(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093669
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】成形型および複合成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/12 20060101AFI20240702BHJP
B29C 45/37 20060101ALI20240702BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B29C33/12
B29C45/37
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210194
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 泰希
(72)【発明者】
【氏名】水本 和也
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AB11
4F202AB25
4F202AD05
4F202AR07
4F202AR12
4F202CA11
4F202CB01
4F202CB12
4F202CK12
4F202CK42
4F202CQ01
4F206AB11
4F206AB25
4F206AD05
4F206AR07
4F206AR12
4F206JA07
4F206JB12
4F206JL02
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】金型に収容可能なピンによりインサート材の位置ズレを抑制する成形型において、製造される成形体にはピン跡が残りにくい成形型を提供すること。
【解決手段】対向して配置された開閉可能な2つの型と、前記2つの型により形成される空洞部に樹脂材料を射出する射出ゲートと、前記2つの型の少なくとも一方の型に収容可能に配置され、前記空洞部に配置されて前記樹脂材料と一体化される成形材料を仮押さえする仮押さえピンと、を有し、前記仮押さえピンは、先端にテーパー部を有する、成形型。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置された開閉可能な2つの型と、
前記2つの型により形成される空洞部に樹脂材料を射出する射出ゲートと、
前記2つの型の少なくとも一方の型に収容可能に配置され、前記空洞部に配置されて前記樹脂材料と一体化される成形材料を仮押さえする仮押さえピンと、を有し、
前記仮押さえピンは、先端にテーパー部を有する、
成形型。
【請求項2】
前記テーパー部の先端は、平面状である、請求項1に記載の成形型。
【請求項3】
前記テーパー部は、前記成形材料の表面の平滑性または前記樹脂材料の収縮率に応じたテーパー角度を有する、請求項1に記載の成形型。
【請求項4】
前記テーパー部は、前記成形材料の厚みまたは剛性に応じたテーパー角度を有する、請求項1に記載の成形型。
【請求項5】
前記テーパー部のテーパー角度は、10°以上80°以下であり、前記テーパー部の先端の表面積は、3mm2以上1200mm2以下である、請求項1に記載の成形型。
【請求項6】
前記テーパー部は、前記射出ゲートから射出された前記樹脂材料の圧力により前記一方の型の内部に収容される、請求項1に記載の成形型。
【請求項7】
成形型の、2つの型により形成される空洞部に成形材料を配置する工程と、
前記配置された成形材料を、先端にテーパー部を有する仮押さえピンで仮押さえする工程と、
前記成形材料が仮押さえされた前記空洞部に樹脂材料を射出する工程と、
を有する、複合成形体の製造方法。
【請求項8】
前記テーパー部の先端は、平面状である、請求項7に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項9】
前記テーパー部は、前記成形材料の表面の平滑性または前記樹脂材料の収縮率に応じたテーパー角度を有する、請求項7に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項10】
前記テーパー部は、前記成形材料の厚みまたは剛性に応じたテーパー角度を有する、請求項7に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項11】
前記テーパー部のテーパー角度は、10°以上80°以下であり、前記テーパー部の先端の表面積は、3mm2以上1200mm2である、請求項7に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項12】
前記テーパー部は、前記射出された前記樹脂材料の圧力により前記2つの型のうち一方の型の内部に収容される、請求項7に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項13】
