(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093678
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】鍵盤装置およびハンマーの連動方法
(51)【国際特許分類】
G10B 3/12 20060101AFI20240702BHJP
G10H 1/34 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G10B3/12 130
G10H1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210205
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000116068
【氏名又は名称】ローランド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】高田 征英
(72)【発明者】
【氏名】澤田 睦夫
(72)【発明者】
【氏名】宇野 史郎
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478BD05
(57)【要約】
【課題】押鍵感触を向上できる鍵盤装置およびハンマーの連動方法を提供すること。
【解決手段】回転軸43回りのハンマー6の回転時には、突起部23の下面23aが受け部62の底面62aに沿って摺動し、この摺動時には、回転中心C回りに突起部23が回転する。これにより、受け部62に対して突起部23が前後にスライドする場合に比べ、受け部62に塗布された潤滑剤(グリス等)が突起部23の変位によって前後に押し退けられることを抑制できる。また、白鍵2aとハンマー6との係合部分に塗布された潤滑材を受け部62で保持できるので、潤滑剤が流れ落ちることを抑制できる。よって、受け部62における突起部23の摺動抵抗が増大することを抑制できるので、演奏者に良好な押鍵感触を付与できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材と、前記支持部材に揺動可能に支持され、スケール方向に並ぶ複数の鍵と、前記鍵の揺動に連動するハンマーと、を備え、
前記ハンマーは、下方に凹む受け部を備え、
前記鍵は、下方に突出して前記受け部に挿入される突起部を備え、
前記受け部の底面または前記突起部の下面の少なくとも一方に円弧面が形成され、
前記鍵の揺動時に、前記円弧面を含む円の中心回りに前記突起部が回転することを特徴とする鍵盤装置。
【請求項2】
前記受け部は、前記受け部の底面のスケール方向における両端から立ち上がる壁を備えることを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項3】
前記受け部の底面または前記突起部の下面のいずれか一方に前記円弧面が形成され、他方が前記円弧面に少なくとも2点で接触することを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項4】
前記受け部の底面には、前記突起部の前後に対面する第1対向面および第2対向面が形成され、
前記第1対向面は、前記鍵の押鍵時に前記突起部から離れる方向に相対変位し、
前記第2対向面は、前記鍵の押鍵時に前記突起部に近付く方向に相対変位し、
前記鍵の押鍵前の初期位置において、前記突起部と前記第1対向面との間の隙間よりも、前記突起部と前記第2対向面との間の隙間が広く形成されることを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項5】
前記初期位置において、前記第1対向面の少なくとも一部が前記突起部と離れており、
前記鍵の押鍵の終端位置において、前記第2対向面の少なくとも一部が前記突起部と離れていることを特徴とする請求項4記載の鍵盤装置。
【請求項6】
前記円弧面に凹部が形成されることを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項7】
前記突起部の下面に凹部が形成されることを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項8】
前記受け部の底面および前記突起部の下面の各々に前記円弧面が形成され、
前記突起部の円弧面に凹部が形成されることを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項9】
