(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093911
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】軟磁性金属粉末、圧粉磁心および電子部品
(51)【国際特許分類】
H01F 1/20 20060101AFI20240702BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20240702BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01F1/20
H01F1/24
H01F27/255
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210560
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森 智子
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
(72)【発明者】
【氏名】松元 裕之
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA01
5E041AA02
5E041AA03
5E041AA04
5E041AA05
5E041AA07
5E041AA11
5E041BC01
5E041BC08
5E041CA02
5E041NN05
(57)【要約】
【課題】良好な軟磁気特性を保ちながら粉体抵抗の高い軟磁性金属粉末を提供すること、ならびに良好な軟磁気特性を保ちながら直流重畳特性に優れた圧粉磁心および電子部品を提供すること。
【解決手段】Feを含む軟磁性金属粒子を有する軟磁性金属粉末である。軟磁性金属粒子の表面は被覆部により覆われており、被覆部は、軟磁性金属粒子の表面から外側に向かって、少なくとも第1の被覆部と、第2の被覆部と、第3の被覆部とをこの順で有する。第1の被覆部におけるFeの濃度をFe1、前記第2の被覆部におけるFeの濃度をFe2、前記第3の被覆部におけるFeの濃度をFe3とした場合に、Fe1>Fe2およびFe3>Fe2の関係を満足する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを含む軟磁性金属粒子を有する軟磁性金属粉末であって、
前記軟磁性金属粒子の表面は被覆部により覆われており、
前記被覆部は、前記軟磁性金属粒子の表面から外側に向かって、少なくとも第1の被覆部と、第2の被覆部と、第3の被覆部とをこの順で有し、
前記第1の被覆部におけるFeの濃度をFe1、前記第2の被覆部におけるFeの濃度をFe2、前記第3の被覆部におけるFeの濃度をFe3とした場合に、
Fe1>Fe2およびFe3>Fe2
の関係を満足する軟磁性金属粉末。
【請求項2】
1.1≦Fe1/Fe2≦34.0 かつ 1.1≦Fe3/Fe2≦41.0の関係をさらに満足する請求項1に記載の軟磁性金属粉末。
【請求項3】
1.2≦Fe1/Fe2≦32.0 かつ 1.2≦Fe3/Fe2≦35.0の関係をさらに満足する請求項2に記載の軟磁性金属粉末。
【請求項4】
前記第2の被覆部では、Siの濃度がFeの濃度よりも高く、前記第1の被覆部では、Siの濃度がFeの濃度よりも低い請求項1に記載の軟磁性金属粉末。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の軟磁性金属粉末を有する圧粉磁心。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の軟磁性金属粉末を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性金属粉末、圧粉磁心および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子・情報・通信機器などにおいて、低消費電力化および高効率化が求められている。さらに、低炭素化社会へ向け、上記の要求が一層強くなっている。そのため、電子・情報・通信機器などの電源回路にも、エネルギー損失の低減や電源効率の向上が求められており、磁性素子においてはより一層の小型化が求められている。そして、電源回路に使用される磁性素子の磁心にはコアロス(磁心損失)の低減や小型化に対応すべく飽和磁束密度の向上などが求められている。
【0003】
たとえば下記の特許文献1には、Fe-B-M(M=Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W)系の軟磁性合金が記載されている。この軟磁性合金は、市販のFe非晶質合金と比べて高い飽和磁束密度を有するなど、良好な軟磁気特性を有する。
【0004】
また、下記の特許文献2では、金属磁性粒子表面にシリコンと酸素を含む絶縁層を形成し、その上にリンを含む絶縁層を有する金属粒子が記載されており、金属粒子間の絶縁性を向上させている。
【0005】
しかし、現在では、車等における自動運転等の発展で磁性素子において一層の耐電圧特性が求められており、磁性素子に使用される磁性粉末においても良好な軟磁気特性を有しつつ、さらに粉体抵抗が高い軟磁性粉末が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3342767号公報
【特許文献2】特開2017-34228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、良好な軟磁気特性を保ちながら粉体抵抗の高い軟磁性金属粉末を提供すること、ならびに磁性素子の小型化に対応するべく良好な軟磁気特性を保ちながら直流重畳特性に優れた圧粉磁心および電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る軟磁性金属粉末は、
Feを含む軟磁性金属粒子を有する軟磁性金属粉末であって、
前記軟磁性金属粒子の表面は被覆部により覆われており、
前記被覆部は、前記軟磁性金属粒子の表面から外側に向かって、少なくとも第1の被覆部と、第2の被覆部と、第3の被覆部とをこの順で有し、
前記第1の被覆部におけるFeの濃度をFe1、前記第2の被覆部におけるFeの濃度をFe2、前記第3の被覆部におけるFeの濃度をFe3とした場合に、
Fe1>Fe2およびFe3>Fe2の関係を満足する。
【0009】
この軟磁性金属粉末では、Fe1>Fe2およびFe3>Fe2とすることで、粉体抵抗を向上させることができると共に、軟磁性金属粉末を用いて得られる圧粉磁心および電子部品の直流重畳特性が向上する。さらに、透磁率などの磁気特性にも優れている。直流重畳特性が向上する理由としては、必ずしも明らかではないが、たとえば軟磁性金属粉末に圧力を加えて成形する際に粉末に圧力が印加されても被覆部が軟磁性金属粒子を有効に保護することができるからではないかと考えられる。また、この軟磁性金属粉末では被覆部の密着性が向上していると考えられ、被覆部の破損が低減され、直流重畳特性や耐電圧特性に優れた圧粉磁心および電子部品を提供することができる。
