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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093664
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】金属層の厚さの測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/59 20060101AFI20240702BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20240702BHJP
   G01N 33/208 20190101ALI20240702BHJP
【FI】
G01N21/59 Z
G01N31/00 U
G01N33/208
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210187
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田川 健二
(72)【発明者】
【氏名】福本 晴彦
【テーマコード(参考)】
2G042
2G055
2G059
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BC10
2G042CA03
2G042CB06
2G042DA03
2G042FA01
2G042FA11
2G042FB02
2G055AA07
2G055BA20
2G055FA02
2G059AA05
2G059BB10
2G059CC02
2G059EE01
2G059HH02
2G059JJ03
2G059KK01
2G059MM12
(57)【要約】
【課題】高価な分析装置を用いなくても、比較的簡易な方法で、極薄の金属層の厚さを測定できる、金属層の厚さの測定方法を提供する。
【解決手段】基材上に配置された、厚さが1μm未満の金属層の厚さを測定する方法であって、前記金属層に含まれる金属を酸に溶解させて、金属溶解液を得る工程と、前記金属溶解液の金属イオン濃度を、吸光光度法により測定する工程と、金属イオン濃度と金属層の厚さとの関係に示す検量線を用いて、前記測定された金属イオン濃度に基づいて、前記金属層の厚さを算出する工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に配置された、厚さが1μm未満の金属層の厚さを測定する方法であって、
前記金属層に含まれる金属を酸に溶解させて、金属溶解液を得る工程と、
前記金属溶解液の金属イオン濃度を、吸光光度法により測定する工程と、
金属イオン濃度と金属層の厚さとの関係を示す検量線を用いて、前記測定された金属イオン濃度から、前記金属層の厚さを算出する工程と、
を含む、
金属層の厚さの測定方法。
【請求項2】
前記金属層は、銅又は銅合金を含み、
前記金属イオン濃度を測定する工程では、銅イオン濃度を測定する、
請求項1に記載の金属層の厚さの測定方法。
【請求項3】
前記吸光光度法は、ビシンコニン酸吸光光度法、バソクプロイン吸光光度法、又はビキノリン酸吸光光度法である、
請求項2に記載の金属層の厚さの測定方法。
【請求項4】
前記金属溶解液を得る工程では、
疎水性の表面を有する基板上に酸の液溜まりを形成し、当該液溜まりに前記金属層を接触させることにより、前記金属層に含まれる金属を酸に溶解させる、
請求項1又は2に記載の金属層の厚さの測定方法。
【請求項5】
前記検量線として、測定される前記金属イオン濃度の値に応じて、下記式(1)又は(2)のいずれかを用いる、
請求項1又は2に記載の金属層の厚さの測定方法。
【数1】
(式(1)及び(2)において、
xは、金属イオン濃度(mg/L)であり、
、a、bは、検量線の定数であり、0<a<a、b>0である。
括弧内は、左側の式を適用する条件を表しており、
xの測定における金属層の面積及び金属溶解液の量は、検量線作成時の条件と同一であるものとする。)
【請求項6】
前記金属イオン濃度に基づいて、金属付着量(μg/cm)を算出する工程をさらに含む、
請求項1又は2に記載の金属層の厚さの測定方法。
【請求項7】
前記検量線として、算出される前記金属付着量の値に応じて、下記式(3)又は(4)のいずれかを用いる、
請求項6に記載の金属層の厚さの測定方法。
【数2】
(式(3)及び(4)において、
mは、金属付着量(μg/cm)であり、
、a及びbは、検量線の定数であり、0<a<a、b>0である。
括弧内は、左側の式を適用する条件を表している。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属層の厚さの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の衛生を維持するために、抗微生物性を有する物質を物品の表面に付与することがある。抗微生物性を付与する方法として、物品の表面に、銅、銀及びそれらを含む合金等の抗菌性を有する金属薄膜を設ける方法が知られている。例えば、基材と、銅-錫合金層とを有する抗微生物性材料が開示されている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0003】
上記の抗微生物性材料は、基材上に、スパッタリング法や蒸着法等で金属薄膜を形成する工程を経て得られる。抗微生物性材料が所定の抗菌性や透明性を示すためには、金属薄膜の厚さを適切に調整できることが望まれる。そのため、抗微生物性材料の製造工程では、製造されたサンプルを抜き取り、金属薄膜の厚さを測定することがある。
【0004】
金属薄膜の厚さの測定方法としては、例えば、断面SEMやTEMで金属薄膜の厚さを直接測定する方法や、金属薄膜の蛍光X線強度と厚さの関係を示す検量線を用いて、蛍光X線強度の測定値から金属薄膜の厚さを推定する方法等がある。また、X線分光法により特定の元素についてX線強度比と薄膜試料の厚さとの関係を示す検量線を準備し、その検量線を用いて薄膜試料の厚さを推定する方法も知られている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-342418号公報
【特許文献2】特許第4778123号公報
【特許文献3】特開平3-209148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記いずれの方法も、高価な分析装置が必要となるという問題があった。また、金属薄膜の厚さが薄くなるほど、金属薄膜の表面近傍の金属酸化物の含有割合が相対的に多くなり、金属薄膜の厚さ方向に組成のばらつきが生じやすくなる。その結果、従来の検量線を用いた方法では、金属薄膜の厚さを正確に推定することが難しい場合があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高価な分析装置を用いなくても、比較的簡易な方法で極薄の金属層の厚さを測定できる、金属層の厚さの測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の金属層の厚さの測定方法に関する。