前記凹部は、前記突起部の円弧面の前後の両端にわたって延びる溝であることを特徴とする請求項8記載の鍵盤装置。
【請求項10】
前記凹部は、前記突起部の円弧面のスケール方向における両端にわたって延びる溝であることを特徴とする請求項8記載の鍵盤装置。
【請求項11】
支持部材と、前記支持部材に揺動可能に支持され、スケール方向に並ぶ複数の鍵と、前記鍵の揺動に連動するハンマーと、を備え、前記ハンマーが、下方に凹む受け部を備え、前記鍵が、下方に突出して前記受け部に挿入される突起部を備え、前記受け部の底面または前記突起部の下面の少なくとも一方に円弧面が形成される鍵盤装置におけるハンマーの連動方法であって、
前記円弧面を含む円の中心回りに前記突起部を回転させることによって前記鍵の揺動に前記ハンマーを連動させることを特徴とするハンマーの連動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤装置およびハンマーの連動方法に関し、特に、良好な押鍵感触を付与できる鍵盤装置およびハンマーの連動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鍵の揺動にハンマーを連動させる鍵盤装置が知られている。例えば特許文献1には、ハンマー4に形成された軸43に白鍵10の軸孔13aを回転可能に係合させる技術が記載されている。この技術では、白鍵10の軸孔13aの下面に開放部13bが形成されているため、ハンマー4の軸43と白鍵10の軸孔13aとの係合部分に塗布されたグリスなどの潤滑剤が開放部13bから流れ落ち易い。開放部13bから潤滑剤が流れ落ちると、ハンマー4と白鍵10との係合部分における回転抵抗が増大するため、押鍵時の感触が悪くなる。
【0003】
これに対し、例えば特許文献2には、ハンマー6に形成された受け部63に白鍵2aの突起部20をスライド可能に係合させる技術が記載されている。この技術によれば、受け部63と突起部20との係合部分に塗布された潤滑剤を受け部63で保持することができる。よって、ハンマー6と白鍵2aとの係合部分における摺動抵抗が増大することを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/124477号(例えば、段落0021,0022,0044、
図2)
【特許文献2】特開2022-070658号公報(例えば、段落0015,0016、
図3,4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献2の技術では、鍵の押鍵や離鍵に伴い、ハンマーの受け部に対して鍵の突起部が前後にスライドするため、受け部に塗布された潤滑剤が突起部のスライドによって前後に押し退けられてしまう。よって、受け部における突起部の摺動抵抗が増大し、押鍵時の感触が悪くなることがある。即ち、上述した各特許文献1,2の技術では、いずれも押鍵感触を十分に向上できないという問題点があった。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、押鍵感触を向上できる鍵盤装置およびハンマーの連動方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の鍵盤装置は、支持部材と、前記支持部材に揺動可能に支持され、スケール方向に並ぶ複数の鍵と、前記鍵の揺動に連動するハンマーと、を備え、前記ハンマーは、下方に凹む受け部を備え、前記鍵は、下方に突出して前記受け部に挿入される突起部を備え、前記受け部の底面または前記突起部の下面の少なくとも一方に円弧面が形成され、前記鍵の揺動時に、前記円弧面を含む円の中心回りに前記突起部が回転する。
【0008】
本発明のハンマーの連動方法は、支持部材と、前記支持部材に揺動可能に支持され、スケール方向に並ぶ複数の鍵と、前記鍵の揺動に連動するハンマーと、を備え、前記ハンマーが、下方に凹む受け部を備え、前記鍵が、下方に突出して前記受け部に挿入される突起部を備え、前記受け部の底面または前記突起部の下面の少なくとも一方に円弧面が形成される鍵盤装置におけるハンマーの連動方法であって、前記円弧面を含む円の中心回りに前記突起部を回転させることによって前記鍵の揺動に前記ハンマーを連動させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態における鍵盤装置の斜視図である。
【
図3】(a)は、
図2のIIIa部分における鍵盤装置の部分拡大断面図であり、(b)は、
図3(a)の状態から白鍵が押鍵された状態を示す鍵盤装置の部分拡大断面図である。
