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▶ 鳥越製粉株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093932
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】麺用日持ち向上剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20240702BHJP
   A23L 3/358 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A23L7/109 C
A23L3/358
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210592
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】592019947
【氏名又は名称】鳥越製粉株式会社
(72)【発明者】
【氏名】片山 達也
(72)【発明者】
【氏名】山下 貴志
(72)【発明者】
【氏名】倉富 治郎
(72)【発明者】
【氏名】渋田 隆伸
【テーマコード(参考)】
4B021
4B046
【Fターム(参考)】
4B021LW01
4B021MC07
4B021MC10
4B021MK08
4B021MP01
4B021MQ04
4B046LA05
4B046LB01
4B046LB02
4B046LC02
4B046LC08
4B046LC09
4B046LC17
4B046LG03
4B046LG20
4B046LG29
(57)【要約】      (修正有)
【課題】常温で長期保存しても、麺が褐色に変色しにくく中華麺の風味、粘弾性のある食感が維持される生中華麺及び半生中華麺用日持ち向上剤を提供する。
【解決手段】リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムからなる群から選ばれる1種類以上のリン酸カルシウム、ならびに小麦タンパクを含む生中華麺及び半生中華麺用日持ち向上剤とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムからなる群から選ばれる1種類以上のリン酸カルシウム、ならびに小麦タンパクを含む生中華麺及び半生中華麺用日持ち向上剤。
【請求項2】
原料小麦粉100質量部に対して、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムから選ばれる1種類以上のリン酸カルシウムが0.1~0.6質量部であり、かつ小麦タンパクが原料小麦粉100質量部に対して、0.5~2.0質量部である事を特徴とする請求項1記載の生中華麺及び半生中華麺用日持ち向上剤。
【請求項3】
リン酸二水素カルシウムが原料小麦粉100質量部に対して0.1~0.5質量部であり、かつリン酸三カルシウムが原料小麦粉100質量部に対して0.01~0.1質量部である事を特徴とする請求項1または請求項2に記載の生中華麺及び半生中華麺用日持ち向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で長期保存が可能な中華麺の食感、風味、外観における経時的変化の抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、常温で長期保存が可能な生中華麺、半生中華麺は酒精、プロピレングリコール又は還元水あめを生地に添加して、菌数を減らして、菌の増殖を防ぐ事は知られている。常温で長期保存が可能なタイプの生中華麺、半生中華麺は1~3か月程度の賞味期限を有し、通販用商品、お土産用商品に使われる。
【0003】
しかし、上記の方法だと、菌数を抑える事はできても経時的な食感、風味、外観の変化を抑制する事はできない。長期で常温保存が可能な生中華麺、半生中華麺は、保存期間が長くなるほど麺が褐変して、食感は、表面が硬く芯の弾力に欠けた硬脆い食感となるといった課題があった。
【0004】
例えば、酢酸やクエン酸などの有機酸とアスコルビン酸などの退色抑制成分を含む、総ルテイン含量が0.21μg/10mg以上の小麦粉を原料とする加工食品向けの、小麦粉本来の黄色味を維持する技術がある(特許文献1参照)。
【0005】
また、カルシウム塩を中華麺に使用して、中華麺の黄色味を維持する中華麺着色用黄色色素としてルチンとL-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウムと、貝殻焼成カルシウムを混合する技術がある。(特許文献2参照)。
【0006】
また、リン酸カルシウムを用いる方法として、リン酸一水素カルシウムの水和物を生中華麺に添加する事で、生中華麺の長期保存における変色や食感の劣化を防ぐ事ができる。(特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、これらの技術を用いても中華麺の食感、風味を維持したまま、長期の常温保存における経時的な麺の褐変と食感における粘弾性の減少を抑える事はできない。特許文献3のようにリン酸一水素カルシウムの水和物を中華麺に添加する事で、麺の褐変を抑制する事はできるが、中華麺特有の風味(かんすい臭)と硬くて粘弾性のある食感が損なわれる。そのため、本願発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012―10658
