(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093992
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】コイル部品および回路基板
(51)【国際特許分類】
H01F 27/00 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
H01F27/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210679
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】阿佐美 翼
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB10
(57)【要約】
【課題】環境の影響が少なく、かつ、視認性の良い表示部を備えたコイル部品、回路基板および電子機器を提供する。
【解決手段】一態様に係るコイル部品は、表面の第1面と、上記第1面から内部側に窪み、内面は、当該内部側に凸の曲面部分を含んだ連続面であり、当該第1面から見た形状は、外側に凸の曲線部分を含んで連続した周回形状であり、当該内面の表面粗さは当該第1面の表面粗さよりも小さい凹部を有した表示部と、を備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の第1面と、
前記第1面から内部側に窪み、内面は、当該内部側に凸の曲面部分を含んだ連続面であり、当該第1面から見た形状は、外側に凸の曲線部分を含んで連続した周回形状であり、当該内面の表面粗さは当該第1面の表面粗さよりも小さい凹部を有した表示部と、
を備えることを特徴とするコイル部品。
【請求項2】
前記凹部は、前記第1面に開いた開口の大きさよりも、当該第1面から内部側へ窪んだ深さの方が小さいことを特徴とする請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記周回形状は、直線部分と曲線部分とが繋がった形状であることを特徴とする請求項1に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記周回形状は、複数の前記直線部分と複数の前記曲線部分とが交互に繋がり、当該曲線部分を合わせた長さは当該直線部分を合わせた長さより長いことを特徴とする請求項3に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記曲線部分が円弧状であることを特徴とする請求項1に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記表示部は、前記凹部の複数が並んでいることを特徴とする請求項1に記載のコイル部品。
【請求項7】
複数の前記凹部相互の間隔は、当該凹部が前記第1面に開いた開口の幅よりも小さいことを特徴とする請求項6に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記第1面は、磁性材料からなる磁性基体の面であり、
前記凹部は、前記磁性基体に形成された窪みであることを特徴とする請求項1に記載のコイル部品。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項に記載のコイル部品と、
前記コイル部品が実装された基板と、
を備えたことを特徴とする回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品および回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品は、用途の拡がりと電子機器の高性能化が進むことで、使われる数量が増加してきている。そのため、電子部品について高性能化、小型化および生産の効率化が求められており、コイル部品についても同様である。
また、近年では、電子部品の用途の多様化により、環境変化に対応できることも重要となっている。特に、車の用途では、湿度や温度の変化への対応が求められることになる。
【0003】
ところで、コイル部品は容量や極性の識別のために文字や記号などを示した表示部が設けられることがある。表示部の形成方法としては、インクによる印刷の方法や、レーザ機器等による刻印の方法が、従来主として用いられている。近年では、コイル部品の小型化により表示部の面積が縮小していることや、形成された表示部が環境による影響を受けにくいことから、レーザ機器による方法の採用が増加している。
【0004】
