(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009383
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】傾斜車両
(51)【国際特許分類】
B62K 5/10 20130101AFI20240112BHJP
B62K 5/05 20130101ALI20240112BHJP
B62K 5/08 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B62K5/10
B62K5/05
B62K5/08
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023204926
(22)【出願日】2023-12-04
(62)【分割の表示】P 2021544004の分割
【原出願日】2020-09-02
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/003985
(32)【優先日】2020-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019159312
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 宏
(57)【要約】
【課題】傾斜及び操舵される2つの前輪を備えた傾斜車両であって、2つの前輪が傾斜している状態での操舵角を拡大しつつ、2つの前輪の周辺が大型化するのを抑制することができる傾斜車両を提供する。
【解決手段】ホルダは、ボールスタッドのボール部を回動自在に保持し、ボールスタッドが貫通する開口部を有する。開口部は、第1内縁部、第2内縁部、第3内縁部、および第4内縁部を少なくとも有し、2つの前輪を操舵中立位置かつ傾斜中立位置から操舵または傾斜させた時に、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線に垂直な方向において、ボール部の最外形より外方に位置するように形成される第1内縁部と第2内縁部の間でボールスタッドの作動角が変化するように形成され、かつ、ボール部の最外形より内方に位置するように形成される第3内縁部及び第4内縁部がそれぞれ第1内縁部と第2内縁部の間に形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜車両の左右方向に傾斜する車体と、
前記車体とともに前記左右方向に傾斜し、かつ、前記左右方向に操舵される2つの前輪と、
前記2つの前輪を前記車体に支持する支持機構であって、第1部材と、前記第1部材に連結される第2部材と、前記2つの前輪が傾斜することに伴って前記第1部材と前記第2部材が相対変位するのを許容し、かつ、前記2つの前輪が操舵されることに伴って前記第1部材と前記第2部材が相対変位するのを許容するように、前記第1部材と前記第2部材とを連結するジョイント機構を含む前記支持機構と、を備えた傾斜車両であって、
前記ジョイント機構は、
球形状のボール部と軸状の第1軸部とを有するボールスタッドと、
前記ボール部を回動自在に保持し、前記ボールスタッドが貫通する開口部を有する金属製のホルダと、を含み、
前記第1部材と前記第2部材とを連結するボールジョイントであって、
前記開口部は、
前記開口部の内縁の中に、第1内縁部、第2内縁部、第3内縁部及び第4内縁部を有し、
前記2つの前輪を操舵中立位置かつ傾斜中立位置から操舵または傾斜させた時に、前記ボールスタッドの作動角が、前記操舵中立位置かつ前記傾斜中立位置にある前記ボールスタッドの中心線に垂直な方向において前記ボール部の最外形より外方に位置するように形成される前記第1内縁部と前記第2内縁部の間で変化し、かつ、前記ボール部の最外形より内方に位置するように形成される前記第3内縁部及び前記第4内縁部が、それぞれ前記第1内縁部と前記第2内縁部の間に位置する
ように形成される、ことを特徴とする傾斜車両。
【請求項2】
請求項1に記載の傾斜車両であって、
前記開口部は、
前記操舵中立位置かつ前記傾斜中立位置にある前記ボールスタッドの中心線に平行な方向において、前記第1内縁部及び前記第2内縁部が、前記ボール部の中心と前記第1軸部のボール側端部との間に位置し、かつ、前記第1軸部のボール部側端部が、前記第1内縁部及び前記第2内縁部と前記第3内縁部及び前記第4内縁部との間に位置する
ように形成される、傾斜車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の傾斜車両であって、
前記開口部は、
前記第1内縁部及び前記第2内縁部が、前記操舵中立位置かつ前記傾斜中立位置を起点とした±25度の範囲における前記ボールスタッドの作動角の変化を許容する
ように形成される、傾斜車両。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の傾斜車両であって、
前記ボールスタッドが前記開口部の内縁以外の部分に接触することにより、前記ボールスタッドの作動角が制限される、傾斜車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜車両に関し、詳しくは、操舵される2つの前輪を備えた傾斜車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、左方向に旋回するときには左方向に傾斜し、右方向に旋回するときには右方向に傾斜する車体を備えた傾斜車両が知られている。このような傾斜車両には、例えば、国際公開第2019/044471号(特許文献1)に開示されているように、操舵される2つの前輪を備えたものがある。操舵される2つの前輪は、傾斜車両が旋回するときには、車体とともに傾斜する。つまり、上記公報には、傾斜及び操舵される2つの前輪を備えた傾斜車両が開示されている。
【0003】
傾斜及び操舵される2つの前輪を備えた傾斜車両において、2つの前輪の操舵角を大きく確保するために、例えば、国際公開第2014/046285号(特許文献2)に記載されているようなジョイント機構が提案されている。なお、自動車用として、例えば、特開2016-211671号公報(特許文献3)や実開平5-12738号公報(特許文献4)に記載のようなジョイント機構も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/044471号