【0009】
[1] 基材上に配置された、厚さが1μm未満の金属層の厚さを測定する方法であって、前記金属層に含まれる金属を酸に溶解させて、金属溶解液を得る工程と、前記金属溶解液の金属イオン濃度を、吸光光度法により測定する工程と、金属イオン濃度と金属層の厚さとの関係に示す検量線を用いて、前記測定された金属イオン濃度から、前記金属層の厚さを算出する工程と、を含む、金属層の厚さの測定方法。
[2] 前記金属層は、銅又は銅合金を含み、前記金属イオン濃度を測定する工程では、銅イオン濃度を測定する、[1]に記載の金属層の厚さの測定方法。
[3] 前記吸光光度法は、ビシンコニン酸吸光光度法、バソクプロイン吸光光度法、又はビキノリン酸吸光光度法である、[2]に記載の金属層の厚さの測定方法。
[4] 前記金属溶解液を得る工程では、疎水性基板上に酸の液溜まりを形成し、当該液溜まりに前記金属層を接触させることにより、前記金属層に含まれる金属を酸に溶解させる、[1]又は[2]に記載の金属層の厚さの測定方法。
[5] 前記検量線として、測定される前記金属イオン濃度の値に応じて、下記式(1)又は(2)のいずれかを用いる、[1]~[4]のいずれかに記載の金属層の厚さの測定方法。
【数1】
(式(1)及び(2)において、
xは、銅イオン濃度(mg/L)であり、
、a、bは、検量線の定数であり、0<a<a、b>0である。
括弧内は、左側の式を適用する条件を表しており、xの測定における金属層の面積及び金属溶解液の量は、検量線作成時における条件と同一であるものとする。)
[6] 前記金属イオン濃度に基づいて、金属付着量(μg/cm)を算出する工程をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載の金属層の厚さの測定方法。
[7] 検量線として、算出される前記金属付着量の値に応じて、下記式(3)又は(4)のいずれかを用いる、[6]に記載の金属層の厚さの測定方法。
【数2】
(式(3)及び(4)において、
mは、金属付着量(μg/cm)であり、
、a、bは、検量線の定数であり、0<a<a、b>0である。
括弧内は、左側の式を適用する条件を表している。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、透明性を損なうことなく、良好な耐擦性を有する抗微生物性材料及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る金属層の厚さの測定方法を説明するフローチャートである。
図2図2A~2Hは、金属溶解液を調製する工程を模式的に示す断面図である。
図3図3Aは、金属溶解液の金属イオン濃度と金属層の厚さとの関係を示す検量線のグラフであり、図3Bは、金属付着量と金属層の厚さとの関係を示す検量線のグラフである。
図4図4は、図1の厚さ算出工程を説明するフローチャートである。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る金属層の厚さの測定装置を模式的に示すブロック図である。
図6図6は、銅-錫合金層のCu-XRF強度と厚さとの関係を示す検量線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.金属層の厚さの測定方法
図1は、本発明の一実施形態に係る金属層の厚さの測定方法を説明するフローチャートである。
【0013】
図1に示されるように、本実施形態に係る金属層の厚さの測定方法は、1)金属層に含まれる金属を酸に溶解させて、金属溶解液を得る工程(金属溶解液作製工程、ステップS1)と、2)金属溶解液の金属イオン濃度を、吸光光度法により測定する工程(金属イオン濃度測定工程、ステップS2)と、3)検量線を用いて、測定された金属イオン濃度から金属層の厚さを算出する工程(厚さ算出工程、ステップS3)と、を含む。
【0014】
1)溶解液作製工程(ステップS1)
金属層に含まれる金属を酸に溶解させて、金属溶解液を得る。
【0015】
金属層の組成は特に制限されない。本実施形態では、金属層は、例えば銅又は銅合金を含むことが好ましい。
【0016】
酸の種類は、金属層に含まれる金属を溶解するものであれば特に制限されない。金属を溶解しやすい観点から、塩酸や硝酸、硫酸等の強酸が好ましく、例えば銅や銅合金等を溶解しやすい観点から、塩酸がより好ましい。
【0017】
酸の濃度は、特に制限されないが、金属層から金属を溶解させやすくする観点から、0.01N以上であることが好ましく、次の金属イオン濃度測定工程で加える試薬との反応性を担保する事、使用する酸が劇物とならないことや作業性・安全性を考慮すると、0.01~1.0Nであることがより好ましく、0.01~0.1Nであることがさらに好ましい。
【0018】
酸は、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。但し、銅イオン濃度を測定する場合、酸は、シアン化物を含まないことが好ましい。シアン化物イオン(CN)が銅イオンの定量を妨害する虞があるからである。
【0019】
金属層に含まれる金属を酸に溶解させる方法は、特に制限されず、基材と金属層とを有する試料を酸に浸漬する方法や、酸の液溜まりと試料の金属層とを接触させる方法等であってもよい。中でも、少量の酸に高濃度の金属イオンを溶解させる観点では、酸の液溜まりと試料の金属層とを接触させる方法が好ましい。具体的には、疎水性の表面を有する基板上に、酸の液溜まりを形成し、当該液溜まりに金属層を接触させることにより、金属層に含まれる金属を酸に溶解させることが好ましい。疎水性の表面とは、室温での純水の接触角が90°以上となる表面をいう。接触角は、サンプル上に滴下した水滴のエッジ検出(輪郭検出)を自動または手動行う接触角計により、室温で測定することができる。
【0020】
図2A~2Hは、金属溶解液(検体)を調製する工程を模式的に示す断面図である。同図では、見やすくするために、一部の部材のハッチングを省略している。
【0021】
まず、密閉可能なシャーレ10を準備する(図2A参照)。シャーレ10の底面10Aは、疎水性処理が施されているか、又は、疎水性の材料(例えばポリスチレンや、PFA等のフッ素樹脂、ポリメチルペンテン等の樹脂)で構成されていることが好ましい。底面10A上に酸が過剰に濡れ広がらずに、液溜まりを形成しやすいからである。本実施形態では、例えば、透明で、且つ比較的安価で入手しやすいという点で、ポリスチレン製のプラシャーレを用いることが好ましい。
【0022】
