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特開2024-93529接着剤組成物、接着剤層付き積層体、フレキシブル銅張積層板、および、フレキシブルフラットケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093529
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】接着剤組成物、接着剤層付き積層体、フレキシブル銅張積層板、および、フレキシブルフラットケーブル
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/26 20060101AFI20240702BHJP
   C09J 151/06 20060101ALI20240702BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C09J123/26
C09J151/06
C09J163/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209965
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大村 健人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】平川 真
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040DA151
4J040DL071
4J040EC001
4J040GA07
4J040HD30
4J040HD36
4J040KA16
4J040KA23
4J040KA26
4J040KA29
4J040KA36
4J040KA42
4J040LA01
4J040MA02
4J040MA10
4J040MB03
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】接着剤組成物の硬化物の誘電特性に悪影響を及ぼすことなくフッ素系基材に対する接着強さを向上可能な接着剤組成物、これを用いた接着剤層付き積層体、これを用いたフレキシブル銅張積層板、フレキシブルフラットケーブルを提供する。
【解決手段】接着剤組成物は、エポキシ基と反応する反応性官能基を有する変性ポリオレフィン系樹脂(A)と、エポキシ樹脂(B)と、エチレン-プロピレン共重合単位またはエチレン-ブテン共重合単位を含む未変性ポリオレフィン系樹脂(C)と、を含有しており、フッ素系基材に用いられる。接着剤層付き積層体は、上記接着剤組成物からなる接着剤層の少なくとも一方の面にフッ素系基材フィルムを備える。フレキシブル銅張積層板またはフレキシブルフラットケーブルは、上記接着剤層付き積層体における接着剤層の一方の面にフッ素系基材フィルムを備え、接着剤層の他方の面に銅箔または銅配線を備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基と反応する反応性官能基を有する変性ポリオレフィン系樹脂(A)と、
エポキシ樹脂(B)と、
エチレン-プロピレン共重合単位またはエチレン-ブテン共重合単位を含む未変性ポリオレフィン系樹脂(C)と、を含有しており、
フッ素系基材に用いられる、接着剤組成物。
【請求項2】
上記未変性ポリオレフィン系樹脂(C)の含有量が、上記変性ポリオレフィン系樹脂(A)100質量部に対して5質量部以上50質量部以下である、
請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記未変性ポリオレフィン系樹脂(C)の重量平均分子量Mwが5,000以上200,000以下である、
請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記未変性ポリオレフィン系樹脂(C)が、エチレン単位を40質量%以上60質量%以下、ジエン単位を1質量%以上15質量%以下含む、
請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
上記変性ポリオレフィン系樹脂(A)は、酸変性ポリオレフィン系樹脂である、
請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
上記変性ポリオレフィン系樹脂(A)は、未変性のポリオレフィン系樹脂がα,β-不飽和カルボン酸またはその誘導体を含む変性剤にてグラフト変性された樹脂である、
請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
上記エポキシ樹脂(B)が、脂環骨格を有する多官能エポキシ樹脂である、
請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
上記変性ポリオレフィン系樹脂(A)の含有量が、上記接着剤組成物の固形分100質量部に対して50質量部以上であり、
上記エポキシ樹脂(B)の含有量が、上記変性ポリオレフィン系樹脂(A)100質量部に対して1質量部以上20質量部以下である、
請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
周波数10GHzにて測定した上記接着剤組成物の硬化物の比誘電率が2.5以下であり、かつ、誘電正接が0.01以下である、
請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
上記接着剤組成物を用いてポリテトラフルオロエチレン基材と銅箔とを接着したときに、上記ポリテトラフルオロエチレン基材と上記銅箔との間のJIS K6854-3に準拠して引張速度50mm/min、試験温度23℃で測定されるT剥離接着強さが、1.3N/cm以上である、
請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層と、上記接着剤層の少なくとも一方の面に接するフッ素系基材フィルムとを備える接着剤層付き積層体。
【請求項12】
請求項11に記載の接着剤層付き積層体における上記接着剤層の一方の面に上記フッ素系基材フィルムを備え、上記接着剤層の他方の面に銅箔を備える、フレキシブル銅張積層板。
【請求項13】
請求項11に記載の接着剤層付き積層体における上記接着剤層の一方の面に上記フッ素系基材フィルムを備え、上記接着剤層の他方の面に銅配線を備える、フレキシブルフラットケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、接着剤層付き積層体、フレキシブル銅張積層板、および、フレキシブルフラットケーブルに関する。さらに詳しくは、電子部品等の接着用途、特に、フレキシブルプリント配線板の関連製品の製造に適した接着剤組成物、これを用いた接着剤層付き積層体、これを用いたフレキシブル銅張積層板およびフレキシブルフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント配線板(以下、「FPC」ともいう)は、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、その用途が拡大しつつある。そして、近年、電子機器の小型化、軽量化等に伴い、FPCの関連製品は多様化して、その需要が増大している。
【0003】
このようなFPCの関連製品としては、例えば、ポリイミドフィルムと銅箔とを貼り合わせたフレキシブル銅張積層板、フレキシブル銅張積層板に電子回路を形成したフレキシブルプリント配線板、フレキシブルプリント配線板と補強板とを貼り合せた補強板付きフレキシブルプリント配線板、フレキシブル銅張積層板またはフレキシブルプリント配線板を重ねて接合した多層板、基材フィルムに銅配線を貼り合わせたフレキシブルフラットケーブル(以下、「FFC」ともいう)等があり、これらを製造する場合に、通常、接着剤が用いられる。
【0004】
また、上記FPCを製造する場合、配線部分を保護するために、通常、「カバーレイフィルム」と呼ばれる接着剤層付き積層体が用いられる。このカバーレイフィルムは、絶縁性の基材フィルムと、その表面に形成された接着剤層とを備え、基材フィルムの材料には、ポリイミド樹脂が広く用いられている。そして、例えば、熱プレス等を利用して、配線部分を有する面に、接着剤層を介してカバーレイフィルムを貼り付けることにより、フレキシブルプリント配線板が製造される。このとき、カバーレイフィルムの接着剤層は、配線部分および基材フィルムの両方に対して、強固な接着性が必要である。
【0005】
また、プリント配線板としては、基板の表面に、導体層と有機絶縁層とを交互に積層するビルドアップ方式の多層プリント配線板が知られている。このような多層プリント配線板を製造する場合、導体層および有機絶縁層を接合するために、「ボンディングシート」と呼ばれる、絶縁接着層形成材料が用いられる。絶縁接着層には、配線部分への埋め込み性や回路を形成している導体部の構成材料(銅等)および有機絶縁層(ポリイミド樹脂等)の両方に対して、強固な接着性が必要である。
