IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マックス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-切断装置 図1
  • 特開-切断装置 図2
  • 特開-切断装置 図3
  • 特開-切断装置 図4
  • 特開-切断装置 図5
  • 特開-切断装置 図6
  • 特開-切断装置 図7
  • 特開-切断装置 図8
  • 特開-切断装置 図9
  • 特開-切断装置 図10
  • 特開-切断装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093736
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】切断装置
(51)【国際特許分類】
   B23D 29/00 20060101AFI20240702BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20240702BHJP
   B23D 33/00 20060101ALI20240702BHJP
   B26B 15/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B23D29/00 A
B23Q11/00 D
B23D33/00 A
B26B15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210296
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006301
【氏名又は名称】マックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】須藤 昂平
(72)【発明者】
【氏名】森村 隆志
【テーマコード(参考)】
3C011
3C039
3C051
3C065
【Fターム(参考)】
3C011AA14
3C039FA03
3C051FF03
3C065BA21
3C065EA02
3C065EA08
3C065EA11
3C065EA27
3C065EA28
3C065FA06
3C065FA07
(57)【要約】
【課題】適切な位置で切断刃を停止させることのできる電動式の切断装置、を提供する。
【解決手段】切断装置10は、被切断物を挟み込んで切断する一対の切断刃111と、切断刃111の動作に必要な駆動力を発生させる電動モーター400と、電動モーター400の動作を制御する制御部530と、切断刃111の動作速度を示す指標、である速度指標を取得する速度取得部510と、を備える。制御部530は、速度指標に基づいて、切断刃111の制動を実行する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動式の切断装置であって、
被切断物を挟み込んで切断する一対の切断刃と、
前記切断刃の動作に必要な駆動力を発生させる電動モーターと、
前記電動モーターの動作を制御する制御部と、
前記切断刃の動作速度を示す指標、である速度指標を取得する速度取得部と、を備え、
前記制御部は、
前記速度指標に基づいて、前記切断刃の制動を実行する、切断装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記速度指標に基づいて、前記切断刃の制動を開始するタイミングを決定する、請求項1に記載の切断装置。
【請求項3】
前記切断刃の現在位置を示す指標、である位置指標を取得する位置取得部、を更に備え、
前記制御部は、
前記切断刃の動作中において前記切断刃の制動が開始されてから、前記切断刃が停止するまでの間に前記切断刃が移動する距離を示す指標、である制動距離指標を、前記速度指標に基づいて算出し、
前記位置指標と前記制動距離指標とに基づいて、前記切断刃の制動を開始するタイミングを決定する、請求項2に記載の切断装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記位置指標に対応する前記切断刃の現在位置に、前記制動距離指標に対応する前記切断刃の移動距離を加算することにより算出される予測位置が、所定の目標位置となるようなタイミングとして、前記切断刃の制動を開始するタイミングを決定する、請求項3に記載の切断装置。
【請求項5】
前記目標位置は、一対の前記切断刃が閉じた状態となる位置である、請求項4に記載の切断装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記速度指標に基づいて、前記切断刃の制動に必要な制動力を決定する、請求項1に記載の切断装置。
【請求項7】
前記切断刃の現在位置を示す指標、である位置指標を取得する位置取得部、を更に備え、
前記制御部は、
前記切断刃の動作中において前記切断刃の制動が開始されてから、前記切断刃が停止するまでの間に前記切断刃が移動する距離を示す指標、である制動距離指標を、前記速度指標に基づいて算出し、
前記位置指標と前記制動距離指標とに基づいて、前記制動力を決定する、請求項6に記載の切断装置。
【請求項8】
前記制御部は、
所定の制動開始位置に、前記制動距離指標に対応する前記切断刃の移動距離を加算することにより算出される予測位置が、所定の目標位置となるように、前記切断刃の制動力を決定する、請求項7に記載の切断装置。
【請求項9】
前記目標位置は、一対の前記切断刃が互いに当接した閉じた状態となる位置である、請求項8に記載の切断装置。
【請求項10】
前記電動モーターの回転速度を検出する速度センサを更に備え、
前記速度取得部は、前記回転速度に基づいて前記速度指標を取得する、請求項2に記載の切断装置。
