(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093866
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】リング状部材の内周面研削・研磨加工方法
(51)【国際特許分類】
B24B 41/06 20120101AFI20240702BHJP
B24B 5/18 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B24B41/06 K
B24B5/18 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210491
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】矢野 洋平
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
【Fターム(参考)】
3C034AA05
3C034BB75
3C043AA08
3C043CC03
3C043DD01
3C043DD03
3C043DD05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】リング状部材におけるひび、欠け、割れの発生を抑制できるリング状部材内周面の研削・研磨加工方法を提供する。
【解決手段】第一の支持部材と第二の支持部材が、前記リング状部材の中心と第一の支持部材の中心とを結ぶ第一の線分と、リング状部材の中心と第二の支持部材の中心とを結ぶ第二の線分とのなす角度が30°以上150°以下となるように配置され、リング状部材の内周面を研削又は研磨する治具の先端部を、リング状部材の内周面に対して挿入し、第一の線分と第二の線分の間にあるリング状部材の内周面の第一の領域と、第一の線分から第一の領域と反対側の周方向に、30°以下の範囲まで拡張された第一の拡張領域と、第二の線分から第一の領域と反対側の周方向に、30°以下の範囲まで拡張された第二の拡張領域を研削または研磨する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス焼結体からなるリング状部材を支持装置によって支持し、その内周面を研削または研磨するリング状部材内周面の研削・研磨加工方法であって、
前記支持装置が、リング状部材を水平に載置するための台座部と、前記台座部に設けられた、リング状部材の外周面と当接してリング状部材を支持する第一の支持部材および第二の支持部材と、を備え、
前記リング状部材が前記台座部上に配置されると共に、前記第一の支持部材と前記第二の支持部材がリング状部材の外周面と当接した状態において、
前記第一の支持部材と前記第二の支持部材が、前記リング状部材の中心と前記第一の支持部材の中心とを結ぶ第一の線分と、前記リング状部材の中心と前記第二の支持部材の中心とを結ぶ第二の線分とのなす角度が30°以上150°以下となるように配置され、
前記支持装置を用いて、
前記リング状部材の内周面を研削又は研磨する治具の先端部を、前記台座部の水平面に対して斜め方向から、リング状部材の内周面に対して挿入し、
前記第一の線分と前記第二の線分の間にあるリング状部材の内周面の第一の領域と、前記第一の線分から第一の領域と反対側の周方向に、30°以下の範囲まで拡張された第一の拡張領域と、前記第二の線分から第一の領域と反対側の周方向に、30°以下の範囲まで拡張された第二の拡張領域を研削または研磨することを特徴とするリング状部材内周面の研削・研磨加工方法。
【請求項2】
前記リング状部材は、内径が少なくとも200mm、内径と外径の差が30mm以下、肉厚が前記内径と外径の差に対して0.1倍以上0.4倍以下であることを特徴とする請求項1記載のセラミックス焼結体からなるリング状部材の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング状部材の内周面研削・研磨加工方法に関し、特に、セラミックス焼結体からなるリング状部材の内周面研削・研磨加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肉薄で口径の大きい円環形状の部材、いわゆるリング状部材は、肉薄で口径が大きいため機械強度が弱い。そのため、リング状部材は加工時に発生する応力に対して耐性に乏しく、破損等しやすく、従来から、その加工方法に様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、内径面及び外径面を高精度に研削でき、しかも、リードタイム短縮が可能であり、装置設備費の低減を図ることができる複合研削加工方法(装置)が提案されている。
