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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093500
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】膨張弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/68 20060101AFI20240702BHJP
   F25B 41/335 20210101ALI20240702BHJP
【FI】
F16K31/68 S
F25B41/335 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209921
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳屋 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】今井 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 悠太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 祐亮
【テーマコード(参考)】
3H057
【Fターム(参考)】
3H057AA04
3H057BB49
3H057CC06
3H057DD04
3H057EE01
3H057FA24
3H057FB05
3H057GG02
3H057HH01
3H057HH18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】任意に閉弁状態を確保できるにも関わらず、圧損を抑制することができる膨張弁を提供する。
【解決手段】膨張弁1は、弁体3と、弁室VSと、弁座20と、弁本体2と、弁体3を弁座20に向けて付勢する第1の付勢装置4と、弁体を駆動する作動棒5と、作動棒5を駆動するパワーエレメント8と、作動棒5に設けられて連通孔内に配置されたピストン部6を少なくとも有し、連通孔内を、弁室VS側のシリンダ室CS、及び低圧流路側に配置されて低圧流路に連通する連通室に区画する区画部と、弁本体1に形成され、弁室VS及びシリンダ室CSを連通して弁室VS内の冷媒をシリンダ室CSに導入し、または、シリンダ室CSに連通して弁室VSよりも上流側から冷媒をシリンダ室CSに流入する流入路と、流入路を介するシリンダ室CSへの冷媒の流入を制御する第1の弁装置EVと、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体と、
前記弁体を内部に配置する弁室、前記弁室の下流側に形成された弁孔、前記弁孔の周囲に形成された弁座、前記弁室内における前記弁体の前記弁座に向かう方向に前記弁室に対して離間し、前記弁室内よりも低圧の冷媒が流れる低圧流路、前記弁室及び前記低圧流路の間に形成されて前記低圧流路及び前記弁孔と連通する連通孔を有する弁本体と、
前記弁体を前記弁座に向けて付勢する第1の付勢装置と、
前記弁孔及び前記連通孔に配置され、前記弁体を駆動する作動棒と、
前記作動棒を駆動するパワーエレメントと、
前記作動棒に設けられて前記連通孔内に配置されたピストン部を少なくとも有し、前記連通孔内を、前記弁室側のシリンダ室、及び前記低圧流路側に配置されて前記低圧流路に連通する連通室に区画する区画部と、
前記弁本体に形成され、前記弁室及び前記シリンダ室を連通して前記弁室内の冷媒を前記シリンダ室に導入し、または、前記シリンダ室に連通して前記弁室よりも上流側から冷媒を前記シリンダ室に流入する流入路と、
前記流入路を介する前記シリンダ室への冷媒の流入を制御する第1の弁装置と、を有する、
ことを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
前記弁本体に形成されて前記シリンダ室に接続され、前記シリンダ室内の冷媒を前記弁室よりも下流側に流出する流出路と、
前記流出路を介する前記シリンダ室からの冷媒の流出を制御する第2の弁装置と、を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張弁。
【請求項3】
前記流入路は、前記弁室に連通する第1の流路部、前記シリンダ室に連通する第2の流路部、並びに、前記第1の流路部及び前記第2の流路部に接続された接続室を有し、
前記流出路は、前記第2の流路部、前記接続室、並びに、前記弁室よりも下流側及び前記接続室を連通する第3の流路部を有し、
前記接続室は、前記第1の流路部及び前記第2の流路部を連通する第1連通流路、並びに、前記第2の流路部及び前記第3の流路部を連通する第2連通流路を有し、
前記第1の弁装置は、前記接続室に配置される弁軸部材、及び前記弁軸部材を駆動する駆動装置を備えて前記第2の弁装置を兼ね、
前記弁軸部材は、前記接続室の前記第1連通流路を介して前記第1の流路部および前記第2の流路部を連通させて、前記第2連通流路を閉じることで前記第1の流路部及び前記第2の流路部の双方と前記第3の流路部とを非連通とする第1の位置、並びに、前記接続室の前記第2連通流路を介して前記第2の流路部及び前記第3の流路部を連通させて、前記第1連通流路を閉じることで前記第2の流路部及び前記第3の流路部の双方と前記第1の流路部とを非連通とする第2の位置の間で移動可能に形成され、
前記駆動装置は、前記弁軸部材を前記第1の位置及び前記第2の位置の間で移動させる、ことを特徴とする請求項2に記載の膨張弁。
【請求項4】
前記駆動装置は、
プランジャを有し、前記プランジャによって前記弁軸部材を前記第1の位置及び前記第2の位置の一方から他方へ移動する、前記弁本体に設けられる駆動部と、
前記接続室に設けられて前記弁軸部材を前記他方側から前記一方に向かって付勢する第2の付勢装置と、を備える、
ことを特徴とする請求項3に記載の膨張弁。
【請求項5】
前記第3の流路部は、前記接続室において、前記第1の流路部の開口を挟んで前記駆動部に対して反対側に開口し、
