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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093761
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】防振構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 31/08 20060101AFI20240702BHJP
   E02D 5/28 20060101ALI20240702BHJP
   E02D 5/30 20060101ALI20240702BHJP
   E02D 27/12 20060101ALI20240702BHJP
   E02D 27/34 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
E02D31/08
E02D5/28
E02D5/30
E02D27/12 Z
E02D27/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210327
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】村山 広樹
【テーマコード(参考)】
2D041
2D046
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA25
2D041DB02
2D041DB03
2D046CA01
2D046DA01
2D046DA11
(57)【要約】
【課題】コストを上昇させることなく、コンクリート床版の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる防振構造を提供する。
【解決手段】防振構造10は、周囲の表層地盤52と縁切して配置されたコンクリート床版14と、平面視にて同心円状に複数配置されて支持地盤54まで打ち込まれると共に、表層地盤52と非接触状態でコンクリート床版14を支持する杭16と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲の構造躯体と縁切して配置されたコンクリート床版と、
平面視にて同心円状又は円形状に複数配置されて支持地盤まで打ち込まれると共に、表層地盤と非接触状態で前記コンクリート床版を支持する支持部材と、
を有する防振構造。
【請求項2】
周囲の構造躯体と縁切して配置されたコンクリート床版と、
平面視にて同心円状に複数配置され支持地盤に支持されて、表層地盤と非接触状態で前記コンクリート床版を支持する円筒形の地下連続壁と、
を有する防振構造。
【請求項3】
支持部材が描く同心円の円の数をk、低減したい波動の振動数をf[Hz]、最内側の円の半径すなわち隣接する円同士の距離をr[m]、地盤の波動伝搬速度をV[m/s]、ベッセル関数をJとしたとき、
【数1】

数1に示す数式を満たすように、半径rが設定されている、請求項1又は請求項2に記載の防振構造。
【請求項4】
前記コンクリート床版が、互いに縁切りして複数に配置され、
鉛直方向の加振に対応して、それぞれ前記コンクリート床版の中心振動数fが異なる値に設定されている、請求項1又は請求項2に記載の防振構造。
【請求項5】
前記支持部材は、同心円状に所定のピッチで構築されたコンクリート杭であり、
前記同心円状の各円に配置される前記支持部材の数は、前記各円の半径に比例する、請求項1に記載の防振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周囲に伝播する振動を低減させるための防振構造が提案されている。
【0003】
下記特許文献1に記載の防振構造は、上側地盤の下方に下側地盤がある地盤に埋設され下側地盤に支持されて地盤の上方へ延びる複数の抗体と、地盤の上方に隙間を空けて配置されると共に複数の抗体に支持された基礎部と、抗体と上側地盤との摩擦を低減させる摩擦低減材と、を備えている。摩擦低減材は、例えば、杭体における上側地盤に埋設されている部分の周囲に塗布されたアスファルトである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-101067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の防振構造では、抗体と上側地盤との摩擦を低減させる摩擦低減材を設けることが必須であるため、施工に手間がかかり、コストが上昇する。