IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立オートモティブシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-燃料噴射装置 図1
  • 特開-燃料噴射装置 図2
  • 特開-燃料噴射装置 図3
  • 特開-燃料噴射装置 図4
  • 特開-燃料噴射装置 図5
  • 特開-燃料噴射装置 図6
  • 特開-燃料噴射装置 図7
  • 特開-燃料噴射装置 図8
  • 特開-燃料噴射装置 図9
  • 特開-燃料噴射装置 図10
  • 特開-燃料噴射装置 図11
  • 特開-燃料噴射装置 図12
  • 特開-燃料噴射装置 図13
  • 特開-燃料噴射装置 図14
  • 特開-燃料噴射装置 図15
  • 特開-燃料噴射装置 図16
  • 特開-燃料噴射装置 図17
  • 特開-燃料噴射装置 図18
  • 特開-燃料噴射装置 図19
  • 特開-燃料噴射装置 図20
  • 特開-燃料噴射装置 図21
  • 特開-燃料噴射装置 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093965
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 61/18 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
F02M61/18 350Z
F02M61/18 360A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210639
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】向井 寛
(72)【発明者】
【氏名】杉井 泰介
(72)【発明者】
【氏名】宮本 明靖
(72)【発明者】
【氏名】三宅 威生
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 貴敏
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA01
3G066BA10
3G066BA37
3G066CC14
3G066CD21
3G066CD30
3G066CE22
(57)【要約】
【課題】噴孔が設けられた先端部の内部空間において気泡が燃料の流路に残留しないようにすることができる燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】燃料噴射装置200は、テーパー状のシート部224(弁シート部)と、弁体203とを備える。シート部224は、複数の燃料噴射孔215を有する。弁体203は、シート部224に対して着座又は離座する。そして、弁体203の表面における複数の燃料噴射孔215と対向する噴孔対向領域23bの親液性は、この噴孔対向領域23bよりも先端側にある円すい基部領域23c(先端領域)の親液性よりも高い。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の噴孔を有するテーパー状の弁シート部と、
前記弁シート部に対して着座又は離座する弁体と、を備え、
前記弁体の表面における前記噴孔と対向する噴孔対向領域の親液性は、当該噴孔対向領域よりも先端側にある先端領域の親液性よりも高い
燃料噴射装置。
【請求項2】
前記噴孔対向領域は、前記弁体の表面上で円環状の閉領域となるよう形成されている
請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記噴孔対向領域の表面粗さは、前記先端領域の表面粗さよりも大きい
請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記噴孔対向領域の表面粗さは、最大高さ0.2~0.5マイクロメートルの範囲内に設定されている
請求項3に記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記先端領域の表面粗さは、最大高さ0.2マイクロメートル未満に設定されている
請求項4に記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記弁体の表面における前記先端領域よりも先端側には、前記噴孔対向領域の表面粗さ以上の表面粗さである頂部領域が形成されている
請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項7】
前記弁体の表面における前記先端領域よりも先端側には、前記噴孔対向領域と同等の親液性である高親液性領域と、前記先端領域と同等の親液性である低親液性領域が前記弁体の径方向で隣り合うように形成されている
請求項1に記載の燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料噴射装置によりシリンダ内に燃料を直接噴射する筒内噴射型の内燃機関が用いられている。従来の燃料噴射装置に関する技術としては、例えば、特許文献1に記載されているようなものがある。特許文献1には、弁体表面に曲面を設けることで、シート部上流から流入した燃料の流れを噴孔側に向けてガイドし、サック室への燃料流入を減らす燃料噴射弁が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-2369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された燃料噴射弁では、エンジン冷却水温度が低い状態において、燃料噴射終了後に一部の燃料の表面張力が増加して、一部の燃料が噴孔外へ流出することができないことがある。その結果、燃料噴射弁における先端部の内部空間に、一部の燃料が残留してしまう。
【0005】
一方、燃料流出が先に終了した噴孔を通じて、燃焼室内の空気が噴孔内に引き込まれることがある。この場合は、燃料噴射弁における先端部の内部空間において、燃料と気泡が入り混じった状態になる。気泡がシート部と噴孔の間に残留すると、次サイクルの燃料噴射開始時に、残留した気泡が燃料と一緒に噴射される。これにより、噴霧の初期形状が乱れて、噴霧形状にばらつきが生じる恐れがあった。
【0006】
本発明の目的は、上記の問題点を考慮し、噴孔が設けられた先端部の内部空間において気泡が燃料の流路に残留しないようにすることができる燃料噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の一態様である燃料噴射装置は、テーパー状の弁シート部と、弁体とを備える。弁シート部は、複数の噴孔を有する。弁体は、弁シート部に対して着座又は離座する。そして、弁体の表面における複数の噴孔と対向する噴孔対向領域の親液性は、この噴孔対向領域よりも先端側にある先端領域の親液性よりも高い。
【発明の効果】
【0008】
上記構成の燃料噴射装置によれば、噴孔が設けられた先端部の内部空間において気泡が燃料の流路に残留しないようにすることができる。
なお、上述した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る燃料噴射制御装置を搭載する内燃機関システムの全体構成図である。
図2】第1実施形態に係る燃料噴射装置の内部構成例を示す断面図である。
図3】第1実施形態に係る燃料噴射制御装置の駆動回路及びECUの詳細な構成例を示す図である。
図4】第1実施形態に係る駆動指令パルス、駆動電圧、駆動電流、弁体変位及び可動鉄心の変位を示す図である。
図5】第1実施形態に係る燃料噴射制御装置における先端部の軸方向に直交する断面を示す断面図である。
図6図5に示すA-A線に沿う断面図である。
図7】従来の燃料噴射装置の弁体先端部の表面粗さを示す正面図である。
図8図7に示すB-B線に沿う断面図である。
図9】従来の燃料噴射装置の、フルリフト時における駆動指令パルス、駆動電圧、駆動電流、弁体変位及び可動鉄心変位、そして噴孔出口における燃料流量を示す図である。
図10】従来の燃料噴射装置の燃料噴射終了後における弁体表面の残留気泡を示す断面図である。
図11】燃料と燃料噴射装置における弁体表面の表面粗さと濡れ角度の関係を示すグラフである。
図12】第1実施形態に係る燃料噴射装置における弁体表面の表面粗さを示す正面図である。
図13図12に示すC-C線に沿う断面図である。
図14】第1実施形態に係る燃料噴射装置のフルリフト時における駆動信号および噴射応答を示す図である。
図15】第1実施形態に係る燃料噴射装置の燃料噴射終了後における弁体表面の残留気泡を示す断面図である。
図16】従来の燃料噴射装置の弁体表面の各領域における表面粗さの分布を示すグラフである。
図17】第1実施形態に係る燃料噴射装置の弁体表面の各領域における表面粗さの分布を示すグラフである。
図18】第1実施形態に係る燃料噴射装置のハーフリフト時における駆動信号および噴射応答を示す図である。
図19】第2実施形態に係る燃料噴射装置における弁体表面の表面粗さを示す正面図である。
図20図19に示すD-D線に沿う断面図である。
