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特開2024-93735回転抑止キーのせん断耐力の評価方法、鋼管連結装置の製造方法、および鋼管連結装置
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  • 特開-回転抑止キーのせん断耐力の評価方法、鋼管連結装置の製造方法、および鋼管連結装置 図1
  • 特開-回転抑止キーのせん断耐力の評価方法、鋼管連結装置の製造方法、および鋼管連結装置 図2
  • 特開-回転抑止キーのせん断耐力の評価方法、鋼管連結装置の製造方法、および鋼管連結装置 図3
  • 特開-回転抑止キーのせん断耐力の評価方法、鋼管連結装置の製造方法、および鋼管連結装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093735
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】回転抑止キーのせん断耐力の評価方法、鋼管連結装置の製造方法、および鋼管連結装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/24 20060101AFI20240702BHJP
   E02D 5/28 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
E02D5/24 103
E02D5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210293
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】永島 健
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】可知 大暉
(72)【発明者】
【氏名】神 拓海
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA19
2D041CB06
2D041DB02
2D041DB13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】鋼管連結装置における回転抑止キーのせん断耐力を正確に評価することが可能な評価方法を提供する。
【解決手段】回転抑止キー20の外側面において、回転抑止キー20が装着される嵌合凹部19におけるボックス継手13とピン継手14との境界線Bと重なる第一の仮想線V1と、第一の仮想線V1の両端と回転抑止キー20を固定するボルトのための座ぐり付きボルト穴19の座ぐり222の中心Cとを夫々結ぶ第二の仮想線V2および第三の仮想線V3とを仮定し、第一の仮想線V1の一端から第二の仮想線V2と座ぐり222の縁部との交点までの距離をb1とし、第一の仮想線V1の他端から第三の仮想線V3と座ぐり222の縁部との交点までの距離をb2としたとき、せん断耐力Tを下記の式を用いて算出する。t、σは夫々、回転抑止キー20の厚さ、降伏応力であり、kは補正係数である。

【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の軸心を有するように連結可能なボックス継手およびピン継手と、
前記ボックス継手の外周面および前記ピン継手の外周面の双方に跨って設けられた嵌合凹部に装着され、前記ボックス継手と前記ピン継手との前記軸心周りの相対回転を抑止する回転抑止キーと、
前記回転抑止キーのうち前記ボックス継手側の領域と前記ピン継手側の領域とのいずれか一方に設けられた座ぐり付きのボルト取付穴を挿通して前記ボックス継手または前記ピン継手と螺合し、前記回転抑止キーを前記嵌合凹部内に固定するボルトと、を備える鋼管連結装置における前記回転抑止キーのせん断耐力を評価する評価方法であって、
前記回転抑止キーの外側面において、
前記嵌合凹部における前記ボックス継手と前記ピン継手との境界線と重なる第一の仮想線と、
前記第一の仮想線の一端と、前記座ぐりの中心とを結ぶ第二の仮想線と、
前記第一の仮想線の他端と、前記座ぐりの中心とを結ぶ第三の仮想線と、を仮定し、
前記第一の仮想線の前記一端から、前記第二の仮想線と前記座ぐりの縁部との交点までの距離をb1とし、
前記第一の仮想線の前記他端から、前記第三の仮想線と前記座ぐりの縁部との交点までの距離をb2としたとき、
前記回転抑止キーのせん断耐力Tを、下記の式を用いて算出することを含む評価方法。
【数1】
(ここで、tは前記回転抑止キーの厚さであり、σは前記回転抑止キーの降伏応力であり、kは所定の補正係数である。)
【請求項2】
同一の軸心を有するように連結可能なボックス継手およびピン継手と、
前記ボックス継手の外周面および前記ピン継手の外周面の双方に跨って設けられた嵌合凹部に装着され、前記ボックス継手と前記ピン継手との前記軸心周りの相対回転を抑止する回転抑止キーと、
前記回転抑止キーのうち前記ボックス継手側の領域と前記ピン継手側の領域とのいずれか一方に設けられた座ぐり付きのボルト取付穴を挿通して前記ボックス継手または前記ピン継手と螺合し、前記回転抑止キーを前記嵌合凹部内に固定するボルトと、を備える鋼管連結装置の製造方法であって、
前記回転抑止キーの外側面において、
前記嵌合凹部における前記ボックス継手と前記ピン継手との境界線と重なる第一の仮想線と、
前記第一の仮想線の一端と、前記座ぐりの中心とを結ぶ第二の仮想線と、
前記第一の仮想線の他端と、前記座ぐりの中心とを結ぶ第三の仮想線と、を仮定し、
