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特開2024-93969液体口腔用組成物における不溶性物質の析出抑制方法、析出抑制剤及び液体口腔用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093969
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】液体口腔用組成物における不溶性物質の析出抑制方法、析出抑制剤及び液体口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/19 20060101AFI20240702BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20240702BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/02
A61K8/49
A61K8/63
A61K8/44
A61Q11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210646
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山元 えみ
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB271
4C083AB272
4C083AC621
4C083AC622
4C083AC691
4C083AC692
4C083AD531
4C083AD532
4C083CC41
4C083DD27
4C083EE01
4C083EE38
(57)【要約】
【課題】硝酸カリウムを含有する液体口腔用組成物において、硝酸カリウムと合わせてグリチルリチン酸塩を配合するときに生じる不溶性物質の析出を抑制する方法を提供すること。
【解決手段】(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩とを含有する液体口腔用組成物に、(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方を含有させる、液体口腔用組成物における不溶性物質の析出抑制方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩とを含有する液体口腔用組成物に、(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方を含有させることを特徴とする、液体口腔用組成物における不溶性物質の析出抑制方法。
【請求項2】
(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩とを含有する液体口腔用組成物における不溶性物質の析出を抑制するための析出抑制剤であって、(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方を有効成分とすることを特徴とする、析出抑制剤。
【請求項3】
(A)硝酸カリウムと、(B)グリチルリチン酸塩と、(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方を含有し、前記グリチルリチン酸塩に対する前記硝酸カリウムの含有量比(A)/(B)が、グリチルリチン酸に換算して、質量比で、400以下であることを特徴とする、液体口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体口腔用組成物における不溶性物質の析出抑制方法、析出抑制剤及び液体口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内トラブルの1つとして象牙質知覚過敏症があり、象牙質知覚過敏症とは、歯のエナメル質が消失して象牙質が露出し、この象牙質に温度的、化学的、機械的等の外的刺激が与えられることにより痛みを生じるものである。この原因は、象牙質の最表層部から歯髄まで連続する象牙質細管を通じて神経が刺激されるためと考えられており、象牙質知覚過敏症の対策として、乳酸アルミニウムを用いて象牙細管を封鎖したり、硝酸カリウムによって神経を鈍麻させる等の方法が用いられている。
例えば、特許文献1には、象牙質知覚過敏症を緩和するための、象牙質知覚過敏症緩和剤および還元パラチノースを含有する口腔用組成物が記載され、象牙質知覚過敏症緩和剤が硝酸カリウムおよび乳酸アルミニウムから選ばれることが記載されている。
【0003】
また、口腔内の抗炎症効果を目的として、口腔用組成物にグリチルリチン酸塩等の抗炎症剤を配合したり、口腔内の殺菌効果を目的として、口腔用組成物に塩化セチルピリジニウム等の殺菌剤を配合したりすることがなされている。
例えば、特許文献2には、(A)グリチルリチン酸ジカリウムと、(B)塩化ナトリウムと、(C)トリメチルグリシンとを含有し、(B)成分の配合量が組成物全体の1~15質量%であり、(A)成分と(C)成分の質量比[(C)/(A)]が50~500である歯磨剤組成物が記載されている。
【0004】
