IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイドードリンコ株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 筑波大学の特許一覧

特開2024-93825加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用
<>
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図1
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図2
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図3A
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図3B
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図3C
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図4
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図5
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図6
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図7
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図8
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図9
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図10
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図11
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図12
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図13
  • 特開-加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093825
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240702BHJP
   A61K 31/4425 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/4425
A61P25/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210409
(22)【出願日】2022-12-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 共創の場形成支援(共創の場形成支援プログラム)「つくば型デジタルバイオエコノミー社会形成の国際拠点形成にかかる国立大学法人筑波大学による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】595135774
【氏名又は名称】ダイドーグループホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】細谷 雄太
(72)【発明者】
【氏名】坂本 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】北端(香川) 珠実
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真司
(72)【発明者】
【氏名】フェルドウシ ファラハナ
(72)【発明者】
【氏名】シャルミン アクタル
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD61
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA15
(57)【要約】
【課題】加齢に伴う学習・記憶機能低下を改善する技術を提供する。
【解決手段】トリゴネリン(CAS番号:535-83-1)を有効成分として含有する、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤;トリゴネリンを有効成分として含有する、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善用食品組成物;トリゴネリンを有効成分として含有する食品組成物を摂取させる工程を含む、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く。)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリゴネリン(CAS番号:535-83-1)を有効成分として含有する、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤。
【請求項2】
トリゴネリンを有効成分として含有する、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善用食品組成物。
【請求項3】
機能性表示食品又は特定保健用食品である、請求項2に記載の加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善用食品組成物。
【請求項4】
サプリメントである、請求項2に記載の加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善用食品組成物。
【請求項5】
