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特開2024-93774電流測定方法、電流測定システム及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093774
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】電流測定方法、電流測定システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/14 20060101AFI20240702BHJP
   G01R 15/18 20060101ALI20240702BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H02P23/14
G01R15/18 A
G01R19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210350
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 和延
(72)【発明者】
【氏名】野村 淳士
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏企
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊毅
【テーマコード(参考)】
2G025
2G035
5H505
【Fターム(参考)】
2G025AA15
2G025AB14
2G025AC01
2G035AA13
2G035AB04
2G035AC03
2G035AD26
2G035AD28
2G035AD55
2G035AD59
2G035AD65
5H505DD03
5H505EE41
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ22
5H505JJ26
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL58
(57)【要約】
【課題】高域通過特性を有する電流センサを用いて交流電動機のd軸電流及びq軸電流を精度よく測定する。
【解決手段】電流測定方法は、高域通過特性を有するとともに交流電動機に流れる三相電流Iu乃至Iwのうち少なくとも二相の電流を検出する複数の電流センサ11乃至13と、交流電動機の回転角θを検出する角度センサと、を用いる。電流測定方法は、角度センサの出力信号に基づいて回転角θの正弦成分sinθ及び余弦成分cosθを取得し、正弦成分sinθ及び余弦成分cosθに対して電流センサ11乃至13の高域通過特性に相当する周波数特性を有するフィルタを用いてフィルタ処理を施す。そして電流測定方法は、フィルタ処理後のsin(θc)及び余弦成分cos(θc)を合成して得られる回転角の合成値θcと三相電流Iu乃至Iwの検出値とに基づいてd軸及びq軸の電流Id及びIqを測定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高域通過特性を有するとともに交流電動機に流れる三相電流のうち少なくとも二相の電流を検出する複数の電流センサと、前記交流電動機の回転角を検出する角度センサと、を用いて前記交流電動機におけるd軸及びq軸の電流を測定する電流測定方法であって、
前記角度センサの出力信号に基づいて前記回転角の正弦成分及び余弦成分を取得する取得ステップと、
前記正弦成分及び前記余弦成分に対し、前記電流センサの高域通過特性に相当する周波数特性を有するフィルタを用いてフィルタ処理を施す処理ステップと、
前記フィルタ処理後の正弦成分及び余弦成分を合成して得られる前記回転角の合成値と前記複数の電流センサにより得られる前記三相電流の検出値とに基づいて前記d軸及びq軸の電流を測定する測定ステップと、
を含む電流測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電流測定方法であって、
前記電流センサは、ロゴスキーコイルを含む、
電流測定方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電流測定方法であって、
前記取得ステップ、前記処理ステップ及び前記測定ステップは、一又は複数のハードウェアにより実行される、
