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特開2024-93878電気機器の流動帯電評価診断方法と評価診断装置及び流動帯電抑制方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093878
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】電気機器の流動帯電評価診断方法と評価診断装置及び流動帯電抑制方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/00 20060101AFI20240702BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01F41/00 D
H01F27/00 B
H01F27/00 F
H01F27/00 H
H01F27/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210509
(22)【出願日】2022-12-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り CIGRE(国際大電力システム会議)Paris Session 2022(2022年9月1日公開) <資料>「The Evaluation Method of Static Electrification in Aged Power Transformers Using Cellulose Fibers Suspended in Insulating Oil」
(71)【出願人】
【識別番号】520320446
【氏名又は名称】中部電力パワーグリッド株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596094577
【氏名又は名称】ユカインダストリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌展
(72)【発明者】
【氏名】伊佐治 宏子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 学
(72)【発明者】
【氏名】小西 義則
【テーマコード(参考)】
5E059
【Fターム(参考)】
5E059BB13
5E059BB15
5E059BB17
5E059BB18
(57)【要約】
【課題】本発明は、絶縁油を収容した変圧器の流動帯電を評価し診断する方法と装置及び流動帯電を抑制する方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、固体絶縁物が絶縁油中に浸漬された電気機器の流動帯電評価診断方法であって、稼働中の電気機器から採取した絶縁油による循環流路を構成し、絶縁油に含まれる固体絶縁物から剥離して帯電した固体絶縁物微粒子を循環流路に設置した金属フィルターで捕集するか、あるいは、循環流路に設置した金属メッシュで支持した紙フィルターで捕集するとともに、絶縁油の循環流路内に設けた電界印加用の対向電極に直流電圧もしくは整流された交流電圧を印加し、金属フィルター、あるいは、金属メッシュに生じる帯電度の経時変化を解析することにより、流動帯電に影響を及ぼす絶縁油中化学成分の電気化学的特性を評価することを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体絶縁物が絶縁油中に浸漬された電気機器の流動帯電評価診断方法であって、
稼働中の前記電気機器から採取した絶縁油による循環流路を構成し、前記絶縁油に含まれる前記固体絶縁物から剥離した固体絶縁物微粒子を前記循環流路に設置した金属フィルターで捕集するか、あるいは、前記循環流路に設置した金属メッシュで支持した紙フィルターとともに、前記絶縁油の前記循環流路内に設けた電界印加用の対向電極に直流電圧もしくは整流された交流電圧を印加し、前記金属フィルター、あるいは、前記金属メッシュに生じる帯電度の経時変化を解析することにより、流動帯電に影響を及ぼす絶縁油中化学成分の電気化学的特性を評価することを特徴とする流動帯電評価診断方法。
【請求項2】
前記対向電極に対する電圧未印加時に発生した帯電度の波形と、前記対向電極に対する電圧印加後に発生した帯電度の波形を比較することにより、流動帯電に及ぼす絶縁油の電気化学特性を動的に評価することを特徴とする請求項1に記載の流動帯電評価診断方法。
【請求項3】
前記帯電度に関し、経時変化を解析し、前記対向電極に対する電圧未印加時に発生した帯電度の値が、前記対向電極に対する所定時間の電圧印加後に低下した場合、前記絶縁油は正負イオンの何れかが含まれる絶縁油であり、しかも、前記正負イオンの何れかを前記対向電極に補足できる絶縁油であると評価する請求項1に記載の流動帯電評価診断方法。
【請求項4】
前記正負イオンの何れかを前記対向電極に捕捉できる絶縁油であると評価した場合、前記電気機器に収容されている絶縁油に対し前記対向電極を浸漬し、前記対向電極に直流電圧もしくは整流された交流電圧を印加することを特徴とする請求項3に記載の流動帯電評価診断方法。
【請求項5】
固体絶縁物が絶縁油中に浸漬された電気機器の流動帯電抑制方法であって、
稼働中の前記電気機器から採取した絶縁油による循環流路を構成し、前記絶縁油に含まれる前記固体絶縁物から剥離した固体絶縁物微粒子を前記循環流路に設置した金属フィルターで捕集するか、あるいは、前記循環流路に設置した金属メッシュで支持した紙フィルターとともに、前記絶縁油の前記循環流路内に設けた電界印加用の対向電極に直流電圧もしくは整流された交流電圧を印加し、前記金属フィルター、あるいは、前記金属メッシュに生じる帯電度の経時変化を解析し、
前記対向電極に対する電圧未印加時に発生した帯電度の値が、前記対向電極に対する所定時間の電圧印加後に低下する絶縁油である場合、
前記電気機器に収容されている絶縁油に対し対向電極を浸漬し、前記対向電極に直流電圧もしくは整流された交流電圧を印加することを特徴とする流動帯電抑制方法。
【請求項6】
前記対向電極に電圧を印加することにより、前記絶縁油に含まれる正負イオンのいずれかを前記対向電極に補足し、前記絶縁油に含まれるイオンバランスを調整することにより前記電気機器における流動帯電を抑制することを特徴とする請求項5に記載の流動帯電抑制方法。
【請求項7】
固体絶縁物が絶縁油中に浸漬された電気機器の流動帯電評価診断装置であって、
前記電気機器から採取した絶縁油を貯留する容器と、この容器に接続された前記絶縁油の循環流路と、前記容器内の絶縁油を前記循環流路に送り前記容器に戻して循環させる循環ポンプと、前記循環流路の途中に設けられた電界印加用の対向電極と、前記循環流路の途中に設けられた金属フィルターあるいは紙フィルターを設置した金属メッシュと、前記金属フィルターあるいは前記金属メッシュに接続されて前記金属フィルターあるいは前記金属メッシュを介し発生電荷密度を測定する電流計を具備したことを特徴とする電気機器の流動帯電評価診断装置。
【請求項8】
主電極と、対電極により前記対向電極が構成され、前記主電極と前記対電極の間に絶縁油の流路が形成されたことを特徴とする請求項7に記載の流動帯電評価診断装置。
【請求項9】
前記循環ポンプは、前記容器内の絶縁油を前記流路を介し前記循環流路に送る機能を有することを特徴とする請求項8に記載の流動帯電評価診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気機器に充填され、流動帯電に影響を及ぼす絶縁油の成分の電気化学的特性を動的に評価する評価診断方法と評価診断装置及び流動帯電の発生を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器における流動帯電とは、変圧器内部で絶縁油が流動することにより固体絶縁物の界面において電荷の分離が発生し、巻線内部や油道周辺の絶縁物に電荷が蓄積される現象である。絶縁油入りの変圧器において、絶縁油の流れを良くするために絶縁油の流路が設けられている。これを油道と称する。電荷の蓄積した部分は、直流電位が上昇して静電気放電を発生することがあり、条件によっては絶縁破壊に至るおそれがある。
このように絶縁油を使用した電気機器では、絶縁油と固体絶縁物の間で流動帯電現象が発生し、電気機器の絶縁性を脅かす場合がある。