例えば特許文献1には、金属製の外装ケースの外表面にレーザ光を照射することで、溝部で形作られる表示を形成する製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された表示部は、小型化に対応できる方法ではあるが、視認性が不十分となる虞がある。例えば、カメラで画像処理が行われる場合、カメラと表示部との位置関係は必ずしも一定とは限らず、カメラが表示部を正面から見る位置関係が得られない場合もある。このような場合、特許文献1に開示された表示部では、表示部に対するカメラの角度によって視認性が変わってしまう。そのため、特に小型のコイル部品、つまりは表示部の面積の小さい場合などでは、視認が不足して表示内容が認識できないことも起こり得る。
【0007】
そこで、本発明は、環境の変化から受ける影響が少なく、かつ、視認性の良い表示部を備えたコイル部品、回路基板および電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るコイル部品は、表面の第1面と、上記第1面から内部側に窪み、内面は、当該内部側に凸の曲面部分を含んだ連続面であり、当該第1面から見た形状は、外側に凸の曲線部分を含んで連続した周回形状であり、当該内面の表面粗さは当該第1面の表面粗さよりも小さい凹部を有した表示部と、を備える。
【0009】
また、本発明の一態様に係るコイル部品によれば、上記凹部は、上記第1面に開いた開口の幅よりも、当該第1面から内部側へ窪んだ深さの方が小さい。
また、本発明の一態様に係るコイル部品によれば、上記周回形状は、直線箇所と曲線箇所とが繋がった形状である。
【0010】
また、本発明の一態様に係るコイル部品によれば、上記周回形状は、複数の上記直線部分と複数の上記曲線部分とが交互に繋がり、当該曲線部分を合わせた長さは当該直線部分を合わせた長さより長い。
また、本発明の一態様に係るコイル部品によれば、上記表示部は、上記凹部の複数が並んでいる。
【0011】
また、本発明の一態様に係るコイル部品によれば、複数の上記凹部相互の間隔は、当該凹部が上記第1面に開いた開口の幅よりも小さい。
また、本発明の一態様に係るコイル部品によれば、上記第1面は、磁性材料からなる磁性基体の面であり、上記凹部は、上記磁性基体に形成された窪みである。
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る回路基板は、いずれかの上記コイル部品と、上記コイル部品が実装された基板と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境に左右されることなく、かつ、視認性の良い表示部が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るコイル部品を示す斜視図である。
【
図4】比較例の表示部に形成された文字の例を示す図である。
【
図5】比較例における表示部の視認性を説明する図である。
【
図7】本実施形態において表示部に形成された文字の例を示す図である。
【
図8】本実施形態における凹部の構造を概念的に示す斜視図である。
【
図9】本実施形態における凹部の構造を概念的に示す断面図である。
【
図10】凹部を構成した溝の視認性を説明する第1の断面図である。
【
図11】凹部を構成した溝の視認性を説明する第2の断面図である。
【
図12】凹部を構成した溝の視認性を説明する斜視図である。
【
図14】溝の内面形状が異なる変形例を示す図である。
【
図15】溝の周回形状が異なる変形例を示す上面図である。
【
図16】溝の周回形状が異なる他の変形例を示す上面図である。
【
図17】溝以外の窪みからなる変形例を示す斜視図である。
【
図18】溝以外の窪みからなる変形例を示す断面図である。
【
図19】穴の形状が異なる変形例を示す上面図である。
【
図20】穴の形状が異なる他の変形例を示す上面図である。
【
図21】凹部同士が一部で重なりあった表示部の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の構成に必須のものとは限らない。実施形態の構成は、本発明が適用される装置の仕様や各種条件(使用条件、使用環境等)によって適宜修正または変更され得る。
【0015】
本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって画定され、以下の個別の実施形態によって限定されない。以下の説明に用いる図面は、各構成を分かり易くするため、実際の構造と縮尺および形状などを異ならせることがある。先に説明した図面に示された構成要素については、後の図面の説明で適宜に参照する場合がある。
【0016】
<コイル部品の構造>
図1は、本発明の一実施形態に係るコイル部品を示す斜視図であり、
