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特開2024-93948重水高濃縮液の製造方法、および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093948
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】重水高濃縮液の製造方法、および製造装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 59/40 20060101AFI20240702BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240702BHJP
【FI】
B01D59/40
C25B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210613
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】323001683
【氏名又は名称】アサヒプリテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504131459
【氏名又は名称】エフシー開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 泰行
(72)【発明者】
【氏名】吉田 将喜
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB05
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】原料水からより多くの重水高濃縮液をエネルギー効率よく製造できる技術、および/または重水高濃縮液の回収率を向上できる技術を提供すること。
【解決手段】本発明の重水高濃縮液の製造方法は、以下の工程を有する。
(1-1) 電解用水を電解して酸素ガス、水素ガス、重水濃縮水とを生成する電解工程、
(1-2) 前記酸素ガスと前記水素ガスを再結合させて再結合水を生成する電解ガス再結合工程、
(1-3) 前記重水濃縮水を用いて目標重水濃度に達するまで前記(1-1)電解工程と前記(1-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、前記目標重水濃度に達した重水濃縮水を系外に抜き出して前記重水高濃縮液とする重水濃縮水電解工程、
(1-4) 前記重水高濃縮液を抜き出した後、前記再結合水を用いて前記(1-1)電解工程、前記(1-2)電解ガス再結合工程、前記(1-3)重水濃縮水電解工程とを行う再結合水電解工程
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を有する重水高濃縮液の製造方法。
(1-1) 電解用水を電解して酸素ガス、水素ガス、重水濃縮水とを生成する電解工程、
(1-2) 前記酸素ガスと前記水素ガスを再結合させて再結合水を生成する電解ガス再結合工程、
(1-3) 前記重水濃縮水を用いて目標重水濃度に達するまで前記(1-1)電解工程と前記(1-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、前記目標重水濃度に達した重水濃縮水を系外に抜き出して前記重水高濃縮液とする重水濃縮水電解工程、
(1-4) 前記重水高濃縮液を抜き出した後、前記再結合水を用いて前記(1-1)電解工程、前記(1-2)電解ガス再結合工程、前記(1-3)重水濃縮水電解工程とを行う再結合水電解工程
【請求項2】
前記(1-4)再結合水電解工程の前記(1-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を用いて前記(1-1)電解工程、前記(1-2)電解ガス再結合工程、前記(1-3)重水濃縮水電解工程とを1回以上行うものである請求項1に記載の重水高濃縮液の製造方法。
【請求項3】
(1-1)電解工程の繰り返しにおいて、電解して得られた重水濃縮水を間欠的に前記(1-1)電解工程に電解用水として供給する請求項1に記載の重水高濃縮液の製造方法。
【請求項4】
(2-1) 電解用水を電解して酸素ガス、水素ガス、重水濃縮水とを生成する電解工程、
(2-2) 前記酸素ガスと前記水素ガスを再結合させて再結合水を生成する電解ガス再結合工程、
とを有する重水高濃縮液の製造方法であって、前記製造方法は以下の工程を有する。
(2-3) 前記重水濃縮水を電解用水として用いて前記(2-1)電解工程と前記(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、中間目標重水濃度を有する重水濃縮水と、再結合水とを生成させる重水濃縮水第1電解工程、
中間目標重水濃度を有する重水濃縮水を用いた工程[(2-4)(2-5)]と、再結合水を用いた工程(2-6)はいずれを先に行ってもよく、
工程[(2-4)(2-5)]を先に行う場合は、前記(2-3)重水濃縮水第1電解工程で生成した再結合水の一部または全部を抜き出した後、工程(2-4)、(2-5)、(2-6)の順で行う;
前記工程(2-6)を先に行う場合は、前記(2-3)重水濃縮水第1電解工程で生成した中間目標重水濃度を有する重水濃縮水の一部または全部を抜き出した後、工程(2-6)、(2-4)、(2-5)の順で行う;
(2-4) 前記(2-3)で生成した中間目標重水濃度を有する重水濃縮水を電解用水として用いて最終目標重水濃度に達するまで前記(2-1)電解工程と前記(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返す重水濃縮水第2電解工程、
(2-5) 前記(2-4)重水濃縮水第2電解工程で生成した最終目標重水濃度に達した重水濃縮水を重水高濃縮液として系外に抜き出す工程と、再結合水を抜き出す工程、
(2-6) 前記(2-3)で生成した再結合水を電解用水として用いて前記(2-1)電解工程と前記(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、生成した所定の重水濃度の重水濃縮水を系外に抜き出す重水濃縮水第3電解工程、
(2-7) 前記(2-5)で抜き出した再結合水と、前記(2-6)重水濃縮水第3電解工程で抜き出した所定の重水濃度の重水濃縮水とを含む混合水を生成し、該混合水を電解用水として前記(2-3)重水濃縮水第1電解工程に供給し、前記(2-3)以降の各工程を1回以上行う繰り返し工程
【請求項5】
(2-8) 前記(2-6)重水濃縮水第3電解工程の前記(2-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を電解用水として前記(2-1)電解工程と前記(2-2)電解ガス再結合工程とを繰り返して生成させた所定の重水濃度の重水濃縮水を含む電解用水を用いて前記(2-3)重水濃縮水第1電解工程に供給し、前記(2-3)以降の各工程を行うものである請求項4に記載の重水高濃縮液の製造方法。
【請求項6】
(2-9) 前記(2-8)で行う前記(2-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を電解用水として前記(2-1)電解工程と前記(2-2)電解ガス再結合工程とを繰り返して生成させた所定の重水濃度の重水濃縮水を含む電解用水を用いて前記(2-3)以降の各工程を行うものである請求項5に記載の重水高濃縮液の製造方法。
【請求項7】
前記(2-1)電解工程の繰り返しにおいて、電解して得られた重水濃縮水を間欠的に前記(2-1)電解工程の電解用水として供給する請求項4~6のいずれか1項に記載の重水高濃縮液の製造方法。
【請求項8】
重水高濃縮液の製造装置であって、
電解用水を電解する電解セル、
前記電解セルに前記電解用水を供給する電解前槽、
前記電解セルで濃縮された重水濃縮水を保管する電解後槽、
前記電解セルで生成した酸素ガスと水素ガスを再結合して再結合水を得る再結合器、
前記再結合水を保管する再結合水槽を有し、
前記電解後槽は前記重水濃縮水を前記電解前槽に供給するように接続されており、
前記再結合水槽は、前記再結合水を供給するように前記電解前槽と接続されている重水高濃縮液の製造装置。
【請求項9】
更に前記再結合器で生成した再結合水を一時保管する再結合水一時保管槽、および/または前記電解後槽の重水濃縮水を一時保管する重水濃縮水一時保管槽を有し、
前記再結合水一時保管槽は、一時保管された再結合水を前記電解前槽に供給するように接続されており、
前記重水濃縮水一時保管槽は、一時保管された重水濃縮水を前記電解前槽に供給するように接続されている請求項8に記載の重水高濃縮液の製造装置。
【請求項10】
前記製造装置は更に原料水槽を有し、前記原料水槽は、前記電解後槽、前記再結合水槽、および前記電解前槽に接続されている請求項9に記載の重水高濃縮液の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重水高濃縮液の製造方法、および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重水は、質量数の大きい同位体の水分子を多く含み、通常の水よりも比重の大きな水であり、例えば重水素や三重水素などの水素の同位体を含む。従来から重水は原子炉の減速材や冷却材として使用されているが、他にもNMRなどの解析技術における重溶媒(重水素化溶媒)など、様々な用途で使用されている。
重水製造技術として交換反応法、電解法、蒸留法、二重温度交換法などが知られている。重水製造技術のうち、電解法は重水の電気分解速度が通常の水(HO)よりも遅いという性質を利用して重水を含む原料水から重水を濃縮、分離して製造している。
【0003】
電解法を利用した重水の濃縮方法として、例えば特許文献1には原料水を電解装置の陰極側、陽極側に夫々連通している試料容器に供給して電解すると共に、電解によって生成された水素ガス、及び酸素ガスを夫々の試料容器を介して系外に排出する技術が開示されている。
また特許文献2にはアルカリ水濃度と原料水量が一定となるように循環槽にアルカリ水と原料水を常時供給しながら電解を行い、電解で生成した電解液を循環槽に循環させると共に、発生した酸素ガスと水素ガスを夫々系外に排気する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-167702号公報
【特許文献2】特開2015-29921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが検討した結果、従来技術の方法では、原料水から製造される目標濃度を有する重水高濃縮液量(原料水1Lに対する重水高濃縮液量)が少なかったり、エネルギー効率が悪いなどの問題があった。
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、原料水からより多くの重水高濃縮液をエネルギー効率よく製造できる技術、および/または重水高濃縮液の回収率(原料水1Lに対する重水高濃縮液量)を向上できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 以下の工程を有する重水高濃縮液の製造方法。
