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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093921
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】インクジェットインクセット
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/54 20140101AFI20240702BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240702BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20240702BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C09D11/54
B41M5/00 120
B41M5/00 132
C09D11/30
B41J2/01 123
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210575
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正規
(72)【発明者】
【氏名】古山 岳史
(72)【発明者】
【氏名】大澤 信介
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2C056HA42
2H186AB03
2H186AB44
2H186AB54
2H186AB56
2H186AB57
2H186BA10
2H186DA14
2H186FA14
2H186FB04
2H186FB15
2H186FB28
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB57
4J039BC20
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039BE22
4J039EA42
4J039EA44
4J039FA01
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】油性インクによる印刷において細字の鮮鋭さ及び画像濃度を改善し、これを実現するための水性前処理液の機上安定性及び吐出性を改善する。
【解決手段】水性前処理液と油性インクとの組み合わせであって、水性前処理液及び油性インクはインクジェット記録方式で吐出可能であり、水性前処理液は、中空樹脂粒子、アニオン性基を有する界面活性剤、水溶性有機溶剤、及び水を含み、アニオン性基を有する界面活性剤は水性前処理液の全質量に対し0.10~4.0質量%であり、油性インクは、色材、及び非水系溶剤を含み、非水系溶剤は、石油系炭化水素溶剤及び脂肪酸エステル系溶剤のうち少なくとも一方を含む、インクジェットインクセットである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性前処理液と油性インクとの組み合わせであって、
前記水性前処理液及び前記油性インクはインクジェット記録方式で吐出可能であり、
前記水性前処理液は、中空樹脂粒子、アニオン性基を有する界面活性剤、水溶性有機溶剤、及び水を含み、前記アニオン性基を有する界面活性剤は前記水性前処理液の全質量に対し0.10~4.0質量%であり、
前記油性インクは、色材、及び非水系溶剤を含み、前記非水系溶剤は、石油系炭化水素溶剤及び脂肪酸エステル系溶剤のうち少なくとも一方を含む、インクジェットインクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録システムは、流動性の高い液体インクを微細なノズルから噴射し、基材に付着させて印刷を行う印刷システムである。このシステムは、比較的安価な装置で、高解像度、高品位の画像を、高速かつ低騒音で印刷可能という特徴を有し最近急速に普及している。インクとしては、水性インクと油性インクが知られている。
【0003】
水性インクは、水分を含むことにより乾燥性を高めたインクであり、基材上において水が基材内部に浸透しやすく色材が基材の表面に留まりやすく、印刷物において裏抜けが防止されるという利点がある。一方で、水性インクは水を含むことで、普通紙等への印刷では、普通紙等にカール、コックリング等が発生しやすくなり、基材の搬送性が低下することがある。
【0004】
油性インクは、色材及び非水系溶剤を含むインクであり、普通紙等への印刷において、普通紙等への浸透性及び乾燥性に優れるだけでなく、普通紙等のカール、コックリング等を防止するという利点がある。また、油性インクは、水性インクよりも揮発しにくいためノズルの目詰まりを防止することができる。
【0005】
一方で、油性インクは、基材上での色材と非水系溶剤の離脱性が悪く、普通紙等への印刷においては、色材と非水系溶剤が一緒に基材の内部に浸透しやすい傾向がある。この場合、画像が滲みやすく、細字の鮮鋭さ、画像濃度の低下、裏抜けの増大等が生じ、印刷画像の画像性が低下するという問題がある。