前記第一の仮想線の前記一端から、前記第二の仮想線と前記座ぐりの縁部との交点までの距離をb1とし、
前記第一の仮想線の前記他端から、前記第三の仮想線と前記座ぐりの縁部との交点までの距離をb2としたとき、
前記回転抑止キーのせん断耐力Tを、下記の式を用いて算出することと、
【数2】
(ここで、tは前記回転抑止キーの厚さであり、σは前記回転抑止キーの降伏応力であり、kは所定の補正係数である。)
前記せん断耐力Tが所定の閾値以上となるように、b1、b2およびtを設定することと、
設定されたb1、b2およびtに基づいて前記回転抑止キー、前記ボックス継手および前記ピン継手を製造することと、を含む製造方法。
【請求項3】
前記回転抑止キーは、全体が前記ボックス継手側に位置するボックス継手側縁部と、全体が前記ピン継手側に位置するピン継手側縁部と、前記ボックス継手および前記ピン継手を跨る二つの支圧縁部と、を有する略矩形のものであり、
前記回転抑止キーは、前記ボックス継手側縁部および前記ピン継手側縁部が前記境界線に対して平行になり、且つ、二つの前記支圧縁部が前記軸心に対して平行になるように配置されており、
前記回転抑止キーの外側面において、前記軸心に対して平行になる第四の仮想線を仮定し、
前記第四の仮想線と前記ボックス継手側縁部との交点から、前記第四の仮想線と前記第一の仮想線との交点までの距離をL1とし、
前記第四の仮想線と前記ピン継手側縁部との交点から、前記第四の仮想線と前記第一の仮想線との交点までの距離をL2としたとき、
各前記支圧縁部のうち前記ボックス継手側に位置する第一の支圧部の支圧耐力TB1を、下記の式を用いて算出することと、
【数3】
各前記支圧縁部のうち前記ピン継手側に位置する第二の支圧部の支圧耐力TB2を、下記の式を用いて算出することと、
【数4】
前記支圧耐力TB1および前記支圧耐力TB2が所定の閾値以上となるように、L1、L2およびtを設定することと、
前記せん断耐力Tと、前記支圧耐力TB1および前記支圧耐力TB2のうち前記ボルト取付穴が設けられていない領域の支圧耐力に該当する方とが近づくように、L1およびL2の少なくとも一方を調整することと、を更に含み、
前記回転抑止キー、前記ボックス継手および前記ピン継手を製造するときに、調整されたL1およびL2の少なくとも一方を更に考慮する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記調整において、L1とL2との和が一定となるようにL1およびL2の両方を調整する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記調整において、L1とL2のいずれか一方のみを調整する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ボルト取付穴は、前記回転抑止キーのうち前記ピン継手側の領域に設けられている、請求項2から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ボルト取付穴はb1=b2となる位置に設けられている、請求項2~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
同一の軸心を有するように連結可能なボックス継手およびピン継手と、
前記ボックス継手の外周面および前記ピン継手の外周面の双方に跨って設けられた嵌合凹部に装着され、前記ボックス継手と前記ピン継手との前記軸心周りの相対回転を抑止する回転抑止キーと、
前記回転抑止キーのうち前記ボックス継手側の領域と前記ピン継手側の領域とのいずれか一方に設けられた座ぐり付きのボルト取付穴を挿通して前記ボックス継手または前記ピン継手と螺合し、前記回転抑止キーを前記嵌合凹部内に固定するボルトと、を備える鋼管連結装置であって、
前記回転抑止キーは、全体が前記ボックス継手側に位置するボックス継手側縁部と、全体が前記ピン継手側に位置するピン継手側縁部と、前記ボックス継手および前記ピン継手を跨る二つの支圧縁部と、を有する略矩形のものであり、
前記回転抑止キーは、前記ボックス継手側縁部および前記ピン継手側縁部が前記嵌合凹部における前記ボックス継手と前記ピン継手との境界線に対して平行になり、且つ、二つの前記支圧縁部が前記軸心に対して平行になるように配置されており、
前記回転抑止キーの外側面において、
前記境界線と重なる第一の仮想線と、
前記第一の仮想線の一端と、前記座ぐりの中心とを結ぶ第二の仮想線と、
前記第一の仮想線の他端と、前記座ぐりの中心とを結ぶ第三の仮想線と、
前記軸心に対して平行になる第四の仮想線と、を仮定し、
前記第一の仮想線の前記一端から、前記第二の仮想線と前記座ぐりの縁部との交点までの距離をb1とし、
前記第一の仮想線の前記他端から、前記第三の仮想線と前記座ぐりの縁部との交点までの距離をb2とし、
前記第四の仮想線と前記ボックス継手側縁部との交点から、前記第四の仮想線と前記第一の仮想線との交点までの距離をL1とし、
前記第四の仮想線と前記ピン継手側縁部との交点から、前記第四の仮想線と前記第一の仮想線との交点までの距離をL2としたとき、
前記回転抑止キーのせん断耐力Tは下記の式で表され、
【数5】
各前記支圧縁部のうち前記ボックス継手側に位置する第一の支圧部の支圧耐力TB1は、下記の式で表され、
【数6】
そして、各前記支圧縁部のうち前記ピン継手側に位置する第二の支圧部の支圧耐力TB2は、下記の式で表され、
【数7】
ここで、tは前記回転抑止キーの厚さであり、σは前記回転抑止キーの降伏応力であり、kは所定の補正係数であり、
