該箇所において適切な触媒機能を発揮させることができないため好ましくない。したがって、ツバ付き基材を用いた場合の排ガス浄化用触媒の製造方法は、未だ改善の余地があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ツバ部を有する基材を用いた際に、当該ツバ部へのスラリーの付着を抑制し、ハニカム構造体において未コート部が発生することを抑制する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、ここに開示される技術によって下記の構成の製造方法が提供される。
【0009】
ここに開示される製造方法(1)は、内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒の製造方法であって、外筒と、該外筒の内部に配置され、排ガスが流動可能に形成されたハニカム構造体と、を備え、該ハニカム構造体は該外筒よりも筒軸方向の長さが短く、該外筒は筒軸方向の少なくとも一方の端部において、該ハニカム構造体の端面よりも筒軸方向に向けて突出したツバ部を有する基材を用意する工程と、上記基材の筒軸が垂直方向と略一致するように上記基材を保持する工程と、上記外筒の内径よりも小さい外径の円筒形状の仕切り部材を上記外筒の上端から挿入し、上記ハニカム構造体の上方側の端面と上記仕切り部材の下端とが対向するように配置する工程と、上記仕切り部材に触媒金属を含む触媒層形成用スラリーを供給する工程と、上記触媒層形成用スラリーを外筒の下端から吸引する工程と、を含む。上記配置工程では、対向して配置された上記ハニカム構造体の端面と上記仕切り部材の下端とのクリアランスXが0.5mm以上2mm以下であり、かつ、上記基材のツバ部の内壁と上記仕切り部材の外壁とのクリアランスYの値が0.5mm以上2mm以下となるように上記仕切り部材を配置する。上記供給工程において供給される触媒層形成用スラリーは、せん断速度が4sec-1のときの粘度をV(mPa・s)、せん断速度が150sec-1のときの粘度をV150(mPa・s)としたときに、式(1):V≧2500X;かつ、式(2):V150≦1150X;を満たすことを特徴とする。
【0010】
外筒の内径よりも外径が小さい仕切り部材を、所定のクリアランスを有するように基材に配置し、供給されるスラリーの粘度を好適に調整することで、スラリーを好適に基材の内部にコートすることができる。かかる構成によれば、外筒とハニカム構造体とツバ部とを有する基材に対しても、ツバ部へのスラリーの付着を抑制し、ハニカム構造体において未コート部が発生することを抑制する製造方法が実現される。
【0011】
ここに開示される製造方法(2)では、上記製造方法(1)において、上記供給工程において供給される触媒層形成用スラリーは、せん断速度が4sec-1のときの粘度Vが20000mPa・s以下となるように調製される。
かかる構成によれば、触媒層形成用スラリーを仕切り部材により好適に供給することができる。
【0012】
ここに開示される製造方法(3)では、上記製造方法(1)または(2)において、上記供給工程において供給される触媒層形成用スラリーは、せん断速度が150sec-1のときの粘度をV150300mPa・s以上となるように調製される。
かかる構成によれば、触媒層形成用スラリーが基材の内部に好適に導入される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、一実施形態に係る排ガス浄化用触媒の構成を模式的に示す図である。
図3図3は、一実施形態に係る製造装置を模式的に示す図である。
図4図4は、一実施形態に係る排ガス浄化用触媒の製造方法の工程を示すフローチャート図である。
図5図5は、一実施形態に係る配置工程を模式的に示す図である。
図6図6は、一実施形態に係る供給工程を模式的に示す図である。
図7図7は、一実施形態に係る吸引工程を模式的に示す図である。
図8図8は、仕切り部材が適切に配置されていない状態を模式的に示す図である。
図9図9は、仕切り部材が適切に配置されていない状態で供給工程を実施した時の様子を模式的に示す図である。
図10図10は、仕切り部材が適切に配置されていない状態で吸引工程を実施した時の様子を模式的に示す図である。
図11図11は、例1~例20に関して、せん断速度が4sec-1のときの粘度V(低せん断粘度V)と、クリアランスXとの関係を示す図である。
図12図12は、例1~例20に関して、せん断速度が150sec-1のときの粘度V150(高せん断粘度V150)と、クリアランスXとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚みなど)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。また、本明細書において範囲を示す「A~B」(A,Bは任意の数値)の表記は、A以上B以下を意味する。
【0015】
<排ガス浄化用触媒>
ここに開示される製造方法によって得られる排ガス浄化用触媒は、種々の内燃機関、特に自動車のディーゼルエンジンやガソリンエンジンの排気系(排気管)に配置され得る。そして、かかる排ガス浄化用触媒は、当該内燃機関から排出された排ガス中の有害成分(HC、CO、NOx等)を浄化する機能を有する。