前記成形材料は、繊維強化樹脂である、請求項7に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項14】
補強材である複合成形体を製造する、請求項7に記載の複合成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形型および複合成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形型のキャビティ中にインサート材を配置し、インサート材が配置されたキャビティ中に樹脂材料を射出して、インサート材と射出された樹脂との複合体を成形する、いわゆるインサート成形が知られている。インサート成形時には、射出された樹脂材料がキャビティ中を流動する際の流動圧によりインサート材が位置ズレしていまい、得られる成形体中のインサート材の位置が、本来あるべき目標位置からずれてしまうという問題がある。この問題を解決するため、キャビティ中に配置されたインサート材をピンで仮押さえして、インサート材の位置ズレを抑制する方法が知られている。
【0003】
このピンとして、樹脂の射出前にはインサート材を位置決めして固定しておくが、樹脂を射出して加圧(圧縮)する際にはシリンダ機構により金型の内部に収まるため成形体に凹形状を残さないようにできるピンが、特許文献1に記載されている。特許文献1には、このピンの先端に、中心から外周方向に貫通する溝を設けたり、突起部を設けたりすることで、射出された樹脂の流れをピンによって塞がないようにできる、と記載されている。
【0004】
これに対し、弾性部材によりキャビティ型に対して進退自在に取り付けられ、かつキャビティ内に充填された樹脂材料が流通する切欠部を先端面に有するピンが、特許文献2に記載されている。特許文献2によると、このピンは、樹脂の充填前はインサート材を押圧して保持しているが、キャビティ内に充満する樹脂材料が切欠部を流通するとその樹脂圧力を受けて後退する。そのため、樹脂の充填後にはピンはキャビティ型に完全に押し込まれ、成形体に凹所を形成しない、とされている。
【0005】
また、成形型を構成するキャビティ型からキャビティ内部に付勢して突出され、断面形状が円形の本体部と、断面形状が円形の小径部と、を有するピンが特許文献3に記載されている。特許文献3によると、本体部と小径部との間の段差部上面が、射出後の保圧による圧力を受ける受圧面となっている。そして、保圧による圧力を受圧面が受けることによりピンがキャビティ中に後退するため、キャビティ型中にピンを確実に後退させることができ、後退できなかったピン跡が成形体に残りにくい、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-231703号公報
【特許文献2】特開平6-339948号公報
【特許文献3】特開2004-216855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のように、樹脂材料の射出前にインサート材を仮押さえしておくピンを、射出後に金型に収容することで、成形体にピン跡を残さないようにできるとされている。しかし、特許文献1のようにピンを収容させるためのシリンダ機構を金型に設けると、シリンダ機構を考慮した金型の設計をする必要がある。その結果、キャビティの形状が制限されて成形体の形状を自由に設計しづらく、またピンの位置も制限されるためインサート材をしっかりと仮押さえできないことが多い。
【0008】
これに対し、樹脂の圧力でピンを金型に収容させれば、特許文献1に記載のようなシリンダ機構を設ける必要はない。そして、このとき特許文献2や特許文献3に記載のようにピンの先端に切欠部や小径部を設けることで、金型内部にピンを収容しやすくすると期待できる。
【0009】
しかし、本発明者らの知見によると、特許文献2のような先端に切欠部を設けたピンを用いると、樹脂が切欠部に食い込んでしまい、離型性に劣る場合がある。また、特許文献3に記載のような先端に小径部を設けたピンを用いても、製造される成形体にはピン跡による凹みが残ってしまっていた。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、金型に収容可能なピンによりインサート材の位置ズレを抑制する成形型において、製造される成形体にはピン跡による凹みが残りにくく、離型性が良好な成形型、および当該成形型を用いた成形体の製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、下記[1]~[6]の成形型に関する。
[1]対向して配置された開閉可能な2つの型と、
前記2つの型により形成される空洞部に樹脂材料を射出する射出ゲートと、