このため、従来から、実電気機器に対し流動帯電の程度を評価する方法として、非特許文献1に記載のミニ静電テスター法と非特許文献2に記載の蓄積電荷密度法が検討されている。
【0003】
ミニ静電テスター法は、現地変圧器から採集した絶縁油と紙フィルター(変圧器の固体絶縁物の模擬構造体)で帯電させ、紙フィルターを設置している金属メッシュを通して電流を測定し、評価する方法である。
しかしながら、ミニ静電テスター法は絶縁油と紙フィルターとの間で生じた電荷の大小を評価する試験法であり、絶縁油の高帯電度化に及ぼす成分の電気化学的特性に関しては評価できない。
【0004】
一方、蓄積電荷密度法は、絶縁油と固体絶縁物との間で発生する電荷と固体絶縁物からの電荷の緩和の程度から、実電気機器における流動帯電の程度を評価する方法である。ところが、蓄積電荷密度法は、ミニ静電テスター法と同様、絶縁油の高帯電度化に及ぼす成分の電気化学的特性に関する情報は得られない。
また、以下の特許文献1には、固体絶縁物から剥離した微粒子を含む絶縁油を変圧器から採取し、固体微粒子を捕集した金属フィルターに発生する電荷密度を測定することにより流動帯電を評価する方法(発生電荷密度法)について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6643940号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電気協同研究 第54巻 第5号(その1)「油入変圧器の保守管理」電力用変圧器保守管理専門委員会著、社団法人電気協同研究会 平成11年2月発行、P172~P180
【非特許文献2】電気協同研究 第65巻 第1号「電力用変圧器改修ガイドライン」電力用変圧器改修ガイドライン専門委員会著、社団法人電気協同研究会 平成21年9月発行、P198~P204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の背景から、従来知られているミニ静電テスター法と蓄積電荷密度法、発生電荷密度法のいずれにおいても、絶縁油の高帯電度化に及ぼす成分の電気化学的特性に関する情報を得ることはできない。
【0008】
従って、本発明の課題は、変圧器などの電気機器に充填された絶縁油の高帯電度化に及ぼす成分の電気化学的特性を評価する手法と装置の提供を目的とする。
また、本発明の課題は、電界印加用電極への電圧印加により流動帯電が減少すると判断された変圧器に対し、変圧器内部に設置した電界印加用電極に電圧を印加することで、実変圧器の流動帯電の発生を抑制する手段の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る流動帯電評価診断方法は、固体絶縁物が絶縁油中に浸漬された電気機器の流動帯電評価診断方法であって、稼働中の前記電気機器から採取した絶縁油による循環流路を構成し、前記絶縁油に含まれる前記固体絶縁物から剥離した固体絶縁物微粒子を前記循環流路に設置した金属フィルターで捕集するか、あるいは、前記循環流路に設置した金属メッシュで支持した紙フィルターとともに、前記絶縁油の前記循環流路内に設けた電界印加用の対向電極に直流電圧もしくは整流された交流電圧を印加し、前記金属フィルター、あるいは、前記金属メッシュに生じる帯電度の経時変化を解析することにより、流動帯電に影響を及ぼす前記絶縁油中化学成分の電気化学的特性を評価することを特徴とする。
【0010】
(2)本発明に係る流動帯電評価診断方法において、前記対向電極に対する電圧未印加時に発生した帯電度の波形と、前記対向電極に対する電圧印加後に発生した帯電度の波形を比較することにより、流動帯電に及ぼす絶縁油の電気化学特性を動的に評価することができる。
(3)本発明に係る流動帯電評価診断方法において、前記帯電度に関し、経時変化を解析し、前記対向電極に対する電圧未印加時に発生した帯電度の値が、前記対向電極に対する所定時間の電圧印加後に低下した場合、前記絶縁油は正負イオンの何れかが含まれる絶縁油であり、しかも、前記正負イオンの何れかを前記対向電極に補足できる絶縁油であると評価することができる。
【0011】
(4)本発明に係る流動帯電評価診断方法において、前記正負イオンの何れかを前記対向電極に捕捉できる絶縁油であると評価した場合、前記電気機器に収容されている絶縁油に対し前記対向電極を浸漬し、前記対向電極に直流電圧もしくは整流された交流電圧を印加することができる。
【0012】
(5)本発明に係る流動帯電抑制方法は、固体絶縁物が絶縁油中に浸漬された電気機器の流動帯電抑制方法であって、稼働中の前記電気機器から採取した絶縁油による循環流路を構成し、前記絶縁油に含まれる前記固体絶縁物から剥離した固体絶縁物微粒子を前記循環流路に設置した金属フィルターで捕集するか、あるいは、前記循環流路に設置した金属メッシュで支持した紙フィルターとともに、前記絶縁油の前記循環流路内に設けた電界印加用の対向電極に直流電圧もしくは整流された交流電圧を印加し、前記金属フィルター、あるいは、前記金属メッシュに生じる帯電度の経時変化を解析し、前記対向電極に対する電圧未印加時に発生した帯電度の値が、前記対向電極に対する所定時間の電圧印加後に低下する絶縁油である場合、前記電気機器に収容されている絶縁油に対し対向電極を浸漬し、前記対向電極に直流電圧もしくは整流された交流電圧を印加することを特徴とする。
【0013】
(6)本発明に係る流動帯電抑制方法において、前記対向電極に電圧を印加することにより、前記絶縁油に含まれる正負イオンのいずれかを前記対向電極に補足し、前記絶縁油に含まれるイオンバランスを調整することにより前記電機器における流動帯電を抑制することができる。
【0014】
(7)本発明に係る流動帯電評価診断装置は、固体絶縁物が絶縁油中に浸漬された電気機器の流動帯電評価診断装置であって、前記電気機器から採取した絶縁油を貯留する容器と、この容器に接続された前記絶縁油の循環流路と、前記容器内の絶縁油を前記循環流路に送り前記容器に戻して循環させる循環ポンプと、前記循環流路の途中に設けられた電界印加用の対向電極と、前記循環流路の途中に設けられた金属フィルターあるいは紙フィルターを設置した金属メッシュと、前記金属フィルターあるいは前記金属メッシュに接続されて前記金属フィルターあるいは前記金属メッシュを介し発生電荷密度を測定する電流計を具備したことを特徴とする。
【0015】
(8)本発明に係る流動帯電評価診断装置において、主電極と、対電極により前記対向電極が構成され、前記主電極と前記対電極の間に絶縁油の流路が形成された構成を採用できる。
(9)本発明に係る流動帯電評価診断装置において、前記循環ポンプは、前記容器内の絶縁油を前記流路を介し前記循環流路に送る機能を有する構成を採用できる。
【発明の効果】
【0016】
稼働中の電気機器から絶縁油を採取するとその絶縁油には固体絶縁物微粒子が含まれている。電気機器では通電体への通電により経時的に固体絶縁物の表面の一部が微粒子となって絶縁油へ放出される。この放出される微粒子の量は電気機器への通電状態や使用状態により経時的に変化する。そして、絶縁油を収容している電気機器において流動帯電が発生する状態は、固体絶縁物と絶縁油の劣化状態に相関がある。このため、絶縁油中の固体絶縁物微粒子の帯電に伴う状態を把握することで、使用中の電気機器における流動帯電発生を評価することができる。
固体絶縁物微粒子を帯電させて流動帯電発生を診断する場合、固体絶縁物微粒子を含む絶縁油を流動させている間に金属フィルターで固体絶縁物微粒子を捕集し、金属フィルターに接続した電流計により帯電度を測定できる。
更に、流動中の絶縁油に対向電極から電界を印加しながら前述の帯電度の経時変化を観測し、解析することにより、流動帯電に影響を及ぼす絶縁油成分の電気化学的特性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る流動帯電評価診断を行う対象の一例である変圧器を示すもので、(A)は変圧器の全体構成図、(B)は変圧器内部に収容されている鉄心とコイルを示す部分断面図。
図2】本発明に係る流動帯電評価診断を行う装置の一例を示すもので、(A)は流動帯電評価診断装置の全体構成図、(B)は金属フィルター設置部を示す部分断面図。
図3】同装置に設けられている対向電極の構成を示す部分断面図。
図4】対向電極における主電極と対電極の間に絶縁油が存在し、絶縁油中のイオンが補足される状態を示す説明図。
