(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093865
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】異常検知装置及び異常検知方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20240702BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20240702BHJP
G05B 19/4155 20060101ALI20240702BHJP
G06N 3/0455 20230101ALI20240702BHJP
G06N 3/0442 20230101ALI20240702BHJP
【FI】
B23Q17/09 C
B23Q17/09 G
B23Q17/09 F
G05B23/02 302R
G05B19/4155 V
G06N3/0455
G06N3/0442
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210490
(22)【出願日】2022-12-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年3月2日 2022年度精密工学会春季大会学術講演会 大会講演論文集にて公開 令和4年3月17日 2022年度精密工学会春季大会学術講演会にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】519286245
【氏名又は名称】株式会社川崎製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川崎 達郎
(72)【発明者】
【氏名】周 立波
(72)【発明者】
【氏名】尾嶌 裕隆
【テーマコード(参考)】
3C029
3C223
3C269
【Fターム(参考)】
3C029DD14
3C029DD16
3C223AA12
3C223BA01
3C223CC01
3C223EB02
3C223EB03
3C223EB05
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF35
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH08
3C269AB01
3C269BB12
3C269MN16
3C269MN24
3C269MN28
3C269MN44
3C269MN50
(57)【要約】
【課題】リアルタイムで、工具の摩耗異常を精度よく検知する。
【解決手段】異常検知装置は、前記工具に関係する測定値の時系列データを取得する取得部と、正常な状態の加工時に取得した前記測定値の時系列データに基づいて予め学習された、前記測定値の時系列データを入力として、前記測定値の時系列データを出力する学習済みモデルに、前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データを入力して、前記学習済みモデルの出力を取得する推定部と、前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データと、前記学習済みモデルの出力とを比較して、前記工具の摩耗異常を検知する検知部と、を含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の工具の摩耗異常を検知する異常検知装置であって、
前記工具に関係する測定値の時系列データを取得する取得部と、
正常な状態の加工時に取得した前記測定値の時系列データに基づいて予め学習された、前記測定値の時系列データを入力として、前記測定値の時系列データを出力する学習済みモデルに、前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データを入力して、前記学習済みモデルの出力を取得する推定部と、
前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データと、前記学習済みモデルの出力とを比較して、前記工具の摩耗異常を検知する検知部と、
を含む異常検知装置。
【請求項2】
前記検知部は、前記時系列データの各区間で、前記測定値と前記学習済みモデルの出力との差分を総和した誤差値を用いて、異常スコアを、前記区間ごとに算出し、前記区間ごとの前記異常スコアに基づいて、前記工具の摩耗異常を検知する請求項1記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記学習済みモデルは、符号器及び復号器を含む請求項1記載の異常検知装置。
【請求項4】
工作機械の工具の摩耗異常を検知する異常検知装置であって、
前記工具に関係する測定値の時系列データを取得する取得部と、
正常な状態の加工時に取得した前記測定値の時系列データに基づいて予め学習された、前記測定値の時系列データを入力として、前記測定値の時系列データを出力する、符号器及び復号器を含む学習済みモデルに、前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データを入力して、前記学習済みモデルの前記符号器の出力を、前記測定値の時系列データの各区間について取得する推定部と、