このような薬効成分を含有する口腔用組成物においては、口腔内の隅々まで薬効成分を行き渡らせることが重要であり、このような観点から洗口液(マウスウォッシュ)や液体歯磨き等の分散性の高い液体製剤が利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-073246号公報
【特許文献2】特開2009-107988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者が検討を行ったところ、液体の口腔用組成物に硝酸カリウムとグリチルリチン酸塩を配合したとき、これらの組み合わせにより不溶性物質が析出し、液体口腔用組成物が白濁してしまうことがわかった。液体口腔用組成物において、不溶性物質の発生は、各成分の薬効が十分に得られなかったり、商品の外観上の問題となったりするため改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、硝酸カリウムを含有する液体口腔用組成物において、硝酸カリウムと合わせてグリチルリチン酸塩を配合するときに生じる不溶性物質の析出を抑制する方法、不溶性物質の析出抑制剤並びに不溶性物質の析出が抑制された液体口腔用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、硝酸カリウムとグリチルリチン酸塩とを含有する液体口腔用組成物にトラネキサム酸及び塩化セチルピリジニウムの少なくともいずれか一方を含有させると、不溶性物質の析出を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は以下の(1)~(3)によって達成される。
(1)(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩とを含有する液体口腔用組成物に、(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方を含有させることを特徴とする、液体口腔用組成物における不溶性物質の析出抑制方法。
(2)(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩とを含有する液体口腔用組成物における不溶性物質の析出を抑制するための析出抑制剤であって、(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方を有効成分とすることを特徴とする、析出抑制剤。
(3)(A)硝酸カリウムと、(B)グリチルリチン酸塩と、(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方を含有し、前記グリチルリチン酸塩に対する前記硝酸カリウムの含有量比(A)/(B)が、グリチルリチン酸に換算して、質量比で、400以下であることを特徴とする、液体口腔用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、硝酸カリウムを含有する液体口腔用組成物において、グリチルリチン酸塩を配合することにより生じる不溶性物質の析出を抑制でき、該組成物を安定化できる。これにより、各成分の薬効を十分に得られるとともに、商品の経時安定性を保つことができ、商品の外観上の問題を生じることがない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について更に詳しく説明する。
【0012】
(液体口腔用組成物における不溶性物質の析出抑制方法)
本発明の液体口腔用組成物における不溶性物質の析出抑制方法は、(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩とを含有する液体口腔用組成物に、(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方を含有させることを含む。
【0013】
液体口腔用組成物において、(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩とを混合すると、不溶性物質が析出し組成物が白濁する場合がある。(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩が配合される液体口腔用組成物が白濁する理由は定かではないが、(A)硝酸カリウムは(B)グリチルリチン酸塩がイオンとなって溶解するのを阻害し、溶解されずに残った(B)グリチルリチン酸塩が不溶性物質として組成物中に浮遊するため白く濁って見えると推測される。そして本発明者の検討により、(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩とを含有する液体口腔用組成物に(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方を含有させると、その作用は明らかではないが不溶性物質の析出が抑制されることがわかった。
【0014】
(A)硝酸カリウムは、歯髄神経への刺激伝達を阻害することで象牙質知覚過敏の症状を抑制する有効成分として知られた薬効成分である。
【0015】
