(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093882
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】部材組合せ自動選定装置とプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/13 20200101AFI20240702BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20240702BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20240702BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20240702BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240702BHJP
G06F 111/04 20200101ALN20240702BHJP
【FI】
G06F30/13
G06F30/20
G06F30/27
E04B1/24 P ESW
E04B1/24 L
E04B1/58 503H
E04B1/58 505S
G06F111:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210513
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】永峰 頌子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
(72)【発明者】
【氏名】西 拓馬
【テーマコード(参考)】
2E125
5B146
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AB01
2E125AB16
2E125AC15
2E125AC16
2E125AG50
5B146AA04
5B146DC03
5B146DC04
5B146DC05
(57)【要約】
【課題】構造計算の数を低減しながら、相互に接合される複数の部材の中で好適な部材組合せを高い精度で選定することのできる、部材組合せ自動選定装置とプログラムを提供すること。
【解決手段】建物を形成して相互に接合される、複数の部材の組合せを自動選定する、部材組合せ自動選定装置10であり、複数の部材が不適切な組合せか否かを判定する第1判定部104と、第1判定部104において適切であると判定された組合せを第1組合せとし、複数の第1組合せを備えた計算モデルを用いて構造計算を実行する構造計算部106と、構造計算部106による構造計算の結果、予め設定されている制約条件を満たす組合せを第2組合せとして抽出する第2判定部108と、複数の第2組合せの中で最適な組合せを選定する選定部110とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物を形成して相互に接合される、複数の部材の組合せを自動選定する、部材組合せ自動選定装置であって、
前記複数の部材が不適切な組合せか否かを判定する、第1判定部と、
前記第1判定部において適切であると判定された前記組合せを第1組合せとし、複数の該第1組合せを備えた計算モデルを用いて構造計算を実行する、構造計算部と、
前記構造計算部による構造計算の結果、予め設定されている制約条件を満たす組合せを第2組合せとして抽出する、第2判定部と、
複数の前記第2組合せの中で、最適な組合せを選定する、選定部とを有することを特徴とする、部材組合せ自動選定装置。
【請求項2】
前記選定部では、予め設定されている複数の目的関数を同時に求める多目的最適化を実行して、最小化する該組合せを選定することを特徴とする、請求項1に記載の部材組合せ自動選定装置。
【請求項3】
前記選定部では、各部材の断面の種類の数を各部材の配置箇所数で除すことにより算定される、各部材の断面種類の削減率の小さな組合せを選定することを特徴とする、請求項1に記載の部材組合せ自動選定装置。
【請求項4】
前記第1判定部において、
前記複数の部材が柱と2以上の梁である場合は、さらに梁フランジ段差の有無を判定し、梁フランジ段差が有る場合に、さらに製作不可能な梁フランジ段差が有る場合は前記不適切な組合せと判定し、
前記複数の部材が上柱と下柱である場合は、双方の柱の外径と板厚に基づいて、下柱に比べて上柱の外径が大きいケース、もしくは、上柱と下柱の外径が同じ場合に下柱に比べて上柱の板厚が大きいケースの場合に、前記不適切と判定することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の部材組合せ自動選定装置。
【請求項5】
前記梁フランジ段差が製作可能な場合であってダイアフラムが増加するケース、もしくは、下柱と上柱の外径の差分値が所定量よりも大きいケースでは、前記選定部において、建物鉄骨重量を1つの目的関数とする場合に、所定量の増加鉄骨重量と見なして該建物鉄骨重量に加算することを特徴とする、請求項4に記載の部材組合せ自動選定装置。
【請求項6】
前記第2判定部において、
