IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社小松製作所の特許一覧

<>
  • 特開-作業機械および作業機械の制御方法 図1
  • 特開-作業機械および作業機械の制御方法 図2
  • 特開-作業機械および作業機械の制御方法 図3
  • 特開-作業機械および作業機械の制御方法 図4
  • 特開-作業機械および作業機械の制御方法 図5
  • 特開-作業機械および作業機械の制御方法 図6
  • 特開-作業機械および作業機械の制御方法 図7
  • 特開-作業機械および作業機械の制御方法 図8
  • 特開-作業機械および作業機械の制御方法 図9
  • 特開-作業機械および作業機械の制御方法 図10
  • 特開-作業機械および作業機械の制御方法 図11
  • 特開-作業機械および作業機械の制御方法 図12
  • 特開-作業機械および作業機械の制御方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093640
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】作業機械および作業機械の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20240702BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20240702BHJP
   F16D 55/40 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B60T7/12 C
B60T8/17 Z
F16D55/40 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210154
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹野 陽
【テーマコード(参考)】
3D246
3J058
【Fターム(参考)】
3D246AA14
3D246BA02
3D246DA01
3D246GA22
3D246GB27
3D246GC16
3D246HA44A
3D246HA51A
3D246HA61A
3D246HB13A
3D246JA12
3D246JB51
3D246LA33Z
3D246LA40Z
3D246LA43Z
3D246LA54Z
3J058AA44
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA59
3J058AA70
3J058AA77
3J058AA87
3J058BA03
3J058BA41
3J058CC03
3J058CD05
3J058CD06
3J058DB18
3J058DB21
3J058FA17
3J058FA19
(57)【要約】
【課題】湿式多板ディスク構造のブレーキの制動特性の変化に対応する処置を容易に講ずることが可能な作業機械および作業機械の制御方法を提供する。
【解決手段】ホイールローダ100は、エンジン31の動力で走行する走行体2と、走行体2を制動する湿式多板ディスク構造のブレーキ回路42a、42bと、ブレーキ回路42a、42bの動作を制御するEPC弁46と、EPC弁46を動作させる指令電流を出力するコントローラ26とを備える。コントローラ26は、指令電流を出力して当該指令電流の較正を行う較正モードを有する。コントローラ26は、車両休止状態であるか否かを判断し、車両休止状態である場合に、較正モードを実行する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の動力で走行する走行体と、
前記走行体を制動する湿式多板ディスク構造のブレーキ回路と、
前記ブレーキ回路の動作を制御する制御弁と、
前記制御弁を動作させる指令電流を出力するコントローラとを備え、
前記コントローラは、前記指令電流を出力して当該指令電流の較正を行う較正モードを有し、
前記コントローラは、
車両休止状態であるか否かを判断し、
前記車両休止状態である場合に、前記較正モードを実行する、作業機械。
【請求項2】
パーキングブレーキと、
作業機の操作信号を無効にする作業機ロックスイッチとを備え、
前記コントローラは、前記駆動源の稼働状態、前記パーキングブレーキの状態および前記作業機ロックスイッチの状態に基づいて前記車両休止状態であるか否かを判断する、請求項1記載の作業機械。
【請求項3】
前記コントローラは、操作指示を受け付けて、前記指令電流を出力して当該指令電流の較正を行う手動較正モードを有する、請求項1記載の作業機械。
【請求項4】
前記ブレーキ回路に作動油を供給する際の油圧を計測するセンサをさらに備え、
前記コントローラは、前記指令電流の値を増加させて、前記センサの油圧が所定値に到達した際の電流値を記憶する、請求項1記載の作業機械。
【請求項5】
前記走行体の周囲における物体を検出する物体センサをさらに備え、
前記コントローラは、前記較正モード以外の場合に前記物体センサの検出結果に基づいて前記指令電流を出力する、請求項1記載の作業機械。
【請求項6】
前記コントローラは、前記コントローラから発せられた校正作業の指令またはオペレータにより入力された校正作業の指令に基づいて前記車両休止状態にあるか否かを判断する、請求項1記載の作業機械。
【請求項7】
前記コントローラは、前記作業機械における使用頻度の高低の判断結果に基づいて前記校正作業の指令を発する、請求項6記載の作業機械。
【請求項8】
車両休止状態であるか否かを判断するステップと、
前記車両休止状態である場合に、走行体を制動する湿式多板ディスク構造のブレーキ回路の動作を制御する制御弁に対して出力する指令電流を増加させるステップと、
前記ブレーキ回路に供給される作動油の圧力を取得するステップと、
取得結果に基づいて前記作動油の圧力が所定値となるか否かを判断するステップと、
前記作動油の圧力が所定値となった場合に、当該指令電流を記憶するステップとを備える、作業機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業機械および作業機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、作業機械の一例であるホイールローダにおいて、後方の障害物を検出し自動で停止する自動停止システムが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。具体的には、ホイールローダ等は油圧駆動式ブレーキを用いてコントローラからの指令に基づきブレーキを制動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-150637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホイールローダ等の作業機械に広く用いられている湿式多板ディスク構造のブレーキにおいては、経時的劣化でブレーキディスク等が摩耗することによりブレーキの制動が効き始めるまでの時間等が変化する。このようにディスク構造の経時的劣化、環境による作動油の変化等によりブレーキの制動特性は変化するため変化に対応する処置を容易に講ずることができるようにする必要がある。
