(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093556
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】口唇の角層メラニン量の推定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20240702BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61B5/00 101A
G01N33/50 Z
A61B5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210017
(22)【出願日】2022-12-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年3月24日 https://www.jske.org/taikai/jske17s (2)令和4年6月10日 「第47回日本香粧品学会(有楽町朝日ホール(東京都千代田区有楽町2-5-1有楽町マリオン12F))」にて公開 (3)令和4年8月27日 「第86回日本皮膚科学会東部支部学術大会(朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター(新潟市中央区万代島6番1号))」にて公開
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日下 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】飛石 恵
(72)【発明者】
【氏名】川端 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】高橋 彩実
(72)【発明者】
【氏名】安森 春子
【テーマコード(参考)】
2G045
4C117
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045CB01
2G045FA16
2G045FA19
2G045FB03
2G045FB11
4C117XB01
4C117XB13
4C117XD08
4C117XE43
4C117XK09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】口唇の角層メラニン量を推定する方法の提供。
【解決手段】被験者の口唇のL
*値を算出し、その算出値から当該口唇の角層メラニン量を推定することを含む、口唇の角層メラニン量の推定方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の口唇のL*値を算出し、その算出値から当該口唇の角層メラニン量を推定することを含む、口唇の角層メラニン量の推定方法。
【請求項2】
口唇が赤唇である請求項1記載の推定方法。
【請求項3】
以下の(1)~(3)の工程を含む、口唇の明るさ改善剤の評価又は選択方法。
(1)口唇又は口唇由来の被験試料に被験物質を適用する工程
(2)当該口唇又は口唇由来の被験試料におけるメラニン量を測定する工程
(3)(2)で測定された結果に基づいて、メラニン量を減少させる被験物質を口唇の明るさ改善剤として評価又は選択する工程
【請求項4】
口唇由来の被験試料が赤唇部上皮組織又は赤唇部上皮組織由来の培養細胞である請求項3記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口唇の角層メラニン量の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口唇(赤唇)は、皮膚と粘膜の中間に位置する特殊な部位であり、その基本構造は顔や体の皮膚とは異なる(非特許文献1)。頬部の皮膚と下唇赤唇部(下赤唇)の組織像(HE染色像)を比べると、表皮厚、角層、真皮乳頭、血管サイズ等に多くの構造的な違いが認められる。また、皮膚表皮の最下層には皮膚メラノサイトが存在し、紫外線に応答してメラニン色素を産生するが、口唇に存在するメラノサイトは極めて少ないか又は存在しないと云われている。特に、乳幼児の上赤唇や成人の口唇粘膜でメラノサイトの存在が確認され(非特許文献2及び3)、また、下赤唇の角層でフォンタナ・マッソン法による黒褐色の染色が検出されている(非特許文献4)ものの、下赤唇や成人赤唇のメラノサイトの存在は報告されていない。そのため、例えば、皮膚においてメラニンはくすみの要因の一つと考えられているが、口唇のくすみはメラニンではなく、乾燥、摩擦及び荒れ等が主な要因として考えられている。