【請求項11】
前記電動モーターの回転速度を検出する速度センサを更に備え、
前記速度取得部は、前記回転速度に基づいて前記速度指標を取得する、請求項6に記載の切断装置。
【請求項12】
前記被切断物の切断が行われているときに、
前記切断刃の制動が開始された以降における前記切断刃の動作速度を示す指標、である制動速度指標が、所定の基準値よりも小さい場合には、
前記制御部は、前記切断刃の制動を中断して、切断のための動作を継続させる、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式の切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動式の切断装置としては、例えば下記特許文献1に記載されているような電動式剪定挟等が知られている。電動式の切断装置においては、使用者の把持力に替えて、電動モーターの駆動力によって切断刃を動作させ、一対の切断刃で挟み込むことによって被切断物を切断する。上記の電動式剪定挟は木の枝等を被切断物とするものであるが、例えば鉄筋等のような金属を被切断物とする切断装置も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-40594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動式の切断装置において切断刃を動作させるにあたっては、切断が完了した後に、切断刃を所定の目標位置で停止させることが好ましい。例えば、一対の切断刃がすれ違いながら動作する剪定挟ではなく、一対の切断刃が互いに対向して動作する(つまり、概ね同一の平面を通る軌道で一対の切断刃が動作する)ような切断装置においては、切断刃が停止するタイミングが遅れると、それぞれの切断刃が比較的大きな相対速度のまま衝突し、切断刃の一部が変形もしくは欠損してしまうような事態が生じ得る。
【0005】
しかしながら、切断中における切断刃の動作速度は常に一定ではなく、被切断物の材質や形状等によって変化する。このため、切断刃の動作制御を常に同じ条件で行ったとしても、切断刃は同じ位置で停止するとは限らない。切断刃同士の衝突を防止するために、切断刃を低速で動作させることも考えられるが、その場合、切断作業に時間がかかり過ぎてしまう等の問題が生じてしまう。電動式の切断装置において、切断刃の制動をどのような方法で実行すべきかについて、従来は具体的な検討がなされていなかった。
【0006】
本発明は、適切な位置で切断刃を停止させることのできる電動式の切断装置、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る切断装置は、電動式の切断装置であって、被切断物を挟み込んで切断する一対の切断刃と、切断刃の動作に必要な駆動力を発生させる電動モーターと、電動モーターの動作を制御する制御部と、切断刃の動作速度を示す指標、である速度指標を取得する速度取得部と、を備える。制御部は、速度指標に基づいて、切断刃の制動を実行する。
【0008】
制動の開始から終了までの期間において切断刃が移動する距離、すなわち制動距離は、制動開始前における切断刃の動作速度と相関がある。そこで、上記構成の切断装置では、切断刃の動作速度を示す指標、である速度指標に基づいて、切断刃の制動を実行することとしている。これにより、状況に応じて制動距離が変動するような場合であっても、適切な位置で切断刃を停止させることが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、適切な位置で切断刃を停止させることのできる電動式の切断装置、が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態に係る切断装置の構成を示す図である。
図2図2は、第1実施形態に係る切断装置が備えるガイドプレートの構成を示す図である。
図3図3は、第1実施形態に係る切断装置が備える制御基板の構成を示す図である。
図4図4は、第1実施形態に係る切断装置の、制動時の動作について説明するための図である。
図5図5は、第1実施形態の制御基板によって実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図6図6は、制動距離指標の算出方法について説明するための図である。
図7図7は、制動中における切断刃の動作について説明するための図である。
図8図8は、制御基板によって実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図9図9は、制動中に行われる処理について説明するための図である。
図10図10は、第2実施形態の制御基板によって実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図11図11は、制動中における切断刃の動作について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0012】
第1実施形態について説明する。本実施形態に係る切断装置10は、電動式の切断装置であって、建設現場等において鉄筋を切断するための装置として構成されている。図1を主に参照しながら、切断装置10の構成について説明する。切断装置10は、ハウジング11と、トリガスイッチ12と、切断機構100と、ボール螺子200と、減速機300と、電動モーター400と、制御基板500と、蓄電池600と、を備えている。
【0013】
ハウジング11は、切断装置10の外形を区画する容器であって、例えば樹脂により形成されている。ハウジング11の内部には、後述のボール螺子200や減速機300等が収容されている。図1においては、ハウジング11のうち紙面手前側の部分が除去されており、切断装置10の内部構成が断面図として示されている。