前記制約条件には、検定比、ルート判定表の各項目適用の可否、保有水平耐力、層間変形角、たわみのいずれか一種もしくは複数種が含まれることを特徴とする、請求項1又は2に記載の部材組合せ自動選定装置。
【請求項7】
機械学習部をさらに有し、
前記機械学習部が、前記第1判定部、前記構造計算部、前記第2判定部、及び前記選定部をシーケンシャルに実行することを特徴とする、請求項1又は2に記載の部材組合せ自動選定装置。
【請求項8】
建物を形成して相互に接合される、複数の部材の組合せを自動選定するコンピュータに、以下の処理を実行させるプログラムであって、
前記複数の部材が不適切な組合せか否かを判定し、
適切であると判定された前記組合せを第1組合せとし、複数の該第1組合せを備えた計算モデルを用いて構造計算を実行し、
前記構造計算の結果、予め設定されている制約条件を満たす組合せを第2組合せとして抽出し、
複数の前記第2組合せの中で、最適な組合せを選定することを特徴とする、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材組合せ自動選定装置とプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物の設計において、設計者は、柱と梁の接合や下柱と上柱の接合等、接合される複数の部材に関する組合せを複数種設定し、各組合せを計算モデルに採用して構造計算を行っている。この際、相互に接合される部材の組合せには、部材の製作性や施工性、鉄骨重量の低減等の観点から、実際に設計者が設定した組合せよりもより好適な組合せが存在する場合が十分にあり得るものの、様々な組合せを全て抽出し、組合せごとに計算モデルを作成して構造計算を行うことは現実的に不可能であることから、最適な組合せが看過されることを否定できない。
【0003】
すなわち、建物は、相互に接合される複数の部材の組合せを多数内包することによって構成されているため、各接合箇所における部材の組合せを様々に異ならせながら計算モデルを作成した場合に、計算モデルの種類は多数に及び得ること、実際の構造計算ソフトによる構造計算には多くの時間を要することから、これらを経て各接合箇所における最適な部材の組合せを抽出することは非現実的となる。
【0004】
以上のことから、構造計算の数を低減しながら、相互に接合される複数の部材の中で好適な部材組合せを高い精度で設定することのできる、部材組合せ自動選定装置が望まれる。
【0005】
ここで、特許文献1には、梁接合部鋼管壁板厚選定システムが提案されている。この梁接合部鋼管壁板厚選定システムは、建物の構造設計において、柱と大梁との梁端接合部の柱側の鋼管壁に使用する部材の板厚を選定するためのコンピュータによる梁接合部鋼管壁板厚選定システムである。具体的には、梁端接合部の降伏曲げ耐力から算出した、大梁のウェブをすべて有効とするために必要な鋼管壁の板厚をtcf1、梁端接合部の降伏曲げ耐力から算出した、箱形断面柱のときの特定条件下での鋼管壁の板厚をtcf2、梁端接合部の最大曲げ耐力から算出した、大梁のウェブをすべて有効とするために必要な鋼管壁の板厚をtcf3とし、鋼管壁の板厚を指定する指定板厚を設定し、かつ、tcf1、tcf2及びtcf3を計算するために必要な建物に使用する部材の仕様データを設定した際に、指定板厚が、tcf1、tcf2及びtcf3に基づき計算される鋼管壁の板厚としての強度基準を満たすか否かを示す適否情報を出力する機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の梁接合部鋼管壁板厚選定システムによれば、鋼管壁の板厚が適正な板厚となっているか否かを照査することはできるものの、相互に接合される複数の部材の組合せが好適な組合せであるか否かを、高い精度で設定するための手段を提案するものではない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、構造計算の数を低減しながら、相互に接合される複数の部材の中で好適な部材組合せを高い精度で選定することのできる、部材組合せ自動選定装置とプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による部材組合せ自動選定装置の一態様は、
建物を形成して相互に接合される、複数の部材の組合せを自動選定する、部材組合せ自動選定装置であって、
前記複数の部材が不適切な組合せか否かを判定する、第1判定部と、
前記第1判定部において適切であると判定された前記組合せを第1組合せとし、複数の該第1組合せを備えた計算モデルを用いて構造計算を実行する、構造計算部と、
前記構造計算部による構造計算の結果、予め設定されている制約条件を満たす組合せを第2組合せとして抽出する、第2判定部と、
複数の前記第2組合せの中で、最適な組合せを選定する、選定部とを有することを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、複数の部材の中で適切な組合せを抽出して第1組合せとし、不適切な組合せを排除するフィルタリングを行った後に、複数の第1組合せを備えた計算モデルを用いて構造計算を実行し、構造計算の結果、予め設定されている制約条件を満たす組合せを抽出して第2組合せとし、第2組合せの中で最適な組合せを選定することにより、構造計算の数を可及的に低減しながら、最適な部材組合せを高い精度で選定することができる。
