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特開2024-93555亜鉛を含有する金属異物の混入時期推定方法
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  • 特開-亜鉛を含有する金属異物の混入時期推定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093555
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】亜鉛を含有する金属異物の混入時期推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/02 20060101AFI20240702BHJP
   G01N 23/2273 20180101ALI20240702BHJP
   G01N 23/2258 20180101ALI20240702BHJP
   G01N 23/2276 20180101ALI20240702BHJP
   G01N 23/18 20180101ALI20240702BHJP
   G01N 23/20091 20180101ALI20240702BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240702BHJP
【FI】
G01N33/02
G01N23/2273
G01N23/2258
G01N23/2276
G01N23/18
G01N23/20091
G01N27/62 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210016
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】510115247
【氏名又は名称】株式会社ハウス食品分析テクノサービス
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 壮一
【テーマコード(参考)】
2G001
2G041
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA03
2G001AA05
2G001BA04
2G001BA07
2G001BA08
2G001BA09
2G001CA01
2G001CA03
2G001CA05
2G001DA09
2G001KA01
2G001KA05
2G001LA01
2G001NA13
2G041CA01
2G041DA16
2G041EA01
2G041FA16
2G041GA06
2G041LA08
(57)【要約】
【課題】本発明は、飲食品中に混入していた亜鉛を含有する金属異物の混入時期を推定することを可能とする新たな手法を提供することを目的とする。
【解決手段】飲食品中に混入していた亜鉛を含有する金属異物の、該飲食品の製造過程における加熱履歴の有無を判定する方法であって、該金属異物の亜鉛元素量を測定しその値を、該加熱履歴を有するもしくは有さない亜鉛を含有する対照金属の同様に測定された亜鉛元素量に基づいて設定された基準値と比較して、該金属異物が該加熱履歴を有するもしくは有さないと判定する工程を含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲食品中に混入していた亜鉛を含有する金属異物の、該飲食品の製造過程における加熱履歴の有無を判定する方法であって、
該金属異物の亜鉛元素量を測定しその値を、該加熱履歴を有するもしくは有さない亜鉛を含有する対照金属の同様に測定された亜鉛元素量に基づいて設定された基準値と比較して、該金属異物が該加熱履歴を有するもしくは有さないと判定する工程を含む、方法。
【請求項2】
さらに、前記金属の鉄元素量を測定することを含み、前記亜鉛元素量の値が、該金属の亜鉛元素量と鉄元素量の比(Zn/Fe値)で表される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属の元素量を、エネルギー分散型X線分析法(EDX)、X線光電子分光法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)、二次イオン質量分析法(SIMS)又は飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記亜鉛を含有する金属異物が、亜鉛又は亜鉛合金でメッキされた鉄又は合金鉄である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記亜鉛を含有する金属異物が、ホチキスの針又はその一部である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記飲食品の製造過程における加熱履歴が、110℃以上の加熱処理を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記金属異物がホチキスの針又はその一部であり、