【0005】
本開示の目的は、上記の課題を解決するためのものであって、湿式多板ディスク構造のブレーキの制動特性の変化に対応する処置を容易に講ずることが可能な作業機械および作業機械の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の作業機械は、駆動源の動力で走行する走行体と、走行体を制動する湿式多板ディスク構造のブレーキ回路と、ブレーキ回路の動作を制御する制御弁と、制御弁を動作させる指令電流を出力するコントローラとを備える。コントローラは、指令電流を出力して当該指令電流の較正を行う較正モードを有する。コントローラは、車両休止状態であるか否かを判断し、車両休止状態である場合に、較正モードを実行する。
【0007】
本開示の一の作業機械の制御方法は、車両休止状態であるか否かを判断するステップと、車両休止状態である場合に、走行体を制動する湿式多板ディスク構造のブレーキ回路の動作を制御する制御弁に対して出力する指令電流を増加させるステップと、ブレーキ回路に供給される作動油の圧力を取得するステップと、取得結果に基づいて作動油の圧力が所定値となるか否かを判断するステップと、作動油の圧力が所定値となった場合に、当該指令電流を記憶するステップとを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、湿式多板ディスク構造のブレーキの制動特性の変化に対応する処置を容易に講ずることが可能な作業機械および作業機械の制御方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態におけるホイールローダ100(作業機械の一例)の構成を示す側面図である。
図2図1のホイールローダの制動システムを示すブロック図である。
図3図2の制動装置の構成を示す油圧回路図である。
図4図2のブレーキ回路の構造を説明する図である。
図5図2のブレーキ回路の作動について説明する図である。
図6図2のコントローラの構成を示すブロック図である。
図7】実施形態に従うホイールローダ100の制御動作を示すフロー図である。
図8】実施形態に従うホイールローダ100の後方に物体Mが存在する状態を示す図である。
図9】実施形態に従う自動ブレーキを実施した場合の各種情報について説明する図である。
図10】実施形態に従うEPC弁46に出力する指令電流とシャトル弁ユニット47に供給される作動油の圧力との関係について説明する図である。
図11】実施形態に従うホイールローダ100の較正モードのフロー図である。
図12】実施形態に従う較正処理部92による較正処理のサブルーチンフロー図である。
図13】実施形態に従うホイールローダ100の別の較正モードのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
明細書および図面において、同一の構成要素または対応する構成要素には、同一の符号を付し、重複する説明を繰り返さない。また、図面では、説明の便宜上、構成を省略または簡略化している場合もある。また、実施の形態と変形例との少なくとも一部は、互いに任意に組み合わされてもよい。
【0011】
<ホイールローダの構成>
本実施形態におけるホイールローダ100の構成について図1を用いて説明する。
【0012】
図1は、本開示の一実施形態におけるホイールローダ100(作業機械の一例)の構成を示す側面図である。図1に示されるように、本実施形態におけるホイールローダ100は、車両本体1と、物体センサ25aとを有している。車両本体1は、走行体2と、作業機3とを有している。作業機3は、走行体2に配置されている。走行体2は、車体フレーム10と、一対のフロントタイヤ4と、キャブ5と、エンジンルーム6と、一対のリアタイヤ7と、ステアリングシリンダ9とを有している。ホイールローダ100は、作業機3を用いて土砂積み込み作業などを行なう。
【0013】
なお、以下の説明において、「前」、「後」、「右」、「左」、「上」、および「下」とはキャブ5内の運転席5sに着座したオペレータから前方を見た状態を基準とする方向を示す。図1では、前後方向をZで示し、前方向を示すときはZf、後方向を示すときはZbで示す。
【0014】
車体フレーム10は、いわゆるアーティキュレート(揺動)式であり、フロントフレーム11と、リアフレーム12と、連結軸部13とを有している。フロントフレーム11は、リアフレーム12の前方向Zfに配置されている。連結軸部13は、車体フレーム10における左右方向(車幅方向)の中央に設けられており、フロントフレーム11と、リアフレーム12とを互いに揺動可能に連結している。一対のフロントタイヤ4は、フロントフレーム11の左右に取り付けられている。また、一対のリアタイヤ7は、リアフレーム12の左右に取り付けられている。
【0015】
作業機3は、図示しない作業機ポンプからの作動油によって駆動される。作業機3は、ブーム14と、バケット15と、リフトシリンダ16と、バケットシリンダ17と、ベルクランク18とを有している。ブーム14は、フロントフレーム11に装着されている。バケット15は、ブーム14の先端に取り付けられている。
【0016】
リフトシリンダ16およびバケットシリンダ17は、油圧シリンダである。リフトシリンダ16の一端はフロントフレーム11に取り付けられており、リフトシリンダ16の他端はブーム14に取り付けられている。リフトシリンダ16の伸縮により、ブーム14が上下に揺動する。バケットシリンダ17の一端はフロントフレーム11に取り付けられており、バケットシリンダ17の他端はベルクランク18を介してバケット15に取り付けられている。バケットシリンダ17が伸縮することによって、バケット15が上下に揺動する。
【0017】
キャブ5は、リアフレーム12上に載置されている。キャブ5の内部には、オペレータが着座するための運転席5s、ステアリング操作のためのハンドル、作業機3を操作するためのレバー、各種のスイッチ、表示装置などが配置されている。エンジンルーム6は、キャブ5の後方向Zbであってリアフレーム12上に配置されており、エンジン31(図2)を収納している。
【0018】
<ホイールローダ100の制動システム>
次に、本実施形態におけるホイールローダ100の制動システムについて図2図6を用いて説明する。
【0019】
図2は、図1のホイールローダの制動システムを示すブロック図である。図3は、図2の制動装置の構成を示す油圧回路図である。図4は、図2のブレーキ回路の構造を説明する図である。図5は、図2のブレーキ回路の作動について説明する図である。図6は、図2のコントローラの構成を示すブロック図である。
【0020】
図2に示されるように、ホイールローダ100の制動システムは、駆動装置21と、制動装置22と、操作装置23と、動作部24と、検出装置25と、コントローラ26とを有している。
【0021】