【0011】
ここで、「複数の部材の不適切な組合せ」としては、例えば、鉄骨柱に対して2以上の鉄骨梁が接合され、2以上の鉄骨梁が梁フランジ段差を有している場合に、この梁フランジ段差が製作不可能な場合を不適切な組合せの一例として挙げることができる。また、「予め設定されている制約条件」としては、例えば、層間変形角やたわみ等に関する制約条件を一例として挙げることができる。さらに、「最適な組合せの選定」としては、例えば、建物の鉄骨重量を目的関数とした際に、目的関数を最小化する組合せを最適な組合せの一例とすることができる。
【0012】
また、本発明による部材組合せ自動選定装置の他の態様において、
前記選定部では、予め設定されている複数の目的関数を同時に求める多目的最適化を実行して、最小化する該組合せを選定することを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、予め設定されている複数の目的関数を同時に求める多目的最適化を最小化する組合せを最適な組合せとして選定することにより、より一層好適な部材組合せを選定することができる。ここで、「複数の目的関数」の組合せとしては、例えば、鉄骨重量と層間変形角の組合せを一例として挙げることができる。
【0014】
また、本発明による部材組合せ自動選定装置の他の態様において、
前記選定部では、各部材の断面の種類の数を各部材の配置箇所数で除すことにより算定される、各部材の断面種類の削減率の小さな組合せを選定することを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、各部材の断面種類の削減率の小さな組合せを最適な組合せとして選定することにより、必要な部材種を可及的に低減できることから、部材の製作性に優れた部材組合せを選定でき、建物の施工コストの可及的な低減に繋がる。
【0016】
また、本発明による部材組合せ自動選定装置の他の態様は、
前記第1判定部において、
前記複数の部材が柱と2以上の梁である場合は、さらに梁フランジ段差の有無を判定し、梁フランジ段差が有る場合に、さらに製作不可能な梁フランジ段差が有る場合は前記不適切な組合せと判定し、
前記複数の部材が上柱と下柱である場合は、双方の柱の外径と板厚に基づいて、下柱に比べて上柱の外径が大きいケース、もしくは、上柱と下柱の外径が同じ場合に下柱に比べて上柱の板厚が大きいケースの場合に、前記不適切と判定することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、不適切な組合せ形態を明確にし、その1つを製作不可能な梁フランジ段差が有る場合とし、他の1つを上柱と下柱の組合せにおいて下柱に比べて上柱の外径が大きいケースや上柱の板厚が相対的に大きいケースとすることにより、発生する可能性の高い不適切な組合せを効果的に排除することができる。ここで、「梁フランジ段差」には、柱に接合される複数の梁の間でレベル差がある場合における、複数の梁の上フランジの段差や上下フランジ双方の段差の他、複数の梁の梁せいに差がある場合における、複数の梁の下フランジの段差等が含まれる。
【0018】
また、本発明による部材組合せ自動選定装置の他の態様は、
前記梁フランジ段差が製作可能な場合であってダイアフラムが増加するケース、もしくは、下柱と上柱の外径の差分値が所定量よりも大きいケースでは、前記選定部において、建物鉄骨重量を1つの目的関数とする場合に、所定量の増加鉄骨重量と見なして該建物鉄骨重量に加算することを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、製作可能な梁フランジ段差が有る場合であってもダイアフラムが増加するケースや、下柱と上柱の外径の差分値が所定量よりも大きいケースにおいては、建物鉄骨重量を1つの目的関数として最適な組合せを選定する際に、所定量の増加鉄骨重量と見なして建物鉄骨重量に加算することにより、部材の製作性が低下したり、施工性の低い部材組合せの選定を抑制もしくは抑止することが可能になる。
【0020】
また、本発明による部材組合せ自動選定装置の他の態様は、
前記第2判定部において、
前記制約条件には、検定比、ルート判定表の各項目適用の可否、保有水平耐力、層間変形角、たわみのいずれか一種もしくは複数種が含まれることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、検定比、ルート判定表の各項目適用の可否、保有水平耐力、層間変形角、たわみのいずれか一種もしくは複数種が制約条件に含まれることにより、構造安定性に優れた建物を構成する部材組合せを選定することができる。
【0022】
また、本発明による部材組合せ自動選定装置の他の態様は、
機械学習部をさらに有し、
前記機械学習部が、前記第1判定部、前記構造計算部、前記第2判定部、及び前記選定部をシーケンシャルに実行することを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、第1判定部、構造計算部、第2判定部、及び選定部が機械学習部によってシーケンシャルに実行されることにより、機械学習部を適用する場合でも、現実的ではないような部材組合せや、製作不可能な部材組合せの選定を効果的に排除しながら、好適な部材組合せをより一層効率的に選定することができる。