【0006】
このようなFPCの関連製品に使用される接着剤組成物としては、エポキシ樹脂およびこのエポキシ樹脂との反応性を有する熱可塑性樹脂を含有するエポキシ系接着剤組成物が広く用いられている。
【0007】
例えば、特許文献1には、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2つ以上有し、かつ、水酸基を1分子中に10以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを必須成分とする接着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-91702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、需要が急速に拡大している携帯電話、情報機器端末等の移動体通信機器においては、大量のデータを高速で処理する必要があるため、信号の高周波数化が進んでいる。信号速度の高速化と、信号の高周波数化に伴い、FPCの関連製品に用いる接着剤には、接着剤組成物が硬化した後の硬化物に対して、高周波数領域における良好な誘電特性(低誘電率および低誘電正接)が求められている。
【0010】
また、上記FPCの関連製品では、従来、ポリイミドフィルムからなる基材フィルムが広く用いられてきたが、上記信号の高周波数化に伴い、良好な誘電特性を有するポリテトラフルオロエチレン基材フィルム等のフッ素系基材フィルムが使用されるようになってきている。
【0011】
しかしながら、従来の接着剤組成物は、その硬化物が高周波数領域において良好な誘電特性を示したとしても、今後需要が高まるであろうフッ素系基材に対する接着強さを向上させることが困難である。
【0012】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、接着剤組成物の硬化物の誘電特性に悪影響を及ぼすことなくフッ素系基材に対する接着強さを向上させることが可能な接着剤組成物、また、これを用いた接着剤層付き積層体、また、これを用いたフレキシブル銅張積層板またはフレキシブルフラットケーブルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る接着剤組成物、接着剤層付き積層体、フレキシブル銅張積層板、および、フレキシブルフラットケーブルは、以下の通りである。
【0014】
[1]
エポキシ基と反応する反応性官能基を有する変性ポリオレフィン系樹脂(A)と、
エポキシ樹脂(B)と、
エチレン-プロピレン共重合単位またはエチレン-ブテン共重合単位を含む未変性ポリオレフィン系樹脂(C)と、を含有しており、
フッ素系基材に用いられる、接着剤組成物。
[2]
上記未変性ポリオレフィン系樹脂(C)の含有量が、上記変性ポリオレフィン系樹脂(A)100質量部に対して5質量部以上50質量部以下である、
上記[1]に記載の接着剤組成物。
[3]
上記未変性ポリオレフィン系樹脂(C)の重量平均分子量Mwが5,000以上200,000以下である、
上記[1]または上記[2]に記載の接着剤組成物。
[4]
上記未変性ポリオレフィン系樹脂(C)が、エチレン単位を40質量%以上60質量%以下、ジエン単位を1質量%以上15質量%以下含む、
上記[1]から上記[3]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
[5]
上記変性ポリオレフィン系樹脂(A)は、酸変性ポリオレフィン系樹脂である、
上記[1]に記載の接着剤組成物
[6]
上記変性ポリオレフィン系樹脂(A)は、未変性のポリオレフィン系樹脂がα,β-不飽和カルボン酸またはその誘導体を含む変性剤にてグラフト変性された樹脂である、
上記[1]から上記[5]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
[7]
上記エポキシ樹脂(B)が、脂環骨格を有する多官能エポキシ樹脂である、
上記[1]から上記[6]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
[8]
上記変性ポリオレフィン系樹脂(A)の含有量が、上記接着剤組成物の固形分100質量部に対して50質量部以上であり、
上記エポキシ樹脂(B)の含有量が、上記変性ポリオレフィン系樹脂(A)100質量部に対して1質量部以上20質量部以下である、
上記[1]から上記[7]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
[9]
周波数10GHzにて測定した上記接着剤組成物の硬化物の比誘電率が2.5以下であり、かつ、誘電正接が0.01以下である、
上記[1]から上記[8]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
[10]
上記接着剤組成物を用いてポリテトラフルオロエチレン基材と銅箔とを接着したときに、上記ポリテトラフルオロエチレン基材と上記銅箔との間のJIS K6854-3に準拠して引張速度50mm/min、試験温度23℃で測定されるT剥離接着強さが、1.3N/cm以上である、
上記[1]から上記[9]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
[11]
上記[1]から上記[10]のいずれか1項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層と、上記接着剤層の少なくとも一方の面に接するフッ素系基材フィルムとを備える接着剤層付き積層体。
[12]
上記[11]に記載の接着剤層付き積層体における上記接着剤層の一方の面に上記フッ素系基材フィルムを備え、上記接着剤層の他方の面に銅箔を備える、フレキシブル銅張積層板。
[13]
上記[11]に記載の接着剤層付き積層体における上記接着剤層の一方の面に上記フッ素系基材フィルムを備え、上記接着剤層の他方の面に銅配線を備える、フレキシブルフラットケーブル。
【発明の効果】
【0015】
上記接着剤組成物は、上記構成を有している。そのため、上記接着剤組成物は、接着剤組成物の硬化物の誘電特性に悪影響を及ぼすことなくフッ素系基材フィルムに対する接着強さを向上させることができる。
【0016】
上記接着剤層付き積層体は、上記構成を有している。そのため、上記接着剤層付き積層体は、接着剤組成物を硬化させた後の接着剤層の誘電特性に悪影響を及ぼすことなくフッ素系基材フィルムに対する接着強さを向上させることができる。
【0017】
上記フレキシブル銅張積層板は、上記構成を有している。そのため、上記フレキシブル銅張積層板は、上記接着剤層付き積層体における接着剤組成物を硬化させた後の接着剤層の誘電特性に悪影響を及ぼすことなくフッ素系基材フィルムに対する接着強さを向上させることができる。
【0018】
上記フレキシブルフラットケーブルは、上記構成を有している。そのため、上記フレキシブルフラットケーブルは、上記接着剤層付き積層体における接着剤組成物を硬化させた後の接着剤層の誘電特性に悪影響を及ぼすことなくフッ素系基材フィルムに対する接着強さを向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
1.接着剤組成物
1.1 接着剤組成物の用途
本実施形態の接着剤組成物は、フッ素系基材に用いられるものである。つまり、本実施形態の接着剤組成物は、フッ素系基材用接着剤組成物である。フッ素系基材としては、フッ素樹脂からなるフッ素樹脂基材、フッ素樹脂ではない樹脂からなる基材の表面にフッ素樹脂がコーティングされた基材等が挙げられる。基材の形状としては、具体的には、例えば、フィルム状、シート状、板状などが挙げられる。なお、基材の形状は、特に限定されるものではなく、所望に応じ、適宜選択することができる。
【0021】
フッ素樹脂は、フッ素原子を含んだ樹脂である。フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、含フッ素ポリイミド等が挙げられる。フッ素系基材としては、誘電特性などの観点から、ポリテトラフルオロエチレン基材、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体基材が好ましい。なお、フッ素系基材中には無機充填物などが含まれていても良い。
【0022】
基材として用いることできるフッ素樹脂ではない樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリマー等が挙げられる。フッ素樹脂ではない樹脂としては、接着性および電気特性等の観点から、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリマーが好ましい。