【
図4】(a)は、白鍵の突起部とハンマーの受け部との係合部分を拡大した鍵盤装置の部分拡大断面図であり、(b)は、
図1のIVb部分を拡大した白鍵の部分拡大斜視図である。
【
図5】(a)は、第1の変形例の凹部を示す鍵盤装置の部分拡大断面図であり、(b)は、第2の変形例の凹部を示す鍵盤装置の部分拡大断面図である。
【
図6】(a)は、変形例の受け部を示す鍵盤装置の部分拡大断面図であり、(b)は、
図6(a)の状態から白鍵が押鍵された状態を示す鍵盤装置の部分拡大断面図である。
【
図7】(a)は、変形例の突起部を示す鍵盤装置の部分拡大断面図であり、(b)は、
図7(a)の状態から白鍵が押鍵された状態を示す鍵盤装置の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、
図1及び
図2を参照して、鍵盤装置1の全体構成について説明する。
図1は、一実施形態における鍵盤装置1の斜視図であり、
図2は、鍵盤装置1の断面図である。
【0011】
なお、
図1では、シャーシ4の一部を破断してハンマー6の受け部62を露出させた状態を図示し、
図2では、スケール方向(複数の鍵2が並ぶ方向)に直交する平面で切断した断面を図示している。また、
図1及び
図2の矢印U-D方向、F-B方向、L-R方向は、それぞれ鍵盤装置1の上下方向、前後方向、スケール方向を示しており、
図3以降においても同様とする。
【0012】
図1及び
図2に示すように、鍵盤装置1は、複数(本実施形態では、88個)の鍵2を備える鍵盤楽器(電子ピアノ)である。鍵2は、幹音を演奏するための複数(本実施形態では、52個)の白鍵2aと、派生音を演奏するための複数(本実施形態では、36個)の黒鍵2bと、から構成され、それら複数の白鍵2a及び黒鍵2bがスケール方向(矢印L-R方向)に並べられる。
【0013】
鍵盤装置1は、白鍵2a及び黒鍵2bを支持するための棚板3を備える。棚板3は、合成樹脂や鋼板等を用いてスケール方向に延びる平板状に形成され、この棚板3の上面には、樹脂製のシャーシ4が支持される。シャーシ4は、その前後の両端部がチャンネル材5を介して棚板3に固定される。
【0014】
以下に、シャーシ4に対する白鍵2aの支持構造や、白鍵2aの詳細構成について説明するが、かかる構成は黒鍵2bにおいても実質的に同一である。シャーシ4の後端側(矢印B側)の上面からは、壁部40が上方に立ち上がっており、壁部40の上端側には略円柱状の軸部41が形成される。これらの壁部40及び軸部41はシャーシ4と一体に形成されているが、シャーシ4と壁部40及び軸部41とを別体に形成しても良い。
【0015】
壁部40は、スケール方向に複数並べられており(
図1参照)、複数の壁部40の対向間には、白鍵2aの突出部20が挿入される。以下の説明においては、突出部20を挟んで対面する一対の壁部40(軸部41)を単に「一対の壁部40(軸部41)」などと記載して説明する。
【0016】
突出部20は、白鍵2aの後端部から後方側に突出しており、突出部20の一対の側面(スケール方向を向く左右の両面)の各々に案内溝21が形成される。案内溝21は、後方側(矢印B側)に凸の湾曲形状に形成されており、一対の壁部40の内面(一対の壁部40が対向する面)に形成された軸部41が案内溝21に嵌め込まれる。
【0017】
案内溝21に軸部41を嵌め込む際には、一対の軸部41の間に白鍵2aの突出部20を上方から挿入する。この挿入が突出部20の傾斜面22(
図1参照)と軸部41の傾斜面42(
図1の拡大部分参照)とによって案内される。傾斜面22は、突出部20の一対の側面の下端を斜めに切欠くように傾斜しており、傾斜面22の上縁は案内溝21の下端に連なっている。
【0018】
軸部41の傾斜面42は、軸部41の先端面の上端を斜めに切欠くように傾斜しており、白鍵2aの突出部20を一対の軸部41の対向間に上方から挿入することにより、突出部20及び軸部41の各傾斜面22,42同士が摺動する。この摺動により、板状の壁部40が弾性変形して一対の軸部41の対向間隔が拡大するので、軸部41を案内溝21に容易に嵌め込むことができる。
【0019】
案内溝21に軸部41が嵌め込まれることにより、一対の壁部40の対向間に白鍵2aがスライド(揺動)可能に支持される。白鍵2aが押鍵された際には、軸部41に対する案内溝21のスライドによって白鍵2aの後端側の部位が下方に沈み込むように揺動する。この揺動に連動するハンマー6が白鍵2aの下方に設けられる。
【0020】
シャーシ4の前後方向略中央部分には、スケール方向に軸を向ける回転軸43(