電流測定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の電流測定方法であって、
前記一又は複数のハードウェアは、アナログ回路である、
電流測定方法。
【請求項5】
請求項3に記載の電流測定方法であって、
前記一又は複数のハードウェアは、デジタル回路である、
電流測定方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の電流測定方法であって、
前記取得ステップ、前記処理ステップ及び前記測定ステップは、ソフトウェアにより実行される、
電流測定方法。
【請求項7】
高域通過特性を有し、交流電動機に流れる三相電流のうち少なくとも二相の電流を検出する複数の電流センサと、
前記交流電動機の回転角を検出する角度センサと、
前記角度センサの出力信号に基づいて前記回転角の正弦成分及び余弦成分を取得する取得手段と、
前記正弦成分及び前記余弦成分に対し、前記電流センサの高域通過特性に相当する周波数特性を有するフィルタを用いてフィルタ処理を施す処理手段と、
前記フィルタ処理後の正弦成分及び余弦成分を合成して得られる前記回転角の合成値と前記複数の電流センサにより得られる前記三相電流の検出値とに基づいてd軸及びq軸の電流を測定する測定手段と、
を含む電流測定システム。
【請求項8】
高域通過特性を有するとともに交流電動機に流れる三相電流のうち少なくとも二相の電流を検出する複数の電流センサの出力信号、及び前記交流電動機の回転角を検出する角度センサの出力信号を取得するコンピュータに、
前記角度センサの出力信号に基づいて前記回転角の正弦成分及び余弦成分を取得する取得ステップと、
前記正弦成分及び前記余弦成分に対し、前記電流センサの高域通過特性に相当する周波数特性を有するフィルタを用いてフィルタ処理を施す処理ステップと、
前記フィルタ処理後の正弦成分及び余弦成分を合成して得られる前記回転角の合成値と前記複数の電流センサの出力信号とに基づいて前記交流電動機におけるd軸及びq軸の電流を測定する測定ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流を測定する電流測定方法、電流測定システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、コイルに積分回路を接続した電流検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-153646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
交流電動機の電流を測定する場合、上述した電流検出装置を用いて交流電動機に流れる三相電流を検出し、検出した電流値に基づいて交流電動機のd軸電流及びq軸電流を測定することも可能である。
【0005】
しかしながら、上述した電流検出装置のように高域通過特性を有する電流センサを使用する場合、低域の周波数帯域においては、三相電流の周波数が低くなるほど、検出した三相電流の位相角が進んでしまい、この位相誤差によって測定精度が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、高域通過特性を有する電流センサを用いて交流電動機のd軸電流及びq軸電流を精度よく測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、電流測定方法は、高域通過特性を有するとともに交流電動機に流れる三相電流のうち少なくとも二相の電流を検出する複数の電流センサと、前記交流電動機の回転角を検出する角度センサと、を用いて前記交流電動機におけるd軸及びq軸の電流を測定する方法である。この電流測定方法は、前記角度センサの出力信号に基づいて前記回転角の正弦成分及び余弦成分を取得する取得ステップと、前記正弦成分及び余弦成分に対し、前記電流センサの高域通過特性に相当する周波数特性を有するフィルタを用いてフィルタ処理を施す処理ステップと、を含む。さらに電流測定方法は、前記フィルタ処理後の正弦成分及び余弦成分を合成して得られる前記回転角の合成値と前記複数の電流センサにより得られる前記三相電流の検出値とに基づいて前記d軸及びq軸の電流を測定する測定ステップを含む。
【発明の効果】
【0008】
この態様によれば、回転角の正弦成分及び余弦成分に対して電流センサの高域通過特性に相当する周波数特性のフィルタ処理を施すことにより、回転角の正弦成分及び余弦成分を合成した合成値には、電流センサによる低域での位相誤差が加味される。