次いで、シャーレ10の底面10A上に、酸をピペット12で滴下し、酸の液溜まり14を形成する(図2B参照)。
【0023】
酸の滴下量(液溜まり14の液量)は、特に制限されないが、高濃度の金属が溶解した金属溶解液を得る観点では、適度に少ないことが好ましい。液溜まり14の液量は、例えば、試料16の面積当たりの値で、50~400μl/cmであることが好ましい。液量が50μl/cm以上であれば、試料16の金属層16A全面と接触させやすくなる。一方、液量が400μl/cmより多くなると、底面10Aや金属層16Aと接しない面積が大きくなり、金属層16Aを溶解させている間に、液溜まり14が徐々に揮発していく影響が大きくなり、測定誤差が大きくなる可能性がある。また、液量が増えすぎると、液溜まり14が動きやすくなるため、シャーレ10を移動させたりするハンドリング性が損なわれるため、好ましくない。このような観点から、試料16の面積が16cmの場合、液量は、例えば1.5ml(即ち、94μl/cm)程度とすることができる。
【0024】
次いで、液溜まり14上に、試料16を、その金属層16Aが液溜まり14と接するように被せて配置する(図2C参照)。そして、液溜まり12が、試料16の金属層16Aの表面全体に広がるように、試料16の基材16B側をピンセット18で何回か押し下げることが好ましい(図2D参照)。
【0025】
試料16の大きさは、液溜まり14と十分に接触させうる大きさであればよく、特に制限されない。例えば、入手が容易な直径90mm、高さ15mmのシャーレ10を用いる場合、試料16の大きさは、例えば2~6cm角、好ましくは4cm角としうる。また、試料16の形状も、特に制限されない。四角形であれば、カッター等を用いれば所望の大きさに調整しやすいし、円形であれば、所望の大きさの打ち抜き型を用いれば簡単に用意できる。
【0026】
次いで、シャーレ10に蓋10Bをして、一定時間以上放置する(図2E参照)。それにより、試料16の金属層16Aに含まれる金属を、液溜まり14中に溶出させる(図2F参照)。
【0027】
保存温度は、特に制限されないが、室温(23℃)であることが好ましい。保存時間は、金属層16Aに含まれる金属の全てを溶解させることができればよく、2~24時間であることが好ましく、4~24時間であることがより好ましい。24時間を超えた保存は、作業性が悪くなるだけでなく、液溜まり14が僅かに揮発していく影響があるため、測定誤差が大きくなる可能性がある。
【0028】
次いで、蓋10Bを外し、金属が溶出した酸の液溜まり14’に純水を加えて、基材16Bを洗浄及び回収する(図2G参照)。そして、シャーレ10に残った液溜まり14’の液(金属溶解液)を、検体として回収する(図2H参照)。
【0029】
純水の添加量は、金属イオン濃度を測定する検体として必要な量、測定したい金属層の厚さの範囲、測定可能な金属イオン濃度の範囲等を考慮して、決定されればよく、特に限定されない。たとえば、金属イオン濃度を測定する検体として必要な量を担保するために純水を添加する場合、測定可能な金属層の膜厚の範囲は狭くなるものの、最も高感度に膜厚を測定することができる。測定したい膜厚の範囲を広く採る場合は、純水の添加量を増やせば良く、測定したい膜厚の範囲は、純水の添加量でも調整可能である。
【0030】
なお、金属溶解液の調製条件については、サンプルの金属層の面積と調製する金属溶解液の量とを、後述する検量線作成時における条件とそれぞれ同一にする。但し、金属溶解液の調製条件の全てを同じにする必要はない。例えば、金属層を溶解させるための保管時間は、好ましい範囲内で適宜変更できる。また、酸の滴下量も、金属溶解液の総量が検量線作成時と同じになるように、純水の添加量で調整することで、好ましい範囲内に適宜変更できる。
【0031】
2)金属イオン濃度測定工程(ステップS2)
得られた金属溶解液の金属イオンの濃度を、吸光光度法により測定する。
【0032】
吸光光度法では、まず、金属溶解液中の測定対象となる金属イオンを試薬により呈色させる。次いで、この金属溶解液に単色光(特定波長の光)を当て、透過した光の強度から吸光度を測定し、予め標準試料の金属イオン濃度で校正された変換係数に基づき、測定された吸光度から、測定対象となる金属イオン濃度を算出する。
【0033】
測定対象となる金属イオンの種類に応じて、種々の吸光光度法が挙げられる。例えば、測定対象となる金属イオンが銅イオンである場合、錯イオンを形成する化合物(試薬)の種類によって、ビシンコニン酸吸光光度法、バソクプロイン吸光光度法、ビキノリン酸吸光光度法等がある。中でも、ビシンコニン酸吸光光度法又はバソクプロイン吸光光度法が好ましい。
【0034】
ビシンコニン酸吸光光度法では、銅(I)の選択的比色試薬としてビシンコニン酸二ナトリウムを用いる。ビシンコニン酸二ナトリウムは、水溶液中で、Cuと1:2の組成の赤紫色の錯体を形成し、中心波長562nmの可視光を吸収する。金属溶解液に含まれるCu2+も含めた銅イオン(Cu、Cu2+)の濃度を測定するには、Cu2+をCuに還元する還元剤を添加する必要がある。還元剤の例には、L-アスコルビン酸又はL-アスコルビン酸塩類が含まれる。L-アスコルビン酸塩類としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を用いることができる。
【化1】
【0035】
バソクプロイン吸光光度法では、銅(I)の選択的比色試薬として、バソクプロインスルホン酸二ナトリウムを用いる。バソクプロインスルホン酸二ナトリウムは、バソクプロイン(Bathocuproine)をスルホン化して水溶性としたもので、水に容易に溶解する。バソクプロインスルホン酸二ナトリウムは、水溶液中で、pH4~10で、Cuと1:2の組成の橙黄色の錯体を形成し、中心波長485nmの光を吸収する。上記と同様、金属溶解液に含まれるCu2+も含めた銅イオン(Cu、Cu2+)の濃度を測定するには、Cu2+をCuに還元する還元剤を添加する必要がある。還元剤としては、上記と同様のものを使用できる。
【化2】
【0036】
吸光光度計には、単色光を得るための波長選択部に光学フィルタを用いた光電光度計と、波長選択部にモノクロメータを使用した分光光度計がある。分光光度計と比べて比較的安価であることから、光電光度計が好ましい。
【0037】
本実施形態では、金属層が銅又は銅合金を含む場合、金属イオン濃度x(mg/L)として銅イオン濃度を測定することが好ましい。
【0038】
測定時の金属溶解液のpHは、金属イオンの濃度を正確に測定可能な範囲に調整されていることが好ましい。例えば、銅イオンの濃度を、上記ビシンコニン酸吸光光度法やバソクプロイン吸光光度法で測定する場合、pHが0.5より低いと、L-アスコルビン酸とCu2+イオンとの反応が極端に遅くなるため、0.5以上がより好ましく、5よりも高いと銅の水酸化物の沈殿が生成しやすくなるため、0.5~5の範囲が好ましい。溶解液の調製時の作業性なども考慮すると、金属溶解液のpHは、2~4であることがより好ましい。