【0016】
図1は、ここに開示される製造方法によって得られる排ガス浄化用触媒1を模式的に示す斜視図である。図2は、図1に示される排ガス浄化用触媒1の構造を模式的に示す図である。なお、図1および図2の矢印は、排ガス浄化用触媒1を内燃機関の排気系に配置したときに排ガスが流れる向きを示している。すなわち、図1および図2では、左側が相対的に内燃機関に近い上流側(フロント側)であり、右側が相対的に内燃機関から遠い下流側(リア側)である。また、図1および図2において、符号Dは、排ガス浄化用触媒1の筒軸方向を表している。排ガス浄化用触媒1は、筒軸方向Dが排ガスの流動方向に沿うように内燃機関の排気経路に設置される。
【0017】
図1および図2に示すように、排ガス浄化用触媒1は、ストレートフロー構造の基材10と、触媒層20と、を備えている。基材10は、排ガス浄化用触媒1の骨格を構成する部材であり、筒軸方向Dに沿って延びている。基材10は、外筒11と、該外筒11の内部に配置されたハニカム構造体12とを備えている。外筒11には、筒軸方向Dの少なくとも一方の端部において、ハニカム構造体12の端面よりも筒軸方向Dに向けて突出したツバ部13が設けられている。図1に示す例では、外筒11は筒軸方向Dの両端部においてツバ部13を有している。当該ツバ部13の内面側にはハニカム構造体12が配置されていない。
【0018】
ハニカム構造体12は、筒軸方向Dに沿って延びる複数のセル12aと、セル12aを仕切る隔壁12bと、を備えている。セル12aは、排ガスが流通可能であり、筒軸方向Dの両端が開放されている。図2に示すように、隔壁12bの表面には、触媒層20が形成されている。排ガス浄化用触媒1に流入した排ガスは、排ガス浄化用触媒1の排ガス通路内(ここでは、セル12a内)を流動している間に触媒層20と接触する。これにより、排ガス中の有害成分が浄化される。例えば、排ガスに含まれるHCやCOは、触媒層20の触媒機能によって酸化され、水や二酸化炭素等に変換(浄化)される。また、例えばNOxは、触媒層20の触媒機能によって還元され、窒素に変換(浄化)される。
【0019】
触媒層20は、触媒金属を含む層である。触媒金属とは、上記したようなHC、CO、NOx等の有害成分の浄化の際に、酸化触媒及び/又は還元触媒として機能し得る金属である。このような触媒金属の例としては、白金族、すなわち、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)が挙げられる。また、上記した金属のうち2種以上が合金化したものを用いてもよい。なかでも、酸化活性が高い酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)、および還元活性が高い還元触媒(例えばRh)が好適な触媒金属として挙げられる。
【0020】
触媒層20は、触媒金属に加えて担体を含み得る。担体は、触媒金属を担持する材料である。担体としては、特に限定されず、従来この種の触媒において用いられ得る無機化合物を用いてよい。例えば、担体は、比表面積が大きい無機多孔質体であるとよい。なお、本明細書において「比表面積」とは、特に記載のない限り、BET法により測定される比表面積を指す。担体としては、例えば、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、シリカ(SiO)、セリア(CeO)、チタニア(TiO)等の金属酸化物や、その固溶体(例えば、セリア-ジルコニア複合酸化物等)、あるいはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0021】
<製造装置>
図3は、ここに開示される製造方法で用いられる製造装置100を模式的に示す図である。製造装置100は、基材10の筒軸が垂直方向(重力方向)と略一致するように基材10を保持する保持部材115と、基材10の上端10a側において、触媒層形成用スラリーを一時的に保持する仕切り部材110と、当該触媒層形成用スラリーを、基材10の筒軸方向Dの下端10b側から吸引する吸引部材120と、仕切り部材110の内部空間に当該触媒層形成用スラリーを供給する供給部材130と、を備えている。
【0022】
保持部材115は、基材10を着脱可能に保持する。保持部材115は、図3に示すように、後述する基材受け部121と、供給部材130の吐出部131との間で、基材10の筒軸が略垂直となるように保持する。すなわち、保持部材115は、基材10(外筒11)の筒軸方向Dと垂直方向(重力方向)とが略一致するように基材10を保持する。なお、本明細書において、「垂直方向と略一致する」とは、製造装置が設置される面から延びる垂線に対して±5°程度の範囲は包含されるものとする。
【0023】
保持部材115は、ツバ部13を有する側の端部が上方側に配置されるように基材10を保持する。保持部材115は、基材10を保持できる限りにおいて特に限定されない。保持部材115は、例えば機械的に基材10を保持するメカニカルチャックや、負圧を利用して基材10を保持する真空チャック、磁力を利用して基材10を保持するマグネットチャック等であり得る。
