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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093762
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】防振構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 31/08 20060101AFI20240702BHJP
   E02D 5/28 20060101ALI20240702BHJP
   E02D 5/30 20060101ALI20240702BHJP
   E02D 27/12 20060101ALI20240702BHJP
   E02D 27/34 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
E02D31/08
E02D5/28
E02D5/30
E02D27/12 Z
E02D27/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210328
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村山 広樹
(72)【発明者】
【氏名】松永 裕樹
【テーマコード(参考)】
2D041
2D046
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA25
2D041DB02
2D041DB03
2D046CA01
2D046DA01
2D046DA11
(57)【要約】
【課題】コストを上昇させることなく、コンクリート床版の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる防振構造を提供する。
【解決手段】防振構造10は、周囲の表層地盤52と縁切して配置されたコンクリート床版14と、平面視にて格子点状に複数配置されて支持地盤51まで打ち込まれ、表層地盤52と非接触状態でコンクリート床版14を支持する杭16と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲の構造躯体と縁切して配置されたコンクリート床版と、
平面視にて格子点状に複数配置されて支持地盤まで打ち込まれ、表層地盤と非接触状態で前記コンクリート床版を支持する支持部材と、
を有する防振構造。
【請求項2】
周囲の構造躯体と縁切して配置されたコンクリート床版と、
平面視にて所定の間隔を空けて複数対向配置され支持地盤に支持されて、表層地盤と非接触状態で前記コンクリート床版を支持する地下連続壁と、
を有する防振構造。
【請求項3】
受振点の方向に沿って最も近い2つの前記支持部材の中心点間の距離をd[m]としたとき、一方の前記支持部材の位置で発生した波動が他方の前記支持部材の位置に進む間に、前記波動の位相のずれがπ以下となるように、前記距離dが設定されている、請求項1に記載の防振構造。
【請求項4】
受振点の方向に沿って最も近い2つの前記支持部材の中心点間の距離をd[m]とし、前記受振点の方向に前記支持部材をn列で配置し、振動を低減したい波動の波長をλとしたとき、
d[m]×n=λ[m]
を満たすように、前記支持部材が配置されている、請求項1に記載の防振構造。
【請求項5】
前記コンクリート床版が、互いに縁切りして複数に配置され、
鉛直方向の加振に対応して、それぞれ前記コンクリート床版の中心振動数fが異なる値に設定されている、請求項1又は請求項2に記載の防振構造。
【請求項6】
面外方向が振動低減させる周辺地盤となるように前記地下連続壁を配置した、請求項2に記載の防振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周囲に伝播する振動を低減させるための防振構造が提案されている。
【0003】
下記特許文献1に記載の防振構造は、上側地盤の下方に下側地盤がある地盤に埋設され下側地盤に支持されて地盤の上方へ延びる複数の抗体と、地盤の上方に隙間を空けて配置されると共に複数の抗体に支持された基礎部と、抗体と上側地盤との摩擦を低減させる摩擦低減材と、を備えている。摩擦低減材は、例えば、杭体における上側地盤に埋設されている部分の周囲に塗布されたアスファルトである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-101067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の防振構造では、抗体と上側地盤との摩擦を低減させる摩擦低減材を設けることが必須であるため、施工に手間がかかり、コストが上昇する。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、コストを上昇させることなく、コンクリート床版の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる防振構造を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に記載の防振構造は、周囲の構造躯体と縁切して配置されたコンクリート床版と、平面視にて格子点状に複数配置されて支持地盤まで打ち込まれ、表層地盤と非接触状態で前記コンクリート床版を支持する支持部材と、を有する。
【0008】
第1態様に記載の防振構造によれば、格子点状に配置された複数の支持部材は、コンクリート床版をタテノリ加振させたとき(鉛直方向に加振させたとき)、地盤を加振させる複数の加振点となる。各支持部材は所定の距離離れているので、各支持部材で発生した波動に位相差を生じる。このように波動に位相差を生じさせることで、コンクリート床版から外側へ伝播する波動が互いに干渉して振動を打ち消し合い、コンクリート床版の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。
【0009】