前記測定値の時系列データの各区間について取得した前記学習済みモデルの前記符号器の出力を比較して、前記工具の摩耗異常を検知する検知部と、
を含む異常検知装置。
【請求項5】
前記検知部は、前記時系列データの各区間で、前記区間について取得した前記学習済みモデルの前記符号器の出力と、正常な状態の加工時に取得した前記学習済みモデルの符号器の出力との局所密度比を用いて、異常スコアを算出し、前記区間ごとの前記異常スコアに基づいて、前記工具の摩耗異常を検知する請求項4記載の異常検知装置。
【請求項6】
前記測定値は、前記工具の歪み、加速度、温度、音、又はAE(acoustic emission)である請求項1~請求項5の何れか1項記載の異常検知装置。
【請求項7】
工作機械の工具の摩耗異常を検知する異常検知方法であって、
取得部が、前記工具に関係する測定値の時系列データを取得し、
推定部が、正常な状態の加工時に取得した前記測定値の時系列データに基づいて予め学習された、前記測定値の時系列データを入力として、前記測定値の時系列データを出力する学習済みモデルに、前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データを入力して、前記学習済みモデルの出力を取得し、
検知部が、前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データと、前記学習済みモデルの出力とを比較して、前記工具の摩耗異常を検知する
異常検知方法。
【請求項8】
工作機械の工具の摩耗異常を検知する異常検知方法であって、
取得部が、前記工具に関係する測定値の時系列データを取得し、
推定部が、正常な状態の加工時に取得した前記測定値の時系列データに基づいて予め学習された、前記測定値の時系列データを入力として、前記測定値の時系列データを出力する、符号器及び復号器を含む学習済みモデルに、前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データを入力して、前記学習済みモデルの前記符号器の出力を、前記測定値の時系列データの各区間について取得し、
検知部が、前記測定値の時系列データの各区間について取得した前記学習済みモデルの前記符号器の出力を比較して、前記工具の摩耗異常を検知する
異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、異常検知装置及び異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加工中の音データに基づいて機械学習を適用して工具の寿命を予測する学習モデルを生成する方法が開示されている(特許文献1)。この方法では、学習モデルを複数用意し、状態により複数の中から1つ選択するようにして精度を高めている。
【0003】
また、正常な加工時の工具に関する測定値(振動、音、モータ電流等)を機械学習により正常モデルを作成し、この正常モデルに基づいて異常を判断する方法が開示されている(特許文献2)。
【0004】
また、工具の音や温度データと工具の摩耗量データを加工条件と関連付けて学習した学習モデルを生成して、工具の摩耗量予測を行う方法が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-071818号公報
【特許文献2】特開2019-139755号公報
【特許文献3】特開2018-024055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ルールベースの異常検知を行うことが考えられるが、システムの多様化とセンサの多チャンネル化が進むにつれ、データが膨大かつ複雑になり、作業者がそれらのデータの関係性を正しく把握し理解することが不可能になる。
【0007】
時系列データを入力とした深層学習を行うことが考えられるが、前処理により特徴量を抽出して、ニューラルネットワークモデルの入力とする場合には、オフラインでの事前処理が必要で、リアルタイムでの異常検知を行うことができない。
【0008】
また、日々の改善努力により現場には異常となる教師データがほとんど無いため、精度よく異常検知することができるモデルの学習は困難である。
【0009】
開示の技術は、上記の点に鑑みてなされたものであり、リアルタイムで、工具の摩耗異常を精度よく検知することができる異常検知装置及び異常検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の第1態様は、工作機械の工具の摩耗異常を検知する異常検知装置であって、前記工具に関係する測定値の時系列データを取得する取得部と、正常な状態の加工時に取得した前記測定値の時系列データに基づいて予め学習された、前記測定値の時系列データを入力として、前記測定値の時系列データを出力する学習済みモデルに、前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データを入力して、前記学習済みモデルの出力を取得する推定部と、前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データと、前記学習済みモデルの出力とを比較して、前記工具の摩耗異常を検知する検知部と、を含む。
【0011】