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、コストを上昇させることなく、コンクリート床版の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる防振構造を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に記載の防振構造は、周囲の構造躯体と縁切して配置されたコンクリート床版と、平面視にて同心円状又は円形状に複数配置されて支持地盤まで打ち込まれると共に、表層地盤と非接触状態で前記コンクリート床版を支持する支持部材と、を有する。
【0008】
第1態様に記載の防振構造によれば、同心円状又は円形状に複数配置された支持部材は、コンクリート床版をタテノリ加振させたとき(鉛直方向に加振させたとき)、地盤を加振させる複数の加振点となる。各支持部材は所定の距離離れているので、各支持部材で発生した波動に位相差を生じる。このように波動に位相差を生じさせることで、コンクリート床版から外側へ伝播する波動が互いに干渉して振動を打ち消し合い、コンクリート床版の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。
【0009】
第2態様に記載の防振構造は、周囲の構造躯体と縁切して配置されたコンクリート床版と、平面視にて同心円状に複数配置され支持地盤に支持されて、表層地盤と非接触状態で前記コンクリート床版を支持する円筒形の地下連続壁と、を有する。
【0010】
第2態様に記載の防振構造によれば、同心円状に複数配置された円筒形の地下連続壁は、コンクリート床版をタテノリ加振させたとき(鉛直方向に加振)、地盤を加振させる複数の加振点となる。各地下連続壁は所定の距離離れているので、各地下連続壁で発生した波動に位相差を生じる。このように波動に位相差を生じさせることで、コンクリート床版から外側へ伝播する波動が互いに干渉して振動を打ち消し合い、コンクリート床版の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。
【0011】
第3態様に記載の防振構造は、第1態様又は第2態様に記載の防振構造において、支持部材が描く同心円の円の数をk、低減したい波動の振動数をf[Hz]、最内側の円の半径すなわち隣接する円同士の距離をr[m]、地盤の波動伝搬速度をV[m/s]、ベッセル関数をJとしたとき、
【数1】

数1に示す数式を満たすように、半径rが設定されている。
【0012】
第3態様に記載の防振構造によれば、支持部材で表層地盤と非接触状態で支持されたコンクリート床版が、鉛直方向に加振された場合に、支持部材が描く同心円の円の数、隣接する円同士の距離、地盤の波動伝搬速度により決まる振動数fにおいて、コンクリート床版の外側の地盤での振動低減効果を得ることができる。
【0013】
第4態様に記載の防振構造は、第1態様又は第2態様に記載の防振構造において、前記コンクリート床版が、互いに縁切りして複数に配置され、鉛直方向の加振に対応して、それぞれ前記コンクリート床版の中心振動数fが異なる値に設定されている。
【0014】
第4態様に記載の防振構造によれば、複数のコンクリート床版の中心振動数fを変えることで、音楽によって変化する鉛直方向の加振(観客のタテノリ加振)の振動低減効果を得ることができる。
【0015】
第5態様に記載の防振構造は、第1態様に記載の防振構造において、前記支持部材は、同心円状に所定のピッチで構築されたコンクリート杭であり、前記同心円状の各円に配置される前記支持部材の数は、前記各円の半径に比例する。
【0016】
第5態様に記載の防振構造によれば、支持部材によりコンクリート床版を均等に支持することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示の防振構造によれば、コストを上昇させることなく、コンクリート床版の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(A)は、第1実施形態の防振構造で示す平面図であり、(B)は、第1実施形態の防振構造を示す立面図である。
図2】(A)は、2つの加振点を同時に加振したときの応答を示す構成図であり、(B)は、2つの加振点を同時に加振したときの応答における振動低減を示す構成図である。
図3】1つの円の円周上に杭を配置した第1例における振動数と加速度応答との関係を示すグラフである。