【0006】
インクジェット記録方式において吸油性の高い無機粒子を含む前処理液で普通紙を前処理した後に、油性インクで印刷することで、無機粒子が形成する空隙によってインク中の色材の普通紙への浸透を抑制し、高濃度で裏抜けが少ない画像を得る方法が提案されている。(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-216008号公報
【特許文献2】特開2016-87802号公報
【特許文献3】特開2018-12281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3では、前処理液に粒径の大きな無機粒子を使用しているため、前処理液中で沈降しやすく、前処理液の安定性及び吐出性を損なうことがある。また、油性インクは、基材への浸透性に優れる反面、裏抜け及び画像滲みが増大する傾向がある。そのため、裏抜けを低減し画像濃度を高め、さらに細字の鮮鋭さを改善することも期待される。
【0009】
本発明の一つの目的としては、油性インクによる印刷において細字の鮮鋭さ及び画像性を改善し、これを実現するための水性前処理液の機上安定性及び吐出性を改善するインクジェットインクセットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一つの側面によれば、水性前処理液と油性インクとの組み合わせであって、前記水性前処理液及び前記油性インクはインクジェット記録方式で吐出可能であり、前記水性前処理液は、中空樹脂粒子、アニオン性基を有する界面活性剤、水溶性有機溶剤、及び水を含み、前記アニオン性基を有する界面活性剤は前記水性前処理液の全質量に対し0.10~4.0質量%であり、前記油性インクは、色材、及び非水系溶剤を含み、前記非水系溶剤は、石油系炭化水素溶剤及び脂肪酸エステル系溶剤のうち少なくとも一方を含む、インクジェットインクセットが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、油性インクによる印刷において細字の鮮鋭さ及び画像濃度を改善することができ、これを実現するための水性前処理液の機上安定性及び吐出性を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。本発明は以下の実施形態における例示によって限定されるものでははい。
【0013】
一実施形態によるインクジェットインクセットは、水性前処理液と、油性インクとの組み合わせであって、水性前処理液及び油性インクはインクジェット記録方式で吐出可能であり、水性前処理液は、中空樹脂粒子、アニオン性基を有する界面活性剤、水溶性有機溶剤、及び水を含み、アニオン性基を有する界面活性剤は水性前処理液の全質量に対し0.10~4.0質量%であり、油性インクは、色材、及び非水系溶剤を含み、非水系溶剤は、石油系炭化水素溶剤及び脂肪酸エステル系溶剤のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする。これによれば、油性インクによる印刷において細字の鮮鋭さ及び画像濃度を改善することができ、これを実現するための水性前処理液の機上安定性及び吐出性を改善することができる。以下の説明において、水性前処理液を前処理液と略すことがあり、油性インクをインクとも略すことがあり、インクジェットインクセットをインクセットと略すことがある。
【0014】
中空樹脂粒子は、その内部に空洞部を持つ特徴的な構造により、中空樹脂粒子内に液体を保持することができる。中空樹脂粒子を含む前処理液を普通紙のような浸透性の高い基材に付与し前処理することで、基材に吸液性が高い表面を提供することができる。この効果により、前処理を施した基材に油性インクを吐出すると、油性インクに含まれる非水系溶剤が中空樹脂粒子に吸液され、色材の溶剤離脱性が向上すると考えられる。この場合、ドットが滲みにくい上に基材の深部への浸透が抑制されるため、シャープな画像が得られ、細字の鮮鋭さ及び画像濃度の向上と裏抜け低減の効果を得ることができる。
【0015】
前処理液をインクジェット記録方式で吐出する際には、吐出性の観点から、界面活性剤を入れることが望ましい。一方で、前処理液に含まれる界面活性剤の種類や添加量によっては、油性インクによる画像において画像濃度が低下することがある。本実施形態では、前処理液においてアニオン性基を含む界面活性剤を用いることで、安定に吐出可能な前処理液が得られ、画像濃度が向上し裏抜けを低減するという知見を得た。
【0016】
