(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093507
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】非水二次電池の製造方法及び非水二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240702BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240702BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240702BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240702BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0567
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209935
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田中 克弥
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM03
5H029AM07
5H029DJ08
5H029HJ03
5H029HJ20
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA28
5H050HA03
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】Li析出耐性を向上させる非水二次電池の製造方法及び非水二次電池を提供する。
【解決手段】非水二次電池の製造方法は、正極シート、負極シート、及びリチウム塩を含む被膜形成材を含有する非水電解液を有する。負極シートには、ナトリウム塩が含まれる。非水電解液が両端から浸透する負極シートの両端を繋ぐ仮想線上の初期の抵抗分布は、中央に凹みを有する山型である。非水二次電池の製造方法は、抵抗分布の中央の凹みが小さくなるように被膜形成材を含ませる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極シート、負極シート、及びリチウム塩を含む被膜形成材を含有する非水電解液を有する非水二次電池の製造方法であって、
前記負極シートには、ナトリウム塩が含まれ、
前記非水電解液が両端から浸透する前記負極シートの前記両端を繋ぐ仮想線上の初期の抵抗分布が中央に凹みを有する山型であって、
前記抵抗分布の前記凹みが小さくなるように前記被膜形成材を含ませる
非水二次電池の製造方法。
【請求項2】
正極シート、負極シート、及びリチウム塩を含む被膜形成材を含有する非水電解液を有する非水二次電池の製造方法であって、
前記負極シートには、ナトリウム塩が含まれ、
前記非水電解液が両端から浸透する前記負極シートの第1端と第2端を繋ぐ仮想線上の初期の抵抗分布が中央に凹みを有する山型であって、
前記抵抗分布の前記凹みの両側の第1ピークと第2ピークとの距離をXとし、
前記抵抗分布の山の前記第1ピーク側の裾の抵抗安定領域の端と前記第1ピークとの距離をYとし、
前記抵抗分布の山の前記第2ピーク側の裾の抵抗安定領域の端と前記第2ピークとの距離をZとしたとき、
Y/X>0.5,Z/X>0.5を満たすように、前記被膜形成材を含ませる
非水二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記抵抗分布の山の裾が低くなるように前記負極シートの結着材を含ませる
請求項1又は2に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記被膜形成材としてLiBOB(リチウムビスオキサレートボレート)を含む
請求項3に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記結着材としてSAR(スチレンアクリル酸共重合体)を含む
請求項4に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記LiBOBの添加量は、前記SARを添加して、前記負極シートの抵抗値に応じて決定される
請求項5に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項7】
正極シート、負極シート、及びリチウム塩を含む被膜形成材を含有する非水電解液を有する非水二次電池であって、
前記負極シートには、ナトリウム塩が含まれ、
前記非水電解液が両端から浸透する前記負極シートの第1端と第2端を繋ぐ仮想線上の初期の抵抗分布が中央に凹みを有する山型であって、
