IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ダイヘンの特許一覧

<>
  • 特開-電圧調整装置 図1
  • 特開-電圧調整装置 図2
  • 特開-電圧調整装置 図3
  • 特開-電圧調整装置 図4
  • 特開-電圧調整装置 図5
  • 特開-電圧調整装置 図6
  • 特開-電圧調整装置 図7
  • 特開-電圧調整装置 図8
  • 特開-電圧調整装置 図9
  • 特開-電圧調整装置 図10
  • 特開-電圧調整装置 図11
  • 特開-電圧調整装置 図12
  • 特開-電圧調整装置 図13
  • 特開-電圧調整装置 図14
  • 特開-電圧調整装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093949
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】電圧調整装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/12 20060101AFI20240702BHJP
   H02J 3/50 20060101ALI20240702BHJP
   H02J 3/48 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H02J3/12
H02J3/50
H02J3/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210616
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】前田 博宣
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066AA05
5G066AA09
5G066AE07
5G066AE09
5G066DA01
5G066GA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】予め整定された基準電圧に近接するように効率的に目標タップ位置を決定することが可能な電圧調整装置を提供する。
【解決手段】直列変圧器2と、調整変圧器3と、切換スイッチS1~S6と、を備え、タップを結線して交流を出力する負荷時タップ切換器4と、を含む電圧調整装置100であって、負荷時タップ切換器は、タップに関する処理を行う制御部を備える。制御部は、順送電状態において、電源側における三相の線間電圧夫々を示す1次側電圧値を取得し、取得した三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値と、三相にて共通となるように予め定められている基準電圧値とに基づき、タップの切り換えで決定されるタップ位置に応じた順送電用伝達関数を用いて、三相それぞれにおける基準電圧値に対応する目標タップ位置それぞれを決定し、決定した三相それぞれの目標タップ位置に応じて、調整変圧器におけるタップを切り換える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流を電源から負荷に配電する配電線に二次巻線が直列に接続される直列変圧器と、
前記配電線に一次巻線が並列に接続された調整変圧器と、
前記調整変圧器の複数の巻線それぞれが有するタップを切り換えて選択するための切換スイッチを備え、前記巻線それぞれについて選択されたタップを結線して交流を出力する負荷時タップ切換器とを含む電圧調整装置であって、
前記負荷時タップ切換器は、前記タップに関する処理を行う制御部を備え、
前記制御部は、順送電状態において、
前記電源側における三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値を取得し、
取得した三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値と、三相にて共通となるように予め定められている基準電圧値とに基づき、前記タップの切り換えにて決定されるタップ位置に応じた順送電用伝達関数を用いて、三相それぞれにおける前記基準電圧値に対応する目標タップ位置それぞれを決定し、
決定した三相それぞれの前記目標タップ位置に応じて、前記調整変圧器における前記タップを切り換える
電圧調整装置。
【請求項2】
前記順送電用伝達関数は、三相それぞれのタップによるタップ組合せに応じた入力側電圧値と、三相にて同じ値に設定された出力側電圧値との基準比率を含み、
前記制御部は、
取得した1次側電圧値と前記基準電圧値との比率である検出比率を算出し、
前記検出比率と前記基準比率とに基づき、三相それぞれにおける前記基準電圧値に対応する目標タップ位置それぞれを決定する
請求項1に記載の電圧調整装置。
【請求項3】
前記順送電用伝達関数に含まれる前記基準比率の算出に用いた入力側電圧値は、タップ組合せに応じて決定される3相それぞれのOLTC電圧の内の2成分による合成ベクトルに基づき導出される
請求項2に記載の電圧調整装置。
【請求項4】
前記制御部は、
三相それぞれにおける前記検出比率と前記基準比率との偏差それぞれを算出し、
算出した偏差それぞれの合算値に基づき、三相それぞれにおける前記基準電圧値に対応する目標タップ位置それぞれを決定する
請求項3に記載の電圧調整装置。
【請求項5】
前記制御部は、
三相それぞれにおける優先度を示す優先係数を取得し、
前記優先係数が乗された偏差それぞれの合算値に基づき、三相それぞれにおける前記基準電圧値に対応する目標タップ位置それぞれを決定する
請求項4に記載の電圧調整装置。
【請求項6】
前記電源側における三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値と、前記負荷側における三相の線間電圧それぞれを示す2次側電圧値とは、前記タップの切り換えにて決定されるタップ位置に応じた偏差を含む伝達関数行列に基づく関連性を有する
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の電圧調整装置。
【請求項7】
前記伝達関数行列の成分は、前記タップ位置に対する素通しタップからの偏差を含み、
前記素通しタップからの偏差に対する係数は、前記直列変圧器の変圧比と、前記調整変圧器における1タップ分の変圧比差とを含む
請求項6に記載の電圧調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる間接切換方式による電圧調整装置は、二次巻線が配電線に直列に接続される直列変圧器と、一次巻線が配電線に並列に接続され、二次巻線に複数のタップが設けられた調整変圧器と、該複数のタップを切り換えて直列変圧器の一次巻線に接続するタップ切換器とを備えている。
【0003】
タップ切換器は、直列変圧器の一次巻線に接続するタップを切り換えるための切換スイッチと、タップ切換を行う過程でタップ間に流れる矯絡電流を制限する限流抵抗器等の限流素子と、該限流素子のタップ間への接続及び切り離しを行う矯絡用スイッチとを有する。限流抵抗器及び矯絡用スイッチは直列に接続されている。タップ切換器は、切換スイッチ及び矯絡用スイッチを所定のシーケンスでオンオフすることにより、調整変圧器から直列変圧器の一次巻線に印加する調整電圧の大きさ及び極性を切り換える。
【0004】
限流抵抗器及び矯絡用スイッチの直列回路には、機械接点を有する電磁接触器等の開閉器が並列に接続されている(特許文献1参照)。この開閉器は、切換スイッチが制御不能になった場合及び配電線における短絡事故等の原因によってタップ切換器に大電流が流れた場合に閉路されるようになっている。この場合の機械接点としては、電源喪失の場合に閉路されるようにb接点(常閉接点)が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-312612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された開閉器は、出力電圧が、予め整定された基準電圧に近接するように効率的に目標タップ位置を決定する観点について考慮されていない。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、予め整定された基準電圧に近接するように効率的に目標タップ位置を決定することが可能な電圧調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、三相交流を電源から負荷に配電する配電線に二次巻線が直列に接続される直列変圧器と、前記配電線に一次巻線が並列に接続された調整変圧器と、前記調整変圧器の複数の巻線それぞれが有するタップを切り換えて選択するための切換スイッチを備え、前記巻線それぞれについて選択されたタップを結線して交流を出力する負荷時タップ切換器とを含む電圧調整装置であって、前記負荷時タップ切換器は、前記タップに関する処理を行う制御部を備え、前記制御部は、順送電状態において、前記電源側における三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値を取得し、取得した三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値と、三相にて共通となるように予め定められている基準電圧値とに基づき、前記タップの切り換えにて決定されるタップ位置に応じた順送電用伝達関数を用いて、三相それぞれにおける前記基準電圧値に対応する目標タップ位置それぞれを決定し、決定した三相それぞれの前記目標タップ位置に応じて、前記調整変圧器における前記タップを切り換える。
【0009】
本態様にあたっては、三相の交流電圧を配電する配電線に設けられる電圧調整装置は、直列変圧器、調整変圧器、及び負荷時タップ切換器を含み、負荷時タップ切換器は、調整変圧器のタップを切り換えて選択するための切換スイッチと、切換スイッチをオン又はオフして前記タップを切り換える制御を行う制御部を備える。これにより、負荷時タップ切換器の制御部が、調整変圧器のタップを切り換えることにより、三相における配電線(u相、v相、w相)それぞれの電圧を調整することができる。電圧調整装置が順送電状態において、制御部は、電圧調整装置に接続される電源の側における電圧を示す1次側電圧値(入力側の計測電圧値:入力側計測電圧値)を取得する。電源側の配電線は、U相の配電線、V相の配電線及びW相の配電線を含み、これら配電線の間には、計測用変圧器が設けられている。電源側の計測用変圧器それぞれにより、電源側のUV相間の線間電圧値(UV)、VW相間の線間電圧値(VW)、及びWU相間の線間電圧値(WU)が計測(検出)される。制御部は、ROM等の記憶部に記憶されており、3相において共通の値として設定されている基準電圧値を取得する。当該基準電圧値は、電圧調整装置の装置特性又は仕様に応じて、又は操作者の操作等により予め整定されており、出力側(2次側)の基準電圧値に相当する。このように出力側の基準電圧値を3相において共通、すなわち同じ値とすることにより、各相の基準電圧値(ref[uv、vw、wu])の大きさを1辺とする三角形(ref△uvw)は、正三角形となる。制御部は、各相における線間電圧それぞれにおいて、入力側計測電圧値として取得した1次側電圧値と、3相にて共通となる出力側の基準電圧値それぞれとに基づき、記憶部に予め記憶されている順送電用伝達関数を用いて、三相それぞれにおける前記基準電圧値に対応する目標タップ位置それぞれを決定(選択)する。順送電用伝達関数は、順送電状態かつ、出力側(2次側)の基準電圧値が3相において共通の値(同じ値)として設定されている条件下において、各相それぞれのタップが取り得るタップ番号による全ての組合せ(全てのタップ組合せ)に対応している。従って、当該順送電用伝達関数を用いることにより、各相における出力電圧値(2次側電圧値)が、3相にて共通となる出力側の基準電圧値に近接するように、三相それぞれにおける目標タップ位置それぞれを効率的に決定(選択)することができる。