第2態様に記載の防振構造は、周囲の構造躯体と縁切して配置されたコンクリート床版と、平面視にて所定の間隔を空けて複数対向配置され支持地盤に支持されて、表層地盤と非接触状態で前記コンクリート床版を支持する地下連続壁と、を有する。
【0010】
第2態様に記載の防振構造によれば、所定の間隔を空けて複数対向配置され地下連続壁は、コンクリート床版をタテノリ加振させたとき(鉛直方向に加振させたとき)、地盤を加振させる複数の加振点となる。各地下連続壁は所定の距離離れているので、各地下連続壁で発生した波動に位相差を生じる。このように波動に位相差を生じさせることで、コンクリート床版から外側へ伝播する波動が互いに干渉して振動を打ち消し合い、コンクリート床版の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。
【0011】
第3態様に記載の防振構造は、第1態様に記載の防振構造において、受振点の方向に沿って最も近い2つの前記支持部材の中心点間の距離をd[m]としたとき、一方の前記支持部材の位置で発生した波動が他方の前記支持部材の位置に進む間に、前記波動の位相のずれがπ以下となるように、前記距離dが設定されている。
【0012】
第3態様に記載の防振構造によれば、支持部材で表層地盤と非接触状態で支持されたコンクリート床版が、鉛直方向に加振された場合に、支持部材の列数と行数、支持部材間の距離、地盤の波動伝搬速度により決まる振動数fにおいて、コンクリート床版の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。
また、受振点の方向に沿って最も近い2つの支持部材において、一方の支持部材の位置で発生した波動が他方の支持部材の位置に進む間に、波動の位相のずれがπ以下となる。これにより、一方の支持部材の位置から発生した波動と、他方の支持部材の位置で発生した波動が重なることで、互いに打ち消すことが可能となり、コンクリート床版の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。
【0013】
第4態様に記載の防振構造は、第1態様に記載の防振構造において、受振点の方向に沿って最も近い2つの前記支持部材の中心点間の距離をd[m]とし、前記受振点の方向に前記支持部材をn列で配置し、振動を低減したい波動の波長をλとしたとき、
d[m]×n=λ[m]
を満たすように、前記支持部材が配置されている。
【0014】
第4態様に記載の防振構造によれば、d[m]×n=λ[m]を満たすように複数の支持部材が配置されていることで、仮にn+1列目があったとして、その位置で位相が360°となるような波長の振動を低減することができる。
【0015】
第5態様に記載の防振構造は、第1態様又は第2態様に記載の防振構造において、前記コンクリート床版が、互いに縁切りして複数に配置され、鉛直方向の加振に対応して、それぞれ前記コンクリート床版の中心振動数fが異なる値に設定されている。
【0016】
第5態様に記載の防振構造によれば、複数のコンクリート床版の中心振動数fを変えることで、音楽によって変化する鉛直方向の加振(観客のタテノリ加振)の振動低減効果を得ることができる。
【0017】
第6態様に記載の防振構造は、第2態様に記載の防振構造において、面外方向が振動低減させる周辺地盤となるように前記地下連続壁を配置した。
【0018】
第6態様に記載の防振構造によれば、面外方向が振動低減させる周辺地盤となるように地下連続壁を配置することで、コンクリート床版の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示の防振構造によれば、コストを上昇させることなく、コンクリート床版の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(A)は、第1実施形態の防振構造で示す平面図であり、(B)は、第1実施形態の防振構造を示す立面図である。
図2】(A)は、2つの加振点を同時に加振したときの応答を説明する図であり、(B)は、2つの加振点を同時に加振したときの応答における振動低減を説明する図である。
図3】(A)は、2つの加振点を結ぶ線分上の応答を求める構成を示す図であり、(B)は、2つの加振点を結ぶ線分上の振動数と加速度との関係を示すグラフである。
図4】(A)は、2本の平行する線分と直交する方向の線分上の応答を求める構成を示す図であり、(B)は、2本の平行する線分と直交する方向の線分上の振動数と加速度との関係を示すグラフである。
図5】低減する振動数が同一となるように杭の配置を変更した例であって、(A)は、格子点状に4つの杭を配置した第1実施形態の防振構造を示す図であり、(B)は、複数の杭の配置密度を変更した第1変形例の防振構造を示す図であり、(C)は、複数の杭の配置密度を変更した第2変形例の防振構造を示す図である。
図6】(A)は、X方向に杭を2列配置した第1実施形態の防振構造を示す図であり、(B)は、X方向に杭を3列配置した第3変形例の防振構造を示す図であり、(B)は、X方向に杭を4列配置した第4変形例の防振構造を示す図である。
図7】(A)は、第1実施形態の防振構造において杭の配置と波動の波長λとの関係を示す図であり、(B)は、第3変形例の防振構造において杭の配置と波動の波長λとの関係を示す図であり、(B)は、第4変形例の防振構造において杭の配置と波動の波長λとの関係を示す図である。
図8】隣り合う杭の中心点間の間隔と波動の波長λとの関係を示す図である。
図9】(A)は、複数の杭の中心点間の間隔を12.5mの間隔で2列配置したときの振動数と加速度応答との関係を示すグラフであり、(B)は、複数の杭の中心点間の間隔を5mの間隔で5列配置したときの振動数と加速度応答との関係を示すグラフである。
図10】第2実施形態の防振構造で示す平面図である。
図11】第3実施形態の防振構造を示す平面図である。
図12】第3実施形態の防振構造において、各コンクリート床版に別々にタテノリ加振を与えたときの振動数と加速度応答との関係を示す図である。