前記せん断耐力T、前記支圧耐力TB1および前記支圧耐力TB2が所定の閾値以上となり、且つ、
前記せん断耐力Tと、前記支圧耐力TB1および前記支圧耐力TB2のうち前記ボルト取付穴が設けられていない領域の支圧耐力に該当する方とが実質的に等しくなるように、L1、L2、b1、b2およびtが設定されている、鋼管連結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭を構成する鋼管同士の端部を相対回転不能に連結するための鋼管連結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記鋼管連結装置としては、上側の鋼管に溶接されたボックス継手の外周面および下側の鋼管に溶接されたピン継手の外周面に跨って設けられた嵌合凹部に、回転抑止キーをボルトによって固定した構成のものが知られている(特許文献1)。特許文献1の鋼管連結装置によって連結された鋼管杭の沈設施工時に、上側の鋼管に与えられた回転トルクは、回転抑止キーによって相対回転が抑止されたボックス継手およびピン継手を介して下側の鋼管へ伝達される。
【0003】
上記鋼管連結装置の製造にあたり、回転抑止キーは、破損することなく回転トルクを伝達するためのせん断耐力を持つように形状パラメータ等が決められるのであるが、従来では、せん断耐力Tを求める際に下記の式が使われていた。
【数1】
b:回転抑止キーの横方向の幅
t:回転抑止キーの厚さ
σ:回転抑止キーの降伏応力
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-65525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本願の発明者が回転抑止キーのせん断耐力について検証を行ったところ、上記式を用いて求められた数値と、実際の数値との間にある程度の差が存在することが分かった。この差の存在により、鋼管連結装置の製造時における回転抑止キーの形状パラメータ等に対する設定は十分に適切ではなく、改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、上述の課題を解決する、回転抑止キーのせん断耐力の評価方法、鋼管連結装置の製造方法および鋼管連結装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するための本発明に係る評価方法は、
同一の軸心を有するように連結可能なボックス継手およびピン継手と、
前記ボックス継手の外周面および前記ピン継手の外周面の双方に跨って設けられた嵌合凹部に装着され、前記ボックス継手と前記ピン継手との前記軸心周りの相対回転を抑止する回転抑止キーと、
前記回転抑止キーのうち前記ボックス継手側の領域と前記ピン継手側の領域とのいずれか一方に設けられた座ぐり付きのボルト取付穴を挿通して前記ボックス継手または前記ピン継手と螺合し、前記回転抑止キーを前記嵌合凹部内に固定するボルトと、を備える鋼管連結装置における前記回転抑止キーのせん断耐力を評価する評価方法であって、
前記回転抑止キーの外側面において、
前記嵌合凹部における前記ボックス継手と前記ピン継手との境界線と重なる第一の仮想線と、
前記第一の仮想線の一端と、前記座ぐりの中心とを結ぶ第二の仮想線と、
前記第一の仮想線の他端と、前記座ぐりの中心とを結ぶ第三の仮想線と、を仮定し、
前記第一の仮想線の前記一端から、前記第二の仮想線と前記座ぐりの縁部との交点までの距離をb1とし、
前記第一の仮想線の前記他端から、前記第三の仮想線と前記座ぐりの縁部との交点までの距離をb2としたとき、
前記回転抑止キーのせん断耐力Tを、下記の式を用いて算出することを含むことを特徴とする。
【数2】
(ここで、tは前記回転抑止キーの厚さであり、σは前記回転抑止キーの降伏応力であり、kは所定の補正係数である。)
【0008】
回転抑止キーを介して回転トルクが伝達される際、回転抑止キーにはせん断応力が作用する。従来では、せん断応力は回転抑止キーの幅方向に沿って作用すると考えられていたが、回転抑止キーに座ぐり付きボルト取付穴が設けられている場合では、せん断応力は回転抑止キーの縁部のうちボックス継手とピン継手との境界線近傍の部位から、座ぐりに向かって作用するということを、本願の発明者は発見した。そこで、本願の発明者は、せん断応力の実際の向きを考慮したせん断耐力Tの計算式を以上のように定義した。
【0009】
上記の式では、せん断応力が実際に作用する面の面積により近い面積を表す「(b1+b2)×t」を取り入れている。さらに、上記の式では、補正前の数値を実際の数値により近づかせるための補正係数kを取り入れている。したがって、上記の式によれば、回転抑止キーのせん断耐力Tをより正確に評価することが可能になる。
【0010】
上述の目的を達成するための本発明に係る製造方法は、
同一の軸心を有するように連結可能なボックス継手およびピン継手と、
前記ボックス継手の外周面および前記ピン継手の外周面の双方に跨って設けられた嵌合凹部に装着され、前記ボックス継手と前記ピン継手との前記軸心周りの相対回転を抑止する回転抑止キーと、
前記回転抑止キーのうち前記ボックス継手側の領域と前記ピン継手側の領域とのいずれか一方に設けられた座ぐり付きのボルト取付穴を挿通して前記ボックス継手または前記ピン継手と螺合し、前記回転抑止キーを前記嵌合凹部内に固定するボルトと、を備える鋼管連結装置の製造方法であって、
前記回転抑止キーの外側面において、