図2参照)が形成され、この回転軸43にハンマー6が回転可能に支持される。ハンマー6は、白鍵2aの押鍵時に押鍵感触を付与するための質量部60(質量体)を備え、質量部60は、回転軸43よりも後方側(矢印B側)に位置している。
【0021】
ハンマー6のうち、回転軸43よりも前方側(矢印F側)の部位は、白鍵2aの押鍵時に基板7のスイッチ70を押し込むための押圧部61として構成される。押圧部61の上面には、下方に凹む受け部62が形成され、この受け部62に挿入される突起部23が白鍵2aの下面から下方に突出している。
【0022】
突起部23は、受け部62に単に挿入されている(乗っている)だけであるので、白鍵2aを組み付ける際には、突起部23を受け部62に乗せた後、上述した通り、突出部20を壁部40の対向間に挿入して案内溝21に軸部41を嵌め込むだけで良い。よって、シャーシ4に対する白鍵2aの組み付け作業を容易にできる。
【0023】
一方、シャーシ4から白鍵2aを取り外す際には、壁部40を弾性変形させて(壁部40を押し広げて)案内溝21から軸部41を外した後、受け部62から突起部23を引き抜くだけで良い。よって、白鍵2aの取り外しの作業も容易にできるので、白鍵2aのメンテナンス性を向上できる。
【0024】
次いで、
図3を参照して鍵盤装置1の詳細構成について説明する。
図3(a)は、
図2のIIIa部分における鍵盤装置1の部分拡大断面図であり、
図3(b)は、
図3(a)の状態から白鍵2aが押鍵された状態を示す鍵盤装置1の部分拡大断面図である。なお、
図3では、図面を簡素化するために白鍵2aのハッチングを省略しており、
図4以降の鍵盤装置1の断面図においても同様とする。
【0025】
図3に示すように、白鍵2aの突起部23の下面23aは、下方に凸の円弧状に形成され、ハンマー6の受け部62の底面62aも同様に、下方に凸の円弧状に形成される。突起部23の下面23aと受け部62の底面62aとの曲率は同一であり、白鍵2aが押鍵される前の初期状態(以下、「押鍵前の初期位置」という。)では、これらの各面23a,62aが面接触している。
【0026】
初期位置から白鍵2aが押鍵された際には、白鍵2aの突起部23によって押圧部61(受け部62)が下方に押し込まれることでハンマー6が回転軸43回り(
図3の時計回り)に回転する(
図3(b)参照)。
【0027】
この回転軸43回りのハンマー6の回転に伴い、突起部23の下面23aが受け部62の底面62aに沿って摺動し、この摺動時には、受け部62の円弧状の底面62a(円弧面)を含む円の中心C(以下「回転中心C」という。)回りに突起部23が回転する。これにより、例えば、特開2022-070658号公報(特許文献2)の技術のように受け部に対して突起部が前後にスライドする場合に比べ、受け部62に塗布された潤滑剤(グリス等)が突起部23の変位によって前後に押し退けられることを抑制できる。
【0028】
また、白鍵2aとハンマー6との係合部分に塗布された潤滑材を受け部62で保持できるので、例えば国際公開第2021/124477号(特許文献1)の技術のように潤滑剤が流れ落ちることを抑制できる。よって、受け部62における突起部23の摺動抵抗が増大することを抑制できるので、演奏者に良好な押鍵感触を付与できる。
【0029】
ハンマー6の押圧部61の下方には基板7(スイッチ70)が設けられるため、白鍵2aの押鍵時のハンマー6の回転に伴い、スイッチ70が押圧部61によって押し込まれる。このスイッチ70のオン/オフによって白鍵2aの押鍵情報(ノート情報)が検出され、この検出結果に基づく楽音信号が外部に出力される。
【0030】
上述した通り、白鍵2aとハンマー6との係合部分に塗布された潤滑剤は受け部62で保持されるので、受け部62の下方に位置する基板7やスイッチ70に潤滑剤が付着することを抑制できる。よって基板7やスイッチ70に不具合が生じることを抑制できる。
【0031】
また、受け部62は、その底面62aから立ち上がる壁62bを備える。壁62bは、受け部62の底面62aのスケール方向(矢印L-R方向)における両端に一対に形成されるので(壁62bが一対に形成される点については、
図1参照)、受け部62に塗布された潤滑剤が流れ落ちることをより確実に抑制できる。よって、受け部62における突起部23の摺動抵抗が増大することや、受け部62の下方に位置する他の部材に潤滑剤が付着することを抑制できる。
【0032】