【特許文献2】国際公開第2014/046285号
【特許文献3】特開2016-211671号公報
【特許文献4】実開平5-12738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
傾斜車両用のジョイント機構として提案されている特許文献2に記載のジョイント機構においては、前後方向の回転軸線を有する回転軸部材と上下方向の回転軸線を有する回転軸部材とが別々に設けられており、これらの回転軸部材が干渉するのを避ける必要があるため、ジョイント機構そのものが大きくなってしまう。その結果、傾斜及び操舵される2つの前輪の周辺が大型化しやすくなる。
【0006】
自動車用のジョイント機構として提案されている特許文献3や特許文献4に記載のジョイント機構は、何れも、傾斜車両への採用は困難である。具体的には、特許文献3に記載のジョイント機構は、ボールスタッドの作動角及び回転角が大きいため、2つの前輪が傾斜している状態での操舵角を確保することはできるが、ボールスタッドの引抜方向での強度が不足する構造であるため、傾斜車両への採用は難しい。また、特許文献4に記載のジョイント機構は、ボールスタッドの引抜方向での強度及び押込方向での強度は確保できる構成であるが、ボールスタッドの作動角が小さいため、傾斜車両への採用は困難である。
【0007】
本発明の目的は、傾斜及び操舵される2つの前輪を備えた傾斜車両であって、2つの前輪が傾斜している状態での操舵角を拡大しつつ、2つの前輪の周辺が大型化するのを抑制することができる傾斜車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る傾斜車両は、傾斜車両の左右方向に傾斜する車体と、車体とともに左右方向に傾斜し、かつ、左右方向に操舵される2つの前輪と、2つの前輪を車体に支持する支持機構であって、第1部材と、第1部材に連結される第2部材と、2つの前輪が傾斜することに伴って第1部材と第2部材が相対変位するのを許容し、かつ、2つの前輪が操舵されることに伴って第1部材と第2部材が相対変位するのを許容するように、第1部材と第2部材とを連結するジョイント機構を含む支持機構と、を備えた傾斜車両である。ジョイント機構は、球形状のボール部と軸状の第1軸部とを有するボールスタッドと、ボール部を回動自在に保持し、ボールスタッドが貫通する開口部を有する金属製のホルダと、を含み、第1部材と第2部材とを連結するボールジョイントである。開口部は、開口部の内縁の中に、第1内縁部、第2内縁部、第3内縁部、および第4内縁部を有し、2つの前輪を操舵中立位置かつ傾斜中立位置から操舵または傾斜させた時に、ボールスタッドの作動角が、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線に垂直な方向において、ボール部の最外形より外方に位置するように形成される第1内縁部と第2内縁部の間で変化し、かつ、ボール部の最外形より内方に位置するように形成される第3内縁部及び第4内縁部がそれぞれ第1内縁部と第2内縁部の間に位置するように形成される。
【0009】
上記傾斜車両によれば、第1内縁部と第2内縁部の間でのボールスタッドの作動角又はボールスタッドの回転角が2つの前輪の操舵角に対応するようにジョイント機構を配置することで、2つの前輪が傾斜している状態での操舵角を拡大することができる。具体的には、以下のとおりである。
【0010】
第1内縁部と第2内縁部の間でのボールスタッドの作動角が2つの前輪の操舵角に相当する場合を想定する。この場合、2つの前輪を操舵中立位置かつ傾斜中立位置から操舵させたときに、ボールスタッドの作動角が第1内縁部と第2内縁部の間で変化する。第1内縁部と第2内縁部の各々はボール部の最外形よりも外方に位置するように形成されるので、ボールスタッドの作動角が第1内縁部や第2内縁部によって規制され難くなる。その結果、ボールスタッドの作動角を大きく確保することができる。2つの前輪が傾斜した状態であっても、ボールスタッドの作動角が第1内縁部と第2内縁部の間で変化するのであれば、ボールスタッドの作動角を大きく確保することができる。したがって、2つの前輪が傾斜している状態での操舵角を拡大することができる。
【0011】
ボールスタッドの回転角が2つの前輪の操舵角に相当する場合を想定する。この場合、2つの前輪を操舵中立位置かつ傾斜中立位置から傾斜させたときに、ボールスタッドの作動角が第1内縁部と第2内縁部の間で変化する。なお、ボールスタッドの回転角とは、ボールスタッドをその中心軸線が延びる方向に見たときに、ボールスタッドがその中心軸線周りに回転する角度である。要するに、ボールスタッドの回転角は、ボールスタッドの中心軸線周りの回転角である。ボールスタッドのボール部がホルダによって回動自在に支持されるので、ボールスタッドの回転角を大きく確保することができる。2つの前輪が傾斜した状態であっても、ボールスタッドの回転角を大きく確保することができる。したがって、2つの前輪が傾斜している状態での操舵角を拡大することができる。
【0012】
また、上記傾斜車両によれば、ジョイント機構がボールジョイントであり、ボールスタッドのボール部をホルダが回動自在に支持することで、2つの前輪が傾斜されたときと操舵されたときの各々において、第1部材と第2部材の相対変位を許容することができるから、2つの前輪の周辺が大型化するのを抑制することができる。特に、ボール部の最外形より内方に位置するように形成される第3内縁部および第4内縁部がそれぞれ第1内縁部と第2内縁部の間に形成されることから、第3内縁部及び第4内縁部がボールスタッドをホルダから引き抜く方向においてストッパとして機能する。そのため、ボール部の大型化を回避することができる。その結果、2つの前輪の周辺が大型化するのを抑制することができる。
【0013】
