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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093857
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】蓄熱体
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/02 20060101AFI20240702BHJP
   F28F 21/04 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
F28D20/02 D
F28F21/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210471
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 一幸
(57)【要約】
【課題】壁部が多孔質性であるハニカム構造体を用いた蓄熱体において、液体の蓄熱材がセルから流出することを防ぐことのできる技術を提供すること。
【解決手段】蓄熱体は、ハニカム構造体と、ハニカム構造体内に配置され、使用時に液体となり得る蓄熱材とを備える。ハニカム構造体は、複数のセルを有し、複数のセルは、両端部が端部封止材により閉じられた第1セルを有し、蓄熱材は、第1セル内に配置されている。第1セルを囲む壁部には、細孔を塞ぐように細孔閉塞材が設けられている、蓄熱体。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体内に配置され、使用時に液体となり得る蓄熱材と、
を備え、
前記ハニカム構造体は、多孔質性の壁部によって区切られ、それぞれが流路を形成するように延びる、複数のセルを有し、
前記複数のセルは、両端部が端部封止材により閉じられた第1セルを有し、
前記蓄熱材は、前記第1セル内に配置されており、
前記壁部において、前記第1セルを囲む部分には、細孔を塞ぐように細孔閉塞材が設けられている、
蓄熱体。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄熱体であって、
前記複数のセルは、更に、前記蓄熱材が配置されていない第2セルを有している、
蓄熱体。
【請求項3】
請求項2に記載の蓄熱体であって、
前記ハニカム構造体は、全体として筒状であり、
前記複数のセルが伸びる方向に沿って見た場合に、前記第1セルは、前記第2セルよりも外側に配置されている、
蓄熱体。
【請求項4】
請求項2に記載の蓄熱体であって、
前記第2セルは、その中を排ガスが流れるように構成されており、
前記第2セルには、前記排ガスを浄化するための排ガス浄化触媒が配置されている、
蓄熱体。
【請求項5】
請求項2に記載の蓄熱体であって、
前記壁部は、前記第1セルと前記第2セルとを区切る部分である境界部を有し、
前記境界部内の細孔には、前記細孔閉塞材が、前記第2セル側ほど高密度になるように充填されている、
蓄熱体。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の蓄熱体であって、
前記端部封止材は、多孔質性であり、
前記第1セルにおける少なくとも一方の端部には、前記端部封止材の細孔を塞ぐ、端部細孔閉塞材が設けられている、
蓄熱体。
【請求項7】
請求項6に記載の蓄熱体であって、
前記端部細孔閉塞材は、前記第1セルにおける両端部において、前記端部封止材の細孔を塞いでいる、
蓄熱体。
【請求項8】
請求項6に記載の蓄熱体であって、
前記端部封止材は、無機セラミックを含む、
蓄熱体。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の蓄熱体であって、
前記蓄熱材は、潜熱蓄熱材を含んでいる、
蓄熱体。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の蓄熱体であって、
前記細孔閉塞材の少なくとも一部は、前記細孔内に充填されている、
蓄熱体。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の蓄熱体であって、
前記細孔閉塞材の平均粒子径が、前記壁部の平均細孔径以下である、
蓄熱体。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の蓄熱体であって、
前記細孔閉塞材は、無機セラミックを含む、