(A)硝酸カリウムは、液体口腔用組成物中に、1~15質量%の範囲で含有させるのが好ましい。(A)硝酸カリウムの含有量が1質量%以上であると、象牙質知覚過敏症の抑制効果が得られ、15質量%以下であると、液体口腔用組成物の香味を損なうことがない。(A)硝酸カリウムの含有量は、象牙質知覚過敏症の抑制と香味のバランスの観点から、1~8質量%であるのがより好ましく、3~5質量%がさらに好ましい。
【0016】
なお、硝酸カリウムの含有量は、高速液体クロマトグラフィーを用いて常法により測定できる。
【0017】
(B)グリチルリチン酸塩は、口腔用組成物において、抗炎症効果を奏する有効成分として知られた薬効成分である。
グリチルリチン酸塩としては、例えば、グリチルリチン酸モノカリウム、グリチルリチン酸ジカリウム等のカリウム塩;グリチルリチン酸モノナトリウム、グリチルリチン酸ジナトリウム等のナトリウム塩;グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルリチン酸ジアンモニウム等のアンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、液体口腔用組成物の安定性の観点から、グリチルリチン酸のカリウム塩及びアンモニウム塩が好ましく、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウムがより好ましい。
【0018】
(B)グリチルリチン酸塩は、液体口腔用組成物中に、グリチルリチン酸に換算したときの量で0.001~3質量%の範囲で含有させるのが好ましい。(B)グリチルリチン酸塩の含有量がグリチルリチン酸換算量で0.001質量%以上であると、有効な抗炎症効果を得られ、また、香味を考慮して3質量%以下で含有するのが好ましい。(B)グリチルリチン酸塩の含有量は、グリチルリチン酸換算量で0.01~1質量%であるのがより好ましく、0.01~0.1質量%がさらに好ましい。
【0019】
なお、グリチルリチン酸の含有量は、高速液体クロマトグラフィーを用いて常法により測定できる。
【0020】
本発明において、液体口腔用組成物における(B)グリチルリチン酸塩に対する(A)硝酸カリウムの含有量比(A)/(B)は、質量比で、400以下とするのが好ましい。ここで、(B)グリチルリチン酸塩の含有量はグリチルリチン酸に換算した値とする。前記比(A)/(B)が400以下となる場合、不溶性物質が析出しやすくなるので、(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方を含有させることによる本発明の効果を発揮できる。前記比(A)/(B)は、上限が260以下であるのがより好ましく、240以下であるのがさらに好ましい。また下限が30以上であるのがより好ましく、40以上であるのがさらに好ましく、100以上が特に好ましい。従って、前記比(A)/(B)は、30~400の範囲が好ましい。
【0021】
本発明の液体口腔用組成物は、(E)水を40質量%以上99質量%未満の範囲で含有することが好ましい。(E)水の含有量が40質量%未満であると、口腔用組成物を液体に保つのが困難となることがある。また、(E)水の含有量が99質量%未満であると、有効成分を有効量含有できる。(E)水の含有量の上限は99質量%未満であるのが好ましく、98%以下であるのがより好ましく、97質量%以下であることがさらに好ましい。また下限は40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。
【0022】
水としては、例えば、精製水、イオン水、蒸留水等が挙げられる。
【0023】
なお、本明細書において、「液体」とは、流動性を有しており、20℃における粘度が20mPa・s以下、好ましくは10mPa・s以下であるものをいう。ここで、粘度は、市販の回転式粘度計(例えば、東機産業株式会社製R型粘度計)を使用して測定できる。
【0024】
本発明の液体口腔用組成物における不溶性物質の析出抑制方法では、(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩とを含有する液体口腔用組成物における不溶性物質の析出抑制剤の有効成分として(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方を用いる。(C)塩化セチルピリジニウム及び/又は(D)トラネキサム酸を液体口腔用組成物に含有させることで本発明の効果が得られる。
【0025】
(C)塩化セチルピリジニウムは、殺菌作用をもつ成分としているが、(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩とを含有する液体口腔用組成物に含有させると、不溶性物質の析出を抑制する作用があることを新たに見出した。その作用機構は明らかではないが、(C)塩化セチルピリジニウムが、(A)硝酸カリウムを含む組成物中では溶解しづらい(B)グリチルリチン酸塩を溶解させるものと推測される。
【0026】