この理由について定かではないが、中空樹脂粒子の表面と油性インクの親和性によるものと考えられる。水性前処理液と油性インクは互いに混和しないため、通常は水性前処理液と油性インクとを連続して印刷すると、油性インクは水性前処理液に弾かれてドットが収縮し、ベタ埋まりが悪くなり、画像濃度が著しく低下する。界面活性剤は水性前処理液と油性インクの混和性を補助するが、イオン性基を持たない界面活性剤の場合、表面張力の低い水溶性有機溶剤とともに基材の内部へと素早く浸透してしまう。また、カチオン性基のみを含む界面活性剤は水性前処理液中で中空樹脂粒子を凝集させてしまい、安定な吐出が難しい。アニオン性基を含む界面活性剤を含む水性前処理液は、基材に吐出された際に、中空樹脂粒子と共に基材の表面に残りやすく、後に印刷される油性インクとの親和性を向上させ、ドット形成を阻害することなく、油性インクに含まれる非水系溶剤を効率的に吸液し、細字の鮮鋭さ、画像濃度向上、裏抜け低減を達成すると考えられる。また、中空樹脂粒子は、空洞部を有する構造のために比重が小さく、前処理液中での沈降が起こりにくく、吐出性や機上安定性を改善することができる。
【0017】
「水性前処理液」
一実施形態において、前処理液は、インクジェット記録方式によって吐出可能であるものである。前処理液は、インクジェット印刷装置を用いて前処理液を基材に付与する方法において用いられることが好ましい。前処理液は、中空樹脂粒子、アニオン性基を有する界面活性剤、水溶性有機溶剤、及び水を含むものである。
【0018】
前処理液において、アニオン性基を有する界面活性剤は前処理液全量に対し0.10~4.0質量%であることが好ましい。前処理液の吐出性の観点から、アニオン性基を有する界面活性剤は前処理液全量に対し好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.20質量%以上、さらに好ましくは0.30質量%以上である。印刷物の細字の鮮鋭さ及び画像性の観点から、アニオン性基を有する界面活性剤は前処理液全量に対し好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、さらに好ましくは1.8質量%以下である。
【0019】
なお、前処理液はアニオン性基を有する界面活性剤を1種単独で、又は2種以上を組み合わせて含んでよい。前処理液にアニオン性基を有する界面活性剤が2種以上含まれる場合は、アニオン性基を有する界面活性剤の2種以上の合計質量が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0020】
中空樹脂粒子は、内部に空洞部を有する中空の樹脂粒子である。中空樹脂粒子は、前処理液中では、その内部の空洞部に空気等の気体が含まれてもよいが、その内部の空洞部に前処理液の水及び水溶性有機溶剤が侵入した状態、さらにその内部の空洞部が前処理液の水及び水溶性有機溶剤によって充填された状態であってもよい。
【0021】
中空樹脂粒子の樹脂の種類は特に限定されないが、水性の液体に配合しやすい樹脂として、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂等が挙げられる。これらの中でも、油性インクの吸液性の観点から、中空樹脂粒子はスチレン-アクリル樹脂であることが好ましい。
【0022】
中空樹脂粒子は、吸液性の観点から、中空率が30~60%であることが好ましい。中空樹脂粒子の平均粒子径は100~1000nmが好ましく、沈降性の観点から100~500nmがより好ましい。ここで、中空樹脂粒子の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準の粒径値(メジアン径)である。
【0023】
中空樹脂粒子には市販品を用いてもよい。中空樹脂粒子の市販品としては、例えば、ROPAQUEULTRA E、ROPAQUEULTRA DUAL、ROPAQUEOP-62、ROPAQUEOP-84J、ROPAQUEHP-1055(以上、ダウ・ケミカル社製);Nipol MH5055(日本ゼオン株式会社製)等が挙げられる。中空樹脂粒子は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
油性インクの吸液性を高め、細字の鮮鋭さ及び画像性をより高めるために中空樹脂粒子は、インク全量に対し、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がより好ましい。特に限定されないが、中空樹脂粒子は、インク全量に対し、50質量%以下、40質量%以下、又は30質量%以下であってよい。
【0025】
前処理液は、アニオン性基を有する界面活性剤を含むものである。アニオン性基を有する界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤のうち少なくとも一方であってよい。
【0026】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸カリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム等が挙げられる。
【0027】
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0028】
