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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009354
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】培地および培地の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/18 20180101AFI20240112BHJP
   A01G 24/30 20180101ALI20240112BHJP
   A01G 24/44 20180101ALI20240112BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20240112BHJP
【FI】
A01G24/18
A01G24/30
A01G24/44
A01G31/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023203387
(22)【出願日】2023-11-30
(62)【分割の表示】P 2020017497の分割
【原出願日】2020-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000201582
【氏名又は名称】前澤化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】花房 秀和
(57)【要約】
【課題】Zn以外の微量必須元素を供給できるとともに、防藻効果を有する培地および培地の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る培地1は、第1の微量必須元素含有化合物を含有する第1培地11と、第2の微量必須元素含有化合物を含有する第2培地12と、で構成され、前記第1培地11は、第1の微量必須元素含有化合物としてク溶性の化合物を含有し、前記第2培地12は、前記第2の微量必須元素含有化合物として酸化亜鉛を含有し、前記培地1は種子を保持する保持部4を有し、前記第1培地11および前記第2培地12は、寒天、樹脂発泡体、ゲル、繊維またはロックウールのいずれかの基材で構成され、植物の成長に合わせて前記培地1の構成または厚みを調整することを可能とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の微量必須元素含有化合物を含有する第1培地と、
第2の微量必須元素含有化合物を含有する第2培地と、
で構成される培地であり、
前記第1培地は、前記第1の微量必須元素含有化合物としてク溶性の化合物を含有し、
前記第2培地は、前記第2の微量必須元素含有化合物として酸化亜鉛を含有し、
前記培地は種子を保持する保持部を有し、
前記第1培地および前記第2培地は、寒天、樹脂発泡体、ゲル、繊維またはロックウールのいずれかの基材で構成され、
植物の成長に合わせて前記培地の構成または厚みを調整することを可能とする培地。
【請求項2】
前記第1の微量必須元素含有化合物および前記第2の微量必須元素含有化合物に含まれる微量必須元素が同じ微量必須元素である請求項1に記載の培地。
【請求項3】
ブランクの光量を基準として算出される透過率が53%以下である請求項1または請求項2に記載の培地。
【請求項4】
一辺の長さが10~80mm/辺である請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の培地。
【請求項5】
前記第1培地および前記第2培地を積層した培地で、ブランクの光量を基準として算出される透過率が低い培地を上方に積層した請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載の培地。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載の培地を製造する培地の製造方法であり、
前記第1の微量必須元素含有化合物を培地に混合する第1混合工程と、
前記第1混合工程で混合した培地を所定の形状に成形して第1培地を製造する第1成形工程と、
前記第2の微量必須元素含有化合物を培地に混合する第2混合工程と、
前記第2混合工程で混合した培地を所定の形状に成形して第2培地を製造する第2成形工程と、
を含み、さらにこの後、
前記第1成形工程で成形した第1培地と前記第2成形工程で成形した第2培地とを2層以上積層して培地を製造する積層工程、
または、
前記第1成形工程で成形した第1培地と前記第2成形工程で成形した第2培地とをそれぞれ破砕して混合する破砕混合工程、および、前記破砕混合工程で破砕して混合した培地を所定の形状に再成形して培地を製造する再成形工程
を含む培地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培時において植物に微量必須元素を供給するための培地および培地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、気候変動や災害の影響を受けることなく、周年で植物を生産できるシステムとして、植物工場による栽培が注目されている。植物工場では管理性やメンテナンス性、生産数量を稼ぐ目的で、水耕栽培による栽培方式が一般的に採用されている。