前記嵌合凹部における前記ボックス継手と前記ピン継手との境界線と重なる第一の仮想線と、
前記第一の仮想線の一端と、前記座ぐりの中心とを結ぶ第二の仮想線と、
前記第一の仮想線の他端と、前記座ぐりの中心とを結ぶ第三の仮想線と、を仮定し、
前記第一の仮想線の前記一端から、前記第二の仮想線と前記座ぐりの縁部との交点までの距離をb1とし、
前記第一の仮想線の前記他端から、前記第三の仮想線と前記座ぐりの縁部との交点までの距離をb2としたとき、
前記回転抑止キーのせん断耐力Tを、下記の式を用いて算出することと、
【数3】
(ここで、tは前記回転抑止キーの厚さであり、σは前記回転抑止キーの降伏応力であり、kは所定の補正係数である。)
前記せん断耐力Tが所定の閾値以上となるように、b1、b2およびtを設定することと、
設定されたb1、b2およびtに基づいて前記回転抑止キー、前記ボックス継手および前記ピン継手を製造することと、を含むことを特徴とする。
【0011】
評価方法について前述した通り、本発明におけるせん断耐力Tの算出式は、せん断耐力Tをより正確に評価できるものである。したがって、このせん断耐力Tの算出式を用いた上記の製造方法によれば、所望のせん断耐力Tを得るのに必要な回転抑止キーの形状パラメータ、すなわち、回転抑止キーの厚さtと、回転抑止キーの縁部のうちボックス継手とピン継手との境界線近傍の部位から座ぐりまでの距離b1、b2とをより適切に設定することが可能になる。
【0012】
本発明に係る製造方法において、
前記回転抑止キーは、全体が前記ボックス継手側に位置するボックス継手側縁部と、全体が前記ピン継手側に位置するピン継手側縁部と、前記ボックス継手および前記ピン継手を跨る二つの支圧縁部と、を有する略矩形のものであり、
前記回転抑止キーは、前記ボックス継手側縁部および前記ピン継手側縁部が前記境界線に対して平行になり、且つ、二つの前記支圧縁部が前記軸心に対して平行になるように配置されており、
前記回転抑止キーの外側面において、前記軸心に対して平行になる第四の仮想線を仮定し、
前記第四の仮想線と前記ボックス継手側縁部との交点から、前記第四の仮想線と前記第一の仮想線との交点までの距離をL1とし、
前記第四の仮想線と前記ピン継手側縁部との交点から、前記第四の仮想線と前記第一の仮想線との交点までの距離をL2としたとき、
各前記支圧縁部のうち前記ボックス継手側に位置する第一の支圧部の支圧耐力TB1を、下記の式を用いて算出することと、
【数4】
各前記支圧縁部のうち前記ピン継手側に位置する第二の支圧部の支圧耐力TB2を、下記の式を用いて算出することと、
【数5】
前記支圧耐力TB1および前記支圧耐力TB2が所定の閾値以上となるように、L1、L2およびtを設定することと、
前記せん断耐力Tと、前記支圧耐力TB1および前記支圧耐力TB2のうち前記ボルト取付穴が設けられていない領域の支圧耐力に該当する方とが近づくように、L1およびL2の少なくとも一方を調整することと、を更に含み、
前記回転抑止キー、前記ボックス継手および前記ピン継手を製造するときに、調整されたL1およびL2の少なくとも一方を更に考慮すると好適である。
【0013】
回転抑止キーを介して回転トルクが伝達される際、回転抑止キーにはせん断応力のみならず支圧応力も作用する。これらの応力に対する回転抑止キーの総合耐力は、せん断応力に対するせん断耐力Tと、支圧応力に対する支圧耐力TB1、TB2のうちの最小値に応じて決まる。そこで、回転抑止キーのb1、b2、L1、L2およびtは、せん断耐力T、支圧耐力TB1および支圧耐力TB2のうちの最小値が、所望の総合耐力を得るための所定の閾値以上となるように設定されるのであるが、設定されたL1、L2の数値によっては、せん断耐力Tと、ボルト取付穴が設けられていない領域の支圧耐力(支圧耐力TB1および支圧耐力TB2のいずれか一方)とが一致しないことがある。
【0014】
ここで、回転抑止キーのうちピン継手側の領域にボルト取付穴が設けられており、せん断耐力T、支圧耐力TB1および支圧耐力TB2のうちせん断耐力Tが最小値となっている場合を例に、L1、L2に対する調整を説明する。
【0015】
一例として、せん断耐力Tが上昇して支圧耐力TB1が低下するように、L2を大きくしてL1を小さくし、または、支圧耐力TB1が一定であってせん断耐力Tが上昇するように、L1を変えずにL2を大きくすることができる。この場合、せん断耐力T、支圧耐力TB1および支圧耐力TB2のうちの最小値であるせん断耐力Tが上昇することで、回転抑止キーの総合耐力は上昇することになる。すなわち、上記製造方法によれば、より高い総合耐力を有する回転抑止キーが得られる。
【0016】
別の例として、せん断耐力Tが一定であって支圧耐力TB1が低下するように、L2を変えずにL1を小さくすることができる。この場合、せん断耐力T、支圧耐力TB1および支圧耐力TB2のうちの最小値であるせん断耐力Tが維持されたまま、回転抑止キーの高さ寸法が小さくなる。すなわち、上記製造方法によれば、総合耐力が維持されたまま小型化した回転抑止キーを得ることもできる。
【0017】
本発明に係る製造方法において、前記調整では、L1とL2との和が一定となるようにL1およびL2の両方を調整すると好適である。
【0018】
上記構成の製造方法によれば、高さ寸法が維持されたまま、より高い総合耐力を有する回転抑止キーを得ることができる。
【0019】
本発明に係る製造方法において、前記調整では、L1とL2のいずれか一方のみを調整すると好適である。
【0020】
上記構成によれば、L1とL2のいずれか一方のみを調整すれば済むのでL1とL2に対する設定が簡素化される。