図2は、コイル部品の断面図および側面図である。
図2には、
図1に示すA-A線に沿った断面および側面が示されている。
【0017】
コイル部品1は、基板2aに実装されている。基板2aには、例えば2つのランド部3が設けられている。コイル部品1は、2つの外部電極12のそれぞれと基板2aの対応するランド部3とが実装用はんだで接合されることで基板2aに実装される。本発明の一実施形態による回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装された基板2aと、を備える。回路基板2は、様々な電子機器に備えられる。回路基板2を備えた電子機器としては、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ、ボードコンピュータおよびこれら以外の様々な電子機器が想定される。
【0018】
コイル部品1は、インダクタ、トランス、フィルタ、リアクトルおよびこれら以外の様々なコイル部品であってもよい。コイル部品1は、カップルドインダクタ、チョークコイルおよびこれら以外の様々な磁気結合型コイル部品であってもよい。コイル部品1は、例えば、DC/DCコンバータに用いられるインダクタであってもよい。コイル部品1の用途は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0019】
本明細書においては、文脈上別に解される場合を除き、方向の説明は、
図1の「L軸」方向、「W軸」方向および「H軸」方向を基準に用い、それぞれ、「長さ」方向、「幅」方向および「高さ」方向と称する。「高さ」方向については「厚さ」方向と呼ぶ場合もある。
【0020】
コイル部品1は、高さ方向の両端に第1の主面1a(上面1a)および第2の主面1b(底面1b)を有する。コイル部品1の上面1aおよび底面1bはいずれも、平坦な平面であってもよいし湾曲した湾曲面であってもよい。
本発明の一実施形態におけるコイル部品1は、磁性基体11と外部電極12と外装部13と導体14とを有する。コイル部品1は、外装部13を設けないものであってもよい。また、磁性基体11が、導体14の全体を覆って内部に導体14が配置されるものであってもよい(図示省略)。
【0021】
磁性基体11は、Feを主成分とする金属または酸化物の磁性材料から成る。磁性基体11用の磁性材料としては、例えば、フェライトの焼結体、あるいは金属磁性粒子の結合体が用いられる。磁性基体11用の磁性材料は、各種の結晶質もしくは非晶質の合金磁性材料、または結晶質の材料と非晶質の材料とを組合せた材料であってもよい。
【0022】
磁性基体11の表面は、黒色に近い色を有するとともに、大きい表面粗さを有するのが望ましい。磁性基体11の表面は、例えば、50%より低い反射率を有する。
磁性基体11用の磁性材料として用いられ得る結晶質の合金磁性材料は、例えば、Fe(鉄)を主成分として50wt%以上、または85wt%以上含み、Si(シリコン)、Al(アルミニウム)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、およびZr(ジルコニウム)から成る群より選択される1以上の元素を含む結晶質の合金材料である。磁性基体11用の磁性材料として用いられ得る非晶質の合金磁性材料は、例えば、Si(シリコン)、Al(アルミニウム)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)のいずれかに加えてB(ホウ素)又はC(炭素)のいずれか一方を含む非晶質の合金材料である。
【0023】
磁性基体11用の磁性材料としては、Fe(鉄)および不可避不純物から成る純鉄が用いられてもよい。また、磁性基体11用の磁性材料としては、Fe(鉄)および不可避不純物から成る純鉄と各種の結晶質もしくは非晶質の合金磁性材料とを組み合わせた材料が用いられてもよい。磁性基体11の材料は、本明細書で明示されるものに限られず、基体の材料として公知の任意の材料が用いられ得る。
【0024】
磁性基体11は、例えば、上述した磁性材料の粉末が潤滑剤と混合された混合材料が成形用の金型のキャビティに充填されてプレス成形されることにより圧粉体が作製され、この圧粉体が熱処理されることにより作製される。また、磁性基体11は、例えば、上述した磁性材料の粉末が樹脂、ガラス、又は絶縁性酸化物(例えば、Ni-Znフェライトやシリカ)と混合された混合材料が成形されて熱処理されることによっても作製可能である。熱処理では、用いられる原材料により、200℃以下の温度で熱硬化されても、600℃以上あるいは1000℃以上の温度で焼結されてもよい。
【0025】