該金属異物の亜鉛元素量(存在量(wt%))をEDXを用いて測定し、その値が10wt%以下である場合に、該金属異物が前記加熱履歴を有すると判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
飲食品中に混入していた亜鉛を含有する金属異物の混入時期を推定する方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法により、該飲食品の製造過程における加熱履歴の有無を判定する工程、ならびに、
該金属が該加熱履歴を有する場合、該金属の混入時期が該飲食品の製造過程であると推定する工程、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品中に混入していた亜鉛を含有する金属異物の混入時期を、当該金属異物の亜鉛元素量に基づいて推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品は、体内に取り入れられるものであり、当然、その安全性が確保されていなければならない。そのため、飲食品製造の品質管理において、異物混入の原因となり得る事項は、徹底的に排除しなければならない。
【0003】
飲食品製造の品質管理を徹底するにあたっては、異物混入の実態を正確に把握することが必要であり、そのためには、まず、飲食品に混入していた異物が、飲食品の製造過程において混入したものであるのか、あるいは飲食品の製造過程後(例えば、製品の保管中や製品の開封後等)に混入したものであるのか、その異物混入時期についての検証を行うことが重要とされる。
【0004】
そのため毛髪やプラスチック等の異物の混入時期を推定するための様々な方法が開発・報告されている(非特許文献1,2)。
【0005】
一方で、金属は一般的に加熱等による腐食に強く、変化が起こりにくいとされ、金属異物の混入時期を推定することは、他の物質と比べて困難なものとなっている。
【0006】
特許文献1には、アルミニウム等の金属片が食品等に混入していた場合、当該金属片の熱蛍光量を測定することによって、その混入時期を推定できることが記載されている。
【0007】
特許文献2には、飲食品中に混入していた鉄を含有する金属異物の表面における鉄元素量を測定することによって、当該金属異物が飲食品と共に加熱処理や保存処理等の処理に付された否かを判定することが可能であり、これに基づいて飲食品への当該金属異物の混入時期を推定できることが記載されている。
【0008】
しかしながら、金属異物は様々であり、アルミニウムや鉄以外の金属が異物として混入し得る可能性もあることから、当該分野においては依然として、金属異物の混入時期を推定することを可能とする新たな手法が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-127442号公報
【特許文献2】特開2022-164465号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】佐藤元著、「混入毛髪鑑別法」株式会社サイエンスフォーラム発行、2000年
【非特許文献2】コンバーテック、2002年11月号、(株)加工技術研究会出版、「CPPフィルムのDSC分析でレトルト熱処理の履歴がわかるスメクチック型からα晶への相転位を利用」(味の素(株)生産技術開発センター)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、飲食品中に混入していた亜鉛を含有する金属異物の混入時期を推定することを可能とする新たな手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討した結果、飲食品中に混入していた亜鉛を含有する金属異物の亜鉛元素量が、当該金属異物が飲食品の製造過程における加熱処理に付されている場合には顕著に低下していることを見出した。そして、金属異物における亜鉛元素量を測定することによって当該金属異物が、前記製造過程における加熱処理に付されたか否か(すなわち、前記加熱の履歴を有するか否か)を判定することが可能であり、これに基づいて飲食品への当該金属異物の混入時期を推定できることを見出した。
【0013】
本発明は、これらの新規知見に基づくものであり、以下の発明を包含する。