【0039】
3)厚さ算出工程(ステップS3)
そして、金属イオン濃度と金属層の厚さとの関係を示す検量線を用いて、上記測定された金属イオン濃度から、金属層の厚さを算出する。
【0040】
金属イオン濃度と金属層の厚さとの関係を示す検量線は、予め作成しておくことが好ましい。検量線の作成は、以下の手順で行うことができる。
i)まず、測定対象となる金属層と同一組成を有する金属層について、厚さを変えたサンプルを複数準備する。
ii)次いで、各サンプルの金属層に含まれる測定対象の金属を、上記1)及び2)の工程と同様の方法で、酸に溶解させて金属溶解液を調製し、金属イオン濃度(mg/L)を測定する。
iii)各サンプルについて、上記i)における金属層の厚さ(μm)と、上記ii)で測定された金属溶解液の金属イオン濃度(mg/L)との関係をプロットして、検量線を得る。
【0041】
上記i)の工程では、まず、測定対象となる金属層と同一組成の金属層であって、厚さの異なる複数のサンプルを準備する。測定対象となる金属層の組成が未知の場合は、当該金属層の組成は、例えばエネルギー分散形X線分光法(EDS)やICP発光分析、ICP質量分析等により分析し、それと同一の組成の金属層を有するサンプルを作製すればよい。
【0042】
また、準備したサンプルの金属層の厚さを測定しておく。金属層の厚さの測定は、任意の方法で行うことができる。
例えば、サンプル作製時に、基材とその近傍にマスクを施したシリコンウェハを設置し、基材とシリコンウェハ上に同時に蒸着する。蒸着したシリコンウェハよりマスクを取り除き、シリコンウェハ上の未蒸着部と蒸着部の段差をBRUKER社製触針式段差計Dektak XT-STにより5箇所測定し、平均して金属層の厚さとすることができる。測定領域は500μmとしうる。
或いは、金属層の厚さは、透過型電子顕微鏡による断面観察により測定してもよい。例えば、断面観察において、1箇所当たりの測定領域100μm×100μm、任意の5箇所の金属層の厚さを測定し、それらの平均値を金属層の厚さとしてもよい。
【0043】
上記iii)の工程では、上記i)における金属層の厚さ(μm)と、上記ii)で測定された金属イオンの濃度(mg/L)との関係をプロットする。そして、プロットを線形近似して、検量線を得る。
【0044】
なお、金属層は、厳密には、表面近傍に非常に薄い酸化された金属層と、その下の酸化されてない金属層の2層で構成される。2層で構成される金属層の厚さを変化させた場合、表面の酸化層の厚さは変わらずに、その下の酸化されてない金属層の厚さが変化する。例えば、測定したい金属層の厚さが20nm以下、特に5nm以下の範囲の場合、測定したい厚さに対して表面酸化層の影響が無視できなくなる。酸化された金属層と内部の酸化されていない金属層とでは、着目している金属原子の濃度が大きく異なる、言い換えれば、表面の酸化層では、酸素原子が存在するため、着目している金属原子の濃度は、酸化されていない金属層に比べ低くなるという点に留意して検量線を作成することが好ましい。
即ち、厚さを測定したい金属層が非常に薄く、酸化された金属層のみで構成される場合と、表面酸化層と酸化していない金属層の2層から構成される場合とでは、測定された溶解液の金属イオンの濃度の変化に対する厚さの変化の度合いが異なる。そのため、それぞれの場合について、線形近似した検量線を用い、測定された溶解液の金属イオンの濃度によって、検量線を使い分ける必要がある。
【0045】
図3は、金属層の検量線の一例を示すグラフである。このうち、図3Aは、金属溶解液の金属イオン濃度xと金属層の厚さとの関係を示す検量線の例であり、図3Bは、金属付着量mと金属層の厚さとの関係を示す検量線の例である。これらのグラフは、金属層が銅又は銅合金を含み、金属イオン濃度として銅イオン濃度を測定した場合の例である。
【0046】
図3Aでは、金属層の厚さに応じて、2つの検量線を引くことができる。即ち、金属層の厚さが約3nm以下の領域のプロットから、式(1)で表される検量線を得ることができ、金属層の厚さが約3nmを超える領域のプロットから、式(2)で表される検量線を得ることができる。なお、上記2つの検量線の交点の金属イオン濃度xは、b/(a-a)として表される。
金属層の厚さが約3nm以下の領域は、酸化された金属層のみで構成された場合に相当し、式(1)は、これに対応した検量線である。金属層の厚さが約3nmより大きい領域は、表面酸化層と酸化していない金属層の2層から構成された場合に相当し、式(2)は、これに対応した検量線である。
【数3】
(上記式(1)及び(2)において、
xは、金属溶解液の金属イオン濃度(mg/L)であり、
、a、bは、検量線の定数であり、0<a<a、b>0である。
括弧内は、左側の式を適用する条件を表しており、xの測定における、サンプルの金属層の面積及び調製する金属溶解液の量は、検量線作成時における条件と同一であるものとする。)
【0047】
ここで、0<a<aとなるのは、a、aが、金属層中の着目している金属原子の濃度に関係した定数であって、酸化された金属層と、内部の酸化されていない金属層とでは、着目している金属原子濃度が大きく異なることに由来するためである。また、b>0となるのは、表層に酸化された金属層が存在していることに由来する。
なお、測定したい金属層の厚さの範囲が、酸化された金属層と酸化されていない金属層の2層から構成される場合に限られるときは、式(2)の検量線のみを作成してもよい。但し、b=0として検量線を作成することは、酸化された金属層の影響を無視することになり、厚さの測定に誤差を生じる虞があるため、b>0となることを考慮して、検量線を作成することが好ましい。一方、測定したい金属層の厚さが非常に薄く、明らかに酸化された金属層のみで構成される場合、式(1)の検量線のみを作成してもよい。
【0048】
図4は、厚さ算出工程(ステップS3)を説明するフローチャートである。
図4に示すように、厚さ算出工程では、金属イオン濃度測定工程(ステップS2)で測定される金属イオン濃度xの値に応じて、式(1)又は(2)のいずれかを用いることが好ましい。
即ち、測定された金属イオン濃度xがb/(a-a)以下であるかどうかを判断する(ステップS31)。そして、測定された金属イオン濃度xがb/(a-a)以下であれば、式(1)に当該金属イオン濃度xを当てはめて、金属層の厚さhを求める(ステップS32)。一方、測定された金属イオン濃度xがb/(a-a)よりも大きければ、式(2)に当該金属イオン濃度xを当てはめて、金属層の厚さhを求める(ステップS33)。
