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特開2024-93966積層セラミック電子部品、および積層セラミック電子部品の製造方法
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  • 特開-積層セラミック電子部品、および積層セラミック電子部品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093966
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品、および積層セラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
H01G4/30 201L
H01G4/30 515
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210641
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】松本 康宏
(72)【発明者】
【氏名】森田 浩一郎
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE23
5E082FF05
5E082FG26
5E082GG10
(57)【要約】
【課題】 耐電圧を向上させることができる積層セラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 積層セラミック電子部品は、複数の誘電体層11と複数の内部電極層12とが積層された積層部分を含む素体と、素体10の表面に設けられた1対の外部電極20a,20bと、を備え、一方の外部電極に電気的に接続された内部電極層12と他方の外部電極に電気的に接続された内部電極層12とが互いに対向する容量部14において、中心部141における誘電体粒子40の平均径dが、中心部141の外側の外周部142の少なくとも一部における誘電体粒子40の平均径Dよりも小さい。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層と複数の内部電極層とが積層された積層部分を含む素体と、
前記素体の表面に設けられた1対の外部電極と、を備え、
一方の前記外部電極に電気的に接続された前記内部電極層と他方の前記外部電極に電気的に接続された前記内部電極層とが互いに対向する容量部において、中心部における誘電体粒子の平均径dが、前記中心部の外側の外周部の少なくとも一部における誘電体粒子の平均径Dよりも小さい、積層セラミック電子部品。
【請求項2】
前記平均径dおよび前記平均径Dは、1.05≦D/d<2を満たす、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項3】
前記平均径dおよび前記平均径Dは、125nm以上250nm以下である、請求項1または請求項2に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項4】
前記複数の誘電体層は、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有し、A/B比が0.90以上0.98以下である、請求項1または請求項2に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項5】
前記複数の誘電体層は、チタン酸バリウムを含む請求項1または請求項2に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項6】
前記複数の内部電極層は、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金である請求項1または請求項2に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項7】
一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有する主材料粉末にBサイト固溶元素を添加し、A/B比が0.90以上0.98以下となるように配合して得られたスラリを塗工してセラミックグリーンシートを得る工程と、
前記セラミックグリーンシート上に内部電極パターンを形成する工程と、
前記内部電極パターンを形成した前記セラミックグリーンシートを積層して積層体を得る工程と、
前記積層体を酸素分圧下10-5~10-8atm、温度範囲1150℃~1250℃で焼成して素体を得る工程と、
前記素体に外部電極を形成する工程と、を含む積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記Bサイト固溶元素は、チタンまたはジルコニウムの少なくとも一つである請求項7に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記外部電極を形成する工程は、前記積層体に外部電極ペーストを塗布する工程と、
前記積層体および前記外部電極ペーストを同時に焼成する工程と、を含む請求項7または請求項8に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品、および積層セラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話を代表とする高周波通信用システムなどにおいて、ノイズを除去するために、積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multi-Layer ceramic capacitor)が用いられている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-258468号広報