導体14は、導電性に優れた金属材料から成る。導体14用の金属材料としては、例えば、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ni(ニッケル)、Pd(鉛)、もしくはAg(銀)のうちの1以上の金属、又はこれらの金属のいずれかを含む合金が用いられ得る。導体14の表面には絶縁被膜が設けられていてもよい。導体14は、磁性基体11の表面または内部に設けられる。導体14は、1つの磁性基体11に対して1つ設けられてもよいし、あるいは導体14は、1つの磁性基体11に対して複数設けられてもよい。
【0026】
本発明の一実施形態における磁性基体11はドラムコアと称されるものであり、フランジ11cと巻芯11bを有する。巻芯11bは、例えば高さ方向Hに延び、フランジ11cは巻芯11bの両端に設けられている。
本発明の一実施形態における導体14は、一例として、磁性基体11の巻芯11bに導線が巻き付けられて作製される。導線としては、例えば直径が0.05mm以上、または0.1mm以上、更には0.2mm以上といった太いものが用いられ、コイル部品1の抵抗は低い。導体14の端部14aは磁性基体11の側方を迂回して底面1b側まで届いて外部電極12と接合される。
【0027】
外部電極12は、コイル部品1の底面1bに設けられ、長さ方向Lに延びた形状を有する。本発明の一実施形態において、コイル部品1は2端子タイプであるため外部電極12は2つ設けられている。コイル部品1が4端子タイプである場合などでは、外部電極12がより多く設けられてもよい。
【0028】
本発明の一実施形態において、コイル部品1は極性を有する。極性とは、コイル部品1の向きなどによって電気的あるいは磁気的特性が異なることを意味する。従って、基板2aへの実装時にはコイル部品1の向きが設計上の向きに揃っていることが求められる。
また、コイル部品1は、外観が類似していて容量が異なる複数タイプを有する場合があり、実装時には設計上の容量を有するタイプが設計上の箇所に用いられることが求められる。
【0029】
このため、コイル部品1の容量や極性の確認などを目的として、コイル部品1の表面には表示部15が設けられている。表示部15は、実装時における視認性の確保などのため、コイル部品1の表面のうち例えば上面1aに設けられる。コイル部品1の上面1aは磁性基体11の表面である。以下の説明では、コイル部品1の上面1aを磁性基体11の上面1aと称する場合がある。
【0030】
コイル部品1の大きさは、最小の一辺が6mm以下であり、更には最小の一辺が3mm以下である。このため表示部15の大きさは、最小の一辺が1mm以下であり、更には最小の一辺が0.5mm以下である。
【0031】
図1および
図3には、表示部15が設けられた範囲が四角い図形で示されており、具体的な表示部15は、当該範囲に印された数字、文字、記号および図形のいずれか若しくは組み合わせである。例えば極性を示す表示部15の場合、2つの外部電極12のうちの一方側に寄せて設けられる。表示部15の詳細構造については後述する。
【0032】
<変形例>
コイル部品1を構成する磁性基体11などの形状は
図1、
図2に示された形状に限定されない。
図3は、コイル部品の変形例を示す斜視図である。
図3に示す変形例のコイル部品1は、磁性基体11と外部電極12とを有し、磁性基体11の内部に導体(図示せず)を有する。変形例の場合、コイル部品1は直方体状の外形を有する。但し、コイル部品1の外面の一部が湾曲している場合や、コイル部品1の角部や稜線部が丸みを有している場合にも、かかる形状を「直方体形状」と称することがある。つまり、本明細書において「直方体」又は「直方体形状」という場合には、数学的に厳密な意味での「直方体」を意味するものではない。
【0033】
磁性基体11および導体は、積層によって一体で形成されてもよい。積層による形成では、上述した複合磁性材料からなる磁性シートが複数用意される。一部の磁性シートを除いて、各磁性シートの表面には、導体を作製するための平面状の導体パターンが例えば印刷などで形成される。導体パターンの形成には、めっきや、蒸着、ペーストの転写など印刷以外の手法が用いられてもよい。
【0034】
また、磁性シートには、各導体パターンを相互接続する接続導体が形成される。接続導体は、例えば印刷、充填によって作られる。接続導体の印刷は導体パターンの印刷と同時に行われてもよく個別に行われてもよい。接続導体の形成にも、めっきや、蒸着、ペーストの転写など印刷以外の手法が用いられてもよい。
【0035】
その後、導体パターンや接続導体が施された磁性シートと、上述した一部の磁性シートとが重ねられ、圧着されて積層体が得られる。そして、得られた積層体が個片化され、熱処理が行われて、導体を内蔵した磁性基体11が得られる。積層体の熱処理では、600~850℃の熱処理で樹脂が熱分解で除去されるとともに磁性材料が焼結されてもよい。