トリゴネリンを有効成分として含有する食品組成物を摂取させる工程を含む、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤及びその使用に関する。より詳細には、本発明は、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善用食品組成物、及び、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳機能の維持、向上、改善は、若年層から老年層まで幅広い世代で求められている。特に、加齢に伴う学習・記憶機能低下は、今後ますます進む高齢化社会において社会問題となっており、その対策が求められている。加齢に伴い進行する脳の炎症と神経変性は、加齢に伴う学習・記憶機能低下の原因の一つであると考えられている。
【0003】
ところで、トリゴネリン(CAS番号:535-83-1)は、下記式(1)で表される構造を有する植物アルカロイドの一種である。
【0004】
【化1】
【0005】
非特許文献1には、アルツハイマー病モデルマウスにおいて、トリゴネリンの投与により記憶機能の改善が認められたことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Farid M. M., et. al., Trigonelline recovers memory function in Alzheimer’s disease model mice: evidence of brain penetration and target molecule, Scientific Reports, 10, 16424, 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、加齢に伴う学習・記憶機能低下を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
[1]トリゴネリン(CAS番号:535-83-1)を有効成分として含有する、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤。
[2]トリゴネリンを有効成分として含有する、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善用食品組成物。
[3]機能性表示食品又は特定保健用食品である、[2]に記載の加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善用食品組成物。
[4]サプリメントである、[2]に記載の加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善用食品組成物。
[5]トリゴネリンを有効成分として含有する食品組成物を摂取させる工程を含む、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く。)。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加齢に伴う学習・記憶機能低下を改善する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実験例1におけるMTTアッセイの結果を示すグラフである。
図2図2は、実験例2におけるモリス水迷路試験の結果を示すグラフである。
図3A図3Aは、実験例3において、生理食塩水を投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMR1マウスの間で発現量に差が認められた遺伝子を示すボルケーノプロットである。
図3B図3Bは、実験例3において、トリゴネリンを5mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMP8マウスの間で発現量に差が認められた遺伝子を示すボルケーノプロットである。
図3C図3Cは、実験例3において、トリゴネリンを50mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMP8マウスの間で発現量に差が認められた遺伝子を示すボルケーノプロットである。
図4図4は、実験例3における遺伝子オントロジー(GO)分析の結果を示すグラフである。
図5図5は、実験例4において、実験例3で行った、海馬における網羅的トランスクリプトーム解析の結果に基づいて、炎症に関わる遺伝子の発現量を示したヒートマップである。
図6図6は、実験例4において、マウス海馬におけるTNFαの発現量をELISAで測定した結果を示すグラフである。
図7図7は、実験例4において、マウス海馬におけるIL6の発現量をELISAで測定した結果を示すグラフである。
図8図8は、実験例5において、実験例3で行った、海馬における網羅的トランスクリプトーム解析の結果に基づいて、SAMP8対照マウス及びトリゴネリンを投与したマウスの海馬で発現量が有意に変化した遺伝子の発現量を示したヒートマップである。
図9図9は、実験例5において、マウス海馬におけるドーパミンの産生量をELISAで測定した結果を示すグラフである。
図10図10は、実験例5において、マウス海馬におけるノルアドレナリンの産生量をELISAで測定した結果を示すグラフである。
図11図11は、実験例5において、マウス海馬におけるBDNFの産生量をELISAで測定した結果を示すグラフである。
図12図12は、実験例5において、マウス海馬におけるセロトニン(5-HT)の産生量をELISAで測定した結果を示すグラフである。
図13図13は、実験例6において、定量的リアルタイムPCRによりTNFα遺伝子の発現量を定量した結果を示すグラフである。
図14図14は、実験例6において、定量的リアルタイムPCRによりIL6遺伝子の発現量を定量した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤]
一実施形態において、本発明は、トリゴネリン(CAS番号:535-83-1)を有効成分として含有する、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤を提供する。
【0012】
