(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093721
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】セラミックコンデンサ用誘電体粉末及びその製造方法並びにこれを用いたセラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
C04B 35/447 20060101AFI20240702BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20240702BHJP
H01G 4/12 20060101ALI20240702BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20240702BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20240702BHJP
【FI】
C04B35/447
C01B25/45 D
C01B25/45 H
H01G4/12 360
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
H01G11/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210272
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】391021765
【氏名又は名称】新日本電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】富田 紘貴
(72)【発明者】
【氏名】平原 太陽
【テーマコード(参考)】
5E001
5E078
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AE00
5E001AH09
5E001AJ02
5E078AB06
5E078DA11
5E078DA18
5E078DA19
5E082FF05
5E082FG26
(57)【要約】
【課題】LiaCabZrcPdO12で表される誘電体粉末であって、高密度であり、かつ高い比誘電率を有するものを提供する。
【解決手段】セラミックコンデンサの誘電体に用いられる誘電体粉末でって、一般式:LiaCabZrcPdO12で表すことができ、各成分のモル比を示すa、b、c、及びdは0より大きい値であり、かつ下記の関係を満たす
0.35≦a/(b+c)≦0.59
0.68<(b+c)/d≦0.80
ことを特徴とするセラミックコンデンサ用誘電体粉末であり、これを用いたセラミックコンデンサである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックコンデンサの誘電体に用いられる誘電体粉末であって、
一般式:LiaCabZrcPdO12で表すことができ、各成分のモル比を示すa、b、c、及びdは0より大きい値であり、かつ下記の関係を満たす
0.35≦a/(b+c)≦0.59
0.67<(b+c)/d≦0.80
ことを特徴とするセラミックコンデンサ用誘電体粉末。
【請求項2】
下記の関係を満たす
0.40≦a/(b+c)≦0.59
0.68<(b+c)/d≦0.77
ことを特徴とする請求項1に記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末。
【請求項3】
0.35≦a/d≦0.41、かつ0.025≦b/d≦0.062であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末
【請求項4】
900℃以下に融点が存在することを特徴とする請求項1に記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末。
【請求項5】
D50<29μmであることを特徴とする請求項1に記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末。
【請求項6】
Alが質量基準の濃度で6000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の誘電体粉末を焼結してなることを特徴とするセラミックコンデンサ用誘電体材料。
【請求項8】
焼結助剤を含んで焼成してなることを特徴とする請求項7に記載のセラミックコンデンサ用誘電体材料。
【請求項9】
前記焼結助剤が絶縁体であることを特徴とする請求項8に記載のセラミックコンデンサ用誘電体材料。
【請求項10】
粒界の数Nが、N=5以上であることを特徴とする請求項7に記載のセラミックコンデンサ用誘電体材料。
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載の誘電体粉末を用いて得られた誘電体を備えたセラミックコンデンサ。
【請求項12】
請求項7~10のいずれかに記載の誘電体材料を具備したことを特徴とするセラミックコンデンサ。
【請求項13】
請求項1~6のいずれかに記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末を製造する方法であって、
元素Pと元素Zrとのモル比P/Zr≧1.50であるZrとPを含んだ酸化物前駆体を作製して、元素Liを含むLi原料、及び元素Caを含むCa原料を混合し、これらの混合原料を800℃以上で焼成することを特徴とするセラミックコンデンサ用誘電体粉末の製造方法。