本開示の第2態様は、工作機械の工具の摩耗異常を検知する異常検知装置であって、前記工具に関係する測定値の時系列データを取得する取得部と、正常な状態の加工時に取得した前記測定値の時系列データに基づいて予め学習された、前記測定値の時系列データを入力として、前記測定値の時系列データを出力する、符号器及び復号器を含む学習済みモデルに、前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データを入力して、前記学習済みモデルの前記符号器の出力を、前記測定値の時系列データの各区間について取得する推定部と、前記測定値の時系列データの各区間について取得した前記学習済みモデルの前記符号器の出力を比較して、前記工具の摩耗異常を検知する検知部と、を含む。
【0012】
本開示の第3態様は、工作機械の工具の摩耗異常を検知する異常検知方法であって、取得部が、前記工具に関係する測定値の時系列データを取得し、推定部が、正常な状態の加工時に取得した前記測定値の時系列データに基づいて予め学習された、前記測定値の時系列データを入力として、前記測定値の時系列データを出力する学習済みモデルに、前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データを入力して、前記学習済みモデルの出力を取得し、検知部が、前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データと、前記学習済みモデルの出力とを比較して、前記工具の摩耗異常を検知する。
【0013】
本開示の第4態様は、工作機械の工具の摩耗異常を検知する異常検知方法であって、取得部が、前記工具に関係する測定値の時系列データを取得し、推定部が、正常な状態の加工時に取得した前記測定値の時系列データに基づいて予め学習された、前記測定値の時系列データを入力として、前記測定値の時系列データを出力する、符号器及び復号器を含む学習済みモデルに、前記取得部によって取得された前記測定値の時系列データを入力して、前記学習済みモデルの前記符号器の出力を、前記測定値の時系列データの各区間について取得し、検知部が、前記測定値の時系列データの各区間について取得した前記学習済みモデルの前記符号器の出力を比較して、前記工具の摩耗異常を検知する。
【発明の効果】
【0014】
開示の技術によれば、リアルタイムで、工具の摩耗異常を精度よく検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態及び第2実施形態のモデル学習装置及び異常検知装置として機能するコンピュータの一例の概略ブロック図である。
【
図2】工具に設けられた歪ゲージ、加速度計、熱電対、及びAEセンサを説明するための図である。
【
図3】各種測定値の時系列データの一例を示す図である。
【
図4】AE信号の時系列データの一例を示す図である。
【
図5】第1実施形態及び第2実施形態のモデル学習装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】第1実施形態及び第2実施形態の異常検知装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】第1実施形態の異常検知装置の異常検知ルーチンを示すフローチャートである。
【
図9】AE信号の時系列データから摩耗異常を検知する実施例を示すグラフである。
【
図10】音の時系列データから摩耗異常を検知する実施例を示すグラフである。
【
図11】第2実施形態のモデルの例を示す図である。
【
図12】第2実施形態の異常検知装置の異常検知ルーチンを示すフローチャートである。
【
図13】AE信号の時系列データから摩耗異常を検知する実施例を示すグラフである。
【
図14】音の時系列データから摩耗異常を検知する実施例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、開示の技術の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一又は等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
[第1実施形態]
<第1実施形態に係るモデル学習装置の構成>
図1は、本実施形態のモデル学習装置10のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0018】
図1に示すように、モデル学習装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、ストレージ14、入力部15、表示部16及び通信インタフェース(I/F)17を有する。各構成は、バス19を介して相互に通信可能に接続されている。
【0019】
CPU11は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU11は、ROM12又はストレージ14からプログラムを読み出し、RAM13を作業領域としてプログラムを実行する。CPU11は、ROM12又はストレージ14に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM12又はストレージ14には、モデルを学習するための学習プログラムが格納されている。学習プログラムは、1つのプログラムであっても良いし、複数のプログラム又はモジュールで構成されるプログラム群であっても良い。
【0020】