図13】第3実施形態の防振構造(地表面アクセレランス)において、各コンクリート床版に同時にタテノリ加振を与えたときの振動数と加速度応答(地表面アクセレランス)との関係を示す図である。
図14】第4実施形態の防振構造を示す平面図である。
図15】第5実施形態の防振構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。各図面において、本発明と関連性の低いものは図示を省略している。
【0022】
〔第1実施形態〕
図1図9を用いて、第1実施形態に係る防振構造について説明する。
【0023】
(防振構造の全体構成)
図1(A)、(B)には、第1実施形態に係る防振構造10が適用された構造物12の一例が示されている。図1(B)に示すように、構造物12が構築される地盤50は、地表面52A側の表層地盤52と、表層地盤52の下側に存在する支持地盤54とを備えている。本実施形態では、表層地盤52の深さ(すなわち、表層地盤52の厚さ)Hは、特に制限されない。
【0024】
図1(A)、(B)に示すように、構造物12は、周囲の表層地盤52と縁切して配置されたコンクリート床版14と、表層地盤52と非接触状態でコンクリート床版14を支持する複数の杭16と、を備えている。杭16は、支持部材の一例である。
【0025】
コンクリート床版14は、略剛体であり、例えば、鉄筋コンクリートで構築されている。一例として、コンクリート床版14は、平面視にて矩形状(例えば、正方形状)である。防振構造10において、コンクリート床版14は、鉛直方向に加振される(すなわち、タテノリ加振が与えられる)加振床である。
【0026】
図示を省略するが、コンクリート床版14の上側には、例えば、コンクリート床版14を囲むように、コンサート会場などの構造躯体が構築されている。コンクリート床版14は、これらの構造躯体と縁切して配置されている。
【0027】
杭16は、平面視にて格子点状に複数配置されており、複数の杭16の杭頭部16Aによって、コンクリート床版14が支持されている。複数の杭16の下端部は、支持地盤54まで打ち込まれている。複数の杭16の軸方向上端側の杭頭部16A付近よりも軸方向下側の部分は、表層地盤52に接触している。杭16は、十分な軸剛性を有しており、例えば、コンクリート杭である。
【0028】
本実施形態では、杭16は4本である。すなわち、本開示の「格子点状」とは、杭16が4本の場合も含む概念である。コンクリート床版14の外形の縁部は、複数の杭16の外側を囲むように配置されている。一例として、平面視にて4本の杭16が矩形状のコンクリート床版14の角部付近に設けられている(図1(A)参照)。すなわち、杭16の杭頭部16Aは、矩形状のコンクリート床版14の外面である縁14Aの角部付近の下面に接合されている。杭16の杭頭部16Aとコンクリート床版14は、剛結合とされており、例えば、鉄筋で連結されている。
【0029】
矩形状のコンクリート床版14の辺の両側の2つの杭16の中心点間の距離、すなわち、本実施形態では最も近い2つの杭16の中心点間の距離d[m]は、低減したい波動の波長λ[m]に応じて設定されている。矩形状のコンクリート床版14の辺の長さは、コンクリート床版14の辺の両側に配置される2つの杭16の中心部(杭芯)間の距離よりも長い。最も近い2つの杭16の中心点間の距離d[m]については、後述する。
【0030】
コンクリート床版14は、上記のように周囲の構造躯体と縁切して配置されている。本実施形態では、コンクリート床版14が複数の杭16によって支持された状態で、コンクリート床版14の下面と表層地盤52との間に空間Sが形成されている(図1(B)参照)。さらに、コンクリート床版14の外面である縁14Aと表層地盤52との間に隙間S1が形成されている。
【0031】
防振構造10では、格子点状に配置された複数の杭16は、コンクリート床版14をタテノリ加振させたとき(鉛直方向に加振させたとき)、地盤50を加振させる複数の加振点となる。
【0032】
(複数の加振点の重ね合わせの原理)
次に、複数の加振点を加振したときの重ね合わせの原理について説明する。
【0033】
本実施形態の防振構造10は、地盤50を伝搬する波動の干渉を利用して、狙った振動数を低減するものである。ここでは、防振構造10による作用及び効果の説明に先立ち、基本的な内容として、複数の加振点を加振したときの重ね合わせの原理について説明する。
【0034】
線形領域において,地盤50を複数の加振点を加振した際の遠方での応答は、それぞれの加振点を加振した時の応答を、位相を考慮して重ね合わせて表すことができる。図2(A)、(B)は、地盤50を複数の加振点で加振した際の遠方での応答を説明する図である。例えば、図2(A)に示すように、加振点100Aと加振点100Bを同時に加振したときに、加振点100Bの側において加振点100A及び加振点100Bから離れた点100Cでの応答を考える。
【0035】
この場合、図2(B)に示すように、加振点100Aを加振したときの点100Cの応答と、加振点100Bを加振したときの点100Cの応答をそれぞれ求め、重ね合わせることにより点100Cでの応答を求めることができる。このとき、図2(B)に示すように、加振点100Aから発生した波動が加振点100Bに進む間に、例えば位相がπずれることを考える。すると加振点100Bにおいては、加振点100Aから発生した波動と、加振点100Bで発生した波動が逆位相となり打ち消し合うことで、振動を低減することが可能である。なお、防振構造10では、コンクリート床版14を支持する複数の杭16が加振点100A、100Bに相当する。
【0036】
(地盤を伝搬する波動)
地盤50を伝搬する波動としては、実体波(P波、S波)と表面波(レイリー波、ラブ波)に大別され,地盤50を加振した際にはこれらの波が複合的に発生する。ここで、設備機器や多人数の人間の動作などの加振は、主に鉛直方向加振である。地盤50の地表面52Aの鉛直加振をした場合、レイリー波が卓越し、遠方になるほどレイリー波の影響が大きくなることが知られている。レイリー波の中でも特に基本モードと呼ばれる波の影響が大きいことが多い。このため、防振構造10では、一例として、干渉によって低減を狙う波動はレイリー波基本モードをターゲットとする。