実施例において後述するように、発明者らは、トリゴネリンの投与により、老化促進モデルマウスであるSAMP8マウスにおける、空間学習及び記憶機能の低下が改善されることを明らかにした。SAMP8マウスは、12週齢から空間学習障害を示し、16週齢から空間学習と記憶の喪失を示す。
【0013】
発明者らはまた、トリゴネリンの投与により、SAMP8マウスの海馬において、加齢に伴って上昇した炎症性サイトカインレベルが低下し、神経炎症を予防できることを明らかにした。発明者らはまた、ヒト神経芽腫細胞株であるSH-SY5Y細胞において、トリゴネリンの培地への添加により、リポポリサッカライド(LPS)で誘発した神経炎症が抑制されることを明らかにした。この結果は、トリゴネリンが、ヒトにおいても神経炎症抑制作用を示すことを支持するものである。
【0014】
発明者らはまた、トリゴネリンの投与により、SAMP8マウスの海馬において、加齢に伴って低下した神経伝達物質レベルを回復させることができることを明らかにした。
【0015】
発明者らはまた、トリゴネリンの投与が、SAMP8マウスの脳や神経系の発達を促進することを明らかにした。発明者らはまた、トリゴネリンの投与が、ヒト神経芽腫細胞株であるSH-SY5Y細胞の増殖を促進することを明らかにした。この結果は、トリゴネリンが、ヒトにおいても神経新生作用を示すことを支持するものである。
【0016】
以上のことから、本実施形態の改善剤は、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善に非常に有用である。ここで、学習機能としては、特に限定されず、例えば、空間学習機能が挙げられる。
【0017】
なお、アルツハイマー病は、アミロイドベータ(Aβ)タンパク質の蓄積による脳組織の変性を特徴とする疾患であり、精神疾患や通常の老齢化とは異なることが知られている。このため、アルツハイマー病による認知機能の低下と、加齢に伴う学習・記憶機能低下は異なる。
【0018】
本実施形態の改善剤において、「有効成分とする」とは、トリゴネリンを、加齢に伴う学習・記憶機能低下を改善させるのに十分な量を含むことを意味する。あるいは、トリゴネリンを主要な活性成分として含むことを意味する。
【0019】
本実施形態の改善剤は、薬学的に許容される担体と組み合わせた組成物として、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤等の形態で経口的に投与してもよいし、後述する食品組成物の形態で経口的に投与してもよい。
【0020】
薬学的に許容される担体としては、通常医薬組成物の製剤に用いられるものを特に制限なく用いることができる。より具体的には、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤;デンプン、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤;水、エタノール、グリセリン等の溶剤等が挙げられる。
【0021】
組成物は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン、マルチトール等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
【0022】
本実施形態の改善剤の投与量は、対象の症状、体重、年齢、性別等によって異なる場合があり、一概には決定できないが、成人1日あたり、例えば10mg以上、例えば20mg以上、例えば30mg以上、例えば40mg以上、例えば50mg以上、例えば60mg以上、例えば70mg以上、例えば80mg以上、例えば90mg以上、例えば100mg以上、例えば150mg以上、例えば180mg以上、例えば200mg以上、例えば300mg以上、例えば400mg以上の有効成分(トリゴネリン)を投与することが適切であると考えられる。また、本実施形態の改善剤の投与量の上限としては、成人1日あたり、例えば500mg以下、例えば400mg以下、例えば300mg以下、例えば200mg以下、例えば100mg以下の有効成分(トリゴネリン)を投与することが適切であると考えられる。上記の下限及び上限は任意に組み合わせることができる。改善剤は、1日あたり1回又は2~4回程度若しくはそれ以上に分けて投与してもよく、1日あたりの投与量が上記の範囲である限り、いつ投与しても構わない。
【0023】
[加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善用食品組成物]
一実施形態において、本発明は、トリゴネリンを有効成分として含有する、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善用食品組成物を提供する。本実施形態の食品組成物は、上述した、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤を含むものである。
【0024】
本実施形態の食品組成物を摂取することにより、ヒト又は非ヒト動物において、加齢に伴う学習・記憶機能低下を改善させることができる。本実施形態の食品組成物は、神経新生促進用食品組成物等といいかえることもできる。
【0025】
本実施形態の食品組成物の好ましい摂取量は、上述した改善剤と同様であり、成人1日あたり、例えば10mg以上、例えば20mg以上、例えば30mg以上、例えば40mg以上、例えば50mg以上、例えば60mg以上、例えば70mg以上、例えば80mg以上、例えば90mg以上、例えば100mg以上、例えば150mg以上、例えば180mg以上、例えば200mg以上、例えば300mg以上、例えば400mg以上の有効成分(トリゴネリン)を摂取できる量とすることが適切であると考えられる。また、本実施形態の食品組成物の摂取量の上限としては、成人1日あたり、例えば500mg以下、例えば400mg以下、例えば300mg以下、例えば200mg以下、例えば100mg以下の有効成分(トリゴネリン)を摂取できる量とすることが適切であると考えられる。上記の下限及び上限は任意に組み合わせることができる。食品組成物は、1日あたり1回又は2~4回程度若しくはそれ以上に分けて摂取してもよく、1日あたりの摂取量が上記の範囲である限り、いつ摂取しても構わない。