前記2つの型の少なくとも一方の型に収容可能に配置され、前記空洞部に配置されて前記樹脂材料と一体化される成形材料を仮押さえする仮押さえピンと、を有し、
前記仮押さえピンは、先端にテーパー部を有する、
成形型。
[2]前記テーパー部の先端は、平面状である、[1]に記載の成形型。
[3]前記テーパー部は、前記成形材料の表面の平滑性または前記樹脂材料の収縮率に応じたテーパー角度を有する、[1]または[2]に記載の成形型。
[4]前記テーパー部は、前記成形材料の厚みまたは剛性に応じたテーパー角度を有する、[1]または[2]に記載の成形型。
[5]前記テーパー部のテーパー角度は、10°以上80°以下であり、前記テーパー部の先端の表面積は、3mm2以上1200mm2以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の成形型。
[6]前記テーパー部は、前記射出ゲートから射出された前記樹脂材料の圧力により前記一方の型の内部に収容される、[1]~[5]のいずれかに記載の成形型。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、下記[7]~[14]の複合成形体の製造方法に関する。
[7]成形型の、2つの型により形成される空洞部に成形材料を配置する工程と、
前記配置された成形材料を、先端にテーパー部を有する仮押さえピンで仮押さえする工程と、
前記成形材料が仮押さえされた前記空洞部に樹脂材料を射出する工程と、
を有する、複合成形体の製造方法。
[8]前記テーパー部の先端は、平面状である、[7]に記載の複合成形体の製造方法。
[9]前記テーパー部は、前記成形材料の表面の平滑性または前記樹脂材料の収縮率に応じたテーパー角度を有する、[7]または[8]に記載の複合成形体の製造方法。
[10]前記テーパー部は、前記成形材料の厚みまたは剛性に応じたテーパー角度を有する、[7]または[8]に記載の複合成形体の製造方法。
[11]前記テーパー部のテーパー角度は、10°以上80°以下であり、前記テーパー部の先端の表面積は、3mm2以上1200mm2である、[7]~[10]のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
[12]前記テーパー部は、前記射出された前記樹脂材料の圧力により前記2つの型のうち一方の型の内部に収容される、[7]~[11]のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
[13]前記成形材料は、繊維強化樹脂である、[7]~[12]のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
[14]補強材である複合成形体を製造する、[7]~[13]のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金型に収容可能なピンによりインサート材の位置ズレを抑制する成形型において、製造される成形体にはピン跡による凹みが残りにくく、離型性が良好な成形型、および当該成形型を用いた成形体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態に関する成形型の主要な構成部分を示す、長尺状体の長軸に沿った模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に関する成形型の主要な構成部分を示す、長尺状体の長軸に直交する短軸に沿った模式的な断面図である。
【
図3】
図3A~
図3Cは、本実施形態においてピン保持プレートが保持する仮押さえピンの模式的な形状を示す、ピンの先端部分の断面図である。
【
図4】
図4は、上記の成形型を用いて複合成形体を作製する方法の各工程を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、工程S410を示す、
図1の一部(
図1に示す点線部)の部分拡大図である。
【
図6】
図6は、工程S420を示す、
図1の一部(
図1に示す点線部)の部分拡大図である。
【
図7】
図7は、工程S430を示す、
図1の一部(
図1に示す点線部)の部分拡大図である。
【
図8】
図8は、工程S430を示す、
図1の一部(
図1に示す点線部)の部分拡大図である。
【
図9】
図9は、工程S430を示す、
図1の一部(
図1に示す点線部)の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
以下、本発明の一実施形態を、予め成形型中に配置された成形材料と、射出された樹脂材料とが一体化された複合成形体を成形するための成形型を例示して説明する。
図1および
図2は、本実施形態に関する成形型の主要な構成部分を示す模式的な断面図であり、
図1は長尺状体の長軸に沿った断面図、
図2は長軸に直交する短軸に沿った断面図である。