【0003】
口唇は顔の見た目の印象にも影響を与える重要な部位である。例えば、口唇の色が暗いと顔色が悪く不健康に見える要因となりうる。しかし、個人差がある口唇の明るさに関連する事項は明らかにされていない。
これまでに、下赤唇では加齢に伴いL*値は低下し、Melanin index(MI)値は上昇するとの報告がある(非特許文献5)。尚、MIは、皮膚内色素のうち、メラニン量に相関するインデックス値である。しかしながら、組織的学に下赤唇では特徴的に走行する血管が豊富で(非特許文献6)、当該MI値にはヘモグロビン等の要素を含めていることが考えられるため、下赤唇のメラニンを特異的に検出しているとは限らない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】池田敏秀 フレグランスジャーナル 1992, 20(4)14-21
【非特許文献2】Ikkei Takashimizu,and Shunsuke Yuzuriha, J Plast Reconstr & Aesthet Surg. 2018, 71(12): 1816-1834
【非特許文献3】三橋由利子ら, 日本口腔科学会雑誌 1991, 40(49): 766-771
【非特許文献4】永瀬憲一ら, 日本化粧品技術者会誌 1991, 25(1): 21-26
【非特許文献5】Eiko Tamura, et al. Skin Res Technol. 2018, 24(3):472-478
【非特許文献6】釘宮理友ら, 日本化粧品技術者会誌 2010, 44(1):41-47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、口唇の角層メラニン量を推定する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、口唇組織を用いてメラニン及びメラノサイトの局在を解析したところ、下赤唇においてメラニン及びメラノサイトの存在が確認された。また、下赤唇角層中のメラニン量を定量すると、下赤唇の暗いヒトは明るいヒトと比較して、角層中で多くのメラニンが検出され、下赤唇の角層メラニン量は下赤唇のL*値(明るさ)と負に相関することを見出した。これらの知見から、メラニンは下赤唇のL*値(明るさ)の決定因子の一つであり、下赤唇のL*値(明るさ)から口唇の角層メラニン量の推定が可能であることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の1)~2)に係るものである。
1)被験者の口唇のL*値を算出し、その算出値から当該口唇の角層メラニン量を推定することを含む、口唇の角層メラニン量の推定方法。
2)以下の(1)~(3)の工程を含む、口唇の明るさ改善剤の評価又は選択方法。
(1)口唇又は口唇由来の被験試料に被験物質を適用する工程
(2)当該口唇又は口唇由来の被験試料におけるメラニン量を測定する工程
(3)(2)で測定された結果に基づいて、メラニン量を減少させる被験物質を口唇の明るさ改善剤として評価又は選択する工程
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、口唇の角層メラニン量の推定が可能である。また、口唇の明るさを改善する新しい機序の改善剤を探索又は評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】口唇組織のメラニン及びメラノサイトの局在解析結果を示す。
【
図2】下赤唇明度、メラニン画像及びメラニン染色像の比較を示す。
【
図4】下赤唇のL
*値(明るさ)と角層メラニン量との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の口唇の角層メラニン量の推定方法は、被験者の口唇のL*値を算出し、その算出値から当該口唇の角層メラニン量を推定することを含む。
