(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093589
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】開閉体制御装置
(51)【国際特許分類】
E05F 15/622 20150101AFI20240702BHJP
B60J 5/10 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
E05F15/622
B60J5/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210081
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】ニデックモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101786
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】小澤 晃史
(72)【発明者】
【氏名】植野 弘
【テーマコード(参考)】
2E052
【Fターム(参考)】
2E052AA09
2E052CA06
2E052DA06
2E052DB06
2E052EA01
2E052EB01
2E052EC01
2E052GA08
2E052GB06
2E052GC02
2E052GC06
2E052GD07
2E052HA01
2E052JA01
(57)【要約】
【課題】挟み込みによって開閉体に撓みが生じる場合でも、挟み込みを迅速に検出できる開閉体制御装置を提供する。
【解決手段】開閉体制御装置は、開閉体を開閉するためのモータを駆動するモータ駆動部と、このモータ駆動部の動作を制御する制御部とを備えている。制御部は、モータに流れるモータ電流の現在値と過去値との差分である、電流差分値ΔIdを算出する差分値算出部と、この差分値算出部で算出された、電流差分値ΔIdの微分値d(ΔId)/dtを算出する微分値算出部と、電流差分値ΔIdと微分値d(ΔId)/dtとを加算する加算部と、この加算部で算出された加算値ΔId+d(ΔId)/dtと所定の閾値Thとの比較結果に基づいて、開閉体における挟み込みの有無を判定する挟み込み判定部とを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉体を開閉するためのモータを駆動するモータ駆動部と、
前記モータ駆動部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記モータに流れるモータ電流の現在値と過去値との差分である、電流差分値を算出する差分値算出部と、
前記差分値算出部で算出された、前記電流差分値の微分値を算出する微分値算出部と、
前記電流差分値と前記微分値とを加算する加算部と、
前記加算部で算出された加算値と所定の閾値との比較結果に基づいて、前記開閉体における挟み込みの有無を判定する挟み込み判定部と、を含むことを特徴とする開閉体制御装置。
【請求項2】
開閉体を開閉するためのモータを駆動するモータ駆動部と、
前記モータ駆動部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記モータの速度の現在値と過去値との差分である、速度差分値を算出する差分値算出部と、
前記差分値算出部で算出された、前記速度差分値の微分値を算出する微分値算出部と、
前記速度差分値と前記微分値とを加算する加算部と、
前記加算部で算出された加算値と所定の閾値との比較結果に基づいて、前記開閉体における挟み込みの有無を判定する挟み込み判定部と、を含むことを特徴とする開閉体制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の開閉体制御装置において、
前記加算部は、前記電流差分値と、前記微分値に所定の係数を乗じた値とを加算する、ことを特徴とする開閉体制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の開閉体制御装置において、
前記微分値は、前記電流差分値を時間で微分した微分値、または前記電流差分値を前記開閉体の位置で微分した微分値である、ことを特徴とする開閉体制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の開閉体制御装置において、
前記モータ電流に代えて、当該モータ電流と比例関係にあるモータトルクを用い、
前記モータトルクの差分値とその微分値とを加算した値を、前記閾値と比較することにより挟み込みの有無を判定する、ことを特徴とする開閉体制御装置。
【請求項6】
請求項2に記載の開閉体制御装置において、