前記接続室内において前記第1の流路部の開口及び前記第3の流路部の開口の間に配置されて前記第1の流路部から前記第3の流路部への冷媒の流れを防止し、前記第2の流路部の開口を覆い、前記第3の流路部の前記開口との間に隙間を有する弁座部材であって、前記プランジャの移動方向に貫通する貫通孔、及び前記貫通孔及び前記第2の流路部の前記開口を中継する中継路を有する弁座部材を備え、
前記弁軸部材は、前記貫通孔内に配置されて前記貫通孔の軸方向に移動可能に形成されかつ前記貫通孔の内面との間に流路を有する軸部、及び前記軸部に設けられて前記隙間に配置され、前記弁座部材に当接することで前記貫通孔の開口を閉塞可能なフランジ部を有し、
前記プランジャの端面は、前記貫通孔の開口を閉塞可能な面に形成される、
ことを特徴とする請求項4に記載の膨張弁。
【請求項6】
前記弁座部材の前記駆動部側の端面において前記貫通孔の前記開口の周囲は、第2のシール部材により形成され、
前記弁部材の前記第3の流路部側の端面において前記貫通孔の前記開口の周囲は、第1のシール部材により形成される、
ことを特徴とする請求項5に記載の膨張弁。
【請求項7】
前記区画部は、前記ピストン部及び前記連通孔の内面との間に設けられたO-リングを備え、前記ピストン部は、前記O-リングを介して前記弁本体に対して支持されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張弁。
【請求項8】
前記シリンダ室に設けられ、前記弁本体に対して前記パワーエレメント側に前記ピストン部が所定量移動したときに、前記ピストン部に当接する係止部を有する、
ことを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の膨張弁。
【請求項9】
前記流入路は、前記弁本体外に設けられる外部流路に接続され、前記第1の弁装置は、前記外部流路に設けられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張弁。
【請求項10】
前記流出路は、前記弁本体外に設けられる外部流路に接続され、前記第2の弁装置は、前記外部流路に設けられる、
ことを特徴とする請求項2に記載の膨張弁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
膨張弁の一タイプとして、電磁弁を備えた膨張弁が知られている。かかる膨張弁は、例えば、並列に接続された複数の蒸発器を有する冷凍サイクルに適用され、蒸発器の出口側冷媒の過熱度制御機能に加え、冷凍サイクルにおける回路の遮断機能を有している。
【0003】
特許文献1には、高圧の冷媒が流入する一次側通路と弁室とを接続する連絡路に弁口を設けてなり、該弁口を開放又は遮蔽する電磁弁を取付けた膨張弁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3362990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の構成によれば、電磁弁により該弁口を開放することで膨張弁の動作を行わせるとともに、該弁口を遮蔽することで膨張弁を強制的に閉弁状態とすることが可能となる。
【0006】
ここで、特許文献1の膨張弁によれば、電磁弁と膨張弁とが直列に接続された状態となっている。すなわち、一次側通路に進入した冷媒は、膨張弁の外部へと流出するまでに、電磁弁のオリフィスと膨張弁のオリフィスの2か所を通過しなければならず、これにより圧損の増大を招いている。しかしながら、現状の膨張弁の構造を維持したまま圧損を減少させるには、オリフィス径を増大しなければならず、それにより膨張弁の大型化を招くこととなる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、任意に閉弁状態を確保できるにも関わらず、圧損を抑制することができる膨張弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電磁弁は、
弁体と、
前記弁体を内部に配置する弁室、前記弁室の下流側に形成された弁孔、前記弁孔の周囲に形成された弁座、前記弁室内における前記弁体の前記弁座に向かう方向に前記弁室に対して離間し、前記弁室内よりも低圧の冷媒が流れる低圧流路、前記弁室及び前記低圧流路の間に形成されて前記低圧流路及び前記弁孔と連通する連通孔を有する弁本体と、
前記弁体を前記弁座に向けて付勢する第1の付勢装置と、
前記弁孔及び前記連通孔に配置され、前記弁体を駆動する作動棒と、
前記作動棒を駆動するパワーエレメントと、
前記作動棒に設けられて前記連通孔内に配置されたピストン部を少なくとも有し、前記連通孔内を、前記弁室側のシリンダ室、及び前記低圧流路側に配置されて前記低圧流路に連通する連通室に区画する区画部と、
前記弁本体に形成され、前記弁室及び前記シリンダ室を連通して前記弁室内の冷媒を前記シリンダ室に導入し、または、前記シリンダ室に連通して前記弁室よりも上流側から冷媒を前記シリンダ室に流入する流入路と、
前記流入路を介する前記シリンダ室への冷媒の流入を制御する第1の弁装置と、を有する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、任意に閉弁状態を確保できるにも関わらず、圧損を抑制することができる膨張弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1の実施形態における膨張弁の開弁状態を示す概略断面図である。
図2図2は、図1に対し軸線L回りに90度だけ位相を変えた断面における膨張弁の縦断面図である。
図3図2に示す電磁弁の周辺を拡大して示す断面図である。
図4図4は、図2と同様な断面における膨張弁の閉弁状態を示す縦断面図である。
図5図5は、第1の実施形態の変形例における膨張弁の概略断面図である。
図6図6は、第2の実施形態における膨張弁の開弁状態を示す概略断面図である。
図7図7は、第2の実施形態における膨張弁の閉弁状態を示す縦断面図である。
図8図8は、第2の実施形態の変形例における膨張弁の概略断面図である。