前記抵抗分布の前記凹みの両側の第1ピークと第2ピークとの距離をXとし、
前記抵抗分布の山の前記第1ピーク側の裾の抵抗安定領域の端と前記第1ピークとの距離をYとし、
前記抵抗分布の山の前記第2ピーク側の裾の抵抗安定領域の端と前記第2ピークとの距離をZとしたとき、
Y/X>0.5,Z/X>0.5を満たすように、前記被膜形成材を含む
非水二次電池。
【請求項8】
前記抵抗分布の山の裾が低くなるように前記負極シートの結着材を含む
請求項7に記載の非水二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水二次電池の製造方法及び非水二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の非水二次電池の製造方法では、非水電解液にリチウムを含む被膜形成材が添加されている。被膜形成材は、リチウム塩の一例であるリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)である。非水二次電池に用いられる電極体は、ナトリウム塩を含む。そして、電極体にNaが多く含まれる場合には、LiBOBから電離したBOBイオンがナトリウム塩から電離したNaイオンと結合してNaBOB被膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載の非水二次電池の製造方法では、電解液が極板の端部から極板に浸透する。また、電解液に溶解しているNaイオンの拡散速度はBOBイオンよりも速い。このため、極板の中央部でNaBOBが生成し、極板の中央部までBOBイオンが行き渡らなくなり、LiBOB被膜が少ない箇所が発生する。このような極板を用いた非水二次電池に充放電を繰り返し行うと、被膜形成材が少ない箇所は電解液の分解が顕著となり、高抵抗被膜を形成して、Li析出耐性が悪化するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する非水二次電池の製造方法は、正極シート、負極シート、及びリチウム塩を含む被膜形成材を含有する非水電解液を有する非水二次電池の製造方法であって、前記負極シートには、ナトリウム塩が含まれ、前記非水電解液が両端から浸透する前記負極シートの前記両端を繋ぐ仮想線上の初期の抵抗分布が中央に凹みを有する山型であって、前記抵抗分布の前記凹みが小さくなるように前記被膜形成材を含ませる。
【0006】
上記方法によれば、初期の抵抗分布の中央の凹みが小さくなるように被膜形成材を含ませる。このため、負極シートに電解液が浸透するときに、負極シートの中央で被膜形成材のマイナスイオンが不足することで発生する被膜形成材の少ない箇所を減少させることができる。よって、被膜形成材の少ない箇所を減少させて、Li析出耐性を向上させることができる。
【0007】
上記課題を解決する非水二次電池の製造方法は、正極シート、負極シート、及びリチウム塩を含む被膜形成材を含有する非水電解液を有する非水二次電池の製造方法であって、前記負極シートには、ナトリウム塩が含まれ、前記非水電解液が両端から浸透する前記負極シートの第1端と第2端を繋ぐ仮想線上の初期の抵抗分布が中央に凹みを有する山型であって、前記抵抗分布の前記凹みの両側の第1ピークと第2ピークとの距離をXとし、前記抵抗分布の山の前記第1ピーク側の裾の抵抗安定領域の端と前記第1ピークとの距離をYとし、前記抵抗分布の山の前記第2ピーク側の裾の抵抗安定領域の端と前記第2ピークとの距離をZとしたとき、Y/X>0.5,Z/X>0.5を満たすように、前記被膜形成材を含ませる。
【0008】
上記方法によれば、Y/X>0.5,Z/X>0.5を満たすように、被膜形成材を含ませる。このため、負極シートに電解液が浸透するときに、負極シートの中央で被膜形成材のマイナスイオンが不足することで発生する被膜形成材の少ない箇所を減少させることができる。よって、被膜形成材の少ない箇所を減少させて、Li析出耐性を向上させることができる。
【0009】
上記非水二次電池の製造方法について、前記抵抗分布の山の裾が低くなるように前記負極シートの結着材を含ませることが好ましい。
上記方法によれば、被膜形成材を含ませることで抵抗が増加するため、抵抗分布の山の裾が低くなるように負極シートの結着材を含ませる。このため、被膜形成材が含まれることによる抵抗の増加を低減することができる。
【0010】
上記非水二次電池の製造方法について、前記被膜形成材としてLiBOB(リチウムビスオキサレートボレート)を含むことが好ましい。
上記非水二次電池の製造方法について、前記結着材としてSAR(スチレンアクリル酸共重合体)を含むことが好ましい。
【0011】
上記非水二次電池の製造方法について、前記LiBOBの添加量は、前記SARを添加して、前記負極シートの抵抗値に応じて決定されることが好ましい。