【0023】
1.2 接着剤組成物の組成
本実施形態の接着剤組成物は、エポキシ基と反応する反応性官能基を有する変性ポリオレフィン系樹脂(A)と、エポキシ樹脂(B)と、エチレン-プロピレン共重合単位またはエチレン-ブテン共重合単位を含む未変性ポリオレフィン系樹脂(C)と、を含有している。以下に、接着剤組成物の組成について、具体的に説明する。
【0024】
1.2.1 変性ポリオレフィン系樹脂(A)
変性ポリオレフィン系樹脂(A)は、エポキシ基と反応する反応性官能基を有している。すなわち、変性ポリオレフィン系樹脂(A)は、未変性のポリオレフィン系樹脂にエポキシ基と反応する反応性官能基が導入されたものということができ、また、未変性のポリオレフィン系樹脂がエポキシ基と反応する反応性官能基を有する変性剤にて変性された樹脂ということもでき、さらには、未変性のポリオレフィン系樹脂がエポキシ樹脂(B)との反応性を有するように変性された樹脂ということもできる。なお、変性ポリオレフィン系樹脂(A)の説明で示す未変性のポリオレフィン系樹脂は、後で詳述する未変性ポリオレフィン系樹脂(C)と異なるものであってもよいし、同じものであってもよい。
【0025】
エポキシ基と反応する反応性官能基としては、活性水素を有する基、活性エステル基等が挙げられ、活性水素を有する基としては、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、酸無水物基、チオール基等が挙げられる。これらは1種または2種以上併用することができる。エポキシ基と反応する反応性官能基は、反応性等の観点から、カルボキシル基、アミノ基であることが好ましく、カルボキシル基であることがより好ましい。
【0026】
変性ポリオレフィン系樹脂(A)は、酸変性ポリオレフィン系樹脂であることが好ましく、具体的には、未変性のポリオレフィン系樹脂に由来する部分と、変性剤に由来するグラフト部分とを有する樹脂であることができ、好ましくは、未変性のポリオレフィン系樹脂がα,β-不飽和カルボン酸またはその誘導体を含む変性剤にてグラフト変性された樹脂であるとよい。
【0027】
グラフト変性(グラフト重合)による変性ポリオレフィン系樹脂(A)の製造は、公知の方法で行うことが可能であり、製造の際にはラジカル開始剤を用いてもよい。上記変性ポリオレフィン系樹脂(A)の製造方法としては、例えば、未変性のポリオレフィン系樹脂をトルエン等の溶剤に加熱溶解し、上記変性剤およびラジカル開始剤を添加する溶液法や、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等を使用して未変性のポリオレフィン系樹脂、変性剤、および、ラジカル開始剤を溶融混練する溶融法等が挙げられる。未変性のポリオレフィン系樹脂、変性剤、および、ラジカル開始剤の使用方法は、特に限定されず、これらを、反応系に一括添加しても、逐次添加してもよい。また、上記変性ポリオレフィン系樹脂(A)を製造する場合には、α,β-不飽和カルボン酸等の変性剤によるグラフト効率を向上させるための変性助剤、樹脂安定性の調整のための安定剤等をさらに使用することができる。
【0028】
変性ポリオレフィン系樹脂(A)の製造に用いる未変性のポリオレフィン系樹脂は、オレフィンに由来する構造単位を有するものであれば、特に限定されないが、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、4-メチル-1-ペンテン等の炭素数2以上20以下の単独重合体または共重合体が好ましく用いられる。上記未変性のポリオレフィン系樹脂は、炭素数2以上6以下のオレフィンの単独重合体または共重合体がより好ましい。
【0029】
変性ポリオレフィン系樹脂(A)の製造に用いる未変性のポリオレフィン系樹脂としては、具体的には、未変性のポリプロピレン系樹脂が好適である。なお、この場合、変性ポリオレフィン系樹脂(A)は、具体的には、未変性のポリプロピレン系樹脂に由来する部分と、変性剤に由来するグラフト部分とを有する樹脂であることができ、好ましくは、未変性のポリプロピレン系樹脂がα,β-不飽和カルボン酸またはその誘導体を含む変性剤にてグラフト変性された樹脂であるとよい。未変性のポリプロピレン系樹脂は、プロピレンに由来する構造単位を有し、α,β-不飽和カルボン酸またはその誘導体等の変性剤により変性されていないものであれば、特に限定されないが、プロピレンとエチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、4-メチル-1-ペンテン等の炭素数2以上20以下のオレフィンとの共重合体が好ましく用いられる。上記未変性のポリプロピレン系樹脂は、プロピレンと炭素数2以上6以下のオレフィンとの共重合体がより好ましい。
【0030】
上記未変性のポリオレフィン系樹脂および上記未変性のポリプロピレン系樹脂中の構造単位の含有割合は任意に選択することができる。難接着性被着体への接着に有利である等の観点から、変性ポリオレフィン系樹脂(A)は、エチレン-プロピレン、プロピレン-ブテン、および、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である未変性のポリプロピレン系樹脂の変性樹脂であることが好ましい。なお、特に優れた接着性を得る等の観点から、プロピレン単位の含有割合が50質量%以上98質量%以下である未変性のポリプロピレン系樹脂を用いることが好ましい。プロピレン単位の含有割合が上述した範囲内であると、2つの部材を接着した後の接着部に柔軟性を付与することができる。なお、上記未変性のポリオレフィン系樹脂および上記未変性のポリプロピレン系樹脂の分子量は、特に制限されない。
【0031】
変性剤は、α,β-不飽和カルボン酸およびその誘導体を含むことができる。α,β-不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、アコニット酸、ノルボルネンジカルボン酸等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸の誘導体としては、酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、エステル等が挙げられる。上記変性剤としては、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水アコニット酸、および、無水シトラコン酸が好ましく、無水イタコン酸および無水マレイン酸が、接着性の点で特に好ましい。変性剤を用いる場合、α,β-不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる1種以上であればよく、α,β-不飽和カルボン酸1種以上とその誘導体1種以上の組み合わせ、α,β-不飽和カルボン酸2種以上の組み合わせ、または、α,β-不飽和カルボン酸の誘導体2種以上の組み合わせ等とすることができる。
【0032】
変性剤は、目的に応じて、α,β-不飽和カルボン酸等に加えて、他の化合物(他の変性剤)を含むことができる。他の化合物(他の変性剤)としては、例えば、下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、他の(メタ)アクリル酸誘導体、芳香族ビニル化合物、シクロヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。これらの他の化合物は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
CH=CRCOOR (1)
(式(1)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭化水素基である。)
【0033】
上記(メタ)アクリル酸エステルを表す式(1)において、Rは水素原子またはメチル基であり、好ましくは、メチル基である。Rは炭化水素基であり、好ましくは、炭素数8~18のアルキル基である。上記式(1)で示される化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。本実施形態では、耐熱接着性が改良されることから、炭素数8以上18以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルをさらに含む変性剤を用いることが好ましく、特に、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、または、(メタ)アクリル酸ステアリルを含むことが好ましい。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸誘導体としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、イソシアネート含有(メタ)アクリル酸等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。上記変性剤として、α,β-不飽和カルボン酸またはその誘導体と、他の変性剤とを併用することで、変性剤によるグラフト率を向上させたり、溶媒に対する溶解性を向上させたり、接着性をさらに向上させたりすることができる。なお、上記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステルを除く他の変性剤を用いる場合、その使用量は、α,β-不飽和カルボン酸およびその誘導体および(メタ)アクリル酸エステル使用量の合計を超えないことが望ましい。