図9図9は、第2の実施形態の別な変形例にかかる膨張弁の概略断面図である。
図10図10は、第2の実施形態のさらに別な変形例にかかる膨張弁の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
以下、図1を参照して、第1の実施形態にかかる膨張弁1の構造を説明する。
図1は、本実施形態における膨張弁1の開弁状態の概略断面図であり、これが接続された冷凍サイクル100を模式的に示す。図2は、図1に対し軸線L回りに90度だけ位相を変えた断面における膨張弁1の縦断面図であり、開弁状態で示す。図3は、図2に示す電磁弁EVの周辺を拡大して示す断面図である。図4は、図2と同様な断面における膨張弁1の縦断面図であり、閉弁状態で示す。
【0012】
膨張弁1は、弁室VSを備える弁本体2と、弁体3と、付勢装置(第1の付勢装置)4と、作動棒5と、ピストン部材(ピストン部ともいう)6と、パワーエレメント8とを具備する。膨張弁1の軸線をLとする。ここで、軸線Lに沿って、パワーエレメント8側を上方とし、付勢装置4側を下方とする。
【0013】
弁本体2は、弁室VSに加え、第1流路21、第2流路22及び戻り流路23を備える。第1流路21は供給側流路であり、弁室VSには、供給側流路を介して冷媒(流体ともいう)が供給される。第2流路22は排出側流路であり、弁室VS内の流体は、作動棒挿通孔(弁孔)27、中間通路22a及び排出側流路を介して膨張弁外に排出される。第1流路21と弁室VSとは、小径通路21aを介して連通している。ここで、拡径部26、中央孔28、中間通路22a、及び作動棒挿通孔27により、請求項にいう連通孔を構成する。また、この連通孔において、後述するシリンダ室CSよりも低圧流路側の部分を連通室という。
【0014】
球状の弁体3は、弁室VS内に配置される。弁体3が弁本体2の環状の弁座20に着座しているとき、弁室VSと第2流路22とは非連通状態となる。一方、弁体3が弁座20から離間しているとき、弁室VSと第2流路22とは連通状態となる。
【0015】
作動棒5は、下端側の小径部5aと、小径部5aより大径の中径部5bと、中径部5bより大径の大径部5cとを有する。作動棒5の小径部5aが、作動棒挿通孔27に対して隙間を持って挿通されており、作動棒5の下端は、弁体3の上面に接触している。
【0016】
作動棒5は、付勢装置4による付勢力に抗して弁体3を開弁方向に押圧することができる。作動棒5が弁体側に移動するとき、弁体3は弁座20から離間し、膨張弁1が開状態となる。
【0017】
作動棒5は軸線Lに沿って、弁本体2に同軸に形成された作動棒挿通孔27、中央孔28、拡径部26、戻り流路23、連通路2bを介して、弁体3からパワーエレメント8まで延在している。作動棒5の中径部5bを摺動可能に保持する中央孔28の内径に対し、拡径部26の内径はより大きくなっている。拡径部26には、ピストン部材6が軸線L方向に相対変位可能に配置されている。
【0018】
より具体的に、拡径部26は、中央孔28に隣接する第1円筒部26aと、第1円筒部26aより大径の第2円筒部26bと、戻り流路23に隣接し第2円筒部26bより大径の第3円筒部26cとを有する。
【0019】
ピストン部材6は、下端側の小円筒部6aと、小円筒部6aより大径の大円筒部6bと、大円筒部6bより大径の鍔部6cとを連設してなり、上下に貫通する一様な径の貫通孔6dを有する。作動棒5の中径部5bが圧入により貫通孔6dに挿通され、ピストン部材6の上端は、大径部5cと中径部5bの段部に当接して係止される。
【0020】
ピストン部材6の鍔部6c及び大円筒部6bは、拡径部26の第3円筒部26c内に配置され、さらに大円筒部6bと第3円筒部26cとの間に第1のO-リングOR1が配置されて、その間をシールしている。
【0021】
ピストン部材6の小円筒部6aは、拡径部26の第2円筒部26b内にスペースを開けて配置されている。
【0022】
作動棒5の中径部5bと第1円筒部26aとの間に第2のO-リングOR2が配置されて、その間をシールしている。
【0023】
第1のO-リングOR1及び第2のO-リングOR2により挟まれた拡径部26と作動棒5の間には、シリンダ室CSが形成される。シリンダ室CSは、拡径部26に隣接する戻り流路(低圧流路ともいう)23に対してピストン部材6の鍔部6cにより仕切られている。拡径部26の第2円筒部26bの下端から、下方に向かって軸線Lに対して傾いて延在する連通口2dが形成されている(図2参照)。シリンダ室CSは、連通口2dにのみ連通している。ピストン部材6、第1のO-リングOR1、及び第2のO-リングOR2により、区画部を構成する。
【0024】
次にパワーエレメント8について説明する。パワーエレメント8は、弁本体2の頂部に設けられた開口部2aに取り付けられている。開口部2aは連通路2bを介して、エバポレータからの冷媒が通過する戻り流路23と連通している。
【0025】
パワーエレメント8は、栓81と、上蓋部材82と、ダイアフラム83と、ストッパ部材84と、受け部材86とを有する。
【0026】
上蓋部材82の頂部には穴82aが形成され、栓81により封止可能となっている。
【0027】
ダイアフラム83は、同心円の凹凸形状を複数個形成した薄い板材からなる。
【0028】
ストッパ部材84は、円盤部と、該円盤部の下面に同軸に連設された円筒部とを有し、円筒部の下端中央には嵌合孔84cが形成されている。
【0029】
受け部材86は、上蓋部材82の外径とほぼ同じ外径を持つフランジ部と、該フランジ部の下端に連設された中空円筒部とを有し、中空円筒部の外周には雄ねじ86cが形成されている。
【0030】
パワーエレメント8の組立時に、まず上蓋部材82と、ダイアフラム83と、受け部材86のフランジ部のそれぞれ外周部を重ね合わせた状態で、当該外周部を例えばTIG溶接やレーザ溶接、プラズマ溶接等により周溶接して一体化する。
【0031】
続いて、上蓋部材82に形成された穴82aから、上蓋部材82とダイアフラム83とで囲われる空間(圧力作動室PAという)内に作動ガスを封入した後、穴82aを栓81で封止し、更にプロジェクション溶接等を用いて、栓81を上蓋部材82に固定する。