図21】第3実施形態に係る燃料噴射装置における弁体表面の表面粗さを示す正面図である。
図22】第4実施形態に係る燃料噴射装置における弁体表面の表面粗さを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0011】
1.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態に係る燃料噴射装置について、図1図15を参照して説明する。
【0012】
[内燃機関システム]
まず、本実施形態に係る燃料噴射制御装置を搭載する内燃機関システムの構成例について、図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る燃料噴射制御装置を搭載する内燃機関システムの全体構成図である。
【0013】
図1に示す内燃機関(エンジン)101は、吸入行程、圧縮行程、燃焼(膨張)行程、排気行程の4行程を繰り返す4サイクルエンジンであり、例えば、4つの気筒(シリンダ)を備えた多気筒エンジンである。なお、内燃機関101が有する気筒の数は、4つに限定されるものではなく、6つ又は8つ以上の気筒を有していてもよい。
【0014】
内燃機関101は、ピストン102、吸気弁103、排気弁104を備えている。内燃機関101への吸気(吸入空気)は、流入する空気の量を検出する空気流量計(AFM:Air Flow Meter)120を通過して、スロットル弁119により流量が調整される。スロットル弁119を通過した空気は、分岐部であるコレクタ115に吸入され、その後、各気筒(シリンダ)に対して設けられた吸気管110、吸気弁103を介して、各気筒の燃焼室121に供給される。
【0015】
一方、燃料は、燃料タンク123から低圧燃料ポンプ124によって高圧燃料ポンプ125へ供給され、高圧燃料ポンプ125によって燃料噴射に必要な圧力に高められる。すなわち、高圧燃料ポンプ125は、排気カム128の排気カム軸(不図示)から伝達される動力により、高圧燃料ポンプ125内に設けられたプランジャーを上下に可動し、高圧燃料ポンプ125内の燃料を加圧(昇圧)する。
【0016】
高圧燃料ポンプ125の吸入口には、ソレノイドにより駆動する開閉バルブが設けられている。ソレノイドは、エンジン制御装置の一例であるECU(Engine Control Unit)109内に設けられた燃料噴射装置200の制御装置(以下、「燃料噴射制御装置127」と称する)に接続されている。燃料噴射装置(燃料噴射装置200)は、燃料を燃焼室(燃焼室121)に直接噴射する直噴型燃料噴射装置である。
【0017】
燃料噴射制御装置127は、ECU109からの制御指令に基づいて、ソレノイドを制御し、高圧燃料ポンプ125から吐出する燃料の圧力(燃料圧力)が所望の圧力になるように開閉バルブを駆動する。
【0018】
高圧燃料ポンプ125によって昇圧された燃料は、高圧燃料配管129を介して燃料噴射装置200へ送られる。燃料噴射装置200は、燃料噴射制御装置127の指令に基づいて、燃料を燃焼室121へ直接噴射する。この燃料噴射装置200は、後述するコイル208に駆動電流が供給(通電)されることにより、弁体203を動作させて、燃料噴射を行う。
【0019】
また、内燃機関101には、高圧燃料配管129内の燃料圧力を計測する燃料圧力センサ126が設けられている。ECU109は、燃料圧力センサ126による計測結果に基づいて、高圧燃料配管129内の燃料圧力を所望の圧力にするための制御指令を燃料噴射制御装置127へ送る。すなわち、ECU109は、所謂フィードバック制御を行って、高圧燃料配管129内の燃料圧力を所望の圧力にする。
【0020】
さらに、内燃機関101の各燃焼室121には、点火プラグ106と、点火コイル107と、水温センサ108が設けられている。点火プラグ106は、燃焼室121内に電極部を露出させ、燃焼室121内で吸入空気と燃料が混ざった混合気を放電によって引火する。点火コイル107は、点火プラグ106で放電するための高電圧を作り出す。水温センサ108は、内燃機関101の気筒を冷却する冷却水の温度を測定する。
【0021】
ECU109は、点火コイル107の通電制御と、点火プラグ106による点火制御を行う。燃焼室121内で吸入空気と燃料が混ざった混合気は、点火プラグ106から放たれる火花により燃焼し、この圧力によりピストン102が押し下げられる。
【0022】
燃焼により生じた排気ガスは、排気弁104を介して排気管111に排出される。排気管111には、三元触媒112と、酸素センサ113が設けられている。三元触媒112は、排気ガス中に含まれる、例えば、窒素酸化物(NOx)等の有害物質を浄化する。酸素センサ113は、排気ガス中に含まれる酸素濃度を検出し、その検出結果をECU109に出力する。ECU109は、酸素センサ113の検出結果に基づいて、燃料噴射装置200から供給される燃料噴射量が目標空燃比となるように、フィードバック制御を行う。
【0023】
また、ピストン102には、クランクシャフト131がコンロッド132介して接続されている。そして、ピストン102の往復運動がクランクシャフト131により回転運動に変換される。そして、クランクシャフト131には、クランク角度センサ116が取り付けられている。クランク角度センサ116は、クランクシャフト131の回転と位相を検出し、その検出結果をECU109に出力する。ECU109は、クランク角度センサ116の出力に基づいて、内燃機関101の回転速度を検出することができる。
【0024】
ECU109には、クランク角度センサ116、空気流量計120、酸素センサ113、ドライバーが操作するアクセルの開度を示すアクセル開度センサ122、燃料圧力センサ126等から供給される信号が入力される。
【0025】
ECU109は、アクセル開度センサ122から供給された信号に基づいて、内燃機関101の要求トルクを算出するとともに、アイドル状態であるか否かの判定等を行う。また、ECU109は、要求トルクなどから、内燃機関101に必要な吸入空気量を算出して、それに見合った開度信号をスロットル弁119に出力する。
【0026】
また、ECU109は、クランク角度センサ116から供給された信号に基づいて、内燃機関101の回転速度(以下、「エンジン回転数」という)を演算する回転数検出部(不図示)を有する。さらに、ECU109は、水温センサ108から得られる冷却水の温度と、内燃機関101の始動後の経過時間等から三元触媒112が暖機された状態であるか否かを判断する暖機判断部(不図示)を有する。
【0027】
燃料タンク123の内部には、燃料レベルセンサ99が設けられている。この燃料レベルセンサ99は、燃料タンク123内の燃料残量を検出するためのものであって、例えば電気式のものが使用されている。電気式の燃料レベルセンサ99には、燃料タンク123内に配置されたフロート(浮き子)99aがレバー99bを介して連結されている。
【0028】
フロート99aは、燃料タンク123内の燃料レベル(燃料の液面高さ)の変動により上下移動する。レバー99bは、フロート99aの上下移動に伴って移動する。燃料レベルセンサ99は、レバー99bの位置を可変抵抗の抵抗値に変換して、その抵抗値に応じた出力信号をECU109に出力する。ECU109は、この出力信号に基づいて燃料タンク123内の燃料レベルを検出できる。なお、燃料レベルセンサ99の構成としては、図1に示す形態に限定されるものではない。
【0029】
燃料タンク123への燃料は、車両の外部から人的あるいは機械的に与えられる。燃料タンク123内の燃料の量は、アナログ表示或いはデジタル表示の燃料ゲージ(不図示)に示される。ドライバーは、燃料ゲージ(不図示)を見て、燃料タンク123内の燃料の量を確認することができる。
【0030】
燃料タンク123へ供給される燃料は、必ずしもガソリンのみとは限らず、例えば、アルコールを含んだガソリンであってもよい。また、燃料タンク123へ供給される燃料は、アルコール、合成燃料、及びガソリンなどを混合した混合燃料でもよい。混合燃料におけるそれぞれの燃料の混合比率は、必ずしも同じとは限らず、国や地域、ガソリンスタンドなどで多様に変化し得る。
【0031】
燃料噴射制御装置127は、吸入空気量に応じた燃料量(目標噴射量)を算出して、それに応じた燃料噴射信号を燃料噴射装置200に出力する。燃料噴射制御装置127には、酸素センサ113が測定した酸素濃度を基に目標噴射量がフィードバックされる。燃料噴射制御装置127は、点火コイル107に通電信号を出力し、点火プラグ106に点火信号を出力する。
【0032】
[燃料噴射装置の構成]
次に、図1に示した燃料噴射装置200の詳細な構成例について、図2を用いて説明する。
図2は、燃料噴射装置200の内部構成例を示す断面図である。
【0033】
以下、ガソリン又は混合燃料を燃料とする内燃機関用の電磁式燃料噴射装置を例に挙げて、本実施形態の燃料噴射装置200を説明する。
【0034】
図2に示すように、燃料噴射装置200は、ノズル本体201と、弁座202と、弁体203と、固定鉄心(固定子)204と、可動鉄心(可動子)205と、中間部材206と、コイル208と、ハウジング209とを備える。また、燃料噴射装置200は、第1ばね部材211と、第2ばね部材212と、第3ばね部材213とを備える。