なお、上記の通り、測定したい金属層の厚さの範囲が、酸化された金属層と酸化されていない金属層の2層から構成される場合に限られるときは、測定された金属イオン濃度xがb/(a-a)以下であるかどうかを判断するステップS31を行わずに、式(2)に金属イオン濃度xを当てはめて、金属層の厚さhを求めるステップS33を行えばよい。また、酸化された金属層のみで構成される場合も同様に、測定された金属イオン濃度xがb/(a-a)以下であるかどうかを判断するステップS31を行わずに、式(1)に金属イオン濃度xを当てはめて、金属層の厚さhを求めるステップS32を行えばよい。
【0049】
なお、測定サンプルの金属層の面積及び調製する金属溶解液の量が検量線作成時の条件と異なる場合は、測定した金属イオン濃度を、後述する金属付着量mに変換した上で、式(3)及び(4)の検量線を用いて金属層の厚さを推定することが好ましい。
【0050】
図3Aでは、グラフの横軸を金属イオン濃度x(mg/L)としたが、これに限らず、金属イオン濃度と紐付けられた他の物性としてもよい。例えば、図3Bに示すように、グラフの横軸を、金属イオン濃度から算出される金属付着量m(μg/cm)としてもよい。即ち、上記厚さ算出工程では、測定された金属イオン濃度xを下記式に当てはめて、金属付着量m(μg/cm)を算出してもよい。
金属付着量m(μg/cm)=[金属イオン濃度x(mg/L)*金属溶解液の総液量(mL)]/基材の面積(cm
【0051】
そして、上記式(1)に対応して、式(3)の検量線が得られ、式(2)に対応して式(4)の検量線が得られる。
【数4】
(上記式(3)及び(4)において、
mは、金属付着量(μg/cm)であり、
、a、bは、検量線の定数であり、0<a<a、b>0である。
括弧内は、左側の式を適用する条件を表している。)
【0052】
ここで、式(1)及び(2)と同様、0<a<aとなるのは、a、aが、金属層中の着目している金属元素の濃度に関係した定数であって、酸化された金属層と内部の酸化されていない金属層とでは、着目している金属元素の濃度が大きく異なることに由来しているためである。また、b>0となるのは、表層に酸化された金属層が存在していることに由来する。
また、上記と同様に、測定したい金属層の厚さの範囲が、酸化された金属層と酸化されていない金属層の2層から構成された場合に限られるときは、式(4)の検量線のみを作成してもよい。その場合、上記と同様の理由から、b=0とはせず、b>0となることを考慮して検量線を作成することが好ましい。一方、測定したい金属層の厚さが非常に薄く、明らかに酸化された金属層のみで構成される場合は、式(3)の検量線のみを作成してもよい。
【0053】
この場合も、上記と同様に、厚さ算出工程(ステップS3)では、金属イオン濃度測定工程(ステップS2)で測定された金属イオン濃度から算出した金属付着量mの値に応じて、式(3)又は(4)のいずれかを用いることが好ましい。
即ち、測定された金属イオン濃度から算出した金属付着量mがb/(a-a)以下であるかどうかを判断する。そして、算出した金属付着量mがb/(a-a)以下であれば、式(3)に当該金属付着量mを当てはめて、金属層の厚さhを求める。一方、算出した金属付着量mがb/(a-a)よりも大きければ、式(4)に当該金属付着量mを当てはめて、金属層の厚さhを求める。
【0054】
(作用)
上記実施形態によれば、金属イオン濃度測定工程(ステップS2)では、金属イオン濃度を吸光光度法により測定する。そのため、ICP質量分析法やICP発光分析法、原子吸光分析法等のように高価な分析装置を用いなくても、簡便な装置で金属イオン濃度を測定できる。そして、厚さ算出工程(ステップS3)では、当該金属イオン濃度の値に応じて、検量線を用いて金属層の厚さを算出することができる。従って、高価な分析装置を用いなくても、比較的簡易な方法で、極薄の金属層の厚さを測定できる。
【0055】
2.測定装置
本実施形態に係る金属層の厚さの測定方法を実施するための装置の一例について説明する。図5は、本実施形態に係る金属層の厚さの測定装置を示すブロック図である。
【0056】
図5に示されるように、測定装置100は、測定部110と、演算部120と、記憶部130と、表示部140とを有する。
【0057】
測定部110では、上記金属イオン濃度測定工程(ステップS2)を行う。即ち、上記金属溶解液調製工程(ステップS1)で調製した金属溶解液に含まれる金属イオンの濃度を測定する。測定部110としては、公知の水質計を使用できる。例えば、銅イオン濃度の測定には、ハンナインスツルメンツ社製銅濃度測定器HI 97702、共立理化学研究所製DPM2-Cu等を使用できる。
【0058】
演算部120では、上記厚さの算出工程(ステップS3)を行う。演算部120は、データ取得部121と、厚さ算出部122とを有する。
【0059】
データ取得部121は、測定部110で測定された金属イオン濃度データを取得する。
【0060】
厚さ算出部122は、データ取得部121で取得した金属イオン濃度データと、記憶部130から取得した検量線データとを照合して、金属層の厚さを算出する。例えば、上記のように、取得した金属イオン濃度x(mg/L)の値に応じて、式(1)又は(2)のいずれかの検量線の式に、取得した金属イオン濃度を当てはめて、金属層の厚さhを算出する。そして、算出結果を出力する。
【0061】
演算部120としては、プログラムの実行や計算処理等を行う中央処理装置(CPU)を備えた一般的なコンピュータ(汎用コンピュータ)を用いることができる。また、当該コンピュータは、キーボードやマウス等の入力手段、モニタやプリンタ等の出力手段をさらに有していてもよい。
【0062】
記憶部130は、検量線データを記憶可能な手段であればよい。例えば、記憶部130としては、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)、リードオンリーメモリ(ROM)等の記憶手段でありうる。
【0063】
表示部140は、厚さ算出部122により算出した結果(金属層の厚さ)を表示する。表示部140は、モニタやプリンタ等の出力手段でありうる。演算部120、記憶部130、表示部140は、1つのコンピュータとして一体に構成されたものでもよいし、それぞれ別体に構成されたものでもよい。
【0064】
3.用途
上記測定方法は、基材上に配置された金属層の厚さの測定に有効である。特に、金属層の厚さがナノオーダーのように極薄くなると、透過型電子顕微鏡等で、実際の金属層の厚さを測定することは難しくなる。そのような場合でも、上記測定方法によれば、金属層の厚さを高精度に推定することができる。そのため、上記測定方法は、例えば金属層を有する製品の検査工程において、金属層が規定の厚さに形成されているかどうかを検査する場合等に好ましく適用できる。
【0065】
測定対象となる金属層の厚さは、ナノオーダー、具体的には1μm未満であることが好ましく、0.1~200nmであることがより好ましく、0.1~20nmであることがさらに好ましく、0.1~5nmであることが特に好ましい。そのような測定対象としては、特に限定されないが、好ましくは銅又は銅合金を含む金属層を有する抗微生物性材料等が挙げられる。