【0032】
このとき、圧力作動室PAに封入された作動ガスにより、ダイアフラム83は受け部材86側に張り出す形で圧力を受けるため、ダイアフラム83と受け部材86とで囲われる下部空間LSに配置されたストッパ部材84の上面と当接して支持される。なお、ストッパ部材84の円盤部が受け部材86により保持されるので、ストッパ部材84はパワーエレメント8から抜け出ることはない。
【0033】
パワーエレメント8を弁本体2に組み付けるときは、ピストン部材6を取り付けた作動棒5の上端をストッパ部材84の嵌合孔84cに嵌合させた状態で、作動棒5の下端側から弁本体2内に挿入する。さらに、受け部材86の雄ねじ86cを弁本体2の開口部2aの雌ねじに螺合させ、ねじ込むことによりパワーエレメント8を弁本体2に固定する。弁本体2とパワーエレメント8との間は、パッキンPKによりシールされる。かかる状態で、パワーエレメント8の下部空間LSは戻り流路23と連通し、すなわち同じ内圧となる。
【0034】
次に、付勢装置4について説明する。図1において、付勢装置4は、円形の線材を螺旋状に巻いたコイルばね41と、コイルばね41の上端に取り付けられて弁体3を支持する弁体サポート42と、コイルばね41の下端を支持しつつ弁本体2に取り付けるばね受け部材43と、弁体サポート42とコイルばね41との間に挟持された防振部材44とを有する。ばね受け部材43は弁本体2の弁室VSを密閉するとともに、弁体3を弁座20に向かって付勢するコイルばね41の端部を支持する機能を有する。
【0035】
弁体サポート42の上面には球状の弁体3が溶接され、両者は一体となっている。防振部材44は、例えば径方向に突き出した爪部が弁室VSの内周に弾性的に係合しており、弁体3の振動を抑制する機能を有する。なお、防振部材44については、例えば特開2018-025331号公報に詳細に記載されているため、詳細な説明を省略する。
【0036】
(電磁弁の構造)
次に、図2、3を参照して、本実施形態の電磁弁(弁装置ともいう)EVの構造を説明する。電磁弁EVの軸線をOとする。軸線Oは軸線Lに直交する。
【0037】
図2において、弁本体2には、軸線Oに沿って、外部に向かって開口する円形の大開口2eと、大開口2eより小径の中開口2fと、中開口2fより小径の小開口2gとが形成されている。大開口2eの底部と弁室VSとは、入口孔(第1の流路部)2hにより連通している。また中開口2fの中間位置の内周に、連通口(第2の流路部)2dが開口している。さらに、小開口2gの底部と中間通路22aとは、出口孔(第3の流路部)2jにより連通している。ここで、中間通路22aにより、弁座20よりも下流側の下流路を構成する。また、入口孔2h、入口孔2hと連通口2dとの間に形成された高圧室(接続室ともいう)HS、中開口2f、及び連通口2dにより、流入路を構成し、連通口2d、中開口2f、小開口2g、及び出口孔2jにより、流出路を構成する。
【0038】
図3において、中開口2f内には円筒状の弁座部材112が配置されており、大開口(凹部ともいう)2eの底部に形成された円筒状のカシメ部2iを径方向内側にカシメることによって、中開口2fに固定されている。
【0039】
弁座部材112は、軸線Oに沿って延在する貫通円孔(貫通孔ともいう)112aと、軸線O方向における中間位置の外周に全周にわたって形成された周溝112bと、貫通円孔112aと周溝112bとを径方向に連通する径方向孔112cと、小開口2g側の端部に形成された凹部112dとを有する。周溝112bは、連通口2dに連通している。周溝112bと径方向孔112cが、中継路を構成する。また、高圧室HSの一部、弁座部材112の貫通円孔112a、径方向孔112c、及び周溝112bにより、第1連通流路を構成し、弁座部材112の貫通円孔112a、径方向孔112c、周溝112b、及び小開口2gにより、第2連通流路を構成する。
【0040】
弁座部材112の凹部112d内には、環状の第1シール部材(第1のシール部材ともいう)SL1が接着等により取り付けられ、また凹部112dと反対側の端部には、環状の第2シール部材(第2のシール部材ともいう)SL2が接着等により取り付けられている。第1シール部材SL1と第2シール部材SL2の内径は、貫通円孔112aの内径とほぼ等しい。第1シール部材SL1は、中開口2fと小開口2gとの境界の段部に当接し、第2シール部材SL2は、中開口2fの内周に当接し、これらにより弁座部材112と弁本体2との間をシールする。
【0041】
円柱状の弁軸部材113は、弁座部材112の貫通円孔112a及び第1シール部材SL1と第2シール部材SL2を貫通するように挿入された長軸部(単に軸部ともいう)113aと、貫通円孔112aより大径のフランジ部113bと、短軸部113cとを有する。長軸部113aの外周と、貫通円孔112a、第1シール部材SL1及び第2シール部材SL2の内周との間には冷媒が通過可能な隙間があり、また弁軸部材113は、弁座部材112に対して軸線O方向に相対移動可能である。
【0042】
短軸部113cの周囲において、小開口2gの底部とフランジ部113bの対向面との間に、押しばね(第2の付勢装置)114が配置され、小開口2gの底部に対して弁軸部材113を大開口2e側に付勢している。なお、押しばね114と電磁弁EVとで第2の弁装置を構成し、第2の弁装置と弁軸部材113とで、駆動装置を構成する。
【0043】
第1の弁装置及び駆動部を構成する電磁弁EVは、環状の基部120と、通電励磁用のコイル132と、ヨーク133と、ヨーク133の内周側に配置され軸線O方向に延在するパイプ141と、パイプ141の内周側に軸線O方向に摺動自在に配置されたプランジャ(変位部材)135と、パイプ141の端部内周に固定配置された吸引子140と、これらを覆うように配設されたハウジング138を備えている。
【0044】