図2に示すように、この成形型は、断面がハット状の複合成形体を成形するために用いられる。
【0016】
成形型100は、互いに対向して配置されたキャビティ型110およびコア型120と、キャビティ型110の外側に配置されたピン保持プレート130、コア型の外側に配置されたエジェクタプレート140、ならびにこれらを保持するキャビティ側保持枠152およびコア側保持枠154を有する。
【0017】
キャビティ型110およびコア型120は、キャビティ型110をコア型120に当接および離間可能に配置された一対の型である。キャビティ型110およびコア型120のそれぞれの対向面は、キャビティ型110をコア型120に当接させたときに、これらの対向面の間隙に複合成形体の形状となる空洞部112を形成する形状を有する。本実施形態では、キャビティ型110のコア型120と対向する表面は、断面ハット状の複合成形体の外表面の形状である窪み部を有し、コア型120のキャビティ型110と対向する表面は、断面ハット状の複合成形体の内表面の形状である突出部を有する。キャビティ型110およびコア型120は、不図示のガイドピンに沿って、互いに近づく方向および互いから遠ざかる方向に移動可能である。
【0018】
また、コア型120は、不図示の射出成形機から供給された、複合成形体の材料(成形材料)となる樹脂材料を、空洞部112の内部に射出するための射出ゲート122を有する。不図示の射出成型機と射出ゲート122とは、射出成型機から樹脂が流入するスプール123およびスプール123と射出ゲート122を接続するランナー124により接続されている。
【0019】
ピン保持プレート130は、キャビティ型110を貫通して、初期状態においてキャビティ型110から空洞部112に突出して配置される仮押さえピン132aおよび仮押さえピン132bを保持する。また、ピン保持プレート130は、いずれもピン状のプレートガイド114aおよびプレートガイド114bに貫通されており、仮押さえピン132aおよび仮押さえピン132bを保持したまま、プレートガイド114aおよびプレートガイド114bに沿って、キャビティ型110に近づく方向およびキャビティ型110から遠ざかる方向(
図1中左右方向)に移動可能である。本実施形態において、ピン保持プレート130は、ワイヤー134によりコア型120に連結されている。ワイヤー134は、ピン保持プレート130およびコア型120のそれぞれに、着脱可能に取り付けられた可撓性の部材であり、ピン保持プレート130がキャビティ型110(およびコア型120)から離間する方向に移動するとき、ワイヤー134の長さ以上の距離へのピン保持プレート130の移動を制限する。
【0020】
仮押さえピン132aおよび仮押さえピン132bは、成形型100を用いて成形材料と樹脂材料とが一体化された複合成形体を製造するときに、成形型100の空洞部112内に予め配置される成形材料を仮押さえして、成形中における成形材料の位置ずれを抑制する。
【0021】
図3A~
図3Cは、本実施形態においてピン保持プレート130が保持する仮押さえピン132aおよび仮押さえピン132bの模式的な形状を示す、それぞれのピンの先端部分の断面図である。なお、本実施形態では複数ある仮押さえピンがいずれも同一の形状を有しているものとする。
【0022】
図3A~
図3Cに示すように、仮押さえピン132aおよび仮押さえピン132bは、成形材料を仮抑えする先端部(キャビティ型110からコア型120に向かう方向の先端部)に、先端に向かうにつれて断面積が小さくなるテーパー形状であるテーパー部310を有する。そして、その最も先端の部分は、成形材料のうちのピンと当接する表面に略平行な平面状の底面部320となっている。言い換えると、テーパー部310は、断面形状が略台形のテーパー形状である。
【0023】
図3Aに示すテーパー部310は、テーパー部310の側面に対してピンの延在方向がなる角度(
図3中のθ。以下、単に「テーパー角」ともいう。)が45°である。
図3Bに示すように、テーパー角θが小さくなるほど、テーパー部310の側面はピンの延在方向に平行となるように近づいていき、このときテーパー部310のピンの延在方向への長さは長くなっていき、あるいはピン先端の底面部320の表面積は大きくなっていく。
図3Cに示すように、テーパー角θが大きくなるほど、テーパー部310の側面はピンの延在方向から離れていき、このときテーパー部310のピンの延在方向への長さは短くなっていき、あるいはピン先端の底面部320の表面積は小さくなっていく。
【0024】
エジェクタプレート140は、コア型120を貫通して、初期状態においてコア型120のキャビティ型110と対向する表面から突出せずに配置されるエジェクタピン142aおよび142bを保持する。また、エジェクタプレート140は、プレート保持枠144に保持されており、不図示の移動機構により、エジェクタピン142aおよびエジェクタピン142bを保持したままコア型120に近づく方向およびコア型120から遠ざかる方向(