【0014】
トリガスイッチ12は、使用者の指によって操作されるスイッチである。使用者は、トリガスイッチ12に指をかけて手前側に引き込む操作を行うことにより、トリガスイッチ12をオン状態にすることができる。使用者が指の力を緩めると、トリガスイッチ12はばねの力によって元の位置に戻り、オフ状態となる。トリガスイッチ12がオン状態とオフ状態との間で切り替えられると、それに対応する信号が後述の制御基板500に送信される。後に説明するように、使用者の操作によってトリガスイッチ12がオン状態になると、鉄筋を切断するための動作が開始される。
【0015】
切断機構100は、被切断物である鉄筋を切断する部分である。切断機構100は、一対の刃部材110と、一対のリンク部材120と、を有している。
【0016】
それぞれの刃部材110には、被切断物を挟み込んで切断する切断刃111が形成されている。刃部材110は、ハウジング11に対し固定された軸101の回りにおいて、回動自在な状態で保持されている。本実施形態では、切断刃111の刃先の稜線が、概ね同一の平面を通る軌道で動作するように、それぞれの刃部材110が対向配置されている。これにより、それぞれの切断刃111が互いに離間した開状態と、それぞれの切断刃111が互いに当接(又は近接)した閉状態と、を切り換えることが可能となっている。図1の例では、一対の切断刃111が閉状態となっている。
【0017】
リンク部材120は棒状の部材であって、一端が軸102を介して刃部材110に接続されており、他端が軸231を介して後述の連結部材230に接続されている。リンク部材120及び刃部材110は、軸102の周りにおいて互いに回動自在な状態で接続されている。同様に、リンク部材120及び連結部材230は、軸231の周りにおいて互いに回動自在な状態で接続されている。後に説明するように、連結部材230は、電動モーター400の駆動力によって、図1の左右方向に移動する。
【0018】
図1の状態から、連結部材230が左方向に移動すると、図1の上側にある刃部材110は反時計回り方向に回転し、図1の下側にある刃部材110は時計回り方向に回転する。これにより、一対の切断刃111は閉状態から開状態になる。一方、一対の切断刃111が開状態となっているときに、連結部材230が図1の右方向に移動すると、図1の上側にある刃部材110は時計回り方向に回転し、図1の下側にある刃部材110は反時計回り方向に回転する。これにより、一対の切断刃111は閉状態に戻る。このように、一対の刃部材110、一対のリンク部材120、及び連結部材230の全体は、所謂「トグルリンク機構」を構成している。
【0019】
本実施形態では、刃部材110の近傍に一対のガイドプレート700が設けられている。ガイドプレート700は、金属により形成された板状の部材であって、図1における紙面手前側及び奥側の両方から刃部材110を挟み込むように配置されている。一対のガイドプレート700の形状は互いに同一である。図2に示されるように、それぞれのガイドプレート700には凹部710が形成されている。
【0020】
説明の便宜上、図1における右側のことを以下では「先端側」とも称し、同図における左側のことを以下では「後端側」とも称する。凹部710は、ガイドプレート700の先端側から後端側に向かって後退するように形成されている。図1図2のように切断装置10を側面側から見た場合においては、それぞれの凹部710は、閉じた状態における切断刃111を含む位置に形成されている。切断刃111が全開となっている待機状態においては、それぞれの切断刃111は凹部710の外側に退避した状態となり、図2の視点においては、ガイドプレート700によって刃部材110の全体が隠れた状態となる。ガイドプレート700は、待機状態の切断刃111を覆い保護する機能と、被切断物である鉄筋を、凹部710に沿って一対の切断刃111の間へと導く機能と、の両方を有している。ガイドプレート700は更に、凹部710において鉄筋を挟み込むことで、切断前後における切断装置10の姿勢を安定させる機能をも有している。
【0021】
ボール螺子200は、電動モーター400の回転運動を、連結部材230の直線運動に変換し、これにより切断機構100を動作させるための装置である。ボール螺子200は、螺子軸210と、ナット220と、連結部材230と、を有している。
【0022】
螺子軸210は、後端側から先端側に向かって直線状に伸びる棒状の部材である。螺子軸210の外周面には雄螺子が形成されている。電動モーター400が駆動されると、螺子軸210はその中心軸回りにおいて回転する。
【0023】
ナット220は、螺子軸210を外周側から囲むように配置された略円筒形状の部材である。ナット220の内周面には雌螺子が形成されており、螺子軸210の外周面に形成された雄螺子に対し螺合している。ナット220は、螺子軸210の長手方向に沿った移動は許容されている一方で、螺子軸210の中心軸回りにおける回転は規制されている。このため、螺子軸210がその中心軸回りにおいて回転すると、ナット220は、当該中心軸に沿って図1の左右方向に移動する。
【0024】
連結部材230は、ナット220に対し取り付けられた部材であって、ナット220と共に螺子軸210に沿って移動する部材である。連結部材230は、ナット220から先端側に向けて突出するように取り付けられている。連結部材230のうち先端側の端部近傍となる部分には、先に述べた軸231を介して一対のリンク部材120が接続されている。
【0025】