蓄熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄熱体として、ハニカム構造体の中に蓄熱材が配置された構成を有するものが知られている。ハニカム構造体は、壁部によって区切られた複数のセルを有する。蓄熱材は、セル内に配置される。
【0003】
例えば、特許文献1には、隔壁によって流体の流路となる多数のセルが区画されたハニカム構造体によって形成された蓄熱体が記載されている。特許文献1には、所定のセルの一方の開口部と他方の開口部とがともに目封止焼成されて目封止セルが形成されている点、目封止セル内に所定の量で蓄熱媒体が設けられている点、目封止焼成されない開口セルを流体が流通する点、開口セル内を流通する流体と、目封止セル内の蓄熱媒体とが熱交換する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-052919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、製造上の都合等により、ハニカム構造体として、壁部が多孔質であるものが用いられる場合がある。例えば、ハニカム構造体がセラミック製である場合、壁部を完全に緻密な構造にすることは難しい。その結果、壁部が多孔質となり得る。
【0006】
また、ハニカム構造体内に配置される蓄熱材として、使用時に液体になり得るものが使用される場合がある。例えば、蓄熱材として潜熱蓄熱材を用いた場合には、使用時に蓄熱材が液体となり得る。
【0007】
壁部が多孔質であり、蓄熱材が液体であると、セルから蓄熱材が流出してしまう可能性がある。セルからの蓄熱材の流出は、避けるべきである。
【0008】
そこで、本発明の目的は、壁部が多孔質であるハニカム構造体を用いた蓄熱体において、液体の蓄熱材がセルから流出することを防ぐことのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本発明に係る蓄熱体は、ハニカム構造体と、ハニカム構造体内に配置され、使用時に液体となり得る蓄熱材とを備える。ハニカム構造体は、複数のセルを有している。複数のセルは、多孔質性の壁部によって区切られ、それぞれが流路を形成するように延びる。複数のセルは、両端部が端部封止材により閉じられた第1セルを有している。蓄熱材は、第1セル内に配置されている。壁部において、第1セルを囲む部分には、細孔を塞ぐように細孔閉塞材が設けられている。
【0010】
他の一態様において、本発明に係る蓄熱体の製造方法は、複数のセルを有するハニカム構造体を提供するステップであって、複数のセルは、多孔質性の壁部によって区切られ、それぞれが流路を形成するように延びるステップと、壁部において、複数のセルのうちの第1セルを囲む部分に、壁部の細孔を塞ぐように細孔閉塞材を配置するステップと、第1セル内に、使用時に液体となり得る蓄熱材を配置するステップと、第1セルの両端部を端部封止材により閉じるステップとを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、壁部が多孔質性であるハニカム構造体を用いた蓄熱体において、液体の蓄熱材がセルから流出することを防ぐことのできる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係る蓄熱体を使用したエンジン用のガス排気構造を示す概略図である。
図2図2は、触媒部の内部構成を示す概略図である。
図3図3は、第1セルを示す概略断面図である。
図4図4は、一変形例における壁部を示す概略断面図である。
図5図5は、細孔閉塞材の配置位置に関する一変形例を示す図である。
図6図6は、端部封止材に関する一変形例を示す図である。
図7図7は、端部封止材に関する他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る蓄熱体について説明する。
【0014】
本実施形態では、一例として、蓄熱体が、車両に搭載されるエンジン用の排ガス浄化触媒の温度を維持するために用いられる場合について説明する。エンジンの排ガス浄化触媒は、一般的に、高温状態でその機能を発揮する。そのため、触媒の温度は、高温状態で維持されていることが好ましい。しかし、シリーズハイブリッド車両のように車両走行中等にエンジンが停止する機能を有している車両では、エンジンの停止時に、エンジンから触媒に対して熱源となる排ガスが供給されない。そのため、触媒の温度が下がってしまう。その結果、エンジンの再始動時に触媒が十分に機能せず、十分な浄化能力が得られないことがある。そこで、触媒の温度低下を防ぐために、蓄熱体が使用される。
【0015】