図1中左右方向)に移動可能である。
【0025】
キャビティ側保持枠152およびコア側保持枠154は、上記の各構成部分を保持する。
【0026】
図4は、上記の成形型100を用いて複合成形体を作製する方法の各工程を示すフローチャートである。
図4に示すように、複合成形体は、成形型中への成形材料の配置(工程S410)、型締め(工程S420)、および樹脂材料の射出(工程S430)の各工程を行うことにより、製造することができる。
【0027】
図5は、工程S410を示す、
図1の一部(
図1に示す点線部)の部分拡大図である。
【0028】
本工程では、キャビティ型110とコア型120とが互いに離間している、型開けされた状態で、コア型120の表面に成形材料510を配置する。成形材料510は、樹脂材料と複合一体化される材料であり、その種類は限定されない。たとえば、成形材料510は金属、樹脂およびセラミックス等とすることができる。
【0029】
このとき、ピン保持プレート130はワイヤー134によりコア型120に連結されており、コア型120側に付勢される。この付勢によりピン保持プレート130はコア型120側に移動し、仮押さえピン132aはキャビティ型110から空洞部112に突出する(これ以降の製造の説明は仮押さえピン132aについて行うが、仮押さえピン132bも同様の挙動をすることは言うまでもない。)。
【0030】
図6は、工程S420を示す、
図1の一部(
図1に示す点線部)の部分拡大図である。
【0031】
本工程では、表面に成形材料510が配置されたコア型120にキャビティ型110を当接させ、これらの対向面の間に密閉された空間である空洞部112を形成する。本実施形態では、キャビティ型110はピン保持プレート130と一体的に、コア型120に近づく方向(
図6中左方向)に移動する。このため、ピン保持プレート130に保持されたピン保持プレート130、およびピン保持プレート130に保持された仮押さえピン132aも、本工程においてコア型120に近接していく。
【0032】
このとき、上述したように、仮押さえピン132aは、本工程において型締めしたときに、コア型120に配置された成形材料510に当接するように、キャビティ型110から空洞部112に突出して配置されている。より具体的には、仮押さえピン132aは、当該ピンが配置された位置におけるキャビティ型110とコア型120との対向面間の距離よりも長く、キャビティ型110から突出されている。そのため、本工程において型締めがされる途中に、ピンの先端(底面部320)は成形材料510に当接する。この状態でさらにキャビティ型110がコア型120に近接していくと、仮押さえピン132aとコア型120との当接によりピン保持プレート130はコア型120に押し上げられてキャビティ型110から遠ざかる方向(
図6中右方向)に移動し、キャビティ型110からのピンの突出長さは減少していく。キャビティ型110とコア型120とが完全に型締めされたとき、仮押さえピン132aは、当該ピンが配置された位置におけるキャビティ型110とコア型120との対向面間の距離だけキャビティ型110から突出されて、その底面部320は成形材料510に当接した状態となる(
図6参照)。
【0033】
図7~
図9は、工程S430を示す、
図1の一部(
図1に示す点線部)の部分拡大図である。
【0034】
本工程では、射出ゲート122から溶融した樹脂材料710を空洞部112の内部に射出する。射出された樹脂材料710は、所定の溶融粘度をもち、コア型120に配置された成形材料510の表面に沿って空洞部112の内部を流動していく(
図7参照)。
【0035】
流動していく樹脂材料710は、やがて、成形材料510に当接する仮押さえピン132aに到達する(
図8参照)。
【0036】
そして、流動する樹脂材料710の流動圧により、仮押さえピン132aはコア型120から遠ざかる方向(
図8中右方向)に押し上げられ、キャビティ型110の内部に収容される。そして、仮押さえピン132aがあった位置は樹脂材料710により充填される(
図9参照)。そのため、製造された複合成形体は、樹脂材料710のうち仮押さえピン132aの位置にピン跡が残りにくい。
【0037】
ところで、特許文献2や特許文献3に記載のような樹脂の圧力で金型に収容されるピンを用いて成形材料510を仮押さえしても、複合成形体にはピン跡が残ってしまっていた。本発明者らの知見によると、これは、成形時に射出された樹脂材料710が上記ピンに固着してしまって、ピンが十分に金型内部に退却せず、しかも成形後の離型時にピンが樹脂から抜けづらく、ピンが周囲の樹脂材料を持って行ってしまうためだと考えられる。
【0038】