上記方法によれば、SARを添加して、負極シートの抵抗値に応じてLiBOBの添加量が決定される。このため、負極シートの抵抗値をSARの添加量とLiBOBの添加量とで調整することができる。
【0012】
上記課題を解決する非水二次電池は、正極シート、負極シート、及びリチウム塩を含む被膜形成材を含有する非水電解液を有する非水二次電池であって、前記負極シートには、ナトリウム塩が含まれ、前記非水電解液が両端から浸透する前記負極シートの第1端と第2端を繋ぐ仮想線上の初期の抵抗分布が中央に凹みを有する山型であって、前記抵抗分布の前記凹みの両側の第1ピークと第2ピークとの距離をXとし、前記抵抗分布の山の前記第1ピーク側の裾の抵抗安定領域の端と前記第1ピークとの距離をYとし、前記抵抗分布の山の前記第2ピーク側の裾の抵抗安定領域の端と前記第2ピークとの距離をZとしたとき、Y/X>0.5,Z/X>0.5を満たすように、前記被膜形成材を含む。
【0013】
上記構成によれば、Y/X>0.5,Z/X>0.5を満たすように、被膜形成材を含ませる。このため、負極シートに電解液が浸透するときに、負極シートの中央で被膜形成材のマイナスイオンが不足することで発生する被膜形成材の少ない箇所を減少させることができる。よって、被膜形成材の少ない箇所を減少させて、Li析出耐性を向上させることができる。
【0014】
上記非水二次電池について、前記抵抗分布の山の裾が低くなるように前記負極シートの結着材を含むことが好ましい。
上記構成によれば、被膜形成材を含ませることで抵抗が増加するため、抵抗分布の山の裾が低くなるように負極シートの結着材を含ませる。このため、被膜形成材が含まれることによる抵抗の増加を低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Li析出耐性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】非水二次電池のセル電池の概略構成を示す斜視図である。
【
図3】非水二次電池の初期の抵抗分布を示す図である。
【
図4】非水二次電池の初期の抵抗分布を示す図である。
【
図5】非水二次電池の初期の抵抗分布を示す図である。
【
図6】非水二次電池の劣化後の抵抗分布を示す図である。
【
図7】非水二次電池の劣化後の抵抗分布を示す図である。
【
図8】非水二次電池の劣化後の抵抗分布を示す図である。
【
図9】実施例の非水二次電池のLiBOB量と抵抗との関係を示す図である。
【
図10】実施例の非水二次電池の初期の抵抗分布を示す図である。
【
図11】非水二次電池の初期及び劣化後の抵抗分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1~
図11を参照して、非水二次電池の製造方法の一実施形態について説明する。非水二次電池の一例としてリチウムイオン二次電池について説明する。
[リチウムイオン二次電池10]
【0018】
図1に示すように、リチウムイオン二次電池10は、複数のリチウムイオン二次電池10と組み合わされた状態で、樹脂製又は金属製のケースに封入されて電池パックを構成するセル電池である。電池パックは、ハイブリッド自動車や電気自動車に用いられる。
【0019】
リチウムイオン二次電池10は、電池ケース11と、蓋体12と、を備える。電池ケース11は、上側に開口部を有した直方体形状である。蓋体12は、電池ケース11の開口部を封止する。電池ケース11及び蓋体12は、アルミニウム、若しくはアルミニウム合金等の金属で構成される。リチウムイオン二次電池10は、電池ケース11に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。
【0020】
蓋体12には、2つの正極外部端子13A及び負極外部端子13Bが設けられる。正極外部端子13A及び負極外部端子13Bは、電力の充放電に用いられる。電池ケース11の内部には、電極体20が収容される。電極体20における正極側の端部である正極側集電部20Aは、正極側集電部材14Aを介して正極外部端子13Aに電気的に接続される。電極体20における負極側の端部である負極側集電部20Bは、負極側集電部材14Bを介して負極外部端子13Bに電気的に接続される。また、電池ケース11内には、図示しない注液孔から非水電解液が注入される。なお、正極外部端子13A及び負極外部端子13Bの形状は、
図1に示す形状に限定されず、任意の形状であってよい。
【0021】
[電極体20]
図2に示すように、電極体20は、長尺の正極シート21と負極シート24とがセパレータ27を介して積層した積層体を捲回した偏平な捲回体である。正極シート21、負極シート24、及びセパレータ27は、それぞれの長手となる方向が長手方向D1と一致するように積層される。捲回前の積層体は、正極シート21、セパレータ27、負極シート24、セパレータ27の順に積層される。