【0003】
植物工場で栽培される植物の成長促進を目的として、植物の光合成に有効な波長を放出する光源を使用する方法や、栽培養液(以下、「養液」という)に配合する元素、つまり、多量必須元素及び微量必須元素の種類と量を工夫する方法が知られている。ここでいう「多量必須元素」とは、N、P、Kなどの植物が比較的多量に必要とする元素をいう。「微量必須元素」とは、植物にとって必要量は少ないものの、生育に不可欠な元素をいう。植物における微量必須元素としては、例えば、Fe、Mn、B、Zn、Mo、Cu、Clなどが挙げられる。
【0004】
微量必須元素は、植物における必要量は極めて少ないものの、重要な役割を担っている。土耕栽培では土壌中に既に微量必須元素を含有していることが多いため、欠乏症を生じることは少ない。しかしながら、前記したように、水耕栽培では生産者が養液に配合するなど、何らかの手段により供給する必要がある。微量必須元素は、極少量で植物に作用する反面、過剰症も生じ易く、生産者が微量必須元素単独を施用して養液を管理することは極めて困難である。
【0005】
微量必須元素は植物だけでなく、藻類の成長も促す。そのため、植物の水耕栽培時に不要生物である藻類が増殖して水耕栽培用マットなどの培地が汚染される。藻類の増殖は細菌の生菌数の増加、作業性の悪化、美観の低下などを引き起こす。また、藻類が増殖すると、本来植物が吸収すべき養液の成分(養分)を藻類が吸収し、植物の成長を妨げたり、病害の原因となったりする。
【0006】
これに対し、例えば、特許文献1には、平均粒子径が0.02μm以上0.7μm以下の酸化亜鉛を、4.5mg/欠片以上15.0mg/欠片以下含有する発泡樹脂体であることを特徴とする水耕栽培用マットが提案されている。
【0007】
特許文献1に記載の水耕栽培用マットは、植物に微量必須元素であるZnを供給でき、植物の成長を促進できる。また、特許文献1に記載の水耕栽培用マットは、酸化亜鉛の平均粒子径を所定の範囲としているので、藻類のクロロフィルが吸収する光の波長に対してミー散乱およびレイリー散乱のうちの少なくとも一方の散乱を生じ、光を減衰できる。そのため、特許文献1に記載の水耕栽培用マットは、藻類などの不要生物の防除効果(防藻効果)を得ることができる。ここで、防藻効果とは、藻類の発生、生育、増殖を阻止又は藻類を死滅させる効果をいう。これらの効果を奏する特許文献1に記載の水耕栽培用マットは、植物の成長が良好であり、藻類が発生・成長しないので、水耕栽培を行う生産者から好評を博している。
【0008】
また、特許文献1に記載の水耕栽培用マットはZnが徐々に溶出するので、Znが欠乏したり過剰になったりし難い。植物におけるZn元素の欠乏症は葉の小型化や変形として表れ、過剰症は新葉が黄色くなることが知られている。特許文献1に記載の水耕栽培用マットはこれらの症状を予防できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5947993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記したように、微量必須元素にはZn以外にも例えばFeやCuなど多数ある。植物におけるFe元素の欠乏症は葉の黄色化や白色化として表れ、過剰症はリン酸の吸収が悪くなることが知られている。また、植物におけるCu元素の欠乏症は葉の湾曲化や黄色化として表れ、過剰症は根の生育が悪くなることが知られている。
【0011】
そのため、生産者からは、防藻効果を有しつつ、植物にZn以外の微量必須元素を供給できる技術の開発が望まれていた。
【0012】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものであり、Zn以外の微量必須元素を供給できるとともに、防藻効果を有する培地および培地の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
鋭意研究開発した結果、本発明者は、以下の構成とすることにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明に係る培地は、第1の微量必須元素含有化合物を含有する第1培地と、第2の微量必須元素含有化合物を含有する第2培地と、で構成される培地であり、前記第1培地は、前記第1の微量必須元素含有化合物としてク溶性の化合物を含有し、前記第2培地は、前記第2の微量必須元素含有化合物として酸化亜鉛を含有し、前記培地は種子を保持する保持部を有し、前記第1培地および前記第2培地は、寒天、樹脂発泡体、ゲル、繊維またはロックウールのいずれかの基材で構成され、植物の成長に合わせて前記培地の構成または厚みを調整することを可能とする。
【0014】
また、本発明に係る培地の製造方法は、前記した培地を製造する培地の製造方法であり、前記第1の微量必須元素含有化合物を培地に混合する第1混合工程と、前記第1混合工程で混合した培地を所定の形状に成形して第1培地を製造する第1成形工程と、前記第2の微量必須元素含有化合物を培地に混合する第2混合工程と、前記第2混合工程で混合した培地を所定の形状に成形して第2培地を製造する第2成形工程と、を含み、さらにこの後、前記第1成形工程で成形した第1培地と前記第2成形工程で成形した第2培地とを2層以上積層して培地を製造する積層工程、または、前記第1成形工程で成形した第1培地と前記第2成形工程で成形した第2培地とをそれぞれ破砕して混合する破砕混合工程、および、前記破砕混合工程で破砕して混合した培地を所定の形状に再成形して培地を製造する再成形工程を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る培地および培地の製造方法は、Zn以外の微量必須元素を供給できるとともに、防藻効果を有する。