この複合研削加工方法(装置)は、
図4に示すように、リング形状工作物10を鉛直軸心廻りに回転させつつ、リング形状工作物10内に配置される内径用砥石11にて、リング形状工作物10の内径面を研削するとともに、リング形状工作物10の外周側に配置される外径用砥石12にて、このリング形状工作物10の外径面を研削するものである。
【0004】
この複合研削加工方法(装置)では、前記リング形状工作物10は、その軸心が垂直方向に沿って配置した状態で、その鉛直軸心O廻りの回転が可能として図示省略の保持装置に保持されている。すなわち、この保持装置として、モータ等の駆動手段にて回転駆動する回転体(例えば、ドライビングプレート)を備え、この回転体の回転駆動によって、リング形状工作物10が鉛直軸心廻りに回転するようになされている。
【0005】
また、このリング形状工作物10の外周側には、フロントシュー13とリヤシュー14とを備えた支持機構15が配置されている。これによって、リング形状工作物10が支持されている。
すなわち、リング形状工作物10のドライビングプレート側にマグネットが配置され、このマグネットによって、ドライビングプレートとリング形状工作物10を介して、シュー13、14の間に磁気回路が形成されて、リング形状工作物10がドライビングプレートに吸着され、さらに回転駆動によって生じる吸込力(ドライビングプレート中心とリング形状工作物中心をシュー13、14の間に吸込力が生じるよう芯をずらす)とマグネットによる吸着力により、シュー13、14に押付けられて回転し、リング形状工作物10が支持される。
【0006】
また、特許文献2では、図示しないが、リング状部材の外周面にビビリが発生するのを有効に防止することができる研削装置が提案されている。
この研削装置は、リング状部材の回転駆動軸と、該リング状部材の外周面を研削するための砥石と、該リング状部材の外周面のうち、該砥石により研削される部分から円周方向に外れた部分を支持する1対のシューとを備えている。そして、該リング状部材の外周面を砥石により研削する際に、リング状部材に対し、該リング状部材の外周面を、該1対のシューのうち、該砥石に近い側の第1のシューに向けて押し付ける方向のモーメントを作用させるものである。
【0007】
この研削装置においても、リング状部材の回転駆動軸は電動モータなどの駆動源により回転駆動可能となっており、先端部にバッキングプレートを有している。そして、リング状部材は、軸方向側面をバッキングプレートの先端面に磁気吸着されることにより、回転駆動軸と同軸に支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-080438号公報
【特許文献2】特開2019-042864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1、2に記載の研削加工方法、研削装置にあっては、研削時にはリング状部材と砥石の双方が回転運動しながら研削される。そのため、リング状部材も所定の保持用治具(ドライビングプレート、バッキングプレート)に固定され、回転するようになされている。
【0010】
このように、リング状部材を所定の保持用治具に固定して、回転させながら、砥石を作用させ研削加工がなされるため、リング状部材は砥石及び保持用治具からから外力を受け、内部に応力が生じる。
このとき、リング状部材がセラミックス焼結体のように脆性材料であり、肉薄で口径の大きい円環状の形状である場合には、研削時の応力によって、ひびや割れ欠けが発生するリスクが増大するという課題があった。
【0011】
また、特許文献1、2にあっては、リング状部材の外周面の研削加工、あるいは内外周面の研削加工について示されているものの、リング状部材の内周面のみの研削加工について示されておらず、その場合のリング状部材のひび、かけ、割れの発生を抑制する加工方法について示されていない。