【0022】
[正極シート21]
正極シート21は、正極集電体22と、正極合材層23と、を備える。正極集電体22は、長尺状に形成された箔状の電極基材である。正極合材層23は、正極集電体22の相対する2つの面の各々に設けられる。正極集電体22は、幅方向D2の一端に、正極合材層23が形成されずに正極集電体22が露出した正極側未塗工部22Aを備える。
【0023】
正極集電体22は、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。正極集電体22は、正極における集電体として機能する。正極集電体22が備える正極側未塗工部22Aは、捲回体の状態において、向かい合う面が互いに圧接されて正極側集電部20Aを構成する。
【0024】
正極合材層23は、液状体の正極合材ペーストの硬化体である。正極合材ペーストは、正極活物質、正極溶媒、正極導電材、及び、正極結着材を含む。正極合材層23は、正極合材ペーストが乾燥されて正極溶媒が気化することで形成される。したがって、正極合材層23は、正極活物質、正極導電材、及び、正極結着材を含む。
【0025】
正極活物質は、リチウムイオン二次電池10における電荷担体であるリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なリチウム含有複合酸化物が用いられる。リチウム含有複合酸化物は、リチウムと、リチウム以外の他の金属元素とを含む酸化物である。リチウム以外の他の金属元素は、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム、マグネシウム、モリブデン、ニオブ、チタン、タングステン、アルミニウム、リチウム含有複合酸化物にリン酸鉄として含有される鉄からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0026】
例えば、リチウム含有複合酸化物は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含有する三元系リチウム含有複合酸化物であり、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMnO2)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)である。
【0027】
正極溶媒は、有機溶媒の一例であるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液が用いられる。正極導電材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバ等の炭素繊維、黒鉛が用いられる。正極結着材は、正極合材ペーストに含まれる樹脂成分の一例である。正極結着材は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレンブタジエンラバー(SBR)等が用いられる。
【0028】
なお、正極シート21は、正極側未塗工部22Aと正極合材層23との境界に、絶縁層を備えてもよい。絶縁層は、絶縁性を有した無機成分と、結着材として機能する樹脂成分とを含む。無機成分は、粉末状のベーマイト、チタニア、及びアルミナからなる群から選択される少なくとも1つである。樹脂成分は、PVDF、PVA、アクリルからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0029】
[負極シート24]
負極シート24は、負極集電体25と、負極合材層26と、を備える。負極集電体25は、長尺状に形成された箔状の電極基材である。負極合材層26は、負極集電体25の相対する2つの面の各々に設けられる。負極集電体25は、幅方向D2の一端であって、正極側未塗工部22Aと反対に位置する端部において、負極合材層26が形成されずに負極集電体25が露出した負極側未塗工部25Aを備える。
【0030】
負極集電体25は、銅又は銅を主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。負極集電体25は、負極における集電体として機能する。負極側未塗工部25Aは、捲回体の状態において、向かい合う面が互いに圧接されて負極側集電部20Bを構成する。
【0031】
負極合材層26は、液状体の負極合材ペーストの硬化体である。負極合材ペーストは、負極活物質、負極溶媒、負極増粘材、及び、負極結着材を含む。負極合材層26は、負極合材ペーストが乾燥されて負極溶媒が気化することで形成される。したがって、負極合材層26は、負極活物質、さらに、添加材として、負極増粘材及び負極結着材を含む。なお、負極合材層26は、導電材のような添加材をさらに含んでもよい。