前述した以外の課題、構成および効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態に係る培地を示す斜視図である。
図2】透過率の測定に関する模式図である。
図3】他の実施形態に係る培地を示す斜視図である。
図4】さらなる他の実施形態に係る培地を示す斜視図である。
図5】さらなる他の実施形態に係る培地を示す斜視図である。
図6】一実施形態に係る培地の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
図7】他の実施形態に係る培地の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
図8】さらなる他の実施形態に係る培地の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面を参照して本発明に係る培地および培地の製造方法の一実施形態について詳細に説明する。
[培地]
図1は、一実施形態に係る培地1を示す斜視図である。培地1は、植物の水耕栽培に用いられる。培地1は、植物の水耕栽培時において植物に微量必須元素を供給する。培地1は、溶解の度合いが酸化亜鉛よりも低いという条件および培地1に含ませた状態における透過率が酸化亜鉛よりも低いという条件のうち少なくとも一方の条件を満たす第1の微量必須元素含有化合物2を含んでいる。つまり、第1の微量必須元素含有化合物2は、これらの条件のうちのいずれか一方を満たしていればよく、両方を同時に満たしていてもよい。第1の微量必須元素含有化合物2は、これらの条件のうちのいずれか一方を満たしていれば、後述するように、Zn以外の微量必須元素を供給でき、また、防藻効果が得られる。
【0018】
〔溶解の度合い〕
本明細書における溶解の度合い(イオン化する量またはイオン化する速度)とは、一定温度で一定時間経過した際に、一定量の溶媒に溶解する(イオン化する)溶質の量(すなわち、第1の微量必須元素含有化合物2の量または速度)をいう。つまり、溶液に対する溶質の溶解の度合いをいう。
第1の微量必須元素含有化合物2は、溶解の度合いが酸化亜鉛よりも低いという条件を満たす場合、溶解の度合いが酸化亜鉛よりも低いので、例えば、所定時間において溶液中に溶解する溶質の速度は遅く、培地1中に第1の微量必須元素含有化合物2を多く含有させた場合であっても植物に過剰症が生じ難い。そのため、培地1は、溶解の度合いが低いものであればあるだけより多くの第1の微量必須元素含有化合物2を含有させてもよい。この場合、培地1は、より多く含有させた第1の微量必須元素含有化合物2によって光の透過率を低くできる。従って、培地1は高い防藻効果を得つつ、植物に微量必須元素を供給できる。
【0019】
溶解の度合いは、所定の溶液を用いて酸化亜鉛または第1の微量必須元素含有化合物2を所定温度で所定時間攪拌した後に所定の測定法でイオン濃度を測定することが好ましい。溶解の度合いの測定方法の具体例として、次が挙げられる。
【0020】
〔溶解の度合いの測定方法〕
(1)100gのイオン交換水(水温25℃)や100gの2w/w%クエン酸水溶液(pH約2、水温25℃)を用意する。
(2)用意したイオン交換水または2w/w%クエン酸水溶液に測定対象となる微量必須元素含有化合物を0.1w/w%加えて一定時間攪拌する。
(3)攪拌後、一定時間静置し、任意の時間(例えば、投入直後(0時間)、1時間、3時間、22時間など)で、各イオン濃度を測定する。
【0021】
なお、イオン濃度の測定法は、測定対象の元素によって異なる。イオン濃度の測定法の一例を以下に示す。下記に示す各イオン濃度の測定は付属の取扱説明書に従って行うとよい。
【0022】
〔イオン濃度の測定法〕
(a)全鉄イオン:還元とO-フェナントロリン比色法(例えば、パックテスト(登録商標)WAK-Fe、株式会社共立理化学研究所)(測定最大値10mg/L)
(b)全銅イオン:バソクプロイン比色法(例えば、パックテスト(登録商標)WAK-Cu、株式会社共立理化学研究所)(測定最大値10mg/L)
(c)全マンガンイオン:過よう素酸カリウム比色法(例えば、パックテスト(登録商標)WAK-Mn、株式会社共立理化学研究所)(測定最大値20mg/L)
(d)全亜鉛イオン:PAN比色法(例えば、パックテスト(登録商標)WAK-Zn、株式会社共立理化学研究所)(測定最大値5mg/L)
(e)誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置による分析
なお、ICP発光分光分析装置で分析する場合は、前記(3)において、分析装置に供する前に溶液をJIS P 3801〔ろ紙(化学分析用)〕に規定される5種Cに相当するろ紙でろ過し、得られたろ液を測定することが好ましい。
【0023】
〔透過率〕