図5】対向電極における主電極と対電極の間を絶縁油が流れ、絶縁油中のイオンが補足される状態を示す説明図。
図6】同装置で求められた帯電度の測定結果の一例を示すグラフ。
図7】同装置で求められた35℃における新品絶縁油帯電度の経時変化を示すグラフ。
図8】同装置で求められた50℃における新品絶縁油帯電度の経時変化を示すグラフ。
図9】同装置で求められた35℃、印加電圧DC500Vにおける新品絶縁油帯電度の経時変化を示すグラフ。
図10】同装置で求められた35℃、印加電圧DC1000Vにおける新品絶縁油帯電度の経時変化を示すグラフ。
図11】同装置で求められた50℃、印加電圧DC500Vにおける新品絶縁油帯電度の経時変化を示すグラフ。
図12】同装置で求められた50℃、印加電圧DC1000Vにおける新品絶縁油帯電度の経時変化を示すグラフ。
図13】イオン性物質を含む絶縁油に関し、同装置で求められた35℃における帯電度の経時変化を示すグラフ。
図14】イオン性物質を含む絶縁油に関し、同装置で求められた50℃における帯電度の経時変化を示すグラフ。
図15】イオン性物質を含む絶縁油に関し、同装置で求められた35℃、印加電圧DC500Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図16】イオン性物質を含む絶縁油に関し、同装置で求められた35℃、印加電圧DC1000Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図17】イオン性物質を含む絶縁油に関し、同装置で求められた50℃、印加電圧DC500Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図18】イオン性物質を含む絶縁油に関し、同装置で求められた50℃、印加電圧DC1000Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図19】イオン性物質と極性物質を含む絶縁油に関し、同装置で求められた35℃における帯電度の経時変化を示すグラフ。
図20】イオン性物質と極性物質を含む絶縁油に関し、同装置で求められた50℃における帯電度の経時変化を示すグラフ。
図21】イオン性物質と極性物質を含む絶縁油に関し、同装置で求められた35℃、印加電圧DC500Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図22】イオン性物質と極性物質を含む絶縁油に関し、同装置で求められた35℃、印加電圧DC1000Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図23】イオン性物質と極性物質を含む絶縁油に関し、同装置で求められた50℃、印加電圧DC500Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図24】イオン性物質と極性物質を含む絶縁油に関し、同装置で求められた50℃、印加電圧DC1000Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図25】実器変圧器から採取した絶縁油に関し、同装置で求められた35℃における帯電度の経時変化を示すグラフ。
図26】実器変圧器から採取した絶縁油に関し、同装置で求められた50℃における帯電度の経時変化を示すグラフ。
図27】実器変圧器から採取した絶縁油に関し、同装置で求められた35℃、印加電圧DC500Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図28】実器変圧器から採取した絶縁油に関し、同装置で求められた35℃、印加電圧DC1000Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図29】実器変圧器から採取した絶縁油に関し、同装置で求められた50℃、印加電圧DC500Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図30】実器変圧器から採取した絶縁油に関し、同装置で求められた50℃、印加電圧DC1000Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図31】実器変圧器から採取した絶縁油に極性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた35℃における帯電度の経時変化を示すグラフ。
図32】実器変圧器から採取した絶縁油に極性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた50℃における帯電度の経時変化を示すグラフ。
図33】実器変圧器から採取した絶縁油に極性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた35℃、印加電圧DC500Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図34】実器変圧器から採取した絶縁油に極性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた35℃、印加電圧DC1000Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図35】実器変圧器から採取した絶縁油に極性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた50℃、印加電圧DC500Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図36】実器変圧器から採取した絶縁油に極性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた50℃、印加電圧DC1000Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図37】実器変圧器から採取した絶縁油にイオン性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた35℃における帯電度の経時変化を示すグラフ。
図38】実器変圧器から採取した絶縁油にイオン性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた50℃における帯電度の経時変化を示すグラフ。
図39】実器変圧器から採取した絶縁油にイオン性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた35℃、印加電圧DC500Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図40】実器変圧器から採取した絶縁油にイオン性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた35℃、印加電圧DC1000Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図41】実器変圧器から採取した絶縁油にイオン性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた50℃、印加電圧DC500Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図42】実器変圧器から採取した絶縁油にイオン性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた50℃、印加電圧DC1000Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図43】実器変圧器から採取した絶縁油にイオン性物質と極性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた35℃における帯電度の経時変化を示すグラフ。
図44】実器変圧器から採取した絶縁油にイオン性物質と極性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた50℃における帯電度の経時変化を示すグラフ。