アニオン性界面活性剤の市販品としては、例えば、花王株式会社製エマールシリーズ「エマール0」、「エマール10」、「エマール2F」、「エマール40」、「エマール20C」等;花王株式会社製ネオペレックスシリーズ「ネオペレックスGS」、「ネオペレックスG-15」、「ネオペレックスG-25」、「ネオペレックスG-65」等;花王株式会社製ペレックスシリーズ「ペレックスOT-P」、「ペレックスTR」、「ペレックスCS」、「ペレックスTA」、「ペレックスSS-L」、「ペレックスSS-H」等;花王株式会社製デモールシリーズ「デモールN、デモールNL」、「デモールRN」、「デモールMS」等:花王株式会社製「エレクトロストリッパーF」、日信化学工業株式会社製「オルフィンWE-003」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0029】
両性界面活性剤の市販品としては、例えば、花王株式会社製アンヒトールシリーズ「アンヒトール20BS」、「アンヒトール20HD」、「アンヒトール24B」、「アンヒトール86B」、「アンヒトール20Y-B」、「アンヒトール20N」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0030】
アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤は、それぞれ1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、アニオン性界面活性剤と両性界面活性剤を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
前処理液は、水を含むものであり、主溶剤が水であってもよい。水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いるとよい。水は、粘度調節の観点から、前処理液全量に対して20~90質量%であることが好ましく、40~80質量%であることがより好ましい。
【0032】
前処理液は、水溶性有機溶剤を含むことができる。水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0033】
水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、2-メチル-2-プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエタノールアミン、1-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、β-チオジグリコール、スルホラン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等を用いることができる。水溶性有機溶剤の沸点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましい。
【0034】
これらの水溶性有機溶剤は、単独で使用してもよく、水と単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。水溶性有機溶剤のインク中の含有量は、2種以上が用いられる場合はその合計含有量として、5~50質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。
【0035】
中空樹脂粒子の基材内部への浸透をより抑制するために、水溶性有機溶剤は、Fedors式から算出されるSP値が13(cal/cm1/2以上である溶剤を含むことが好ましく、15(cal/cm1/2以上の溶剤を含むことがより好ましい。このような水溶性有機溶剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。より好ましくは、Fedors式から算出されるSP値が15(cal/cm1/2以上の水溶性有機溶剤がインク全量に対し8~15質量%で含まれる。
【0036】
前処理液には、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記した各成分に加え、任意的に、凝集剤、バインダー樹脂、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤、UV吸収剤、赤外線吸収剤、架橋剤、pH調整剤、消泡剤、湿潤剤(保湿剤)、表面張力調整剤(浸透剤)、定着剤等の各種添加剤が含まれてもよい。
【0037】
前処理液の粘度は、インクジェット記録方式に適した吐出性を得るために、23℃において1~30mPa・sであることが好ましく、3~20mPa・sであることがより好ましい。本開示において、前処理液の粘度は、回転式粘度計を用いて23℃において測定した数値である。粘度測定装置には、例えば、株式会社アントンパール・ジャパン製「レオメーターMCR302」を用いることができる。
【0038】
前処理液の作製方法は、特に限定されないが、各成分を適宜混合することで所望の前処理液を得ることができる。得られた組成物をフィルター等を用いてろ過してもよい。また、各種添加剤を適宜添加してもよい。
【0039】
「油性インク」