【請求項14】
前記Li原料が炭酸リチウムであると共に、前記Ca原料が炭酸カルシウムであり、前記混合原料の焼成を800℃以上920℃以下の一次焼成と、1100℃以上1300℃以下の二次焼成とに分けて行うことを特徴とする請求項13に記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックコンデンサ用誘電体粉末、及びその製造方法、並びにこれを用いたセラミックコンデンサに関し、詳しくは、Li-Ca-Zr-P-O系ナシコン型の結晶構造を有して、セラミックコンデンサに好適なセラミックコンデンサ用誘電体粉末、及びその製造方法、並びにこれを用いたセラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン伝導体であるナシコン型の固体電解質は、二次電池用の固体電解質材料として注目されている。また特許文献1には固体電解質を用いた全固体型電気二重層コンデンサとしても使用できる記載がある。このときの固体電解質には、Tiを含むナシコン型リン酸塩やNa-Zr系ナシコン型リン酸塩が使用されている。
【0003】
一般に、ナシコン型固体電解質は、Tiを含む場合の耐還元性が良くない。そのため、Tiの代わりにZrを含むLi-Zr-P-O系のナシコン型固体電解質が検討され、使用されている。還元性が十分ではないと、電気二重層コンデンサやリチウムイオンキャパシタとして使用する際の電圧範囲が限定され、高エネルギー密度化が困難となる。
【0004】
また、Naを含む固体電解質はリチウムイオンキャパシタに使用できない。その理由として、リチウムイオンキャパシタは、炭素材料にリチウムイオンをプレドープすることで、電圧範囲を広げているが、ナトリウムイオンの場合は、炭素材料にプレドープが困難であるためである。仮にリチウムイオンキャパシタにナトリウムを含む電解質を使用した場合、リチウムイオンと一部交換されたナトリウムイオンが負極に挿入できず、金属として析出する恐れがあり、非常に危険である。
そのため、TiやNaを含まないLi-Zr-PO4固体電解質がリチウムイオンキャパシタには必要である。
【0005】
一方で、特許文献2には、ガーネット型構造を有するLi7La3Zr2O12を用いたキャパシタ(コンデンサ)が記載されている。また、この特許文献2には、上記ガーネット型構造以外にナシコン型構造であるLi1.2Zr1.9Ca0.1(PO4)3も用いることができる旨の記載がある。
【0006】
更に、非特許文献1や特許文献3~5には、Zrの一部をCaやAl等の元素で置換したZr系ナシコン型の固体電解質が記載されている。Li-Zr-P-O系のナシコン型固体電解質では、室温付近で結晶構造が転移することがあり、それによりイオン伝導度の低下を招いてしまうところ、これらのようにZrの一部をCaやAl等の他の元素で置換することで、結晶構造の転移を防いでイオン伝導度の低下を抑制している。
【0007】
なお、特許文献6には、Li-Zr-P-O系のナシコン型固体電解質が約750℃に融点を持つことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-130844号公報
【特許文献2】特開2018-41918号公報
【特許文献3】特開2015-65022号公報
【特許文献4】特開2015-76324号公報
【特許文献5】特開平2-250264号公報
【特許文献6】特開平5-299101号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hui Xei, John B. Goodenough, Yutao Li, Journal of Power Sources, 196(2011) 7760-7762
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
全固体リチウムイオンキャパシタの実現に向けて、その課題のひとつは高イオン伝導度と比誘電率を示す誘電体の開発にある。そのため、Zrの一部がCaで置換されたLi-Ca-Zr-P-O系のようなナシコン型誘電体について、イオン導電度や比誘電率を更に向上させる必要がある。
【0011】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、LiaCabZrcPdO12で表すことができるナシコン型誘電体であって、高密度であり、かつ高いイオン導電率かつ高比誘電率を有するものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、LiaCabZrcPdO12で表される誘電体において、各成分のモル比を示すa、b、c、及びdが所定の関係を満たすようにすることで、高イオン導電率かつ高比誘電率を示す上で最適なナシコン型誘電体が実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
〔1〕セラミックコンデンサの誘電体に用いられる誘電体粉末であって、
一般式:LiaCabZrcPdO12で表すことができ、各成分のモル比を示すa、b、c、及びdは0より大きい値であり、かつ下記の関係を満たす
0.35≦a/(b+c)≦0.59
0.67<(b+c)/d≦0.80
ことを特徴とするセラミックコンデンサ用誘電体粉末。
〔2〕下記の関係を満たす