連結部材230の外周面には磁石241が取り付けられている。また、連結部材230の近傍となる位置には、ホールセンサ242がハウジング11に対して取り付けられている。ホールセンサ242が取り付けられている位置は、図1の状態からナット220が後端に移動して切断刃111が全開となったときに、連結部材230の磁石241と対向する位置となっている。切断刃111が全開になると、磁石241と対向することによってホールセンサ242から信号が発信され、当該信号が制御基板500に入力される。
【0026】
減速機300は、電動モーター400の出力軸410の回転を、減速した上でボール螺子200の螺子軸210に伝達する装置である。
【0027】
電動モーター400は、切断刃111の動作に必要な駆動力を発生させるための回転電機であって、例えばブラシレスDCモーターである。電動モーター400は出力軸410を有している。出力軸410は略円柱形状の部材であって、その中心軸は螺子軸210の中心軸と一致している。出力軸410の一部は減速機300に向けて突出しており、減速機300に接続されている。
【0028】
電動モーター400のコイルに電流が供給されると、出力軸410がその中心軸周りに回転する。出力軸410の回転は減速機300を介して螺子軸210に伝達され、ナット220を先端側もしくは後端側に向けて移動させる。これにより、先に述べたように切断機構100の切断刃111を開閉動作させる。
【0029】
電動モーター400の内部には、回転センサ420が設けられている。回転センサ420は、出力軸410が所定角度だけ回転する毎にパルス信号を発信するセンサであって、電動モーター400が有する基板430の上に設けられている。回転センサ420からのパルス信号は制御基板500に送信される。制御基板500は、パルス信号の数をカウントすることにより、特定のタイミング以降における出力軸410の回転角度を把握することができる。また、制御基板500は、単位時間あたりに入力されるパルス信号の数に基づいて、出力軸410の回転速度をも把握することができる。回転センサ420は、出力軸410の回転角度及び回転速度を測定できるものであれば、本実施形態とは異なる種類のセンサであってもよく、電動モーター400とは異なる位置に別途設けられたセンサであってもよい。回転センサ420は、本実施形態における「速度センサ」に該当する。
【0030】
制御基板500は、電動モーター400を含む切断装置10の全体の動作を制御するために設けられた回路基板である。制御基板500は、電動モーター400に供給される電流を調整するためのインバーター回路や、インバーター回路におけるスイッチング動作等を制御するためのマイコン等を含む。
【0031】
蓄電池600は、電動モーター400や制御基板500の動作に必要な電力を蓄えておくものであり、例えばリチウムイオンバッテリーである。切断装置10のうち蓄電池600が内蔵されている部分は、バッテリーパックとしてハウジング11から着脱することが可能となっており、外部の充電器に接続して充電を行うことができる。このような態様に換えて、蓄電池600がハウジング11に取り付けられている状態のまま、蓄電池600の充電を行うことが可能な構成としてもよい。
【0032】
制御基板500の構成について、図3を参照しながら説明する。マイコンを含む制御基板500は、その機能を表す要素として、速度取得部510と、位置取得部520と、制御部530と、を備えている。
【0033】
速度取得部510は、速度指標を取得する処理を行う部分である。「速度指標」とは、切断刃111が開閉動作する際の動作速度を示す指標のことである。本実施形態では、速度取得部510は、回転センサ420(速度センサ)で測定される電動モーター400の回転速度に基づいて速度指標を取得する。具体的には、回転センサ420から単位時間あたりに入力されるパルス信号の数が、速度指標として速度取得部510により算出され取得される。速度指標は、本実施形態のように切断刃111の動作速度を間接的に示すものであってもよいが、切断刃111の動作速度そのものの値であってもよい。例えば、一対の切断刃111の間の角度をθとしたときに、単位時間あたりにおけるθの変化量が速度指標として用いられてもよい。
【0034】
速度指標は、上記のように回転センサ420の測定値に基づいて取得されてもよいが、他の物理量に基づいて取得されてもよい。例えば、蓄電池600から電動モーター400に供給される電流の値に基づいて速度指標が取得されてもよく、蓄電池600の端子間電圧に基づいて速度指標が取得されてもよい。いずれの場合であっても、対象の物理量と、切断刃111の動作速度との対応関係を、予め実験等で求めておき、当該対応関係に基づいて速度指標の算出マップを作成しておけばよい。算出マップは、例えば、制御基板500に設けられた不図示の記憶装置(例えばROM)に記憶させておけばよい。上記の対応関係は、マップではなく数式として表現されるものであってもよい。
【0035】
位置取得部520は、位置指標を取得する処理を行う部分である。「位置指標」とは、切断刃111の現在位置を示す指標のことである。本実施形態では、磁石241とホールセンサ242が対向したときを基準とした、回転センサ420から入力されるパルス信号のカウント値が、位置指標として位置取得部520により算出され取得される。位置指標は、本実施形態のように切断刃111の現在位置を間接的に示すものであってもよいが、切断刃111の現在位置そのものの値であってもよい。例えば、一対の切断刃111の間の角度をθとしたときに、当該θの値が現在位置として用いられてもよい。
【0036】