本明細書における透過率とは、光学および分光法において、特定の波長の入射光が試料を通過する割合をいう。透過率をTとした場合、透過率はT=I/Iで求めることができる。なお、Iは入射光の放射発散度、Iは試料を通過した光の放射発散度である。試料の透過率は百分率で示すことができ、本明細書では透過率を百分率で示している。
第1の微量必須元素含有化合物2は、培地1に含ませた状態における透過率が酸化亜鉛よりも低いという条件を満たす場合、培地1は、光を透過し難くなるので防藻効果が得られる。また、培地1は、植物にZn以外の微量必須元素を供給できる。
【0024】
透過率は、酸化亜鉛と第1の微量必須元素含有化合物2とをそれぞれ培地1の基材3に添加したものと、ブランク測定用にこれらを添加しないものとを用い、所定の条件で測定することが好ましい。例えば、これらをそれぞれ所定濃度で添加した寒天培地を作製し、作製した寒天培地に対して所定の条件で光を照射してその光の透過量を測定し、ブランクを基準にそれらの透過率を算出することが挙げられる。透過率の測定条件の具体例として、次が挙げられる。なお、図2は、透過率の測定に関する模式図である。
【0025】
〔透過率測定用試料の作製〕
(1)イオン交換水に寒天1w/w%を添加し、加熱しながら溶解する。寒天は、ブランク測定用のものと、酸化亜鉛測定用のものと、第1の微量必須元素含有化合物2測定用のものとで同一であればどのようなものを用いてもよい。寒天は、実施例では林純薬工業社製のものを使用することができた。
(2)寒天が溶解した後、酸化亜鉛または第1の微量必須元素含有化合物2を同一濃度で添加し、水冷しながら攪拌する。なお、ブランク測定用の寒天には酸化亜鉛および第1の微量必須元素含有化合物2は添加しない。
(3)寒天がある程度の粘性となったら型(成形サイズ:例えば、50mm×100mm×t5mm)に流し込む。
(4)一定時間静置後、寒天(透過率測定用試料)を型から取り出す。
【0026】
〔透過率の測定〕
(5)次いで、図2に示すように、三波長型蛍光灯21の下に光量計22を設置する。光量計22は、前記した透過率測定用試料23を同一の条件で測定できるものであれば任意のものを使用でき、特定のものに限定されない。光量計22は、実施例ではMQ-200(Apogee Instruments社)が使用できた。
(6)図2に示すように、天面に30mmの穴24の開いた容器25で光量計22を覆い、光量計22が穴24の直下にくるように設置する。
(7)図2に示すように、容器25の穴24を塞ぐようにして透過率測定用試料23を被せ、その際の光量を測定して透過率を算出する。
【0027】
〔第1の微量必須元素含有化合物2を構成する微量必須元素〕
第1の微量必須元素含有化合物2を構成する微量必須元素としては、例えば、Fe、Mn、B、Mo、Cu、Clが挙げられる。そして、第1の微量必須元素含有化合物2は、これらの中から選択される少なくとも一種、好ましくはいずれか一種の微量必須元素を含有し、溶解の度合いが酸化亜鉛よりも低い、および/または、透過率が酸化亜鉛よりも低い化合物であれば、どのようなものも用いることができる。このようにすると、培地1はより高い防藻効果を得つつ、より確実に植物にZn以外の微量必須元素を供給できる。
【0028】
第1の微量必須元素含有化合物2としては、例えば、前記した微量必須元素を含有する酸化物、炭酸塩、リン酸物および水酸化物の群から選択される少なくとも一種を用いることができる。このようにすると、第1の微量必須元素含有化合物2の溶解の度合いや透過率をより確実に低くできるので、培地1は高い防藻効果をより確実に得ることができる。第1の微量必須元素含有化合物2は、例えば、水酸化鉄、酸化鉄、りん酸鉄、酸化銅、酸化マンガン、炭酸マンガンなどを用いることができる。なお、第1の微量必須元素含有化合物2は、実施例では水酸化鉄(III)、酸化鉄(III)、りん酸鉄(III)n水和物、酸化銅(II)、酸化マンガン(IV)、炭酸マンガン(II)n水和物などを用いることができた。第1の微量必須元素含有化合物2は、溶解の度合いや透過率が酸化亜鉛よりも低い微量必須元素含有化合物であればこれらに限定されず、任意のものを用いることができる。
【0029】
前記したようにして測定される透過率は、ブランク測定用の寒天(透過率測定用試料)を基準とし、各サンプルで得られた光量の比率として算出できる。培地1は、このようにして算出された透過率が53%未満、49%未満または43%未満であることが好ましく、33%以下、31%以下、26%以下または20%以下であることがより好ましい。これらの中で透過率が低いほど光が減衰するので、培地1は透過率が低いほど高い防藻効果が得られる。
【0030】
培地1に含まれる第1の微量必須元素含有化合物2は、瞬時に水に溶解する易溶性でないことが好ましい。具体的には、第1の微量必須元素含有化合物2は、水に徐々に溶解するもの(徐溶性)または難溶性のものであることが好ましい。このようにすると、微量必須元素の供給速度が緩やかであるので、植物に過剰症が生じ難い。
【0031】
また、第1の微量必須元素含有化合物2はク溶性であることが好ましい。第1の微量必須元素含有化合物2がク溶性であると、クエン酸等の有機酸を含む水溶液に徐々に溶解する(なお、後述する実施例においては2w/w%のクエン酸水溶液を用いてク溶性を測定・評価している)。ここでいう有機酸とは、カルボン酸等の有機化合物の酸の総称である。植物の根は有機酸を分泌しており、植物の根から分泌される有機酸は根酸と呼ばれている。土耕栽培等では微量必須元素に限らず、ク溶性の化合物を緩効性肥料として活用している。しかし、一般的な水耕栽培では、植物の根は循環している養液中に浸漬しており、根から分泌した根酸を植物自らの根圏に留めておくことができない。そのため、ク溶性の化合物を溶解することができず、ク溶性の化合物を吸収することが困難である。ここでいう根圏とは、植物の根から影響を受ける領域のことである。