0.40≦a/(b+c)≦0.59
0.68<(b+c)/d≦0.77
ことを特徴とする〔1〕に記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末。
〔3〕0.35≦a/d≦0.41、かつ0.025≦b/d≦0.062であることを特徴とする〔1〕に記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末
〔4〕900℃以下に融点が存在することを特徴とする〔1〕に記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末。
〔5〕D50<29μmであることを特徴とする〔1〕に記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末。
〔6〕Alが質量基準の濃度で6000ppm以下であることを特徴とする〔1〕に記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の誘電体粉末を焼結してなることを特徴とするセラミックコンデンサ用誘電体材料。
〔8〕焼結助剤を含んで焼成してなることを特徴とする〔7〕に記載のセラミックコンデンサ用誘電体材料。
〔9〕前記焼結助剤が絶縁体であることを特徴とする〔8〕に記載のセラミックコンデンサ用誘電体材料。
〔10〕粒界の数Nが、N=5以上であることを特徴とする〔7〕に記載のセラミックコンデンサ用誘電体材料。
〔11〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の誘電体粉末を用いて得られた誘電体を備えたセラミックコンデンサ。
〔12〕〔7〕~〔10〕のいずれかに記載の誘電体材料を具備したことを特徴とするセラミックコンデンサ。
〔13〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末を製造する方法であって、
元素Pと元素Zrとのモル比P/Zr≧1.50であるZrとPを含んだ酸化物前駆体を作製して、元素Liを含むLi原料、及び元素Caを含むCa原料を混合し、これらの混合原料を800℃以上で焼成することを特徴とするセラミックコンデンサ用誘電体粉末の製造方法。
〔14〕前記Li原料が炭酸リチウムであると共に、前記Ca原料が炭酸カルシウムであり、前記混合原料の焼成を800℃以上920℃以下の一次焼成と、1100℃以上1300℃以下の二次焼成とに分けて行うことを特徴とする〔13〕に記載のセラミックコンデンサ用誘電体粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高いイオン導電率、比誘電率を有するナシコン型の誘電体を実現することができる。
すなわち、各成分のモル比を示すa、b、c、及びdが所定の関係を有することで、イオン導電率を高めることができ、なかでもこのモル比が特定の条件を満たす場合に、900℃以下に融点を有する誘電体粉末が得られるようになることから、得られた誘電体粉末を焼結させてセラミックコンデンサの誘電体材料(誘電体焼結体)を得る際に、誘電体粉末の粒子間が焼結してより緻密で均一な誘電体材料(誘電体焼結体)が形成される。また、所定の粒子径を有する誘電体粉末にして、粒子同士の界面接合面を多くすることで、その界面での静電容量を増やすこともできる。そのため、本発明に係る誘電体粉末を用いることで、得られた誘電体材料(誘電体焼結体)は良好なイオン導電率や比誘電率を発現せしめることができ、セラミックコンデンサ用の誘電体として極めて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実際に得られた誘電体粉末をCaとPのモル比Ca/Pと、LiとPのモル比Li/Pとの関係で整理したものである。
【
図2】
図2は、実施例1に係る誘電体粉末のTG-DTA測定を行った結果を示す。
【
図3】
図3は、比較例1に係る誘電体粉末のTG-DTA測定を行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のセラミックコンデンサ用誘電体粉末(以下、単に誘電体粉末という場合がある)は、以下の一般式で表すことができる。この一般式における成分組成は、製造時の仕込み組成でなく、生成物の成分分析により得られた値である。
一般式:LiaCabZrcPdO12
【0017】
ここで、各成分のモル比を示すa~dは、それぞれ0より大きい値であり、かつ、次の関係を満たす。
0.35≦a/(b+c)≦0.59
0.67<(b+c)/d≦0.80
これらについては、下記の関係を満たすのが好ましい。
0.40≦a/(b+c)≦0.59
0.68<(b+c)/d≦0.77
【0018】
上記一般式における各成分のモル比は、これらの関係に加えて、好ましくは、下記のいずれか一方の関係を満たすのがよく、より好ましくは下記の両方の関係を満たすのがよい。
0.025≦b/d≦0.062
0.35≦a/d≦0.41
【0019】
本発明において、誘電体粉末の成分組成を上記のとおり定めた理由は、以下のとおりである。