【0024】
仕切り部材110は、基材10の上端10a側から供給される触媒層形成用スラリーを、ハニカム構造体の12の上方側の端面12s上に一時的に保持する。また、仕切り部材110は、スラリーが基材10に供給される際に、その位置を調整する機能を有し得る。仕切り部材110は、内部空間を有する部材である。仕切り部材110は、両端が開口した円筒形状の部材である。仕切り部材110は、例えば、内部空間において触媒層形成用スラリーを収容することができる。仕切り部材110の材質は、耐薬品性や耐腐食性を有する材料であれば特に限定されず、金属製(例えば、ステンレス鋼製)や樹脂製(例えばポリエチレン)であっても良い。
【0025】
仕切り部材110の外径は、外筒11の内径よりも小さく設計される。例えば、仕切り部材110の外径は、外筒11の内径に対して1mm~4mm程度小さいとよい。これにより、仕切り部材110とツバ部13とが干渉することなく、基材10の上端10a側から容易に挿入することができる。仕切り部材110は、外壁がツバ部13の内壁と対向する位置に配置される。すなわち、仕切り部材110の下端は、ツバ部13の上端よりもハニカム構造体12の端面12s側に侵入する位置に配置される。仕切り部材110は、上端側において、上方に向けて拡径した拡径部を有していてもよい。仕切り部材110が拡径部を有していることにより、触媒層形成用スラリーを、好適に仕切り部材110の内部に収容することができる。なお、仕切り部材110が拡径部を有する場合、当該拡径部よりも下端側の外径が外筒の内径よりも小さければ、拡径部の外径は基材の内径より大きくてもよい。
【0026】
吸引部材120は、基材10の上端10a側に供給される触媒層形成用スラリーを、下端10b側から吸引することで、基材10の内部にスラリーを導入する。吸引部材120は、例えば、内部空間を有する基材受け部121と、配管122を介して基材受け部121の内部空間と接続する吸引装置(図示せず)と、配管122の開閉を行う開閉バルブ123と、を備え得る。基材受け部121は、基材10を挿入可能なように開口が形成されている。図3に示すように、基材受け部121の開口に基材10の下端10bを挿入することにより、基材受け部121と基材10の外壁とが密着し、基材10の下端10bが基材受け部121の内部空間に到達する。基材10は、基材受け部121によって概ね垂直に保持される。この状態で吸引装置を駆動することにより、ハニカム構造体12内部のガス(例えば空気)が吸引され、触媒層形成用スラリーを基材10の内部に導入することができる。
【0027】
供給部材130は、仕切り部材110の内部空間に後述する触媒層形成用スラリーを供給する。供給部材130は、例えば、スラリーを吐出する吐出部131と、スラリーを一時的に貯留する貯留タンク(図示せず)と、該貯留タンクと吐出部131とを接続する配管(図示せず)と、を備え得る。ただし、供給部材130は、触媒層形成用スラリーを仕切り部材110に供給することができる限りにおいて特に限定されない。供給部材130は、予め定められた量のスラリーを仕切り部材110に供給するように構成されている。
【0028】
<排ガス浄化用触媒の製造方法>
図4は、ここに開示される排ガス浄化用触媒の製造方法の大まかな工程を示すフローチャート図である。ここに開示される製造方法は、上記したような製造装置100を用いて好適に実施され得る。ここに開示される製造方法は、ツバ部13を有する外筒11とハニカム構造体12とを備える基材10を用意する用意工程S10と、基材10の筒軸方向Dと垂直方向とが略一致するように基材10を保持する保持工程S20と、基材10に仕切り部材110を配置する配置工程S30と、触媒層形成用スラリーを仕切り部材110に供給する供給工程S40と、当該スラリーを吸引する吸引工程S50と、を含む。ここに開示される製造方法は、配置工程S30において、外筒11の内径よりも小さい外径の仕切り部材110を基材10の上端10a側から挿入し、基材10と仕切り部材110とのクリアランスが特定の範囲となるように配置すること、および、供給工程S40において供給される触媒層形成用スラリーの粘度が特定の範囲となるように調整すること、を特徴としており、それ以外の製造プロセスは従来と同様であってもよい。また、任意の段階でさらに他の工程を含んでいてもよい。
【0029】