【0009】
それゆえ、位相誤差が加味された回転角の合成値を用いて三相電流をd軸及びq軸の電流に変換することにより、三相電流の検出値に含まれる位相誤差が回転角の合成値によって相殺されるので、d軸電流及びq軸電流の測定誤差を低減することができる。
【0010】
このように、本態様によれば、高域通過特性を有する電流センサを用いて交流電動機のd軸電流及びq軸電流を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第一実施形態における電流測定システムの構成を示す図である。
図2A図2Aは、互いに同等の高域通過特性を有する電流センサ及びHPF部の振幅ゲイン周波数特性の一例を示す図である。
図2B図2Bは、図2Aに示した振幅ゲイン周波数特性に対応する位相周波数特性を示す図である。
図3図3は、第一実施形態における電流測定方法を示すフローチャートである。
図4図4は、電流測定システムによる測定誤差を説明するための図である。
図5A図5Aは、互いに同等の高域通過特性を有する電流センサ及びHPF部の振幅ゲイン周波数特性の変形例を示す図である。
図5B図5Bは、図5Aに示した変形例に対応する位相周波数特性を示す図である。
図6図6は、第二実施形態における電流測定システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の各実施形態について説明する。本明細書においては、全体を通じて、同一又は同等の要素には同一の符号を付する。
【0013】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態における電流測定システムの構成を示す図である。
【0014】
電流測定システム1は、交流電動機におけるd軸及びq軸座標系の電流を測定するための測定システムであり、第一実施形態では、交流電動機としてのモータ2とインバータ3との間に流れる三相電流に基づいてd軸及びq軸の電流を測定する。ここにいう三相電流とは、U相、V相及びW相の三相の交流電流のことを指す。
【0015】
電流測定システム1は、電流センサ11乃至13と、レゾルバ20と、AD変換器31乃至36と、処理部40と、を備える。
【0016】
電流センサ11乃至13は、モータ2に流れる三相電流を検出する複数のセンサである。電流センサ11乃至13は、低域において交流電流の周波数がゼロに近づくほど、略一定である高域の振幅ゲインに対して減衰量が大きくなる高域通過特性を有する。
【0017】
電流センサ11乃至13は、例えば、安価なAC電流センサ又はフレキシブル電流センサなどにより実現される。第一実施形態では、電流センサ11乃至13の各々は、交流電流を検出するためのロゴスキーコイル10Aと、ロゴスキーコイル10Aに流れる誘導電流を積分する積分回路10Bと、を備える。
【0018】
電流センサ11は、U相の交流電流を検出し、検出した信号をU相電流Iuの検出値としてAD変換器31に出力する。電流センサ12は、V相の交流電流を検出し、検出した信号をV相電流Ivの検出値としてAD変換器32に出力する。電流センサ13は、W相の交流電流を検出し、検出した信号をW相電流Iwの検出値としてAD変換器33に出力する。このように、電流センサ11乃至13は、三相電流Iu乃至Iwの検出値をAD変換器31乃至33に出力する。
【0019】
レゾルバ20は、モータ2の回転角を検出する角度センサとして機能する。レゾルバ20は、第一実施形態では、モータ2のロータ側に配置される一つの一次巻線と、一次巻線を励起する信号源と、モータ2のステータ側に配置される二つの二次巻線と、を備える。
【0020】
そして、レゾルバ20は、その信号源から一次巻線に供給される励起信号Vexと、一方の二次巻線に流れる正弦検出信号Vsinと、他方の二次巻線に流れる余弦検出信号Vcosと、をAD変換器34乃至36にそれぞれ出力する。
【0021】
上記の励起信号Vex、正弦検出信号Vsin及び余弦検出信号Vcosは、それぞれ次の式(1)乃至(3)のように表される。
【0022】
【数1】
なお、Eは振幅であり、ωは角速度であり、Tは、レゾルバ20の変圧比であり、θはモータ2の回転角である。
【0023】
AD変換器31乃至36は、電流センサ11乃至13の各々の出力信号及びレゾルバ20の三つの出力信号をそれぞれアナログ信号からデジタル信号に変換する。AD変換器31乃至36の各々は、変換後の出力信号を処理部40に伝送する。
【0024】