【0026】
本実施形態の食品組成物は、例えば、サプリメントの形態であってもよいし、飲料の形態であってもよいし、固形状、半固形状又はゲル状の食品の形態であってもよいし、任意の調理済み食品の形態等であってもよい。
【0027】
サプリメントの形状としては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の形状が挙げられる。飲料としては、コーヒー、茶、紅茶、スポーツドリンク、果実・野菜飲料、炭酸飲料等が挙げられる。食品としては、例えば、コーヒーゼリー等が挙げられる。
【0028】
また、食品を収容する容器は特に限定されず、缶、びん、ペットボトル、パウチ、プラスチック容器等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の食品組成物において、有効成分(トリゴネリン)は、もともと食品に含まれているものであってもよいし、添加したものであってもよい。トリゴネリンは比較的熱に弱いため、有効量のトリゴネリンを含有する食品を製造するためには、加熱処理を制限する等の処理が必要になる場合がある。
【0030】
本実施形態の食品組成物は、機能性表示食品であってもよい。機能性表示食品とは、科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示するものとして、消費者庁に届け出られた食品を意味する。当該表示として、例えば、「加齢に伴う学習・記憶機能低下を改善する」、「中高年の方の認知機能を向上させる」、「中高年の方の加齢に伴い低下する、認知機能の一部である記憶力を維持させる」等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本実施形態の食品組成物は、特定保健用食品であってもよい。特定保健用食品とは、健康の維持増進に役立つことが科学的根拠に基づいて認められ、その効果の表示が許可されている食品を意味する。表示されている効果や安全性については国が審査を行い、食品ごとに消費者庁長官により許可される。
【0032】
[加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善方法]
一実施形態において、本発明は、トリゴネリンを有効成分として含有する食品組成物を摂取させる工程を含む、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く。)を提供する。
【0033】
本実施形態の改善方法において、医療行為とは、医師(医師の指示を受けた者を含む。)がヒトに対して治療を実施する行為を意味する。
【0034】
本実施形態の改善方法には、例えば、飲食店等において、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善を目的として、トリゴネリンを有効成分として含有する食品組成物を対象に摂取させる行為等が含まれる。
【0035】
ここで、対象はヒトであってもよいし、非ヒト動物であってもよい。非ヒト動物としては、イヌ、ネコ等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0036】
本実施形態の改善方法において、対象に摂取させる食品組成物の好ましい量は、食品組成物について上述したものと同様である。
【0037】
[その他の実施形態]
一実施形態において、本発明は、トリゴネリンの有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善方法を提供する。
【0038】
一実施形態において、本発明は、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善に使用するためのトリゴネリンを提供する。
【0039】
一実施形態において、本発明は、加齢に伴う学習・記憶機能低下の改善剤を製造するためのトリゴネリンの使用を提供する。
【実施例0040】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[材料及び方法]
(インビトロ実験)
《細胞及び細胞培養》
ヒト神経芽腫細胞株であるSH-SY5Y細胞を使用した。SH-SY5Y細胞はATCCより入手した。SH-SY5Y細胞は、DMEMとHam’s F-12 nutrient mixtureを1:1(v:v)で混合したもの(DMEM/F12)に、15%ウシ胎児血清(FBS)、1%非必須アミノ酸(NEAA、富士フイルム和光純薬)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加した培地を用いて、37℃、95%空気/5%CO、湿潤環境のインキュベーター内で培養した。
【0042】
SH-SY5Y細胞は、接着単層培養で増殖し、コンフルエントに達した時点で、細胞剥離試薬(TrypLE Express、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて継代した(3~4日毎。最大8継代)。
【0043】
《3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイ》
MTTアッセイにより、SH-SY5Y細胞の代謝活性と細胞生存率を測定した。MTTの比色反応を使用してミトコンドリアの酸化還元酵素活性を評価し、酵素の作用を細胞生存率に変換した。
【0044】
2×10個/ウェルの細胞を、15%FBS、1%NEAA及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加した、DMEM/F12中、ポリ-L-リジンコートした96ウェルプレートで24時間培養した。続いて、細胞を、異なる濃度のトリゴネリンを含む、血清含有量を低下させたOpti-MEM培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック)中で24時間インキュベートした。続いて、培地をMTT溶液に交換し、12時間インキュベートした。続いて、10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加し、マイクロプレートリーダー(Varioskan LUX、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用して、570nmの吸光度を測定した。