【0035】
ノズル本体201は、筒状に形成されている。図2においてノズル本体201の上端部を後端部とし、下端側を先端部とする。ノズル本体201の先端部には、弁座202が固定されている。弁座202は、燃料の通り道となる複数の燃料噴射孔215を有している。ノズル本体201の先端部は、燃焼室121(図1参照)を形成する部材(シリンダブロック、シリンダヘッド等)に設けられた挿入孔に挿入される。
【0036】
固定鉄心204は、外周面に凹凸を有する略円筒状に形成されている。固定鉄心204の一端部は、ノズル本体201の後端部に圧入されている。そして、ノズル本体201と固定鉄心204は、溶接により接合されている。固定鉄心204の外周面には、コネクタ210が接続されている。
【0037】
ノズル本体201と固定鉄心204は、筒状のノズル260を形成している。固定鉄心204の他端部は、ノズル260の後端部を形成している。固定鉄心204の他端部は、燃料が供給される燃料供給部204aとされている。燃料供給部204aは、高圧燃料配管129(図1参照)に連結される。
【0038】
ノズル本体201と固定鉄心204から構成されるノズル260の内部には、燃料供給部204aから複数の燃料噴射孔215まで燃料が流れるように、中心軸線200aに沿った燃料通路が形成されている。燃料噴射装置200は、燃料供給部204aを通じて高圧燃料配管129(図1参照)から燃料の供給を受け、弁座202の燃料噴射孔215から燃焼室121(図1参照)内に燃料を噴射する。
【0039】
燃料供給部204aと弁座202との間には、弁体203、可動鉄心205、中間部材206が設けられている。弁体203は、中心軸線200aに沿って移動可能に配置されている。弁体203は、円柱状に形成されている。弁体203の先端部は、弁座202に着座又は離座する。これにより、弁体203は、弁座202の複数の燃料噴射孔215を開閉する。
【0040】
可動鉄心205は、ノズル本体201の内部に配置されている。可動鉄心205は、軸孔を有する円筒状に形成されている。可動鉄心205の外周面とノズル本体201の内周面との間には、微小な間隙が形成されている。可動鉄心205の一端部は、ノズル本体201の先端部側を向いている。
【0041】
可動鉄心205の他端部は、固定鉄心204の一端部と対向している。可動鉄心205の軸孔には、弁体203が貫通している。可動鉄心205の他端部には、軸孔を含む凹部が形成されている。可動鉄心205の凹部には、中間部材206が収容されている。また、可動鉄心205には、凹部に連通する偏心貫通孔が形成されている。この偏心貫通孔は、燃料が通過する流路となる。
【0042】
中間部材206は、有底の円筒状に形成されている。中間部材206の底部は、固定鉄心204の軸孔に対向している。中間部材206の底部には、弁体203が貫通する貫通孔が設けられている。中間部材206の内周面には、弁体203の外周面に設けられた係合フランジが摺動可能に係合している。弁体203がノズル260の後端側へ移動すると、係合フランジが中間部材206の底部に係合する。これにより、中間部材206は、弁体203と一緒にノズル260の後端側へ移動する。
【0043】
ハウジング209は、有底の円筒状に形成されている。ハウジング209の底部には、ノズル本体201が貫通する貫通孔が形成されている。ハウジング209における貫通孔の開口縁とノズル本体201の外周面との間は、例えば、全周にわたって溶接されている。ハウジング209の筒部は、ノズル本体201と固定鉄心204の接合部を覆っている。
【0044】
コイル208は、固定鉄心204外周面とハウジング209の内周面との間に配置されている。固定鉄心204、コイル208及びハウジング209は、電磁石を構成する。コイル208の巻き始めと巻き終わりの端部は、不図示の配線を介してコネクタ210の電力供給用の端子210aに接続されている。
【0045】
第1ばね部材211は、固定鉄心204の筒孔内に配置されている。第1ばね部材211の一端は、弁体203の後端部に設けられたばね係合フランジに当接している。第1ばね部材211の他端は、固定鉄心204の筒孔内に設けられたばね係合部216に当接している。第1ばね部材211は、弁体203を弁座202側(ノズル260の先端側)へ付勢する。なお、ばね係合部216には、燃料が通過する流路が形成されている。
【0046】
第2ばね部材211には、弁体203が貫通している。第2ばね部材211の一端は、中間部材206の底部に当接している。第2ばね部材211の他端は、弁体203の係合フランジに当接している。第2ばね部材211は、中間部材206を介して可動鉄心205を弁座202側(ノズル260の先端側)へ付勢する。
【0047】
第3ばね部材213は、ノズル本体201の筒孔内に配置されている。第3ばね部材213には、弁体203が貫通している。第3ばね部材213の一端は、ノズル本体201の筒孔内に設けられたばね係合部217に当接している。第3ばね部材213の他端は、可動鉄心205の一端部に当接している。第3ばね部材213は、可動鉄心205を固定鉄心204側(ノズル260の後端側)へ付勢する。なお、ばね係合部217には、燃料が通過する流路が形成されている。
【0048】
コイル208に通電されていない状態では、第1ばね部材211及び第2ばね部材212の付勢力から第3ばね部材213の付勢力を引いた力が、弁体203を弁座202側(閉弁方向)に付勢する。これにより、弁体203の先端部が弁座202に接触(着座)して、複数の燃料噴射孔215を閉じる。この状態を閉弁安定状態(閉弁待機状態)とする。閉弁安定状態では、可動鉄心205は、中間部材206に当接した状態で、閉弁位置に配置される。弁体203は、可動鉄心205からの荷重を伝達する伝達面219を介して駆動される。
【0049】
閉弁安定状態において、中間部材206は、第2ばね部材212により弁座202側(閉弁方向)に付勢され、弁体203の係合フランジと接触して、静止している。可動鉄心205は、第3ばね部材213により固定鉄心204側(開弁方向)に付勢され、中間部材206と接触している。そして、第3ばね部材213の付勢力よりも第2ばね部材212の付勢力の方が大きいため、弁体203と可動鉄心205との間には、隙間250が生じている。
【0050】
コイル208に通電されると、固定鉄心204、可動鉄心205、ノズル本体201及びハウジング209を含む磁気回路に磁束が流れる。そして、固定鉄心204には、可動鉄心205を吸引する磁気吸引力が発生する。固定鉄心204の磁気吸引力が、第1ばね部材211及び第2ばね部材212の付勢力から第3ばね部材213の付勢力を引いた力を超えると、可動鉄心205は、固定鉄心204に向かって移動する。可動鉄心205は、固定鉄心204に衝突するまで移動する。
【0051】
固定鉄心204へ向かって移動する可動鉄心205は、弁体203の係合フランジと係合する。そのため、弁体203は、可動鉄心205と共に固定鉄心204に向かって移動する。弁体203が固定鉄心204に向かって移動すると、弁体203の先端部が弁座202から離れる(離座する)。これにより、弁体203が弁座202の複数の燃料噴射孔215を開く。その結果、燃料噴射装置200は、開弁状態となる。
【0052】
燃料噴射装置200には、燃料噴射制御装置127及びECU109が接続される。ECU109には、後述する図3に示すCPU(Central Processing Unit)501が含まれる。燃料噴射制御装置127は、ECU109から駆動指令パルスを受けて燃料噴射装置200に駆動電流(駆動電圧)を通電する回路を有する。なお、ECU109と燃料噴射制御装置127とは一体の部品として構成されてもよい。少なくとも燃料噴射制御装置127は、燃料噴射装置200の駆動電圧を発生する装置であって、ECU109と一体となったものであってもよいし、単体で構成されてもよい。
【0053】
ECU109では、内燃機関101の状態を示す信号を各種センサから取り込み、内燃機関101の運転条件に応じて適切な駆動指令パルス幅や噴射タイミングの演算を行う。ECU109より出力された駆動指令パルスは、信号線142を通して燃料噴射制御装置127に入力される。
【0054】
燃料噴射制御装置127は、コイル208に印加する駆動電圧を制御し、駆動電流を供給する。ECU109は、通信ライン141を通して、燃料噴射制御装置127と通信を行っている。ECU109は、燃料噴射装置200に供給する燃料の圧力や運転条件に応じて、燃料噴射制御装置127が生成する駆動電流を切替えることが可能である。燃料噴射制御装置127は、ECU109との通信によって制御定数を変化できるようになっており、制御定数に応じて電流波形が変化する。
【0055】
[燃料噴射制御装置の構成]
次に、燃料噴射制御装置127の構成について、図3を用いて説明する。
図3は、燃料噴射制御装置127の駆動回路及びECU109の詳細な構成例を示す図である。
【0056】