本明細書において、口唇は、ヒトの口腔口裂周辺の器官であり、皮膚と酷似した外観の白唇、赤みを帯びた外観の赤唇、口腔側の口唇粘膜で構成される。赤唇は、下唇赤唇部(下赤唇)と上唇赤唇部(上赤唇)を含む。本発明において、口唇は、好ましくは赤唇であり、より好ましくは下赤唇である。
【0011】
被験者は、特に制限されないが、例えば、美容目的等の非治療的目的で口唇の角層メラニン量の評価を所望する者、角層メラニン量の調節剤等による口唇の明るさの改善効果を知りたい者、角層メラニン量の増加による口唇の明度の低下リスクを知りたい者等が挙げられる。
【0012】
本明細書において、L*値は、CIE(国際照明委員会)によって規定された色の明るさ(明度)を表す値である。L*値=0は全く光が反射(もしくは透過)しない、光を完全に吸収する物体の明度、L*値=100は完全拡散反射の白の明度を表し、数値が大きい程明るいことを示す。
【0013】
口唇のL*値の算出は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、測定機器(CM-2600d、コニカミノルタ製)を直接口唇に当ててL*値を計測する方法がある。また、口唇画像データを取得した後、画像解析ソフトを用いてL*値を算出することができる。
口唇画像は、口唇が写る画像であればよく、口唇以外の部位が写っていてもよい。画像のデータ形式は特に制限されず、また、画像データを取得するには、例えば、マルチスペクトルカメラ、分光イメージングセンサー等を用いることができる。
画像解析ソフトとしては、例えば、ImageJ(NIH, Maryland,USA)等が挙げられる。
【0014】
後記実施例に示すように、口唇組織を用いたメラニン及びメラノサイトの局在解析の結果、下赤唇においてメラニン及びメラノサイトの存在が確認された(
図1)。また、下赤唇角層中のメラニン量を定量すると、下赤唇の暗いヒトは明るいヒトと比較して、角層中で多くのメラニンが検出された(
図2)。下赤唇の角層メラニン量は下赤唇のL
*値(明るさ)と負に相関していた(
図4)。これらの結果より、メラニンは口唇のL
*値(明るさ)の決定因子の一つであり、口唇のL
*値(明るさ)に基づいて角層メラニン量の推定が可能である。また、口唇のメラニンの制御は、口唇の明るさ改善のターゲットとなり得、メラニン量を指標とすることにより口唇の明るさ改善剤を評価又は選択することができる。
本発明において口唇の明るさを改善するとは、角層メラニン量を低減することにより口唇の明るさをより明るくすること、具体的には口唇の明度を上げること、より具体的には口唇のL
*値を上げることを指す。
口唇角層のターンオーバーは平均3.5日と皮膚に比べて非常に速いサイクルで行われる(新井清一他、日本香粧品学会誌、14(2)、 66-70、 1990)。例えば、頬の2倍、前腕の4倍速い。そのため、皮膚と比べて、口唇の角層メラニン量は、口唇上皮全体中のメラニン量を反映し易い。従って、口唇のL
*値に基づく角層メラニン量の推定は口唇の明るさ改善を希望する者に対して適切な口唇ケアのアドバイスを行える等の利点がある。
【0015】
本発明において、角層メラニン量の推定は、上述したように、口唇のL*値と角層メラニン量は負に相関することから、算出したL*値が100に近い程、角層メラニン量は少ないと判断することができる。他方、算出したL*値が0に近い程、角層メラニン量は多いと判断することができる。即ち、口唇のL*値は、角層メラニン量の相対的な推定値として利用することができる。または、予め口唇のL*値と角層メラニン量との回帰式を求めておき、その回帰式を用いて口唇のL*値から角層メラニン量の推定値を算出してもよい。
角層メラニン量の推定は、予め設定した基準値との比較により行ってもよい。後述の実施例1で示す場合においては、L*値が40以下はメラニン量が多いと推定できる。またL*値が45以上はメラニン量が少ないと推定できる。当該L*値は、統計値、例えば平均値であってもよい。性別、人種、年齢毎に基準値を設定してもよい。
基準値の設定、及び当該基準値に基づく角層メラニン量の具体的な推定方法は、当業者の技術常識にしたがって適宜実施することができる。
本発明において、算出したL*値が基準値よりも高い場合、角層メラニン量は少ないと推定される。また、そのL*値が基準値よりもより高い程、角層メラニン量は少ないと推定される。他方、算出したL*値が基準値よりも低い場合、角層メラニン量は多いと推定される。また、そのL*値が基準値よりもより低いほど、角層メラニン量は多いと推定される。