【0012】
更に言えば、肉薄で口径の大きい円環状のリング状部材の内周面を加工する場合、リング状部材を平坦面の載置台に載置して加工する場合は、一般的に、加工治具が内周面に対して斜めに当接して研削されることになるが、このような状態での最適な加工条件について、特許文献1、2には示されていない。
【0013】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、特に、セラミックス焼結体からなり、肉薄で口径の大きい円環状のリング状部材内周面の研削・研磨加工方法であって、リング状部材におけるひび、欠け、割れの発生を抑制できるリング状部材内周面の研削・研磨加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記目的を達成するためになされたものであり、本発明にかかるリング状部材内周面の研削・研磨加工方法は、セラミックス焼結体からなるリング状部材を支持装置によって支持し、その内周面を研削または研磨するリング状部材内周面の研削・研磨加工方法であって、前記支持装置が、リング状部材を水平に載置するための台座部と、前記台座部に設けられた、リング状部材の外周面と当接してリング状部材を支持する第一の支持部材および第二の支持部材と、を備え、前記リング状部材が前記台座部上に配置されると共に、前記第一の支持部材と前記第二の支持部材がリング状部材の外周面と当接した状態において、前記第一の支持部材と前記第二の支持部材が、前記リング状部材の中心と前記第一の支持部材の中心とを結ぶ第一の線分と、前記リング状部材の中心と前記第二の支持部材の中心とを結ぶ第二の線分とのなす角度が30°以上150°以下となるように配置され、前記支持装置を用いて、前記リング状部材の内周面を研削又は研磨する治具の先端部を、前記台座部の水平面に対して斜め方向から、リング状部材の内周面に対して挿入し、
前記第一の線分と前記第二の線分の間にあるリング状部材の内周面の第一の領域と、前記第一の線分から第一の領域と反対側の周方向に、30°以下の範囲まで拡張された第一の拡張領域と、前記第二の線分から第一の領域と反対側の周方向に、30°以下の範囲まで拡張された第二の拡張領域を研削または研磨することを特徴としている。
【0015】
このように、リング状部材は台座部に固定されることもなく、リング状部材を台座部に載置すると共に、前記台座部に設けられた第一の支持部材および第二の支持部材によって支持される。その結果、外力が加わった際、リング状部材が僅かに移動することが可能であり、リング部材内に生じする応力を逃がすことができ、研削時の応力によって、ひびや割れ欠けが発生するのを抑制できる。
【0016】
特に、前記リング状部材の中心と前記第一の支持部材の中心とを結ぶ第一の線分と、前記リング状部材の中心と前記第二の支持部材の中心とを結ぶ第二の線分とのなす角度が30°以上150°以下となるように、前記支持装置の第一の支持部材と第二の支持部材が配置されているため、研削時の応力によって、ひびや割れ欠けが発生するのを抑制できる。
【0017】
ここで、前記リング状部材は、内径が少なくとも200mm、内径と外径の差が30mm以下、肉厚が前記内径と外径の差に対して0.1倍以上0.4倍以下であることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、セラミックス焼結体からなり、肉薄で口径の大きい円環状のリング状部材内周面の研削・研磨加工において、リング状部材におけるひび、欠け、割れの発生を抑制できるリング状部材内周面の研削・研磨加工方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の用いられる支持装置の概略構成を示す図であって、リング状部材、第一支持部材、第二支持部材の位置関係示すために、模式的に表した平面図である。
【
図2】
図2は、加工治具が内周面に当接する方向を説明するための図であって、リング状部材の端面方向から見た斜視図である。
【
図3】
図3は、加工治具が内周面に当接する方向を説明するための図であって、
図1のI-I断面図である。
【
図4】