前記加算部は、前記速度差分値と、前記微分値に所定の係数を乗じた値とを加算する、ことを特徴とする開閉体制御装置。
【請求項7】
請求項2に記載の開閉体制御装置において、
前記微分値は、前記速度差分値を時間で微分した微分値、または前記速度差分値を前記開閉体の位置で微分した微分値である、ことを特徴とする開閉体制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の開閉体制御装置において、
前記開閉体は、一端が回転軸に支持されていて、前記モータにより前記回転軸を中心にして回転する回転形開閉体である、ことを特徴とする開閉体制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の開閉体制御装置において、
前記開閉体は、車両の後方に備わるバックドアであり、
前記モータは、前記バックドアに連結された開閉機構を介して当該バックドアを回転させる、ことを特徴とする開閉体制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備わるバックドアのような開閉体を制御する装置に関し、特に、開閉体の開閉動作に伴って発生する挟み込みを迅速に検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図11は、バックドア(テールゲートともいう)の動作を説明するための概略構造図である。バックドア51は、自動四輪車などの車両50の後方に設けられており、上端部が回転軸52に支持されていて、この回転軸52を中心にして回転可能となっている。バックドア51は、所定の操作に基づいて自動的に、反時計回り方向へ回転することで開いてゆき、時計回り方向へ回転することで閉じてゆく。51a、51bは、それぞれバックドア51の全閉位置、全開位置を示している。
【0003】
図12は、バックドア51の開閉を行うための機構を簡略化して示している。バックドア51には、モータ4によって駆動されるドア開閉機構5が連結されている。モータ4が正方向に回転すると、これに連動してドア開閉機構5のアーム53がa方向へ伸長し、バックドア51はX方向へ開いてゆく。また、モータ4が逆方向に回転すると、これに連動してドア開閉機構5のアーム53がb方向へ縮退し、バックドア51はY方向へ閉じてゆく。
【0004】
図13に示すように、バックドア51が閉動作を行っている際に、バックドア51と車体との間に、障害物Pが挟み込まれることがある。また、
図14に示すように、バックドア51が開動作を行っている際に、バックドア51が障害物Qに当って、車体と障害物Qとの間にバックドア51が挟み込まれた形になることもある。
【0005】
このような挟み込みが発生すると、バックドア51の開閉動作に支障が生じるだけでなく、障害物P、Qが損傷したり破壊されたりするおそれがあり、特に、障害物P、Qが人体の一部である場合は、安全が脅かされることになる。そのため、挟み込みが発生した場合には、これを速やかに検出してモータ4を停止または逆転させることで、挟み込み状態を解消する必要がある。特許文献1~5には、挟み込みを検出するための技術が開示されている。
【0006】
特許文献1では、モータに流れる電流と基準電流との差分を求め、この差分の積算値が閾値を超えた場合に、挟み込みが発生したと判定する。特許文献2では、モータ電流の過去値と現在値との差分の積算値、または過去値と現在値との微分値が規定値を下回る場合に、外乱が発生したと判断して、挟み込み検出用の閾値を変更する。特許文献3では、モータの回転速度と目標速度との速度差を算出し、今回と前回の速度差の変化量を積算・平均化して偏差を算出し、この偏差を閾値と比較して挟み込みを検出する。特許文献4では、挟み込みの開始が検出された後、モータの回転速度の変化量が閾値を超えた場合に、挟み込みを確定する。特許文献5では、モータの角速度の変化量を算出し、この角速度変化量と閾値とを比較して挟み込みを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-31108号公報
【特許文献2】特開2013-2110号公報
【特許文献3】特開2008-2089号公報
【特許文献4】特開2006-307636号公報
【特許文献5】特開2002-295127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
車両のバックドアは、完全な剛体ではなく、外部から加わる力によって撓む性質を有している。特に、バックドア51におけるモータ4の駆動力が作用する位置(
図12参照)と、挟み込みが発生した位置(
図13、
図14参照)とがずれていると、以下で述べるとおり、双方の位置で発生する逆方向の力によって、バックドア51に撓みが生じる。
