(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093845
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/229 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
F16D3/229 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210438
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】石垣 紀明
(57)【要約】
【課題】1点当たりの接触面圧を下げることができので、ポケットとボールで発生する剥離までの時間が長くなって、等速自在継手(トリボールジョイント)としての耐久寿命が向上する等速自在継手を提供する。
【解決手段】底壁から中心軸部を突出させることによって一端が開口する環状空間を形成し、その環状空間の外壁面と内壁面の少なくとも一方に軸方向に延びる3本のトラック溝が周方向に120°の間隔をおいて形成された外輪と、その外輪の環状空間内に端部が組込まれ、トラック溝のそれぞれと対応する位置にポケットが形成されたトルクチューブと、このトルクチューブのポケット内に組込まれて前記トラック溝に沿って転動可能なボールとを備えた等速自在継手である。トルクチューブのポケットに対してボールを2点で接触するアンギュラコンタクトさせた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁から中心軸部を突出させることによって一端が開口する環状空間を形成し、その環状空間の外壁面と内壁面の少なくとも一方に軸方向に延びる3本のトラック溝が周方向に120°の間隔をおいて形成された外輪と、その外輪の前記環状空間内に端部が組込まれ、前記トラック溝のそれぞれと対応する位置にポケットが形成されたトルクチューブと、このトルクチューブのポケット内に組込まれて前記トラック溝に沿って転動可能なボールとを備えた等速自在継手であって、
前記トルクチューブのポケットに対して前記ボールを2点で接触するアンギュラコンタクトさせたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
ポケットの内径面を複数の円弧形状部で構成し、これによって、ボールがポケットに2点接触することを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
ポケットの内径面に楕円形状部を設け、これによって、ボールがポケットに2点接触することを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手に関し、特に、トリボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手として「トリボールジョイント」と称されるものがある。トリボールジョイントは、
図5~
図8に示すように、中心軸部1と一体となった外輪2と、3個のボール穴(ポケット)3が形成されたトルクチューブ4が、3個のボール5を介して伝達力を伝えるようになっている。このようなトリボールジョイントとして、特許文献1等に記載されたものがある。
【0003】
すなわち、トリボールジョイントは、外輪2は、外周壁2aと、底壁2bと、底壁2bから突設される中心軸部1とを備え、これらによって、一端が開口する環状空間6が形成される。環状空間6の外壁面6aと内壁面6bに軸方向に延びる3本のトラック溝7、8が周方向に120°の間隔をおいて形成される。トルクチューブ4は、
図7(a)(b)に示すように、その先端部にテーパ部9が形成されるとともに、ポケット3よりも後方側(反外輪側)にテーパ部10が形成されている。このため、テーパ部9とテーパ部10との間には、円環部11が形成され、円環部11が外輪2の前記環状空間6内に組込まれ、前記トラック溝7のそれぞれに対応する位置に前記ポケット3が形成される。すなわち、
図8に示すように、ポケット3も周方向に沿って120°ピッチで配設されている。
【0004】
また、外輪2の開口部はブーツ12にて密封されている。すなわち、ブーツ12は、大径部12aと、小径部12bと、大径部12aと小径部12bとを連結する蛇腹部12cとからなる。そして、大径部12aを外輪2の開口端部に外嵌してブーツバンド13で締め付け、小径部12bをトルクチューブ4の所定位置に外嵌してブーツバンド13で締め付ける。なお、この等速自在継手は、底壁2bから反環状空間へ突出する軸部2cを有し、この軸部2cには、図示省略の駆動軸等が挿入される挿入孔2c1が設けられている。
【0005】
このように構成されたトリボールジョイントは、トルクチューブ4に伝達された回転トルクが、
図9に示すように、ポケット3に保持されたボール5を介して、外輪2に分力F1として伝達され、中心軸部1に分力F2として伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、トリボールジョイントのトルクチューブ4は、3つのボールポケット3を円周上に等間隔で形成したもので、ボールポケット3は保持されたボール5より大きい真円である。そのため、ボールとトルクチューブ4のポケット3の接触は、