[1] 飲食品中に混入していた亜鉛を含有する金属異物の、該飲食品の製造過程における加熱履歴の有無を判定する方法であって、
該金属異物の亜鉛元素量を測定しその値を、該加熱履歴を有するもしくは有さない亜鉛を含有する対照金属の同様に測定された亜鉛元素量に基づいて設定された基準値と比較して、該金属異物が該加熱履歴を有するもしくは有さないと判定する工程を含む、方法。
[2] さらに、前記金属の鉄元素量を測定することを含み、前記亜鉛元素量の値が、該金属の亜鉛元素量と鉄元素量の比(Zn/Fe値)で表される、[1]の方法。
[3] 前記金属の元素量を、エネルギー分散型X線分析法(EDX)、X線光電子分光法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)、二次イオン質量分析法(SIMS)又は飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて測定する、[1]又は[2]の方法。
[4] 前記亜鉛を含有する金属異物が、亜鉛又は亜鉛合金でメッキされた鉄又は合金鉄である、[1]~[3]のいずれかの方法。
[5] 前記亜鉛を含有する金属異物が、ホチキスの針又はその一部である、[1]~[4]のいずれかの方法。
[6] 前記飲食品の製造過程における加熱履歴が、110℃以上の加熱処理を含む、[1]~[5]のいずれかの方法。
[7] 前記金属異物がホチキスの針又はその一部であり、
該金属異物の亜鉛元素量(存在量(wt%))を、EDXを用いて測定し、その値が10wt%以下である場合に、該金属異物が前記加熱履歴を有すると判定する、[1]~[6]のいずれかの方法。
[8] 飲食品中に混入していた亜鉛を含有する金属異物の混入時期を推定する方法であって、
[1]~[7]のいずれかの方法により、該飲食品の製造過程における加熱履歴の有無を判定する工程、ならびに、
該金属が該加熱履歴を有する場合、該金属の混入時期が該飲食品の製造過程であると推定する工程、
を含む方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、飲食品中に混入していた亜鉛を含有する金属異物が、当該飲食品の製造過程における加熱履歴を有するか否かを判定することができ、当該金属異物の飲食品への混入時期を推定することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、亜鉛を含有する金属としてホチキスの針を、トマトソースに混入させて、未加熱あるいは、85℃にて30分間、120℃にて30分間の加熱処理に付した後に取り出して、その亜鉛元素の存在量(wt%)、及び鉄元素の存在量(wt%)を、エネルギー分散型X線分析法(EDX)でそれぞれ測定した結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、飲食品中に混入していた亜鉛を含有する金属異物の、当該飲食品の製造過程における加熱履歴の有無を判定する方法に関する。
【0017】
本発明において「飲食品」とは、冷凍、チルド、常温等で流通可能な各種加工飲食品を意味する。加工飲食品としては例えば、カレー、シチュー、スープ、ソース等のレトルト製品、カレー、シチュー等のルウ製品、冷凍飲食品、練りわさび、練りからし、マスタード等の各種スパイス製品、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料製品、デザート製品を調製するためのデザートベース、チョコレート、クッキー等の菓子製品、お茶、コーヒー、果実飲料、炭酸飲料、ビタミン飲料、清涼飲料水等の飲料製品等を挙げることができるが、これらに限定はされない。
【0018】
本発明において「亜鉛を含有する金属」とは、少なくともその表面に亜鉛が含まれる金属を意味し、例えば、亜鉛、亜鉛合金、またはそれらでメッキを施したもの等が挙げられる。好ましくは、「亜鉛を含有する金属」は、亜鉛又は亜鉛合金でメッキされた鉄又は合金鉄(例えば、ステンレス、鋼等)であり、より好ましくは、亜鉛でメッキされた鉄又は合金鉄(例えば、ステンレス、鋼等)である。「亜鉛を含有する金属」としてより具体的には、ホチキスの針、ボルト、ナット、ヒンジ、ブラケット等、又はその一部が挙げられるが、特に好ましくは、ホチキスの針又はその一部である。ホチキスの針は一般的に、亜鉛メッキされた鉄線又は合金鉄線より構成される。
【0019】