【0010】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記順送電用伝達関数は、三相それぞれのタップによるタップ組合せに応じた入力側電圧値と、三相にて同じ値に設定された出力側電圧値との基準比率を含み、前記制御部は、取得した1次側電圧値と前記基準電圧値との比率である検出比率を算出し、前記検出比率と前記基準比率とに基づき、三相それぞれにおける前記基準電圧値に対応する目標タップ位置それぞれを決定する。
【0011】
本態様にあたっては、順送電用伝達関数は、全てのタップ組合せに対し、三相にて共通となる出力側電圧値(基準電圧値に対応)と、当該出力側電圧値(基準電圧値に対応)に対する3相それぞれの入力側電圧値として算出された対応電圧値との基準比率を含む。制御部は、3相それぞれにおいて、取得した1次側電圧値と基準電圧値との比率である検出比率それぞれを算出し、当該検出比率それぞれと、順送電用伝達関数に含まれる各タップ組合せにおける基準比率とを比較する。制御部は、当該比較結果に基づき、例えば、検出比率に対し最も近くなる(近接する)基準比率に対応するタップ組合せを特定し、当該特定したタップ組合せに応じて、三相それぞれの目標タップ位置それぞれを決定する。このように全てのタップ組合せにおいて、1次側(対応電圧値)と2次側(基準電圧値)の電圧比率(基準比率)が定義された順送電用伝達関数を用いることにより、当該基準比率と検出比率との対比という比較的に演算負荷が低い処理により、目標タップ位置それぞれを決定することができる。これにより、当該目標タップ位置の決定精度を担保しつつ、制御部による演算負荷を低減させ、処理レスポンスを向上させることができる。
【0012】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記順送電用伝達関数に含まれる前記基準比率の算出に用いた入力側電圧値は、タップ組合せに応じて決定される3相それぞれのOLTC電圧の内の2成分による合成ベクトルに基づき導出される。
【0013】
本態様にあたっては、基準比率の算出に用いた対応電圧値は、3相にて共通となる基準電圧値に対し、タップ組合せに応じて決定される3相それぞれのOLTC電圧の内の2相(2成分)の合成ベクトルに基づき導出される。3相にて共通となる基準電圧値(ref[uv、vw、wu])は、正三角形(ref△uvw)からなる二次側電圧として示され、二次側電圧(基準電圧値)の正三角形(ref△uvw)の頂点からそれぞれから、OLTC線間電圧に対応した重畳電圧ベクトルにて、1次側電圧(対応電圧値)の三角形(△UVW)が生成される。OLTC線間電圧は、OLTC電圧(ou、ov、ow)における何れか2相の線間電圧であり、何れか2相のOLTC電圧の電圧ベクトルの合成ベクトルにて示される。OLTC電圧(ou、ov、ow)それぞれは、調整変圧器における各相の相電圧である。これらOLTC電圧の電圧ベクトル(ou、ov、ow)の内、何れかの2成分(2相)の合成ベクトルは、当該2成分(2相)に対応する2つのタップそれぞれのタップ位置それぞれによる組合せに基づき決定されるものであり、直列変圧器の重畳電圧ベクトルに相当する。当該直列変圧器の重畳電圧ベクトル(OLTC電圧の何れかの2成分(2相)の合成ベクトル)は、当該2成分(2相)に対応する2つのタップにおいて、2成分による素通しタップの組合せを基点(素通しタップ座標)とし、選択されるタップそれぞれのタップ位置毎のベクトル座標(選択タップ座標)に向かうベクトル(タップベクトル)に対応する。このような関連性に基づき、二次側電圧(基準電圧値)の正三角形(ref△uvw)から、1次側電圧(対応電圧値)の三角形(△UVW)を幾何学的に導出することができ、これら2つの三角形(ref△uvw、△UVW)において、対応する辺それぞれ(UV:uv、VW:vw、WU:wu)における大きさ(長さ)の比率(uv/UV、vw/VW、wu/WU)を算出することにより、各辺、すなわち各相における基準比率それぞれを算出することができる。このように定義された順送電用伝達関数を用いることにより、各相における目標タップ位置を効率的に決定することができる。
【0014】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記制御部は、三相それぞれにおける前記検出比率と前記基準比率との偏差それぞれを算出し、算出した偏差それぞれの合算値に基づき、三相それぞれにおける前記基準電圧値に対応する目標タップ位置それぞれを決定する。
【0015】
本態様にあたっては、制御部は、三相それぞれにおける検出比率と基準比率との偏差それぞれを算出するものであり、当該偏差は、例えば、各相における検出比率と基準比率との差異の絶対値にて算出するものであってもよい。制御部は、これら各相における検出比率と基準比率との差異の絶対値等による偏差を合算した値が最小となるタップ組合せを特定し、当該特定したタップ組合せに応じて、三相それぞれの目標タップ位置それぞれを決定する。これにより、3相それぞれの線間電圧における出力側電圧値が、予め整定されている基準電圧値に対し最も近くなるタップ組合せを特定することができ、当該基準電圧値に最も近接するように3相それぞれにおける目標タップ位置それぞれを効率的に決定することができる。
【0016】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記制御部は、三相それぞれにおける優先度を示す優先係数を取得し、前記優先係数が乗された偏差それぞれの合算値に基づき、三相それぞれにおける前記基準電圧値に対応する目標タップ位置それぞれを決定する。
【0017】
本態様にあたっては、三相それぞれにおける優先度を示す優先係数が予め記憶部に記憶されており、制御部は、当該記憶部を参照することにより、三相それぞれの優先度、すなわち各相における変圧の優先順位を示す値を取得する。制御部は、三相それぞれにおける検出比率と基準比率との偏差それぞれに対し、対応する優先度を例えば乗算することにより、各偏差に対し対応する優先度を関与させた値(優先度関与偏差)を算出する。例えば、3相における優先順位が、UV>VW>WUの順にて設定されている場合、各相における優先係数は、P1(UV)>P2(VW)>P3(WU)として設定される。制御部は、三相それぞれにおける検出比率と基準比率との偏差(d1(UVの偏差)、d2(VWの偏差)、d3(WUの偏差))に対し、各相における優先度を乗した値(d1*P1+d2*P2+d3*P3)が最小となるタップ組み合わを特定し、当該特定したタップ組合せに応じて、三相それぞれの目標タップ位置それぞれを決定する。このように目標タップ位置を決定するにあたり、三相それぞれにおける優先度を示す優先係数を重みづけ係数として用いることにより、優先度が高い相については、比較的に他の相よりも低い差異となる候補タップ組合せを目標タップ位置として決定することができる。三相それぞれにおける優先度を示す優先係数は、例えば、操作者の操作等により基準電圧値を整定する際、併せて設定されるものであってもよい。すなわち、制御部は、操作者の操作を受け付けることにより、基準電圧値及び三相それぞれにおける優先度を示す優先係数を取得し、記憶部に記憶するものであってもよい。これにより、電圧調整装置の操作者の意図に応じた各相における変圧を効率的に行うことができる。
【0018】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記電源側における三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値と、前記負荷側における三相の線間電圧それぞれを示す2次側電圧値とは、前記タップの切り換えにて決定されるタップ位置に応じた偏差を含む伝達関数行列に基づく関連性を有する。
【0019】
本態様にあたっては、電源側における三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値と、負荷側における三相の線間電圧それぞれを示す2次側電圧値とは、伝達関数行列に基づく関連性を有しており、当該伝達関数行列は、タップの切り換えにて決定されるタップ位置に応じた偏差を含む。間接切換方式による電圧調整装置においては、1次側と2次側の電圧比には一定の法則性があるため、電源側電圧(1次側電圧)が変動するとタップ毎の負荷側電圧(2次側電圧)は変動し、タップ位置を1タップ毎に切り換えた際の電圧(1タップ電圧)は、一様にならないことが想定される。これに対し、各相における線間電圧において、タップの切り換えにて決定されるタップ位置に応じた偏差(素通しタップからの偏差)を含む伝達関数行列に基づく関連性を有するため、当該伝達関数行列を用いて制御モデル化される間接切換方式の電圧調整装置に対し、検出比率と基準比率とに基づき、三相それぞれにおける基準電圧値に対応する目標タップ位置それぞれを決定することができる。
【0020】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記伝達関数行列の成分は、前記タップ位置に対する素通しタップからの偏差を含み、前記素通しタップからの偏差に対する係数は、前記直列変圧器の変圧比と、前記調整変圧器における1タップ分の変圧比差とを含む。
【0021】
本態様にあたっては、伝達関数行列は、直列変圧器の変圧比と、調整変圧器における1タップ分の変圧比差とをスカラー(行列の係数)として含む。このように直列変圧器の変圧比を伝達関数行列の成分の係数(スカラー)として含ませることにより、当該伝達関数行列を用いた際における処理部の計算負荷を軽減することができる。
【0022】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記調整変圧器の一次巻線がデルタ結線され、前記調整変圧器の二次巻線がY結線され、前記直列変圧器の一次巻線がデルタ結線されており、逆送電状態において、前記伝達関数行列は、以下にて示される。
【数1】
但し、
Ns:直列変圧器の変圧比
Nt(nu):u相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nv):v相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nw):w相における素通しタップからタップ位置までの偏差
【0023】
本態様にあたっては、電圧調整装置は、調整変圧器の一次巻線がデルタ結線され、調整変圧器の二次巻線がY結線され、直列変圧器の一次巻線がデルタ結線されるΔ-Y-Δ結線の電圧調整装置である。当該Δ-Y-Δ結線の電圧調整装置に対し、上述した伝達関数行列を用いることにより、目標タップ位置の導出精度を向上させることができる。すなわち、伝達関数行列を用いることにより三相制御における間接切替式を一般化しているため、間接切替式の一態様であるΔ-Y-Δ結線の電圧調整装置に対し、当該伝達関数行列を適用することができる。
【0024】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記調整変圧器の一次巻線がV結線され、前記調整変圧器の二次巻線がV結線され、前記直列変圧器の一次巻線がデルタ結線されており、逆送電状態において、前記伝達関数行列は、以下にて示される。
【数2】
但し、
Ns:直列変圧器の変圧比
Nt(nu):u相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nv):v相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nw):w相における素通しタップからタップ位置までの偏差