このように、本実施形態では、白鍵2aとハンマー6とを回転可能に係合させる(回転中心C回りに突起部23を回転させる)構造である。このような構造の場合、シャーシ4に対し、白鍵2a又はハンマー6のいずれか一方をスライド可能に係合(支持)させる必要がある。これは、シャーシ4、白鍵2a、及びハンマー6の3つの部品の係合部分(3箇所の係合部分)の全てを回転可能に係合させる構造では、白鍵2a及びハンマー6の回転が不能になるためである。
【0033】
即ち、本実施形態のように、白鍵2aとハンマー6とを回転可能に係合させる構造の場合、例えばシャーシ4に対してハンマー6をスライド可能に支持(係合)させることも可能である。シャーシ4に対してハンマー6をスライドさせる構成としては、例えば特開平07-181959号の技術が例示される。しかし、シャーシ4に対してハンマー6をスライドさせる構成では、ハンマー6によってスイッチ70を適切に押し込むことができない。
【0034】
これに対して本実施形態では、シャーシ4の軸部41(
図2参照)と白鍵2aの案内溝21(
図2参照)とをスライド可能に係合させる一方、シャーシ4の回転軸43にハンマー6を回転可能に係合させる構成である。このような構成であれば、シャーシ4に対してハンマー6をスライドさせる場合に比べ、ハンマー6によってスイッチ70を適切に押し込むことができる。よって、押鍵情報を精度良く検出できる。
【0035】
また、シャーシ4の軸部41(
図2参照)と白鍵2aの案内溝21(
図2参照)とをスライド可能に係合させることにより、図示は省略するが、押鍵時に白鍵2aの後端側の部位が下方に沈み込むように変位する。この案内溝21に沿う軸部41のスライド変位は、例えば国際公開第2021/124477号の
図6に示されるガイドピン361に沿う案内溝314のスライド変位と同様の動きである。
【0036】
つまり、白鍵2aの押鍵時には、軸部41に沿う案内溝21のスライドと、回転軸43回りの突起部23の回転とによって白鍵2aの全体が沈み込むように変位する。これにより、アコースティックピアノの鍵に近い変位軌跡で白鍵2aを変位させることができる。
【0037】
次いで、
図4を参照して、鍵盤装置1の構成について更に説明するが、
図2,3も適宜参照しながら説明する。
図4(a)は、白鍵2aの突起部23とハンマー6の受け部62との係合部分を拡大した鍵盤装置1の部分拡大断面図であり、
図4(b)は、
図1のIVb部分を拡大した白鍵2aの部分拡大斜視図である。なお、
図4(a)では、押鍵前の初期位置(
図3(a)の状態)が図示される。また、
図4(a)では、
図4(b)に示される溝状の凹部23dの底面を破線で図示している。
【0038】
図4に示すように、突起部23の円弧状の下面23aの前縁(矢印F側の縁)には、突起部23の前面23bが連なり、下面23aの後縁(矢印B側の縁)には、突起部23の後面23cが連なっている。これらの突起部23の前面23b及び後面23cの各々は、上下に延びる平面である。
【0039】
受け部62の底面62aの前縁(矢印F側の縁)には、突起部23の前面23bに対向する第1対向面62cが連なり、底面62aの後縁(矢印B側の縁)には、突起部23の後面23cに対向する第2対向面62dが連なっている。
【0040】
第1対向面62cは、押鍵前の初期位置において前方側に上昇傾斜する平面であり、第2対向面62dは、押鍵前の初期位置において後方側に上昇傾斜する平面である。第1対向面62cは、押鍵時に突起部23から離れる方向に相対変位するものであり(
図3参照)、第2対向面62dは、押鍵時に突起部23に近付く方向に相対変位するものである(
図3参照)。
【0041】
ここで、上述した通り、シャーシ4の軸部41(
図2参照)に対して白鍵2aの案内溝21(
図2参照)がスライド可能に係合しているため、押鍵や離鍵に伴う白鍵2aの揺動時には、前後方向での白鍵2aのガタつきが生じる可能性がある。このため、突起部23(前面23b及び後面23c)と受け部62の各対向面62c,62dとの間の隙間は、比較的狭くすることが好ましい。かかる隙間を狭くすることにより、前後方向での白鍵2aのガタつきが生じ難くなる。
【0042】
この一方で、押鍵前の初期位置から押鍵の終端位置にかけて、受け部62における突起部23の回転を許容するためには、突起部23と各対向面62c,62dとが接触しない程度に隙間を設ける必要がある。つまり、突起部23の前面23b及び後面23cと、受け部62の各対向面62c,62dとの間の隙間は、回転中心C回りの突起部23の回転を許容できる程度に極力狭くすることが好ましい。
【0043】