図4】4つの円の円周上に杭を配置した第2例における振動数と加速度応答との関係を示すグラフである。
図5】第2実施形態の防振構造を示す平面図である。
図6】第2実施形態の防振構造において、各コンクリート床版に別々にタテノリ加振を与えたときの振動数と加速度応答(地表面アクセレランス)との関係を示す図である。
図7】第2実施形態の防振構造において、各コンクリート床版に同時にタテノリ加振を与えたときの振動数と加速度応答(地表面アクセレランス)との関係を示す図である。
図8】第3実施形態の防振構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。各図面において、本発明と関連性の低いものは図示を省略している。
【0020】
〔第1実施形態〕
図1図4にしたがって、第1実施形態に係る防振構造について説明する。
【0021】
(防振構造の全体構成)
図1(A)、(B)には、第1実施形態に係る防振構造10が適用された構造物12の一例が示されている。図1(B)に示すように、構造物12が構築される地盤50は、地表面52A側の表層地盤52と、表層地盤52の下側に存在する支持地盤54とを備えている。本実施形態では、表層地盤52の深さ(すなわち、表層地盤52の厚さ)Hは、特に制限されない。
【0022】
図1(A)、(B)に示すように、構造物12は、周囲の表層地盤52と縁切して配置されたコンクリート床版14と、表層地盤52と非接触状態でコンクリート床版14を支持する複数の杭16と、を備えている。杭16は、支持部材の一例である。
【0023】
コンクリート床版14は、略剛体であり、例えば、鉄筋コンクリートで構築されている。一例として、コンクリート床版14は、平面視にて矩形状(例えば、正方形状)である。防振構造10において、コンクリート床版14は、鉛直方向に加振される(すなわち、タテノリ加振が与えられる)加振床である。
【0024】
図示を省略するが、コンクリート床版14の上側には、例えば、コンクリート床版14を囲むように、コンサート会場などの構造躯体が構築されている。コンクリート床版14は、これらの構造躯体と縁切して配置されている。
【0025】
杭16は、平面視にて同心円状に複数配置されており、複数の杭16の杭頭部16Aによって、コンクリート床版14が支持されている。複数の杭16の下端部は、支持地盤54まで打ち込まれている。複数の杭16の軸方向上端側の杭頭部16A付近よりも軸方向下側の部分は、表層地盤52に接触している。杭16は、十分な軸剛性を有しており、例えば、コンクリート杭である。
【0026】
本実施形態では、杭16が描く同心円の円の数は4つである。平面視にて、杭16は、中心から外側に向かって配置された同心円の4つの円17A、17B、17C、17Dの円周上に複数配置されている。防振構造10では、同心円の4つの円17A、17B、17C,17Dの円周上に複数の杭16が所定のピッチ(間隔)で構築されている。
【0027】
複数の杭16が描く円17B、17C,17Dは、各杭16の杭芯を通る円である。本実施形態では、最内側の円17Aの半径をrとしたとき、円の外側に向かって順番に配置された円17B、17C,17Dの半径は、それぞれ2r、3r、4rである。
【0028】
一例として、最内側の円17A上に配置される杭16の数は、8本であり、8本の杭16は円周方向にほぼ等間隔で配置されている。円17Aの外側に向かって順番に配置された円17B、17C,17D上に配置される杭16の数は、最内側の円17Aの半径rに比例している。具体的には、円17Aのすぐ外側の円17B上に配置される杭16の数は、16本であり、それぞれの杭16は円周方向にほぼ等間隔で配置されている。また、円17Bのすぐ外側の円17C上に配置される杭16の数は、24本であり、それぞれの杭16は円周方向にほぼ等間隔で配置されている。円17Cのすぐ外側の円17D上に配置される杭16の数は、32本であり、それぞれの杭16は円周方向にほぼ等間隔で配置されている。
【0029】
コンクリート床版14の外形の縁部は、最も外側の円17D上に配置された複数の杭16の外側を囲むように配置されている。すなわち、杭16の杭頭部16Aは、矩形状のコンクリート床版14の下面に接合されている。杭16の杭頭部16Aとコンクリート床版14は、剛結合とされており、例えば、鉄筋で連結されている。
【0030】
コンクリート床版14は、上記のように周囲の構造躯体と縁切して配置されている。本実施形態では、コンクリート床版14が複数の杭16によって支持された状態で、コンクリート床版14の下面と表層地盤52との間に空間Sが形成されている(図1(B)参照)。さらに、コンクリート床版14の外面である縁14Aと表層地盤52との間に隙間S1が形成されている。