【0032】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料である。負極活物質は、例えば、黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、カーボンナノチューブ等の炭素材料等が用いられる。負極溶媒は、一例として、水である。負極増粘材は、一例として、ナトリウム塩を含む増粘材として、CMC(カルボキシメチルセルロース)を用いることができる。負極結着材は、正極結着材と同様のものを用いることができる。負極結着材は、一例としてナトリウム塩を含む結着材として、SAR(スチレンアクリル酸共重合体)を用いることができる。
【0033】
[セパレータ27]
セパレータ27は、正極シート21と負極シート24との接触を防ぐとともに、正極シート21及び負極シート24の間で非水電解液を保持する。非水電解液に電極体20を浸漬させると、セパレータ27の幅方向D2の端部から中央部に向けて非水電解液が浸透する。
【0034】
セパレータ27は、ポリプロピレン製等の不織布である。セパレータ27としては、例えば、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、及び、イオン導電性ポリマー電解質膜等を用いることができる。
【0035】
[非水電解液]
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等からなる群から選択された一種又は二種以上の材料を用いることができる。また、支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI、LiBOB(リチウムビスオキサレートボレート)等から選択される一種又は二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0036】
本実施形態では、非水溶媒としてエチレンカーボネートを採用している。非水電解液には、添加材のリチウム塩としてのLiBOBが添加される。例えば、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.4以上0.8以下[wt%]となるように、非水電解液にLiBOBを添加する。
【0037】
[製造方法]
次に、
図3~
図8を参照して、リチウムイオン二次電池10の製造方法について説明する。
【0038】
本実施形態では、被膜形成材として非水電解液に添加するLiBOBの量を従来よりも多く添加するとともに、負極シート24の結着材としてSARを含ませる。
【0039】
非水電解液は、負極シート24の幅方向D2の両端から浸透する。このため、
図3~
図8に示すように、負極シート24の両端を繋ぐ仮想線上の抵抗分布は、中央を境に線対称な形となる。
図3~
図5は、初期の抵抗分布を示す。
図6~
図8は、繰り返し充放電を行った劣化後の抵抗分布を示す。従来技術Uを破線で示し、実施例Wを実線で示す。なお、従来技術Uに対してLiBOBの添加量を増加させただけの比較例Vを一点鎖線で示す。
【0040】
図3~
図5に示すように、負極シート24の両端を繋ぐ仮想線上の初期の抵抗分布は、中央に凹みを有する山型となる。ここで、抵抗分布において、凹みの左側のピークを第1ピークP1、凹みの右側のピークを第2ピークP2とする。第1ピークP1と第2ピークP2との間をピーク層とする抵抗分布において、山の裾の左側の抵抗の変化が少ない領域を第1抵抗安定領域とする。第1抵抗安定領域の第1ピークP1側の端を第1端A1とする。第1端A1は、前後の抵抗値が4%以上上昇し、且つその後も4%以上の抵抗上昇が継続している点である。第1抵抗安定領域の抵抗を第1ベースライン抵抗B1とする。抵抗分布において、山の裾の右側の抵抗の変化が少ない領域を第2抵抗安定領域とする。第2抵抗安定領域の第2ピークP2側の端を第2端A2とする。第2端A2は、前後の抵抗値が4%以上低下し、且つその後は増減が2%未満である点である。第2抵抗安定領域の抵抗を第2ベースライン抵抗B2とする。第1ピークP1と第1端A1との間を第1中間層C1とする。第2ピークP2と第2端A2との間を第2中間層C2とする。
【0041】
図3に示すように、従来技術Uの初期の抵抗分布に表れる中央の凹みは、LiBOB被膜が少ない箇所であるBOB穴が生成するためである。BOB穴は、負極シート24の端部から浸透した電解液に含まれるBOBイオンが負極シート24の中央部で材料由来のNaイオンにトラップされてBOBイオンが不足することで生成する。
【0042】