本発明の一実施形態に係る傾斜車両は、1つの後輪をさらに備える三輪車両であってもよいし、2つの後輪をさらに備える四輪車両であってもよい。傾斜車両は、鞍乗型車両であってもよい。鞍乗型車両とは、乗員が鞍にまたがるような状態で乗車する車両である。傾斜車両は、シットインタイプのシートを備えた車両であってもよい。傾斜車両は、車体を推進する駆動源をさらに備えていてもよい。駆動源は、傾斜車両に駆動力を付与する駆動源であれば、形式は限定されない。駆動源は、エンジンであってもよいし、電動モータであってもよいし、エンジン及び電動モータであってもよい。傾斜車両は、2つの前輪に入力された荷重を緩衝する緩衝器をさらに備えていてもよい。傾斜車両は、ステアリングハンドルが2つの前輪に機械的に接続された操舵機構を備えていてもよいし、ステアリングハンドルが2つの前輪に機械的に接続されていない操舵機構を備えていてもよい。ステアリングハンドルが2つの前輪に機械的に接続されていない操舵機構は、例えば、乗員によるステアリングハンドルの操作に応じて操舵アクチュエータが2つの前輪を操舵する操舵機構である。
【0014】
本発明の一実施形態において、車体は、車体フレームを含む。車体フレームは、複数の部品を組み合わせたフレ-ムであってもよいし、複数の部品を一体的に成形したフレ-ムであってもよい。車体フレームの材料は、アルミ、鉄などの金属であってもよいし、CFRPなどの合成樹脂であってもよいし、それらの組み合わせであってもよい。車体フレームは、傾斜車両の外観部品で構成したモノコック構造であってもよいし、その一部が傾斜車両の外観部品を兼ねるセミモノコック構造であってもよい。車体は、例えば、傾斜車両の左方向又は右方向に傾斜する。車体は、例えば、傾斜車両が左方向に旋回するときには左方向に傾斜し、傾斜車両が右方向に旋回するときには右方向に傾斜する。
【0015】
本発明の一実施形態において、2つの前輪は、例えば、車体の上下方向に延びる軸線回りに回動可能な状態で車体に支持される。車体の上下方向に延びる軸線は、車体が直立している状態で、鉛直方向に延びていなくてもよい。車体の上下方向に延びる軸線は、例えば、車体が直立している状態で、鉛直方向に対して車体の後方向に傾斜していてもよい。別の表現をすれば、車体の上下方向に延びる軸線の上端は、車体が直立している状態で、車体の上下方向に延びる軸線の下端よりも後に位置していてもよい。2つの前輪は、例えば、傾斜車両の左右方向に並んで配置される。
【0016】
本発明の一実施形態において、2つの前輪を車体に支持する支持機構は、例えば、2つの前輪を車体とともに傾斜車両の左右方向に傾斜させる機構を含む。支持機構は、例えば、2つの前輪を傾斜車両の左右方向に操舵する機構を含む。支持機構は、例えば、懸架装置を含む。懸架装置は、例えば、独立懸架方式のサスペンションである。第1部材と第2部材は、2つの前輪の傾斜に伴って相対変位し、かつ、2つの前輪の操舵に伴って相対変位する関係にあればよい。第1部材と第2部材の一方は、例えば、タイロッドである。第1部材と第2部材の他方は、例えば、2つの前輪の操舵軸線回りに揺動するナックルや、上下方向に延びる揺動軸線回りに揺動するピットマンアームである。なお、第1部材及び第2部材は、タイロッド、ナックル、ピットマンアームに限定されない。支持機構は、第1部材及び第2部材の少なくとも一方を複数含んでいてもよい。この場合、ジョイント機構は、複数設けられる。
【0017】
本発明の一実施形態において、ボールスタッドは、例えば、金属製である。ボール部及び第1軸部は、例えば、金属製である。ボール部は、部分的に球状の表面を有していればよい。ボール部は、例えば、第1軸部に接続される。ボール部が第1軸部に接続される態様は、例えば、ボール部が第1軸部と一体的に形成される態様を含む。第1軸部は、例えば、第1部材又は第2部材とボールスタッドとを接続する機能を有する。第1軸部は、例えば、外周面にねじ山が設けられたボルト部を含んでいてもよい。第1軸部は、例えば、外周面に穴が形成されていてもよい。第1軸部は、例えば、内部にねじ溝が設けられたナット部を含んでいてもよい。第1軸部の中心軸線に直交する方向の断面は、例えば、円形であってもよいし、多角形であってもよい。第1軸部の中心軸線は、例えば、ボール部の中心を通過する。ボール部の中心は、例えば、第1軸部の中心軸線に直交する平面でボール部を切断したときのボール部の外形である円の中心である。より具体的には、ボール部の切断面に形成される円の直径が最大であるときの当該円の中心が、ボール部の中心である。つまり、ボール部の中心は、ボールスタッドの中心線が延びる方向に見て、ボール部の最外形を形成する円の中心である。第1軸部の中心軸線は、ボール部の中心を通過していなくてもよい。別の表現をすれば、第1軸部の中心軸線が延びる方向に見て、ボール部の中心は第1軸部の中心軸線から離れていてもよい。ボールスタッドの中心線は、例えば、第1軸部の中心軸線と一致していてもよいし、第1軸部の中心軸線に平行であってもよい。ボール部とホルダとの間には、例えば、ボール部及びホルダの両方よりも柔らかい材料からなる部材が配置される。そのような部材としては、例えば、樹脂製の部材が挙げられる。これにより、ボール部とホルダとの間の摩擦が低減される。操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線は、例えば、ホルダが有する開口部の中心を通過する。この場合、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線が延びる方向に見て、ホルダが有する開口部の中心は、例えば、ボール部の中心と一致する。
【0018】
本発明の一実施形態において、開口部は、例えば、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線が延びる方向に見たときに、当該ボールスタッドの中心線を囲むように形成される。開口部は、例えば、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線が延びる方向に見たときに、当該ボールスタッドの中心線を囲むように形成される内縁を含む。開口部の内縁は、第1内縁部、第2内縁部、第3内縁部及び第4内縁部を含む。第1内縁部、第2内縁部、第3内縁部及び第4内縁部の各々は、例えば、上記内縁の一部に相当する。第1内縁部、第2内縁部、第3内縁部及び第4内縁部の各々は、例えば、曲線であってもよいし、直線であってもよいし、曲線と直線の組み合わせであってもよい。