(1-1) 電解用水を電解して酸素ガス、水素ガス、重水濃縮水とを生成する電解工程、
(1-2) 前記酸素ガスと前記水素ガスを再結合させて再結合水を生成する電解ガス再結合工程、
(1-3) 前記重水濃縮水を用いて目標重水濃度に達するまで前記(1-1)電解工程と前記(1-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、前記目標重水濃度に達した重水濃縮水を系外に抜き出して前記重水高濃縮液とする重水濃縮水電解工程、
(1-4) 前記重水高濃縮液を抜き出した後、前記再結合水を用いて前記(1-1)電解工程、前記(1-2)電解ガス再結合工程、前記(1-3)重水濃縮水電解工程とを行う再結合水電解工程
【0007】
[2] 前記(1-4)再結合水電解工程の前記(1-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を用いて前記(1-1)電解工程、前記(1-2)電解ガス再結合工程、前記(1-3)重水濃縮水電解工程とを1回以上行うものである[1]に記載の重水高濃縮液の製造方法。
【0008】
[3] (1-1)電解工程の繰り返しにおいて、電解して得られた重水濃縮水を間欠的に前記(1-1)電解工程に電解用水として供給する[1]または[2]に記載の重水高濃縮液の製造方法。
【0009】
[4] (2-1) 電解用水を電解して酸素ガス、水素ガス、重水濃縮水とを生成する電解工程、
(2-2) 前記酸素ガスと前記水素ガスを再結合させて再結合水を生成する電解ガス再結合工程、
とを有する重水高濃縮液の製造方法であって、前記製造方法は以下の工程を有する。
(2-3) 前記重水濃縮水を電解用水として用いて前記(2-1)電解工程と前記(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、中間目標重水濃度を有する重水濃縮水と、再結合水とを生成させる重水濃縮水第1電解工程、
中間目標重水濃度を有する重水濃縮水を用いた工程[(2-4)(2-5)]と、再結合水を用いた工程(2-6)はいずれを先に行ってもよく、
工程[(2-4)(2-5)]を先に行う場合は、前記(2-3)重水濃縮水第1電解工程で生成した再結合水の一部または全部を抜き出した後、工程(2-4)、(2-5)、(2-6)の順で行う;
前記工程(2-6)を先に行う場合は、前記(2-3)重水濃縮水第1電解工程で生成した中間目標重水濃度を有する重水濃縮水の一部または全部を抜き出した後、工程(2-6)、(2-4)、(2-5)の順で行う;
(2-4) 最終目標重水濃度に達するまで前記(2-1)電解工程と前記(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返す重水濃縮水第2電解工程、
(2-5) 前記(2-4)重水濃縮水第2電解工程で生成した最終目標重水濃度に達した重水濃縮水を重水高濃縮液として系外に抜き出す工程と、再結合水を抜き出す工程、
(2-6) 前記(2-3)で生成した再結合水を電解用水として用いて前記(2-1)電解工程と前記(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、生成した所定の重水濃度の重水濃縮水を抜き出す重水濃縮水第3電解工程、
(2-7)前記(2-5)で抜き出した再結合水と、前記(2-6)重水濃縮水第3電解工程で抜き出した所定の重水濃度の重水濃縮水とを含む混合水を生成し、該混合水を電解用水として前記(2-3)重水濃縮水第1電解工程に供給し、前記(2-3)以降の各工程を1回以上行う繰り返し工程、
【0010】
[5] (2-8) 前記(2-6)重水濃縮水第3電解工程の前記(2-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を電解用水として前記(2-1)電解工程と前記(2-2)電解ガス再結合工程とを繰り返して生成させた所定の重水濃度の重水濃縮水を含む電解用水を用いて前記(2-3)重水濃縮水第1電解工程に供給し、前記(2-3)以降の各工程を行うものである[4]に記載の重水高濃縮液の製造方法。
【0011】
[6] (2-9) 前記(2-8)で行う前記(2-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を電解用水として前記(2-1)電解工程と前記(2-2)電解ガス再結合工程とを繰り返して生成させた所定の重水濃度の重水濃縮水を含む電解用水を用いて前記(2-3)以降の各工程を行うものである[5]に記載の重水高濃縮液の製造方法。
【0012】
[7] 前記(2-1)電解工程の繰り返しにおいて、電解して得られた重水濃縮水を間欠的に前記(2-1)電解工程の電解用水として供給する[4]~[6]に記載の重水高濃縮液の製造方法。
【0013】
[8] 重水高濃縮液の製造装置であって、
電解用水を電解する電解セル、
前記電解セルに前記電解用水を供給する電解前槽、
前記電解セルで濃縮された重水濃縮水を保管する電解後槽、
前記電解セルで生成した酸素ガスと水素ガスを再結合して再結合水を得る再結合器、
前記再結合水を保管する再結合水槽を有し、
前記電解後槽は前記重水濃縮水を前記電解前槽に供給するように接続されており、
前記再結合水槽は、前記再結合水を供給するように前記電解前槽と接続されている重水高濃縮液の製造装置。
【0014】
[9] 更に前記再結合器で生成した再結合水を一時保管する再結合水一時保管槽、および/または前記電解後槽の重水濃縮水を一時保管する重水濃縮水一時保管槽を有し、
前記再結合水一時保管槽は、一時保管された再結合水を前記電解前槽に供給するように接続されており、
前記重水濃縮水一時保管槽は、一時保管された重水濃縮水を前記電解前槽に供給するように接続されている[8]に記載の重水高濃縮液の製造装置。
【0015】
[10] 前記製造装置は更に原料水槽を有し、前記原料水槽は、前記電解後槽、前記再結合水槽、および前記電解前槽に接続されている[9]に記載の重水高濃縮液の製造装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、原料水からより多くの重水高濃縮液をエネルギー効率よく製造する技術、および/または重水高濃縮液の回収率(原料水1Lに対する重水高濃縮液量)を向上する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、第1の実施形態の構成例を示す図である。
図2図2は、第2の実施形態の構成例を示す図である。
図3図3は、実施例2をプロットした図である。
図4図4は、第1の実施形態の模擬実施例である。
図5図5は、第2の実施形態の模擬実施例である。
図6図6は、第1の実施形態と第2の実施形態の模擬実施例の結果をプロットした図である。
図7図7は、第1の実施形態と第2の実施形態の模擬実施例の結果をプロットした図である。
図8図8は、実施例5-1のシミュレーション結果を示す図である。
図9図9は、実施例5-2-1のシミュレーション結果を示す図である。
図10図10は、実施例5-2-2のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らが検討した結果、原料水を電解して得られる重水濃縮水を繰り返し電解するだけでなく、電解により生成する酸素ガスと水素ガスを再結合させて得られた再結合水を電解用水として電解する工程を適切に組み合わせることにより、原料水からより多くの重水高濃縮液をエネルギー効率よく製造できることを見出し、本発明に至った。
また所定の濃度を有する重水濃縮水と再結合水を原料水と混合して得られた混合水を電解用水として電解すると、重水高濃縮液の回収率(原料水1Lに対する重水高濃縮液量)を向上できることを見出した。
【0019】
第1の実施形態(以下、再結合水再電解法ということがある。)
図1に基づいて第1の実施形態による重水高濃縮液の製造方法を説明するが、本発明の製造方法は図示例、及び以下の説明に限定されず、適宜変更可能である。
図1は重水高濃縮液の製造装置であって、電解用水を電解する電解セル1、電解セル1に電解用水を供給する電解前槽2、電解セル1で濃縮された重水濃縮水を保管する電解後槽3、触媒等の手段で水素と酸素を再結合させる再結合器4、再結合させて得られた水蒸気を凝縮させて再結合水とするチラー5、再結合水を貯える再結合水槽6を有する。これら各ユニットは接続ラインで接続されており、例えば電解後槽3は重水濃縮水を電解前槽2に供給するように接続ライン27で接続されており、再結合水槽6は再結合水を電解前槽2に供給するように接続ライン31で接続されている。
【0020】
電解用水
本発明において電解用水とは電解セル1で電解処理される液体である。本発明では電解前槽2に貯留されている電解処理前の原料水、重水濃縮水、再結合水、混合水などを電解用水ということがある。
原料水は電解に用いられる原料であり、好ましくは重水を含む純水である。純水は電気抵抗率が好ましくは0.1~15MΩ・cmであるが、15MΩ・cm超でもよい。原料水に含まれる重水の濃度は限定されず、任意の濃度に調整した重水を原料水とすることも好ましい。
電解促進のため原料水にイオン性物質などの添加剤を添加してもよいが、添加剤なしでも電解促進できる電解セルを用いて添加剤を含まない原料水を用いることが好ましい。
【0021】
(1-1)電解工程
電解工程は、電解用水を電解して酸素ガス、水素ガス、重水濃縮水とを生成する工程である。重水濃縮水は電解により重水濃度が高くなった電解処理水である。
図3は、電解工程(1-1)で電解により重水濃度が高くなる実測データを示す。横軸の電解率は初期電解水量が電解された割合を示している。
図1では弁16を開放して原料水槽14に貯留されている原料水の一部または全量を電解用水の貯留槽である電解前槽2(以下、アノード槽ということがある)に所定量供給してから弁16を閉止する。なお、弁の設置は任意であり、液の供給をコントロールする公知の手段を採用できる。例えば原料水槽14に空気弁などを設けて液の供給をコントロールしてもよく、このような場合、弁16を設けなくても供給量を調整できる。以下、特に記載しないが、図示例の各弁はいずれも設置は任意であり、液の供給をコントロールする公知の手段によって代替してもよい。
電解中は必要により設けた送液手段であるポンプ9を稼働させて電解前槽2から電解セル1のアノード室1aに電解用水を供給すると共に、電解セル1に図示しない電源から電流を流して電解処理を行う。
【0022】
電解セル1は電気分解によって電解ガス(水素ガス、酸素ガス)と重水濃縮水とを生成する装置であり、各種公知の電解セルを使用できる。
例えば電解セル1は好ましくはアノード室1a、カソード室1b、電解質膜1cを有する。電解セル1は電解質膜1cでアノード室1a、カソード室1bに分けられている。
電解質膜1cは水素イオン伝導性を有する電解質膜の両側にアノード電極1c-1とカソード電極1c-2が設けられた膜電極接合体であることが好ましく、各種公知の膜電極接合体を用いることができる。また電解質膜1cは電解用の各種公知の電解質膜を使用でき、例えばナフィオン膜、水酸化物イオン(OH-)伝導性を持つ電解質膜や原料水にイオン性物質を添加した多孔質膜などを用いることもできるがこれに限定されない。