【特許文献2】特開2014-150240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子回路基板に実装される積層セラミックコンデンサの大容量化のニーズが増している。積層セラミックコンデンサにおいて静電容量を上げるためには、誘電体層を薄層かつ多積層にし、誘電体粒子径を大きくすることが望まれる。しかしながら、誘電体層を薄層化して粒子径を大きくすると、誘電体層一層あたりの粒子数が少なくなり、絶縁抵抗の低下や耐電圧の低下などの積層セラミックコンデンサの信頼性悪化が懸念される。したがって誘電体粒子径の構造制御が極めて重要になってきている。
【0005】
例えば、特許文献1では、内部電極層の周辺部分近傍の誘電体粒子の平均粒径を、内部電極層の中央部分近傍の誘電体粒子と比較して小さくすることで、ショート不良や信頼性不良の発生を抑制する技術が提案されている。特許文献2では、内部電極層間の誘電体最外層と中心部、それらの中間の誘電体粒子の粒子径を特殊な分布にすることで、CR積を改善させる技術が提案されている。
【0006】
しかしながら、これらはいずれも中央部の誘電体粒子を大きくする技術であり、耐電圧が低くなってしまうという課題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、耐電圧を向上させることができる積層セラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る積層セラミック電子部品は、複数の誘電体層と複数の内部電極層とが積層された積層部分を含む素体と、前記素体の表面に設けられた1対の外部電極と、を備え、一方の前記外部電極に電気的に接続された前記内部電極層と他方の前記外部電極に電気的に接続された前記内部電極層とが互いに対向する容量部において、中心部における誘電体粒子の平均径dが、前記中心部の外側の外周部の少なくとも一部における誘電体粒子の平均径Dよりも小さい。
【0009】
上記積層セラミック電子部品において、前記平均径dおよび前記平均径Dは、1.05≦D/d<2を満たしてもよい。
【0010】
上記積層セラミック電子部品において、前記平均径dおよび前記平均径Dは、125nm以上250nm以下であってもよい。
【0011】
上記積層セラミック電子部品において、前記複数の誘電体層は、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有し、A/B比が0.90以上0.98以下であってもよい。
【0012】
上記積層セラミック電子部品において、前記複数の誘電体層は、チタン酸バリウムを含んでいてもよい。
【0013】
上記積層セラミック電子部品において、前記複数の内部電極層は、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金であってもよい。
【0014】
本発明に係る積層セラミック電子部品の製造方法は、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有する主材料粉末にBサイト固溶元素を添加し、A/B比が0.90以上0.98以下となるように配合して得られたスラリを塗工してセラミックグリーンシートを得る工程と、前記セラミックグリーンシート上に内部電極パターンを形成する工程と、前記内部電極パターンを形成した前記セラミックグリーンシートを積層して積層体を得る工程と、前記積層体を酸素分圧下10-5~10-8atm、温度範囲1150℃~1250℃で焼成して素体を得る工程と、前記素体に外部電極を形成する工程と、を含む。
【0015】
上記積層セラミック電子部品の製造方法において、前記Bサイト固溶元素は、チタンまたはジルコニウムの少なくとも一つであってもよい。
【0016】
上記積層セラミック電子部品の製造方法は、前記外部電極を形成する工程は、前記積層体に外部電極ペーストを塗布する工程と、前記積層体および前記外部電極ペーストを同時に焼成する工程と、を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐電圧を向上させることができる積層セラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3図1のB-B線断面図である。
図4】(a)~(c)は平均径dおよび平均Dを説明するための図である。
図5】平均径Dを測定する領域を説明するための図である。
図6】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図7】(a)および(b)は内部電極形成工程を例示する図である。
図8】圧着工程を例示する図である。
図9】サイドマージン部を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0020】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図2は、図1のA-A線断面図である。図3は、図1のB-B線断面図である。図1図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する素体10と、素体10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、素体10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、素体10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0021】
なお、図1図3において、Z軸方向(第1方向)は、積層方向であり、各内部電極層が対向する方向である。X軸方向(第2方向)は、素体10の長さ方向であって、素体10の2端面が対向する方向であり、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向である。Y軸方向(第3方向)は、内部電極層の幅方向であり、素体10の4側面のうち2端面以外の2側面が対向する方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0022】
素体10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、素体10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13は、誘電体層11と組成が同じであっても、異なっていても構わない。なお、内部電極層12が異なる2つの面に露出して、異なる外部電極に導通していれば、図1から図3の構成に限られない。
