(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093893
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】油性インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/36 20140101AFI20240702BHJP
【FI】
C09D11/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210530
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】大澤 信介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正規
(72)【発明者】
【氏名】古山 岳史
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA07
4J039EA41
4J039EA42
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】印刷物の画像性が良好であり、間欠吐出性に優れる油性インクジェットインクを提供する。
【解決手段】顔料と、分散剤と、非水系溶剤とを含み、顔料は、一次粒子の平均粒子径(r1)が30nm以下である第1の顔料と、一次粒子の平均粒子径(r2)が30nm以下である第2の顔料とを含み、(第2の顔料の一次粒子の平均粒子径(r2))/(第1の顔料の一次粒子の平均粒子径(r1))が1.30~2.31を満たす、油性インクジェットインクである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、分散剤と、非水系溶剤とを含み、
前記顔料は、一次粒子の平均粒子径(r1)が30nm以下である第1の顔料と、
一次粒子の平均粒子径(r2)が30nm以下である第2の顔料とを含み、
(第2の顔料の一次粒子の平均粒子径(r2))/(第1の顔料の一次粒子の平均粒子径(r1))が1.30~2.31を満たす、油性インクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なノズルから液滴として噴射し、ノズルに対向して置かれた基材に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、水を主溶媒として含有する水性インク、重合性モノマーを主成分として高い含有量で含有する紫外線硬化型インク(UVインク)、ワックスを主成分として高い含有量で含有するホットメルトインク(固体インク)とともに、非水系溶剤を主溶媒として含有する、いわゆる非水系インクが知られている。非水系インクは、主溶媒が揮発性有機溶剤であるソルベントインク(溶剤系インク)と、主溶媒が低揮発性あるいは不揮発性の有機溶剤である油性インク(オイル系インク)に分類できる。ソルベントインクは主に有機溶剤の蒸発によって基材上で乾燥するのに対して、油性インクは基材への浸透が主となっている。油性インクジェットインクは用紙変形を起こしにくいため、より高速印刷を可能としている。
【0003】
油性インクを用いる印刷方法では、油性インクが基材に吐出されると、油性インクに含まれる非水系溶剤が基材の内部に浸透し、印刷物表層の乾燥が進行する。この際、印刷物の画像性を高めるには、油性インクに含まれる顔料が、基材の表面で非水系溶剤から離脱して、基材の表面に留まることが望ましい。特許文献1には、インクジェットインクに適した諸特性を備えるインクとして、顔料と、非水系溶剤と、非水溶性樹脂と、水溶性樹脂であるポリエチレンイミンとを含む非水系顔料インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、油性インクに含まれる分散剤及び非水系溶剤等の種類等の影響を受けて、油性インクに含まれる顔料が非水系溶剤とともに基材の内部深くにまで浸透することがある。これによって、印刷物において裏抜けが発生し、印刷物の表濃度の低下を引き起こすことがある。また、印刷物において細字がぼやけて判読しにくくなるという問題もある。
【0006】
特許文献1に開示の技術は、裏抜けを抑制し、高い印刷濃度を実現しようとする。一方で、裏抜けをさらに低減することが望まれ、さらに細字の鮮鋭さを改善することも望まれ、さらなる印刷物の画像性の改善が期待される。また、インクジェットインクではインクジェットノズルからのインクの間欠吐出性の改善も期待される。
【0007】
本発明の一目的としては、印刷物の画像性が良好であり、間欠吐出性に優れる油性インクジェットインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面としては、顔料と、分散剤と、非水系溶剤とを含み、前記顔料は、一次粒子の平均粒子径(r1)が30nm以下である第1の顔料と、一次粒子の平均粒子径(r2)が30nm以下である第2の顔料とを含み、(第2の顔料の一次粒子の平均粒子径(r2))/(第1の顔料の一次粒子の平均粒子径(r1))が1.30~2.31を満たす、油性インクジェットインクである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、印刷物の画像性が良好であり、間欠吐出性に優れる油性インクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0011】