【0021】
本発明に係る製造方法において、前記ボルト取付穴は、前記回転抑止キーのうち前記ピン継手側の領域に設けられると好適である。
【0022】
この構成の場合では、L1を小さくなるように調整すると、ボックス継手における、回転抑止キーが装着される嵌合凹部は、ボックス継手の内周面に設けられている、ボックス継手とピン継手とを抜け止め状態にするための荷重伝達キーが装着される溝部から離間して配置されることになるので、嵌合凹部と溝部との間の部位の強度が上昇して断面欠損が生じにくくなる。
【0023】
本発明に係る製造方法において、前記ボルト取付穴はb1=b2となる位置に設けられると好適である。
【0024】
上記構成によれば、回転抑止キーのうちボルト取付穴の左右両側に位置する部位のせん断耐力が均等になるので好適である。
【0025】
上述の目的を達成するための本発明に係る鋼管連結装置は、
同一の軸心を有するように連結可能なボックス継手およびピン継手と、
前記ボックス継手の外周面および前記ピン継手の外周面の双方に跨って設けられた嵌合凹部に装着され、前記ボックス継手と前記ピン継手との前記軸心周りの相対回転を抑止する回転抑止キーと、
前記回転抑止キーのうち前記ボックス継手側の領域と前記ピン継手側の領域とのいずれか一方に設けられた座ぐり付きのボルト取付穴を挿通して前記ボックス継手または前記ピン継手と螺合し、前記回転抑止キーを前記嵌合凹部内に固定するボルトと、を備え、
前記回転抑止キーは、全体が前記ボックス継手側に位置するボックス継手側縁部と、全体が前記ピン継手側に位置するピン継手側縁部と、前記ボックス継手および前記ピン継手を跨る二つの支圧縁部と、を有する略矩形のものであり、
前記回転抑止キーは、前記ボックス継手側縁部および前記ピン継手側縁部が前記嵌合凹部における前記ボックス継手と前記ピン継手との境界線に対して平行になり、且つ、二つの前記支圧縁部が前記軸心に対して平行になるように配置されており、
前記回転抑止キーの外側面において、
前記境界線と重なる第一の仮想線と、
前記第一の仮想線の一端と、前記座ぐりの中心とを結ぶ第二の仮想線と、
前記第一の仮想線の他端と、前記座ぐりの中心とを結ぶ第三の仮想線と、
前記軸心に対して平行になる第四の仮想線と、を仮定し、
前記第一の仮想線の前記一端から、前記第二の仮想線と前記座ぐりの縁部との交点までの距離をb1とし、
前記第一の仮想線の前記他端から、前記第三の仮想線と前記座ぐりの縁部との交点までの距離をb2とし、
前記第四の仮想線と前記ボックス継手側縁部との交点から、前記第四の仮想線と前記第一の仮想線との交点までの距離をL1とし、
前記第四の仮想線と前記ピン継手側縁部との交点から、前記第四の仮想線と前記第一の仮想線との交点までの距離をL2としたとき、
前記回転抑止キーのせん断耐力Tは下記の式で表され、
【数6】
各前記支圧縁部のうち前記ボックス継手側に位置する第一の支圧部の支圧耐力TB1は、下記の式で表され、
【数7】
そして、各前記支圧縁部のうち前記ピン継手側に位置する第二の支圧部の支圧耐力TB2は、下記の式で表され、
【数8】
ここで、tは前記回転抑止キーの厚さであり、σは前記回転抑止キーの降伏応力であり、kは所定の補正係数であり、
前記せん断耐力T、前記支圧耐力TB1および前記支圧耐力TB2が所定の閾値以上となり、且つ、
前記せん断耐力Tと、前記支圧耐力TB1および前記支圧耐力TB2のうち前記ボルト取付穴が設けられていない領域の支圧耐力に該当する方とが実質的に等しくなるように、L1、L2、b1、b2およびtが設定されている、ことを特徴とする。
【0026】
上記構成によれば、より高い総合耐力を有する回転抑止キーを備えた鋼管連結装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る鋼管連結装置を備えた鋼管杭を示す部分断面図である。
図2】回転抑止キーの正面図である。
図3】回転抑止キーのひずみ分布を模式的に示す図である。
図4】回転抑止キーの掛かり長さと、回転抑止キーの耐力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の鋼管連結装置およびこれに係る評価方法と製造方法の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。
【0029】
〔鋼管連結装置〕
図1には、上下方向に隣り合わされた鋼管11の互いに対向する端部を鋼管連結装置12によって連結して構成した鋼管杭10が示されている。鋼管連結装置12に、上側の鋼管11Aの下端に溶接された雌型のボックス継手13と、下側の鋼管11Bの上端に溶接された雄型のピン継手14とが備えられている。上側の鋼管11Aおよび下側の鋼管11Bは、ボックス継手13およびピン継手14を介して同一の軸心Xを有するように連結可能である。具体的には、ボックス継手13にピン継手14を差し込んだ後、ボックス継手13の内周面に形成された内向き溝部131に内蔵されている荷重伝達キー15を、セットボルト16に対する操作により、内向き溝部131に対向するようにピン継手14の外周面に形成された外向き溝部141に跨る位置に押出すことで、上側の鋼管11Aおよび下側の鋼管11Bは抜け止め状態に固定される。
【0030】
図2に示すように、ボックス継手13の外周面の下端縁に下向切欠部17が備えられている。ピン継手14の外周面の上端縁であって、下向切欠部17に対応する位置に上向切欠部18が備えられている。ボックス継手13にピン継手14を差し込んだときに、下向切欠部17と上向切欠部18とによって正面視および断面視略矩形状の嵌合凹部19が構成される。