【0024】
また、本発明によるプログラムの一態様は、
建物を形成して相互に接合される、複数の部材の組合せを自動選定するコンピュータに、以下の処理を実行させるプログラムであって、
前記複数の部材が不適切な組合せか否かを判定し、
適切であると判定された前記組合せを第1組合せとし、複数の該第1組合せを備えた計算モデルを用いて構造計算を実行し、
前記構造計算の結果、予め設定されている制約条件を満たす組合せを第2組合せとして抽出し、
複数の前記第2組合せの中で、最適な組合せを選定することを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、不適切な組合せか否かを判定する工程、適切であると判定された複数の第1組合せを備えた計算モデルを用いて構造計算を実行する工程、構造計算の結果、予め設定されている制約条件を満たす組合せを第2組合せとして抽出する工程、複数の第2組合せの中で最適な組合せを選定する工程を、プログラムを介してコンピュータに実行させることにより、構造計算の数を可及的に低減しながら、最適な部材組合せを高い精度で選定することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から理解できるように、本発明の部材組合せ自動選定装置とプログラムによれば、構造計算の数を低減しながら、相互に接合される複数の部材の中で好適な部材組合せを高い精度で選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施形態に係る部材組合せ自動選定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図2】実施形態に係る部材組合せ自動選定装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図3】(a)、(b)はいずれも、梁フランジ段差が有る場合の不適切な組合せの例を示す図である。
【
図4】(a)、(b)はいずれも、上柱と下柱がある場合の不適切な組合せの例を示す図であり、(c)は、目的関数である建物鉄骨重量に対して増加鉄骨重量が加算される例を示す図である。
【
図5】目的関数として、鉄骨重量と、層間変形角と、削減率が適用されている場合の多目的最適化を検証した結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施形態に係る部材組合せ自動選定装置の一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0029】
[実施形態に係る部材組合せ自動選定装置]
図1乃至
図5を参照して、実施形態に係る部材組合せ自動選定装置の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る部材組合せ自動選定装置のハードウェア構成の一例を示す図であり、
図2は、実施形態に係る部材組合せ自動選定装置の機能構成の一例を示す図である。
【0030】
自動選定装置10は、例えば鉄骨造の建物の設計に際して、建物を形成して相互に接合される、複数の部材の組合せを自動選定する自動選定装置である。ここで、相互に接合される複数の部材としては、柱(例えば鉄骨柱)と2以上の梁(例えば鉄骨梁)や、上柱と下柱(例えばともに鉄骨柱)等が挙げられる。
【0031】
図1に示すように、自動選定装置10は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)やワークステーション(WS:Work Station)、タブレット等の情報処理装置からなり、コンピュータにより構成される。
【0032】
自動選定装置10を構成するコンピュータは、接続バス16により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)11、主記憶装置12、補助記憶装置13、通信IF(interface)14、及び入出力IF15を備えている。主記憶装置12と補助記憶装置13は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0033】
CPU11は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU11は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU11は、コンピュータからなる自動選定装置10の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU11は、例えば、補助記憶装置13に記憶されたプログラムを主記憶装置12の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0034】