処理部40は、U相、V相及びW相の三軸座標系をd軸及びq軸の二軸座標系に座標変換する。具体的には、処理部40は、レゾルバ20の出力信号と電流センサ11乃至13の出力信号とに基づいてモータ2におけるd軸及びq軸の電流を測定する。
【0025】
処理部40は、例えば、次式(4)に示すPark変換式を利用し、電流センサ11乃至13の出力信号に示された三相電流Iu乃至Iwとモータ2の回転角θとを用いてd軸電流Idの測定値及びq軸電流Iqの測定値を演算する。
【0026】
【数2】
【0027】
処理部40は、一又は複数のハードウェア又はソフトウェアにより構成される。第一実施形態では、処理部40は、デジタル回路からなるハードウェアにより構成される。例えば、処理部40は、プロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、大容量記憶デバイス、入出力インターフェース、及び、これらを相互に接続するバスなどによって構成されるコンピュータである。
【0028】
プロセッサとしては、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processor Unit)などが挙げられる。大容量記憶デバイスとしては、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)などが挙げられる。
【0029】
第一実施形態の処理部40は、同期検波部41と、HPF部42A及び42Bと、回転角算出部43と、座標変換部44と、を備える。
【0030】
同期検波部41は、角度センサであるレゾルバ20の出力信号に基づいて回転角θの正弦成分sinθ及び余弦成分cosθを取得する取得手段として機能する。
【0031】
具体的には、第一実施形態の同期検波部41は、レゾルバ20の出力信号として励起信号Vex、正弦検出信号Vsin及び余弦検出信号Vcosを取得する。そして同期検波部41は、正弦検出信号Vsin及び余弦検出信号Vcosの各々に励起信号Vexを乗算して回転角θの正弦成分sinθ及び余弦成分cosθを抽出する。
【0032】
同期検波部41は、抽出した正弦成分sinθをHPF部42Aに伝送するとともに、余弦成分cosθをHPF部42Bに伝送する。
【0033】
HPF部42A及び42Bは、正弦成分sinθ及び余弦成分cosθに対し、電流センサ11乃至13の高域通過特性に相当する周波数特性を有するフィルタを用いてフィルタ処理を施す処理手段として機能する。
【0034】
HPF部42A及び42Bは、互いに同等のハイパスフィルタを有する。HPF部43Aは、正弦成分sinθに対して上記のフィルタ処理を施し、同様にHPF部43Bも、余弦成分cosθに対して上記のフィルタ処理を施す。
【0035】
HPF部42A及び42Bは、フィルタ処理後の正弦成分sin(θc)及び余弦成分cos(θc)を回転角算出部43にそれぞれ伝送する。
【0036】
回転角算出部43は、フィルタ処理後の正弦成分sin(θc)及び余弦成分cos(θc)を合成して回転角の合成値θcを取得する。第一実施形態では、回転角算出部43は、次式(5)を利用して回転角の合成値θcを算出する。
【0037】
【数3】
【0038】
回転角算出部43は、算出した回転角の合成値θcを座標変換部44に伝送する。このように、回転角の合成値θcは、フィルタ処理後の正弦成分sin(θc)及び余弦成分cos(θc)を合成して得られる。
【0039】
座標変換部44は、回転角の合成値θcと電流センサ11乃至13により検出される三相電流Iu乃至Iwの検出値とに基づいてd軸及びq軸の電流を測定する測定手段として機能する。
【0040】
具体的には、第一実施形態の座標変換部44は、上式(4)のうちモータ2の回転角θに上記の合成値θcを代入するとともに三相電流Iu乃至Iwに電流センサ11乃至13の検出値を代入して、d軸電流Idの測定値及びq軸電流Iqの測定値を演算する。
【0041】
そして座標変換部44は、演算したd軸電流Id及びq軸電流Iqの測定値を出力する。その後、処理部40は、例えば、d軸電流Id及びq軸電流Iqの測定値を用いて、次式(6)のようにモータ2のトルク値Tを推定する。
【0042】
【数4】
ただし、Pnはモータ2の極数であり、φaはモータ2の発生磁束であり、Ld及びLqは、モータ2におけるd軸及びq軸のインダクタンス成分である。
【0043】