【0032】
これに対し、本実施形態では培地1が第1の微量必須元素含有化合物2を含んでいるので、植物は微量必須元素を長期に渡って効率よく植物に溶解・吸収させることができる。そのため、第1の微量必須元素含有化合物2を含んでいる培地1を用いると、養液のみを用いて栽培した場合と比較して、植物に対して高い成長促進効果が得られる。これは、培地1は保水力があり、栽培ラインを流動している養液と比較すると、培地1内の水流(いわゆる、浸透や拡散の速度)は極めて緩やかであることによって得られるものである。すなわち、植物の育成とともに培地1に張り巡らされた根から有機酸が分泌されるが、培地1内の水流が極めて緩やかであるので有機酸は流亡し難いものとなっている。そのため、培地1は担持する第1の微量必須元素含有化合物2を植物に溶解・吸収させることができ、前記したように、植物に対して高い成長促進効果が得られると考えられる。
これらのことから、培地1は、通常の水耕栽培では使用することのできない微量必須元素を第1の微量必須元素含有化合物2として好適に含有したものであるといえる。
以上に述べた第1の微量必須元素含有化合物2の溶解性や溶解の度合いおよび植物への吸収に関する事項は、後述する第2の微量必須元素含有化合物5(図3図4参照)についても同様である。
【0033】
培地1における第1の微量必須元素含有化合物2の含有率は、その数値が高いほど透過率が低くなり、高い防藻効果が得られる。また、用いる第1の微量必須元素含有化合物2の種類にもよるが、このような含有率とすることによって前記で例示した透過率とし得る。
【0034】
培地1を製造するために添加する第1の微量必須元素含有化合物2の平均粒径は75μm以下や45μm以下であれば化合物の種類に関わらず問題なく使用できる。当該平均粒径は75μmを超えていてもよい。第1の微量必須元素含有化合物2の平均粒径は、実施例ではその種類に関わらず75μmのものおよび45μmのものが使用できた。平均粒径は、例えば、マイクロトラック・ベル社製粒度分布測定装置MT3300EXII(測定原理:レーザ回折・散乱法)で測定できる。
【0035】
培地1を構成する基材3は、例えば、前記した寒天の他にもウレタンなどの樹脂で形成された樹脂発泡体や、ゲル、繊維、ロックウールなどが使用可能であるが、これらに限定されない。
【0036】
培地1は、植物の水耕栽培に用いられ易くする観点、効率よく製造する観点、取り扱いし易くする観点などから、例えば、図1に示すように、角柱状とすることが好ましい。角柱状の培地1の大きさは、特に限定されるものではないが、一辺の長さを10~80mm/辺とするのが好ましく、20~40mm/辺とするのがより好ましい。このような大きさに培地1を形成すると播種し易い。また、植物を好適に支持できる。さらに、栽培株数を確保できる。
【0037】
図1に示すように、培地1は、水耕栽培を行う植物の種子を保持する保持部4が形成されていることが好ましい。保持部4は、例えば、平面視でI字状または十字状(クロス状)の切り込みを入れたり、半球状または矩形状に凹ませたりすることによって形成できる。なお、図1には、平面視でI字状の保持部4を形成した様子を示している。
【0038】
以上に説明したように、培地1は、前記した第1の微量必須元素含有化合物2を含んでいるため、培地1に入射してくる光を減衰できる。これにより、培地1は防藻効果を奏する。また、培地1は、第1の微量必須元素含有化合物2を含んでいるため、植物に微量必須元素を供給できる。
【0039】
[培地の他の実施形態]
以下に、培地1の他の実施形態について説明する。なお、以下の説明において既に説明した要素については重複する説明を省略する。
培地1は、前記した第1の微量必須元素含有化合物2に加えて、第1の微量必須元素含有化合物2以外の第2の微量必須元素含有化合物5(図1において図示せず)を含んでいることが好ましい。第2の微量必須元素含有化合物5は、第1の微量必須元素含有化合物2以外の微量必須元素を含有する化合物である。従って、第2の微量必須元素含有化合物5は、第1の微量必須元素含有化合物2として用いた化合物以外のものを任意に用いることができる。例えば、第1の微量必須元素含有化合物2として前記例示した化合物の中からいずれか一種を用いた場合、第2の微量必須元素含有化合物5はそれ以外の化合物を用いることができる。また、第2の微量必須元素含有化合物5として、酸化亜鉛を用いることもできる。従ってこのような態様とすると、培地1は、第1の微量必須元素含有化合物2に含有されている微量必須元素に加えて、第2の微量必須元素含有化合物5に含有されている微量必須元素を植物に供給できる。
【0040】
本実施形態においては、第1の微量必須元素含有化合物2および第2の微量必須元素含有化合物5に含まれる微量必須元素は互いに異なる微量必須元素であってもよい。例えば、第1の微量必須元素含有化合物2として酸化鉄(III)を用いた場合、第2の微量必須元素含有化合物5として酸化銅(II)、酸化マンガン(IV)、酸化亜鉛などを用いることができる。このようにすると、培地1は植物に複数の種類の微量必須元素を同時に供給できる。