【0037】
(加振点の配置の基本原理)
次に、加振点の配置の基本原理について説明する。
【0038】
まず、加振点の配置の最も基本的な場合として、2つの加振点が逆位相となる例について説明する。図3(A)には、2つの加振点102A、102Bを同時に加振(すなわち、点加振)する第1例が示されている。第1例では、2つの加振点102A、102Bを同時に加振した場合に、2つの加振点102A、102Bの中心を結ぶ線分上の応答を求める。第1例では、加振点102Aの中心と加振点102Bの中心との間の距離Lは20mであり、振動数1.5Hzにおけるレイリー波基本モード速度は60m/sの地盤50である。レイリー波基本モード速度は、地盤50の場所で決まる値である。図3(B)は、2つの加振点102A、102Bを結ぶ線分上において、加振点102Bからの距離が10m、20m、50mの位置での振動数と加速度との関係を示すグラフである。
【0039】
図4(A)には、2本の平行な線分である加振部104A、104Bを同時に加振(すなわち、線加振)する第2例が示されている。加振部104A、104Bでは、線上に多数の加振点が並んでいる。第2例では、2本の平行な加振部104A、104Bを同時に加振し、2本の平行な加振部104A、104Bと直交する方向に延びた線分上での応答を求める。第2例では、2本の平行な線分である加振部104Aの中心と加振部104Bの中心との間の距離Lは20mであり、振動数1.5Hzにおけるレイリー波基本モード速度は60m/sの地盤50である。図4(B)は、2本の平行な加振部104A、104Bと直交する方向に延びた線分上において、加振部104Bからの距離が10m、20m、50mの位置での振動数と加速度との関係を示すグラフである、
【0040】
第1例及び第2例のどちらの場合も、振動数1.5Hzにおいて、数式V=λfから波長λを求めると、波長λは40mとなる。ここで、Vはレイリー波基本モード速度であり、fは振動数(周波数)である。第1例では、加振点102Aの中心と加振点102Bの中心との間の距離Lである20mは、ちょうど半波長にあたり、加振点102Aと加振点102Bでは逆位相であるので、振動数1.5Hzで振動低減する(図3(B)参照)。同様に、第2例では、加振部104Aの中心と加振部104Bの中心との間の距離Lである20mは、ちょうど半波長にあたり、加振部104Aと加振部104Bでは逆位相であるので、振動数1.5Hzで振動低減する(図4(B)参照)。
【0041】
図3(B)に示すように、第1例の点加振の場合、10mのように加振点102Bの近傍では振動低減が見られないが、遠方にいくにしたがって1.5Hzにおいて振動低減が見られる。図4(B)に示すように、第2例の線加振の場合、どの場所においても1.5Hzで振動低減が発生している。このように、どちらの場合も1.5Hzで振動低減するが、特に2つの加振点102A、102Bではなく線上に多数の加振点が並ぶことにより、振動低減効果がより明瞭になる。これは、以下の理由と考えられる。点加振したときのレイリー波の振幅uは、下記の式のように距離rの平方根に反比例する。
u ∝ 1/√r
例えば10m離れた2つの加振点102A、102Bの場合,遠方において90mと100mの点であれば、それぞれの振幅は1/√90と1/√100と振幅uは近い値である。そのため、振動低減の効果が得られやすい。一方、1mと11mのような近傍の点の場合、1/√1と1/√11は値として大きく違うので振動低減の効果が得られにくい。ここで、遠方とは、加振点間の距離を超える距離である。
【0042】
図5(A)には、第1実施形態の防振構造10として、コンクリート床版14の下部に格子点状に4つの杭16を配置した例が示されている。図5(B)には、第1変形例の防振構造30として、コンクリート床版14の下部に対向する2つの辺に沿って線上に3つの杭16をそれぞれ配置した例が示されている。図5(C)には、第2変形例の防振構造32として、コンクリート床版14の下部に対向する2つの辺に沿って線上に多数の杭16をそれぞれ配置した例が示されている。上記のように、複数の杭16は、コンクリート床版14をタテノリ加振させたとき(鉛直方向に加振させたとき)、地盤50を加振させる複数の加振点となる。
【0043】
図5(A)~(C)では、受振点34から延ばした線分35に沿った方向の2つの杭16の中心点間の距離d(すなわち、受振点34の方向に沿って最も近い2つの杭16の中心点間の距離d)を10mとする。図5(A)~(C)に示すように、受振点34から延ばした線分35に沿って配置された最も近い2つの杭16の中心間の距離dが同じであれば、低減する振動数は同一である。言い換えると、受振点34から延ばした線分35に杭16から垂線の足を下したときの線分上での杭16の中心点間の距離(間隔)が同じであれば、低減する振動数は同一である。図5(A)に示す防振構造10より図5(C)に示す防振構造32のように、杭16の密度が詰まっているほど、コンクリート床版14の近傍から明確に振動低減が発生する。この理由は、Y方向の杭16の密度が詰まっているほど、加振点から発生する波動が近場で干渉し合うためと考えられる。
【0044】
(加振点の配置の設計式)
次に、狙った振動数を低減させる加振点の配置方法(すなわち、設計式)について説明する。
【0045】
一例として、図6(A)~(C)に示すような格子点状の杭16の配置を考える。Y方向に配置された2つの杭16を1列とした場合、図6(A)に示す防振構造10では、X方向に杭16が2列配置されており、図6(B)に示す第3変形例の防振構造36では、X方向に杭16が3列配置されている。図6(C)に示す第4変形例の防振構造38では、X方向に杭16が4列配置されている。なお、図6では、杭16の配置を分かりやすくするため、コンクリート床版14の図示を省略している。
【0046】
狙った振動数を低減させる加振点(本例では加振点に相当する杭16)の配置は、以下の手順で設定する。