図1は、本実施形態に係る蓄熱体を使用したエンジン用のガス排気構造を示す概略図である。図1に示されるように、エンジン2に、排気管3が接続されている。排気管3には、触媒部5が設けられている。触媒部5は、排ガス浄化触媒が設けられた部分である。エンジン2において生じた排ガスは、触媒部5において浄化され、排出される。本実施形態に係る蓄熱体1は、この触媒部5に設けられている。すなわち、蓄熱体1は、排気管3内に挿入されている。
【0016】
図2は、触媒部5の内部構成を示す概略図であり、蓄熱体1を示す斜視図である。図2に示されるように、蓄熱体1は、ハニカム構造体4を有している。
【0017】
ハニカム構造体4は、全体として筒状である。ハニカム構造体4は、壁部7によって区切られた複数のセル6(6-1、6-2)を有している。複数のセル6は、排ガスの上流側から下流側に向かって流路を形成するように延びている。なお、図示していないが、ハニカム構造体4の外側には、更に断熱材が配置されていることが好ましい。
【0018】
各セル6の形状は、特に限定されない。「ハニカム構造」との用語は、狭義の定義により、複数の六角形が並んだ構造であると解される場合がある。しかし、本発明における「ハニカム構造」は、そのような狭義の定義に従うものではない。すなわち、各セル6の断面形状は六角形に限定されない。各セル6の断面形状は、図2に示されるような四角形などの他の多角形であってもよいし、その他の形状であってもよい。
【0019】
複数のセル6は、複数の第1セル6-1と、複数の第2セル6-2とを有している。
【0020】
第1セル6-1は、その中に蓄熱材が配置されたセルである。第1セル6-1の両端は、蓄熱材が漏洩しないように閉じられている。
【0021】
一方、第2セル6-2には、蓄熱材が配置されていない。代わりに、第2セル6-2には、蓄熱材によって温度が維持される対象となる物質として、触媒(排ガス浄化触媒)が配置されている。触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム、及びイリジウムなどの貴金属が使用される。また、第2セル6-2は、排ガスが流れるように構成されている。例えば、第2セル6-2の両端は解放されており、これによって第2セル6-2を排ガスが流れるようになっている。
【0022】
本実施形態において、エンジン2の運転時には、第2セル6-2を排ガスが流れる。排ガスは、第2セル6-2内において触媒により浄化される。この際、触媒は、排ガスにより加熱される。排ガスの熱は、第1セル6-1内の蓄熱材にも蓄えられる。エンジン2が停止すると、触媒は加熱されなくなる。エンジン2の停止に伴い、触媒の温度が下がると、エンジン2の再始動時に触媒の機能が十分に発揮されない。しかし、本実施形態においては、第1セル6-1内に蓄熱材が設けられているので、触媒の温度が維持される。これにより、エンジン2の再始動時においても、触媒の機能が十分に発揮される。
【0023】
なお、図2に示される例では、複数のセル6が伸びる方向(すなわちハニカム構造体4の軸方向)に沿って見た場合に、複数の第1セル6-1は、複数の第2セル6-2よりも外側に配置されている。すなわち、複数の第1セル6-1が外周部に配置されており、複数の第2セル6-2が中央部に配置されている。このような構成を採用すれば、第2セル6-2に配置された触媒の熱が、外部に逃げにくくなる。これにより、触媒の温度が維持されやすくなり、触媒による浄化性能が向上する。ただし、第1セル6-1と第2セル6-2のレイアウトはこのような態様に限定されるものではなく、他のレイアウトが採用されてもよい。
【0024】
ここで、本実施形態においては、第1セル6-1と、これを取り囲む部分における壁部7の構成が工夫されている。この点について、以下に詳述する。
【0025】
図3は、第1セル6-1を示す概略断面図である。図3には、壁部7の拡大図も併せて示されている。
【0026】
既述のように、第1セル6-1内には、蓄熱材8が配置されている。また、第1セル6-1の両端部は、蓄熱材8が漏洩しないように、端部封止材11(11-1、11-2)により閉じられている。
【0027】
蓄熱材8としては、使用時(蓄熱時)に液体となり得るものが使用される。蓄熱材8としては、潜熱蓄熱材が好ましく用いられる。
【0028】
壁部7は、多孔質性である。すなわち、壁部7自体にも、細孔10が存在している。壁部7は、例えばコージェライト等の無機セラミックスにより形成される。
【0029】
壁部7に細孔10が存在すると、蓄熱材8が液体となった場合に、細孔10を介して蓄熱材8が流出する可能性がある。蓄熱材8の流出は、例えば触媒の劣化や破損の原因となることから、避けるべきである。
【0030】