【0041】
また、第1の微量必須元素含有化合物2および第2の微量必須元素含有化合物5に含まれる微量必須元素は同じ微量必須元素であってもよい。例えば、第1の微量必須元素含有化合物2として酸化鉄(III)を用いた場合、第2の微量必須元素含有化合物5として水酸化鉄(III)、りん酸鉄(III)n水和物などを用いることができる。この場合、各化合物は溶解の度合いが異なることが多い。そのため、培地1は同じ微量必須元素を適宜のタイミングで植物に供給したり、より長期間供給したりできる。
【0042】
本実施形態では、第1の微量必須元素含有化合物2以外の微量必須元素を含有する化合物は全て第2の微量必須元素含有化合物5に該当する。つまり、第1の微量必須元素含有化合物2とともに培地1に含有させる第2の微量必須元素含有化合物5は一種に限定されず、複数種とすることもできる。このようにすると、培地1は必要に応じて第1の微量必須元素含有化合物2と第2の微量必須元素含有化合物5とに由来する二種以上の微量必須元素を植物に供給できる。また、このようにすると、培地1は、同一のまたは異なる微量必須元素を適宜のタイミングで植物に供給したり、より長期間供給したりできる。
【0043】
以下に培地1の他の実施形態(培地10、20、30)について説明する。
図3は、他の実施形態に係る培地10を示す斜視図である。
図3に示すように、培地10は、第1の微量必須元素含有化合物2を含む第1培地11と、第2の微量必須元素含有化合物5を含む第2培地12とを積層したものである。このようにすると、第1の微量必須元素含有化合物2と第2の微量必須元素含有化合物5とを含む培地10を容易に得ることができる。
【0044】
この場合、第1培地11および第2培地12のうちいずれか透過率の低い方を上層に配置することが好ましい。このようにすると、培地10および植物の上方に設置される光源からの光をより減衰させることができるので、より高くかつ確実な防藻効果を得つつ、微量必須元素を植物に供給できる。
【0045】
図4は、さらなる他の実施形態に係る培地20を示す斜視図である。
図4に示すように、培地20は、第1の微量必須元素含有化合物2を含む第1培地11と第2の微量必須元素含有化合物5を含む第2培地12とで3層構造としたものである。一例として、図4に示すように、培地20は、第1培地11を2層有し、その間に第2培地12を配している。このようにすると、双子葉植物のような主根を有し、根が下方に向かって成長していくケースを例にとると、植物の成長に合わせて培地20の層構成(および厚み)を調整しておくことにより、植物の成長段階やその大きさに合わせた成分の供給が可能になる。従って、培地20は植物の種類・用途に合わせ、溶出濃度や溶出成分を可変にでき、植物の成長に合わせた養分の供給も可能にできる。なお、本実施形態においては、第2培地12を2層有し、その間に第1培地11を配するようにしてもよい。さらに、本実施形態においては、第2培地12を2層以上有する場合、第2培地12の各層にそれぞれ異なる種類の第2の微量必須元素含有化合物5を含ませてもよい。これらの態様はユーザの要望等に応じて任意に変更できる。
【0046】
図5も、さらなる他の実施形態に係る培地30を示す斜視図である。
図5に示すように、培地30は、第1の微量必須元素含有化合物2を含む第1培地11と、第2の微量必須元素含有化合物5を含む第2培地12とをそれぞれ破砕または粉砕された状態で含んだものである。ここで、本明細書において、「破砕」とは、元の物体を砕いて細かくし、直径が概ね5~25mmの小片物(破砕片)にすることをいう。また、本明細書において、「粉砕」とは、元の物体を砕いて細かくし、直径が概ね5mm以下の小片物(粉砕片)にすることをいう。以下、破砕および粉砕を総称して単に「破砕」と記載する。このようにすると、培地30は、これらに由来する微量必須元素を偏りなく植物に供給しつつ、防藻効果を得ることができる。
【0047】
[培地の製造方法]
以下、本発明に係る培地1の製造方法の一実施形態について説明する。
図6は、一実施形態に係る培地1の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
本製造方法は、水耕栽培時において植物に微量必須元素を供給する前記培地1を製造するための方法である。
図6に示すように、本製造方法は、混合工程S1と、成形工程S2とを含んでいる。
【0048】
混合工程S1は、溶解の度合いが酸化亜鉛よりも低いという条件および培地1に含ませた状態における透過率が酸化亜鉛よりも低いという条件のうち少なくとも一方の条件を満たす第1の微量必須元素含有化合物2を培地(基材3)に混合する工程である。混合工程S1は、任意の攪拌手段を備えた混合装置を用いることで行える。
成形工程S2は、混合工程S1で混合した培地を所定の形状に成形する工程である。成形工程S2は、例えば、所定の形状の成形型を用いて成形しつつ固化等させたり、固化等した後に適宜の形状に裁断したりすることで行える。成形工程S2を行うことにより培地1を製造できる。
混合工程S1および成形工程S2は、培地1の基材3に応じて適宜の手法で行うことができる。
【0049】