ROM12は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM13は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ14は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0021】
入力部15は、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0022】
入力部15は、工作機械の工具が正常な状態の加工時に取得した、工作機械の工具に関係する測定値の時系列データである学習データを、入力として受け付ける。
【0023】
具体的には、
図2に示すように、工作機械の工具30に設けられた歪ゲージ31を用いて、工具30の歪みを測定し、工具30に設けられた加速度計34を用いて、工具30の加速度を測定し、工具30に設けられた熱電対32を用いて、工具30の温度を測定し、工作機械に設けられたマイク(図示省略)を用いて、工具30の音を測定し、工具30に設けられたAEセンサ36、38を用いて、工具30のAE(acoustic emission)信号を測定する(
図3参照)。
図3は、工具30の歪みの時系列データ、加速度の時系列データ、温度の時系列データ、音の時系列データ、及びAE信号の時系列データの一例を示している。
【0024】
工具30が正常な状態、すなわち、摩耗異常がない状態での加工時に取得した、工具30の歪みの時系列データ、加速度の時系列データ、温度の時系列データ、音の時系列データ、及びAE信号の時系列データを、学習データとする(
図4の正常時の時系列データを参照)。
図4では、工具30の正常時、異常時の直前である過渡期、及び異常時のAE信号の時系列データの一例を示している。
【0025】
この正常時の学習データを、複数の工具30の各々について用意し、入力部15は、複数の工具30の各々についての学習データを受け付ける。
【0026】
表示部16は、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部16は、タッチパネル方式を採用して、入力部15として機能しても良い。
【0027】
通信インタフェース17は、他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI(Fiber Distributed Data Interface)、Wi-Fi(登録商標)、USB(Universal Serial Bus)等の規格が用いられる。
【0028】
次に、モデル学習装置10の機能構成について説明する。
図5は、モデル学習装置10の機能構成の例を示すブロック図である。
【0029】
モデル学習装置10は、機能的には、
図5に示すように、学習用データベース(DB)20、学習部24、及びモデル記憶部26を備えている。
【0030】
学習用データベース20には、入力された複数の工具30の各々についての学習データが記憶されている。
【0031】
学習部24は、受け付けた複数の工具30についての学習データに基づいて、測定値の時系列データを入力として、測定値の時系列データを出力するモデルを学習する。
【0032】
具体的には、学習データである測定値の時系列データをモデルに入力したときに、当該学習データに対応する測定値の時系列データを出力するように、モデルを学習する。
【0033】
より具体的には、
図6に示すように、モデル70は、LSTM(Long short-term memory)とオートエンコーダーとに基づくモデルであり、符号器72及び復号器74を含む。符号器72は、測定値の種類毎に、1区間の時系列データの各時刻の測定値を入力とし、符号化データを出力する。復号器74は、測定値の種類毎に、符号化データを入力とし、1区間の時系列データの各時刻の測定値に復号する。
【0034】
モデル記憶部26には、学習された学習済みモデルが記憶される。
【0035】
<第1実施形態に係る異常検知装置の構成>
上記
図1は、本実施形態の異常検知装置50のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0036】
上記
図1に示すように、異常検知装置50は、モデル学習装置10と同様の構成であり、ROM12又はストレージ14には、工具の摩耗異常を検知するための異常検知プログラムが格納されている。
【0037】
入力部15は、工具30に関係する測定値の時系列データを、入力として受け付ける。具体的には、工作機械の工具30に設けられた歪ゲージ31を用いて、工具30の歪みを測定し、工具30に設けられた加速度計34を用いて、工具30の加速度を測定し、工具30に設けられた熱電対32を用いて、工具30の温度を測定し、工作機械に設けられたマイク(図示省略)を用いて、工具30の音を測定し、工具30に設けられたAEセンサ36、38を用いて、工具30のAE(acoustic emission)信号を測定する。
【0038】
入力部15は、工具の加工時に取得した、工具の歪みの時系列データ、加速度の時系列データ、温度の時系列データ、音の時系列データ、及びAE信号の時系列データを、入力として受け付ける。
【0039】
次に、異常検知装置50の機能構成について説明する。
図7は、異常検知装置50の機能構成の例を示すブロック図である。
【0040】
異常検知装置50は、機能的には、
図7に示すように、モデル記憶部60、取得部62、推定部64、及び検知部66を備えている。
【0041】