(1)図6(A)~(C)では、X方向が振動低減を狙いたい(守りたい)方向である。
(2)Y方向の加振点に相当する杭16の数は各列につき同一であれば点数は問わないが、同数である必要がある。例えば、各列の杭16の数が2つの場合は、各列で同数の2つである必要がある。
(3)Y方向の杭16の数が増えるほどより近傍からも振動低減が狙いやすくなる。
(4)X方向の杭16の中心点間の距離(すなわち、間隔)は、狙いたい振動数によって変化する。
(5)波動速度はレイリー波基本モードとして計算する。
【0047】
図7(A)~(C)は、図6(A)~(C)に示す防振構造10、36、38において、振動が低減される波長の例を示す図である。図7(A)~(C)に示すように、杭16の中心点間の距離(間隔)がd[m]で杭16がn列あれば、仮にn+1列目があったとして、その位置で位相が360度となるような波長の振動が低減される。つまり、以下の数式を満たす場合が振動低減する条件である。
d[m]×n=λ[m]
なお、X方向と交差する斜め方向に関しては、より高い振動数において振動低減が期待できる。
【0048】
本実施形態では、レイリー波基本モードをターゲットとしているが、すべての振動数帯域においてレイリー波基本モードが卓越するというわけではないことに注意する必要がある。低い振動数になると、レイリー波よりも実体波が卓越する。目安としては、表層地盤52の固有振動数f以下においては、レイリー波よりも実体波(P波、S波)の方が卓越しやすい。例えば、2層の地盤50の場合は、表層地盤52の厚さH、表層地盤52のS波速度をVsとすると、f=Vs/4Hとなる。よって、「加振振動数がVs/4H以上の振動数帯域」というのが、レイリー波基本モードをターゲットとして本手法を適用した場合に高い振動低減効果が見込まれる条件である。
【0049】
図8は、ある方向について、狙った振動数2Hzで振動低減させたい場合の格子点状の複数の杭16の配置の例を示す図である。
【0050】
狙った振動数2Hzを低減させる杭16の配置は、以下の手順で設定する。
(1)レイリー波の分散曲線を計算し、2Hzの位相速度・ミディアムレスポンスを求める。これは、地盤調査結果から計算をすることで求まる物理量である。なお、ミディアムレスポンスとして、1次モードよりも基本モードが大きい場合(基本モード>>1次モード)であれば、振動低減の可能性は高く、これらの差が小さい場合はこの手法は難しい。
【0051】
(2)例えば、2Hzのレイリー波基本モードの速度Vrが50m/sであれば、図8に示すように、数式V=λfより、振動数2Hzの波長λは25mとなる。
【0052】
(3)振動低減させたい方向の格子点状の杭16の中心点間の距離(間隔)がd[m]で、杭16の列がn列であるとき、下記の数式を満たすようなnとdを定める。
d[m]×n=λ[m]
図8に示すように、例えばn=2例であれば杭16の中心点間の距離dが12.5mであればよく(逆位相)、n=5列であれば杭16の中心点間の距離dが5mであればよい(72度ずつずれる)。
【0053】
(4)上記(3)で設定したn列の各杭16に対して、振動低減させたい方向(例えば、X方向)と直交方向(例えば、Y方向)に杭16を同数ずつ追加配置する場合にも、同等の振動低減効果が得られ、且つ追加した際のY方向の距離分だけ振動低減される範囲がY方向に拡大する。
【0054】
図9(A)は、杭16の中心点間の距離dが12.5mで杭16を2列配置した場合の振動数と加速度応答との関係を示すグラフである。図9(B)は、杭16の中心点間の距離dが5mで杭16を5列配置した場合の振動数と加速度応答との関係を示すグラフである。図9(A)では、X=0、12.5mで加振し、X=100mで応答を出力している。図9(B)では、X=0、5、10、15、20mで加振し、X=100mで応答を出力している。図9(A)、(B)に示すように、狙った振動数2Hzで振動低減効果が得られることが分かる。
【0055】
上記のように、本実施形態では、受振点34の方向に沿って最も近い2つの杭16の中心点間の距離をd[m]としたとき、一方の杭16の位置で発生した波動が他方の杭16の位置に進む間に、波動の位相のずれがπ以下となるように、距離dが配置されている(図6及び図7参照)。
【0056】
また、受振点34の方向に沿って最も近い2つの杭16の中心点間の距離をd[m]とし、受振点34の方向に杭16をn列で配置し、振動を低減したい波動の波長をλとしたとき、
d[m]×n=λ[m]
を満たすように、杭16が配置されている(図6及び図7参照)。
【0057】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0058】
本実施形態の防振構造10では、周囲の表層地盤52と縁切して配置されたコンクリート床版14と、表層地盤52と非接触状態でコンクリート床版14を支持する複数の杭16とが設けられている。平面視にて杭16は格子点状に複数配置されて支持地盤54まで打ち込まれている。
【0059】
上記のような防振構造10では、格子点状に配置された複数の杭16は、コンクリート床版14をタテノリ加振させたとき(鉛直方向に加振させたとき)、地盤50を加振させる複数の加振点となる。各杭16は所定の距離離れているので、各杭16で発生した波動に位相差を生じる。このように波動に位相差を生じさせることで、コンクリート床版14から外側へ伝播する波動が互いに干渉して振動を打ち消し合い、コンクリート床版14の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。
【0060】
また、防振構造30、32、36、38でも、防振構造10と同様の構成により、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0061】
また、防振構造10、30、32、36、38では、受振点34の方向に沿って最も近い2つの杭16の中心点間の距離(間隔)をd[m]としたとき、一方の杭16の位置で発生した波動が他方の杭16の位置に進む間に、波動の位相のずれがπ以下となるように、距離dが設定されている。