【0035】
上記のように、変性ポリオレフィン系樹脂(A)は、少なくとも変性剤に由来するグラフト部分を有することができる。以下、変性ポリオレフィン系樹脂に含まれるグラフト部分の含有割合(以下、「グラフト質量」ともいう)について、説明する。
【0036】
変性ポリオレフィン系樹脂(A)は、α,β-不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来するグラフト部分を有することができる。変性ポリオレフィン系樹脂(A)において、α,β-不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来するグラフト部分のグラフト質量は、接着性の観点から、変性ポリオレフィン系樹脂(A)100質量%に対して0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以上18質量%以下である。グラフト質量が0.1質量%以上であると、溶媒に対する溶解性に優れ、金属等からなる被着体に対する接着性に特に優れる。また、グラフト質量が20質量%以下であると、樹脂等からなる被着体に対する十分な接着性を得ることができる。
【0037】
変性ポリオレフィン系樹脂(A)におけるα,β-不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来するグラフト質量は、アルカリ滴定法により求めることができるが、α,β-不飽和カルボン酸の誘導体が酸基を持たないイミド等であった場合、グラフト質量は、フーリエ変換赤外分光法で求めることができる。
【0038】
変性ポリオレフィン系樹脂(A)が、上記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステルに由来するグラフト部分を含む場合、そのグラフト質量は、変性ポリオレフィン系樹脂(A)100質量%に対して0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以上25質量%以下である。グラフト質量が0.1質量%以上30質量%以下であると、溶媒に対する溶解性に優れ、後述する他の樹脂またはエラストマーを含む場合のこれらとの相溶性に優れ、被着体に対する接着性をさらに向上させることができる。
【0039】
上記変性剤が、上記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステルを含む場合、得られた変性ポリオレフィン系樹脂(A)におけるグラフト質量は、フーリエ変換赤外分光法で求めることができる。
【0040】
変性ポリオレフィン系樹脂(A)の製造に用いるラジカル開始剤は、公知のものから、適宜選択できるが、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0041】
変性ポリオレフィン系樹脂(A)の製造に用いることができる変性助剤としては、ジビニルベンゼン、ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン等が挙げられる。安定剤としては、ヒドロキノン、ベンゾキノン、ニトロソフェニルヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0042】
変性ポリオレフィン系樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、好ましくは30,000以上250,000以下であり、より好ましくは50,000以上200,000以下である。変性ポリオレフィン系樹脂(A)重量平均分子量Mwが上記範囲内であることにより、溶媒への溶解性、および、被着体に対する初期接着性に優れ、さらに、接着後の接着部における耐溶剤性にも優れた接着剤組成物とすることができる。
【0043】
変性ポリオレフィン系樹脂(A)の酸価は、0.1mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることが好ましく、0.5mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であることがより好ましく、1.0mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。変性ポリオレフィン系樹脂(A)の酸価が上記範囲内であることにより、接着剤組成物が十分に硬化し、良好な接着性、耐熱性および樹脂流れ出し性が得られる。
【0044】
変性ポリオレフィン系樹脂(A)の含有量は、接着剤組成物の固形分100質量部に対して50質量部以上であることが好ましく、60質量部以上であることがより好ましく、65質量部以上であることがさらに好ましい。変性ポリオレフィン系樹脂(A)の含有量が50質量部以上であることにより、良好な接着特性を発現させやすくすることができる。なお、変性ポリオレフィン系樹脂(A)の含有量は、接着剤組成物の固形分100質量部に対して99質量部以下であることが好ましい。
【0045】
1.2.2 エポキシ樹脂(B)
次に、エポキシ樹脂(B)について説明する。エポキシ樹脂は(B)は、変性ポリオレフィン系樹脂(A)中のカルボキシル基等の反応性官能基と反応し、被着体に対する接着性や、接着剤硬化物の耐熱性を発現させる成分である。
【0046】
エポキシ樹脂(B)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、またはそれらに水素添加したもの;オルトフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、p-ヒドロキシ安息香酸グリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ樹脂;エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、テトラフェニルグリシジルエーテルエタン、トリフェニルグリシジルエーテルエタン、ソルビトールのポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールのポリグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミン系エポキシ樹脂;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定するものではない。また、フェノールノボラックエポキシ樹脂、o-クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂も用いることができる。
【0047】
さらに、エポキシ樹脂(B)としては、例えば、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ターシャリーブチルカテコール型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等を例示することができる。これらのエポキシ樹脂(B)は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。エポキシ樹脂(B)の中でも、グリシジルアミノ基を有しないエポキシ樹脂が好ましい。接着剤層付き積層体の貯蔵安定性が向上するからである。また、エポキシ樹脂(B)としては、誘電特性に優れた接着剤組成物が得られることから、脂環骨格を有する多官能エポキシ樹脂が好ましく、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂がより好ましい。
【0048】
エポキシ樹脂(B)としては、一分子中に2個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。変性ポリオレフィン系樹脂(A)との反応で架橋構造を形成し、高い耐熱性を発現させることができるからである。また、エポキシ基が2個以上のエポキシ樹脂を用いた場合、変性ポリオレフィン系樹脂(A)との架橋度が十分であり、十分な耐熱性が得られる。
【0049】