一実施形態による油性インクジェットインク(以下、単に油性インク又はインクと称することがある。)としては、顔料と、分散剤と、非水系溶剤とを含み、顔料は、一次粒子の平均粒子径(r1)が30nm以下である第1の顔料と、一次粒子の平均粒子径(r2)が30nm以下である第2の顔料とを含み、(第2の顔料の一次粒子の平均粒子径(r2))/(第1の顔料の一次粒子の平均粒子径(r1))が1.30~2.31を満たすことを特徴とする。これよれば、印刷物の画像性が良好であり、間欠吐出性に優れる油性インクジェットインクを提供することができる。
【0012】
一般に、粒子径の異なる二種類の粒子を混合した場合、ヘテロ凝集効果により粒子複合体を形成することが知られている。本発明は、この作用を利用し、一次粒子径の異なる顔料間で複合体を形成することで、油性インクにおいて分散粒子径が増大し、油性インクが基材に着弾する際に、基材内部への顔料複合体の浸透を抑制することを見出したものである。これにより、裏抜けを低減可能となり、シャープなドット形成が可能となる。このような作用によって、良好な画像性の印刷物を提供することができる。
【0013】
別の形態では、油性インクにおいて、粒子径の異なる二種類の顔料が顔料複合体を形成せずに、少なくとも部分的に二種類の顔料がそれぞれ分散していてもよい。例えば、第1の顔料を含む顔料分散体と第2の顔料を含む第2の顔料分散体とを別々に用意しておき、その後に混合することで、油性インクにおいて、少なくとも部分的に二種類の顔料がそれぞれ分散している状態にすることができる。この状態では、油性インクが基材に着弾後、浸透に伴う溶剤離脱の際に一次粒子径の異なる2種類の顔料が基材表面で凝集を開始し、油性インクが高粘度化することによって顔料の基材内部への浸透及び拡散を抑制することができる。これにより、裏抜けを低減可能となり、シャープなドット形成が可能となる。このような作用によって、良好な画像性の印刷物を提供することができる。さらに、油性インクにおいて2種類の顔料が顔料複合体を形成する場合と比較して、油性インクを低粘度化することができ、インクジェットインクの吐出性をより改善することができる。
【0014】
油性インクにおいて、顔料は、第1の顔料と第2の顔料とを含む。第1の顔料は、一次粒子の平均粒子径(r1)が30nm以下である。第2の顔料は、一次粒子の平均粒子径(r2)が30nm以下である。そして、(第2の顔料の一次粒子の平均粒子径(r2))/(第1の顔料の一次粒子の平均粒子径(r1))が1.30~2.31を満たすことが好ましい。以下の説明において、(第2の顔料の一次粒子の平均粒子径(r2))/(第1の顔料の一次粒子の平均粒子径(r1))を単に一次粒子径比(r2/r1)とも記す。
【0015】
一次粒子径比(r2/r1)が1.30以上であることで、印刷物の画像性、特に細字の精鋭さをより高めることができる。一次粒子径比(r2/r1)が2.31以下であることで、インクジェットインクの間欠吐出性を良好に保つことができる。
【0016】
第1の顔料及び第2の顔料は、それぞれ、一次粒子の平均粒子径が30nm以下であって、一次粒子径比(r2/r1)が所定範囲内であればよいが、第1の顔料及び第2の顔料の一次粒子の平均粒子径は以下の通りであってよい。
【0017】
第1の顔料の一次粒子の平均粒子径は、30nm以下が好ましく、20nm未満がより好ましく、15nm以下がさらに好ましい。これらの範囲では、インクジェットインクの発色性をより高めることができる。特に限定されないが、第1の顔料の一次粒子の平均粒子径は、10nm以上、又は13nm以上であってよい。
【0018】
第2の顔料の一次粒子の平均粒子径は、30nm以下が好ましい。これらの範囲では、インクジェットインクの間欠吐出性を良好に保つことができる。特に限定されないが、第2の顔料の一次粒子の平均粒子径は、13nm以上であってよく、20nm以上が好ましい。
【0019】
例えば、第1の顔料の一次粒子の平均粒子径は13nm以上20nm未満であり、かつ第2の顔料の一次粒子の平均粒子径は20nm以上30nm以下であることが好ましい。
【0020】
本開示において、顔料の一次粒子の平均粒子径は、顔料粒子を電子顕微鏡で観察した算術平均径として求める。
【0021】
第1の顔料及び第2の顔料は、それぞれ、一次粒子の平均粒子径が30nm以下であって、一次粒子径比(r2/r1)が所定範囲内であれば、顔料の種類は特に限定されないが、カーボンブラックであることが好ましい。カーボンブラックである場合、カーボンブラックの一次粒子の平均粒子径は、ドメインの平均粒子径となる。
【0022】
第1の顔料及び第2の顔料の合計の含有量は、印刷濃度とインク粘度の観点から、インク全量に対して0.1~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることがさらに好ましい。
【0023】
第1の顔料と第2の顔料との質量比は、3:7~5:5であることが好ましい。例えば、第1の顔料及び第2の顔料が両方ともカーボンブラックである場合は、第1の顔料と第2の顔料との質量比は、3:7~5:5であることが特に好ましい。
【0024】
好ましい形態の一つとしては、第1の顔料が、一次粒子の平均粒子径が13nm以上20nm未満であるカーボンブラックであり、第2の顔料が、一次粒子の平均粒子径が20nm以上30nm以下であるカーボンブラックであり、第1の顔料と第2の顔料との質量比が3:7~5:5である。このような油性インクは、印刷物の発色性がより良好であり、インクジェットインクの間欠吐出性が良好である。
【0025】
油性インク中で顔料を安定して分散させるために、顔料とともに分散剤を用いることができる。分散剤としては、顔料を非水系溶剤に安定して分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、ビニルピロリドンと長鎖アルケンとの共重合体、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリエステルポリアミン等が好ましく用いられる。