ECU109に内蔵されるCPU501は、燃料圧力センサ126や、空気流量計120、酸素センサ113、クランク角度センサ116等からエンジンの状態を示す各種信号を取り込む。そして、CPU501は、これらの信号に応じて、内燃機関101の運転条件に応じて燃料噴射装置200から噴射する燃料噴射量を制御するための駆動指令パルス幅や噴射タイミングの演算を行う。
【0057】
また、CPU501は、内燃機関101の運転条件に応じて適切な駆動指令パルスのパルス幅や噴射タイミングの演算を行い、信号線142を通して燃料噴射装置200の駆動IC(Integrated Circuit)502(図では、「IC」と記載)に駆動指令パルスを出力する。なお、駆動指令パルスのパルス幅の大小によって、噴射量の大小が決まる。その後、駆動IC502によって、スイッチング素子505、506、507の通電、非通電を切替えて燃料噴射装置200へ駆動電流を供給する。
【0058】
スイッチング素子505は、燃料噴射制御装置127の駆動回路に入力された電圧源VBよりも高い高電圧源と、燃料噴射装置200のコイル208の高電圧側の端子間に接続されている。スイッチング素子505、506、507は、例えば、FET(Field effect transistor)やトランジスタ等によって構成されている。スイッチング素子505、506、507は、燃料噴射装置200への通電・非通電を切り替えることができる。
【0059】
高電圧源の初期電圧値である昇圧電圧VHは、例えば65Vであり、バッテリ電圧を昇圧回路514によって昇圧することで生成する。昇圧回路514は、例えば、コイル530とトランジスタ531、ダイオード532及びコンデンサ533で構成されている。
【0060】
昇圧回路514では、トランジスタ531をONにすると、バッテリ電圧VBは接地電位534側へ流れる。一方、トランジスタ531をOFFにすると、コイル530に発生する高い電圧がダイオード532を通して整流され、コンデンサ533に電荷が蓄積される。そして、昇圧電圧VHとなるまで、このトランジスタのON又はOFFを繰り返し、コンデンサ533の電圧を増加させる。トランジスタ531は、駆動IC502又はCPU501と接続され、昇圧回路514から出力される昇圧電圧VHは、駆動IC502又はCPU501が検出するように構成する。なお、昇圧回路514は、DC/DCコンバータ等により構成してもよい。
【0061】
スイッチング素子507は、低電圧源とコイル208の高圧端子間に接続されている。低電圧源VBは、例えば、バッテリ電圧であり、その電圧値は12~14V程度である。スイッチング素子506は、燃料噴射装置200の低電圧側の端子と接地電位515の間に接続されている。
【0062】
駆動IC502は、電流検出用の抵抗508、512、513により、燃料噴射装置200に流れている電流の値を検出し、検出した電流値によって、スイッチング素子505、506、507の通電又は非通電を切替え、所望の駆動電流を生成している。ダイオード509、510は、燃料噴射装置200のコイル208に逆電圧を印加し、コイル208に供給されている電流を急速に低減する。
【0063】
CPU501は、駆動IC502と通信ライン141を通して、通信を行っている。CPU501は、燃料噴射装置200に供給する燃料の圧力や運転条件に応じて駆動IC502により生成する駆動電流を切替えることが可能である。また、抵抗508、512、513の両端は、駆動IC502のA/D変換ポートに接続されている。駆動IC502は、抵抗508、512、513の両端にかかる電圧を検出する。
【0064】
[燃料噴射装置の動作]
次に、燃料噴射制御装置127の制御による燃料噴射装置200の動作について、図4を用いて説明する。
図4は、駆動指令パルス、駆動電圧、駆動電流、弁体変位及び可動鉄心の変位を示す図である。
【0065】
図4に示すように、時刻Tsにおいて駆動指令パルスTiが入力されると、バッテリ電圧VBよりも高い電圧に昇圧された高電圧源から駆動電圧304が印加され、コイル208(図2参照)に電流の供給が開始される。
【0066】
コイル208への通電後、固定鉄心204、コイル208及びハウジング209によって構成された電磁石により起磁力が発生する。この起磁力により、固定鉄心204、ハウジング209及び可動鉄心205によってコイル208を囲むように構成される磁路を周回する磁束が流れる。このとき、可動鉄心205と固定鉄心204との間に磁気吸引力が作用し、可動鉄心205と中間部材206とが固定鉄心204に向けて変位する。その後、可動鉄心205は、弁体203の伝達面219と可動鉄心205の伝達面218とが当接する位置334まで変位する。なお、弁体203は、弁座202との当接状態を維持し続ける。
【0067】
可動鉄心205が、弁体203と可動鉄心205との間に生じている隙間250だけ変位し、弁体203の伝達面219と可動鉄心205の伝達面218とが衝突すると、弁体203は可動鉄心205の持つエネルギーにより上流側に引き上げられ、弁体203は、弁座202から離間する。これにより、弁体203と弁座202の間に隙間が構成され、燃料通路が開く。その結果、複数の燃料噴射孔215から燃料が噴射される。運動エネルギーを有した可動鉄心205により、弁体203は急峻に変位する。そして、可動鉄心205が位置335に変位すると、弁体203がフルリフト状態となる。
【0068】
燃料噴射制御装置127は、時刻Tsから、可動鉄心205と弁体203とが衝突し、弁座202から弁体203が離間する時刻T31(開弁開始タイミング)まで、高い駆動電圧304を印加し、駆動電流308をコイル208に流す。これにより、可動鉄心205と固定鉄心204との間には、必要十分な磁気吸引力が発生し、可動鉄心205を素早く応答させることができる。そして、可動鉄心205を素早く応答させることにより、例えば、予備ストロークとなる隙間250が個体毎にばらついたとしても、そのばらつきが噴射量に及ぼす影響を小さくすることができる。
【0069】
燃料噴射制御装置127は、開弁開始タイミングに駆動電流308がピーク電流値Ipに達するように駆動電圧304を設定する。そして、燃料噴射制御装置127は、駆動電流308がピーク電流値Ipに達すると電圧をオフする。図4には、駆動電流308がピーク電流値Ipに達した時に電圧がオフされる様子が示されている。このように、燃料噴射制御装置127は、可動鉄心205の過剰な加速を抑制することができるタイミングで電圧をオフすることができる。
【0070】
なお、本実施形態に係るピーク電流値Ipに達するまでの駆動電流308の印加時間は、開弁開始タイミングに基づいて決定すればよい。例えば、開弁開始タイミングまでに発生する磁気吸引力が弱い場合に、燃料噴射制御装置127は、開弁開始タイミング後に駆動電流308がピーク電流値Ipに達するようにしてもよい。また、燃料噴射制御装置127は、駆動電流308がピーク電流値Ipに達すると逆電圧を印加してもよい。
【0071】
時刻T31の後、駆動電圧304が急速に低下することで、駆動電流308が減少し、可動鉄心205と固定鉄心204との間に作用する磁気吸引力が低下する。この磁気吸引力の低下により、可動鉄心205の過剰な加速は抑制され、固定鉄心204に衝突する際の衝突エネルギーを低下させることができる。すなわち、燃料噴射制御装置127は、可動鉄心205が固定鉄心204に衝突する前に逆電圧を印加することにより、可動鉄心205の過剰な加速を抑制し、可動鉄心205が固定鉄心204に衝突する際の衝突エネルギーを低下させる。
【0072】
可動鉄心205と固定鉄心204の衝突後、弁体203は上流側へ変位し、可動鉄心205は、下方へ変位する。固定鉄心204と可動鉄心205とが衝突すると、弁体203と可動鉄心205とは離間し、可動鉄心205は、下流側へ変位するが、やがて目標リフト位置で、静止し安定する。この状態を開弁安定状態とする。
【0073】
高い駆動電圧304が印加された後、駆動電流308が開弁を保持できる第1の電流値Ih1に到達すると、燃料噴射制御装置127は、駆動電圧305の印加を時刻Teまで続ける。駆動電圧305は、バッテリ電圧VBの印加と0Vの印加を繰り返すものである。これにより、燃料噴射制御装置127は、第1の電流値Ih1を維持するように、第1のホールド電流331(駆動電流)を流す。
【0074】
燃料噴射制御装置127は、第1のホールド電流331の維持を所定の時間が経過するまで行った後、駆動電流308の電流値を低下させる。駆動電流308が開弁を保持できる第2の電流値Ih2に到達すると、燃料噴射制御装置127は、駆動電圧305を印加する制御を行う。これにより、燃料噴射制御装置127は、第2の電流値Ih2を維持するように、第2のホールド電流332(駆動電流)を流す。
【0075】
なお、所定の時間は、磁束が飽和するまでの時間等に応じて設定される。また、第1のホールド電流331及び第2のホールド電流332は、弁体203が開弁した状態(開弁保持状態)を維持するための駆動電流である。
【0076】