(D)トラネキサム酸は、抗炎症作用を持つ成分として知られているが、(C)塩化セチルピリジニウムと同様に、(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩とを含有する液体口腔用組成物に含有させると、不溶性物質の析出を抑制する作用があることがわかった。その作用機構は明らかではないが、同様に(D)トラネキサム酸により(B)グリチルリチン酸塩が溶解しやすくなるものと推測される。
【0027】
(C)塩化セチルピリジニウムは、液体口腔用組成物中に0.001~1質量%の範囲で含有させるのが好ましい。(C)塩化セチルピリジニウムの含有量が0.001質量%以上であると、不溶性物質の析出を抑制でき、1質量%以下であると、液体口腔用組成物の香味を損なうことがない。(C)塩化セチルピリジニウムは、不溶性物質の析出抑制、殺菌効果及び香味のバランスの観点から、0.005~0.1質量%含有させるのがより好ましく、0.01~0.05質量%がさらに好ましい。
【0028】
(D)トラネキサム酸は、液体口腔用組成物中に0.001~1質量%の範囲で含有させるのが好ましい。(D)トラネキサム酸の含有量が0.001質量%以上であると、不溶性物質の析出を抑制でき、1質量%以下であると、液体口腔用組成物の香味を損なうことがない。(D)トラネキサム酸は、不溶性物質の析出抑制、有効な抗炎症効果及び香味のバランスの観点から、0.005~0.1質量%含有させるのがより好ましく、0.01~0.05質量%がさらに好ましい。
【0029】
(C)塩化セチルピリジニウムと(D)トラネキサム酸は、それぞれ単独で含有させてもよいし、併用してもよい。(C)塩化セチルピリジニウムと(D)トラネキサム酸を併用する場合は、液体口腔用組成物中に、(C)塩化セチルピリジニウムと(D)トラネキサム酸を合計で0.001~1質量%の範囲で含有させるのが好ましい。(C)塩化セチルピリジニウムと(D)トラネキサム酸の含有量の合計が0.001質量%以上であると、不溶性物質の析出を抑制でき、1質量%以下であると、液体口腔用組成物の香味を損なうことがない。(C)塩化セチルピリジニウムと(D)トラネキサム酸の含有量の合計は、殺菌効果と抗炎症効果、香味のバランスの観点から、0.005~0.5質量%であるのがより好ましく、0.01~0.1質量%がさらに好ましい。
【0030】
液体口腔用組成物における(C)塩化セチルピリジニウムに対する(A)硝酸カリウムの含有量比(A)/(C)は、質量比で、20~500とするのが好ましい。前記比(A)/(C)が20以上であると、象牙質知覚過敏症抑制効果と殺菌効果を両立できる。また、比(A)/(C)が500以下であると、(A)硝酸カリウムの含有量1質量%に対して(C)塩化セチルピリジニウムが0.002質量%以上含まれることとなり、不溶性物質の析出抑制効果が向上する。前記比(A)/(C)は、上限が400以下であるのがより好ましく、300以下であるのがさらに好ましい。また下限が40以上であるのがより好ましく、60以上であるのがさらに好ましい。
【0031】
液体口腔用組成物における(D)トラネキサム酸に対する(A)硝酸カリウムの含有量比(A)/(D)は、質量比で、20~500とするのが好ましい。前記比(A)/(D)が20以上であると、象牙質知覚過敏症抑制効果と抗炎症効果を両立できる。また、比(A)/(D)が500以下であると、(A)硝酸カリウムの含有量1質量%に対して(D)トラネキサム酸が0.002質量%以上含まれることとなり、不溶性物質の析出抑制効果が向上する。前記比(A)/(D)は、上限が400以下であるのがより好ましく、300以下であるのがさらに好ましい。また下限が40以上であるのがより好ましく、60以上であるのがさらに好ましい。
【0032】
(C)塩化セチルピリジニウムと(D)トラネキサム酸を併用する場合は、(C)塩化セチルピリジニウムと(D)トラネキサム酸の含有量の合計に対する(A)硝酸カリウムの含有量比(A)/((C)+(D))は、質量比で、40~700とするのが好ましい。前記比(A)/((C)+(D))が40以上であると、象牙質知覚過敏症抑制効果と殺菌効果及び抗炎症効果を両立できる。また、前記比(A)/((C)+(D))が700以下であると不溶性物質の析出抑制効果が向上する。前記比(A)/((C)+(D))は、上限が600以下であるのがより好ましく、550以下であるのがさらに好ましい。また下限が50以上であるのがより好ましく、60以上であるのがさらに好ましい。
【0033】
(C)塩化セチルピリジニウム及び/又は(D)トラネキサム酸は、(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩とが含有された液体口腔用組成物に含有させてもよいし、(A)硝酸カリウム又は(B)グリチルリチン酸塩が含有され液体口腔用組成物に(C)塩化セチルピリジニウム及び/又は(D)トラネキサム酸を含有させた後に、残りの(B)グリチルリチン酸塩又は(A)硝酸カリウムを含有させてもよいし、(C)塩化セチルピリジニウム及び/又は(D)トラネキサム酸を含有させた液体組成物に(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩を含有させてもよい。
【0034】
なお、(C)塩化セチルピリジニウムは(A)硝酸カリウムと混合させると白濁する場合があるが、(A)硝酸カリウムと(C)塩化セチルピリジニウムの混合液に(B)グリチルリチン酸塩を入れると白濁を抑制できる。