【0025】
本態様にあたっては、電圧調整装置は、調整変圧器の一次巻線がV結線され、調整変圧器の二次巻線がV結線され、直列変圧器の一次巻線がデルタ結線されるV-V-Δ結線の電圧調整装置である。当該V-V-Δ結線の電圧調整装置対し、上述した伝達関数行列を用いることにより、目標タップ位置の導出精度を向上させることができる。すなわち、伝達関数行列を用いることにより三相制御における間接切替式を一般化しているため、間接切替式の一態様であるV-V-Δ結線の電圧調整装置に対し、当該伝達関数行列を適用することができる。
【0026】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記調整変圧器の一次巻線がV結線され、前記調整変圧器の二次巻線がV結線され、前記直列変圧器の一次巻線がY結線されており、逆送電状態において、前記伝達関数行列は、以下にて示される。
【数3】
但し、
Ns:直列変圧器の変圧比
Nt(nu):u相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nv):v相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nw):w相における素通しタップからタップ位置までの偏差
【0027】
本態様にあたっては、電圧調整装置は、調整変圧器の一次巻線がV結線され、調整変圧器の二次巻線がV結線され、直列変圧器の一次巻線がY結線されるV-V-Y結線の電圧調整装置である。当該V-V-Y結線の電圧調整装置対し、上述した伝達関数行列を用いることにより、目標タップ位置の導出精度を向上させることができる。すなわち、伝達関数行列を用いることにより三相制御における間接切替式を一般化しているため、間接切替式の一態様であるV-V-Y結線の電圧調整装置に対し、当該伝達関数行列を適用することができる。
【0028】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、順送電状態における伝達関数行列は、前記逆送電状態の伝達関数行列の逆行列にて示される。
【0029】
本態様にあたっては、順送電状態における伝達関数行列(F)は、逆送電状態の伝達関数行列(G)の逆行列(F=G^1)にて示されるものであり、これら伝達関数行列(G、F)は可逆性を有する。従って、電圧調整装置が順送電状態の場合においても、逆送電状態の伝達関数行列(G)の逆行列となる伝達関数行列(F:順送電状態における伝達関数行列)を用いて、目標タップ位置の導出精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0030】
予め整定された基準電圧に近接するように効率的に目標タップ位置を決定する電圧調整装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施形態1(Δ-Y-Δ結線)に係る電圧調整装置の構成例を示すブロック図である。
図2】タップ位置とオンにする切換スイッチ等との関係を定義するタップ位置テーブルの説明図である。
図3】線間電圧それぞれの大きさ(辺ベクトル)を三角形で示した説明図である。
図4】三角形の2つの合成ベクトル計算に用いる位相角に関する説明図である。
図5】順送電用伝達関数(テーブル)の一例を示す説明図である。
図6】OLTC電圧の内の2相の合成ベクトルの一例を示す説明図である。
図7】1次側電圧と2次側電圧との幾何学的関係の一例を示す説明図である。
図8】制御部の処理手順を示すフローチャートである。
図9】実施形態2(V-V-Δ結線)に係る電圧調整装置の構成例を示すブロック図である。
図10】タップ位置とオンにする切換スイッチ等との関係を定義するタップ位置テーブルの説明図である。
図11】順送電用伝達関数(テーブル)の一例を示す説明図である。
図12】OLTC電圧の内の2相の合成ベクトルの一例を示す説明図である。
図13】1次側電圧と2次側電圧との幾何学的関係の一例を示す説明図である。
図14】実施形態3(V-V-Y結線)に係る電圧調整装置の構成例を示すブロック図である。
図15】1次側電圧と2次側電圧との幾何学的関係の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(実施形態1)
以下、実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)に係る電圧調整装置100の構成例を示すブロック図である。図中1u,1v,1wは、電源(U相,V相,W相)から負荷(u相,v相,w相)へ、U相,V相,W相の交流電圧を紙面の右向きに配電(順送電状態)、又は左向きに配電(逆送電状態)する配電線である。電圧調整装置100は、配電線1u,1v,1w夫々に二次巻線212,222,232が直列に接続される直列変圧器2と、配電線1u,1v,1wに一次巻線311,321,331がΔ結線される調整変圧器3と、調整変圧器3の二次巻線312,322,332及び直列変圧器2の一次巻線211,221,231の間に設けられたタップ切換器4とを備える。
【0033】
電圧調整装置100は、順送電状態において、紙面左側の電源側から供給される3相交流の電圧を調整し、紙面右側の負荷側へ、配電線1u,1v,1wを介して3相交流を配電する。電圧調整装置100は、逆送電状態において、紙面右側の負荷側から供給される3相交流の電圧を調整し、紙面左側の電源側へ、配電線1u,1v,1wを介して3相交流を配電する。
【0034】
電圧調整装置100は、また、Δ-Y結線された三相の計測用変圧器5を介して配電線1u,1v,1wの電圧を検出する電圧検出部62と、該電圧検出部62が検出した電圧を表示して使用者の操作を受け付けるための操作表示部63と、該操作表示部63によって受け付けた操作に基づいて、後述する切換スイッチS1,S2,・・S6,SS及び電磁接触器MCに、駆動部64を介して駆動信号を与える制御部61とを備える。切換スイッチS1,S2,・・S6は、何れも極性切換スイッチとして機能する。
【0035】
電圧検出部62は、配電線1u,1v,1wの線間電圧を検出するものであるが、Δ-Y結線以外の結線方式で結線された計測用変圧器を介して相電圧を検出してもよい。また、計測用変圧器5に代えて、調整変圧器3の一次巻線311,321,331夫々に対応する三次巻線を設けておき、この三次巻線を介して電圧検出部62が配電線1u,1v,1wの電圧を検出してもよいし、電圧調整装置100とは別に配電線1u,1v,1wの電圧を検出してもよい。
【0036】
三相の計測用変圧器5及び電圧検出部62は、負荷側の配電線1u,1v,1w、及び電源側のの配電線1u,1v,1wの双方に設けられているものであってもよい。電源側の配電線1u,1v,1wに設けられた計測用変圧器5及び電圧検出部62は、電圧調整装置100よりも電源側におけるU相とV相との線間電圧(UV)、V相とW相との線間電圧(VW)、W相とU相との線間電圧(WU)の電圧値(1次側電圧値)それぞれを取得し、制御部61に出力する。負荷側の配電線1u,1v,1wに設けられた計測用変圧器5及び電圧検出部62は、電圧調整装置100よりも負荷側におけるu相とv相との線間電圧(uv)、v相とw相との線間電圧(vw)、w相とu相との線間電圧(wu)の電圧値(2次側電圧値)それぞれを取得し、制御部61に出力する。
【0037】
制御部61は、例えばマイコン等により構成され、不図示のCPU(Central Processing Unit )及び、ROM又はRAM等の記憶部を有する。ROM等の記憶部に予め記憶された制御プログラムに従って、電圧の調整を制御する。一時的に発生した情報はRAMに記憶されるものであってもよい。記憶部は、後述するタップ位置テーブルが記憶されているものであってもよい。制御部61は、経過時間を計測するためのタイマカウンタを有する。
【0038】
直列変圧器2は、二次巻線212,222,232夫々に一次巻線211,221,231が対応している。一次巻線211,221,231はΔ結線されている。二次巻線212,222,232夫々の上記負荷側の端子に対応する一次巻線211,221,231の端子をu1,v1,w1とする。また、二次巻線212,222,232夫々の上記電源側の端子に対応する一次巻線211,221,231の端子をu2,v2,w2とする。
【0039】
調整変圧器3は、一次巻線311が配電線1u,1v間に、一次巻線321が配電線1v,1w間に、一次巻線331が配電線1w,1u間に夫々接続されている。即ち、一次巻線311,321,331が配電線1u,1v,1wに対してΔ結線されている。一次巻線311,321,331夫々には二次巻線312,322,332が対応している。
【0040】
二次巻線312,322,332の夫々は、一端及び他端から引き出されたタップta及びtcと,タップta及びtcの間から引き出された中間のタップtbとを有する。二次巻線312,322,332夫々が有するタップta~tcの何れか1つが、タップ切換器4を介して直列変圧器2の一次側の端子u1,v1,w1と、端子v2,w2,u2とに接続される。
【0041】
タップ切換器4は、調整変圧器3の二次巻線312,322,332夫々が有するタップta,tb,tcを切り換えるための6つの切換スイッチS1,S2,・・S6を三相分、有する。すなわち、調整変圧器3は、u相のスイッチS1,S2,・・S6、v相のスイッチS1,S2,・・S6、及びw相のスイッチS1,S2,・・S6を備える。二次巻線312,322,332夫々のタップtaは、保護用のヒューズFを介して切換スイッチS1,S4の一端に接続されている。二次巻線312,322,332夫々のタップtbは、保護用のヒューズFを介して切換スイッチS2,S5の一端に接続されている。二次巻線312,322,332夫々のタップtcは、切換スイッチS3,S6の一端に接続されている。切換スイッチS1,S2,S3は他端同士が接続されている。切換スイッチS4,S5,S6は他端同士が接続されている。
【0042】
二次巻線312のタップta,tb,tc夫々が一端に接続される切換スイッチS1,S2,S3の他端同士は、直列変圧器2の一次側の端子u1及びv2に接続されている。二次巻線312のタップta,tb,tc夫々が一端に接続される切換スイッチS4,S5,S6の他端同士は、中性点Nに接続されている。二次巻線322のタップta,tb,tc夫々が一端に接続される切換スイッチS1,S2,S3の他端同士は、直列変圧器2の一次側の端子v1及びw2に接続されている。二次巻線322のタップta,tb,tc夫々が一端に接続される切換スイッチS4,S5,S6の他端同士は、中性点Nに接続されている。二次巻線332のタップta,tb,tc夫々が一端に接続される切換スイッチS1,S2,S3の他端同士は、直列変圧器2の一次側の端子w1及びu2に接続されている。二次巻線332のタップta,tb,tc夫々が一端に接続される切換スイッチS4,S5,S6の他端同士は、中性点Nに接続されている。
【0043】
切換スイッチS1,S2,S3の他端同士と、切換スイッチS4,S5,S6の他端同士との間には、限流抵抗器R及び切換スイッチSSの直列回路と、電磁接触器MCとが並列に接続されている。切換スイッチSSは、切換スイッチS1,S2,・・S6によってタップta,tb,tcを切り換える過程で、限流抵抗器Rを介してタップ間を矯絡させておくために、タップ間への限流抵抗器Rの接続及び切り離しを行うためのものである。電磁接触器MCは、切換スイッチS1,S2,・・S6及びSSによってタップta,tb,tcを切り換える運用が停止されている間に、直列変圧器2の一次側の端子u1,v1間、端子v1,w1間及び端子w1,u1間を矯絡して、開放状態にしないようにするためのものである。
【0044】