主記憶装置12は、CPU11が実行するコンピュータプログラムや、CPU11が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置12は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置13は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置13には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF14を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、ネットワークに接続するパーソナルコンピュータ(PC)、ワークステーション(WS)、サーバ、携帯端末等の情報処理装置や外部記憶装置等が含まれる。
【0035】
補助記憶装置13は、例えば、主記憶装置12を補助する記憶領域として使用され、CPU11が実行するコンピュータプログラムや、CPU11が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置13は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置13として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示される。着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0036】
通信IF14は、自動選定装置10が接続するネットワークとのインターフェイスである。通信IF14は、ネットワークを介して、例えば共有サーバ(クラウドサーバを含む)に接続され、構造設計の際に利用する様々なアプリケーションソフトウェアをダウンロードしたり、複数の部材の組合せに関し、鋼材種や資材価格等から、選定可能な組合せが纏められたリストデータ等を受信する。
【0037】
入出力IF15は、自動選定装置10に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF15には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。自動選定装置10は、入出力IF15を介し、入力デバイスを操作する操作者(例えば構造設計担当者等)からの操作指示等を受け付ける。
【0038】
また、入出力IF15には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続する。自動選定装置10は、入出力IF15を介し、CPU11により処理されるデータや情報、主記憶装置12、補助記憶装置13に記憶されるデータや情報を出力する。
【0039】
図2に示すように、自動選定装置10は、CPU11によるプログラムの実行により、少なくとも、入出力部102、第1判定部104、構造計算部106、第2判定部108、選定部110、機械学習部112、表示部114、及び記憶部116の各種機能を提供する。尚、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0040】
自動選定装置10は、機械学習部112が、各部を自動制御するように構成されている。この機械学習部112において適用されるアルゴリズムには、進化的アルゴリズム、ヒューリスティックオプティマイザ、複合戦略アルゴリズム、勾配ベースオプティマイザ、及び外部オプティマイザ等が挙げられる。
【0041】
進化的アルゴリズムには、MOGA-II、NSGA-II、ARMOGA、Evolution Strategy、Many-Objective等が含まれる。一方、ヒューリスティックオプティマイザには、SIMPLEX、MOGA、MOGT、MOPSO、POWELL等が含まれる。一方、複合戦略アルゴリズムには、FAST、MEGO、HYBRID、SAnGeA、pilOPT等が含まれる。一方、勾配ベースオプティマイザには、B-BFGS、AFSQP、NBI-AFSQP、MIPSQP、Levenberg Marquardt等が含まれる。一方、外部オプティマイザには、Matlab(The MathWorks)Bridge、GNU Octave Bridge等が含まれる。
【0042】
機械学習部112は、第1判定部104、構造計算部106、第2判定部108、及び選定部110を順次動作させるシーケンシャルな制御を実行する。
【0043】
ここで、構造計算部106は、選定された複数の部材を用いて計算モデルを作成して構造計算を実行するが、計算モデルの作成は、機械学習部112が自動的に実行してもよいし、機械学習部112により選定された複数の部材を用いて構造設計担当者が作成してもよい。
【0044】
入出力部102は、複数の部材の組合せに関し、鋼材種や資材価格等から、選定可能な組合せが纏められたリストデータを取得して記憶部116に記憶(格納)する。また、入出力部102は、構造計算に供されるアプリケーションソフトウェアを構造設計担当者による直接入力により、もしくは共有サーバ等からダウンロード等することにより取得して、記憶部116に格納する。
【0045】
ここで、構造計算用のアプリケーションソフトウェアとしては、RC/SRC/S造建物の高機能一貫構造計算ソフトウェアである、Super Build(登録商標)/SS7(ユニオンシステム株式会社製)や、BUS-6(株式会社構造システム社製)等がインストールされている。ここで、RC造は鉄筋コンクリート造を示し、SRC造は鉄骨鉄筋コンクリート造を示し、S造は鉄骨造を示す。