これに対し、仮押さえピン132aの先端部をテーパー形状とすることで、流動する樹脂材料との当接時に仮押さえピン132aを押し上げやすくし、樹脂材料が固着する前に仮押さえピン132aをキャビティ型110に収容することで、上記作用によるピン跡の形成を抑制することができる。
【0039】
また、テーパー部310のテーパー角度は、樹脂材料710の仮押さえピン132aへの固着しやすさ、具体的には成形材料510の表面の平滑性または樹脂材料710の収縮率に応じて設定してもよい。つまり、成形材料510の平面がより凸凹であったり、樹脂材料710が仮抑えピン132aに抱き着く方向に収縮しやすかったり(たとえばガラス繊維等の補強材の量が多い樹脂材料710等)するときには、樹脂材料710が仮押さえピン132aに固着しやすい。このような、樹脂材料が固着しやすいときには、仮押さえピン132aがより早期に押し上げられるように、テーパー角度をより大きくすることができる。一方で、上述したように、テーパー角θが小さくなるほど、ピン先端の底面部320の表面積は大きくなりやすい。そのため、樹脂材料が固着しにくいときは、成形材料の位置ズレ抑制を重視してテーパー角度をより小さくしてもよい。
【0040】
あるいは、テーパー部310のテーパー角度は、成形材料510の位置ズレしやすさ、具体的には成形材料510の厚みまたは剛性に応じて設定してもよい。つまり、上述したように、テーパー角θが小さくなるほど、ピン先端の底面部320の表面積は大きくなりやすい。そのため、成形材料510の厚みが厚かったり、成形材料510の剛性が小さかったりして、成形材料510が位置ズレしやすいときには、テーパー角度をより小さくすることができる。一方で、テーパー角θが大きくなるほど、ピン先端の底面部320の表面積は小さくなりやすい。そのため、成形材料510の厚みが薄かったり、成形材料510の剛性が大きかったりして、成形材料510が位置ズレしにくいときには、ピン跡の抑制を重視してテーパー角度をより大きくしてもよい。
【0041】
また、テーパー部310のテーパー角度は、ピン跡の抑制と成形材料510の位置ズレの抑制との効果の両立性を勘案して設定しもよい。たとえば、これらを両立するためのテーパー角度は、10°以上80°以下であることが好ましく、20°以上75°以下であることがより好ましい。
【0042】
また、テーパー部310の底面部320の表面積も、ピン跡の抑制と成形材料510の位置ズレの抑制との効果の両立性を勘案して設定しもよい。たとえば、これらを両立するための底面部320の表面積は、3mm2以上1200mm2以下であることが好ましく、5mm2以上600mm2以下であることがより好ましい。
【0043】
このように、本実施形態では、仮押さえピン132aの先端をテーパー形状とすることで、成形材料510の位置ズレを抑制しつつ、成形された複合成形体へのピン跡も残りにくくすることができる。
【0044】
工程S430で樹脂材料710を射出した後は、保圧した後に冷却して、キャビティ型110をコア型120から離間させ(型開けして)、樹脂複合体を得ることができる。キャビティ型110をコア型120から離間させると、ワイヤー134の張力により、仮押さえピン132aは初期状態のキャビティ型110から突出した状態に戻る。得られた樹脂複合体は、エジェクタプレート140がキャビティ型110側に移動し、エジェクタピン142a、142bが複合成形体を押し上げることで、コア型120から離型される。
【0045】
離型された複合成形体は、テーパー部310の形状に応じた凸部(
図9の凸部710a)を有することがある。離型後に、公知のバリ取り方法等により、この凸部を複合成形体から除去してもよい。
【0046】
成形材料510の種類は、上述した通り限定されないが、成形時の位置ズレが生じやすい樹脂であるとき、本実施形態による位置ズレ抑制の効果が特に顕著に奏される。このとき、成形材料510と樹脂材料710とは異なる種類の樹脂であってもよいし、同種類の樹脂であってもよい。樹脂である成形材料510は、熱可塑性樹脂であってもよいし熱硬化性樹脂であってもよい。これらのうち、射出された樹脂材料710の熱により軟化および溶融しやすく、これにより位置ズレが生じやすい熱可塑性樹脂を用いたとき、本実施形態による位置ズレ抑制の効果が特に顕著に奏される。
【0047】
上記熱可塑性樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびポリ4-メチル-1-ペンテンなどを含むポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ならびにフッ素樹脂などが含まれる。これらの樹脂は、1種を単独で含んでいても良く、又は2種以上を含んでいても良い。
【0048】
成形材料510は、これらの樹脂に加えて、公知の添加剤や強化繊維などを含む樹脂組成物であってもよい。
【0049】