基部120の内周にパイプ141の端部が圧入又はロウ付け等により固定されており、基部120の外周に形成された雄ねじ121を、弁本体2の大開口2eの内周に形成された雌ねじ2kに螺合させることで、基部120は、弁本体2に対して固定される。大開口2eの底部と基部120との間には、O-リングOR3が配置され、基部120と弁本体2との間をシールする。これにより基部120と大開口2eとの間には高圧室HSが形成される。高圧室HSは、入口孔2hに連通し、また弁座部材112の貫通円孔(貫通孔ともいう)112aに連通可能である。
【0045】
吸引子140のパイプ141とは反対側の端面には雌ねじ部142が形成されている。ハウジング138を介在させつつ、取付ボルト137を雌ねじ部142に螺合させることにより、吸引子140とハウジング138とが接合される。ハウジング138は、間座139を介して基部120に固定される。
【0046】
円柱状のプランジャ135は、磁性材料で形成されており、拡径筒部135aと、貫通円孔112aの内径より大径の縮径筒部135bとを連設してなる。縮径筒部135bの端部には円形凹部135cが形成され、弁座部材112から露出した弁軸部材113の長軸部113aの端部をルーズフィットで(すなわち軸線O方向に相対変位可能に)嵌合させている。プランジャ135は、プランジャ135と吸引子140との間に縮装された圧縮コイルばね136により、弁座部材112側に付勢されている。
【0047】
(膨張弁の動作)
図1を参照して、膨張弁1が冷凍サイクル100に組み込まれた際の動作例について説明する。冷凍サイクル100におけるコンプレッサ101で加圧された冷媒は、コンデンサ102で液化され、膨張弁1に送られる。また、膨張弁1で断熱膨張された冷媒は冷凍サイクル100のエバポレータ103に送り出され、エバポレータ103の周囲を流れる空気と熱交換される。エバポレータ103から戻る冷媒は、膨張弁1(より具体的には、戻り流路23)を通ってコンプレッサ101側へ戻される。
【0048】
ここで、図4に示すように電磁弁EVのプランジャ135が弁軸部材113を第1の位置(後述)に駆動するものとし、それにより膨張弁1は本来の動作を行うことができる。膨張弁1には、コンデンサ102から高圧冷媒が供給される。より具体的には、コンデンサ102からの高圧冷媒は、第1流路21に供給される。
【0049】
弁体3が、弁座20に着座しているときには、弁室VSの上流側の第1流路21と弁室VSの下流側の第2流路22とは、非連通状態である。他方、弁体3が、弁座20から離間しているときには、弁室VSに供給された冷媒は、作動棒挿通孔27及び第2流路22を通って、エバポレータへ送り出される。なお、膨張弁1の閉状態(図4参照)と開状態(図2)との間の切り換えは、パワーエレメント8に接続された作動棒5によって行われる。
【0050】
パワーエレメント8の内部には、ダイアフラム83により仕切られた圧力作動室PAと下部空間LSとが設けられている。このため、圧力作動室PA内の作動ガスが液化されると、作動棒5はダイアフラム側に移動し、液化された作動ガスが気化されると、作動棒5は弁体側に移動する。こうして、膨張弁1の開状態と閉状態との間の切り換えが行われる。
【0051】
更に、パワーエレメント8の下部空間LSは、戻り流路23と連通している。このため、戻り流路23を流れる冷媒の温度、圧力に応じて、圧力作動室PA内の作動ガスの相(気相、液相等)が変化し、作動棒5が駆動される。換言すれば、図1に記載の膨張弁1では、エバポレータから膨張弁1に戻る冷媒の温度、圧力に応じて、膨張弁1からエバポレータに向けて供給される冷媒の量が自動的に調整される。
【0052】
(膨張弁の強制閉弁動作)
次に、電磁弁EVを用いた膨張弁1の強制閉弁動作について説明する。なお、電磁弁EVの駆動により弁軸部材113が軸線Oに沿って変位する。弁軸部材113のフランジ部113bが弁座部材112に対して当接する位置を第1の位置とし、弁軸部材113のフランジ部113bが弁座部材112から離間した位置を第2の位置とする。基部120と弁本体2との間の高圧室HSには、入口孔2hを介して弁室VSから高圧の冷媒が供給されている。
【0053】
外部の給電装置からコイル132に給電が行われると、図4に示すように、圧縮コイルばね136の付勢力に抗して、プランジャ135が弁座部材112から離間する方向に付勢されて移動する。これにより、プランジャ135の端部が第2シール部材SL2から離間し、また押しばね114に付勢力により弁軸部材113のフランジ部113bが第1シール部材SL1に当接して、電磁弁EVは、シリンダ室CSへの高圧の冷媒の導入を行う第1の位置に弁軸部材113を切り換える。
【0054】
かかる第1の位置では、高圧室HSの冷媒の圧力は、弁座部材112の貫通円孔112aから、径方向孔112c、周溝112b及び連通口2dを介してシリンダ室CSに伝達され、シリンダ室CSの内部圧力を高圧とする。一方、弁軸部材113のフランジ部113bが第1シール部材SL1に当接しているため、高圧室HSから貫通円孔112aを通って小開口2g側に冷媒が漏れ出ることが抑制され、シリンダ室CSの内部圧力は高圧に維持されたままとなる。
【0055】
ピストン部材6の鍔部6cを挟んでシリンダ室CSと反対側は、低圧の冷媒が通過する戻り流路23に面している。シリンダ室CSが高圧になると、戻り流路23内の冷媒の圧力との差圧により、シリンダ室CSが拡張する方向にピストン部材6が力を受けるため、ピストン部材6に連結された作動棒5はパワーエレメント8側に変位する。したがって、パワーエレメント8から作動棒5が開弁方向に力を受けていた場合でも、それに抗して作動棒5が上昇し、弁体3を閉弁状態に置くことができる。
【0056】
一方、外部の給電装置からコイル132に給電しないとき、図2に示すように、圧縮コイルばね136の付勢力により、プランジャ135が弁座部材112に近接する方向に付勢されて移動する。これにより、プランジャ135の端部が第2シール部材SL2に当接し、また弁軸部材113のフランジ部113bが第1シール部材SL1から離間して、電磁弁EVは、シリンダ室CSへの高圧の冷媒の遮断を行う第2の位置に弁軸部材113を切り換える。
【0057】