一実施形態において、油性インクは、インクジェット記録方式によって吐出可能であるものである。油性インクは、インクジェット印刷装置を用いて油性インクを基材に付与する方法において用いられることが好ましく、インクジェット印刷装置を用いて水性前処理液及び油性インクをこの順で基材に付与する方法において用いられることがより好ましい。油性インクは、色材、及び非水系溶剤を含み、非水系溶剤は、石油系炭化水素溶剤及び脂肪酸エステル系溶剤のうち少なくとも一方を含むものである。
【0040】
色材は、顔料及び染料のいずれであってもよく、顔料及び染料を組み合わせて用いてもよい。顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0041】
インク中における顔料粒子の平均粒子径は、吐出安定性と保存安定性の観点から、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準の平均値として、300nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。
【0042】
染料としては、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料、金属フタロシアニン染料等の油溶性染料を挙げることができる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
色材の含有量は、印刷濃度とインク粘度の観点から、インク全量に対して0.1~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることがさらに好ましい。
【0044】
油性インク中で顔料を安定して分散させるために、顔料とともに顔料分散剤を用いることができる。顔料分散剤としては、顔料を非水系溶剤に安定して分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、ビニルピロリドンと長鎖アルケンとの共重合体、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリエステルポリアミン等が好ましく用いられる。
【0045】
顔料分散剤は、顔料1に対し0.2~1.0の質量比で含まれていることが好ましい。顔料分散剤のインク全量における含有量としては、0.5~15質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0046】
油性インクにおいて、非水系溶剤は、石油系炭化水素溶剤及び脂肪酸エステル系溶剤のうち少なくとも一方を含むものである。なお、本開示において、非水系溶剤としては、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合しない非水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0047】
石油系炭化水素溶剤及び脂肪酸エステル系溶剤のうち少なくとも一方は、前処理液が付与された基材の表面において、前処理液に含まれる中空樹脂粒子によって吸液されることで、細字の鮮鋭さ及び画像性を改善することができる。例えば、基材の表面において、これらの非水系溶剤が中空樹脂粒子によって吸液されることで顔料の裏抜けを改善することができる。
【0048】
石油系炭化水素溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等が挙げられる。脂肪族炭化水素溶剤及び脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系等の非水系溶剤を挙げることができ、市販品としては、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、カクタスノルマルパラフィンN-10、カクタスノルマルパラフィンN-11、カクタスノルマルパラフィンN-12D、カクタスノルマルパラフィンN-13、カクタスノルマルパラフィンN-14、カクタスノルマルパラフィンYHNP、カクタスノルマルパラフィンSHNP、アイソゾール300、アイソゾール400、テクリーンN16、テクリーンN20、テクリーンN22、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号、ナフテゾール160、ナフテゾール200、ナフテゾール220(いずれもENEOS株式会社製の商品名);アイソパーG、アイソパーH BHT、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD110、エクソールD130(いずれもエクソンモービル社製の商品名);モレスコホワイトP-60、モレスコホワイトP-70、モレスコホワイトP-80、モレスコホワイトP-100、モレスコホワイトP-120、モレスコホワイトP-150、モレスコホワイトP-200、モレスコホワイトP-260、モレスコホワイトP-350P(いずれも株式会社MORESCO製の商品名)等を好ましく挙げることができる。芳香族炭化水素溶剤としては、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200、ソルベッソ200ND(いずれもエクソンモービル社製の商品名)等を好ましく挙げることができる。石油系炭化水素溶剤の蒸留初留点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがいっそう好ましい。蒸留初留点はJIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定することができる。石油系炭化水素溶剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