タップtbに対するタップtaの電圧は、例えばタップtcに対するタップtbの電圧の2倍となるようにしてあるが、これに限定されるものではない。このように構成された調整変圧器3のタップta,tb,tcを選択することにより、タップtcに対するタップtbの電圧に対して2倍(タップtbに対するタップta)、3倍(タップtcに対するタップta)、-1倍(タップtbに対するタップtc)、-2倍(タップtaに対するタップtb)及び-3倍(タップtaに対するタップtc)の電圧を取り出すことができる。即ち、調整変圧器3から取り出される相対的な調整電圧を1、-1、2、-2、3及び-3から選択することができる。
【0045】
本実施形態では、例として図1に黒で塗りつぶした切換スイッチS2,S6のみをオンにしてタップtb,tcを選択することにより、二次巻線312,322,332夫々から取り出される調整電圧の比を1:1:1とする。以下では、二次巻線312のタップtb,tc夫々に対応する端子をU1,U2とし、二次巻線322のタップtb,tc夫々に対応する端子をV1,V2とし、二次巻線332のタップtb,tc夫々に対応する端子をW1,W2とする。ここでの例によれば、端子U2,V2,W2が中性点Nに接続され、端子U1,V1,W1から調整電圧が取り出されるが、例えば調整電圧の比を-1:-1:-1とする場合は、端子U1,V1,W1が中性点Nに接続され、端子U2,V2,W2から調整電圧が取り出される。本実施形態にて用いられる電圧調整装置100は、例えば、特開2019-80430号公報、又はタップ数が7個以上(例えば13個等)となるような特開2021-82667号公報、特開2021-197891号公報に記載されている電圧調整装置100の各装置等と同様の構成、作用及び機能を発揮するものであってもよい。
【0046】
図2は、タップ位置とオンにする切換スイッチ等との関係を定義するタップ位置テーブルの説明図である。当該タップ位置テーブルを用いて、オンにする切換スイッチの組合せについて説明する。なお、タップ位置テーブルと電圧調整装置100の構成例を示すブロック図との対比において、切換スイッチS1を3(Th3)、切換スイッチS2を2(Th2)、切換スイッチS3を1(Th1)、切換スイッチS4をC(ThC)、切換スイッチS5をB(ThB)、切換スイッチS6をA(ThA)と記す。
【0047】
各相(u相,v相,w相)それぞれにおいて、切換スイッチの組合せは7通りあり、これらの組合せをタップ1からタップ7までのタップ位置で表す。タップ切換によって、接続される2つのタップに係るタップ間の巻数は、タップ位置に応じて決まる、換言すれば、タップ位置に応じて、調整変圧器3の二次巻線312,322,332と、一次巻線311,321,331との巻数比が決まる。
【0048】
タップ位置がタップ4の場合、負荷時タップ切換器が出力する電圧が0となる素通しとなるタップ位置(素通しタップ)となる。タップ位置がタップ1から3の場合と、タップ5から7の場合とでは、出力される電圧の位相が反転する。なお、タップ1から7までのタップ位置は一例であり、タップ位置はタップ1から13まで等、7つ以上であってもよい。
【0049】
例えば、タップ位置をタップ1にした場合、切換スイッチS3(Th1)及び切換スイッチS4(ThC)がオンする。この場合、素通しタップを0とした際の偏差は、(-Nt1-Nt2)/Np1となる。Np1は、調整変圧器3の一次巻線の巻数を示す。Nt1は、調整変圧器3の二次巻線におけるタップtaとタップtbとの間における巻数である。Nt2は、調整変圧器3の二次巻線におけるタップtbとタップtcとの間における巻数である。
【0050】
タップ位置をタップ2にした場合、切換スイッチS2(Th2)及び切換スイッチS4(ThC)がオンする。この場合、素通しタップを0とした際の偏差は、(-Nt2)/Np1となる。タップ位置をタップ3にした場合、切換スイッチS3(Th1)及び切換スイッチS5(ThB)がオンする。この場合、素通しタップを0とした際の偏差は、(-Nt1)/Np1となる。
【0051】
例えば、タップ位置をタップ4にした場合、切換スイッチS6(ThA)及び切換スイッチS3(Th1)がオンする。又は、切換スイッチS5(ThB)及び切換スイッチS2(Th2)がオンする。又は、切換スイッチS4(ThC)及び切換スイッチS1(Th3)がオンする。これらは、素通しタップとなり、当該素通しタップを0とした際の偏差は、0となる。
【0052】
例えば、タップ位置をタップ5にした場合、切換スイッチS6(ThA)及び切換スイッチS2(Th2)がオンする。この場合、素通しタップを0とした際の偏差は、(Nt1)/Np1となる。タップ位置をタップ6にした場合、切換スイッチS5(ThB)及び切換スイッチS1(Th3)がオンする。この場合、素通しタップを0とした際の偏差は、(Nt2)/Np1となる。タップ位置をタップ7にした場合、切換スイッチS6(ThA)及び切換スイッチS1(Th3)がオンする。この場合、素通しタップを0とした際の偏差は、(Nt1+Nt2)/Np1となる。
【0053】
タップ位置テーブルは、マイコン等にて構成される制御部61の記憶部(ROM)に予め記憶されている。すなわち、記憶部には、タップの切り替えにより定まるタップ位置と、当該タップ位置における調整変圧器3の巻数比に関する値(巻数比を用いた偏差)とが関連付けられ、タップ位置テーブル(テーブル形式)として記憶されている。タップ位置を上げ下げする毎にタップ位置テーブルを参照して、オンにすべき切換スイッチを示す情報と巻数比とを読み出すことにより、タップ切換の処理が容易に行える。
【0054】
タップ位置テーブルは、管理項目(フィールド)として、例えば、各相(u相,v相,w相)それぞれにおけるタップ位置(n:nu、nv、nw)を示す項目、選択する交流スイッチ素子(切換スイッチ)を示す項目、及び素通しタップを0とした際の偏差(Nt(nu)、Nt(nv)、Nt(nw))を示す項目を含む。タップ位置のフィールドには、切換スイッチの状態に応じたタップ位置の番号が格納される。本実施形態においては、タップ位置は、1から7までの値をとり、タップ位置の個数(タップ数)は7つ(7タップ)となる。
【0055】
切換スイッチのフィールドには、選択する交流スイッチ素子(切換スイッチ)の組合せが格納される。すなわち、対応するタップ位置において、オンとなる切換スイッチの番号が格納される。
【0056】
素通しタップを0とした際の偏差のフィールドには、対応するタップ位置における調整変圧器3の一次巻線311,321,331と、二次巻線312,322,332の巻数比とを用いた偏差が、格納される。当該偏差は、素通しタップを0とした際の偏差を意味し、調整変圧器3の各相における(相電圧である)OLTC電圧(Ou、Ov、Ow)の線間電圧を、負荷側の線間電圧で除算した値に相当する。すなわち、u相の偏差(Nt(nu))は、対応するOLTC電圧の線間電圧(OuOv)の絶対値を、負荷側の線間電圧(uv)絶対値にて除算した値(Nt(nu)=|OuOv|/|uv|)に相当する。v相の偏差(Nt(nv))は、対応するOLTC電圧の線間電圧(OvOw)の絶対値を、負荷側の線間電圧(vw)絶対値にて除算した値(Nt(nv)=|OvOw|/|vw|)に相当する。u相の偏差(Nt(nw))は、対応するOLTC電圧の線間電圧(OwOu)の絶対値を、負荷側の線間電圧(wu)絶対値にて除算した値(Nt(nw)=|OwOu|/|wu|)に相当する。
【0057】
電圧調整装置100が逆送電状態である場合における制御モデル(逆送電状態の制御モデル)に関し、説明する。当該制御モデルにて定義又は用いられる各種定数、行列式及び算式等は、電圧調整装置100の型式又は製品仕様に基づき決定され、制御部61を構成するマイコンに含まれるROM等の記憶部に記憶されている。制御部61は、記憶部を参照することにより、各種定数、行列式及び算式等を取得(読み出し)し、電源側及び負荷側の電圧検出部62から取得した1次側電圧値と2次側電圧値に基づき、各相におけるタップ位置それぞれを導出する。
【0058】
1次側電圧、すなわち電源側におけるU相とV相との線間電圧(UV)、V相とW相との線間電圧(VW)、W相とU相との線間電圧(WU)の電圧値それぞれを、三角形(△UVW)の一辺の大きさとすることにより、当該1次側電圧は、△UVWによって構成されるベクトルとして定義される。更に、2次側電圧、すなわち負荷側におけるu相とv相との線間電圧(uv)、v相とw相との線間電圧(vw)、w相とu相との線間電圧(wu)の電圧値それぞれを、三角形(△uvw)の一辺の大きさとすることにより、当該2次側電圧は、△uvwによって構成されるベクトルとして定義される。
【0059】
制御部61は、電源側の配電線1u,1v,1wに設けられた計測用変圧器5及び電圧検出部62より、これら電源側における線間電圧(UV、VW、WU)それぞれを取得することができる。更に制御部61は、負荷側の配電線1u,1v,1wに設けられた計測用変圧器5及び電圧検出部62に設けられた計測用変圧器5及び電圧検出部62より、これら負荷側における線間電圧(uv、vw、wu)それぞれを取得することができる。制御部61は、これら取得した電源側における線間電圧(UV、VW、WU)と、負荷側における線間電圧(uv、vw、wu)とに基づき、三相それぞれにおける各線間電圧の検出電圧比率(|uv/UV|、|vw/VW|、|wu/WU|)を算出することができる。
【0060】
制御部61は、これら取得した電源側の線間電圧(UV、VW、WU)を用いて、1次側電圧を三角形△UVWによって構成されるベクトルとして定義する。制御部61は、1次側電圧を三角形△UVWを定義することにより、当該△UVWの辺の長さを示す電源側の線間電圧(UV、VW、WU)に基づき、例えば余弦定理を用いることにより、△UVWの内角(ΦU、ΦV、ΦW)それぞれを算出することができる。制御部61は、これら取得した負荷側の線間電圧(uv、vw、wu)を用いて、2次側電圧を三角形△uvwによって構成されるベクトルとして定義する。制御部61は、2次側電圧を三角形△uvwを定義することにより、当該△uvwの辺の長さを示す負荷側の線間電圧(uv、vw、wu)に基づき、例えば余弦定理を用いることにより、△uvwの内角(Φu、Φv、Φw)それぞれを算出することができる。制御部61は、電源側における線間電圧(UV、VW、WU)、負荷側における線間電圧(uv、vw、wu)、及び算出した各内角(ΦU、ΦV、ΦW、Φu、Φv、Φw)を用いて、後述する各算式における演算を行う。
【0061】
これら1次側電圧のベクトルを示す三角形△UVWと、2次側電圧のベクトルを示す△uvwとの対応する頂点(同相の頂点同士)それぞれを結ぶ重畳電圧ベクトル(Uu、Vv、Ww)は、調整変圧器3、直列変圧器2の結線と選択タップによって決定されるタップ行列(Nt3x3)と直列変圧器2の変圧比(Ns:スカラー)により、下記(1)式にて示される。
【数4】
【0062】
タップ行列(Nt3x3)は、下記(2)式にて示される。
【数5】
【0063】
1次側電圧のベクトルを示す三角形△UVWと、2次側電圧のベクトルを示す△uvwとは、直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)と、重畳電圧ベクトル(Uu、Vv、Ww)によって、下記(3)式にて示される。
【数6】
但し、E3x3は、3行3列の単位行列を示す。
【0064】
これにより、1次側電圧のベクトルを示す三角形△UVWは、逆送電の伝達関数行列(G3x3)に2次側電圧のベクトルを示す△uvwを乗算(△UVW=G3x3・△uvw)することにより示される。逆送電の伝達関数行列(G3x3)は、下記(4)式にて示される。
【数7】
【0065】
上述した逆送電の伝達関数行列(G3x3)の各成分(行列要素)を用いることにより、三角形△UVWにおける各辺の長さ(各線間電圧の大きさ)は、下記の(5)、(6)及び(7)式にて示される。