本発明において、異物として混入していた前記金属が「飲食品の製造過程における加熱履歴」を有するもしくは有さないと判定するとは、異物として混入していた前記金属が、飲食品と共に製造過程における加熱処理に付されたものであるか否かを判定することを意味する。本発明においては、当該判定を可能とすることにより、当該金属異物が当該飲食品中に混入した時期、例えば、飲食品の製造過程で混入したものであるか、または飲食品の製造過程の後(例えば、製品の保管中や製品の開封後等)に混入したものであるのかを推定することができる。本発明において、当該判定は、混入していた前記金属における亜鉛元素量を分析・測定することにより行うことができる。
【0020】
本発明において、亜鉛元素量の測定は、従来公知の物質の元素分析手法を用いて行うことができる。このような元素分析手法としては例えば、エネルギー分散型X線分析法や、X線光電子分光法、オージェ電子分光法、二次イオン質量分析法、飛行時間型二次イオン質量分析法等の質量分析手法が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0021】
エネルギー分散型X線分析法(Energy Dispersive X-ray Spectrometer:EDX又はEDS)は、試料にX線を照射することにより、試料を構成する元素固有のエネルギー(波長)を有する蛍光X線(特性X線)を発生させ、この蛍光X線のエネルギーを測定することで、試料を構成する元素の組成を同定することができる。また、蛍光X線の強度を測定することで、試料の元素の含有量を定量することができる。
【0022】
X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)は、超高真空下で試料表面にX線を照射し、光電効果により、試料表面から放出される光電子の運動エネルギーを計測することで、試料表面を構成する元素の組成及び化学結合状態を分析することができる。また、ピーク面積比を用いることで元素の定量を行うことができる。さらにイオンエッチング(例えば、Ar+イオンエッチングやC60+イオンエッチング)の併用により、深さ方向の分析を行うことができる。
【0023】
オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)は、試料に電子線を照射し、試料表面から放出されるオージェ電子のエネルギースペクトルを解析することで、試料表面を構成する元素の組成を同定することができる(オージェ電子は元素ごとに固有のエネルギーを有するため)。また、ピーク強度比を用いることにより元素の定量を行うことができる。さらにイオンエッチング(例えば、Ar+イオンエッチング)の併用により、深さ方向の分析を行うことができる。
【0024】
二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)は、真空中にてセシウムや酸素等の化学的に活性なイオン(一次イオン)の連続ビームを試料表面に照射することにより、当該表面付近の原子を撹拌し、中性粒子、二次イオン、二次電子を飛び出させ(いわゆる、スパッタリング)、このうち二次イオンを分析(分離)・検出に付すことにより分子量を判定・測定することができる。一次イオンの連続ビームを使用するスパッタリングにより、深さ方向分析を行うことを可能とする(本手法は、「ダイナミックSIMS」とも称される)。一方、真空中にてガリウム、金、ビスマス等のイオン(一次イオン)を試料表面にパルス照射することにより、試料の極表面からフラグメントイオンや分子イオン(二次イオン)を飛び出させ、これを分析(分離)・検出に付してもよい。(本手法は、「スタティックSIMS」とも称される)。本発明における試料断面の分析には、試料最表面の分析を可能とするスタティックSIMSを好適に用いることができる。
【0025】
飛行時間型二次イオン質量分析法(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:TOF-SIMS)は、飛行時間型質量分析法(Time of Flight Mass Spectrometry:TOF-MS)と、二次イオン質量分析法(SIMS)とを組み合わせた質量分析法である。TOF-SIMSにおいて、SIMSは上記スタティックSIMSを用いることができる。スタティックSIMSにより、一次イオンのパルス照射により、試料の極表面から飛び出したフラグメントイオンや分子イオン(二次イオン)を、高電圧の電極間で加速させ、高真空無電場領域の管(いわゆる、フライトチューブ)内をイオン検出器に向かって等速度飛行させる。この際、分子量の低いものほどイオン検出器まで早く到達し、分子量の高いものほど、遅くイオン検出器まで到達する。このイオン検出器までの到達時間を測定することによりその分子の分子量を判定・測定することができる。
【0026】