【0045】
《定量的リアルタイムPCR》
単離したRNAを、SuperScript IV VILO Master Mix(アプライドバイオシステムズ)を用いて、取扱説明書にしたがって逆転写した。続いて、アプライドバイオシステムズ7500RT-PCRシステムを用い、次のようにして定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)を行った。50℃2分間、95℃10分間、続いてPCR反応45サイクル(95℃15秒間、60℃1分間)。
【0046】
使用したプライマーは、ヒトGAPDH(Hs02786624_g1、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、ヒトTNFα(Hs00174128_m1、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、ヒトIL6(Hs00174131_m1、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、マウスTNFα(Mm00443258_m1、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、マウスIL6(Mm00446190_M1、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、マウスGAPDH(Mm99999915_g1、サーモフィッシャーサイエンティフィック)であった。
【0047】
(インビボ実験)
《動物》
インビボ実験には、16週齢のSAMP8マウス(日本SLC)を使用した。SAMP8マウスは、12週齢から空間学習障害を示し、16週齢から空間学習と記憶の喪失を示す。SAMP8マウスの対照として、老化促進モデルマウス(senescence accelerated mouse、SAM)関連の遺伝子型を持ち、老化促進に対する耐性を示すsenescence-accelerated mouse resistant 1(SAMR1)マウスを使用した。マウスは、制御された温度(21~23℃)及び日長(12時間、明/暗)、自由摂食、自由飲水下で、個別に飼育した。
【0048】
全ての動物実験は日本生理学会評議会のガイドラインにしたがって行われ、実験プロトコールは、筑波大学動物実験委員会の承認(18-356)を得て行った。
【0049】
《トリゴネリンの投与》
1週間順化させた後、SAMP8マウスを無作為に生理食塩水投与群(n=8)とトリゴネリン投与群(n=8)に分けた。SAMR1生理食塩水投与群(n=8)を通常の老化対照として飼育した。トリゴネリンをミリQ水に溶解し、SAMP8マウスに、1日1回、5mg/kg又は50mg/kgの投与量で30日間経口投与した。この投与量は発明者らの過去の研究に基づいて決定した。
【0050】
SAMP8対照群及びSAMR1マウスに、トリゴネリン投与群におけるトリゴネリンと等容量の生理食塩水を投与した。30日間のトリゴネリンの投与完了後、8日間行動試験を行い、その間トリゴネリンの投与を継続した。
【0051】
《モリス水迷路試験》
マウスの学習能力及び記憶能力を評価するために、モリス水迷路試験(MWM試験)を行った。水迷路は、23±2℃に保たれた水(深さ30cm)で満たされた円形のプール(直径120cm、高さ45cm)で構成されていた。プールには4つの領域を設定した。1つの領域の中間の水面下1cmに目に見えない脱出プラットフォーム(直径10cm)を設置した。
【0052】
試験では、マウスは60秒以内に泳いで脱出プラットフォームに着地し、水から逃げることができた(逃避潜時、escape latency)。マウスは、7日間、毎日4回のテストを受けた。最終日に、脱出プラットフォームを除去し、マウスを自由に60秒間泳がせた。そして、脱出プラットフォームが配置されていた位置を通過した回数と、ターゲット領域で費やされた時間を記録した。
【0053】
《ELISA》
マウスを安楽死させ、氷上で、摘出した脳から海馬を分離し、プロテアーゼ阻害剤を含むRIPA溶解バッファー(サンタクルーズ)中で超音波処理してホモジナイズした。続いて、ホモジネートを16,000×gで20分間遠心分離し、得られた上清を使用してELISAにより神経伝達物質を測定した。
【0054】
組織中のモノアミンレベル(ドーパミン、ノルアドレナリン、Brain-derived neurotrophic factor(BDNF)、及びセロトニン(5-HT))を、サンドイッチELISAで測定した。ELISAキットとしては、ドーパミン(BA-E-5300R、ImmuSmol)、ノルアドレナリン(BA-E-5200R、ImmuSmol)、BDNF(KE00096、Proteintech)、セロトニン(BA-E-5900R、ImmuSmol)を使用した。
【0055】
また、TNF-α及びIL6レベルを、ELISAキット(BioVision)を用いて取扱説明書にしたがって測定した。また、2D Quantキット(GEヘルスケア)を使用して、各神経伝達物質レベルを総タンパク質濃度に正規化した。
【0056】
(マイクロアレイを用いた遺伝子発現プロファイリング)
マウス海馬から抽出したRNAサンプルを、3’ IVT PLUS Reagent Kit(アフィメトリックス)で増幅しビオチン化した。
【0057】
続いて、ハイブリダイゼーションステーションにおいて、ビオチン化相補的RNA(cRNA)を、45℃で16時間、Affymetrix Mouse Genome 430 PMアレイストリップ(アフィメトリックス)にハイブリダイズさせた。続いて、ハイブリダイズしたアレイを洗浄し、染色し、GeneAtlas Fluidics and Imaging Stationを用いてスキャンした。