【0066】
U相とV相との線間電圧(UV)の電圧値の絶対値のべき乗(|UV|^2)は、(5)にて示される。
【数8】
【0067】
V相とW相との線間電圧(VW)の電圧値の絶対値のべき乗(|VW|^2)は、(6)にて示される。
【数9】
【0068】
W相とU相との線間電圧(WU)の電圧値の絶対値のべき乗(|WU|^2)は、(7)にて示される。
【数10】
【0069】
上述した(5)、(6)及び(7)式を展開し、1次側電圧と2次側電圧との電圧比の式に変形すると、下記の(8)、(9)及び(10)式にて示される。UV(uv)相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|uv|/|UV|)は、(8)にて示される。
【数11】
【0070】
VW(vw)相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|vw|/|VW|)は、(9)にて示される。
【数12】
【0071】
WU(wu)相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|wu|/|WU|)は、(10)にて示される。
【数13】
【0072】
上述した(8)、(9)及び(10)式それぞれにおいて、2次側電圧、すなわち負荷側における各線間電圧(uv、vw、wu)同士の比率が含まれる。これら負荷側の各線間電圧(uv、vw、wu)の電圧値の大きさが同じ場合、2次側電圧のベクトルを示す△uvwの各辺は同じ長さとなり、当該△uvwは正三角形となり、内角(Φu、Φv、Φw)は全て60°なる。
【0073】
この場合、各相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|uv|/|UV|、|vw|/|VW|、|wu|/|WU|)は、以下の(11)、(12)及び(13)式にて示される。
【0074】
【数14】
【0075】
【数15】
【0076】
【数16】
【0077】
本実施形態のように電圧調整装置100に含まれる調整変圧器3が、Δ-Y-Δ結線により構成される場合、タップ行列(Nt3x3)は、(14)にて示される。
【数17】
【0078】
直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)は、(15)にて示される。
【数18】
【0079】
逆送電の伝達関数行列(G3x3)は、(16)にて示される。
【数19】
【0080】
逆送電の伝達関数行列(G3x3)において、上述した(16)式と、(4)式とを組み合わせることにより、逆送電の伝達関数行列(G3x3)の各要素に含まれる9つの変数(G11からG33)は、(17)にて示される。(17)式において、Nsは直列変圧器2の変圧比を示し、当該直列変圧器2の変圧比(Ns)は、これら9つの変数(G11からG33)の係数(スカラー)となる。
【数20】
【0081】
上述した(17)式に含まれるNt(nu)、Nt(nv)、Nt(nw)は、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置に対し、素通しタップを0とした際の偏差を示す。当該偏差(Nt(nu)、Nt(nv)、Nt(nw))は、調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)、及び素通しタップからのタップ位置偏差(nu、nv、nw)を用いて、再定義することができる。この場合、Nt(nu)は、dt・nuとして定義され、Nt(nv)は、dt・nvとして定義され、Nt(nw)は、dt・nwとして定義される。例えば、素通しタップのタップ位置が4と設定されており、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置が5の場合、タップ位置偏差は、1(1=5-4)となる。タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置が3の場合、タップ位置偏差は、-1(-1=3-4)となる。調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)は、当該調整変圧器3の製品仕様として予め決定(定数として定義)されており、記憶部に記憶されている。
【0082】
各相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|uv|/|UV|、|vw|/|VW|、|wu|/|WU|)を示す(8)、(9)及び(10)式に含まれる、逆送電の伝達関数行列(G3x3)の各要素に含まれる9つの変数(G11からG33)それぞれに対し、(17)式にて示されるタップ位置偏差(nu、nv、nw)を代入することにより、(8)、(9)及び(10)式は、3つの変数(nu、nv、nw)を含む3元連立方程式として定義される。制御部61は、各線間電圧の検出電圧比率(|uv/UV|、|vw/VW|、|wu/WU|)に対し、当該検出電圧比率に対応する算式である(8)、(9)及び(10)から成る3元連立方程式を用いて、各相におけるタップ位置偏差(nu、nv、nw)を算出する。素通しタップのタップ番号を基準とし、算出した各相におけるタップ位置偏差(nu、nv、nw)に基づき、調整変圧器3における各相のタップ位置と導出することができる。又は、調整変圧器3における各相のタップ位置を想定した場合、当該想定されるタップ位置における各相のタップ位置偏差(nu、nv、nw)を、(8)、(9)及び(10)式に代入することにより、各相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|uv|/|UV|、|vw|/|VW|、|wu|/|WU|)を算出することができる。この際、1次側電圧値又は2次側電圧値の何れかを検出している場合、検出した1次側電圧値又は2次側電圧値の一方を更に代入することにより、他方の電圧値を算出することができる。
【0083】
又は、制御部61は、上述したタップ位置テーブルと(17)式とを組合せ、検出電圧比率に対応する算式である(8)、(9)及び(10)を用いて、各相のタップ位置を導出するものであってもよい。(17)式にて示される偏差(Nt(nu)、Nt(nv)、Nt(nw))は、タップ位置テーブルにおいて、各タップ位置それぞれに応じた値として、当該タップ位置における調整変圧器3の巻数比に関する値(巻数比を用いた偏差)にて定義されている。制御部61は、(8)、(9)及び(10)から成る3元連立方程式を用いて算出した偏差(Nt(nu)、Nt(nv)、Nt(nw))それぞれと、タップ位置テーブルに定義される偏差(巻数比を用いた偏差)とを対比し、値が最も近接する偏差に対応するタップ位置を、現時点(線間電圧の検出時点)におけるタップ位置として導出するものであってもよい。
【0084】
電圧調整装置100が順送電状態である場合における制御モデル(順送電状態の制御モデル)に関し、説明する。順送電状態の制御モデルは、逆送電状態の制御モデルにおける伝達関数行列(G3x3)の逆行列により示される。逆送電状態の制御モデルにおける伝達関数行列(G3x3)の逆行列は、下記(18)式にて示される。
【数21】
【0085】
順送電状態の制御モデル(F3x3)は、下記(19)式にて示される。
【数22】
このように、順送電状態における伝達関数行列(F3x3)は、逆送電状態の伝達関数行列(G3x3)の逆行列(F3x3=[G3x3]^1)にて示されるものであり、これら伝達関数行列(G3x3、F3x3)は可逆性を有する。
【0086】
順送電状態において、1次側電圧と2次側電圧との電圧比の式は、下記の(20)、(22)及び(22)式にて示される。UV(uv)相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|uv|/|UV|)は、(20)にて示される。
【数23】
【0087】
VW(vw)相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|vw|/|VW|)は、(21)にて示される。
【数24】
【0088】
WU(wu)相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|wu|/|WU|)は、(22)にて示される。
【数25】
【0089】
上述した(20)、(21)及び(22)式それぞれにおいて、1次側電圧、すなわち電源側における各線間電圧(UV、VW、WU)同士の比率が含まれる。これら負荷側の各線間電圧(UV、VW、WU)の電圧値の大きさが同じ場合、1次側電圧のベクトルを示す△UVWの各辺は同じ長さとなり、当該△UVWは正三角形となり、内角(ΦU、ΦV、ΦW)は全て60°なる。
【0090】
この場合、各相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|uv|/|UV|、|vw|/|VW|、|wu|/|WU|)は、以下の(23)、(24)及び(25)式にて示される。
【0091】
【数26】
【0092】
【数27】
【0093】
【数28】
【0094】
順送電の伝達関数行列(F3x3)は、(26)にて示される。
【数29】
なお、タップ行列(Nt3x3)及び直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)については、順送電及び逆送電において、同様である。
【0095】
順送電の伝達関数行列(F3x3)において、上述した(26)式と、(19)式とを組み合わせることにより、順送電の伝達関数行列(F3x3)の各要素に含まれる9つの変数(F11からF33)は、(27)にて示される。(27)式において、Nsは直列変圧器2の変圧比を示し、当該直列変圧器2の変圧比(Ns)は、これら9つの変数(F11からF33)の係数(スカラー)となる。
【数30】
【0096】
上述した(27)式に含まれるNt(nu)、Nt(nv)、Nt(nw)は、逆送電と同様に、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置に対し、素通しタップを0とした際の偏差を示し、調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)、及び素通しタップからのタップ位置偏差(nu、nv、nw)を用いて、再定義することができる。
【0097】
制御部61は、逆送電における場合と同様に、順送電においても各線間電圧の検出電圧比率(|uv/UV|、|vw/VW|、|wu/WU|)に対し、当該検出電圧比率に対応する算式である(20)、(21)及び(22)から成る3元連立方程式を用いて、各相におけるタップ位置偏差(nu、nv、nw)を算出する。素通しタップのタップ番号を基準とし、算出した各相におけるタップ位置偏差(nu、nv、nw)に基づき、調整変圧器3における各相のタップ位置と導出することができる。又は、調整変圧器3における各相のタップ位置を想定した場合、当該想定されるタップ位置における各相のタップ位置偏差(nu、nv、nw)を、(20)、(21)及び(22)式に代入することにより、各相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|uv|/|UV|、|vw|/|VW|、|wu|/|WU|)を算出することができる。この際、1次側電圧値又は2次側電圧値の何れかを検出している場合、検出した1次側電圧値又は2次側電圧値の一方を更に代入することにより、他方の電圧値を算出することができる。
【0098】