なお、上記質量分析手法において、分析・測定対象となる試料の「表面」とは、飲食品や金属の種類によって異なり得るが、金属の表層面(深さ0nm)から深さ70nm以内、例えば、60nm以内、50nm以内、40nm以内、30nm以内、又は20nm以内であり、好ましくは10nm以内、より好ましくは5nm以内(例えば4nm以内)、さらに好ましくは3nm以内、2nm以内、又は1nm以内である。
【0027】
上記のエネルギー分散型X線分析法や質量分析手法は、走査電子顕微鏡法(Scanning Electron Microscopy:SEM)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法、レーザー脱離イオン化法、スパッタリング(二次イオン放出)法、高速原子衝突法、エレクトロスプレーイオン化法、脱離イオンエレクトロスプレーイオン化法、走査型プローブエレクトロスプレーイオン化法、大気圧化学イオン化法、大気圧直接イオン化法、誘導結合プラズマ法、電子イオン化法、化学イオン化法、電界離脱法等のその他の分析法や試料のイオン化手法と適宜組み合わせて用いることができる。
【0028】
本発明においては、飲食品中に混入した亜鉛を含有する金属(以下、「金属異物」と記載する場合がある)の亜鉛元素量を測定し、その値を、当該飲食品の製造過程における加熱履歴と同じ加熱履歴を有するか、もしくは当該加熱履歴を有さないことが分かっている、亜鉛を含有する対照金属(以下、「対照金属」と記載する場合がある)の同様に測定された亜鉛元素量に基づいて設定された基準値と比較することにより、当該金属異物が飲食品の製造過程における加熱履歴を有するか、もしくは有さないと判定することができる。
【0029】
本発明において「亜鉛を含有する対照金属」又は「対照金属」とは、飲食品中に混入した金属異物と同等、好ましくは同じ種類の金属、あるいは、飲食品中に混入した金属異物の一部であり、これを金属異物が混入していた飲食品に対応する飲食品に添加して、当該飲食品の製造過程における加熱処理と同じ処理に付すことにより調製したもの、あるいは当該加熱処理に付していないものであり、当該加熱履歴を有するもしくは有さないことが明らかであるものを用いることができる。ここで「対応する飲食品」とは、金属異物が混入していた飲食品と同等又は同質であることを意味し、当該金属異物が実際に混入していた飲食品であってもよいし、あるいは当該金属異物が実際に混入していた飲食品と同じ飲食品であってもよい。
【0030】
対照金属の調製において、所定の金属が付される「当該飲食品の製造過程における加熱処理と同じ処理」とは、金属異物が混入していた飲食品がその製造過程において付される一又は複数の加熱処理を指し、このような処理としては、100℃を超える温度にて、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上であり、上限は特に限定されないが、例えば、140℃以下の温度にて、4分~60分、好ましくは4分~30分の条件にて加熱処理することが含まれる。このような加熱処理としては、加熱調理処理や殺菌処理等が含まれ、特に、レトルト殺菌(加圧加熱殺菌)処理が挙げられる。レトルト殺菌は、パウチや容器に入れた飲食品を密封後、一般的に中心部の温度を120℃で4分間加熱する又はこれと同等以上の効力を有する方法で処理することにより行われる。例えば、加熱履歴を有する「対照金属」は、金属異物が混入していた飲食品に対応する飲食品に、所定の金属を添加した後、添加された当該飲食品と共にレトルト殺菌処理に付すことにより調製することができる。
【0031】
所定の加熱履歴を有するもしくは有さないとするいずれの態様においても、対照金属は、金属異物と同じ条件で、前記金属の元素量を分析・測定する方法に付され、得られた亜鉛元素量の測定値に基づいて、所定の加熱履歴を有するもしくは有さないことを分けるカットオフ値として用いられる「基準値」を設定する。対照金属の元素量の分析・測定はその都度行い、基準値を設定してもよいし、あるいは、予め対照金属の元素量の分析・測定のみを行い、得られた値に基づいて「基準値」を予め設定して取得しておいてもよい。一旦、「基準値」が設定された後は、対照金属の分析・測定を繰り返し行う必要はなく、金属異物より得られた元素量の測定値を、予め設けられた当該「基準値」として比較し、上記判定に利用してもよい。
【0032】
金属異物の亜鉛元素量の測定された値と、基準値とを比較した結果、両者が同等の値を示している場合には、当該金属異物は対照金属と同じく、(対照金属が有する加熱履歴の有無に応じて)製造過程における上記加熱処理に飲食品と共に付された加熱履歴を有するか、あるいは当該加熱処理に付された履歴を有さないことを示す。ここで当該値について「同等」とは、両者の差異が2倍以内、好ましくは1.5倍以内、より好ましくは1.3倍以内を意味する。一般的に、飲食品に混入していた金属異物が、製造過程における上記加熱処理に飲食品と共に付されていた場合には、当該処理に付されていない場合と比べて、金属の亜鉛元素量(より詳細には、金属における亜鉛元素の割合)の低下が認められる。