アノード電極1c-1、カソード電極1c-2も各種公知の材料を使用でき、例えばアノード電極としてイリジウム系触媒、カソード電極として白金系触媒が例示される。
【0023】
電解セル1に電流を流すと、アノード室1a内の電解用水が電解されて酸素ガスが発生すると共に、電解質膜1cを透過した水素イオンがカソード電極で還元されて水素ガスが発生し、水素イオンが同伴した電解用水がカソード室1bに流出しカソード水となる。
アノード室1a内の酸素ガスは接続ライン22から電解前槽2を介して接続ライン23を通って再結合器4に供給される。
なお、アノード室1aから酸素ガスを再結合器4に供給する経路は任意に変更可能である。
【0024】
カソード室1b内の水素ガスは接続ライン24を通って再結合器4に供給される。またカソード室1b内のカソード水接続ライン25を通ってカソード水の貯留槽である電解後槽3(以下、カソード槽ということがある)に貯留(以下、貯留されたカソード水を重水濃縮水ということがある)される。電解後槽3には必要に応じて接続ライン26を設け、カソード水に随伴して電解後槽3内に導入された水素ガスを接続ライン26を介して再結合器4に供給してもよい。カソード室1bから水素ガスを再結合器4に供給する経路は任意に変更可能である。
電解前槽2、電解後槽3は気液分離装置であることが好ましく、各種公知の気液分離装置を使用できる。
【0025】
(1-2)電解ガス再結合工程
電解ガス再結合工程は、(1-2)電解工程で生成された水素ガスと酸素ガスを再結合させて再結合水を生成する工程である。
図示例では酸素ガスと水素ガスを再結合させた再結合水を再結合水槽6に貯留している。再結合水を生成できる手段として、例えば水素ガスと酸素ガスの混合ガスの燃焼手段と、燃焼して得た水蒸気を凝縮する手段とを有することが好ましい。
図示例では、酸素ガスと水素ガスの混合ガスは再結合器4で燃焼されて水蒸気となり、続くチラー5で凝縮されて再結合水が得られる。
なお、水素ガスと酸素ガスの混合は、再結合器4内でも良いし再結合器4導入前でも良い。
再結合器4は触媒燃焼器など各種公知の再結合器を使用できる。触媒も特に限定されず、白金、金、銀、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、これらを含む合金など各種公知の再結合用触媒が例示される。
チラー5は水蒸気(再結合ガス)を液化できればよく、各種公知のチラーを使用できる。得られた再結合水には重水濃縮水よりも重水濃度は低いが重水が含まれている。
【0026】
(1-3)重水濃縮水電解工程
重水濃縮水電解工程は(1-1)電解工程で生成した重水濃縮水を電解用水として目標重水濃度に達するまで(1-1)電解工程と(1-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、目標重水濃度に達した重水濃縮水を系外に抜き出して重水高濃縮液を得る工程である。
図示例では弁10、10aを開放して電解後槽3内の重水濃縮水(カソード水)を接続ライン27を介して電解前槽2に供給し、弁10、10aを閉止する。電解前槽2に供給された重水濃縮水を電解用水として(1-1)電解工程、及び(1-2)電解ガス再結合工程を行う(電解処理ということがある)。
目標重水濃度に達するまで(1-1)電解工程と(1-2)電解ガス再結合工程を繰り返すとは、電解後の重水濃縮水が目標重水濃度に達していなければ、該重水濃縮水を電解前槽2に供給して電解処理を再度行うことである。
重水濃縮水は電解処理を行うと、得られた重水濃縮水の重水濃度が高くなるため、電解処理を複数回繰り返すと目標重水濃度を有する重水濃縮水(以下、重水高濃縮液ということがある)が得られる。
目標重水濃度は重水の使用目的により適宜設定できるが、重水素化合物製造に使用する重水の場合、95%~99%である。
目標濃度に達した重水高濃縮液は例えば弁10、12を開放して接続ライン28を介して電解後槽3から電解処理の系外である濃縮水槽7に移送される。
なお、(1-3)重水濃縮水電解工程では原料水槽14から原料水を電解前槽2に追加供給しないことが好ましい。原料水は重水濃縮水よりも重水濃度が低いため重水濃縮水と混合すると重水濃度が低下してエネルギー効率が悪くなる。
原料水を電解開始時の電解用水とする上記(1-1)~(1-3)までの工程を第1電解処理ということがある。
【0027】
(1-4)再結合水電解工程
再結合水電解工程は、(1-3)重水濃縮水電解工程で得られた重水高濃縮液を抜き出した後、(1-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を電解用水として重水高濃縮液を製造する工程である(以下、第2電解処理ということがある)。
図示例では重水高濃縮液を濃縮水槽7に抜き出した後、弁11を開放して再結合水槽6内の再結合水を接続ライン31を介して電解前槽2に供給し、弁11を閉止する。そして電解前槽2内に供給した再結合水を電解用水として(1-1)電解工程、(1-2)電解ガス再結合工程、(1-3)重水濃縮水電解工程を行う。
電解処理開始時の電解用水を原料水から再結合水に変更する以外は上記第1電解処理と同じであるため、(1-4)再結合水電解工程で行う(1-1)電解工程、(1-2)電解ガス再結合工程、(1-3)重水濃縮水電解工程の説明は省略する。
電解処理を複数回繰り返して得られた重水高濃縮液は上記の様に濃縮水槽7に移送される。
なお、(1-4)再結合水電解工程でも電解用水の重水濃度の変動を避けるため原料水槽14からは原料水を電解前槽2に追加供給しないことが好ましい(以下、同じ)。
【0028】
本発明では上記(1-4)再結合水電解工程を1回以上行うことも好ましい実施態様である。すなわち、(1-4)再結合水電解工程の(1-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を電解処理開始時の電解用水として(1-1)電解工程、(1-2)電解ガス再結合工程、(1-3)重水濃縮水電解工程とを1回以上行うことが好ましい。
(1-4)再結合水電解工程の(1-3)重水濃縮水電解工程で得られた重水濃縮水(重水高濃縮液)を抜き出した後、(1-4)再結合水電解工程の(1-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を上記のように再結合水槽6から電解前槽2に供給し、上記(1-4)再結合水電解工程と同じ工程を行うことで、再結合水から重水高濃縮液が得られる。
なお、再結合水の電解処理は1回であってもよいし、2回以上であってもよい。再結合水の電解処理回数が増えるほど重水高濃縮液の収量が増加する。
【0029】
本発明では(1-1)電解工程の繰り返しにおいて電解して得られた重水濃縮水を電解用水として間欠的に(1-1)電解工程に供給することも好ましい実施形態である。(1-1)電解工程の繰り返しは例えば(1-3)重水濃縮液電解工程、および/または(1-4)再結合水電解工程において行われる。
図示例では電解して得られた電解後槽3内の重水濃縮水を電解前槽2に供給し、これを電解用水として(1-1)電解工程を繰り返すことで重水濃度を高めている。電解前槽2内の電解用水(アノード水)は、電解後槽3内の重水濃縮水(カソード水)よりも重水濃度が低いため両者を混合すると重水濃縮水(カソード水)の重水濃度が希釈される。アノード水が多いほど重水濃縮水の濃度低下が大きく、電解時間、消費電力のロスが生じてエネルギー効率が悪くなる。そのためアノード水が少ない時に電解後槽3から電解前槽2に重水濃縮水(カソード水)を間欠的に供給することが好ましい。アノード水量がカソード水量の30%以下、より好ましくは5%以下の時にカソード水を電解前槽2に供給することが好ましい。
【0030】
電解後槽3から電解前槽2に重水濃縮水を連続的に供給することもできるが、重水濃縮水の希釈を抑制する観点からは電解後槽3内の重水濃縮水は間欠的に電解前槽2に供給することが好ましい。
上記間欠的な供給方法として一定間隔、あるいは不定期間隔で電解後槽3から重水濃縮水を電解前槽2に供給してもよい。重水濃縮水の供給間隔が長くなる程、電解前槽2内の電解用水残量も低減するため、重水濃縮水の重水濃度希釈を抑制できる。例えば電解前槽2内の電解用水量が所定量以下になってから重水濃縮水を電解前槽2に供給してもよい。
また供給方法として連続的な供給と間欠的な供給を組み合わせてもよい。少量の重水濃縮水、例えば電解セル1おける電解用水の電解膜通過速度の1/10程度の供給速度で電解後槽3から電解前槽2に重水濃縮水を連続的に供給しつつ、所望の間隔でより多量の重水濃縮水を電解後槽3から電解前槽2に供給してもよい。
【0031】
重水高濃縮液の製造終了時期は特に限定されない。(1-4)再結合水電解工程を任意の回数行ってから重水高濃縮液の製造を終了してもよい。(1-4)再結合水電解工程を繰り返し行うと濃縮水槽7内の重水高濃縮液量は増加するが、生成する再結合水量は低下する。そのため再結合水槽6内の再結合水量が電解に必要な最低量を確保できなくなった時点で電解処理を終了してもよい。
重水高濃縮液の製造を終了する場合、再結合水槽6内の再結合水は弁13を開放して希釈水槽8で回収することが好ましい。回収した再結合水の用途は限定されず、例えば原料水槽14に供給して、他の原料水と混合してもよい。
上記第1の実施態様によれば、原料水からより多くの重水高濃縮液を製造できる。
【0032】
第2の実施形態(以下、原料水電解回収法ということがある)
以下、図2に基づいて第2の実施形態による重水高濃縮液の製造方を説明するが、本発明の重水製造方法は図示例、及び以下の説明に限定されず、適宜変更可能である。
なお、特段の言及がある場合を除いて図1と同じ名称を付している装置、構成については重複する説明を省略する。
図2の重水高濃縮液の製造装置は図1の装置構成に加えて、更に再結合器4とチラー5で生成した再結合水を一時保管する再結合水一時保管槽15、および/または電解後槽3の重水濃縮水を一時保管する重水濃縮水一時保管槽7aを有する。
再結合水一時保管槽15を設ける場合は、一時保管された再結合水を電解前槽2に供給するように接続ライン33で接続されており、弁17、18の開閉によって供給される。
また重水濃縮水一時保管槽7aを設ける場合は、一時保管された重水濃縮水を電解前槽2に供給するように接続ライン27で接続されており、弁17a、17b、10a、10bの開閉によって供給される。
【0033】
電解用水
電解用水は第1の実施形態と同じである。
【0034】
(2-1)電解工程
電解工程は、電解用水を電解して酸素ガス、水素ガス、重水濃縮水とを生成する工程である。
(2-1)電解工程は(1-1)電解工程と同じであるため説明を省略する。
【0035】
(2-2)電解ガス再結合工程
電解ガス再結合工程は、電解用水を電解して生成された酸素ガスと水素ガスを再結合させて再結合水を生成する工程である。
(2-2)電解ガス再結合工程は(1-2)電解ガス再結合工程と同じであるため説明を省略する。
【0036】
(2-3)重水濃縮水第1電解工程