図10に示すように、サーキュラコンタクトとなり、接触点Cでの接触面圧Pが高くなる。
【0008】
なお、特許文献1に記載のトリボールジョイントは、案内溝とボールとがアンギュラコンタクトになるように設定している。しかしながら、ボールとトルクチューブのポケットの接触において、接触面圧が高くなるままである。このように、接触面圧を下げることができなければ、耐久寿命の向上を図ることができなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ボールとトルクチューブのボールポケットの接触面圧を下げて、トリボールジョイントの耐久寿命を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の等速自在継手は、底壁から中心軸部を突出させることによって一端が開口する環状空間を形成し、その環状空間の外壁面と内壁面の少なくとも一方に軸方向に延びる3本のトラック溝が周方向に120°の間隔をおいて形成された外輪と、その外輪の前記環状空間内に端部が組込まれ、前記トラック溝のそれぞれと対応する位置にポケットが形成されたトルクチューブと、このトルクチューブのポケット内に組込まれて前記トラック溝に沿って転動可能なボールとを備えた等速自在継手であって、 前記トルクチューブのポケットに対して前記ボールを2点でアンギュラコンタクトさせたものである。
【0011】
本発明の等速自在継手によれば、ポケットとボールとが2点接触するアンギュラコンタクトとなるので、1点当たりの接触面圧を下げることができる。
【0012】
ポケットの内径面は、複数の円弧形状部にて構成され、これによって、ボールがポケットに2点接触するものであったり、ポケットの内径面に、楕円形状部を設け、これによって、ボールがポケットに2点接触するものであったりする。すなわち、トルクチューブのポケットに対してボールを2点でアンギュラコンタクトとする構成を、従来の一般的な成形方法で、このトリボールジョイントにおけるポケットとボールとを、サーキュラコンタクトとすることなくアンギュラコンタクトとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、1点当たりの接触面圧を下げることができるので、ポケットとボールで発生する剥離までの時間が長くなって、等速自在継手(トリボールジョイント)としての耐久寿命が向上する等速自在継手を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る等速自在継手の縦断面図である。
【
図2】本発明に係る等速自在継手の横断面図である。
【
図3】ポケットとボールとの関係を示し、円弧形状部を組み合わせにてアンギュラコンタクトを構成した図である。
【
図4】ポケットとボールとの関係を示し、楕円形状部にてアンギュラコンタクトを構成した図である。
【
図5】一般的なトリボールジョイントの縦断面図である。
【
図6】
図5に示すトリボールジョイントの横断面図である。
【
図7】
図5に示すトリボールジョイントのトルクチューブを示し、(a)は平面図であり、(b)は側面図である。
【
図8】
図5に示すトリボールジョイントのトルクチューブに要部断面図である。
【
図9】トルクチューブに伝達された回転トルクの伝達方向を示す説明である。
【
図10】ポケットとボールとの関係を示し、サーキュラコンタクトを構成した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の実施の形態を
図1~
図4に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る等速自在継手(トリボールジョイント)を示し、このトリボールジョイントは、基本形態は、
図5及び
図6に示すトリボールジョイントと同様であり、中心軸部21と一体となった外輪22と、3個のボール穴(ポケット)23が形成されたトルクチューブ24が、3個のボール25を介して伝達力を伝えるようになっている。
【0016】
すなわち、トリボールジョイントは、外輪22は、外周壁22aと、底壁22bと、底壁22bから突設される前記中心軸部21とを備え、これらによって、一端が開口する環状空間26が形成される。環状空間26の外壁面26aと内壁面26bとに軸方向に延びる3本のトラック溝27、28が周方向に120°の間隔をおいて形成される。トルクチューブ24はその先端部にテーパ部29が形成されるとともに、ポケット23よりも後方側(反外輪側)にテーパ部30が形成されている。このため、テーパ部29とテーパ部30との間には、円環部31が形成され、円環部31が外輪22の前記環状空間26内に組込まれ、前記トラック溝27、28のそれぞれに対応する位置に前記ポケット23が形成される。すなわち、