算出したL*値が、基準値に対して好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは85%以下であれば、当該マーカーのL*値は基準値より低いと判断され得、L*値が、基準値に対して好ましくは110%以上、より好ましくは115%以上、さらに好ましくは120%以上であれば、当該L*値は基準値より高いと判断され得る。あるいは、算出したL*値と基準値との差異は、例えば両者が統計学的に有意に異なるか否かによって判断することができる。
【0016】
本発明の口唇の明るさ改善剤の評価又は選択方法は、以下の(1)~(3)の工程を含む。
(1)口唇又は口唇由来の被験試料に被験物質を適用する工程
(2)当該口唇又は口唇由来の被験試料におけるメラニン量を測定する工程
(3)(2)で測定された結果に基づいて、メラニン量を減少させる被験物質を口唇の明るさ改善剤として評価又は選択する工程
【0017】
前記口唇由来の被験試料としては、口唇から採取された赤唇部上皮組織、又はそれに由来する培養細胞等が挙げられる。
【0018】
前記被験物質としては、口唇の明るさ改善剤として使用することが可能な物質であれば、特に制限されず、例えば、動植物、海洋生物、微生物等及びその抽出物;それらに由来する天然成分;合成化合物;並びにそれらの混合物及び組成物等が挙げられる。
【0019】
前記工程(1)において、口唇又は口唇由来の被験試料に被験物質を適用する手段としては、当該分野で公知の手段であればよく、例えば、当該被験物質の口唇への直接的な接触(例えば、滴下、塗布、噴霧、パッチ等)、被験物質を含有する培地での被験試料の培養や被験物質を含有する培地への被験試料の添加等が挙げられる。
被験物質の濃度及び適用量は、被験物質の形態、化学的性質、細胞毒性等に基づいて適宜設定すればよい。例えば、天然成分では抽出物中に含まれる乾燥固形分として0.00001~5.0質量%、合成化合物では0.01~10.0質量%である。
被験物質の口唇又は口唇由来の被験試料への適用時間についても、被験物質の形態、化学的性質、細胞毒性等に基づいて適宜設定すればよい。例えば、口唇由来細胞もしくは口唇由来組織では被験試料を1回の添加もしくは塗布を行い、その後は任意のタイミングで解析を行う。口唇への連用では被験試料を1日1回以上、好ましくは1日2回以上、さらに好ましくは1日3回塗布する。連用期間は、1日以上から730日以下が好ましく、1週間から365日以下がより好ましく、2週間から183日以下がさらに好ましい。
【0020】
工程(2)において、口唇又は口唇由来の被験試料におけるメラニン量の測定は、公知の方法に従って測定することができる。測定方法の例としては、テープストリッピング法等により採取した口唇の角質細胞を、フォンタナ・マッソン染色法等の染色法を用いてメラニンを染色し、染色した角質細胞の画像を取得した後、画像解析ソフトを用いて二値化処理を施すことにより角質細胞単位面積あたり、又は細胞1個当たりに占めるメラニンの割合を面積%で示す方法等が挙げられる。
【0021】
次いで、工程(3)では、前記のとおり工程(2)で測定された結果に基づいて、メラニン量を減少させる被験物質を口唇の明るさ改善剤として評価又は選択する。
斯かる評価又は選択は、例えば、被験物質添加前後で、又は被験物質添加群と被験物質非添加群若しくは対照物質添加群とを比較することによって行われる。あるいは、評価は、種々の濃度の被験物質間で測定結果を比較することによって行われる。
【0022】
例えば、被験物質添加群において、メラニン量が、被験物質添加前、被験物質非添加群又は対照物質添加群と比べて少ない場合、当該被験物質を口唇の明るさ改善剤として評価又は選択する。この場合、被験物質添加前、被験物質非添加群又は対照物質添加群に対して、被験物質添加群におけるメラニン量が統計学的に有意に少ないか否かによって判断することができる。あるいは、被験物質添加前、被験物質非添加群又は対照物質添加群におけるメラニン量を100%としたときに、被験物質添加群におけるメラニン量が一定以下、例えば、90%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下であるか否かによって判断することができる。