【0066】
以下、上記測定方法が好適に適用される測定対象の一例として、抗微生物性材料について説明する。
【0067】
上記抗微生物性材料は、基材と、銅-錫合金層とを含む。
【0068】
(基材)
基材は、酸に溶解しない耐酸性を有する材料で構成されていることが好ましい。そのような材料としては、樹脂、ガラス、セラミックス等の金属以外の材料が挙げられる。加工性や汎用性の観点では、基材は、樹脂を含むことが好ましい。
【0069】
基材に含まれる樹脂は、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよい。加工性に優れる観点等では、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の例には、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド及び(メタ)アクリル樹脂等が含まれる。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、銅-錫合金層の密着性をより高めやすい観点では、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0070】
基材の形状は、特に制限されず、フィルム状若しくは板状、織布若しくは不織布、又は任意の三次元形状のいずれであってもよい。基材がフィルム状若しくは板状である場合、基材の厚さは、例えば0.01~3mm、好ましくは0.015~2mmでありうる。
【0071】
(銅-錫合金層)
銅-錫合金層は、抗微生物性を発現する。そのため、銅-錫合金層は、抗微生物性材料の最表面に配置されることが好ましい。
【0072】
銅-錫合金層は、銅と錫の合金を含む。具体的には、銅と錫の合計100原子%に対して、銅を40~90原子%含み、かつ錫を10~60原子%含むことが好ましく;銅を50~85原子%含み、錫を15~50原子%含むことがより好ましい。銅の含有割合が高いほど、抗微生物性能が向上しやすく、錫の含有割合が高いほど、水や塩水、体液等との接触による腐食や変色などの外観変化を生じにくい。銅と錫の合計量は、銅-錫合金層に対して75原子%以上であることが好ましく、100原子%であってもよい。銅-錫合金層の平均組成は、走査型電子顕微鏡等で可能なエネルギー分散形X線分光法(EDS)により確認することができる。銅-錫合金層には、他の元素がさらに含まれていてもよい。
【0073】
銅-錫合金層の厚さは、特に制限されないが、抗微生物性と透明性の両立の観点では、例えば1~20nmであることが好ましく、1.5~5nmであることがより好ましい。
【0074】
上記抗微生物性材料は、基材上に、薄膜形成プロセスにより銅-錫合金層を形成する工程を経て製造することができる。薄膜形成プロセスは、特に限定されず、蒸着法やスパッタリング法が含まれる。中でも、銅層と錫層の合金化させるためのアニール処理が不要である等の観点から、蒸着法が好ましい。
【0075】
なお、上記実施形態では、金属層として、銅又は銅合金を含む金属層(例えば銅-錫合金層)の厚さを測定する例を示したが、これに限らず、例えば鉄、ニッケル、アルミニウム等の種々の金属を含む金属層の厚さを測定することができる。その場合、測定対象となる金属イオンの種類に応じて、試薬を選択することが好ましい。例えば、2価と3価を含む鉄イオンの測定では、フェナントロリン法を採用でき、1,10-フェナントロリン一水和物、還元剤として、L-アスコルビン酸ナトリウムを含む試薬が使用できる。2価のニッケルイオンの測定では、ニオキシム法を採用でき、1,2-シクロヘキサンジオンジオキシム(ニオキシム)を含む試薬が使用できる。アルミニウムイオンの測定では、エリオクロムシアニンR(ECR)法を採用でき、検体は酢酸-酢酸アンモニウム緩衝液を添加してpH調整する必要があるが、エリオクロムシアニンRを含む試薬が使用できる。
【実施例0076】
以下、実施例及び比較例を参照してさらに本発明を説明する。本発明の技術的範囲は、これらによって限定されるものではない。
【0077】
<試験1>
試験1では、1~5nmの範囲の銅-錫合金層の厚さを測定するため、検量線を作成する試験を行った。ここでは、本発明に関わる金属溶解液の銅濃度測定だけでなく、検量線を用いた厚さの測定方法としては一般的な、蛍光X線(XRF)分析による試験も、参考のために実施した。
【0078】
1.サンプルの作製
1-1.基材
基材として、PETフィルム(東洋紡製コスモシャインA4160 #50、厚さ50μm、片面易接着層)を準備した。
【0079】
1-2.銅-錫合金層の形成
大きさ1~2mmの粒状の純銅(純度99.9%)を60.0gと、大きさ1~2mmの粒状の純錫(純度99.9%)を40.0gとを、合計で100g秤量し、これらを金属容器内に入れてよく混合して、銅74原子%、錫26原子%(銅60重量%、錫40重量%)の蒸発源とした。この蒸発源を、蒸着装置のルツボに入れて、真空度(圧力)10-3Pa以下となるまで真空排気した。次いで、蒸発源が大きく飛散しないようにゆっくりと電子ビームでルツボ中の蒸発源を加熱し、ルツボ中の蒸発源を完全に融解させた後、真空中で冷却し、合金蒸発源を作製した。
【0080】
次いで、蒸着装置の蒸発源から400mm上方に、上記基材の易接着層の面を、合金蒸着源と対向するようにセットした。
蒸着装置を、4*10-3Pa以下まで真空排気した後、再度電子ビームにより加熱し、蒸発源から約400mm上方に設置された基材上に、表1に示される厚さの銅-錫合金層を形成し、抗微生物性材料のサンプル1~5を作製した。
銅-錫合金層の厚さは、電子ビームの電流値に依存した成膜速度と、サンプルと蒸着源の間に設けられたシャッター機構の開時間による成膜時間で調整した。成膜速度は、1~4nm/秒とした。
【0081】
得られた銅-錫合金層の平均組成を、走査型電子顕微鏡等で可能なエネルギー分散形X線分光法(EDS)で分析したところ、銅74原子%、錫26原子%であった。
【0082】
1-3.銅-錫合金層の厚さ測定
作製したサンプル1~5の銅-錫合金層の厚さ(実測厚さ又は物理膜厚)を、以下の方法で測定した。
まず、蒸着装置の基板ホルダに、基材フィルムとその近傍にマスクを施したシリコンウェハを設置し、基材フィルムとシリコンウェハ上に同時に蒸着した。蒸着したシリコンウェハよりマスクを取り除き、シリコンウェハ上の未蒸着部と蒸着部の段差をBRUKER社製触針式段差計Dektak XT-STにより5箇所測定し、平均して銅-錫合金層の厚さとした。
【0083】
作製したサンプル1~5の構成及び銅-錫合金層の厚さを、表1に示す。
【表1】
【0084】
2.銅-錫合金層の厚さ推定
2-1.銅イオン濃度の測定
2-1-1.金属溶解液の調製
図2A~2Hに示される手順で、金属溶解液を調製した。