図45】実器変圧器から採取した絶縁油にイオン性物質と極性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた35℃、印加電圧DC500Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図46】実器変圧器から採取した絶縁油にイオン性物質と極性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた35℃、印加電圧DC1000Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図47】実器変圧器から採取した絶縁油にイオン性物質と極性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた50℃、印加電圧DC500Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
図48】実器変圧器から採取した絶縁油にイオン性物質と極性物質を添加した絶縁油に関し、同装置で求められた50℃、印加電圧DC1000Vにおける帯電度の経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る流動帯電評価診断を行う場合について電気機器の1種である油入変圧器の場合を例にとり、図面に基づき説明する。
図1は油入変圧器の一例構造を示すもので、この例の変圧器1は、タンク2の内部に複数のコイル体3がそれらの中心軸を上下に向けて収容され、タンク2の内部に絶縁油が満たされてなる。各コイル体3の中心部にケイ素鋼板などの磁性体からなる鉄心5が挿通され、各鉄心5は各々の上下端部においてケイ素鋼板などの磁性体からなる上部鉄心6に一体化されている。
各鉄心5の両端部と上部鉄心6の周囲を囲むように枠状の締め金部7が設けられ、上下の締め金部7に締め付け金具8が延出形成され、上下の締め付け金具8により各コイル体3が上下から挟まれ、各コイル体3に締め付け力が付加されている。
【0019】
本実施形態においてコイル体3は、図1(B)に示すように外側コイル9と内側コイル10からなり、外側コイル9は巻線(通電体)11と絶縁スペーサー(固体絶縁物)12を上下に積層した積層体を上部絶縁体13と下部絶縁体15により挟み付けて構成されている。内側コイル10は巻線(通電体)16と絶縁スペーサー(固体絶縁物)17を上下に積層した積層体を上部絶縁体18と下部絶縁体19で挟み付けて構成されている。
上部絶縁体13、18と下部絶縁体15、19を上下の締め付け金具8により挟み付けることで各コイル体3には上下から締め付け力が作用され、この状態でコイル体3は絶縁油に浸漬されている。
【0020】
前記構成の変圧器1は、送電線などから送られる高電圧を電力使用者の近くで降圧する用途などに使用されるので、外側コイル9および内側コイル10に内在する巻線11(通電体)、16(通電体)には常時電流が流されている。巻線11、16に電流を流すことで電磁力が作用するので、コイル体3や鉄心5には電磁力が作用し、これらが振動する。 また、送電線で短絡事故や地絡事故などが起きると変圧器1の巻線11、16には定格負荷電流の10倍から数10倍に達する大きな電流が流れることがあり、規格以上の電磁力と振動が作用することもある。
これら締め付け力と振動が常時作用するコイル9、10、巻線11、16に巻かれた絶縁紙(固体絶縁物)や絶縁紙の集合体である絶縁スペーサー12、17、絶縁体13、15、18、19や鉄心5とコイル体3を隔てる固体絶縁物(図示略)、あるいは、外側コイル9と内側コイル10を隔てる固体絶縁物(図示略)から、絶縁紙を構成する繊維の一部が固体絶縁物微粒子となって経時的に絶縁油の中に分離する。
【0021】
一方、変圧器1の絶縁油は種々の要因から経時的に徐々に劣化が進行する。
本願発明者は、絶縁油の劣化の進行度合いと上記絶縁紙から絶縁油内に放出された繊維の微粒子(固体絶縁物微粒子)の状態が変圧器1の流動帯電発生のし易さを表すと想定した。
そこで、実使用中の実器変圧器から、繊維の微粒子を含む絶縁油の一部を評価診断用に採取し、以下に説明する流動帯電評価診断装置により診断することで、実器変圧器において、帯電度に及ぼす絶縁油成分の電気化学的特性を診断することができる。
【0022】
図2(A)は、流動帯電評価診断装置の一実施形態を示すもので、この実施形態の流動帯電評価診断装置30は、変圧器1から採取した絶縁油31を貯留する容器32と、容器32に接続された循環流路33と、循環流路33の一部に組み込まれた循環ポンプ35と、循環流路33の一部に組み込まれた静電気発生部36、36と、これらの静電気発生部36に接続された電流計(微小電流計)37を主体として構成されている。
容器32の周面に加熱ヒーター38が巻き付けられ、この加熱ヒーター38が図示略の電源に接続されていて、加熱ヒーター38の発熱によって容器32内の絶縁油31を目的の測定温度に加温できるようになっている。
【0023】
容器32の開口部には蓋体39が着脱自在に装着され、この蓋体39を上下に貫通して容器内の絶縁油31に到達するように引出管40と戻管41が設けられている。
引出管40の途中に循環ポンプ35が組み込まれ、引出管40の外部終端側に第1の3方弁42と第2の3方弁45を介し並列流路43が接続されている。第1の3方弁42の1つのポートは、第1接続管42Aにより第2の3方弁45の1つのポートに接続され、第2の3方弁45の他のポートは、第2接続管45Aを介し第3の3方弁48の1つのポートに接続されている。
【0024】
第3の3方弁48の他の1つのポートに流路管48Aが接続され、流路管48Aの他端側は一方の静電気発生部36の一側に接続されている。第3の3方弁48の残り1つのポートに流路管48Bが接続され、流路管48Bの他端側は他方の静電気発生部36の一側に接続されている。
一方の静電気発生部36の他側は流路管49Aを介し第4の3方弁49の1つのポートに接続され、他方の静電気発生部36の他側は流路管49Bを介し第4の3方弁49の他の1つのポートに接続されている。第4の3方弁49の残り1つのポートは、流路管49Cを介し第1の3方弁42の残り1つのポートに接続されている。
また、第2の3方弁45の残り一つのポートに中継管46が接続され、中継管46の他端側に流量計47を介し戻管41の一端が接続されている。
【0025】
前述の構造において、第1の3方弁42と第1接続管42Aと第2の3方弁45と第2接続管45Aと第3の3方弁48と流路管48A、48Bと、流路管49A、49Bと第4の3方弁49と流路管49Cにより循環流路33が構成されている。
並列流路43は、第3の3方弁48と流路管48Aと一方の静電気発生部36と流路管49Aと第4の3方弁49と流路管49Bと他方の静電気発生部36と流路管48Bから構成されている。
【0026】
以上の配管構成において、循環ポンプ35により引出管40を介し絶縁油31を容器32から抜き出し、第1の3方弁42側に送り、流路管49Cを介し静電気発生部36、36を通過させて第3の3方弁48側に絶縁油31を送り、第3の3方弁48、第2の3方弁45、中継管46、戻管41を介し絶縁油31を容器32に戻すことができる。
【0027】
静電気発生部36は、流路管48Aまたは流路管48Bに接続された継手型の上部ホルダー50、および、流路管49Aまたは流路管49Bに接続された継手型の下部ホルダー51を備えている。更に、静電気発生部36は、上部ホルダー50および下部ホルダー51の間にシールリング52を介し挟持された円盤状の金属フィルター53を備えている。上部ホルダー50の上部側には流路管48Aあるいは流路管48Bに接続するための接続口50aが形成され、上部ホルダー50の内底部側には下広がり状の拡開路50bが形成されている。下部ホルダー51の下部側には流路管49Aまたは流路管49Bに接続するための接続口51aが形成され、下部ホルダー51の内上部側には上広がり状の拡開路51bが形成されている。金属フィルター53の孔径(ポアサイズ;目の粗さ)は50μm程度に設定されている。
【0028】
上部ホルダー50の拡開路50bと下部ホルダー51の拡開路51bに挟まれるように金属フィルター53が設けられている。このため、流路管49Aから流路管48A側に、あるいは、流路管49Bから流路管48B側に絶縁油31が流動する場合、絶縁油31の内部に含まれている繊維などの固体微粒子は金属フィルター53に補足されるようになっている。これらの金属フィルター53は、循環流路33の一部に設置されていることとなる。なお、金属フィルター53に代え、紙フィルターを金属メッシュに装着した構成を採用し、金属メッシュに電流計37を接続しても良い。