重水濃縮水第1電解工程は(2-1)電解工程で生成した重水濃縮水を電解用水として(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、中間目標重水濃度を有する重水濃縮水と、再結合水とを生成する工程である。
図示例では、電解後槽3内の重水濃縮水を弁10、10a、10bを開放して接続ライン27を介して電解前槽2に供給した後、弁10、10a、10bを閉止すると共に、電解前槽2に供給された重水濃縮水を電解用水として(2-1)電解工程、及び(2-2)電解ガス再結合工程を行う電解処理を重水濃縮水の重水濃度が中間目標重水濃度に達するまで繰り返す。
中間目標重水濃度に達するまで(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返すとは、電解後の重水濃縮水が目標とする中間重水濃度に達していなければ、該重水濃縮水を電解前槽2に供給して電解処理を再度行うことである。
【0037】
中間目標重水濃度とは、後記する重水濃縮水第2電解工程の開始時の電解用水として用いる重水濃縮水の重水濃度である。中間目標重水濃度は、電解処理を繰り返して重水濃縮水が最終目標重水濃度に達したときに再結合水の重水濃度が原料水の重水濃度と同じ濃度(なお、2%以内の濃度差を含む、以下同じ)になるように設定される。
電解処理後の重水濃縮水の重水濃度が最終目標濃度のときに再結合水の重水濃度が原料水の重水濃度と同じになる電解水の濃度が中間目標重水濃度である。この値はあらかじめ重水濃度の異なる電解水を用いた実験で求めることができ、あるいは電解セルの重水濃縮特性が分かっていればあらかじめ計算で予測することもできる。第一電解工程において、重水濃度が目標重水濃度に達したかどうかは、例えば電解後槽3内の重水濃縮水の重水濃度を測定して判定できる。
【0038】
本発明では重水濃縮水第1電解工程後、中間目標濃度を有する重水濃縮水を用いて、(i)下記工程(2-4)、(2-5)、(2-6)の順で行ってもよいし、(ii)再結合水を用いて工程(2-6)を行ってから工程(2-4)、(2-5)の順で行ってもよい。
(i)下記工程(2-4)、(2-5)を先に行う場合は、(2-3)重水濃縮水第1電解工程で生成した再結合水の一部または全部を抜き出した後、(2-3)で生成した中間目標重水濃度を有する重水濃縮水を電解用水として用いて工程(2-4)、(2-5)を行う。工程(2-5)を終えた後、該抜き出した再結合水を電解用水として用いて工程(2-6)を行う。
(ii)工程(2-6)を先に行う場合は、(2-3)重水濃縮水第1電解工程で生成した中間目標濃度を有する重水濃縮水の一部または全部を抜き出し、(2-3)で生成した再結合水を電解用水として用いて工程(2-6)を行う。工程(2-6)で得られた所定濃度の重水濃縮水を抜き出した後、工程(2-3)で生成した中間目標濃度を有する重水濃縮水を電解用水として用いて工程(2-4)、(2-5)を行う。
なお、中間目標濃度を有する重水濃縮水や再結合水を抜き出す場合は、保管槽などの貯槽を設けて一時的に保存し、必要に応じて電解用水として供給できるように構成することが好ましい。また工程(2-6)で生成した所定濃度の重水濃縮水を抜き出す場合も同様に保管槽などの貯槽を設けて一時的に保存してもよいし、原料水槽14に供給して保存してもよい。
再結合水を抜き出す場合、重水濃縮水が中間目標重水濃度に達した後、弁17を開放して再結合水槽6内の再結合水を再結合水一時保管槽15に移送し、弁17を閉止する。再結合水槽6内の再結合水の重水濃度は原料水槽14内の原料水の重水濃度よりも低いため、再結合水は全量抜き出すことが好ましい。
中間目標重水濃度を有する重水濃縮水を抜き出す場合、重水濃縮水が中間目標重水濃度に達した後、弁17aを開放して電解後槽3内の重水濃縮水を重水濃縮水一時保管槽7aに抜き出し、弁7aを閉止する。一度抜き出して重水濃縮水一時保管槽に保管した重水濃縮水を改めて電解用水として使用する場合は弁17b、10a、10bを開放して電解前槽2に供給する。中間目標重水濃度を有する重水濃縮水は全量抜き出すことも望ましい実施態様である。
【0039】
(2-4)重水濃縮水第2電解工程
重水濃縮水第2電解工程は、中間目標重水濃度を有する重水濃縮水を用いて最終目標重水濃度に達するまで(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返す工程である。
中間目標重水濃度の重水濃縮水を電解水に用いる場合は、弁10、10a、10bを開放して接続ライン27を介して電解前槽2に供給し、(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程を行う。
最終目標重水濃度に達するまでの(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程の繰り返しは、(1-3)重水濃縮水電解工程と同じ処理であるため説明を省略する。
【0040】
(2-5)抜き出し工程
抜き出し工程は、最終目標重水濃度に達した重水濃縮水を系外に抜き出して重水高濃縮液とすると共に、(2-4)重水濃縮水第2電解工程の(2-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を抜き出す工程である。
最終目標重水濃度は適宜設定できるが、第1の実施形態と同様、好ましくは95%~99%である。重水濃縮水の重水濃度が最終目標重水濃度に達した後、弁10、12を開放して接続ライン28を介して電解後槽3から電解処理の系外である濃縮水槽7に移送される。濃縮水槽7には重水高濃縮液が貯留される。
【0041】
再結合水槽6内の再結合水は弁19を開放して接続ライン32を介して原料水槽14に供給し、弁19を閉止する。送液手段であるポンプ21の設置は任意である。原料水と同じ重水濃度を有する再結合水槽6内の再結合水は生成水ということがある。生成水は原料水槽14内の原料水と同じ重水濃度であるため、原料水と混合しても重水濃度の希釈に起因する電解時間や消費エネルギーロスがなく、エネルギー効率を低下させない。抜き出した再結合水は原料水槽14に移して他の液体と混合して混合水とすることも好ましい実施態様である。
【0042】
(2-6)重水濃縮水第3電解工程
重水濃縮水第3電解工程は、(2-3)重水濃縮水第1電解工程で生成した再結合水を電解用水として用いて(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、所定の重水濃度の重水濃縮水を生成する工程である。
本発明では(2-3)重水濃縮水第1電解工程の(2-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を電解開始時の電解用水として電解処理を行い、電解後の重水濃縮水が所定の重水濃度になるまで(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返す。中間目標重水濃度を所定の重水濃度に変更した以外は(2-3)重水濃縮水第1電解工程の(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程の繰り返しと同じであるため説明を省略する。
所定の重水濃度とは、好ましくは上記生成水の重水濃度、乃至原料水の重水濃度である。例えば(2-5)で抜き出した再結合水の重水濃度と同程度であってもよく、あるいは下記混合工程で混合する他の液体の重水濃度と同程度であってもよいし、原料水の重水濃度と同程度であってもよい。
中間目標濃度重水を一時保管して、先に(2-6)重水濃縮水第3電解工程を行う場合、中間目標濃度の重水濃縮水を弁17aを開いて重水濃縮水一時保管槽7aに移し弁17aを閉止した後、弁11を開いて再結合水槽6にある第一電解工程の再結合水を接続ライン33を経由して電解前槽2に移動させ弁11を閉止し、(2-6)第3電解工程を実施する。第3電解工程で生成した高濃度重水を弁10、10a、及び20を開き、ポンプ21で原料水槽14に送り、各弁を閉止した後、重水濃縮水一時保管槽7aにある中間目標濃度の重水を弁17a、17b、10a、10bを開いて電解前槽2に移し、各弁を閉止後、(2-4)第2電解工程を実施する。得られた混合水を電解開始時の電解用水として下記工程(2-7)を行うことで上記最終目標重水濃度を有する重水濃縮水を得ることができる。最終目標重水濃度に達した重水濃縮水は、電解後槽3から抜き出して濃縮水槽7に供給することが好ましい。
上記工程(2-4)、(2-5)の後に(2-6)重水濃縮水第3電解工程を行う場合は、弁18を開いて再結合水一時保管槽15に一時保管していた再結合水を接続ライン33を経由して電解前槽2に移動させ弁18を閉止し、(2-6)重水濃縮水第3電解工程を行えばよい。
【0043】
(2-7)繰り返し工程
(2-5)で抜き出した再結合水と、(2-6)重水濃縮水第3電解工程で生成した所定の重水濃度の重水濃縮水とを含む混合水を生成し、該混合水を電解用水として(2-3)重水濃縮水第1電解工程に供給し、(2-3)以降の各工程を1回以上行う。
所定の重水濃度を有する重水濃縮水は弁10、10a、20を開放して任意に設置したポンプ21で電解後槽3から原料水槽14に供給される。また再結合水は弁19を開放して任意に設置したポンプ21で再結合水槽6から原料水槽14に供給される。原料水槽14に供給する重水濃縮水と再結合水の順序は問わない。原料水槽14に供給して得られた混合水には少なくとも生成水か、所定の重水濃度を有する重水濃縮水のいずれかが含まれていればよく、生成水と重水濃縮水の両方が含まれていてもよい。また混合水には原料水が含まれず、生成水、および/または重水濃縮水のみで構成されていてもよいし、生成水、および/または重水濃縮水と、原料水から構成されていてもよい。混合割合は特に限定されない。
混合水を構成する生成水、重水濃縮水、原料水は重水濃度が同じであるため、混合による重水濃度の希釈を抑制できる。
【0044】
本発明では混合水を電解用水として重水高濃縮液の製造を行う。具体的には混合水を電解用水として(2-3)重水濃縮水第1電解工程に供給し、前記(2-3)以降の各工程を1回以上行って最終目標重水濃度を有する重水高濃縮液を製造する。
図示例では弁16を開放して任意量の混合水を原料水槽14から電解前槽2に供給した後、弁16を閉止する。電解前槽2に供給された混合水を電解用水として電解処理を行う。
混合水を電解開始時の電解用水とした以外は、既に説明した(2-1)~(2-6)までの工程と同じであるため説明を省略する。原料水と同じ濃度の重水濃縮水や再結合水が回収されるので、原料水の消費量が減少し、原料水に対する重水高濃縮液の回収率が向上する。
最終目標重水濃度に達した重水濃縮水(重水高濃縮液)は上記の様に濃縮水槽7に移送される。
【0045】
(2-8) 重水濃縮水第3電解工程の再結合水の電解により得られた重水濃縮水の電解処理
本発明では(2-4)重水濃縮水第3電解工程の(2-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を電解用水として用いて(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、上記生成水の重水濃度と同じ濃度になった重水濃縮水を原料水槽14に移し、重水濃縮水を含む混合水とすることも好ましい実施態様である。この混合水の構成は上記と同じである。(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程の繰り返しについては既に説明しているため省略する。