図4は、特許文献1に記載された複合研削加工装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかるリング状部材内周面の研削・研磨加工方法について説明する。
この本発明にかかるリング状部材内周面の研削・研磨加工方法は、セラミックス焼結体からなるリング状部材の内周面を研削又は研磨する加工方法であり、研削加工、研磨加工のいずれにも適用することができる。
【0021】
研削加工、研磨加工の対象物であるリング状部材を構成するセラミックス焼結体は、構造材として利用できるセラミックスであればよい。
例えば、炭化ケイ素、アルミナ、イットリア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の原料粉を焼成して得られたセラミックス焼成体に適用することができる。
特に、炭化物セラミックスや窒化物セラミックスに比べ、脆いアルミナ、イットリウム化合物、あるいはオキシフッ化物化合物からなるセラミックスの研削加工、研磨加工に、より適している。
尚、リング状部材を構成するセラミックス焼結体は、材料の種類や成分、気孔率、密度、電気特性については、特に制限を受けるものではない。
【0022】
本発明にかかるリング状部材Zは、
図1に示すように肉薄で円環の形状を有する部材である。
ここで、円環形状を形成する外周円Z1及び内周円Z2は、厳密な真円でなくてもよい。また、前記外周円Z1の周縁部あるいは内周円Z2の周縁部に切り欠きZ3、Z4が設けられていても良く、円環の端面部Z5にボルト締結用の孔のような貫通孔Z6が形成されていてもよい。
【0023】
前記リング状部材Zは、内径が200mm以上、内径と外径の差が30mm以下、肉厚が前記内径と外径の差に対して0.1倍以上0.4倍以下である。
このように、径が大きくかつ径方向の厚さが小さく、肉薄の円環状の部材は、研削又は研磨加工を行っている際に発生する応力が、加工治具の当接箇所の近傍に集中しやすく、加工時の変動によってひびが発生しやすい。
【0024】
また、本発明にかかる研削又は研磨を行う加工治具は、広く公知のセラミックスの研削または研磨を行う加工治具を用いることができ、その機構や方式には特別な制限はないが、後述するように、リンク状部材の内周面に対して、斜め方向から挿入できるサイズの加工治具であればよい。
具体的には、大型のホイール型の砥石タイプではなく、
図1、
図2、
図3に示すような回転軸1aの先端に小型の回転砥石が設置されているような加工治具1(研削装置又は研磨装置)で、リング状部材Zの内周面に適切な角度αで当接できるように角度を調節しながら作業できる加工治具1であることが好ましい。
【0025】
次に、本発明にかかるリング状部材の内周面研削・研磨加工方法に用いられる、リング状部材を支持する支持装置について説明する。
この支持装置は、リング状部材Zを水平に載置するための台座部Tと、リング状部材の外周面と当接して支持する第一の支持部材S1および第二の支持部材S2を備えている。
【0026】
リング状部材Zを水平に載置するための台座部Tは、ステンレス鋼(SUS)またはセラミックスなどの硬質材料からなり、表面が平坦な平面で構成されている。
この台座部Tの外形は、リング状部材Tを水平に載置することができるのであれば、形状が正方形や円形であってもよく、またリング状部材Tが載置される領域外に、付加的に設けた孔や切れ込みがあってもよい。
【0027】
そして、この台座部Tには、
図1に示すように、リング状部材Zの外周面Z
outと当接して支持する第一の支持部材S1および第二の支持部材S2が設置される。
前記第一の支持部材S1および第二の支持部材S2としては、例えば、高さの短い円筒状の支持部材を、台座部Tに設けた孔に差し込んで固定した支持部材、あるいは台座部Tをステンレス鋼板(SUS)で構成し磁石で吸着固定した支持部材を採用することができる。
【0028】
図1では、リング状部材Zの外周面Z
outと、第一の支持部材S1、第二の支持部材S2が点接触(すなわち実際には線接触)している状態を示しているが、第一の支持部材S1および第二の支持部材S2を、特許文献1に示されるシューのような形状とし、面接触するようにしても良い。
【0029】