【0036】
変形例のコイル部品1においても、上面1aの、2つの外部電極12のうちの一方側に寄った位置に表示部15が設けられている。
<表示部の構造>
【0037】
図1および
図2に示す実施形態のコイル部品1および
図3に示す変形例のコイル部品1に設けられた表示部15には、磁性基体11の上面1aから内部側に窪んだ凹部によって、極性や容量などを表した文字、数字、記号および図形のいずれか、もしくはその組み合わせが形成されている。
【0038】
ここで、比較例の表示部について説明する。
図4は、比較例1の表示部に形成された文字の例を示す図である。
比較例1の表示部に形成された文字21、22は、直線状の溝23で形成されている。文字21、22を形成した溝23の延伸方向は、文字21、22の線に沿った方向や、文字21、22の線に交わる方向がある。このような文字21、22は、文字21、22を見る方向によって視認性が異なっている。
【0039】
図5は、比較例1における表示部の視認性を説明する図である。
図5には、比較例1における表示部の文字21、22を形成した溝23の断面と、文字21、22を見る視点P1、P2が模式的に示されている。視点P1、P2は、人の目の視点に限られず、カメラなどの視点であってもよい。
【0040】
比較例1では、文字21、22を形成した溝23の内面23aが平面状であり、
図5の例ではV字溝となっている。内面23aが平面状の溝23では、入射光L1の角度に対して反射光L2が特定の角度に向かう。そのため、反射光L2が向かう方向からの第1視点P1と、反射光L2が向かう方向とは異なる方向からの第2視点P2とでは視認性が大きく異なり、第2視点P2では溝23と上面1aとの判別が困難となる虞がある。つまり、第2視点P2では文字21、22の判読が困難となる虞がある。
【0041】
図4に示す比較例1の場合、文字21、22を形成した溝23が直線的に延びていることによる視認性への影響も生じる。
図6は、直線的な溝23の視認性を説明する図である。
【0042】
図6の比較例2では、
図5の比較例1のV字溝に対し、溝23の形状はU字溝となっている。
上面1aに直線状に形成された溝23の場合、溝23に平行な方向と溝23に直交する方向とでは、入射光L1の角度により溝23にできる影の大きさが大きく異なり、また入射光L1の角度に対する反射光L2の角度が異なっている。このため、光源と視点とが固定された場合であっても、コイル部品1の向きが変わると溝23の視認性が変わる。つまり、コイル部品1の向きによっては上面1aと溝23との判別が困難となり、文字21、22の判読が困難となる虞がある。
【0043】
上述した比較例に対し、本実施形態のコイル部品1における表示部15では、コイル部品1に対する光源や視点の方向変化に対して視認性が安定している。
図7は、本実施形態において表示部に形成された文字の例を示す図である。
本実施形態では、一例として、凹部17が複数並べられて文字16が形成され、当該文字16が表示部15としての役割を担う。各凹部17は磁性基体11の表面(例えば上面1a)に形成された窪みであり、各凹部17は、例えば円環状に周回した溝18からなる。磁性基体11の表面に形成された凹部17は、視認性に対する環境の影響が少なく、延いては表示部15の視認性に対する環境の影響も少ない。
【0044】
並んだ凹部17の相互間隔は溝18の幅よりも狭いので、サイズの小さい文字16が形成され、表示部15のサイズも抑制される。凹部17の間隔はゼロ以下であってもよい。即ち、並んだ凹部17同士が接触していてもよいし、一部重なっていてもよい。
【0045】
図8および
図9は、本実施形態における凹部17の構造を概念的に示す図である。
図8には、凹部17の断面を含んだ斜視図が示され、
図9には、凹部17の断面図が示されている。但し、図示の便宜上、各部のサイズや比率は一致していない。
本実施形態では、凹部17を形成した溝18は、断面が円弧状の内面18aを有し、内面18aの全体としてはトーラス面となっている。凹部17は、上面1aから磁性基体11の内部側に窪んでいて、凹部17の内面に相当する溝18の内面18aは、曲面部分を含んだ連続面である。そして、上面1aから見た凹部17の形状は曲線部分を含んで連続した周回形状である。
【0046】
溝18の内面18aにおける表面粗さは上面1aの表面粗さよりも小さい。凹部17は上面1aと同じ成分で構成されているが、上面1aと凹部17とを比べた場合、凹部17の方が高い反射率を有するため、凹部17の方が上面1aよりも明るく見える。凹部17は、例えば50%以上の反射率を有し、溝18の内面18aの表面粗さは、例えば上面1aの表面粗さの半分以下である。