(2-6)重水濃縮水第3電解工程で得られた重水濃縮水を原料水槽に移した後、(2-6)重水濃縮水第3電解工程の(2-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を再結合水槽6から電解前槽2に供給し、再結合水を電解開始時の電解用水として(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程を行い、該電解処理で得られた重水濃縮水の電解処理を繰り返し、(2-4)重水濃縮水第2電解工程の上記生成水の重水濃度と同じ重水濃度を有する重水濃縮水を生成する。生成水と同じ重水濃度に達した重水濃縮水は(2-6)重水濃縮水第3電解工程と同様にして電解後槽3から原料水槽14に供給して上記生成水との混合水が得られる。得られた混合水を電解開始時の電解用水として(2-7)繰り返し工程を行うことで上記最終目標重水濃度を有する重水濃縮水が得られる。最終目標重水濃度に達した重水濃縮水は、電解後槽3から抜き出して濃縮水槽7に供給することが好ましい。
【0046】
(2-9) (2-8)の再結合水の電解により得られた重水濃縮水の電解
本発明では上記(2-8)の(2-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を用いて(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、この(2-2)電解ガス再結合工程で生成した再結合水を用いて(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、上記生成水の重水濃度と同じ濃度になった重水濃縮水を抜き出して上記生成水と混合して混合水とすることも好ましい実施態様である。(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程の繰り返しについては既に説明しているため省略する。
上記(2-8)において生成水と同じ重水濃度になった重水濃縮水を電解後槽3から抜き出して原料水槽14に供給した後、再結合水槽6内の再結合水を電解前槽2に供給し、これを電解開始時の電解用水として(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返し、(2-4)重水濃縮水第2電解工程の生成水の重水濃度と同じ重水濃度を有する重水濃縮水を生成する。該重水濃縮水は電解後槽3から原料水槽14に供給して上記生成水と混合して混合水が得られる。
またこの混合水を電解用水として(2-1)電解工程と(2-2)電解ガス再結合工程を繰り返すことで上記最終目標重水濃度を有する重水濃縮水を得ることができる。最終目標重水濃度に達した重水濃縮水は、電解後槽3から抜き出して濃縮水槽7に供給することが好ましい。
原料水槽14から電解前槽2に混合水を供給する回数を複数回実施することにより、重水高濃縮液の収量を回数に伴って増やすことができるが、供給回数が増えると共に混合水量は減少し、混合水量が0になるとき、重水高濃縮液の回収率(重水高濃縮液量/原料水量×100%)が理論的に最大となる。
【0047】
残った再結合水を電解用水として使用しない場合は、弁13を開放して再結合水槽6内の再結合水を希釈水槽8で回収することが好ましい。回収した希釈槽8内の再結合水の用途は特に限定されない。
【0048】
本発明において、(2-1)電解工程の繰り返しにおいて、電解して得られた重水濃縮水を間欠的に前記(2-1)電解工程の電解用水として供給することも好ましい実施態様である。
(2-1)電解工程では重水濃度を高めるために、電解して得られた重水濃縮水の再電解、すなわち、重水濃縮水は電解後槽3から電解前槽2への供給が任意回数繰り返される。このとき、電解後槽3から電解前槽2への重水濃縮水の供給は、第1の実施形態と同様、間欠的な供給が好ましく、第1の実施形態と同じであるため説明を省略する。
【0049】
重水高濃縮液の製造終了時期は第1の実施形態と同じであるため説明を省略する。
【実施例0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0051】
実施例1(電解工程のシミュレーション)
重水濃度85%の原料水を図1に示す電解装置で電解処理を行い、重水高濃縮液の目標重水濃度を97%、98%、99%に設定した場合の重水高濃縮液の回収率、再結合水の重水濃度、及び再結合水の回収率を求めた。電解セルにおける重水濃縮に関する分離係数を3としてシミュレーションした結果を表1に示す。表1は、再結合水再電解法の一部を構成する電解工程(1-1)~(1-3)、あるいは原料水電解回収法の一部を構成する電解工程(2-1)~(2-3)で得られる重水高濃縮液と再結合水の濃度と回収率を示す表である。分離係数3はA.Pozio,S.Tosti,International Journal of Hydrogen Energy44(2019)7544-7554、及び後記する実測値に基づく値である。
【0052】
分離係数αとは、電解過程で発生する水素ガス中の重水素濃度Pと軽水素濃度1-Pの比に対する残された水の重水濃度P’と軽水濃度1-P’の比で、次式で定義される。
[P/(1-P)]=α[P’/(1-P’)]・・・(1)
【0053】
電解により電解ガスが発生し、残された未電解の重水の濃度が増加する状況は次式で表せることが、川島、日本機械学会誌 第59巻 第449号(1956)に記載されている。
αlog(Pm/P)+log[(1-P)/(1-Pm)]=-(α-1)log[1-(ΔM/M)]・・・(2)
ここで、αは式(1)で定義される重水濃縮水に関する分離係数、P0は初期重水濃度、M0は初期重水量、ΔMは電解された重水量、Pmは残された重水、すなわち重水濃縮水の濃度である。ΔMは、電解装置に流した電流と電解時間からファラデー則により算出できる量である。
【0054】
回収率
重水高濃縮液の回収率
原料重水1Lから電気分解によって何Lの重水高濃縮液が得られたかを示す実用的指標であり、その割合を回収率(%)とする。
【0055】
再結合水の回収率
再結合水の回収率は、電解された水の量ΔMを初期重水量M0で割った値である。なお、ΔM/Mは、電解された割合でもあるので、この回収率を電解率ということがある。
【0056】
【表1】
【0057】
表1において、分離係数α=3、初期重水濃度P0=85%、目標重水濃度Pm=97%、98%、または99%である場合、これらの値を(2)式に代入し、ΔM/Mを求めることができる。ΔM/Mは、再結合水の回収率であり、重水高濃縮液の回収率は1-ΔM/Mとして計算できる。また、初期重水は、重水高濃縮水と再結合水に分かれるので、物質保存則に基づき再結合水の濃度Prは次式により算出できる。
【数1】
【0058】
表1中、No.1(目標重水濃度97%)は重水濃度85%の原料水を電解開始時の電解用水として電解し、得られた重水濃縮水の重水濃度が97%になるまで重水濃縮水を電解用水として電解を繰り返した場合の回収率等を式(2)を用いて算出した値が記載されている。
No.1の重水高濃縮液の濃度Pmが97%のとき、97%重水高濃縮液の回収率(1-ΔM/M0)は36.7%である。またこの電解によって得られた再結合水の重水濃度Pr(%)は78.0%、その回収率ΔM/M0は63.3%である。No.2、No.3も同様にして評価した。
【0059】
実施例2(電解工程の実測)
図3は再結合水再電解法の一部を構成する電解工程(1-1)~(1-3)、あるいは原料水電解回収法の一部を構成する電解工程(2-1)~(2-3)の実測例である。電解セル1に電極面積4.18cmの3セル積層スタックを用いた。
電解セルは、アノード触媒にIrO2-TiO2、1mg/cm2とカソード触媒にPt/C、0.5mgPt/cm2を用い、これらをNafion電解質膜の各面に接合した膜電極接合体、Ti繊維焼結体からなるアノード拡散層、カーボン紙からなるカソード拡散層、PtメッキTi流路板を積層したセル構成である。
アノード室に初期重水濃度71.7%(図中:●、初期重水量106.4g)、81.8%(図中:▲、107.6g)、または92.4%(図中、■、104.9g)の重水を14mL/min供給しながら、セル温度35℃、電流密度2A/cm2の条件で電解を行った。
図中の各記号(●、▲、■)で示す値は、電解後槽3内の重水濃縮水を電解前槽2に供給した直後の電解前槽2内の電解用水の重水濃度である。なお、電解前槽2内の電解用水がほぼ空(残り5mL)になってから電解後槽3から重水濃縮水を電解前槽2に供給した。重水濃度は、電解前槽内の電解用水を少量サンプリングしてFTIRで測定した。
【0060】
図3中、各記号は、実際に原料水を電解して得られた値である。例えば初期重水濃度81.8%(図中、▲:初期重水量107.6g)の原料水を電解率(電解した水の量(mol)/原料水量(mol))0.17(原料水の17%を電解)まで電解すると電解前槽2がほぼ空(残り5mL)になり、そのとき、電解後槽3から電解前槽2に重水濃縮水を供給しその重水濃度は85.4%となった。なお、残り5mLの時電解後槽3の重水濃縮水を電解前槽2に移動させた理由は、この装置では5mL以下になると電解用水不足で電解セル1が故障する懸念があるためである。電解を続けると電解率0.27の時電解前槽2が再びほぼ空(2回目)になり、電解後槽3から供給した重水濃縮水の重水濃度は87.9%であった。更に電解を続けると電解率0.35で電解前槽2が3回目の空になり重水濃度は89.1%となり、電解率0.59では電解前槽2が10回目の空になり重水濃度は95.5%となった。回数を重ねる度に、電解前槽2が空になる時間ピッチが短くなるのは、電解によって、電解水量が減少するためである。第4回~第9回目の重水濃度測定は省略している。なお、電解前槽2の上記電解水残量5mLは、装置のサイズ、構成によって適宜変更可能である。
【0061】
電解前槽2の電解水量について:重水濃縮水を移動させる回数が増えるほど移動する量が減少するので、移動開始時の電解後槽3の重水濃縮水に対する電解前槽2の電解水量(5mL)の比は、回数と共に増加する。1回目は、電解後槽3の重水濃縮水は約78mL(=100×(1-0.17)-5)であるため、約6.4%(=5/78×100)である。2回目は初期電解水量約83mL(=78+5)が5mLになるまでに電解した量は約10mL(=100×(0.27-0.17))であり、電解後槽3の重水濃縮水68mL(=83-10-5)に対する電解前槽2の電解水量5mLの比は、約7.4%(=5/68×100)である。同様の計算を行うと3回目は約8.3%(=5×100/((1-0.35)×100-5))であり、10回目は約13.9%(=5×100/((1-0.59)×100-5))である。図3の実測例は、電解後槽3の重水濃縮水に対する電解前槽2の電解水量が約6.4%~13.9%、10%±4%程度の時点で重水濃縮水の移動を行った試験結果である。
【0062】