駆動装置21は、ホイールローダ100の駆動を行なう。制動装置22は、ホイールローダ100の制動を行なう。操作装置23は、オペレータによって操作される。動作部24は、作業機3およびステアリングの各々の動作を行なう。検出装置25は、車両本体1の周囲の物体(障害物)などを検出する。コントローラ26は、操作装置23に対するオペレータの操作および検出装置25による検出に基づいて、駆動装置21、制動装置22および動作部24の操作を行なう。
【0022】
(駆動装置21)
図2に示されるように、駆動装置21は、エンジン31と、HST32と、トランスファ33と、アクスル34と、フロントタイヤ4と、リアタイヤ7とを有している。
【0023】
エンジン31は、たとえばディーゼル式のエンジンであり、エンジン31で発生した駆動力がHST(Hydro Static Transmission)32のポンプ32aを駆動する。
【0024】
HST32は、ポンプ32aと、モータ32bと、油圧回路32cとを有している。ポンプ32aは、たとえば斜板式可変容量型のポンプであって斜板の角度をソレノイド32dによって変更することができる。ポンプ32aがエンジン31によって駆動されることにより作動油を吐出する。吐出された作動油は、油圧回路32cを通ってモータ32bに送られる。モータ32bは、たとえば斜板式ポンプであって、斜板の角度をソレノイド32eによって変更することができる。
【0025】
油圧回路32cは、ポンプ32aとモータ32bとを接続している。油圧回路32cは、第1駆動回路32c1と、第2駆動回路32c2とを有している。作動油が、ポンプ32aから第1駆動回路32c1を通じてモータ32bに供給されることにより、モータ32bが一方向(たとえば、前進方向)に駆動される。作動油が、ポンプ32aから第2駆動回路32c2を通じてモータ32bに供給されることにより、モータ32bが他方向(たとえば、後進方向)に駆動される。なお、作動油の第1駆動回路32c1または第2駆動回路32c2への吐出方向はソレノイド32dによって変更することができる。
【0026】
トランスファ33は、エンジン31からの出力を前後のアクスル34に分配する。
前側のアクスル34には一対のフロントタイヤ4が接続されており、分配されたエンジン31からの出力で回転する。また、後側のアクスル34には一対のリアタイヤ7が接続されており、分配されたエンジン31からの出力で回転する。
【0027】
(制動装置22)
制動装置22は、制動部40と、シャットオフ弁45とを有している。制動部40は、ブレーキペダル54の操作に基づく車両本体1の制動の実施と、コントローラ26からの指令に基づく車両本体1の自動制動制御の実施とを行なう。シャットオフ弁45は、制動部40を、自動制動制御による制動力を発揮可能または発揮不可能な状態にする。
【0028】
制動部40は、ブレーキ弁ユニット41と、ブレーキ回路42a、42b(サービスブレーキの一例)と、パーキングブレーキ43と、作動油供給路44a、44bと、EPC(Electric Proportional Valve)弁46と、シャトル弁ユニット47と、タンク48とを有している。
【0029】
作動油供給路44a、44bには、アキュームレータ、ポンプなどが接続されており、作動油が供給される。
【0030】
図3に示されるように、ブレーキ弁ユニット41は、後述するブレーキペダル54によって操作される。ブレーキ弁ユニット41は、リア用ブレーキ弁41aと、フロント用ブレーキ弁41bとを有している。リア用ブレーキ弁41aおよびフロント用ブレーキ弁41bの各々は、3つのポートを有する3位置切替弁である。
【0031】
リア用ブレーキ弁41aの第1ポートは、アキュームレータ49aを介して作動油供給路44aに接続されている。また、リア用ブレーキ弁41aの第2ポートは、タンク48に接続されている。リア用ブレーキ弁41aの第3ポートは、シャトル弁ユニット47のリア用シャトル弁47aに接続されている。
【0032】
リア用ブレーキ弁41aは、第1状態において第1ポートと第3ポートを繋ぎ、作動油供給路44aとリア用シャトル弁47aとを接続し、リア用シャトル弁47aに作動油を供給する。リア用ブレーキ弁41aは、第2状態において、全てのポートを閉じる。リア用ブレーキ弁41aは、第3状態において第2ポートと第3ポートとを接続し、リア用シャトル弁47aとリア用ブレーキ弁41aとの間の作動油をタンク48に排出する。リア用ブレーキ弁41aは、第2状態および第3状態において、リア用シャトル弁47aへの作動油の供給を停止する。
【0033】
フロント用ブレーキ弁41bの第1ポートは、アキュームレータ49bを介して作動油供給路44bに接続されている。また、フロント用ブレーキ弁41bの第2ポートは、タンク48に接続されている。フロント用ブレーキ弁41bの第3ポートは、シャトル弁ユニット47のフロント用シャトル弁47bに接続されている。
【0034】
フロント用ブレーキ弁41bは、第1状態において第1ポートと第3ポートとを繋ぎ、作動油供給路44bとフロント用シャトル弁47bとを接続し、フロント用シャトル弁47bに作動油を供給する。フロント用ブレーキ弁41bは、第2状態において、全てのポートを閉じる。フロント用ブレーキ弁41bは、第3状態において第2ポートと第3ポートとを接続し、フロント用シャトル弁47bとフロント用ブレーキ弁41bとの間の作動油をタンク48に排出する。フロント用ブレーキ弁41bは、第2状態および第3状態において、フロント用シャトル弁47bへの作動油の供給を停止する。
【0035】
ブレーキペダル54の操作量に応じてリア用ブレーキ弁41aおよびフロント用ブレーキ弁41bの開度が調整され、シャトル弁ユニット47に供給される作動油の量が変更される。たとえばブレーキペダル54の操作量が大きい場合には、リア用ブレーキ弁41aおよびフロント用ブレーキ弁41bからシャトル弁ユニット47に供給される作動油の量が多くなる。
【0036】
ブレーキ回路42aは、リアのアクスル34(図2)に設けられている。ブレーキ回路42aは、リア用シャトル弁47aに接続されている。ブレーキ回路42bは、フロントのアクスル34(図2)に設けられている。ブレーキ回路42bは、フロント用シャトル弁47bに接続されている。
【0037】
ブレーキ回路42a、42bは、油圧式のブレーキである。ブレーキ回路42aは、リア用シャトル弁47aから供給される作動油の量が多いまたは圧が大きいほど制動力が強くなる。ブレーキ回路42bは、フロント用シャトル弁47bから供給される作動油の量が多いまたは圧が大きいほど制動力が強くなる。
【0038】
シャットオフ弁45は、作動油供給路44bに接続されている。シャットオフ弁45は、4つのポートを有しており、開状態および閉状態の2状態をとるソレノイド弁である。シャットオフ弁45の第1ポートは、作動油供給路44bに接続されている。シャットオフ弁45の第2ポートはタンク48に接続されている。シャットオフ弁45の第3ポートは、EPC弁46に接続されている。シャットオフ弁45の第4ポートは、開状態においてエアーが通り、閉状態において遮蔽される。
【0039】