【0026】
分散剤の市販品の例としては、アシュランド・ジャパン株式会社製「アンタロンV216(ビニルピロリドン・ヘキサデセン共重合体)、V220(ビニルピロリドン・エイコセン共重合体)」(いずれも商品名)、日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース13940(ポリエステルアミン系)、16000、17000、18000(脂肪酸アミン系)、11200、24000、28000」(いずれも商品名)、BASFジャパン株式会社製「エフカ400、401、402、403、450、451、453(変性ポリアクリレート)、46、47、48、49、4010、4055(変性ポリウレタン)」(いずれも商品名)、楠本化成株式会社製「ディスパロンKS-860、KS-873N(ポリエステルのアミン塩)」(いずれも商品名)、第一工業製薬株式会社製「ディスコール202、206、OA-202、OA-600(多鎖型高分子非イオン系)」(いずれも商品名)、ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK2155、BYK9077」(いずれも商品名)、クローダジャパン株式会社製「HypermerKD2、KD3、KD11、KD12」(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0027】
分散剤は、顔料1に対し0.2~1.0の質量比で含まれていることが好ましい。分散剤のインク総量における含有量としては、0.5~15質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0028】
油性インクは、任意成分として水溶性樹脂を含んでもよい。水溶性樹脂としては、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン等の塩基性高分子電解質又はこれらの誘導体等を挙げることができる。水溶性樹脂として特開2014-15491号公報に記載のものを用いてもよい。水溶性樹脂の含有量は、顔料に対する質量比で0.01~0.5であることが好ましく、0.05~0.3であることがより好ましい。
【0029】
油性インクは非水系溶剤を含むことができる。非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤の何れも使用できる。これらは、単独で使用してもよく、組み合わせて使用することもできる。なお、本発明において、非水系溶剤としては、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合しない非水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0030】
非極性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤及び脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系等の非水系溶剤を挙げることができ、市販品としては、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、カクタスノルマルパラフィンN-10、カクタスノルマルパラフィンN-11、カクタスノルマルパラフィンN-12D、カクタスノルマルパラフィンN-13、カクタスノルマルパラフィンN-14、カクタスノルマルパラフィンYHNP、カクタスノルマルパラフィンSHNP、アイソゾール300、アイソゾール400、テクリーンN16、テクリーンN20、テクリーンN22、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号、ナフテゾール160、ナフテゾール200、ナフテゾール220(いずれもENEOS株式会社製の商品名);アイソパーG、アイソパーH BHT、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD110、エクソールD130(いずれもエクソンモービル社製の商品名);モレスコホワイトP-60、モレスコホワイトP-70、モレスコホワイトP-80、モレスコホワイトP-100、モレスコホワイトP-120、モレスコホワイトP-150、モレスコホワイトP-200、モレスコホワイトP-260、モレスコホワイトP-350P(いずれも株式会社MORESCO製の商品名)等を好ましく挙げることができる。芳香族炭化水素溶剤としては、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200、ソルベッソ200ND(いずれもエクソンモービル社製の商品名)等を好ましく挙げることができる。石油系炭化水素溶剤の蒸留初留点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがいっそう好ましい。蒸留初留点はJIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定することができる。
【0031】