【0023】
斯くして得られた口唇の明るさ改善剤は、口唇の明るさ改善のために、化粧品、医薬部外品、医薬品等に配合することにより使用できる。
【実施例0024】
参考例1 口唇組織を用いたメラニン及びメラノサイトの局在解析
(1)解析試料
白人女性5名(年齢51~63歳,平均年齢58.8歳)から心停止後に採取された下唇及び頬部の組織を、ビジコムジャパン株式会社を介して入手し、解析試料とした。
(2)解析方法
入手したヒト組織をマイルドホルム(登録商標)10N(FUJIFILM製)に浸漬して組織を固定した後、パラフィン包埋ブロック及び凍結包埋ブロックを作成した。各々の包埋ブロックは5μm厚に薄切し、スライドグラスに貼付して以下の解析に使用した。尚、メラニン染色にはパラフィン包埋ブロックから切り出したパラフィン切片を、メラノサイト染色には凍結包埋ブロックから切り出した凍結切片を用いた。
詳細な解析手順を以下に示す。
【0025】
1.メラニン染色(フォンタナ・マッソン染色)
↓ キシレン100mLにパラフィン切片を浸漬して脱パラフィン
↓ 100%、90%および70%エタノール溶液100mLの順に切片を浸漬して水和
↓ 水道水に浸漬し、流水にて5分間水洗
↓ 蒸留水100mLに切片を浸して10回程上下させて濯ぐ
↓ フォンタナ・アンモニア銀液(武藤化学製)100mLに切片を浸漬し、4℃遮光下で一晩静置
↓ 蒸留水100mLに切片を浸漬して10回程上下させて濯ぐ
↓ ケルネヒトロート液100mLに切片を浸漬、1分間静置
↓ 蒸留水100mLに切片を浸漬して10回程上下させて濯ぐ
↓ 80%、90%及び100%エタノール100mLの順に切片を浸漬して脱水
↓ キシレン100mLに切片を浸漬して透徹
↓ マリノール(武藤化学製)を切片に滴下し、カバーガラスを被せて封入
<染色態度>
メラニン:黒色から黒褐色
細胞核 :桃色
【0026】
2.メラノサイト染色
↓ 凍結切片を4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(富士フイルム和光純薬製)100mLに浸漬して組織を固定
↓ 0.05%Tween-20/PBS(PBS-T)溶液100mLに切片を浸漬して5分間静置、これを3回繰り返して洗浄
↓ ブロッキング処理
切片を湿潤箱に並べてブロッキング液(1%ウシ血清アルブミン/PBS-T溶液)100μLを滴下し、30分間静置
↓ 1次抗体反応
ブロッキング液を除去し、ブロッキング液で500倍希釈した抗-MART1抗体(Covance製,#SIG-38160)50μLを切片に滴下して、4℃下で一晩反応
↓ PBS-T溶液100mLに切片を浸して5分間静置、これを3回繰り返して洗浄
↓ 2次抗体反応
切片を湿潤箱に並べてブロッキング液で100倍希釈した蛍光標識の抗-マウス抗体(Jackson製,#715-295-151)50μLを切片に滴下し、37℃下で30分間静置
↓ PBS-T溶液100mLに切片を浸して5分間静置、これを3回繰り返して洗浄
↓ DAPI-Fluoromount-G(登録商標)(SouthernBiotech製)を切片に滴下し、カバーガラスを被せて封入
【0027】
3.画像の取得
メラニン染色画像は、光学顕微鏡(Axioplan2,カールツァイス製)に取り付けたCCDカメラ(AxioCam MRc 5,カールツァイス製)にて取得した。メラノサイト染色画像は、共焦点レーザー顕微鏡(LSM710,カールツァイス製)にて取得した。
【0028】
(3)結果
結果を
図1に示す。皮膚(頬)と同様に下赤唇においても、メラニン及びメラノサイトの存在が確認された。従って、下赤唇においても皮膚と同様のメカニズムでメラニンが形成し蓄積することが示唆された。
【0029】
実施例1 下赤唇のL*値と角層中メラニン量の相関
(1)被験者
日本人女性60名を対象とした下赤唇のL*値の計測を行った。下赤唇のL*値をもとに、L*値の高い上位5名の被験者(高明度)、中央値により近い5名の被験者(中明度)及び下位5名の被験者(低明度)の計15名を被験者として選抜した(年齢26~69歳,平均年齢55.13歳)。
(2)試験群
試験群として、高明度の被検者5名からなる高明度群、中明度の被検者5名からなる中明度群及び低明度の被検者5名からなる低明度群の3群を設けた。