これに対して本実施形態では、押鍵前の初期位置(
図4(a)の状態)において、回転中心C回りにおける突起部23(前面23b)と第1対向面62cとの間の隙間よりも、突起部23(後面23c)と第2対向面62dとの間の隙間が広く形成される。これにより、受け部62における突起部23の回転を許容しつつ、受け部62と各対向面62c,62dとの間の隙間を極力狭くできる。よって、押鍵や離鍵に伴う白鍵2aの揺動を安定させることができる。
【0044】
また、押鍵前の初期位置においては、第1対向面62cの少なくとも一部が突起部23の前面23bと離れており、押鍵の終端位置(
図3(b)の状態)においては、第2対向面62dの少なくとも一部が突起部23の後面23cと離れている。これにより、白鍵2aが終端位置まで押鍵された時に、突起部23の後面23cと第2対向面62dとの接触によるノイズが生じることを抑制できる。また、押鍵前の初期位置に白鍵2aが復帰した時に、突起部23の前面23bと第1対向面62cとの接触によるノイズが生じることを抑制できる。
【0045】
図4(b)に示すように、突起部23の後面23cには、前方側に向けて凹む凹部23dが形成される。また、
図4(a)に破線で示すように、突起部23の前面23bにも後方側に向けて凹む凹部23dが形成されている。これらの凹部23dは、上下に延びる溝状に形成され、凹部23dの下端は、突起部23の下面23a(円弧面)まで延びている。これにより、受け部62に塗布された潤滑剤を凹部23dで保持させた状態で、受け部62の底面62aに沿って突起部23を回転させることができる。よって、受け部62における突起部23の摺動抵抗が増大することを効果的に抑制できる。
【0046】
なお、本実施形態では、突起部23の前面23b側と後面23c側とに溝状の凹部23dが1本ずつ形成されているが、突起部23の前面23b又は後面23cのいずれか一方(又は両方)に複数の凹部23dを形成しても良い。
【0047】
次いで、
図5~
図7を参照して、鍵盤装置1の変形例について説明するが、上述した鍵盤装置1と同一の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。まず、
図5を参照して凹部23dの変形例を説明する。
図5(a)は、第1の変形例の凹部223dを示す鍵盤装置1の部分拡大断面図であり、
図5(b)は、第2の変形例の凹部323dを示す鍵盤装置1の部分拡大断面図である。
【0048】
図5(a)に示すように、第1の変形例の凹部223dは、上述した突起部23の前面23b側の凹部23dと(
図4(a)参照)、後面23c側の凹部23d(
図4(a)参照)とを前後に接続したものである。
【0049】
より具体的には、押鍵前の初期位置から押鍵の終端位置にかけて、突起部23の下面23aが受け部62の底面62aと摺動する範囲を摺動範囲Rとした場合、凹部223dは、摺動範囲Rの前端から後端にかけて連続して形成される。つまり、凹部223dは、回転中心C回りの突起部23の回転方向に延びる溝状に形成される。これにより、押鍵(離鍵)時の突起部23の回転に伴い、凹部223dに保持された潤滑剤が摺動範囲Rの全域に供給され易くなる。よって、受け部62における突起部23の摺動抵抗が増大することを効果的に抑制できる。
【0050】
なお、この変形例においても、スケール方向(矢印L-R方向)における突起部23の中央の1箇所に凹部223dが形成されているが、複数の凹部223dをスケール方向に並べて形成しても良い。
【0051】
図5(b)に示すように、第2の変形例の凹部323dは、突起部23の下面23aの下端を切欠くように形成される。凹部323dは、スケール方向(矢印L-R方向)において突起部23の下面23aの両端にわたって延びる溝である。このような凹部323dによっても潤滑剤を保持することができるので、受け部62に対する突起部23の摺動抵抗が増大することを抑制できる。
【0052】
なお、凹部323dは、突起部23の下面23aの1箇所に形成されているが、突起部23の下面23aの前縁から後縁にかけて複数の凹部323dを並べて形成しても良い。また、第1の変形例の凹部223dと第2の変形例の凹部323dとを組み合わせる(例えば、突起部23の下面23aに格子状の凹部を形成する)構成でも良い。
【0053】
次いで、
図6を参照して、受け部62の変形例を説明する。
図6(a)は、変形例の受け部462を示す鍵盤装置1の部分拡大断面図であり、
図6(b)は、
図6(a)の状態から白鍵2aが押鍵された状態を示す鍵盤装置1の部分拡大断面図である。