たとえば、成形材料510として繊維強化樹脂、特には一方向に配向して配列された複数の強化繊維と、当該強化繊維に含浸されたマトリクス樹脂とを有する一方向シート(Uni-Direction Sheet:UDシート)を使用することで、樹脂材料710から成形された成形品がUDシートにより補強された複合成形体を得ることができる。
【0050】
成形材料510が繊維強化樹脂であり、複合成形体が補強材として用いられるものであるとき、樹脂材料710にピン跡が生じると、当該ピン跡に応力が集中して割れの起点となりやすく、ピン跡の発生は補強材には致命的な問題となりかねない。そのため、成形材料510が繊維強化樹脂であったり、複合成形体が補強材であったりするとき、本実施形態によるピン跡の抑制は非常に有用である。
【0051】
成形材料510が樹脂(特には熱可塑性樹脂)であるとき、工程S410で成形型100の内部に配置される成形材料510は、複合成形体中の成形材料の形状に予め賦形されていてもよいし、賦形されていない、たとえば単層または積層された樹脂シートなどであってもよい。これらのうち、成形材料510が賦形されていない樹脂材料であるとき、剛性が小さいため樹脂材料710の流動による位置ズレが生じやすいため、本実施形態による位置ズレ抑制の効果が顕著に奏される。特に、成形材料510が賦形されていないUDシートであるときは、工程S410で成形型100の内部に配置されたUDシートの、最上層における強化繊維が配向された角度が樹脂材料710の流動方向に対して所定の角度を有するとき(たとえば45°や90°に配向しているとき)、樹脂材料710の流動によるUDシートの位置ズレが生じやすいため、本実施形態による位置ズレ抑制の効果が顕著に奏される。なお、成形材料510が賦形されていない樹脂材料であるとき、工程S410で成形型100の内部に配置する前に予備加熱するか、または成形型100の内部に配置した後、工程S420で樹脂材料710を射出する前に、成形材料510を変形させて予備加熱し、予備加熱された成形材料510が冷却される前に工程S420で樹脂材料710を射出することが好ましい。
【0052】
樹脂材料710の材料は特に限定されず、公知の熱可塑性樹脂のうちから、製造する複合成形体に応じて選定することができる。
【0053】
上記熱可塑性樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびポリ4-メチル-1-ペンテンなどを含むポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ならびにフッ素樹脂などが含まれる。これらの樹脂は、1種を単独で含んでいても良く、又は2種以上を含んでいても良い。
【0054】
樹脂材料710は、これらの熱可塑性樹脂に加えて、公知の添加剤や強化繊維などを含む樹脂組成物であってもよい。
【0055】
[その他の実施形態]
なお、上述した各実施形態は、あくまで本発明の例示的な実施形態であり、本発明は、本明細書に開示された技術思想の範囲内において、様々に変更された実施形態をとり得ることはいうまでもない。
【0056】
たとえば、上述の実施形態では、断面がハット状の複合成形体を製造するための成形型について説明をしたが、複合成形体の形状はこれに限られず、あらゆる形状とすることができる。
【0057】
また、上述の実施形態では、成形型が2つの仮押さえピンを有する例について説明をしたが、仮押さえピンの数はこれに限定されず、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。仮押さえピンの数および仮押さえピンが配置される位置は、成形される複合成形体の形状に応じて定めることができる。
【0058】
また、上述の実施形態では、仮押さえピンがキャビティ型に配置される例について説明をしたが、仮押さえピンはコア型に配置されてもよい。また、成形型は、仮押さえピンの移動を補助する移動機構を有してもよいし、仮押さえピンを任意の方向に移動させる構成であってもよい。
【0059】
また、成形型が仮押さえピンを複数個有するとき、射出ゲートからの距離に応じて、それぞれの仮押さえピンが樹脂材料に押し上げられるタイミングが異なることもある。そのため、成形型は、独立して移動可能な複数のピン保持プレートを有し、それぞれのピン保持プレートが仮押さえピンを保持する構成であってもよい。
【0060】
また、仮押さえピンは、樹脂の固着を防ぐための表面処理や平滑化処理をされていてもよい。また仮押さえピンの底面部は、成形材料を抑える効果を高めるための平滑化処理をされていてもよい。さらには、仮押さえピンは、軽量化のために中空とされていてもよいし、1つの仮押さえピンの中で方向ごとにテーパー角度が異なる、あるいは特定の方向のみにテーパー部を有する構成であってもよい。たとえば、仮押さえピンのうち、流動する樹脂材料が最初に当接する、射出ゲートを向いた方向にのみテーパー部を有してもよい。
【実施例0061】