用意工程S10では、基材10を用意する。基材10は、上記したように排ガス浄化用触媒1の骨格を構成する部材である。ここに開示される製造方法では、ツバ部13を有する外筒11と、ハニカム構造体12と、を備える基材10を用意する。基材10は、例えばステンレス鋼(SUS)で構成されるメタル基材であり得る。基材10は、例えば、以下のようにして用意することができる。まず、金属製(例えば、ステンレス鋼製)の外筒11を用意する。次いで、波形に成形した金属箔を平板状の金属箔と重ねてロール状に巻回することで、ハニカム構造体12を用意する。ハニカム構造体12の筒軸方向Dの長さは、外筒11の筒軸方向Dの長さよりも短くなるように形成する。そして、当該ハニカム構造体12を外筒11に装入する。このとき、外筒11の筒軸方向Dのいずれかの端部において、ハニカム構造体12の端面よりも外筒11の端部が筒軸方向Dに向けて突出するようにハニカム構造体12を外筒11に装入する。これにより、ツバ部13を有する外筒11と、ハニカム構造体12と、を備える基材10を用意することができる。なお、基材10は、SUS製以外、例えば、Fe-Cr-Al系合金、Ni-Cr-Al系合金などの金属基材であってもよいし、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素などのセラミックスで構成されるセラミックス基材であってもよい。
【0030】
本実施形態の基材10は、排ガスが流動可能に形成されたハニカム構造体12を有している。図1および図2に示すように、ハニカム構造体12は、筒軸方向Dに規則的に配列された複数のセル12aと、複数のセル12aを仕切る隔壁12bとを備えている。セル12aは、排ガスが流動する経路であって、筒軸方向Dに沿って延びている。セル12aは、基材10を筒軸方向Dに貫通する貫通孔である。セル12aの形状、大きさ、数などは、例えば、排ガス浄化用触媒1に供給される排ガスの流量や成分などを考慮して設計すればよい。隔壁12bは、セル12aに面し、隣り合うセル12aの間を区切っている。特に限定されるものではないが、基材10の容積(セル12aの容積を含んだ見掛けの体積)は、概ね0.01L以上、例えば0.1以上であって、概ね6L以下、例えば1L以下、0.5L以下であってもよい。また、特に限定されるものではないが、隔壁12bの厚みは、機械的強度を向上したり圧損を低減したりする観点などから、概ね10μm以上、例えば20μm以上であって、概ね500μm以下、例えば200μm以下、100μm以下であってもよい。
【0031】
ハニカム構造体12は、上記したような複数のセル12aと隔壁12bとによって形成されたハニカム構造を有している。なお、本明細書において、「ハニカム構造」とは、セル12aの筒軸方向Dに直交する断面形状が六角形であるものだけでなく、セル12aの断面形状が正方形、平行四辺形、長方形、台形などの矩形や、その他の多角形(例えば、三角形、八角形)、波形、円形など種々の幾何学形状であるものを含み得る。
【0032】
本実施形態において、図3に示すように、外筒11の筒軸方向Dに沿う長さL1は、当該外筒11の内部に配置されるハニカム構造体12の筒軸方向Dに沿う長さL2よりも長い。特に限定されるものではないが、外筒11の筒軸方向Dに沿う長さL1は、概ね40mm以上、例えば50mm以上、60mm以上であって、概ね230mm以下、例えば200mm以下、150mm以下であってもよい。また、ハニカム構造体12の筒軸方向Dに沿う長さL2は、概ね20mm以上、例えば40mm以上、60mm以上であって、
概ね190mm以下、例えば130mm以下、100mm以下であってもよい。
【0033】
ツバ部13は、外筒11において筒軸方向Dの少なくとも一方の端部に設けられていればよい。特に限定されないが、図3の上方側(上端10a側)におけるツバ部13の筒軸方向Dに沿う長さL3は、例えば3mm以上50mm以下であることが好ましく、4mm以上40mm以下であってもよく、5mm以上30mm以下であってもよい。ツバ部13の筒軸方向Dに沿う長さL3とは、換言すれば、基材10の上端10aとハニカム構造体12の上方側の端面12sとの距離を示す。また、図3に示すように、外筒11は筒軸方向Dの両端部においてツバ部13を有していてもよい。外筒11がツバ部13を筒軸方向Dの両端部に有する場合、図3の下方側(下端10b側)のツバ部13の筒軸方向Dに沿う長さL4は、上記した長さL3と同程度であってもよいし、異なっていてもよい。好ましくは、外筒11の筒軸方向Dの両端部においてツバ部が設けられているときは、2つのツバ部の長さは同程度であるとよい。
【0034】
外筒11の内径は、特に限定されないが、例えば20mm以上200mm以下であることが好ましく、30mm以上190mm以下程度であってもよい。本実施形態において、ハニカム構造体12は外筒11の内部に配置されている。ハニカム構造体12の外径は、外筒11に装入可能であれば特に限定されない。すなわち、ハニカム構造体12の外径は、外筒11の内径よりもやや小さく設計され得る。また、図1に示す例では、基材10の外形は円筒形状である。ただし、基材10の外形は、後述する配置工程S30において仕切り部材110を配置可能な限りにおいて、特に限定されない。例えば、基材10の外形は、楕円筒形状等であってもよい。
【0035】
保持工程S20では、上記用意した基材10の筒軸が垂直方向と略一致するように基材10を保持する。すなわち、基材10は、基材10の筒軸方向Dと垂直方向とが略一致するように保持部材115によって保持される。このとき、基材10は、ツバ部13が上方に配置されるように保持される。また、基材10は、ハニカム構造体12の端面12sが略水平となるように保持されることが好ましい。これにより、後述する配置工程S30や供給工程S40を好適に実施することができる。
【0036】