図2に示すように、ポケット23も周方向に沿って120°ピッチで配設されている。なお、トルクチューブ24には、軸方向反ポケット側に、図示省略のシャフト等が接続されるボス部32が設けられている。ボス部32には、シャフト等が嵌入される孔部32aが設けられている。
【0017】
また、外輪2の開口部はブーツ33にて密封されている。すなわち、ブーツ33は、大径部33aと、小径部33bと、大径部33aと小径部33bとを連結する蛇腹部33cとからなる。そして、大径部33aを外輪2の開口端部に外嵌してブーツバンド34で締め付け、小径部33bをトルクチューブ4の所定位置に外嵌してブーツバンド34で締め付ける。なお、この等速自在継手は、底壁22bから反環状空間へ突出する軸部22cを有し、この軸部22cには、図示省略の駆動軸等が挿入される挿入孔22c1が設けられている。
【0018】
ところで、本等速自在継手では、トルクチューブ24のポケット23に対してボール25を2点で接触するアンギュラコンタクトを採用している。すなわち、
図3及び
図4に示すように、ポケット23の内径面とボール25が2点で接触して、2つの接触点C1,C2が形成される。
【0019】
図3では、ポケット23の内径面は、複数の円弧形状部35を組み合わせてなる。すなわち、
図3では、ボール25の半径よりも大きな曲率半径を有する4個の円弧形状部35(35a、35b、35c、35d)にて内径面が形成される。円弧形状部35aの曲率中心がOaであり、円弧形状部35bの曲率中心がObであり、円弧形状部35cの曲率中心がOcであり、円弧形状部35dの曲率中心がOdである。
【0020】
この場合、ボール25の半径をrとし、円弧形状部35の曲率半径をR(図示書略)
としたときに、R/rを1.05~1.09程度に設定している。また、接触点C1、C2が成す角度(接触角)θ1、θ1を例えば、20°~45°に設定することができる。なお、円弧形状部35の曲率半径は、各Oa、Ob、Oc、Odを中心とした各円弧形状部35a、円弧形状部35b、円弧形状部35c、円弧形状部35dの半径である。
【0021】
図4では、ポケットの内径面に楕円形状部36を設けてなる。すなわち、2つの楕円形状部36(36a、36b)を組み合わせることによって形成される。この場合、各楕円形状部36としては、長軸をaとし、短軸をbとしたときの扁平率(f=(a-b)/a)を0.05~0.45程度とする。また、ボール25の半径をrとしたときに、a/rを1.08~3.25程度とし、b/rを1.03~1.76程度とする。この
図4に示すポケットでも、接触点C1、C2が成す角度(接触角)θ2、θ2を例えば、20°~45°に設定することができる。
【0022】
このように、トルクチューブ24のポケット23に対してボール25を2点で接触するアンギュラコンタクトを採用すれば、トルクチューブ24に伝達された回転トルクは、ポケット23に保持されたボール25を介して外輪22に伝達される。このため、
図3及び
図4に示すように、ボール25とトルクチューブ24のポケット23の接触面圧(接触点C1、C2に作用する力f)を下げることができる。つまり、サーキュラコンタクトする
図10に示すものの接触面圧をPとし、
図3及び
図4に示すように、アンギュラコンタクトするものの接触面圧をpとしたときに、P>pとなる。
【0023】
本発明の等速自在継手によれば、ポケット23とボール25とが2点接触するアンギュラコンタクトとなるので、1点当たりの接触面圧を下げることができる。このため、ポケット23とボール25で発生する剥離までの時間が長くなって、等速自在継手(トリボールジョイント)としての耐久寿命が向上する。
【0024】
ポケット23の内径面は、複数の円弧形状部にて構成され、これによって、ボール25がポケット23に2点接触するものであったり、ポケット23の内径面に、楕円形状部を設け、これによって、ボール25がポケット23に2点接触するものであったりする。すなわち、トルクチューブ24のポケット23に対してボールを2点でアンギュラコンタクトとする構成を、従来の一般的な成形方法で、このトリボールジョイントにおけるポケット23とボールと25を、サーキュラコンタクトとすることなくアンギュラコンタクトとすることができる。
【0025】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、前記実施形態では、いわゆる単式のトリボールジョイントを示したが、いわゆる複式のトリボールジョイントであってもよい。ここで、複式のトリボールジョイントとは、一対の外輪と、一対の外輪間に配設される一つのチューブとを備えたものである。また、実施形態では、フランジを有さないボス形のタイプであったが、単式のトリボールジョイントにおいて、フランジを有するフランジ形のタイプであっても、
半成フランジを有する半成フランジ形のタイプであってもよい。さらに、複式のトリボールジョイントであっても、ボス形のタイプ、フランジ形のタイプ、および半成フランジ形のタイプを採用することができる。
【符号の説明】
【0026】
21 中心軸部
22 外輪
22b 底壁
23 ポケット
24 トルクチューブ
25 ボール
26 環状空間
26a 外壁面
26b 内壁面
27 トラック溝
28 トラック溝