【0031】
防振構造10では、同心円状に配置された複数の杭16は、コンクリート床版14をタテノリ加振させたとき(鉛直方向に加振させたとき)、地盤50を加振させる複数の加振点となる。本実施形態の防振構造10において、狙った振動数(すなわち、振動を低減させたい振動数)に対して、同心円の4つの円17A、17B、17C,17Dの半径を設定する方法については後に説明する。
【0032】
(複数の加振点の重ね合わせの原理)
次に、複数の加振点を加振したときの重ね合わせの原理について説明する。
【0033】
本実施形態の防振構造10は、地盤50を伝搬する波動の干渉を利用して、狙った振動数を低減するものである。ここでは、防振構造10による作用及び効果の説明に先立ち、基本的な内容として、複数の加振点を加振したときの重ね合わせの原理について説明する。
【0034】
線形領域において,地盤50を複数の加振点を加振した際の遠方での応答は、それぞれの加振点を加振した時の応答を、位相を考慮して重ね合わせて表すことができる。図2(A)、(B)は、地盤50を複数の加振点で加振した際の遠方での応答を説明する図である。例えば、図2(A)に示すように、加振点100Aと加振点100Bを同時に加振したときに、加振点100Bの側において加振点100A及び加振点100Bから離れた点100Cでの応答を考える。
【0035】
この場合、図2(B)に示すように、加振点100Aを加振したときの点100Cの応答と、加振点100Bを加振したときの点100Cの応答をそれぞれ求め、重ね合わせることにより点100Cでの応答を求めることができる。このとき、図2(B)に示すように、加振点100Aから発生した波動が加振点100Bに進む間に、例えば位相がπずれることを考える。すると加振点100Bにおいては、加振点100Aから発生した波動と、加振点100Bで発生した波動が逆位相となり打ち消し合うことで、振動を低減することが可能である。なお、防振構造10では、コンクリート床版14を支持する複数の杭16が加振点100A、100Bに相当する。
【0036】
(円形配置の設計式)
次に、同心円状又は円形状に加振点を複数配置する配置方法(すなわち、設計式)について説明する。
【0037】
本実施形態では、全方位に同一の振動数での低減を狙う。半径r、2r、・・・nr[m]というように、r[m]の間隔でn個の円の円周上に杭16などの加振点を配置する場合を考える。また、各円の加振点の数は各円の半径(円周)に比例しているものとする。
【0038】
杭16などの加振点が描く同心円の円の数をk、低減したい波動の振動数をf[Hz]、最内側の円の半径すなわち隣接する円同士の距離をr[m]、地盤50の波動伝搬速度をV[m/s]、ベッセル関数をJとしたとき、数1に示す式を満たす振動数f[Hz]で振動低減する。
【数1】
【0039】
本実施形態の防振構造10では、数1に示す式を満たすような加振点の配置を設計する。波動伝搬速度Vは、地盤50から決まり、振動数fは、例えば多人数加振なら2~3Hzなどが考えられる。その上で、数1に示す式は、半径rと同心円の円の数kをどう決めるかという式になる。例えば、k=1(1つの円)であれば、rについての数1の方程式を解くことで半径rが求まる。同様にk=2のときも、3のときも、rについての数1の方程式を解くことで半径rが求まる。このように、同心円の円の数を指定すれば、最小半径rが求まる。
【0040】
なお、ベッセル関数Jは、特殊関数と呼ばれている関数の一つであり、だんだんと小さくなっていく三角関数のような形状を取る。本例で使用するものは、ベッセル関数の中でも「0次の第1種ベッセル関数」と呼ばれるものである。
【0041】
ここで、波動伝搬速度Vは、地盤50の場所によって決まる値である。例えば、PS検層結果により波動伝搬速度Vを求めることができる。その他、ボーリングデータのN値からの推測や、現地で振動測定により波動伝搬速度Vを算出する。
【0042】
防振構造10では、杭16が描く同心円の円17A、17B、17C、17Dの数は、4つである(図1(A)参照)。n=1~4における数2に示す式の解xを示す。
【数2】
【0043】
n=1の時は、x=2.4/5.5/8.7・・・である。
n=2の時は、x=1.5/2.9/3.9・・・である。
n=3の時は、x=1.1/2.1/2.8・・・である。
n=4の時は、x=0.8/1.6/2.2・・・である。