図1に例示した処理部40はデジタル回路によって構成されているが、処理部40は、デジタル回路に代えてアナログ回路により構成されてもよい。また、電流センサ11乃至13の各々には積分回路10Bが備えられているが、積分回路10Bの機能を処理部40に持たせるように電流測定システム1を構成してもよい。
【0044】
また、図1では、モータ2を流れる三相電流Iu乃至Iwを三つの電流センサ11乃至13を用いてそれぞれ検出する例について説明したが、二つの電流センサのみを用いて三相電流Iu乃至Iwの検出値を得ることも可能である。
【0045】
具体的には、三相電流Iu乃至Iwは、次式(7)に示す関係を有するため、少なくとも二相の電流値を用いて他の一相の電流値を求めることができる。
【0046】
【数5】
【0047】
このように、モータ2を流れる三相電流Iu乃至Iwのうち少なくとも二相の電流を検出する二つの電流センサを用いることにより、上式(7)に従って三相電流Iu乃至Iwの検出値を得ることができる。ここでは、電流センサによって検出される電流値に加え、二相の検出値を用いて得られる他の一相の演算値のことも検出値と称する。
【0048】
次に、電流センサ11乃至13及びHPF部42A及び42Bの周波数特性について図2A及び図2Bを参照して説明する。
【0049】
図2Aは、電流センサ11乃至13及びHPF部42A及び42Bの振幅ゲイン周波数特性の一例を示す図である。図2Bは、図2Aに示した振幅ゲイン周波数特性に対応する位相周波数特性を示す図である。
【0050】
図2A及び図2Bには、フィルタのカットオフ周波数を1.5[Hz]とし、次数を2次とし、Q値を0.7として設計された周波数特性が示されている。
【0051】
図2Aに示すように、三相電流の周波数が約1.5[Hz]よりも高い高域の周波数帯域においては振幅ゲインが一定であり、周波数が約1.5[Hz]よりも低い低域の周波数帯域においては、周波数が低くなるにつれて振幅ゲインが低下する。
【0052】
このように低域において振幅ゲインが急峻に減衰する高域通過特性を第一実施形態の電流センサ11乃至13は有する。
【0053】
図2Bに示すように、図2Aに示した高域通過特性を有する電流センサ11乃至13の位相周波数特性については、低域において周波数が低くなるにつれて位相が急激に進む。このように低域で位相誤差が大きくなることによりd軸電流Id及びq軸電流Iqの測定誤差が大きくなる。
【0054】
この対策として、第一実施形態では、HPF部42A及び42Bの周波数特性(フィルタ特性)が、共に、図2A及び図2Bに示した電流センサ11乃至13の高域通過特性と同等の周波数特性となるよう設計されている。
【0055】
具体例としては、HPF部42A及び42Bの周波数特性は、周波数特性を規定するたに用いられるカットオフ周波数、次数及びQ値といった規定パラメータが電流センサ11乃至13の規定パラメータと同等の数値となるよう調整される。
【0056】
次に、電流測定システム1の動作について図3を参照して説明する。
【0057】
図3は、電流測定システム1による電流測定方法の処理手順例を示すフローチャートである。
【0058】
ステップS1において電流センサ11乃至13は、モータ2に流れる三相電流Iu乃至Iwを検出する。
【0059】
ステップS2において処理部40は、レゾルバ20の出力信号に基づいてモータ2の回転角θの正弦成分sinθ及び余弦成分cosθを取得する。具体的には、処理部40の同期検波部41が、レゾルバ20の出力信号に含まれる励起信号Vex、正弦検出信号Vsin及び余弦検出信号Vcosを用いて正弦成分sinθ及び余弦成分cosθを抽出する。
【0060】
ステップS3において処理部40は、電流センサ11乃至13の高域通過特性に相当する周波数特性を有するフィルタとしてHPF部42A及び42Bを用いて、正弦成分sinθ及び余弦成分cosθにフィルタ処理を施す。
【0061】
具体的には、処理部40において、正弦成分sinθがHPF部42Aに入力されてそのHPF部42Aからフィルタ処理後の正弦成分sin(θc)が出力される。これと共に、余弦成分cosθがHPF部42Bに入力されてそのHPF部42Bからフィルタ処理後の余弦成分cos(θc)が出力される。
【0062】
ステップS4において処理部40は、フィルタ処理後の正弦成分sin(θc)及び余弦成分cos(θc)を合成して回転角の合成値θcを取得する。具体的には、処理部40の回転角算出部43が、例えば上式(5)に従って、回転角の合成値θcを算出する。
【0063】