【0010】
好ましくは1.1≦Fe1/Fe2≦34.0 かつ 1.1≦Fe3/Fe2≦41.0の関係をさらに満足する。このような範囲にあるときに、軟磁性粉末の粉体抵抗がさらに向上する。
【0011】
好ましくは、1.2≦Fe1/Fe2≦32.0 かつ 1.2≦Fe3/Fe2≦35.0の関係をさらに満足する。このような範囲にあるときに、軟磁性粉末の粉体抵抗がさらに向上する。
【0012】
好ましくは、1.7≦Fe1/Fe2≦20.0 かつ 1.3≦Fe3/Fe2≦20.0の関係をさらに満足する。このような範囲にあるときに、軟磁性粉末の粉体抵抗がさらに向上する。
【0013】
好ましくは、前記第2の被覆部では、Feの濃度がSiの濃度よりも低く、前記第1の被覆部では、Feの濃度がSiの濃度よりも高い。
【0014】
第1の被覆部、第2の被覆部および第3の被覆部を有する被覆部の平均厚みは、特に限定されないが、好ましくは5~250nm程度に薄く、均一な厚みの膜であることが好ましい。被覆部の厚みにおいては薄い場合は圧粉磁心の透磁率が上がりやすく、また厚い場合は耐電圧特性が向上する。これら被覆部の厚みは磁性素子の設計により制御が可能である。本発明の一観点に係る軟磁性金属粉末では、従来と比較して、被覆部の厚みが同じ場合、粉末抵抗が高く制御できる。
【0015】
好ましくは、圧粉磁心は、上記のいずれかに記載の軟磁性金属粉末を有する。
【0016】
上記のいずれかに記載の軟磁性金属粉末を用いて圧粉磁心を作製した場合、同じ被覆部厚みを有する従来の軟磁性粉末と比較して直流重畳特性を良好にすることが可能である。
【0017】
好ましくは、電子部品は、上記のいずれかに記載の軟磁性金属粉末を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】
図1Aは、本発明の一実施形態に係る軟磁性金属粒子の断面模式図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の別の実施形態に係る変形例を示す断面模式図である。
【
図1C】
図1Cは、本発明のさらに別の実施形態に係る変形例を示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すII部分を拡大して撮影したHAADF-STEM像である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の一実施形態に係る圧粉磁心の断面模式図である。
【
図4A】
図4Aは、
図2に示すIVA-IVA線に沿ってEELS分析を行った結果を示し、粒子中心部からの距離に対する元素濃度プロファイルを示すグラフである。
【
図4B】
図4Bは、本発明の他の実施例に係る軟磁性金属粉末について、
図4Aと同様にして粒子中心部からの距離に対する元素濃度プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0020】
第1実施形態
(軟磁性金属粉末)
本実施形態に係る軟磁性金属粉末は、
図1Aに示すように、複数の被覆粒子1を含む。本実施形態では、被覆粒子1は、軟磁性金属粒子2の表面に被覆部10を持つ被覆粒子であり、軟磁性金属粉末に含まれる粒子の個数割合を100%とした場合、被覆粒子1の個数割合が80%以上であることが好ましく、50%以上であることが好ましい。なお、軟磁性金属粒子2の形状は特に制限されないが、好ましくは球形である。
【0021】
本実施形態に係る軟磁性金属粉末の平均粒子径(D50)は、用途および材質に応じて選択すればよい。本実施形態では、軟磁性金属粉末の平均粒子径(D50)は、0.3~100μmの範囲内であることが好ましい。軟磁性金属粉末の平均粒子径を上記の範囲内とすることにより、十分な成形性あるいは所定の磁気特性を維持することが容易となる。平均粒子径の測定方法としては、特に制限されないが、レーザー回折散乱法を用いることが好ましい。
【0022】
本実施形態では、軟磁性金属粒子の材質は、Feを含み軟磁性を示す材料であれば特に制限されない。Feを含み軟磁性を示す材料としては、純鉄、Fe系合金、Fe-Si系合金、Fe-Al系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Co系合金、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si-Cr系合金、Fe-Ni-Si-Co系合金、Fe系非晶質合金、Fe-Co系非晶質合金、Fe系ナノ結晶合金、Fe-Co系非晶質合金、などが例示される。軟磁性金属粒子がSiを含む場合には、粒子中には、Siが好ましくは0.5原子%以上、20原子%以下である。
【0023】
Fe系非晶質合金は、合金を構成する原子の配列がランダムであり、合金全体として結晶性を有していない非晶質合金である。Fe系非晶質合金としては、たとえば、Fe-Si-B系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe―Co-Si-B-Cr-C系等が例示される。
【0024】
Fe系ナノ結晶合金は、Fe系非晶質合金、または、初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有するFe系合金を熱処理することにより、非晶質中にナノメートルオーダーの微結晶が析出した合金である。
【0025】
本実施形態では、Fe系ナノ結晶合金から構成される軟磁性金属粒子における平均結晶子径は、1nm以上50nm以下であることが好ましく、5nm以上30nm以下であることがより好ましい。Fe系ナノ結晶合金としては、たとえば、Fe-Nb-B系、Fe-Co-Nb-B系、Fe-Si-Nb-B-Cu系、Fe-Co-Si-Nb-B-Cu系、Fe-Si-P-B-Cu系、Fe-Co-Si-P-B系等が例示される。
【0026】
また、本実施形態では、軟磁性金属粉末は、材質が同じ軟磁性金属粒子のみを含んでいてもよいし、材質が異なる軟磁性金属粒子が混在していてもよい。たとえば、軟磁性金属粉末は、複数のFe系合金粒子と、複数のFe-Si系合金粒子との混合物であってもよい。なお、異なる材質とは、金属または合金を構成する元素が異なる場合、構成する元素が同じであってもその組成が異なる場合、結晶系が異なる場合等が例示される。
【0027】
図1Aに示すように、本実施形態の被覆部10は、軟磁性金属粒子2の表面から外側に向かって、第1の被覆部11と、第2の被覆部12と、第3の被覆部13とを、この順で有する。第1の被覆部11は、軟磁性金属粒子2の表面を覆っており、第2の被覆部12は、第1の被覆部11の表面を覆っており、第3の被覆部13は、第2の被覆部12の表面を覆っている。