エポキシ樹脂(B)の含有量は、変性ポリオレフィン系樹脂(A)100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、3質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。エポキシ樹脂(B)の含有量が1質量部以上であると、十分な接着性が得られる。エポキシ樹脂(B)の含有量が20質量部以下であると、剥離接着強さや誘電特性が良好になる。
【0050】
1.2.3 未変性ポリオレフィン系樹脂(C)
未変性ポリオレフィン系樹脂(C)は、変性ポリオレフィン系樹脂(A)およびエポキシ樹脂(B)と一緒に用いることによってフッ素系基材に対する接着強さを向上させる効果を発現させるために重要な成分である。本実施形態の接着剤組成物は、他の方法では向上させることが困難であったフッ素系基材に対する接着強さを、未変性ポリオレフィン系樹脂(C)の添加という簡便な手法により実現することができるものである。
【0051】
未変性ポリオレフィン系樹脂(C)は、エチレン-プロピレン共重合単位またはエチレン-ブテン共重合単位を含んでいる。すなわち、未変性ポリオレフィン系樹脂(C)は、エチレン-プロピレン共重合単位またはエチレン-ブテン共重合単位を含む未変性のポリオレフィン系樹脂ということができる。
【0052】
なお、未変性ポリオレフィン系樹脂(C)は、エチレン-プロピレン共重合単位およびエチレン-ブテン共重合単位の両方を含んでいてもよい。また、未変性ポリオレフィン系樹脂(C)は、エチレン-プロピレン共重合単位またはエチレン-ブテン共重合単位以外にも、さらに、ジエン単位、スチレン単位等を含むことができる。ジエン単位としては、具体的には、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ビニリデンオルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4ヘキサジエン等が挙げられる。
【0053】
未変性ポリオレフィン系樹脂(C)としては、具体的には、エチレン-プロピレンターポリマー(EPDM、EPT)、エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体等のエチレン-αオレフィン共重合体;スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・ブテン・スチレン-スチレンブロック共重合体(SEBSS)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)等のスチレン系エラストマー等が挙げられる。これらの未変性ポリオレフィン系樹脂(C)は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのうち、フッ素系基材に対する接着強さの向上効果が大きい、溶媒への溶解性が高い等の観点から、エチレン-プロピレンターポリマーが好ましい。
【0054】
未変性ポリオレフィン系樹脂(C)は、エチレン単位を40質量%以上60質量%以下、ジエン単位を1質量%以上15質量%以下含むことが好ましい。エチレン単位は、より好ましくは、45質量%以上55質量%以下である。ジエン単位は、より好ましくは、1.5質量%以上12質量%以下である。なお、未変性ポリオレフィン系樹脂(C)におけるエチレン単位およびジエン単位の含有量は、核磁気共鳴分光法(NMR)により測定することができる。
【0055】
未変性ポリオレフィン系樹脂(C)におけるエチレン単位およびジエン単位の含有量が上記範囲内であれば、エチレン単位およびジエン単位の含有量が適度であるために溶媒への溶解性が良好なものとなり、接着剤組成物の調製をしやすくなる。また、未変性ポリオレフィン系樹脂(C)におけるエチレン単位の含有量が上記範囲内であれば、接着剤組成物の硬化物の機械的強度を確保しやすくなる。未変性ポリオレフィン系樹脂(C)におけるエチレン単位の含有量が多い、または、ジエン単位の含有量が少ないと溶媒への溶解性が低下する傾向が見られる。また、未変性ポリオレフィン系樹脂(C)におけるエチレン単位の含有量が少ないと、接着剤組成物の硬化物の機械的強度が低下する傾向が見られる。
【0056】
未変性ポリオレフィン系樹脂(C)の重量平均分子量Mwは、5,000以上200,000以下であることが好ましく、5,000以上180,000以下であることがより好ましく、5,000以上150,000以下であることがさらに好ましい。なお、上記重量平均分子量Mwは、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」ともいう)により測定した分子量をポリスチレン換算した値である。
【0057】
未変性ポリオレフィン系樹脂(C)の重量平均分子量Mwが上記範囲内であれば、接着剤組成物の流動性が適度であるため熱圧着時の寸法安定性が良好となり、また、変性ポリオレフィン系樹脂(A)との相溶性が良好であるため、接着剤組成物の液分離を抑制しやすくなる。上記重量平均分子量Mwが小さくなると、接着剤組成物の流動性が増大し、熱圧着時の寸法安定性が低下する傾向が見られる。また、上記重量平均分子量Mwが大きくなると、変性ポリオレフィン系樹脂(A)との相溶性が低下し、接着剤組成物の液分離が生じる傾向が見られる。
【0058】
未変性ポリオレフィン系樹脂(C)のJIS K6300-1:2000に準拠して100℃にて測定されるムーニー粘度は、溶媒への溶解性等の観点から、35以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。
【0059】
未変性ポリオレフィン系樹脂(C)の含有量は、変性ポリオレフィン系樹脂(A)100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下であることが好ましく、5質量部以上30質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上25質量部以下であることがさらに好ましい。
【0060】
未変性ポリオレフィン系樹脂(C)の含有量が上記範囲内であれば、変性ポリオレフィン系樹脂(A)との相溶性が良好であるため、接着剤組成物の液分離を抑制しやすくなる。未変性ポリオレフィン系樹脂(C)の含有量が多くなると、変性ポリオレフィン系樹脂(A)との相溶性が低下し、接着剤組成物の液分離が生じる傾向が見られる。
【0061】
1.2.4 その他の成分
本実施形態の接着剤組成物は、上述した変性ポリオレフィン系樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、未変性ポリオレフィン系樹脂(C)に加えて、他の熱可塑性樹脂、粘着付与剤、難燃剤、硬化剤、硬化促進剤、カップリング剤、熱老化防止剤、無機充填剤、レベリング剤、消泡剤、顔料、紫外線吸収剤、および、溶媒等を、接着剤組成物の機能に影響を与えない程度に含有することができる。
【0062】
(熱可塑性樹脂)
上記他の熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、および、ポリビニル系樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
(粘着付与剤)
上記粘着付与剤としては、例えば、クマロン-インデン樹脂、テルペン樹脂、テルペン-フェノール樹脂、ロジン樹脂、p-t-ブチルフェノール-アセチレン樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、キシレン-ホルムアルデヒド樹脂、石油系炭化水素樹脂、水素添加炭化水素樹脂、テレピン系樹脂等を挙げることができる。これらの粘着付与剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
(難燃剤)
上記難燃剤は、有機系難燃剤および無機系難燃剤のいずれでもよい。有機系難燃剤としては、例えば、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、リン酸グアニジン、ポリリン酸グアニジン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸アミドアンモニウム、ポリリン酸アミドアンモニウム、リン酸カルバメート、ポリリン酸カルバメート、トリスジエチルホスフィン酸アルミニウム、トリスメチルエチルホスフィン酸アルミニウム、トリスジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ビスジエチルホスフィン酸亜鉛、ビスメチルエチルホスフィン酸亜鉛、ビスジフェニルホスフィン酸亜鉛、ビスジエチルホスフィン酸チタニル、テトラキスジエチルホスフィン酸チタン、ビスメチルエチルホスフィン酸チタニル、テトラキスメチルエチルホスフィン酸チタン、ビスジフェニルホスフィン酸チタニル、テトラキスジフェニルホスフィン酸チタン等のリン系難燃剤;メラミン、メラム、メラミンシアヌレート等のトリアジン系化合物や、シアヌル酸化合物、イソシアヌル酸化合物、トリアゾール系化合物、テトラゾール化合物、ジアゾ化合物、尿素等の窒素系難燃剤;シリコーン化合物、シラン化合物等のケイ素系難燃剤等が挙げられる。また、無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物;酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化ニッケル等の金属酸化物;炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、ホウ酸亜鉛、水和ガラス等が挙げられる。これらの難燃剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