【0009】
図15は、挟み込みが発生した場合の力学モデル図を示している。挟み込みが発生すると、バックドア51には、モータ4のトルクと挟み込みによる荷重とが加わり、両者は互いに逆方向に作用する。そして、これらの力の加わる位置がずれていると、バックドア51に撓みが生じる。この場合、モータ4とバックドア51とは、バネ定数がK1のバネで結合され、挟み込み箇所とバックドア51とは、バネ定数がK2のバネで結合された状態となる。ここで、K1はバックドア51の剛性によって決まるバネ定数、K2は挟み込み物体(障害物)の性質によって決まるバネ定数である。このような力学モデルが成立するバックドアの開閉動作においては、挟み込みの発生から検出までの時間的遅れが大きくなるという問題点がある。以下、これについて説明する。
【0010】
図16は、モータ電流の差分値(現在値と過去値との差)を用いて挟み込みを検出する場合の、電流差分値の時間的変化を表している。挟み込みが発生すると、モータトルクの増加に伴ってモータ電流が増加してゆき、それに応じてモータ電流の差分値も増加してゆく。この場合、バックドア51に撓みが生じないとすれば、破線で示したように、電流差分値は時間とともにリニアに変化する。そして、この電流差分値が所定の閾値Thに達した時点taで、挟み込みが検出される。
【0011】
一方、バックドア51に撓みが生じる場合は、電流差分値は時間とともにリニアに変化せず、実線で示したように、立ち上がりから緩やかに変化する。これは、バックドア51が撓むことで、バックドア51に加わるモータ4のトルクの変化量が小さくなり、トルクと比例関係にあるモータ電流が緩慢な変化を示すためである。この結果、電流差分値が閾値Thに達する時点tb、すなわち挟み込みが検出される時点が、バックドア51に撓みがない場合と比較して遅くなり、挟み込み検出までの時間が長くなる。
【0012】
本発明の課題は、挟み込みによって開閉体に撓みが生じる場合でも、挟み込みを迅速に検出できる開閉体制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る開閉体制御装置は、開閉体を開閉するためのモータを駆動するモータ駆動部と、このモータ駆動部の動作を制御する制御部とを備えている。
本発明の第1態様では、制御部は、モータに流れるモータ電流の現在値と過去値との差分である電流差分値を算出する差分値算出部と、この差分値算出部で算出された電流差分値の微分値を算出する微分値算出部と、電流差分値と微分値とを加算する加算部と、この加算部で算出された加算値と所定の閾値との比較結果に基づいて、開閉体における挟み込みの有無を判定する挟み込み判定部とを含む。
本発明の第2態様では、制御部は、モータの速度の現在値と過去値との差分である速度差分値を算出する差分値算出部と、この差分値算出部で算出された速度差分値の微分値を算出する微分値算出部と、速度差分値と微分値とを加算する加算部と、この加算部で算出された加算値と所定の閾値との比較結果に基づいて、開閉体における挟み込みの有無を判定する挟み込み判定部とを含む。
【0014】
このような開閉体制御装置によると、モータ電流またはモータ速度の差分値に、差分値の微分値を加算することで、当該加算値(差分値+差分値の微分値)は、差分値に比べて変化の度合いが大きくなる。したがって、この加算値を閾値と比較することにより、従来の挟み込み検出時点よりも早い時点で挟み込みを検出することが可能となり、挟み込み検出までの時間が短縮される。
【0015】
本発明の第1態様において、加算部は、電流差分値と、微分値に所定の係数を乗じた値とを加算してもよい。また、微分値は、電流差分値を時間で微分した微分値であってもよく、または電流差分値を開閉体の位置で微分した微分値であってもよい。
【0016】
本発明の第1態様において、モータ電流に代えて、当該モータ電流と比例関係にあるモータトルクを用いてもよい。この場合は、モータトルクの差分値とその微分値とを加算した値を、閾値と比較することにより、挟み込みの有無を判定する。
【0017】
本発明の第2態様において、加算部は、速度差分値と、微分値に所定の係数を乗じた値とを加算してもよい。また、微分値は、速度差分値を時間で微分した微分値であってもよく、または速度差分値を開閉体の位置で微分した微分値であってもよい。
【0018】
本発明における開閉体は、典型的には回転形開閉体、すなわち一端が回転軸に支持されていて、モータにより回転軸を中心にして回転する開閉体である。このような回転形開閉体の例としては、車両の後方に備わるバックドアが挙げられる。この場合、モータは、バックドアに連結された開閉機構を介して当該バックドアを回転させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、挟み込みによって開閉体に撓みが生じる場合でも、挟み込みを迅速に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】バックドアの開閉を制御するためのシステム構成図である。
