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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093536
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】動力伝達シャフト
(51)【国際特許分類】
   F16C 3/02 20060101AFI20240702BHJP
   F16D 3/20 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
F16C3/02
F16D3/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209978
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】山崎 健太
(72)【発明者】
【氏名】北村 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】東 和弘
【テーマコード(参考)】
3J033
【Fターム(参考)】
3J033AA01
3J033BA01
3J033BA07
3J033BA20
(57)【要約】
【課題】中空シャフトに対する閉塞部材の組み付け性の低下を防止する。
【解決手段】動力伝達シャフト(中間シャフト4)は、軸方向両側に開口した内孔41aを有する中空シャフト41と、中空シャフト41の内孔41aの開口部を閉塞する閉塞部材42とを有する。中空シャフト41は、内孔41aの軸方向一方の端部に設けられたテーパ面状の面取り部41fと、面取り部41fの軸方向他方側に設けられ、閉塞部材42が圧入される円筒面41gとを有する。面取り部41fと円筒面41gとの間に、円筒面41gよりも外径側に後退した逃げ面41hを設ける。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも軸方向一方側に開口した内孔を有する中空シャフトと、前記中空シャフトの前記内孔の軸方向一方側の開口部を閉塞する閉塞部材とを有し、
前記中空シャフトが、前記内孔の軸方向一方の端部に設けられたテーパ面状の面取り部と、前記面取り部の軸方向他方側に設けられ、前記閉塞部材が圧入される円筒面とを有する動力伝達シャフトであって、
前記面取り部と前記円筒面との間に、前記円筒面よりも外径側に後退した逃げ面を設けた動力伝達シャフト。
【請求項2】
前記逃げ面が、軸方向一方側に行くにつれて拡径したテーパ面状に形成された請求項1に記載の動力伝達シャフト。
【請求項3】
前記逃げ面の軸方向に対する傾斜角度が、前記面取り部の軸方向に対する傾斜角度よりも小さい請求項2に記載の動力伝達シャフト。
【請求項4】
前記逃げ面の軸方向に対する傾斜角度が1°~5°である請求項2に記載の動力伝達シャフト。
【請求項5】
前記逃げ面が、軸方向一方側に行くにつれて拡径した凹曲面状に形成された請求項1に記載の動力伝達シャフト。
【請求項6】
前記面取り部と前記逃げ面との境界における直径Ditと、前記円筒面の内径Diとが、Dit>Di+0.1mmを満たす請求項1に記載の動力伝達シャフト。
【請求項7】
前記中空シャフトの内周面に、前記円筒面の軸方向他方側に設けられ、前記円筒面よりも小径な小径円筒面と、前記円筒面と前記小径円筒面とを繋ぐ段差部とを設け、
前記段差部を前記閉塞部材と軸方向で当接させた請求項1に記載の動力伝達シャフト。
【請求項8】
請求項1に記載の動力伝達シャフトと、前記動力伝達シャフトの両端に取り付けられた一対の等速自在継手とを備えたドライブシャフト。
【請求項9】
請求項1に記載の動力伝達シャフトと、前記動力伝達シャフトの軸方向他方の端部に接合されたカップ状のマウス部とを有する外側継手部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達シャフトに関し、特に、中空シャフトとこれに取り付けられた閉塞部材とを有する動力伝達シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の動力伝達系には、トランスミッションからデファレンシャルギアに動力を伝達するプロペラシャフトや、デファレンシャルギアから駆動輪に動力を伝達するドライブシャフトが設けられる。ドライブシャフトやプロペラシャフトとしては、一対の等速自在継手と、これらを連結する中間シャフトとを有するものが知られている。