【0054】
図6に示すように、変形例の受け部462は、突起部23の前方側(矢印F)で突起部23の下面23aに接触する第1傾斜面462eと、突起部23の後方側(矢印B)で突起部23の下面23aに接触する第2傾斜面462fとを備える。
【0055】
第1傾斜面462eは、押鍵前の初期位置において前方側(矢印F側)に向けて上降傾斜する平面であり、第2傾斜面462fは、押鍵前の初期位置において後方側(矢印B側)に向けて上降傾斜する平面である。
【0056】
この変形例では、第1傾斜面462e及び第2傾斜面462fの下端同士が交わることにより、受け部462の断面形状がV字状に形成されている。但し、各傾斜面462e,462fの下端を前後に接続する接続面(突起部23の下面23aに接触しない平面や曲面)を形成することにより、受け部462の断面形状を台形状や略U字状に形成しても良い。
【0057】
突起部23の円弧状の下面23aが第1傾斜面462e及び第2傾斜面462fによって支持されるので、白鍵2aの押鍵に伴う回転軸43回りのハンマー6の回転時には、突起部23の下面23aが受け部462の各傾斜面462e,462fに沿って摺動する。この摺動時には、回転中心C(突起部23の円弧状の下面23aを含む円の中心)回りに突起部23が回転する。よって、従来技術のように受け部に対して突起部を前後にスライドさせる場合に比べ、受け部462に塗布された潤滑剤が前後に押し退けられることを抑制できる。また、白鍵2aとハンマー6との係合部分に塗布された潤滑材を受け部462で保持できる。よって、受け部462における突起部23の摺動抵抗が増大することを抑制できる。
【0058】
また、第1傾斜面462e及び第2傾斜面462fによる2点で突起部23の下面23aを支持することにより、上記実施形態のように突起部23と受け部62とを円弧面同士で面接触させる場合に比べ、突起部23と受け部462の底面との接触面積を低減できる。よって、受け部462における突起部23の摺動抵抗を低減できる。
【0059】
また、押鍵前の初期位置(
図6(a)の状態)において、回転中心C回りにおける突起部23と第1傾斜面462eとの間の隙間よりも、突起部23と第2傾斜面462fとの間の隙間が広く形成される。これにより、受け部462における突起部23の回転を許容しつつ、突起部23と各傾斜面462e,462fとの間の隙間を極力狭くできる。よって、押鍵や離鍵に伴う白鍵2aの揺動を安定させることができる。
【0060】
なお、突起部23には図示しない凹部23d(
図4参照)が形成されているが、上述した変形例の凹部223d,323d(
図5参照)を突起部23に形成しても良い。
【0061】
次いで、
図7を参照して、突起部23の変形例を説明する。
図7(a)は、変形例の突起部523を示す鍵盤装置1の部分拡大断面図であり、
図7(b)は、
図7(a)の状態から白鍵2aが押鍵された状態を示す鍵盤装置1の部分拡大断面図である。
【0062】
図7に示すように、突起部523の下面523aは、突起部523の前面23b及び後面23cを前後(矢印F-B方向)に接続する平面である。突起部523の下面523aの前縁および後縁(前面23b及び後面23cとの接続点)は、押鍵前の初期位置において受け部62の円弧状の底面62aに接触している。
【0063】
これにより、白鍵2aの押鍵に伴う回転軸43回りのハンマー6の回転時には、突起部523の下面523aが受け部62の底面62aに沿って摺動し、この摺動時には、回転中心C回りに突起部523が回転する。よって、従来技術のように受け部に対して突起部を前後にスライドさせる場合に比べ、受け部62に塗布された潤滑剤が前後に押し退けられることを抑制できる。また、白鍵2aとハンマー6との係合部分に塗布された潤滑材を受け部62で保持できる。よって、受け部62における突起部523の摺動抵抗が増大することを抑制できる。
【0064】
また、受け部62の底面62aに対し、突起部523の下面523aの前縁および後縁が2点で接触するので、上記実施形態のように突起部23と受け部62とを円弧面同士で面接触させる場合に比べ、突起部523と受け部62の底面62aとの接触面積を低減できる。よって、受け部62における突起部523の摺動抵抗を低減できる。
【0065】
なお、この変形例においても、上述した(
図4,5に示す)凹部23d,223d,323dを突起部523に形成することは可能である。
【0066】
以上、上記実施形態に基づき説明をしたが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0067】