【0058】
続いて、Expression Console ソフトウェア(アフィメトリックス)のrobust multichip analysis (RMA) 要約アルゴリズムを使用して、プローブ強度ファイル(CELファイル)から遺伝子レベル情報(CHPファイル)を取得した。得られたデータのその後の分析は、Transcriptome Analysis Console(TAC)バージョン4ソフトウェア(サーモフィッシャーサイエンティフィック)で実行した。マイクロアレイ分析は、各グループの2つのmRNA試料に対して実施した。遺伝子オントロジー(GO)分析には、p値が0.05未満の差次的に発現する遺伝子(DEG)(被験者間一元配置分散分析)を使用した。
【0059】
Gene Set Enrichment Analysis(GSEA)WebツールのMolecular Signatures Database(MSigDB)を使用して、遺伝子セットが2つの生物学的状態間で統計的に有意で一致する違いを示すかどうかを判断した。
【0060】
グラフィカルプレゼンテーションは、Microsoft Excel 2016(マイクロソフト)で生成した。ヒートマップは、Morpheusソフトウェアを使用して生成した。ベン図は、オープンソースツールを使用して作成した。マイクロアレイデータセットは、Gene Expression Omnibus(GEO)に登録した。
【0061】
《統計分析》
特に明記しない限り、データは平均±標準誤差(SEM)として表示した。正規分布は、Shapiro-Wilk正規性検定によって検定した。スチューデントのt検定(対応のない)により、2つのグループ間の有意差を決定した。一元配置分散分析(ANOVA)とそれに続くダネットの事後検定により、各処理条件を単一の対照群と比較した。
【0062】
様々な時点での処理群間の生細胞数の違いは、双方向ANOVAとそれに続くSidakの事後検定を使用して評価した。インビトロ実験では、異なる時点での処理群間の逃避時間の差を、フィッシャーのLSD検定による双方向反復測定ANOVAを使用して評価した。
【0063】
他の行動試験は、一元配置又は二元配置(反復測定)のANOVAと正規分布データのフィッシャーのLSDテストを使用して比較した。非正規分布データの場合、Kruskal-Wallis検定に続いてDunnの事後検定を実行した。有意水準はα<0.05に設定した。
【0064】
すべての統計分析とグラフ表示は、GraphPad Prism 8(GraphPad)を使用して実行した。
【0065】
[実験例1]
(トリゴネリンによる神経新生作用の検討)
0、5、10、20、40、80μMのトリゴネリンの存在下で、ヒト神経芽腫細胞株であるSH-SY5Y細胞を24時間培養し、MTTアッセイにより細胞生存率を測定した。図1は、MTTアッセイの結果を示すグラフである。図1中、「*」はp<0.05で有意差が存在することを示す。その結果、トリゴネリンの存在下でSH-SY5Y細胞の増殖促進が認められ、トリゴネリンが神経新生作用を有することが明らかとなった。
【0066】
[実験例2]
(老化促進モデルマウスの学習・記憶能力に対するトリゴネリンの影響の検討)
老化促進マウスとして、SAMP8マウスを使用した。1日1回、トリゴネリンを5mg/kg又は50mg/kgの投与量で30日間経口投与したSAMP8マウスをモリス水迷路試験に供し、学習・記憶能力を評価した。対照として、生理食塩水を投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMR1マウスをモリス水迷路試験に供した。
【0067】
図2は、モリス水迷路試験の結果を示すグラフである。図2中、「SAMR1+Saline」は生理食塩水を投与したSAMR1マウスの結果であることを示し、「SAMP8+Saline」は生理食塩水を投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+5TGR」はトリゴネリンを5mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+50TGR」はトリゴネリンを50mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示す。また、「*」は、生理食塩水を投与したSAMP8マウスに対してp<0.05で有意差が存在することを示す。
【0068】
その結果、トリゴネリンの投与により、老化促進マウスの学習・記憶能力が有意に改善することが明らかとなった。
【0069】
[実験例3]
(網羅的トランスクリプトーム解析)
1日1回、トリゴネリンを5mg/kg又は50mg/kgの投与量で30日間経口投与したSAMP8マウスを安楽死させ、海馬からRNAを抽出し、網羅的トランスクリプトーム解析を行った。対照として、生理食塩水を投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMR1マウスについても同様の解析を行った。
【0070】
図3A図3Cは、網羅的トランスクリプトーム解析の結果、発現量に差が認められた遺伝子を示すボルケーノプロットである。図3Aは、生理食塩水を投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMR1マウスの間で発現量に差が認められた遺伝子を示す。図3Bは、トリゴネリンを5mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMP8マウスの間で発現量に差が認められた遺伝子を示す。図3Cは、トリゴネリンを50mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMP8マウスの間で発現量に差が認められた遺伝子を示す。図3A図3C中、縦軸は-log10(p値)を示し、横軸は線形fold changeを示す。その結果、トリゴネリンの投与により遺伝子発現が変化することが明らかとなった。