例えば、「n=3の時は、x=1.1/2.1/2.8・・・」とは、方程式J(x)+2J(2x)+3J(3x)=0を満たすxの値である。
【0044】
より具体的に説明すると、振幅が時間の経過とともに小さくなってゆく減衰振動を、縦軸に振幅、横軸に時間をとってグラフに表したとき、x=2.4/5.5/8.7・・・は、振幅が0になるときの値である。
【0045】
(地盤を伝搬する波動)
地盤50を伝搬する波動としては、実体波(P波、S波)と表面波(レイリー波、ラブ波)に大別され,地盤50を加振した際にはこれらの波が複合的に発生する。ここで、設備機器や多人数の人間の動作などの加振は、主に鉛直方向加振である。地盤50の地表面52Aの鉛直加振をした場合、レイリー波が卓越し、遠方になるほどレイリー波の影響が大きくなることが知られている。レイリー波の中でも特に基本モードと呼ばれる波の影響が大きいことが多い。このため、防振構造10では、一例として、干渉によって低減を狙う波動はレイリー波基本モードをターゲットとする。
【0046】
本実施形態では、レイリー波基本モードをターゲットとしているが、すべての振動数帯域においてレイリー波基本モードが卓越するというわけではないことに注意する必要がある。低い振動数になると、レイリー波よりも実体波が卓越する。目安としては、表層地盤52の固有振動数f以下においては、レイリー波よりも実体波(P波、S波)の方が卓越しやすい。例えば、2層の地盤50の場合は、表層地盤52の厚さH、表層地盤52のS波速度をVsとすると、f=Vs/4Hとなる。よって、「加振振動数がVs/4H以上の振動数帯域」というのが、レイリー波基本モードをターゲットとして本手法を適用した場合に高い振動低減効果が見込まれる条件である。すなわち、低減させたい振動数がf以上となるよう円の半径rや杭16の配置を設定する必要がある。
【0047】
(第1例)
第1例では、単純な1つの円の円周上に杭などの加振点配置を行うことを考える。全方位に2Hzの振動数を落としたいとき、その時の円の半径の考え方は以下の通りである。
【0048】
(1)レイリー波の分散曲線を計算し、2Hzの位相速度・ミディアムレスポンスを求める。これは、地盤調査結果から計算をすることで求まる物理量である。なお、ミディアムレスポンスとして、1次モードよりも基本モードが大きい場合(基本モード>>1次モード)であれば、振動低減の可能性は高く、これらの差が小さい場合はこの手法は難しい。
【0049】
(2)例えば、2Hzのレイリー波基本モードの速度Vが50m/sであれば、数1に示す式を満たすような半径rを求める。
【数1】
【0050】
この例では、単純な円、すなわちn=1であるので、数3に示す式である。
【数3】
【0051】
は0次の第1種ベッセル関数であり、左辺が0となる条件は、括弧の中身の2πfr/Vが、本例では2.4、5.5、8.7・・・になるときになる。すなわち、2πfr/V=2.4、5.5、8.7・・・であるので、ここに、レイリー波基本モードの速度であるV=50、振動数f=2を代入することで、半径r[m]が求まる。特に一番小さい円形にする場合、半径r=9.6[m]である。
【0052】
図3には、半径rが10mの円の円周上に複数(例えば、8本)の杭16を配置した防振構造において、数値解析を行ったときの振動数と加速度応答との関係を示すグラフである。図3に示すように、狙った振動数2Hz付近で振動低減が発生していることが分かる。
【0053】
(第2例)
第2例では、半径が5m、10m、15m、20mの4つの円の円周上に杭16などの加振点を配置する場合(図1(B)参照)に低減する振動数を求める。
【0054】
振動数1.5Hzにおける波動伝搬速度(主にレイリー波基本モード)Vを60m/s とする。
【数1】
【0055】
この例では、n=4、f=1.5Hz、V=60m/sとしたとき、数1に示す式を満たすため、振動数1.5Hzにおいて振動低減が発生する。
【0056】
図4には、半径が5m、10m、15m、20mの4つの円の円周上に杭16を配置した防振構造10(図1参照)において、数値解析を行ったときの振動数と加速度応答との関係を示すグラフである。図4に示すように、狙った振動数1.5Hzで振動低減が発生していることが分かる。
【0057】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0058】