ステップS5において処理部40は、フィルタ処理後の正弦成分sin(θc)及び余弦成分cos(θc)を合成して得られる回転角の合成値θcと、電流センサ11乃至13により検出される三相電流Iu乃至Iwの検出値とを取得する。そして処理部40は、取得した回転角の合成値θcと三相電流Iu乃至Iwの検出値とに基づいてd軸及びq軸の電流Id及びIqを測定する。
【0064】
具体的には、処理部40の座標変換部44が、例えば上式(4)の回転角θ及び三相電流Iu乃至Iwに対し、合成値θc及び電流センサ11乃至13の検出値を代入してd軸電流Idの測定値及びq軸電流Iqの測定値を演算する。その後、処理部40は、例えば上式(6)を利用して、演算した測定値に基づきモータ2のトルクを推定する。
【0065】
ステップS5の処理が完了すると、図3に示した電流測定方法についての一連の処理手順が終了する。
【0066】
次に、電流測定システム1により得られる測定結果の精度について図4を参照して説明する。
【0067】
図4は、処理部40によって演算されるd軸電流Idの測定誤差を示す図である。図4では、横軸が三相電流Iu乃至Iwの周波数を示し、縦軸が測定誤差を示す。測定誤差については、電流センサ11乃至13に起因する位相誤差が生じない理想的な電流測定システムでの測定結果を基準としている。
【0068】
図4には、第一実施形態に係る電流測定システム1での測定誤差の周波数特性が実線により示され、電流測定システム1のうちHPF部42A及び42Bのみ取り除いた一般的な構成での測定誤差の周波数特性が破線により示されている。
【0069】
第一実施形態の測定誤差は、低域において三相電流Iu乃至Iwの検出値に含まれる位相誤差が小さくなるようHPF部42A及び42Bにより回転角の合成値θcが調整される。これにより、図4に示すように、第一実施形態の測定誤差は低域において一般的な構成での測定誤差に比べて小さくなっている。
【0070】
図4にはd軸電流Idの測定誤差に対する周波数特性が示されているが、q軸電流Iqについても同様の周波数特性となる。このため、同期検波部41と回転角算出部43との間にHPF部42A及び42Bを配置することにより、低域においてd軸電流Id及びq軸電流Iqの測定誤差が低減される。
【0071】
次に、第一実施形態による作用効果について説明する。
【0072】
第一実施形態の電流測定方法は、交流電動機としてのモータ2に流れる三相電流Iu乃至Iwを検出する複数の電流センサ11乃至13と、モータ2の回転角θを検出する角度センサとして機能するレゾルバ20と、を用いてモータ2におけるd軸及びq軸の電流を測定する。三相電流Iu乃至Iwを検出する電流センサ11乃至13は、図2A及び図2Bに示すような高域通過特性を有する。
【0073】
上記の電流測定方法は、レゾルバ20の出力信号に基づいて回転角θの正弦成分sinθ及び余弦成分cosθを取得する取得ステップ(S2)と、正弦成分sinθ及び余弦成分cosθに対し、電流センサ11乃至13の高域通過特性に相当する周波数特性を有するフィルタを用いてフィルタ処理を施す処理ステップ(S3)と、を含む。さらに電流測定方法は、フィルタ処理後の正弦成分sin(θc)及び余弦成分cos(θc)を合成して得られる回転角の合成値θcと複数の電流センサ11乃至13により検出される三相電流Iu乃至Iwの検出値とに基づいてd軸及びq軸の電流を測定する測定ステップ(S5)を含む。
【0074】
また、第一実施形態のプログラムは、複数の電流センサ11乃至13の出力信号、及びレゾルバ20の出力信号を取得するコンピュータに、上述した取得ステップ(S2)、処理ステップ(S3)及び測定ステップ(S5)を実行させる。
【0075】
また、第一実施形態の電流測定システム1は、複数の電流センサ11乃至13と、レゾルバ20と、同期検波部41と、HPF部42A及び42Bと、座標変換部44と、を含む。
【0076】
上記の電流測定システム1において、同期検波部41は、レゾルバ20の出力信号に基づいて回転角の正弦成分sinθ及び余弦成分cosθを取得する取得手段として機能する。また、HPF部42A及び42Bは、正弦成分sinθ及び余弦成分cosθに対し、電流センサ11乃至13の高域通過特性に相当する周波数特性を有するフィルタを用いてフィルタ処理を施す処理手段として機能する。さらに座標変換部44は、フィルタ処理後のsin(θc)及び余弦成分cos(θc)を合成して得られる回転角の合成値θcと複数の電流センサ11乃至13により検出される三相電流Iu乃至Iwの検出値とに基づいてd軸及びq軸の電流を測定する測定手段として機能する。