図5は、配置工程の様子を模式的に示す図である。配置工程S30では、上記保持された基材10に仕切り部材110を配置する。仕切り部材110は、基材10の上端10a側から挿入され、仕切り部材110の下端111がハニカム構造体12の上方の端面12sと対向するように配置される。仕切り部材110は、基材10の上端10a(より詳細には、ツバ部13の上端)よりもハニカム構造体12の端面12s側に侵入する位置に配置される。仕切り部材110は、下端111側の外壁112とツバ部13の内壁13aとが対向する位置に配置される。このとき、図5に示すように、ハニカム構造体12の上方の端面12sと、仕切り部材110の下端111とは直接接触しておらず、離間している。また、ツバ部13の内壁13aと、仕切り部材110の外壁112とは直接接触しておらず、離間している。仕切り部材110の外径は、上記したとおり、外筒11の内径よりも小さく設計されている。このため、仕切り部材110とツバ部13とが干渉することなく、上記したような位置に仕切り部材110を容易に配置することができる。
【0037】
図8は、仕切り部材110が適切な位置に配置されていない状態を模式的に示す図である。図9は、仕切り部材110が適切な位置に配置されていない状態で、後述する供給工程を実施した際の様子を模式的に示す図である。図10は、仕切り部材110が適切な位置に配置されていない状態で、後述する吸引工程を実施した際の様子を模式的に示す図である。図8に示すように、仕切り部材110の外径が外筒11の内径よりも小さく設計されていたとしても、そのサイズが近すぎる場合には、ツバ部13と仕切り部材110とが干渉して仕切り部材110を適切な位置に配置することが難しい。また、上記したようなツバ部13を有する基材10では、供給した触媒層形成用スラリーSが過剰に拡散してツバ部13に付着することがある(図9参照)。あるいは、当該スラリーSが好適に拡散せずハニカム構造体12に未コート部Aが生じることがある(図10参照)。そこで、ここに開示される製造方法では、仕切り部材110の下端111とハニカム構造体12の上方側の端面12sとの距離(クリアランスX)と、仕切り部材110の外壁112とツバ部13の内壁13aとの距離(クリアランスY)とが所定の値となるように仕切り部材110を配置する。これにより、ツバ部13に触媒層形成用スラリーSが付着すること、および、ハニカム構造体12の端面12sにおいて未コート部Aが発生することを抑制する。
【0038】
具体的には、図9に示すように、仕切り部材110の下端111とハニカム構造体12の端面12sとの距離が遠すぎる場合(すなわち、クリアランスXが大きすぎる場合)、供給された触媒層形成用スラリーSの粘度にかかわらず、当該スラリーSを仕切り部材110の内部に保持することが難しい。このため、スラリーSは仕切り部材110から流出して、ツバ部13の内壁13aに付着し得る。ツバ部13にスラリーSが多量に付着した場合には、キャニング時において溶接不良等の原因となり得るため好ましくない。かかる観点から、クリアランスXは3mmを下回ることが好ましく、2.5mm以下であることがより好ましく、2mm以下であることがさらに好ましい。また、図10に示すように、仕切り部材110の下端111とハニカム構造体12の端面12sとの距離が近すぎる場合(すなわち、クリアランスXが小さすぎる場合)、供給された触媒層形成用スラリーSの粘度にかかわらず、当該スラリーSは適切に拡散しない。このため、ハニカム構造体12において未コート部Aが発生し得る。ハニカム構造体12に未コート部Aが発生した場合には、当該箇所において適切な触媒機能を発揮させることができないため好ましくない。かかる観点から、クリアランスXは0.2mmを超えることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.5mm以上であることがさらに好ましい。例えば、クリアランスXは0.5mm以上2mm以下であるとよい。
【0039】
一方で、図8に示すように、仕切り部材110の外壁112とツバ部13の内壁13aとの距離が近すぎる場合(すなわち、クリアランスYが小さすぎる場合)、仕切り部材110を配置する際にツバ部13と干渉して、好適に配置することができない。かかる観点からは、クリアランスYは0.1mmを超えることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.5mm以上であることがさらに好ましい。また、図10に示すように、仕切り部材110の外壁112とツバ部13の内壁13aとの距離が遠すぎる場合(すなわち、クリアランスYが大きすぎる場合)、供給された触媒層形成用スラリーSは、吸引部材120によって吸引しても適切に拡散しない。このため、ハニカム構造体12の端面12sにおいて未コート部Aが発生し得る。かかる観点から、クリアランスYは3mmを下回ることが好ましく、2.5mm以下であることがより好ましく、2mm以下であることがさらに好ましい。例えば、クリアランスYは0.5mm以上2mm以下であるとよい。
【0040】