本発明における誘電体粉末は、上述した一般式の成分組成を有するが、これについてはLi-Ca-Zr-P-O系のナシコン型誘電体粉末であると言うこともできる。ここで、Li-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体粉末の結晶構造を多面体で表現した場合、多面体の頂点をOとした六配位八面体位置のZr、Caと、四配位四面体位置のPに加えて、これら以外に結晶格子内を動くLiとに分けられる。六配位八面体位置のZr+Caが主骨格となるため、Zr+Caに対して、副骨格であるP、及び可動イオンのLiの割合が重要となる。このLi-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体は、一般に、Li1-2xCaxZr2-xP3O12と表されるように、Zr+Caに対するPやLiの値は一義的に決まるが、本発明では、化学量論から外れた非化学量論組成となっている。
【0020】
これについて、先ず、a/(b+c)が0.35よりも小さいと立方晶型のZrO2が生成する。立方晶型ZrO2はCaを固溶するため、ナシコン型誘電体粉末からCaが奪われて、イオン導電率及び比誘電率が低下する。反対にa/(b+c)が0.59よりも大きいと、可動イオンであるLiが構造中に多くなり過ぎてしまい、やはりイオン導電率及び比誘電率が低下する。
【0021】
(b+c)/dについても上記と同様であり、0.80よりも大きいと立方晶型ZrO2が生成してしまい、この立方晶型ZrO2はCaを固溶するため、ナシコン型誘電体粉末からCaが奪われて、イオン導電率及び比誘電率が低下する。反対に0.67よりも小さいと、可動イオンであるLiが構造中に多くなり過ぎてしまい、イオン導電率及び比誘電率が低下する。この下限値は0.67より大きいことがよく、0.68以上であることが好ましく、0.68より大きいことがさらに好ましい。
【0022】
一方で、b/dについては、前述した範囲内であることにより、本発明に係る誘電体粉末が900℃以下に融点を有することができる。この範囲は、より好ましくは0.27≦b/d≦0.60である。同様にa/dについて、前述した範囲内であることにより、本発明に係る誘電体粉末が900℃以下に融点を有することができる。この範囲は、より好ましくは、0.35≦a/d≦0.40である。
【0023】
図1には、実際に得られた誘電体粉末におけるb/dとa/dとの関係が示されており、b/d(すなわちCaとPのモル比Ca/P)が0.025以上0.062以下であり、かつa/d(同じくLiとPのモル比Li/P)が0.35以上0.41以下であれば、誘電体粉末が900℃以下に融点を有することが分かる。これは、逆に言えば、Pに対してLiやCaが多過ぎたり少な過ぎると、誘電体粉末はこの温度範囲に融点を持たなくなる。このように、本発明における誘電体粉末は、所定の組成範囲の中で、Pで規格化したCa/Pが一定範囲であると共に、Li/Pが一定範囲である場合に、900℃以下に融点が存在する。
【0024】
ここで、本発明における誘電体粉末が900℃以下に融点を有するかどうかは、熱重量示差熱(TG-DTA)測定を行ったときに、TG曲線の重量変化がなく、融点由来の吸熱ピークが温度900℃以下の範囲に認められるか否かで判断する。詳細は、後述する実施例のとおりである。
【0025】
このように900℃以下に融点を有することで、より高密度な誘電体が実現できる。つまり、Li-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体粉末では、組成と融点との間に相関あり、TG-DTA測定を行ったときに、TG曲線の重量変化がなく、かつ900℃以下に融点由来の吸熱ピークがあれば、イオン導電率に優れて、高密度な誘電体粉末が得られていると言うことができる。本発明に係る誘電体粉末を得るにあたっては、各成分の原料を混合して800℃以上の温度で一次焼成、1100~1300℃の温度で二次焼成する。作製した誘電体粉末が900℃以下に融点を有する成分組成であれば、セラミックコンデンサの誘電体材料〔誘電体焼結体(シート)〕を得る際にその融点付近又はその融点以上の温度で焼成されて、融液が粒子間に入り込むようにして、より緻密で高密度な誘電体焼結体が形成される。一般に、誘電体焼結体のイオン導電性は、誘電体粉末を形成する粒子内のイオン導電率と共に、粒子間をつなぐ(架橋する)粒界でのイオン導電率を考慮する必要があり、緻密で高密度な誘電体焼結体であれば、これら2つの導電率の組み合わせが良好になって、そのイオン導電性が向上する。イオン導電率の向上は比誘電率を高めることにも関係するため、このように高密度の誘電体焼結体を得ることは極めて重要である。なお、誘電体粉末が900℃以下に融点を有するようにすることとは別に、セラミックコンデンサの誘電体焼結体は、それを形成する粒子同士の界面接合面が多くなればなるほど、界面での静電容量が増えて、比誘電率も向上する(これについては後述する)。
【0026】
本発明における誘電体粉末は、Alをできるだけ含まないようにするのがよい。後述するように、誘電体粉末を得るための焼成においてルツボ等からAlが混入するおそれがあるが、Al3+はZr4+よりもイオン半径が小さく、Zr位置にAlが置換することで結晶格子が小さくなり、Li拡散経路が縮小する傾向であることから、Alの混入を防ぐようにするのが望ましい。具体的には、質量基準の濃度でAlは6000ppm以下であるのがよく、好ましくは3000ppm未満、さらに好ましくは100ppm未満であるのがよい。なお、Alの混入濃度の分析方法としては、酸溶解によるICP発光分光分析や原子吸光分析などにより分析可能であるが、分析方法はこれらに限定されるものではない。
【0027】