【0031】
上側の鋼管11Aおよび下側の鋼管11Bは、嵌合凹部19に回転抑止キー20を装着することによって、軸心X周りに相対的に回転することが抑止される。回転抑止キー20は、全体がボックス継手13側に位置するボックス継手側縁部201と、全体がピン継手14側に位置するピン継手側縁部202と、ボックス継手13およびピン継手14を跨る二つの支圧縁部203とを有する、正面視および断面視略矩形状に構成されている。本実施形態において、回転抑止キー20は、ボックス継手側縁部201およびピン継手側縁部202が嵌合凹部19におけるボックス継手13とピン継手14との境界線Bに対して平行になり、且つ、二つの支圧縁部203が軸心Xに対して平行になるように配置されている。
【0032】
回転抑止キー20は、嵌合凹部19内にボルト21によって固定される。回転抑止キー20には、ボルト21の軸部211が挿通される貫通穴221と、ボルト21の頭部212が収容される座ぐり222とを有するボルト取付穴22が穿設されている。本実施形態において、ボルト取付穴22は、回転抑止キー20をピン継手14に対して固定できるように、回転抑止キー20のうちピン継手14側の領域に穿設されている。なお、ボルト21は、ピン継手14に備えられた上向切欠部18内に設けられたボルト穴142に螺合される。
【0033】
〔回転抑止キーの耐力の評価〕
上記構成の鋼管杭10において、上側の鋼管11Aに回転トルクが与えられた場合では、ボックス継手13の下向切欠部17と、回転抑止キー20の一方(図2の例では右の方)の支圧縁部203のうちボックス継手13側に位置する第一の支圧部203Aとが当接することにより、上側の鋼管11Aからボックス継手13を介して回転抑止キー20へ回転トルクが伝達され、そして、回転抑止キー20の他方(図2の例では左の方)の支圧縁部203のうちピン継手14側に位置する第二の支圧部203Bと、ピン継手14の上向切欠部18とが当接することにより、回転抑止キー20からピン継手14を介して下側の鋼管11Bへ回転トルクが伝達される。
【0034】
上記のように回転抑止キー20を介して回転トルクが伝達される際、回転抑止キー20に対して圧縮荷重およびせん断荷重がかかることにより、回転抑止キー20にはせん断応力および支圧応力が作用するのであるが、これらの応力に対する回転抑止キー20の総合耐力Tは、一例として下記の式(1)によって表すことができる。
【数9】
ここで、Tはせん断耐力であり、TB1は第一の支圧部203Aの支圧耐力であり、TB2は第二の支圧部203Bの支圧耐力である。Dは鋼管11の直径である。Nは回転抑止キー20の個数である。γexは施工時割増係数であり、例えば1.5とすることができる。γは安全率であり、例えば1.7とすることができる。
【0035】
以下、支圧耐力TB1、支圧耐力TB2およびせん断耐力Tの求め方について説明する。
【0036】
〈せん断耐力T
前述したように回転抑止キー20を介して回転トルクが伝達される際に、回転抑止キー20にはせん断応力が作用するのであるが、このせん断応力に対する回転抑止キー20のせん断耐力の大きさは、主にせん断応力が作用する面の面積と、回転抑止キー20の降伏強度とに応じて決まることが知られている。そこで、従来では、せん断応力は回転抑止キー20のうち境界線Bに対して平行であり且つ同一の高さにある面に沿って作用すると仮定して、回転抑止キー20のせん断耐力Tを求めるための式を、下記のように定義していた。
【数10】
b:回転抑止キー20の幅
t:回転抑止キー20の厚さ
σ:回転抑止キーの降伏応力
【0037】
ところで、本願の発明者が、デジタル画像相関法により、回転抑止キー20に回転トルクがかかった際のひずみ分布を分析したところ、図3に示されるようなひずみ分布となった。図3に示すように、支圧縁部203のうち境界線Bの近傍の部位から、ボルト取付穴22の座ぐり222にかけて、ひずみが比較的大きく発生していた。このことから、せん断応力は、支圧縁部203のうち境界線Bの近傍の部位から座ぐり222に向かって作用していたことが分かる。このように、せん断応力が実際に作用する面の面積と、従来の式において採用している面積とは乖離があるので、従来の式によって求められたせん断耐力Tは、実際の数値とある程度の差があると考えられる。
【0038】
そこで、本願の発明者は、せん断応力の実際の向きを考慮したせん断耐力Tの計算式を以下のように新たに定義することに至った。
すなわち、図2に示すように、
回転抑止キー20の外側面において、嵌合凹部19におけるボックス継手13とピン継手14との境界線Bと重なる第一の仮想線V1と、
第一の仮想線V1の一端と、座ぐり222の中心Cとを結ぶ第二の仮想線V2と、
第一の仮想線V1の他端と、座ぐり222の中心Cとを結ぶ第三の仮想線V3と、を仮定し、
第一の仮想線V1の一端から、第二の仮想線V2と座ぐり222の縁部との交点までの距離をb1とし、
第一の仮想線V1の他端から、第三の仮想線V3と座ぐり222の縁部との交点までの距離をb2としたとき、
回転抑止キー20のせん断耐力Tを、下記の式(2)を用いて算出する。
【数11】
【0039】
上記の式(2)では、従来の式における「b×t」の代わりに、図3に示すようにせん断応力が実際に作用する面の面積により近い面積を表す「(b1+b2)×t」を取り入れている。そして、上記の式(2)では、補正前の数値を実際の数値により近づかせるための補正係数kを取り入れている。補正係数kは、補正前の数値と実験等で得られた数値との相関関係に基づいて設定される。本実施形態ではkを0.9とするがこの限りではない。