【
図2】制御部の具体的構成の第1実施形態を示す図である。
【
図4】本発明による挟み込み検出の手法を説明する図である。
【
図5】制御部の具体的構成の第2実施形態を示す図である。
【
図7】制御部の具体的構成の第3実施形態を示す図である。
【
図9】制御部の具体的構成の第4実施形態を示す図である。
【
図10】
図9の差分値算出部の詳細を示す図である。
【
図11】バックドアの動作を説明するための概略構造図である。
【
図12】バックドアの開閉を行うための機構を簡略的に示した図である。
【
図15】挟み込みが発生した場合の力学モデル図である。
【
図16】従来における挟み込み検出を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図を通して、同一の部分または対応する部分には、同一の符号を付してある。以下では、開閉体として、
図11~
図14で示した車両のバックドア51を例に挙げる。
【0022】
図1は、バックドア51の開閉を制御するためのシステム構成を示している。バックドア制御装置100は、本発明の開閉体制御装置の一例であって、制御部1とモータ駆動部2とを備えている。制御部1は、車両や電子キーに備わる操作部3の操作に基づいて、モータ駆動部2の動作を制御するための制御信号を出力する。モータ駆動部2は、制御部1からの制御信号に基づいて、モータ4を回転または停止させるための駆動信号を出力する。モータ4は、モータ駆動部2からの駆動信号に応じて、正転、逆転、または停止の動作を行う。モータ4には、バックドア51を機械的に開閉するドア開閉機構5が連結されており(
図12参照)、前述したように、モータ4の回転に連動してドア開閉機構5のアーム53が伸長または縮退することで、バックドア51の開閉が行われる。
【0023】
モータ駆動部2の出力側には、電圧検出部6および電流検出部7が設けられている。電圧検出部6は、モータ駆動部2からモータ4に印加されるモータ電圧を検出する。電流検出部7は、モータ4に流れるモータ電流を検出する。電圧検出部6で検出されたモータ電圧と、電流検出部7で検出されたモータ電流とは、それぞれ制御部1へ入力される。
【0024】
モータ4には、角度検出部8が付設されている。この角度検出部8は、たとえばパルスエンコーダから構成されており、モータ4の回転と同期したパルスを出力する。このパルスの計数値は、バックドア51が開いたり閉じたりする場合のドア角度を表している。角度検出部8で検出されたドア角度は、制御部1へ入力される。
【0025】
図2は、制御部1の具体的構成の第1実施形態を示している。ここでは、挟み込み検出に関係するブロックのみを図示してある(後述の
図5、
図7、
図9においても同様)。制御部1には、電流補正部10、差分値算出部11、微分値算出部12、乗算器13、加算器14、および挟み込み判定部15が備わっている。
【0026】
電流補正部10は、モータ電圧の変動に伴うモータ電流の変動を補正する回路であって、
図1の電流検出部7で検出されたモータ電流Iを、電圧検出部6で検出されたモータ電圧Vdに応じて補正する。補正されたモータ電流Idは、差分値算出部11に入力される。
【0027】
差分値算出部11は、モータ電流Idの現在値と過去値との差分である、電流差分値ΔIdを算出する回路である。詳しくは、
図3(a)に示すように、差分値算出部11は、遅延回路11aと減算器11bとから構成されている。
図3(b)は、モータ電流Idの時間的変化の様子を示している。差分値算出部11に入力されるモータ電流Id(t)は、
図3(b)に示す現在(時刻t)の電流値である。一方、遅延回路11aには、
図3(b)に示す過去(時刻tから所定期間Dだけ遡った時刻(t-D))の電流値Id(t-D)が保持されている。減算器11bは、モータ電流Idの現在値Id(t)から過去値Id(t-D)を減算して、電流差分値ΔId(t)を算出する。すなわち、
ΔId(t)=Id(t)-Id(t-D)
【0028】
図2に戻って、差分値算出部11で算出された電流差分値ΔIdは、加算器14に入力されるとともに、微分値算出部12に入力される。微分値算出部12は、電流差分値ΔIdを時間で微分して、電流差分値の微分値d(ΔId)/dtを算出する。算出された微分値d(ΔId)/dtは、乗算器13に入力される。乗算器13は、微分値d(ΔId)/dtに所定の係数aを乗じて、a×d(ΔId)/dtの演算を行う。なお、係数aの値はa=1が原則であるが、実際には、挟み込み検出のテスト過程において、試行錯誤的に最適の値が選定される。本発明における「微分値」には、このような係数aを乗じた微分値も含まれる。