そこで、本実施形態においては、壁部7に、細孔10を塞ぐような細孔閉塞材9が設けられている。細孔閉塞材9は、粒状である。細孔閉塞材9が設けられていることによって、蓄熱材8の流出を防ぐことができる。
【0031】
なお、細孔閉塞材9は、壁部7のうち、第1セル6-1を取り囲む部分に設けられていればよい。すなわち、細孔閉塞材9は、壁部7の全体にわたり設けられていてもよいし、壁部7のうち第1セル6-1を取り囲む部分にのみ設けられていてもよい。
【0032】
また、細孔閉塞材9は、細孔10を塞ぐように設けられていればよい。例えば、図3の拡大図に示されているように、細孔閉塞材9は、細孔10内に充填されていてもよい。
【0033】
一方で、細孔閉塞材9は、壁部7の外側に配置されていてもよい。図4は、細孔閉塞材9の配置に関する一変形例を示す図であり、壁部7の構成を示す概略断面図である。図4に示される変形例では、一部の細孔閉塞材9-1が細孔10内に配置されており、他の細孔閉塞材9-2は壁部7の表面上に存在している。このように、壁部7の表面上に細孔閉塞材9-2が存在する場合であっても、細孔10を塞ぐことは可能である。そのため、蓄熱材8の流出を防ぐことができる。なお、実質的に全ての細孔閉塞材9が、壁部7の表面上に存在していてもよい。
【0034】
ただし、好ましくは、細孔閉塞材9は、その大部分が細孔10内に存在している。細孔10内に細孔閉塞材9が存在していれば、壁部7の表面上に細孔閉塞材9が存在している場合に比べて、第1セル6-1内の空間が広くなる。従って、十分な量の蓄熱材8を第1セル6-1内に配置することができ、蓄熱効果を高めることができる。
【0035】
なお、細孔閉塞材9の配置位置は、細孔閉塞材9と細孔10のサイズにより、制御することができる。すなわち、細孔10よりも小さいサイズの細孔閉塞材9を使用すれば、細孔閉塞材9を細孔10内に配置しやすくなる。
【0036】
壁部7の平均細孔径は、例えば5~300μm、好ましくは10~100μm、より好ましくは15~50μmである。
【0037】
一方、細孔閉塞材9の平均粒子径は、壁部7の平均細孔径に応じて決められる。具体的には、細孔10内に細孔閉塞材9を配置しやすくする観点から、細孔閉塞材9の平均粒子径は、壁部7の平均細孔径以下であることが好ましく、壁部7の平均細孔径の1/300~1/10であることがより好ましく、1/50~1/3であることがさらに好ましく、3/50~3/4であることが最も好ましい。なお、本発明において、細孔閉塞材9の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を使用して求めた粒度分布におけるD50の値を意味する。
【0038】
細孔閉塞材9の量は、壁部の体積(セル6の体積を含まない)を基準として、例えば1~50g/L、好ましくは3~30g/Lである。
【0039】
細孔閉塞材9が細孔10内に配置されている場合、細孔閉塞材9は、壁部7の内部に均一に分布していてもよいが、偏在していてもよい。
【0040】
図5は、細孔閉塞材9の配置位置に関する一変形例を示す図である。図5には、壁部7のうち、第1セル6-1と第2セル6-2とを区切る部分(以下、境界部7-1という)の構成が示されている。図5に示される変形例においては、細孔閉塞材9が、第2セル6-2側ほど高密度になるように、境界部7-1内の細孔10に充填されている。なお、第2セル6-2内には、触媒12が配置されている。触媒12は、壁部7(境界部7-1)の表面上にコートされている。
【0041】
図5に示す変形例においては、境界部7-1の内部にも蓄熱材8を配置することが可能になる。これにより、蓄熱材8の量を増やすことが可能となる。加えて、蓄熱材8と触媒12との距離が近くなる。そのため、蓄熱材8に蓄えられた熱を効率よく触媒12に伝達することが可能となる。
【0042】
図5に示すような細孔閉塞材9の分布は、製造方法の工夫等により、実現できる。例えば、製造時に、細孔閉塞材9を含むスラリーを第1セル6-1内に供給する。次いで、第2セル6-2側からスラリーを吸引する。すなわち、スラリーを、第1セル6-1から境界部7-1を介して第2セル6-2側に吸引し、液体成分を除去する。この際、スラリー中の細孔閉塞材9の量や粒径が適当な大きさであれば、吸引時に細孔閉塞材9が境界部7-1内において第2セル6-2側に引き寄せられ、境界部7-1内における第2セル6-2の近傍に蓄積する。その結果、細孔閉塞材9を、第2セル6-2側ほど高密度になるように、偏在させることができる。
【0043】
なお、細孔閉塞材9の材質は、特に限定されない。好ましくは、細孔閉塞材9として無機セラミックが使用される。より好ましくは、細孔閉塞材9として、アルミナが使用される。アルミナは、高温耐久性が高いことから、細孔閉塞材9として好適である。