シャットオフ弁45は、コントローラ26からの指示に基づいて開閉される。具体的には、シャットオフ弁45は、コントローラ26からの開指令によって通電がされたときに開状態となり、コントローラ26からの閉指令によって通電が停止されたときに閉状態となる。
【0040】
シャットオフ弁45は、開状態において、第1ポートと第3ポートを接続し、作動油供給路44bからEPC弁46に作動油を供給する。また、シャットオフ弁45は、開状態において、エアーが通る状態の第4ポートとタンク48に接続された第2ポートを接続する。
【0041】
シャットオフ弁45は、閉状態において、第2ポートと第3ポートを接続し、シャットオフ弁45とEPC弁46の間の作動油をタンク48へ排出する。また、シャットオフ弁45は、閉状態において、第1ポートおよび第4ポートを閉じる。これにより、シャットオフ弁45は、閉状態において、作動油供給路44bからEPC弁46への作動油の供給を停止する。
【0042】
本実施の形態では、コントローラ26は、たとえば、車両本体1がたとえば後方向に走行しているときにのみシャットオフ弁45を開状態にする。車両本体1の後方向への移動は、走行方向切替装置52におけるレバー位置を示す信号とアクセル55のアクセル操作量を示す開度信号とに基づいてコントローラ26が判断を行う。
【0043】
EPC弁46は、シャットオフ弁45とシャトル弁ユニット47を接続する流路に配置されている。EPC弁46は、3つのポートを有するソレノイド弁である。EPC弁46の第1ポートは、シャットオフ弁45に接続されている。EPC弁46の第2ポートは、タンク48に接続されている。EPC弁46の第3ポートは、シャトル弁ユニット47に接続されている。
【0044】
EPC弁46は、開状態において、第1ポートと第3ポートとを接続し、シャットオフ弁45から供給される作動油をシャトル弁ユニット47に供給する。EPC弁46の開度は、コントローラ26からの指示に基づいて調整される。EPC弁46の開度が調整されることにより、シャトル弁ユニット47に供給される作動油の量が変更される。
【0045】
EPC弁46は、閉状態において、第1ポートが閉じられ、第2ポートと第3ポートとを接続し、EPC弁46からシャトル弁ユニット47までの流路の作動油をタンク48に排出する。これにより、EPC弁46は、閉状態において、シャットオフ弁45からシャトル弁ユニット47への作動油の供給を停止する。
【0046】
本実施形態では、コントローラ26は、ホイールローダ100が所定方向(たとえば後方向Zb)に走行し、かつ走行方向の物体と衝突のリスクが高いと判定したときにEPC弁46を開状態に制御する。
【0047】
シャトル弁ユニット47は、リア用シャトル弁47aと、フロント用シャトル弁47bとを有している。リア用シャトル弁47aは、リア用ブレーキ弁41aを介して供給される作動油と、EPC弁46を介して供給される作動油のうち圧力が大きい方の作動油をブレーキ回路42aに供給する。フロント用シャトル弁47bは、フロント用ブレーキ弁41bを介して供給される作動油と、EPC弁46を介して供給される作動油とのうち圧力が大きい方の作動油をブレーキ回路42bに供給する。
【0048】
このような構成により、ブレーキペダル54が操作されずブレーキ弁ユニット41から作動油が供給されない場合でも、コントローラ26からの指示によってシャットオフ弁45およびEPC弁46が開状態にされると、リア用シャトル弁47aおよびフロント用シャトル弁47bからブレーキ回路42a、42bに作動油が供給され、自動制動制御が実施される。ブレーキ回路42a、42bにより制動状態と非制動状態とを切り替えられるブレーキは、たとえば湿式多板ディスクブレーキである。
【0049】
図4に示されるように、本例においてはリアに設けられたブレーキ回路42aの構造が示されている。
【0050】
湿式多板ディスクブレーキは、複数のディスク89と、プレート85と、ピストン83)と、エンドプレート88と、スプリング84とを主に有している。ブレーキシリンダは、ディファレンシャルハウジング81とベアリングキャリア82とからなり、ピストン83が組み込まれている。プレート85およびエンドプレート88とはアスクルハウジング87のスプライン部に結合されている。
【0051】
複数のディスク89の各々は、スプライン部によりリアタイヤ7への出力軸に固定されている。プレート85は、ディスク89と交互に配置され、スプライン部によりアスクルハウジング87に固定され回転しない。ピストン83は、ブレーキ回路42aに供給される作動油の油圧により作動する。なお、リアに設けられたブレーキ回路42aの構造について説明したが湿式多板ディスクブレーキの構造についてはフロントタイヤ4に設けられたブレーキ回路42bについても同様である。
【0052】
図5(A)に示されるように、作動油がブレーキ回路42a、42bへ供給されてブレーキシリンダ内の油路を入ると、ブレーキシリンダ内における作動油の油圧Pによりピストン83がディスク89側へ作動することにより、プレート85が複数のディスク89の間で挟み込まれて押圧される。これにより湿式多板ディスクブレーキは作動し、制動状態となる。
【0053】
図5(B)に示されるように、ブレーキ回路42a、42bへの作動油の供給が停止されると、スプリング84の反発力(復元力)によりピストン83は元の位置に復帰し、プレート85とディスク89との押圧状態が解除される。これにより湿式多板ディスクブレーキは非制動状態となる。
【0054】
図2に示されるように、パーキングブレーキ43は、トランスファ33に設けられている。パーキングブレーキ43としては、たとえば、制動状態と非制動状態とを切り替え可能な湿式多段式のブレーキ、ディスクブレーキなどを用いることができる。
【0055】
(操作装置23)
操作装置23は、キャブ5(図1)内に搭乗したオペレータにより操作される。操作装置23は、作業機操作部51と、走行方向切替装置52と、パーキングスイッチ53と、ブレーキペダル54と、アクセル55と、作業機ロックスイッチ56と、較正モードスイッチ57とを有している。
【0056】
作業機操作部51は、キャブ5内に設けられている。作業機操作部51は、作業機3の動作を操作するものであり、たとえばオペレータにより操作される操作レバーである。作業機操作部51の操作量は、たとえばポテンショメータ、ホールIC(Integrated Circuit)などによって検出される。作業機操作部51が操作されると、作業機操作部51の操作量を示す操作信号がコントローラ26に送信される。コントローラ26は、操作信号を、リフトシリンダ16およびバケットシリンダ17用のEPC弁62に操作指令として送信する。
【0057】
走行方向切替装置52は、キャブ5内に設けられている。オペレータは、走行方向切替装置52を操作してホイールローダ100の走行方向を設定する。走行方向切替装置52はたとえばFNRレバーである。FNRレバーは、前進(F)、中立(N)、または後進(R)のレバー位置をとることができる。FNRレバーのレバー位置を示す操作信号がコントローラ26に送信され、コントローラ26は、ソレノイド32dを制御することにより走行方向を前進、中立、または後進に切り替える。
【0058】