しかしながら、後述するように、リング状部材Zと当接する箇所および面積を極力減らすことで、加工時に発生する応力が、当接箇所以外の特定の部位に集中するのを回避しやすくなる。そのため、第一の支持部材S1、第二の支持部材S2の形状は、リング状部材Zの外周面Zoutと点接触する形状であることが好ましい。
【0030】
なお、第一の支持部材S1および第二の支持部材S2にあっては、リング状部材Zの径方向外側への動きを拘束するが、リング状部材Zの周方向とリング状部材Zの軸線方向(中心Oを通る軸線方向)に対しては動きを拘束するものではない。
【0031】
加工する際、リング状部材Zの端面は台座部Tに載置され、リング状部材Zの外周面Zoutは第一の支持部材S1及び第二の支持部材S2に当接している。
即ち、特許文献1または特許文献2に記載された保持装置のように、リング状部材Zをマグネット等の手段でドライビングプレート、バッキングプレートに固定するものと異なり、リング状部材Zは台座部Tに単に載置されているに過ぎず、台座部Tに固定されていない。
【0032】
リング状部材Zに研磨又は研削する際に発生する応力は、リング状部材Zを固定する箇所及び面積が大きいと、固定された箇所と加工部位以外の箇所に集中してひび割れ欠けの発生リスクが高まる。
特に、肉薄で大口径のリング状部材Zの内周面を研削又は研磨する際、リング状部材Zを台座部Tに固定すると、加工治具と接触したときに発生した外力は、リング状部材Zの内周面ZINの引張応力として作用する。そして、リング状部材Zの内周面ZINはその引張応力に耐えきれなくなり、ひび割れ欠けが発生する。
【0033】
また、肉薄であることから部材全体で応力を受け止めるには部材の体積が少ないので、どうしても表面に対して引張やねじれの応力が発生してしまい、簡単にひび割れ欠けの発生が生じる。
【0034】
このように、本発明にあっては、リング状部材Zは台座部Tに固定されず、第一の支持部材S1、第二の支持部材S2と点接触した状態で研削加工あるいは研磨加工を行うことで、加工時のひび割れ欠けの発生を低減することができる。
【0035】
前記第一の支持部材S1及び第二の支持部材S2は、加工される領域との特定の位置関係になるように配置されている。
即ち、
図1に示すように、リング状部材Zが台座部T上に配置されると共に、前記第一の支持部材S1と前記第二の支持部材S2がリング状部材Zの外周面Z
outと当接した状態において、前記第一の支持部材S1と前記第二の支持部材S2が、前記リング状部材Zの中心Oと前記第一の支持部材S1の中心とを結ぶ第一の線分L1と、前記リング状部材Zの中心Oと前記第二の支持部材S2の中心とを結ぶ第二の線分L2とのなす角度θが30°以上150°以下となるように配置されている。
【0036】
図1からわかるように、研削又は研磨される領域は、第一の支持部材S1及び第二の支持部材S2で形成される角度θで規定される。
そして、
図1、
図2からわかるように、リング状部材Zが加工されている状態では、リング状部材Zは、加工治具1の砥石先端部1bと第一の支持部材S1と第二の支持部材S2の3か所で、水平方向の位置がずれないように支持されている。
【0037】
このように、本発明かかるリング状部材内周面の研削・研磨加工方法にあっては、加工治具の砥石先端部1bと第一の支持部材S1と第二の支持部材S2の3か所で、リング状部材Zを支持しながら研削加工または研磨加工が行われる。
そのため、特許文献1、2に示すようなリング状部材をマグネット等の手段でドライビングプレート、バッキングプレートに固定する方式と比べて、応力の集中が起こりにくく、仮に応力集中が発生しそうになっても、リング状部材が回転方向にずれる余地があり、リング状部材自体の破損はもちろん、表面でのひび割れ欠けの発生をも抑制できる。
【0038】
前記したように、研削又は研磨される領域は、第一の支持部材S1及び第二の支持部材S2で形成される角度θで規定されるが、角度θで規定される領域を更に拡張しても良い。
具体的には、第一の支持部材S1及び第二の支持部材S2で形成される角度θで規定される、第一の線分L1と第二の線分L2の間にあるリング状部材Zの内周面ZINの領域を研削・研磨領域aとすると、この研削・研磨領域aは、前記第一の線分L1から第一の領域aと反対側の周方向に、30°以下の範囲まで拡張された第一の拡張領域b1と、前記第二の線分L2から第一の領域aと反対側の周方向に、30°以下の範囲まで拡張された第二の拡張領域b2まで、拡張しても良い。即ち、研削または研磨は、前記した第一の領域a、第一の拡張領域b1、第一の拡張領域b1の範囲内で行っても良い。