一方で、Zrは、その原料由来で約3%のHfを含む場合がある。このHfについては、六配位八面体位置のZr4+とHf4+はイオン半径が近いため、Liイオン拡散には大きく影響を与えないものの、HfはZrよりも原子量が大きいため、Hfを含むことで固体電解質が重くなり、電池としてのエネルギー密度が低下するおそれがある。しかしながら、Hfを含まないZr原料は非常に高価であるため、特殊用途を除いてはHfを含むZr原料が使用される。よって、後述する本発明の実施例では、Zrに対して約3%のHfを含むZr原料を使用して実施した結果を記載している。なお、上述したa/(b+c)や(b+c)/d等の関係式ではHfは考慮しないものとする。
【0028】
本発明の誘電体粉末を製造する方法については、特に制限されないが、好ましくは、次のような方法を挙げることができる。
すなわち、予め、ZrとPを含んだ酸化物前駆体を得ておき、この酸化物前駆体に元素Liを含むLi原料と元素Caを含むCa原料とを混合して、これらの混合原料を800℃以上、好ましくは900℃以上で焼成することで誘電体粉末を得るようにする。このようにZrとPを含んだ酸化物前駆体を得るようにすることで、一般に採用されるLi原料やCa原料と共に、酸化ジルコニウム(ZrO2)及びリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)を混合して焼成する場合に比べて、秤量工程や粉砕処理工程が削減できること、生成物の均一性が向上する利点がある。特にリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)は、固着し易く、通常はザラメ状態で納入されるため、原料使用時は粉砕処理が必要であり、粉砕処理時に粉砕機の摩耗が大きく、粉砕機由来の成分が混入する恐れがある。加えて、ZrとPを含んだ酸化物前駆体を得ることで、ZrやPが偏析せず、ナシコン型単一相が得られ易く、後述するようなZrとPとのモル比の関係を作り出すことができる。なお、ZrとPとのモル比については、実際に、ZrとPを含んだ酸化物前駆体の組成分析を行って、ZrとPのモル比を求めた。その際の組成式は、一般式H1+4xZr2-xP3O12・nH2Oで表され、ZrとPの比率からxを求めた。また、TG-DTA曲線の300℃までの重量減少割合から結晶水量nを求めた。
【0029】
本発明における誘電体粉末の製造方法は、好適には、秤量工程、液相混合工程、液相加熱工程、洗浄工程、熱処理工程、Li・Ca原料との混合工程、焼成工程、及び粉砕工程を経て製造される。より好ましくは、以下のような各工程を経て、誘電体粉末を得るのがよい。
すなわち、秤量工程では、所望の酸化物前駆体となるようにZr原料とP原料が秤量される。液相混合工程では、酸化物前駆体を得るために秤量された複数種類の溶液原料が混合される。液相加熱工程においては、混合した溶液原料を加熱撹拌して、リン酸水素ジルコニウムアンモニウム塩を得る。ここでの加熱温度は、70℃~100℃の範囲が好ましく、80℃~98℃がより好ましく、85℃~98℃の範囲であることが更に好ましい。液相加熱後の酸化物は、洗浄工程において、ろ過・水洗を行い、乾燥して水分を除去する。その後の熱処理工程においては、大気雰囲気下で600℃~800℃の温度で熱処理される。これによりアンモニアを除去してZrとPを含んだ酸化物前駆体であるリン酸水素ジルコニウムを得る。その際、液相反応におけるZrの歩留まりを考慮すると、仕込みでは狙い組成によりもZr過剰とすることが好ましい。これにより得られた生成物はP/Zrが1.50以上、即ちPを3とした時にZrが2.00以下の生成物が得られる。Zrが2.00以上ではCaが置換し難い組成となってしまうため、Zrが2.00以下であることが好ましい。
【0030】
一方で、Li・Ca原料との乾式混合工程において、Li原料は、炭酸リチウム、水酸化リチウムなどが好ましい。Ca原料は、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなどが好ましい。これらのLi原料、Ca原料と、上記のようにして得られたリン酸水素ジルコニウムとを混合する。混合は湿式混合でもよく乾式混合でもよい。その後の焼成工程では、これらの混合原料を800℃以上920℃以下、好ましくは850℃以上920℃以下、より好ましくは900℃で仮焼することで、原料からのガス発生が終わる(一次焼成)。その後は、例えばペレット成型を行い、ジルコニアビーズを敷き詰めたアルミナルツボ等に入れて、1100℃以上1300℃以下、好ましくは1150℃以上1250℃以下、より好ましくは1200℃で本焼成する(二次焼成)。その際にペレットがアルミナルツボ等に接触しないようにする。
【0031】
次いで、粉砕工程では、本焼成したペレットを乳鉢等により粉砕して45μm目開きのフルイを通過させることで粗大粒子を除いた誘電体粉末を得る。なお、後述の実施例では、粉砕して得られた誘電体粉末により結晶相を確認し、また、イオン導電率を測定する際には、粉砕前のペレットを表面研磨して金蒸着してブロッキング電極として、交流インピーダンス法で抵抗測定した。
【0032】
ここで、本発明における交流インピーダンスの測定方法について説明する。