【0035】
(液体口腔用組成物)
本発明の液体口腔用組成物は、(A)硝酸カリウムと(B)グリチルリチン酸塩を含有し、さらに(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方を含有する。
【0036】
(A)硝酸カリウムについては上記したとおりであり、好ましい含有量の範囲についても同様である。
【0037】
(B)グリチルリチン酸塩については上記したとおりであり、好ましいグリチルリチン酸塩及び好ましい含有量の範囲についても同様である。
【0038】
本発明の液体口腔用組成物は、(B)グリチルリチン酸塩に対する(A)硝酸カリウムの含有量比(A)/(B)が、質量比で、400以下とする。ここで、(B)グリチルリチン酸塩の含有量はグリチルリチン酸に換算した値とする。前記比(A)/(B)が400以下であると、(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方を含有することで不溶性物質の析出が抑制された組成物となる。比(A)/(B)は、上限が260以下であるのがより好ましく、また下限が30以上であるのがより好ましく、40以上がさらに好ましく、100以上が特に好ましい。すなわち、比(A)/(B)は、30~400の範囲が好ましい。
【0039】
(C)塩化セチルピリジニウムについては上記したとおりであり、好ましい含有量の範囲についても同様である。
【0040】
また、(D)トラネキサム酸については上記したとおりであり、好ましい含有量の範囲についても同様である。
【0041】
液体口腔用組成物は、(D)水を40質量%以上99質量%未満の範囲で含有することが好ましい。(D)水については上記したとおりであり、好ましい含有量の範囲についても同様である。
【0042】
本発明の液体口腔用組成物には、本発明の効果を損なわない限り、口腔内に適用できる各種成分を含有することができ、例えば、溶媒、湿潤剤、矯味剤、殺菌剤、抗炎症剤、界面活性剤(可溶化剤)、pH調整剤、酵素、イオン源、防腐剤(保存剤)、香料、生薬、色素等が挙げられる。
【0043】
溶媒としては、例えば、水以外に、エタノール等の低級アルコールが挙げられる。
【0044】
湿潤剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0045】
矯味剤としては、例えば、ステビアサイド、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、ソルビトール、サッカリンナトリウム、スクラロース、還元パラチノース、アスパルテーム等の甘味料が挙げられる。
【0046】
殺菌剤としては、例えば、塩化セチルピリジニウム以外に、塩化ベンゼトニウム,塩化ベンザルコニウム,塩酸クロルヘキシジン,グルコン酸クロルヘキシジン等のカチオン性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール、チモール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン液等が挙げられる。
【0047】
抗炎症剤としては、グリチルリチン酸塩及びトラネキサム酸以外に、イプシロンアミノカプロン酸、アラントイン、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸等が挙げられる。
【0048】
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤が挙げられ、具体的には、ノニオン性界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられ、カチオン性界面活性剤としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム等が挙げられ、アニオン性界面活性剤としては、硫酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、N-アシルアミノ酸塩、アシル化メチルタウリン塩等が挙げられ、両性界面活性剤としては、酢酸ベタイン型活性剤、イミダゾリン型活性剤等が挙げられる。
【0049】
pH調整剤としては、例えば、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸、グルコノδラクトン、グルコン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及びこれらの水和物等が挙げられる。
【0050】
酵素としては、例えば、プロテアーゼ、デキストラナーゼ、アミラーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム等が挙げられる。
【0051】
イオン源としては、例えば、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸塩、フッ化第一スズ等のフッ素イオン源、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト等のリン酸イオン源が挙げられる。