また、本実施形態においては、2つの静電気発生部36を並列配管43に組み込んで構成したが、1つの静電気発生部36のみを使用する。あるいは、一方を金属フィルタに捕集した固体絶縁物、一方を金属メッシュで支持した紙フィルターとする事ができる。
【0029】
先に説明した変圧器1に備えられている絶縁スペーサー12、17、絶縁物13、15、18、19、鉄心5とコイル体3を隔てる絶縁物や、外側コイル9と内側コイル10を隔てる絶縁物は絶縁紙からなり、絶縁紙は針葉樹のパルプからなる。これらパルプの繊維は幅20~50μm、長さ50μm~2mm、厚さ2μm程度であるので、前記金属フィルター53の目の粗さは、前記サイズの繊維などの微粒子を捕集できる程度の大きさに設定されている。
上部ホルダー50の上方の流路管48A(あるいは流路管48B)には開閉弁55が組み込まれ、下部ホルダー51の下方の流路管49A(あるいは流路管49B)には開閉弁56が組み込まれている。
【0030】
下部ホルダー51の内部を貫通して金属フィルター53に接続された検出線37aが設けられ、この下部ホルダー51の外部に延出された検出線37aには電流計(微小電流計)37が接続され、電流計37は接地されている。この電流計37は、2つの静電気発生部36に設けられている金属フィルター53に溜まる電荷を検出するために設けられている。
【0031】
容器32の内部において、引出管40の下端直下に以下に説明する円筒状の電界印加用の対向電極70が接続されている。
対向電極70は、図3に断面構造を示すように、金属製の外筒71と金属製の円柱72を備えている。
円柱72の一端側と他端側にねじ穴74が形成され、これらのねじ穴74にそれぞれポリテトラフルオロエチレン製の連結ボルト75が螺合されている。円柱72の端部側において連結ボルト75が螺合されている部分にポリテトラフルオロエチレン製のリング部材76と金属製のリング部材77が介挿されている。
【0032】
対向電極70において外筒71の一端開口部側にキャップ状のメッシュ部材78が装着され、このメッシュ部材78を下に向けて対向電極70は容器の蓋体39に下向きに取り付けられている。
外筒71の上端開口部側にポリテトラフルオロエチレン製のリング部材67とキャップ部材79が装着されている。リング部材67には油密のためフッ素ゴム製のO-リング68が装着されている。キャップ部材79の上端に形成されている筒軸部80に螺合する継手部材81が蓋体39を上下に貫通するように設けられている。蓋体39とキャップ部材79との間にポリテトラフルオロエチレン製のリング部材69が挿入されており、電極部と蓋体39を絶縁している。リング部材69と蓋体39の間にはフッ素ゴム製のO-リング69aが挿入されており気密性を持たせている。蓋体39の上方に突出した継手部材81は、筒型のボルト台座82により支持され、ボルト台座82の上端に引出管40が接続されている。ボルト台座82は複数の取付ボルト83により蓋体39に固定されている。ボルト台座82と蓋体39の間にはフッ素ゴム製のO-リング73が挿入されており気密性を持たせている。
【0033】
対向電極70はメッシュ部材78を最下端にして絶縁油31に浸漬され、対向電極70の上端に引出管40が接続されているので、循環ポンプ35は対向電極70を介し絶縁油31を引き出すことができる。対向電極70において、メッシュ部材78を介し外筒71の内部に吸い込まれた絶縁油31は、下方の連結ボルト75の頭部周囲を通過して外筒71と内筒72の隙間を上方に移動できる。外筒71と内筒72の隙間の上端に移動した絶縁油31は、上方の連結ボルト75の頭部周囲を通過し、キャップ部材79と筒軸部80と継手部材81を通過して引出管40に到達できるように構成されている。対向電極70は、外筒71の内面と内筒72の外面の隙間を流動する絶縁油31に対し電界を作用するための電極である。
【0034】
容器32の側方に蓋体39を貫通した配線61を介し対向電極70に接続された計測装置62が設けられている。また、図2(A)では略されているが、外筒71の外面と内筒72の内面に電源接続用の配線が接続され、これらの配線が容器32の外部に配置された図示略の電源部に接続されている。この電源部は、外筒71と内筒72の間に100V~1000V程度の電圧を印加できる電源である。ここでは外筒71を主電極と呼称でき、内筒72を対電極と呼称できる。なお、外筒(主電極)71と内筒(対電極)72の間に印加する電圧は500V~1000V程度が望ましい。
電源部は直流電源でも良いし、交流電源でも良い。直流電源の場合、上述の電圧印加により外筒71と内筒72の間隙に所望の電界を印加できる。交流電源の場合、整流した電界を外筒71と内筒72の間隙に交流電圧を印加できるものが望ましい。外筒71と内筒72の間隙は、0.5mm~2mm程度、例えば1mm程度に形成される。
【0035】
なお、対向電極70において、主電極と対電極は筒体である必要は無く、イオンを捕捉できる形状の電極であれば任意の形状で差し支えない。また、外筒と内筒を金属製とする必要は無く、セラミック製や樹脂製の外筒の内面や内筒の外面に金属層を設けてこれらを主電極と対電極としても良い。
【0036】
また、図2(A)に示すように蓋体39を貫通して蓋体39の下方空間に連通する供給管63が設けられ、この供給管63にはシリカゲル等の乾燥剤収容部65を介し空気供給源が接続され、供給管63にはオキシゲントラップ66を介し窒素ガス供給源が接続されている。
【0037】
次に、図2に示す流動帯電評価診断装置30を用いて流動帯電評価診断方法を行う場合の一例について説明する。
図1(A)、(B)に示す構成であり、使用中の変圧器1から、必要量の絶縁油を抜き出す。変圧器1のタンク2に設けられている図示略のバルブを介しタンク2の内部から診断に必要な量の絶縁油を採取することができる。
変圧器1を継続使用していると、通電体である巻線11、16に通電し、巻線11、16が発生させた電磁力により巻線11、16を含めたコイル体3あるいは鉄心5に振動が発生する。また、絶縁スペーサー12、17、絶縁物13、15、18、19や鉄心5とコイル体3を隔てる絶縁物や、外側コイル9と内側コイル10を隔てる絶縁物が絶縁紙からなるので、この絶縁紙が絶縁油の流れにさらされていること、通電の影響あるいは電磁力の影響などによって振動されること、短絡や地絡などの発生により通常とは異なる影響を受けること、などが要因となって絶縁紙の繊維の一部が剥離し、微粒子として絶縁油の中に放出される。
使用中の変圧器1から絶縁油を採取すると、絶縁油の中には絶縁スペーサー12、17、絶縁物13、15、18、19や鉄心5とコイル体3を隔てる絶縁物や、外側コイル9と内側コイル10を隔てる絶縁物を構成する繊維の一部が微粒子として必然的に混入している。
【0038】
使用中の変圧器1から採取した絶縁油31を図2(A)に示す装置の容器32に必要量投入し、容器32の開口部を蓋体39で閉じて気密状態とする。また、蓋体39で容器32の開口部を閉じる場合、供給管63の下端を絶縁油31の油面位置より下方に位置させて窒素ガスを送り込み、窒素封入を行うことが好ましい。
次に、循環ポンプ35を作動させて容器32内から絶縁油31を吸い上げ、並列流路43に送る。並列流路43では流路管49Cから静電気発生部36、36に絶縁油31を流すことができるので、絶縁油31は金属フィルター53、53を通過した後、戻管41を介し容器32に戻される。
この絶縁油循環動作を所定時間繰り返すと、絶縁油に含まれている微量の微粒子は金属フィルター53の下面側に順次捕捉されて蓄積される。
別に使用中の変圧器1から採取した絶縁油31を金属フィルター53でろ過し、固体絶縁物を捕集した金属フィルターを使用することができる。
【0039】
捕捉された微粒子が絶縁油と接触し流動帯電して金属フィルター53に電荷が流れるので、この電荷を電流計37で測定することができる。上述の絶縁油31の循環動作を所定時間行うならば、絶縁油31を流し続けるので常に帯電が生じ、順次、発生電荷密度を計測できる。循環動作については、数分~数100時間程度実施することができる。