位置指標の取得を可能とするために、切断装置10が起動された際等においてリセット動作を行うこととすればよい。リセット動作では、例えば、一対の切断刃111が閉状態から開状態になる方向に電動モーター400を駆動させ、ホールセンサ242からの検知信号が入力された時点で電動モーター400を停止させればよい。この時点からパルス信号のカウントを開始すれば、以降における切断刃111の位置指標を正確に取得することができる。
【0037】
制御部530は、電動モーター400の動作を制御する部分である。制御部530は、電動モーター400に供給される電流の大きさを例えばPWM制御により調整することで、切断刃111の開閉動作を制御する。また、制御部530は、電動モーター400が備える複数のコイルの一部を周期的に又は連続的に短絡させる、所謂「ショートブレーキ」を行うことで、切断刃111の制動動作をも制御する。
【0038】
制御基板500により実行される処理の概要について、図4を参照しながら説明する。鉄筋を切断する際には、一対の切断刃111が、全開位置から全閉位置に向かって変化して行く。最後は、制御部530が行う制動によって切断刃111が停止する。図4においては、左側の「全開位置」と右側の「全閉位置」との間において、切断刃111の現在位置が変化して行く途中の様子が模式的に描かれている。図4に示される矢印AR1は、現時点で制動を開始した場合において、制動完了までの期間において切断刃111が進むと予測される距離の大きさを表している。
【0039】
矢印AR1の先端に対応する位置は、制動が完了して切断刃が停止すると予測される位置を表している。当該位置のことを、以下では「予測位置」とも称する。図4(A)に示される時点で制動を開始した場合には、予測位置は全閉位置よりも手前側となる。切断刃111を停止させるべき目標位置を全閉位置に設定した場合には、切断刃111の現在位置が図4(A)よりも先まで進んだ図4(B)のタイミングで、制動を開始すればよい。
【0040】
ただし、矢印AR1の長さ、すなわち切断刃111の制動距離は、常に一定なのではなく、切断刃111の動作速度に応じて変化する。例えば、切断刃111が高速で動作している途中で制動が開始された際には、制動距離は長くなる。図4(C)の例では、制動距離が上記のように長くなった結果として、図4(A)と同じタイミングで制動が開始されたにも拘らず、目標位置である全閉位置において切断刃111が停止している。
【0041】
以上のことから、予測位置の算出を繰り返し行いながら、予測位置が目標位置に一致するタイミングで制動を開始すれば、切断刃111を目標位置で停止させることが可能となることがわかる。そこで、本実施形態に係る制御基板500は、切断刃111に切断動作を行わせることと並行して、矢印AR1の長さ(後述の制動距離指標)を繰り返し算出しながら、目標位置で切断刃111を停止させるための適切な制動開始タイミングを計ることとしている。
【0042】
制御基板500により実行される処理の具体的な流れについて、図5を参照しながら説明する。図5に示される一連の処理は、使用者によってトリガスイッチ12がオン状態とされたタイミングで、実行開始されるものである。
【0043】
当該処理の最初のステップS01では、切断刃111の切断動作が開始される。これ以降、一対の切断刃111は互いに近接する方向に移動して行く。切断刃111が移動し始めた直後には、それぞれの切断刃111は不図示の鉄筋に当接し、更に移動することによって鉄筋を塑性変形させて行く。
【0044】
ステップS01に続くステップS02では、速度指標を取得する処理が速度取得部510によって行われる。ステップS02に続くステップS03では、制動距離指標を算出する処理が制御部530によって行われる。「制動距離指標」とは、切断刃111の動作中において切断刃111の制動が開始されてから、切断刃111が停止するまでの間に切断刃111が移動すると予測される距離、を示す指標のことである。本実施形態では、制動が開始されてから切断刃111が停止するまでの間に、回転センサ420から入力されると予測されるパルス信号の数(カウント値)が、制動距離指標として用いられる。制動距離指標は、本実施形態のように切断刃111の制動距離を間接的に示すものであってもよいが、制動距離そのものの値であってもよい。例えば、一対の切断刃111の間の角度をθとしたときに、制動の開始から終了までの期間におけるθの変化量の予測値が、制動距離指標として用いられてもよい。
【0045】
先に述べたように、切断刃111の制動距離は、切断刃111の動作速度に応じて変化する。このため、速度指標と制動距離指標との間には一定の相関がある。そこで、制御部530は、速度指標に基づいて制動距離指標を算出することとしている。
【0046】
図6には、速度指標と制動距離指標との対応関係の一例が示されている。それぞれのプロットは実測値を表している。図6に示されるように、速度指標が大きいほど(つまり、切断動作中における切断刃111の動作速度が大きいほど)、算出される制動距離指標も大きくなる傾向がある。図6の例では、速度指標がVD1未満の領域では、速度指標と制動距離指標との相関関係は直線L1で近似される。同様に、速度指標がVD1以上であり且つVD2未満の領域では、速度指標と制動距離指標との相関関係は直線L2で近似され、速度指標がVD2以上の領域では、速度指標と制動距離指標との相関関係は直線L3で近似される。それぞれの近似直線は、例えば最小二乗法を用いて算出することができる。
【0047】
このような、速度指標と制動距離指標との対応関係は、予め実験等によって測定及び算出された後、制御基板500に設けられた不図示の記憶装置(例えばROM)にマップとして記憶されている。制御部530は、このように予め記憶された対応関係と、図5のステップS02で取得された速度指標とに基づいて、ステップS03において制動距離指標を算出する。
【0048】