FNRレバーのレバー位置を検出する位置検出センサとして、ポテンショメータが用いられてもよいし、前進位置、後進位置および中立位置ごとにスイッチが設けられていてもよい。また、ポテンショメータとスイッチのうち一方が誤操作しても検出可能なように双方が設けられていてもよい。
【0059】
ブレーキペダル54は、キャブ5内に設けられている。ブレーキペダル54は、ブレーキ弁ユニット41のリア用ブレーキ弁41aおよびフロント用ブレーキ弁41bの開度を調整する。
【0060】
アクセル55は、キャブ5内に設けられている。オペレータは、アクセル55を操作してスロットル開度を設定する。アクセル55は、アクセル操作量を示す開度信号を生成してコントローラ26へ送信する。コントローラ26は、送信される信号に基づいてエンジン31の回転速度を制御する。
【0061】
パーキングスイッチ53は、キャブ5内に設けられており、オン・オフに状態を切り替え可能なスイッチであり、その状態を示す信号をコントローラ26に送信する。コントローラ26は、送信される信号に基づいてパーキングブレーキ43を制動状態または非制動状態にする。
【0062】
作業機ロックスイッチ56は、キャブ5内に設けられており、オン・オフに状態を切り替え可能なスイッチであり、その状態を示す信号をコントローラ26に送信する。コントローラ26は、送信される信号に基づいて作業機3の動作を操作する操作信号を無効にする。たとえばコントローラ26は、当該作業機ロックスイッチ56がオン状態の場合には、リフトシリンダ16およびバケットシリンダ17用のEPC弁62への閉指令を出力する。これによりEPC弁62は閉状態となり、作業機3を動作させることはできない状態になる。
【0063】
較正モードスイッチ57は、キャブ5内に設けられており、オン・オフに状態を切り替え可能なスイッチであり、その状態を示す信号をコントローラ26に送信する。コントローラ26は、送信される信号に基づいて後述する手動による較正モードの実行を開始する。
【0064】
(検出装置25)
検出装置25は、物体センサ25aと、圧力センサ75とを有している。
【0065】
物体センサ25aは、車両本体1の周囲の物体(障害物)を検出する。物体センサ25aは、ホイールローダ100の走行方向に位置する物体を検出する。具体的には物体センサ25aは、ホイールローダ100が後方向Zbに走行する場合には車両本体1の後方向Zbの物体を検出する後方検出部である。物体センサ25aは、ホイールローダ100が前方向Zfに走行する場合には車両本体1の前方向Zfの物体を検出する前方検出部である。
【0066】
物体センサ25aが後方検出部である場合、後方検出部は、たとえば図1に示すように車両本体1の後端に取り付けられるが、後端以外に取り付けられてもよい。物体センサ25aが前方検出部である場合、前方検出部は、たとえばキャブ5に取り付けられてもよく、フロントフレーム11に取り付けられてもよく、またこれら以外に取り付けられてもよい。
【0067】
物体センサ25aは、たとえばレーザ光を射出して対象物の情報を取得するLiDAR(Light Detection and Ranging)である。物体センサ25aは、電波を射出することにより対象物の情報を取得するRadar(Radio Detection and Ranging)であってもよい。Radarは、たとえば送信アンテナから発したミリ波帯の電波が物体の表面で反射して戻ってくる様子を受信アンテナで検出するミリ波レーダであってもよい。物体センサ25aは、カメラを含む視覚センサであってもよい。物体センサ25aは、赤外線センサであってもよい。
【0068】
物体センサ25aによって検出された情報がコントローラ26に送信され、コントローラ26は、車両本体1の走行方向に物体が存在するか否かを判定する。またコントローラ26は、検出した物体までの距離を算出する。コントローラ26は、検出した物体までの距離などに基づいて、車両本体1がその物体に衝突するリスクが高いか否かを判定してもよい。
【0069】
圧力センサ75は、図3に示されるように、EPC弁46とシャトル弁ユニット47との間の油圧回路における油圧を検出する。本例においては、圧力センサ75は、シャトル弁ユニット47に供給される作動油の圧力を検出する。
【0070】
図2に示されるように、圧力センサ75によって検出された情報がコントローラ26に送信され、コントローラ26は、較正モードにおいて当該情報に基づいて較正処理を実行する。
【0071】
(動作部24)
動作部24は、リフトシリンダ16およびバケットシリンダ17と、EPC弁62と、油圧ポンプ61とを有している。エンジン31の駆動力の一部が、油圧ポンプ61に伝達される。油圧ポンプ61はエンジンにより駆動され、吐出する作動油によってリフトシリンダ16およびバケットシリンダ17を作動させる。油圧ポンプ61から吐出された作動油は、EPC弁62を介して、リフトシリンダ16およびバケットシリンダ17に供給される。
【0072】
EPC弁62は、コントローラ26からの指示に基づいて開閉される。具体的には、EPC弁62は、コントローラ26からの開指令によって通電がされたときに開状態となり、コントローラ26からの閉指令によって通電が停止されたときに閉状態となる。
【0073】
EPC弁62は、開状態において、油圧ポンプ61とリフトシリンダ16およびバケットシリンダ17を接続し、油圧ポンプ61からリフトシリンダ16およびバケットシリンダ17に作動油を供給する。EPC弁62は、閉状態において、油圧ポンプ61からリフトシリンダ16およびバケットシリンダ17への作動油の供給を停止する。
【0074】
(コントローラ26)
コントローラ26は、プロセッサと、メインメモリと、ストレージとを含む。プロセッサはたとえばCPU(Central Processing Unit)などである。メインメモリは、たとえばROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリおよびRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含む。
【0075】
コントローラ26および操作装置23の各々は、ホイールローダ100に搭載されていてもよく、ホイールローダ100の外部に離れて配置されていてもよい。コントローラ26および操作装置23の各々がホイールローダ100の外部に離れて配置されている場合、コントローラ26および操作装置23の各々は、駆動装置21、制動装置22、操作装置23、検出装置25などと無線により接続されていてもよい。コントローラ26は、ホイールローダ100から離れたサーバに格納されていてもよい。また操作装置23がホイールローダ100から離れていることにより、オペレータはホイールローダ100のキャブ5内に搭乗せずに、遠隔でホイールローダ100を操作してもよい。
【0076】
コントローラ26は、ストレージに記憶されているプログラムを読み出してメインメモリに展開し、プログラムに従って所定の処理を実行する。コントローラ26は、衝突検出用コントローラとHST用コントローラとに分かれていてもよい。衝突検出用コントローラとHST用コントローラとは別々のCPUを有していてもよい。またプログラムは、ネットワークを介してコントローラ26に配信されてもよい。