【0077】
これらの構成によれば、回転角の正弦成分sinθ及び余弦成分cosθに対して電流センサ11乃至13の高域通過特性に相当する周波数特性のフィルタ処理が施される。これにより、フィルタ処理後の回転角のsin(θc)及び余弦成分cos(θc)の合成値θcには、電流センサ11乃至13による低域での位相誤差が加味される。
【0078】
それゆえ、位相誤差が加味された回転角の合成値θcを用いて三相電流Iu乃至Iwをd軸及びq軸の電流Id及びIqに変換する際に、三相電流Iu乃至Iwの検出値に含まれる位相誤差が回転角の合成値θcによって相殺される。それゆえ、d軸電流Id及びq軸電流Iqの測定誤差を低減することができる。
【0079】
このように、第一実施態様によれば、高域通過特性を有する電流センサ11乃至13を用いてモータ2のd軸電流Id及びq軸電流Iqを精度よく測定することができる。
【0080】
また、第一実施形態の電流センサ11乃至14は、ロゴスキーコイル10Aを含む。
【0081】
ロゴスキーコイル10Aを採用することにより、モータ2に接続される三本の電線間のスペースが狭い状況であっても、電流センサ11乃至13の各々を通すことが可能となる。例えば、モータ2及びインバータ3などを一体化した駆動ユニットにおいて電線間の隙間が狭いような状況でも電流センサ11乃至13をそれぞれ電線の周囲に環状に配設することが可能となる。
【0082】
また、ロゴスキーコイル10Aを採用することにより、電流センサ11乃至13に可撓性を持たせやすくなるので、電線間に電流センサ11乃至13の各々を通す際に周囲の部材を傷つけることを抑えることができる。
【0083】
また、第一実施形態の電流測定方法において、取得ステップ(S2)、処理ステップ(S3)及び測定ステップ(S5)は、一又は複数のハードウェアにより実行される。
【0084】
この構成によれば、リアルタイムでd軸電流Id及びq軸電流Iqを精度よく測定することが可能となる。したがって、d軸電流Id及びq軸電流Iqの測定値に基づくモータ2のトルク制御を実現したり、モータ2の異常を検知して即座にモータ2を停止したりすることが可能となる。
【0085】
また、第一実施形態の電流測定方法において、取得ステップ(S2)、処理ステップ(S3)及び測定ステップ(S5)を実行するハードウェアは、図1に示すように、デジタル回路である。
【0086】
この構成によれば、アナログ回路が不要になるので、信号処理が容易となる。したがって、上記ハードウェアを簡素な回路構成にしつつ、不具合が生じ得る箇所を削減することができる。
【0087】
一方、取得ステップ(S2)、処理ステップ(S3)及び測定ステップ(S5)を実行するハードウェアとしては、デジタル回路に代えてアナログ回路が採用されてもよい。この場合には、デジタル処理に起因するサンプリング誤差が生じないため、デジタル回路に比べて測定精度の低下を抑制することができる。
【0088】
また、第一実施形態の電流測定方法において、取得ステップ(S2)、処理ステップ(S3)及び測定ステップ(S5)は、ハードウェアに代えてソフトウェアにより実行されてもよい。
【0089】
この構成によれば、ハードウェアが不要となる。したがって、ハードウェアを採用する場合に比べて電流測定方法の実施に要するコストを削減することができる。
【0090】
なお、第一実施形態では電流センサ11乃至13及びHPF部42A及び42Bの高域通過特性の一例を図3A及び図3Bに示したが、高域通過特性は、これに限られるものではない。
【0091】
次に、電流センサ11乃至13及びHPF部42A及び42Bの高域通過特性の変形例について図5A及び図5Bを参照して説明する。
【0092】
図5Aは、電流センサ11乃至13及びHPF部42A及び42Bの振幅ゲイン周波数特性の他の例を示す図である。図5Bは、図5Aに示した振幅ゲイン周波数特性に対応する位相周波数特性を示す図である。
【0093】
図5A及び図5Bには、フィルタのカットオフ周波数を10[Hz]とし、次数を1次とし、Q値を0.5として設計された周波数特性が示されている。
【0094】
図5Aに示すように、周波数が約10[Hz]よりも高い高域の周波数帯域においては振幅ゲインが一定であり、周波数が約10[Hz]よりも低い低域の周波数帯域においては、周波数が低くなるにつれて振幅ゲインが低下する。