第1内縁部及び第2内縁部は、上記内縁のうち、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線に垂直な方向において、ボール部の最外形よりも外方に位置する部分である。別の表現をすれば、第1内縁部及び第2内縁部は、上記内縁のうち、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線に垂直な方向において、ボール部の最外形よりも当該ボールスタッドの中心線から離れた位置に存在する部分である。第1内縁部及び第2内縁部は、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線に平行な方向において、同じ位置にあってもよいし、異なる位置にあってもよい。第3内縁部及び第4内縁部は、上記内縁のうち、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線に垂直な方向において、ボール部の最外形よりも内方に位置する部分である。別の表現をすれば、第3内縁部及び第4内縁部は、上記内縁のうち、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線に垂直な方向において、ボール部の最外形よりも当該ボールスタッドの中心線の近くに存在する部分である。第3内縁部及び第4内縁部は、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線に平行な方向において、同じ位置にあってもよいし、異なる位置にあってもよい。操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線が延びる方向に見て、第1内縁部及び第2内縁部は、例えば、当該ボールスタッドの中心線に垂直な直線に対して線対称の関係になるように形成される。操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線が延びる方向に見て、第1内縁部及び第2内縁部は、例えば、当該ボールスタッドの中心線に対して点対称の関係になるように形成される。操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線が延びる方向に見て、第3内縁部及び第4内縁部は、例えば、当該ボールスタッドの中心線に垂直な直線に対して線対称の関係になるように形成される。操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線が延びる方向に見て、第3内縁部及び第4内縁部は、例えば、当該ボールスタッドの中心線に対して点対称の関係になるように形成される。第1内縁部及び第2内縁部は、例えば、第3内縁部及び第4内縁部よりも長い。操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線が延びる方向に見たとき、第1内縁部と第2内縁部との間の距離は、ボール部の径より大きい。第3内縁部と第4内縁部との間の距離は、ボール部の径より小さい。
【0019】
本発明の一実施形態において、ボールスタッドの作動角とは、ホルダに対してボールスタッドが揺動する角度のことである。ボールスタッドの作動角は、ボールスタッドの形状及びホルダの開口部の形状で決まる。ボールスタッドは、ホルダの開口部に形成された第3内縁部及び第4内縁部でホルダから抜けないように支持される。第3内縁部及び第4内縁部により、ボールジョイントの引抜方向での強度が確保される。ボールジョイントの引抜方向での強度は、ホルダからのボールスタッドの外れにくさである。ボールジョイントにおいて、ボールスタッドの作動角の拡大とボールジョイントの耐久性の維持は、排反事象である。なお、ボールスタッドの作動角の大きさは、例えば、傾斜車両に要求される機能に応じて設計される。
【0020】
本発明の一実施形態において、ボールジョイントにおけるボールスタッドの回転角とは、ホルダに対してボールスタッドが回転する角度のことである。ボールジョイントにおけるボールスタッドの回転角は、ボールスタッドの形状及びホルダの開口部の形状で決める必要はない。なお、ボールジョイントにおけるボールスタッドの回転角の大きさは、例えば、傾斜車両に要求する機能に応じて設計される。
【0021】
本発明の一実施形態において、ボールスタッドの作動角の範囲と回転角の関係は、例えば、ボールスタッドの作動角が一番大きい状態からボールスタッドを時計回り又は反時計回りに回転させるとボールスタッドの作動角の範囲が小さくなるように形成される。ボールスタッドの作動角と回転角の関係は、例えば、連続的に小さくなるように形成される。ボールスタッドの作動角と回転角の関係は、例えば、段階的に小さくなるように形成される。
【0022】
本発明の一実施形態に係る傾斜車両において、開口部は、好ましくは、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線に平行な方向において、第1内縁部及び第2内縁部が、ボール部の中心と第1軸部のボール側端部との間に位置し、かつ、第1軸部のボール部側端部が、第1内縁部及び第2内縁部と第3内縁部及び第4内縁部との間に位置するように形成される。
【0023】
このような態様においては、第3内縁部及び第4内縁部がボールスタッドをホルダから引き抜く方向においてストッパとして機能する。そのため、ボール部の大型化を回避することができる。その結果、2つの前輪の周辺が大型化するのを抑制することができる。
【0024】
本発明の一実施形態において、第1軸部のボール部側端部は、例えば、第1軸部のうちボール部に接続される端を含む。第1軸部のうちボール部に接続される端は、例えば、ボール部のうち第1軸部に接続される端に接続される。ボール部のうち第1軸部に接続される端は、例えば、ボール部が有する球状の表面のうち第1軸部側の端を含む。
【0025】
本発明の一実施形態に係る傾斜車両において、開口部は、好ましくは、第1内縁部及び第2内縁部が、操舵中立位置かつ傾斜中立位置を起点とした±25度の範囲における前記ボールスタッドの作動角の変化を許容するように形成される。
【0026】
このような態様においては、ボールスタッドの作動角を大きく確保することができる。そのため、例えば、ボールスタッドの作動角が2つの前輪の操舵角に対応する場合に、2つの前輪が傾斜している状態での操舵角を拡大することができる。なお、ここでいう「±」については、第1内縁部及び第2内縁部のうち、いずれか一方へ向かう作動角を正と称し、他方への作動角を負と称する。