【0062】
これにより、防振構造10、30、32、36、38では、杭16で表層地盤52と非接触状態で支持されたコンクリート床版14が、鉛直方向に加振された場合に、杭16の列数と行数、杭16の中心点間の距離、地盤50の波動伝搬速度により決まる振動数fにおいて、コンクリート床版14の外側の地盤50へ伝播する振動を低減させることができる。
また、受振点34の方向に沿って最も近い2つの杭16において、一方の杭16の位置で発生した波動が他方の杭16の位置に進む間に、波動の位相のずれがπ以下となる。これにより、一方の杭16の位置から発生した波動と、他方の杭16の位置で発生した波動が重なることで、互いに打ち消すことが可能となり、コンクリート床版14の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。
【0063】
また、防振構造10、30、32、36、38では、受振点34の方向に沿って最も近い2つの杭16の中心点間の距離をd[m]とし、受振点34の方向に杭16をn列で配置し、振動を低減したい波動の波長をλとしたとき、
d[m]×n=λ[m]
を満たすように、杭16が配置されている。
【0064】
このため、防振構造10、30、32、36、38では、d[m]×n=λ[m]を満たすように複数の杭16が配置されていることで、仮にn+1列目があったとして、その位置で位相が360°となるような波長の振動を低減することができる。
【0065】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態の防振構造について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0066】
図10には、第2実施形態の防振構造60が適用された構造物62が平面図にて示されている。図10に示されるように、防振構造60では、矩形状のコンクリート床版14が地盤50及び構造躯体と縁切りして配置されている。コンクリート床版14は、複数の杭16で支持されている。図示を省略するが、杭16は支持地盤まで打ち込まれており、表層地盤52と非接触状態でコンクリート床版14を支持している。なお、図10では、構成を分かりやすくするため、コンクリート床版14の中心点を通って互いに直交するX軸とY軸とを示している。
【0067】
平面視にて杭16は、格子点状に複数配置されている。本実施形態では、図10中のコンクリート床版14のY軸の方向に複数の杭16がM行配置され、コンクリート床版14のY軸と直交するX軸の方向に、複数の杭16がN列配置されている(M>1、N>1)。本実施形態では、平面視にて杭16は、格子点状に16本配置されており、MとNは等しく、4行と4列である。また、格子点状の杭16の中心点間の距離(コンクリート床版14の辺に沿った杭16の距離)は、すべて等しい。
【0068】
防振構造60では、第1実施形態の防振構造10と同様の構成により、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0069】
図10に示すように、設計式の振動数fで低減する範囲は、コンクリート床版14の外側におけるX軸に沿った範囲70A、70Bと、コンクリート床版14の外側におけるY軸に沿った範囲72A、72Bである。すなわち、X軸に沿った範囲70A、70Bと、Y軸に沿った範囲72A、72Bにおいて、振動数fで振動低減効果を得ることができる。
【0070】
一方で、コンクリート床版14の外側における上記以外の範囲(範囲70Aと範囲72Aに隣接する範囲74A、範囲70Aと範囲72Bに隣接する範囲74B、範囲72Aと範囲70Bに隣接する範囲74C、範囲70Bと範囲72Bに隣接する範囲74D)では、fより大きく、f×√2以下の振動数範囲で振動低減効果が得られる。すなわち、X軸又はY軸に対して斜め45度の方向では、f×√2で振動低減効果が得られる。
【0071】
なお、図10に示す杭16の配置に対してX軸方向とY軸方向で杭16の中心点間の距離(間隔)が異なる場合、MとNが異なる場合などは、X軸方向とY軸方向で低減振動数fが異なるが、低減する範囲(X軸とY軸周辺の範囲)自体は、図10に示すX軸方向に沿った範囲70A、70Bと、Y軸方向に沿った範囲72A、72Bと同様である。
【0072】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態の防振構造について説明する。なお、前述した第1及び第2実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0073】
図11には、第3実施形態の防振構造150が適用された構造物152が平面図にて示されている。図11に示すように、防振構造150では、複数(本実施形態では2つ)のコンクリート床版154、156が、互いに縁切りして配置されている。例えば、コンクリート床版154、156は、コンサート会場などの構造物152の床版を2つに分割した構成である。例えば、コンクリート床版154、156は、平面視にて矩形状(本実施形態では、正方形状)である。図示を省略するが、コンクリート床版154、156は、周囲の表層地盤52(図1参照)及び構造躯体と縁切して配置されている。
【0074】
図11中の左側のコンクリート床版154は、格子点状に複数配置された支持部材の一例としての杭162で支持されている。複数の杭162は、例えば、16本である。最も近い複数の杭162の中心点間の距離d1は、等しい。
【0075】
図11中の右側のコンクリート床版156は、格子点状に複数配置された支持部材の一例としての杭164で支持されている。複数の杭164は、例えば、16本である。最も近い複数の杭164の中心点間の距離d2は、等しいが、複数の杭162の中心点間の距離d1よりも小さい。
【0076】