【0071】
下記表1に、トリゴネリンの投与により遺伝子発現が下方制御された上位10個の遺伝子を示す。
【0072】
【表1】
【0073】
下記表2に、トリゴネリンの投与により遺伝子発現が上方制御された上位10個の遺伝子を示す。
【0074】
【表2】
【0075】
図4は、遺伝子オントロジー(GO)分析の結果を示すグラフである。トリゴネリンを5mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスにおいて、生理食塩水を投与したSAMP8マウスと比較して発現量が上昇した遺伝子(fold change>1)の上位35位までを棒グラフで示す。その結果、有意に濃縮された生物学的機能は、中脳の発達、化学シナプス伝達、神経系の発達、軸索誘導、樹状突起スパインの発達の正の制御、細胞死の負の制御視神経発達等であった。
【0076】
[実験例4]
(トリゴネリン投与による老化促進モデルマウスの海馬における炎症性サイトカインの発現抑制作用)
図5は、実験例3で行った、海馬における網羅的トランスクリプトーム解析の結果に基づいて、炎症に関わる遺伝子の発現量を示したヒートマップである。図5中、「SAMP8 cont vs SAMR1 cont」は、生理食塩水を投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMR1マウスにおける遺伝子発現量を比較した結果であることを示し、「SAMP8 TG5 vs SAMP8 cont」は、トリゴネリンを5mg/kgの投与量で30日間経口投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMP8マウスにおける遺伝子発現量を比較した結果であることを示し、「SAMP8 TG50 vs SAMP8 cont」は、トリゴネリンを50mg/kgの投与量で30日間経口投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMP8マウスにおける遺伝子発現量を比較した結果であることを示す。
【0077】
図6は、マウス海馬におけるTNFαの発現量をELISAで測定した結果を示すグラフである。図6中、「SAMR1+Saline」は生理食塩水を投与したSAMR1マウスの結果であることを示し、「SAMP8+Saline」は生理食塩水を投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+5mg/kg TG」はトリゴネリンを5mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+50mg/kg TG」はトリゴネリンを50mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示す。また、「*」はp<0.05で有意差が存在することを示し、「**」はp<0.01で有意差が存在することを示し、「***」はp<0.001で有意差が存在することを示す。
【0078】
その結果、トリゴネリンの投与により、炎症性サイトカインであるTNFαの海馬における発現が抑制されたことが確認された。
【0079】
図7は、マウス海馬におけるIL6の発現量をELISAで測定した結果を示すグラフである。図7中、「SAMR1+Saline」は生理食塩水を投与したSAMR1マウスの結果であることを示し、「SAMP8+Saline」は生理食塩水を投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+5mg/kg TG」はトリゴネリンを5mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+50mg/kg TG」はトリゴネリンを50mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示す。また、「*」はp<0.05で有意差が存在することを示し、「**」はp<0.001で有意差が存在することを示す。
【0080】
その結果、トリゴネリンの投与により、炎症性サイトカインであるIL6の海馬における発現が抑制されたことが確認された。
【0081】
[実験例5]
(トリゴネリン投与による老化促進モデルマウスの海馬における神経伝達物質産生に対する影響)
図8は、実験例3で行った、海馬における網羅的トランスクリプトーム解析の結果に基づいて、SAMP8対照マウス及びトリゴネリンを投与したマウスの海馬で発現量が有意に変化した遺伝子の発現量を示したヒートマップである。図8中、「SAMP8 cont vs SAMR1 cont」は、生理食塩水を投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMR1マウスにおける遺伝子発現量を比較した結果であることを示し、「SAMP8 TG5 vs SAMP8 cont」は、トリゴネリンを5mg/kgの投与量で30日間経口投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMP8マウスにおける遺伝子発現量を比較した結果であることを示し、「SAMP8 TG50 vs SAMP8 cont」は、トリゴネリンを50mg/kgの投与量で30日間経口投与したSAMP8マウス及び生理食塩水を投与したSAMP8マウスにおける遺伝子発現量を比較した結果であることを示す。
【0082】
その結果、発現量が有意に変化した遺伝子は、主に神経伝達物質の放出、シナプス伝達、神経新生に関与していることが明らかとなった。
【0083】
図9は、マウス海馬におけるドーパミンの産生量をELISAで測定した結果を示すグラフである。図9中、「SAMR1+Saline」は生理食塩水を投与したSAMR1マウスの結果であることを示し、「SAMP8+Saline」は生理食塩水を投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+5mg/kg TG」はトリゴネリンを5mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+50mg/kg TG」はトリゴネリンを50mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示す。また、「*」はp<0.05で有意差が存在することを示し、「**」はp<0.001で有意差が存在することを示し、「***」はp<0.0001で有意差が存在することを示す。