【特許文献2】特開平10-108646
【特許文献3】特開2021-153574
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、常温で長期保存しても、麺が褐色に変色しにくく、中華麺の風味、粘弾性のある食感が維持される生中華麺及び半生中華麺用日持ち向上剤に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムから選ばれる1種類以上のリン酸カルシウムを含み、好ましくは原料小麦粉100質量部に対して、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムから選ばれる1種類以上のリン酸カルシウムが0.1~0.6質量部、より好ましくはリン酸二水素カルシウムが原料小麦粉100質量部に対して0.1~0.5質量部、かつリン酸三カルシウムが原料小麦粉100質量部に対して0.01~0.1質量部である事を特徴とする中華麺が常温で長期保存しても麺が褐色に変色しにくく中華麺の風味、粘弾性のある食感が維持される事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本願の第1の発明は、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムから選ばれる1種類以上のリン酸カルシウム、ならびに小麦タンパクを含む生中華麺及び半生中華麺用日持ち向上剤である。
【0012】
第2の発明は、本願の第1の発明におけるリン酸カルシウムが原料小麦粉100質量部に対して、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムから選ばれる1種類以上のリン酸カルシウムが0.1~0.6質量部であり、かつ小麦タンパクが原料小麦粉100質量部に対して、0.5~2.0質量部である事を特徴とする生中華麺及び半生中華麺用日持ち向上剤である。
【0013】
第3の発明は、第1の発明及び第2の発明におけるリン酸カルシウムにおいて、リン酸二水素カルシウムが原料小麦粉100質量部に対して0.1~0.5質量部である、かつリン酸三カルシウムが原料小麦粉100質量部に対して0.01~0.1質量部である事を特徴とする生中華麺及び半生中華麺用日持ち向上剤である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、従来の方法と比較して中華麺特有の風味(かんすい臭)と食感を維持したまま、常温で長期保存しても麺が褐色に変色しにくく中華麺の風味、粘弾性のある食感が維持される生中華麺及び半生中華麺を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明の日持ちする生中華麺、半生中華麺の品質保持を目的とした製剤は、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムから選ばれる1種類以上のリン酸カルシウム、ならびに小麦タンパクを含む中華麺用日持ち向上剤である。
【0016】
本発明における生中華麺とはアルコール、還元水あめ、プロピレングリコールを麺用生地に練り込み、製麺後切り出した麺線を乾燥、加熱調理する前に、アルコール揮散剤又は脱酸素剤と一緒に封入して酸素バリア製の包材に包装したものをいう。
【0017】
本発明における半生中華麺とは、上記生中華麺を常温又は加熱空気を使用し乾燥させ水分値を約20質量%~27質量%に調製した麺をアルコール揮散剤又は脱酸素剤と一緒に封入して酸素バリア製の包材に包装したものをいう。
【0018】
本発明におけるリン酸カルシウムとは、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムである。
【0019】
小麦タンパクとは小麦粉生地から、抽出されたものを、乾燥・粉砕したもので、乾燥方法はスプレードライやフリーズドライなどが挙げられるが、いずれの方法によるものでも使用することができる。
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に用いる小麦粉は、一般的に中華めんに使用される粗蛋白質含有量が10.0~12.0質量%の準強力粉を使用する事ができる。
【0021】
製麺における生地の混合方法は、常法に従って行う事ができる。使用するミキサーの種類は加水混合型ミキサー、混錬型ミキサー、連続式ミキサー、真空ミキサー等が挙げられ、特に限定されない。
【0022】
一般的な常温日持ちが可能な麺は、菌数を減らす、又は増殖を抑える目的で酒精やプロピレングリコール、還元水あめを使用する。また、脱酸素剤を製品と一緒に封入して酸素バリア製の包材に包装することが一般的に行われている。
【0023】
本発明において、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムを生地に添加する。原料小麦粉100質量部に対して、好ましくは、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムから選ばれる1種類以上のリン酸カルシウムが0.1~0.6質量部、より好ましくはリン酸二水素カルシウムが原料小麦粉100質量部に対して0.1~0.5質量部、かつリン酸三カルシウムが原料小麦粉100質量部に対して0.01~0.1質量部である。リン酸カルシウムの添加量が少ない場合、麺の褐変抑制効果が小さく、リン酸カルシウムの添加量が多い場合、中華麺特有の風味が弱く、軟らかく粘弾性の弱い食感になる。