ステップS03に続くステップS04では、位置指標を取得する処理が位置取得部520によって行われる。ステップS04に続くステップS05では、予測位置を算出する処理が、例えば制御部530によって行われる。この予測位置は、図4における矢印AR1の先端の位置のことであり、位置指標に対応する切断刃111の現在位置に、制動距離指標に対応する切断刃111の移動距離を加算して得られる位置のことである。尚、ステップS05では、このような予測位置が、位置指標と同種の指標に変換された値として算出される。具体的には、位置指標に対し制動距離指標を単に加算して得られる値が、そのまま予測位置として算出される。
【0049】
上記における「加算」とは、位置指標に対応する切断刃111の現在位置を、切断刃111の進行方向側に向けて、制動距離指標に対応する切断刃111の移動距離だけ変化させることを意味する。
【0050】
ステップS05に続くステップS06では、ステップS05で算出された予測位置が、予め設定された目標位置以上であるか否か、が判定される。この目標位置は、切断動作の終了時点において到達すべき切断刃111の位置を、位置指標と同種の指標として表現したものである。目標位置は、例えば、一対の切断刃111同士が閉じた状態となる位置に設定される。「閉じた状態となる位置」とは、例えば、一対の切断刃111が互いに当接した状態となる位置、すなわち全閉となる位置のことである。全閉の直前となるような切断刃111の位置が目標位置として設定されてもよい。尚、上記において予測位置が「目標位置以上である」というのは、予測位置が目標位置に一致しているか、目標位置よりも更に全閉側の位置として算出されたことを意味する。
【0051】
予測位置が目標位置未満である場合には、現時点で制動を開始すると、図4(A)の例のように切断刃111は目標位置よりも手前側で停止してしまう。このため、この場合には切断刃111の動作を継続しながら、ステップS02以降の処理が再度実行される。
【0052】
予測位置が目標位置以上であると判定された場合には、制動を開始するための適切なタイミングになったということである。従って、この場合にはステップS07に移行し、制御部530によって切断刃111の制動が開始される。それ以降は、切断刃111の動作速度は次第に小さくなる。多くの場合、切断刃111が目標位置に到達するよりも前のタイミングで鉄筋が破断する。
【0053】
図7には、速度指標の変化の例が示されている。図7の線L11は、速度指標が比較的大きい状態から制動が開始された場合の例である。「PD11」は、制動が開始されたタイミング、すなわち、図5のステップS06においてYesと判定されたタイミングにおける切断刃111の位置を表している。PD11のタイミング以降、制動によって速度指標は次第に小さくなり、目標位置である全閉位置に到達した時点で切断刃111が停止している。
【0054】
線L12は、速度指標が線L11よりも小さい状態から制動が開始された場合の例である。「PD12」は、この例で制動が開始されたタイミングにおける切断刃111の位置である。線L12の例では、線L11の例よりも小さな値として制動距離指標が算出されるので、制動開始のタイミングが僅かに遅くなっている。ただし、PD12のタイミング以降は、線L12と同様に速度指標は次第に小さくなり、やはり全閉位置に到達した時点で切断刃111は停止している。線L13、線L14も上記と同様であり、制動前の速度指標が小さくなる程、制動開始のタイミング(PD13、PD14)は遅くなるが、切断刃111は目標位置で停止している。これは、いずれの場合においても、速度指標に基づいて制動距離指標が算出され、その結果として、制動開始のタイミングが適切に設定されたためである。
【0055】
以上のように、本実施形態の制御部530は、位置指標と制動距離指標とに基づいて、切断刃111の制動を開始するタイミングを決定するように構成されている。具体的には、制御部530は、位置指標に対応する切断刃111の現在位置に、制動距離指標に対応する切断刃111の移動距離を加算することにより算出される予測位置が、所定の目標位置となるようなタイミングとして、切断刃111の制動を開始するタイミングを決定する。これにより、例えば鉄筋の材料や形状等に応じて制動距離が変動した場合であっても、それに対応したタイミングで制動を開始し、常に適切な位置で切断刃を停止させることが可能となっている。常に適切な位置で切断刃を停止させることができるので、切断刃が衝突するリスクを低減させることができる。それにより、高速で駆動させることが可能になるので、切断作業時間を短縮できる。
【0056】
尚、適切な位置で切断刃111を停止させるための制御としては、本実施形態のように制動の開始タイミングを調整する制御を行うことの他、制動の強さを調整する制御を行うことも考えられる。しかしながら、後者の制御において、強い制動力が必要となる場合には、電動モーター400を流れる制動用の電流を大きくする必要があるので、電動モーター400では大きな熱が生じることとなる。建設現場等においては切断装置10を連続的に動作させることが多い。このため、上記のように制動の強さを調整する制御が行われた場合には、電動モーター400の温度が上昇し過ぎてしまう可能性がある。特に、切断装置10には切断速度の速さが求められるので、連続使用に伴う電動モーター400の過昇温は好ましくない。これに対し、本実施形態に係る切断装置10では、制動の強さではなく制動の開始タイミングを調整するので、電動モーター400の発熱を押さえながら、適切な位置で切断刃を停止させることができる。
【0057】
ところで、鉄筋の形状等によっては、鉄筋が破断する前に切断刃111が受ける抵抗が大きくなり、切断刃111の動作速度が低下し過ぎてしまうことがある。このような状態になると、鉄筋が破断するまでに時間がかかり過ぎてしまうか、破断前において切断刃111が停止してしまうようなことも生じ得る。