図3は、線間電圧それぞれの大きさ(辺ベクトル)を三角形で示した説明図である。図4は、三角形の2つの合成ベクトル計算に用いる位相角に関する説明図である。本実施形態において演算処理に利用した三角形等の幾何学的な事項(定理等)について、図示に基づき説明する。上述のとおり、1次側電圧のベクトルを示す三角形△UVW、又は2次側電圧のベクトルを示す三角形△uvwにおける各辺の長さは、1次側電圧(電源側)又は2次側電圧(負荷側)における各線間電圧の電圧値の大きさ(絶対値)を示す。1次側電圧のベクトルを示す三角形△UVW、又は2次側電圧のベクトルを示す三角形△uvwにおいて、三角形△を一周する3つの辺ベクトルの内の1つのベクトルは、他の2つの辺の逆方向の合成ベクトル(WU=(-UV)-VW)にて表現(定義)することができる。
【0099】
三角形△UVWを一周する3つの辺ベクトルのうち、2つの辺ベクトルの差による合成ベクトルは、残り(他)の1片を軸に反転複写することにより形成される合同三角形(図3では△UVWに対する△UVW’)によって示される平行四辺形の対角線となる。平行四辺形の2つの対角線は、互いの中点で交差するため、当該対角線(例えば対角線WW’)は△UVWの頂点(例えばW)から重心(O)に向かう線(線WO)の3倍の長さを持つ同相ベクトルとなる。これを利用することにより、相電圧と線間電圧との双方向での変換を表現(WW’=VW-WU=-3WO)し、定義することができる。三角形△UVWを一周する3つの辺ベクトルのうち、2つの辺ベクトルの合成ベクトルの大きさは、基本ベクトル(図3では、-UV)に対する相手側ベクトル(図3では、-VW)と成す角によって、相手側ベクトル(-VW)を、基本ベクトル(-UV)の縦横成分に変換し、自乗平方根によって算出することができる。
【0100】
三相交流の位相回転を考慮すると、図3で使用する位相角は、図4のように示される。すなわち、基準ベクトル(基本ベクトル)よりも進んでいるベクトルに使用する位相角は、πから三角形の内角(∠V、ΦV)を減算した値(例えば、π-∠V、π-ΦV)となる。基準ベクトル(基本ベクトル)よりも遅れているベクトルに使用する位相角は、πから三角形の内角(∠W、ΦW)を加算した値(例えば、π+∠W、π+ΦW)となる。このような定義となるのは、(8)、(9)、(10)、(20)、(21)、(22)、式において、三角関数の符号が項毎に異なる要因によるものである。
【0101】
図5は、順送電用伝達関数(テーブル)の一例を示す説明図である。順送電用伝達関数は、順送電状態での二次側(負荷側)における出力電圧において、各相の線間電圧の値が全て同じであるとして正規化されており、この場合、これら各相の線間電圧値を三辺とする三角形は正三角形となる。テーブル形式にて示される順送電用伝達関数(テーブル)は、各相のタップ位置の個数(タップ数)の3乗となるタップ組合せに対し、各相における変圧比が定義されている。例えば、各相におけるタップ位置の個数(タップ数)が、13個(13タップ)である場合、タップ組合せによる総数は、13の3乗となる。
【0102】
テーブル形式の順送電用伝達関数(テーブル)は、当該テーブルにおける管理項目として、組合せNo、3相それぞれのタップ位置(nu、nv、nw)、順送電状態における3相それぞれの変圧比(uv変圧比、vw変圧比、wu変圧比)を含む。3相それぞれのタップ位置(nu、nv、nw)の項目には、3相それぞれにおけるタップ数が格納される。順送電状態の変圧比の項目には、各状態に応じた変圧比に関する数値が格納されている。制御部61は、記憶部に記憶されている順送電用伝達関数(テーブル)を参照し、各相それぞれのタップが取り得るタップ番号による全ての組合せ(全てのタップ組合せ)における3相それぞれの変圧比(uv変圧比、vw変圧比、wu変圧比)を取得することができる。順送電状態における3相それぞれの変圧比は、タップ組合せに応じて、OLTC電圧の内の2相の合成ベクトル等に基づき導出される。
【0103】
図6は、OLTC電圧の内の2相の合成ベクトルの一例を示す説明図である。図7は、1次側電圧と2次側電圧との幾何学的関係の一例を示す説明図である。本実施形態における図示において、一例としてタップ数が13、素通しタップが7、1タップ分の調整変圧比×直列変圧器2の変圧比:100/6600であるとして説明する。本実施形態における図示においては、Δ-Y-Δ結線における直列変圧器2の重畳電圧ベクトルに関し、CAD製図方法を用いた例を説明する。このようにCAD製図方法を用いることにより、二次側(出力側)の基準電圧値に対し、各相それぞれのタップが取り得るタップ番号による全ての組合せ(全てのタップ組合せ)に応じた一次側電圧値(入力側電圧値)を幾何学的に算出することが可能となる。
【0104】
二次側(出力側)の基準電圧値は、3相において共通となり、図示のとおり各相の基準電圧値(uv、vw、wu)の大きさを1辺とする三角形(△uvw)は、正三角形となる。調整変圧器3はΔ-Y結線であり、二次側の基準電圧値を示す正三角形(△uvw)から、OLTC電圧のベクトル(ou,ov,ow)への対応については、wuがowに対応し、uvがouに対応し、vwがovに対応する。これらOLTC電圧のベクトル(ou,ov,ow)において3相を重ねて示した場合、六芒星の形状となる。これら3相それぞれを別個に図示した場合、直列変圧器2のU相の重畳電圧ベクトル、直列変圧器2のV相の重畳電圧ベクトル及び直列変圧器2のW相の重畳電圧ベクトルのそれぞれが取り得る範囲は、ひし形状にて示され、隣り合うひし形同士において、それぞれの対角線が互いに120°回転された状態となる。
【0105】
OLTC電圧のベクトル(ou,ov,ow)は、調整変圧器3のΔ-Y結線によって、それぞれ、ouがuv、ovがvw、owがwuに対応する。直列変圧器2の重畳電圧ベクトルは、OLTC上のΔ結線によって、OLTCの電圧ベクトル(ou,ov,ow)のうち、何れか2成分の合成ベクトルとなる。1次側電圧のベクトルを示す三角形△UVWと、2次側電圧のベクトルを示す△uvwとの対応する頂点(同相の頂点同士)それぞれを結ぶ重畳電圧ベクトルそれぞれに関し、Uuがow(wu)-ou(uv)、Vvがou(uv)-ov(vw)、Wwがov(vw)-ow(wu)に対応する。直列変圧器2の重畳電圧ベクトルは、それを構成する2成分の素通しタップ座標(7、7)から選択タップ位置毎のベクトル座標(1から13、1から13)に向かうベクトルに対応する。なお、各相のタップを更新するにあたり、これらタップを同じタップ位置に制御する一括タップ制御の場合、三角形の幾何学的性質により、二次側の基準電圧値を示す正三角形(△uvw)の不平効率は問わず、相電圧ベクトルと一致する。
【0106】
直列変圧器2のU相の重畳電圧ベクトルは、”-ou(-uv)”と”ow(wu)”との合成ベクトルにて示される。”-ou(-uv)”と”ow(wu)”とは、60°の角度にて交差している。”-ou(-uv)”ベクトルは、nuのタップ位置に対応しており、タップ数が13の場合、タップ位置が7となる素通しタップを基準として、タップ位置が1から13までの間のベクトル(ベクトル座標)を取り得る。”ow(wu)”ベクトルは、nwのタップ位置に対応しており、タップ数が13の場合、タップ位置が7となる素通しタップを基準として、タップ位置が1から13までの間のベクトル(ベクトル座標)を取り得る。
【0107】
直列変圧器2のV相の重畳電圧ベクトルは、”-ov(-vw)”と”ou(uv)”との合成ベクトルにて示される。”-ov(-vw)”と”ou(uv)”とは、60°の角度にて交差している。”-ov(-vw)”ベクトルは、nvのタップ位置に対応しており、タップ数が13の場合、タップ位置が7となる素通しタップを基準として、タップ位置が1から13までの間のベクトル(ベクトル座標)を取り得る。”ou(uv)”ベクトルは、nuのタップ位置に対応しており、タップ数が13の場合、タップ位置が7となる素通しタップを基準として、タップ位置が1から13までの間のベクトル(ベクトル座標)を取り得る。
【0108】
直列変圧器2のW相の重畳電圧ベクトルは、”-ow(-wu)”と”ov(vw)”との合成ベクトルにて示される。”-ow(-wu)”と”ov(vw)”とは、60°の角度にて交差している。”-ow(-wu)”ベクトルは、nwのタップ位置に対応しており、タップ数が13の場合、タップ位置が7となる素通しタップを基準として、タップ位置が1から13までの間のベクトル(ベクトル座標)を取り得る。”ov(vw)”ベクトルは、nvのタップ位置に対応しており、タップ数が13の場合、タップ位置が7となる素通しタップを基準として、タップ位置が1から13までの間のベクトル(ベクトル座標)を取り得る。
【0109】
3相それぞれにおけるタップ位置に基づき、各相における1次側電圧値の幾何学的算出に関し、二次側の基準電圧値を示す正三角形(△uvw)等を用いて説明する。Y結線中性点Nを基準として、2次側相電圧ベクトル軸が120°の位相差にて示される。2次側相電圧ベクトル軸に対し、OLTC相電圧ベクトル(ou,ov,ow)は、30°の位相差を有する。当該正三角形(△uvw)の頂点には、対応する重畳電圧ベクトルにおける素通しタップ座標(7、7)が位置する。1次側電圧値を示す三角形(△UVW)の頂点は、重畳電圧ベクトルによるタップ座標(選択タップ位置毎のベクトル座標(1から13、1から13))が位置する。
【0110】
例えば、3相の全てのタップ位置が1の場合((nu、nv、nw)=(1、1、1))、1次側電圧値を示す三角形(△UVW)の頂点は、各相を示すひし形の外側の頂点に位置する。例えば、3相の全てのタップ位置が13の場合((nu、nv、nw)=(13、13、13))、1次側電圧値を示す三角形(△UVW)の頂点は、各相を示すひし形の内側の頂点に位置する。例えば、3相の全てのタップ位置が((nu、nv、nw)=(4、6、9))、1次側電圧値を示す三角形(△UVW)の頂点は、各相を示すひし形の内部に位置するタップ座標となる。
【0111】
このように1次側電圧値を示す三角形(△UVW)の頂点を、例えばCAD等の製図又は描画機能を有するアプリケーションを用いて表示し、各頂点間の距離を図ることにより、1次側電圧値における各相電圧を算出することができる。幾何学的に算出した1次側電圧値の各相電圧それぞれと、二次側の基準電圧との比率を算出することにより、全ての組合せ(全てのタップ組合せ)における3相それぞれの変圧比(uv変圧比、vw変圧比、wu変圧比)を算出することができる。
【0112】
図8は、制御部61の処理手順を示すフローチャートである。制御部61は、ROM等の記憶部に予め格納されている制御プログラム(プログラム製品)に従って、タップ切換器4の運用中に、例えば60Hzの1周期より短い周期で本処理を実行する。又は、制御部61は、検出した電圧が不感帯を逸脱した場合に本処理を実行するものであってもよい。
【0113】
制御部61は、電源側における三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値を取得する(S101)。制御部61は、例えば、電源側の電圧検出部62から、電源側における線間電圧(UV、VW、WU)それぞれを、1次側電圧値として取得する。当該1次側電圧値は、例えば、直近1サイクルの実行値、一定時間の実行値平均、フィルタ計算した値等、1次側電圧データに基づくものであればよい。電圧調整装置100がが順送電状態である場合は、電源側の1次側電圧値が入力側の計測電圧値(入力側計測電圧値)に相当し、負荷側の2次側電圧値が出力側の計測電圧値(出力側計測電圧値)に相当する。
【0114】
制御部61は、三相の線間電圧それぞれにおける基準電圧値を取得する(S102)。三相の線間電圧それぞれにおける基準電圧値は、電圧調整装置100の操作者により予め設定(整定)されており、出力側(順送電状態における2次側)の基準電圧値に相当する。当該設定された基準電圧値は、記憶部に記憶されている。負荷側の2次側電圧として整定され三相の基準電圧値それぞれは、同じ値として設定されており、各相の基準電圧値(ref[uv、vw、wu])の大きさを1辺とする三角形(ref△uvw)は、正三角形となる。制御部6131は、記憶部を参照することにより、三相の線間電圧それぞれにおける基準電圧値を取得する。