【0003】
ドライブシャフトやプロペラシャフトの中間シャフトとしては、従来から中実シャフトが多く使用されている。しかし、車両の軽量化、ドライブシャフト等の剛性増大による機能向上、曲げ一次固有振動数のチューニングによる車室内の静粛性向上等の観点から、近年では、中間シャフトを中空化する要求が増えてきている(下記の特許文献1参照)。
【0004】
また、等速自在継手の外側継手部材は、鍛造等の塑性加工を経て一体成形されることが多い。しかし、左右のドライブシャフトの長さを等しくするために、一方のドライブシャフトのデファレンシャルギア側の外側継手部材の軸部を長くすることがある(このような長尺の軸部を「ロングステム部」と言う。)。このようなロングステム部を有する外側継手部材は、鍛造により一体成形することが困難である。そのため、カップ状のマウス部とロングステム部とを別部材で構成し、両部材を摩擦圧接等により接合することがある(下記の特許文献2参照)。このような外側継手部材のロングステム部においても、自動車の軽量化要求の高まりから、中空化する要求が増えている(例えば、下記の特許文献3の図5参照)。
【0005】
ドライブシャフトやプロペラシャフトに設けられた中間シャフトの端部は、グリースが封入された等速自在継手の内部に挿入される。また、ドライブシャフトのインボード側に設けられた等速自在継手の外側継手部材のロングステム部は、デフオイルが封入されたデファレンシャルギアの内部に挿入される。このため、中間シャフトやロングステム部を、軸方向の貫通孔を有する中空シャフトとした場合、中空シャフトの端部の開口部から内孔へグリースやデフオイルが侵入する。このようなグリースやデフオイルの侵入防止を目的として、中空シャフトの内孔の端部に閉塞部材(埋め栓)を取りつけて対処している。
【0006】
中空シャフトに取り付けられる閉塞部材としては、円筒状外周面を有するもの(下記の特許文献1参照)や、樽状外周面を有するもの(下記の特許文献4参照)、あるいは、ゴム等の弾性材料で形成されたもの(下記の特許文献5参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-100798号公報
【特許文献2】特開2012-57696号公報
【特許文献3】特開2007-75824号公報
【特許文献4】特開2011-144817号公報
【特許文献5】特開平6-281010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図9に、中空シャフト101の端部付近の断面図を示す。中空シャフト101の内孔の開口端には、テーパ面状の面取り部102が設けられる。この面取り部102は、中空シャフト101の外周面の旋削やスプライン転造の際に、中空シャフト101を芯出しするための支持センターとして使用される。具体的には、中空シャフト101の軸端の開口部に円すい状のセンター治具103(二点鎖線参照)を挿入し、このセンター治具103の外周面を中空シャフト101の面取り部102に押し付けることで、中空シャフト101の芯出しが行われる。このとき、面取り部102とこれに連続する円筒面104との境界に過大な荷重が加わると、図10に拡大して示すように、円筒面104の端部(面取り部102との境界付近)に盛り上がり部105が発生することがある。このように、円筒面104に盛り上がり部105が形成されると、中空シャフト101の内孔への閉塞部材110の組み付け性に悪影響を与えることが懸念される。
【0009】
例えば、図9に点線で示すように面取り部102’を大きくすることで、センター治具103と面取り部102’との面圧を下げて、盛り上がり部を抑制することも考えられる。しかし、面取り部102’を大きくすると、中間シャフト101の端面106の面積が減少するため、端面106を基準として加工する際に不具合が生じる恐れがある。