【0077】
図6に示されるように、コントローラ26は、たとえば検知コントローラ180と、車体コントローラ90と、エンジンコントローラ74とを有する。
【0078】
検知コントローラ180と車体コントローラ90とエンジンコントローラ74の各々は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、ROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリおよびRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含むメインメモリと、ストレージを含む。
【0079】
検知コントローラ180と車体コントローラ90とエンジンコントローラ74とは、ストレージに記憶されているプログラムを読み出してメインメモリに展開し、プログラムに従って所定の処理を実行する。なお、実施形態では、検知コントローラ180と車体コントローラ90とエンジンコントローラ74との各々がCPUを有していると記載したが、検知コントローラ180と車体コントローラ90とエンジンコントローラ74とが全体で1つのCPUを有していてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して検知コントローラ180と車体コントローラ90とエンジンコントローラ74とに配信されてもよい。
【0080】
エンジンコントローラ74は、エンジン31(図2)の状態を制御する。具体的にはエンジン31の回転速度を制御する。エンジンコントローラ74は、エンジン31の稼働状態を後述する車体コントローラ90の休止状態判定部91に通知する。たとえばエンジンコントローラ74は、エンジン31の稼働状態として作業中の動作状態と作業が停止している休止状態とをそれぞれ休止状態判定部91に通知する。
【0081】
検知コントローラ180は、物体センサ25aで検出された情報に基づいて物体の存在を検出する。
【0082】
車体コントローラ90は、検知コントローラ180の検出結果に基づいて自動ブレーキの制御を実施する。
【0083】
検知コントローラ180は、物体情報取得部181と、物体判定部182とを有する。
物体情報取得部181は、物体センサ25aによって検出された後方に関する情報を取得する。物体判定部182は、取得した後方に関する情報に基づいて、後方に物体が存在するか否かを判定する。物体判定部182による判定結果は、後述するEPC弁制御部94に送信される。
【0084】
車体コントローラ90は、休止状態判定部91と、較正処理部92と、EPC弁制御部94とを有する。
【0085】
実施形態では、後進時において後方に物体を検出した場合に自動ブレーキの制御を実施する。たとえばフロントタイヤ4およびリアタイヤ7が回転していない停止状態であっても、走行方向切替装置52が後進の位置をとっている場合、車両本体1が後進状態であると判定してもよい。
【0086】
EPC弁制御部94は、車両本体1が後進していると判定された場合に、物体判定部182によって車両本体1の後方に物体が存在すると判定されたとき、EPC弁46に開指令となる指令電流を出力する。EPC弁46の開度は、指令電流により調整される。本例においては、予め所定の値(後述するIs)となるように設定されている。なお、検出された物体までの距離に基づいて調整されてもよい。たとえば検出された物体までの距離から物体の手前で停止する減速度を算出し、その減速度を発揮する開度になるようにEPC弁制御部94がEPC弁46に開指令(指令電流)を送信してもよい。
【0087】
開指令(指令電流)に基づいてEPC弁46のソレノイドが操作され、開状態となり、EPC弁46からリア用シャトル弁47aとフロント用シャトル弁47bに作動油が供給される。リア用シャトル弁47aにおいて、リア用ブレーキ弁41aからの作動油とEPC弁46からの作動油のうち圧力が高い方がブレーキ回路42aに供給され、制動力が発揮される。また、フロント用シャトル弁47bにおいて、フロント用ブレーキ弁41bからの作動油とEPC弁46からの作動油のうち圧力が高い方がブレーキ回路42aに供給され、制動力が発揮される。これにより、オペレータによってブレーキペダル54の操作が行われない場合であっても自動ブレーキが実施されて制動力が発揮される。後述する図7に示すように物体Mの手前で車両本体1を停止することができる。停止した状態の車両本体1が二点鎖線で示されている。
【0088】
なお、自動ブレーキによる制動力が発揮されない場合であっても、オペレータがブレーキペダル54を操作し、ブレーキ弁ユニット41から作動油がシャトル弁ユニット47に供給されるとブレーキ回路42a、42bが作動する。
【0089】
休止状態判定部91は、ホイールローダ100が車両休止状態か否かを判定する。具体的には、休止状態判定部91は、エンジンコントローラ74からのエンジンの稼働状態、作業機ロックスイッチ56の状態、パーキングスイッチ53の状態に基づいて車両休止状態か否かを判定する。たとえば、休止状態判定部91は、エンジンコントローラ74からのエンジンの稼働状態が休止状態、作業機ロックスイッチ56の状態がオン状態、パーキングスイッチの状態がオン状態に基づいて車両休止状態と判定する。
【0090】
較正処理部92は、休止状態判定部91の判定結果に基づいて車両休止状態である場合に較正モードを実行する。較正モードは、圧力センサ75の検出結果に基づいてEPC弁46に開指令となる指令電流を較正する処理である。較正処理部92における較正モードについては後述する。
【0091】
<動作>
次に、実施形態に従うホイールローダ100の制御動作について説明する。
【0092】
図7は、実施形態に従うホイールローダ100の制御動作を示すフロー図である。図6に示されるように、物体判定部182が車両本体1の後方に物体が存在するか否かを判定する(ステップS2:図7)。
【0093】
次に、ステップS2において、物体判定部182は、車両本体1の後方に物体が存在すると判定した場合(ステップS2においてYES)には、EPC弁制御部94がEPC弁46に開指令(指令電流)を送信する(ステップS4:図7)。これにより、EPC弁46のソレノイドが操作され、開状態となり、EPC弁46からリア用シャトル弁47aとフロント用シャトル弁47bを介してブレーキ回路42a、42bに作動油が供給され、自動ブレーキによる制動力が発揮される。
【0094】
そして、処理を終了する(エンド:図7)。
一方で、ステップS2において、物体判定部182が車両本体1の後方に物体が存在しないと判定した場合(ステップS2においてNO)には、上記ステップS2の状態を維持する。
【0095】
図8は、実施形態に従うホイールローダ100の後方に物体Mが存在する状態を示す図である。図8に示されるように、車両本体1が後方に走行している状態において、後方に物体Mを検出した場合には、自動ブレーキによって車両本体1を物体Mの手前で停止することができる。