【0115】
制御部61は、三相の線間電圧それぞれにおいて、1次側電圧値と基準電圧値との比率である検出比率を算出する(S103)。制御部61は、三相の線間電圧それぞれにおいて、例えば、基準電圧値(ref[uv、vw、wu])を1次側電圧値(UV、VW、WU)により除算することにより、三相それぞれにおける検出比率(refuv/UV、refvw/VW、refwu/WU)を算出する。制御部61は、算出した三相それぞれにおける検出比率を記憶部に記憶する。
【0116】
制御部61は、順送電用伝達関数にて定義されているタップ組合せの基準比率と、検出比率との偏差を算出する(S104)。順送電用伝達関数には、順送電状態かつ、出力側(2次側)の基準電圧値が3相において共通の値(同じ値)として設定されている条件下において、各相それぞれのタップが取り得るタップ番号による全ての組合せ(全てのタップ組合せ)が定義されている。更に、これら全てのタップ組合せにおける各相の基準比率を含む。すなわち順送電用伝達関数には、三相にて共通となる基準電圧値と、タップ組合せが選択された際の当該基準電圧値に対する3相それぞれの入力側電圧値として算出された対応電圧値とによる、基準比率(基準変圧比)が定義されている。
【0117】
制御部61は、記憶部に記憶されている順送電用伝達関数を参照することにより、全てのタップ組合せにおいて、各相における検出比率と基準比率との偏差それぞれを算出する。各相における偏差それぞれ(d1(UVの偏差)、d2(VWの偏差)、d3(WUの偏差))は、各相における検出比率と基準比率との差異の絶対値にて算出されるものであってもよい。制御部61は、全てのタップ組合せそれぞれにおいて算出した偏差それぞれを記憶部に記憶する。
【0118】
制御部61は、偏差が最小となるタップ組合せに基づき目標タップ位置を決定する(S105)。制御部61は、これら各相における検出比率と基準比率との差異の絶対値等による偏差を合算した値が最小となるタップ組合せを特定し、当該特定したタップ組合せ(目標タップ組合せ)に応じて、三相それぞれの目標タップ位置それぞれを決定する。
【0119】
制御部61は、各相における基準比率と検出比率との偏差を算出するにあたり、当該偏差に対し、各相それぞれに設定されている優先度を関与させた値(優先度関与偏差)を算出し、当該優先度関与偏差の合計値が最小となるタップ組合せを特定するものであってもよい。例えば、記憶部には、三相それぞれにおける優先度を示す優先係数が予め記憶されており、制御部61は、当該記憶部を参照することにより、三相それぞれの優先度、すなわち各相における変圧の優先順位を示す値を取得する。
【0120】
制御部61は、三相それぞれの偏差それぞれに対し、対応する優先度を例えば乗算することにより、各偏差に対し対応する優先度を関与させた値(優先度関与偏差)を算出する。例えば、3相における優先順位において、UV相が最も高い優先とされ、WU相が最も低い優先とされる場合(UV>VW>WU)各相における優先係数は、UV相の優先係数(P1)が最も大きい値となり、WU相の優先係数(P3)が最も小さい値として設定(P1(UV相の優先係数)>P2(VW相の優先係数)>P3(WU相の優先係数))される。
【0121】
制御部61は、三相それぞれにおける検出比率と基準比率との偏差(d1(UVの偏差)、d2(VWの偏差)、d3(WUの偏差))に対し、各相における優先度を乗した値(d1*P1+d2*P2+d3*P3)が最小となるタップ組み合わを特定する。これにより、優先度の高い相の偏差が、優先度の低い相の偏差よりも、比較的に小さいなるタップ組み合わを、効率的に特定することができ、各相における変圧の優先度を加味して、三相それぞれの目標タップ位置それぞれを決定することができる。
【0122】
制御部61は、タップ位置を、決定した目標タップ位置に更新する(S106)。制御部61は、現時点におけるタップ位置を、偏差が最小となるタップ組合せに基づき特定した目標タップ位置(目標タップ組合せ)に更新する。これにより、各相における変圧比が変更され、電圧調整装置100は、出力電圧が基準電圧に近接するように制御される。制御部61は、S113の実行後、再度S101からの処理を実行すべくループ処理を行う。これにより、所定の周期にて、適切な目標タップ位置(目標タップ組合せ)を導出し、当該目標タップ組合せにタップ位置を更新する処理を継続することができる。
【0123】
(実施形態2)
図9は、実施形態2(V-V-Δ結線)に係る電圧調整装置100の構成例を示すブロック図である。実施形態2の電圧調整装置100は、実施形態1と同様に電圧検出部62及び制御部61等を備え、V-V-Δ結線の電圧調整装置100である。実施形態1と共通する電圧検出部62及び制御部61等の図示は省略する。電圧検出部62はΔ結線に限定されず、V結線であってもよい。図中1u,1v,1wは、電源(U相,V相,W相)から負荷(u相,v相,w相)へ、U相,V相,W相の交流電圧を紙面の右向きに配電(順送電状態)、又は左向きに配電(逆送電状態)する配電線である。
【0124】
電圧調整装置100は、配電線1u,1v,1w夫々に二次巻線212,222,232が直列に接続される直列変圧器2と、配電線1u,1v,1wに一次巻線311,321がV結線される調整変圧器3と、調整変圧器3の二次巻線312,322及び直列変圧器2の一次巻線211,221,231の間に設けられたタップ切換器4とを備える。
【0125】
調整変圧器3の二次巻線312,322は、一次巻線311,321と同様にV結線されている。調整変圧器3の一次巻線311と二次巻線312とが対応し、調整変圧器3の一次巻線321と二次巻線322とが対応する。このように調整変圧器3の一次巻線311,321と、二次巻線312,322とは、V-V結線されている。
【0126】
直列変圧器2の一次巻線211,221,231は、実施形態1と同様にΔ結線されている。すなわち、調整変圧器3の二次巻線312,322と、直列変圧器2の一次巻線211,221,231とは、V-Δ結線されている。直列変圧器2の一次巻線211は直列変圧器2の二次巻線212に対応し、直列変圧器2の一次巻線221は直列変圧器2の二次巻線222に対応し、直列変圧器2の一次巻線231は直列変圧器2の二次巻線232に対応する。
【0127】
タップ切換器4は、調整変圧器3の二次巻線312,322夫々が有するタップta,tb,tcを切り換えるための6つの切換スイッチS1,S2,・・S6を2相分、有する。すなわち、調整変圧器3は、V-V結線における1相のスイッチS1,S2,・・S6及び2相のスイッチS1,S2,・・S6を備える。
【0128】
図10は、タップ位置とオンにする切換スイッチ等との関係を定義するタップ位置テーブルの説明図である。なお、タップ位置テーブルと電圧調整装置100の構成例を示すブロック図との対比は、実施形態1と同様である。本実施形態におけるタップ位置テーブルは、実施形態1にて説明したタップ位置テーブルと同様に管理項目(フィールド)として、例えば、各相(1相,2相)それぞれにおけるタップ位置(n:nuv、nvw)を示す項目、選択する交流スイッチ素子(切換スイッチ)を示す項目、及び素通しタップを0とした際の偏差(Nt(nuv)、Nt(nv)、Nt(nvw))を示す項目を含む。
【0129】
各タップ位置における切換スイッチS1,S2,・・S6の選択(オン)の態様は、実施形態1と同様である。また、各タップ位置それぞれにおける素通しタップを0とした際の偏差についても、実施形態1と同様である。
【0130】
当該偏差は、素通しタップを0とした際の偏差を意味し、調整変圧器3の各相におけるOLTC電圧(Ou、Ov、Ow)の線間電圧を、負荷側の線間電圧で除算した値に相当する。すなわち、1相の偏差(Nt(nuv))は、対応するOLTC電圧の線間電圧(OuOv)の絶対値を、負荷側の線間電圧(uv)絶対値にて除算した値(Nt(nuv)=|OuOv|/|uv|)に相当する。2相の偏差(Nt(nvw))は、対応するOLTC電圧の線間電圧(OvOw)の絶対値を、負荷側の線間電圧(vw)絶対値にて除算した値(Nt(nvw)=|OvOw|/|vw|)に相当する。本実施形態にて図示したタップ位置テーブルは、V-V-Δ結線の調整変圧器3のみならず、後述するV-V-Y結線の調整変圧器3に対しても適用することができる。
【0131】
調整変圧器3がV-V-Δ結線にて構成される電圧調整装置100が逆送電状態である場合における制御モデル(逆送電状態の制御モデル)に関し、説明する。本実施形態におけるV-V-Δ結線の調整変圧器3と、実施形態1におけるΔ-Y-Δ結線の調整変圧器3とにおいて、同様の逆送電の伝達関数行列(G3x3)を用いることができる。この場合、直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)は同じであるが、タップ行列(Nt3x3)は異なる。
【0132】
タップ行列(Nt3x3)は、下記(28)式にて示される。
【数31】
【0133】
逆送電の伝達関数行列(G3x3)は、下記(29)式にて示される。
【数32】
【0134】
逆送電の伝達関数行列(G3x3)において、上述した(29)式と、(4)式とを組み合わせることにより、逆送電の伝達関数行列(G3x3)の各要素に含まれる9つの変数(G11からG33)は、(30)にて示される。(30)式において、Nsは直列変圧器2の変圧比を示し、当該直列変圧器2の変圧比(Ns)は、これら9つの変数(G11からG33)の係数(スカラー)となる。
【数33】
【0135】
上述した(30)式に含まれるNt(nuv)、Nt(nvw)は、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)と同様に、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置に対し、素通しタップを0とした際の偏差を示し、調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)、及び素通しタップからのタップ位置偏差(nuv、nvw)を用いて、再定義することができる。
【0136】
調整変圧器3がV-V-Δ結線にて構成される電圧調整装置100が順送電状態である場合における制御モデル(順送電状態の制御モデル)に関し、説明する。順送電状態の制御モデルは、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)と同様に、逆送電状態の制御モデルにおける伝達関数行列(G3x3)の逆行列により示される。
【0137】
順送電の伝達関数行列(F3x3)は、(31)にて示される。
【数34】
なお、タップ行列(Nt3x3)及び直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)については、順送電及び逆送電において、同様である。
【0138】
順送電の伝達関数行列(F3x3)において、上述した(31)式と、(19)式とを組み合わせることにより、順送電の伝達関数行列(F3x3)の各要素に含まれる9つの変数(F11からF33)は、(32)にて示される。(32)式において、Nsは直列変圧器2の変圧比を示し、当該直列変圧器2の変圧比(Ns)は、これら9つの変数(F11からF33)の係数(スカラー)となる。
【数35】
【0139】
上述した(32)式に含まれるNt(nuv)、Nt(nvw)は、逆送電と同様に、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置に対し、素通しタップを0とした際の偏差を示し、調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)、及び素通しタップからのタップ位置偏差(nuv、nvw)を用いて、再定義することができる。