【0028】
本実施形態では、被覆部が表面を覆っているとは、被覆部が表面に接触して接触した部分を覆うように固定されている形態をいうが、被覆部が表面に形成される方法は特に限定されない。また、軟磁性金属粒子2または被覆部の表面を被覆する被覆部は、粒子の表面の少なくとも一部を覆っていればよいが、表面の全体を覆っていることが好ましい。さらに、被覆部は粒子の表面を連続的に覆っていてもよいし、断続的に覆っていてもよい。
【0029】
第1の被覆部11は、好ましくは、酸化物で構成してある。本実施形態では、第1の被覆部11は、Feの酸化物を含んでいる。鉄酸化物は、FeO、Fe2 O3 、Fe3 O4 などの結晶として存在してもよいし、その他の元素との複合酸化物の結晶または非晶質として存在していてもよい。
【0030】
本実施形態では、Feは、酸素を除いた元素の合計量100原子%に対して、好ましくは55原子%以上、さらに好ましくは65原子%以上、さらに好ましくは68原子%以上、さらに好ましくは75原子%以上で、第1の被覆部11に含まれる。第1の被覆部11には、FeおよびO以外の元素として、たとえば軟磁性粉末を構成する元素を含んでいてもよく、Si、Cu、Cr、B、Al、Ni、Co、またはPなどのいずれか一つ以上で、その他の元素が含まれていてもよい。その他の元素は、Feとの複合酸化物の形態で、第1の被覆部11に含まれていてもよいし、鉄酸化物とは別の酸化物あるいはその他の化合物として第1の被覆部11に含まれていてもよい。
【0031】
第2の被覆部12は、第1の被覆部11に連続して形成してある。本実施形態では、第2の被覆部はSiの酸化物を含んでいる。Siの酸化物は、SiO2の非晶質として存在していてもよいし、その他の元素との複合酸化物の結晶または非晶質として存在していてもよい。
【0032】
また第1の被覆部におけるFeの濃度(原子%)をFe1、第2の被覆部におけるFeの濃度(原子%)をFe2とした場合に、Fe1>Fe2の関係を満足するように、第1の被覆部11および第2の被覆部12が構成してある。好ましくは、1.1≦Fe1/Fe2≦34.0、さらに好ましくは1.2≦Fe1/Fe2≦32.0、さらに好ましくは1.7≦Fe1/Fe2≦20.0の関係を満足する。このような範囲にあるときに、軟磁性粉末の粉体抵抗がさらに向上する。
【0033】
また好ましくは、2.0≦Fe2≦65.0、さらに好ましくは4.0≦Fe2≦50.0、さらに好ましくは5.0≦Fe2≦30、さらに好ましくは9.0≦Fe2≦18.0の関係をさらに満足する。このような範囲にあるときに、軟磁性粉末の粉体抵抗がさらに向上する。なお、第2の被覆部12においても、第1の被覆部11と同様に、その他の元素が含まれていてもよい。
【0034】
第3の被覆部13は、第2の被覆部12に連続して形成してあり、しかも第2の被覆部とは異なる組成比であることが好ましい。たとえば第2の被覆部12が主として、Fe含有量が小さく、第3の被覆部13は、第2の被覆部よりもFeの含有割合が多い酸化物で構成してあることが好ましい。
【0035】
たとえば第2の被覆部におけるFeの濃度(原子%)をFe2、第3の被覆部におけるFeの濃度(原子%)をFe3とした場合に、Fe3>Fe2の関係を満足するように、第2の被覆部12および第3の被覆部13が構成してある。好ましくは、1.1≦Fe3/Fe2≦41.0、さらに好ましくは1.2≦Fe3/Fe2≦35.0、さらに好ましくは1.3≦Fe3/Fe2≦20.0の関係をさらに満足する。このような範囲にあるときに、軟磁性粉末の粉体抵抗がさらに向上する。
【0036】
また好ましくは35.0≦Fe3≦95.0、さらに好ましくは37.0≦Fe3≦93.0、さらに好ましくは40≦Fe3≦92.0、さらに好ましくは55.0≦Fe3≦70.0の関係をさらに満足する。このような範囲にあるときに、軟磁性粉末の粉体抵抗がさらに向上する。なお、第3の被覆部13においても、第1の被覆部11と同様に、その他の元素が含まれていてもよい。
【0037】
第1の被覆部、第2の被覆部および第3の被覆部に含まれる成分は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)を用いたエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDS)による元素分析、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy:EELS)による元素分析から同定することができる。
【0038】
また、軟磁性金属粒子2と第1の被覆部11との境界、第1の被覆部11と第2の被覆部12との境界、および第2の被覆部12と第3の被覆部13との境界は、たとえば
図2に示すように、HAADF-STEM(High-Angle Annular Dark Field Scanning TEM)像による明度の差異により判断することができる。なお、第1の被覆部11に関しては、TEM試料の厚み方向の重なりの影響で金属層の鉄と第2の被覆部12の酸素が重なって見えている可能性も考えられるため、EELSスペクトルも確認し、FeのLエッジ形状が酸化物と同様になっているかでFeの酸化物が存在するかを確認することが好ましい。
【0039】
第1の被覆部11、第2の被覆部12および第3の被覆部13を有する被覆部10の平均厚みは、特に限定されないが、好ましくは5~250nm、さらに好ましくは6~125nm、さらに好ましくは10nm~110nm程度に薄く、均一な厚みの膜であることが好ましい。本実施形態に係る軟磁性金属粉末では、被覆部10の厚みが仮に50nm以下、40nm以下、30nm以下であっても、10の5乗以上、10の6乗以上、10の7乗以上あるいは10の8乗以上の抵抗率(Ω・cm)を有する軟磁性金属粉末を得ることができる。
【0040】
なお、第1の被覆部11の厚みは、特に制限されないが、本実施形態では、好ましくは0.8nm以上、さらに好ましくは1.1nm以上である。第2の被覆部12の厚みは、特に制限されないが、本実施形態では、好ましくは1nm以上、さらに好ましくは1.7nm以上、さらに好ましくは2.4nm以上である。第3の被覆部13の厚みは、特に制限されないが、本実施形態では、好ましくは1nm以上、さらに好ましくは1.5nm以上である。
【0041】
(軟磁性金属粉末の製造方法)
本実施形態では、被覆部が形成される前の軟磁性金属粉末は、公知の軟磁性金属粉末の製造方法と同様の方法を用いて得ることができる。具体的には、カルボニル法、噴霧熱分解法、CVD法、PVD法、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転ディスク法等を用いて製造することができる。また、単ロール法により得られる薄帯を機械的に粉砕して製造してもよい。また目的の粒子径にするため、気流分級や湿式分級、乾式分級などを用いてもよい。