【0033】
あるいは、金属異物の亜鉛元素量の測定された値と、基準値とを比較した結果、両者が異なる場合、より詳細には、金属異物の亜鉛元素量が基準値と比べて高いもしくは低い場合には、当該金属異物は、対照金属と異なり、(対照金属が有する加熱履歴の有無に応じて)製造過程における上記加熱処理に飲食品と共に付された加熱履歴を有するか、あるいは当該加熱処理に付された履歴を有さないことを示す。ここで当該値について「異なる」又は「高い」もしくは「低い」とは、両者の差異が2倍を超える、好ましくは4倍以上、より好ましくは6倍以上、さらに好ましくは8倍上を意味する。一般的に、飲食品に混入していた金属異物が、製造過程における上記加熱処理に飲食品と共に付されていない場合には、当該処理に付された場合と比べて、金属の亜鉛元素量(より詳細には、金属における亜鉛元素の割合)の低下は認められない。
【0034】
本発明においては、金属異物の亜鉛元素量に加えて、さらに当該金属異物に含まれる鉄元素量を利用して、金属異物の上記加熱履歴の有無を判定することができる。金属異物の鉄元素量の分析・測定は、亜鉛元素量の分析・測定と同じ手法で行うことができ、得られた各値に基づいて亜鉛元素量と鉄元素量の比(以下、「Zn/Fe値」と記載する)を算出する。その結果を、対照金属より同じ条件で分析・測定して算出されたZn/Fe値に基づいて設定された「基準値」と比較することにより、当該金属異物の上記加熱履歴の有無を判定することができる。
【0035】
一般的に、飲食品に混入していた金属異物が、製造過程における上記加熱処理に飲食品と共に付されていた場合には、当該処理に付されていない場合と比べて、金属の鉄元素量(より詳細には、金属における鉄元素の割合)の増加が認められる。一方、上記加熱処理による金属異物の亜鉛元素量における変動は上記のとおりであることから、Zn/Fe値を利用することによって、飲食品に混入していた金属異物が、製造過程における上記加熱処理に飲食品と共に付されたものであるか否かをより明確に確認することができる。
【0036】
すなわち、金属異物のZn/Fe値と、基準値とを比較した結果、両者が同等の値を示している場合には、当該金属異物は対照金属と同じく、(対照金属が有する加熱履歴の有無に応じて)製造過程における上記加熱処理に飲食品と共に付された加熱履歴を有するか、あるいは当該加熱処理に付された履歴を有さないことを示す。ここで当該値について「同等」とは、上記定義のとおりである。一方、金属異物のZn/Fe値と、基準値とを比較した結果、両者が異なる場合、より詳細には、金属異物のZn/Fe値が基準値と比べて高いもしくは低い場合には、当該金属異物は、対照金属と異なり、(対照金属が有する加熱履歴の有無に応じて)製造過程における上記加熱処理に飲食品と共に付された加熱履歴を有するか、あるいは当該加熱処理に付された履歴を有さないことを示す。ここで当該値について「異なる」又は「高い」もしくは「低い」とは、上記定義のとおりである。
【0037】
本発明の一態様において、金属異物がホチキスの針又はその一部である場合、その亜鉛元素量をEDXにより測定し、得られた亜鉛元素量(より詳細には、亜鉛元素の割合(wt%))が、基準値である50(wt%)、好ましくは40(wt%)、より好ましくは30(wt%)、さらに好ましくは20(wt%)、特に好ましくは10(wt%)と比べて低い場合には、当該金属異物は製造過程における上記加熱処理に飲食品と共に付された加熱履歴を有すると判定される。また、当該金属異物についてその亜鉛元素量及び鉄元素量をEDXにより測定し、得られた亜鉛元素量及び鉄元素量(より詳細には、亜鉛元素及び鉄元素量の各割合(wt%))より得られるZn/Fe値が、基準値(Zn/Fe値)である5、好ましくは4、より好ましくは3、さらに好ましくは2、特に好ましくは1と比べて低い場合には、当該金属異物は製造過程における上記加熱処理に飲食品と共に付された加熱履歴を有すると判定される。本態様において、前記基準値は、下記実施例にて詳述されるように、対照金属として前記加熱履歴を有さないことが分かっているホチキスの針、または前記加熱履歴を有することが分かっているホチキスの針を用いて、その亜鉛元素量及び鉄元素量をEDXにより測定された値に基づいて設定されたものである。
【0038】
本発明はまた、飲食品に混入していた金属異物の前記加熱履歴の有無に基づく、当該金属異物の飲食品への混入時期を推定する方法に関する。