【0052】
防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル等のパラヒドロキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0053】
香料としては、例えば、ペパーミント油、スペアミント油、ハッカ油、ユーカリ油、クローブ油、タイム油、ローズマリー油等の天然精油、l-メントール、l-カルボン、カルバクロール、オイゲノール、アネトール、1,8-シネオール、ヒノキチオール、チモール等の香料成分が挙げられる。
【0054】
生薬としては、例えば、オウバクエキス、トウキエキス等が挙げられる。
【0055】
色素としては、例えば、青色1号、黄色4号、赤色102号、緑色3号等が挙げられる。
【0056】
なお、本発明の液体口腔用組成物には、象牙質知覚過敏症抑制の有効成分として乳酸アルミニウムを含有してもよいが、必ずしも含有させなくてよい。
【0057】
(液体口腔用組成物の製造)
本発明の液体口腔用組成物は、洗口液、液体歯磨き、口中清涼剤、うがい薬(含嗽剤)等の形態として用いることができる。これらは公知の手段により製剤とすることができる。
【0058】
例えば、洗口液とするには、(E)水及びエタノール等のアルコール系溶媒を溶媒とし、(A)硝酸カリウム、(B)グリチルリチン酸塩、(C)塩化セチルピリジニウム及び(D)トラネキサム酸の少なくともいずれか一方、並びに所望により他の各種成分を添加して常法によって調製すればよい。また、洗口液は、アルコール系溶媒に界面活性剤と油性成分(香料や防腐剤等)を加えた後、水を加えて可溶化させ、そこに硝酸カリウム、グリチルリチン酸塩、塩化セチルピリジニウム及び/又はトラネキサム酸、並びに水溶性成分を加えることにより調製してもよい。
【0059】
なお、(C)塩化セチルピリジニウムは(B)グリチルリチン酸塩の非存在下で(A)硝酸カリウムと混合させると白濁する場合があるが、(A)硝酸カリウムと(C)塩化セチルピリジニウムの混合液に(B)グリチルリチン酸塩を入れると白濁を解消できる。つまり、(A)硝酸カリウム、(B)グリチルリチン酸塩及び(C)塩化セチルピリジニウムが混合された状態では不溶性物質の析出が抑制される。
【0060】
また、アルコール系溶媒は、液体口腔用組成物全量に対して25質量%以下の範囲で含有すると口腔内での刺激を抑えることができるので好ましい。アルコール系溶媒の含有量は、10質量%以下がより好ましい。
【0061】
(液体口腔用組成物の物性)
本発明の液体口腔用組成物は、波長660nmにおける光線透過率が97%以上であるのが好ましい。光線透過率が97%以上であると液体口腔用組成物に濁りがなく透明度が高い。前記光線透過率は98%以上であることがより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0062】
なお、光線透過率は、日本薬局方(第十六改正第二追補)の濁度試験法における透過光測定法に準拠して測定できる。具体的に、分光光度計又は光電高度計を用いて、紫外可視吸光度測定法により、液体口腔用組成物の波長660nmの透過率を測定することにより求められる。
【0063】
また、本発明の液体口腔用組成物は、pHが5~10とすることで口腔内での使用感が良好となるので好ましい。
【0064】
(液体口腔用組成物の使用方法)
本発明の液体口腔用組成物の使用方法としては、洗口液として口腔内に適用する場合、液体口腔用組成物5~25mLを口に含み、15~60秒間、口腔内でゆすぐようにして使用する。これにより、本発明の液体口腔用組成物を口腔内に十分ゆきわたらせることができる。
【実施例0065】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0066】
<評価方法>
各例で作製した液体組成物に対して行った評価方法は以下のとおりである。
【0067】
1.外観の評価
調合直後の液体組成物の外観を目視で確認し、不溶性物質の析出が見られず透明であるものを「○(良好)」、白濁したものを「×(不良)」と評価した。
【0068】
2.透過率の測定
調合直後の液体組成物について、日本薬局方(第十六改正第二追補)の濁度試験法における透過光測定法に準拠し、分光光度計を用いて、紫外可視吸光度測定法により、波長660nmにおける光線透過率(%)を測定した。
【0069】
<試験例1>
(参考例1)
精製水99.85質量%、グリチルリチン酸ジカリウム0.15質量%(グリチルリチン酸濃度:0.0975質量%)の割合で混合し、グリチルリチン酸ジカリウムを溶解させ、液体組成物を作製した。
【0070】
(参考例2)
精製水95質量%、硝酸カリウム5質量%の割合で混合し、硝酸カリウムを溶解させ、液体組成物を作製した。
【0071】
(比較例1~3)
表1に示す処方に従い、精製水を撹拌下でグリチルリチン酸ジカリウムと硝酸カリウムを添加し、液体組成物を作製した。
【0072】
各例の液体組成物の外観を確認し、光線透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