【0096】
図9は、実施形態に従う自動ブレーキを実施した場合の各種情報について説明する図である。
【0097】
図9(A)には、物体センサ25aで検出する物体Mと車両本体1との検知距離が示されている。本例においては、車両本体1と物体Mとの距離がDsとなった場合に制動動作を開始する場合が示されている。具体的には、時刻T1において車両本体1と物体Mとの距離がDsとなった場合が示されている。
【0098】
図9(B)には、EPC弁46を制御する指令電流Isが示されている。具体的には、時刻T1以降において指令電流がIsとなるようにフィードフォワードにより制御されている場合が示されている。
【0099】
図9(C)には、シャトル弁ユニット47に供給される作動油の圧力が示されている。本例においては、指令電流Isに対して作動油の圧力Psに制御されている場合が示されている。当該シャトル弁ユニット47に供給される作動油に従ってブレーキ回路42a、42bにより自動ブレーキの制御が実施される。
【0100】
図9(D)には、車両本体1の車速が示されている。本例においては、車両本体1が後方に車速Vsで走行している状態において、自動ブレーキの制御により徐々に車速が減速されて停止する場合が示されている。
【0101】
<較正モード>
図10は、実施形態に従うEPC弁46に出力する指令電流とシャトル弁ユニット47に供給される作動油の圧力との関係について説明する図である。
【0102】
図10に示されるように、上記したディスク構造の経時的劣化、環境による作動油の変化等によりブレーキの制動特性は変化する。つまりディスク構造の経時的劣化等により指令電流値に対する作動油の圧力が変動する。具体的には、図4および図5に示される湿式多板ディスク構造のブレーキにおいては、経時的劣化でブレーキディスク等が摩耗することにより、プレート85とディスク89との間の隙間が大きくなる。
【0103】
このため図10に示されるように、経時的劣化後において初期と同じ作動油の圧力Psを得るためには、初期の指令電流Isよりも多い指令電流ImをEPC弁46に出力する必要がある。そこで湿式多板ディスク構造のブレーキの制動特性の変化に対応する処置を容易に講ずることができるように指令電流を較正する必要がある。
【0104】
また図3に示されるEPC弁46における戻りばね46aのばね特性は初期稼働(たとえば100時間程度)で変化する。戻りばね46aのばね特性が変化すると、EPC弁46を通じてブレーキ回路42a、42bへ供給される作動油の圧力が変化する。このためブレーキの制動特性の変化に対応する処置を容易に講ずることができるように指令電流を較正する必要がある。
【0105】
この点で、実施形態における較正モードにおいては、指令電流を増加させてシャトル弁ユニット47に供給される作動油の圧力がPsとなる指令電流が検出される。当該較正モードを繰り返し実行することにより湿式多板ディスク構造のブレーキの制動特性の変化に対応する処置を容易に講ずることが可能である。
【0106】
図11(A)、(B)は、実施形態に従うホイールローダ100の較正モードのフロー図である。図11(A)は、自動較正におけるフロー図を示し、図11(B)は、マニュアル較正におけるフロー図を示している。自動較正は、コントローラ26自身から発せられた校正作業の指令に基づいて行われる較正のことである。またマニュアル較正は、オペレータにより入力された校正作業の指令に基づいて行われる較正のことである。
【0107】
図11(A)に示されるように、自動較正においては、作業機械の使用頻度の高低が判定される。使用頻度の高低の判定として、たとえば前回の校正作業から所定時間経過したかの判定がなされる(ステップS10A)。所定時間はたとえば100時間に設定されてもよい。また使用頻度の判定として、ブレーキの使用頻度(使用回数)が所定回数以上か否かの判定がなされてもよい。使用頻度の高低の判定は、較正処理部92(図6)で実行される。この判定において使用頻度が低い(たとえば前回の較正から所定時間経過していない、またはブレーキの使用回数が所定回数未満)と判定された場合には、ステップS10Aの判定が繰り返される。一方、この判定において使用頻度が高い(たとえば前回の較正から所定時間が経過した、またはブレーキの使用回数が所定回数以上)と判定された場合には、休止状態判定部91はホイールローダ100が車両休止状態か否かを判定する(ステップS11)。休止状態判定部91は、エンジンコントローラ74からのエンジンの稼働状態が動作状態、作業機ロックスイッチ56の状態がオン状態、パーキングスイッチの状態がオン状態に基づいて車両休止状態と判定する。
【0108】
次に、ステップS11において、休止状態判定部91はホイールローダ100が車両休止状態であると判定した場合(ステップS11においてYES)には、較正処理部92に指示し、較正処理部92は較正処理を実行する(ステップS12)。これにより、たとえばエンジン31の始動後の暖機状態において校正作業が自動で行われ、オペレータによる校正作業の実施が不要となる。このため、オペレータの手間を増やすことなしに、ブレーキの制動特性を担保することが可能となる。
【0109】
図11(B)に示されるように、マニュアル較正においては、たとえばオペレータによる校正作業の指令があったか否かの判定がなされる(ステップS10B)。オペレータによる校正作業の指令は、たとえばモニターのサービスメニューでオペレータが校正作業を指令する場合であってもよい。この判定においてオペレータによる校正作業の指令がない場合には、ステップS10Aの判定が繰り返される。一方、この判定においてオペレータによる校正作業の指令があったと判定された場合、休止状態判定部91はホイールローダ100が車両休止状態か否かを判定する(ステップS11)。マニュアル較正におけるこの後のステップは、自動較正のステップと同じであるため、その説明を繰り返さない。
【0110】
図12は、実施形態に従う較正処理部92による較正処理のサブルーチンフロー図である。
【0111】
図12を参照して、較正処理部92は、EPC弁46に対して出力する指令電流を増加させる(ステップS14)。
【0112】
次に、較正処理部92は、シャトル弁ユニット47に供給される作動油の圧力を圧力センサ75から取得する(ステップS15)。
【0113】
次に、較正処理部92は、指令電流値が最大値となった時点でEPC弁46への指令電流の出力を停止する(ステップS16)。
【0114】
ステップS16においてEPC弁46への指令電流の出力が停止された後、較正処理部92は、指令電流値と作動油の圧力との関係から較正後の指令電流を検出する(ステップS17)。
【0115】
次に、較正処理部92は、当該検出した較正後の指令電流値を記憶する(ステップS18)。
【0116】
そして、較正処理を終了する(リターン)。これにより較正モードの処理が終了する。
上記較正処理により、経時的劣化等でブレーキの制動特性が変化した場合でも、シャトル弁ユニット47に供給される作動油の圧力がPs(図10)となる指令電流の調整が可能である。
【0117】