モデル記憶部60には、モデル学習装置10によって学習された学習済みモデルが記憶される。
【0042】
取得部62は、入力された工具30に関係する測定値の時系列データを取得する。
【0043】
推定部64は、学習済みモデルに、取得部62によって取得された測定値の時系列データを入力して、学習済みモデルの出力を取得する。
【0044】
具体的には、測定値の種類毎に、1区間の時系列データの各時刻の測定値を符号器72に入力し、復号器74によって復号された1区間の時系列データの各時刻の測定値を取得する。
【0045】
検知部66は、取得部62によって取得された測定値の時系列データと、学習済みモデルの出力とを比較して、工具30の摩耗異常を検知する。
【0046】
具体的には、検知部66は、時系列データの各区間で、測定値と学習済みモデルの出力との差分を総和した誤差値を用いて、異常スコアを、区間ごとに算出し、区間ごとの異常スコアに基づいて、工具30の摩耗異常を検知する。
【0047】
より具体的には、1区間の各時刻tについて、以下の式に従って、測定値x(t)と学習済みモデルの出力^y(t)との差分a(t)を算出し、1区間分、差分a(t)を総和した誤差値ε(t)を算出する。
【0048】
【0049】
そして、当該区間の誤差値ε(t)を用いて、以下の式に従って、異常スコアS(t)を算出する。
【0050】
【0051】
ただし、α、βは、予め定められた値である。
【0052】
検知部66は、各区間について、当該区間の異常スコアS(t)が閾値以上である場合に、工具30の摩耗異常を検知する。
【0053】
<第1実施形態に係るモデル学習装置の作用>
次に、本実施形態に係るモデル学習装置10の作用について説明する。
【0054】
まず、モデル学習装置10のCPU11がROM12又はストレージ14から学習プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、学習処理が行なわれる。また、モデル学習装置10に、複数の工具30の各々についての学習データが入力され、学習用データベース20に格納される。
【0055】
そして、CPU11は、学習部24として、受け付けた複数の工具30についての学習データに基づいて、測定値の時系列データを入力として、測定値の時系列データを出力するモデルを学習し、学習済みモデルを、モデル記憶部26に格納し、学習処理を終了する。
【0056】
<第1実施形態に係る異常検知装置の作用>
次に、本実施形態に係る異常検知装置50の作用について説明する。
【0057】
図8は、異常検知装置50による異常検知処理の流れを示すフローチャートである。CPU11がROM12又はストレージ14から異常検知プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、異常検知処理が行なわれる。また、異常検知装置50に、工具30に関係する測定値の時系列データが入力される。なお、異常検知処理は、異常検知方法の一例である。
【0058】
ステップS100で、CPU11は、取得部62として、入力された工具30に関係する測定値の時系列データを1区間分取得する。
【0059】
ステップS102で、CPU11は、推定部64として、学習済みモデルに、取得部62によって取得された1区間の時系列データを入力して、学習済みモデルの出力を取得する。
【0060】
具体的には、1区間の時系列データの各時刻の測定値を符号器72に入力し、復号器74によって復号された1区間の時系列データの各時刻の測定値を取得する。
【0061】
ステップS104で、CPU11は、検知部66として、当該1区間で、測定値と学習済みモデルの出力との差分を総和した誤差値を算出する。
【0062】
ステップS106で、CPU11は、検知部66として、当該1区間で、誤差値を用いて、異常スコアを算出する。
【0063】
ステップS108で、CPU11は、検知部66として、異常スコアが閾値以上であるか否かを判定する。異常スコアが閾値未満である場合には、上記ステップS100へ戻り、次の区間の時系列データについて、上記ステップS100~S108の処理を繰り返す。一方、異常スコアが閾値以上である場合には、ステップS110へ移行する。
【0064】
ステップS110では、CPU11は、工具30が摩耗異常であることを示すメッセージを表示部16により出力し、異常検知処理を終了する。
【0065】
<実施例1>
上述した第1実施形態のモデル学習装置10及び異常検知装置50を用いて摩耗異常を検知する実施例について説明する。
【0066】
図9(A)、(B)に、AE信号の時系列データを入力したときの、測定値x(t)、学習済みモデルの出力^y(t)、差分a(t)、誤差値ε(t)、異常スコアS(t)の例を示す。
【0067】
図9(A)に示すように、異常時の前の過渡期において、異常が検知されていることが分かる。
図9(B)では、予測不能なイベントに対して、異常スコアS(t)が閾値以上となっていることが分かる。このような予測不能なイベントに対しては、異常スコアS(t)に対して、ノイズ除去などの処理を施すことにより、精度よく異常を検知することができる。
【0068】
図10(A)、(B)に、音の時系列データを入力したときの、測定値x(t)、学習済みモデルの出力^y(t)、差分a(t)、誤差値ε(t)、異常スコアS(t)の例を示す。
【0069】
図10(A)、(B)に示すように、異常時の前の過渡期において、異常が検知されていることが分かる。