防振構造150では、鉛直方向の加振に対応して、それぞれコンクリート床版154、156の中心振動数fが異なる値となるように複数の杭162、164が配置されている。例えば、コンクリート床版154の中心振動数fは、2.5Hzに設定されており、コンクリート床版156の中心振動数fは、3Hzに設定されている。すなわち、コンクリート床版154では、f=2.5Hzの振動数の波動を低減できるような複数の杭162の中心点間の距離d1に設定されている。また、コンクリート床版156では、f=3Hzの振動数の波動を低減できるような複数の杭162の中心点間の距離d2に設定されている。
【0077】
コンサートでは曲ごとにテンポが異なるが、例えば、互いに縁切りして2つのコンクリート床版154、156を配置することで、どちらかの中心振動数f付近の曲の場合は、対応するコンクリート床版154又はコンクリート床版156について、振動低減効果を得ることができる。このため、観客の約半分であるコンクリート床版154上又はコンクリート床版156上の観客がタテノリ加振する分について、振動低減効果を得ることができる。なお、防振構造150の他の構成は、第1実施形態の防振構造10と同様である。
【0078】
図12は、コンクリート床版154、156上において、同人数が3Hzのタテノリ加振を別々に行った場合の周辺地盤上での振動数と加速度との関係を示すグラフである。図12に示すように、中心振動数fが2.5Hzに設定されたコンクリート床版154を加振した場合には、振動低減効果がほとんど得られず、中心振動数fが3Hzに設定されたコンクリート床版156を加振した場合には、振動低減効果が得られることが分かる。
【0079】
図13は、コンクリート床版154、156上において、同人数が3Hzのタテノリ加振を同時に行った場合の周辺地盤上での振動数と加速度との関係を示すグラフである。図13では、参考のため、振動低減されていない場合のグラフを破線で示している。図13に示すように、本実施形態の防振構造150の場合は、3Hz付近で、振動低減効果が得られることが分かる。
【0080】
第3実施形態の防振構造150では、第1及び第2実施形態の防振構造10、60と同様の構成による作用及び効果に加えて、以下の作用及び効果を得ることができる。
【0081】
防振構造150は、コンクリート床版154、156が、互いに縁切りして複数(本実施形態では2つ)に配置され、鉛直方向の加振に対応して、それぞれコンクリート床版154、156の中心振動数fが異なる値に設定されている。
【0082】
防振構造150では、複数(本実施形態では2つ)のコンクリート床版154、156の中心振動数fを変えることで、音楽によって変化する鉛直方向の加振(例えば、観客のタテノリ加振)の振動低減効果を得ることができる。このため、防振構造150では、単一のコンクリート床版を有する場合と比較して、広い範囲の振動数で振動低減効果を得ることが可能である。
【0083】
〔第4実施形態〕
次に、第4実施形態の防振構造について説明する。なお、前述した第1~第3実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0084】
図14には、第4実施形態の防振構造170が適用された構造物172が平面図にて示されている。図14に示されるように、防振構造170では、複数(本実施形態では4つ)のコンクリート床版174、176、178、180が、互いに縁切りして配置されている。例えば、平面視にてコンクリート床版174、176、178、180は、コンサート会場などの構造物172の床を十字状に4つに分割した構成である。例えば、コンクリート床版174、176、178、180は、平面視にて矩形状(本実施形態では、正方形状)である。図示を省略するが、コンクリート床版174、176、178、180は、周囲の表層地盤52(図1参照)及び構造躯体と縁切して配置されている。
【0085】
コンクリート床版174は、格子点状に複数配置された支持部材の一例としての杭182で支持されている。複数の杭182は、例えば、16本である。最も近い複数の杭162の中心点間の距離d3は、等しい。
【0086】
コンクリート床版176は、格子点状に複数配置された支持部材の一例としての杭184で支持されている。複数の杭184は、例えば、16本である。最も近い複数の杭184の中心点間の距離d1は、等しいが、複数の杭182の中心点間の距離d3よりも小さい。
【0087】
コンクリート床版178は、格子点状に複数配置された支持部材の一例としての杭186で支持されている。複数の杭186は、例えば、16本である。最も近い複数の杭186の中心点間の距離d4は、等しいが、複数の杭184の中心点間の距離d1よりも小さい。
【0088】
コンクリート床版180は、格子点状に複数配置された支持部材の一例としての杭188で支持されている。複数の杭188は、例えば、16本である。最も近い複数の杭188の中心点間の距離d2は、等しいが、複数の杭186の中心点間の距離d4よりも小さい。
【0089】
防振構造170では、鉛直方向の加振に対応して、それぞれコンクリート床版174、176、178、180の中心振動数fが異なる値となるように複数の杭182、184、186、188が配置されている。例えば、コンクリート床版174の中心振動数fは、2.2Hzに設定されており、コンクリート床版176の中心振動数fは、2.5Hzに設定されており、コンクリート床版178の中心振動数fは、2.7Hzに設定されており、コンクリート床版180の中心振動数fは、3Hzに設定されている。なお、防振構造170の他の構成は、第1実施形態の防振構造10と同様である。
【0090】
防振構造170は、第1~第3実施形態の防振構造10、60、150と同様の構成による作用及び効果に加えて、以下の作用及び効果を得ることができる。
【0091】
防振構造170は、コンクリート床版174、176、178、180が、互いに縁切りして複数(本実施形態では4つ)に配置され、鉛直方向の加振に対応して、それぞれコンクリート床版174、176、178、180の中心振動数fが異なる値に設定されている。
【0092】