なお、電解率は、原料水量(mol)に反比例し、電解量(mol)に比例する。81.8%(初期重水量107.6g)の原料水は、88.0g(=107.6×0.818)の濃度100%の重水(D2O)と19.6g(=107.6×0.182)の濃度100%の軽水(H2O)からなり、重水1molは18×1.1g、軽水1molは18gとして重水と軽水の合計した原料水のmol数は5.53mol(=88/(18×1.1)+19.6/18)である。電解率0.17の時点では、原料水5.53molの17%が電解され、水1mol電解するのに96500×2クーロンの電荷が必要であり、3セルスタックに8.36A(=4.18×2)の電流を流しているので、電解に要した時間は2.00時間(=96500×2×5.53×0.17/(8.36×3×60×60))である。電解時間は電解率に比例するので、電解率0.59までの試験に6.9時間(=0.59×2/0.17)を要している。
この電解セルの8.36Aにおけるセル電圧は2.0Vであったので、3セル積層した電解スタックの消費電力は50.2W(=8.36×2×3)である。
【0063】
また図3に示す実線は、分離係数を3.0として(3)式を用いて計算した重水濃度の計算値である。図3の実線は、ほぼ直線に見えるが、重水濃度100%に近づくと飽和する傾向がある。一方図3の実測値(●、▲、■)は、いずれも少量の電解前槽2の電解水と多量の電解後槽3の重水濃縮水を混合し、電解されずに残った重水の重水濃度を測定した結果である。
図3では、分離係数3という一つの定数を用いて初期重水濃度の異なる3本の実線で示される計算値が実測値とよく一致している。これは、電解工程における重水濃縮特性が(3)式によって精度よくシミュレーションできることを示す結果である。
【0064】
実施例3(再結合水再電解法のシミュレーション)
分離係数3の電解セルを用いて重水濃度85%の原料水100Lから重水濃度98%の重水高濃縮液を製造し、その電解で生成した再結合水を再電解して98%の重水高濃縮液を得る電解を繰り返す再結合水再電解プロセスを図4に示す。図4は第1の実施形態の模擬実施例である。
図1、4、及び表2に基づいて説明する。原料水槽14内の重水濃度85%の原料水100Lを電解前槽2に供給した後弁16を閉止する。電解前槽2に供給された原料水を電解開始時の電解用水として電解セル1に供給して電気分解を行うと共に、電解して得られた重水濃縮水を電解後槽3に貯留する。電解前槽2内の電解水量が電解後槽3内の重水濃縮水量の例えば10%以下に低下すると弁10、10aを開放して電解後槽3から重水濃縮水を電解前槽2に全量供給し、弁10、10aを閉止する。電解前槽2に供給された重水濃縮水を電解用水として電解セル1に供給し、電解後の重水濃縮水の重水濃度が98%になるまで電解後槽3から電解前槽2に上記の様にして重水濃縮水を電解前槽2に間欠的に供給して電解を繰り返す。重水濃縮水の重水濃度が98%に達したら電解を停止し、弁10、12を開放して電解後槽3から重水濃縮水(重水高濃縮液)を濃縮水槽7に供給し、弁10、12を閉止する(第1電解工程)。
【0065】
電解後槽3内の重水濃度は電解前槽2内の重水濃度よりも高い。濃度差は電解セルの運転状況によって変わるが、電解後槽3内の重水濃度は、電解前槽2内の重水濃度よりも高い。電解前槽2に多量の電解用水が残っている時点で、電解後槽3の重水濃縮水を電解前槽2に移動させると重水濃縮水が希釈され濃度低下が生じるので好ましくない。電解用水残存量は装置のサイズなどによって異なり、重水濃縮水の濃度低下などを考慮して適宜設定可能であるが、例えば電解前槽2と電解後槽3の重水濃度がそれぞれ85%と95%のとき、電解前槽2の電解用水量が電解後槽3の重水濃縮水の例えば10%、20%、または30%の時点で移動させると仮定すると、重水濃縮水の濃度低下は夫々0.45%(=90-(85×10+90×100)/110)、0.83%(=90-(20+90×100)/120)、または1.15%(=90-(85×30+90×100/130)となる。そして重水濃度が例えば1%程度低下することを許容する場合、上記と同様の濃度低下の計算をすると、電解前槽2の電解用水量が電解後槽3の重水濃縮水量の30%以下になった時点で重水濃縮水を移動させるのが望ましいことがわかる。或いは電解前槽2の電解用水の残量減少し、電解用水不足により装置の運転が困難になるレベルに達する前に電解後槽3から重水濃縮水を供給してもよい。
なお、本発明では間欠的な供給を実現する手段として、電解後槽3と電解前槽2におけるレベル計の設置は任意であり、装置が運転困難(電解用水不足による故障が生じる程度)となる電解用水量を考慮して作動するレベル計を電解前槽2にのみ設置してもよい。例えば電解用水量が20mL未満になると運転が困難な装置の場合、電解前槽2にのみレベル計を設けて電解用水量が20mLになったら電解後槽3から重水濃縮水を供給するように作動させることも好ましい。
【0066】
第1電解処理で回収した濃度98%の重水高濃縮液は29.5Lであり、初期原料水100Lに対する重水濃縮液(29.5L)の回収率は29.5%である。また電解によって生成した再結合水槽6中の再結合水70.5Lの重水濃度は79.6%であり、初期原料水100Lに対する再結合水の回収率は70.5%である。電解に必要な時間は、電解量と電解設備の能力に比例するため、電解設備で1L電解するのに必要な時間をt(時間)とすると、第1電解工程の電解率は70.5%(70.5L/100L)であり、電解時間は70.5t(時間)である。
なお、表2の実施例は、実施例2(電解工程の実測)の計算値と同様、式(2)を用いて計算した結果である。電解前槽2内の電解水量が電解後槽3内の重水濃縮水量の10%±4%が実施例2の試験条件であるから、表2も同様の条件であれば、式(2)を用いて正しい濃縮特性を予測できると考えられる。電解後槽3から重水濃縮水を電解前槽2に全量供給することが好ましいが、濃度低下の許容度を考慮して設定可能であり、例えば1%程度の濃度低下を許容するのであれば、上記したように電解前槽2の電解用水残量は30%以下でもよい。
【0067】
続いて弁11を開放して再結合水槽6から重水濃度79.6%の再結合水70.5Lを電解前槽2に全量供給して弁11を閉止した。電解前槽2に供給された再結合水を電解開始時の電解用水として電解セル1に供給して電解すると共に、電解して得られた重水濃縮水を電解後槽3に貯留する。電解後槽3から電解前槽2への重水濃縮水の供給は上記と同様の間欠的な供給とする。重水濃縮水の重水濃度が98%になるまで第1電解工程と同様にして電解を繰り返し行う。
重水濃縮水の重水濃度が98%に達したら電解を停止し、弁10、12を開放して重水濃縮水(重水高濃縮液)を濃縮水槽7に供給し、弁10、12を閉止する(第2電解工程)。回収した重水高濃縮液は16.2Lである。また生成した54.3Lの再結合水の重水濃度は74.1%である。
第2電解工程では電解用水として供給した再結合水70.5Lを電解率54.3/70.5で電解しているので、電解時間は54.3t(=70.5t×54.3/70.5)である。また第1電解工程と第2電解工程の合計電解時間は124.9tである。濃縮水槽7には第1電解工程(29.5L)と第2電解工程(16.2L)の合計45.7Lの重水高濃縮液が貯留される。
【0068】
第2電解工程と同様の電解処理を複数回繰り返した(第3電解工程~第6電解工程)。第1電解工程から第6電解工程を行って得られた合計重水高濃縮液は70.3Lであり、総電解時間は269.9tである。
【0069】
【表2】
【0070】
実施例3で説明した再結合水再電解法によれば、繰り返し電解することによって、目標濃度の重水濃縮液をより多く得ることができる。電解過程で生成した再結合水はすべて電解用水として再利用するので、最終回の低濃度の再結合水以外には、未利用の再結合水は残らないので無駄がない。なお、この実施例では目標濃度をすべて98%に設定したが、第2電解工程以降の目標濃度を異なる値、例えば原料水と同じ重水濃度にすることも本発明の好ましい実施形態の一つである。
【0071】
実施例4(原料水電解回収法のシミュレーション)
分離係数3の電解セル1を含む図2に示す構成を有する電解装置を用いて、濃度85%の重水100Lから濃度98%の重水高濃縮液を原料水電解回収法で製造する場合をシミュレーションした結果を図5に示す。図5は、第2の実施形態の模擬実施例である。
原料水槽14内に貯留されている重水濃度85%の原料水から100Lを電解前槽2に供給した後弁16を閉止した。
【0072】
第1電解工程
電解前槽2に供給された原料水を電解開始時の電解用水として電解セル1に供給して電気分解を行うと共に、電解して得られた重水濃縮水を電解後槽3に貯留する。電解を続けて電解前槽2の電解水量が電解後槽3の重水濃縮水の例えば10%以下になると弁10、10a、10bを開放して電解後槽3から重水濃縮水を電解前槽2に全量供給し、弁10、10a、10bを閉止する。電解前槽2に供給された重水濃縮水を電解用水として電解セル1に供給し、重水濃縮水の重水濃度が90.2%(中間目標重水濃度)になるまで電解を行う。
重水濃度90.2%に達したら弁10、10a、10bを開放して電解後槽3内の重水濃縮水を電解前槽2に供給し、弁10、10a、10bを閉止する。
電解前槽2内の重水濃縮水(重水濃度90.2%)は、73.9Lである。また弁17を開放して再結合水槽6中の再結合水26.1L(重水濃度70.25%)を再結合水一時保管槽15に供給した後、弁17を閉止し、第1電解処理を終了とする。
第1電解工程の結果を表3(1回目)に示す。
重水濃縮水第1電解工程の電解時間は26.1tであり、電解率は26.1%(26.1L/100L×100%)、消費した85%重水量(L)は電解前槽2に供給した原料水量であるため100Lである。また第1電解工程で得られた重水濃縮水は73.9L(重水濃度90.2%)であり、重水濃度98%の重水高濃縮液の回収率(98%回収率)は0%である。
【0073】
第1電解工程後、第2電解工程を行う。
第2電解工程
引き続き、第2電解工程として電解前槽2内に貯留されている高濃度重水(重水濃度90.2%)73.9Lを電解開始時の電解用水として重水濃度が目標濃度である98.0%になるまで電解を繰り返し行う。電解後槽3から電解前槽2への重水濃縮水の供給条件は第1電解工程と同じである。上記と同様にして重水濃縮水の電解を繰り返し、重水濃度98%に達したら電解を停止し、弁10、12を開放して電解後槽3から重水濃縮水(重水高濃縮液)を濃縮水槽7に供給し、弁10、12を閉止する。
再結合水槽6中の再結合水44.4Lの重水濃度は85%であり、弁19を開放して全量を原料水槽14に供給し、弁19を閉止した。
第2電解工程の電解時間は44.4t(=73.9t×0.601)であり、第1電解工程と第2電解工程の電解時間の合計は70.5t(=26.1t+44.4t)となる。第2電解工程では、原料水と同じ85%重水を44.4L回収しているので、運転前を基準にした消費85%重水は55.6L(=100L-44.4L)となる。