【0010】
そこで、本発明は、中空シャフトに対する閉塞部材の組み付け性の低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、少なくとも軸方向一方側に開口した内孔を有する中空シャフトと、前記中空シャフトの前記内孔の軸方向一方側の開口部を閉塞する閉塞部材とを有し、
前記中空シャフトが、前記内孔の軸方向一方の端部に設けられたテーパ面状の面取り部と、前記面取り部の軸方向他方側に設けられ、前記閉塞部材が圧入される円筒面とを有する動力伝達シャフトであって、
前記面取り部と前記円筒面との間に、前記円筒面よりも外径側に後退した逃げ面を設けたことを特徴とする。
【0012】
このように、本発明では、中空シャフトの内周面の面取り部と円筒面との間に逃げ面を設けた。この場合、センター治具を面取り部に押し付けることにより、中空シャフトの内周面に盛り上がり部が形成されたとしても、その盛り上がり部は、閉塞部材が圧入される円筒面ではなく、円筒面よりも外径側に後退した逃げ面に形成される。これにより、盛り上がり部が円筒面よりも内径側に突出する量を低減あるいは0にすることができるため、盛り上がり部が閉塞部材の組み付けを阻害する事態を回避できる。
【0013】
上記の動力伝達シャフトでは、逃げ面を、軸方向一方側に行くにつれて拡径したテーパ面状に形成することができる。この場合、逃げ面の軸方向に対する傾斜角度は、面取り部の軸方向に対する傾斜角度よりも小さいことが好ましく、例えば、1°~5°とすることができる。
【0014】
あるいは、逃げ面を、軸方向一方側に行くにつれて拡径した凹曲面状に形成することもできる。
【0015】
上記の動力伝達シャフトでは、面取り部と逃げ面との境界における直径Ditと、円筒面の内径Diとが、Dit>Di+0.1mmを満たすことが好ましい。
【0016】
中空シャフトの内周面に、前記円筒面の軸方向他方側に設けられ、前記円筒面よりも小径な小径円筒面と、前記円筒面と前記小径円筒面とを繋ぐ段差部とを設け、前記段差部を前記閉塞部材と軸方向で当接させてもよい。このように、中空シャフトの内周面に形成した段差部に閉塞部材を軸方向で当接させることで、中空シャフトに対して閉塞部材を軸方向で位置決めすることができる。
【0017】
上記の動力伝達シャフトは、例えばドライブシャフトの中間シャフトとして用いることができる。具体的には、上記の動力伝達シャフトと、この動力伝達シャフトの両端に取り付けられた一対の等速自在継手とを備えたドライブシャフトを得ることができる。
【0018】
あるいは、上記の動力伝達シャフトは、外側継手部材のロングステム部として用いることができる。具体的には、上記の動力伝達シャフトと、この動力伝達シャフトの軸方向他方の端部に接合されたカップ状のマウス部とを有する外側継手部材を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の動力伝達シャフトによれば、中空シャフトの内周面に形成される盛り上がり部により閉塞部材の組み付け性が低下する事態を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係る動力伝達シャフトとしての中間シャフトを有するドライブシャフトの軸方向断面図である。
図2】上記中間シャフトの軸方向断面図である。
図3図2の中空シャフトのアウトボード側端部周辺の拡大図である。
図4】(A)~(D)は、上記中空シャフトの加工工程を示す軸方向断面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る中空シャフトの端部周辺の軸方向断面図である。
図6】本発明の第3実施形態に係る中空シャフトの端部周辺の軸方向断面図である。
図7】本発明の第4実施形態に係る動力伝達シャフトとしてのロングステム部を有する外側継手部材の軸方向断面図である。
図8図7のロングステム部の端部周辺の軸方向断面図である。