先ず、上記焼成工程で作製したペレットを表面研磨して、厚みと幅からペレット体積を算出する。次いで、表面研磨後のペレットを金蒸着してブロッキング電極とする。この時の蒸着は、金以外でも、白金などの貴な金属であればよい。この蒸着済みペレットを全固体電池評価セル(宝泉)などに入れて、恒温槽で25℃とする。そして、インピーダンスアナライザーで測定を行い、インピーダンスのナイキストプロット図の実軸切片、即ち円弧の直径を全抵抗として、ペレット体積から25℃でのイオン導電率(S/cm)を算出した。また、比誘電率を求めるにあたっては、上記表面研磨後のペレットを用いて、1kHzでの静電容量(F)を測定し、静電容量Cをペレット断面積Sで割り、ペレット厚みLを乗じることで、誘電率ε(F/m)が算出され、更にこれを真空誘電率(F/m)で割ることで、比誘電率(-)を求めた。
【0033】
また、上記の焼成工程について、例えば、Li原料の炭酸リチウムの分解温度は約720℃であり、Ca原料の炭酸カルシウムの分解温度は約800℃であることから、一次焼成を800℃以上にすることでこれらの原料の分解が確実に完了することになる。一方で、Li原料として水酸化リチウムを用いる場合であったり、Li原料として炭酸リチウムを用いて、それが分解して水酸化リチウムに変化する場合があるが、これらの水酸化リチウムは924℃で分解してヒュームを発生することがある。つまり、揮発してLi組成が減少するおそれがあることから、一次焼成は920℃以下にするのがよい。なお、一次焼成を行うことで、混合原料は複合酸化物の状態で存在するようになることから、二次焼成時には、一次焼成の場合よりもLiの揮発は発生し難くなる。
【0034】
本発明における誘電体粉末は、好ましくはD50が29μm未満(D50<29μm)であるのがよい。上述したような各工程を経て得られた誘電体粉末は、更に焼成して焼結体としてセラミックコンデンサの誘電体材料(誘電体焼結体)にする場合、誘電体粉末の粒子同士の界面接合面が多くなることで、その界面での静電容量を増やすことができる。これを考慮して誘電体粉末のD50を29μm未満にするのがよく、より好ましくはD50が25μm未満となるようにするのがよい。但し、より微粉にすると粉体のハンドリングが低下すること、粉砕するための装置が限定されることによる高コスト化となることであることなどから、誘電体粉末のD50は1μm以上にするのがよく、実質的にこの値が下限値となる。なお、D50は、誘電体粉末をレーザー回折・散乱法によって測定し、得られた粒径の体積基準累積50%径を表す。
【0035】
本発明のセラミックコンデンサ用誘電体粉末では、電場印加でLi+イオンがサイト変位することで誘電分極する誘電体であるので、粒界抵抗を低くしたり、粒界の数を減らしたりする必要はない。寧ろ、本発明のセラミックコンデンサ用誘電体材料を用いてセラミックスコンデンサを形成した場合には、粒界の抵抗を高くなるようにしたり、粒界の数を増やしたりして、Li+イオンが結晶粒子を超えて移動しないようにした方がよい。誘電体としては、結晶粒子内でLi+イオンの位置のズレによって生じる誘電分極の応答性を良くする方が誘電緩和周波数を高くできるので結晶粒子内のLi+イオンが移動し易い方がよい、即ち、イオン伝導度が大きい方がよい。また、移動し易い(移動障壁が小さい)ほど、大きな誘電分極となるので、比誘電率の大きな誘電体材料とすることができる。
【0036】
上述のようであるので、本発明における粒界の数Nは、セラミックコンデンサ用誘電体材料の厚み(電極間厚み)Tと結晶粒サイズSで表して、N=T/S-1とすると、N=5以上であるのが好ましく、N=20以上が更に好ましく、N=50以上が更に好ましい。更に、T=200μm以上では、N=10以上が好ましく、更に好ましくはN=25以上である、更に好ましくはN=100以上である。T=200μm未満では、N=3以上が好ましく、更に好ましくは、N=5以上である。なお、このような粒界の数Nは、本発明の誘電体粉末を焼結して焼結体からなる誘電体材料としたときのものである。また、粒界の数Nを求めるにあたっては、セラミックコンデンサ用誘電体材料の厚み方向に切断して研磨した試料を走査電子顕微鏡SEMで観察し(断面SEM観察)、焼結している結晶粒子の粒径を測定する。前記結晶粒子径は、円相当径である。30個の結晶粒子の平均を前記結晶粒サイズSとする。上記式から粒界の数Nを求めて数Nを特定すればよい。
前記粒界の数Nは、焼結体を作製する原料粉末の粒径、焼成温度、焼成時間、焼結助剤、等を適宜設定することで決定することができる。
【0037】
更に、焼結助剤を使用して、焼成性を高めるとともに焼結体としたときの粒界抵抗を高くするのがより好ましい。焼結助剤としては、例えば、ホウ素、シリコン、ビスマス、リン、等の元素を含む酸化物や低融点ガラスが挙げられる。
【0038】
本発明によって得られた誘電体粉末は、セラミックコンデンサに好適である。特に、負極としてリチウムイオンをプレドープしたものを用いたリチウムイオンキャパシタの誘電体に適用することで、高エネルギー密度化が発現できるため好都合である。誘電体焼結体を作製するにあたっては、公知の方法と同様にすることができる。例えば、特許文献3では、固体電解質をバインダーとしてポリビニルアセタール樹脂と混合して、500℃、次いで900℃で焼成することで、全固体電池用固体電解質シートを作製している。積層型全固体電池とセラミックコンデンサは、作製方法と構造が類似しているため、本発明の誘電体粉末を用いて同様にして誘電体焼結体(シート)を得ることで、上述したような高密度で緻密なものが得られるようになる。
【実施例0039】
以下、本発明について、実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明は以下の内容に限定されるものはない。