図6は、供給工程の様子を模式的に示す図である。供給工程S40では、供給部材130を用いて、上記配置された仕切り部材110の内部に触媒層形成用スラリーSを供給する。供給部材130は、予め定められた量のスラリーを仕切り部材110の内部空間に供給する。供給されたスラリーSは、図6に示すように、仕切り部材110とハニカム構造体12の端面12sとによって一時的に保持される。
【0041】
供給工程S40で供給される触媒層形成用スラリーSは、上記した基材10の隔壁12bの少なくとも表面に触媒層20を形成するために用いられる材料である。当該触媒層形成用スラリーSは、少なくとも触媒金属を含む。触媒層形成用スラリーSは、触媒金属と、当該触媒金属を担持するための担体と、これらを分散させるための分散媒とを含み得る。
【0042】
触媒金属は、触媒層形成用スラリーS中においてイオンの形態で含まれることが好ましい。これにより、例えば触媒層形成用スラリー中の触媒金属の濃度を均一にすることができる。触媒層形成用スラリーSとしては、触媒金属を含む水溶性の金属塩を含むスラリー、触媒金属の錯体を含むスラリー等を使用することができる。金属塩としては、例えば、硝酸パラジウム、硝酸ロジウム等の硝酸塩;硫酸パラジウム、硫酸ロジウム等の硫酸塩等が挙げられる。触媒金属の錯体としては、テトラアンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体等が例示される。
【0043】
分散媒としては、従来この種のスラリーに用いられている分散媒を特に制限なく使用することができる。分散媒としては例えば、水、脱イオン水、純水等の水系分散媒を好ましく用いることができる。
【0044】
触媒層形成用スラリーSは、粘度を調製するための増粘剤が含まれていてもよい。増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂や、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂、ロジン系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0045】
触媒層形成用スラリーSは、さらに、バインダ、助触媒成分、分散剤、その添加材等をさらに含んでいてもよい。バインダとしては、例えば、アルミナゾル、シリカゾル等が挙げられる。助触媒成分としては、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属元素が挙げられる。
【0046】
本発明者らの検討によれば、仕切り部材110が適切な位置に配置されていたとしても、触媒層形成用スラリーSの粘度が適切な範囲に設定されていない場合には、ツバ部13にスラリーSが付着することや、ハニカム構造体12の端面12sにおいて未コート部Aが生じることを見出した。すなわち、仕切り部材110の配置と、供給される触媒層形成用スラリーSの粘度とがともに調整されることにより、ツバ付きの基材においてツバ部13にスラリーSが付着せず、ハニカム構造体12に未コート部Aが発生することを防止できる。
【0047】
ここに開示される製造方法の供給工程S40で供給される触媒層形成用スラリーSは、25℃の環境下において、せん断速度が4sec-1のときの粘度Vと、せん断速度が150sec-1のときの粘度V150とが所定の範囲に調整される。なお、本明細書において、せん断速度が4sec-1のときの粘度Vとは、E型粘度計(東機産業株式会社製、TVE-35H)を用いて、測定温度25℃、せん断速度4sec-1で測定したときの粘度(mPa・s)のことである。せん断速度が150sec-1のときの粘度V150とは、上記と同様のE型粘度計を用いて、測定温度25℃、せん断速度150sec-1で測定したときの粘度(mPa・s)のことである。以下の説明においては、「せん断速度が4sec-1のときの粘度V」を「低せん断粘度V」といい、「せん断速度が150sec-1のときの粘度V150」を「高せん断粘度V150」ということがある。
【0048】
触媒層形成用スラリーSの低せん断粘度Vは、スラリーがハニカム構造体12に供給されたときを想定した粘度であり得る。スラリーSの低せん断粘度Vが低すぎる場合には、仕切り部材110の下端111とハニカム構造体12の端面12sとのクリアランスXが適切な範囲に設定されていたとしても、仕切り部材110の内部にスラリーSを保持することが難しく、当該スラリーSは仕切り部材110から流出してツバ部13の内壁13aに多量に付着し得る。当該スラリーSを仕切り部材110の内部に適切に保持するためには、クリアランスXに応じてスラリーSの低せん断粘度Vを調節することが好ましい。かかる観点からは、触媒層形成用スラリーSは、低せん断粘度Vが、式(1):V≧2500X;を満たすように調製される。また、スラリーSの低せん断粘度Vが高すぎる場合、後述する高せん断粘度V150も上昇し、スラリーSが好適に拡散せず、ハニカム構造体12において未コート部Aが発生し得るため好ましくない。当該スラリーSのせん断速度が4sec-1のときの粘度Vは、特に限定されないが、例えば25000mPa・sを下回ることが好ましく、20000mPa・s以下となることがより好ましく、15000mPa・s以下となることが特に好ましい。触媒層形成用スラリーSのせん断速度が4sec-1のときの粘度Vは、例えば3300mPa・s以上20000mPa・s以下であることが好ましく、3300mPa・s以上15000mPa・s以下であることがより好ましく、4000mPa・s以上10000mPa・s以下であってもよい。