【0023】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0024】
内部電極層12は、ニッケル(Ni)を主成分とする。銅(Cu)、スズ(Sn)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)などの卑金属及び貴金属を含むニッケル合金を用いてもよい。Z軸方向における内部電極層12の1層当たりの平均厚みは、例えば、1.5μm以下であり、1.0μm以下であり、0.7μm以下である。内部電極層12の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、異なる10層の内部電極層12についてそれぞれ10点ずつ厚みを測定し、全測定点の平均値を導出することによって測定することができる。
【0025】
誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主相とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、チタン酸バリウム(BaTiO),ジルコン酸カルシウム(CaZrO),チタン酸カルシウム(CaTiO),チタン酸ストロンチウム(SrTiO),チタン酸マグネシウム(MgTiO),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等のうち少なくとも1つから選択して用いることができる。Ba1-x-yCaSrTi1-zZrは、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどである。例えば、誘電体層11において、主成分セラミックは、90at%以上含まれている。誘電体層11の厚みは、例えば、5.0μm以下であり、3.0μm以下であり、1.0μm以下である。誘電体層11の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、異なる10層の誘電体層11についてそれぞれ10点ずつ厚みを測定し、全測定点の平均値を導出することによって測定することができる。
【0026】
誘電体層11には、添加物が添加されていてもよい。誘電体層11への添加物として、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、希土類元素(イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)およびイッテルビウム(Yb))の酸化物、または、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)もしくはケイ素(Si)を含む酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含むガラスが挙げられる。
【0027】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において静電容量を生じる領域である。そこで、当該静電容量を生じる領域を、容量部14と称する。すなわち、容量部14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0028】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、静電容量を生じない領域である。
【0029】
図3で例示するように、素体10において、サイドマージン16は、誘電体層11および内部電極層12の2側面側の端部(Y軸方向の端部)を覆うように設けられた領域である。すなわち、サイドマージン16は、Y軸方向において、容量部14の外側に設けられた領域である。サイドマージン16も、静電容量を生じない領域である。
【0030】
近年、電子回路基板に実装される積層セラミックコンデンサの大容量化のニーズが増している。積層セラミックコンデンサにおいて静電容量を上げるためには、誘電体層を薄層かつ多積層にし、誘電体粒子径を大きくすることが望まれる。しかしながら、誘電体層を薄層化して粒子径を大きくすると、誘電体層一層あたりの誘電体粒子数が少なくなり、絶縁抵抗の低下や耐電圧の低下などの積層セラミックコンデンサの信頼性悪化が懸念される。したがって誘電体粒子径の構造制御が極めて重要になってきている。
【0031】
例えば、内部電極層の周辺部分近傍の誘電体粒子の平均粒径を、内部電極層の中央部分近傍の誘電体粒子と比較して小さくすることで、ショート不良や信頼性不良の発生を抑制する技術が考えられる。または、内部電極層間の誘電体最外層と中心部、それらの中間の誘電体粒子の粒子径を特殊な分布にすることで、CR積を改善させる技術が考えられる。しかしながら、中央部の誘電体粒子を大きくすると、耐電圧が低くなってしまうという課題がある。
【0032】
そこで、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、耐電圧を向上させることができる構成を有している。
【0033】
本発明者らの鋭意研究により、容量部14における外周部の誘電体粒子の平均径Dと、容量部14における中央部の誘電体粒子の平均径dとの比D/dが1を上回る場合、比D/dが1以下である場合よりも耐電圧が高くなることが見出された。この理由については完全解明されているわけではないが、高電圧負荷時は、逆圧電効果及び電歪効果により試料内部に応力が蓄積する。誘電体粒子径が大きくなると強誘電性が増し、逆圧電効果、及び電歪効果が大きくなる。大きな誘電体粒子が中央部にあると、試料中央部に応力が集中しやすいため絶縁性破壊に至りやすいと推察される。
【0034】
図4(a)は、図1のB-B線断面図を模式的に描いた図である。図4(a)で例示するように、容量部14において、中心の所定範囲の領域を中心部141とする。容量部14において、中心部141を外側から囲む領域を外周部142とする。外周部142は、中心部141に接していてもよいが、中心部141に接していなくてもよい。例えば、図4(a)で例示するように、容量部14をY軸方向およびZ軸方向に5等分した場合の、中心の領域を中心部141とし、最も外側の外周領域を外周部142としてもよい。