絶縁油の温度を加熱ヒーター38により例えば35℃あるいは50℃程度に加熱保持し、絶縁油31の流速を例えば1.5cm/s程度に一定値として所定時間循環後、帯電度を計測する。また、帯電度の計測に際し、帯電度の計測開始後、所定時間経過後に対向電極70に通電しながら更に所定時間、経時的に帯電度を測定する。対向電極70への通電後、帯電度を測定する時間は、例えば、数100sec程度、実施することができる。
この計測により数pC/mLなどの割合の帯電度を経時的に所定時間、連続計測することができる。なお、本願明細書において帯電度とは、上述の絶縁油の流動により金属フィルター53に帯電した帯電電荷発生量をpC/mLの単位で表したものとする。
【0040】
絶縁油に接する紙繊維の表面積が大きいほど流動帯電で発生する電荷量は大きくなると考えられる。
前述の帯電度(電荷発生量)について経時的に測定した結果を複数の変圧器の絶縁油を用いて図2に示す流動帯電評価診断装置30で計測しておき、変圧器ごと絶縁油の情報として蓄積し、それぞれ解析することにより、各変圧器における流動帯電を評価診断することができる。これにより絶縁油の電気化学特性を評価診断できる。
【0041】
対向電極70に対する通電開始後、帯電度について経時的に測定する場合、絶縁油31に正または負のイオンが含まれている場合、イオンの挙動は図4または図5に示すようになると推定される。
図4は、外筒71と内筒72の隙間に絶縁油31が存在し、絶縁油31が停止している場合、DCの印加により内筒72が正極、外筒71が負極であるとすると、絶縁油中の負のイオン(絶縁油中の化学成分)は内筒72側に引き寄せられるように徐々に移動する。
図5に示すように絶縁油31が外筒71と内筒72の隙間を上方に向かって流動していると仮定すると、負のイオンは絶縁油の流れに沿いつつ内筒72側に引き寄せられるように移動する。しかし、内筒72側に負のイオンが捕捉される割合は、外筒71と内筒72の隙間の大きさ、印加電圧の大小、絶縁油31の流速に影響を受け、一部の負のイオンは外筒71と内筒72の間を通過し、引出管40に到達する。
このため、本実施形態では、外筒71と内筒72の隙間を1mmに設定し、隙間の長さ(内筒72の長さに相当)を6cmに設定し、DC100Vを印加し、流量1.2cm/sの条件に設定することを想定し、以下の基礎実験を実施した。金属フィルターの孔径(ポアサイズ)は50μmとした。
【0042】
イオンの平均移動距離=移動度(cm/Vs)×電界強度(V/cm)×通過時間 の関係を有し、少なくとも3.3秒の間に0.1cm移動する必要があると仮定できるので、0.1cm= μm/Vs×1000V/cm×3.3s
と仮定すると、μ=3.0×10-5cm/Vsの関係から、絶縁油の移動度は、10-6レベル程度と推定できるので、100Vでは電圧不足と推定できる。
印加電圧をDC500Vとすると、μ=6.0×10-5cm/Vsとなり、対向電極70で捕捉できるイオンの割合が高くなると推定できるので、以下に説明する基礎試験の印加電圧は500Vで開始した。
【0043】
図2(A)に示す流動帯電評価診断装置30を用い、上述の隙間1mm、隙間長さ6cm、DC電圧500Vに設定し、流量1.2cm/sでイオンを含む絶縁油(加速劣化油)を循環させ、静電気発生部36は金属メッシュで支持した紙フィルターとした。
任意の時点から、DC電圧を印加し、印加電圧を段階的に500Vまで上昇させ、6分程度500V印加後、電圧印加を止めて除電し、その後、10分程度経過するまで、電圧印加5分前から連続的に帯電度を計測した基礎試験結果の一例を図6に示す。図6は、帯電度の経時変化を示す。
なお、この基礎試験で用いた加速劣化油とは、パラフィン系の絶縁油を窒素雰囲気、銅触媒存在下、95℃で加熱劣化させた絶縁油である。
【0044】
図6に示す結果から、絶縁油中の正負イオンのいずれかが、外筒71あるいは円柱72が形成した電界に捕捉されるので、印加電圧の上昇と時間経過に伴い、帯電度が低下することがわかる。そして、電圧印加を止めて除電すると、帯電度は電圧印加前の状態に近づくことがわかった。
絶縁油を用いた上述の試験を実施し、図6に示すような波形が得られた場合、電圧印加と時間の経過に伴い、帯電度が徐々に低下するのは、図5を用いて説明したように、絶縁油に含まれている正負イオンのいずれかが対向電極70において捕捉された結果であると考えられる。図6に示す結果に従い、電圧印加前の電圧未印加時の帯電度を示す波形と、電圧印加後の帯電度を示す波形を比較する解析を行うことで、対向電極70に通電することにより、絶縁油31に含まれるイオンバランスを調整できることがわかる。
【0045】
換言すると、図6に示すような波形を得ることができる絶縁油の場合、絶縁油の循環経路に対向電極70を配置し、絶縁油に必要な電圧を印加し、イオンを捕捉すると、変圧器1において流動帯電を抑制できると考えられる。また、この絶縁油に関し、流動帯電を抑制可能な絶縁油であると、評価診断することができる。
この評価診断は、対向電極70に対し通電する前の電圧未印加時の帯電度の波形と、電圧印加後の帯電度の波形を比較して解析し、その結果に基づいて絶縁油の流動帯電を評価診断したこととなる。また、この評価診断は、絶縁油に含まれるイオンの挙動を加味し評価しているので、帯電度に及ぼす絶縁油の電気化学的特性を動的に評価していることとなる。
【0046】
変圧器においては、通常、内部に油道が設けられ、絶縁油は油道に沿って循環されるので、この絶縁油循環のための油道のどこかに対向電極70を設け、電極間に電圧を印加することにより正負イオンの捕捉を行うと、絶縁油を充填した変圧器における流動帯電を抑制できると考えられる。
【0047】
図2に示す流動帯電評価診断装置30によれば、使用中の変圧器1から評価に必要な絶縁油を抜き出し、絶縁油に含まれている繊維の微粒子の帯電状態を電流計37で計測すればよいので、使用中の変圧器1に収容されている絶縁油の流動帯電のし易さについて変圧器1を止めることなく、変圧器1を分解することなく評価診断することができる。
また、流動帯電評価診断装置30によれば、容器32内の絶縁油の温度を加熱ヒーター38で調節した上で計測できる。よって、絶縁油の温度に応じた流動帯電発生の状態を診断することができる。また、絶縁油の温度を高温度に設定し、金属フィルター53の電荷を測定することで絶縁油の加速試験による評価診断を実施できる。
【0048】
以上説明の図6に示す帯電度を求めた結果を複数の絶縁油において実際に得ることができるか否か、確認するため、以下に説明する実施例において種々の絶縁油を用いて通電試験を実施した。
【実施例0049】
孔径(ポアサイズ)50μmの金属フィルターを用意し、この金属フィルターを図2に示す流動帯電評価診断装置の上部ホルダーと下部ホルダーの間に挟持した。
以下の表1に示すパラフィン系の新品絶縁油を用意した。また、1次電圧275kV、2次電圧77kV、定格容量250MVA、1976年製の油入電力用変圧器であって、45年間使用した稼働中の実器変圧器から絶縁油を採取し、先の新品絶縁油とともに帯電度を求める試験に供した。
【0050】
【表1】
【0051】
新品絶縁油については、そのまま試験に供した試料を表1において試料No.1とし、オレイン酸銅を50mg/kg添加した新品絶縁油を試料No.2とし、オレイン酸銅を50mg/kg添加し、更に80℃で48時間加熱することにより過酸化物を40.2mg/kg生成させた新品絶縁油を試料No.3としてそれぞれ帯電度を求める試験に供した。
また、実器変圧器からの採取絶縁油については、過酸化物が1.4mg/kgであった採取絶縁油を試料No.4とし、80℃で48時間加熱することにより過酸化物を58.4mg/kg生成させた採取絶縁油を試料No.5とし、オレイン酸銅を50mg/kg添加し過酸化物濃度1.4mg/kg含有した採取絶縁油を試料No.6とし、オレイン酸銅を50mg/kg添加し、更に80℃で48時間加熱した採取絶縁油を試料No.7とした。なお試料No.7の過酸化物濃度は1.4mg/kgで加熱前の状態から変化していない。これは採取絶縁油中に含まれていた油中成分と加熱処理によって生成した過酸化物が反応し分解したことによる。
【0052】
試料No.1~No.7の絶縁油の各々に関し、先に説明した基礎試験と同等の条件にて図2(A)に示す流動帯電評価診断装置30により帯電度を求めた結果を図7図48に示す。