本例においては、ホイールローダ100が車両休止状態の際に指令電流の較正処理を自動的に実行する。これにより、湿式多板ディスク構造のブレーキの制動特性の精度を維持することが可能である。
【0118】
また作業機ロックと駐車ブレーキオンとの車両休止条件を較正の条件とすることで、コントローラの判断による自動較正作業の頻度を上げることができるようになる。これによりオペレータによる手間を増やすことなく、ブレーキ制動特性を担保することができる。
【0119】
図13は、実施形態に従うホイールローダ100の別の較正モードのフロー図である。図13に示されるように、較正処理部92は、較正モードの実行指示があるか否かを判定する(ステップS20)。較正処理部92は、較正モードスイッチ57がオン状態である場合には較正モードの実行指示があると判断する。
【0120】
次に、ステップS20において、較正処理部92は較正モードの実行指示があると判定した場合(ステップS20においてYES)には、較正処理を実行する(ステップS22)。較正処理の詳細については図12で説明したフローと同様である。
【0121】
具体的には、較正処理部92は、EPC弁46に対して出力する指令電流を増加させてシャトル弁ユニット47に供給される作動油の圧力がPsとなる指令電流を検出する。当該検出した指令電流値を記憶する。
【0122】
そして、較正モードの処理を終了する(エンド)
当該処理により、ホイールローダ100は、較正モードスイッチ57をオペレータが操作してオン状態とした際に指令電流の較正処理を実行する。したがって、オペレータは意図したタイミングで湿式多板ディスク構造のブレーキの制動特性の精度を維持することが可能である。
【0123】
<他の実施形態>
上記実施形態では、駆動装置21にHST32を用いているが、HSTに限らなくても良く、トルクコンバータであってもよい。また、HSTに限らず、HMT(Hydro Mechanical Transmission)が用いられても良い。
【0124】
上記実施形態のホイールローダはオペレータが搭乗して操作してもよいし、無人で操作されてもよい。
【0125】
上記実施形態では、作業機械の一例としてホイールローダを用いて説明したが、ホイールローダに限らなくてもよく、油圧ショベル等であってもよい。
【0126】
実施形態においては、後進時において検知コントローラ180によって後方に物体が存在することが検出された場合に、自動ブレーキが実行される場合について説明したが、後進時に限られず前進時に対して自動ブレーキが実行される構成においても本願発明を適用することが可能である。
【0127】
<付記>
上述したような実施形態は、以下のような技術思想を含む。
【0128】
(付記1)
駆動源(31)の動力で走行する走行体(2)と、
前記走行体を制動する湿式多板ディスク構造のブレーキ回路(42a,42b)と、
前記ブレーキ回路の動作を制御する制御弁(46)と、
前記制御弁を動作させる指令電流を出力するコントローラ(26)とを備え、
前記コントローラは、前記指令電流を出力して当該指令電流の較正を行う較正モードを有し、
前記コントローラは、
車両休止状態であるか否かを判断し、
前記車両休止状態である場合に、前記較正モードを実行する、作業機械。
【0129】
(付記2)
パーキングブレーキ(43)と、
作業機の操作信号を無効にする作業機ロックスイッチ(56)とを備え、
前記コントローラは、前記駆動源の稼働状態、前記パーキングブレーキの状態および前記作業機ロックスイッチの状態に基づいて前記車両休止状態であるか否かを判断する、付記1に記載の作業機械。
【0130】
(付記3)
前記コントローラは、操作指示を受け付けて、前記指令電流を出力して当該指令電流の較正を行う手動較正モードを有する、付記1または付記2に記載の作業機械。
【0131】
(付記4)
前記ブレーキ回路に作動油を供給する際の油圧を計測するセンサ(75)をさらに備え、
前記コントローラは、前記指令電流の値を増加させて、前記センサの油圧が所定値に到達した際の電流値を記憶する、付記1から付記3のいずれか一つに記載の作業機械。
【0132】
(付記5)
前記走行体の周囲における物体を検出する物体センサ(25a)をさらに備え、
前記コントローラは、前記較正モード以外の場合に前記物体検出センサの検出結果に基づいて前記指令電流を出力する、付記1から付記4のいずれか一つに記載の作業機械。
【0133】
(付記6)
前記コントローラは、前記コントローラから発せられた校正作業の指令またはオペレータにより入力された校正作業の指令に基づいて前記車両休止状態にあるか否かを判断する、付記1から付記5のいずれか一つに記載の作業機械。
【0134】
(付記7)
前記コントローラは、前記作業機械における使用頻度の高低の判断結果に基づいて前記校正作業の指令を発する、付記6に記載の作業機械。
【0135】
(付記8)
車両休止状態であるか否かを判断するステップ(S10)と、
前記車両休止状態である場合に、走行体(2)を制動する湿式多板ディスク構造のブレーキ回路(42a,42b)の動作を制御する制御弁(43)に対して出力する指令電流を増加させるステップ(S14)と、
前記ブレーキ回路に供給される作動油の圧力を取得するステップ(S15)と、
取得結果に基づいて前記作動油の圧力が所定値となるか否かを判断するステップ(S16)と、
前記作動油の圧力が所定値となった場合に、当該指令電流を記憶するステップ(S18)とを備える、作業機械の制御方法。
【0136】
以上、本開示の実施形態について説明したが、今回開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0137】
1 車両本体、2 走行体、3 作業機、4 フロントタイヤ、5 キャブ、5s 運転席、6 エンジンルーム、7 リアタイヤ、9 ステアリングシリンダ、10 車体フレーム、11 フロントフレーム、12 リアフレーム、13 連結軸部、14 ブーム、15 バケット、16 リフトシリンダ、17 バケットシリンダ、18 ベルクランク、21 駆動装置、22 制動装置、23 操作装置、24 動作部、25 検出装置、25a 物体センサ、26 コントローラ、31 エンジン、40 制動部、41 ブレーキ弁ユニット、41a リア用ブレーキ弁、41b フロント用ブレーキ弁、42a,42b ブレーキ回路、43 パーキングブレーキ、44a,44b 作動油供給路、45 シャットオフ弁、46,62 EPC弁、46a 戻りばね、47 シャトル弁ユニット、47a リア用シャトル弁、47b フロント用シャトル弁、48 タンク、49a,49b アキュームレータ、51 作業機操作部、52 走行方向切替装置、53 パーキングスイッチ、54 ブレーキペダル、55 アクセル、56 作業機ロックスイッチ、57 較正モードスイッチ、61 油圧ポンプ、74 エンジンコントローラ、75 圧力センサ、90 車体コントローラ、91 休止状態判定部、92 較正処理部、94 EPC弁制御部、100 ホイールローダ、180 検知コントローラ、181 物体情報取得部、182 物体判定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13