【0042】
次に、軟磁性金属粒子に対して被覆部を形成する。被覆部を形成する方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。軟磁性金属粒子に対して湿式処理を行って被覆部を形成してもよいし、乾式処理を行って被覆部を形成してもよい。
【0043】
粒子を構成する金属軟磁性材料がFe系磁性材料の場合には、粒子の表面酸化により第1の被覆部11を形成できる。第1の被覆部11の形成は、弱い酸化雰囲気中で熱処理(第1の熱処理)することで行われる。熱処理条件は特に限定はされないが、たとえば低酸素濃度の雰囲気下、約300~800°Cで行うことができる。熱処理雰囲気を調整することで、第1の被覆部11の厚みを制御できる。なお、Feを含有する溶液を金属磁性材料に噴霧し熱処理することでも、第1の被覆部11を形成できる。
【0044】
第2の被覆部12は、粉末スパッタ法、ゾルゲル法、メカノケミカルを利用したコーティング方法等により形成することができる。ゾルゲル法では、酸または塩基触媒条件下にて、たとえばTEOSなどのアルコキシシランを加水分解して、さらに縮合重合させることにより、軟磁性金属粒子の表面にSiリッチな第2の被覆部を形成させることができる。第2の被覆部12の厚みは、アルコキシシランの量などにより調整することができる。
【0045】
第3の被覆部13は、酸化雰囲気中での熱処理、あるいは第2の被覆部12と同様に粉末スパッタ法等により形成することができる。酸化雰囲気中での熱処理では、第2の被覆部12が形成された軟磁性金属粒子を酸化雰囲気中で所定の温度で熱処理(第2の熱処理)を行うことにより、軟磁性金属粒子を構成するFeが第2の被覆部12を通り抜けて第2の被覆部12の表面まで拡散し、表面で雰囲気中の酸素と結合して、Feの酸化物が形成される。このようにすることにより、第3の被覆部13を形成することができる。軟磁性金属粒子を構成する他の金属元素が拡散しやすい元素である場合には、当該金属元素の酸化物も第3の被覆部13に含まれる。第3の被覆部13の厚みは、熱処理時間等により調整することができる。
【0046】
(実施形態のまとめ)
本実施形態の軟磁性金属粉末では、Fe1>Fe2およびFe3>Fe2とすることで、粉体抵抗を向上させることができると共に、軟磁性金属粉末を用いて得られる圧粉磁心および電子部品の直流重畳特性が向上する。さらに、透磁率などの磁気特性にも優れている。直流重畳特性が向上する理由としては、必ずしも明らかではないが、たとえば軟磁性金属粉末に圧力を加えて成形する際に粉末に圧力が印加されても被覆部10が軟磁性金属粒子2を有効に保護することができるからではないかと考えられる。また、この軟磁性金属粉末では被覆部10の密着性が向上していると考えられ、被覆部10の破損が低減され、直流重畳特性や耐電圧特性に優れた圧粉磁心および電子部品を提供することができる。
【0047】
本実施形態に係る軟磁性金属粉末では、被覆部の厚みは、特に限定されないが、好ましくは5~250nm、さらに好ましくは6~125nm、さらに好ましくは10nm~110nm程度に薄い膜である。被覆部10の厚みが仮に50nm以下であっても、10の5乗以上、10の6乗以上、10の7乗以上あるいは10の8乗以上の抵抗率(Ω・cm)を有する軟磁性金属粉末を得ることができる。
【0048】
第2実施形態
被覆部10は、軟磁性金属粒子2の表面から外側に向かって、第1の被覆部11、第2の被覆部12、第3の被覆部13の順で構成されていれば、第1の被覆部11、第2の被覆部12、第3の被覆部13以外の被覆部を有していてもよい。
【0049】
たとえば、
図1Bに示すように、軟磁性金属粒子2と第1の被覆部11との間に第4の被覆部14を有していてもよい。第4の被覆部14は、Feを実質的に含まなくてもよく、あるいは、第1の被覆部よりもFeの含有量が少ない酸化物の層であってもよい。
【0050】
また、たとえば
図1Cに示すように、第3の被覆部13のさらに外側に、第5の被覆部15を有していてもよい。第5の被覆部15は、Feを実質的に含まなくてもよく、あるいは、第3の被覆部よりもFeの含有量が少ない酸化物の層であってもよい。
【0051】
図1Bに示す第4の被覆部14を形成するためには、たとえば第1の被覆部11を形成する前に、必要に応じて内側被覆部(第4の被覆部14)を形成する。内側被覆部は、粉末スパッタ法、ゾルゲル法、メカノケミカルを利用したコーティング方法等により形成することができる。たとえばアトマイズ法により金属磁性粒子を用意する場合には、アトマイズ時の乾燥雰囲気を調整することにより、内側被覆部を形成することができる。内側被覆部の厚みは、乾燥時のガス種やガス分圧等により調整することができる。
【0052】
また、
図1Cに示す第5の被覆部15を形成するには、たとえば第3の被覆部13を形成した後に、必要に応じて外側被覆部(第5の被覆部15)を形成する。外側被覆部は、粉末スパッタ法、ゾルゲル法、メカノケミカルを利用したコーティング方法等により形成することができる。外側被覆部の厚みは、スパッタリング時間等により調整することができる。
【0053】
第3実施形態
(圧粉磁心)
図3Aに示すように、本実施形態に係る圧粉磁心100は、前述した第1または第2実施形態の軟磁性金属粉末を用いて形成され、所定の形状を有するように形成されていれば、その外形の形状は特に制限されない。本実施形態の圧粉磁心100は、複数の被覆粒子1を含む軟磁性金属粉末と、結合剤としての樹脂(図示せず)とを含み、当該軟磁性金属粉末を構成する被覆粒子1同士が樹脂を介して結合することにより所定の形状に固定されている。
【0054】
圧粉磁心100は、上記の軟磁性金属粉末を用いて製造することができる。具体的な製造方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。まず、被覆部を形成した軟磁性金属粒子1を含む軟磁性金属粉末と、結合剤としての公知の樹脂とを混合し、混合物を得る。また、必要に応じて、得られた混合物を造粒粉としてもよい。そして、混合物または造粒粉を金型内に充填して圧縮成形し、作製すべき圧粉磁心の形状を有する成形体を得る。
【0055】
得られた成形体に対して、たとえば50~200°Cで熱処理を行うことにより、樹脂が硬化し軟磁性金属粒子が樹脂を介して固定され、たとえば
図3Aに示す所定形状の圧粉磁心100が得られる。得られた圧粉磁心に、ワイヤを所定回数だけ巻回することにより、インダクタなどの電子部品が得られる。
【0056】
第4実施形態
(圧粉磁心)