本実施形態の防振構造10では、周囲の表層地盤52と縁切して配置されたコンクリート床版14と、表層地盤52と非接触状態でコンクリート床版14を支持する複数の杭16とが設けられている。平面視にて複数の杭16は、同心円状に複数配置されて支持地盤54まで打ち込まれている。一例として、防振構造10では、同心円の4つの円17A、17B、17C,17Dの円周上に複数の杭16が所定のピッチ(間隔)で構築されている。
【0059】
上記のような防振構造10では、同心円状に複数配置された杭16は、コンクリート床版14をタテノリ加振させたとき(鉛直方向に加振させたとき)、地盤50を加振させる複数の加振点となる。各杭16は所定の距離(間隔)離れているので、各杭16で発生した波動に位相差を生じる。このように波動に位相差を生じさせることで、コンクリート床版14から外側へ伝播する波動が互いに干渉して振動を打ち消し合い、コンクリート床版14の外側の地盤50へ伝播する振動を低減させることができる。
【0060】
また、防振構造10では、杭16が描く同心円の円の数をk、低減したい波動の振動数をf[Hz]、最内側の円の半径すなわち隣接する円同士の距離をr[m]、地盤50の波動伝搬速度をV[m/s]、ベッセル関数をJ0としたとき、数1に示す数式を満たすように、半径rが設定されている。
【数1】
【0061】
防振構造10では、複数の杭16で表層地盤52と非接触状態で支持されたコンクリート床版14が、鉛直方向に加振された場合に、複数の杭16が描く同心円の円の数k、隣接する円同士の距離r、地盤50の波動伝搬速度Vにより決まる振動数fにおいて、コンクリート床版14の外側の地盤50での振動低減効果を得ることができる。
【0062】
また、防振構造10では、杭16は、同心円状に所定のピッチ(間隔)で構築されたコンクリート杭であり、同心円状の各円に配置される杭16の数は、各円の半径に比例する。このため、防振構造10では、複数の杭16によりコンクリート床版14を均等に支持することができる。
【0063】
なお、第1実施形態では、平面視にて同心円状に複数の杭16を配置しているが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、平面視にて円形状(1つの円の円周上)に複数の杭16を配置する構成でもよい。
【0064】
また、第1実施形態では、同心円の円17A、17B、17C,17Dの数は、4つであるが、円の数は変更可能である。
【0065】
第1実施形態では、同心円状に杭16(加振点)を配置するため、方向によらず設計式の振動数fで振動低減できるが、円を構成する加振点数と振動低減できる範囲には次のような性質がある。単一円での円形配置の場合、8点以上の加振点があれば概ね方向による違いは無くなり、密になる程方向による違いは小さくなる。また、複数の円で同心円状に配置する場合は、最内側の円を8点以上とし、各円の加振点数は各円の半径(円周)に比例させて配置することで、方向による違いを小さくすることができる。
【0066】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態の防振構造について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0067】
図5には、第2実施形態の防振構造60が適用された構造物62が平面図にて示されている。図5に示すように、防振構造60では、複数(本実施形態では2つ)のコンクリート床版64、66が、互いに縁切りして配置されている。例えば、コンクリート床版64、66は、コンサート会場などの構造物62の床版を2つに分割した構成である。例えば、コンクリート床版64、66は、平面視にて矩形状(本実施形態では、正方形状)である。図示を省略するが、コンクリート床版64、66は、周囲の表層地盤52(図1参照)及び構造躯体と縁切して配置されている。
【0068】
図5中の左側のコンクリート床版64は、支持部材の一例としての複数の杭68で支持されている。複数の杭68は、例えば、12本である。複数の杭68は、平面視にて円形状(円周上)にほぼ等間隔で構築されている。
【0069】
図5中の右側のコンクリート床版66は、支持部材の一例としての複数の杭70で支持されている。複数の杭70は、例えば、10本である。複数の杭70は、平面視にて、円形状(円周上)にほぼ等間隔で構築されている。平面視にて複数の杭68が描く円の半径rは、平面視にて複数の杭70が描く円の半径rよりも大きい。
【0070】
防振構造60では、鉛直方向の加振に対応して、それぞれコンクリート床版64、66の中心振動数fが異なる値となるように複数の杭68、70が配置されている。例えば、コンクリート床版64の中心振動数fは、2.5Hzに設定されており、コンクリート床版66の中心振動数fは、3Hzに設定されている。