第2電解工程で得られる重水濃縮水は濃度98%の重水高濃度液29.5Lである。消費した85%重水は55.6Lであるから、98%重水濃縮液の回収率は53.0%(=29.5/55.6×100)となる。すなわち、第2電解工程では原料水と同じ重水濃度の濃縮水(44.4L)が得られるため、原料水のみなし消費量が減少し(55.6L)、これによって[重水高濃縮水量/原料水消費量]の比率が増加した(53.0%)。
【0074】
第3電解工程
続いて弁17、18を開放して再結合水一時保管槽15から一時保管再結合水(重水濃度70.25%)全量(26.1L)を電解前槽2に供給して弁17、18を閉止した。電解前槽2に供給された再結合水を電解開始時の電解用水として電解セル1に供給して電解すると共に、電解して得られた重水濃縮液を電解後槽3に貯留する。電解後槽3から電解前槽2への重水濃縮水の供給条件は第1電解工程と同じである。
上記のように重水濃縮水の電解を繰り返し、重水濃縮水の重水濃度が85%に達したら電解を停止し、弁10、10a、20を開放して電解後槽3から重水濃縮水を原料水槽14に全量供給し、弁10、10a、20を閉止する。回収した重水濃度85%の重水濃縮水は13.94Lであり、再結合水槽6内の再結合水(12.16L)の重水濃度は53.38%である。
第3電解工程の電解時間は12.2t(=26.1t×0.466)であり、第1、第2、第3電解工程時間の合計は82.7t(=70.5t+12.2t)となる。第3電解工程では、原料水と同じ85%重水を13.94L回収しているので、運転前を基準にした消費85%重水は41.66L(=100L-44.4L―13.94L)となる。
第3電解工程終了後の濃度98%の重水高濃度液合計量は第2電解工程で得られた29.5Lである。消費した85%重水は41.66Lであるから、98%重水濃縮液の消費原料水に対する回収率は70.8%(=29.5/41.66×100)となる。
【0075】
第4電解工程
続いて弁11を開放して再結合水槽6の再結合水を電解前槽2に供給して電解する。電解の方法は第1電解工程と同じである。電解を繰り返し、重水濃縮水の重水濃度が85%に達したら電解を停止し、弁10,10a、20を開放して電解後槽3から重水濃縮水を原料水槽14に全量供給し、弁10,10a、20を閉止する。
回収した重水濃度85%の重水濃縮水は3.44Lであり、再結合水槽6内の再結合水(8.72L)の重水濃度は40.9%である。
第4電解工程の電解時間は8.7t(=12.16t×0.717)であり、第1電解工程から第4電解工程時間の合計は91.4t(=82.7t+8.7t)となる。第4電解工程では、原料水と同じ85%重水を3.44L回収しているので、運転前を規準にした消費85%重水は38.22L(=100L-44.4L-13.94L-3.44L)となる。第4電解工程までで得られる重水濃縮水は濃度98%の重水高濃度液29.5Lである。消費した85%重水は38.22Lであるから、98%重水濃縮液の回収率は77.2%(=29.5/38.22×100)となる。
【0076】
【表3】
【0077】
実施例3(再結合水再電解法)、および実施例4(原料水電解回収法)に基づき、以下のように考察できる。
図6は、実施例3(図中、〇)と実施例4(図中、●)の重水濃度98%の重水高濃縮液の回収率(98%回収率(%))を比較した図であり、電解工程毎の98%合計回収率の変化をプロットしたものである。
実施例3では、図4に示す第6電解工程後の98%合計回収率は70.5%であり、図示しないが更に同様の電解工程を4回繰り返すと(第7~第10電解工程)、98%合計回収率が78%に達する。第6電解工程までの電解時間の合計は269.9t(時間)であり、第10電解工程までの電解時間の合計は370t(時間)である。
実施例4では合計4回の電解工程(第1~第4の電解工程)で重水高濃縮液の回収率が78%に達しており、実施例4の総電解時間は90t(時間)である。
図6から実施例4(原料水電解回収法)は実施例3(再結合水再電解法)よりも98%回収率が高く、しかも1/4の電解時間で高回収率を達成できることがわかる。原料となる重水量が少なく、高回収率が望まれる状況では、実施例4の方法が実施例3の方法より望ましい。ただ98%重水の製造量は、実施例4では、29.49Lであるのに対し、実施例3では第6電解工程」までで70.5Lとなっており、重水濃縮液の製造量という視点での比較も必要である。
なお、従来の重水濃縮液の製造方法は、再結合水を利用していなかったり、重水濃縮液を連続的に原料水と混合しているため、実施例1、2よりも劣る結果である。
【0078】
図7は、100Lの原料水(重水濃度85%)を用いて実施例3(再結合水再電解法)で製造した重水高濃縮液量(重水濃度98%)と、実施例4(原料水電解回収法)で製造した重水高濃縮液量(重水濃度98%)を示す。なお、実施例4では第1電解工程から第4電解工程までを1単位とし、これを3回繰り返した(3単位)。
実施例4の1単位で消費する85%重水量は38.22Lであるから、原料水槽14にあらかじめ61.78L以上の重水濃度85%の重水が残っていれば、38.22Lの重水濃度85%重水を追加することで100Lとなり、次の1単位の電解工程を実施し、61.78L以上の重水濃度85%の重水を残せる。図7の実施例4の1回目では38.22Lの原料水を消費し、2回目終了までに38.22×2L、3回目終了までに38.22×3Lの原料水を消費している。一方、実施例3では、原料水100Lを消費して得られる98%重水製造量を示している。
図7の実施例3と実施例4は、電解時間200t以上で差が大きくなっているように見えるが、実施例3でも、実施例4のように第4電解工程辺りまでを1単位として、新しい原料水で2単位目を実施すれば、実施例4との差が拡大することはない。
図7に示す電解時間、あるいは電解時間に比例する電解に要するエネルギーと98%重水製造量との関係では、実施例3と実施例4の差は小さい。
【0079】
本発明の実施例2と従来例(特許文献1、2)の電解方法とを比較する。
本発明の実施例2によれば、図3の電解率0から電解率0.17までの間、電解前槽2内の電解用水の重水濃度は81.8%より高く、電解後槽3内の重水濃縮水85.4%より低い値で推移しているので、この間の電解後槽3内の重水濃縮水と電解前槽2内の電解用水の重水濃度差は、3.6%(=85.4%-81.8%)を超えることはない(図中、▲)。
電解率0.17の時点では、電解用水量100mLから83mLに減少しており、電解前槽2内に5mL残っているので電解後槽3内の重水濃縮水は78mL(=83mL-5mL)である。電解後槽3内の重水濃縮水を電解前槽2へ移動させる工程は、78mLの濃度85.4%よりも低い重水濃縮水と5mLの濃度81.8%より高い重水を混合して83mLの重水濃度85.4%の重水を作る操作であるから混合前の電解後槽内の重水濃度は85.6%(=(83×85.4-5×81.8)/78)より低く、この混合による重水濃度低下は0.2%以下と考えられる。
【0080】
一方、電解後槽3から電解前槽2へ連続的に重水濃縮水を供給する従来例の方法では、重水濃度81.8%の電解前槽2の重水と重水濃度85.6%より若干低い電解後槽3の重水を絶えず混合する操作であり、混合による電解前槽2内重水の増加量は電解後槽3内重水の減少量に等しいので、混合に伴う電解後槽3の重水濃度低下は1.9%(=(85.6-81.8)/2)である。
電解率0.17の電解で、重水濃度は3.6%上昇しているので、この混合による重水濃度低下1.9%を挽回するには、電解率0.09(=0.17×1.9/3.6)の余計な電解が必要となり、混合により電解時間及び消費エネルギーが1.53倍(=(0.17+0.09)/0.17多く必要である。
【0081】
本発明の実施例では、従来例にくらべて電解水混合による重水濃縮水の濃度低下を抑制でき、電解時間および消費エネルギーを低減できる。
本発明者らが残存する電解用水量について検討した結果、電解セルへの電解用水供給量が不足すると、電極劣化が生じることがわかった。そのため電解を継続しながら重水濃縮水を電解前槽2に供給する場合は、電解セル内で電解用水不足が生じないようにすることが好ましい。
実施例2では原料水槽14から電解前槽2に供給された原料水量に対して電解前槽2内の電解用水が5%程度まで低下した時点で電解後槽3から重水濃縮水を電解前槽2に供給した。なお、同様の供給条件は電解前槽2の容量を基準として設定も可能であり、電解後槽3内の重水濃縮水量に対する電解前槽2内の電解水量の比を基準にして設定してもよい。
本発明では既存の設備を使用したが、電解前槽2や接続ライン(配管)に改良を加えて電解前槽2内の電解用水が5%以下に低下しても電解セル内の電解用水不足が生じないようにすることもできる。
【0082】
また電解セルにおいて電解用水不足での電解を回避するために、電解を停止させて電解後槽3から重水濃縮水を電解前槽2に供給すれば、電解劣化を抑制しつつ電解前槽2内に残存する電解用水量をゼロ、乃至5%未満にすることも可能である。但し、電解を停止して重水濃縮水を供給する場合は、電解停止時間が加算され重水濃縮に要する時間が長くなる。
【0083】
実施例5
実施例1、3、4では、電解による重水濃縮過程のシミュレーションの結果を示した。このシミュレーションは、物質保存則に基づく計算であるから、計算そのものは妥当なものであるが、実物の装置がその結果を実現できる構造であるとは限らない。実施例3、4では、電解の進行と共に電解用水の量が減少するので、装置内に残留し取り出すことができない量があると重水高濃縮液の製造量の低下に繋がる。
この電解用水残量は、装置の改良によって低減可能な量ではあるが、電解セル1内、電解前槽2の底部、電解後槽3の底部、配管など電解用水循環系に必ず電解用水は残留し、残留量をゼロにはできない。
実施例5では上記のような場合を想定し、電解前槽2の容量は100Lで、100Lの電解用水を1ヶ月で電解できる装置であり、電解用水残量が10Lである場合を考え、実施例3(再結合水再電解法)及び実施例4(原料水電解回収法)の重水高濃縮液の収量がどのように変化するかを計算した。
なお、電解用水循環系には、電解セル以外に電解によって発生する不純物イオンを除去するイオン交換樹脂など必要に応じて系内に不純物イオン除去手段を入れることがある。このような場合、残留水が残りやすく電解前槽2に投入した原料水の例えば10%相当量が循環系に残留することがあるため、本ケースでは残留量を10Lに設定した。また再結合水の回収系は内部に複雑な構造物を含まないため、再結合水はすべて回収できるものとした。なお、残留量の設定は装置のサイズ、構成等などによっても変動するため適宜設定できる。
【0084】
原料水電解回収法と再結合水再電解法を適用した場合の共通設定条件
電解前槽2の容量:100L
開始月のみ原料水(重水濃度85%)は100L必要であるが、電解によって重水濃度85%の重水を回収できる原料水電解回収法では2ヶ月目以降、毎月追加する新たな原料水(重水濃度85%)はその前の月で消費した量とする。新たに追加した原料水と回収した重水を混合すると100Lになるためである。
最終目標重水濃度(重水高濃縮液の重水濃度):98%
電解用水の電解処理能力:100L/月
電解用水残量(電解前槽2と電解セル1と電解後槽3で構成される電解用水循環系内に残留し、抜き出せない電解用水(重水濃縮水)):10L