【0047】
本実施形態では、上面1aから見て溝18が、例えば円環状に1周に亘って周回している。但し、溝18の周回は半周以上に亘ればよい。
内面18aが連続した曲面で、かつ、上面1aから見て連続曲線で周回した溝18からなる凹部17は、いずれの方向から見た場合でも安定した視認性が得られる。
【0048】
溝18の形成方法としては、例えば、磁性基体11の上面1aの一部を昇華させて窪み部分を形成する方式が用いられ得る。当該方式による溝18の形成に際しては、磁性基体の溶融した状態が極力抑えられることが望ましく、これにより、窪み部分の表面粗さが小さくなる。当該方式の具体例としては、急激な加熱が可能な方式であればよく、例えば、鉄より融点の高い金属が加熱されて上面1aに押し当てられる方式や、レーザが上面1aに照射される方式が採用され得る。
【0049】
溝18の形成時における加熱は瞬間的な加熱であり、例えば、金属磁性材料の場合では1500℃以上の温度で0.1秒以下の加熱が行われる。特に、レーザ照射機が用いられることで急激な加熱が可能となり、磁性基体11への余分なダメージが抑制される。また、レーザ照射機は位置精度の制御も容易であるので、高い寸法精度が求められるコイル部品1についてもレーザ照射機は表示部15の形成が可能である。
【0050】
図10~
図12は、凹部17を構成した溝18の視認性を説明する図である。
図10および
図11には溝18の断面図が示され、
図12には溝18の斜視図が示されている。
【0051】
図10と
図11には、溝18に対して同じ方向から光源の光が入射し、溝18に対して異なる方向に視点P1、P2が存在する状態が示されている。溝18の内面18aが連続した曲面であるため、視点P1、P2が入射光L1の方向に対してどのような方向であっても、内面18aのどこかで反射した反射光L2が視点P1、P2の方向へと向かう。従って、入射光L1や上面1aに対する視点P1、P2の角度が変化しても溝18の視認性(延いては凹部17の視認性)の変化は少ない。また、内面18aの反射率が上面1aの反射率よりも高いため、凹部17は上面1aよりも明るく、視認性が高い。
【0052】
溝18が上面1aから見て連続曲線で周回していることにより、
図12に示すように、凹部17に対する入射光L1の上面1aから見た方向が異なっていても、入射光L1に対して同様な反射光L2が生じる。また、1方向からの入射光L1に対し、広範な方向に反射光L2が生じる。従って、凹部17の並びで構成された文字16が光源および視点に対してどの向きであっても表示部15の視認性が高い。
【0053】
図13は、溝18の形状の詳細を示す図である。
凹部17の開口サイズは凹部17の深さよりも大きいことが望ましい。即ち、凹部17を構成する溝18の幅W1は深さH1よりも大きいことが望ましい。溝18の幅W1は、内面18aが上面1aに開口した大きさであり、上面1aから見た時に溝18の延びる方向に直交した方向の寸法を意味する。溝18の深さH1は、磁性基体11の内部側に向かう方向における上面1aから内面18aまでの最大の寸法を意味する。溝18の幅W1が深さH1よりも大きいことで、溝18の内部が影になることが抑制されて高い視認性が得られる。
【0054】
凹部17の幅W2は例えば0.2mmより小さく、内面18aの反射率が高い場合は、凹部17の幅W2が例えば0.1mmより小さくてもよい。ここで凹部17の幅W2とは、凹部17が設けられた上面1aから見た時の凹部17の大きさであり、凹部17の外周の最大の寸法を意味する。
【0055】
さらに本実施形態では、溝18の内面18aが曲率半径r1の曲面であって、その曲率半径r1が溝18の深さH1よりも大きくなっている。つまり、本実施形態では、溝18の幅W1が深さH1の2倍より大きくなっているので、より影が生じにくく、視認性が高い。内面18aの反射率が高い場合、溝18の幅W1は深さH1の5倍より大きくなってもよい。溝18の深さH1が浅いと磁性基体11の窪んだ量も少ないので、磁性基体11における磁気特性の低下および機械強度の低下が抑制され、磁性基体11に必要な機能が保たれる。
【0056】
<変形例>
以下、凹部17の構造の変形例について説明する。
図14は、溝18の内面18aの形状が異なる変形例を示す図である。
図14に示す変形例でも、凹部17が円環状の溝18で構成されているが、溝18の内面18aは2つの曲率半径r1、r2を有する。即ち、溝18の内面18aのうち、底に近い部分18bは大きい曲率半径r2となっており、縁に近い部分18cは小さい曲率半径r1となっている。但し、溝18の内面18aは全体として連続曲面となっている。
【0057】
凹部17を構成する溝18の内面18aは連続曲面であればよく、