【0049】
触媒層形成用スラリーSの高せん断粘度V150は、スラリーが吸引されたときを想定した粘度であり得る。スラリーSの高せん断粘度V150が高すぎる場合には、クリアランスXが適切な範囲に設定され、吸引することによりせん断応力がかかったとしても、スラリーSが好適に拡散せず、ハニカム構造体12において未コート部Aが発生し得る。当該スラリーSをハニカム構造体12の全面に拡散させるためには、クリアランスXに応じてスラリーSの高せん断粘度V150を調節することが好ましい。かかる観点からは、触媒層形成用スラリーSは、高せん断粘度V150が、式(2):V150≦1150X;を満たすように調製される。また、スラリーSの高せん断粘度V150の下限は、特に限定されないが低せん断粘度Vの低下に伴い高せん断粘度V150も低下するため、例えば240mPa・sを上回ることが好ましく、300mPa・s以上であることがより好ましく、320mPa・s以上であることが特に好ましい。触媒層形成用スラリーのせん断速度が150sec-1のときの粘度V150は、例えば300mPa・s以上1200mPa・s以下であることが好ましく、320mPa・s以上1000mPa・s以下であることがより好ましく、320mPa・s以上900mPa・s以下であってもよい。
【0050】
図7は、吸引工程の様子を模式的に示す図である。吸引工程S50では、基材10の上端10a側のハニカム構造体12の端面12sに供給された触媒層形成用スラリーSを、下端10b側から吸引部材120によって吸引して、当該スラリーSを基材10の内部に導入する。吸引工程S50は、触媒層形成用スラリーSにせん断応力をかけるように実施される。ここに開示される製造方法で用いられるスラリーSは、せん断応力がかかると粘度が低下するように調製されている。したがって、吸引工程S50においてハニカム構造体12の上方側の端面12sに供給されたスラリーSを、下方側から吸引することにより、スラリーSの粘度が好適に低下して、スラリーSをハニカム構造体12の端面12sに拡散することができる。したがって、未コート部Aが発生することを抑制することができる。
【0051】
吸引の条件は、基材の大きさや種類、触媒層形成用スラリーSの種類等によって適宜変更すればよく、特に限定されない。一例として、吸引速度は、基材のセル内での風速が20m/s~80m/s程度(例えば30m/s~60m/s)となるように設置され得る。また、吸引時間は特に限定されないが、例えば1秒~20秒程度(例えば3秒~15秒)であるとよい。
【0052】
上記スラリーが導入された基材10に対して、乾燥工程および焼成工程を実施することにより、排ガス浄化用触媒1を作製することができる。乾燥工程は、従来この種の技術で実施されている乾燥と同様の条件で実施することができ、特に限定されない。例えば、50℃~200℃程度の温度で、1分~30分程度乾燥するとよい。また、焼成工程についても、特に限定されない。例えば、400℃~1000℃程度の温度で、20秒~5時間程度焼成することよい。
【0053】
上述した製造方法によって得られる排ガス浄化用触媒は、自動車やトラック等の車両や、自動二輪車や原動機付き自転車をはじめとして、船舶、タンカー、水上バイク、パーソナルウォータークラフト、船外機などのマリン用製品、草刈機、チェーンソー、トリマーなどのガーデニング用製品、ゴルフカート、四輪バギーなどのレジャー用製品、コージェネレーションシステムなどの発電設備、ゴミ焼却炉などの内燃機関から排出される排ガスの浄化に好適に用いることができる。
【0054】
以下、ここで開示される技術の試験例を説明する。なお、以下の説明は、ここで開示される技術を試験例に示されるものに限定することを意図したものではない。
【0055】
<例1>
図3に示すような製造装置を用いて、排ガス浄化用触媒を作製した。まず、基材としてツバ部を有する外筒とハニカム構造体とを有するストレートフロー型の円筒形状のメタル基材(ステンレス鋼製、筒軸方向の長さ:65mm、内径130mm、セル数:600cpsi)を準備した。当該メタル基材は、筒軸方向の両端部においてツバ部を有し、各ツバ部の筒軸方向に沿う長さは、それぞれ6mmであるものを準備した。また、円筒形状の仕切り部材(筒軸方向の長さ:9mm、外径:128mm)を用意した。
次いで、触媒金属(Pd)と担体(アルミナ:Al)と水と増粘剤(ヒドロキシエチルセルロース(HEC))とを混合した触媒層形成用スラリーを用意した。例1のスラリーでは、せん断速度が4s-1のときの粘度Vが5000mPa・s、せん断速度が150s-1のときの粘度V150が320mPa・sとなるように増粘剤の量を調整した。なお、かかる粘度VはE型粘度計(東機産業株式会社製、TVE-35H)を用いて、測定温度25℃、せん断速度4sec-1で測定したときの値である。また、粘度V150は、同様のE型粘度計を用いて、測定温度25℃、せん断速度150s-1で測定したときの値である。