【0027】
本発明の一実施形態に係る傾斜車両において、ボールスタッドが開口部の内縁以外の部分に接触することにより、ボールスタッドの作動角が制限されるようにしてもよい。
【0028】
本発明の一実施形態において、ボールスタッドが開口部の内縁以外の部分に接触する態様は、例えば、ストッパに接触する態様を含む。ストッパは、例えば、傾斜車両に設けられる。なお、ボールジョイントが傾斜車両に設けられていない状態、つまり、ボールジョイント単体において、ボールスタッドが開口部の内縁以外の部分に接触することにより、ボールスタッドの作動角が制限されるようにしてもよい。この場合、開口部には、例えば、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線に平行な方向において、開口部の内縁とは異なる位置に、ボールスタッドが接触する接触縁が形成されていてもよいし、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッドの中心線に垂直な方向において、開口部の内縁とは異なる位置に、ボールスタッドが接触する接触縁が形成されていてもよい。
【0029】
ホルダは、ボールスタッドが貫通する一の開口部を有すると共に、キャップ部材により閉じられる他の開口部を有する。一の開口部の内縁は、第1内縁部、第2内縁部、第3内縁部及び第4内縁部を含む。他の開口部は、ボールスタッドが上記一の開口部を貫通する状態でボール部がホルダ内に収容されるように、キャップ部材により閉じられる。ボール部がホルダ内に収容される態様には、例えば、ボール部がホルダから抜け出さないようにホルダによって保持される態様を含む。キャップ部材は、例えば、金属製である。他の開口部は、ボールジョイント組立時に、ボール部が通過できるように、ボール部の径よりも大きい径を有する。キャップ部材は、ボール部が他の開口部を通過できないように、他の開口部の少なくとも一部を覆う。キャップ部は、ホルダに固定される。このように、ホルダは、一の開口部の第1内縁部及び第2内縁部が、ボール部の径よりも大きい間隔を有する一方、一の開口部の第3内縁部及び第4内縁部が、ボール部の径よりも小さい間隔を有し、加えて、キャップ部材が、他の開口部に設けられることにより他の開口部を介してホルダ内からボール部が離脱することを防止する、ように構成されている。操舵角の拡大と、引抜方向及び押込方向の双方での強度の確保とをより効果的に両立できる。なお、ボール部とホルダとの間に摩擦低減のための部材が配置される場合、当該部材は、例えば、キャップ部材よりも柔らかい材料からなる。
【0030】
この発明の上述の目的及びその他の目的、特徴、局面及び利点は、添付図面に関連して行われる以下のこの発明の実施形態の詳細な説明から一層明らかとなろう。本明細書にて使用される場合、用語「及び/又は(and/or)」は1つの、又は複数の関連した列挙されたアイテム(items)のあらゆる又は全ての組み合わせを含む。本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」、「含む、備える(comprising)」又は「有する(having)」及びその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分及び/又はそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、及び/又はそれらのグループのうちの1つ又は複数を含むことができる。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術及び本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的又は過度に形式的な意味で解釈されることはない。本発明の説明においては、多数の技術及び工程が開示されていると理解される。これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、又は、場合によっては全てと共に使用することもできる。従って、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせの全てを繰り返すことを控える。それにもかかわらず、明細書及び特許請求の範囲は、そのような組み合わせが全て本発明及び特許請求の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細なしに本発明を実施できることが明らかである。本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面又は説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、傾斜及び操舵される2つの前輪を備えた傾斜車両であって、2つの前輪が傾斜している状態での操舵角を拡大しつつ、2つの前輪の周辺が大型化するのを抑制することができる傾斜車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施の形態による傾斜車両の斜視図と、傾斜車両が備える支持機構の背面図及び平面図と、傾斜車両が備えるボールジョイントの斜視図とを併せて示す説明図である。
【
図2】
図1に示す傾斜車両がボールジョイントの断面図と、ボールスタッドのボール部とホルダにおける開口部が有する内縁との関係を示す平面図とを併せて示す説明図である。
【
図3】従来のボールジョイントを示す断面図と、
図1に示す傾斜車両が備えるボールジョイントを示す断面図とを併せて示す説明図である。
【
図4】傾斜車両が備える支持機構の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態による傾斜車両の詳細について説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、例示である。本発明は、以下に説明する実施の形態によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0034】