図14に示す変形例の他に、断面形状が楕円形や放物線の内面18aも採用され得る。
図15および
図16は、溝18の周回形状が異なる変形例を示す上面図である。
【0058】
図15および
図16に示す変形例では、上面から見た溝18の形状として、曲線部分181と直線部分182とが連続的に繋がって全体として連続曲線となって周回した形状が採用されている。
図15に示す例では2つの曲線部分181と2つの直線部分182とが交互に繋がっており、
図16に示す例では、4つの曲線部分181と4つの直線部分182とが交互に繋がっている。
【0059】
溝18の一部に直線部分182が含まれる場合、曲線部分181は溝18全体の50%以上を占める。なお、曲線部分181の形状は、円弧に限られず、楕円や放物線でもよい。溝18全体に占める曲線部分181の割合が高い方が視認性も高い。従って、直線部分182を有さない溝18からなる凹部17の方が、直線部分182を有した溝18からなる凹部17よりも小さいサイズで高い視認性を得ることができる。凹部17のサイズが小さいと、文字16などを形成する場合の解像度が高く、より明瞭な文字16などや、より小さい文字16などが形成可能となる。
【0060】
図17および
図18は、溝以外の窪みからなる変形例を示す図である。
図17には斜視図が示され、
図18には断面図が示されている。
図17および
図18に示す変形例の凹部17は、例えば球面状の内面19aを有した穴19からなる。この変形例の凹部17も、上面1aから見た形状は周回形状となっているため、凹部17に対する入射光L1の上面1aから見た方向が異なっていても、入射光L1に対して同様な反射光L2が生じる。また、1方向からの入射光L1に対し、広範な方向に反射光L2が生じる。従って、凹部17の並びで構成された文字16が光源および視点に対してどの向きであっても表示部15の視認性が高い。
【0061】
また、
図18に示すように、穴19の内面19aが連続曲面であるため、
図10および
図11での説明と同様に、上面1aに対する視点の角度が変化しても穴19の視認性の変化は少ない。
穴19の内面19aの形状は球面に限られず、回転楕円面であってもよいし、放物面であってもよい。
【0062】
図19および
図20は、穴19の形状が異なる変形例を示す上面図である。
図19および
図20に示す変形例では、穴19の形状として、球面部分191と円筒面部分192とが連続的に繋がって全体として連続曲面となった形状が採用されている。このため、上面から見た穴19の外形は、直線と曲線とが繋がった形状となっている。
図19に示す例では2つの球面部分191と1つの円筒面部分192とが繋がっており、
図20に示す例では、4つの球面部分191と4つの円筒面部分192とが交互に繋がっている。
【0063】
穴19の一部に円筒面部分192が含まれる場合、球面部分191は穴19全体の50%以上を占める。
図21は、凹部17同士が一部で重なりあった表示部15の例を示す断面図である。
表示部15が複数の凹部17で形成される場合、上述したように、凹部17同士の間隔はゼロ以下であってもよく、
図21には、凹部17同士が一部で重なりあった例が示されている。凹部17同士が重なりあうことでより小さな文字16が形成可能となり、表示部15のサイズ縮小も可能となる。
【0064】
凹部17同士が重なりあう場合には、凹部17を構成した溝や穴の内面が一部で失われることになるが、溝や穴の周回が半周以上残る程度に重なりが抑えられて凹部17が配置されている。このため、凹部17同士が重なりあっても表示部15は高い視認性を有することになる。
【0065】
上記で説明したコイル部品1は、表示部15と第1面(上面1a)が磁性基体1の一部であり、表示部15の欠落が抑制される。また、環境変化の影響により磁性基体1の表面に変化が生じることがあっても、表示部15と第1面は同様の変化を生じることになり、表示部15と第1面との相対的な視覚上の関係は大差ない。従って、環境変化が表示部15の視認性に与える影響は小さい。
また、上記で説明したコイル部品1は、
図2のように基板2aへ実装され、この状態となってからもコイル部品1が設計通りに基板2aに設けられているかを確認することができる。特に、基板2aに実装された状態ではコイル部品1とカメラの距離や角度などの制約を生じることが多くなるが、この場合でもコイル部品1を識別することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 コイル部品
1a 上面
1b 下面
2 回路基板
2a 基板
3 ランド部
11 磁性基体
12 外部電極
13 外装部
14 導体
14a 端部
15 表示部
16 文字
17 凹部
18 溝
18a 溝の内面
19 穴
19a 穴の内面