【0024】
本発明において、小麦タンパクの好ましい添加量は原料小麦粉100質量部に対して、0.5~2.0質量部である。0.5質量部より少なければ、軟らかく粘弾性の弱い食感になり、2.0質量部より多ければ、硬い食感になる。
【実施例0025】
本発明における評価基準は表1に示される。本発明における評価の基準として、小麦粉100質量部、かんすい1質量部、水20質量部、酒精5質量部、ソルビトール3質量部の配合にて製造した製造直後の麺を「コントロール」とした。「コントロール」を製造後に120gずつアルコール揮散剤を封入して、ガスバリア性の包材にいれ、30℃で1か月間保存した麺を「コントロール(30℃1か月保存)」とした。
【0026】
外観の評価は、目視で麺の色調を確認比較したものであり、目視による変色抑制効果において、「コントロール」と同等の外観であるものを5点とし、「コントロール(30℃1か月保存)」と同等のものを1点とした。「コントロール」よりやや変色があるが概ね良好なものを4点 、「コントロール」より変色があるが概ね可(商品価値がある)のものを3点 、変色の程度が、「コントロール(30℃1か月保存)」と3点評価品と中間のものを2点、として評価した。
【0027】
食感の官能評価については、麺の粘弾性を比較したものであり、「コントロール」と同等の粘弾性であるものを5点とし、「コントロール(30℃1か月保存)」と同等のものを1点とした。「コントロール」より麺の粘弾性がやや弱いもしくはやや強いが、概ね良好なものを4点、「コントロール」より麺の粘弾性が弱いもしくは強いが、概ね可(商品価値がある)のものを3点、麺の粘弾性の程度が「コントロール(30℃1か月保存)」と3点評価品と中間のものを2点、として評価した。
【0028】
食味の官能評価については、中華麺特有のかんすい臭の強さに関して、「コントロール」と同等のものを5点とし、「コントロール」よりかんすい臭はやや弱いが概ね良好なものを4点 、「コントロール」よりかんすい臭は弱いが概ね可(商品価値がある)のものを3点、「コントロール」よりかんすい臭が顕著に弱いものを2点、かんすい臭が全く感じられないものを1点とした。
【0029】
【表1】
【0030】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例1~13及び比較例1~7について、表2、3、4の示す生地配合で各々、均一に混合し、生地100質量部にかんすい1質量部、水20質量部、酒精5質量部、ソルビトール3質量部を麺用ミキサーで10分混合してそぼろ状の生地を得た。得られた、そぼろ状の生地を圧延ロールで複合して3mmの麺帯として、圧延方向に2枚重ねて複合圧延して5mmの麺帯を得た。得られた麺帯をビニール袋で密封して20℃で60分間緩和熟成した。緩和熟成とは、麺帯に水分を馴染ませて、硬直化した小麦タンパク結合組織の網目状構造の歪みや捻りを解消して、柔らかくて弾力のある麺帯にするための工程である。緩和熟成した麺帯を圧延ロールで段階的に薄くして、最終的に1.4mmの麺帯を得た。得られた麺帯を切刃#22角刃で切り出し、1食ずつアルコール揮散剤を封入したガスバリア性の包材にいれ、30℃で1か月間保存した。保存したものを10人のパネラーにより、各評価項目を5段階で評価し、平均点を求めた。
【0031】
【表2】
【0032】
リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムのいずれかと小麦タンパクを含む実施例1、実施例2は、小麦タンパクのみを添加した比較例1、リン酸一水素カルシウムのみを添加した比較例2、リン酸一水素カルシウムと小麦タンパクを添加した比較例3と比べて、外観の変色が少なく、食感における粘弾性が強くて、かんすい臭が維持されている事を確認した。また、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム、小麦タンパクの全てを含む実施例3も、小麦タンパクのみを添加した比較例1、リン酸一水素カルシウムのみを添加した比較例2、リン酸一水素カルシウムと小麦タンパクを添加した比較例3と比べて、外観の変色が少なく、食感における粘弾性が強くて、かんすい臭が維持されている事を確認した。
【0033】
【表3】
【0034】
実施例4~実施例10、比較例4で示すように、原料小麦粉100質量部に対してリン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムから選ばれる1種類以上のリン酸カルシウムが0.1質量部より少なければ、外観の変色効果が小さい事を確認した。また実施例4~実施例10、比較例5で示すように、原料小麦粉100質量部に対してリン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムから選ばれる1種類以上のリン酸カルシウムが0.6質量部より多ければ、かんすい臭が弱い事を確認した。
【0035】
【表4】
【0036】
実施例11~実施例13、比較例6で示すように、小麦タンパクの添加量が原料小麦粉100質量部に対して、0.5質量部より少ないと粘弾性の弱い食感となる事を確認した。また実施例11~実施例13、比較例7で示すように、小麦タンパクの添加量が原料小麦粉100質量部に対して、2.0質量部より多いと粘弾性が強くて、硬い食感となる事を確認した。