図3Bに示すように、圧粉磁心100は、第1の粒子1aを含む軟磁性金属粉末と、第1の粒子1a以外のその他の粒子、たとえば第1の粒子1aよりも平均粒径(D50)が小さい第2の粒子1bを含むその他の磁性粉末との混合粉末から構成され、所定の形状に形成されていてもよい。
【0057】
この実施形態では、第1の粒子1aは、圧粉磁心100の断面において、粒度分布のピークが6μm以上100μm以下の範囲内にあり、比較的に平均粒径(D50)が大きな大径粒子であり、第2の粒子1bは、粒度分布のピークが2μm以上6μm未満かつ第1の粒子1aよりも小さい範囲内にあり、平均粒径(D50)の比較的小さい中程度の中径粒子である。大径粒子と中径粒子とは、第1実施形態と同様な組成の軟磁性金属粒子で構成してあり、組成が同じでも異なっていてもよい。
【0058】
本実施形態では、第1の粒子1aおよび第2の粒子1bの内の少なくとも一方が、第1実施形態または第2実施形態の被覆粒子1と同様な被覆部10を有する。
【0059】
あるいはまた、
図3Cに示すように、圧粉磁心100は、第1の粒子1aを含む軟磁性金属粉末と、第1の粒子1a以外のその他の粒子、たとえば第1の粒子1aよりも平均粒径(D50)が小さい第2の粒子1bと、第2の粒子1bよりも平均粒径(D50)が小さい第3の粒子1cとを含むその他の磁性粉末との混合粉末から構成され、所定の形状に形成されていてもよい。
【0060】
第3の粒子1cは、たとえば粒度分布のピークが2μm以下の範囲内にあり、比較的に平均粒径(D50)が小さい小径粒子である。本実施形態では、第1の粒子1a、第2の粒子1bおよび第3の粒子1cの内の少なくとも一つが、第1実施形態または第2実施形態の被覆粒子1と同様な被覆部10を有する。大径粒子と中径粒子と小径粒子とは、第1実施形態と同様な組成の軟磁性金属粒子で構成してあり、組成が相互に同じでも異なっていてもよい。
【0061】
本実施形態の圧粉磁心100は、第3実施形態の圧粉磁心と同様にして製造することができる。
【0062】
第5実施形態
(電子部品)
また、本実施形態に係る電子部品は、前述した被覆部を有する軟磁性金属粒子を含む電子部品であれば特に制限されない。たとえば、所定形状の圧粉磁心内部に、空芯コイルが埋設された磁性部品を有するインダクタなどの電子部品であってもよいし、所定形状の圧粉磁心の表面にワイヤが所定の巻き数だけ巻回されてなるトランスなどの電子部品であってもよい。
【0063】
さらに、本実施形態に係る電子部品は、たとえば電源回路に用いられるインダクタ、リアクトル、DC―DCコンバータなどであってもよい。また、本実施形態に係る軟磁性金属粉末を有する電子部品としては、コア以外の電子部品、たとえば磁性シートなどであってもよい。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。たとえば上述した実施形態の各構成要素を組み合わせた実施形態も考えられる。
【実施例0065】
以下、本発明の実施例および比較例について、実験例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0066】
実験1
金属軟磁性材料として、原子数比でSi/Fe=2:98のFe-Si系合金粒子を水アトマイズ法で作製した。このときの乾燥は窒素ガス雰囲気下で行った。当該Fe-Si系合金粒子の粒子径のD50は6μmであった。
【0067】
Fe-Si系合金粒子を酸素濃度500ppmの雰囲気下800°C0.2時間で第1の熱処理を行い、粒子の表面に第1の被覆部を形成した。
【0068】
次に、第1の被覆部を形成したのち、TEOSを用いたゾルゲル法により、Siを含む酸化物からなる第2の被覆部を粒子の表面に形成した。
【0069】
続いて、第2の被覆部が形成された粉末を、酸素濃度10ppmの雰囲気下にて、300°Cで4時間の熱処理(第2の熱処理)を行った。このような第2の熱処理を行うことにより、軟磁性金属粒子を構成するFeおよびその他の金属元素が、第2の被覆部内を拡散して、第2の被覆部の表面において酸素と結合し、Feの酸化物を含む第3の被覆部を形成した。
【0070】
このようにして得られた被覆部を有する軟磁性金属粒子の試料1について、その表面近くの分析を、たとえば以下のようにして行ったが、その他の方法を用いてもよい。
【0071】
まず、軟磁性金属粒子の表面に、Ptスパッタを行い厚みが30nmのPt保護下地膜を形成した。その後、集束イオンビーム加工観察装置(FIB:Focused Ion Beam)に金属粒子試料を入れ、その表面に電子線デポジションを行い、約100nmのPt保護中間膜を形成し、さらにその表面にGaイオンビームでPtデポジションを行い、厚み約2μmのPt保護表面膜を形成した。これらの表面保護膜を含む軟磁性金属粒子の表面からイオンビームによってマイクロサンプルを切り出し、その後薄膜化して厚み約50nmのサンプル薄膜を準備した。得られたサンプル薄膜を、TEMにより観察し、
図2に示すような被覆部10を含む粒子2の表面のHAADF-STEM像を得た。
【0072】
被覆部10には、粒子2から外側に、明暗のコントラストが異なる第1の被覆部11、第2の被覆部12および第3の被覆部13が、この順で積層してあることが観察された。なお、層の厚みが0.8nm以下の層に関しては、被覆部としてはカウントしなかった。また、幅100nmの視野を20視野以上確認し、粒子2の観察した視野の周囲長の半分以上の個所で3層構造が生成していることを確認した。
【0073】
また、HAADF-STEM像を観察した同じ箇所に関して、STEM-EDX分析もしくはSTEM-EELS分析によって、Fe濃度が各被覆部11~13で異なっていることを確認した。特に、FeとSiとOに関して、被覆部11~13での濃度分布を示した結果の一例を
図4Aに示す。
図4Aにおいて、横軸は、粒子2の中心部からの距離を示し、縦軸は、各元素の濃度を原子%で示したものを規格化している。
【0074】
各被覆部11~13の各部について、たとえば
図2中の点線に示す観察範囲(0.6nm×100nm)でEDX分析を行い、Fe原子とSi原子の存在割合の合計を100原子%として、定量を行った。そして第1の被覆部11におけるFe原子の存在割合をFe1、第2の被覆部12におけるFe原子の存在割合をFe2、第3の被覆部13におけるFe原子の存在割合をFe3とした。なお、Fe原子の存在割合は、10視野について測定し、それらの平均として求めた。結果を表1に示す。
【0075】
また、第1の被覆部の厚みt1、第2の被覆部の厚みt2および第3の被覆部の厚みt3は、
図2に示すHAADF-STEM像を用いて、各被覆部11~13で明暗のコントラストが変化する境界相互間の距離の平均として求めた。平均の計算に際しては、各被覆部11~13の長手方向に沿って100nmの距離を一つの観察範囲とし、各観察範囲の長手方向に沿って20nm毎に測定し、さらに、10視野について同様に測定し、平均を求めた。また、各被覆部11~13の厚みt1~t3の合計値を、被覆部10の厚み合計Tとした。結果を表1に示す。