【0035】
各誘電体層11は、複数の誘電体粒子40が焼結した構成を有している。図4(b)は、中心部141の誘電体層11の断面図である。中心部141の誘電体層11に含まれる誘電体粒子40の平均径を平均径dとする。図4(c)は、外周部142の誘電体層11の断面図である。外周部142の誘電体層11に含まれる誘電体粒子40の平均径を平均径Dとする。
【0036】
ここで、平均径dおよび平均径Dの測定手法について説明する。積層セラミックコンデンサ100において、外部電極が形成されている端面に並行に切断して断面を研磨する。当該断面は、YZ断面に相当する。当該断面に対して走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した誘電体層の断面写真に基づいて、誘電体粒子の粒径を測定する。SEM画像に基づいて誘電体粒子の積層方向の最大長を粒子径とし、測定された各粒子径の算術平均値をその誘電体粒子の平均径とする。ここでの研磨位置は、中央部近傍となるように、両外部電極の端面からX軸方向に5等分した中央領域に収まるようにした。図4(a)のように容量部を同心状に3等分割し、中心部141の誘電体粒子40の平均径を平均径dとし、外周部142の誘電体粒子40の平均径を平均径Dとする。
【0037】
外周部142において平均径Dを測定する領域は、外周部142の少なくとも一部であればよい。図5で例示するように、外周部142において平均径Dを測定する領域は、カバー層13の近傍部142aであっても、サイドマージン16の近傍部142bであっても、コーナー部142cであってもよい。
【0038】
比D/d>1の微細構造を実現させる方法の一例として、誘電体組成のA/B比を0.98以下とし、特定の焼成雰囲気下で焼成することで得られる。例えば、誘電体材料のBaTiO系などのペロブスカイト化合物を一般式ABOと表したとき、Ba、Sr、CaなどをAサイト元素とし、Ti、ZrなどをBサイト元素とし、Aサイト元素/Bサイト元素のモル比をA/B比と定義することができる。この理由については完全解明されているわけではないが、積層セラミックコンデンサ100の中心部は焼成時にバインダ由来の炭素が残りやすく、実効的な酸素分圧が低くなりやすい。一般的に従来の材料であれば、低酸素分圧(強還元)ほど酸素欠陥が生成されやすく、粒成長しやすくなるため比D/d≦1となるのが通常である。これを粒径内外差という。また、積層セラミックコンデンサ100のサイズが大きいほど中心部に炭素が残りやすいため、粒径内外差が起こりやすい。具体的には縦1.0mm、横0.5mm、高さ0.5mm以上の寸法の積層セラミックコンデンサ100では粒径内外差が発生しやすい。一方、A/B比を0.98以下とした誘電体材料は高酸素分圧(弱還元)ほど粒成長しやすいという特殊な性質を持つ。この理由については、内部電極層12に使用しているニッケルが高酸素分圧下では酸化されて拡散されやすくため、粒成長が促進されると推察される。
【0039】
以上のことから、これらの効果により通常の積層セラミックコンデンサとは逆の粒径内外差を持つ特殊な粒径分布を持ち、耐電圧が高い積層セラミックコンデンサ100を実現することができる。
【0040】
比D/dが小さいと、十分な耐電圧が得られないおそれがある、そこで、比D/dに下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、比D/dは、1.05以上であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましく、1.15以上であることがさらに好ましい。
【0041】
一方、比D/dが大きいと、十分な容量または耐電圧を得られないおそれがある。そこで、比D/dに上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、比D/dは、2.00以下であることが好ましく、1.92以下であることがより好ましく、1.85以下であることがさらに好ましい。
【0042】
平均径dおよび平均径Dが小さいと、誘電体層11に十分な比誘電率が得られず、十分な容量が得られないおそれがある。そこで、平均径dおよび平均径Dに下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、平均径dおよび平均径Dは、125nm以上であることが好ましく、130nm以上であることがより好ましく、135nm以上であることがさらに好ましい。
【0043】
平均径dおよび平均径Dが大きいと、比D/dが1.05以上を満たしていても耐電圧を満たさないおそれがある。そこで、平均径dおよび平均径Dに上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、平均径dおよび平均径Dは、250nm以下であることが好ましく、240nm以下であることがより好ましく、230nm以下であることがさらに好ましい。
【0044】
比D/d>1の微細構造を実現するために、各誘電体層11における誘電体組成のA/B比を0.98以下とすることが好ましく、0.975以下とすることがより好ましく、0.970以下とすることがさらに好ましい。
【0045】
一方、A/B比が小さいと、十分な比誘電率が得られず、十分な容量が得られないおそれがある。そこで、各誘電体層11における誘電体組成のA/B比に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、当該A/B比は、0.90以上であることが好ましく、0.92以上であることがより好ましく、0.94以上であることがさらに好ましい。