【0029】
乗算器13の乗算結果は、加算器14に入力される。加算器14は、差分値算出部11で算出された電流差分値ΔIdと、乗算器13で算出されたa×d(ΔId)/dtとを加算して、ΔId+[a×d(ΔId)/dt]を算出する。この算出値は、挟み込み判定部15に入力され、挟み込み有無の判定の基礎となるものであるが、以下では簡単のためにa=1とし、挟み込み判定部15は、ΔId+d(ΔId)/dtに基づいて挟み込みの有無を判定するものとする。
【0030】
詳しくは、挟み込み判定部15は、ΔId+d(ΔId)/dt(すなわち電流差分値と、電流差分値の微分値との和)を、あらかじめ設定された閾値Thと比較する。そして、ΔId+d(ΔId)/dt>Thであれば、挟み込みが発生したと判定し、ΔId+d(ΔId)/dt≦Thであれば、挟み込みが発生していないと判定する。あるいは、ΔId+d(ΔId)/dt≧Thであれば、挟み込みが発生したと判定し、ΔId+d(ΔId)/dt<Thであれば、挟み込みが発生していないと判定してもよい。
【0031】
図4は、本発明による挟み込み検出の手法を説明する図である。
図4では、バックドア51において挟み込みが発生した場合の、各種のパラメータG1~G4の変化が示されている。G1は、差分値算出部11で算出された、モータ電流の差分値ΔIdの変化を表している。G2は、微分値算出部12で算出された、差分値の微分値d(ΔId)/dtの変化を表している。G3は、G1+G2、つまり差分値と微分値との加算値ΔId+d(ΔId)/dtを表している。G4は、バックドア51に撓みがない場合のモータ電流の差分値であって、
図16において破線で示したものと同じである。
【0032】
図4からわかるように、G1のモータ電流の差分値ΔIdを閾値Thと比較する従来の手法では、
図16でも説明したように、差分値ΔIdの変化が緩やかなために、挟み込みの検出時点tbが遅れることになる。これに対して、本発明の場合は、G1の差分値ΔIdに、G2の微分値d(ΔId)/dtを加算することで、加算値であるG3のΔId+d(ΔId)/dtは、G1の差分値ΔIdに比べ変化の度合いが大きくなって、立ち上がりが急峻になる。したがって、この加算値G3を閾値Thと比較することで、G3が閾値Thに到達するまでの時間が短縮される結果、従来の挟み込み検出時点tbよりも早い時点tcで、挟み込みを検出することが可能となる。
【0033】
挟み込み判定部15は、挟み込みの有無に応じた判定結果を出力する。判定結果が「挟み込み有」の場合、制御部1は、モータ駆動部2に対して、モータ4を停止または逆転させるための制御信号を出力する。モータ駆動部2は、この制御信号を受けてモータ4を停止または逆転させる。これによって、バックドア51が停止し、またはバックドア51が逆方向へ反転する結果、障害物による挟み込み状態が解消される。
【0034】
なお、
図2に示すように、挟み込み判定部15には、角度検出部8で検出されたバックドア51のドア角度が入力される。これは、バックドア51が
図11の全閉位置51aに至ると、モータ4のトルクとともにモータ電流が急増して、挟み込みが発生した場合と同じ状態になるので、挟み込みの誤判定を防止するためである。すなわち、挟み込み判定部15は、モータ電流の差分値とその微分値との加算値が閾値Thに達しても、バックドア51が全閉位置51aにあれば、挟み込みが発生したとは判定しない。
【0035】
図5は、制御部1の具体的構成の第2実施形態を示している。制御部1には、
図2(第1実施形態)と同様に、電流補正部10、差分値算出部11、微分値算出部12、乗算器13、加算器14、および挟み込み判定部15が備わっているが、電流差分値や差分値の微分値の演算内容が、
図2の場合と異なっている。以下、具体的に説明する。
【0036】
図2の場合は、
図3で説明したように、差分値算出部11は、モータ電流Idの時刻tにおける現在値Id(t)から、時刻t-Dにおける過去値Id(t-D)を減算して、電流差分値ΔId(t)を算出した。これに対して、
図5においては、
図6に示すように、差分値算出部11は、時刻の代わりにバックドア51の位置を用い、位置nにおけるモータ電流Idの現在値Id(n)から、位置n-Dにおける過去値Id(n-D)を減算して、電流差分値ΔId(n)を算出する。なお、ここでいう位置は、
図1の角度検出部8で検出されるバックドア51のドア角度(前述したパルスの計数値)に対応した値である。
【0037】
また、
図2の場合は、微分値算出部12が、電流差分値ΔIdを時間で微分して微分値d(ΔId)/dtを算出したが、