1.材料の用意
UDシートとして、一方向に配列した炭素繊維にポリプロピレンを含浸させたUDシート(三井化学株式会社製、TAFNEX(登録商標)、繊維体積分率(VF):50%、厚差、0.16mm)を用意した。
【0062】
UDシートを210mm×50mmサイズに切り出した後、真鍮板/210mm×60mmにくり貫かれたAl枠/離型フィルム/UDテープ/離型フィルム/真鍮板の順に積層して基材とした。なお、UDテープは、炭素繊維の配向方向が0°(基準)/90°/0°/90°/0°/90°となるように6層積層して、Al枠のくり貫かれた部分に収まるようにセットした。
【0063】
プレス装置を180℃に加熱し、上記の積層した基材をプレス装置の金型内に入れて無加圧のまま4分間予備加熱した。その後、15℃に設定されたプレス装置に基材を移して、即座に2MPaでプレスして、3分間保持し、UDシートの積層体を作成した。
【0064】
2.成形型の用意
図1および
図2に示すハット形状に対応した形状の成形体を製造するための成形型を用意した。
【0065】
仮押さえピンとして、直径が12mmの略円筒状であり、ピン先端部に長さ0.5mm、45°のテーパー角度を有するテーパー部を先端に有するピンを4本、ハット状の天面部に設置した。
【0066】
3.成形
3-1.成形体の製造(実施例1)
金型外に設置された中赤外線ヒーター(株式会社浅野研究所製、クイックレスポンスヒーターシステム)を用いてUDシート積層体を180℃になるまで加熱した後、即座にUDシート積層体を成形型の空洞部内に搬送し、仮押さえピンでUDシート積層体を固定したまま金型を閉じてUDシート積層体をハット形状に変形させた。その後、賦形されたUDシート積層体が冷却される前に、オンラインブレンド射出成形機(芝浦機械製、L former 100-2AP)を使用して、ガラス繊維強化ポリプロピレン複合材料(株式会社プライムポリマー製、モストロンL5071PL9)を溶融混錬して空洞部内部に射出した。射出時の射出成形機のシリンダ温度は240℃に設定し、成形体の空洞部温度は50℃に設定した。また射出成形機のスクリュー回転数は100rpm、射出速度は60mm/s、背圧は10MPa、V/P切り替え位置は5mmとした。射出後、60MPaで5secの保圧を行い、その後に金型を開いて、UDシートの積層体とガラス繊維強化ポリプロピレン複合材料とが一体化された複合成形品を得た。
【0067】
3-2.成形体の製造(実施例2~実施例5、比較例1~比較例3)
仮押さえピンの先端の形状を変更した以外は実施例1と同様にして、それぞれ、複合成形品を得た。なお、比較例1では、テーパー部を有さない仮押さえピンを使用し、比較例2では、ピン先端に幅2mmの十字形状の切欠部(特許文献2参照)を形成した仮押さえピンを使用し、比較例3では、先端が直径6mm、長さ1.5mmの断面形状が円形の小径部(特許文献3参照)を有する段差形状の仮押さえピンを使用した。
【0068】
4.評価
4-1.位置ズレの評価
それぞれの成形体について、UDシート積層体が配置されるべき目標位置(空洞部中にセットした位置)からの射出された樹脂の流動方向へのUDシート積層体の位置ズレ量を計測し、以下の評価基準により位置ズレの評価を行った。
○: 位置ズレ量が1mm未満である
△: 位置ズレ量が1mm以上2mm未満である
×: 位置ズレ量が2mm以上である
【0069】
4-2.凹み跡の評価
それぞれの成形体について、UDシート積層体が仮押さえピンで仮押さえされていた部位を、キャビティ型110側から目視で観察し、以下の評価基準により凹み跡の評価を行った。
○: 成形体の表面にピンによる凹みは確認されない
△: 成形体の表面に凹みは確認されるが、UDシート積層体は露出していない
×: 成形体の表面に凹みが確認され、UDシート積層体が露出している
【0070】
4-3.離型性の評価
それぞれの金型を用いて成形体の製造を20回行い、成形後に成形体を問題なく取り出せたか、それとも成形体が金型の中に残ってしまったかを評価した。成形後に成形体を問題なく取り出せた回数の割合をもとに、以下の評価基準により離型性の評価を行った。
〇: 成形体を問題なく取り出せた確率は95%以上だった
△: 成形体を問題なく取り出せた確率は90%以上95%未満だった
×: 成形体を問題なく取り出せた確率は90%未満だった
【0071】
各実験における仮押さえピンのテーパー角度、テーパー部の長さ、およびテーパー部による固定面積、ならびに位置ズレおよびピン後の評価結果を、表1に示す。
【0072】
【0073】
表1から明らかなように、先端にテーパー部を有するピンを用いて成形材料を仮押さえすることで、成形材料の位置ズレを抑制しつつ、製造された複合成形体へのピン跡の発生も抑制することができた。なお、比較例2の仮押さえピンを成形後に確認したところ、いずれもピン先端部に樹脂が残ってしまっていた。