図9】従来の中空シャフトの端部周辺の軸方向断面図である。
図10図9のA部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の第1実施形態を、図1~4に基づいて説明する。
【0022】
図1に、自動車のデファレンシャルギアと車輪とを接続するドライブシャフト1を示す。ドライブシャフト1は、アウトボード側(車幅方向外側、図1の左側)に設けられた固定式等速自在継手2と、インボード側(車幅方向中央側、図1の右側)に設けられた摺動式等速自在継手3と、両等速自在継手2、3を連結する中間シャフト4とを備える。中間シャフト4が、本発明の一実施形態に係る動力伝達シャフトに相当する。
【0023】
固定式等速自在継手2は、ツェッパ型と称されるものであり、外側継手部材21と、内側継手部材22と、トルク伝達部材としての複数のボール23と、保持器24とを有する。外側継手部材21の内球面に形成された複数のトラック溝21aと、内側継手部材22の外球面に形成された複数のトラック溝22aとで複数のボールトラックが形成され、各ボールトラックにボール23が一個ずつ配される。外側継手部材21と内側継手部材22との間で、角度変位を許容しながら、ボール23を介してトルクが等速で伝達される。外側継手部材21のステム部21bは、図示しない車輪用軸受を介して車輪と連結される。尚、固定式等速自在継手2は上記に限らず、例えば、トラック溝21a、22aの一部を直線状としたアンダーカットフリー型や、対向するトラック溝21a、22aを、外周側から見て互いに交差するように傾斜させたクロスグルーブ型であってもよい。
【0024】
摺動式等速自在継手3は、トリポード型と称されるものであり、外側継手部材31と、内側継手部材(トリポード部材)32と、トルク伝達部材としての複数のローラ33とを有する。内側継手部材32に設けられた3本の脚軸32aの外周に、ローラ33が針状ころを介して配される。外側継手部材31の内周面に形成された複数のトラック溝31aに、ローラ33が配される。外側継手部材31と内側継手部材32との間で、角度変位及び軸方向変位を許容しながら、ローラ33を介してトルクが等速で伝達される。外側継手部材31のステム部31bは、図示しないデファレンシャルギアに連結される。尚、摺動式等速自在継手3は上記に限らず、例えば、トルク伝達部材としてボールを用いたもの(ダブルオフセット型等)であってもよい。
【0025】
中間シャフト4は、内孔41aを有する中空シャフト41と、中空シャフト41の内孔41aの開口部を閉塞する閉塞部材42とを有する。図示例では、中空シャフト41の内孔41aが、中空シャフト41を軸方向に貫通して軸方向両側に開口し、それぞれの開口部に閉塞部材42が装着されている。中空シャフト41は、軸方向中間部に設けられた大径部41bと、その軸方向両側に設けられた小径部41cとを有する。中空シャフト41の外周面の軸方向両端付近には、雄スプライン41dと、環状の止め輪溝41eが形成される(図2参照)。中空シャフト41のうち、軸方向両端の止め輪溝41eの軸方向間領域には、後述する熱処理工程による硬化層(図2の散点領域)が形成されている。
【0026】
中空シャフト41の両端は、それぞれ両等速自在継手2、3の内側継手部材22、32の内周に挿入される(図1参照)。中空シャフト41の両端の雄スプライン41dと内側継手部材22、32の内周に形成された雌スプラインとを嵌合させることにより、これらがトルク伝達可能に連結される。中空シャフト41の止め輪溝41eに装着された止め輪を、内側継手部材22、32と軸方向で係合させることで、中空シャフト41に対する内側継手部材22、32の軸方向の抜け止めが行われる。
【0027】
図3に、中空シャフト41のアウトボード側の端部付近の軸方向断面図を示す。中空シャフト41の内孔41aには、軸方向端部に設けられた面取り部41fと、面取り部41fから反軸端側(図3の右側)に離間して設けられた円筒面41gと、面取り部41fと円筒面41gとの間に設けられた逃げ面41hとが形成される。面取り部41fは、軸端側(図3の左側)に行くにつれて拡径した傾斜面であり、図示例では、軸方向に対して角度α(例えば45°)で傾斜したテーパ面で構成される。尚、図3では、中空シャフト41のアウトボード側(図1、2の左側)の端部を拡大して示しているが、中空シャフト41のインボード側(図1、2の右側)の端部にも、上記と同様に面取り部41f、円筒面41g、及び逃げ面41hが形成される。