図5においては、微分値算出部12は、電流差分値ΔIdを位置で微分して、微分値d(ΔId)/dnを算出する。したがって、乗算器13においては、この微分値d(ΔId)/dnに係数aを乗じる演算が行われる。また、加算器14においては、差分値算出部11で算出された電流差分値ΔIdと、乗算器13で算出されたa×d(ΔId)/dnとを加算する演算が行われる。したがって、a=1として、挟み込み判定部15は、ΔId+d(ΔId)/dnを閾値Thと比較して、挟み込みの有無を判定する。
【0038】
以上のような第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、モータ電流の差分値ΔIdに、差分値の微分値d(ΔId)/dnを加算することで、この加算値ΔId+d(ΔId)/dnは、差分値ΔIdに比べて変化の度合いが大きくなる。したがって、当該加算値を閾値Thと比較することにより、従来の挟み込み検出時点よりも早い時点で、挟み込みを検出することが可能となり、挟み込み検出までの時間を短縮することができる。
【0039】
図7は、制御部1の具体的構成の第3実施形態を示している。制御部1には、
図2(第1実施形態)と同様に、差分値算出部11、微分値算出部12、乗算器13、加算器14、および挟み込み判定部15が備わっているが、
図2の電流補正部10の替わりに、速度補正部16が設けられている。また、差分値や差分値の微分値の演算内容が、
図2の場合と異なっている。
図2においては、モータ電流Iに基づいて、電流の差分値や差分値の微分値を演算したが、
図7においては、モータ速度R(モータ4の回転速度)に基づいて、速度の差分値や差分値の微分値を演算する。以下、具体的に説明する。
【0040】
速度補正部16は、モータ電圧の変動に伴うモータ速度の変動を補正する回路であって、図示しない速度検出部で検出されたモータ速度Rを、
図1の電圧検出部6で検出されたモータ電圧Vdに応じて補正する。補正されたモータ速度Rdは、差分値算出部11に入力される。
【0041】
差分値算出部11は、モータ速度Rdの現在値と過去値との差分である、速度差分値ΔRdを算出する回路である。詳しくは、
図8(a)に示すように、差分値算出部11は、遅延回路11aと減算器11bとから構成されている。
図8(b)は、モータ速度Rdの時間的変化の様子を示している。
図3(b)と比較すれば明らかなように、モータ速度Rdはモータ電流Idと逆の変化を示す。
【0042】
差分値算出部11に入力されるモータ速度Rd(t)は、
図8(b)に示す現在(時刻t)の速度値である。一方、遅延回路11aには、
図8(b)に示す過去(時刻tから所定期間Dだけ遡った時刻(t-D))の速度値Rd(t-D)が保持されている。減算器11bは、モータ速度Rdの過去値Rd(t-D)から現在値Rd(t)を減算して、速度差分値ΔRd(t)を算出する。すなわち、
ΔRd(t)=Rd(t-D)-Rd(t)
【0043】
図7に戻って、差分値算出部11で算出された速度差分値ΔRdは、加算器14に入力されるとともに、微分値算出部12に入力される。微分値算出部12は、速度差分値ΔRdを時間で微分して、速度差分値の微分値d(ΔRd)/dtを算出する。算出された微分値d(ΔRd)/dtは、乗算器13に入力され、係数a(ここではa=1)が乗じられる。加算器14は、差分値算出部11で算出された速度差分値ΔRdと、乗算器13で算出されたd(ΔRd)/dtとを加算して、ΔRd+d(ΔRd)/dtを算出する。この算出値は、挟み込み判定部15に入力される。
【0044】
挟み込み判定部15は、ΔRd+d(ΔRd)/dt(すなわち速度差分値と、速度差分値の微分値との和)を、あらかじめ設定された閾値Thと比較する。そして、ΔRd+d(ΔRd)/dt>Thであれば、挟み込みが発生したと判定し、ΔRd+d(ΔRd)/dt≦Thであれば、挟み込みが発生していないと判定する。あるいは、ΔRd+d(ΔRd)/dt≧Thであれば、挟み込みが発生したと判定し、ΔRd+d(ΔRd)/dt<Thであれば、挟み込みが発生していないと判定してもよい。
【0045】
以上のような第3実施形態においても、モータ速度の差分値ΔRdに、差分値の微分値d(ΔRd)/dtを加算することで、この加算値ΔRd+d(ΔRd)/dtは、差分値ΔRdに比べて変化の度合いが大きくなる。したがって、当該加算値を閾値Thと比較することにより、従来の挟み込み検出時点よりも早い時点で、挟み込みを検出することが可能となり、挟み込み検出までの時間を短縮することができる。
【0046】
図9は、制御部1の具体的構成の第4実施形態を示している。制御部1には、
図7(第3実施形態)と同様に、速度補正部16、差分値算出部11、微分値算出部12、乗算器13、加算器14、および挟み込み判定部15が備わっているが、速度差分値や差分値の微分値の演算内容が、