【0039】
上記した第一の領域a、第一の拡張領域b1、第二の拡張領域b2の範囲内に加工治具1の砥石先端部1bが当接する限りは、リング状部材Zは位置ずれを起こすことなく、適切に研削または研磨加工を行うことができる。
一方、これらの範囲外では、リング状部材Zが位置ずれし、あるいは不均一な加工が実施されるという虞があるため、好ましくない。
尚、前記第一の拡張領域b1、第一の拡張領域b2は、周方向において、第一の支持部材S1及び第二の支持部材S2から外れた領域であるが、第一の線分L1または第二の線分L2から30°以内であれば、リング状部材Zの径方向または周方向へのずれが発生しないので、この範囲までは加工領域として許容される。
【0040】
また、リング状部材Zの内周面Z
INを研削又は研磨する治具1の砥石先端部1bは、台座部Tの水平面に対して斜めに挿入される。本発明では、このような研削または研磨の形態の時に、よりその効果が発揮される。
図2、
図3に示すように、加工治具1の砥石先端部1bは、内周面Z
INに対して上方から斜めに挿入される。そのため、内周面Z
INには、リング状部材Zの厚さ方向に対して下向きの力と、径方向に対して外側に向かう力が発生する。
そのため、加工治具1の砥石先端部1bによって、微量ながら、リング状部材Zを台座部Tに対して下向きに押し付ける力が発生し、これにより、リング状部材Zは台座部Tに「軽く」押さえ付けられる状態になされる。
【0041】
これにより、リング状部材を加工する際に、加工時の応力を効果的に分散しつつ、加工時の位置ずれも適切に防止するという、いわゆる相反する2要因を、簡易な手法で達成することができる。
尚、
図3に示すように、加工治具1の砥石先端部1bの挿入角度αは、加工速度、加工治具の大きさ、などによって適時設定できるが、おおむね20°以上70°以下の範囲であると好適である。挿入角度αが20°未満では、そもそも加工治具1が挿入しづらくなり作業性が悪化する。また70°を超える場合では、加工治具1の砥石先端部1bと内周面Z
INと当接する角度が適切でなくなり、加工後の平坦性に悪影響を及ぼす虞がある。
【0042】
以上の通り、本発明は、加工治具が大型でなく、また、さほど大きな力をかけずに研削または研磨する加工条件のもとで、その効果がより発揮されるものである。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記に示す実施例により制限されるものではない。
【0044】
(リング状部材)
リング状部材を以下のようにして製作した。
原料として、純度99%以上でかつ平均粒子径が1~2μmのアルミナ粉末1重量当たりにバインダーとしてポリビニルアルコールを0.1重量添加して造粒粉を作製した。
次に、この造粒粉を成形型内に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)成形により、80~200MPaの範囲の圧力にて成形体を作製した。
そして、この成形体を大気雰囲気下において、最高温度が1600℃となるよう焼成し、アルミナ焼結体を得た。得られたアルミナ焼結体は、外周径350mm、内周径300mm、肉厚15mmの円環である。これを被加工体としてのリング状部材とした。
【0045】
ここで用いる加工治具は、先端部が砲弾状の砥石(アルミナ加工用)であり、ハンドドリルの先端に装着して手作業で研削する。すなわち、ここではおおむねRaで3μm程度の粗さに仕上げる研削加工を想定した。
【0046】
台座部として、ステンレス鋼製(SUS製)の平坦なプレートを用いた。
また、台座部には直径10mm孔が数か所形成されており、第一の支持部材と第二の支持部材を適切な位置に配置した。第一の支持部材と第二の支持部材は、直径約10mm、高さ30mmの硬質樹脂製の円柱である。
【0047】
(実施例1)
図1示すように、θが120°となるように、第一の支持部材S1と第二の支持部材S2を配置して領域aを設定し、手作業にて、リング状部材Zの内周面Z
INの研削を行った。