【0140】
図11は、順送電用伝達関数(テーブル)の一例を示す説明図である。本実施形態における順送電用伝達関数(テーブル)は、組合せNo、2相それぞれのタップ位置(nuv、nvw)、順送電状態における3相それぞれの変圧比(uv変圧比、vw変圧比、wu変圧比)を含む。従って、本実施形態における順送電用伝達関数(テーブル)における全ての組合せの個数は、各相のタップ位置の個数(タップ数)の2乗となる。
【0141】
制御部61は、記憶部に記憶されている順送電用伝達関数(テーブル)を参照し、各相それぞれのタップが取り得るタップ番号による全ての組合せ(全てのタップ組合せ)における3相それぞれの変圧比(uv変圧比、vw変圧比、wu変圧比)を取得することができる。順送電状態における3相それぞれの変圧比は、実施形態1と同様に、OLTC電圧の内の2相の合成ベクトル等に基づき導出される。
【0142】
図12は、OLTC電圧の内の2相の合成ベクトルの一例を示す説明図である。図13は、1次側電圧と2次側電圧との幾何学的関係の一例を示す説明図である。実施形態1と同様に二次側(出力側)の基準電圧値は、3相において共通となり、図示のとおり各相の基準電圧値(uv、vw、wu)の大きさを1辺とする三角形(△uvw)は、正三角形となる。OLTC電圧のベクトル(ou,ov,ow)は、調整変圧器3のV結線によって、それぞれ、ou(uvタップ位置)がuv、”ou+ow”がwu、ow(vwタップ位置)がvwに対応し、ovが原点に位置する。
【0143】
1次側電圧のベクトルを示す三角形△UVWと、2次側電圧のベクトルを示す△uvwとの対応する頂点(同相の頂点同士)それぞれを結ぶ重畳電圧ベクトルそれぞれに関し、Uuにおいては、ouow(ouからowへ向かうベクトル)、すなわち”-ouov-ovow”がuに重畳される。Vvにおいては、ouov(ovからouへ向かうベクトル)がvに重畳される。Wwにおいては、ovow(owからovへ向かうベクトル)がwに重畳される。
【0144】
各相における1次側電圧は、実施形態1と同様に1次側電圧値を示す三角形(△UVW)の頂点を、例えばCAD等の製図又は描画機能を有するアプリケーションを用いて表示することにより、各頂点間の距離を図ることにより、1次側電圧値における各相電圧を算出することができる。
【0145】
制御部61は、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)の処理フローと同様に、順送電用伝達関数(テーブル)を用いて、検出比率と基準比率との偏差が最小となるタップ組合せを、目標タップ位置として決定する。
【0146】
(実施形態3)
図14は、実施形態3(V-V-Y結線)に係る電圧調整装置100の構成例を示すブロック図である。実施形態2の電圧調整装置100は、実施形態1と同様に電圧検出部62及び制御部61等を備え、V-V-Y結線の電圧調整装置100である。実施形態1と共通する電圧検出部62及び制御部61等の図示は省略する。電圧調整装置100は、配電線1u,1v,1w夫々に二次巻線212,222,232が直列に接続される直列変圧器2と、配電線1u,1v,1wに一次巻線311,321がV結線される調整変圧器3と、調整変圧器3の二次巻線312,322及び直列変圧器2の一次巻線211,221,231の間に設けられたタップ切換器4とを備える。
【0147】
調整変圧器3の二次巻線312,322は、一次巻線311,321と同様にV結線されている。調整変圧器3の一次巻線311と二次巻線312とが対応し、調整変圧器3の一次巻線321と二次巻線322とが対応する。このように調整変圧器3の一次巻線311,321と、二次巻線312,322とは、V-V結線されている。
【0148】
直列変圧器2の一次巻線211,221,231は、Y結線されている。すなわち、調整変圧器3の二次巻線312,322と、直列変圧器2の一次巻線211,221,231とは、V-Y結線されている。直列変圧器2の一次巻線211は直列変圧器2の二次巻線212に対応し、直列変圧器2の一次巻線221は直列変圧器2の二次巻線222に対応し、直列変圧器2の一次巻線231は直列変圧器2の二次巻線232に対応する。
【0149】
タップ切換器4は、調整変圧器3の二次巻線312,322夫々が有するタップta,tb,tcを切り換えるための6つの切換スイッチS1,S2,・・S6を2相分、有する。すなわち、調整変圧器3は、V-V結線における1相のスイッチS1,S2,・・S6及び2相のスイッチS1,S2,・・S6を備える。
【0150】
調整変圧器3がV-V-Y結線にて構成される電圧調整装置100が逆送電状態である場合における制御モデル(逆送電状態の制御モデル)に関し、説明する。本実施形態におけるV-V-Y結線の調整変圧器3と、実施形態1におけるΔ-Y-Δ結線の調整変圧器3とにおいて、同様の逆送電の伝達関数行列(G3x3)を用いることができる。この場合、直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)は同じであるが、タップ行列(Nt3x3)は異なる。
【0151】
タップ行列(Nt3x3)は、下記(33)式にて示される。
【数36】
【0152】
逆送電の伝達関数行列(G3x3)は、下記(34)式にて示される。
【数37】
【0153】
逆送電の伝達関数行列(G3x3)において、上述した(34)式と、(4)式とを組み合わせることにより、逆送電の伝達関数行列(G3x3)の各要素に含まれる9つの変数(G11からG33)は、(35)にて示される。(35)式において、Nsは直列変圧器2の変圧比を示し、当該直列変圧器2の変圧比(Ns)は、これら9つの変数(G11からG33)の係数(スカラー)となる。
【数38】
【0154】
上述した(30)式に含まれるNt(nuv)、Nt(nvw)は、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)と同様に、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置に対し、素通しタップを0とした際の偏差を示し、調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)、及び素通しタップからのタップ位置偏差(nuv、nvw)を用いて、再定義することができる。
【0155】
制御部61は、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)の処理フローと同様に、正規化伝達関数(テーブル)を用いて、候補タップ組合せを抽出し、抽出した複数の候補タップ組合せにおいて、算出される出力側電圧値と基準電圧値との偏差が最小となる候補タップ組合せを、目標タップ位置として決定する。正規化伝達関数(テーブル)の構成は、実施形態2(V-V-Δ結線)と同様である。
【0156】
制御部61は、実施形態1と同様に、正規化伝達関数(テーブル)を用いて抽出した複数の候補タップ組合せそれぞれにおいて、逆送電状態である場合、(8)、(9)及び(10)式を用いて、各相における算出電圧比率を算出する。この際、これら各式にて含まれる伝達関数行列の要素に関しては、(35)式にて定義されているものを用いる。
【0157】
調整変圧器3がV-V-Y結線にて構成される電圧調整装置100が順送電状態である場合における制御モデル(順送電状態の制御モデル)に関し、説明する。順送電状態の制御モデルは、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)と同様に、逆送電状態の制御モデルにおける伝達関数行列(G3x3)の逆行列により示される。
【0158】
順送電の伝達関数行列(F3x3)は、(36)にて示される。
【数39】
なお、タップ行列(Nt3x3)及び直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)については、順送電及び逆送電において、同様である。
【0159】
順送電の伝達関数行列(F3x3)において、上述した(36)式と、(19)式とを組み合わせることにより、順送電の伝達関数行列(F3x3)の各要素に含まれる9つの変数(F11からF33)は、(37)にて示される。
【数40】
(37)式において、Nsは直列変圧器2の変圧比を示し、当該直列変圧器2の変圧比(Ns)は、これら9つの変数(F11からF33)の係数(スカラー)となる。
【0160】
上述した(32)式に含まれるNt(nuv)、Nt(nvw)は、逆送電と同様に、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置に対し、素通しタップを0とした際の偏差を示し、調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)、及び素通しタップからのタップ位置偏差(nuv、nvw)を用いて、再定義することができる。
【0161】
図15は、1次側電圧と2次側電圧との幾何学的関係の一例を示す説明図である。本実施形態における順送電用伝達関数(テーブル)及びOLTC電圧の内の2相の合成ベクトルは、実施形態2のV-V-Δ結線である場合と同様である。
【0162】
1次側電圧のベクトルを示す三角形△UVWと、2次側電圧のベクトルを示す△uvwとの対応する頂点(同相の頂点同士)それぞれを結ぶ重畳電圧ベクトルそれぞれに関し、
Uuにおいては、ouから三角形△ouovowの重心へ向かうベクトルがuに重畳される。Vvにおいては、ovから三角形△ouovowの重心へ向かうベクトルがvに重畳される。Wwにおいては、owから三角形△ouovowの重心へ向かうベクトルがwに重畳される。
【0163】
各相における1次側電圧は、実施形態1又は実施形態2と同様に1次側電圧値を示す三角形(△UVW)の頂点を、例えばCAD等の製図又は描画機能を有するアプリケーションを用いて表示することにより、各頂点間の距離を図ることにより、1次側電圧値における各相電圧を算出することができる。
【0164】
制御部61は、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)の処理フローと同様に、順送電用伝達関数(テーブル)を用いて、検出比率と基準比率との偏差が最小となるタップ組合せを、目標タップ位置として決定する。
【0165】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0166】
特許請求の範囲に記載されている複数の請求項に関して、引用形式に関わらず、相互に組み合わせることが可能である。特許請求の範囲では、複数の請求項に従属する多項従属請求項が記載されている。特許請求の範囲では、多項従属請求項に従属する多項従属請求項は記載されていないが、多項従属請求項に従属する多項従属請求項を記載してもよい。
【符号の説明】
【0167】
1u、1v、1w 配電線、 2 直列変圧器、 211,221、231 一次巻線、 212、222、232 二次巻線、 u1、v1、w1 端子、 N 中性点、 3 調整変圧器、 311、321、331 一次巻線、 312、322、332 二次巻線、 S1、S2、S3、S4、S5、S6、SS 切換スイッチ、 U1、U2、V1、V2、W1、W2 端子、 F ヒューズ、 MC 電磁接触器、 R 限流抵器、 4 タップ切換器、 ta、tb、tc タップ、 5 計測用変圧器、 61 制御部、 62 電圧検出部、 63 操作表示部、 64 駆動部、 100 電圧調整装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15