【0071】
コンサートでは曲ごとにテンポが異なるが、例えば、互いに縁切りして2つのコンクリート床版64、66を配置することで、どちらかの中心振動数f付近の曲の場合は、対応するコンクリート床版64又はコンクリート床版66について、振動低減効果を得ることができる。このため、観客の約半分であるコンクリート床版64上又はコンクリート床版66上の観客がタテノリ加振する分について、振動低減効果を得ることができる。
【0072】
本実施形態では、平面視にて複数の杭68、70は、略矩形状であるが、円形などの他の形状でもよい。なお、防振構造60の他の構成は、第1実施形態の防振構造10と同様である。
【0073】
図6は、コンクリート床版64、66上において、同人数が3Hzのタテノリ加振を別々に行った場合の周辺地盤上での振動数と加速度応答との関係を示すグラフである。図6に示すように、中心振動数fが2.5Hzに設定されたコンクリート床版64を加振した場合には、振動低減効果がほとんど得られず、中心振動数fが3Hzに設定されたコンクリート床版66を加振した場合には、振動低減効果が得られることが分かる。
【0074】
図7は、コンクリート床版64、66上において、同人数が3Hzのタテノリ加振を同時に行った場合の周辺地盤上での振動数と加速度応答との関係を示すグラフである。図7では、参考のため、振動低減されていない場合のアクセレランスの例を破線で示している。図7に示すように、本実施形態の防振構造60の場合は、3Hz付近で、振動低減効果が得られることが分かる。
【0075】
第2実施形態の防振構造60は、第1実施形態の防振構造10と同様の構成による作用及び効果に加えて、以下の作用及び効果を得ることができる。
【0076】
防振構造60は、コンクリート床版64、66が、互いに縁切りして複数(本実施形態では2つ)に配置され、鉛直方向の加振に対応して、それぞれコンクリート床版64、66の中心振動数fが異なる値に設定されている。
【0077】
防振構造60では、複数(本実施形態では2つ)のコンクリート床版64、66の中心振動数fを変えることで、音楽によって変化する鉛直方向の加振(例えば、観客のタテノリ加振)の振動低減効果を得ることができる。このため、防振構造60では、単一のコンクリート床版を有する場合と比較して、広い範囲の振動数で振動低減効果を得ることが可能である。
【0078】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態の防振構造について説明する。なお、前述した第1及び第2実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0079】
図8には、第3実施形態の防振構造80が適用された構造物82が平面図にて示されている。図8に示されるように、防振構造80では、複数(本実施形態では4つ)のコンクリート床版84、86、88、90が、互いに縁切りして配置されている。例えば、平面視にてコンクリート床版84、86、88、90は、コンサート会場などの構造物82の床を十字状に4つに分割した構成である。例えば、コンクリート床版84、86、88、90は、平面視にて矩形状(本実施形態では、正方形状)である。図示を省略するが、コンクリート床版84、86、88、90は、周囲の表層地盤52(図1参照)及び構造躯体と縁切して配置されている。
【0080】
コンクリート床版84は、支持部材の一例としての複数の杭92で支持されている。複数の杭92は、例えば、15本であり、平面視にて円形状(円周上)にほぼ等間隔で構築されている。また、コンクリート床版86は、支持部材の一例としての複数の杭94で支持されている。複数の杭94は、例えば、12本であり、平面視にて円形状(円周上)にほぼ等間隔で構築されている。また、コンクリート床版88は、支持部材の一例としての複数の杭96で支持されている。複数の杭96は、例えば、11本であり、平面視にて円形状(円周上)にほぼ等間隔で構築されている。さらに、コンクリート床版90は、支持部材の一例としての複数の杭98で支持されている。複数の杭98は、例えば、10本であり、平面視にて円形状(円周上)にほぼ等間隔で構築されている。
【0081】
コンクリート床版84、86、88、90では、平面視にて、複数の杭92が描く円の半径r、複数の杭94が描く円の半径r、複数の杭96が描く円の半径r、複数の杭98が描く円の半径rの順に、半径が小さくなる構成である。本実施形態では、平面視にて複数の杭92、94、96、98は、略矩形状であるが、円形などの他の形状でもよい。