【0044】
続いて、端部封止材11について説明する。
【0045】
図3に示したように、第1セル6-1の両端は、端部封止材11(11-1、11-2)によって閉じられている。端部封止材11の材質は特に限定されない。ただし、壁部7が無機セラミック製である場合には、端部封止材11も無機セラミックを含んでいることが好ましい。このような構成によれば、壁部7と端部封止材11との間の熱膨張係数の差が小さくなる。これにより、加熱時にハニカム構造体4が破損し難くなる。
【0046】
端部封止材11は、壁部7と同様に、製造上の制約等により、多孔質性となる場合がある。この場合には、端部封止材11の細孔も、細孔閉塞材によって塞がれていることが好ましい。以下において、端部封止材11を塞ぐ細孔閉塞材が、端部細孔閉塞材と称される。端部細孔閉塞材としては、壁部7の細孔を塞ぐ細孔閉塞材9と同様のものを使用することができる。細孔閉塞材9と同様に、端部細孔閉塞材は、端部封止材11の細孔内部に充填されていてもよいし、端部封止材11の表面上に配置されていてもよい。
【0047】
図6は、端部封止材11に関する一変形例を示す図である。この変形例においては、第1セル6-1における一方の端部において、端部封止材11-1の細孔が、端部細孔閉塞材13により塞がれている。具体的には、蓄熱体1は、端部封止材11-2側が排ガスの上流側となり、端部封止材11-1側が下流側になるように配置される。また、蓄熱体1は、排ガスの下流側が鉛直下方側になるように、水平方向に対して若干傾けて配置される。すなわち、蓄熱体1は、端部封止材11-1側が鉛直下方側となるように、傾いている。そして、下流側の端部に設けられた端部封止材11-1の細孔が、端部細孔閉塞材13によって塞がれている。なお、上流側の端部に設けられた端部封止材11-2には、端部細孔閉塞材13が設けられていない。
【0048】
図6に示す例において、蓄熱材8は、液体になると、重力により、下流側(鉛直下方側)である端部封止材11-1側に蓄積する。端部封止材11-1の細孔が塞がれていないと、端部封止材11-1を介して蓄熱材8が流出する可能性がある。しかし、図6に示す例では、端部封止材11-1の細孔が塞がれているから、端部封止材11-1を介して蓄熱材8の流出が防止される。
【0049】
図7は、端部封止材11に関する他の変形例を示す図である。この変形例においては、図6に示した変形例とは異なり、端部封止材11-1だけでなく、端部封止材11-2の細孔についても、端部細孔閉塞材13によって塞がれている。車両に搭載される蓄熱体1では、加減速時等に、蓄熱材8が、第1セル6-1の両端部のうち鉛直上方側の端部にも接触し、流出する可能性がある。しかし、図7に示す変形例では、鉛直上方側の端部封止材11-2についても細孔が塞がれているから、鉛直上方側の端部からの蓄熱材8の流出も防ぐことができる。
【0050】
以上、本実施形態に係る蓄熱体1の構成について説明した。なお、本実施形態では、蓄熱体1が車両に搭載されるエンジン用の排ガス浄化触媒の温度を維持するために用いられる場合について説明した。ただし、蓄熱体1の用途は、このような用途に限定されるものではない。触媒に代えて温度が維持されるべき他の物質を第2セル6-2に配置すれば、他の用途に使用することも可能である。
【0051】
続いて、本実施形態に係る蓄熱体1の製造方法について、一例を挙げつつ、説明する。
【0052】
まず、複数のセル6を有するハニカム構造体4を準備する。ハニカム構造体4としては、例えば、市販品を用いることができる。この段階では、複数のセル6の両端部は、解放されている。
【0053】
続いて、複数のセル6のうちの第1セル6-1について、一方の端部を端部封止材11-1により閉じる。例えば、端部封止材11-1がセラミックス製である場合には、端部封止材11-1を含む原料を第1セル6-1の端部に配置し、焼成する。これにより、端部を端部封止材11-1により閉じることができる。
【0054】
続いて、細孔閉塞材9を含むスラリーを調製する。そして、調製したスラリーを第1セル6-1内に供給する。スラリーは、第1セル6-1の両端部のうち、閉じられていない側の端部から供給することができる。スラリーの供給後、スラリーを、壁部7を通過するように吸引する。これにより、壁部7の細孔を細孔閉塞材9により塞ぐことができる。なお、端部封止材11-1も通過するようにスラリーを吸引すれば、端部封止材11-1の細孔についても、細孔閉塞材9(この場合は端部細孔閉塞材13として機能する)により塞ぐことができる。吸引後、必要に応じて、ハニカム構造体4を焼成してもよい。