【0046】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図6は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0047】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、チタン酸バリウムは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このチタン酸バリウムは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0048】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、ジルコニウム、ハフニウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、バナジウム、クロム、希土類元素(イットリウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウムおよびイッテルビウム)の酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含む酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含むガラスが挙げられる。なお、A/B比が0.90以上0.98以下となるように配合する。
【0049】
例えば、セラミック原料粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0050】
次に、サイドマージン16を形成するための誘電体パターン材料を用意する。誘電体パターン材料は、サイドマージン16の主成分セラミックの粉末を含む。主成分セラミックの粉末として、例えば、誘電体材料の主成分セラミックの粉末を用いることができる。目的に応じて所定の添加化合物を添加する。少なくとも、誘電体材料における主成分セラミックに対するバナジウム濃度よりも、誘電体パターン材料における主成分セラミックに対するバナジウム濃度を高くする。
【0051】
(塗工工程)
次に、得られた原料粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上にセラミックグリーンシート51を塗工して乾燥させる。基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。塗工工程を例示する図は省略した。
【0052】
(内部電極形成工程)
次に、図7(a)で例示するように、セラミックグリーンシート51の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層用の内部電極パターン52を配置する。金属導電ペーストには、ニッケルに加えて共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。
【0053】
次に、原料粉末作製工程で得られた誘電体パターン材料に、エチルセルロース系等のバインダと、ターピネオール系等の有機溶剤とを加え、ロールミルにて混練して逆パターン層用の誘電体パターンペーストを得る。図7(a)で例示するように、セラミックグリーンシート51上において、内部電極パターン52が印刷されていない周辺領域に誘電体パターンペーストを印刷することで誘電体パターン53を配置し、内部電極パターン52との段差を埋める。内部電極パターン52および誘電体パターン53が印刷されたセラミックグリーンシート51を積層単位と称する。
【0054】
その後、図7(b)で例示するように、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向の両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、積層単位を積層していく。例えば、内部電極パターン52の積層数を100~500層とする。
【0055】
(圧着工程)
図8で例示するように、積層単位が積層された積層体の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着する。
【0056】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧が10-5~10-8atm、温度範囲1150℃~1250℃の還元雰囲気で、5分~10時間の焼成を行なう。なお、中心部に炭素が残りやすくして粒径内外差を生じさせやすくするために、6000℃/h以上の高速焼成を行う。
【0057】
(再酸化処理工程)
還元雰囲気で焼成された誘電体層11の部分的に還元された主相であるチタン酸バリウムに酸素を戻すために、内部電極層12を酸化させない程度に、約1000℃でNと水蒸気の混合ガス中、もしくは500℃~700℃の大気中での熱処理が行われることがある。この工程は、再酸化処理工程とよばれる。
【0058】
(めっき処理工程)
その後、外部電極20a,20bの下地層上に、めっき処理により、銅、ニッケル、スズ等の金属コーティングを行う。以上の工程により、積層セラミックコンデンサ100が完成する。
【0059】
本実施形態に係る製造方法によれば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有する主材料粉末にBサイト固溶元素を添加し、A/B比が0.90以上0.98以下となるように配合して得られたスラリを塗工してセラミックグリーンシート51を得ている。内部電極パターン52を形成したセラミックグリーンシート51を積層して積層体を得て、酸素分圧下10-5~10-8atm、6000℃/h以上の昇温速度、温度範囲1150℃~1250℃で焼成して素体10を得ている。この手法によれば、比D/d>1の微細構造を実現することができる。
【0060】
サイドマージン部は、上記積層部分の側面に貼り付けまたは塗布してもよい。具体的には、図9で例示するように、セラミックグリーンシート51と、当該セラミックグリーンシート51と同じ幅の内部電極パターン52とを交互に積層することで、積層部分を得る。次に、積層部分の側面に、誘電体パターンペーストで形成したシートをサイドマージン部55として貼り付けてもよい。
【0061】
なお、上記各実施形態においては、積層セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の積層セラミック電子部品を用いてもよい。