【0082】
防振構造80では、鉛直方向の加振に対応して、それぞれコンクリート床版84、86、88、92の中心振動数fが異なる値となるように複数の杭92、94、96、98が配置されている。例えば、コンクリート床版84の中心振動数fは、2.2Hzに設定されており、コンクリート床版86の中心振動数fは、2.5Hzに設定されており、コンクリート床版88の中心振動数fは、2.7Hzに設定されており、コンクリート床版90の中心振動数fは、3Hzに設定されている。なお、防振構造80の他の構成は、第1実施形態の防振構造10と同様である。
【0083】
第3実施形態の防振構造80は、第1実施形態の防振構造10と同様の構成による作用及び効果に加えて、以下の作用及び効果を得ることができる。
【0084】
防振構造80は、コンクリート床版84、86、88、90が、互いに縁切りして複数(本実施形態では4つ)に配置され、鉛直方向の加振に対応して、それぞれコンクリート床版84、86、88、92の中心振動数fが異なる値に設定されている。
【0085】
防振構造80では、複数(本実施形態では4つ)のコンクリート床版84、86、88、90の中心振動数fを変えることで、音楽によって変化する鉛直方向の加振(例えば、観客のタテノリ加振)の振動低減効果を得ることができる。このため、防振構造80では、4つより少ないコンクリート床版を有する場合と比較して、広い範囲の振動数で振動低減効果を得ることが可能である。
【0086】
〔その他〕
第1実施形態では、平面視にてコンクリート床版14は矩形状であり、第2及び第3実施形態では、平面視にてコンクリート床版64、66及びコンクリート床版84、86、88、92は正方形状であるが、本開示はこの構成に限定されるものではない。加振床としてのコンクリート床版は、周囲の構造躯体及び表層地盤52と縁切りされていれば、形状は自由である。例えば、平面視にてコンクリート床版は、支持部材が収まる形状であれば、円形状、又は六角形、八角形、十二角形などの多角形状でもよい。
【0087】
また、第1~第3実施形態では、コンクリート床版を支持する支持部材として、複数の杭を配置したが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、平面視にて同心円状に複数配置され支持地盤に支持されて、表層地盤と非接触状態でコンクリート床版を支持する円筒形の地下連続壁(例えば、地中壁や布基礎)を設けてもよい。
【0088】
また、第1~第3実施形態では、コンクリート床版と表層地盤52とを非接触とする非接触状態の一例として、コンクリート床版と表層地盤52との間に空間Sを設けたが、本開示はこの構成に限定されるものではない。本開示の防振構造では、支持部材によって、表層地盤52と非接触状態でコンクリート床版が支持されている構成であれば、コンクリート床版と表層地盤52との間に、振動を表層地盤52に伝えない部材を配置してもよい。例えば、振動を表層地盤52に伝えない部材を、コンクリート床版の下に配置して、表層地盤52から内部空間への湿気の侵入を防いでもよい。振動を表層地盤52に伝えない部材として、例えば、防湿シートと、グラスウールやロックウールなどの断熱材とを一体化させて防湿層を形成し、さらに通気層を設けて防湿及び断熱を行うようにした部材などがある。
【0089】
また、第2及び第3実施形態では、コンクリート床版を2つ又は4つに分割した例が記載されているが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、コンクリート床版を3つ又は5つ以上などの複数に分割し、各コンクリート床版の中心振動数fを異なる値に設定してもよい。
【0090】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0091】
10 防振構造
14 コンクリート床版
16 杭(支持部材の一例)
17A 円
17B 円
17C 円
17D 円
50 地盤
52 表層地盤
54 支持地盤
60 防振構造
64 コンクリート床版
66 コンクリート床版
68 杭(支持部材の一例)
70 杭(支持部材の一例)
80 防振構造
84 コンクリート床版
86 コンクリート床版
88 コンクリート床版
90 コンクリート床版
92 杭(支持部材の一例)
94 杭(支持部材の一例)
96 杭(支持部材の一例)
98 杭(支持部材の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8