【0055】
続いて、蓄熱材8を第1セル6-1内に供給する。
【0056】
続いて、第1セル6-1のうちの他方の端部に端部封止材11-2を含む原料を配置し、焼成する。これにより、第1セル6-1の両端部が、端部封止材11(11-1及び11-2)により閉じられる。なお、必要に応じて、焼成後の端部封止材11-2に端部細孔閉塞材13を含有するスラリーを供給することにより、端部封止材11-2の細孔を端部細孔閉塞材13により塞いでもよい。
【0057】
最後に、第2セル6-2内において、壁部7に触媒12をコートする。例えば、触媒12を含むスラリーを調製し、第2セル6-2内に投入する。そして、吸引処理を行い、余剰スラリーを除去する。これにより、第2セル6-2内の壁部7に触媒12をコートすることができる。
【0058】
以上説明した方法により、本実施形態に係る蓄熱体1を得ることができる。
【0059】
[実施例]
以下に、本発明についてより詳細に説明するため、実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるべきものではない。
【0060】
(実施例1)
[1]ハニカム構造体として、市販のコージェライト製のハニカム担体(1.2L)を準備した。ハニカム構造体としては、直径が110mmであり、長さが127mmである円筒形状のものを用いた。なお、1(inch)あたりのセル数は、600個であった。壁部の厚さは、4ミルであった。また、壁部の平均細孔径は、35μmであった。
【0061】
[2]準備したハニカム構造体において、最外周から10mm以内に位置するセル(第1セル)の一方の端部を、端部封止材により封止した。具体的には、ハニカム構造体と同一の成分材を含む原料を第1セルの端部に配置し、焼成した。
【0062】
[3]続いて、細孔閉塞材を含むスラリーを調製した。具体的には、細孔閉塞材としてのアルミナを純水と混合し、スラリーを調製した。調製したスラリーを磁性ポット内に投入し、アルミナボールとともに振とうすることにより、アルミナを粉砕した。粉砕後のアルミナの平均粒子径は、10μmであった。なお、平均粒子径は、SHIMADZU製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2000A)を使用して求めたD50の値である。
【0063】
[4]続いて、調製したスラリーを、第1セル内に供給した。そして、空気流にて、余剰スラリーを吸引し、除去した。その後、400℃で1時間焼成した。これにより、壁部の細孔を、細孔閉塞材によって塞いだ。なお、焼成後のアルミナ量は、壁部の体積(セルの体積を含まない)を基準として、10g/Lであった。
【0064】
[5]続いて、第1セル内に潜熱蓄熱材を投入した。潜熱蓄熱材は、セル体積の90%となるような量で投入した。潜熱蓄熱材の投入後、第1セルにおける他方の端部を、端部封止材により封止した。具体的には、ハニカム構造体と同一の成分材を含む原料を第1セルの端部に配置し、焼成した。
【0065】
[6]続いて、触媒を調製した。具体的には、まず、市販の酸化ジルコニウムに、所定量のロジウム溶液を含浸させ、ロジウムを担持させた。そして、400℃で1時間焼成した。
【0066】
[7]また、市販のアルミナに所定量の白金溶液を含侵させ、白金を担持させた。そして、400℃で1時間焼成した。
【0067】
[8]続いて、ロジウムを担持させた酸化ジルコニウム、白金を担持させたアルミナ、ベーマイト、10%硝酸、及びイオン交換水を磁性ポットに投入し、アルミナボールとともに振とうし、内容物を粉砕した。これにより、コート用触媒スラリーを得た。
【0068】
[9]調製したコート用触媒スラリーを第2セル内に供給した。そして、空気流を用いた吸引により、余剰スラリーを除去した。その後、400℃で1時間、ハニカム構造体を焼成した。これにより、第2セルにおける壁部の表面に、触媒をコートした。触媒のコート量は、170g/Lであった。また、貴金属量は1g/Lであり、Pt:Rh=5:1であった。これにより、実施例に係る蓄熱体を得た。
【0069】
[比較例]
細孔閉塞材の供給およびその後の焼成(上述の[3]~[4])を実施しなかった点を除き、実施例と同様の方法を採用して、比較例に係る蓄熱体を調製した。
【0070】
[性能評価及び結果]
実施例及び比較例に係る蓄熱体を、マッフル炉に投入し、700℃で3時間焼成した。焼成後、構造体からの蓄熱材の流出の有無を目視にて確認した。その結果、実施例においては、蓄熱材の流出は確認されなかった。また、第1セル内に蓄熱材が存在していた。一方、比較例においては、蓄熱材が流出していた。そして、第1セル内に蓄熱材が存在していなかった。