【0030】
(3)評価手順
1.下赤唇L*値の取得
分光イメージングセンサー(NH7,エバジャパン製)及びドーム型照明(CSS製)を用いて顔を撮影し、取得した値より下赤唇のL*値(D65)を算出した。
【0031】
2.下赤唇角層の採取
↓ セロテープ(登録商標)(ニチバン製)を直径6mmにカット
↓ カットしたテープを下赤唇の中央部に貼り付け
↓ 貼付したテープの上から指で軽く押して密着
↓ テープの端をピンセットで掴んで剥がし、角層を採取
↓ 角層付着テープをAPSコートスライドグラス(APS-02,松波硝子工業製)に貼付してセロテープ(登録商標)ごと角層を転写
【0032】
3.角層中のメラニン量(%Area;角質細胞単位面積当たりメラニンの面積%)の計測
3-1.角層中のメラニンの染色(フォンタナ・マッソン染色法)
↓ テープ剥離角層が転写されたスライドグラス(以下、スライドグラスと略記)をキシレンに一晩浸漬、粘着剤を溶解させてセロテープ(登録商標)を除去
↓ スライドグラスを、100%、90%及び70%エタノール溶液100mLの順に浸漬して水和
↓ 蒸留水100mLにスライドグラスを浸漬して10回程上下させて濯ぐ
↓ 4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(富士フイルム和光純薬製)100mLにスライドグラスを浸漬し、10分間静置して角層を固定
↓ 蒸留水100mLにスライドグラスを浸漬して5分間静置
↓ フォンタナ・アンモニア銀液(武藤化学製)100mLにスライドグラスを浸漬し、4℃下遮光下で一晩静置
↓ 蒸留水100mLにスライドグラスを浸漬して10回程上下させて濯ぐ
↓ スライドグラスを、80%、90%及び100%エタノール100mLの順に浸漬して脱水
↓ キシレン100mLにスライドグラスを浸漬して透徹
↓ マリノール(武藤化学製)を角層に滴下し、カバーガラスを被せて封入
3-2.メラニン染色画像の取得
光学顕微鏡(Axioplan2,カールツァイス製)に取り付けたCCDカメラ(AxioCam MRc 5,カールツァイス製)にて、メラニン染色画像を取得した。
【0033】
図2に口唇の分光画像から取得したRGB画像と口唇角層メラニン染色画像の一例を示す。下赤唇が暗い低明度群の被検者の唇(低明度唇)は、下赤唇がより明るい中明度群や高明度群の被検者の唇(中明度唇や高明度唇)と比較して、角層中でより多くのメラニンが確認された。その染色強度はRGB画像中に記した下赤唇の明暗(L
*値)と概ね一致した。
【0034】
3-3.角層メラニン計測前の画像前処理
画像の前処理には、Adobe Photoshop CS(Ver.13.0.1,アドビシステム製)を用いた。
↓ 各試験群から取得したメラニン染色画像全てを1枚のレイヤーに貼付
↓ ハイパス処理により背景を均一化(参考文献1、2)
↓ グレースケール処理によりカラー情報を破棄
↓ 明るさ、コントラスト調整
元画像及び前処理した画像を
図3(1)及び(2)に示す。
(参考文献1)Youngwoo Bae, et al. J Biomed Opt. 2008, 13(6);064007
(参考文献2)Indermeet Kohli, et al. Exp Dermatol. 2015, 24(11);879-880
【0035】
3-4. 角層メラニン量(%Area)の計測
使用ソフト: ImageJ (ver. 1.53C)
↓ 計測に用いる角質細胞をRegion of Interest(ROI)として設定(
図3(3),実線で囲われた領域)
角質細胞が重なっている部位、縁の折れ曲がり部位、及び焦点が合わない部位は計測範囲より除外
↓ 画像の二値化処理により、メラニンの領域を抽出(
図3(4),黒色)
↓ ROI内部面積に占めるメラニン領域の面積の割合を角層メラニン量(%Area)として算出
【0036】
角層メラニン量(%Area)と下赤唇明度(L
*値)の相関を解析した結果を
図4に示す。
図4に示すとおり、L
*値と角層メラニン量の間に、負の相関性が検出された。このことから、下赤唇の明るさの個人差には、角層中のメラニン量の個人差が関係していることが示唆され、下赤唇のL
*値から角層メラニン量の推定は可能であることが確認された。