電解セルの重水濃縮に関わる分離係数:3
【0085】
実施例5-1(原料水電解回収法を適用した場合)
実施例4と同様にして重水濃度85%の原料水を図2に示す電解装置で電解処理を行い、重水高濃縮液(重水濃度98%)の製造シミュレーションを行った。
開始月の原料水は100Lであるが、2ヶ月目以降の原料水槽14には、電解によって生成した重水濃度85%の重水(図8中、先月残重水、以下同じ)が残っているので、100Lからこの重水量を差し引いた原料水を毎月供給(今月入手重水)すれば、100L(電解水)の電解工程の実施が可能となる。ここでは2ヶ月目以後の重水高濃縮液の製造に基づいて図2図8を参照しつつ説明する。
【0086】
第1電解工程
電解前槽2に供給された100Lの電解用水(電解水)は電解セル1で電気分解される。電解して得られた重水濃縮水を電解後槽3に貯留する。電解前槽2の電解用水が5Lまで低下すると弁10、10a、10bを開放して電解後槽3から重水濃縮水を電解前槽2に全量供給し、弁10、10a、10bを閉止する。電解前槽2に供給された重水濃縮水を電解用水として電解セル1に供給し、重水濃縮水の重水濃度が90.2%(中間目標重水濃度)になるまで電解を繰り返す。
電解前槽2内の重水濃縮水(重水濃度90.2%:中間濃度重水)は、73.9Lである。重水濃縮水を電解前槽2に全量移動させる操作は行わず、弁17を開放して再結合水槽6中の再結合水26.1L(重水濃度70.1%:生成水1)を再結合水一時保管槽15に供給した後、弁17を閉止し、第1電解工程を終了とする。
ここまでは、電解用水循環系の電解用水を全量抜き取る操作はない。
【0087】
第2電解工程
電解前槽2内の重水濃縮水(重水濃度90.2%:中間濃度重水)73.9Lを電解開始時の電解用水として電解セル1で電解する。電解して得られた重水濃縮水は電解後槽3に貯留すると共に、重水濃縮水の重水濃度が最終目標重水濃度(98%)に達するまで電解を繰り返す。この際、重水濃縮水は上記と同様の条件で間欠的な供給をする。
重水濃度98%に達したら電解を停止し、弁10、12を開放して電解後槽3から重水濃縮水(重水高濃縮液)を濃縮水槽7に供給し、弁10、12を閉止する。再結合水44.4Lは原料水槽14に供給する。
第2電解工程で生成した濃度98%の重水高濃縮液(濃縮重水1)は29.5Lであるが、電解用水残量10Lであるため、実際に回収できる重水高濃縮液量は19.5Lである。この第2電解工程で生成した濃度85%の再結合水44.4L(回収水1)は原料水槽に回収できる。第2電解工程の電解率は60.1%(44.4L/73.9L)である。この装置は、1カ月で100Lの電解用水を電解できる能力があるので、第1電解工程の電解時間は0.261ヶ月、第2電解工程の電解時間は0.444ヶ月(=0.739×0.601)で第1と第2電解工程の合計電解時間は0.705ヶ月であり、設備稼働率は70.5%である。
引き続き、第3電解工程を実施するため、実施例4で説明した操作と同じ操作で、一時保管再結合水26.1L(濃度70.1%:生成水1)を電解用水循環系に導入すると残留していた98%重水10L(残留水)と混合され、濃度77.8%の混合水36.1Lとなる。この混合水を濃度85%まで濃縮すると、85%重水26.0L(回収水2)が電解用水循環系に残る。
第3電解工程の電解率は28.0%で初期電解用水量は36.1L(混合水)であるから、電解時間は0.101ヶ月(=36.1×0.28/100)であり、第1電解工程から第3電解工程までの合計電解時間は0.806カ月となり、設備稼働率は80.6%となる。
この第3電解工程が85%重水を回収できる限界である。第4電解工程を実施しても電解用水電解系に残る濃度85%重水10Lと第3電解工程で生成した濃度59.3%の再結合水10.1Lとの混合水を85%まで電解しても、得られる85%重水は11.5Lであり、第4電解工程で得られる85%重水の増加量は1.5Lに過ぎない。第2、第3電解工程で回収した85%重水量は合計70.4Lなので、毎月29.6Lの濃度85%重水から19.5Lの98%の重水高濃縮液を製造することになる。濃度85%の原料水に対する98%の重水濃縮液の回収率は65.9%(=19.5/29.6×100)である。
【0088】
実施例5-2(再結合水再電解法)
実施例3と同様にして重水濃度85%の原料水を図1に示す電解装置で電解処理を行い、重水高濃縮液(重水濃度98%)の製造シミュレーションを行った。
実施例3と同様の方法では、原料水と同じ濃度の重水を電解過程で生成することはない。開始月だけでなく、2ヶ月目以降も毎月100Lの濃度85%の原料水が提供される場合と、毎月29.6Lの濃度85%の原料水が提供される場合について、シミュレーションする。毎月29.6Lの原料水が提供される場合を設定したのは、入手可能な原料水の量が制限されている環境下で、再結合水再電解法と原料水電解回収法の比較を行うためである。一方、毎月100Lの原料水が提供される場合を設定したのは、原料水は十分入手可能な環境下での再結合水再電解法と原料水電解回収法の比較を行うためである。
【0089】
実施例5-2-1(毎月100L供給し、電解用水残量10Lの再結合水再電解法)
以下、図1図9を参照しつつ説明する。図1に示す装置を用い、弁16を開放して原料水槽14から原料水全量(100L:図9中、今月入手重水、以下同じ)を電解前槽2に供給した後、弁16を閉止する。
電解前槽2から原料水(電解水)を電解開始時の電解用水として電解セル1に供給して電気分解を行うと共に、電解して得られた重水濃縮水を電解後槽3に貯留する。電解前槽2の電解用水が5Lまで低下すると弁10、10aを開放して電解後槽3から重水濃縮水を電解前槽2に全量供給し、弁10、10aを閉止する(間欠的供給)。電解前槽2に供給された重水濃縮水を電解用水として電解し、電解後槽3から電解前槽2に上記の様にして重水濃縮水を電解前槽2に間欠的に供給して電解を繰り返す。重水濃縮水の重水濃度が98%に達したら電解を停止し、弁10、12を開放して電解後槽3から重水濃度98%の重水濃縮水(重水高濃縮液)を濃縮水槽7に供給し、弁10、12を閉止する(第1電解工程)。
第1電解工程で生成した濃度98%の重水高濃縮液(濃縮重水)は29.5Lであるが、電解用水残量10Lであるため、実際に回収できる重水高濃縮液量(製造量1)は19.5Lである。第1電解工程の電解率は70.5%である。初期電解用水は100Lであり、100L電解するのに1カ月を要する設備であるから電解時間は0.705ヶ月である。
続いて弁11を開放して再結合水槽6から重水濃度79.6%の再結合水70.5L(生成水1)を電解前槽2に全量供給して弁11を閉止した。この再結合水は、電解用水電解系に残留していた濃度98%の重水10L(残留水)と混合され、濃度81.9%の重水80.5L(混合水)が、第2電解工程の電解用水となる。この電解用水を電解セル1に供給して電解すると共に、電解して得られた重水濃縮液を電解後槽3に貯留する。電解前槽2の電解用水が5Lまで低下すると電解後槽3から電解前槽2への重水濃縮水の供給は上記と同様の間欠的な供給とする。弁10、10aを開放して電解後槽3から重水濃縮水を電解前槽2に全量供給し、弁10、10aを閉止する(間欠的供給)。
重水濃縮水の重水濃度が98%まで電解を続けようとすると電解率74.6%までの電解が必要であり、第2電解工程の電解時間が0.60カ月(=80.5×0.746/100)必要となるが、第1電解工程の電解時間と加算すると1カ月を超えるため、電解装置をフル稼働しても98%重水濃縮液を得ることができない。
したがって、第2工程は実施できず、第1電解工程で、濃度85%の原料水100Lから濃度98%の重水高濃縮液19.5Lしか得ることはできず、その回収率は19.5%である。
第1電解工程の電解率は70.5%で電解時間は0.705カ月であり、設備稼働率は70.5%である。
第2電解工程で98%まで電解するには電解時間がかかり過ぎる。一方、85%の電解は電解率13.9%で0.112ヶ月(=80.5×0.139/100)しかかからないので、第1電解工程との合計時間は0.817ヶ月(設備稼働率81.7%)となる。濃度85%の重水が69.3L(=80.5×(1-0.139))回収されるので、消費した85%重水量は30.7L、98%の重水濃縮液の回収率は63.5%(=19.5/30.7×100)であり、実施例5-1の原料水電解回収法の重水濃縮液回収率に近い値となる。第2電解工程で原料水濃度まで電解するこの方法も原料水電解回収法の類例であり、本発明例である。
【0090】
実施例5-2-2(毎月29.6L供給し電解用水残量10Lの再結合水再電解法)
以下、図1図10を参照しつつ説明する。毎月29.6L(今月入手重水)を電解する再結合水再電解法での重水高濃縮液と再結合水の生成量は、図4(原料水100Lを再結合水再電解法で電解濃縮する図)の重水量をすべて0.296倍した値となる。第1電解工程でできる重水高濃縮液は8.7L(=29.5×0.296)であるが(濃縮重水1)、10L以下であるから取り出すことはできない。
そこで電解用水(電解水)を3か月分を貯めてから電解濃縮する。重水高濃縮液は26.1L(=8.7×3:重水濃縮水1)生成するので、取り出し量は16.1Lとなり、重水濃縮液の月平均製造量は5.37L(=16.1/3)となる。重水濃縮液の回収率は18.1%(=5.37/29.6)である。
第1電解工程の電解率は70.5%であり、電解時間は0.209カ月(=29.6×0.705/100)である。設備稼働率は20.9%と低く、設備能力には余裕があるが、原料水不足でこれ以上重水高濃縮液を増産できない。
【0091】
電解用水循環系に残留し、取り出せない量が大きい装置を用いた実施例5-1、5-2-1、5-2-2のシミュレーション結果を表4に示す。
残留水がゼロの場合は、図6に示すように数回の電解工程で、70%を超える98%重水の回収率が得られるが、残留水があると重水高濃縮液の回収率が著しく低くなる。このことからも電解用循環系に残る残留水の低減が重要であることがわかる。
残留水の大きい装置では、原料水電解回収法(実施例5-1)が再結合水再電解法(実施例5-2-1、5-2-2)より重水高濃縮液の回収率が高く有利であり、特に原料水の供給量が不十分な環境の下では、原料水電解回収法の有利性が顕著になることがわかった。
【0092】
【表4】
【符号の説明】
【0093】
1 電解セル
1a アノード室
1b カソード室
1c 電解質膜
1c-1 アノード電極
1c-2 カソード電極
2 電解前槽
3 電解後槽
4 再結合器
5 チラー
6 再結合水槽
7 濃縮水槽
7a 重水濃縮水一時保管槽
8 希釈水槽
9 ポンプ
10 弁
10a 弁
10b 弁
11 弁
12 弁
13 弁
14 原料水槽
15 再結合水一時保管槽
16 弁
17 弁
17a 弁
17b 弁
18 弁
19 弁
20 弁
21 ポンプ
22 接続ライン
23 接続ライン
24 接続ライン
25 接続ライン
26 接続ライン
27 接続ライン
28 接続ライン
31 接続ライン
32 接続ライン
33 接続ライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10