(硬化剤)
上記硬化剤としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。アミン系硬化剤としては、例えば、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のメラミン樹脂、ジシアンジアミド、4,4’-ジフェニルジアミノスルホン等が挙げられる。また、酸無水物としては、芳香族系酸無水物、および、脂肪族系酸無水物が挙げられる。これらの硬化剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂(B)100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下であることが好ましく、5質量部以上70質量部以下であることがより好ましい。
【0067】
(硬化促進剤)
上記硬化促進剤は、変性ポリオレフィン系樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)との反応を促進させる目的で使用するものであり、第三級アミン系硬化促進剤、第三級アミン塩系硬化促進剤、および、イミダゾール系硬化促進剤等を使用することができる。
【0068】
第三級アミン系硬化促進剤としては、ベンジルジメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、テトラメチルグアニジン、トリエタノールアミン、N,N’-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン等が挙げられる。
【0069】
第三級アミン塩系硬化促進剤としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセンの、ギ酸塩、オクチル酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、o-フタル酸塩、フェノール塩、または、フェノールノボラック樹脂塩や、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネンの、ギ酸塩、オクチル酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、o-フタル酸塩、フェノール塩、または、フェノールノボラック樹脂塩等が挙げられる。
【0070】
イミダゾール系硬化促進剤としては、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-メチル-4-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。これらの硬化促進剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
本実施形態の接着剤組成物が硬化促進剤を含有する場合、硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂(B)100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下であることが好ましく、1質量部以上10質量部以下であることがより好ましく、2質量部以上5質量部以下であることがさらに好ましい。硬化促進剤の含有量が上記範囲内であれば、優れた接着性および耐熱性を発揮することができる。
【0072】
(カップリング剤)
上記カップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトシキシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、イミダゾールシラン等のシラン系カップリング剤;チタネート系カップリング剤;アルミネート系カップリング剤;ジルコニウム系カップリング剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
(熱老化防止剤)
上記熱老化防止剤としては、例えば、酸化防止剤が挙げられ、その具体例としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤;ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-ジチオプロピオネート等のイオウ系酸化防止剤;トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
(無機充填剤)
上記無機充填剤としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、カーボンブラック、シリカ、タルク、銅、および、銀等からなる粉体が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
(溶媒)
本実施形態の接着剤組成物は、変性ポリオレフィン系樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、未変性ポリオレフィン系樹脂(C)、必要に応じて、その他成分を混合することにより製造することができる。混合方法は、特に限定されず、接着剤組成物が均一になればよい。接着剤組成物は、溶液または分散液の状態で好ましく用いられることから、通常は、有機溶剤等の溶媒も使用される。
【0076】
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、イソブチルアルコール、n-ブチルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等のエステル類;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。接着剤組成物が溶媒を含み、変性ポリオレフィン系樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、未変性ポリオレフィン系樹脂(C)が、溶媒に溶解または分散した溶液または分散液(樹脂ワニス)であると、フッ素系基材フィルムへの塗工および接着剤層の形成を円滑に行うことができ、所望の厚さの接着剤層を容易に得ることができる。
【0077】
本実施形態の接着剤組成物に用いる溶媒は、上記例示したものの中でも、メチルシクロヘキサンおよび/またはシクロヘキサンである脂環式炭化水素系溶剤、ならびに、アルコール系溶剤を含むことが好ましい。かかる形態において、溶媒100質量部に対する上記脂環式炭化水素の含有量は、20質量部以上90質量部以下であることが好ましく、40質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。
【0078】
また、上記溶媒100質量部に対する上記アルコール系溶剤の含有量は、1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、3質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。脂環式炭化水素および/またはアルコール系溶剤の含有量が上記範囲内であることにより、低温での貯蔵安定性に優れる接着剤組成物とすることができる。
【0079】
また、本実施形態の接着剤組成物に用いる溶媒は、上記例示したものの中でも、トルエンを含有することが好ましい。かかる形態において、接着剤組成物100質量部に対するトルエンの含有量は、10質量部以上60質量部以下であることが好ましく、20質量部以上40質量部以下であることがより好ましい。トルエンの含有量が上記範囲内であることにより、溶媒へのエポキシ樹脂(B)等の溶解性を向上させることができる。
【0080】
接着剤組成物が有機溶剤等の溶媒を含む場合、接着剤層の形成を含む作業性等の観点から、固形分濃度は、好ましくは、5質量%上50質量%以下、より好ましくは、10質量%以上40質量%以下の範囲内である。固形分濃度が80質量%以下であると、溶液の粘度が適度であり、均一に塗工し易い。
【0081】
1.3 接着剤組成物の硬化物の誘電特性