脂肪酸エステル系溶剤としては、細字の鮮鋭さ及び画像性の観点から、1分子中の炭素数が6以上が好ましく、8以上がより好ましく、13以上がさらに好ましい。なかでも、1分子中の炭素数が13以上である脂肪酸エステル系溶剤を用いることが好ましい。例えば、脂肪酸エステル系溶剤としては、1分子中の炭素数が13~30が好ましく、16~26がより好ましい。
【0050】
脂肪酸エステル系溶剤としては、例えば、イソノナン酸2-エチルヘキシル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソブチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2-オクチルデシル、大豆油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸イソブチルエステル、トール油脂肪酸メチルエステル、トール油脂肪酸イソブチルエステル等が挙げられる。脂肪酸エステル系溶剤の沸点は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。なお、沸点が250℃以上の非水系溶剤には、沸点を示さない非水系溶剤も含まれる。脂肪酸エステル系溶剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
石油系炭化水素溶剤及び脂肪酸エステル系溶剤は、その合計量で、インク全量に対し10~95質量%が好ましく、50~90質量%がより好ましく、70~85質量%がさらに好ましい。石油系炭化水素溶剤及び脂肪酸エステル系溶剤を混合して用いる場合は、脂肪酸エステル系溶剤及び石油系炭化水素溶剤との質量比で、10:1~10:10が好ましく、10:3~10:5がより好ましい。
【0052】
油性インクは、石油系炭化水素溶剤及び脂肪酸エステル系溶剤以外に、他の非水系溶剤を用いてもよい。他の非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤の何れも使用できる。これらは、単独で使用してもよく、組み合わせて使用することもできる。非極性有機溶剤としては、シリコーンオイル等が挙げられる。極性有機溶剤としては、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等が挙げられる。
【0053】
上記各成分に加えて、油性インクには、本発明の効果を損なわない限り、各種添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、ノズルの目詰まり防止剤、酸化防止剤、導電率調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤等を適宜添加することができる。
【0054】
油性インクとしての粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5~30mPa・sであることが好ましく、5~15mPa・sであることがより好ましい。本開示において、インク粘度は、回転式粘度計を用いて23℃において測定した数値である。粘度測定装置には、例えば、株式会社アントンパール・ジャパン製「レオメーターMCR302」を用いることができる。
【0055】
「印刷物の製造方法」
一実施形態によるインクジェットインクセットを用いて印刷物を製造する方法について以下に説明する。印刷物の製造方法の一実施形態としては、前処理液をインクジェット記録方式によって基材に付与する工程、及び油性インクをインクジェット記録方式によって前処理液が付与された基材に付与する工程を含むことができる。前処理液及び油性インクは上記説明した通りである。好ましい実施形態では、油性インクをインクジェット記録方式によって前処理液が付与された基材に付与する工程をウェットオンウェット法で行う。
【0056】
インクジェット記録方式は、基材に非接触で、オンデマンドで簡便かつ自在に画像形成をすることができる印刷方式である。インクジェット記録方式は、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式等のいずれの方式であってもよい。インクジェット印刷装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから前処理液又は油性インクを吐出させ、吐出された前処理液又は油性インクの液滴を基材に付着させるようにすることが好ましい。