図4に示すように、本実施形態では、負極シート24の中央部でBOBイオンが不足することを抑制するために、LiBOBを電解液に従来技術よりも多く添加する。すなわち、比較例Vに示すように、初期の抵抗分布における中央の凹みが小さくなるようにLiBOBを含ませる。LiBOBを多く含ませると、初期の抵抗分布における中央の凹みの深さが小さくなる。しかしながら、比較例Vに示すように、初期の抵抗分布の第1ベースライン抵抗B1及び第2ベースライン抵抗B2が高くなる。
【0043】
図5に示すように、本実施形態では、初期の抵抗分布の第1ベースライン及び第2ベースラインを低くするために、負極シート24の結着材としてSARを含ませる。すなわち、実施例Wに示すように、初期の抵抗分布の山の裾が低くなるように負極シート24の結着材としてSARを含ませる。SARは、例えば、SBRと比較して、初期の抵抗分布を下げることができる。負極シート24の結着材としてSARを含ませると、初期の抵抗分布における第1ベースライン抵抗B1及び第2ベースライン抵抗B2が低くなる。ここで、SARを添加したときのF元素の含有量は、SBRを添加したときのF元素の含有量よりも少なくなる。これは、SARは、初充電時に還元分解されやすいため、初充電後の被膜中のF元素が少なくなるためである。この結果、イオン化傾向が高く、Liを吸着しやすいF元素が少ないため、F元素によるLiのトラップ量が少なくなる。そして、充放電に寄与するLiイオンの量が多くなり、抵抗が低くなる。
【0044】
図5に示すように、初期の抵抗分布の第1ピークP1と第2ピークP2との距離をピーク間距離Xとする。初期の抵抗分布の第1端A1と第1ピークP1との距離を第1距離Yとする。初期の抵抗分布の第2端A2と第2ピークP2との距離を第2距離Zとする。
【0045】
本実施形態のリチウムイオン二次電池10のピーク間距離Xと第1距離Yと第2距離Zとは、式(1)の関係を満たす。
Y/X>0.5,Z/X>0.5・・・(1)
【0046】
また、実施例Wの第1ベースライン抵抗B1と従来技術Uの第1ベースライン抵抗B1’とはほぼ同じが望ましく、式(2)となることが望ましい。
B1/B1’=0.97~1.03・・・(2)
【0047】
また、実施例Wの第2ベースライン抵抗B2と従来技術Uの第2ベースライン抵抗B2’とはほぼ同じが望ましく、式(3)となることが望ましい。
B2/B2’=0.97~1.03・・・(3)
【0048】
LiBOBの添加量は、SARを添加して、負極シート24の抵抗値を所望の値に設定し、その抵抗値に応じて決定される。すなわち、結着材としてSARを添加すると、抵抗を所望の値にすることができる。そこで、LiBOBを添加することによる抵抗悪化分を、SARを添加することによる抵抗良化分に合わせることで、BOB穴を減少させつつ、抵抗の悪化を抑制することもできる。
【0049】
図6~
図8に示すように、負極シート24の両端を繋ぐ仮想線上の劣化後の抵抗分布は、中央にピークを有する山型となる。ここで、抵抗分布において、中央のピークを中央ピークP0とする。抵抗分布において、山の裾の左側の抵抗の変化が少ない領域を第1抵抗安定領域とする。第1抵抗安定領域の右側の端を第1端A1とする。第1端A1は、前後の抵抗値が4%以上上昇し、且つその後も4%以上の抵抗上昇が継続している点である。第1抵抗安定領域の抵抗を第1ベースライン抵抗B1とする。抵抗分布において、山の裾の右側の抵抗の変化が少ない領域を第2抵抗安定領域とする。第2抵抗安定領域の左側の端を第2端A2とする。第2端A2は、前後の抵抗値が4%以上低下し、且つその後は増減が2%未満である点である。第2抵抗安定領域の抵抗を第2ベースライン抵抗B2とする。中央ピークP0と第1端A1との間を第1中間層C1とする。中央ピークP0と第2端A2との間を第2中間層C2とする。
【0050】
図6に示すように、従来技術Uの劣化後の抵抗分布に表れる中央ピークP0は、LiBOB被膜が少ない箇所(BOB穴)において電解液の分解が顕著となり、高抵抗被膜を形成し、Li析出耐性が悪化することにより発生する。
【0051】
図7に示すように、本実施形態では、負極シート24の中央部でBOBイオンが不足することを抑制するために、LiBOBを電解液に従来技術よりも多く添加する。すなわち、比較例Vに示すように、劣化後の抵抗分布における中央ピークP0が小さくなるようにLiBOBを含ませる。LiBOBを多く含ませると、劣化後の抵抗分布における中央ピークP0の高さが小さくなる。しかしながら、比較例Vに示すように、劣化後の抵抗分布の第1ベースライン抵抗B1及び第2ベースライン抵抗B2が高くなる。
【0052】