まず、ディスポーザブルのプラシャーレ(材質:ポリスチレン、大きさ:直径90mm、高さ:15mm、接触角90°以上)を準備した。この底面上に、0.1Nの塩酸(塩酸水溶液)をピペットで1.5mL滴下し、液溜まりを形成した。
この液溜まりの上に、4cm×4cmに切り出した表1に記載のサンプルを、銅-錫合金層が液溜まりと接するように被せて配置した。液溜まりが、サンプルの銅-錫合金層全体に広がるように、サンプルの基材側をピンセットで何回か押し下げた。その後、シャーレに蓋をし、室温(23℃)で4時間放置した。それにより、サンプルの銅-錫合金層に含まれる金属を全て塩酸中に溶出させた。
次いで、蓋を外し、液溜まりに純水を9mL加えて、基材を洗浄及び回収した。そして、シャーレに残った液溜まりの液を回収し、10.5mLの金属溶解液を得た。なお、純水を加えて10.5mLとしたのは、用いた銅イオン濃度の測定器の検体量が10mLであり、10mLを計量するための予備量として0.5mLを見込んだためである。
【0085】
2-1-2.銅イオン濃度の測定
(1)ゼロ点調整
銅イオン濃度の測定器として、ビシンコニン酸吸光光度法を用いたハンナインスツルメンツ社製銅濃度測定器(型式:HI97702)を準備した。次いで、専用のガラスセルに、検体として金属溶解液を10mL入れて、高密度ポリエチレン製の内蓋を嵌めた後、キャップを閉めた。これを上記銅濃度測定器にセットし、ゼロ点調整を行った。
【0086】
(2)本測定
(試薬の添加)
上記金属溶解液を入れたガラスセルのキャップを開けて、銅濃度測定器HI97702用の試薬(たとえば、型式HI93702-01)1袋を入れた。次いで、高密度ポリエチレン製の内蓋を嵌めた後、キャップを閉めた。これを、15秒間以上、固形分が見えなくなるまで振り混ぜた。それにより、銅イオンの錯体が形成され、検体は赤紫色に呈色した。
【0087】
(銅イオン濃度の測定)
上記銅濃度測定器に、上記試薬を添加した金属溶解液を含むガラスセルをセットし、金属溶解液中の銅イオン濃度(mg/L)を測定した。
【0088】
2-2.蛍光X線(XRF)強度の測定
表1に記載のサンプルの金属層のCu-XRF強度を、以下の条件で測定した。なお、XRF強度は、測定スペクトルのピーク強度からバックグランドを差し引き、装置上の補正係数を考慮して算出した。測定はn=2で行い、平均値を求めた。
(分析条件)
分析方法:波長分散型XRF
分析装置:リガク製ZSX Primus IV
X線管球:Rh
絞り:10mm
測定雰囲気:真空
(測定条件)
測定スペクトル:Cu-Kα
管電圧・電流:50kV, 60mA
フィルタ:OUT
アッテネータ:1/1
スリット:S2
分光結晶:LiF(200)
検出器:SC(シンチレーション・カウンタ)
波高分析器PHA1:波高値下限/上限 100/300
走査角度:44.27~45.77degdeg
ステップ:0.02deg
走査速度:0.25deg/min.
【0089】
2-3.評価
各サンプル1~5について、銅イオン濃度の測定結果、及びCu-XRF強度の測定結果を、表2に示す。銅付着量は、測定した銅イオン濃度から、サンプル面積4cm×4cm=16cm、金属溶解液量10.5mlを用いて、換算することにより求めた。このときの、金属溶解液の銅イオン濃度と銅-錫合金層の厚さとの関係は、上記した図3Aに示した通りであり、銅付着量と銅-錫合金層の厚さとの関係は、上記した図3Bに示した通りである。また、銅-錫合金層のCu-XRF強度と銅-錫合金層の厚さとの関係を、図6に示した。
【0090】
【表2】
【0091】
表2及び図3Aに示されるように、金属溶解液の銅イオン濃度と銅-錫合金層の厚さとの関係(図3A参照)は、Cu-XRF強度と銅-錫合金層の厚さとの関係(図6参照)と同様に相関しており、2つの検量線を引けることがわかる。また、金属溶解液の銅イオン濃度は、Cu-XRF強度と高い正の相関があることがわかる。
【0092】
なお、図3Aにおける2つの検量線、即ち、金属層の厚さh(単位はnm)と金属溶解液の銅イオン濃度x(単位はmg/L)の関係は、以下の式で表される。
式(1)の検量線:h=2.6628x
式(2)の検量線:h=0.8477x+1.8348
ここで、x≦1.01mg/Lのときは式(1)を使用し、x>1.01mg/Lのときは、式(2)を使用する。
また、図3Bにおける2つの検量線、即ち、金属層の厚さh(単位はnm)とサンプルの銅付着量m(単位はμg/cm)の関係は、以下の式で表される。
式(3)の検量線:h=4.0576m
式(4)の検量線:h=1.2917m+1.8348
ここで、m≦0.663μg/cmのときは式(3)を使用し、m>0.663μg/cmでのときは式(4)を使用する。
【0093】
このことから、銅イオン濃度測定法でもXRF法と同様に銅-錫合金層のCuの情報を正確に得られることがわかる。また、検量線と同じ合金組成であれば、銅イオン濃度測定法においても、未知試料の銅-錫合金層の厚さを推定できることがわかる。
【0094】
<試験2>
試験2では、所定の目標厚さに金属層を形成したサンプルについて、金属溶解液の銅濃度測定から、試験1で作成した検量線を用いて、金属層の厚さを推定した。銅濃度測定においては、試験1で用いたビシンコニン酸吸光光度法だけでなく、同じサンプルを用いてバソクプロイン吸光光度法でも測定した。また、本試験では、蛍光X線(XRF)分析を利用したXRF強度による厚さの推定方法、及び、(金属薄膜サンプルの厚さ推定ではよく利用される)金属層の厚さで光透過性が変化することを利用した全光線透過率による厚さの推定方法についても、参考のために併せて実施した。
【0095】
1.サンプルの準備
基材として、PETフィルム(東洋紡製コスモシャインA4360 #38、厚さ38μm、両面易接着層)を用いた以外は、試験1の1.サンプルの作製と同様にして、表3に示した目標膜厚となるように成膜条件を調整して、サンプル6及び7を準備した。
【表3】
【0096】
2.銅-錫合金層の厚さの推定
2-1.銅イオン濃度測定法
2-1-1.ビシンコニン酸吸光光度法
試験1と同様にして、各サンプルの銅-錫合金層を溶解させた金属溶解液の銅イオン濃度を測定した。
【0097】
2-1-2.バソクプロイン吸光光度法
試験1の2-1-1.金属溶解液の調製と同様にして、金属溶解液10.5mlを得た。銅イオン濃度の測定器として、バソクプロイン吸光光度法を用いた共立理化学研究所製の銅濃度測定器であるデジタルパックテスト銅(型式:DPM-Cu)を準備した。専用のプラスチックセルに、検体として金属溶解液を1.5mL入れて、これを上記銅濃度測定器にセットし、ゼロ点調整を行った。
【0098】
そして、銅濃度測定器DPM-Cu用の試薬の入ったチューブパック(たとえば、型式WAK-Cu)1個に穴を開け、検体1.5mlを試薬の入ったチュープ内に吸い込み、15秒間以上、試薬の固形分が見えなくなるまで振り交ぜた。それにより、銅イオンの錯体が形成され、検体は橙黄色に呈色した。