【実施例0062】
(実施例1~3および比較例1~2)
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0063】
・試料作製方法
主原料として、平均粒径が100nmのチタン酸バリウムを秤量し、各種添加物と有機溶剤を所定比率となるように配合した。ここで、添加物としてTi、ZrといったBサイト固溶元素を添加することで、実施例1ではA/B比が0.9625となるように配合し、実施例2ではA/B比が0.9619となるように配合し、実施例3ではA/B比が0.9615となるように配合し、比較例1ではA/B比が0.9614となるように配合し、比較例2ではA/B比が0.9609となるように配合した。
【0064】
調製した誘電体原料粉末を有機溶剤で湿式混合した。バインダを加えて得られたスラリをドクターブレード法により1.0μm厚のセラミックグリーンシートを塗工して乾燥させた。セラミックグリーンシート上にNiを含む導電性ペースト膜を所定パターンでスクリーン印刷して内部電極パターンを形成した。また、セラミックグリーンシートと内部電極パターンとの間の段差を埋めるため、当該内部電極パターンと相補的なパターンを有する逆パターンシートをセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷した。約300層積層して圧着してカットした。これにより、縦1.0mm、横0.5mm、高さ0.5mmの寸法のMLCC成型体を得た。
【0065】
・試料焼成方法
MLCC成型体の試料をN雰囲気中にて300℃の温度で脱バインダした。その後、1150℃から1250℃の温度範囲で焼成した。ここでの酸素分圧10-5atm~10-8atmの還元雰囲気中であり、雰囲気制御が粒成長挙動を大きく変化させるため重要である。降温後、N雰囲気中にて800℃から1050℃の温度範囲まで昇温し、その温度を保持して再酸化処理を行った。こうして得た焼結体である素体において外部電極を形成するために、内部電極層が露出する両側の端面にガラスフリットを含有するNiペーストを塗布し、N雰囲気中にて焼き付け処理を行った。これにより、積層セラミックコンデンサの試料を得た。
【0066】
・誘電体粒子径の評価方法
積層セラミックコンデンサの外部電極が形成されている端面に対し平行に切断して断面を研磨し、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した誘電体層の断面写真に基づいて誘電体粒子の粒径を測定した。SEM画像に基づいて誘電体粒子の積層方向の最大長を測定し、それらの算術平均値をその誘電体粒子の平均径として評価した。ここでの研磨位置は中央部近傍となるように、両外部電極の端面から5等分した中央領域に収まるようにした。図4(a)のように容量部を同心状に3等分割し、中心部の誘電体粒子の平均径を平均径dとし、外周部の誘電体粒子の平均径を平均径Dとした。外周部領域はカバー近傍部であっても、サイド近傍部であっても、コーナー部であってもよい。また、実施例1では、外周部のカバー近傍部とサイド近傍部も測定したが、両者に大きな差は見られなかったため代表してカバー部近傍の値を掲載した。
【0067】
平均径Dは、実施例1では205nmであり、実施例2では188nmであり、実施例3では135nmであり、比較例1では197nmであり、比較例2では207nmであった。平均径dは、実施例1では177nmであり、実施例2では179nmであり、実施例3では121nmであり、比較例1では245nmであり、比較例2では209nmであった。比D/dは、実施例1では1.16であり、実施例2では1.05であり、実施例3では1.14であり、比較例1では0.8であり、比較例2では0.99であった。
【0068】
・耐電圧試験
25℃の温度下で、1~200Vまで1秒ごとに1Vずつ電圧を挙げた際の故障電圧を測定した。この際、故障電圧が35Vを超える試料を耐電圧性確保されていると判断した。故障電圧は、実施例1では39Vであり、実施例2では36Vであり、実施例3では43Vであり、比較例1では22Vであり、比較例2では33Vであった。
【0069】
・容量測定方法
試料を熱戻しさせた後の24時間後にLCRメータで測定した。測定条件は、本製品の定格容量、定格電圧からJIS規格に基づき、1kHz-0.5Vrmsで測定した。容量は、実施例1では10.5μFであり、実施例2では10.4μFであり、実施例3では7.9μFであり、比較例1では11.2μFであり、比較例2では10.8μFであった。
【0070】
・評価結果
故障電圧が35Vを上回った試料について、耐圧試験を合格「〇」と判定した。故障電圧が35V以下の試料について、耐圧試験を不合格「×」と判定した。容量が10μF以上の試料について、容量試験を合格「〇」と判定した。容量が10μF未満の試料について、容量試験をやや良好「△」と判定した。
【0071】
実施例1~3では、耐圧試験が合格「〇」と判定された。これは、比D/dが1.0を上回ったからであると考えられる。一方で、比較例1~2では、耐圧試験が不合格「×」と判定された。これは、比D/dが1.0以下になったからであると考えられる。
【0072】
次に、実施例1~2では容量試験が合格「〇」と判定されたが、実施例3では容量試験がやや良好「△」と判定された。これは、平均径dが125nm未満となったからであると考えられる。
【表1】
【0073】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0074】
10 素体
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
14 容量部
15 エンドマージン
16 サイドマージン
20a,20b 外部電極
51 セラミックグリーンシート
52 内部電極パターン
53 誘電体パターン
54 カバーシート
55 サイドマージン部
100 積層セラミックコンデンサ
141 中心部
142 外周部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9