弁軸部材113のフランジ部113bが第1シール部材SL1から離間した直後においては、シリンダ室CSの内部圧力は、中間通路22a内の冷媒の圧力より高くなっている。このため第2の位置では、中間通路22a内の圧力が、出口孔2j、小開口2g、貫通円孔112a、径方向孔112c、周溝112b、及び連通口2dを介して、シリンダ室CSに伝達され、シリンダ室CSの冷媒の圧力は、迅速に中間通路22a(及び戻り流路23)の圧力に略等しくなるよう低下する。それにより、ピストン部材6に付与される軸線方向力が消失し、作動棒5はパワーエレメント8の動作に応じて昇降することが可能となる。なお、プランジャ135の端部が第2シール部材SL2に当接するため、高圧室HS内の冷媒が貫通円孔112aを通過して中間通路22aに漏れ出ることが抑制され、冷凍サイクル100の動作に影響を与えることがない。
【0058】
本実施形態によれば、電磁弁EVへの給電により、コンデンサ102から供給される高圧の冷媒をシリンダ室CSに導入することで、ピストン部材6を介して作動棒5を強制的に上昇させることができ、それによりパワーエレメント8の動作に関わりなく膨張弁1の強制閉弁機能を実現できる。
【0059】
さらに、電磁弁EVへの給電中断により、シリンダ室CSと中間通路22aとを連通させることで、シリンダ室CSの内圧を迅速に低下させることができるため、ピストン部材6に付与される強制力が消失することで、膨張弁1の本来の動作を確保することができる。このとき、コンデンサ102からの冷媒が、電磁弁EVを通過することなく、直接、弁室VSに導入されるため圧損等を抑制することができる。
【0060】
さらに、ゴム又は樹脂製である第1のO-リングOR1と第2のO-リングOR2とが、弁本体2の拡径部26に対して、ピストン部材6を介して作動棒5を支持している。したがって、仮に作動棒5に振動が生じた場合でも、第1のO-リングOR1と第2のO-リングOR2のダンピング機能により、その振動を抑制することができる。
【0061】
(変形例)
図5は、変形例にかかる膨張弁1Aの図2と同様な縦断面図である。
本実施形態の膨張弁1Aにおいては、第1の実施形態に対して、弁本体2Aの形状及び環状板(係止部ともいう)7Aを配設した点のみが異なり、それ以外の構成は第1の実施形態と同様であるため、共通する構成には同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0062】
弁本体2Aは、拡径部26の上端に内周段部2Amを形成しており、環状板7Aを内周段部2Amに取り付けている。作動棒5を貫通させた環状板7Aは、内周段部2Amに隣接して形成されたカシメ部2Anを径方向内側にカシメることで、所定距離だけ離間してピストン部材6に対向するように弁本体2Aに固定されている。
【0063】
第1の実施形態では、ピストン部材6に付与される軸線方向力は、ピストン室CSの内圧と戻り流路23の内圧との差圧に対応する。したがって、該差圧が過大であると、ピストン部材6に付与される軸線方向力も過大となり、作動棒5がパワーエレメント8に向かって強大な力で押圧される恐れがある。しかしながら、この力を受けるダイアフラム83は薄い板材から形成されているため、作動棒5に強大な力で許容範囲を超えて押圧されると変形などの不具合が生じる恐れがある。
【0064】
これに対し本変形例によれば、ピストン部材6が所定距離を超えて上昇するような力を受けたとき、ピストン部材6の上端が環状板7Aの下面に当接し、それ以上のピストン部材6の上昇を阻止するように機能する。ピストン部材6の上端が環状板7Aの下面に当接することにより、作動棒5の上昇が抑制され、許容範囲を超えるダイアフラム83の変形等を抑制できる。
【0065】
(第2の実施形態)
図6は、第2の実施形態における膨張弁1Bの開弁状態を示す概略断面図であり、これが接続された冷凍サイクル100Bを模式的に示す。図7は、第2の実施形態における膨張弁1Bの閉弁状態を示す縦断面図である。
【0066】
本実施形態においては、第1の実施形態に対して、電磁弁を配設しない点が異なり、それ以外の構成は第1の実施形態と同様であるため、共通する構成には同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0067】
本実施形態の冷凍サイクル100Bにおいて、コンデンサ102から膨張弁1Bの弁室VSに向かう配管から分岐して、膨張弁1Bの配管基部105Bに向かう分岐配管(高圧の冷媒が流れる配管、外部流路ともいう)DPが配設され、分岐配管DPには開閉弁(弁装置)VLが取り付けられている。本実施形態において第1の弁装置を構成する開閉弁VLは、分岐配管DPを開放する開放位置と、閉止する閉止位置とに選択的に動作可能である。それ以外の構成は、第1の実施形態の冷凍サイクルと同様である。
【0068】
連通口2dが、弁本体2Bのシリンダ室CSと大開口2Beの端部外周とを連通する。大開口2Beには、配管基部105Bが取り付けられている。配管基部105Bの外周に形成された雄ねじを、弁本体2Bの大開口2Beの内周に形成された雌ねじに螺合させることで、配管基部105Bは、弁本体2Bに対して固定される。大開口2Beと配管基部105Bとの間には、パッキンPKが配置され、配管基部105Bと弁本体2Bとの間をシールする。これにより配管基部105Bと大開口2Beとの間には、高圧室HSが形成される。
【0069】
配管基部105Bは、開閉弁VLを介して分岐配管DPに接続される配管部105Baを有している。高圧室HSは、配管基部105Bの内部流路及び配管部105Baを介して分岐配管DPに連通し、また連通口2dを介してシリンダ室CSに連通しているが、弁室VSに連通していない。それ以外の構成は、第1の実施形態の膨張弁と同様である。
【0070】
次に、開閉弁VLを用いた膨張弁1Bの強制閉弁動作について説明する。なお、開閉弁VLにおいて、分岐配管DPを開放する位置を第1の位置とし、分岐配管DPを遮蔽する位置を第2の位置とする。
【0071】
開閉弁VLを第1の位置(シリンダ室CSへの高圧の冷媒の導入を行う開放位置)に切り換えると、分岐配管DP内の高圧冷媒が配管部105Baを介して高圧室HSに供給され、高圧室HSの冷媒の圧力は連通口2dを介してシリンダ室CSに伝達され、シリンダ室CSの内部圧力を高圧とする。