図1を参照しながら、傾斜車両5について説明する。なお、
図1において、(a)は傾斜車両5の斜視図を示し、(b)は傾斜車両5が備える傾斜リンク機構53の背面図を示し、(c)は傾斜リンク機構53の平面図を示し、(d)は傾斜車両5が備えるジョイント機構としてのボールジョイント1の斜視図を示す。
【0035】
傾斜車両5は、車体54と、2つの前輪51Fと、1つの後輪51Rと、支持機構52とを備える。なお、傾斜車両5における各種方向は、傾斜車両5に乗車している乗員から見た方向である。
【0036】
車体54は、傾斜車両5の左右方向に傾斜する。2つの前輪51Fは、車体54とともに傾斜車両5の左右方向に傾斜し、かつ、傾斜車両5の左右方向に操舵される。1つの後輪51Rは、車体54に支持される。1つの後輪51Rは、車体54とともに傾斜車両5の左右方向に傾斜する。
【0037】
支持機構52は、傾斜リンク機構53を含む。傾斜リンク機構53は、旋回時に車体54及び2つの前輪51Fをリーン車両5の左右方向に傾斜させる。傾斜車両5は、旋回時に車体54及び2つの前輪51Fが傾斜車両5の左右方向に傾斜する。
【0038】
支持機構52は、ライダーが操作するステアリングハンドル551、操舵リンク552、揺動軸553、ピットマンアーム554、タイロッド555及びナックル556を備える。ステアリングハンドル551は、車体54に揺動可能に支持される。ステアリングハンドル551は、操舵リンク552を介して揺動軸553に接続される。揺動軸553は、上下方向に延びる揺動軸線回りに揺動する。ピットマンアーム554は、揺動軸553と一体的に揺動するように揺動軸553に支持される。ここで、タイロッド555は、第1端部がピットマンアーム554に接続され、第2端部がナックル556に接続される。この構成により、ライダーによるステアリングハンドル551の揺動が操舵リンク552、揺動軸553、ピットマンアーム554及びタイロッド555を介してナックル556に伝達される。ナックル556は、操舵軸線回りに揺動する。これにより、2つの前輪51Fは、操舵軸線回りに揺動する。つまり、2つの前輪51Fが操舵される。
【0039】
支持機構52では、第1部材としてのタイロッド555と第2部材としてのピットマンアーム554が、ジョイント機構としてのボールジョイント1によって連結される。つまり、タイロッド555は、ボールジョイント1を介して、ピットマンアーム554に連結される。同様に、第1部材としてのタイロッド555と第2部材としてのナックル556が、ボールジョイント1によって連結される。つまり、タイロッド555は、ボールジョイント1を介して、ナックル556に連結される。
【0040】
タイロッド555とピットマンアーム554を連結するボールジョイント1は、2つの前輪51Fが傾斜することに伴ってタイロッド555とピットマンアーム554が相対変位するのを許容し、かつ、2つの前輪51Fが操舵されることに伴ってタイロッド555とピットマンアーム554が相対変位するのを許容するように、タイロッド555とピットマンアーム554を連結する。
【0041】
タイロッド555とナックル556を連結するボールジョイント1は、2つの前輪51Fが傾斜することに伴ってタイロッド555とナックル556が相対変位するのを許容し、かつ、2つの前輪51Fが操舵されることに伴ってタイロッド555とナックル556が相対変位するのを許容するように、タイロッド555とナックル556を連結する。
【0042】
続いて、
図1及び
図2を参照しながら、ボールジョイント1について説明する。ボールジョイント1は、ボールスタッド3と、ホルダ2と、カバー4とを含む。なお、
図1では、カバー4を取り外したボールジョイント1が示されている。また、
図2において、(a)はボールジョイント1のA-A断面図を示し、(b)はボールジョイント1のB-B断面図を示し、(c)はボールジョイント1の平面図の一部を示す。なお、
図2の(c)では、開口部21が有する第1内縁部211、第2内縁部212、第3内縁部213及び第4内縁部214とボールスタッド3が有するボール部31との関係が判り易くなるようにするために、摺動部材25の図示を省略している。
【0043】
ここで、ボールジョイント1の座標系は、ホルダ2の開口部を操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッド3の中心線CLが延びる方向に見て、左右方向及び上下方向を定義している。ホルダ2に設けられた第2軸部22が右方向に延びるように配置した状態を基準にしている。操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッド3の中心線CLが延びる方向において、ホルダ2の開口部が開口している方向を前方向と定義する。ボールジョイント1の座標系における各種方向と傾斜車両5の座標系における各種方向は、一致していてもよいし、異なっていてもよい。2つの座標系は、独立している。なお、
図1及び
図2では、2つの前輪51Fが操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるときのボールスタッド3が示されている。
【0044】
ボールスタッド3は、球形状のボール部31と軸状の第1軸部32とを有する。ボールスタッド3は、金属製である。ホルダ2は、ボール部31を回動自在に保持する。ホルダ2は、金属製である。
【0045】
ホルダ2は、ボールスタッド3が貫通する開口部210を有する本体21と、軸線が右方向に延びるように形成される軸状の第2軸部22と、本体21と第2軸部22を連結する連結部23と、ボール部31を本体21に収容する空間を形成するキャップ部材24とを含む。キャップ部材24は、ボールスタッド3が本体21に組み付けられた後で、本体21が有する他の開口部を覆うようにして本体21に取り付けられる。キャップ部材24は、ボールスタッド3がホルダ2に押し込まれる方向でのストッパとして機能する。なお、ボールスタッド3がホルダ2から引き抜かれる方向でのストッパは、後述する第3内縁部213及び第4内縁部214によって実現される。本体21とボール部31の間には、樹脂製の摺動部材25が設けられる。樹脂製の摺動部材25は、本体21とボール部31の間に収まるように形成される。