【0076】
粉末の抵抗率は、粉体抵抗測定装置を用いて、粉末に0.6t/cm2 の圧力を印加した状態での抵抗率を測定して求めた。結果を表1に示す。
【0077】
続いて、圧粉磁心の評価を行った。上記のようにして得られた軟磁性金属粉末100wt%に対して樹脂量が3wt%となるように秤量し、アセトンに加えて溶液化し、その溶液と軟磁性金属粉末とを混合した。混合後、アセトンを揮発させて得られた顆粒を、355μmのメッシュで整粒した。これを外径11mm、内径6.5mmのトロイダル形状の金型に充填し、透磁率が約20になるように成形圧を調整し、圧粉磁心を得た。得られた圧粉磁心の成形体を180°Cで1時間熱処理し、樹脂を硬化させて圧粉磁心(磁気コア)のサンプルを得た。
【0078】
作製した圧粉磁心のサンプルに対して、透磁率(μ0)および透磁率(μ8k)を測定した。まず、トロイダル形状の磁気コアに対して、ワイヤを巻回した。そして、LCRメータおよび直流バイアス電源を用いて、周波数1MHzにおける磁気コアのインダクタンスを測定した。
【0079】
より具体的には、直流磁界を印加していない条件(0kA/m)でのインダクタンスと、8kA/mの直流磁界を印加した条件でのインダクタンスと、を測定し、これらインダクタンスからμ0(0A/mでの透磁率)およびμ8K(8kA/mでの透磁率)を算出した。直流重畳特性は、直流磁界を印加した際の透磁率の変化率に基づいて評価した。つまり、透磁率の変化率(単位%)は、(μ0-μ8K)/μ0で表され、この透磁率の変化率が小さいほど、直流重畳特性が良好であると判断できる。結果を表1に示す。
【0080】
試料2では、第1の熱処理の酸素濃度を10ppmとしたことと、第2の熱処理を行わなかったこと以外は試料1と同様にして、試料2に係る軟磁性粉末と圧粉磁心を作製し、試料1と同様な測定を行った。結果を表1に示す。試料2では、第1の被覆部も第3の被覆部も形成されていなかった。
【0081】
試料3では、第2の被覆部の形成後に第2の熱処理を行わなかった以外は、試料1と同様にして、試料3に係る軟磁性金属粉末と圧粉磁心を作製し、試料1と同様な測定を行った。結果を表1に示す。試料3では、第3の被覆部が形成されなかった。
【0082】
試料4では、第1の熱処理時の酸素濃度を10ppmとした以外は、試料1と同様にして、試料4に係る軟磁性金属粉末と圧粉磁心を作製し、試料1と同様な測定を行った。結果を表1に示す。試料4では、第1の被覆部が形成されていない状態で、第2の被覆部および第3の被覆部が形成された。
【0083】
表1に示すように、実施例である試料1の軟磁性金属粉末は、比較例である試料2および3および4の軟磁性金属粉末と比較して、高い粉体抵抗を有することが判明した。そして、実施例の軟磁性金属粉末を使用して作製した圧粉磁心は、比較例に対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0084】
実験2-1
試料5~12では、第2の被覆部を形成したのちの第2の熱処理の温度を、表2に記載した温度に変更した以外は、試料1と同様にして、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製して、試料1と同様の評価を行った。結果を表2-1に示す。表2-1に示すように、第1の被覆部のFe濃度(Fe1)、第2の被覆部のFe濃度(Fe2)および第3の被覆部のFe濃度(Fe3)を調整することができることが判明した。
【0085】
また、表2-1に示すように、試料5~12の各実施例の軟磁性金属粉末は、いずれも1.0×105 Ω・cm以上の高い粉体抵抗を有しており、さらに実施例の軟磁性金属粉末を使用して作製した圧粉磁心は、直流重畳特性にも優れていることが判明した。
【0086】
実験2-2
試料13~18では、第2の熱処理時の酸素濃度を表2-2に記載の濃度へと変更したこと以外は、試料1と同様にして、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製し、試料1と同様な評価を行った。結果を表2-2に示す。表2-2に示すように、第2の熱処理時の酸素濃度を変化させることで第2の被覆部のFe濃度を調整できることが確認できた。
【0087】
また、表2-2に示すように、試料13~18の各実施例の軟磁性金属粉末は、第2の被覆部のFe濃度が第2の被覆部のSi濃度よりも低い場合だけでなく、高い場合であっても、Fe1、Fe2、Fe3が所定の関係を満足することにより、いずれも1.0×105 Ω・cm以上の高い粉体抵抗を有しており、さらに実施例の軟磁性金属粉末を使用して作製した圧粉磁心は、直流重畳特性にも優れていることが判明した。
【0088】
実験3
試料19~24では、Siの濃度が表3-1に記載の数値となる軟磁性金属粉末を用いたこと以外は試料2と同様にして、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製して、試料1と同様な評価を行った。試料25~30では、Siの濃度が表3-1に記載の数値となる軟磁性金属粉末を用いたこと以外は試料3と同様にして、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製して、試料1と同様な評価を行った。試料31~60では、Siの濃度が表3-1および表3-2に記載の数値となる軟磁性金属粉末を用いたことと、第2熱処理の温度を表3-1および表3-2に記載の温度に変えたこと以外は試料1と同様にして、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製して、試料1と同様な評価を行った。結果を表3―1および表3―2に示す。
【0089】
表3―1および表3―2に示すように、試料31~60の各実施例の軟磁性金属粉末は、試料19~24および試料25~30の比較例に比較して、高い粉体抵抗を有しており、また、直流重畳特性に優れた圧粉磁心が得られることが判明した。
【0090】
実験4
試料61~65では、第1の熱処理時の酸素濃度を表4に記載の濃度へと変更したこと以外は、試料1と同様にして、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製し、試料1と同様な評価を行った。結果を表4に示す。表4に示すように、第1の熱処理時の酸素濃度を変化させることで第1の被覆部の厚みt1を調整することができることが確認できた。
【0091】
表4に示すように、第1の被覆部の厚みt1が変化しても、Fe1、Fe2、Fe3が所定の関係を満足することにより、実施例である軟磁性金属粉末(試料61~65)は、高い粉体抵抗を有することが判明した。また、実施例の軟磁性金属粉末を使用して作製した圧粉磁心は、優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0092】