本実施形態の接着剤組成物は、周波数10GHzにて測定した接着剤組成物の硬化物の比誘電率(Dk、εr)が2.5以下であり、かつ、誘電正接(Df、tanδ)が0.01以下であることが好ましい。上記比誘電率は、2.5未満であることが好ましく、2.4以下であることがより好ましく、2.4未満であることがさらに好ましい。上記誘電正接は、0.01未満であることが好ましく、0.005以下であることがより好ましく、0.002以下であることがさらに好ましい。
【0082】
上記比誘電率が2.5以下であり、かつ、誘電正接が0.01以下であれば、近年の信号速度のさらなる高速化、信号のさらなる高周波数化に対応した、誘電特性の要求が厳しいFPC関連製品にも好適に用いることができる。比誘電率および誘電正接は、接着剤組成物における各成分の種類および含有量等により調整することができる。
【0083】
なお、周波数10GHzにて測定した接着剤組成物の硬化物の比誘電率(Dk、εr)および誘電正接(Df、tanδ)は、低ければ低いほどよいパラメータであるため、これらの下限値は特に限定されない。また、上記比誘電率、誘電正接の測定方法については、後述の実施例において詳述する。
【0084】
1.4 接着剤組成物のT剥離接着強さ
本実施形態の接着剤組成物は、これを用いてポリテトラフルオロエチレン基材と銅箔とを接着したときに、ポリテトラフルオロエチレン基材と銅箔との間のJIS K6854-3に準拠して引張速度50mm/min、試験温度23℃で測定されるT剥離接着強さが、1.3N/cm以上であることが好ましい。上記T剥離接着強さは、1.5N/cm以上であることが好ましく、1.8N/cm以上であることがより好ましく、2.0N/cm以上であることがさらに好ましい。
【0085】
なお、本実施形態の接着剤組成物は、これを用いてポリテトラフルオロエチレン基材と銅箔とを接着したときに、ポリテトラフルオロエチレン基材と銅箔との間のJIS K6854-3に準拠して引張速度50mm/min、試験温度23℃で測定されるT剥離接着強さが、30N/cm以下であることが好ましい。また、接着剤組成物のT剥離接着強さの測定方法については、後述の実施例において詳述する。また、上記においては、銅箔と接着するフッ素系基材としてポリテトラフルオロエチレン基材を用いているが、これは、接着剤組成物の分野において、通常、剥離が生じて接着が難しいとされるポリテトラフルオロエチレン基材を、フッ素系基材の代表として選択し、基準としたものであって、本実施形態の接着剤組成物が用いられるフッ素系基材は、ポリテトラフルオロエチレン基材に限定されるものではない。
【0086】
2.接着剤層付き積層体
本実施形態に係る接着剤層付き積層体は、上述した接着剤組成物からなる接着剤層と、接着剤層の少なくとも一方の面に接する基材フィルムとを備えている。接着剤層は、Bステージ状であることができる。接着剤層がBステージ状であるとは、接着剤組成物の一部が硬化し始めた半硬化状態をいい、加熱等により、接着剤組成物の硬化がさらに進行する状態をいう。
【0087】
接着剤層付き積層体の一態様としては、カバーレイフィルムが挙げられる。カバーレイフィルムは、通常、基材フィルムの少なくとも一方の表面に接着剤層が形成されているものであり、基材フィルムと接着剤層の剥離が困難な積層体である。
【0088】
接着剤層付き積層体が備える基材フィルムには、フッ素系基材フィルムが用いられる。フッ素系基材フィルムを構成するフッ素系基材については、「1.接着剤組成物」において上述した通りであるため、説明は省略する。
【0089】
接着剤層付き積層体を製造する方法としては、例えば、上記接着剤組成物および溶媒を含有する樹脂ワニスを、フッ素系基材フィルムの表面に塗布して樹脂ワニス層を形成した後、この樹脂ワニス層から溶媒を除去することにより、Bステージ状の接着剤層が形成された接着剤層付き積層体を製造することができる。
【0090】
溶媒を除去するときの乾燥温度は、40~250℃であることが好ましく、70~170℃であることがより好ましい。乾燥は、接着剤組成物が塗布された積層体を、熱風乾燥、遠赤外線加熱、および、高周波誘導加熱等がなされる炉の中を通過させることにより行うことができる。
【0091】
なお、必要に応じて、接着剤層の表面には、保管等のため、離型性フィルムを積層してもよい。離型性フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、シリコーン離型処理紙、ポリオレフィン系樹脂コート紙、ポリメチルペンテン(TPX)フィルム、フッ素樹脂フィルム等を用いることができる。
【0092】
接着剤層付き積層体の別の態様としては、ボンディングシートが挙げられる。ボンディングシートも、フッ素系基材フィルムの表面に上記接着剤層が形成されたものであるが、フッ素系基材フィルムは離型性フィルムとして機能する。また、ボンディングシートは、2枚の離型性フィルムの間に接着剤層を備える態様であってもよい。この場合、少なくとも一方の離型性フィルムがフッ素系基材フィルムであればよい。離型性フィルムは、ボンディングシートを使用するときに剥離される。
【0093】
ボンディングシートを製造する方法としては、例えば、離型性フィルムと機能させるフッ素系基材フィルムの表面に上記接着剤組成物および溶媒を含有する樹脂ワニスを塗布し、上記カバーレイフィルムの場合と同様にして乾燥する方法がある。
【0094】
接着剤層の厚さは、接着強さを十分発揮するため、好ましくは、5μm以上100μm以下、より好ましくは、10μm以上70μm以下、さらに好ましくは、10μm以上50μm以下とすることができる。また、フッ素系基材フィルムの厚さは、接着剤層付き積層体の薄膜化等の観点から、好ましくは、5μm以上100μm以下、より好ましくは、5μm以上50μm以下、さらに好ましくは、5μm以上30μm以下とすることができる。
【0095】
3.フレキシブル銅張積層板
本実施形態に係るフレキシブル銅張積層板は、上記接着剤層付き積層体における接着剤層の一方の面にフッ素系基材フィルムを備え、接着剤層の他方の面に銅箔を備えている。フレキシブル銅張積層板は、具体的には、上記接着剤層付き積層体を用いて、フッ素系基材フィルムと銅箔とが貼り合わされている構成とすることができる。すなわち、フレキシブル銅張積層板は、フッ素系基材フィルム、接着剤層、および、銅箔の順に積層されたものとすることができる。なお、接着剤層および銅箔は、フッ素系基材フィルムの両面に形成されていてもよい。上述した接着剤組成物は、銅を含む物品との接着性に優れるので、フレキシブル銅張積層板は、一体化物として安定性に優れる。
【0096】
フレキシブル銅張積層板を製造する方法としては、例えば、上記接着剤層付き積層体の接着剤層と銅箔とを面接触させ、例えば、80℃以上150℃以下の温度にて熱ラミネートを行い、さらにアフターキュアにより接着剤層を硬化する方法がある。アフターキュアの条件は、例えば、100℃~200℃、30分~4時間とすることができる。なお、銅箔は、特に限定されるものではなく、電解銅箔、圧延銅箔等を用いることができる。
【0097】
4.フレキシブルフラットケーブル
本実施形態に係るフレキシブルフラットケーブルは、上記接着剤層付き積層体における接着剤層の一方の面にフッ素系基材フィルムを備え、接着剤層の他方の面に銅配線を備えている。フレキシブルフラットケーブルは、具体的には、上記接着剤層付き積層体を用いて、フッ素系基材フィルムと銅配線とが貼り合わされている構成とすることができる。すなわち、フレキシブルフラットケーブルは、フッ素系基材フィルム、接着剤層、および、銅配線の順に積層されたものとすることができる。なお、接着剤層および銅配線は、フッ素系基材フィルムの両面に形成されていてもよい。上述した接着剤組成物は、銅を含む物品との接着性に優れるので、フレキシブルフラットケーブルは、一体化物として安定性に優れる。
【0098】
フレキシブルフラットケーブルを製造する方法としては、例えば、上記接着剤層付き積層体の接着剤層と銅配線とを接触させ、例えば、80℃以上150℃以下の温度にて熱ラミネートを行い、さらにアフターキュアにより接着剤層を硬化する方法がある。アフターキュアの条件は、例えば、100℃~200℃、30分~4時間とすることができる。なお、銅配線の形状は、特に限定されるものではなく、所望に応じ、適宜選択することができる。
【実施例0099】
本発明を、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。なお、下記において、部および%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0100】
1.評価方法
(1)重量平均分子量Mw
下記の条件で、GPC測定を行い、変性ポリオレフィン系樹脂(A)および未変性ポリオレフィン系樹脂(C)の重量平均分子量Mwを求めた。