続いて、時刻Teで駆動指令パルスTiがOFFになると、燃料噴射制御装置127は、駆動電圧を逆方向に印加する(すなわち、逆電圧を印加する)。これにより、コイル208への電流供給が断たれ、磁気回路中に生じていた磁束が消滅し磁気吸引力が消滅する。その結果、磁気吸引力を失った可動鉄心205は、第1ばね部材211の荷重と、燃料圧力による力によって、弁体203が弁座202に接触する閉位置に押し戻される。
【0077】
[弁座及び弁体の詳細な構成]
次に、本実施形態に係る弁座202及び弁体203の先端部23の詳細な構成について図5及び図6を参照して説明する。
図5は、燃料噴射装置200における先端部の軸方向に直交する断面を示す断面図である。図6は、図5に示すA-A線に沿う断面図である。
【0078】
図5に示すように、弁座202は、ノズル本体201の内壁面に圧入される筒部222と、筒部222の軸線方向Daの先端側に連続するシート部224とを有している。
【0079】
筒部222の内周面221には、弁体203の先端部23に設けた先端側摺動部231が摺動する。また、筒部222には、複数(本例では4つ)の流路形成部223が形成されている。複数の流路形成部223は、筒部222の内周面221において、周方向に等間隔に配置されている。流路形成部223と先端側摺動部231との間には、燃料が通過する流路FC(FC1~FC4)が形成される。流路FCは、シート部224に向けて延在している。
【0080】
シート部224は、筒部222の先端部に連続して形成されており、筒部222の先端部側の開口を塞ぐ。シート部224は、先端側に向けて突出する略半球のカップ状に形成されている。シート部224の内側には、弁体203の後述する球面部230が接触及び離間するシート面224aが形成されている。シート面224aは、先端側に向かうにつれて縮径する円錐台形状(テーパー状)に形成されている。シート部224のシート面224aよりも先端側には、複数(本例では、6つ)の燃料噴射孔215が形成されている。
【0081】
また、シート部224の内側には、サック室225が形成されている。サック室225は、複数の燃料噴射孔215よりも先端側に設けられた略半球状の凹部である。また、サック室225は、燃料噴射装置200の中心軸線AX1と重なる位置に形成されている。このサック室225には、後述する弁体203における球面部230に設けた凸部233の少なくとも一部が挿入される。
【0082】
弁体203の先端部23は、球面部230と、先端側摺動部231とを有している。
【0083】
先端側摺動部231は、弁座202における筒部222の内周面221を摺動する。球面部230は、先端側摺動部231における軸線方向Daの先端側に連続して形成されている。球面部230は、略半球状に形成されている。球面部230は、弁体側シート面232と、凸部233とを有している。
【0084】
弁体側シート面232は、シート部224のシート面224aに対向し、シート面224aに対して接近及び離間する。そして、弁体側シート面232がシート面224aに接触した際に、燃料噴射孔215に至る流路FCが閉じられる。弁体側シート面232とシート面224aが接触すると、凸部233の一部は、サック室225に挿入される。また、弁体側シート面232がシート面224aから離間すると、弁体側シート面232とシート面224aとの間に燃料が通過する流路FCが形成され、燃料噴射孔215から燃料が噴射される。
【0085】
図6に示すように、燃料噴射孔215は、噴霧を形成するオリフィス孔215aと、ザグリ孔215bと、平面形成用の面押し孔215cの3段形状に形成されている。
【0086】
オリフィス孔215aは、シート面224aから外周面220に向けて延在している。ザグリ孔215bは、オリフィス孔215aを囲むようにして形成されている。ザグリ孔215bは、オリフィス孔215aにおける外周面220側の端部から外周面220に向けて延在している。また、面押し孔215cは、外周面220からザグリ孔215bに向けて凹んだ凹部である。面押し孔215cは、ザグリ孔215bの周囲を囲むようにして形成されている。
【0087】
燃料噴射孔215は、弁座202における半球状のシート部224に形成されている。そのため、燃料噴射孔215には、オリフィス孔215aの長さを調整するために、ザグリ孔215bを設けている。
【0088】
オリフィス孔215aの長さと直径の比率は、燃料噴霧流れの直進性を決める因子となる。したがって、オリフィス孔215aの長さと直径の比率が、所定の値になるように設計する。オリフィス孔215aの直径は、エンジンの仕様(燃料の流量要求)に応じて決定される。そのため、オリフィス孔215aの長さと直径の比率は、長さを調整することで設定される。そして、オリフィス孔215aの長さは、ザグリ孔215bの深さを調整することで調整される。
【0089】
なお、本実施形態では、燃料噴射孔215を3段形状としたが、本発明に係る燃料噴射孔の形状はこれに限定されるものではない。本発明に係る燃料噴射孔としては、例えば、4段以上の形状であってもよく、オリフィス孔のみの1段形状としてもよい。
【0090】
[従来の燃料噴射装置の弁体先端部の表面粗さ]
次に、従来の燃料噴射装置における弁体203の先端部23の表面粗さについて、図7及び図8を参照して説明する。
図7は、従来の燃料噴射装置における弁体の先端部の表面粗さを示す正面図である。図8は、図7に示すB-B線に沿う断面図である。
【0091】
図7及び図8に示すように、従来の弁体203における先端部23の表面は、シート部対向領域23aと、下加工領域23tと、円すい領域23rに区画されている。シート部対向領域23a、下加工領域23t、及び円すい領域23rは、それぞれ異なる表面粗さとなるように表面加工が施されている。
【0092】
シート部対向領域23aは、弁体側シート面232(図6参照)を含む円環状に形成されている。シート部対向領域23aは、弁座202のシート面224aに接触して燃料を確実に封止する必要がある。そのため、シート部対向領域23aには、表面粗さが小さくて滑らかな表面となるように、表面加工が施されている。シート部対向領域23aの表面粗さは、例えば、最大高さ0.2マイクロメートル未満に設定されている。
【0093】
下加工領域23tは、シート部対向領域23aの表面加工を施す際の下加工を行う領域である。下加工領域23tは、シート部対向領域23aよりも先端側であって、シート部対向領域23aと隣り合う円環状に形成されている。下加工領域23tは、シート部対向領域23aよりも表面粗さが大きい。下加工領域23tには、相対的に粗い表面となるように、表面加工が施されている。下加工領域23tの表面粗さは、例えば、最大高さ0.2マイクロメートル以上かつ0.5マイクロメートル未満に設定されている。
【0094】
円すい領域23rは、下加工領域23tよりも先端側の全域である。円すい領域23rは、他の部材との接触がない領域であるため、表面粗さを小さくする必要が無い。円すい領域23rは、下加工領域23tよりも表面粗さが大きい。円すい領域23rには、相対的に粗い表面となるように、表面加工が施されている。円すい領域23rの表面粗さは、例えば、最大高さ0.5マイクロメートル以上かつ1.0マイクロメートル未満に設定されている。
【0095】
なお、弁体の先端部としては、下加工領域23tを設けずに、シート部対向領域23aと円すい領域23rが隣り合う構成としてもよい。
【0096】
[従来の気泡の残留挙動]
次に、従来の燃料噴射装置における、燃料噴射終了後の気泡の残留挙動について、図9及び図10を用いて説明する。
図9は、従来の燃料噴射装置のフルリフト時における駆動指令パルス、駆動電圧、駆動電流、弁体変位及び可動鉄心変位、そして燃料噴射孔の出口における燃料流量を示す図である。図10は、従来の燃料噴射装置の燃料噴射終了後における弁体表面の残留気泡を示す断面図である。
【0097】
図9に示す駆動指令パルス、駆動電圧、駆動電流、弁体変位及び可動鉄心変位の動作については、図4と同様である。時刻Teにおいて燃料噴射が終了すると、燃料噴射装置には閉弁用の電圧が印加される。これにより、駆動電流308が停止して、弁体203の変位が低下し始める。そして、時刻Tbにおいて、弁体203の変位がゼロとなり、弁体側シート面232(図6参照)がシート部224に着座すると、燃料噴射孔215への燃料供給が停止する。
【0098】
弁座202の先端部における内部空間に存在している燃料は、残留圧力および慣性により燃料噴射孔215から外へ排出される。しかし、始動直後等でエンジン冷却水温度が低い状態では、燃料の表面張力が増加する。これにより、燃料噴射終了後に弁座202の内部空間に存在している燃料の一部は、燃料噴射孔215から外へ流出することができずに、弁座202の内部空間に残留してしまう。
【0099】
その際、燃料の流出が先に終了した燃料噴射孔215を通じて、燃焼室内の空気が燃料噴射孔215内に引き込まれる。これにより、弁座202の内部空間には、燃料と気泡24が入り混じった状態で残留する(図10参照)。
【0100】
残留する気泡24は、例えば、噴孔近傍残留気泡24h、弁体先端側残留気泡24r、サック室残留気泡24sがある。噴孔近傍残留気泡24hは、シート部224と燃料噴射孔215の間に残留する気泡である。弁体先端側残留気泡24rは、シート部224と弁体203の凸部233との間に残留する気泡である。サック室残留気泡24sは、サック室225内に残留する気泡である。