実験5―1
試料66~89では、第1の熱処理時の酸素濃度を表5に記載の値に変更したことと、金属材料100gあたりのTEOSの添加量(g)及び第2の熱処理の時間を表5に記載の値に変更した以外の条件は、試料1と同様にして、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製し、試料1と同様な評価を行った。結果を表5―1に示す。表5―1に示すように、それぞれの被覆部の厚みt1~t3を調整することができることが確認できた。
【0093】
表5―1に示すように、それぞれの被覆部の厚みを変量した場合においても、Fe1、Fe2、Fe3が所定の関係を満足することにより、実施例である軟磁性金属粉末(試料66~89)は、高い粉体抵抗を与えることが判明した。そして、実施例の軟磁性金属粉末を使用して作製した圧粉磁心は、優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0094】
実験5―2
試料90~97では、軟磁性粒子のSi濃度を15原子%としたことと、金属材料100gあたりのTEOSの添加量(g)及び第2の熱処理の時間を表5に記載の値に変更した以外の条件は、試料1と同様にして、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製し、試料1と同様な評価を行った。結果を表5―2に示す。表5―2に示すように、それぞれの被覆部の厚みt1~t3を調整することができることが確認できた。
【0095】
表5―2に示すように、軟磁性粒子のSi濃度を15原子%とした系においても、それぞれの被覆部の厚みを変量した場合において、Fe1、Fe2、Fe3が所定の関係を満足することにより、実施例である軟磁性金属粉末(試料90~97)は、高い粉体抵抗を与えることが判明した。そして、実施例の軟磁性金属粉末を使用して作製した圧粉磁心は、優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0096】
実験6
試料98~106では、軟磁性金属粉末の平均粒子径D50を、表6に記載の値となるように調整したことと、TEOSコート厚みが約20nmになるよう、BET比表面積から必要なTEOS添加量を計算してTEOS添加量を変更した以外は、試料3と同様に、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製し、試料1と同様な評価を行った。結果を表6に示す。
【0097】
試料107~110では、軟磁性金属粉末の平均粒子径D50を、表6に記載の値となるように調整したことと、TEOSコート厚みが約100nmになるよう、BET比表面積から必要なTEOS添加量を計算してTEOS添加量を変更した以外は、試料3と同様に、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製し、試料1と同様な評価を行った。結果を表6に示す。
【0098】
試料111~119では、軟磁性金属粉末の平均粒子径D50を、表6に記載の値となるように調整したことと、TEOSコート厚みが約20nmになるよう、BET比表面積から必要なTEOS添加量を計算してTEOS添加量を変更した以外は、試料1と同様に、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製し、試料1と同様な評価を行った。結果を表6に示す。
【0099】
試料120~123では、軟磁性金属粉末の平均粒子径D50を、表6に記載の値となるように調整したことと、TEOSコート厚みが約100nmになるよう、BET比表面積から必要なTEOS添加量を計算してTEOS添加量を変更した以外は、試料1と同様に、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製し、試料1と同様な評価を行った。結果を表6に示す。
【0100】
表6に示されるように、Fe-Si系合金粒子の粒子径を変量した場合にも、Fe1、Fe2、Fe3が所定の関係を満足することにより、実施例である軟磁性金属粉末(試料111~123)を使用して作製した圧粉磁心は、比較例(試料98~110)とくらべて、優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0101】
実験7
試料124~143では、軟磁性金属粒子の組成を、表7に記載の組成の粒子へと変更した。それ以外は試料124~133では試料3と同様に、試料134~143では試料1と同様に、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製し、試料1と同様な評価を行った。結果を表7に示す。
【0102】
表7に示すように、軟磁性合金粒子の組成を変更した場合にも、Fe1、Fe2、Fe3が所定の関係を満足することにより、実施例である軟磁性金属粉末(試料134~143)を使用して作製した圧粉磁心は、比較例(試料124~133)とくらべて、優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0103】
実験8
試料144~151では、軟磁性金属粒子として、表8に記載のナノ結晶粒子を用意し、それらの表面に被覆部を形成した。また、第1の熱処理温度は400℃とした。その他の点は試料144~147では試料3と同様に、試料148~151では試料1と同様に、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を得て、試料1と同様の評価を行った。結果を表8に示す。
【0104】
試料152~171では、軟磁性金属粒子として、表9に記載の非晶質粒子を用意し、それらの表面に被覆部を形成した。また、第1の熱処理温度を300℃とした。その他の点は試料152~161では試料3と同様に、試料162~171では試料1と同様に、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を得て、試料1と同様の評価を行った。結果を表9に示す。
【0105】
表8および表9に示すように、軟磁性合金粒子の組成および構造を変更した場合にも、Fe1、Fe2、Fe3が所定の関係を満足することにより、実施例である軟磁性金属粉末を使用して作製した圧粉磁心(試料148~151および162~171)は、比較例(試料144~147および152~161)とくらべて、優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0106】
実験9