【0040】
表1は、検証のために、前述した構造を有する鋼管連結装置12の複数のサンプルに関し、従来の式、上記の式(2)および実験によって求めたせん断耐力Tの比較表である。なお、これらのサンプルにおいて、回転抑止キー20のボルト取付穴22はb1=b2となる位置に設けられている。そして、回転抑止キー20のtはいずれも13mmであり、σはいずれも980N/mmであった。
【表1】
【0041】
表1において、実験値は、s.f.法を用いて求めたものである。具体的には、荷重変位曲線において初期勾配の1/3になったときを降伏荷重とする。
【0042】
表1から分かるように、いずれのサンプルにおいても、本発明の式(2)を用いて求めた数値は、従来の式を用いて求めた数値よりも実験値に近いものであった。すなわち、本発明の式(2)によれば、前述した構造を有する鋼管連結装置12に使用される回転抑止キー20のせん断耐力Tをより正確に評価することが可能になる。
【0043】
〈支圧耐力TB1、支圧耐力TB2
上述したように回転抑止キー20の各支圧縁部203には支圧応力が作用するのであるが、この支圧応力に対する第一の支圧部203Aの支圧耐力TB1および第二の支圧部203Bの支圧耐力TB2の大きさは、主に支圧応力が作用する面の面積と、回転抑止キー20の降伏強度とに応じて決まる。そこで、本発明においては、支圧耐力TB1、支圧耐力TB2を以下のように定義する。
すなわち、図2に示すように、
回転抑止キー20の外側面において、軸心にX対して平行になる第四の仮想線V4を仮定し、
第四の仮想線V4とボックス継手側縁部201との交点から、第四の仮想線V4と第一の仮想線V1との交点までの距離(ボックス継手13に対する回転抑止キー20の掛かり長さと略同一)をL1とし、
第四の仮想線V4とピン継手側縁部202との交点から、第四の仮想線V4と第一の仮想線V1との交点までの距離(ピン継手14に対する回転抑止キー20の掛かり長さと略同一)をL2としたとき、
各支圧縁部203のうちボックス継手13側に位置する第一の支圧部203Aの支圧耐力TB1を、下記の式(3)を用いて算出し、そして、各支圧縁部203のうちピン継手14側に位置する第二の支圧部203Bの支圧耐力TB2を、下記の式(4)を用いて算出する。
【数12】
【数13】
【0044】
〔鋼管連結装置の製造方法〕
鋼管連結装置の製造にあたっては、回転抑止キー20が破壊することなく回転トルクを伝達できるように、回転抑止キー20の総合耐力Tを想定される回転トルク以上とする必要がある。
【0045】
総合耐力Tを求めるための上記式(1)において、「min(T、TB1、TB2)」は、所望の総合耐力T、直径D、個数N、割増係数γexおよび安全率γに応じて閾値が決まり、すなわち、せん断耐力T、支圧耐力TB1および支圧耐力TB2のうちの最小値を閾値以上とすることで、所望の総合耐力Tを得ることができる。なお、せん断耐力T、支圧耐力TB1および支圧耐力TB2のうちの最小値を閾値以上とするということは、せん断耐力T、支圧耐力TB1および支圧耐力TB2のいずれも閾値以上とすることを意味する。
【0046】
そこで、本発明に係る製造方法においては、上記式(2)、(3)および(4)を用いて回転抑止キー20のせん断耐力T、支圧耐力TB1および支圧耐力TB2を算出し、その際、せん断耐力T、支圧耐力TB1および支圧耐力TB2が、所望の総合耐力T等に応じて決められた閾値以上となるように、回転抑止キー20のb1、b2、L1、L2およびtを設定する。そして、設定されたb1、b2、L1、L2およびtに基づいて回転抑止キー20、ボックス継手13およびピン継手14を製造する。
【0047】
更に、本発明に係る製造方法においては、設定された回転抑止キー20のL1およびL2を以下説明のように調整してもよい。
【0048】
図4は、回転抑止キー20におけるボルト取付穴22の設置位置が一定である場合の、掛かり長さL1に応じた支圧耐力TB1の変化と、掛かり長さL2に応じたせん断耐力Tおよび支圧耐力TB2の変化とを例示するグラフである。図4の例では、せん断耐力Tおよび支圧耐力TB2のいずれもL2の増加に伴って上昇し、且つ、L2が15mm~35mmの間にあるとき、せん断耐力Tは支圧耐力TB2よりも低くなっている。一方、支圧耐力TB1はL1の増加に伴って上昇し、且つ、L1が17.5mmのときの支圧耐力TB1は、L2が32.5mmのときのせん断耐力Tと等しくなり、L1が25mmのときの支圧耐力TB1は、L2が25mmのときの支圧耐力TB2と等しくなる。
【0049】
図4に示すように、設定されたL1、L2の数値によっては、せん断耐力Tと、ボルト取付穴22が設けられていない領域(本実施形態ではボックス継手13側の領域)の支圧耐力TB1とが一致しない場合がある。このような場合には、両者が近づくように、L1およびL2の少なくとも一方を調整する。
【0050】
ここで、L1およびL2がいずれも25mmに設定され(すなわち、高さ50mmの回転抑止キー20が境界線Bに対して上下対称に配置され)、せん断耐力Tよりも支圧耐力TB1および支圧耐力TB2が大きくなっている場合を例に、調整の手法の幾つの例を説明する。但し、L1およびL2が他の寸法に設定された場合であっても以下の手法を適用可能であることは言うまでもない。
【0051】