【0101】
噴孔近傍残留気泡24hには、次サイクルの燃料噴射開始時に、最初にシート部224を通過した燃料が衝突する。その結果、噴霧の初期形状に乱れが生じて、噴霧形状にばらつきが生じる恐れがある。
【0102】
噴孔近傍残留気泡24hの体積は、噴射される燃料の体積に比べて小さいため、弁体203の変位にはほぼ影響しない。しかし、噴孔近傍残留気泡24hが燃料噴射孔215を通過するタイミングであるTbubbleにおいて、燃料噴射率(図8の第五段目を参照)に乱れが生じる。
【0103】
開弁開始直後で燃料噴射率が小さい期間は、燃料噴射孔215を通過する燃料の圧力および燃料流量が小さくて流れが弱いため、噴霧形状が外乱により不安定化しやすい。噴孔近傍残留気泡24hは、開弁開始後、燃料と共に燃料噴射孔215へ進入するため、開弁開始直後に燃料噴射孔を通過することになる。したがって、噴孔近傍残留気泡24hは、噴霧形状を不安定化させやすい。
【0104】
このように、従来の燃料噴射装置では、次サイクルの燃料噴射開始時に、燃料が残留気泡に衝突することにより、噴霧の初期形状に乱れが生じる。または、燃料流量が小さく流れが弱い場合に残留気泡が噴射されることにより、噴霧の初期形状に乱れが生じる。その結果、噴霧形状にばらつきが生じる恐れがあった。
【0105】
[親液性と表面粗さ]
ここで、親液性と表面粗さについて、図11を用いて説明する。
図11は、燃料と燃料噴射装置200における弁体203の表面粗さと濡れ角度の関係を示すグラフである。
【0106】
発明者らは、気泡24の残留位置を制御する手段として、弁体203の先端部23における親液性に着目した。親液性は、接触する液体、固体、気体の表面張力のバランスで規定される。すなわち、親液性は、平板上に付着した液滴表面が平板となす角度である濡れ角度θを表す式(1)で表現される。
[数1]
θ=(γSV―γSL)/γLV・・・(1)
【0107】
なお、式(1)は、Youngの式であり、γSVは固体の気体に対する表面張力、γSLは固体の液体に対する表面張力、γLVは液体の気体に対する表面張力である。
【0108】
θが90°よりも大きい場合を親液性表面、θが90°よりも小さい場合は疎液性表面と分類される。本実施形態に係る燃料噴射装置200の素材はステンレスであり、燃料はガソリンである。ステンレスは、ガソリンに対して親液性表面となる。なお、親液性表面の接触関係となる範囲内であれば、他の種類の燃料を用いてもよい。
【0109】
また、親液性は、固体の表面粗さに依存して変化する。表面粗さと濡れ角度の関係は、Wenzelの式で表される。すなわち、濡れ角度θの平面において、表面粗さをr倍した際の濡れ角度θ’は、式(2)で表される。
[数2]
cosθ’=r×cosθ・・・(2)
【0110】
図16に示すように、親液性表面において、固体表面(弁体203の表面)の表面粗さが小さいほど濡れ角度は大きくなり、濡れにくい表面に近づく。また、表面粗さが大きいほど濡れ角度は小さくなり、濡れやすい表面に近づく。
【0111】
上述の親液性は、気体中において固体表面に付着する液滴の挙動であるが、液体中において固体表面に付着する気泡に対しては、相反する関係が成り立つ。すなわち、親液性表面において、固体表面の表面粗さが小さいほど液体に濡れにくく、気泡は付着しやすい。また、表面粗さが大きいほど濡れやすく、気泡は付着しにくい。第1実施形態に係る燃料噴射装置200では、この原理に基づいて、弁体203における先端部23の表面粗さを決定している。
【0112】
[第1実施形態に係る燃料噴射装置の弁体先端部の表面粗さ]
次に、第1実施形態に係る弁体203における先端部23の表面粗さについて、図12及び図13を参照して説明する。
図12は、第1実施形態に係る弁体の先端部の表面粗さを示す正面図である。図13は、図12に示すC-C線に沿う断面図である。
【0113】
図12及び図13に示すように、第1実施形態の弁体203における先端部23の表面は、シート部対向領域23aと、噴孔対向領域23bと、円すい基部領域23cと、円すい頂部領域23dに区画されている。シート部対向領域23a、噴孔対向領域23b、円すい基部領域23c、及び円すい頂部領域23dは、それぞれ表面粗さが設定されている。
【0114】
シート部対向領域23aは、弁体側シート面232(図6参照)を含む円環状に形成されている。シート部対向領域23aは、弁座202のシート面224aに接触して燃料を確実に封止する必要がある。そのため、シート部対向領域23aには、表面粗さが小さくて滑らかな表面となるように、表面加工が施されている。シート部対向領域23aの表面粗さは、例えば、最大高さ0.2マイクロメートル未満に設定されている。
【0115】
噴孔対向領域23bは、シート部対向領域23aよりも先端側であって、シート部対向領域23aと隣り合う円環状に形成されている。図13に示すように、噴孔対向領域23bは、複数の燃料噴射孔215と対向する領域を含む。噴孔対向領域23bには、相対的に粗い表面となるように、表面加工が施されている。噴孔対向領域23bは、シート部対向領域23aよりも表面粗さが大きい。噴孔対向領域23bの表面粗さは、例えば、最大高さ0.2マイクロメートル以上かつ0.5マイクロメートル未満に設定されている。
【0116】
円すい基部領域23cは、噴孔対向領域23bよりも先端側であって、噴孔対向領域23bと隣り合う円環状に形成されている。図13に示すように、円すい基部領域23cは、弁座202の内面における複数の燃料噴射孔215よりも先端側の領域と対向する領域を含む。円すい基部領域23cには、相対的に滑らかな表面となるように、表面加工が施されている。円すい基部領域23cは、噴孔対向領域23bよりも表面粗さが小さい。円すい基部領域23cの表面粗さは、例えば、最大高さ0.2マイクロメートル未満に設定されている。
【0117】
円すい頂部領域23dは、円すい基部領域23cよりも先端側の全域である。図13に示すように、円すい頂部領域23dは、サック室225と対向する。円すい頂部領域23dには、相対的に粗い表面となるように、表面加工が施されている。円すい頂部領域23dは、噴孔対向領域23bよりも表面粗さが大きい。円すい頂部領域23dの表面粗さは、例えば、最大高さ0.5マイクロメートル以上かつ1.0マイクロメートル未満に設定されている。
【0118】
[第1実施形態の気泡の残留挙動]
次に、第1実施形態の燃料噴射装置200における、燃料噴射終了後の気泡の残留挙動について、図14及び図15を用いて説明する。
図14は、第1実施形態の燃料噴射装置200のフルリフト時における駆動指令パルス、駆動電圧、駆動電流、弁体変位及び可動鉄心変位、そして燃料噴射孔の出口における燃料流量を示す図である。図15は、第1実施形態の燃料噴射装置200の燃料噴射終了後における弁体表面の残留気泡を示す断面図である。
【0119】
図13に示す駆動指令パルス、駆動電圧、駆動電流、弁体変位及び可動鉄心変位の動作については、図4と同様である。時刻Teにおいて燃料噴射が終了すると、燃料噴射装置には閉弁用の電圧が印加される。これにより、駆動電流308が停止して、弁体203の変位が低下し始める。そして、時刻Tbにおいて、弁体203の変位がゼロとなり、弁体側シート面232(図6参照)がシート部224に着座すると、燃料噴射孔215への燃料供給が停止する。
【0120】
弁座202の先端部における内部空間に存在している燃料は、残留圧力および慣性により燃料噴射孔215から外へ排出される。しかし、始動直後等でエンジン冷却水温度が低い状態では、燃料の表面張力が増加する。これにより、燃料噴射終了後に弁座202の内部空間に存在している燃料の一部は、燃料噴射孔215から外へ流出することができずに、弁座202の内部空間に残留してしまう。
【0121】
その際、燃料の流出が先に終了した燃料噴射孔215を通じて、燃焼室内の空気が燃料噴射孔215内に引き込まれる。これにより、弁座202の内部空間には、燃料と気泡24が入り混じった状態で残留する(図15参照)。
【0122】
噴孔対向領域23bは、表面粗さが隣り合う領域(シート部対向領域23a及び円すい基部領域23c)よりも相対的に大きく、濡れ角度が小さくなっている。したがって、噴孔対向領域23bには、気泡24が付着しにくくなる。なお、図15では、噴孔対向領域23bに気泡24が付着していない例を示す。
【0123】
一方、円すい基部領域23cは、表面粗さが噴孔対向領域23bよりも小さく、濡れ角度が大きくなっている。つまり、噴孔対向領域23bの親液性は、円すい基部領域23cの親液性よりも高い。したがって、円すい基部領域23cは、噴孔対向領域23bよりも気泡24が付着しやすい。
【0124】
このように、気泡24の付着を抑止したい部位の表面粗さを大きくし、気泡付着を促進したい部位の表面粗さを小さくすることで、気泡24が付着する領域を制御することができる。すなわち、噴孔対向領域23bに残留する噴孔近傍残留気泡24hの増加を抑制しつつ、円すい基部領域23cに優先的に気泡24を付着させて、弁体先端側残留気泡24rの割合を増やすことができる。