【0039】
上記手法により、金属異物が上記加熱履歴を有すると判定される場合には、当該金属異物は飲食品と共に上記加熱処理に付されたことを示唆し、当該金属異物の混入時期が飲食品の製造過程であることが推定される。一方、金属異物が上記加熱履歴を有さないと判定される場合には、当該金属異物は飲食品と共に当該加熱処理に付されていないことを示し、当該金属異物の混入時期が飲食品の製造過程の後(例えば、製品の保管中や製品の開封後等)であると推定することができる。
【0040】
以下、本発明を実施例により、更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0041】
食品に混入していた亜鉛を含有する金属異物の分析
【0042】
(1)試料調整
トマトソースを30mLビーカーに10mL程度入れ、その中にホチキス針の束から単離したホチキス針を沈めた。これを、オートクレーブで120℃、30分間加熱(製品の製造工程におけるレトルト殺菌を想定した加熱処理)、又は鍋で85℃、30分間加熱(製品開封後の家庭等での調理工程を想定した加熱処理)を行った。対照は、同様にトマトソースにホチキス針を30分間沈めたが、加熱処理には付さなかった。
【0043】
次いで、各ホチキス針をトマトソースより取り出して、水で洗浄した後乾燥させて、食品に混入していた亜鉛を含有する金属異物の各試料を得た。
【0044】
(2)金属異物の表面の金属元素量の分析
金属異物の表面の金属元素量の分析は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)と組み合わせた、エネルギー分散型X線分光器(Energy Dispersive X-ray Spectrometer:EDX)を用いて行った。
各測定装置の測定条件は以下のとおりとした。
【0045】
【表1】
【0046】
各試料を、ホチキス針の側面方向(コの字に見える面)が観察できるように、SEMの試料台に伝導性カーボンテープで固定した。ホチキス針長辺の側面について、SEM像が、ホチキス針表面の樹脂コーティングではなく、その内側の金属部分のみとなるように倍率を500~1000倍の範囲で設定し、その視野のまま、EDXにて全視野測定を60秒以上行った。測定は、異なる位置の2測定点で行った。
【0047】
(3)測定結果
EDXを用いて測定された各試料表面の鉄及び亜鉛の各元素の存在量(wt%)を以下の表2及び図1に示す。なお、各測定値は、2測定点の平均値を示す。
【0048】
【表2】
【0049】
製品の製造工程における加熱処理を想定した、比較的高温での処理に付された試料(120℃30分)においては、対照(未加熱)の試料と比べて、亜鉛元素の存在量が顕著に低下するとともに、鉄元素の存在量が顕著に増大し、両者の存在量が逆転することが確認された。
【0050】
一方、家庭等での調理工程における加熱処理を想定した、比較的低温での処理に付された試料(85℃30分)においては、上記のような亜鉛元素及び鉄元素の存在量の変化は認められず、対照(未加熱)におけるそれらの値と同程度であった。
【0051】
以上の結果より、食品中に異物として混入していた亜鉛を含有する金属(例えば、ホチキス針等)における亜鉛の存在量を測定した結果、その値が、対照と比べて顕著に低下していることが確認された場合、あるいは亜鉛元素の存在量が10(wt%)以下である場合(基準値を10(wt%)とする)、その異物は比較的高温での処理に付されたことが示唆され、製品の製造過程における加熱履歴を有すると判定され、製品開封前に混入した可能性が高い、と推定できることが明らかとなった。
【0052】
特に、比較的高温に付された加熱履歴を有する、亜鉛を含有する金属における亜鉛の存在比の減少と鉄の存在比の増大から、当該表面の亜鉛と鉄の存在量の比((Zn/Fe値))が対照におけるそれと比べて顕著に小さくなる場合、あるいは、Zn/Fe値が1以下である場合(基準値を1とする)、その異物は製品開封前に混入した可能性が高い、と推定することができることが明らかとなった。また、EDXを用いた分析によれば広域かつ深い深度の情報を一度で測定することができることから、比較的大きな試料であるホチキスの針のメッキ層からその下の鉄線又は合金鉄線におよぶ数百nm単位の深さ方向における金属元素量の変化を明確に、かつ効率的に判定できることが明らかとなった。
【0053】
以上のとおり、本発明によれば、食品中に異物として混入していた亜鉛を含有する金属の表面における亜鉛元素の存在量、又はさらに鉄元素の存在量を用いて、当該異物の製品製造過程における加熱履歴の有無を判定することができ、当該異物の製品への混入時期を推定することができる。
図1