領域aの研削が完了したら、周方向にリング状部材Zを120°回転させて、未加工の領域を新たな領域aとして研削を行った。
このようにして、内周を一周するようにして内周面Z
INの全周の加工を行った。ここで、加工治具の砲弾状の砥石の挿入角度αは、厳密ではないがおおむね45°になるようにした。
【0048】
研削が完了したら、目視により、内周面ZIN及びその周辺部に、ひび割れ欠けの発生がないかを観察して、ひび割れ欠けの発生が認められないものを合格とした。観察の結果、実施例1については、ひび割れ欠けの発生は認められなかった。
【0049】
(実施例2)
図1示すように、θが30°となるように、第一の支持部材S1と第二の支持部材S2を配置し、実施例1と同様にして内周を一周するようにして内周面Z
INの全周の加工を行った。観察の結果、ひび割れ欠けの発生は認められなかった。
【0050】
(実施例3)
図1示すように、θが150°となるように、第一の支持部材S1と第二の支持部材S2を配置し、実施例1と同様にして内周を一周するようにして内周面Z
INの全周の加工を行った。観察の結果、ひび割れ欠けの発生は認められなかった。
【0051】
(実施例4)
図1示すように、θが30°となるように、第一の支持部材S1と第二の支持部材S2を配置し、b1とb2をそれぞれ30°として加工領域を拡張して、計4回リング状部材Zを回転させることで内周面Z
INの全周を研削した。
その他の条件は実施例1と同様である。観察の結果、ひび割れ欠けの発生は認められなかった。
【0052】
(実施例5)
加工治具の砲弾状の砥石の挿入角度αを15°として、その他は実施例1と同様にして内周を一周するようにして内周面ZINの全周の加工を行った。
観察の結果、ひび割れ欠けの発生は認められなかったが、加工治具が挿入し難く、内周面ZINの台座部と反対側の縁付近の加工作業効率が著しく低下し、作業性の点で実施例1より劣るものであった。
【0053】
(実施例6)
加工治具の砲弾状の砥石の挿入角度αを75°として、その他は実施例1と同様にして内周を一周するようにして内周面ZINの全周の加工を行った。
観察の結果、ひび割れ欠けの発生は認められなかったが、加工治具の砥石先端部1bの当接角度の調整が難しく、内周面ZINの台座部付近の縁付近の加工作業効率が著しく低下した。作業性の点で実施例1より劣るものであった。
【0054】
(比較例1)
第一の支持部材S1と第二の支持部材S2を、θが25°となるように配置し、実施例1と同様にして内周を一周するようにして内周面ZINの全周の加工を行った。
その結果、加工途中でリング状部材Zが動いてしまい、適切な加工が出来なかったので不合格とした。
【0055】
(比較例2)
第一の支持部材S1と第二の支持部材S2を、θが160°となるように配置し、その他は実施例1と同様にして内周を一周するようにして内周面ZINの全周の加工を行った。観察の結果、第一の支持部材S1近傍の加工時に、リング状部材Zが移動してしまい、適切な加工が出来なかったので不合格とした。
【0056】
(比較例3)
第一の支持部材S1、第二の支持部材S2を用いずに、リング状部材Zの片方の主面を接着剤により台座部Tに固定した状態とし、その他は実施例1に準じて内周面ZINの全周を加工した所、観察の結果、数か所にひびの発生が認められた。
【0057】
(比較例4)
第一の支持部材S1、第二の支持部材S2を用いずに、リング状部材Zの片方の端面を接着剤により台座部Tに固定した状態とし、リング状部材Zの肉厚を5mmとして、その他は実施例1に準じて内周面ZINの全周を加工した所、観察の結果、内周面ZINの数か所にひびの発生が認められた。なお、肉厚5mmで第一の支持部材S1、第二の支持部際を用いて実施例1と同様の条件で研削したところ、ひびの発生は見られなかった。
【0058】
(参考例1)
第一の支持部材S1、第二の支持部材S2を用いずに、リング状部材Zの片方の端面を接着剤により台座部に固定した状態とすることとし、リング状部材Zの肉厚を30mmのものを別途作製して、その他は実施例1に準じて内周面ZINの全周を加工した。観察の結果、ひび割れ欠けの発生は認められなかった。
なお、肉厚30mmで第一の支持部材S1、第二の支持部材を用いて実施例1と同様の条件で加工したところ、同様にひび割れ欠けの発生は見られなかった。