図7は、No.1の絶縁油について35℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示し、図8は、No.1の絶縁油について50℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示す。
図9は、No.1の絶縁油について35℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図10は、No.1の絶縁油について35℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
【0053】
図11は、No.1の絶縁油について50℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図12は、No.1の絶縁油について50℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
【0054】
No.1の絶縁油において、連続帯電度(pC/mL)、DC500V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC1000V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC印加前キャリアイオン濃度(個/cm)、DC500V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)、DC1000V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)は、表1に示す通りである。
新品絶縁油は他の絶縁油に対し基準となり得る絶縁油であり、表1と図7図12に示す結果から、新品絶縁油に関し、直流電圧を印加しても帯電度にほとんど変化は見られないことがわかる。
【0055】
図13は、No.2の絶縁油について35℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示し、図14は、No.2の絶縁油について50℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示す。
図15は、No.2の絶縁油について35℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図16は、No.2の絶縁油について35℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
【0056】
図17は、No.2の絶縁油について50℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図18は、No.2の絶縁油について50℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
No.2の絶縁油において、連続帯電度(pC/mL)、DC500V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC1000V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC印加前キャリアイオン濃度(個/cm)、DC500V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)、DC1000V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)は、表1に示す通りである。
【0057】
No.2の絶縁油の連続帯電度は、通液開始時から漸減し、最終的にわずかに逆極性(静電気発生部から正電荷が流れ、絶縁油側に負電荷が蓄積)となるまで低下した。
No.2の絶縁油に直流電圧を印加したところ、図15図16に示すように35℃では一時的に帯電度が増加してピークを示し、再び増加に転じるなど不安定な挙動を示した。図17図18に示すように50℃では一端上昇した後、漸減していく挙動を示した。更に除電後、帯電度が逆極性に増加している。これは、対向電極にトラップされていた正電荷のイオンが放出された結果と考えられる。
図17図18に示すように帯電度が経時的に漸減する特徴が見られたので、No.2の絶縁油に電圧印加することで帯電度を抑制できる可能性を有すると評価診断できる。
【0058】
図19は、No.3の絶縁油について35℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示し、図20は、No.3の絶縁油について50℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示す。
図21は、No.3の絶縁油について35℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図22は、No.3の絶縁油について35℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
【0059】
図23は、No.3の絶縁油について50℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図24は、No.3の絶縁油について50℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
No.3の絶縁油において、連続帯電度(pC/mL)、DC500V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC1000V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC印加前キャリアイオン濃度(個/cm)、DC500V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)、DC1000V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)は、表1に示す通りである。
【0060】
No.3の絶縁油の連続帯電度は、通液開始直後は高いもののすぐに減少し、極めて低い帯電度となった。
No.3の絶縁油に直流電圧を印加したところ、温度、印加電圧に応じて様々な挙動を示した。図21に示すように帯電度が増加し、帯電度が一定程度増加したところで緩やかな減少に転じた。図23では、帯電度が急速に増加した後ピークを示し、除電後は一時的に逆極性に転じた。図22図24では、電圧印加直後と除電直後にそれぞれピークが観測された。
図23図24に示すように帯電度が経時的に漸減する特徴が見られたので、No.3の絶縁油に電圧印加することで帯電度を抑制できる可能性を有すると評価診断できる。
【0061】
図25は、No.4の絶縁油について35℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示し、図26は、No.4の絶縁油について50℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示す。
図27は、No.4の絶縁油について35℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図28は、No.4の絶縁油について35℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
【0062】
図29は、No.4の絶縁油について50℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図30は、No.4の絶縁油について50℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
No.4の絶縁油において、連続帯電度(pC/mL)、DC500V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC1000V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC印加前キャリアイオン濃度(個/cm)、DC500V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)、DC1000V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)は、表1に示す通りである。