【0070】
以上説明したように、第1実施形態に係る異常検知装置によれば、正常な状態の加工時に取得した測定値の時系列データに基づいて予め学習された学習済みモデルに、取得された測定値の時系列データを入力して、学習済みモデルの出力を取得し、取得された測定値の時系列データと、学習済みモデルの出力とを比較して、工具の摩耗異常を検知する。これにより、リアルタイムで、工具の摩耗異常を精度よく検知することができる。
【0071】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態に係る学習装置及び異常検知装置の構成は、第1実施形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0072】
第2実施形態では、モデルの構成が、第1実施形態と異なっている。
【0073】
<第2実施形態に係るモデル学習装置の構成>
第2実施形態に係るモデル学習装置10の学習部24は、受け付けた複数の工具30についての学習データに基づいて、測定値の時系列データを入力として、測定値の時系列データを出力するモデルを学習する。
【0074】
具体的には、学習データである測定値の時系列データをモデルに入力したときに、当該学習データに対応する測定値の時系列データを出力するように、モデルを学習する。
【0075】
より具体的には、
図11(A)に示すように、モデル270は、オートエンコーダーに基づくモデルであり、符号器272及び復号器274を含む。符号器272は、測定値の種類毎に、1区間の時系列データの各時刻の測定値を入力とし、符号化データを出力する。復号器274は、測定値の種類毎に、符号化データを入力とし、1区間の時系列データの各時刻の測定値に復号する。
【0076】
<第2実施形態に係る異常検知装置の構成>
第2実施形態に係る異常検知装置50は、機能的には、上記
図7に示すように、モデル記憶部60、取得部62、推定部64、及び検知部66を備えている。
【0077】
モデル記憶部60には、モデル学習装置10によって学習された学習済みモデルが記憶される。
【0078】
取得部62は、入力された工具30に関係する測定値の時系列データを取得する。
【0079】
推定部64は、学習済みモデルに、取得部62によって取得された測定値の時系列データを入力して、学習済みモデルの符号器272の出力を、特徴量として、測定値の時系列データの各区間について取得する。
【0080】
具体的には、測定値の種類毎に、1区間の時系列データの各時刻の測定値を符号器72に入力し、符号器72の出力である符号化データを特徴量として取得する。
【0081】
検知部66は、測定値の時系列データの各区間について取得した学習済みモデルの符号器272の出力を比較して、工具30の摩耗異常を検知する。
【0082】
具体的には、検知部66は、測定値の種類毎に、時系列データの各区間で、当該区間について取得した学習済みモデルの符号器272の出力と、正常な状態の加工時に取得した学習済みモデルの符号器272の出力との局所密度を用いて、異常スコアを算出し、区間ごとの異常スコアに基づいて、工具30の摩耗異常を検知する。ここで、正常な状態の加工時に取得した学習済みモデルの符号器272の出力とは、当該区間より前であって、工具30の摩耗異常が検知されなかった区間について取得した、学習済みモデルの符号器272の出力である。
【0083】
より具体的には、
図11(B)に示すように、各区間について、LOF(Local outlier Factor)を用いて、当該区間について取得した学習済みモデルの符号器272の出力と、正常な状態の加工時に取得した学習済みモデルの符号器272の出力との局所密度比を算出する。そして、当該区間の局所密度比を、正規化することによって、異常スコアを算出する。
ただし、N
k(P)は、当該区間より前の区間について取得した符号器272の出力のうち、k近傍の出力の集合であり、reachability_distance
k(P,A)は、k近傍の出力Aとの距離であり、lrd
k(P)は、局所密度であり、lof(P)は、局所密度比である。
【0084】
検知部66は、各区間について、当該区間の異常スコアが閾値以上である場合に、工具30の摩耗異常を検知する。
【0085】
<第2実施形態に係るモデル学習装置の作用>
次に、本実施形態に係るモデル学習装置10の作用について説明する。
【0086】
まず、モデル学習装置10のCPU11がROM12又はストレージ14から学習プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、学習処理が行なわれる。また、モデル学習装置10に、複数の工具30の各々についての学習データが入力され、学習用データベース20に格納される。
【0087】
そして、CPU11は、学習部24として、受け付けた複数の工具30についての学習データに基づいて、測定値の時系列データを入力として、測定値の時系列データを出力するモデルを学習し、学習済みモデルを、モデル記憶部26に格納し、学習処理を終了する。
【0088】
<第2実施形態に係る異常検知装置の作用>
次に、本実施形態に係る異常検知装置50の作用について説明する。
【0089】
図12は、異常検知装置50による異常検知処理の流れを示すフローチャートである。CPU11がROM12又はストレージ14から異常検知プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、異常検知処理が行なわれる。また、異常検知装置50に、工具30に関係する測定値の時系列データが入力される。