【0040】
(実施例1、9、11、18~19、24、26~28)
出発物質として、硝酸ジルコニウム溶液にシュウ酸水溶液を加え、この溶液に希釈したリン酸を滴下した。この時の仕込みP/Zr比率は両元素のモル比で1.45、シュウ酸はZrに対して1/2のモル比とした。この混合溶液にアンモニア水を加えて、pH6.5にして、丸底フラスコを用い95℃で12h加熱撹拌した。その後、加熱反応後のスラリーから沈殿物を取り出し、水洗後120℃で乾燥した。乾燥物を乳鉢で粗砕して、大気中700℃まで3h昇温、3h保持で焼成し、目開き45μmのフルイで分級して、組成がZr:1.86、P:3.0であるリン酸水素ジルコニウムを得た。
【0041】
次に、上記で得られたリン酸水素ジルコニウムと、炭酸リチウム(和光試薬特級)、及び炭酸カルシウム(宇部マテリアル社製)を用いて、表1に記載の仕込み組成となるように計量し、混合した。混合は乳鉢で15分間行った。得られた混合粉(混合原料)を大気中900℃で一次焼成を行った。昇温速度は150℃/h、保持時間は6hとした。一次焼成後は粉砕して、目開き45μmのフルイで分級した。
【0042】
上記で得られた一次焼成分級品をインピーダンス測定用に0.7g採取して、φ11mm・150MPaでペレットを作製した。このペレットをジルコニアビーズで敷き詰めたアルミナルツボに載せて二次焼成を行った。この時にペレットはアルミナルツボと接触しないようにした。二次焼成は、1200℃、昇温速度150℃/h、保持時間6hとした。得られた二次焼成後のペレットは、表面を平滑にするため紙やすりで研磨後、厚みLを測定し、また、幅(直径)を測定して断面積Aを求めて、ペレット体積L×Aを算出した。その後、金蒸着してブロッキング電極として、25℃でのイオン導電率(S/cm)を測定し、また、25℃、1kHzにおいて静電容量Cを測定した。静電容量Cをペレット断面積Aで割り、ペレット厚みLを乗じることで、誘電率ε(F/m)が算出され、さらに真空誘電率(F/m)で割ることで、比誘電率(-)を求めた。
【0043】
更に、二次焼成後の結晶相を確認するために、上記ペレット作製工程における二次焼成後のペレット処理のうち、研磨・蒸着工程をなしにして、二次焼成後のペレットを粉砕した。粉砕した後は、目開き45μmのフルイで分級して、篩下のLi-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体粉末を得た。得られた粉末をX線回折測定(装置名:リガク社、MiniFlex600)で結晶相の同定を行い、不純物相の有無を確認した。更には、誘電体粉末のメディアン径(D50)をレーザー回折・散乱法により測定した(装置名:マイクロトラック社、MT3300II)。なお、結晶相の同定に関して、後述するように、不純物相としては単斜晶型のZrO2(m-ZrO2)や立方晶型のZrO2(cubic-ZrO2)、三斜晶型Li-Zr-P-O(α’-LZP)や単斜晶型Li-Zr-P-O(β’-LZP)が確認された。また、これらを含めた不純物相やLi-Ca-Zr-P-O系ナシコン型以外の他の多形構造である三斜晶系Li-Zr-P-O(α’-LZP)や単斜晶系Li-Zr-P-O(β’-LZP)が確認されないこともあり、その場合は単一相として表記した。
【0044】
上記で得られたLi-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体粉末の成分分析は、酸に完全溶解した溶液を用いてICP発光分光分析装置や原子吸光分析装置により行った。そして、各実施例、比較例に係る誘電体粉末について、一般式:LiaCabMcPdO12で表したときの各成分の組成、及びそれぞれ該当する成分のモル比、メディアン径D50を表2に示した。また、Alについては、重量割合で記載した。ここで、「100ppm未満」とはこの分析装置の検出限界を表している。
一方で、表面を紙やすりで研磨して厚みと幅を測定してペレット体積を求めた上で、更にその質量を測定して、二次焼成後のペレットの密度を求めた。更にまた、Zr系ナシコン型構造の真密度を3.11g/mLとして規格化して相対密度を求めた。25℃でのイオン導電率、比誘電率、及び不純物相の同定を含めて、結果を表3にまとめて示す。
【0045】
(融点測定)
Li-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体粉末の融点測定は、TG-DTA測定を行い、DTA曲線の吸熱ピークの有無で判断した。TG曲線での重量変化割合は1%未満でありほぼ一定であった。TG-DTA測定条件は、昇温速度5℃/min、終点900℃、大気中、白金パンに試料を充填して行った。充填した試料重量は、30~50mgの範囲とした。
図2には、実施例1に係る固体電解質粉末の融点測定の結果を示しており、
図3には、比較例1の固体電解質粉末の融点測定の結果を示している。このうち、
図2の実施例1の場合には、約860℃付近に吸熱ピークが認められる。一方、
図3の比較例1では、900℃までにこのような吸熱ピークは認められなかった。さらにどちらの場合も、重量変化はなかった。このように、終点900℃までに重量変化がなくDTA曲線に吸熱ピークが確認された場合を融点有りとし、確認できなかった場合をなしとして、表2に結果を示した。
【0046】
(実施例2、6、12、14、21、23、比較例1)