【0028】
逃げ面41hは、円筒面41gよりも外径側に後退している。詳しくは、面取り部41fの反軸端側の端部における直径Ditが、円筒面41gの内径Diよりも僅かに大きくなっており、逃げ面41hがこれらを繋いでいる。図示例では、逃げ面41hが、軸端側に行くにつれて徐々に拡径した面であり、具体的には、軸端側に行くにつれて拡径したテーパ面状に形成される。逃げ面41hの軸方向に対する傾斜角度θは、面取り部41fの軸方向に対する傾斜角度αよりも小さく、具体的には1°~5°とされ、例えば3°とされる。
【0029】
閉塞部材42は、筒部42aと、筒部42aの軸方向一方の端部を閉塞する底部42bとを一体に有するカップ状を成している。図示例では、筒部42aが円筒状に形成される。閉塞部材42は、金属、例えば鋼材で形成される。閉塞部材42の筒部42aの外周面は、中空シャフト41の円筒面41gに圧入されている。閉塞部材42は、軸方向内側に底部42bが配され、軸方向外側に向けて開口する向きで、中間シャフト41に取り付けられる。
【0030】
以下、中間シャフト4の製造方法を、中空シャフト41の加工方法を中心に詳しく説明する。
【0031】
中空シャフト41は、絞り工程、旋削工程、転造工程、熱処理工程を経て製造される。
【0032】
絞り工程では、パイプ状の素材に絞り加工を施して、大径部及びその軸方向両側に設けられた小径部41c’を有する中空シャフト素材41’{図4(A)参照}を形成する。絞り工程が施された中空シャフト素材41’の小径部41c’の内周面には、円筒面41gが形成されている。尚、円筒面41gの軸方向両端付近を除く中間領域(後述する旋削工程が施されない軸方向領域)は、その後の工程で加工されないため、絞り加工により形成された面の状態で完成品の中間シャフト41に残る。
【0033】
旋削工程は、中空シャフト素材41’の内周面の端部付近を旋削する内周旋削工程と、中空シャフト素材41’の外周面の所定部位を旋削する外周旋削工程とを有する。
【0034】
内周旋削工程では、中空シャフト素材41’に対して相対回転する切削刃により、中空シャフト素材41’の内周面の軸方向両端付近に面取り部41f及び逃げ面41hを形成する{図4(B)参照}。
【0035】
その後の外周旋削工程では、まず、図4(C)に示すように、中空シャフト素材41の内孔に軸方向両側から円すい形状のセンター治具50を挿入し、センター治具50のテーパ面状外周面を、内周旋削工程で形成された中空シャフト素材の面取り部41fに押し付けることにより、中空シャフト素材の芯出しを行う。この状態で、中空シャフト素材を回転させながら、中空シャフト素材の外周面の所定部位に切削刃を押し当てることにより、雄スプライン41dの下径(転造下径)となる円筒面41d’、止め輪溝41e、外周面の軸方向端部の面取り部41kが形成される。
【0036】
転造工程では、まず、上記の外周旋削工程と同様に、中空シャフト素材41’の内孔に軸方向両側から円すい形状のセンター治具を挿入して、中空シャフト素材41’の芯出しを行う。この状態で、中空シャフト素材41’の外周面の軸方向両端付近に転造加工を施すことにより、雄スプライン41dが形成される{図4(D)参照}。
【0037】
上記の外周旋削工程や転造工程において、センター治具50を中空シャフト素材の面取り部41fに押し付けることにより、面取り部41fの軸方向内側に隣接する領域に、内径側に盛り上がった盛り上がり部が形成されることがある(図10参照)。このような盛り上がり部が円筒面41gに形成されると、後述する閉塞部材42の圧入行程が阻害される恐れがある。本実施形態では、面取り部41fと円筒面41gとの間に、円筒面41gよりも外径側に後退した逃げ面41hを設けることで、盛り上がり部が逃げ面41hに形成されるようにした。これにより、盛り上がり部が円筒面41gから内径側に突出しないようにすることができ、あるいは、突出したとしてもその突出量を低減することができるため、後述する閉塞部材42の圧入行程が盛り上がり部により阻害される事態を防止できる。