【0057】
まず、前処理液をインクジェット記録方式によって基材に付与する工程について説明する。前処理液は上記した通り機上安定性に優れるものであることから、インクジェット記録方式を採用して基材に付与することができる。前処理液を基材に付与する領域は、油性インクによる画像と同一の形状の領域であってもよいし、油性インクによる画像の形状を含む広めの領域であってもよいし、基材の全面であってもよい。前処理液は、インクジェット記録方式によってオンデマンドで付与可能であるため、油性インクによる画像の形状に合わせてその付与領域を調節することができる。前処理液の付与量は、0.1~200g/mが好ましく、2~20g/mがより好ましい。
【0058】
次に、油性インクをインクジェット記録方式によって、前処理液が付与された基材に付与する工程について説明する。油性インクは、前処理液が付与された基材にウェットオンウェット法で付与することができる。すなわち、前処理液が付与された基材から水分を完全には除去しない状態で、前処理液が付与された基材が湿潤状態を保つ状態で、油性インクを付与することができる。油性インクの付与量は、0.1~400g/mが好ましく、2~40g/mがより好ましい。
【0059】
基材に前処理液を付与してから油性インクを付与するまでの時間は、0.1~200秒であることが好ましい。この温度又は時間とすることで、基材が非浸透性基材の場合では、前処理液が基材に適度にレベリングしてから油性インクが付与されやすくなり、浸透性基材の場合では、前処理液が基材に過浸透することなく油性インクが付与されやすくなる。
【0060】
前処理液を付与する工程と油性インクを付与する工程は別々の装置で行ってもよく、1つの装置を用いて行ってもよい。一実施形態による印刷物の製造方法は、油性インクをウェットオンウェット法で付与可能であることから、前処理液の付与後に乾燥工程を不要とすることができるため、1つの印刷装置内で前処理液及び油性インクの付与をインラインで簡便に行うことができる。例えば、システムを小型化するために一つのキャリッジに前処理液とインクのプリントヘッドを搭載する構成において、前処理液とインクをこの順で連続的に付与することができる。このような構成では、基材上で前処理液が湿潤状態で油性インクをウェットオンウェット法で基材に付与することができる。一実施形態による前処理液は機上安定性及び吐出性に優れることから、このような印刷方法に適する。
【0061】
一実施形態によるインクジェットインクセットは、浸透性基材及び非浸透性基材のいずれにも適用することができる。
【0062】
非浸透性基材は、基材内部に液体が染み込んでいかない基材であり、具体的には、処理液中又はインク中の液体の大部分が基材の表面上に留まる基材である。非浸透性基材としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、チタン、錫、クロム、カドミウム、合金(例えばステンレス、スチール等)等の金属板等の金属基材;ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、ソーダライムガラス等の板ガラス等のガラス基材;PETフィルム、PPフィルム、OHTシート、ポリエステルシート、ポリプロピレンシート等の樹脂製シート、アクリル板、ポリ塩化ビニル板等の樹脂基材;アルミナ、ジルコニア、ステアタイト、窒化ケイ素等の成形体等のセラミック基材等が挙げられる。これらの基材は、メッキ層、金属酸化物層、樹脂層等が形成されていてもよく、又はコロナ処理等を用いて表面処理されていてもよい。
【0063】
浸透性基材としては、例えば、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙;織布、編物、不織布等の布;調湿用、吸音用、断熱用等の多孔質建材;木材、コンクリート、多孔質材等が挙げられる。ここで、普通紙は、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【実施例0064】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。以下の説明において、特に説明のない箇所では、「%」は「質量%」を示す。
【0065】
「前処理液の作製」
表1及び表2に前処理液の処方を示す。表1及び表2に示す前処理液の成分は有効成分量で示す。表中に示す配合割合にしたがって各成分を混合した。得られた混合液をメンブレンフィルター(開口径3μm)でろ過して前処理液とした。
【0066】
「油性インクの作製」
表3に油性インクの処方を示す。表中に示す配合割合にしたがって各成分を混合し、ビーズミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製「ダイノーミルKDL-A」)を用いて十分に顔料を分散した。続いて、メンブレンフィルターで粗大粒子を除去し、油性インクを得た。