【0046】
さらに、入出力部102は、構造計算結果や構造計算モデル等を含む構造計算データを、記録媒体に出力したり、共有サーバ等に送信する。
【0047】
第1判定部104は、相互に接合される複数の部材が、不適切な組合せか否かを判定する。
【0048】
図3(a),(b)と
図4(a),(b)には、不適切な組合せの例を示している。ここで、
図3(a)、(b)はいずれも、梁フランジ段差が有る場合の不適切な組合せの例を示す図であり、
図4(a)、(b)はいずれも、上柱と下柱がある場合の不適切な組合せの例を示す図である。
【0049】
例えば、
図3(a)に示すように、複数の部材が、角形鋼管により形成される柱C1と、2以上のH形鋼により形成される梁G1,G2である場合において、図示例のように、梁フランジ段差が有る場合であって、さらに製作不可能な梁フランジ段差が有る場合には、不適切な組合せと判定する。
【0050】
具体的には、
図3(a)に示す例では、梁G1の梁せいがh1、梁G2の梁せいがh2(h1>h2)であり、柱C1には、3枚の通しダイアフラムD1,D2,D3が設けられており、双方の梁G1,G2の上フランジF1,F3が柱通しダイアフラムD1に溶接接合され、梁G2の下フランジF4が通しダイアフラムD2に溶接接合され、梁G1の下フランジF2が通しダイアフラムD3に溶接接合される場合に、通しダイアフラムD2,D3の間の段差t1(梁段差)が許容値tth未満である場合である。許容値tthとしては、例えば150mmが設定される。
【0051】
図3(b)に示す例では、柱C2には、4枚の通しダイアフラムD4,D5,D6,D7が設けられており、梁せいh3を共通にする2つの梁G3,G4のうち、梁G3の上フランジF5と下フランジF6が通しダイアフラムD4,D6にそれぞれ溶接接合され、梁G4の上フランジF7と下フランジF8が通しダイアフラムD5,D7にそれぞれ溶接接合される場合に、通しダイアフラムD4,D5の間の段差t2と通しダイアフラムD6,D7の間の段差t2が許容値tth未満である場合である。
【0052】
一方、
図4(a)に示すように、複数の部材が角形鋼管により形成される上柱C3と下柱C4である場合において、双方の柱C3、C4の外径に基づいて、下柱C4の外径s2に比べて上柱C3の外径s1が大きいケースでは、不適切な組合せと判定する。
【0053】
また、
図4(b)に示すように、複数の部材が上柱C5と下柱6であって双方の外径が同じである場合において、双方の柱C5、C6の板厚に基づいて、下柱C6の板厚s4に比べて上柱C5の板厚s3が大きいケースでは、不適切な組合せと判定する。
【0054】
機械学習部112による複数部材の自動選定では、現実的でない部材の組合せや、
図3,4に示すように製作不可能な組合せが選定される可能性を否定できないが、第1判定部104にて製作不可能な部材の組合せを排除するフィルタリングを行うことにより、このように製作不可能な部材の組合せを内包する計算モデルに基づく構造計算を防止できる。
【0055】
すなわち、このように不必要な構造計算を防止することによって、計算モデルの作成とこの計算モデルを用いた構造計算の回数を各段に低減することができる。
【0056】
機械学習部112では、記憶部116に記憶されている、選定可能な組合せが纏められたリストデータの中から様々な部材の組合せを選定した後、第1判定部104を実行して、選定した部材の組合せの中から不適切な部材の組合せを排除し、第1判定部104にて適切であると判定された部材の組合せを第1組合せとして、記憶部116に格納する。尚、建物の構造計算モデルを構成する、様々な柱と梁の組合せ(相互に接合される柱と梁)や、様々な上柱と下柱の組合せに対して、第1組合せに含まれるいずれかの組合せが適用されることになる。
【0057】
次に、機械学習部112は、構造計算部106を動作させ、記憶部116に記憶されている第1組合せに含まれる柱と梁の組合せや、上柱と下柱の組合せを用いて計算モデルを作成し、作成された計算モデルを、上記する構造計算用のアプリケーションソフトウェアに適用して構造計算を実行する。
【0058】
次に、機械学習部112は、第2判定部108を動作させ、構造計算部106による構造計算の結果、予め設定されている制約条件を満たす組合せを第2組合せとして抽出する。
【0059】
ここで、制約条件には、検定比、ルート判定表の各項目適用の可否、保有水平耐力、層間変形角、たわみのいずれか一種もしくは複数種が含まれている。ここで、「検定比」とは、部材に生じる応力度と許容応力度の比率のことである。また、「ルート判定」とは、建物の規模等に応じて建築基準法にて定められる構造計算の方法および規定であり、鉄骨造の場合、ルート1-1、ルート1-2、ルート2、ルート3の各ルートで計算方法や接合部の破断防止などの検討すべき項目が定められている。また、ルート判定表は、各ルートの検討項目について適用可否を示すテーブルである。
【0060】
例えば、ここで列挙する全ての項目を制約条件に設定して記憶部116に記憶し、第2判定部108が構造計算結果を制約条件に照らして第2組合せを抽出することができる。尚、制約条件の項目が多くなるに従い、第2組合せとして抽出される組合せが制限されることから、建物の重要度や建物にとって特に重視される項目等に基づいて制約条件を設定するのが好ましい。