【0058】
そこで、本実施形態の制御基板500は、図8に示される処理を実行することで、そのような事態の発生を防止している。図8に示されるフローチャートは、図5のステップS07に移行して制動が開始された以降、制御基板500によって実行される処理の流れを表している。
【0059】
最初のステップS11では、図5のステップS04と同様に、位置指標を取得する処理が位置取得部520によって行われる。ステップS11に続くステップS12では、ステップS07で制動が開始されたタイミングから現時点までの間に、予め設定された所定期間が経過したか否かが判定される。未だ所定期間が経過していない場合には、ステップS12の処理が再度実行され待機される。所定時間が経過していればステップS13に移行する。
【0060】
ステップS13では、位置指標を取得する処理が、再び位置取得部520によって行われる。ステップS13に続くステップS14では、制動速度指標を算出する処理が、例えば制御部530によって行われる。「制動速度指標」とは、鉄筋の切断が行われているときの、切断刃111の制動が開始された以降における切断刃111の動作速度を示す指標、のことである。本実施形態では、上記の「所定期間」が経過する前後における位置指標の変化量が、制動速度指標として算出される。つまり、ステップS11で取得された位置指標から、ステップS13で取得された位置指標を差し引いて得られる値が、制動速度指標として算出される。
【0061】
制動速度指標は、切断刃111の制動が開始された以降における切断刃111の動作速度を示すものであれば、上記とは異なる値として算出されてもよい。例えば、制動が開始されてから、電動モーター400の回転速度が低下し所定値となるまでに要した期間の長さの逆数を、制動速度指標として用いてもよい。
【0062】
ステップS14に続くステップS15では、上記のように算出された制動速度指標が、所定の基準値以上であるか否かが判定される。制動速度指標が基準値以上である場合には、切断のための動作が正常に行われているものと判定され、図8に示される処理を終了する。制動速度指標が基準値未満であった場合にはステップS16に移行する。
【0063】
ステップS16に移行したということは、切断刃111の動作速度が何らかの原因で低下し過ぎているということである。そこで、ステップS16では、制御部530は制動のための処理を中断する。具体的には、先に述べたショートブレーキの処理を中断する。
【0064】
ステップS16に続くステップS17では、制御部530は、電動モーター400を再駆動する。以降は、制動が行われていない通常の状態のまま、切断刃111が目標位置に向かう方向に電動モーター400を動作させる。電動モーター400の駆動力で切断刃111を再び動作させることで、鉄筋を直ちに切断することができる。
【0065】
図9には、切断動作中における位置指標の時間変化の例が示されている。図9(A)の例において、制動が開始される時刻t1までの期間においては、切断刃111は、全開位置から全閉位置に向かって概ね一定の速度で移動している。時刻t1において制動が開始された以降は、制動によって速度を低下させながら、切断刃111は引き続き全閉位置に向かって移動する。尚、図9(A)においては、時刻t1以降における位置指標の変化が直線状となるように簡易的に描かれているが、実際の変化はこれとは異なるものとなる。後述の図9(B)についても同様である。
【0066】
図9(A)に示される時刻t2は、時刻t1から所定期間が経過した時刻である。図9(A)の「PDS」は、図8のステップS15の判定に用いられる「基準値」である。図9(A)の例では、時刻t1から時刻t2までの所定期間における位置指標の変化量PD(つまり制動速度指標)が、基準値PDSよりも大きくなっている。従って、この場合には図8のステップS15でYesと判定され、制動が継続される。
【0067】
これに対し、図9(B)に示される例では、時刻t1から時刻t2までの所定期間における位置指標の変化量PDが、基準値PDSよりも小さくなっている。従って、この場合には図8のステップS15でNoと判定され、制動が中断される。
【0068】
このように、被切断物である鉄筋の切断が行われているときに、切断刃111の制動が開始された以降における切断刃111の動作速度を示す指標、である制動速度指標が、所定の基準値PDSよりも小さい場合には、制御部530は、切断刃111の制動を中断して、切断のための動作を継続させるように構成されている。これにより、何らかの原因で制動中に鉄筋が破断されにくい状態になったとしても、当該状態を迅速に解消することができる。
【0069】
第2実施形態について説明する。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。本実施形態では、制御基板500により実行される処理の内容において第1実施形態と異なっている。図10に示される一連の処理は、図5に示される一連の処理に替えて、本実施形態の制御基板500によって実行されるものである。
【0070】
最初のステップS21では、図5のステップS01と同様に、切断刃111の切断動作が開始される。これ以降、一対の切断刃111は互いに近接する方向に移動して行く。
【0071】