【0125】
弁体先端側残留気泡24r及びサック室残留気泡24sの多くは、開弁開始後にサック室225内の内部空間を回り込んでから燃料噴射孔215へ流入する。そのため、残留気泡24h,24rが燃料噴射孔215に到達する時刻は、弁体先端側残留気泡24rが燃料噴射孔215に到達する時刻より遅くなる。すなわち、噴孔近傍残留気泡24hが減少し、弁体先端側残留気泡24r及びサック室残留気泡24sの割合が増加すると、気泡24が燃料噴射孔215へ到達する到達時刻Tbubbleが遅くなる。
【0126】
気泡24が燃料噴射孔215へ到達する到達時刻Tbubbleが遅くなると、気泡24が到達する時刻における弁体変位が大きい状態となり、燃料圧力および燃料流量が安定化する。したがって、気泡24の燃料噴射孔215への到達時刻が遅くなるほど、気泡24が燃料噴射孔215を通過することによる噴霧形状のばらつきを小さくすることができる。
【0127】
[表面粗さの分布]
次に、第1実施形態の弁体203と従来の弁体における表面粗さの分布について、図16及び図17を参照して説明する。
図16は、従来の弁体表面の各領域における表面粗さの分布を示すグラフである。図17は、第1実施形態に係る弁体203の表面の各領域における表面粗さの分布を示すグラフである。
【0128】
閉弁状態において、シート部対向領域23aは、弁座202のシート面224a(図6a)に接触する。そのため、シート部対向領域23aには、気泡24が残留しない。気泡24が残留可能な領域(以下、「気泡残留可能領域」とする)は、シート部対向領域23aよりも先端側(図16及び図17では右側)となる。
【0129】
図16に示すように、従来の弁体では、気泡残留可能領域のうち下加工領域23tが最も表面粗さが小さく、気泡24が付着しやすい。そして、下加工領域23tの一部は、複数の燃料噴射孔215に対向する。そのため、次サイクルの燃料噴射において、気泡24が燃料噴射孔215へ到達する時刻が早くなり、噴霧の初期形状に乱れが生じる。
【0130】
一方、図17に示すように、第1実施形態に係る弁体203では、気泡残留可能領域のうち円すい基部領域23cが最も表面粗さが小さく、気泡24が付着しやすい。そして、円すい基部領域23cは、複数の燃料噴射孔215よりも先端側に位置するため、気泡24が燃料噴射孔215へ到達する時刻が遅くなり、燃料の噴霧の初期形状が安定する。その結果、噴霧形状のばらつきを小さくすることができる。
【0131】
[ハーフリフト制御]
次に、第1実施形態に係る燃料噴射装置200のハーフリフト時における駆動信号および噴射応答について、図18を参照して説明する。
図18は、第1実施形態に係る燃料噴射装置200のハーフリフト時における駆動信号および噴射応答を示す図である。
【0132】
図18に示す第一段目は噴射指令パルス、第二段目は燃料噴射装置への印加電圧、第三段目は燃料噴射装置に流れる駆動電流、第四段目は弁体の変位量、第五段目は燃料噴射孔の出口における燃料流量である。上述した燃料噴射装置の燃料噴射は、弁体203のフルリフト動作を例に挙げて説明した。しかし、本発明に係る燃料噴射装置は、弁体203をハーフリフト動作させて燃料噴射を行ってもよい。
【0133】
この場合においても、気泡残留可能領域のうち円すい基部領域23cに、気泡24が付着しやすくすることができる。これにより、気泡24が燃料噴射孔215へ到達する時刻が遅くなり、噴霧の初期形状を安定させることができる。したがって、弁体203をハーフリフト動作させて燃料噴射を行う場合であっても、噴霧形状のばらつきを小さくすることができる。
【0134】
2.第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態に係る燃料噴射装置について説明する。
【0135】
第2実施形態に係る燃料噴射装置は、第1実施形態に係る燃料噴射装置200と同様の構成を備えている。第2実施形態に係る燃料噴射装置が、第1実施形態に係る燃料噴射装置200と異なる点は、弁体203の表面粗さを区画する領域である。そのため、ここでは、第2実施形態に係る弁体203の表面粗さについて説明し、重複する構成の説明を省略する。
【0136】
[第2実施形態に係る燃料噴射装置の弁体先端部の表面粗さ]
第2実施形態に係る弁体203における先端部23の表面粗さについて、図19及び図20を参照して説明する。
図19は、第2実施形態に係る弁体の先端部の表面粗さを示す正面図である。図20は、図19に示すD-D線に沿う断面図である。
【0137】
図19及び図20に示すように、第2実施形態の弁体203における先端部23の表面は、シート部対向領域23aと、噴孔対向領域23bと、円すい基部領域23cと、円すい頂部領域23dと、高親液性領域23eと、低親液性領域23fに区画されている。シート部対向領域23a、噴孔対向領域23b、円すい基部領域23c、円すい頂部領域23d、高親液性領域23e、及び低親液性領域23fは、それぞれ表面粗さが設定されている。なお、シート部対向領域23a、噴孔対向領域23b、円すい基部領域23cは、第1実施形態と同じである。
【0138】
高親液性領域23eは、円すい基部領域23cよりも先端側であって、円すい基部領域23cと隣り合う円環状に形成されている。図20に示すように、高親液性領域23eは、弁座202の内面における複数の燃料噴射孔215よりも先端側の領域と対向する。高親液性領域23eには、相対的に粗い表面となるように、表面加工が施されている。高親液性領域23eの表面粗さは、噴孔対向領域23bの表面粗さと同等に設定されている。すなわち、高親液性領域23eの表面粗さは、例えば、最大高さ0.2マイクロメートル以上かつ0.5マイクロメートル未満に設定されている。
【0139】
低親液性領域23fは、高親液性領域23eよりも先端側であって、高親液性領域23eと隣り合う円環状に形成されている。図20に示すように、低親液性領域23fは、弁座202の内面における複数の燃料噴射孔215よりも先端側の領域及びサック室225と対向する。低親液性領域23fには、相対的に滑らかな表面となるように、表面加工が施されている。低親液性領域23fの表面粗さは、円すい基部領域23cの表面粗さと同等に設定されている。すなわち、低親液性領域23fの表面粗さは、例えば、最大高さ0.2マイクロメートル未満に設定されている。
【0140】
円すい頂部領域23dは、低親液性領域23fよりも先端側の全域である。図20に示すように、円すい頂部領域23dは、サック室225と対向する。円すい頂部領域23dには、相対的に粗い表面となるように、表面加工が施されている。円すい頂部領域23dは、噴孔対向領域23b及び高親液性領域23eよりも表面粗さが大きい。円すい頂部領域23dの表面粗さは、例えば、最大高さ0.5マイクロメートル以上かつ1.0マイクロメートル未満に設定されている。
【0141】
第2実施形態では、円すい基部領域23cが噴孔対向領域23bと高親液性領域23eに挟まれる。そして、高親液性領域23eは、円すい基部領域23cと低親液性領域23fに挟まれる。すなわち、親液性の高い領域と親液性の低い領域が交互に配置されている。これにより、気泡24が親液性の低い(気泡が付着しやすい)領域から親液性の高い(気泡が付着しにくい)領域へ移動しようとする際に、その境界において、気泡24における弁体203の径方向の移動速度を減速させることができる。その結果、気泡24における弁体203の径方向の移動を一層抑制することができ、噴孔近傍残留気泡24hの発生をより抑止することができる。
【0142】
なお、高親液性領域23eと低親液性領域23fを複数個設けて、交互に配置してもよい。その際、複数の高親液性領域23eの表面粗さは、同一である必要は無く、隣り合う低親液性領域23fよりも親液性が高ければ、変動してもよい。同様に、複数の低親液性領域23fの表面粗さは、同一である必要は無く、隣り合う高親液性領域23eよりも親液性が低ければ、変動してもよい。
【0143】
3.第3実施形態
次に、本発明の第3実施形態に係る燃料噴射装置について説明する。
【0144】
第3実施形態に係る燃料噴射装置は、第1実施形態に係る燃料噴射装置200と同様の構成を備えている。第3実施形態に係る燃料噴射装置が、第1実施形態に係る燃料噴射装置200と異なる点は、弁体203の表面粗さを区画する領域である。そのため、ここでは、第3実施形態に係る弁体203の表面粗さについて説明し、重複する構成の説明を省略する。
【0145】
[第3実施形態に係る燃料噴射装置の弁体先端部の表面粗さ]
第3実施形態に係る弁体203における先端部23の表面粗さについて、図21を参照して説明する。
図21は、第3実施形態に係る弁体の先端部の表面粗さを示す正面図である。
【0146】
図21に示すように、第3実施形態の弁体203における先端部23の表面は、シート部対向領域23aと、噴孔対向領域23bと、円すい基部領域23cと、円すい頂部領域23dに区画されている。シート部対向領域23a、噴孔対向領域23b、円すい基部領域23c、及び円すい頂部領域23dの表面粗さは、第1実施形態と同じである。
【0147】