【0072】
シリンダ室CSが高圧になると、戻り流路23内の冷媒の圧力との差圧により、シリンダ室CSが拡張する方向にピストン部材6が力を受けるため、ピストン部材6に連結された作動棒5はパワーエレメント8側に変位する。したがって、パワーエレメント8から作動棒5が開弁方向に力を受けていた場合でも、それに抗して作動棒5が上昇し、弁体3を閉弁状態に置くことができる。
【0073】
一方、開閉弁VLを第2の位置(シリンダ室CSへの高圧の冷媒の遮断を行う閉止位置)に切り換えると、分岐配管DP内の冷媒の高圧が高圧室HSに伝達されなくなり、シリンダ室CS内の冷媒の一部が、例えば作動棒5とピストン部材6との間の隙間から徐々に戻り流路23内へと流れ出る。これによりシリンダ室CSの内部圧力が低下するため、ピストン部材6に付与される軸線方向力が消失し、作動棒5はパワーエレメント8の動作に応じて昇降することが可能となる。
【0074】
本実施形態によれば、開閉弁VLを第1の位置に動作させることにより、コンプレッサ101から供給される高圧の冷媒をシリンダ室CSに導入し、それによりピストン部材6を介して作動棒5を強制的に上昇させることができるため、パワーエレメント8の動作に関わりなく膨張弁1の強制閉弁機能を実現できる。
【0075】
これに対し、開閉弁VLを第2の位置に動作させることより、シリンダ室CSの圧力を低下させることができ、それによりピストン部材6に付与される強制力を消失させて、膨張弁1の本来の動作を確保することができる。このとき、コンデンサ102からの冷媒が、開閉弁VLを通過することなく、直接、弁室VSに導入されるため圧損等を抑制することができる。
【0076】
なお、開閉弁VLを三方切換弁として、三方切換弁を介して分岐配管DPと高圧室HSとをつなぐ流路と、高圧室HSと戻り流路23(コンプレッサ101の入口)につなぐ流路とに、選択的に切り替えるようにすることもできる。かかる場合、三方切換弁により分岐配管DPと高圧室HSとを接続することで、シリンダ室CSの内圧を高圧にすることができ、また三方弁により高圧室HSと戻り流路23とをつなぐ流路により、シリンダ室CSの内圧を迅速に低下させることができる。なお、この例では、三方切換弁を介して、分岐配管DPと高圧室HSとをつなぐ流路と、高圧室HSと戻り流路23(コンプレッサ101の入口)につなぐ流路とを切り換える例を説明したが、他の例では、高圧室HSと戻り流路23をつなぐ流路に替えて、高圧室HSとエバポレータ103の入り口側とをつなぐ流路を用いてもよい。高圧室HSとエバポレータ103の入り口側をつなぐ流路は、例えば、高圧室HSと第2流路22とをつなぐ流路や、高圧室HSと中間通路22aとをつなぐ流路がある。
【0077】
(変形例)
図8は、変形例にかかる膨張弁1Cの図6と同様な縦断面図である。
本実施形態の膨張弁1Cにおいては、第2の実施形態に対して、弁本体2Cの形状及び環状板7Cを配設した点のみが異なり、それ以外の構成は第2の実施形態と同様であるため、共通する構成には同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0078】
弁本体2Cは、拡径部26の上端に内周段部2Cmを形成しており、環状板7Cを内周段部2Cmに取り付けている。作動棒5を貫通させた環状板7Cは、内周段部2Cmに隣接して形成されたカシメ部2Cnを径方向内側にカシメることで、所定距離だけ離間してピストン部材6に対向するように弁本体2Cに固定されている。
【0079】
本変形例によれば、ピストン部材6が所定距離を超えて上昇するような力を受けたとき、ピストン部材6の上端が環状板7Cの下面に当接し、それ以上のピストン部材6の上昇を阻止するように機能する。ピストン部材6の上端が環状板7Cの下面に当接することにより、作動棒5の上昇が抑制され、ダイアフラム83の変形等を抑制できる。
【0080】
なお、本発明は上述した各実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の設計の変更があっても本発明に含まれることはもちろんである。
【0081】
別な変形例として、例えばシリンダ室内の排圧に用いる専用の流路及び開閉弁を用いてもよい。その具体例を、図9、10を参照して説明する。
【0082】
図9の変形例においては、弁本体2におけるシリンダ室CSと外部とを連通する排出路EXを形成しており、この排出路EXの外方端が、第2の開閉弁(第2の弁装置)VL2及び配管(外部流路ともいう)HTを介してエバポレータ103の入口側に接続している。なお、本変形例では、排出路EXが流出路に含まれる。それ以外の構成は、図6に示す実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
【0083】
図9の変形例において、第2の開閉弁VL2を閉止しつつ、開閉弁VLを開放することで、シリンダ室CS内に高圧の冷媒が導入される。一方、開閉弁VLを閉止しつつ、第2の開閉弁VL2を開放することで、シリンダ室CSから排出路EX及び配管HTを介して、エバポレータ103に冷媒が流れることとなる。
【0084】
図10の変形例においては、配管部105Baとエバポレータ103の入口側とを接続する配管HTの途中に、第2の開閉弁VL2を配設している。それ以外の構成は、図6に示す実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
【0085】
図10の変形例において、第2の開閉弁VL2を閉止しつつ、開閉弁VLを開放することで、高圧室HSを介してシリンダ室CS内に高圧の冷媒が導入される。一方、開閉弁VLを閉止しつつ、第2の開閉弁VL2を開放することで、シリンダ室CSから高圧室HS及び配管HTを介して、エバポレータ103に冷媒が流れることとなる。
【0086】
さらに、上述した実施形態及び変形例では、ピストン部材が作動棒に対して別体となっているが、ピストン部と作動棒が一体に形成されてもよい。ここで、「一体」とは、作動棒及びピストン部が単一の部材で形成されることをいう。