【0038】
上記の盛り上がり部の逃げ面41hに対する半径方向の突出量は、中空シャフト41の材質やセンター治具50の押し付け力等により異なるが、通常、最大でも50μm程度である。この観点から、面取り部41fと逃げ面41hとの境界における直径Ditと円筒面41gの内径Diは、Dit>Di+0.1mmを満たすようにしておけば、盛り上がり部が円筒面41gよりも内径側に突出する事態を回避できる。
【0039】
熱処理工程では、中空シャフト素材の外周面の所定領域に焼き入れ焼き戻し処理が施される。本実施形態では、図2に示すように、中空シャフト素材の外周面のうち、止め輪溝41eよりも軸方向内側の領域に熱処理が施される。図示例では、熱処理による硬化層が中空シャフト41の内周面まで達している。これに限らず、熱処理による硬化層が中空シャフト41の内周面まで達しないようにして、内周面を非熱処理面(生材からなる面)としてもよい。
【0040】
以上の工程を経て製造された中空シャフト41に、閉塞部材42を圧入する。具体的に、中空シャフト41に組み付ける前の状態では、閉塞部材42の筒部42aの外径が、中空シャフト41の円筒面41gの内径Diよりも僅かに大きく設定されている。この閉塞部材42を弾性変形させながら中空シャフト41の内周に押し込んで、円筒面41gの内周に配することにより、閉塞部材42の筒部42aの外周面と中空シャフト41の円筒面41gとが締め代をもって嵌合する。
【0041】
このとき、上述の外周旋削工程で発生した盛り上がり部が、円筒面41gよりも外径側に後退した逃げ面41hに形成されているため、閉塞部材42の円筒面41gへの圧入が盛り上がり部により阻害される事態を防止できる。
【0042】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0043】
図5に示す第2実施形態では、逃げ面41hが、面取り部41fと円筒面41gとを直線的につなぐテーパ面(図3参照)よりも外径側に膨出した凹曲面状に形成される。図示例では、逃げ面41hが、曲率半径Rの断面円弧状の凹曲面で構成される。逃げ面41hは、軸方向外側に行くにつれて徐々に大径になっている。図示例では、断面円弧状の逃げ面41hの曲率中心が、面取り部41fと逃げ面41hとの境界と同じ軸方向位置に配される。尚、断面円弧状の逃げ面41hの曲率中心を、面取り部41fと逃げ面41hとの境界よりも軸方向外側(図5の左側)に設けてもよい。また、逃げ面41hの軸方向断面を、楕円形状等の非円弧形状の曲線としてもよい。
【0044】
逃げ面41hの形状は上記に限らず、例えば、逃げ面41hを、円筒面41gと平行で、且つ、円筒面41gよりも大径な大径円筒面で構成してもよい(図示省略)。この場合、円筒面41gと逃げ面41h(大径円筒面)との間に、これらを繋ぐ段差部(例えば、軸方向と直交する平坦面)が形成される。
【0045】
図6に示す第3実施形態では、中空シャフト41の内周面に、円筒面41gの軸方向内側に設けられた小径円筒面41iと、円筒面41gと小径円筒面41iとの繋ぐ段差部41jとが設けられる。小径円筒面41iの内径Disは、円筒面41gの内径Diよりも小さい。図示例では、段差部41jが、軸方向と直交する平坦面で構成される。閉塞部材42を段差部41jに軸方向外側から当接させることにより、閉塞部材42を中空シャフト41に対して軸方向で位置決めすることができる。
【0046】
以上の実施形態では、閉塞部材42の軸端側(軸方向外側)の端部が、円筒面41gと逃げ面41hとの境界に配された場合を示しているが、これに限らず、例えば、閉塞部材42を、円筒面41gと逃げ面41hとの境界よりも反軸端側(軸方向内側)に押し込んでもよい。反対に、閉塞部材42の軸端側の端部を、円筒面41gと逃げ面41hとの境界よりも軸端側に配してもよい。これにより、円筒面41gの有効嵌合面(閉塞部材42と嵌合する領域)の軸方向寸法を短くすることができるため、嵌合代の規定範囲を少なくすることが可能となり、例えば管理工数の簡素化を図ることができる。この場合、閉塞部材42と円筒面41gとの嵌合部の面積を最低限確保するために、閉塞部材42の軸端側の端部を、逃げ面41hの軸方向領域内に配することが好ましい。