【0056】
図3に示すような製造装置を用いて、排ガス浄化用触媒を製造した。まず、上記用意した基材を保持部材にセットした。このとき、基材の筒軸が垂直方向と一致するように基材を保持部材に保持させた。次いで、上記用意した仕切り部材を、当該仕切り部材の下端とハニカム構造体の上方側の端面とが対向するように配置した。このとき、ハニカム構造体の端面と仕切り部材の下端とのクリアランスXが1mm、ツバ部の内壁と仕切り部材の外壁とのクリアランスYが1mmとなるように、仕切り部材を配置した。そして、上記用意した例1の触媒層形成用スラリー95gを、仕切り部材の内部に供給した。その後、スラリーが供給された端面とは反対の端面側からスラリーを吸引した。スラリーの吸引は、吸引装置を3秒間稼働させ、基材のセル内での風速が45m/sとなる条件で実施した。そして、触媒層形成用スラリーが供給された基材を製造装置から取り外し、乾燥した後、焼成することにより、例1の排ガス浄化用触媒を得た。
【0057】
<例2~例20>
触媒層形成用スラリーの低せん断粘度Vおよび、高せん断粘度V150が表1に示す値となるように増粘剤の量をそれぞれ調製した。また、ハニカム構造体の端面と仕切り部材の下端とのクリアランスX、ツバ部の内壁と仕切り部材の外壁とのクリアランスYが表1に示す値となるように、仕切り部材の大きさや配置をそれぞれ調整した。それ以外のことは例1と同様にして例2~例20の排ガス浄化用触媒を作製した。
【0058】
<例21>
触媒層形成用スラリーは、せん断速度が4s-1のときの粘度Vが6600mPa・s、せん断速度が150s-1のときの粘度V150が500mPa・sとなるように増粘剤の量を調整した。例21では、仕切り部材を用いずにハニカム構造体の端面に対して上記調製したスラリーを供給した。それ以外のことは例1と同様にして例21の排ガス浄化用触媒を作製した。
【0059】
<ツバ部付着高さおよび未コートの評価>
上記作製した各例の排ガス浄化用触媒のツバ部において、触媒層形成用スラリーが付着した高さを測定した。具体的には、ツバ部において任意の3点で触媒層形成用スラリーが付着した付着高さ(ハニカム構造体の端面からの距離)を測定した。そして、かかる3点の付着高さの平均を算出し、各例のツバ部付着高さを求めた。ツバ部付着高さがツバ部の高さの50%以下(すなわち、3mm以下)であるものを良好であると評価した。また、各例の排ガス浄化用触媒において、触媒層形成用スラリーを供給した側(すなわち、仕切り部材が配置された側)のハニカム構造体の端面をマイクロスコープによって観察し、未コート部の有無を確認した。未コート部がないものを良好であると評価した。
これらの結果を表1に示す。なお、表1の「評価」の欄では、ツバ部付着高さが3mm以下、かつ、未コート部がないものを良好と評価して「○」で示し、ツバ部付着高さが3mmを上回るおよび/または未コート部があるものを不良と評価して「×」で示している。また、例1~例20に関して、触媒層形成用スラリーのせん断速度が4s-1のときの粘度VとクリアランスXとの関係を図11に示し、触媒層形成用スラリーのせん断速度が150s-1のときの粘度V150とクリアランスXとの関係を図12に示す。なお、図11および図12においても、ツバ部付着高さが3mm以下、かつ、未コート部がないものを良好と評価して「○」で示し、ツバ部付着高さが3mmを上回るおよび/または未コート部があるものを不良と評価して「×」で示している。
【0060】
【表1】
【0061】
表1、図11および図12に示すように、クリアランスXが0.5mm以上2mm以下、かつ、クリアランスYが0.5mm以上2mm以下となるように仕切り部材を配置し、触媒層形成用スラリーの低せん断粘度Vが式(1):V≧2500X;を満たし、かつ、高せん断粘度V150が式(2):V150≦1150X;を満たす、例1、例3~例5、例8~例10、例14~例17および例19は、ツバ部付着高さが3mm以下であり、かつ、未コート部がないことがわかる。すなわち、上記した範囲のクリアランスXおよびYを有するように仕切り部材が配置され、供給されるスラリーの粘度が上記した範囲に調整されることにより、ツバ部へのスラリーの付着と、未コート部の発生とを抑制することができる製造方法が実現される。
【0062】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を、他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 排ガス浄化用触媒
10 基材
10a 上端
10b 下端
11 外筒
12 ハニカム構造体
12a セル
12b 隔壁
12s 端面
13 ツバ部
13a 内壁
20 触媒層
100 製造装置
110 仕切り部材
111 下端
112 外壁
120 吸引部材
121 基材受け部
122 配管
123 開閉バルブ
130 供給部材
131 吐出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12