図8に示すように、本実施形態では、劣化後の抵抗分布の第1ベースライン及び第2ベースラインを低くするために、負極シート24の結着材としてSARを含ませる。すなわち、実施例Wに示すように、劣化後の抵抗分布の山の裾が低くなるように負極シート24の結着材としてSARを含ませる。SARは、例えば、SBRと比較して、劣化後の抵抗分布を下げることができる。負極シート24の結着材としてSARを含ませると、劣化後の抵抗分布における第1ベースライン抵抗B1及び第2ベースライン抵抗B2が低くなる。一方で、第1中間層C1及び第2中間層C2の抵抗は、維持される。このため、中央ピークP0と第1ベースライン抵抗B1及び第2ベースライン抵抗B2との差が急激にならないよう緩和することができ、Li析出耐性を向上させることができる。なお、初期の負極シート24は、SEI(Solid Electrolyte Interphase)膜が小さいが、日数が経つにつれてSEI膜の形成が進み、活性化エネルギーが低減する。このため、初期の抵抗分布のベースライン抵抗に対して劣化後の抵抗分布のベースライン抵抗が低減する。
【0053】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)初期の抵抗分布の中央の凹みが小さくなるように被膜形成材を含ませる。このため、負極シート24に電解液が浸透するときに、負極シート24の中央で被膜形成材のマイナスイオンが不足することで発生する被膜形成材の少ない箇所を減少させることができる。よって、被膜形成材の少ない箇所を減少させて、Li析出耐性を向上させることができる。
【0054】
(2)Y/X>0.5,Z/X>0.5を満たすように、被膜形成材を含ませる。このため、負極シート24に電解液が浸透するときに、負極シート24の中央で被膜形成材のマイナスイオンが不足することで発生する被膜形成材の少ない箇所を減少させることができる。よって、被膜形成材の少ない箇所を減少させて、Li析出耐性を向上させることができる。
【0055】
(3)被膜形成材を含ませることで抵抗が増加するため、抵抗分布の山の裾が低くなるように負極シート24の結着材を含ませる。このため、被膜形成材が含まれることによる抵抗の増加を低減することができる。
【0056】
(4)SARを添加して、負極シート24の抵抗値に応じてLiBOBの添加量が決定される。このため、負極シート24の抵抗値をSARの添加量とLiBOBの添加量とで調整することができる。
【0057】
[他の実施形態]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0058】
・上記実施形態では、LiBOBの添加量を、SARを添加したことで低下した負極シート24の抵抗値に応じて決定した。しかしながら、LiBOBの添加量を、SARの添加量に依らず決定してもよい。
【0059】
・上記実施形態では、実施例Wの第1ベースライン抵抗B1と従来技術Uの第1ベースライン抵抗B1’とが式(2)を満たすようにした。しかしながら、式(2)を満たさなくてもよい。
【0060】
・上記実施形態では、実施例Wの第2ベースライン抵抗B2と従来技術Uの第2ベースライン抵抗B2’とが式(3)を満たすようにした。しかしながら、式(3)を満たさなくてもよい。
【0061】
・上記実施形態では、初期の抵抗分布の山の裾が低くなるように負極シート24の結着材を含ませた。しかしながら、初期の抵抗分布の山の裾が低くなるように負極シート24の結着材を含ませなくてもよい。
【0062】
・上記実施形態では、式(1)の関係を満たすように被膜形成材としてのLiBOBを添加した。しかしながら、式(1)の関係を満たさないようにLiBOBを添加してもよい。
・上記実施形態では、初期の抵抗分布における中央の凹みが小さくなるようにLiBOBを含ませた。しかしながら、式(1)の関係のみを満たすように被膜形成材としてLiBOBを添加してもよい。
【0063】
・上記実施形態において、負極合材に添加される負極増粘材としては、ナトリウム塩を含むものであればCMCに限定されるものではない。
・上記実施形態において、負極シート24の結着材としてSARを含ませた。しかしながら、初期の抵抗分布の山の裾を低くすることができれば、負極シート24の結着材としてSARに限らない。
【0064】
・上記実施形態において、非水電解液にリチウム塩としてのLiBOBを添加した。しかしながら、リチウム塩であればLiBOBに限定されるものではない。この場合、リチウム塩のマイナスイオンが不足することでリチウム塩の被膜が少ない箇所が生成されるので、リチウム塩の被膜が少ない箇所が生成されないようにリチウム塩を非水電解液に添加する。
【0065】
・上記実施形態では、セパレータ27を介して正極シート21と負極シート24とを積層した積層体を捲回した捲回体を電極体20とした。しかしながら、複数の正極シート21及び複数の負極シート24を、セパレータ27を介して交互に積層した積層体を電極体としてもよい。
【0066】