極性有機溶剤としては、脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。例えば、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソブチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2-オクチルデシル、大豆油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸イソブチルエステル、トール油脂肪酸メチルエステル、トール油脂肪酸イソブチルエステル等の1分子中の炭素数が13以上、好ましくは16~30の脂肪酸エステル系溶剤;イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、イソエイコシルアルコール、デシルテトラデカノール等の1分子中の炭素数が6以上、好ましくは12~20の高級アルコール系溶剤;ラウリン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、α-リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の1分子中の炭素数が12以上、好ましくは14~20の高級脂肪酸系溶剤等が挙げられる。脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等の極性有機溶剤の沸点は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。なお、沸点が250℃以上の非水系溶剤には、沸点を示さない非水系溶剤も含まれる。
【0032】
これらの非水系溶剤は、単独で使用してもよく、単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、使用する非水系溶剤と単一相を形成できる範囲で他の有機溶剤を含ませてもよい。
【0033】
上記各成分に加えて、油性インクには、本発明の効果を損なわない限り、各種添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、ノズルの目詰まり防止剤、酸化防止剤、導電率調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤等を適宜添加することができる。また、発色性の観点から顔料に加えて染料をさらに添加してもよい。これらの種類は、特に限定されることはなく、当該分野で使用されているものを用いることができる。
【0034】
油性インクジェットインクとしての粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5~30mPa・sであることが好ましく、5~15mPa・sであることがより好ましい。本開示において、インク粘度は、回転式粘度計を用いて23℃において測定した数値である。粘度測定装置には、例えば、株式会社アントンパール・ジャパン製「レオメーターMCR302」を用いることができる。
【0035】
インクジェットインクを用いた印刷方法としては、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよい。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから一実施形態によるインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を基材に着弾させるようにすることが好ましい。
【0036】
油性インクの製造方法は特に限定されないが、一方法としては、各成分を一括ないし分割して混合及び撹拌してインクを作製することができる。具体的には、ビーズミル等の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことにより作製することができる。
【0037】
一つの例としては、第1の顔料を含む第1のインクと、第2の顔料を含む第2のインクとを別々に用意しておき、第1のインクと第2のインクとを混合することで、油性インクを得ることができる。この方法によれば、第1のインク及び第2のインクにおいてそれぞれ顔料の分散性を十分に得ることで、油性インクの間欠吐出性と吐出性をより改善することができる。他の例としては、第1の顔料と第2の顔料とを他の成分とともに混合して油性インクを一度に得ることができる。
【0038】
一実施形態において、基材は、特に限定されるものではなく、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙、布、無機質シート、フィルム、OHPシート等、これらを基材として裏面に粘着層を設けた粘着シート等を用いることができる。これらの中でも、インクの浸透性の観点から、浸透性基材が好ましく、なかでも普通紙、コート紙等の印刷用紙を好ましく用いることができる。
【0039】
ここで、普通紙とは、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。普通紙は、数μm~数十μmの太さの紙繊維が数十から数百μmの空隙を形成しているため、インクが浸透しやすい紙となっている。
【0040】
また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【実施例0041】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0042】
「油溶性ポリマーの合成」