試料172では、軟磁性金属粒子を水アトマイズ法にて作製する際に、粒子の乾燥を真空条件下で行うとともに、第1の熱処理時の酸素濃度を300ppmとした以外は試料1と同様の操作を行い、軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製し、試料1と同様の評価を行った。結果を表10-1に示す。第1の被覆部よりもさらに内側に、内側被覆部を形成することができることが確認できた。
【0107】
表10-1に示すように、第1の被覆部よりも内部にFe濃度がFe1より低い内側被覆部が形成されている場合であっても、Fe1、Fe2、Fe3が所定の関係を満足することにより、実施例である軟磁性金属粉末(試料172)は、高い粉体抵抗を与えることが判明した。そして、実施例の軟磁性金属粉末を使用して作製した圧粉磁心は、優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0108】
なお、試料172に係る被覆粒子について、試料1と同様にして、Fe、SiおよびOの濃度プロファイルを取得した結果、
図4Bに示すような濃度分布を有しており、第1の被覆部のさらに内側に、第1の被覆部とは組成の異なる内側被覆部が形成されていることが確認できた。
【0109】
実験10
試料173~184では、第3の被覆部を形成した後にさらに絶縁コーティングを行い、第3の被覆部の外側に、表10-2に記載の厚み(t5)および組成を有する外側被覆部を形成したこと以外は、試料1と同様にして軟磁性金属粉末および圧粉磁心を作製し、試料1と同様な評価を行った。結果を表10-2に示す。
【0110】
表10-2に示すように、第3の被覆部の外側に外側被覆部が形成されている場合であっても、Fe1、Fe2、Fe3が所定の関係を満足することにより、実施例である軟磁性金属粉末(試料173~184)は、高い粉体抵抗を有することが判明した。そして、絶縁コーティングを行って外側被覆部を形成した各実施例は、外側被覆部を形成していない実施例と比較して、さらに良好な粉体抵抗を有していることが判明した。また、外側被覆部をさらに形成した軟磁性金属粉末を使用して作製した圧粉磁心は、外側被覆部を形成していない例とくらべて、さらに優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0111】
実験11
試料185、187、189、191では、圧粉磁心を作製する際に、試料3で得られた軟磁性金属粉末(平均粒径6μmの被覆粒子)に加えて、表11に記載の組成および平均粒子径(D50)を有するその他の粒子を、平均粒子径の大きい順に質量比で80:20の存在割合となるように混合した粉末を使用した以外は、試料1と同様にして、圧粉磁心を作製した。試料186、188、190、192では、圧粉磁心を作製する際に、被覆粒子として、試料1で得られた軟磁性金属粉末(平均粒径6μmの被覆粒子)に加えて、表11に記載の組成および平均粒子径(D50)を有するその他の粒子を、平均粒子径の大きい順に質量比で80:20の存在割合となるように混合した粉末を使用した以外は、試料1と同様にして、圧粉磁心を作製した。得られた圧粉磁心について、試料1と同様にして直流重畳特性を評価した。結果を表11に示す。
【0112】
表11に示すように、Fe1、Fe2、Fe3が所定の関係を満足する軟磁性金属粉末を含む2種類の金属粉末を混合して圧粉磁心(試料186,188,190,192)を作製した場合であっても、実験1と同様に、第3の被覆部が形成されていない各比較例(試料185,187,189,191)と比較して、優れた直流重畳特性を与えることが判明した。
【0113】
実験12
試料193では、圧粉磁心を作製する際に、試料3で得られた軟磁性金属粉末(平均粒径6μmの被覆粒子)に加えて、その他の粒子として、平均粒径が約20μmであるFe-Co-B-P-Si-Cr系の非晶質粒子と、さらにその他の粒子として、平均粒径が1μm以下であるFe粒子を、平均粒子径の大きい順に質量比で80:10:10の存在割合となるように混合した粉末を使用した以外は、試料1と同様にして、圧粉磁心を作製した。試料194では、圧粉磁心を作製する際に、被覆粒子として、試料1で得られた軟磁性金属粉末(平均粒径6μmの被覆粒子)を使用した以外は試料193と同様にして、圧粉磁心を作製した。得られた圧粉磁心について、試料1と同様にして直流重畳特性を評価した。結果を表12に示す。
【0114】
表12に示すように、Fe1、Fe2、Fe3が所定の関係を満足する被覆粒子を含む3種類の粒子を混合して圧粉磁心(試料194)を作製した場合であっても、実験1と同様に、比較例(試料193)と比較して、優れた直流重畳特性を与えることが判明した。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
総合評価
表1~表5に示すように、好ましくは、1.1≦Fe1/Fe2≦34.0、さらに好ましくは1.2≦Fe1/Fe2≦32.0、さらに好ましくは1.7≦Fe1/Fe2≦20.0の関係を満足する場合に、軟磁性粉末の粉体抵抗がさらに向上することが確認できた。
【0132】
また、表1~表5に示すように、好ましくは、2.0≦Fe2≦65.0、さらに好ましくは4.0≦Fe2≦50.0、さらに好ましくは5.0≦Fe2≦30.0、さらに好ましくは9.0≦Fe2≦18.0の範囲にあるときに、軟磁性粉末の粉体抵抗がさらに向上することが確認できた。
【0133】
さらに表1~表5に示すように、好ましくは、1.1≦Fe3/Fe2≦41.0、さらに好ましくは1.2≦Fe3/Fe2≦35.0、さらに好ましくは1.3≦Fe3/Fe2≦20.0の範囲にあるときに、軟磁性粉末の粉体抵抗がさらに向上することが確認できた。
【0134】
また表1~表5に示すように、35.0≦Fe3≦95.0、さらに好ましくは37.0≦Fe3≦93.0、さらに好ましくは40.0≦Fe3≦92.0、さらに好ましくは55.0≦Fe3≦70.0の範囲にあるときに、軟磁性粉末の粉体抵抗がさらに向上することが確認できた。
【0135】
また表1~表5に示すように、第1の被覆部11、第2の被覆部12および第3の被覆部13を有する被覆部10の合計厚みTは、好ましくは5~250nm、さらに好ましくは6~125nm、さらに好ましくは10nm~110nm程度に薄く、被覆部10の厚みが仮に50nm以下、40nm以下、30nm以下であっても、10の5乗以上、10の6乗以上、10の7乗以上あるいは10の8乗以上の抵抗率(Ω・cm)を有する軟磁性金属粉末を得ることができることが確認できた。
【0136】
また表1~表5に示すように、第1の被覆部11の厚みt1は、好ましくは0.8nm以上、さらに好ましくは1.1nm以上であり、第2の被覆部12の厚みt2は、好ましくは1nm以上、さらに好ましくは1.7nm以上、さらに好ましくは2.4nm以上であり、第3の被覆部13の厚みは、好ましくは1nm以上、さらに好ましくは1.5nm以上であることが確認できた。