【0071】
以上の結果より、細孔閉塞材によって壁部の細孔を塞ぐことにより、蓄熱材の流出を防ぐことができることが確認された。
【0072】
以上、本発明について、実施形態及び実施例を挙げて説明した。以下に、本発明の構成とその作用効果との関係に関し、代表的なものを要約する。
【0073】
一態様において、蓄熱体1は、ハニカム構造体4と、ハニカム構造体4内に配置され、使用時に液体となり得る蓄熱材8とを備える。ハニカム構造体4は、多孔質性の壁部7によって区切られ、それぞれが流路を形成するように延びる、複数のセル6を有している。複数のセル6は、両端部が端部封止材11により閉じられた第1セル6-1を有している。蓄熱材8は、第1セル6-1内に配置されている。壁部7において、第1セル6-1を囲む部分には、細孔を塞ぐように細孔閉塞材9が設けられている。このような構成によれば、細孔閉塞材9により壁部7の細孔が塞がれているから、蓄熱材8が液体となっても、蓄熱材8の流出が防止される。
【0074】
好ましい一態様において、複数のセル6は、更に、蓄熱材8が配置されていない第2セル6-2を有している。このような構成によれば、第2セル6-2に、蓄熱材8により温度が維持される対象となる物質を配置することができる。
【0075】
好ましい一態様において、ハニカム構造体4は、全体として筒状である。複数のセル6が伸びる方向に沿って見た場合に、第1セル6-1は、第2セル6-2よりも外側に配置されている。このような構成によれば、内側の第2セル6-2に配置された物質の熱が、外側に逃げにくくなる。従って、第2セル6-2内に配置された物質の温度がより維持されやすくなる。
【0076】
好ましい一態様において、第2セル6-2は、その中を排ガスが流れるように構成されている。第2セル6-2には、排ガスを浄化するための排ガス浄化触媒が配置されている。このような構成によれば、蓄熱体1により、排ガス浄化触媒の温度を維持することが可能になる。
【0077】
好ましい一態様において、壁部7は、第1セル6-1と第2セル6-2とを区切る部分である境界部7-1を有している。境界部7-1内の細孔10には、細孔閉塞材9が、第2セル6-2側ほど高密度になるように充填されている。このような構成によれば、境界部7-1の内部にも蓄熱材を配置することが可能となり、蓄熱材の量を増やすことができる。これにより、より大きな蓄熱能力を得ることができる。
【0078】
好ましい一態様において、端部封止材11は、多孔質性である。第1セル6-1における少なくとも一方の端部には、端部封止材11の細孔を塞ぐ、端部細孔閉塞材13が設けられている。このような構成によれば、端部からの蓄熱材8の流出も防ぐことができる。
【0079】
好ましい一態様において、端部細孔閉塞材13は、第1セル6-1における両端部において、端部封止材11の細孔を塞いでいる。このような構成によれば、両端部において蓄熱材8の流出を防ぐことができる。
【0080】
好ましい一態様において、端部封止材11は、無機セラミックを含む。このような構成によれば、端部封止材11と、ハニカム構造体4(壁部7)との熱膨張係数の差を小さくすることができる。これにより、加熱時におけるハニカム構造体4の破損を防ぐことができる。
【0081】
好ましい一態様において、蓄熱材8は、潜熱蓄熱材を含んでいる。本実施形態によれば、使用時(蓄熱時)に液相となる潜熱蓄熱材を用いつつも、蓄熱材8の流出を防ぐことができる。
【0082】
好ましい一態様において、細孔閉塞材9の少なくとも一部は、細孔10内に充填されている。このような構成によれば、細孔閉塞材9によって第1セル6-1内の空間が狭くならないので、十分な量の蓄熱材8を第1セル6-1内に配置することができる。
【0083】
好ましい一態様において、細孔閉塞材9の平均粒子径は、壁部7の平均細孔径以下である。このような構成によれば、細孔閉塞材9を壁部7の内部(細孔10の内部)に配置しやすくなる。
【0084】
好ましい一態様において、細孔閉塞材9は、無機セラミックを含む。このような構成によれば、蓄熱体1の高温耐久性を高めることができ、長期にわたって細孔10を閉塞できる。
【符号の説明】
【0085】
1・・・蓄熱体、2・・・エンジン、3・・・排気管、4・・・ハニカム構造体、5・・・触媒部、6-1・・・第1セル、6-2・・・第2セル、7・・・壁部、7-1・・・境界部、8・・・蓄熱材、9・・・細孔閉塞材、10・・・細孔、11・・・端部封止材、12・・・触媒、13・・・端部細孔閉塞材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7