【0090】
ステップS200で、CPU11は、取得部62として、入力された工具30に関係する測定値の時系列データを1区間分取得する。
【0091】
ステップS202で、CPU11は、推定部64として、学習済みモデルに、取得部62によって取得された1区間の時系列データを入力して、学習済みモデルの符号器272の出力を特徴量として取得する。
【0092】
具体的には、1区間の時系列データの各時刻の測定値を符号器272に入力し、符号器272の出力である符号化データを特徴量として取得する。
【0093】
ステップS204で、CPU11は、検知部66として、当該1区間について取得した学習済みモデルの符号器272の出力である特徴量と、正常な状態の加工時に取得した学習済みモデルの符号器272の出力である特徴量との局所密度比を算出する。
【0094】
ステップS206で、CPU11は、検知部66として、当該1区間について、局所密度比を用いて、異常スコアを算出する。
【0095】
ステップS208で、CPU11は、検知部66として、異常スコアが閾値以上であるか否かを判定する。異常スコアが閾値未満である場合には、上記ステップS200へ戻り、次の区間の時系列データについて、上記ステップS200~S208の処理を繰り返す。一方、異常スコアが閾値以上である場合には、ステップS210へ移行する。
【0096】
ステップS210では、CPU11は、工具30が摩耗異常であることを示すメッセージを表示部16により出力し、異常検知処理を終了する。
【0097】
<実施例2>
上述した第2実施形態のモデル学習装置10及び異常検知装置50を用いて摩耗異常を検知する実施例について説明する。
【0098】
図13(A)、(B)に、AE信号の時系列データを入力したときの、測定値、測定値に対してエンベロープ処理を施した結果、その結果の平均値、平均値を学習済みモデルに入力としたときの異常スコアの例を示す。異常スコアの値が1に近いほど異常であることを示している。
図13(A)、(B)に示すように、異常時の前の過渡期において、異常が検知されていることが分かる。
【0099】
図14(A)、(B)に、音の時系列データを入力したときの、測定値、異常スコアの例を示す。
図14(A)、(B)に示すように、異常時の前の過渡期において、異常が検知されていることが分かる。
【0100】
以上説明したように、第2実施形態に係る異常検知装置によれば、正常な状態の加工時に取得した測定値の時系列データに基づいて予め学習された学習済みモデルに、取得された測定値の時系列データを入力して、学習済みモデルの符号器の出力を、測定値の時系列データの各区間について取得し、測定値の時系列データの各区間について取得した学習済みモデルの符号器の出力を比較して、工具の摩耗異常を検知する。これにより、リアルタイムで、工具の摩耗異常を精度よく検知することができる。
【0101】
上記
図13、
図14の正常時、過渡期、異常時は、現場の作業者による判断となっており、現場の熟練作業者は一般に余裕を持って工具交換する傾向があるため、正常時の終わりごろに工具を交換する。
【0102】
一方、本実施形態では、過渡期に入ってから異常を判断しており、異常検知装置による異常検知判断時に工具を交換することで、作業者よりも工具を長く使用できる。具体的には、40秒ほど長くでき、これは工具寿命の15~20%に相当し、さらには工作機械のDown time減少を加味すれば,機械と工具の利用率が3割近く向上することになる。
【0103】
また、異常検知装置による異常検知結果を見ても分かるように、たとえ同じ型番の新品の工具を用いても、工具寿命はそれぞれ異なるため、異常検知のタイミングは異なり、それらに対しても本実施形態の異常検知装置では対応可能である。
【0104】
<変形例>
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0105】
例えば、モデル学習装置と異常検知装置とを別々の装置として構成する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、モデル学習装置と異常検知装置とを一つの装置として構成してもよい。
【0106】
また、上記各実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した各種処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、学習処理及び異常検知処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0107】
また、上記各実施形態では、学習プログラム及び異常検知プログラムがストレージ14に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0108】
10 モデル学習装置
11 CPU
14 ストレージ
15 入力部
16 表示部
20 学習用データベース
24 学習部
26 モデル記憶部
30 工具
31 歪ゲージ
34 加速度計
32 熱電対
36、38 AEセンサ
50 異常検知装置
60 モデル記憶部
62 取得部
64 推定部
66 検知部
70、270 モデル
72、272 符号器
74、274 復号器