【0046】
カバー4は、弾性変形する。カバー4は、カバー本体41、金属コア体42、クリップ43を含む。カバー本体41は、弾性変形する材料で成形されている。金属コア体42は、カバー本体41と一体的に形成される。ボールスタッド3の第1軸部32は、金属コア体42を貫通している。カバー4は、ボールジョイント1が作動する時に変形する。
【0047】
開口部210は、第1内縁部211、第2内縁部212、第3内縁部213及び第4内縁部214を少なくとも有する。第1内縁部211及び第2内縁部212は、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッド3の中心線CLに垂直な方向において、ボール部31の最外形より外方に位置するように形成される。第3内縁部213及び第4内縁部214は、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッド3の中心線CLに垂直な方向において、ボール部31の最外形より内方に位置するように形成される。第3内縁部211及び第4内縁部214は、それぞれ、第1内縁部211と第2内縁部212の間に形成される。
【0048】
開口部210は、2つの前輪51Fを操舵中立位置かつ傾斜中立位置から操舵させた時に、第1内縁部211と第2内縁部212の間でボールスタッド3の作動角Θwが変化するように形成される。つまり、傾斜車両5では、第1内縁部211と第2内縁部212の間でのボールスタッド3の作動角Θwが2つの前輪51Fの操舵角に対応するように、ボールジョイント1が配置される。
【0049】
開口部210は、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッド3の中心線CLに平行な方向において、第1内縁部211及び第2内縁部212がボール部31の中心31Cと第1軸部32のボール側端部321との間に位置するように形成される。開口部210は、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッド3の中心線CLに平行な方向において、第1軸部32のボール部側端部321が第1内縁部211及び第2内縁部212と第3内縁部213及び第4内縁部214との間に位置するように形成される。
【0050】
開口部210は、第1内縁部211及び第2内縁部212が操舵中立位置かつ傾斜中立位置を起点とした±25度の範囲におけるボールスタッド3の作動角Θwの変化を許容するように、形成される。
【0051】
傾斜車両5によれば、第1内縁部211と第2内縁部212の間でのボールスタッド3の作動角Θwが2つの前輪51Fの操舵角に対応するように、ボールジョイント1が配置されるので、2つの前輪51Fが傾斜している状態での操舵角を拡大することができる。
【0052】
具体的には、2つの前輪51Fを操舵中立位置かつ傾斜中立位置から操舵させたときに、ボールスタッド3の作動角Θwが第1内縁部211と第2内縁部212の間で変化する。第1内縁部211と第2内縁部212の各々はボール部31の最外形よりも外方に位置するように形成されるので、ボールスタッド3の作動角Θwが第1内縁部211や第2内縁部212によって規制され難くなる。その結果、ボールスタッド3の作動角Θwを大きく確保することができる。2つの前輪51Fが傾斜した状態であっても、ボールスタッド3の作動角Θwが第1内縁部211と第2内縁部212の間で変化するのであれば、ボールスタッド3の作動角Θwを大きく確保することができる。したがって、2つの前輪51Fが傾斜している状態での操舵角を拡大することができる。
【0053】
また、傾斜車両5によれば、ジョイント機構がボールジョイント1であり、ボールスタッド3のボール部31をホルダ2が回動自在に支持することで、2つの前輪51Fが傾斜されたときと操舵されたときの各々において、タイロッド555とピットマンアーム554やナックル556の相対変位を許容することができるから、2つの前輪51Fの周辺が大型化するのを抑制することができる。特に、ボール部31の最外形より内方に位置するように形成される第3内縁部213および第4内縁部214がそれぞれ第1内縁部211と第2内縁部212の間に形成されることから、第3内縁部213及び第4内縁部214がボールスタッド3をホルダ2から引き抜く方向においてストッパとして機能する。そのため、ボール部31の大型化を回避することができる。その結果、2つの前輪51Fの周辺が大型化するのを抑制することができる。
【0054】
ここで、ボールスタッド3をホルダ2から抜け難くすることが求められるのは、ボールジョイント1をタイロッド555とピットマンアーム554又はナックル556を連結するジョイント機構として用いる場合、2つの前輪51Fが操舵された状態で、前輪51F又はステアリングハンドル551に外乱が加えられたときに、タイロッド555とピットマンアーム553、或いは、タイロッド555とナックル556との連結部にて所定の引抜強度が必要となるからである。なお、ステアリングハンドル551が2つの前輪51Fに機械的に接続されていないステアリング機構を傾斜車両5が備える場合、つまり、ステアリングハンドル551の操作に応じて操舵アクチュエータが2つの前輪51Fを操舵する場合であっても、2つの前輪51Fに入力される外乱に対して操舵アクチュエータが操舵角を維持しようとする場合には、ボールジョイント1に所定の引抜強度が求められる。
【0055】
ここで、
図3を参照しながら、ボールジョイント1についてさらに説明する。
図3の(a)は、ボールジョイント1を示す。
図3の(b)及び(c)は、何れも、比較例に係る構造を有するボールジョイント100、101を示す。なお、
図3の(b)及び(c)では、ボールジョイント100、101の左半分は右半分とは異なる位置での断面を示す。具体的には、ボールジョイント100、101の左半分は、右半分と比べて、ボールスタッド300、301の中心軸線周りの周方向に90度ずれた位置での断面を示す。また、以下では、
図3の(b)及び(c)に示すボールジョイント100、101が傾斜車両に用いられた場合を仮定して説明するが、これは、
図3の(b)及び(c)に示すボールジョイント100、101が傾斜車両に採用可能であることを示すものではない。
【0056】