【0061】
機械学習部112は、第1組合せからの部材の抽出と、抽出された部材に基づいて作成された計算モデルを用いた構造計算と、さらに、構造計算結果が制約条件を満たす場合の部材の第2組合せの抽出を一連のフローとして、このフローを複数回実行して、複数の第2組合せを抽出し、記憶部116に記憶する。
【0062】
次に、機械学習部112は、選定部110を動作させ、記憶部116に記憶されている複数の第2組合せの中で、最適な組合せを選定する。
【0063】
ここで、最適な組合せの選定方法には、種々の方法が含まれる。その1つの方法は、予め設定されている複数の目的関数を同時に求める多目的最適化を実行して、最小化する組合せを選定すること、言い換えれば、パレート解を求めることである。この多目的最適化としては、応答曲面法(RSM:Response Surface Methodology)を適用することができる。
【0064】
この目的関数には、鉄骨重量、層間変形角、削減率などが含まれ、多目的最適化の実行においてはそのうちの2つもしくは3つを目的関数とする。
【0065】
ここで、「削減率」とは、各部材の断面の種類の数を各部材の配置箇所数で除すことにより算定される比率のことであり、削減率が小さくなるにつれて、適用される部材の断面種類が少なくなることから部材の製作性が向上し、建物の建設コストの削減に繋がる。
【0066】
また、鉄骨重量は、その値が小さいことにより建設コストの削減に直結する。層間変形角に関しては、その値が小さくなるにつれて建物の耐震性能が高くなるが、耐震性能の向上は建設コストの上昇に繋がることから、建物の性能と建設コストを示す指標となり得る。
【0067】
ここで、梁フランジ段差が製作可能な場合であって、ダイアフラムが増加するケースや、下柱と上柱の外径の差分値が所定量よりも大きいケースでは双方を繋ぐテーパー管といった別部材を要する。
【0068】
例えば、
図4(c)には、下柱C8と上柱C7のそれぞれの外径s6、s5の差分値が許容差分値Δsthよりも大きな場合に、通しダイアフラムD10,D11を介してテーパー管Tが設けられている柱構造を示している。
【0069】
上記のような場合は、単に建物鉄骨重量のみを目的関数とすることに代えて、増加するダイアフラムやテーパー管等を所定量の増加鉄骨重量と見なし、建物鉄骨重量に対して加算するといった、所謂鉄骨重量ペナルティを目的関数に付加することにより、製作性や施工性等が鉄骨重量に加味された精度の高い目的関数となる。
【0070】
上記するように、複数の目的関数を同時に求める多目的最適化を実行して、最小化する組合せを選定することの他に、最適な組合せの選定方法の他の例としては、削減率の小さな組合せを選定することが挙げられる。
【0071】
ここで、
図5は、目的関数として、鉄骨重量と層間変形角が適用されている場合の多目的最適化を検証した結果の一例を示すグラフであり、例えば、表示部114の表示画面に表示される。
【0072】
グラフでは、縦軸を鉄骨重量最小化とし、横軸を層間変形角条件とし、プロット円を削減率の逆数最小化として示している。
【0073】
グラフに示す多数の第2組合せのプロットのうち、下方領域がパレート解含有エリアとなる。機械学習部112は、このパレート解含有エリアに含まれる第2組合せの中から、予め設定されている選定条件に照らして、最適な第2組合せを選定する。
【0074】
例えば、建物が重要建物であり、耐震性能の重要度が高い場合は、パレート解含有エリアのうちで最も層間変形角が小さな第2組合せを抽出することができる。
【0075】
また、層間変形角と鉄骨重量のベストマッチ(双方の最適解)が選定条件とされる場合は、パレート解含有エリアの中の中間に位置する第2組合せを抽出することができる。
【0076】
また、その他、
図5に示すパレート解含有エリアの作成までを機械学習部112が行った後、最適な組合せの最終選択は構造設計担当者が行ってもよい。
【0077】
自動選定装置10によれば、複数の部材の中で適切な組合せを抽出して第1組合せとし、不適切な組合せを排除するフィルタリングを行った後に、複数の第1組合せを備えた計算モデルを用いて構造計算を実行し、構造計算の結果、予め設定されている制約条件を満たす組合せを抽出して第2組合せとし、第2組合せの中で最適な組合せを選定することにより、構造計算の数を可及的に低減しながら、最適な部材組合せを高い精度で選定することができる。
【0078】
さらに、機械学習部112によって、適用可能な部材リストからの部材の抽出、抽出された部材に基づいて作成された計算モデルを用いた構造計算、最終的な最適部材の選定までを自動的に行えることから、構造設計担当者を不要にした完全自動化の下で好適な部材選定を実現できる。
【0079】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0080】
10:部材組合せ自動選定装置(上下隙間)
102:入出力部
104:第1判定部
106:構造計算部
108:第2判定部
110:選定部
112:機械学習部
114:表示部
116:記憶部