ステップS21に続くステップS22では、図5のステップS04と同様に、位置指標を取得する処理が位置取得部520によって行われる。ステップS22に続くステップS23では、ステップS22で取得された位置指標が、所定の制動開始位置に対応した値になっているか否かが判定される。「制動開始位置」とは、制動を開始すべき切断刃111の位置として予め設定された位置である。本実施形態では、制動開始位置は、切断刃111の速度によって変動しない固定の位置として設定されている。切断刃111の現在位置が未だ制動開始位置に到達していない場合には、切断刃111の動作を継続させながら、ステップS22以降の処理が再度実行される。切断刃111の現在位置が制動開始位置に到達すると、ステップS23からステップS24に移行する。ステップS24では、図5のステップS02と同様に、速度指標を取得する処理が速度取得部510によって行われる。
【0072】
ステップS24に続くステップS25では、制動力を仮決定する処理が制御部530によって行われる。本実施形態では、制動力を示すパラメータとして、ショートブレーキのデューティの値、具体的には、電動モーター400が備えるコイルの一部を短絡する期間の割合を示す値が用いられる。ステップS25で仮決定される制動力は、常に同じ固定値であってもよいが、ステップS24で取得された速度指標の値に応じて都度設定されてもよい。
【0073】
ステップS25に続くステップS26では、図5のステップS03と同様に、制動距離指標を算出する処理が制御部530によって行われる。ステップS25で仮決定される制動力が、速度指標の値等に応じて都度設定される場合には、ステップS26における制動距離指標の算出方法を、制動力の設定値に応じて適宜変更すればよい。
【0074】
ステップS26に続くステップS27では、図5のステップS05と同様に、予測位置を算出する処理が制御部530によって行われる。本実施形態では、固定値である制動開始位置に対応する位置指標に、制動距離指標を加算して得られる値が、そのまま予測位置として算出される。このように算出される予測位置は、切断刃111の動作速度に応じて異なる位置となる。
【0075】
ステップS27に続くステップS28では、ステップS27で算出された予測位置が、予め設定された目標位置に一致しているか否かが判定される。本実施形態では、一対の切断刃111が互いに当接した状態となる位置、すなわち全閉となる位置に対応した位置指標の値が、目標位置として設定されている。予測位置と目標位置との差の絶対値が、予め設定された閾値を下回る程度に小さくなっている場合には、予測位置が目標位置に一致していると判定される。
【0076】
予測位置が目標位置に一致している場合には、ステップS29に移行する。ステップS29では、ステップS25で仮決定された制動力の値が、最終的な制動力として決定される。ステップS29に続くステップS31では、制御部530によって切断刃111の制動が開始される。制御部530は、ステップS29で決定された制動力が生じるようにショートブレーキの処理を行う。それ以降は、切断刃111の動作速度は次第に小さくなる。多くの場合、切断刃111が目標位置に到達するよりも前のタイミングで鉄筋が破断する。
【0077】
ステップS28において、予測位置が目標位置に一致していなかった場合には、ステップS30に移行する。ステップS30では、仮決定の値である制動力を調整する処理が行われる。例えば、予測位置が目標位置よりも先である場合(つまり、切断刃111が閉じる方向に行き過ぎるような場合)には、それまでよりも強くなるように制動力が調整される。逆に、予測位置が目標位置よりも手前である場合(つまり、切断刃111が閉じ切らないうちに停止するような場合)には、それまでよりも弱くなるように制動力が調整される。ステップS30では、制動が完了した時点における切断刃111の位置が目標位置に一致するように、制動力が調整される。予測位置と目標位置との差分と、制動力の調整量との対応関係は、予め測定され、例えばマップとして記憶されていることが好ましい。
【0078】
ステップS30の処理が行われた後は、ステップS29以降の処理が実行され、切断刃111の制動が行われる。本実施形態では、必要に応じてステップS30で制動力が調整されるので、切断刃111は常に目標位置で停止することとなる。
【0079】
図11には、制動が行われるときにおける、位置指標(横軸)と速度指標(縦軸)との関係の例が示されている。線L21は、速度指標が比較的大きい状態から制動が開始された場合の例である。線L22は、速度指標が線L21よりも小さい状態から制動が開始された場合の例である。線L23は、速度指標が線L22よりも更に小さい状態から制動が開始された場合の例である。
【0080】
いずれの例においても、切断刃111の現在位置が制動開始位置となった時点で制動が開始される。ただし、制動力は速度指標に応じて上記のように調整される。制動開始直前の速度指標が小さくなる程、制動力は小さな値に設定されるので、図11のグラフにおける傾きは小さくなる。制動力が調整された結果、いずれの例においても、位置指標が目標位置(この例では全閉位置)に対応する値となった時点で切断刃111が停止している。
【0081】
このように、本実施形態に係る制御部530は、速度指標に基づいて、切断刃111の制動に必要な制動力を決定する。具体的には、所定の制動開始位置に、制動距離指標に対応する切断刃111の移動距離を加算することにより算出される予測位置が、所定の目標位置となるように、切断刃111の制動力を決定する。これにより、切断刃111の動作速度によることなく、切断刃111を目標位置で停止させることが可能となる。
【0082】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0083】
10:切断装置
111:切断刃
400:電動モーター
420:回転センサ
510:速度取得部
520:位置取得部
530:制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11