【0095】
図5Bに示すように、図5Aに示した高域通過特性を有する電流センサ11乃至13の位相周波数特性についても、低域において周波数が低くなるにつれて位相が進む。
【0096】
本変形例においても、HPF部42A及び42Bの周波数特性は、図5A及び図5Bに示した電流センサ11乃至13の高域通過特性と同等の周波数特性となるよう設計される。具体的には、HPF部42A及び42Bの周波数特性が電流センサ11乃至13の規定パラメータと同等の数値となるように設計される。
【0097】
次に、第二実施形態の構成について図6を参照して説明する。
【0098】
図6は、第二実施形態の電流測定システム1Aの構成を示す図である。
【0099】
電流測定システム1Aは、図1に示した電流測定システム1を構成するレゾルバ20、AD変換器33乃至36、及び処理部40に代えて、ロータリエンコーダ21及び処理部40Aを備えている。処理部40Aは、処理部40の同期検波部41に代えてパルス変換部41A及び分離部41Bを備えている。
【0100】
電流測定システム1Aのうち他の構成については、第一実施形態の電流測定システム1と同一の構成である。このため、ここでは、第一実施形態とは異なるロータリエンコーダ21、パルス変換部41A及び分離部41Bについてのみ説明する。
【0101】
ロータリエンコーダ21は、モータ2の回転角を検出する角度センサとして機能する。
【0102】
ロータリエンコーダ21は、公知の構成であり、例えば、一又は複数の発光素子を有する発光部と、A相信号、B信号及びZ相信号用のスリットを有しモータ2の回転軸と共に回転するディスクと、ディスクを通過する光を検出する受光部と、を含む。ロータリエンコーダ21は、パルス列のA相信号、B相信号及びZ相信号をそれぞれ出力する。
【0103】
パルス変換部41A及び分離部41Bは、ロータリエンコーダ21の出力信号に基づいて回転角θのsinθ及び余弦成分cosθを取得する取得手段として機能する。
【0104】
パルス変換部41Aは、A相信号、B相信号及びZ相信号をモータ2の回転角θに変換する。パルス変換部41Aは、変換された回転角θを分離部41Bに出力する。
【0105】
分離部41Bは、パルス変換部41Aから出力された回転角θを正弦成分sinθ及び余弦成分cosθに分離する。分離部41Bは、分離された正弦成分sinθ及び余弦成分cosθをそれぞれHPF部42A及び42Bに出力する。
【0106】
このように、ロータリエンコーダ21を採用することにより、第一実施形態と同様、モータ2の回転角θの正弦成分sinθ及び余弦成分cosθを取得することができる。
【0107】
これにより、HPF部42A及び42Bにおいて電流センサ11乃至13の高域通過特性に相当する周波数特性のフィルタ処理が正弦成分sinθ及び余弦成分cosθに施される。そして回転角算出部43において、フィルタ処理後の正弦成分sin(θc)及び余弦成分cos(θc)を合成した回転角の合成値θcが算出される。
【0108】
したがって、第二実施形態においても、第一実施形態と同様、電流センサ11乃至13による三相電流Iu乃至Iwの検出値の位相誤差成分が回転角の合成値θcにより抑制される。これにより、d軸電流Id及びq軸電流Iqを精度よく測定することができる。
【0109】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0110】
例えば、上記実施形態では角度センサとしてレゾルバ20及びロータリエンコーダ21を例に挙げたが、モータ2の回転角θを検出するものであれば、これらに限られるものではない。
【0111】
また、上記実施形態では電流センサ11乃至13としてロゴスキーコイル10Aを例に挙げたが、高域通過特性を有するものであれば、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0112】
1、1A 電流測定システム
10A ロゴスキーコイル
11~13 電流センサ
20 レゾルバ(角度センサ)
21 ロータリエンコーダ(角度センサ)
40、40A 処理部(ハードウェア)
41 同期検波部(取得手段)
41A、41B パルス変換部、分離部(取得手段)
42A、42B HPF部(処理手段)
44 座標変換部(測定手段)
S2、S3、S5(取得ステップ、処理ステップ、測定ステップ)
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6