重量平均分子量Mwは、GPCにより測定したリテンションタイムを標準ポリスチレンのリテンションタイムを基準にして換算した。
装置:アライアンス2695(Waters社製)
カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ-H 2本、
TSKgel SuperHZ2500 2本(東ソー社製)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン 0.35ml/分
検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0101】
(2)酸価
変性ポリオレフィン系樹脂(A)1gをトルエン30mlに溶解し、京都電子工業社製自動滴定装置「AT-510」にビュレットとして同社製「APB-510-20B」を接続したものを使用した。滴定試薬としては0.01mol/Lのベンジルアルコール性KOH溶液を用いて電位差滴定を行い、樹脂1gあたりのKOHのmg数を算出した。
【0102】
(3)誘電特性(比誘電率および誘電正接)
厚さ38μmの離型PETフィルムを用意し、その一方の表面に表1に記載の接着剤組成物を塗布した。次いで、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、90℃で3分間乾燥させて厚さ50μmの被膜(接着性層)を形成し、接着剤層を得た。次に、この接着剤層をオーブン内に静置して、180℃で60分間加熱処理をした。その後、上記離型フィルムを剥がして、接着剤組成物の硬化物からなる試験片(150mm×80mm)を得た。比誘電率(Dk、εr)および誘電正接(Df、tanδ)は、ネットワークアナライザー85071E-300(アジレント社製)を使用し、スプリットポスト誘電体共振器法(SPDR法)で、温度23℃、周波数10GHzの条件で測定した。なお、比誘電率および誘電正接のうち、低誘電特性として重要視される傾向がある誘電正接が0.01以下である場合を、「誘電特性に悪影響を及ぼさない」ことの判断基準とする。
【0103】
(4)剥離接着強さ
厚さ38μmの離型PETフィルムを用意し、その一方の表面に表1に記載の接着剤組成物を塗布した。次いで、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、90℃で3分間乾燥させてBステージ状の接着剤層(厚さ25μm)を得た。その後、厚さ12μmの圧延銅箔を、接着剤層の表面に面接触するように重ね合わせ、温度120℃、圧力0.5MPa、真空条件下で30秒間ラミネートを行った。次いで、接着剤層から離型PETフィルムを剥離し、フッ素系基材を面接触するように重ね合わせ、温度120℃、圧力0.5MPa、真空条件下で30秒間ラミネートを行った。なお、フッ素系基材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)基材およびテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)の2種を使用した。
【0104】
上記ラミネート後の試験片に対し、温度180℃、圧力3MPaの条件で60分間加熱圧着し、接着試験片を得た。この接着試験片を所定の大きさに切断し、引張試験用サンプルとした。そして、この引張試験用サンプルを用いて、JIS K6854-3に準拠して引張速度50mm/min、試験温度23℃で引張試験をT字剥離にて実施し、T剥離接着強さを算出した。なお、ポリテトラフルオロエチレン基材/接着剤組成物による接着層/銅箔の積層順である引張試験用サンプルを、表1中、「PTFE/Ad/Cu」と表記する。同様に、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体基材/接着剤組成物による接着層/銅箔の積層順である引張試験用サンプルを、表1中、「PFA/Ad/Cu」と表記する。
【0105】
2.接着剤組成物の原料
接着剤組成物の原料として、以下を準備した。
(1)変性ポリオレフィン系樹脂(A)
変性ポリオレフィン系樹脂(A)として、以下に示す方法により、酸変性ポリプロピレン系樹脂(a1)を作製した。
【0106】
メタロセン触媒を重合触媒として製造した、プロピレン単位65質量%および1-ブテン単位35質量%からなるプロピレン-ブテンランダム共重合体100質量部、無水マレイン酸1質量部、メタクリル酸ラウリル0.3質量部およびジ-t-ブチルパーオキサイド0.4質量部を、シリンダー部の最高温度を170℃に設定した二軸押出機を用いて混練反応した。その後、押出機内にて減圧脱気を行い、残留する未反応物を除去して、酸変性ポリプロピレン系樹脂(a1)を製造した。酸変性ポリプロピレン系樹脂(a1)は、重量平均分子量Mwが70,000、酸価が10mgKOH/g、プロピレン/ブテン質量比が65/35であった。
【0107】
(2)エポキシ樹脂(B)
・ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂(b1)(以下、DCPD型エポキシ樹脂(b1)ともいう)(DIC社製、「EPICLON HP-7200」)
【0108】
(3)未変性ポリオレフィン系樹脂(C)
・エチレン-プロピレンターポリマー(c1)(三井化学社製、「EPT X-4010M」)[重量平均分子量Mw=113,000、エチレン単位:54質量%、ジエン単位:7.6質量%、ムーニー粘度(1+4@100℃)=8]
・エチレン-プロピレンターポリマー(c2)(三井化学社製、「EPT PX-009M」)[重量平均分子量Mw=122,000、エチレン単位:60質量%、ジエン単位:1.5質量%、ムーニー粘度(1+4@100℃)=10]
・エチレン-プロピレンターポリマー(c3)(LION ELASTOMERS社製、「TRILENE T65」)[重量平均分子量Mw=7,000、エチレン単位:45質量%、ジエン単位:10.5質量%]
・SEBS(c4)(旭化成ケミカルズ社製、「タフテック H1043」)[重量平均分子量Mw=141,000、エチレン単位:29質量%]
・SEBS(c5)(クレイトンポリマージャパン社製、「MD1623」)[重量平均分子量Mw=22,000、エチレン単位:36質量%]
【0109】
(4)その他
・硬化促進剤(イミダゾール系硬化促進剤)(四国化成社製、「キュアゾール C11Z」)
・溶媒(トルエンおよびメチルシクロヘキサンからなる混合溶媒(質量比=20:80)
なお、溶媒量は、接着剤組成物の固形分濃度が15~30質量%となるように適宜調整した。
【0110】
3.接着剤組成物の製造および評価
撹拌装置付き1000mlフラスコに、上記の原料を表1に示す所定割合で添加し、溶媒を加え室温(25℃)下で6時間撹拌して溶解することにより、各接着剤組成物を調製し評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
4.接着剤層付き積層体の製造および評価
上記接着剤組成物を用いて、上記各評価方法に関する説明に記載の通り、接着剤層付き積層体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
表1によれば、以下のことがわかる。すなわち、試料1Cは、接着剤組成物が、変性ポリオレフィン系樹脂(A)およびエポキシ樹脂(B)を含有しているものの、エチレン-プロピレン共重合単位またはエチレン-ブテン共重合単位を含む未変性ポリオレフィン系樹脂(C)を含有していない。そのため、試料1Cは、フッ素系基材フィルムに対する接着強さを向上させることができなかった。
【0114】
これに対し、試料1~試料13は、接着剤組成物が、変性ポリオレフィン系樹脂(A)およびエポキシ樹脂(B)を含有し、さらに、エチレン-プロピレン共重合単位またはエチレン-ブテン共重合単位を含む未変性ポリオレフィン系樹脂(C)を含有している。そのため、試料1~試料13は、接着剤組成物の硬化物、接着剤組成物を硬化させた後の接着剤層の誘電特性に悪影響を及ぼすことなく、フッ素系基材フィルムに対する接着強さを向上させることができた。
【0115】
また、試料1~試料13を比較すると、未変性ポリオレフィン系樹脂(C)としてエチレン-プロピレンターポリマーを用いた試料1~試料11の方が、未変性ポリオレフィン系樹脂(C)としてスチレン系エラストマーであるSEBSを用いた試料12および試料13に比べ、フッ素系基材フィルムに対する接着強さをより向上させることができた。これは、スチレン系エラストマーはハードセグメントに硬いスチレン単位を含むため、これによってフッ素系基材フィルムに対する接着性が低下したためであると考えられる。
【0116】
本発明は、上記実施形態、実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、上記実施形態、実施例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。