噴孔対向領域23bには、スリット25が設けられている。スリット25は、弁体203の径方向に延びている。噴孔対向領域23bは、燃料のシール性能を求められないため、必ずしも円環形状の閉領域となるように形成される必要は無い。スリット25は、弁体203の表面にC字形状のラッピング加工を施すことで、ラッピング加工が施されていない箇所として形成されている。
【0148】
円すい基部領域23cには、スリット26が設けられている。スリット26は、弁体203の径方向に延びている。円すい基部領域23cは、燃料のシール性能を求められないため、必ずしも円環形状の閉領域となるように形成される必要は無い。スリット26は、弁体203の表面にC字形状のラッピング加工を施すことで、ラッピング加工が施されていない箇所として形成されている。
【0149】
スリット25,26の幅および深さは、気泡24がスリット25に沿って弁体203表面を移動できない程度の大きさに設定することが望ましい。スリット25,26の幅および深さは、例えば、0.3マイクロメートルから1.0マイクロメートルの範囲内で設定される。
【0150】
これにより、スリット25,26があっても、弁体203の径方向への気泡24の移動を抑止することができる。したがって、第3実施形態に係る燃料噴射装置においても、気泡24の付着位置を制御することができ、噴霧ばらつきを抑制することができる。
【0151】
4.第4実施形態
次に、本発明の第4実施形態に係る燃料噴射装置について説明する。
【0152】
第4実施形態に係る燃料噴射装置は、第1実施形態に係る燃料噴射装置200と同様の構成を備えている。第4実施形態に係る燃料噴射装置が、第1実施形態に係る燃料噴射装置200と異なる点は、弁体203の表面粗さを区画する領域である。そのため、ここでは、第4実施形態に係る弁体203の表面粗さについて説明し、重複する構成の説明を省略する。
【0153】
[第4実施形態に係る燃料噴射装置の弁体先端部の表面粗さ]
第4実施形態に係る弁体203における先端部23の表面粗さについて、図22を参照して説明する。
図22は、第4実施形態に係る弁体の先端部の表面粗さを示す正面図である。
【0154】
図22に示すように、第4実施形態の弁体203における先端部23の表面は、シート部対向領域23aと、噴孔対向領域23bと、円すい基部領域23cと、円すい頂部領域23dに区画されている。シート部対向領域23a、噴孔対向領域23b、円すい基部領域23c、及び円すい頂部領域23dの表面粗さは、第1実施形態と同じである。
【0155】
噴孔対向領域23b及び円すい基部領域23cの表面には、加工時に生じてしまったキズとして微細スリット27が形成されている。噴孔対向領域23b及び円すい基部領域23cは、燃料のシール性能は求められない。そのため、噴孔対向領域23b及び円すい基部領域23cは、加工時に生じてしまう若干のキズ(微細スリット27)を許容することが可能である。
【0156】
微細スリット27のような偶発的に生じるキズがある場合では、気泡24が移動できない程度の大きさである。これにより、微細スリット27があっても、弁体203の径方向への気泡24の移動を抑止することができる。したがって、第4実施形態に係る燃料噴射装置においても、気泡24の付着位置を制御することができ、噴霧ばらつきを抑制することができる。
【0157】
5.まとめ
(1)以上説明したように、上述した第1実施形態に係る燃料噴射装置200は、テーパー状のシート部224(弁シート部)と、弁体203とを備える。シート部224は、複数の燃料噴射孔215を有する。弁体203は、シート部224に対して着座又は離座する。そして、弁体203の表面における複数の燃料噴射孔215と対向する噴孔対向領域23bの親液性は、この噴孔対向領域23bよりも先端側にある円すい基部領域23c(先端領域)の親液性よりも高い。
これにより、噴孔対向領域23bよりも円すい基部領域23cに気泡24を付着させることができる。その結果、気泡24が燃料の流路に残留しないようにすることができる。
そして、円すい基部領域23cは、複数の燃料噴射孔215よりも先端側に位置するため、気泡24が燃料噴射孔215へ到達する時刻が遅くなる。したがって、燃料の噴霧の初期形状を安定させることができ、噴霧形状のばらつきを小さくすることができる。
【0158】
(2)上述した第1実施形態に係る噴孔対向領域23bは、弁体203の表面上で円環状の閉領域となるよう形成されている。
これにより、燃料噴射孔215に対向する領域に気泡24が付着することを抑制或いは防止することができる。また、円すい基部領域23cから燃料噴射孔215に対向する領域に気泡24が移動してくることを抑制或いは防止することができる。
【0159】
(3)上述した第1実施形態に係る噴孔対向領域23bの表面粗さは、円すい基部領域23c(先端領域)の表面粗さよりも大きい。
これにより、噴孔対向領域23bの親液性を、円すい基部領域23cの親液性よりも高くすることができる。
【0160】
(4)上述した第1実施形態に係る噴孔対向領域23bの表面粗さは、最大高さ0.5~1.0マイクロメートルの範囲内に設定されている。
これにより、噴孔対向領域23bに比べて、円すい基部領域23cの表面粗さを小さくする表面加工を容易に行うことができる。なお、噴孔対向領域23bの表面粗さが小さすぎると、それよりも、表面粗さを小さくする領域の表面加工が難しくなる。
【0161】
(5)上述した第1実施形態に係る円すい基部領域23c(先端領域)の表面粗さは、最大高さ0.5マイクロメートル未満に設定されている。
これにより、円すい基部領域23cの表面粗さを、噴孔対向領域23bの表面粗さよりも小さくする表面加工を容易に行うことができる。
【0162】
(6)上述した第1実施形態に係る円すい基部領域23c(先端領域)よりも先端側には、噴孔対向領域23bの表面粗さ以上の表面粗さである円すい頂部領域23dが形成されている。
これにより、噴孔対向領域23bよりも先端側の全域に対して、噴孔対向領域23bの表面粗さよりも小さくするための表面加工を施す必要が無くなる。したがって、噴孔対向領域23bの表面粗さよりも小さくする領域(円すい基部領域23c)を縮小することができ、表面加工に要する時間を短くすることができる。
【0163】
(7)上述した第2実施形態に係る弁体203の表面における円すい基部領域23c(先端領域)よりも先端側には、噴孔対向領域23bと同等の親液性である高親液性領域23eと、円すい基部領域23cと同等の親液性である低親液性領域23fが弁体203の径方向で隣り合うように形成されている。
これにより、気泡24が低親液性領域23fから高親液性領域23eへ移動しようとする際に、その境界において、弁体203の径方向における気泡24の移動速度を減速させることができる。その結果、弁体203の径方向における気泡24の移動を抑制することができ、噴孔対向領域23bに付着する気泡24(噴孔近傍残留気泡24h)の発生を抑止することができる。
【0164】
以上、本発明の燃料噴射装置の実施形態について、その作用効果も含めて説明した。しかしながら、本発明の燃料噴射装置は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0165】
また、上述した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0166】
なお、本明細書において、「平行」及び「直交」等の単語を使用したが、これらは厳密な「平行」及び「直交」のみを意味するものではなく、「平行」及び「直交」を含み、さらにその機能を発揮し得る範囲にある、「略平行」や「略直交」の状態であってもよい。
【符号の説明】
【0167】
23…先端部、 23a…シート部対向領域、 23b…噴孔対向領域、 23c…円すい基部領域、 23d…円すい頂部領域、 23e…高親液性領域、 23f…低親液性領域、 23r…円すい領域、 23t…下加工領域、 24…気泡、 24h…噴孔近傍残留気泡、 24r…弁体先端側残留気泡、 24s…サック室残留気泡、 25,26…スリット、 27…微細スリット、 101…内燃機関、 109…ECU(Engine Control Unit)、 121…燃焼室、 200…燃料噴射装置、 200a…中心軸線、 201…ノズル本体、 202…弁座、 203…弁体、 204…固定鉄心、 204a…燃料供給部、 205…可動鉄心、 206…中間部材、 208…コイル、 209…ハウジング、 210…コネクタ、 210a…端子、 211…第1ばね部材、 212…第2ばね部材、 213…第3ばね部材、 215…燃料噴射孔、 215a…オリフィス孔、 215b…ザグリ孔、 215c…面押し孔、 216,217…ばね係合部、 218,219…伝達面、 220…外周面、 221…内周面、 222…筒部、 223…流路形成部、 224…シート部、 224a…シート面、 225…サック室、 230…球面部、 231…先端側摺動部、 232…弁体側シート面、 233…凸部、 250…隙間、 260…ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22