硝酸カリウムとグリチルリチン酸ジカリウムをそれぞれ単独で精製水に溶解させた参考例1及び参考例2の液体組成物は、不溶性物質の析出は見られず透明であり、光線透過率も99%以上であった。これに対し、硝酸カリウムとグリチルリチン酸ジカリウムを共に含有した比較例1~3の液体組成物は、不溶性物質が析出して白濁した。
このことから、硝酸カリウムとグリチルリチン酸塩を共存させることで不溶性物質が析出することがわかった。
【0075】
<試験例2>
(実施例1~5)
表2に示す処方に従い、液体組成物を作製した。具体的な作製方法としては、精製水約80gにグリチルリチン酸ジカリウム、硝酸カリウムを溶解させた後、撹拌下でトラネキサム酸を添加し、さらに精製水を加えて100質量%に調整した。
【0076】
各例の液体組成物の外観を確認し、光線透過率を測定した。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
表2の結果より、硝酸カリウムとグリチルリチン酸ジカリウムを共に含有した液体組成物にトラネキサム酸を含有させると外観は透明になり、光線透過率も高くなった。
実施例1は比較例1の処方に対しトラネキサム酸を含有させた例であり、実施例3~5は比較例2の処方に対しトラネキサム酸を含有させた例であるが、いずれの例もトラネキサム酸を含有させることで白濁を抑制できた。また、実施例3の処方からグリチルリチン酸ジカリウムの含有量を変更した実施例2でも白濁は生じないことが確認できた。
比較例1~3ではグリチルリチン酸に対する硝酸カリウムの含有量比が31~256となり、いずれの場合も白濁していたが、実施例1~5ではグリチルリチン酸に対する硝酸カリウムの含有量比が同じ範囲内であるにも関わらず、白濁を抑制することができた。
【0079】
<試験例3>
(実施例6~9)
表3に示す処方に従い、液体組成物を作製した。具体的な作製方法としては、精製水約80gにグリチルリチン酸ジカリウム、硝酸カリウムを溶解させた。そこに、精製水50gに塩化セチルピリジニウム 0.5gを溶解してあらかじめ作製しておいた塩化セチルピリジニウム水溶液を表3に記載の配合量となるように撹拌下で添加し、さらに精製水を加えて100質量%に調整した。
【0080】
得られた液体組成物の外観を確認し、光線透過率を測定した。結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
表3の結果より、硝酸カリウムとグリチルリチン酸ジカリウムを共に含有した液体組成物に塩化セチルピリジニウムを含有させると外観は透明になり、光線透過率も高くなった。
実施例7~8は比較例2の処方に対し塩化セチルピリジニウムを含有させた例であるが、いずれの例も塩化セチルピリジニウムを含有させることで白濁を抑制できた。また、グリチルリチン酸ジカリウムと塩化セチルピリジニウムの含有量を変更した実施例6、9でも白濁は生じないことが確認できた。
比較例1~3ではグリチルリチン酸に対する硝酸カリウムの含有量比が31~256となり、いずれの場合も白濁していたが、実施例6~8ではグリチルリチン酸ジカリウムに対する硝酸カリウムの含有量比が同じ範囲内であるにも関わらず、白濁を抑制することができた。
【0083】
<試験例4>
(実施例10~11)
表4に示す処方に従い、液体組成物を作製した。具体的な作製方法としては、精製水約80gにグリチルリチン酸ジカリウム、硝酸カリウムを溶解させた。そこに、精製水50gに塩化セチルピリジニウム 0.5gを溶解してあらかじめ作製しておいた塩化セチルピリジニウム水溶液と、トラネキサム酸を表4に記載の配合量となるように撹拌下で添加し、さらに精製水を加えて100質量%に調整した。
【0084】
得られた液体組成物の外観を確認し、光線透過率を測定した。結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
表4の結果より、硝酸カリウムとグリチルリチン酸ジカリウムを共に含有した液体組成物にトラネキサム酸と塩化セチルピリジニウムとを含有させた場合にも外観は透明になり、光線透過率も高くなることが確認できた。
【0087】
<試験例5>
(実施例12~13、比較例5~6)
表5に示す処方に従い、液体組成物を作製した。具体的な作製方法としては、まず、精製水100gにグリチルリチン酸モノアンモニウム 0.2gを溶解してグリチルリチン酸モノアンモニウム水溶液を作製した。表5に記載の配合量となるようにグリチルリチン酸モノアンモニウムを水溶液を秤量し、合計量が約80gとなるように精製水を加えた。そこに、撹拌しながら硝酸カリウム、トラネキサム酸の順で添加し、最後に精製水を加えて100質量%に調整した。
【0088】
得られた液体組成物の外観を確認し、光線透過率を測定した。結果を表5に示す。
【0089】
【表5】
【0090】
試験例5はグリチルリチン酸塩としてグリチルリチン酸モノアンモニウムを用いた。表5の結果より、硝酸カリウムとグリチルリチン酸モノアンモニウムを精製水に溶解させた比較例5~6は、不溶性物質が析出し白濁したが、比較例5~6の処方に対しトラネキサム酸を含有させた実施例12~13は、いずれも不溶性物質の析出は見られず、白濁は生じないことが確認できた。