300ml四つ口フラスコに、パルミチン酸イソオクチル(日光ケミカルズ株式会社)87.5gを仕込み、窒素ガスを通気し撹拌しながら、110℃まで加熱した。次に、ステアリルメタクリレート(新中村化学工業株式会社)40.0g、2-エチルヘキシルメタクリレート(三菱ケミカル株式会社)30.0g、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート(株式会社ダイセル)30.0gのモノマー混合物(計100.0g)にパルミチン酸イソオクチルを16.7g、パーヘキシルO(t-ヘキシルパーオキシ2-エチルヘキサノエート(日油株式会社))を4g混合し、3時間かけて滴下した。110℃で1時間撹拌した後、パーブチルOを0.2g添加し、さらに1時間撹拌し、固形分50質量%の油溶性ポリマー含有液を得た。
【0043】
「インク1~14の作製」
表1にインク処方を示す。表1に示す配合量にしたがって各成分を混合し、ビーズミル「ダイノーミルKDL-A」(株式会社シンマルエンタープライゼス製)により滞留時間15分間の条件で、十分に顔料を分散した。続いて、メンブレンフィルターで粗大粒子を除去し、インクを得た。
【0044】
「実施例1~7、10、11、比較例7~10のインク作製」
表2及び表3に実施例のインクの処方を示す。表2及び表3に示す配合量にしたがって各成分を混合した。続いて、メンブレンフィルターで粗大粒子を除去しインクを得た。
実施例1~7、10、11、比較例7~10では、表1に示すインク1~14の中から2種のインクを組み合わせてインクを作製した。
実施例8、9、12、比較例1~6では、表1に示すインク1~14の中から1種のインクを用いてインクを作製した。
【0045】
用いた成分は以下の通りである。
(顔料)
#2650:カーボンブラック、一次粒子径13nm、三菱ケミカル株式会社。
#1000:カーボンブラック、一次粒子径18nm、三菱ケミカル株式会社。
NEROX505:カーボンブラック、一次粒子径24nm、エボニック社。
NEROX305:カーボンブラック、一次粒子径28nm、エボニック社。
Raven1060 ULTRA:カーボンブラック、一次粒子径30nm、Birla Carbon Japan株式会社。
REGAL 99R:カーボンブラック、一次粒子径38nm、キャボット社。
REGAL350R:カーボンブラック、一次粒子径48nm、キャボット社。
【0046】
(分散剤)ソルスパース13940(商品名):日本フーブリゾール株式会社、固形分40%。
(分散剤)油溶性ポリマー(固形分50%)アクリルポリマー:上記合成したもの。
(水溶性樹脂)ポリエチレンイミン:SP-018(商品名)、株式会社日本触媒。
(溶剤)イソノナン酸2-エチルヘキシル:高級アルコール工業株式会社。
(溶剤)エクソールD110(商品名):エクソンモービル社、石油系炭化水素溶剤。
【0047】
「評価」
得られたインクについて、以下の方法により評価を行った。これらの評価結果を表中に併せて示す。
【0048】
(画像性:発色と裏抜け)
各実施例及び各比較例のインクを、ライン式インクジェットプリンタ「オルフィスGD9630」(理想科学工業株式会社製)に装填し、普通紙「理想用紙マルチ」(理想科学工業株式会社製)にベタチャート(600×600dpi、8pl/dot)を印刷して、印刷物を得た。得られた印刷物を室温一日放置後、印刷物の印刷面(表面)及び非印刷面(裏面)の印刷濃度をXrite exact(ビデオジェット・エックスライト社製)により表OD値及び裏ΔOD値を測定した。測定結果から、発色性及び裏抜けを下記の基準で評価した。
【0049】
[発色性]
S:表OD値が1.10以上。
A:表OD値が1.05以上、1.10 未満。
B:表OD値が1.00以上、1.05未満。
C:表OD値が1.00未満。
【0050】
[裏抜け]
S:ΔOD値が0.10未満。
A:ΔOD値が0.10以上、0.12未満。
B:ΔOD値が0.12以上、0.15未満。
C:ΔOD値が0.15以上。
【0051】
(画像性:細字の鮮鋭さ)
各実施例及び各比較例のインクを、ライン式インクジェットプリンタ「オルフィスGD9630」(理想科学工業株式会社製)に装填し、普通紙「理想用紙マルチ」(理想科学工業株式会社製)に6ポイントの文字チャートを印刷して、印刷物を得た。得られた印刷物を室温一日放置後、文字の鮮鋭さを目視で観察し、下記の基準で評価した。
【0052】
S:文字がシャープに見え判読が容易。
A:文字の判読が可能。
B:文字に滲みがあるが判読が可能。
C:文字がぼやけて判読が困難。
【0053】
(吐出性)
各実施例及び各比較例のインクを、ライン式インクジェットプリンタ「オルフィスGD9630」(理想科学工業株式会社製)に装填し、普通紙「理想用紙マルチ」(理想科学工業株式会社製)にベタ画像を100枚連続して片面印刷し、印刷物を得た。インクジェットノズルからのインクの不吐出は、印刷物に白いスジとなって非印字部分が発生することで確認することができる。100枚の印刷物の中に発生する白いスジの本数を目視で観察し、下記の基準で評価した。
【0054】
S:不吐出による白抜けが0本。
A:不吐出による白抜けが1~5本。
B:不吐出による白抜けが5本以上。
【0055】
(間欠吐出性)
各実施例及び各比較例のインクを、ライン式インクジェットプリンタ「オルフィスGD9630」(理想科学工業株式会社製)に装填し、室温一日放置後、ベタ画像を連続して印刷した。印刷画像を目視により観察し、下記の基準で評価した。
【0056】
S:1枚目の印刷から正常なベタ画像が得られる。
A:1枚目の印刷ではベタ画像に画像ムラや不吐出が見られるが、4回以内の印刷動作で正常なベタ画像が得られる。
B:正常なベタ画像を得るのに、5回以上の印刷動作を要する。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
表中に示す通り、各実施例のインクでは、印刷物の画像性が良好であり、インクジェットインクの間欠吐出性も良好であり、さらにインクジェットインクの吐出性も良好であった。