【0067】
用いた成分は以下の通りである。
(中空樹脂粒子)
「ROPAQUE OP-62」(商品名):中空樹脂粒子、スチレン-アクリル樹脂、粒径0.4μm、ダウ・ケミカル社製。
「ROPAQUE ULTRA-E」(商品名):中空樹脂粒子、スチレン-アクリル樹脂、粒径:0.4μm、ダウ・ケミカル社製。
(中実粒子)
「シーホスター KE-W30」(商品名):シリカ粒子、粒径0.3μm、株式会社日本触媒製。
(水溶性有機溶剤)
グリセリン及びエチレングリコールは、富士フイルム和光純薬より入手可能である。
【0068】
(活性剤)
オルフィンWE-003(商品名):アニオン性界面活性剤、日信化学工業株式会社製。
エレクトロストリッパーF(商品名):アニオン性界面活性剤、花王株式会社製。
アセタミン24(商品名):カチオン性界面活性剤、花王株式会社製。
カチオーゲンTML(商品名):カチオン性界面活性剤、第一工業製薬株式会社製。
アンヒトール24B(商品名):両性界面活性剤、花王株式会社製。
アンヒトール20HD(商品名):両性界面活性剤、花王株式会社製。
アセチレノールE100(商品名):ノニオン性界面活性剤、川研ファインケミカル株式会社製。
シルフェイスSAG002(商品名):ノニオン性界面活性剤、日信化学工業株式会社製。
【0069】
(顔料)
Raven1060 ULTRA(商品名):Birla Carbon Japan社製、カーボンブラック。
(分散剤)
ソルスパース13940(商品名):日本ルーブリゾール株式会社製、塩基性分散剤(固形分40%)。
(非水系溶剤)
イソノナン酸2-エチルヘキシル:脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール工業株式会社製。
エクソールD110(商品名):石油系炭化水素溶剤、エクソンモービル社製。
【0070】
「印刷方法」
得られた前処理液及び油性インクをこの順で印刷用紙に付与し印刷物を得た。詳しくは、ライン式インクジェットプリンタ「オルフィスGD9630」(理想科学工業株式会社製)に前処理液を装填し、普通紙「理想用紙マルチ」(理想科学工業株式会社製)に前処理液の塗布量が約11g/mになるような吐出条件にて、印刷解像度600×600dpiのベタ画像を印刷した。その後、直ちに油性インクで上記普通紙の前処理表面上にベタチャート(600×600dpi)及び6ポイントの文字チャートを印刷した。得られた印刷物を室温で一日放置した。
【0071】
得られた印刷物及び前処理液を用いて、以下の評価をした。結果を表1及び表2に合わせて示す。
【0072】
「印刷物の細字の鮮鋭さ」
上記印刷物の6ポイントの文字チャートを目視観察し、細字の鮮鋭さを以下の基準で評価した。
A:文字がシャープに見え判読が容易である。
B:文字に滲みがあるが判読が可能である。
C:文字がぼやけて判読が困難である。
【0073】
「印刷物の画像性」
上記印刷物の印刷面(表面)および非印刷面(裏面)の印刷濃度をXrite exact(ビデオジェット・エックスライト社製)により測定した。
印刷物の画像性について表濃度を表OD値の上昇量から以下の基準で評価した。
印刷物の画像性について裏抜けを裏ΔOD値の減少量から以下の基準で評価した。
【0074】
[表濃度]
A:前処理液非塗工部に対して表OD値の上昇量が0.05以上。
B:前処理液非塗工部に対して表OD値の上昇量が0.02以上、0.05未満。
C:前処理液非塗工部に対して表OD値の上昇量が0.02未満、あるいは減少。
【0075】
[裏濃度]
A:前処理液非塗工部に対して裏ΔOD値の減少量が0.02以上。
B:前処理液非塗工部に対して裏ΔOD値の減少量が0以上、0.02未満。
C:前処理液非塗工部に対して裏ΔOD値が増加。
【0076】
「前処理液の機上安定性」
前処理液をヘッドに充填したまま室温一日放置した後に、ベタ画像を連続して印刷した。印刷画像を目視により観察し、下記の基準で評価した。
A:1枚目の印刷から正常なベタ画像が得られる。
B:1枚目の印刷ではベタ画像に画像ムラや不吐出が見られるが、4回以内の印刷動作で正常なベタ画像が得られる。
C:正常なベタ画像を得るのに、5回以上の印刷動作を要する。
【0077】
「前処理液の連続吐出性」
各実施例及び比較例について、ライン式インクジェットプリンタ「オルフィスGD9630」(理想科学工業株式会社製)に前処理液を装填し、普通紙「理想用紙マルチ」(理想科学工業株式会社製)に印刷解像度600×600dpiのベタ画像を100枚連続して印刷動作を行った。その後に、ノズルチェックパターンを印刷してノズル抜けの有無を確認し、下記の基準で評価した。
A:ノズル抜けが0本。
B:ノズル抜けが1~10本。
C:ノズル抜けが10本以上。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
表中に示す通り、各実施例の前処理液及び油性インクをこの順でインクジェット記録方式で付与した印刷物では細字の鮮鋭さ及び画像性が良好であり、各実施例の前処理液の機上安定性及び吐出性は良好であった。