【0084】
その結果、トリゴネリンの投与により、老化に伴って減少した、海馬におけるドーパミンの産生量が上昇したことが確認された。
【0085】
図10は、マウス海馬におけるノルアドレナリンの産生量をELISAで測定した結果を示すグラフである。図10中、「SAMR1+Saline」は生理食塩水を投与したSAMR1マウスの結果であることを示し、「SAMP8+Saline」は生理食塩水を投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+5mg/kg TG」はトリゴネリンを5mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+50mg/kg TG」はトリゴネリンを50mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示す。また、「*」はp<0.05で有意差が存在することを示し、「**」はp<0.001で有意差が存在することを示す。
【0086】
その結果、トリゴネリンの投与により、老化に伴って減少した、海馬におけるノルアドレナリンの産生量が上昇したことが確認された。
【0087】
図11は、マウス海馬におけるBDNFの産生量をELISAで測定した結果を示すグラフである。図11中、「SAMR1+Saline」は生理食塩水を投与したSAMR1マウスの結果であることを示し、「SAMP8+Saline」は生理食塩水を投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+5mg/kg TG」はトリゴネリンを5mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+50mg/kg TG」はトリゴネリンを50mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示す。また、「*」はp<0.05で有意差が存在することを示し、「***」はp<0.0001で有意差が存在することを示す。
【0088】
その結果、トリゴネリンの投与により、老化に伴って減少した、海馬におけるBDNFの産生量が上昇したことが確認された。
【0089】
図12は、マウス海馬におけるセロトニン(5-HT)の産生量をELISAで測定した結果を示すグラフである。図12中、「SAMR1+Saline」は生理食塩水を投与したSAMR1マウスの結果であることを示し、「SAMP8+Saline」は生理食塩水を投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+5mg/kg TG」はトリゴネリンを5mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示し、「SAMP8+50mg/kg TG」はトリゴネリンを50mg/kgの投与量で投与したSAMP8マウスの結果であることを示す。また、「**」はp<0.001で有意差が存在することを示し、「***」はp<0.0001で有意差が存在することを示す。
【0090】
その結果、トリゴネリンの投与により、老化に伴って減少した、海馬におけるセロトニンの産生量が上昇したことが確認された。
【0091】
[実験例6]
(トリゴネリンによるヒト神経細胞保護作用の評価)
トリゴネリンによるヒト神経細胞保護作用を検討した。ヒト神経芽腫細胞株であるSH-SY5Y細胞を、トリゴネリンの存在下でリポポリサッカライド(LPS)処理し、定量的リアルタイムPCRにより、LPS処理により誘導される炎症性サイトカインの発現が抑制されるか否かを検討した。
【0092】
SH-SY5Y細胞を96ウェルプレートに2.0×10個/ウェルで播種し、24時間培養した。24時間後、培地を、0、5、10、50μMのトリゴネリン、及び、50μg/mLのLPSを含有するOpti-MEM培地に交換し、更に48時間インキュベートした。
【0093】
続いて、RNAを精製し、定量的リアルタイムPCRにより、TNFα遺伝子及びIL6遺伝子の発現量を定量した。
【0094】
図13及び図14は、定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。図13はTNFα遺伝子の発現量を測定した結果を示し、図14はIL6遺伝子の発現量を測定した結果を示す。図13及び図14中、「-LPS」はLPSを添加しなかった結果であることを示し、「+LPS」は、培地にLPSのみ添加しトリゴネリンを添加しなかった結果であることを示し、「TRG5μM」は、培地にトリゴネリンを5μMの終濃度で添加した結果であることを示し、「TRG10μM」は、培地にトリゴネリンを10μMの終濃度で添加した結果であることを示し、「TRG50μM」は、培地にトリゴネリンを50μMの終濃度で添加した結果であることを示す。また、「**」はp<0.001で有意差が存在することを示し、「***」はp<0.0001で有意差が存在することを示す。図14の縦軸は、Gapdh遺伝子に対して標準化したTNFα遺伝子の相対的発現量を示す。また、図15の縦軸は、Gapdh遺伝子に対して標準化したIL6遺伝子の相対的発現量を示す。
【0095】
その結果、5~50μMのトリゴネリンの存在下において、LPS処理により誘導される炎症性サイトカイン(TNFα、IL6)の発現が、有意に抑制されたことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、加齢に伴う学習・記憶機能低下を改善する技術を提供することができる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14