また、本製造方法では、混合工程S1において、第1の微量必須元素含有化合物2以外の第2の微量必須元素含有化合物5を混合することができる。このようにすると、第1の微量必須元素含有化合物2と第2の微量必須元素含有化合物5とを含む培地1が得られる。
【0050】
図7は、他の実施形態に係る培地1の製造方法の内容を説明するフローチャートである。図7に示すように、本製造方法は、第1混合工程S1aと、第1成形工程S2aと、第2混合工程S1bと、第2成形工程S2bと、積層工程S3とを含んでいる。
【0051】
なお、第1混合工程S1aは、前記した混合工程S1と同様であり、第1成形工程S2aは、前記した成形工程S2と同様である。第1混合工程S1aおよび第1成形工程S2aを行って製造された培地1は第1培地11に相当する。
【0052】
第2混合工程S1bは、第2の微量必須元素含有化合物5を培地(基材3)に混合する工程である。第2混合工程S1bは、混合工程S1(第1混合工程S1a)と同様にして行うことができる。
第2成形工程S2bは、第2混合工程S1bで混合した培地を所定の形状に成形する工程である。第2成形工程S2bは、成形工程S2(第1成形工程S2a)と同様にして行うことができる。
第2混合工程S1bおよび第2成形工程S2bを行って製造された培地1は第2培地12に相当する。
【0053】
積層工程S3は、第1成形工程S2aで成形した第1培地11と第2成形工程S2bで成形した第2培地12とを2層以上積層して培地1(培地10、培地20)を製造する工程である。
【0054】
図8は、さらなる他の実施形態に係る培地1の製造方法の内容を説明するフローチャートである。図8に示すように、本製造方法は、第1混合工程S1cと、第1成形工程S2cと、第2混合工程S1dと、第2成形工程S2dと、破砕混合工程S4と、再成形工程S5とを含んでいる。
なお、第1混合工程S1cは、前記した第1混合工程S1aと同様であり、第1成形工程S2cは、前記した第1成形工程S2aと同様である。
また、第2混合工程S1dは、前記した第2混合工程S1bと同様であり、第2成形工程S2dは、前記した第2成形工程S2bと同様である。
【0055】
破砕混合工程S4は、第1成形工程S2cで成形した第1培地11と第2成形工程S2dで成形した第2培地12とをそれぞれ破砕して混合する工程である。破砕混合工程S4は、例えば、作製した培地1(第1培地11、第2培地12)を破砕する破砕装置と、破砕してできた第1培地11の破砕片や粉砕片および第2培地12の破砕片や粉砕片を混合する混合装置と、を用いて行うことができる。また、破砕混合工程S4は、例えば、作製した培地1(第1培地11、第2培地12)を破砕しつつ混合できる破砕混合装置を用いて行ってもよい。
【0056】
再成形工程S5は、破砕混合工程S4で破砕して混合した培地1(第1培地11、第2培地12)を所定の形状に再成形して培地1(培地30)を製造する工程である。再成形工程S5は、破砕片や粉砕片となっている培地1の基材3に応じて適宜の手法で行う。例えば、培地1の基材3が寒天である場合は、別に用意した寒天を溶かした溶液を添加して混和し、冷却して所定の形状に成形しつつ固めたり、また、単に加熱および冷却を行って所定の形状に成形しつつ固めたりすることが挙げられる。また、例えば、培地1の基材3が樹脂発泡体の場合は、植物の成長に影響のない植物性糊(例えば、でんぷん糊)などを用いて所定の形状に成形しつつ固めることが挙げられる。
【実施例0057】
次に、培地および培地の製造方法について、実施例により具体的に説明する。
[溶解の度合いの確認]
はじめに、表1に示す微量必須元素含有化合物を使用して、溶解の度合いの確認を行った。溶解の度合いの確認は次のようにして行った。
【0058】
【表1】
【0059】
〔溶解の度合いの測定方法〕
(1)100gのイオン交換水(水温25℃)および100gの2w/w%クエン酸水溶液(pH約2、水温25℃)を用意した。
(2)用意したイオン交換水または2w/w%クエン酸水溶液に、測定対象となる微量必須元素含有化合物を0.1w/w%加えて一定時間攪拌した。
(3)攪拌後、一定時間静置し、任意の時間(例えば、0時間、1時間、3時間、22時間)で、各イオン濃度を測定した。
【0060】
なお、イオン濃度の測定法は、測定対象の元素によって異なる。イオン濃度の測定法は以下のとおりである。各イオン濃度の測定は付属の取扱説明書の記載に従って行った。表2はその結果を示している。なお、表2中の「-」は未測定であることを示している。
【0061】
〔イオン濃度の測定法〕
(a)全鉄イオン:還元とO-フェナントロリン比色法(パックテスト(登録商標)WAK-Fe、株式会社共立理化学研究所)(測定最大値10mg/L)
(b)全銅イオン:バソクプロイン比色法(パックテスト(登録商標)WAK-Cu、株式会社共立理化学研究所)(測定最大値10mg/L)
(c)全マンガンイオン:過よう素酸カリウム比色法(パックテスト(登録商標)WAK-Mn、株式会社共立理化学研究所)(測定最大値20mg/L)
(d)全亜鉛イオン:PAN比色法(パックテスト(登録商標)WAK-Zn、株式会社共立理化学研究所)(測定最大値5mg/L)