リン酸水素ジルコニウムを得る際の混合溶液の仕込みP/Zr比率は両元素のモル比で1.45、pHを6.0として、組成がZr:1.89、P:3.0であるリン酸水素ジルコニウムを得た。このリン酸水素ジルコニウムと、炭酸リチウム(和光試薬特級)、及び炭酸カルシウム(宇部マテリアル社製)を用いて、表1に記載の仕込み組成となるように計量し、乳鉢で15分間混合して混合粉(混合原料)を得た以外は、先の実施例1と同様にして、Li-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体粉末を得た。そして、上記と同様にして各種評価を行った。結果を表2、表3に示す。
【0047】
(実施例3、13、15)
リン酸水素ジルコニウムを得る際の混合溶液の仕込み比率をP/Zr=1.40、pHを3.5として、組成がZr:1.89、P:3.0であるリン酸水素ジルコニウムを得た。このリン酸水素ジルコニウムと、炭酸リチウム(和光試薬特級)、及び炭酸カルシウム(宇部マテリアル社製)を用いて、表1に記載の仕込み組成となるように計量し、乳鉢で15分間混合して混合粉(混合原料)を得た以外は、先の実施例1と同様にして、Li-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体粉末を得た。そして、上記と同様にして各種評価を行った。結果を表2、表3に示す。
【0048】
(実施例4、16、20、比較例2)
リン酸水素ジルコニウムを得る際の混合溶液の仕込み比率をP/Zr=1.40、pHを6.0として、組成がZr:1.95、P:3.0であるリン酸水素ジルコニウムを得た。このリン酸水素ジルコニウムと、炭酸リチウム(和光試薬特級)、及び炭酸カルシウム(宇部マテリアル社製)を用いて、表1に記載の仕込み組成となるように計量し、乳鉢で15分間混合して混合粉(混合原料)を得た以外は、先の実施例1と同様にして、Li-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体粉末を得た。そして、上記と同様にして各種評価を行った。結果を表2、表3に示す。
【0049】
(実施例5、10、22、比較例3)
リン酸水素ジルコニウムを得る際の混合溶液の仕込み比率をP/Zr=1.35、pHを5.5として、組成がZr:1.98、P:3.0であるリン酸水素ジルコニウムを得た。このリン酸水素ジルコニウムと、炭酸リチウム(和光試薬特級)、及び炭酸カルシウム(宇部マテリアル社製)を用いて、表1に記載の仕込み組成となるように計量し、乳鉢で15分間混合して混合粉(混合原料)を得た以外は、先の実施例1と同様にして、Li-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体粉末を得た。そして、上記と同様にして各種評価を行った。結果を表2、表3に示す。
【0050】
(実施例7、8、17)
リン酸水素ジルコニウムを得る際の混合溶液の仕込み比率をP/Zr=1.40とし、リン酸を滴下でなく1分間以内に全量混合することでの急速投入を行い、pHを6.0として、組成がZr:1.89、P:3.0であるリン酸水素ジルコニウムを得た。このリン酸水素ジルコニウムと、炭酸リチウム(和光試薬特級)、及び炭酸カルシウム(宇部マテリアル社製)を用いて、表1に記載の仕込み組成となるように計量し、乳鉢で15分間混合して混合粉(混合原料)を得た以外は、先の実施例1と同様にして、Li-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体粉末を得た。そして、上記と同様にして各種評価を行った。結果を表2、表3に示す。
【0051】
(実施例25)
二次焼成時にジルコニアビーズを敷かずにペレットをアルミナルツボに直接載せたこと以外は、実施例1と同様にして、Li-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体粉末を得た。そして、上記と同様にして各種評価を行った。結果を表2、表3に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
上記で得られた実施例に係るLi-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体粉末は、比較例のものに比べて比誘電率が優れることが分かった。
なかでも、実施例1~24では、900℃以下に融点を有するか、若しくはD50が29μm未満であり、いずれも25℃での比誘電率が3×105(-)以上であるか、又は、密度が2.80以上を示して、より緻密で誘電性の高いものが得られていることが分かった。
【0056】
なお、実施例25については、二次焼成の際のルツボからの混入によりAlが0.3wt%程度存在している。Al3+はZr4+よりもイオン半径が小さいためできるだけ少ない含有量であるのが望ましいが、実施例25では、含有量が少なくナシコン型結晶構造は維持しており、大幅な特性悪化は認められない。
【0057】
一方、比較例1~3については、得られた誘電体粉末の成分分析値が本発明に係る条件の少なくとも一部を満たしていない。そのため、ナシコン以外の他の多形構造が存在して、粒子間の親和性が下がり、比誘電率や密度に劣る結果を示したと考えられる。ここで、ナシコン型構造以外の多形は、ナシコン型に比べてイオン導電率が低い。
【0058】
以上のとおり、本発明によれば、優れたリチウム二次電池特性が発現できるLi-Ca-Zr-P-O系ナシコン型誘電体粉末を得ることができる。