実器採取したNo.4の絶縁油は、直流電圧を印加したところ不安定な挙動を示し、図29に示すように帯電度の増減を繰り返した。
【0063】
図31は、No.5の絶縁油について35℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示し、図32は、No.5の絶縁油について50℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示す。
図33は、No.5の絶縁油について35℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図34は、No.5の絶縁油について35℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
【0064】
図35は、No.5の絶縁油について50℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図36は、No.5の絶縁油について50℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
No.5の絶縁油において、連続帯電度(pC/mL)、DC500V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC1000V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC印加前キャリアイオン濃度(個/cm)、DC500V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)、DC1000V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)は、表1に示す通りである。
実器採取した絶縁油に極性物質を添加した絶縁油は、直流電圧を印加したところ帯電度が増加したものの、その変化量は小さかった。
【0065】
図37は、No.6の絶縁油について35℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示し、図38は、No.6の絶縁油について50℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示す。
図39は、No.6の絶縁油について35℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図40は、No.6の絶縁油について35℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
【0066】
図41は、No.6の絶縁油について50℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図42は、No.6の絶縁油について50℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
No.6の絶縁油において、連続帯電度(pC/mL)、DC500V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC1000V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC印加前キャリアイオン濃度(個/cm)、DC500V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)、DC1000V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)は、表1に示す通りである。
【0067】
No.6の絶縁油の帯電度は、35℃では逆極性となる一方で50℃では通常の極性(静電気発生部から負電荷が流れ、絶縁油側に正電荷が蓄積される)となり、極めて低い帯電度となった。
No.6の絶縁油に直流電流を印加したところ、帯電度が大きく変化し、図39図40に示すように電圧印加後に一端帯電度が大きく増加するものの、その後漸減する傾向を示した。図41図42に示すように電圧印加後に帯電度が大きく増加し、その後、低下することなく高い値で安定した。連続帯電度も35℃、50℃でそれぞれ傾向が異なっており、温度によってイオン性物質に状態変化を生じていると考えられる。
【0068】
図43は、No.7の絶縁油について35℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示し、図44は、No.7の絶縁油について50℃に加温し、電圧を印加することなく600Sec帯電度を計測した結果を示す。
図45は、No.7の絶縁油について35℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図46は、No.7の絶縁油について35℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
【0069】
図47は、No.7の絶縁油について50℃に加温し、DC500Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示し、図48は、No.7の絶縁油について50℃に加温し、DC1000Vを80~380secまで印加しつつ帯電度を経時的に計測した結果を示す。
No.7の絶縁油において、連続帯電度(pC/mL)、DC500V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC1000V印加帯電度の増減(DC印加5分後)、DC印加前キャリアイオン濃度(個/cm)、DC500V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)、DC1000V印加後キャリアイオン濃度(個/cm)は、表1に示す通りである。
【0070】
No.7の絶縁油の帯電度は、図43図44に示す通り、通電開始直後は高いもののすぐに減少し、極めて低い帯電度となった。
No.7の絶縁油に直流電圧を印加したところ、帯電度が増加し、図46に示すように35℃、1000Vの条件が最も高い値となった。
表1に示すNo.1~7の絶縁油の試験結果について総合的に判断すると、印加電圧に応じてキャリアイオン濃度が減少する絶縁油と、一定の変化が見られない絶縁油が存在することがわかった。
【0071】
キャリアイオン濃度が減少する絶縁油では、直流電圧印加時の帯電度の増減が顕著であるのに対し、一定の変化が見られない絶縁油は、直流電圧を印加しても帯電度にはあまり変化がみられない。つまり、絶縁油の高帯電度化要因となっているイオンは、複数種類存在しており、移動度の異なる正負イオン成分の割合によって直流電圧印加時の挙動が変化していると考えられる。
【0072】
直流電圧印加時の挙動が絶縁油の種類により異なるとしても、絶縁油に含まれている正負イオンが協働する結果として、電圧印加後に帯電度が減少する絶縁油に対し、電圧印加を行えば、帯電度を抑制できることが明らかである。
従って、変圧器から採取した絶縁油に関し、流動帯電評価診断装置30を用いた電圧印加試験を実施し、電圧印加後に帯電度が減少する絶縁油であると評価診断できたならば、該当する絶縁油を収容した変圧器の油道に対向電極70を収容し、電圧を印加することにより、流動帯電を抑制できることがわかる。あるいは、該当する絶縁油と同じ種類の新規絶縁油を収容した変圧器の油道に最初から対向電極70を収容し、電圧印加を行うことにより、該当変圧器の流動帯電を抑制できると評価診断することができる。
【符号の説明】
【0073】
1…変圧器、2…タンク、3…コイル体、5…鉄心、6…上部鉄心、7…締め付け部材、8…締め付け金具、9…外側コイル、10…内側コイル、11、16…巻線(通電体)、12、17…絶縁スペーサー(固体絶縁物)、30…流動帯電評価診断装置、31…絶縁油、32…容器、33…循環流路、35…循環ポンプ、36…静電気発生部、37…電流計、38…加熱ヒーター、40…引出管、41…戻管、50…上部ホルダー、51…下部ホルダー、53…金属フィルター、70…対向電極、71…外筒(主電極)、72…内筒(対電極)。
図1
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