一つの手法は、せん断耐力Tが上昇するようにL2を25mmよりも大きくし且つ支圧耐力TB1が低下するようにL1を25mmよりも小さくする。このように調整することにより、せん断耐力T、支圧耐力TB1および支圧耐力TB2のうち最小値であったせん断耐力Tが上昇するので、「min(T、TB1、TB2)」に応じて決まる回転抑止キー20の総合耐力Tも上昇することになる。
【0052】
この手法では、L1とL2との和が一定となるように、すなわち、L2を大きくする分だけ、L1を小さくするように調整してもよい。この場合、調整後の回転抑止キー20は、高さ寸法を維持したまま、ピン継手14側寄りの配置(境界線Bに対して上下非対称な配置)になる。これにより、回転抑止キー20の総合耐力Tが上昇するだけでなく、ボックス継手13における、回転抑止キー20を装着するための下向切欠部17と、荷重伝達キー15を装着するための内向き溝部131との間の薄肉部位の断面積が増大するので、ボックス継手13の断面欠損は生じにくくなる。なお、せん断耐力Tと支圧耐力TB1とが実質的に等しくなるようにL1およびL2を調整する(図4の例ではL1を17.5mmにしてL2を32.5mmにする)と、「min(T、TB1、TB2)」が最大値となるのでより好ましい。
【0053】
他の手法では、L2を変えることなくL1のみを25mmよりも小さくすることで、支圧耐力TB1をせん断耐力Tに対して近づかせる。この場合、調整後の回転抑止キー20は、高さ寸法が小さくなるものの、「min(T、TB1、TB2)」が低下しないので総合耐力Tが調整前と同一である。したがって、この手法によれば、総合耐力Tを低下させることなく、回転抑止キー20の高さ寸法を小さくして生産コストを削減することができる。更に、この手法の場合においても、前述したように下向切欠部17と、内向き溝部131との間の薄肉部位の断面積が増大するので、ボックス継手13の断面欠損は生じにくくなる。
【0054】
反対に、L1を変えることなくL2のみを25mmよりも大きくすることで、せん断耐力Tを支圧耐力TB1に対して近づかせるように調整してもよい。この場合、調整後の回転抑止キー20は、最小値であったせん断耐力Tが上昇するので、「min(T、TB1、TB2)」に応じて決まる回転抑止キー20の総合耐力Tも上昇することになる。
【0055】
そして、本発明に係る製造方法においては、回転抑止キー20、ボックス継手13およびピン継手14を製造するときに、調整されたL1およびL2の少なくとも一方を考慮する。
【0056】
なお、回転抑止キー20の所望の総合耐力Tは、例えば施工機械の最大回転トルクに従って決めることができる。
【0057】
〔別実施形態〕
(1)前述した実施形態では、ボルト取付穴22が回転抑止キー20のうちピン継手14側の領域に設けられている鋼管連結装置12を例に、回転抑止キー20の耐力の評価方法および鋼管連結装置12の製造方法について説明したが、本発明はこれに限られない。鋼管連結装置12においては、ボルト取付穴22を回転抑止キー20のうちボックス継手13側の領域に設けてもよい。この場合、回転抑止キー20を固定するためのボルト21は、例えばボックス継手13およびピン継手14の両方に連通して設けられたボルト取付穴(図示せず)に螺合される。
【0058】
本実施形態の鋼管連結装置12についても、前述した通りに回転抑止キー20の耐力の評価方法および鋼管連結装置12の製造方法を適用可能である。但し、上記式(2)を用いて算出したせん断耐力Tは、前述した実施形態においては支圧耐力TB2に対して正の相関関係を有するのに対し、本実施形態においては支圧耐力TB1に対して正の相関関係を有することになる。そして、回転抑止キー20のうちボルト取付穴22が設けられていない領域はピン継手14側の領域となるので、本実施形態においては、せん断耐力Tと、ピン継手14側の領域の支圧耐力TB2とが一致しない場合に、L1およびL2の少なくとも一方を調整することになる。
【0059】
(2)前述した実施形態では、ボルト取付穴がb1=b2となる位置に設けられた鋼管連結装置12を例に、回転抑止キー20の耐力の評価方法および鋼管連結装置12の製造方法について説明したが、本発明はこれに限られない。鋼管連結装置12においては、ボルト取付穴22をb1<b2またはb1>b2となる位置に設けてもよい。この場合、(b1+b2)の数値が前述した実施形態と異なることがあるため、上記式(2)を用いて算出したせん断耐力Tも前述した実施形態と異なることがあるが、せん断耐力Tに対する支圧耐力TB1および支圧耐力TB2の相関関係は図4に示すものと同一であるので、本実施形態の鋼管連結装置12についても、前述した通りに回転抑止キー20の耐力の評価方法および鋼管連結装置12の製造方法を適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 :鋼管杭
11、11A、11B :鋼管
12 :鋼管連結装置
13 :ボックス継手
131 :内向き溝部
14 :ピン継手
141 :外向き溝部
142 :ボルト穴
15 :荷重伝達キー
16 :セットボルト
17 :下向切欠部
18 :上向切欠部
19 :嵌合凹部
20 :回転抑止キー
201 :ボックス継手側縁部
202 :ピン継手側縁部
203 :支圧縁部
203A :第一の支圧部
203B :第二の支圧部
21 :ボルト
211 :軸部
212 :頭部
22 :ボルト取付穴
221 :貫通穴
222 :座ぐり
B :境界線
C :中心
V1 :第一の仮想線
V2 :第二の仮想線
V3 :第三の仮想線
V4 :第四の仮想線
X :軸心
図1
図2
図3
図4