【0087】
本明細書は、以下の発明の開示を含む。
(第1の形態)
弁体と、
前記弁体を内部に配置する弁室、前記弁室の下流側に形成された弁孔、前記弁孔の周囲に形成された弁座、前記弁室内における前記弁体の前記弁座に向かう方向に前記弁室に対して離間し、前記弁室内よりも低圧の冷媒が流れる低圧流路、前記弁室及び前記低圧流路の間に形成されて前記低圧流路及び前記弁孔と連通する連通孔を有する弁本体と、
前記弁体を前記弁座に向けて付勢する第1の付勢装置と、
前記弁孔及び前記連通孔に配置され、前記弁体を駆動する作動棒と、
前記作動棒を駆動するパワーエレメントと、
前記作動棒に設けられて前記連通孔内に配置されたピストン部を少なくとも有し、前記連通孔内を、前記弁室側のシリンダ室、及び前記低圧流路側に配置されて前記低圧流路に連通する連通室に区画する区画部と、
前記弁本体に形成され、前記弁室及び前記シリンダ室を連通して前記弁室内の冷媒を前記シリンダ室に導入し、または、前記シリンダ室に連通して前記弁室よりも上流側から冷媒を前記シリンダ室に流入する流入路と、
前記流入路を介する前記シリンダ室への冷媒の流入を制御する第1の弁装置と、を有する、
ことを特徴とする膨張弁。
【0088】
(第2の形態)
前記弁本体に形成されて前記シリンダ室に接続され、前記シリンダ室内の冷媒を前記弁室よりも下流側に流出する流出路と、
前記流出路を介する前記シリンダ室からの冷媒の流出を制御する第2の弁装置と、
を備えることを特徴とする第1の形態の膨張弁。
【0089】
(第3の形態)
前記流入路は、前記弁室に連通する第1の流路部、前記シリンダ室に連通する第2の流路部、並びに、前記第1の流路部及び前記第2の流路部に接続された接続室を有し、
前記流出路は、前記第2の流路部、前記接続室、並びに、前記弁室よりも下流側及び前記接続室を連通する第3の流路部を有し、
前記接続室は、前記第1の流路部及び前記第2の流路部を連通する第1連通流路、並びに、前記第2の流路部及び前記第3の流路部を連通する第2連通流路を有し、
前記第1の弁装置は、前記接続室に配置される弁軸部材、及び前記弁軸部材を駆動する駆動装置を備えて前記第2の弁装置を兼ね、
前記弁軸部材は、前記接続室の前記第1連通流路を介して前記第1の流路部および前記第2の流路部を連通させて、前記第2連通流路を閉じることで前記第1の流路部及び前記第2の流路部の双方と前記第3の流路部とを非連通とする第1の位置、並びに、前記接続室の前記第2連通流路を介して前記第2の流路部及び前記第3の流路部を連通させて、前記第1連通流路を閉じることで前記第2の流路部及び前記第3の流路部の双方と前記第1の流路部とを非連通とする第2の位置の間で移動可能に形成され、
前記駆動装置は、前記弁軸部材を前記第1の位置及び前記第2の位置の間で移動させる、
ことを特徴とする第2の形態の膨張弁。
【0090】
(第4の形態)
前記駆動装置は、
プランジャを有し、前記プランジャによって前記弁軸部材を前記第1の位置及び前記第2の位置の一方から他方へ移動する、前記弁本体に設けられる駆動部と、
前記接続室に設けられて前記弁軸部材を前記他方側から前記一方に向かって付勢する第2の付勢装置と、を備える、
ことを特徴とする第3の形態の膨張弁。
【0091】
(第5の形態)
前記第3の流路部は、前記接続室において、前記第1の流路部の開口を挟んで前記駆動部に対して反対側に開口し、
前記接続室内において前記第1の流路部の開口及び前記第3の流路部の開口の間に配置されて前記第1の流路部から前記第3の流路部への冷媒の流れを防止し、前記第2の流路部の開口を覆い、前記第3の流路部の前記開口との間に隙間を有する弁座部材であって、前記プランジャの移動方向に貫通する貫通孔、及び前記貫通孔及び前記第2の流路部の前記開口を中継する中継路を有する弁座部材を備え、
前記弁軸部材は、前記貫通孔内に配置されて前記貫通孔の軸方向に移動可能に形成されかつ前記貫通孔の内面との間に流路を有する軸部、及び前記軸部に設けられて前記隙間に配置され、前記弁座部材に当接することで前記貫通孔の開口を閉塞可能なフランジ部を有し、
前記プランジャの端面は、前記貫通孔の開口を閉塞可能な面に形成される、
ことを特徴とする第4の形態の膨張弁。
【0092】
(第6の形態)
前記弁座部材の前記駆動部側の端面において前記貫通孔の前記開口の周囲は、第2のシール部材により形成され、
前記弁部材の前記第3の流路部側の端面において前記貫通孔の前記開口の周囲は、第1のシール部材により形成される、
ことを特徴とする第5の形態の膨張弁。
【0093】
(第7の形態)
前記区画部は、前記ピストン部及び前記連通孔の内面との間に設けられたO-リングを備え、前記ピストン部は、前記O-リングを介して前記弁本体に対して支持されている、
ことを特徴とする第1の形態~第6の形態のいずれかの膨張弁。
【0094】
(第8の形態)
前記シリンダ室に設けられ、前記弁本体に対して前記パワーエレメント側に前記ピストン部が所定量移動したときに、前記ピストン部に当接する係止部を有する、
ことを特徴とする第1の形態~第7の形態のいずれかの膨張弁。
【0095】
(第9の形態)
前記流入路は、前記弁本体外に設けられる外部流路に接続され、前記第1の弁装置は、前記外部流路に設けられる、
ことを特徴とする第1の形態の膨張弁。
【0096】
(第10の形態)
前記流出路は、前記弁本体外に設けられる外部流路に接続され、前記第2の弁装置は、前記外部流路に設けられる、
ことを特徴とする第2の形態の膨張弁。
【符号の説明】
【0097】
1 :膨張弁
2 :弁本体
3 :弁体
4 :付勢装置
5 :作動棒
6 :ピストン部材
7 :環状板
8 :パワーエレメント
20 :弁座
21 :第1流路
22 :第2流路
23 :戻り流路
26 :拡径部
27 :作動棒挿通孔
41 :コイルばね
140 :吸引子
135 :プランジャ
132 :コイル
EV :電磁弁
VS :弁室
CS :シリンダ室
HS :高圧室

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10