図7の場合と異なっている。以下、具体的に説明する。
【0047】
図7の場合は、
図8で説明したように、差分値算出部11は、モータ速度Rdの時刻t-Dにおける過去値Rd(t-D)から、時刻tにおける現在値Rd(t)を減算して、速度差分値ΔRd(t)を算出した。これに対して、
図9においては、
図10に示すように、差分値算出部11は、時刻の代わりにバックドア51の位置を用い、位置n-Dにおけるモータ速度Rdの過去値Rd(n-D)から、位置nにおける現在値Rd(n)を減算して、速度差分値ΔRd(n)を算出する。ここでいう位置も、第2実施形態と同様に、バックドア51のドア角度(角度検出部8のパルス計数値)に対応した値である。
【0048】
また、
図7の場合は、微分値算出部12が、速度差分値ΔRdを時間で微分して微分値d(ΔRd)/dtを算出したが、
図9においては、微分値算出部12は、速度差分値ΔRdを位置で微分して、微分値d(ΔRd)/dnを算出する。したがって、乗算器13においては、この微分値d(ΔRd)/dnに係数a(ここではa=1)を乗じる演算が行われる。また、加算器14においては、差分値算出部11で算出された速度差分値ΔRdと、乗算器13で算出されたd(ΔRd)/dnとを加算する演算が行われる。したがって、挟み込み判定部15は、ΔRd+d(ΔRd)/dnを閾値Thと比較して、挟み込みの有無を判定する。
【0049】
以上のような第4実施形態においても、第3実施形態と同様に、モータ速度の差分値ΔRdに、差分値の微分値d(ΔRd)/dnを加算することで、この加算値ΔRd+d(ΔRd)/dnは、差分値ΔRdに比べて変化の度合いが大きくなる。したがって、当該加算値を閾値Thと比較することにより、従来の挟み込み検出時点よりも早い時点で、挟み込みを検出することが可能となり、挟み込み検出までの時間を短縮することができる。
【0050】
上述したように、本発明においては、モータ4の電流または速度の現在値と過去値との差分を算出する差分値算出部11と、この差分値算出部11で算出された差分値の微分値を算出する微分値算出部12と、これらの差分値と微分値とを加算する加算部14とを設け、差分値+微分値を閾値Thと比較することにより、バックドア51における挟み込みの有無を判定している。このため、挟み込みによってバックドア51に撓みが生じる場合であっても、差分値のみを用いて挟み込みの有無を判定する従来の方式に比べて、挟み込みを迅速に検出することが可能となる。
【0051】
本発明では、上述した実施形態以外にも、種々の実施形態を採用することが可能である。たとえば、
図2や
図5においては、モータ電流の差分値とその微分値とを加算し、当該加算値を閾値と比較して、挟み込みの有無を判定したが、モータ電流に代えてモータトルクを用いてもよい。すなわち、「モータトルク=モータ電流×トルク定数」が成立する場合、モータトルクはモータ電流と比例関係にあるため、モータ電流の差分値の代わりに、モータトルクの差分値を算出し、当該差分値とその微分値とを加算した値を、閾値と比較することにより、挟み込みの有無を判定することができる。
【0052】
また、上述した実施形態では、バックドア51に対して1つのモータ4を設けた例を挙げたが、バックドア51の左右両側にそれぞれモータを設けてもよい。この場合、バックドア制御装置100は、2つのモータのそれぞれに対応して設けられる。なお、バックドア51の左右両側をモータで駆動すれば、片側だけをモータで駆動する場合と比べて、挟み込み発生時のバックドア51の撓み量は減少するが、それでも撓みを完全になくすことはできないので、依然として解決すべき課題は残る。
【0053】
さらに、上述した実施形態では、開閉体として車両のバックドアを例に挙げたが、本発明は、一端が回転軸に支持され、モータにより回転軸を中心にして回転する回転形開閉体であれば、バックドア以外にも適用が可能である。たとえば、車庫に設けられる回転形ゲートの制御などにも、本発明は適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 制御部
2 モータ駆動部
3 操作部
4 モータ
5 ドア開閉機構
6 電圧検出部
7 電流検出部
8 角度検出部
10 電流補正部
11 差分値算出部
12 微分値算出部
13 乗算器
14 加算器
15 挟み込み判定部
50 車両
51 バックドア(開閉体)
100 バックドア制御装置(開閉体制御装置)
I モータ電流
R モータ速度
ΔId モータ電流の差分値
ΔRd モータ速度の差分値
d(ΔId)/dt、d(ΔId)/dn 電流差分値の微分値
d(ΔRd)/dt、d(ΔRd)/dn 速度差分値の微分値
Th 閾値
P、Q 障害物