ボールジョイント100において、ホルダ200の本体が有する開口部210Aは、2つの内縁部21Aと2つの内縁部21Bを有する。2つの内縁部21Aの間に2つの内縁部21Bが存在する。別の表現をすれば、開口部210Aの周方向に内縁部21Aと内縁部21Bが交互に並んでいる。ボールジョイント101では、ホルダ201の本体が有する開口部210Bの全周に亘って内縁部21Cが形成されている。内縁部21A及び内縁部12Bは、何れも、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッド300の中心線CL1に垂直な方向において、ボール部310の最外形より内方に位置するように形成されている。内縁部21Bは、内縁部21Aよりも、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッド300の中心線CL1に垂直な方向において、ボール部310の最外形より内方に位置している。つまり、内縁部21A及び内縁部21Bは、それぞれ、ボールスタッド300がホルダ200から引き抜かれる方向でのストッパとして機能する。したがって、ボールスタッド300は、ホルダ200の本体に対して、図中の上方向に挿入されることで組み付けられる。また、ボールジョイント100が備えるキャップ部材240は、ボールスタッド300がホルダ200の本体に組み付けられた後で、ホルダ200の本体が有する他の開口部を覆うようにホルダ200の本体に取り付けられる。キャップ部材240は、ボールスタッド300がホルダ200に押し込まれる方向でのストッパとして機能する。
【0057】
ここで、ボールジョイント100においては、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッド300の中心線CL1に垂直な方向において内縁部21Bよりも外方に位置する内縁部21Aであっても、操舵中立位置かつ傾斜中立位置にあるボールスタッド300の中心線CL1に垂直な方向においてボール部310の最外形よりも内方に位置するように形成されている。そのため、ボールジョイント1と比べて、ボールスタッド300の作動角が小さくなる。つまり、ボールジョイント100を傾斜車両に採用しても、2つの前輪が傾斜している状態での操舵角を拡大することは難しい。なお、
図3では、ボールスタッド3の作動角とボールスタッド300の作動角の違いを判り易く説明するために、ボールスタッド3、300の作動角が最大になるまで回動させたときのボールスタッド3、300を仮想線で示しているが、ボールジョイント1、100が実際に使用されるときには、ボールスタッド3、300の作動角が最大になるまでにボールスタッド3、300の作動角を制限するストッパが設けられる。ただし、このようなストッパが設けられる場合であっても、ボールジョイント1におけるボールスタッド3の作動角がボールジョイント100におけるボールスタッド300の作動角よりも大きくなることに変わりはない。
【0058】
また、ボールジョイント101では、キャップ部材242が、ボールスタッド301をホルダ201に押し込む方向でのストッパとして機能するが、ボールスタッド301は、ホルダ201に対して、図中の下方向に挿入されることで組み付けられるので、ボールスタッド301をホルダ201から引き抜く方向での強度が不足してしまう。要するに、ボールジョイント101では、ボールスタッド301をホルダ201に組み付ける際に、ボールスタッド301がホルダ201の開口部210Bを通過するので、ボールスタッド301をホルダ201から引き抜く方向での強度が不足してしまう。したがって、ボールジョイント100を傾斜車両に採用することは難しい。
【0059】
[支持機構の変形例]
図4を参照しながら、支持機構52の変形例について説明する。変形例に係る支持機構52Aは、支持機構52と比べて、ボールスタッド3の回転角Θrが2つの前輪51F(
図4では、図示せず)の操舵角に対応するように、ボールジョイント1が配置される。なお、ボールスタッド3の回転角Θrは、ボールスタッド3の中心軸線CL周りの回転角である。このような態様であっても、2つの前輪51Fが傾斜している状態での操舵角を拡大することができる。
【0060】
具体的には、2つの前輪51Fを操舵中立位置かつ傾斜中立位置から操舵させたときに、ボールスタッド3のボール部31がホルダ2によって回動自在に支持されるため、ボールスタッド3がその中心軸線CL周りに回転することになり、その結果、ボールスタッド3の回転角Θrを大きく確保することができる。2つの前輪51Fが傾斜した状態であっても、ボールスタッド3の回転角Θrを大きく確保することができる。したがって、2つの前輪51Fが傾斜している状態での操舵角を拡大することができる。
【0061】
(その他の実施形態)
本明細書において記載と図示の少なくとも一方がなされた実施形態及び変形例は、本開示の理解を容易にするためのものであって、本開示の思想を限定するものではない。上記の実施形態及び変形例は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得る。当該趣旨は、本明細書に開示された実施形態に基づいて当業者によって認識されうる、均等な要素、修正、削除、組み合わせ(例えば、実施形態及び変形例に跨る特徴の組み合わせ)、改良、変更を包含する。特許請求の範囲における限定事項は当該特許請求の範囲で用いられた用語に基づいて広く解釈されるべきであり、本明細書あるいは本願のプロセキューション中に記載された実施形態及び変形例に限定されるべきではない。そのような実施形態及び変形例は非排他的であると解釈されるべきである。例えば、本明細書において、「好ましくは」、「よい」という用語は非排他的なものであって、「好ましいがこれに限定されるものではない」、「よいがこれに限定されるものではない」ということを意味する。
【符号の説明】
【0062】
1:ボールジョイント
2:ホルダ
3:ボールスタッド
5:傾斜車両
21:本体
31:ボール部
32:第1軸部
51F:2つの前輪
52:支持機構
54:車体
210:開口部
211:第1内縁部
212:第2内縁部
213:第3内縁部
214:第4内縁部
554:ピットマンアーム
555:タイロッド
556:ナックル
Θr:回転角
Θw:作動角