・リチウムイオン二次電池10は、自動搬送機や荷役用の特殊自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車等の他、コンピュータ、その他の電子機器に搭載されるものであってもよく、これ以外のシステムを構成するものであってもよい。例えば、船舶、航空機等の移動体に設けられるものであってもよく、発電所から変電所等を介して二次電池が設置されたビルや家庭等に電力を供給する電力供給システムであってもよい。
【0067】
[実施例]
次に、
図9及び
図10を参照して、リチウムイオン二次電池10の実施例について説明する。ここでは、リチウムイオン二次電池10の電解液にLiBOBを添加し、負極増粘材にCMCを用い、負極結着材にSARを用いた場合について説明する。なお、この実施例は非水二次電池の製造方法を限定するものではない。
【0068】
リチウムイオン二次電池10の電解液のLiBOBの添加量を0.5wt%、負極増粘材のCMCを0.5wt%、負極結着材のSARを0.7wt%としたとき、負極結着材をSBRからSARに変更したことによる抵抗良化分は6.6%である。よって、抵抗6.6%良化分でLiBOBの添加量を増やす。
【0069】
ここで、LiBOBの添加量と抵抗との関係は、
図9に示すようになる。そこで、抵抗yを添加量xから求める式(4)を得る。
y=122.79x+44.221・・・(4)
【0070】
LiBOBの添加量の中心は、0.50wt%であるので、式(4)にx=0.5を代入すると、抵抗y=105.616[mΩ]となる。
このとき、負極結着材にSBRを使用したときに比べ、SARを使用した場合、抵抗が6.6%良化するため、LiBOBの添加量をSBRを使用したときに比べ6.6%分増やすことができる。
【0071】
6.6%分LiBOBを増やしたときの抵抗y’は、式(5)となる。
y’=105.605×1.066=112.5749[mΩ]・・・(5)
式(4)に式(5)を代入すると、LiBOBの添加量を6.6%悪化分増やしたときの添加量は、x=0.56[wt%]となる。よって、LiBOBの添加量を0.06[wt%]増加させてBOB穴を低減させ、抵抗増加量をSARによる抵抗低減分で補う。すなわち、0.56wt%にLiBOBを増加させてBOB穴を抑制する。
【0072】
上記条件で製造したリチウムイオン二次電池10の初期の抵抗分布は、
図10に示すようになる。
ピーク間距離Xは、X=54-42=12[mm]となる。
【0073】
第1距離Yは、Y=42-34=8[mm]となる。
第2距離Zは、Z=64-54=10[mm]となる。
よって、(Y/X)=0.67、(Z/X)=0.83となり、それぞれ0.5よりも大きいため、式(1)を満たす。
【0074】
従来技術Uの第1ベースライン抵抗B1’は、B1’=24.91[Ω]となる。
本実施例Wの第1ベースライン抵抗B1は、B1=24.90[Ω]となる。
よって、B1/B1’=24.90/24.91≒1となり、式(2)を満たす。
【0075】
従来技術Uの第2ベースライン抵抗B2’は、B2’=24.67[Ω]となる。
本実施例Wの第2ベースライン抵抗B2は、B2=24.56[Ω]となる。
よって、B2/B2’=24.56/24.67=0.996となり、式(3)を満たす。
【0076】
[劣化後の抵抗分布の中央ピークが上昇する説明]
図11は、負極シート24の初期の抵抗分布R1と劣化後の抵抗分布R2とを示す。劣化後の抵抗分布R2は、85℃で30日間保存したものである。
【0077】
初期の抵抗分布R1の中央には、低抵抗部位が存在する。劣化後の抵抗分布R2の中央部は、高抵抗となっている。これは、負極シート24の中央部は、LiBOB被膜が少ないため、負極材のLiを消費して、高抵抗被膜の形成が進むためである。
【0078】
また、初期の抵抗分布R1のベースライン抵抗に対して劣化後の抵抗分布R2のベースライン抵抗が低減している。これは、初期ではSEI(Solid Electrolyte Interphase)膜が小さいが、日数が経つにつれてSEI膜の形成が進み、活性化エネルギーが低減するためである。
【符号の説明】
【0079】
A1…第1端
A2…第2端
B1…第1ベースライン抵抗
B2…第2ベースライン抵抗
C1…第1中間層
C2…第2中間層
P0…中央ピーク
P1…第1ピーク
P2…第2ピーク
X…ピーク間距離
Y…第1距離
Z…第2距離
10…リチウムイオン二次電池
11…電池ケース
12…蓋体
13A…正極外部端子
13B…負極外部端子
14A…正極側集電部材
14B…負極側集電部材
20…電極体
20A…正極側集電部
20B…負極側集電部
21…正極シート
22…正極集電体
22A…正極側未塗工部
23…正極合材層
24…負極シート
25…負極集電体
25A…負極側未塗工部
26…負極合材層
27…セパレータ