【0047】
以上の実施形態では、本発明に係る動力伝達シャフトをドライブシャフトに適用した場合を示したが、これに限られない。例えば、プロペラシャフトや、等速自在継手のロングステム部に、本発明の動力伝達シャフトを適用することができる。
【0048】
図7に示す第4実施形態は、本発明の動力伝達シャフトを、等速自在継手の外側継手部材60のロングステム部62に適用した場合を示す。外側継手部材60は、カップ状のマウス部61と、マウス部61に接合されたロングステム部62とを有する。マウス部61の内周には、内側継手部材と、外側継手部材60及び内側継手部材と係合してトルクを伝達するトルク伝達部材とが収容される。このようなロングステム部62を有する外側継手部材は、通常、ドライブシャフトのインボード側に設けられる摺動式等速自在継手に適用され、例えば、図1に示す摺動式等速自在継手3の外側継手部材31の代わりに使用することができる。
【0049】
ロングステム部62は、軸方向両端に開口した内孔63aを有する中空シャフトとしての中空ステム軸63と、中空ステム軸63の反マウス部側(図中右側)の開口部に装着された閉塞部材64とを有する。中空ステム軸63の外周面の反マウス部側の端部付近には、デファレンシャルギアに装着される雄スプライン63bが形成される。マウス部61には、底部から軸方向に延びる短軸部61aが一体に設けられる。この短軸部61aの反マウス部側の端部と中空ステム軸63のマウス部61側の端部とが、摩擦圧接等の適宜の方法で接合される。マウス部61の短軸部61aの外周面に、図示しないサポートベアリングが装着される。このサポートベアリングを介して、外側継手部材60が、回転自在な状態で車体に支持される。
【0050】
図8に示すように、中空ステム軸63の内周面の反マウス部側(図中右側)の端部には、面取り部63c、円筒面63d、及び逃げ面63eが形成される。これらの面取り部63c、円筒面63d、及び逃げ面63eは、図3に示す実施形態の面取り部41f、円筒面41g、及び逃げ面41hと同様の構成を有する。閉塞部材64は、図3の実施形態の閉塞部材42と同様の構成を有し、閉塞部材64の外周面が中空ステム軸63の円筒面63dに圧入される。尚、図8で散点を付した領域は、熱処理工程で硬化した領域を示す。
【0051】
中空ステム軸63は、上記の実施形態の中空シャフト41と同様に、絞り工程、旋削工程、転造工程、熱処理工程を経て製造される。この実施形態でも、外周旋削工程や転造工程で中空ステム軸63の端部の面取り部63c付近に発生する盛り上がり部が、円筒面63dよりも外径側に後退した逃げ面63eに形成されるため、この盛り上がり部が中空ステム軸63の円筒面63dへの閉塞部材64の圧入に影響を及ぼす事態を防止できる。
【0052】
また、閉塞部材42は上記に限らず、例えば、軸方向中間部を膨出させた樽型の外周面を有する閉塞部材や、ゴム等の弾性に富んだ部材で形成した閉塞部材を用いてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 ドライブシャフト
2 固定式等速自在継手
3 摺動式等速自在継手
4 中間シャフト(動力伝達シャフト)
41 中空シャフト
41a 内孔
41d 雄スプライン
41e 止め輪溝
41f 面取り部
41g 円筒面
41h 逃げ面
41i 小径円筒面
41j 段差部
42 閉塞部材
50 センター治具
60 外側継手部材
61 マウス部
62 ロングステム部(動力伝達シャフト)
63 中空ステム軸(中空シャフト)
63a 内孔
63b 雄スプライン
63c 面取り部
63d 円筒面
63e 逃げ面
64 閉塞部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10