【0099】
そして、試薬を添加した検体をチュープパックから元のプラスチックセルに戻し、上記銅濃度測定器DPM-Cuに、試薬を添加した検体を入れたセルをセットし、金属溶解液中の銅イオン濃度(mg/L)を測定した。
【0100】
測定した銅イオン濃度と、試験1で得られた式(1)及び(2)の検量線とを照合して、各サンプルの銅-錫合金層の厚さを算出した。
【0101】
2-2.蛍光X線(XRF)分析法
試験1の2-2.蛍光X線(XRF)強度の測定と同様にして、各サンプルのCu-XRF強度を測定した。
【0102】
そして、測定したCu-XRF強度と、予め準備した検量線とを照合して、各サンプルの銅-錫合金層の厚さを推定した。
【0103】
2-3.全光線透過率法
JIS K 7375:2008に準じた積分球方式を採用した東京電色社製全自動ヘイズメータTC-HIIIDPKを用いて、サンプルの全光線透過率(Tt)を測定した。光源はハロゲンランプ、受光素子はシリコンフォトセルを用い、試料の照射面積は、10mmφとした。測定の際、銅-錫合金層が配置される側を入射面とした。
【0104】
サンプルの全光線透過率T及び、基材単独の全光線透過率Tt(Sub)を、下記式に当てはめて、基材の全光線透過率Tt(Sub)で規格化した銅-錫合金層の全光線透過率Tt(CuSn)(銅-錫合金層換算の全光線透過率)を算出した。
【数5】
【0105】
そして、算出したTt(CuSn)を、以下の検量線の式に当てはめて、銅-錫合金層の厚さhを推定した。
h=-7.209*ln(Tt(CuSn))+35.623
【0106】
3.評価
サンプル6及び7について、各方法による銅-錫合金層の推定厚さを表4及び5に示した。
【表4】
【表5】
【0107】
表4及び5に示されるように、サンプル6では、ビシンコニン酸吸光光度法、バソクプロイン吸光光度法、いずれも測定された銅濃度は、同等な値を示すことが確認され、検量線によって推定される銅-錫合金層の厚さも同等であった。また、サンプル6では、全光線透過率、XRF強度、金属溶解液の銅濃度、いずれの方法でも、銅-錫合金層の推定厚さは、ほぼ一致することが確認された。
【0108】
一方、サンプル7では、XRF強度法及び銅濃度測定法による銅-錫合金層の推定厚さは、どちらもほぼ一致しているものの、全光線透過率による推定厚さは、それらとは大きく離れていた。これは、サンプル7の銅-錫合金層は、非常に薄いため、銅-錫合金層全体が酸化されてしまい、銅-錫合金層換算の全光線透過率は、99.9%とほぼ透明になっているためであると考えられる。
このように金属層が非常に薄い場合は、金属層の光透過性の違いで厚さを推定する全光線透過率法では、正確な金属層の厚さの推定は難しいことが示される。そのような場合でも、本発明に係る銅濃度測定法では、正確な金属層の厚さの推定が可能であることがわかる。
【0109】
<試験3>
試験2では、銅-錫合金層の厚さが、検量線の作成時に想定していた範囲内にあるサンプルの厚さを推定した。一方、本試験では、銅-錫合金層の厚さが検量線の作成時に想定していた範囲外にあるサンプルの厚さを推定した。そのため、銅イオン濃度の測定に際して、金属溶解液の調製条件を適宜変更し、金属溶解液の銅イオン濃度を測定した過程を試験結果として示した。
また、本試験では、銅イオン濃度の測定条件を適宜変更した。そのため、測定した銅イオン濃度を、一旦銅付着量に変換した上で、銅付着量に基づく検量線により、銅-錫合金層の厚さの推定を行った。
さらに、本試験では、銅-錫合金層を形成した不織布基材をサンプルとして用い、フィルム基材だけでなく、不織布基材についても、金属層の厚み推定が適用可能かどうかの検証も併せて行った。
【0110】
1.サンプルの準備
基材として、PETフィルム(東洋紡製コスモシャインA4160 #50)をポリプロピレン不織布(三井化学社製ポリプロピレン不織布、シンテックス(R)PS106、70μm)に変更し、且つ試験1および2に比べて銅-錫合金層が厚い例として、目標膜厚が50nmとなるように、成膜速度と成膜時間を調整した以外は試験1の1.サンプルの作製と同様にしてサンプル8を準備した。
【0111】
2.銅-錫合金層の厚さの推定
得られたサンプル8の銅-錫合金層の厚さを、銅イオン濃度測定法で推定した。
具体的には、金属溶解液に入れる塩酸量と検体の希釈倍率の少なくとも一方を表6に示すように変更した以外は、試験1の2-1.銅イオン濃度の測定と同様にして、銅イオン濃度を測定し、検量線に基づいて銅-錫合金層の厚さを推定した。なお、表6の金属溶解液の調製条件を表7に示し、検体の希釈条件を表8に示す。
【0112】
なお、本試験では、金属溶解液をさらに純水で希釈して、測定する検体とした。そのため、測定された銅イオン濃度から銅付着量に変換する場合、希釈倍率も考慮する必要がある。即ち、測定された銅イオン濃度に希釈倍率をかけた値が、実際の金属溶解液の銅イオン濃度となる。また、金属溶解液は、希釈倍率をかけた量を調製して、銅イオン濃度を測定したと解釈することもできる。従って、銅付着量mは、次式で求められる。
銅付着量m(μg/cm)=[測定された銅イオン濃度x(mg/L)*希釈倍率*金属溶解液の合計液量(mL)]/基材の面積(cm
【0113】
3.評価
得られたサンプル8の結果を表6に示す。なお、表6における銅-錫合金層の推定厚さは、基材が不織布ではなく、フィルムである場合に、どれくらいの厚さに相当するかを示す参考値である。推定厚さhは、サンプルの銅付着量m(単位はμg/cm)を用いて、下記式に基づいて算出した。
式(3)の検量線:h=4.0576m
式(4)の検量線:h=1.2917m+1.8348
ここで、m≦0.663μg/cmのときは式(3)を使用し、m>0.663μg/cmのときは式(4)を使用する。
【0114】
【表6】
【表7】
【表8】
【0115】
溶解後のサンプルはほぼ白色になっており、銅-錫合金層は、ほぼ全量溶解していることが確認された。それにより、不織布基材でも概ね問題なく、金属溶解液を調製できることを確認した。また、表6に示される推定厚さは、精度はやや劣るものの、不織布基材を用いた場合でも、金属層の厚さを推定可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によれば、高価な分析装置を用いなくても、比較的簡易な方法で極薄の金属層の厚さを測定できる、金属層の厚さの測定方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0117】
100 測定装置
110 測定部
120 演算部
121 データ取得部
122 厚さ算出部
130 記憶部
140 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6