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示すように、前記測定法で測定されたイオン交換水または2w/w%クエン酸水溶液に対する微量必須元素含有化合物の溶解の度合いは、表1および表2に示した微量必須元素含有化合物のうち炭酸マンガン(II)n水和物を除いて全て酸化亜鉛よりも低いことが確認された。このことから、炭酸マンガン(II)n水和物以外の微量必須元素含有化合物は溶解の度合いが低いので、当該成分を培地中に多く含有させた場合であっても、その溶出量・溶出速度が遅く、植物に微量必須元素による過剰症が生じ難いと推測された。よって、培地は、多く含有させたそれらの微量必須元素含有化合物によって光の透過率をより低くできる。従って、それらを含む培地は高い防藻効果を得つつ、植物に微量必須元素を供給できると推察された。
【0064】
また、表2に示すように、前記測定法で測定された炭酸マンガン(II)n水和物は酸化亜鉛とともに溶解の度合いが高い(溶解速度が速い)ことが確認された。その一方で、この化合物については溶解速度が速いため、前記測定法(比色法)では十分に測定・検討できていない可能性が考えられた。
また、酸化亜鉛については0時間静置の段階で測定可能な範囲(測定最大値)を超えてしまった。そのため、酸化亜鉛については0時間静置を含め詳しい分析を行うことができなかった。
そこで、炭酸マンガン(II)n水和物および酸化亜鉛について、ICP発光分光分析装置(Varian 720-ES)により再度測定・検討を行った。ICP発光分光分析装置による測定は次のようにして行った。
【0065】
〔ICP発光分光分析装置による測定〕
(1)100gの2w/w%クエン酸水溶液(水温25℃)を用意した。
(2)炭酸マンガン(II)n水和物および酸化亜鉛の濃度が正確に0.10w/w%となるクエン酸水溶液を調製した。具体的には、メスフラスコに炭酸マンガン(II)n水和物および酸化亜鉛をそれぞれ正確に0.100g秤取り、全体重量が100gになるまでクエン酸水溶液を加えた。
(3)攪拌後静置し、投入直後(0時間)、1時間後、24時間後に再度攪拌し、溶液をJIS P 3801〔ろ紙(化学分析用)〕に規定される5種Cに相当するろ紙でろ過し、ろ液をICP発光分光分析装置で測定した。
その結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
以上の結果から、炭酸マンガン(II)n水和物の溶解速度は他の微量必須元素含有化合物と比較して速いため、炭酸マンガン(II)n水和物を培地に含ませる場合には、この点に留意するのがよいと推察された。
【0068】
[透過率の確認]
次に、前記した表1に示す微量必須元素含有化合物を使用して、透過率の確認を行った。透過率の確認は次のようにして行った。
【0069】
〔透過率測定用試料の作製〕
(1)イオン交換水に寒天1w/w%を添加し、加熱しながら溶解した。寒天は、ブランク測定用と、酸化亜鉛測定用と、微量必須元素含有化合物測定用とで同一のものを用いた。寒天は、林純薬工業社製のものを用いた。
(2)寒天が溶解した後、各サンプル用の微量必須元素含有化合物を同一濃度で添加し、水冷しながら攪拌した。なお、ブランク測定用の寒天には微量必須元素含有化合物は添加しなかった。
(3)寒天がある程度の粘性となった後に型(成形サイズ:50mm×100mm×t5mm)に流し込んだ。
(4)一定時間静置後、寒天(透過率測定用試料)を型から取り出した。
【0070】
〔透過率の測定〕
(5)次いで、図2に示すように、三波長型蛍光灯21の下に光量計22を設置した。光量計22は、MQ-200(Apogee Instruments社)を使用した。
(6)次いで、図2に示すように、天面に30mmの穴24の開いた容器25で光量計22を覆い、光量計22が穴24の直下にくるように設置した。
(7)そして、図2に示すように、容器25の穴24を塞ぐようにして透過率測定用試料23を被せ、その際の光量を測定して透過率を算出した。透過率はブランクの光量を基準とし、各サンプルで得られた光量の比率として算出した。
表4はその結果を示している。なお、表4中の「-」は透過率の算出対象でないことや色のコメント対象でないことを示している。
【0071】
【表4】
【0072】
表4に示すように、Fe(OH)(水酸化鉄(III))、FeO(酸化鉄(III))、FePO(りん酸鉄(III)n水和物)、CuO(酸化銅(II))、MnO(酸化マンガン(IV))、MnCO(炭酸マンガン(II)n水和物)はいずれも、1.0w/w%~2.0w/w%の含有率において、ZnO(酸化亜鉛)よりも透過率が低いことが確認された。従って、水酸化鉄(III)、酸化鉄(III)、りん酸鉄(III)n水和物、酸化銅(II)、酸化マンガン(IV)、炭酸マンガン(II)n水和物はいずれも培地に含ませることによって光を減衰させることが可能であり、防藻効果を発揮できると推測された。また、これらの微量必須元素含有化合物は、Zn以外の微量必須元素を供給できる。
【0073】
以上、本発明に係る培地および培地の製造方法について実施形態および実施例により詳細に説明したが、本発明の主旨はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に基づいて広く解釈されなければならない。
【符号の説明】
【0074】
1、10、20、30 培地
2 第1の微量必須元素含有化合物
3 基材
4 保持部
5 第2の微量必須元素含有化合物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8