上記実施形態では、シャーシ4の軸部41に白鍵2aの案内溝21をスライド可能に係合させる一方、シャーシ4の回転軸43にハンマー6を回転可能(スライド不能)に係合させる場合を説明したが、必ずしもこれに限られない。例えば、シャーシ4に対して白鍵2a(鍵2)を軸回りに回転可能(スライド不能)に係合させる一方、シャーシ4に対してハンマー6をスライド可能に係合させる構成でも良い。
【0068】
上述した通り、シャーシ4に対してハンマー6をスライドさせる構成としては、例えば特開平07-181959号の構造が例示されるが、上記実施形態の案内溝21及び軸部41に相当する構成によってシャーシ4に対してハンマー6をスライドさせても良い。
【0069】
上記実施形態では、スケール方向における受け部62,562の両端側に一対の壁62bが形成される場合を説明したが、一対の壁62bのうち、いずれか一方または両方を省略しても良い。
【0070】
上記実施形態では、押鍵前の初期位置において、回転中心C回りにおける突起部23の前面23bと第1対向面62c(第1傾斜面462e)との間の隙間よりも、突起部23の後面23cと第2対向面62d(第2傾斜面462f)との間の隙間が広く形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られない。例えば、突起部23の前面23bと第1対向面62c(第1傾斜面462e)との間の隙間よりも、突起部23の後面23cと第2対向面62d(第2傾斜面462f)との間の隙間を狭くしても良いし、それらの隙間を同一の大きさにしても良い。
【0071】
上記実施形態では、押鍵前の初期位置において、第1対向面62cの少なくとも一部が突起部23の前面23bと離れるように構成され、押鍵の終端位置において、第2対向面62dの少なくとも一部が突起部23の後面23cと離れるように構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られない。例えば、該初期位置や終端位置において、第1対向面62c又は第2対向面62dのいずれか一方(又は両方)の全体が突起部23の前面23bや後面23cに接触する構成でも良い。
【0072】
上記実施形態では、突起部23の下面23aに凹部23d,223d,323dが形成される場合を説明したが、凹部23d,223d,323dは省略しても良い。また、受け部62,462の底面62a(円弧面)や第1,2傾斜面462e,462fに前後方向またはスケール方向に延びる凹部(又は両方向に延びる格子状の凹部)を形成しても良い。また、突起部23,523の下面23a,523a、受け部62,462の底面62a及び第1,2傾斜面462e,462fの各面に複数の凹部(溝状ではない穴)を点在させる構成でも良い。
【0073】
上記実施形態では、突起部23,523と受け部62,462とを2点で接触させる構成の一例として、受け部462に2つの平面状の第1,2傾斜面462e,462fを形成する構成や、突起部523の下面523aを平面状に形成する構成を例示したが、必ずしもこれに限られない。
【0074】
例えば、受け部462の第1,2傾斜面462e,462fや突起部523の下面523aを円弧状に形成しても良い。この場合には、受け部462の第1,2傾斜面462e,462fの曲率を突起部23の下面23aの曲率よりも小さくすることや、突起部523の下面523aの曲率を受け部62の底面62aの曲率よりも小さくすることにより、突起部23,523と受け部62,462とを2点で接触させることができる。
【0075】
また、突起部23,523と受け部62,462とを3点以上で接触させる構成でも良い。3点で接触させる構成の一例としては、受け部462の第1,2傾斜面462e,462fを前後に繋ぐ平面(又は曲面)を突起部23の下面23aに接触させる構成や、突起部523の下面523aを側面視において下方に凸のV字状に形成する(V字状の下面523aの下端を受け部62の底面62aに接触させる)構成が例示される。
【符号の説明】
【0076】
1 鍵盤装置
2 鍵
2a 白鍵(鍵)
2b 黒鍵(鍵)
23,523 突起部
23a 下面(円弧面)
23d,223d,323d 凹部
523a 下面
4 シャーシ(支持部材)
6 ハンマー
62,462 受け部
62a 底面(円弧面)
62b 壁
62c 第1対向面
62d 第2対向面
462e 第1傾斜面(第1対向面)
462f 第2傾斜面(第2対向面)
C 回転中心(円弧面を含む円の中心)