防振構造170では、複数(本実施形態では4つ)のコンクリート床版174、176、178、180の中心振動数fを変えることで、音楽によって変化する鉛直方向の加振(例えば、観客のタテノリ加振)の振動低減効果を得ることができる。このため、防振構造170では、4つより少ないコンクリート床版を有する場合と比較して、広い範囲の振動数で振動低減効果を得ることが可能である。
【0093】
〔第5実施形態〕
次に、第5実施形態の防振構造について説明する。なお、前述した第1~第4実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0094】
図15には、第5実施形態の防振構造200が適用された構造物202が平面図にて示されている。図15に示すように、防振構造200は、矩形状のコンクリート床版204を備えている。コンクリート床版204は、周囲の表層地盤52(図1参照)及び構造躯体と縁切して配置されている。防振構造200は、平面視にて所定の間隔を空けて複数対向配置された地下連続壁206を備えている。一例として、地下連続壁206は、5つ設けられている。図示を省略するが、複数の地下連続壁206は、支持地盤(図1参照)に支持されて、表層地盤52と非接触状態でコンクリート床版204を支持している。
【0095】
防振構造200では、面外方向が振動低減させる周辺地盤(図15に示す地盤50)となるように地下連続壁206を配置している。本実施形態では、複数の地下連続壁206は、略平行に配置されており、地下連続壁206と直交する方向に沿った仮想線210側に受振点が配置されている。防振構造200では、地下連続壁206と直交する方向に沿った仮想線210側の受振点において、狙った振動数(振動を低減したい振動数)に応じて、地下連続壁206の中心線間の距離d5が設定されている。
【0096】
防振構造200では、第1~第4実施形態の防振構造10、60、150、170と同様の構成により、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0097】
より具体的に説明すると、防振構造200では、所定の間隔を空けて複数対向配置され地下連続壁206は、コンクリート床版204をタテノリ加振させたとき(鉛直方向に加振させたとき)、地盤50を加振させる複数の加振点となる。各地下連続壁206は所定の距離離れているので、各地下連続壁206で発生した波動に位相差を生じる。このように波動に位相差を生じさせることで、コンクリート床版204から外側へ伝播する波動が互いに干渉して振動を打ち消し合い、コンクリート床版204の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。特に地下連続壁206と直交する方向に沿った仮想線210側の受振点において、コンクリート床版204の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。
【0098】
また、防振構造200では、面外方向が振動低減させる周辺地盤(図15に示す地盤50)となるように地下連続壁206を配置することで、コンクリート床版204の外側の地盤へ伝播する振動を低減させることができる。
【0099】
〔その他〕
第1~第5実施形態では、平面視にてコンクリート床版は四角形(矩形状)であるが、本開示はこの構成に限定されるものではなく、コンクリート床版の形状は変更可能である。例えば、複数の支持部材が収まる円形状又は矩形状以外の多角形状(例えば、六角形など)のコンクリート床版等を用いてもよい。
【0100】
また、第1~第5実施形態では、コンクリート床版と表層地盤52とを非接触とする非接触状態の一例として、コンクリート床版と表層地盤52との間に空間Sを設けたが、本開示はこの構成に限定されるものではない。本開示の防振構造では、支持部材によって、表層地盤52と非接触状態でコンクリート床版が支持されている構成であれば、コンクリート床版と表層地盤52との間に、振動を表層地盤52に伝えない部材を配置してもよい。例えば、振動を表層地盤52に伝えない部材を、コンクリート床版の下に配置して、表層地盤52から内部空間への湿気の侵入を防いでもよい。振動を表層地盤52に伝えない部材として、例えば、防湿シートと、グラスウールやロックウールなどの断熱材とを一体化させて防湿層を形成し、さらに通気層を設けて防湿及び断熱を行うようにした部材などがある。
【0101】
また、第3及び第4実施形態では、コンクリート床版を2つ又は4つに分割した例が記載されているが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、コンクリート床版を3つ又は5つ以上などの複数に分割し、各コンクリート床版の中心振動数fを異なる値に設定してもよい。
【0102】
また、第1~第4実施形態では、格子点状に複数配置されてコンクリート床版を支持する複数の杭を設けたが、複数の杭に代えて、平面視にて所定の間隔を空けて複数対向配置された地下連続壁を設けてもよい。
【0103】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0104】
10 防振構造
12 構造物
14 コンクリート床版
16 杭(支持部材の一例)
30 防振構造
32 防振構造
36 防振構造
38 防振構造
50 地盤
52 表層地盤
54 支持地盤
60 防振構造
150 防振構造
154 コンクリート床版
156 コンクリート床版
162 杭(支持部材の一例)
164 杭(支持部材の一例)
170 防振構造
174 コンクリート床版
176 コンクリート床版
178 コンクリート床版
180 コンクリート床版
182 杭(支持部材の一例)
184 杭(支持部材の一例)
186 杭(支持部材の一例)
188 杭(支持部材の一例)
200 防振構造
204 コンクリート床版
206 地下連続壁
S 空間
S1 隙間
Vr 速度
d 距離
d2 距離
f 中心振動数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15